【実施例】
【0050】
〔実施例1〕
本発明のレトルト殺菌した容器詰米飯は、インディカ米の主要産地であるタイをはじめとするインドシナ半島や東南アジアにおいて食されるのを想定し、インディカ米を食したときに好まれる硬さ、水分含有率および風味を調べた。
【0051】
インディカ米としてタイ米(タイ香り米:株式会社ドーバーフィールド ファーイースト)を使用した。このタイ米を通常の炊飯およびレトルト殺菌米飯に供した。レトルト殺菌米飯に使用した収容容器は、米飯用ラミコンカップLA 180×118−370WT(PP/接着層/EVOH/接着層/PP)を使用した。カップの元シート厚は0.67mm、EVOHは4w/w%である。蓋材は、12XBJ15NBJ50RQ(外側から12μm蒸着PET/15μm蒸着ナイロン/ 50μmポリプロピレン)である。
【0052】
通常の炊飯は電気釜にて行った。電気釜(NP−BT10、象印マホービン株式会社)にタイ米の生米300gを入れ、イオン交換水を600mL注入し、手で30回掻きまぜ、研ぎ汁を捨てる洗米を
4回行った。生米の重量に対して所定の比率(生米の重量1に対して水1.1、1.2、1.3、1.4、1.5、1.6、1.7、1.8、1.9)を乗じた重量のイオン交換水を注入した。吸水時間は設けずに電気釜の「白米・普通モード」で炊飯した。炊飯後の米飯のそれぞれの重量を使用した生米の重量(300g)で割った値をそれぞれの加熱吸水率とした。
【0053】
レトルト殺菌米飯は以下のようにして製造した。
タイ米の生米を上記手法で洗米した後、ザルに移し替えて水を切り、100℃の沸騰水に投入し、時々撹拌しながらボイルして加熱吸水した。ボイル時間は5〜9分間とした。米粒を潰さないようにザルにあけて湯切りした。それぞれボイル後の全体の重量を、使用した生米の重量で割った値をそれぞれの加熱吸水率とした。
【0054】
加熱吸水後の米をラミコンカップに180g充填し、三種混合の標準ガス(酸素1〜1.2%、二酸化炭素50%、窒素ガスでバランス、住友精化)を流速8L/分で25秒間フラッシュしてガス置換した後、蓋材を半自動シーラー(SN−2S、株式会社シンワ機械)で、溶着温度200℃・溶着時間2秒でシールして密封した。
【0055】
レトルトシミュレーター(H130−C110、東洋製罐株式会社)を用い、次の条件でレトルト殺菌した。加熱は、1次加熱5分、予熱温度70℃、予熱時間5分、2次加熱10分、2次温度100℃、3次加熱10分、殺菌工程中の温度118℃で行い、最終F
0値が8となるように処理した。冷却は、1次温降10分、初冷温度90℃、2次温降10分、降冷温度40℃で行い、容器内中心部の温度(品温)が40℃となった時点で終了した。ウォーターチラー温度は15℃とした。レトルト釜から搬出後、容器に付着した水分をエアーガンで除去した。
【0056】
通常炊飯の米飯およびレトルト殺菌米飯について官能評価を行った。
タイ人7名をパネラとした。パネラの適性能力は5味試験で調べた。5味以外に水を2つ混ぜて、7種類の中から5味を当てる試験を行い、間違いが2つ以下を合格とした。
【0057】
通常炊飯の米飯のうち、米の重量1に対して水1.1〜1.9の9種類を官能評価用とした。また、レトルト殺菌米飯は、ボイルを5〜9分間行った5種類を官能評価用とした。評価時の温度を一定にするため、いずれも米飯10gを白色小皿に移し、約55℃となるようマイクロ波加熱後、パネラに提示した。
【0058】
官能による各サンプルの硬さは、好まれる場合は○、許容範囲内は△、許容範囲外は×でパネラに評価させた。
【0059】
米飯の物性を把握するため、米飯1粒の高さの90%まで圧縮する高圧縮試験を行った。
【0060】
米飯1粒を10または200Nのロードセルを装着した小型卓上試験機(EZ−S、島津製作所製)の試料台に載せ、直径30mmの円盤状治具を圧縮速度2.0mm/秒で、試料高さの90%まで圧縮することを2回繰り返した。10回試行を繰り返し平均値を求めた。最初の圧縮に要した力を「硬さ(H)」とした。
【0061】
また、公定法(任意量での105℃・5時間乾燥時の重量減少法)に基づき105℃にて水分含有率を測定した。
【0062】
<結果と考察>
(1)通常炊飯の米飯の物性および官能評価
タイ米を電気釜で炊いた通常炊飯の米飯の物性と水分測定値および加熱吸水率を表1に示した。硬さは、水分が多くなるほど減少した。硬さに関する官能評価の結果は表1の右端に示した。
【0063】
【表1】
【0064】
通常炊飯の米飯の官能評価における5味試験ではパネラ7名とも合格であった。
【0065】
この結果、米と水の重量比が米1に対して水1.1のものは硬すぎて許容範囲外と評価され、米:水=1:1.9は軟らか過ぎて許容範囲外と評価された。許容範囲内のものは米:水=1:1.2〜1.8であり、パネラからの聞き取りの結果、これらの中で最も好まれた米飯は米:水=1:1.5のものであった。
【0066】
この官能評価結果を表1に示した米飯1粒の硬さと照合すると、より好まれた米飯(米:水=1:1.5)は83.9Nで、許容範囲の米飯は米:水=1:1.8の56.3Nから同1:1.2の114.6Nであった。よって、硬さ測定値と官能評価の結果から、タイ米の好適な「硬さ」はおよそ56〜115Nであると認められた。このときの水分含有率は54.4〜64.1(54〜64)%、加熱吸水率は2.0〜2.6であった。
【0067】
(2)レトルト殺菌米飯の物性および官能評価
ボイル時間を変えた場合のレトルト殺菌米飯の物性、水分含有率、加熱吸水率を表2に示した。レトルト殺菌米飯の硬さに関する官能評価結果を表2に示した。
【0068】
【表2】
【0069】
米飯一粒の硬さの値では、ボイル時間の影響を比較するとボイル時間(加熱吸水工程A)が長くなるほど硬さは減少した。上述したように、パネラに許容されたタイ米の「硬さ」はおよそ56〜115Nで、この範囲に入るボイル時間は5〜8分間(63.8〜103.3N)であった。この時の水分含有率は59.3〜64.8%であった。官能評価でより好まれたサンプルは、ボイル時間が6〜7分間の場合であった。
【0070】
〔実施例2〕
レトルト殺菌した容器詰米飯におけるヘッドスペースの好適なガス組成を調べた。
実施例1で使用したタイ米を実施例1の手法に従って洗米した。加熱吸水工程Aは、ボイルを7分間行い、米粒を潰さないようにザルにあけて湯切り、重量測定時に、吸水後の米粒の重量が生米の重量の2.35倍となるように均一に湯を噴霧して調整した。加熱吸水後の米をラミコンカップに180g充填した(充填工程B)。
【0071】
ヘッドスペースのガス置換は、ヘッドスペースの酸素ガスの濃度が1%となるように、窒素ガス:酸素ガス、或いは、窒素ガス:酸素ガス:二酸化炭素ガスの混合ガスで行った(ガス置換工程C)。密封時に混合ガスをカップと蓋材の隙間から0.2MPa・流速8L/分で25秒間フラッシュしてガス置換した後、上述した半自動シーラーで、溶着温度200℃、溶着時間2.0秒でシールして密封した(密封工程D)。また、保存期間中の透過酸素の影響を調べる為に、収容容器をガス不透過性アルミパウチ(外装)に入れたものも作製した。外装の包装は、レトルト殺菌前或いはレトルト殺菌後に行った。試料一覧を表3に示した。
【0072】
【表3】
【0073】
尚、外装とは、ラミコンカップと脱酸素剤をアルミパウチに入れてシールした状態を指す。レトルト殺菌前包装のサンプルは、アルミパウチ内のO
2が脱酸素剤によって消費されたことを確認してからレトルト殺菌を行った。殺菌前に包装してO
2を除くことで、レトルト中にカップ外から進入する酸素を遮断することができる。レトルト殺菌後包装のサンプルでは、保管中に進入する酸素を遮断することが可能である。
【0074】
レトルト殺菌工程Eは、上述したレトルトシミュレーターを用い、次の条件で行った。断りのない限り温度は釜の温度を指す。加熱は、70℃まで5分かけて昇温、70℃で5分間保持、100℃まで10分かけて昇温、118℃まで10分かけて昇温することによって行い、殺菌工程中の温度は118℃とした。最終F
0値が8となるように処理した。冷却は、10分かけて90℃まで徐々に温度を下げ、容器内中心部の温度(品温)が40℃になった時点で終了した。ウォーターチラー温度は15℃とした。レトルト釜から搬出後、容器に付着した水分をエアーガンで除去した。その後、サンプルは全て30℃、80%RHの恒温恒湿庫で保管した。
【0075】
このようにして製造したレトルト殺菌米飯について評価を行った。
実施例1で使用した小型卓上試験機を用いてレトルト殺菌米飯の物性(硬さ)を測定した。さらに、実施例1と同様の手法で水分含有率を測定した。
【0076】
レトルト殺菌米飯の香気測定を行うため、米飯50gをHSガス捕集瓶に入れ、55℃湯煎にて30分間加温後、湯煎状態のまま、捕集瓶を自動濃縮装置(7100A、エンテック製)のラインに繋ぎ、HSガス200mLを装置内に導入した。導入ガスはMPTモードで濃縮、GC−MS分析した。分析条件は、GCにDB−WAXカラム(長さ:60m、内径:0.25mm、膜厚:0.25μm)を取り付け、ヘリウムを線速度39cm/秒で流し、オーブン温度(40℃で4分間保持、140℃まで毎分5℃で昇温、220℃まで毎分15℃で昇温、220℃で5分間保持)、注入口温度220℃、トランスファーライン温度230℃、イオン化室温度230℃とし、イオン化法EI、イオン化電圧70eV、スキャンレンジm/z 28.7〜350.0、毎秒1.8スキャンで行った。
【0077】
定量計算は、濃度既知の標準ガス(HAPs−J9、住友精化株式会社)100mLを装置内に導入、同様に分析後、1,2−Dichloroethaneのピーク面積を求め、それを50ppbとして補正係数1にて、米飯特徴香の2成分(Acetaldehyde、Dimethyl sulfide)と古米臭の2成分(Pentanal、Hexanal)の濃度を算出した。次式の値をにおい指標とした(値が大きいほど古米臭は強い)。
におい指標=(PentanalおよびHexanalの合計濃度)÷Acetaldehydeの濃度
【0078】
官能評価は、嗜好尺度法により行った。嗜好尺度法は、10点満点で3.3が許容限界値、6.6以上がより好まれるという尺度である。タイ人5名をパネラとした。各サンプルから米飯10gを白色小皿に移し、評価時の温度を一定とするため、マイクロ波で約55℃となるよう加熱後にパネラに提示した。
【0079】
<結果と考察>
(1)レトルト殺菌した容器詰米飯の物性(硬さ)
米飯1粒の硬さの経時変化を
図3に示した。その結果、実施例2−1〜2−9は、容器詰米飯のレトルト殺菌直後、3ヶ月、6ヶ月後の何れも官能評価で許容される「硬さ」である56〜115Nを満たした。
【0080】
(2)レトルト殺菌した容器詰米飯の水分含有率
水分含有率の結果を
図4に示した。その結果、実施例2−1〜2−9は、容器詰米飯のレトルト殺菌直後、3ヶ月、6ヶ月後の何れも60〜63%程度であった。
【0081】
(3)レトルト殺菌した容器詰米飯の香気成分
におい指標の算出結果を
図5に示した。その結果、コントロールにおいてはレトルト殺菌の6ヶ月後のサンプルがにおい指標6を超え、許容できないにおいを有するものと認められた。一方、実施例2−1〜2−9は、容器詰米飯のレトルト殺菌直後、3ヶ月、6ヶ月後の何れもにおい指標6を下回っていた。
【0082】
(4)レトルト殺菌した容器詰米飯の官能評価
30℃、80%RHで6ヶ月間保存後の残存酸素量の異なる容器詰米飯について嗜好尺度法でタイ人を対象に評価した。評価項目は、外観、香り、テクスチャ、味、総合とした。サンプルは外装無しのサンプル実施例2−1、実施例2−4、実施例2−7を使用した。結果を
図6に示した。
【0083】
この結果、実施例2−1、実施例2−4、実施例2−7の外観は何れも許容範囲内であるが、点数は3者間で少し開きが出た。外観の状態は総合評価へ影響し易いため、総合評価は外観の結果と同じ傾向にあった。それ以外の香り、テクスチャ、味については3者間での差はわずかであった。このことから、レトルト殺菌後に容器内に進入する酸素は米飯の官能に影響を与え難いと認められた。
【0084】
外装をしない実施例2−4、レトルト後に外装した実施例2−5、レトルト前に外装した実施例2−6を30℃、80%RHで6ヶ月間保存後、嗜好尺度法でタイ人を対象に評価した。評価項目は、外観、香り、テクスチャ、味、総合とした。結果を
図7に示した。
【0085】
この結果、何れの評価項目も許容範囲内であった。外装の無い実施例2−4の結果から、ガスバリア性のあるカップと蓋材を用いれば、外装を施さなくても、長期に亘って各項目ともタイ人に許容される容器詰米飯となると認められた。
【0086】
実施例2−4(レトルト殺菌直後および30℃、80%RHで6ヶ月間保存後)と、コントロールとして実施例1のタイ米を電気釜で炊いた通常炊飯の米飯(米:水=1:1.5)とを、嗜好尺度法でタイ人を対象に評価した。評価項目は、外観、香り、テクスチャ、味、総合とした。結果を
図8に示した。
【0087】
この結果、何れの評価項目も許容範囲内であり、特にテクスチャ、味において、実施例2−4はコントロールより優れた評価となった。そのため、実施例2−4は、コントロールである通常炊飯の米飯と遜色の無い、タイ人に許容される容器詰米飯となると認められた。
【0088】
尚、上述した実施例では、ヘッドスペースの酸素ガスの濃度が1%となるようにしたが、ヘッドスペースの酸素ガスの濃度が1〜2%未満となるよう不活性ガスを封入する態様であれば、同様の結果が得られると考えられる。
【0089】
〔実施例3〕
イタリア産の長粒種であるカルナローリ米を原料として、上述したインディカ米(タイ米)での実施例と同様に洗米したのち沸騰水に投入して12分間ボイル(加熱吸水)した。ボイル後に湯切りして、吸水後の米粒の重量が生米の重量の2.35になるよう加水して調整した米を収容容器(ラミコンカップ)に180g充填し、タイ米での実施例と同様に、酸素ガスの濃度が1〜2%未満となるようにガス置換しながら蓋材をヒートシールし、レトルト殺菌(殺菌温度118℃、殺菌時間25分間)したのち冷却した。レトルト釜から搬出後、容器に付着した水分をエアーガンで除去した。
【0090】
室温で1週間保存後の米飯物性は、硬さ103.9N、水分64.0%であった。この値は、何れも本発明の容器詰米飯が備える物性(米飯の一粒の硬さが56〜115N、水分含有率が54〜64%)の範囲内となった。
【0091】
〔比較例1〕
日本産の短粒種である硬質米(IIc型(硬度比1.00〜1.10未満))「ひとめぼれ」の精白米を原料として、上述したインディカ米(タイ米)での実施例と同様に洗米したのち沸騰水に投入して13分間ボイル(加熱吸水)した。ボイル後に湯切りして、吸水後の米粒の重量が生米の重量の2.35になるよう加水して調整した米を収容容器(ラミコンカップ)に180g充填し、タイ米での実施例と同様に、酸素ガスの濃度が1〜2%未満となるようにガス置換しながら蓋材をヒートシールし、レトルト殺菌(殺菌温度118℃、殺菌時間25分間)したのち冷却した。レトルト釜から搬出後、収容容器に付着した水分をエアーガンで除去した。
【0092】
室温で1日間保存後の米飯物性は、米飯の一粒の硬さが54.1Nで軟らかくなり過ぎていた。即ち、日本産の短粒種である硬質米(IIc型)「ひとめぼれ」では加熱吸水率が2.0〜2.6になるようボイル(加熱吸水)すると米粒の芯が殆どなくなるため、その後のレトルト殺菌で軟らかくなり過ぎたと認められた。
【0093】
さらに、上記硬質米(IIc型)「ひとめぼれ」を使用してボイル時間を7分間に短縮し、あえて米粒の芯を残した状態で容器詰米飯を作製した(他の条件は変更なし)。
【0094】
室温で1日間保存後の米飯物性は、米飯の一粒の硬さが84.1N(10粒の平均の硬さ)であったが、収容容器内の下層部は水を吸い過ぎてべたついており、収容容器内の上層部と下層部の米粒の水ムラが大きかった。これは、ボイル時間を7分間に短縮すると米の吸水量が少なくなり、加熱吸水率が2.0〜2.6になるようにカップ充填時に不足している水の量を追加したため、収容容器内の下層部の米粒が水を吸ってレトルト殺菌後に軟らかくなりすぎ、上層部の米は硬めとなったと認められた。
【0095】
よって、完成後の米粒の食感が良好となるよう加熱吸水率を2.0〜2.6にあわせてボイルすると、上記硬質米(IIc型)「ひとめぼれ」ではレトルト殺菌後に軟らかくなり過ぎるため食用には不適であり、ボイル時間を7分間に短縮して米粒の芯を残した状態でレトルト殺菌すると、収容容器内での米粒の水ムラが大きくなり過ぎて食用には不都合な状態となった。