特許第6575516号(P6575516)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6575516
(24)【登録日】2019年8月30日
(45)【発行日】2019年9月18日
(54)【発明の名称】タイヤ
(51)【国際特許分類】
   B60C 15/04 20060101AFI20190909BHJP
   C08K 7/06 20060101ALI20190909BHJP
   C08L 63/00 20060101ALI20190909BHJP
   C08L 9/02 20060101ALI20190909BHJP
【FI】
   B60C15/04 A
   C08K7/06
   C08L63/00 A
   C08L9/02
【請求項の数】4
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2016-521793(P2016-521793)
(86)(22)【出願日】2015年10月27日
(86)【国際出願番号】JP2015080213
(87)【国際公開番号】WO2016143189
(87)【国際公開日】20160915
【審査請求日】2018年9月19日
(31)【優先権主張番号】特願2015-45506(P2015-45506)
(32)【優先日】2015年3月9日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001896
【氏名又は名称】特許業務法人朝日奈特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】内藤 泰雄
(72)【発明者】
【氏名】富田 慎太郎
(72)【発明者】
【氏名】工藤 大介
【審査官】 増永 淳司
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2000/050495(WO,A1)
【文献】 国際公開第2005/047028(WO,A1)
【文献】 特開2004−346092(JP,A)
【文献】 特開昭62−149978(JP,A)
【文献】 特表2010−510124(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60C 15/04
C08K 7/06
C08L 9/02
C08L 63/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
30〜80質量%のエポキシ樹脂および20〜70質量%の官能基変性アクリロニトリルブタジエンコポリマーを含む樹脂成分(ここで、エポキシ樹脂および官能基変性アクリロニトリルブタジエンコポリマーの含有量は樹脂成分中の含有量を表す)を含有するマトリックス樹脂ならびに炭素繊維を含有するCFRPを用いたタイヤ。
【請求項2】
前記マトリックス樹脂が、初期弾性率0.1〜1000MPa、破断伸度50%以上であり、伸度50%において降伏がないマトリックス樹脂である請求項1記載のタイヤ。
【請求項3】
前記CFRPをビードコアに用いた請求項1または2記載のタイヤ。
【請求項4】
前記CFRPをビードコアの一部に用いた請求項1または2記載のタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、所定のマトリックス樹脂および炭素繊維を含有するCFRPを用いたタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、タイヤの低燃費性の向上が強く要求されており、タイヤを構成するゴム組成物の改良やタイヤの軽量化による低燃費化が提案されている。空気入りタイヤの原材料構成比は、スチールコード、ビードワイヤーおよび樹脂コードなどを含むコード類がゴム組成物(ゴム成分および配合剤)に次いで高いこともあり、これらコード類の改良によりタイヤを軽量化し、タイヤの低燃費性を向上させる試みも行われている。
【0003】
スチールコードおよびビードワイヤーは、弾性率、強度、初期モジュラス、耐熱性、寸法安定性などに優れることから、タイヤの補強材として用いられている。例えば、空気入りタイヤのベルトなどには補強材としてスチールコードが埋設されており、タイヤの強度や形状安定性の確保に大きく貢献している。また、空気入りタイヤのビードコアとしてビードワイヤーを用いることにより、ビード部に必要な強度を確保し、さらにリム組み時の変形に対応できる弾性を有するビードが得られる。
【0004】
コード類の軽量化方法としては、スチールコードやビードワイヤーをCFRP(炭素繊維強化樹脂)に置き換えることで強度等の性質を維持しながらタイヤを軽量化する方法が提案されている。しかし、これまではエポキシ樹脂からなるマトリックス樹脂を炭素繊維に含浸させて硬化させたCFRPを使用していたため、弾性率が非常に高く、曲げによる破壊が起こりやすいという問題があった。特にビードワイヤーを、曲げによる破壊が起こりやすいCFRPに置き換えるとリム組み時の変形に対応できずに破壊が起こるという問題があった。
【0005】
前記問題を解決し得る方法として、特許文献1には、炭素繊維および液状の熱硬化性樹脂または液状ゴムが硬化したマトリックス相を所定の容積比率で含有するベルト部材とすることにより耐久性と操縦安定性が向上することが記載されているが、エポキシ樹脂および官能基変性アクリロニトリルブタジエンコポリマーを併用することや、低燃費性については考慮されていない。
【0006】
また、特許文献2には、炭素繊維コードをエポキシ樹脂ではなくコーティングゴムで被覆してなる第1プライを有するタイヤが記載されているが、炭素繊維コードとコーティングゴムの接着性が十分ではなく耐久性に問題がある、また軽量化による低燃費性の向上効果も十分ではないという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特公平1−24642号公報
【特許文献2】特開昭64−16404号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、スチールコードおよび/またはビードワイヤーを用いたタイヤの強度を維持しながら、軽量化されたタイヤを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、所定量のエポキシ樹脂および官能基変性アクリロニトリルブタジエンコポリマーを含むマトリックス樹脂ならびに炭素繊維を含有するCFRPを用いたタイヤとすることにより、強度を維持しながら軽量化されたタイヤが得られることを見出し本発明を完成させるに至った。
【0010】
すなわち本発明は、20〜80質量%のエポキシ樹脂および20〜80質量%の官能基変性アクリロニトリルブタジエンコポリマーを含む樹脂成分を含有するマトリックス樹脂ならびに炭素繊維を含有するCFRPを用いたタイヤに関する。
【0011】
前記マトリックス樹脂が、初期弾性率0.1〜1000MPa、破断伸度50%以上であり、伸度50%において降伏がないマトリックス樹脂であることが好ましい。
【0012】
前記CFRPをビードコアに用いたタイヤとすることが好ましい。
【0013】
前記CFRPをビードコアの一部に用いたタイヤとすることが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明の所定量のエポキシ樹脂および官能基変性アクリロニトリルブタジエンコポリマーを含むマトリックス樹脂ならびに炭素繊維を含有するCFRPを用いたタイヤによれば、スチールコードおよびビードワイヤーを用いた場合の強度を維持しながら、軽量化されたタイヤを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明のタイヤは、エポキシ樹脂および官能基変性アクリロニトリルブタジエンコポリマーを所定量含む樹脂成分を含有するマトリックス樹脂ならびに炭素繊維を含有するCFRPを用いたことを特徴とする。
【0016】
前記マトリックス樹脂とは、CFRPの母材となる樹脂であり、本発明においては所定量のエポキシ樹脂および官能基変性アクリロニトリルブタジエンコポリマーを含む樹脂成分を含有することを特徴とする。
【0017】
前記エポキシ樹脂としては、分子内に2個の炭素原子と1個の酸素原子からなるエポキシ基を2個以上含む化合物であって、硬化反応時にエポキシ基が開環され、他のエポキシ樹脂や官能基変性アクリロニトリルブタジエンコポリマーとの架橋反応を起こし(場合によっては硬化剤との架橋反応)、硬化後のマトリックス樹脂を形成し得る化合物であれば特に限定されない。例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、臭素化ビスフェノールA型エポキシ樹脂、水添ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、ビスフェノールAF型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、フルオレン型エポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂、フェノール−ノボラック型エポキシ樹脂、オルソクレゾール−ノボラック型エポキシ樹脂、トリス(ヒドロキシフェニル)メタン型エポキシ樹脂、テトラフェニロールエタン型エポキシ樹脂などのグリシジルエーテル型エポキシ樹脂、エピクロルヒドリンとカルボン酸との縮合によって得られるグリシジルエステル型エポキシ樹脂、トリグリシジルイソシアネートやエピクロルヒドリンとヒダントイン類との反応によって得られるヒダントイン型エポキシ樹脂のような複素環式エポキシ樹脂などが挙げられる。なかでも、高強度かつ低粘度なマトリックス樹脂が得られるという理由からビスフェノールA型エポキシ樹脂を含むことが好ましい。
【0018】
エポキシ樹脂の樹脂成分中の含有量は、20質量%以上であり、25質量%以上が好ましく、30質量%以上がより好ましい。エポキシ樹脂の含有量が20質量%未満の場合は、硬化後の架橋が不十分となり、所望の弾性率や伸度が得られにくくなる傾向がある。また、エポキシ樹脂の樹脂成分中の含有量は、80質量%以下であり、75質量%以下が好ましく、70質量%以下がより好ましい。エポキシ樹脂の含有量が80質量%を超える場合は、硬化後の樹脂の弾性率が高くなり、十分な伸度が得られず脆くなる傾向がある。
【0019】
エポキシ樹脂の重量平均分子量(Mw)は、マトリックス樹脂を含浸させた炭素繊維の室温での取り扱い易さという点から200以上が好ましく、300以上がより好ましい。Mwが200未満の場合は室温での粘度が低くなり取り扱いが困難になる傾向がある。また、Mwは10000以下が好ましく、9000以下がより好ましい。Mwが10000を超える場合は未硬化樹脂が硬くなり、室温でのプリプレグの作成やプリプレグの積層などが困難となる傾向がある。
【0020】
前記官能基変性アクリロニトリルブタジエンコポリマーは、エポキシ基が開環したエポキシ樹脂との架橋反応を起こし(場合によっては硬化剤との架橋反応)硬化後のマトリックス樹脂を形成し得る官能基を有するアクリロニトリルブタジエンコポリマーであれば特に限定されない。該官能基としては、カルボキシル基、アミノ基、エポキシ基、ビニル基などが好ましく、アミノ基がより好ましい。
【0021】
官能基変性アクリロニトリルブタジエンコポリマーの樹脂成分中の含有量は、20質量%以上であり、25質量%以上が好ましく、30質量%以上がより好ましい。官能基変性アクリロニトリルブタジエンコポリマーの含有量が20質量%未満の場合は、硬化後の樹脂の伸度が不十分となり、脆くなる傾向がある。また、官能基変性アクリロニトリルブタジエンコポリマーの樹脂成分中の含有量は、80質量%以下であり、75質量%以下が好ましく、70質量%以下がより好ましい。官能基変性アクリロニトリルブタジエンコポリマーの含有量が80質量%を超える場合は、硬化後の樹脂の架橋が不十分となり、所望の物性が得られなくなる傾向がある。
【0022】
前記樹脂成分はエポキシ樹脂および官能基変性アクリロニトリルブタジエンコポリマー以外のその他の樹脂成分を含有しても良い。その他の樹脂成分としては、ポリビニルアセタール樹脂、フェノキシ樹脂、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリアリーレンオキシド、ポリスルホン、ポリアミド、ポリイミドなどの熱可塑性樹脂、エポキシ樹脂以外の熱硬化性樹脂などを本発明の効果が損なわれない範囲で適宜含有することができる。その他の樹脂成分を含有する場合の樹脂成分中の含有量は、室温での未硬化樹脂の取り扱いやすさに優れるという理由から10質量%以下が好ましく、8質量%以下がより好ましく、6質量%以下がさらに好ましい。
【0023】
マトリックス樹脂は前記樹脂成分以外に、硬化剤や硬化促進剤などの添加剤を含有することが、十分に架橋反応を進行させて強度を高めることができることから好ましい。なお、エポキシ樹脂のみの硬化は硬化剤が必要であるが、本発明に係るマトリックス樹脂は、エポキシ樹脂の開環したエポキシ基と、官能基変性アクリロニトリルブタジエンコポリマーの官能基との反応により硬化することができる。
【0024】
前記硬化剤としては、エポキシ樹脂の硬化剤として使用されているものを使用することができる。例えば、ジシアンジアミド(DICY)、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、3,3’−ジアミノジフェニルメタン、3,3’−ジアミノジフェニルスルホンなどが挙げられる。なかでも、常温での安定性に優れるという理由からDICYが好ましい。硬化剤を含有する場合の含有量は、十分に反応を進行させて強度を高めるという点からエポキシ基1molに対して2g以上が好ましく、3g以上がより好ましく、4g以上がさらに好ましい。また、未反応物が残って強度が低下することを防ぐという点からエポキシ基1molに対して20g以下が好ましく、19g以下がより好ましく、18g以下がさらに好ましい。
【0025】
前記硬化促進剤としては、エポキシ樹脂の硬化促進剤として使用されているものを使用することができる。例えば、3−フェニル−1,1−ジメチル尿素、3−(4−クロロフェニル)−1,1−ジメチル尿素、3−(3,4−ジクロロフェニル)−1,1−ジメチル尿素(DCMU)などが挙げられる。なかでも、DCMUが好ましい。硬化促進剤を含有する場合の硬化剤との含有比(硬化剤/硬化促進剤)は、1.0以上が好ましく、1.2以上が好ましく、1.4以上がさらに好ましい。また、同含有比は10以下が好ましく、9以下がより好ましく、8以下がさらに好ましい。硬化促進剤と硬化剤との含有比率をこの範囲内とすることにより、硬化後の樹脂の物性が良好なものとなる傾向がある。
【0026】
前記マトリックス樹脂は、エポキシ樹脂および官能基変性アクリロニトリルブタジエンコポリマーを含む樹脂成分に対し、必要に応じて添加剤を配合し、例えば加熱することにより、エポキシ樹脂のエポキシ基が開環し、他のエポキシ樹脂や官能基変性アクリロニトリルブタジエンコポリマーとの架橋反応が起こり(場合によっては硬化剤との架橋反応)硬化させることができる。硬化条件は配合する樹脂成分や硬化剤などに応じて適宜調整することができるが、100〜200℃で、5〜150分処理することで硬化させることができる。
【0027】
硬化後のマトリックス樹脂の初期弾性率は、0.1MPa以上が好ましく、0.3MPa以上がより好ましく、0.5MPa以上がさらに好ましい。初期弾性率が0.1MPa未満の場合は、塑性変形が起こり易くなり、タイヤの耐久性が低下するおそれがある。また、初期弾性率は、1000MPa以下が好ましく、700MPa以下がより好ましく、400MPa以下がさらに好ましい。初期弾性率が1000MPaを超える場合は、柔軟性が低下し、曲げなどの変形により破壊が容易に生じ、タイヤの耐久性が低下するおそれがある。なお、本明細書におけるマトリックス樹脂の初期弾性率とは、引張試験における荷重20〜40Nでの弾性率をいう。
【0028】
硬化後のマトリックス樹脂の破断強度は、1.0MPa以上が好ましく、1.5MPa以上がより好ましく、2.0MPa以上がさらに好ましい。破断強度が1.0MPa未満の場合は、耐久性が低下する傾向がある。また、破断強度は100MPa以下が好ましく、90MPa以下がより好ましく、80MPa以下がさらに好ましい。破断強度が100MPaを超える場合は、弾性率が高くなり過ぎる傾向があり、タイヤの耐久性が低下するおそれがある。
【0029】
硬化後のマトリックス樹脂の破断伸度は、50%以上が好ましく、55%以上がより好ましく、60%以上がさらに好ましい。破断伸度が50%未満の場合は、マトリックス樹脂がタイヤの変形に追随できず、亀裂が生じてタイヤの耐久性が低下するおそれがある。破断伸度の上限は特に限定されず、通常は300%以下である。
【0030】
さらに、硬化後のマトリックス樹脂は伸度50%において降伏がないことが好ましい。伸度50%未満で降伏が生じる場合は、塑性変形が簡単に生じてしまうためタイヤの品質や形状を維持することができないおそれがある。なお、本明細書においてマトリックス樹脂の降伏とは、引張試験において応力の低下が生じ、応力を取り除いても変形が残る塑性変形が生じることをいう。
【0031】
なお、本発明の初期弾性率、破断強度、破断伸度および伸度50%における降伏の有無は、硬化後JIS K 6251のダンベル4号形に成形したマトリックス樹脂を用いて、引張速度5mm/分、チャック間距離58mmの条件で測定した値である。なお、初期弾性率は荷重20〜40Nの範囲で算出した。測定機器としては(株)島津製作所製のオートグラフなどを用いることができる。
【0032】
前記炭素繊維としては、アクリル繊維を原料とするPAN系、およびピッチ(石油、石炭、コールタールなどの副生成物)を原料とするピッチ系が挙げられる。本発明ではいずれの炭素繊維を用いても良いが、引張強度が強いという理由からPAN系の炭素繊維を用いることが好ましい。
【0033】
本発明に係るCFRP(炭素繊維強化樹脂)は、前記炭素繊維にマトリックス樹脂を含浸させたプリプレグを作成し、このプリプレグを所望の形状に成形した後、硬化させて製造することができる。炭素繊維束へのマトリックス樹脂の含浸方法としては、液状のマトリックス樹脂をローラーを用いて炭素繊維束へ含浸させる方法や、シート状のマトリックス樹脂により炭素繊維布を挟み込み、さらに加圧等することで含浸させる方法が挙げられる。プリプレグ中のマトリックス樹脂含有量は、炭素繊維との密着性およびタイヤの軽量化の観点から、15〜50質量%が好ましく、20〜40質量%がより好ましい。
【0034】
本発明のタイヤは、コード類の一部としてCFRPが用いられていることを特徴とする。CFRPにより置換されるコードとしては、タイヤ中の原材料構成比が高く、置換することによるタイヤの軽量化効果が大きく、強度も維持することができるという点から、スチールコードやビードワイヤーの全部または一部をCFRPに置換することが好ましく、本発明に係るCFRPはリム組み時の大きな変形にも耐え得ることからビードワイヤーの全部または一部をCFRPに置換することがより好ましい。また、ビードワイヤーの一部をCFRPに置換したタイヤ、すなわちCFRPおよびビードワイヤーからなるビードコアを用いたタイヤとすることが、CFRPの曲げ弾性が小さいという特性を補うことができ、タイヤ成形中などに大きな力が負荷された場合に元の形状に戻らなくなることを防げることから好ましい。CFRPと組み合わせて用いるビードワイヤーには、従来のビードワイヤ被覆用ゴム組成物により被覆されたビードワイヤーを用いることができる。
【0035】
前記CFRPをタイヤのビードワイヤーとして用いる場合、炭素繊維束にマトリックス樹脂を含浸させたプリプレグを作成し、このプリプレグを使用するビードワイヤーの形状に、所望の剛性が得られるように積層し、硬化させて得られたCFRPビードワイヤーを従来のビードワイヤーの全部または一部に置き換えて用いることで本発明のタイヤが得られる。
【0036】
また、前記CFRPをタイヤのベルト部に埋設されたスチールコードとして用いる場合、炭素繊維束にマトリックス樹脂を含浸させたプリプレグを作成し、このプリプレグを所望の剛性が得られるように積層したCFRPコード(プリプレグ)を従来のスチールコードの全部または一部に置き換えて用いればよい。この場合、ベルト層内にCFRPコード(プリプレグ)が埋設された未加硫タイヤを製造し、加硫工程での加熱によりCFRPコードを硬化させることで本発明のタイヤが得られる。
【0037】
本発明のタイヤは、コード類の一部としてCFRPが用いられていること以外は通常の方法により製造できる。また、本発明のタイヤは、乗用車用タイヤ、バス用タイヤ、トラック用タイヤ等として好適に用いられる。
【実施例】
【0038】
本発明を実施例に基づいて説明するが、本発明は、実施例にのみ限定されるものではない。
【0039】
以下、実施例および比較例において用いた各種薬品などをまとめて示す。
エポキシ樹脂1:三菱化学(株)製のjER828(ビスフェノールA型エポキシ樹脂、エポキシ当量:184〜194)
エポキシ樹脂2:三菱化学(株)製のjER4005P(ビスフェノールF型エポキシ樹脂、Mw:8500、エポキシ当量:950〜1200)
アミン基変性アクリロニトリルブタジエンコポリマー(ATBN):CVC Thermoset Specialties社製のATBN1300X16
硬化剤:三菱化学(株)製のDICY7(ジシアンジアミド微粉砕品)
硬化促進剤:保土ヶ谷化学工業(株)製のDCMU−99
炭素繊維:三菱レイヨン(株)製のMR 60H 24P(フィラメント径:5μm、フィラメント数:24000)
ビードワイヤー1:スチール製、直径:1.2mm、構成:4+4+4、ゴム組成物により被覆
ビードワイヤー2:スチール製、直径:1.2mm、構成:4列1段、ゴム組成物により被覆
【0040】
試験用マトリックス樹脂の調製
表1に示す配合内容に従い、樹脂成分、硬化剤および硬化促進剤を混合し、注型金型(2mm板)を用い、室温から170℃まで30分かけて昇温させ、その後170℃で10分保持することで硬化させた。その後、25℃、湿度50%で48時間の条件で状態調節した後、ダンベル4号形に打ち抜き、試験用マトリックス樹脂を調製した。
【0041】
<引張試験>
(株)島津製作所製のオートグラフを用い、引張速度5mm/分、チャック間距離58mmの条件における、各試験用マトリックス樹脂の「初期弾性率」、「破断強度」、「破断伸度」および「伸度50%における降伏の有無」を測定した。結果を表1に示す。
【0042】
【表1】
【0043】
実施例および比較例
未硬化のマトリックス樹脂1〜7をローラーにより炭素繊維に含浸させてプリプレグを作成した。このプリプレグを金属製の治具に巻き付けて成形し、170℃で10分保持の条件で硬化させて試験用ビードコアを作成した。実施例5および6については、プリプレグを、金属製の治具にセットしてビードコアの形状に成形しておいたスチールワイヤー2に巻き付けて成形し、170℃で10分保持の条件で硬化させて試験用ビードコアを作成した。得られた試験用ビードコアを用いて各試験用タイヤ(サイズ:195/65R15 91H)を作成し、下記の評価試験を行った。また、比較例1としてスチールワイヤーからなる試験用ビードコアを用いた試験用タイヤを作成して評価した。プリプレグの樹脂含量、ビードコア作成時の積層数および評価結果を表2に示す。
【0044】
<ビードコア質量測定>
各試験用ビードコアの質量を測定し、比較例1の結果を100とする指数で示した。質量指数が低いほどビードコアの質量が低く、軽量化されていることを示す。
【0045】
<ホフマン締付力試験>
リム組み前のタイヤのビード部において、タイヤ中心側から外側に向け、周方向に均一な力を加え、ビード部内径がリム外径となる時の力を測定し、比較例1の結果を100とする指数で示した。締付力指数が高いほどリム組み時の締付力に優れることを示す。なお、55〜120を性能目標値とする。
【0046】
<嵌合力試験>
リム(サイズ:15×6J)にリム組みした時の空気圧を測定し、比較例1の結果を100とする指数で示した。嵌合力指数が低いほど嵌合が容易であることを示す。
【0047】
<水圧破壊試験>
リム(サイズ:15×6J)にリム組み後、タイヤ内圧が200kPaとなるまでタイヤ内部に水を注入し、タイヤが破壊されたときの内圧を測定し、比較例1の結果を100とする指数で示した。水圧破壊指数が高いほど耐水圧破壊性に優れることを示す。なお、85以上を性能目標値とする。
【0048】
【表2】
【0049】
表2における比較例2の水圧破壊試験ではビード折れが発生してしまい、早い段階でタイヤが破壊された。
【0050】
表2の結果より、所定量のエポキシ樹脂および官能基変性アクリロニトリルブタジエンコポリマーを含むマトリックス樹脂ならびに炭素繊維を含有するCFRPを用いたタイヤとすることにより、強度を維持しながら軽量化されたタイヤが得られることがわかる。