特許第6575591号(P6575591)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6575591レトルト殺菌米飯の製造方法およびレトルト殺菌した容器詰米飯
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6575591
(24)【登録日】2019年8月30日
(45)【発行日】2019年9月18日
(54)【発明の名称】レトルト殺菌米飯の製造方法およびレトルト殺菌した容器詰米飯
(51)【国際特許分類】
   A23L 7/10 20160101AFI20190909BHJP
   A23L 3/00 20060101ALN20190909BHJP
【FI】
   A23L7/10 E
   !A23L3/00 101C
【請求項の数】3
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2017-509435(P2017-509435)
(86)(22)【出願日】2016年3月3日
(86)【国際出願番号】JP2016056576
(87)【国際公開番号】WO2016158189
(87)【国際公開日】20161006
【審査請求日】2017年9月28日
(31)【優先権主張番号】特願2015-69722(P2015-69722)
(32)【優先日】2015年3月30日
(33)【優先権主張国】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】313005282
【氏名又は名称】東洋製罐株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】特許業務法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】高橋 英史
(72)【発明者】
【氏名】稲田 有美子
【審査官】 堂畑 厚志
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2012/046272(WO,A1)
【文献】 特開昭52−083968(JP,A)
【文献】 特開平09−084535(JP,A)
【文献】 特開2004−049216(JP,A)
【文献】 特開2014−018123(JP,A)
【文献】 特開2007−000327(JP,A)
【文献】 綾部園子,インディカ米とジャポニカ米の調理特性の比較,日本調理科学会誌,2008年,Vol.41, No.5,pp.283-288
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 7/00−7/104
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
米粒の厚さ線上の最外点と中心点との中間に位置する中間点のビッカース硬度を、前記中心点のビッカース硬度で除して算出した硬度比が1未満の生米を加熱して吸水させ、吸水後の米粒の重量が前記生米の重量の2.0〜2.6倍となるようにした加熱吸水工程と、
加熱吸水後の米粒を収容容器に充填する充填工程と、
充填した前記収容容器を密封する密封工程と、
密封した前記収容容器を加熱および加圧することで殺菌処理を行うレトルト殺菌工程と、を有し、
前記加熱吸水工程における加熱を70〜100℃で6〜7分間行うレトルト殺菌米飯の製造方法。
【請求項2】
前記充填工程の後に、前記収容容器におけるヘッドスペースの酸素ガスの濃度が1〜2%未満となるよう不活性ガスを封入するガス置換工程を有する請求項1に記載のレトルト殺菌米飯の製造方法。
【請求項3】
前記生米がインディカ米である請求項1または2に記載のレトルト殺菌米飯の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、長粒米を収容容器に充填して密封したのち加熱および加圧することで殺菌処理するレトルト殺菌米飯の製造方法およびレトルト殺菌した容器詰米飯に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、pH4.6を超え、かつ、水分活性が0.94を超える食品を「低酸性食品」、pH4.6以下の食品である「酸性食品」と区別される。容器詰食品を常温流通する場合、FDAにおいては商業的無菌を確保することが定義されており、日本国内においては、低酸性食品はボツリヌス菌を指標菌として120℃・4分間加熱する方法、またはこれと同等以上の効力を有する方法で殺菌(いわゆるレトルト殺菌)することが食品衛生法で義務付けられている。
【0003】
米飯は、通常、低酸性食品に分類されるため、米飯を容器に収容した容器詰食品の態様で常温流通させるには、レトルト殺菌を行う必要があった。
【0004】
レトルト殺菌は、例えば食品などの対象物を袋状の収容容器に収容したレトルト食品に対して、対象物を収容容器に充填して密封したのち、加熱および加圧するものであり、例えば110〜130℃の温度で、数分〜数十分程度の熱水や蒸気処理を行う。殺菌条件は、レトルト食品に対して十分な殺菌が行なえる条件を選択する必要があるが、一方で、殺菌処理後に対象物の品質が劣化しない条件を選択することが重要である。
【0005】
特許文献1には、生米(ジャポニカ米)および水を容器に充填して密封した後、レトルトによって炊飯および殺菌を同時に行う方法が開示してある。この方法は容器内炊飯であり、この方法では、容器内の酸素ガス量を常温で生米100gあたり4〜12mLになるように不活性ガスで調整することにより、風味の優れた着色のない白米の米飯とすることができるとされていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特公平8−24538号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
インディカ米はイネの長粒種で、世界のコメ生産量の80%以上を占めている。インディカ米の主要産地は、タイをはじめとするインドシナ半島や東南アジアである。これらの地域においては経済的に発展しつつあり、ライフスタイルの変化に伴う所得中間層の増加が見込まれている。さらに、当該地域において将来的に予想される人口増や、世界的な食糧難に対する一対策として、インディカ米を米飯として簡便に食する態様とすることができれば望ましい。
【0008】
従って、本発明の目的は、インディカ米を米飯として喫食に適した状態で常温保存可能な状態で流通できるレトルト殺菌米飯の製造方法、および、レトルト殺菌した容器詰米飯を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するための本発明に係るレトルト殺菌米飯の製造方法の第一特徴構成は、米粒の厚さ線上の最外点と中心点との中間に位置する中間点のビッカース硬度を、前記中心点のビッカース硬度で除して算出した硬度比が1未満の生米を加熱して吸水させ、吸水後の米粒の重量が前記生米の重量の2.0〜2.6倍となるようにした加熱吸水工程と、加熱吸水後の米粒を収容容器に充填する充填工程と、充填した前記収容容器を密封する密封工程と、密封した前記収容容器を加熱および加圧することで殺菌処理を行うレトルト殺菌工程と、を有し、前記加熱吸水工程における加熱を70〜100℃で6〜7分間行う点にある。
【0010】
本構成によれば、硬度比が1未満の長粒種の生米を使用し、吸水後の米粒の重量が生米の重量の2.0〜2.6倍となるように当該生米を加熱して吸水させることで、米粒の芯を残した状態とすることができる。この状態で収容容器に充填してレトルト殺菌を行うことで、米粒の芯まで十分加熱されて芯が残らない状態とすることができる。即ち、このようにレトルト殺菌では、米飯の蒸らしおよび殺菌を同時に行うことができる。
【0011】
本構成では、加熱吸水工程における吸水において、意図的に米粒に芯が残るように吸水させる水分量を予め調節する。そして、レトルト殺菌時の加熱および加圧によって当該残った芯を残さないように処理している。
【0012】
これにより、硬度比が1未満の長粒種の生米を、例えば当該長粒種の産地の人々が喫食するのに適した食感や風味を呈する状態でレトルト殺菌した米飯(容器詰米飯)として供することができる。このような容器詰米飯は、常温保存可能な状態で流通でき、さらに、例えば簡易に容器を加熱するだけで簡便に食する態様とすることができる。また、本構成によれば、長粒種の生米の糊化ピーク温度付近より高い温度で加熱吸水工程を行うことができるため、効率よく加熱吸水を行うことができる。
【0013】
本発明に係るレトルト殺菌米飯の製造方法の第二特徴構成は、前記充填工程の後に、前記収容容器におけるヘッドスペースの酸素ガスの濃度が1〜2%未満となるよう不活性ガスを封入するガス置換工程を有した点にある。
【0014】
本構成のように、ガス置換によってヘッドスペースの酸素ガスの濃度が1%以上かつ2%未満となるよう不活性ガスを封入することにより、米飯の風味を良好なものにすることができる。例えば本構成により、におい指標は6以下に制御することができる。
【0015】
本発明に係るレトルト殺菌米飯の製造方法の第三特徴構成は、前記生米をインディカ米とした点にある。
【0016】
インディカ米はイネの長粒種で、世界のコメ生産量の80%以上を占めている。また、インディカ米の主要産地は、タイをはじめとするインドシナ半島や東南アジアである。そのため、本構成によれば、当該地域において将来的に予想される人口増や、世界的な食糧難に対する一対策として、インディカ米を米飯として簡便に食する態様とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】本発明のレトルト殺菌米飯の製造方法の手順を示す図である。
図2】米粒の硬度比を算出するための説明図である。
図3】容器詰米飯のレトルト殺菌直後、3ヶ月、6ヶ月後の米飯1粒の硬さを示すグラフである。
図4】容器詰米飯のレトルト殺菌直後、3ヶ月、6ヶ月後の水分含有率を示すグラフである。
図5】容器詰米飯のレトルト殺菌直後、3ヶ月、6ヶ月後のにおい指標を示すグラフである。
図6】容器詰米飯(実施例2−1、実施例2−4、実施例2−7)について嗜好尺度法を行った結果を示したグラフである。
図7】容器詰米飯(実施例2−4、実施例2−5、実施例2−6)について嗜好尺度法を行った結果を示したグラフである。
図8】実施例2−4(レトルト殺菌直後、6ヶ月後)およびコントロール(通常炊飯の米飯)について嗜好尺度法を行った結果を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
本発明のレトルト殺菌米飯の製造方法は、長粒米であるインディカ米を収容容器に充填して密封したのち加熱および加圧することで殺菌処理するものである。
【0030】
即ち、本発明のレトルト殺菌米飯の製造方法は、図1〜2に示したように、米粒の厚さ線L上の最外点Rと中心点Oとの中間に位置する中間点Mのビッカース硬度を、中心点Oのビッカース硬度で除して算出した硬度比が1未満の生米を加熱して吸水させ、吸水後の米粒の重量が生米の重量の2.0〜2.6倍となるようにした加熱吸水工程Aと、加熱吸水後の米粒を収容容器に充填する充填工程Bと、収容容器におけるヘッドスペースの酸素ガスの濃度が1〜2%未満となるよう不活性ガスを封入するガス置換工程Cと、ガス置換した収容容器を密封する密封工程Dと、密封した前記収容容器を加熱および加圧することで殺菌処理を行うレトルト殺菌工程Eと、を有する。ガス置換工程Cは、必要に応じて行えばよい。
【0031】
(生米)
本発明で使用する生米は長粒種であり、例えばインディカ米とするのがよいが、これに限定されるものではなく、例えばイタリア産の長粒種であるカルナローリ米を使用してもよい。インディカ米は細長い形が特徴でタイ米もこれに含まれる。このインディカ米は、通常粘りけが少なくパサパサとした食感を呈する。一方、日本で主に栽培され、丸みのある楕円形をしているジャポニカ米は、熱を加えると粘りと艶が出る。このようにインディカ米はジャポニカ米とは外見や食感が異なる。本発明のレトルト殺菌米飯の製造方法は長粒種であるインディカ米を使用するため、インディカ米を食したときのインディカ米が有する独特の食感や風味等を生かした米飯とするのがよい。そのため、ジャポニカ米とは異なる条件でレトルト殺菌を行えばよいと考えられる。本実施形態ではインディカ米を使用した場合について説明する。
【0032】
本発明で使用するインディカ米は、硬度比が1未満で規定されるものを使用する。当該硬度比は、図2に示したように、米粒の厚さ線L上の最外点Rと中心点Oとの中間に位置する中間点Mのビッカース硬度を、中心点Oのビッカース硬度で除して算出することができる。中間点Mは、厚さ線L上において中心点Oを対称に二点存在するが、中間点Mのビッカース硬度はそれらの平均値を使用するとよい。
【0033】
ビッカース硬度(HV)は、押込み硬さの一種であり、正四角錐ダイヤモンドで作られたピラミッド形をしている圧子を材料表面に押し込み、荷重を除いたあとに残ったへこみの対角線の長さから表面積を算出する。試験荷重を算出した表面積で割った値がビッカース硬度(HV)である。
【0034】
生米のビッカース硬度を測定することにより、I型(インディカ型)とII型(ジャポニカ型)に分類することができる(日本作物学会紀事 Vol.32, 181-189, (1963))。具体的には硬度比が1より小さい場合をI型(インディカ型)とし、硬度比が1より大きい場合をII型(ジャポニカ型)としている。より具体的には、Ia型が硬度比0.95未満(中心部が著しく硬い)、Ib型が硬度比0.95〜1.00未満(中心部がやや硬い)、IIc型が硬度比1.00〜1.10未満(中心部がやや軟らかい)、IId型が硬度比1.10〜1.18未満(中心部および背腹線部が軟らかい)、IIe型が硬度比1.18以上(中心部および背腹線部が著しく軟らかい)となっている。このような分類は澱粉細胞組織の様相と密接な関連があり、粒形ともある程度の関係がある。尚、ジャポニカ米の硬質米はIIc型、ジャポニカ米の軟質米はIId型、ジャポニカ米の酒米はIIe型に分類される。
【0035】
(加熱吸水工程)
加熱吸水工程Aでは、吸水後の米粒の重量が生米の重量の2.0〜2.6倍、好ましくは2.2〜2.4倍となるように調節する。加熱吸水工程Aは、ボイル法(湯取り法)か蒸煮法で生米を加熱しながら吸水させる。即ち、洗米した生米を所定温度に加温した湯に所定時間浸漬し、当該所定時間経過後に浸漬を停止して湯切りを行う。
【0036】
洗米は、例えば生米重量の倍量の水を加え、数十回の攪拌後に排水すればよく、この工程を数回繰り返してもよい。洗米後に水切りした生米を、例えば70〜100℃程度に加温した湯に投入する。この温度範囲の下限(70℃)は、インディカ米が糊化を始める温度であり、上限(100℃)は常圧における沸騰水の温度である。インディカ米の糊化ピーク温度は75℃付近であるため、生米を70〜100℃程度に加温した湯に投入すると、効率よく加熱吸水を行うことができる。尚、ジャポニカ米の糊化開始温度は60℃程度である。加熱吸水は湯に限らず、出し汁等を使用してもよい。
【0037】
浸漬時間は、例えば5〜8分程度とするのがよく、さらに6〜7分とするのがより好ましい。インディカ米を米飯とするには、通常、10〜15分程度のボイルの後に蒸したりする。本発明の加熱吸水工程Aでは、通常のボイルより短い処理時間とすることで、インディカ米の芯を残した状態とすることができる。即ち、加熱吸水工程Aでは、インディカ米の芯を残した状態とするため、吸水後の米粒の重量が生米の重量の2.0〜2.6倍(加熱吸水率)となるように浸漬時間を調節している。湯量や投入する生米の量により、浸漬時間の調整のみで所望する加熱吸水率に入らない場合には、湯きり後の重量測定時に水気を与え、所望する加熱吸水率となるよう調整することが可能である。この水気の与え方は、例えば吸水後の米に噴霧する或いはノズル等で容器に水分を追加する等の方法で行うことができる。
【0038】
(充填工程)
充填工程Bは、加熱吸水後の米粒を収容容器に充填する。充填時には加水は行わないようにすることが可能である。このように加水せずに密封する場合は、米粒の水分含有率はレトルト殺菌前後で変化しない。そのため、レトルト殺菌後に米飯がべたつくのを防止することができる。加水する場合は、上述した吸水後の米に噴霧する或いはノズル等で容器に水分を追加する等のステップを充填工程で行うことができる。
【0039】
収容容器は加熱吸水工程Aを行った容器とは異なる容器とするのがよい。収容容器は、米を収容してレトルト殺菌できる態様の容器であれば、特に限定されるものではなく、例えば高温で加熱殺菌するため耐熱性を有し、常温流通ができる態様であり、酸素ガス、光を遮断するバリア性や酸素ガスの吸収性などを適宜有し、密封性および実用強度がある缶状の容器や、袋状・容器状などのレトルトパウチ、レトルトカップ、レトルトトレーであればよい。当該レトルトパウチは、例えば食品側にはポリプロピレン、外側にはポリエステル(PET)と言った合成樹脂やアルミ箔を積層加工したフィルムで作製される。収容容器の容積は特に限定されるものではないが、100〜600mL程度であればレトルト殺菌の際に扱い易く、レトルト殺菌時間などを考慮すれば550mL程度までの大きさとするのがよい。
【0040】
(ガス置換工程)
ガス置換工程Cは、収容容器におけるヘッドスペースの酸素ガスの濃度が1〜2%未満となるよう不活性ガスを封入する。
【0041】
ヘッドスペースに存在する気体の成分や組成により、米飯の色や風味に影響を与えることがある。例えばヘッドスペースに酸素が全く存在しない場合(不活性ガスである窒素を100%充填した場合)、タンパク質の一部が還元され米粒は青みがかった色調を呈する。一方、ヘッドスペースの酸素ガスの濃度が高いと米飯の風味が悪くなる。そのため、本発明のガス置換工程Cでは、ヘッドスペースの酸素ガスの濃度が1%以上かつ2%未満となるようにヘッドスペースの気体成分を調節する。酸素以外に封入するガスは窒素ガス等の不活性ガスの他、二酸化炭素ガスを封入してもよい。これらガスの濃度は、酸素ガスの濃度が1〜2%未満であれば、適宜設定することができる。例えば酸素ガスの濃度を1〜1.2%とした場合、二酸化炭素ガスの濃度を50〜70%とし、窒素ガスで全体を100%となるように調節しながら封入すればよい。
【0042】
これらガスをヘッドスペースに充填するには、各ガスを各別に、気体供給装置よりシリンジなどを介してヘッドスペースに注入して充填してもよいし、予めガス混合装置などで全てのガスを混合した状態で当該シリンジなどを介してヘッドスペースに注入して充填してもよい。
【0043】
尚、ヘッドスペースは、収容容器の大きさに応じて容量を設定するとよい。例えば400mLの容積を有する収容容器であれば、150mL程度のヘッドスペースを確保すればよい。
【0044】
(密封工程)
密封工程Dは収容容器を密封する。密封は、使用する収容容器に応じた最適な公知の手法を用いて行えばよい。例えば収容容器が容器状のレトルトパウチであれば、公知のシーラー等を用いて、収容容器の本体および蓋材を熱溶着することによって行うことができる。密封の際には、加熱吸水後の米粒以外に、例えば適当な大きさに調製した肉や野菜、粉末の調味料、乾燥食品等を同時に添加してもよい。
【0045】
(レトルト殺菌工程)
レトルト殺菌工程Eは、密封した収容容器を加熱および加圧することで殺菌処理を行う。
【0046】
レトルト殺菌処理とは、加圧加熱処理をいい、耐熱性容器に充填した製品を品温上昇に伴う製品の内圧で容器が破損しないように加圧しながら110℃〜130℃程度の蒸気又は熱水で10〜50分間程度加熱し、商業的無菌を確保することをいう。レトルト殺菌処理はバッチ式レトルト殺菌装置、連続式レトルト殺菌装置を用いることができる。
具体的な加熱の方法としては、常圧下で食品対象物の内部温度が110℃〜130に達するまで加熱をすることは困難であるため、加圧条件下で行う。例えば、熱水式の加圧加熱殺菌機や加圧式の圧力釜等を用いるとよい。
【0047】
上述したように、加熱吸水工程Aでは、通常の炊飯より短い処理時間とすることで、インディカ米の芯を残した状態となっている。しかし、レトルト殺菌工程Eによって加熱および加圧することで、インディカ米の芯まで十分加熱されて芯が残らない。このようにレトルト殺菌工程Eでは、米飯の蒸らしおよび殺菌を同時に行うことができる。
【0048】
レトルト殺菌工程Eが終了した後、米飯の一粒の硬さが56〜115N、水分含有率が54〜64%であるレトルト殺菌した容器詰米飯を作製することができる。また、当該容器詰米飯において、におい指標は6以下とすることができる。そのため、本発明のレトルト殺菌した容器詰米飯であれば、インディカ米が有する独特の食感や風味等を生かした米飯とすることができる。よって、当該容器詰米飯は、例えば簡易に容器を加熱するだけでインディカ米を米飯として簡便に食する態様とすることができ、かつインディカ米の主要産地であるタイをはじめとするインドシナ半島や東南アジアの人々に好ましい食感や風味を呈する状態、即ち喫食に適した状態で供することができる。
【0049】
レトルト殺菌工程Eが終了した後、徐々に温度を下げて冷却し、適切な温度・湿度で保存すればよい。
【実施例】
【0050】
〔実施例1〕
本発明のレトルト殺菌した容器詰米飯は、インディカ米の主要産地であるタイをはじめとするインドシナ半島や東南アジアにおいて食されるのを想定し、インディカ米を食したときに好まれる硬さ、水分含有率および風味を調べた。
【0051】
インディカ米としてタイ米(タイ香り米:株式会社ドーバーフィールド ファーイースト)を使用した。このタイ米を通常の炊飯およびレトルト殺菌米飯に供した。レトルト殺菌米飯に使用した収容容器は、米飯用ラミコンカップLA 180×118−370WT(PP/接着層/EVOH/接着層/PP)を使用した。カップの元シート厚は0.67mm、EVOHは4w/w%である。蓋材は、12XBJ15NBJ50RQ(外側から12μm蒸着PET/15μm蒸着ナイロン/ 50μmポリプロピレン)である。
【0052】
通常の炊飯は電気釜にて行った。電気釜(NP−BT10、象印マホービン株式会社)にタイ米の生米300gを入れ、イオン交換水を600mL注入し、手で30回掻きまぜ、研ぎ汁を捨てる洗米を回行った。生米の重量に対して所定の比率(生米の重量1に対して水1.1、1.2、1.3、1.4、1.5、1.6、1.7、1.8、1.9)を乗じた重量のイオン交換水を注入した。吸水時間は設けずに電気釜の「白米・普通モード」で炊飯した。炊飯後の米飯のそれぞれの重量を使用した生米の重量(300g)で割った値をそれぞれの加熱吸水率とした。
【0053】
レトルト殺菌米飯は以下のようにして製造した。
タイ米の生米を上記手法で洗米した後、ザルに移し替えて水を切り、100℃の沸騰水に投入し、時々撹拌しながらボイルして加熱吸水した。ボイル時間は5〜9分間とした。米粒を潰さないようにザルにあけて湯切りした。それぞれボイル後の全体の重量を、使用した生米の重量で割った値をそれぞれの加熱吸水率とした。
【0054】
加熱吸水後の米をラミコンカップに180g充填し、三種混合の標準ガス(酸素1〜1.2%、二酸化炭素50%、窒素ガスでバランス、住友精化)を流速8L/分で25秒間フラッシュしてガス置換した後、蓋材を半自動シーラー(SN−2S、株式会社シンワ機械)で、溶着温度200℃・溶着時間2秒でシールして密封した。
【0055】
レトルトシミュレーター(H130−C110、東洋製罐株式会社)を用い、次の条件でレトルト殺菌した。加熱は、1次加熱5分、予熱温度70℃、予熱時間5分、2次加熱10分、2次温度100℃、3次加熱10分、殺菌工程中の温度118℃で行い、最終F値が8となるように処理した。冷却は、1次温降10分、初冷温度90℃、2次温降10分、降冷温度40℃で行い、容器内中心部の温度(品温)が40℃となった時点で終了した。ウォーターチラー温度は15℃とした。レトルト釜から搬出後、容器に付着した水分をエアーガンで除去した。
【0056】
通常炊飯の米飯およびレトルト殺菌米飯について官能評価を行った。
タイ人7名をパネラとした。パネラの適性能力は5味試験で調べた。5味以外に水を2つ混ぜて、7種類の中から5味を当てる試験を行い、間違いが2つ以下を合格とした。
【0057】
通常炊飯の米飯のうち、米の重量1に対して水1.1〜1.9の9種類を官能評価用とした。また、レトルト殺菌米飯は、ボイルを5〜9分間行った5種類を官能評価用とした。評価時の温度を一定にするため、いずれも米飯10gを白色小皿に移し、約55℃となるようマイクロ波加熱後、パネラに提示した。
【0058】
官能による各サンプルの硬さは、好まれる場合は○、許容範囲内は△、許容範囲外は×でパネラに評価させた。
【0059】
米飯の物性を把握するため、米飯1粒の高さの90%まで圧縮する高圧縮試験を行った。
【0060】
米飯1粒を10または200Nのロードセルを装着した小型卓上試験機(EZ−S、島津製作所製)の試料台に載せ、直径30mmの円盤状治具を圧縮速度2.0mm/秒で、試料高さの90%まで圧縮することを2回繰り返した。10回試行を繰り返し平均値を求めた。最初の圧縮に要した力を「硬さ(H)」とした。
【0061】
また、公定法(任意量での105℃・5時間乾燥時の重量減少法)に基づき105℃にて水分含有率を測定した。
【0062】
<結果と考察>
(1)通常炊飯の米飯の物性および官能評価
タイ米を電気釜で炊いた通常炊飯の米飯の物性と水分測定値および加熱吸水率を表1に示した。硬さは、水分が多くなるほど減少した。硬さに関する官能評価の結果は表1の右端に示した。
【0063】
【表1】


【0064】
通常炊飯の米飯の官能評価における5味試験ではパネラ7名とも合格であった。
【0065】
この結果、米と水の重量比が米1に対して水1.1のものは硬すぎて許容範囲外と評価され、米:水=1:1.9は軟らか過ぎて許容範囲外と評価された。許容範囲内のものは米:水=1:1.2〜1.8であり、パネラからの聞き取りの結果、これらの中で最も好まれた米飯は米:水=1:1.5のものであった。
【0066】
この官能評価結果を表1に示した米飯1粒の硬さと照合すると、より好まれた米飯(米:水=1:1.5)は83.9Nで、許容範囲の米飯は米:水=1:1.8の56.3Nから同1:1.2の114.6Nであった。よって、硬さ測定値と官能評価の結果から、タイ米の好適な「硬さ」はおよそ56〜115Nであると認められた。このときの水分含有率は54.4〜64.1(54〜64)%、加熱吸水率は2.0〜2.6であった。
【0067】
(2)レトルト殺菌米飯の物性および官能評価
ボイル時間を変えた場合のレトルト殺菌米飯の物性、水分含有率、加熱吸水率を表2に示した。レトルト殺菌米飯の硬さに関する官能評価結果を表2に示した。
【0068】
【表2】


【0069】
米飯一粒の硬さの値では、ボイル時間の影響を比較するとボイル時間(加熱吸水工程A)が長くなるほど硬さは減少した。上述したように、パネラに許容されたタイ米の「硬さ」はおよそ56〜115Nで、この範囲に入るボイル時間は5〜8分間(63.8〜103.3N)であった。この時の水分含有率は59.3〜64.8%であった。官能評価でより好まれたサンプルは、ボイル時間が6〜7分間の場合であった。
【0070】
〔実施例2〕
レトルト殺菌した容器詰米飯におけるヘッドスペースの好適なガス組成を調べた。
実施例1で使用したタイ米を実施例1の手法に従って洗米した。加熱吸水工程Aは、ボイルを7分間行い、米粒を潰さないようにザルにあけて湯切り、重量測定時に、吸水後の米粒の重量が生米の重量の2.35倍となるように均一に湯を噴霧して調整した。加熱吸水後の米をラミコンカップに180g充填した(充填工程B)。
【0071】
ヘッドスペースのガス置換は、ヘッドスペースの酸素ガスの濃度が1%となるように、窒素ガス:酸素ガス、或いは、窒素ガス:酸素ガス:二酸化炭素ガスの混合ガスで行った(ガス置換工程C)。密封時に混合ガスをカップと蓋材の隙間から0.2MPa・流速8L/分で25秒間フラッシュしてガス置換した後、上述した半自動シーラーで、溶着温度200℃、溶着時間2.0秒でシールして密封した(密封工程D)。また、保存期間中の透過酸素の影響を調べる為に、収容容器をガス不透過性アルミパウチ(外装)に入れたものも作製した。外装の包装は、レトルト殺菌前或いはレトルト殺菌後に行った。試料一覧を表3に示した。
【0072】
【表3】


【0073】
尚、外装とは、ラミコンカップと脱酸素剤をアルミパウチに入れてシールした状態を指す。レトルト殺菌前包装のサンプルは、アルミパウチ内のOが脱酸素剤によって消費されたことを確認してからレトルト殺菌を行った。殺菌前に包装してOを除くことで、レトルト中にカップ外から進入する酸素を遮断することができる。レトルト殺菌後包装のサンプルでは、保管中に進入する酸素を遮断することが可能である。
【0074】
レトルト殺菌工程Eは、上述したレトルトシミュレーターを用い、次の条件で行った。断りのない限り温度は釜の温度を指す。加熱は、70℃まで5分かけて昇温、70℃で5分間保持、100℃まで10分かけて昇温、118℃まで10分かけて昇温することによって行い、殺菌工程中の温度は118℃とした。最終F値が8となるように処理した。冷却は、10分かけて90℃まで徐々に温度を下げ、容器内中心部の温度(品温)が40℃になった時点で終了した。ウォーターチラー温度は15℃とした。レトルト釜から搬出後、容器に付着した水分をエアーガンで除去した。その後、サンプルは全て30℃、80%RHの恒温恒湿庫で保管した。
【0075】
このようにして製造したレトルト殺菌米飯について評価を行った。
実施例1で使用した小型卓上試験機を用いてレトルト殺菌米飯の物性(硬さ)を測定した。さらに、実施例1と同様の手法で水分含有率を測定した。
【0076】
レトルト殺菌米飯の香気測定を行うため、米飯50gをHSガス捕集瓶に入れ、55℃湯煎にて30分間加温後、湯煎状態のまま、捕集瓶を自動濃縮装置(7100A、エンテック製)のラインに繋ぎ、HSガス200mLを装置内に導入した。導入ガスはMPTモードで濃縮、GC−MS分析した。分析条件は、GCにDB−WAXカラム(長さ:60m、内径:0.25mm、膜厚:0.25μm)を取り付け、ヘリウムを線速度39cm/秒で流し、オーブン温度(40℃で4分間保持、140℃まで毎分5℃で昇温、220℃まで毎分15℃で昇温、220℃で5分間保持)、注入口温度220℃、トランスファーライン温度230℃、イオン化室温度230℃とし、イオン化法EI、イオン化電圧70eV、スキャンレンジm/z 28.7〜350.0、毎秒1.8スキャンで行った。
【0077】
定量計算は、濃度既知の標準ガス(HAPs−J9、住友精化株式会社)100mLを装置内に導入、同様に分析後、1,2−Dichloroethaneのピーク面積を求め、それを50ppbとして補正係数1にて、米飯特徴香の2成分(Acetaldehyde、Dimethyl sulfide)と古米臭の2成分(Pentanal、Hexanal)の濃度を算出した。次式の値をにおい指標とした(値が大きいほど古米臭は強い)。
におい指標=(PentanalおよびHexanalの合計濃度)÷Acetaldehydeの濃度
【0078】
官能評価は、嗜好尺度法により行った。嗜好尺度法は、10点満点で3.3が許容限界値、6.6以上がより好まれるという尺度である。タイ人5名をパネラとした。各サンプルから米飯10gを白色小皿に移し、評価時の温度を一定とするため、マイクロ波で約55℃となるよう加熱後にパネラに提示した。
【0079】
<結果と考察>
(1)レトルト殺菌した容器詰米飯の物性(硬さ)
米飯1粒の硬さの経時変化を図3に示した。その結果、実施例2−1〜2−9は、容器詰米飯のレトルト殺菌直後、3ヶ月、6ヶ月後の何れも官能評価で許容される「硬さ」である56〜115Nを満たした。
【0080】
(2)レトルト殺菌した容器詰米飯の水分含有率
水分含有率の結果を図4に示した。その結果、実施例2−1〜2−9は、容器詰米飯のレトルト殺菌直後、3ヶ月、6ヶ月後の何れも60〜63%程度であった。
【0081】
(3)レトルト殺菌した容器詰米飯の香気成分
におい指標の算出結果を図5に示した。その結果、コントロールにおいてはレトルト殺菌の6ヶ月後のサンプルがにおい指標6を超え、許容できないにおいを有するものと認められた。一方、実施例2−1〜2−9は、容器詰米飯のレトルト殺菌直後、3ヶ月、6ヶ月後の何れもにおい指標6を下回っていた。
【0082】
(4)レトルト殺菌した容器詰米飯の官能評価
30℃、80%RHで6ヶ月間保存後の残存酸素量の異なる容器詰米飯について嗜好尺度法でタイ人を対象に評価した。評価項目は、外観、香り、テクスチャ、味、総合とした。サンプルは外装無しのサンプル実施例2−1、実施例2−4、実施例2−7を使用した。結果を図6に示した。
【0083】
この結果、実施例2−1、実施例2−4、実施例2−7の外観は何れも許容範囲内であるが、点数は3者間で少し開きが出た。外観の状態は総合評価へ影響し易いため、総合評価は外観の結果と同じ傾向にあった。それ以外の香り、テクスチャ、味については3者間での差はわずかであった。このことから、レトルト殺菌後に容器内に進入する酸素は米飯の官能に影響を与え難いと認められた。
【0084】
外装をしない実施例2−4、レトルト後に外装した実施例2−5、レトルト前に外装した実施例2−6を30℃、80%RHで6ヶ月間保存後、嗜好尺度法でタイ人を対象に評価した。評価項目は、外観、香り、テクスチャ、味、総合とした。結果を図7に示した。
【0085】
この結果、何れの評価項目も許容範囲内であった。外装の無い実施例2−4の結果から、ガスバリア性のあるカップと蓋材を用いれば、外装を施さなくても、長期に亘って各項目ともタイ人に許容される容器詰米飯となると認められた。
【0086】
実施例2−4(レトルト殺菌直後および30℃、80%RHで6ヶ月間保存後)と、コントロールとして実施例1のタイ米を電気釜で炊いた通常炊飯の米飯(米:水=1:1.5)とを、嗜好尺度法でタイ人を対象に評価した。評価項目は、外観、香り、テクスチャ、味、総合とした。結果を図8に示した。
【0087】
この結果、何れの評価項目も許容範囲内であり、特にテクスチャ、味において、実施例2−4はコントロールより優れた評価となった。そのため、実施例2−4は、コントロールである通常炊飯の米飯と遜色の無い、タイ人に許容される容器詰米飯となると認められた。
【0088】
尚、上述した実施例では、ヘッドスペースの酸素ガスの濃度が1%となるようにしたが、ヘッドスペースの酸素ガスの濃度が1〜2%未満となるよう不活性ガスを封入する態様であれば、同様の結果が得られると考えられる。
【0089】
〔実施例3〕
イタリア産の長粒種であるカルナローリ米を原料として、上述したインディカ米(タイ米)での実施例と同様に洗米したのち沸騰水に投入して12分間ボイル(加熱吸水)した。ボイル後に湯切りして、吸水後の米粒の重量が生米の重量の2.35になるよう加水して調整した米を収容容器(ラミコンカップ)に180g充填し、タイ米での実施例と同様に、酸素ガスの濃度が1〜2%未満となるようにガス置換しながら蓋材をヒートシールし、レトルト殺菌(殺菌温度118℃、殺菌時間25分間)したのち冷却した。レトルト釜から搬出後、容器に付着した水分をエアーガンで除去した。
【0090】
室温で1週間保存後の米飯物性は、硬さ103.9N、水分64.0%であった。この値は、何れも本発明の容器詰米飯が備える物性(米飯の一粒の硬さが56〜115N、水分含有率が54〜64%)の範囲内となった。
【0091】
〔比較例1〕
日本産の短粒種である硬質米(IIc型(硬度比1.00〜1.10未満))「ひとめぼれ」の精白米を原料として、上述したインディカ米(タイ米)での実施例と同様に洗米したのち沸騰水に投入して13分間ボイル(加熱吸水)した。ボイル後に湯切りして、吸水後の米粒の重量が生米の重量の2.35になるよう加水して調整した米を収容容器(ラミコンカップ)に180g充填し、タイ米での実施例と同様に、酸素ガスの濃度が1〜2%未満となるようにガス置換しながら蓋材をヒートシールし、レトルト殺菌(殺菌温度118℃、殺菌時間25分間)したのち冷却した。レトルト釜から搬出後、収容容器に付着した水分をエアーガンで除去した。
【0092】
室温で1日間保存後の米飯物性は、米飯の一粒の硬さが54.1Nで軟らかくなり過ぎていた。即ち、日本産の短粒種である硬質米(IIc型)「ひとめぼれ」では加熱吸水率が2.0〜2.6になるようボイル(加熱吸水)すると米粒の芯が殆どなくなるため、その後のレトルト殺菌で軟らかくなり過ぎたと認められた。
【0093】
さらに、上記硬質米(IIc型)「ひとめぼれ」を使用してボイル時間を7分間に短縮し、あえて米粒の芯を残した状態で容器詰米飯を作製した(他の条件は変更なし)。
【0094】
室温で1日間保存後の米飯物性は、米飯の一粒の硬さが84.1N(10粒の平均の硬さ)であったが、収容容器内の下層部は水を吸い過ぎてべたついており、収容容器内の上層部と下層部の米粒の水ムラが大きかった。これは、ボイル時間を7分間に短縮すると米の吸水量が少なくなり、加熱吸水率が2.0〜2.6になるようにカップ充填時に不足している水の量を追加したため、収容容器内の下層部の米粒が水を吸ってレトルト殺菌後に軟らかくなりすぎ、上層部の米は硬めとなったと認められた。
【0095】
よって、完成後の米粒の食感が良好となるよう加熱吸水率を2.0〜2.6にあわせてボイルすると、上記硬質米(IIc型)「ひとめぼれ」ではレトルト殺菌後に軟らかくなり過ぎるため食用には不適であり、ボイル時間を7分間に短縮して米粒の芯を残した状態でレトルト殺菌すると、収容容器内での米粒の水ムラが大きくなり過ぎて食用には不都合な状態となった。
【産業上の利用可能性】
【0096】
本発明は、長粒米を収容容器に充填して密封したのち加熱および加圧することで殺菌処理するレトルト殺菌米飯の製造方法およびレトルト殺菌した容器詰米飯に利用できる。
【符号の説明】
【0097】
A 加熱吸水工程
B 充填工程
C ガス置換工程
D 密封工程
E レトルト殺菌工程
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8