特許第6575670号(P6575670)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6575670
(24)【登録日】2019年8月30日
(45)【発行日】2019年9月18日
(54)【発明の名称】インクジェット記録用インキ
(51)【国際特許分類】
   C09D 11/322 20140101AFI20190909BHJP
   C09D 11/40 20140101ALI20190909BHJP
   C09B 35/035 20060101ALI20190909BHJP
   B41J 2/01 20060101ALI20190909BHJP
   B41M 5/00 20060101ALI20190909BHJP
【FI】
   C09D11/322
   C09D11/40
   C09B35/035
   B41J2/01 501
   B41M5/00 120
【請求項の数】4
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2018-234463(P2018-234463)
(22)【出願日】2018年12月14日
(62)【分割の表示】特願2015-72696(P2015-72696)の分割
【原出願日】2015年3月31日
(65)【公開番号】特開2019-77876(P2019-77876A)
(43)【公開日】2019年5月23日
【審査請求日】2018年12月19日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000222118
【氏名又は名称】東洋インキSCホールディングス株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】711004436
【氏名又は名称】東洋インキ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】市村 泰孝
(72)【発明者】
【氏名】宇都木 正貴
(72)【発明者】
【氏名】依田 純
【審査官】 磯貝 香苗
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−189777(JP,A)
【文献】 特開2010−260956(JP,A)
【文献】 特開2009−298953(JP,A)
【文献】 特開2010−155959(JP,A)
【文献】 特開2010−222470(JP,A)
【文献】 特開平08−231906(JP,A)
【文献】 特開2015−034268(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 11/00
B41M 5/00
B41J 2/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水、水溶性溶剤、顔料、顔料分散樹脂、界面活性剤、および、バインダー樹脂を含む水性インクジェットイエローインキであって、
顔料が、C.I.Pigment Yellow14を含み、
顔料の含有量が、インキ全体に対し1.5〜5重量%であり、
バインダー樹脂が、酸性基を有する親水性成分を含有するスチレンアクリル樹脂であり、
バインダー樹脂が、酸価20〜50、かつ、重量平均分子量11000〜30000であり、
バインダー樹脂の含有量が、インキ全体に対し5〜15重量%であり、
顔料分散樹脂が、スチレンアクリル樹脂であり、
インキの表面張力が20〜35mN/mであることを特徴とする水性インクジェットイエローインキ。
【請求項2】
水溶性溶剤が、炭素数3〜6のアルカンジオール、および炭素数6〜8のジエチレングリコールモノアルキルエーテルのいずれか1つ以上を含むことを特徴とする請求項1記載の水性インクジェットイエローインキ。
【請求項3】
請求項1または2に記載の水性インクジェットインキを用いて、インクジェット方式によって印刷を行う記録方法。
【請求項4】
請求項3記載の記録方法により、基材上に印刷された印刷物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、良好な発色性と基材上での白抜けの少ない鮮明な画像品質、および、優れたエタノール耐性が得られ、さらに、安定した連続吐出性能の得た水性インクジェットイエローインキ、および前記水性インクジェットイエローインキを含有する水性インクジェットインキセットに関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録方法は、インク組成物の小滴を飛翔させ、紙等の記録媒体に付着させて印刷を行う印刷方法である。この方法は、比較的安価な装置で高解像度、高品位な画像を高速で印刷可能であるという特徴を有する。
【0003】
産業用途においても、インクジェット技術の向上によりデジタル印刷の出力機としての利用が期待され、環境やコスト等の面から水性インキが求められており、特に、発色性、耐光性などの面から、水性顔料インキの登場が強く求められている。
【0004】
当然ながら、インクジェット印刷物の発色性や色再現性は重要であり、これまでにも発色性や色再現性を向上させるべく様々な検討がなされている。例えば特許文献1、2では、プロセスインキに加え、特色インキを組み合せたインクセットとすることにより、良好な色再現性を表現した画像を形成できることが提案されている。
【0005】
しかしながら、これらの印刷システムでは、特色用のインクジェットヘッドが追加で必要であり、装置サイズやコストの増大を招いてしまう。従って、特色インキを使用することなく、プロセスカラーのみで前記問題を解決できることが好ましい。
【0006】
プロセスカラーのうちイエローは、マゼンタとの混色である赤色、およびシアンとの混色である緑色の発現に関与するものであり、前記色再現性の発現・拡大において重要な役割を果たしている。従来、インクジェットイエローインキでは、C.I.Pigment
Yellow74、120、150がイエロー顔料として使用されていた。一方で特許文献4では、C.I.Pigment Yellow180、185などを用いたインクジェットイエローインキに関する報告がある。
【0007】
しかしながら前記顔料は、いずれも発色性に劣るという問題点がある。そのためこれらの顔料を使用する場合、インキ中の顔料濃度を大きくする必要があるが、同時にインキ中の固形成分の量を増加させることになるため、インキの粘度もまた増加してしまう。一方で、インクジェットインキとしての特性を発現させる、すなわちインキの吐出性能や印字特性を維持・向上させるためには、インキの粘度を好適な範囲に収める必要があり、従って溶剤やバインダー樹脂など、他の特性に影響を与える成分の量を減らさなければならなくなる。
【0008】
以上のように、吐出性能などインクジェットインキとして必要な特性を持ちながら、プロセスカラーのみで発色性に優れた印刷物を得ることができる水性インクジェットイエローインキはいまだ見出せていない現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】国際公開第1999/005230号パンフレット
【特許文献2】特開2009−173853号公報
【特許文献3】特開2006−283017号公報
【特許文献4】特開平11−172180号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、良好な発色性と基材上での白抜けの少ない鮮明な画像品質、および、優れたエタノール耐性が得られ、さらに、安定した連続吐出性能を有する水性インクジェットイエローインキ、および前記水性インクジェットイエローインキを含有する水性インクジェットインキセットを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
すなわち本発明は、水、水溶性溶剤、顔料、顔料分散樹脂、界面活性剤、および、バインダー樹脂を含む水性インクジェットイエローインキであって、
顔料が、C.I.Pigment Yellow14を含み、
顔料の含有量が、インキ全体に対し1.5〜5重量%であり、
バインダー樹脂が、酸性基を有する親水性成分を含有するスチレンアクリル樹脂であり、
バインダー樹脂が、酸価20〜50、かつ、重量平均分子量11000〜30000であり、
バインダー樹脂の含有量が、インキ全体に対し5〜15重量%であり、
顔料分散樹脂が、スチレンアクリル樹脂であり、
インキの表面張力が20〜35mN/mであることを特徴とする水性インクジェットイエローインキに関する。

【0013】
また本発明は、水溶性溶剤が、炭素数3〜6のアルカンジオール、および炭素数6〜8のジエチレングリコールモノアルキルエーテルのいずれか1つ以上を含むことを特徴とする上記水性インクジェットイエローインキに関する。
【0017】
また本発明は、上記水性インクジェットインキを用いて、インクジェット方式によって印刷を行う記録方法に関する。
【0018】
また本発明は、上記記録方法により、基材上に印刷された印刷物に関する。
【発明の効果】
【0019】
本発明の水性インクジェットイエローインキを用いることで、良好な発色性と基材上での白抜けの少ない鮮明な画像品質、および、優れたエタノール耐性が得られ、さらに、安定した連続吐出性能の得た水性インクジェットイエローインキ、および前記水性インクジェットイエローインキを含有する水性インクジェットインキセットを提供することができた。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に、好ましい実施の形態を挙げて、本発明について説明する。
【0021】
本発明は、良好な発色性と基材上での白抜けの少ない鮮明な画像品質、および、優れたエタノール耐性が得られ、さらに、安定した連続吐出性能を有する水性インキを提供すべく鋭意検討を行った結果、C.I.Pigment Yellow14の顔料、および、酸価100以下、重量平均分子量が30000以下のバインダー樹脂を含み、かつ、インキの表面張力を20〜35mN/mに設定することで、前記問題点が解決されることを見出して本発明を成したものである。
【0022】
上記の酸価および分子量のバインダー樹脂を含むことで優れたエタノール耐性、連続吐出性が得られる理由は定かではないが、酸価が大きいとバインダー樹脂がエタノールに溶けやすいためにエタノール耐性が得られない、また、重量平均分子量が大きいと顔料分散を破壊し易く、そして連続吐出性が悪化すると考えている。
【0023】
上記した表面張力に設定することで、連続吐出性と基材上での白抜けの少ない鮮明な画像品質が得られる理由は定かではないが、次のようなことが考えられる。インクジェットインキの表面張力は20mN/m以上でないと吐出性が悪くなり、連続吐出性が著しく悪化してしまう。一方で35mN/mを超えるとドットが基材に対して広がり難くなり、印字品質が低下してしまう。したがって表面張力は20mN/m以上35mN/m以下である必要があると考えられる。
【0024】
以下に本発明の主要となる各成分について述べる。
【0025】
(C.I.Pigment Yellow14)
本発明において、インキに対するC.I.Pigment Yellow14の配合量は、発色性、吐出・印字特性などから決定される。前述の通り、本発明で使用されるC.I.Pigment Yellow14は、従来使用される顔料に比べ発色性が良好であり、その分配合量を抑えることができる。本発明のインキにおけるC.I.Pigment Yellow14の好適な配合量は、インキ全量に対し2〜5重量%である。2重量%未満では印刷濃度がやや劣り、また、5重量%を超えると連続吐出性が悪化する。
【0026】
本発明のイエローインキがインキセットとして使用される場合、前記インキセットは、前述のイエローインキに加え、マゼンタインキ、シアンインキを少なくとも含み、さらに、ブラックインキを含むことができる。
また、ライトシアンインキ、ライトマゼンタインキ、グレーインキ、ライトグレーインキといった画像粒状感を低減するための淡色インクも含むことができる。
【0027】
一方でC.I.Pigment Yellow74のような耐溶剤性の悪い顔料と疎水性の高い溶剤を含むことで、連続吐出性が悪化する。理由は定かではないが、疎水性溶剤中で耐溶剤性の悪い顔料が溶解と析出を繰り返し、顔料の分散破壊が生じると考えている。また、疎水性溶剤を使用しなくとも、インキ塗膜はエタノールで拭くことで塗膜が剥がれてしまう弊害が生じる。
【0028】
(その他顔料)
本発明では、印刷物、特に赤色領域における色再現性を向上させるため、特にマゼンタインキの構成成分として好適なものを選択することが好ましい。本発明で使用することができるマゼンタ顔料としては、例えば、C.I.Pigment Red5、7、12、
22、23、31、48(Ca)、48(Mn)、49、52、53、57(Ca)、57:1、112、122;キナクリドン固溶体、146、147、150、238、269、C.I.Pigment Violet 19等が挙げられる。本発明では、インキセットとして前記イエローインキとともに使用した際、赤色領域の色再現性に優れる点から、C.I.Pigment Red147、150、269が好ましく、C.I.Pig
ment Red150が特に好ましく用いられる。また、前記イエローインキとともに
使用することで赤色領域の色再現性を保ちつつ青色領域の色再現性に優れる顔料としては、C.I.Pigment Red122、C.I.Pigment Violet 19
が好ましく、C.I.Pigment Red122が特に好ましく用いられる。
【0029】
前記マゼンタ顔料の、インキ中全量に対する配合量は、着色力、吐出・印字特性の点などから、3〜6重量%が好ましい。配合量が3重量%以上だと、印刷時の発色性や色再現性が十分に発揮しやすい。6重量%以下であれば、連続吐出性が良好となる。
【0030】
本発明で使用することができるシアンの顔料としては、例えば、C.I.Pigment Blue15:3、15:4、16、22、C.I.Vat Blue 4、6等が挙
げられる。これらの顔料の中でも、C.I.Pigment Blue15:3、15:
4を含んでなることが好ましい。
【0031】
前記シアン顔料の、インキ中全量に対する配合量は、着色力、吐出・印字特性の点などから、2.5〜6重量%が好ましい。配合量が2.5重量%以上だと、印刷時の発色性や色再現性が十分に発揮しやすい。6重量%以下であれば、連続吐出性が良好となる。
【0032】
本発明で使用することができるブラックの顔料としては、ファーネス法、チャネル法で製造されたカーボンブラックが挙げられる。例えば、これらのカーボンブラックであって、一次粒子径が11〜40mμm(nm)、BET法による比表面積が50〜400m2
/g、揮発分が0.5〜10重量%、pH値が2乃至10等の特性を有するものが好適である。このような特性を有する市販品としては下記のものが挙げられる。例えば、No.33、40、45、52、900、2200B、2300、MA7、MA8、MCF88(以上、三菱化学製)、RAVEN1255(コロンビア製)、REGAL330R、400R、660R、MOGUL L(以上、キャボット製)、Nipex 160IQ、Nipex 170IQ、Nipex 75、Printex 85、Printex 95、Printex 90、Printex 35、Printex U(以上、デグサ製)等
があり、何れも好ましく使用することができる。
【0033】
(バインダー樹脂)
バインダー樹脂としては、樹脂中に疎水性成分と親水性成分をあるバランスで有するものを設計して用いる。この際、親水性成分としてはイオン性のものであり、更に好ましくはアニオン性のものである。特に、アニオン性のものを揮発可能な塩基成分で中和することで水溶性を付与したものが好ましい。そして、本発明のバインダー樹脂は、酸性基としてカルボキシル基またはスルホン酸基を有しており、且つ酸価が100以下の樹脂である。酸価としては、50以下のものを特に好ましく用いることができる。酸価が100を超えるとバインダー樹脂がエタノールに溶解しやすくなるため、十分なエタノール耐性が得られない。また、顔料の分散を破壊しやすく、連続吐出性も悪化する。
【0034】
酸価とは樹脂1g中に含まれる酸性成分を中和するのに要する水酸化カリウムのミリグラム数である。
【0035】
このような樹脂としては、アクリル系、スチレン−アクリル系、アクリロニトリル−アクリル系、酢酸ビニル−アクリル系、ポリウレタン系、ポリエステル系の各樹脂を挙げることができる。
【0036】
バインダー樹脂の疎水性成分となる疎水性モノマーとしては、アクリル酸エステル(アクリル酸n−ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸2−ヒドロキシエチル等)、メタクリル酸エステル(メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸グリシジル等)、スチレン等が挙げられる。
【0037】
バインダー樹脂の親水性成分となる親水性モノマーとしては、アクリル酸、メタクリル酸、アクリルアミド等が挙げられ、アクリル酸のような酸性基を有するものは、重合後に塩基で中和したものを好ましく用いることができる。
【0038】
バインダー樹脂の分子量としては、重量平均分子量で30000以下が好ましい。重量平均分子量が30000を超えると連続吐出性が悪化する。
【0039】
本発明における樹脂の重量平均分子量は常法によって測定することができる。本発明における樹脂の重量平均分子量の測定方法は下記の通りであり、重量平均分子量は、TSKgelカラム(東ソー社製)を用い、RI検出器を装備したGPC(東ソー社製、HLC−8120GPC)で、展開溶媒にTHFを用いて測定したポリスチレン換算の重量平均分子量である。
【0040】
バインダー樹脂の酸性モノマー由来の酸性基は部分的、あるいは完全に塩基成分で中和することが好ましい。この場合の中和塩基としては、アルカリ金属含有塩基、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等や、アミン類(アンモニア、アルカノールアミン、アルキルアミン等を用いることができる)を用いることができる。特に、沸点が200℃未満のアミン類で中和することは、画像耐久性向上の観点から特に好ましい。
【0041】
バインダー樹脂の添加量としては、本発明の目的を得るためには、0.1〜15重量%の量で用いることが好ましく、1〜10重量%で用いることがより好ましい。
【0042】
0.1重量%未満では十分な耐性が得られない。また、連続吐出性は10重量%以下が最適であり、15重量%より多く添加すると連続吐出性が悪化する。
【0043】
(水溶性溶剤)
本発明に使用する有機溶剤は、水と親和性のあるものが好ましい。特に、アルカンジオール系溶剤やグリコールエーテル系溶剤が好ましい。
【0044】
これらの化合物としては、1,2−ヘキサンジオール、1,2−ペンタンジオール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、3−メチル−1,3−ブタンジオール、3−メトキシ−1―ブタノール、3−メトキシ−3−メチルブタノール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、エチレングリコール、グリセリン、エチレングリコール−2−エチルヘキシルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノヘキシルエーテル、ジプロピレングリコールモノプロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールメチルブチルエーテル、トリエチレングリコールメチルブチルエーテル、トリプロピレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノペンチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールモノプロピルエーテル、テトラエチレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、トリエチレングリコールジエチルエーテル、テトラエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールメチルエチルエーテル、トリエチレングリコールメチルエチルエーテル、テトラエチレングリコールメチルエチルエーテル、テトラエチレングリコールブチルメチルエーテル、プロピレングリコールジメチルエーテル等が挙げられる。中でも、炭素数3〜6のアルカンジオール、炭素数6〜8のジエチレングリコールモノアルキルエーテルが好ましく、より好ましくはジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、1,2−ブタンジオール、1,2−ヘキサンジオールである。これらの水溶性溶剤は顔料の分散破壊が小さく、かつ、紙上への濡れ性に優れ、好ましく用いることができる。
【0045】
水溶性溶剤のインキ中における含有量は、一般的には、インキの全質量の2〜60重量%の範囲であり、より好ましくは2〜50重量%の範囲である。
【0046】
(界面活性剤)
本発明のインクジェット記録用インキは、表面張力を調整し低吸収基材上の濡れ性を確保する目的で界面活性剤を使用することができる。界面活性剤としては、アセチレン系、シリコン系、アクリル系、フッ素系など用途に合わせて様々なものが知られているが、インキの表面張力を20mN/m以上確保し、高速印刷時に優れた連続吐出性を得るという観点からアセチレン系やアクリル系、シリコン系の界面活性剤を使用することが特に好ましい。フッ素系の界面活性剤を使用した場合は上記した測定方法で算出される表面張力が低下しやすく、高速で印刷した際に連続吐出安定性が損なう可能性がある。一方で、表面張力が35mN/mを超えると、基材への濡れ性が悪くて白スジが発生し、鮮明な画像品質が得られない。界面活性剤の含有量は、インキの全重量に対して、0.05〜5重量%が好ましい。5重量%を超えるとインキの表面張力が低下し高速印刷した際の連続吐出安定性が悪化する。
【0047】
(分散剤)
これらの顔料を使用する場合には長期間のインキの保存安定性を維持するためにも、インキ媒体中に分散して使用することが好ましい。顔料の分散方法としては、顔料を酸化処理等により表面改質し、分散剤なしで顔料を分散させる方法や、界面活性剤や樹脂を分散剤として顔料を分散させる方法がある。より安定なインキとするためにも分散樹脂を使用して顔料を分散させることが好ましい。
【0048】
顔料分散樹脂としてはアクリル樹脂、スチレンアクリル樹脂、マレイン酸樹脂、スチレンマレイン酸樹脂、αオレフィンマレイン酸樹脂、ウレタン樹脂、エステル樹脂等が挙げられる。顔料分散体を安定化させるという観点から、アクリル樹脂、スチレンアクリル樹脂を使用することが好ましい。
【0049】
顔料分散樹脂の重量平均分子量は5000〜100000であることが好ましい。重量平均分子量5000以下では分散安定性が低下する場合があり、重量平均分子量100000以上では吐出に影響が出る場合がある。より好ましくは重量平均分子量10000〜50000であり、更に好ましくは重量平均分子量15000〜30000である。
【0050】
顔料と顔料分散樹脂の比率は1/1〜100/1であることが好ましい。顔料分散樹脂の比率が1/1よりも大きいとインキの粘度が高くなる傾向が見られる。また、100/1よりも小さいと分散性が低下し、安定性が低下する場合がある。顔料と顔料分散樹脂の比率としてより好ましくは2/1〜50/1、更に好ましくは2/1〜20/1である。
【0051】
(水)
水としては、種々のイオンを含有する一般の水ではなく、イオン交換水(脱イオン水)を使用するのが好ましい。水のインキ中における含有量は、一般的には、インキの全質量の10〜90重量%の範囲であり、より好ましくは30〜80重量%の範囲である。
【0052】
(その他の成分)
また、本発明のインキは、上記の成分の他に、必要に応じて所望の物性値を持つインキとするために、消泡剤、防腐剤等の添加剤を適宜に添加することができる。これらの添加剤の添加量の例としては、インキの全重量に対して、0.01〜10重量%が好適である。
【0053】
(インキの調製方法)
上記したような成分からなる本発明のインキの調製方法としては、下記のような方法が挙げられるが、本発明は、これらに限定されるものではない。まず初めに、顔料分散剤と、水とが少なくとも混合された水性媒体に顔料を添加し、混合撹拌した後、後述の分散手段を用いて分散処理を行い、必要に応じて遠心分離処理を行って所望の顔料分散液を得る。次に、必要に応じてこの顔料分散液に、水溶性有機溶剤、或いは、上記で挙げたような適宜に選択された添加剤成分を加え、撹拌、必要に応じて濾過して本発明のインキとする。
【0054】
本発明のインキは、インクジェット記録用であるので、顔料としては、最適な粒度分布を有するものを用いることが好ましい。即ち、顔料粒子を含有するインキをインクジェット記録方法に好適に使用できるようにするためには、ノズルの耐目詰り性等の要請から、最適な粒度分布を有する顔料を用いることが好ましい。所望の粒度分布を有する顔料を得る方法としては、下記の方法が挙げられる。先に挙げたような分散機の粉砕メディアのサイズを小さくすること、粉砕メディアの充填率を大きくすること、処理時間を長くすること、粉砕後フィルタや遠心分離機等で分級すること、及びこれらの手法の組み合わせ等の手法がある。
【0055】
(記録方法)
本発明のインクジェット記録用インキを印刷する方法としては、印刷基材を加熱しながら印刷する、または印刷した後に印刷物表面を加熱することが好ましい。加熱する際の基材の表面温度は、40〜90℃が好ましく、さらに好ましくは50〜70℃の範囲である。
【実施例】
【0056】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明を更に具体的に説明する。尚、以下の記載において、「部」及び「%」とあるものは特に断らない限りそれぞれ「重量部」、「重量%」を表す。
【0057】
(顔料分散樹脂の製造例)
ガス導入管、温度計、コンデンサー、攪拌機を備えた反応容器に、ブタノール93.4部を仕込み、窒素ガスで置換した。反応容器内を110℃に加熱し、重合モノマーであるラウリルメタクリレート30部、スチレン40部、アクリル酸30部、および重合開始剤であるV−601(和光純薬製)6部の混合物を2時間かけて滴下し、重合反応を行った。滴下終了後、さらに110℃で3時間反応させた後、V−601(和光純薬製)0.6部を添加し、さらに110℃で1時間反応を続けて、分散樹脂Aの溶液を得た。さらに、室温まで冷却した後、ジメチルアミノエタノール37.1部添加し中和し、水を100部添加し、水性化した。その後、100℃以上に加熱し、ブタノールを水と共沸させてブタノールを留去し、固形分が50%になるように調整した。これより、顔料分散樹脂1の固形分50%の水性化溶液を得た。
【0058】
(顔料分散液の製造)
顔料を20部、顔料分散樹脂の水溶液を42.9部、水37.1部をマヨネーズ瓶に仕込み、ディスパーで予備分散した後、分散メディアとして直径0.5mmのジルコニアビーズ1800gを充填した容積0.6Lのダイノーミルを用いて2時間本分散を行い、分散液を得た。
【0059】
(バインダー樹脂の製造例)
使用した単量体、量がラウリルメタクリレート40部、スチレン45部、アクリル酸15部であること以外は顔料分散樹脂1と同様に合成、中和を行い、バインダー樹脂を得た。
各バインダー樹脂の酸価、分子量はアクリル酸、V−601の量で調整した。
【0060】
(印刷物の製造例)
25℃の環境下でピエゾ素子を有するインクジェットヘッドを搭載したインクジェットプリンターに得られたインキを充填し、コート紙(王子製紙(株)製OKトップコートN、坪量104.7g/m2)上にカラーチャート画像(X−rite製ProfileMaker用チャート画像「TC3.5 CMYK i1_iO」)を印刷し、評価用印刷物を作成した。
【0061】
(実施例1〜17、比較例1〜9)
表1、2に記載の顔料を上記(顔料分散液の製造)の通りに分散液を作成し、表1、2に記載の通りの原料をディスパーにて撹拌を行いながら混合し、十分に均一になるまで攪拌した後、1μmおよび0.45μmのメンブランフィルターで濾過を行い、ヘッドつまりの原因となる粗大粒子を除去しインキを調製した。その後、上記(印刷物の製造例)の通りに印刷し、印刷物を得た。
【0062】
(実施例18〜26、比較例10〜12)
表3に記載のイエロー顔料、マゼンタ顔料、シアン顔料を上記(顔料分散液の製造)の通りに分散液を作成し、表2に記載の通りの原料をディスパーにて撹拌を行いながら混合し、十分に均一になるまで攪拌した後、1μmおよび0.45μmのメンブランフィルターで濾過を行い、ヘッドつまりの原因となる粗大粒子を除去しインキを調製した。その後、上記(印刷物の製造例)の通りに印刷し、印刷物を得た。
【0063】
上記実施例1〜26、比較例1〜12で得られたインキの評価方法について下記に示す。
【0064】
(評価1:印刷物の濃度)
得られた評価用印刷物の印字率100%の各色のベタ印刷部を、濃度計(X−rite製X−rite938)を用いて、濃度(光学濃度)を測定し評価した。評価基準は下記の通りであり、◎、○評価が実用可能領域である。
◎:比較例7の印刷濃度よりも高い(1.1以上)
○:比較例7の印刷濃度と同等(1.0)
×:比較例7の印刷濃度よりも低い(1.0未満)
【0065】
(評価2:ベタ埋まり)
コート紙上に得られた評価用印刷物の印字率100%の画像部において、目視で、色ムラ、白スジを評価した。評価基準は下記の通りであり、◎、○、△評価が実用可能領域である。
◎:色ムラ、白スジがない
○:白スジがないが、若干の色ムラがある。
△:色ムラと白スジが若干ある。
×:スジが多数ある。
【0066】
(評価3:連続吐出性)
25℃の環境下でピエゾ素子を有するインクジェットヘッドを搭載したインクジェットプリンターに実施例1〜17、比較例1〜9で得られたインキを充填し、コート紙(王子製紙(株)製OKトップコートN、坪量104.7g/m2)上に印字率100%のベタ印字を連続で行った後にノズルチェックパターンを印字してノズル抜けの有無を確認し評価を行った。評価基準は下記の通りであり、◎、○、△評価が実用可能領域である。
◎:1時間以上印字を行ってもノズル抜け無し
○:10分以上1時間未満印字を行ってもノズル抜け無し
△:1分以上10分未満印字を行ってもノズル抜け無し
×:1分未満でノズル抜けが発生
【0067】
(評価4:エタノール耐性)
得られた評価用印刷物の印字率100%の各色のベタ印刷部に、エタノールで濡らした綿棒で5往復擦り評価を行った。評価基準は下記の通りであり、◎、○、△評価が実用可能領域である。
◎:全く塗膜が剥がれない
○:若干塗膜が剥がれる
△:1/3程度塗膜が剥がれる
×:ほとんど塗膜が剥がれる
【0068】
(印刷物の色再現性)
実施例18〜26、比較例10〜12で得られた評価用印刷物のカラーチャート部を、分光光度計(X−rite製i1 Pro)を用いて測色し、L*a*b*色空間における色再現領域をプロットし評価した。但し、測定条件は、光源D50、2度視野、測定光学45°/0°で行った。枚用印刷用ジャパンカラー2007によって定められている、L*a*b*色空間における色再現領域と比較し、評価を行った。評価基準は下記の通りであり、◎、○評価が実用可能領域である。
◎:ジャパンカラー2007の赤色再現領域、または、青色再現領域を大きく超える。
○:ジャパンカラー2007の赤色再現領域、または、青色再現領域をやや超える。
×:ジャパンカラー2007の赤色再現領域、および、青色再現領域と同等。
【0069】
(印刷物の濃度)
実施例18〜26、比較例10〜12で得られた評価用印刷物の印字率100%の各色のベタ印刷部を、分光光度計(X−rite製i1 Pro)を用いて、濃度(光学濃度)を測定し評価した。評価基準は下記の通りであり、◎、○評価が実用可能領域である。◎:ジャパンカラー2007の濃度(C/M/Y=1.50/1.47/1.04)よりも高い。
○:ジャパンカラー2007の濃度(C/M/Y=1.50/1.47/1.04)と同等。
×:ジャパンカラー2007の濃度(C/M/Y=1.50/1.47/1.04)より低い。
【0070】
結果を表1〜3に示す。
【0071】
【表1】
【0072】
【表2】
【0073】
【表3】
【0074】
実施例1〜17の組成を有するインキは比較例1〜9のインキと異なり、良好な発色性と基材上での白抜けの少ない鮮明な画像品質、および、優れたエタノール耐性が得られ、さらに、安定した連続吐出性能の得ることが示されている。
一方で、実施例18〜26の組成を有するインキセットは比較例10〜12のインキと異なり、優れた色再現性と印刷濃度を得ることが示されている。