(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
複数の金属部材を重ね合わせた部位にレーザー光を照射して複数の前記金属部材同士を溶接するレーザー溶接方法であって、複数の前記金属部材のうち少なくとも1つの前記金属部材は母材よりも融点の低い被覆材によって前記母材が被覆されたメッキ鋼板から形成され、
一の前記金属部材の一の側面にレーザー光を照射し、反対側の他の側面に当該他の側面から盛り上がる凸部を生成し、次いで、生成された前記凸部の一部を溶融しつつレーザー光を走査することによって前記凸部の上への溶融金属の流れを生じさせて、前記凸部の前記他の側面からの高さよりも高く盛り上がる突起部を生成させ、
前記突起部を生成した一の前記金属部材を、前記突起部を介在させて他の前記金属部材と重ね合わせた状態にし、複数の前記金属部材を重ね合わせた部位にレーザー光を照射して複数の前記金属部材同士を溶接する、レーザー溶接方法。
前記突起部を生成するとき、前記凸部を中央にして、前記凸部を生成するときにレーザー光を走査した方向とは反対側に向けてレーザー光を走査する、請求項6に記載のレーザー溶接方法。
複数の金属部材を重ね合わせた部位にレーザー光を照射して複数の前記金属部材同士を溶接するレーザー溶接装置であって、複数の前記金属部材のうち少なくとも1つの前記金属部材は母材よりも融点の低い被覆材によって前記母材が被覆されたメッキ鋼板から形成され、
一の前記金属部材の一の側面に向けてレーザー光を照射するとともにレーザー光を走査自在な加工ヘッドと、
前記加工ヘッドの作動を制御する制御部と、を有し、
前記制御部は、
前記加工ヘッドによって一の前記金属部材の一の側面にレーザー光を照射させ、反対側の他の側面に当該他の側面から盛り上がる凸部を生成させ、次いで、生成された前記凸部の一部を前記加工ヘッドによって溶融しつつレーザー光を走査させることによって前記凸部の上への溶融金属の流れを生じさせて、前記凸部の前記他の側面からの高さよりも高く盛り上がる突起部を生成させ、
さらに、前記突起部を介在させて重ね合わせた複数の前記金属部材に前記加工ヘッドから前記レーザー光を照射させて溶接させる、レーザー溶接装置。
前記制御部は、前記突起部を生成させるとき、前記他の側面の側に盛り上がった前記凸部の頂点を残すようにレーザー光を走査させる、請求項12に記載のレーザー溶接装置。
前記制御部は、前記突起部を生成させるとき、レーザー光を走査する時間を、始端部が凝固して前記突起部を生成させる時間以上とする、請求項12または13に記載のレーザー溶接装置。
前記制御部は、前記突起部を生成させるとき、レーザー光を走査して、走査の始端部に前記凸部を生成させる、請求項12〜請求項14のいずれか1つに記載のレーザー溶接装置。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、添付した図面を参照しながら、本発明の実施形態を説明する。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。図面の寸法比率は、説明の都合上誇張されており、実際の比率とは異なる。
【0012】
図1(A)(B)は、本発明の実施形態に係るレーザー溶接装置10を示す概略構成図であり、
図1(A)は突起部25を生成する前処理工程の状態を示し、
図1(B)は金属部材21、22同士を溶接する溶接工程の状態を示している。
【0013】
図1を参照して、レーザー溶接装置10は、複数の金属部材21、22を重ね合わせた部位にレーザー光51を照射して複数の金属部材21、22同士を溶接して溶接部材100を製造する。複数の金属部材21、22のうち少なくとも1つの金属部材は、母材よりも融点の低い被覆材によって母材が被覆されたメッキ鋼板から形成されている。メッキ鋼板は、自動車用の金属部材において多用されている、例えば、耐食性に優れた亜鉛を主成分とする被覆材によって母材が被覆された亜鉛メッキ鋼板を例示できる。
【0014】
レーザー溶接装置10は、概説すれば、第1の金属部材21(一の金属部材に相当する)の表面21a(一の側面に相当する)に向けてレーザー光51を照射するとともにレーザー光51を走査自在な加工ヘッド50と、加工ヘッド50の作動を制御する制御部60と、を有している。制御部60は、加工ヘッド50によって第1の金属部材21の表面21aにレーザー光51を照射させ、裏面21b(反対側の他の側面に相当する)に当該裏面21bから盛り上がる凸部24を生成させる。制御部60は、次いで、生成された凸部24の一部を溶融しつつレーザー光51を走査させることによって凸部24の上への溶融金属の流れを生じさせて、凸部24の裏面21bからの高さよりも高く盛り上がる突起部25を生成させる(
図1(A))。さらに制御部60は、突起部25を介在させて重ね合わせた複数の金属部材21、22に加工ヘッド50からレーザー光51を照射させて溶接させる(
図1(B))。レーザー溶接装置10は、治具部40を有している。治具部40は、第1と第2の金属部材21、22同士を空間30を開けて組み合わせた状態に保持自在であるとともに、第1の金属部材21を第2の金属部材22と重ね合わせた状態に保持自在である。制御部60は治具部40の作動も制御する。以下、レーザー溶接装置10について詳述する。
【0015】
治具部40は、複数(図示例では2枚)の第1と第2の金属部材21、22同士を空間30を開けて組み合わせた状態に保持する第1位置(
図1(A))と、第1と第2の金属部材21、22を重ね合わせた状態にする第2位置(
図1(B))とに移動自在である。制御部60は、治具部40を第1位置に移動させ、第1と第2の金属部材21、22同士を空間30を開けて組み合わせた状態に保持する。次に、制御部60は、加工ヘッド50からレーザー光51を照射して突起部25を生成させる(
図1(A))。次に、制御部60は、治具部40を第1位置から第2位置に移動させ、突起部25を介在させて第1と第2の金属部材21、22を重ね合わせた状態にして溶接する(
図1(B))。下方側の第2の金属部材22は図示しない溶接ダイの上に載置されている。
【0016】
治具部40は、第1と第2の金属部材21、22同士の間に挿入自在な爪部材41と、爪部材41を第1と第2の金属部材21、22同士の間に対して進退移動するアクチュエータ42とを有している。爪部材41は、挿入側の端面をテーパ形状に形成している。アクチュエータ42は、エアシリンダーなどから構成する。
図1(A)に示すように、アクチュエータ42によって爪部材41を前進移動させ、第1と第2の金属部材21、22同士の間に挿入する。治具部40は、第1と第2の金属部材21、22同士を空間30を開けて組み合わせた状態に保持する第1位置に移動する。
図1(B)に示すように、アクチュエータ42によって爪部材41を後退移動させ、第1と第2の金属部材21、22同士の間から引き抜く。治具部40は、第1と第2の金属部材21、22を重ね合わせた状態にする第2位置に移動する。
【0017】
第1の金属部材21の上方に加工ヘッド50が配置されている。加工ヘッド50は、公知のレーザー照射装置から構成する。加工ヘッド50は、第1の金属部材21の表面21aにレーザー光51を照射する。加工ヘッド50は、揺動自在なミラーを備え、直線形状、曲線形状、円形状、あるいは円弧形状などの任意の軌跡に沿ってレーザー光51を走査することができる。走査することなく点状にもレーザー光51を照射することができる。加工ヘッド50は、レーザー出力、走査速度、およびスポット径の拡大縮小など、溶接対象物への入熱量の調整も自由にできる。
【0018】
加工ヘッド50は、図示しない溶接ロボットのロボットハンドに取り付けられている。溶接ロボットは、教示プログラムにしたがってティーチングされ、定められた動きにしたがってロボットハンドを移動させる。
【0019】
レーザー溶接装置10は、溶接時に第1と第2の金属部材21、22をクランプする複数のクランプ部材70を有する。クランプ部材70は、適宜の構成を採用できる。図示例のクランプ部材70は、第1の金属部材21の上方に配置された上方押え部71と、第2の金属部材22の下方に配置された下方押え部72とを有している。上方押え部71および下方押え部72は、図示しない例えば油圧シリンダーなどの流体圧シリンダーによって駆動され、第1と第2の金属部材21、22を挟持してクランプする。
【0020】
レーザー溶接装置10を用いたレーザー溶接方法について説明する。第1と第2の金属部材21、22同士は、上方側の第1の金属部材21の裏面21bに突起部25を生成する前処理工程(
図1(A))と、第1と第2の金属部材21、22を突起部25を介在させて重ね合わせた状態にしてレーザー溶接する溶接工程(
図1(B))とを経て接合される。
【0021】
(前処理工程)
まず、
図1〜
図3を参照しつつ、前処理工程を説明する。
【0022】
図2および
図3は、突起部25を生成する手順を説明する模式図であり、
図2(A1)(A2)は、レーザー光51を走査して凸部24を生成させる様子を示す断面図、
図2(B1)(B2)は、レーザー光51を走査して凸部24の高さよりも高く盛り上がる突起部25を生成させる様子を示す断面図である。
図3(A)は、凸部24を生成するときの様子を示す平面図、
図3(B)は、突起部25を生成するときの様子を示す平面図である。なお、図中矢印52a、52bはレーザー光51の走査方向を示し、矢印53a、53bは溶融した金属が走査方向とは逆向きに流れる方向を示している。破線によって囲まれる範囲は走査の始端部54と、走査の終端部55とを示している。
【0023】
図1(A)に示すように、下方側の第2の金属部材22を図示しない溶接ダイの上に載置する。爪部材41を第2の金属部材22の縁辺を超える位置まで前進する。上方側の第1の金属部材21を爪部材41の上に載置する。空間30は、第1の金属部材21に生成した突起部25が第2の金属部材22に接合されない寸法、および溶接時に移動される寸法を考慮して適宜決定することができる。空間30の寸法例として、0.5mm〜5mmを挙げることができる。
【0024】
突起部25は、レーザー光51を2度打ちすることによって生成される。まず、制御部60は、加工ヘッド50の作動を制御し、第1の金属部材21の表面21aにレーザー光51を照射させ、裏面21bに当該裏面21bから盛り上がる凸部24を生成させる(
図2(A1)(A2)、
図3(A))。この場合において、レーザー光51を走査して、走査の始端部54に凸部24を生成させることが好ましい。走査の始端部54に向かう溶融金属の流れが生じることによって、裏面21bからの突起高さが比較的大きい凸部24を生成することができるからである。次いで、制御部60は、加工ヘッド50の作動を制御し、生成された凸部24の一部を溶融しつつレーザー光51を走査させることによって凸部24の上への溶融金属の流れを生じさせる。この結果、凸部24の裏面21bからの突起高さよりも高く盛り上がる突起部25を生成させる(
図2(B1)(B2)、
図3(B))。
【0025】
より詳細に説明すると、1パス目のレーザー光51の照射に関して、第1の金属部材21の表面21aに、レーザー光51を図中左から右に向かう方向(矢印52a)に走査する(
図2(A1)(A2)、
図3(A))。第1の金属部材21の裏面21bに、当該裏面21bから盛り上がる凸部24が生成される。レーザー光51を走査することによって、走査の始端部54に凸部24が生成され、走査の終端部55に凹みが生じる。レーザー光51の走査が予め定められた長さに達すると、レーザー光51の照射を停止する。
図2(A2)に示すように、凸部24の裏面21bからの突起高さは、符号d1によって示される。
【0026】
レーザー光51を走査する場合、溶融した金属の温度は、走査の終端部55側が高く、始端部54側が低い。溶融金属のうち温度が高い部位では表面張力が小さく、温度が低い部位では表面張力が大きくなる。温度差による表面張力差によって、溶融金属は、高温側から低温側に向かって引っ張られ、マランゴニ対流が発生する。このように溶融金属の温度分布によって、溶融した金属は走査方向(矢印52a)とは逆向きに流れ(矢印53a)、走査の始端部54が安定して盛り上がる。この結果、走査の始端部54に安定した凸部24を生成することができる。
【0027】
凸部24を生成するとき、レーザー光51を走査する時間は、始端部54が凝固して凸部24を生成させる時間以上にすることが好ましい。
【0028】
レーザー光51の照射を停止すると、走査の始端部54に向かっていた溶融金属の流れ(矢印53a)が逆転し、終端部55に向かって溶融金属が流れ始める。このため、始端部54が凝固するまでレーザー光51の走査を止めないようにすることによって、走査の始端部54に安定した凸部24を生成することができる。
【0029】
1パス目のレーザー光51の照射は、凸部24が生成されるまで中断することができない。このため、2パス目のレーザー光51の照射は、1パス目のレーザー光51の照射が完了した直後から任意のタイミングで始めることができる。
【0030】
2パス目のレーザー光51の照射に関して、1パス目の始端部54に生成された凸部24の部分を2パス目の始端部54とする。第1の金属部材21の表面21aに、レーザー光51を1パス目とは逆の図中右から左に向かう方向(矢印52b)に走査する(
図2(B1)(B2)、
図3(B))。凸部24の上への溶融金属の流れが生じ(矢印53b)、凸部24の高さが増幅される。その結果、走査の始端部54に突起部25が生成され、走査の終端部55に凹みが生じる。レーザー光51の走査が予め定められた長さに達すると、レーザー光51の照射を停止する。
図2(B2)に示すように、突起部25の裏面21bからの突起高さは、符号d2によって示される。突起部25の突起高さは、凸部24の突起高さに対してΔd(d2−d1)増幅している。突起部25の突起高さd2は、ブローホールの発生を抑制する目的に合致する範囲において適宜選択できる。突起部25の突起高さの寸法例として、0.05mm〜0.3mmを挙げることができる。
【0031】
2パス目のレーザー光51の走査のときにも、溶融金属の温度分布によって、溶融した金属は走査方向(矢印52b)とは逆向きに流れ(矢印53b)、走査の始端部54に存在する凸部24が安定して盛り上がる。この結果、走査の始端部54に安定した突起部25を生成することができる。
【0032】
突起部25を生成するとき、裏面21bの側に盛り上がった凸部24の頂点を残すようにレーザー光51を走査することが好ましい。
【0033】
凸部24の頂点を残すようにレーザー光51を走査することによって、すでに盛り上がっている凸部24の頂点に溶融金属がさらに流れる結果、凸部24の突起高さよりも一層高く突出した突起部25を生成することができるからである。
【0034】
突起部25を生成するとき、レーザー光51を走査する時間は、始端部54が凝固して突起部25を生成させる時間以上にすることが好ましい。
【0035】
レーザー光51の照射を停止すると、走査の始端部54に向かっていた溶融金属の流れ(矢印53b)が逆転し、終端部55に向かって溶融金属が流れ始める。このため、始端部54が凝固するまでレーザー光51の走査を止めないようにすることによって、走査の始端部54に安定した突起部25を生成することができるからである。
【0036】
突起部25を生成するとき、凸部24を中央にして、凸部24を生成するときにレーザー光51を走査した方向(
図2において左から右)とは反対側(
図2において右から左)に向けてレーザー光51を走査することが好ましい。
【0037】
凸部24を中央にして逆方向にレーザー光51を走査することによって、2度目のレーザー光51の走査を溶接ロボットにティーチングするときの教示プログラムの作成が容易になる。さらに、ロボットハンドの移動時間(照射時間)も短くでき、レーザー溶接に要する時間を短縮できる。
【0038】
なお、凸部24を中央にして逆方向にレーザー光51を走査させて突起部25を生成させた場合、第1の金属部材21には、溶接ビードの中央部分に突起部25が生じ、溶接ビードの両端部分にヒケが生じる(
図2(B2)を参照)。
【0039】
(溶接工程)
次に、
図1を参照しつつ、溶接工程を説明する。
【0040】
図1(B)に示すように、爪部材41を第2の金属部材22の縁辺から離れる位置まで後退する。上方側の第1の金属部材21を突起部25を介在させて、下方側の第2の金属部材22に重ね合わせる。クランプ部材70の上方押え部71および下方押え部72を駆動し、第1と第2の金属部材21、22をクランプする。そして、第1と第2の金属部材21、22を重ね合わせた部位に加工ヘッド50からレーザー光51を照射して第1と第2の金属部材21、22同士を溶接する。溶接工程におけるレーザー光51の軌跡は、直線状、曲線状、スポット状のいずれでもよい。
【0041】
溶接工程において、重ね合わせた第1と第2の金属部材21、22同士の間には、突起部25が挟まることによって凸部24が挟まるよりも大きな隙間31を確保できる。この拡大された隙間31を通って、溶接時のレーザー光51の照射によって発生する被覆材蒸気である亜鉛ガスが逃がされる。亜鉛ガスの通気性が向上する結果、ブローホールの発生が抑制され、溶接品質が向上する。
【0042】
このようなレーザー溶接技術は、亜鉛メッキ鋼板が多用されている自動車用の金属部材を溶接接合する場合に適したものとなる。
【0043】
図4(A)は、レーザー光51の走査を直線形状の軌跡に沿って行うことによって凸部24または突起部25を生成させる様子を示す斜視図、
図4(B)は、レーザー光51の走査を円弧形状の軌跡に沿って行うことによって凸部24または突起部25を生成させる様子を示す斜視図、
図4(C)は、レーザー光51の照射を点形状に行うことによって凸部24を生成させる様子を示す斜視図である。
【0044】
凸部24を生成するとき、レーザー光51の走査は、始端部54を残したままの軌跡に沿って行うことが好ましい。
【0045】
同様に、突起部25を生成するとき、レーザー光51の走査は、始端部54を残したままの軌跡に沿って行うことが好ましい。
【0046】
1パスの間において始端部54にレーザー光51が再び照射されることがない。一旦生成させた凸部24または突起部25が再溶融されないので、安定した凸部24または突起部25を生成することができるからである。
【0047】
レーザー光51の走査は、
図4(A)に示される直線形状の軌跡、または
図4(B)に示される円弧形状の軌跡に沿って行うことが好ましい。
【0048】
レーザー光51の走査が始端部54を残したままの軌跡となり、安定した凸部24または突起部25を生成することができるからである。
【0049】
2パス目のレーザー光51の照射に関してはレーザー光51を走査することが必要である。しかしながら、1パス目のレーザー光51の照射に関してはレーザー光51を走査させることは必ずしも必要ではない。
【0050】
図4(C)に示すように、レーザー光51を走査することなく、レーザー光51の照射を点形状に行うことによって、点形状の凸部24を生成させてもよい。点形状の凸部24は、溶融金属の表面張力の作用によって中央部分が盛り上がって生成される。
【0051】
図5(A)〜(E)は、本溶接したときのビード56に対する突起部25の配置例を模式的に示す平面図である。
【0052】
図において、破線によって囲まれた部分が突起部25を示している。図示例においては、突起部25を生成するときには、まず、レーザー光51を走査して走査の始端部54に凸部24を生成する。次いで、凸部24を中央にして、凸部24を生成したときの走査方向とは反対側に向けてレーザー光51を走査し、突起部25を生成している。
図5(A)に示される突起部25は、前処理後のビード57が直線形状になるようにレーザー光51を走査して生成されている。ビード57は、本溶接したときのビード56に対して平行となるように形成するのがよい。突起部25を本溶接したときのビード56に近づけることが可能になるからである。
図5(B)に示される突起部25は、前処理後のビード57が円弧形状になるようにレーザー光51を走査して生成されている。
図5(C)に示される突起部25は、前処理後のビード57が直線と円弧とを組み合わせた形状となるようにレーザー光51を走査して生成されている。
【0053】
図5(A)〜(C)に示すように、本溶接したときのビード56に対して1個の突起部25を適用する場合には、本溶接したときのビード56の長手方向の略中央部分に位置するように、突起部25を生成するのが好ましい。突起部25によって形成される隙間31が、突起部25を略中央にして図中左右方向に同じような形状となり、溶接時の亜鉛ガスを均等に逃がし易くなるからである。
【0054】
図5(D)(E)に示すように、本溶接したときのビード56に対して複数個の突起部25を適用する場合には、本溶接したときのビード56を間に挟んで千鳥配列となるように、突起部25を生成するのが好ましい。突起部25によって形成される隙間31が、ビード56の図中上下および図中左右方向に同じような形状となり、溶接時の亜鉛ガスを均等に逃がし易くなるからである。
【0055】
凸部24をレーザー光51の走査または点形状の照射のいずれによって生成するか、凸部24をレーザー光51の走査によって生成する場合に走査の軌跡を直線形状または円弧形状のいずれにするか、突起部25を生成するときのレーザー光51の走査の軌跡を直線形状または円弧形状のいずれにするかは、任意に組み合わせることができる。本溶接したときのビード56の形状や長さ、あるいは第1と第2の金属部材21、22同士が重なり合う面積の広狭などに応じて、適切な組み合わせを採択することができる。
【0056】
以上説明したように、本実施形態のレーザー溶接方法は、前処理工程と、溶接工程と、を有し、前処理工程においては、第1の金属部材21の表面21aにレーザー光51を照射し、裏面21bに当該裏面21bから盛り上がる凸部24を生成し、次いで、生成された凸部24の一部を溶融しつつレーザー光51を走査することによって凸部24の上への溶融金属の流れを生じさせて、凸部24の裏面21bからの高さよりも高く盛り上がる突起部25を生成させる。溶接工程においては、突起部25を生成した第1の金属部材21を、突起部25を介在させて第2の金属部材22と重ね合わせた状態にし、第1と第2の金属部材21、22を重ね合わせた部位にレーザー光51を照射して第1と第2の金属部材21、22同士を溶接する。
【0057】
かかる方法によれば、前処理工程において、凸部24の突起高さよりも高く盛り上がる突起部25を安定して生成することができる。溶接工程において、重ね合わせた第1と第2の金属部材21、22同士の間には、突起部25が挟まることによって凸部24が挟まるよりも大きな隙間31を確保できる。この拡大された隙間31を通って、溶接時のレーザー光51の照射によって発生する被覆材蒸気である亜鉛ガスが逃がされる。亜鉛ガスの通気性が向上する結果、ブローホールの発生が抑制され、溶接品質が向上する。したがって、本実施形態のレーザー溶接方法によれば、第1と第2の金属部材21、22の板厚に制限されることなく適正な突起高さを有する突起部25を生成でき、もって溶接品質の向上を図ることが可能となる。
【0058】
突起部25を生成するとき、裏面21bの側に盛り上がった凸部24の頂点を残すようにレーザー光51を走査することが好ましい。
【0059】
かかる方法によれば、すでに盛り上がっている凸部24の頂点に溶融金属がさらに流れる結果、凸部24の突起高さよりも一層高く突出した突起部25を生成することができる。
【0060】
突起部25を生成するとき、レーザー光51を走査する時間は、始端部54が凝固して突起部25を生成させる時間以上であることが好ましい。
【0061】
かかる方法によれば、始端部54が凝固するまでレーザー光51の走査を止めないことから、走査の始端部54に安定した突起部25を生成することができるからである。この結果、第1と第2の金属部材21、22同士の間の隙間31を安定して確保することができる。
【0062】
突起部25を生成するとき、レーザー光51の走査を、始端部54を残したままの軌跡に沿って行うことが好ましい。
【0063】
かかる方法によれば、1パスの間において始端部54にレーザー光51が再び照射されることがない。一旦生成させた突起部25が再溶融されないので、安定した突起部25を生成することができる。
【0064】
レーザー光51の走査を、直線形状の軌跡、または円弧形状の軌跡に沿って行うことが好ましい。
【0065】
かかる方法によれば、レーザー光51の走査が始端部54を残したままの軌跡となり、安定した突起部25を生成することができる。
【0066】
突起部25を生成するとき、レーザー光51を走査して、走査の始端部54に凸部24を生成させることが好ましい。
【0067】
かかる方法によれば、走査の始端部54に向かう溶融金属の流れが生じることによって、裏面21bからの突起高さが比較的大きい凸部24を生成することができる。
【0068】
突起部25を生成するとき、凸部24を中央にして、凸部24を生成するときにレーザー光51を走査した方向とは反対側に向けてレーザー光51を走査することが好ましい。
【0069】
かかる方法によれば、凸部24を中央にして逆方向にレーザー光51を走査するため、2度目のレーザー光51の走査を溶接ロボットにティーチングするときの教示プログラムの作成が容易になる。さらに、ロボットハンドの移動時間(照射時間)も短くでき、レーザー溶接に要する時間を短縮できる。
【0070】
凸部24を生成するとき、レーザー光51を走査する時間は、始端部54が凝固して凸部24を生成させる時間以上であることが好ましい。
【0071】
かかる方法によれば、始端部54が凝固するまでレーザー光51の走査を止めないことから、走査の始端部54に安定した凸部24を生成することができ、ひいては突起高さが高い突起部25を安定して生成することができる。
【0072】
凸部24を生成するとき、レーザー光51の走査を、始端部54を残したままの軌跡に沿って行うことが好ましい。
【0073】
かかる方法によれば、1パスの間において始端部54にレーザー光51が再び照射されることがない。一旦生成させた凸部24が再溶融されないので、安定した凸部24を生成することができる。
【0074】
レーザー光51の走査を、直線形状の軌跡、または円弧形状の軌跡に沿って行うことが好ましい。
【0075】
かかる方法によれば、レーザー光51の走査が始端部54を残したままの軌跡となり、安定した凸部24を生成することができる。
【0076】
メッキ鋼板が亜鉛メッキ鋼板である。亜鉛メッキ鋼板を適用して、ブローホールの発生を抑制した良好な溶接部を得ることができる。
【0077】
本実施形態のレーザー溶接装置10は、第1の金属部材21の表面21aに向けてレーザー光51を照射するとともにレーザー光51を走査自在な加工ヘッド50と、加工ヘッド50の作動を制御する制御部60と、を有している。制御部60は、加工ヘッド50によって第1の金属部材21の表面21aにレーザー光51を照射させ、裏面21bに当該裏面21bから盛り上がる凸部24を生成させる。制御部60は、次いで、生成された凸部24の一部を加工ヘッド50によって溶融しつつレーザー光51を走査させることによって凸部24の上への溶融金属の流れを生じさせて、凸部24の裏面21bからの高さよりも高く盛り上がる突起部25を生成させる。制御部60はさらに、突起部25を介在させて重ね合わせた複数の金属部材に加工ヘッド50からレーザー光51を照射させて溶接させる。
【0078】
かかる構成によれば、凸部24の突起高さよりも高く盛り上がる突起部25を安定して生成することができる。重ね合わせた第1と第2の金属部材21、22同士の間には、突起部25が挟まることによって凸部24が挟まるよりも大きな隙間31を確保できる。この拡大された隙間31を通って、溶接時のレーザー光51の照射によって発生する被覆材蒸気である亜鉛ガスが逃がされる。亜鉛ガスの通気性が向上する結果、ブローホールの発生が抑制され、溶接品質が向上する。したがって、本実施形態のレーザー溶接装置10によれば、第1と第2の金属部材21、22の板厚に制限されることなく適正な突起高さを有する突起部25を生成でき、もって溶接品質の向上を図ることが可能となる。
【0079】
制御部60は、突起部25を生成させるとき、裏面21bの側に盛り上がった凸部24の頂点を残すようにレーザー光51を走査させることが好ましい。
【0080】
かかる構成によれば、すでに盛り上がっている凸部24の頂点に溶融金属がさらに流れる結果、凸部24の突起高さよりも一層高く突出した突起部25を生成することができる。
【0081】
制御部60は、突起部25を生成させるとき、レーザー光51を走査する時間を、始端部54が凝固して突起部25を生成させる時間以上とすることが好ましい。
【0082】
かかる構成によれば、始端部54が凝固するまでレーザー光51の走査を止めないことから、走査の始端部54に安定した突起部25を生成することができるからである。この結果、第1と第2の金属部材21、22同士の間の隙間31を安定して確保することができる。
【0083】
制御部60は、突起部25を生成させるとき、レーザー光51を走査して、走査の始端部54に凸部24を生成させることが好ましい。
【0084】
かかる構成によれば、走査の始端部54に向かう溶融金属の流れが生じることによって、裏面21bからの突起高さが比較的大きい凸部24を生成することができる。
【0085】
複数の金属部材をメッキ鋼板から形成した場合について説明したが、溶接する鋼板のいずれかの面に被覆材が被覆されている限り、被覆材蒸気が発生し得る。したがって、複数の金属部材のうち少なくとも1つの金属部材の母材の両面または片面が被覆されたメッキ鋼板を溶接する場合に本発明を適用できる。
【0086】
2パス目のレーザー光51の走査を凸部24から開始する実施形態について説明したが、本発明はこの場合に限定されない。2パス目のレーザー光51の走査は、生成された凸部24の一部を溶融しつつレーザー光51を走査することによって凸部24の上への溶融金属の流れを生じさせることができればよい。したがって、2パス目のレーザー光51の走査を凸部24の手前側から開始することもできる。この場合であっても、突起部25は凸部24の盛り上がりを増加させるように生成される。
【0087】
複数の金属部材を溶接する場合に、金属部材の板厚、表面形状、溶接位置などの影響を受けて、凸部24の突起高さだけでもブローホールの発生の抑制効果が得られる箇所と、凸部24の突起高さだけでは上記の抑制効果が十分に得られない箇所とが混在するときがある。このような場合には、1パス目のレーザー光51の走査によって生成した凸部24のすべてに対して、2度目のレーザー光51の走査を行う必要は無い。凸部24の突起高さだけでは上記の抑制効果が十分に得られない箇所に対してのみ、2パス目のレーザー光51の走査によって突起部25を生成させ、要求高さを満足させることができる。突起高さが異なる凸部24および突起部25を備える金属部材を適用しても、ブローホールの発生を抑制して、溶接品質の向上を図ることができる。レーザー光51を2度打ちする箇所が減ることによって、前処理工程の時間を短縮でき、レーザー溶接に要する時間を短縮できる。
【0088】
第1と第2の金属部材21、22が平板の場合を図示したが、本発明は湾曲面を有する金属部材に対しても適用できることはいうまでもない。
【0089】
(試験例)
凸部24を生成させる1パス目として、上板(0.9mm)を貫通可能なレーザー出力〜+15%程度の範囲で、スポット径φ550〜800μm、速度80mm/s、直線形状でレーザー溶接を実施した。始端部54に凸部24(突起高さ0.12mm)が生成された。
【0090】
次に、凸部24の突起高さを増幅させる2パス目として、上板を貫通可能なレーザー出力〜+15%程度の範囲で、スポット径φ550〜800μm、速度80mm/sにて、1パス目で生成した凸部24の一部を始点とし、1パス目とは逆方向へ直線形状でレーザー溶接を実施した。始端部54に凸部24よりも大きな突起高さを有する突起部25(突起高さ0.19mm)が生成された。
【0091】
突起部25を挟み込むように、上板と下板とを重ね合わせてクランプした。上下板を貫通・溶接可能な熱量でレーザー溶接した。発生した亜鉛ガスは突起部25によって形成された隙間31から流出したため溶接部に欠陥は生じなかった。
【0092】
金属部材の板厚や加工速度によって、レーザー出力や走査距離は異なるが、傾向は同じであることを確認した。
【0093】
本出願は、2015年11月17日に出願された日本特許出願番号2015−225136号に基づいており、その開示内容は、参照され、全体として、組み入れられている。