(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
成形金型内に形成した略円環状のキャビティの周縁部に設けられた複数の樹脂射出ゲートから、溶解樹脂を前記キャビティ内に射出することによって成形される軸受用保持器の製造方法であって、
前記軸受用保持器は、
略円環状の基部と、
前記基部の軸方向側面から、周方向に所定の間隔で軸方向に突出する複数且つ偶数個の柱部と、
隣り合う一対の前記柱部の互いに対向する面と前記基部の軸方向側面とによって形成された、前記柱部と同数のポケットと、
を有し、
複数の前記柱部のうち、半数の前記柱部には、それぞれ前記樹脂射出ゲートが設けられ、
前記樹脂射出ゲートが設けられる前記柱部と、前記樹脂射出ゲートが設けられない前記柱部と、が周方向に交互に配置され、
複数の前記樹脂射出ゲートのうち、1個の前記樹脂射出ゲートの断面積が、他の前記樹脂射出ゲートの断面積よりも大きく、
前記樹脂射出ゲートが設けられない複数の前記柱部のうち、他の前記樹脂射出ゲートよりも断面積が大きい前記樹脂射出ゲートが設けられた前記柱部と径方向に対向する前記柱部に、又は当該対向する前記柱部の近傍の前記柱部に、前記溶解樹脂を貯留可能な樹脂溜りが設けられており、
前記柱部と連通する前記樹脂溜りの連通部の断面積は、複数の前記樹脂射出ゲートの断面積のうち最小であるものよりも小さい
軸受用保持器の製造方法。
【背景技術】
【0002】
一般的に、軸受用保持器は、射出成形により製造される。具体的には、
図11に示すように、成形金型内に成形体である軸受用保持器に対応する環状のキャビティ140を形成し、このキャビティ140の周縁部に設けた樹脂射出ゲート150から溶解された樹脂材料(熱可塑性樹脂)を注入し、冷却固化することによって製造される。
【0003】
キャビティ140に注入された溶解樹脂は、キャビティ140内を周方向両側に二つの流れとなって流動し、樹脂射出ゲート150と径方向に対向する反対側の位置で再び合流し、相互に接合され、ウェルド100Wが形成される。一般に、この様に射出成形された軸受用樹脂製保持器は、溶解樹脂が融着一体化しただけのものであるため、溶解樹脂の均一な混合が起こらず、ウェルド100Wにおいて強度が低下することがよく知られている。
【0004】
また、溶解樹脂に、強化材料としてガラス繊維、炭素繊維、金属繊維等の補強繊維材を添加したものでは、ウェルド100Wにおいて補強繊維材が溶解樹脂の流動方向に対し垂直に配向するため、補強効果が発現しない。さらに、ウェルド100W以外の部分では、補強繊維材が溶解樹脂の流動方向に対し平行に配向するため、当該部分とウェルドとの強度差が大きくなってしまう。
【0005】
このように、射出成形により製造された軸受用樹脂製保持器は、強度が弱いウェルドから破損することが多い。特に、ウェルドが、最も応力集中し易い部位(例えば、ポケットにおいて最も軸方向の肉厚が薄い底部や、円環部と柱部とが交差する隅部のR部)に形成されると、当該部位に損傷が発生し易くなり、保持器の耐久性が損なわれてしまう。そこで、従来より、以下に示すような対策がなされてきた。
【0006】
特許文献1の合成樹脂製保持器の製造方法では、成型金型のキャビティの円周方向複数個所にそれぞれゲートが設けられる。また、これらゲート間の複数の領域のうち、一部の領域の円周方向距離が他の領域の円周方向距離より長い。そして、円周方向距離が長い領域内において、注入樹脂材料の合流個所に樹脂溜めが設けられる。これにより、合流した注入樹脂材料を、キャビティから樹脂溜めに流れ込ませ、ウェルド強度の低下を防止することを図っている。
【0007】
特許文献2の樹脂製保持器では、ポケットの総数が奇数とされると共に、ゲート間ごとに配置されるポケットの数が最も均等になる数とされている。樹脂溜めは、ポケットが奇数となるゲート間において周方向中央に位置するポケットの両側の柱部のうち、いずれか一方に位置する。これにより、ポケットが奇数となるゲート間の領域に形成されるウェルドを、ポケットの底部から周方向に外れた位置に形成し、保持器の剛性を向上することを図っている。
【0008】
特許文献3の軸受用樹脂製保持器の製造方法では、キャビティの周縁部には、キャビティ内にウェルド部が形成される前に溶解樹脂が流入する少なくとも1つの第1樹脂溜まり部と、キャビティ内にウェルド部が形成された後に溶解樹脂が流入する少なくとも1つの第2樹脂溜まり部と、が設けられる。これにより、第1樹脂溜まり部を設ける位置を適切に設定することによって、ウェルド部の発生位置を制御し、軸受用樹脂製保持器の十分な強度を必要とする部分においてウェルド部の形成を抑制することを図っている。また、ウェルド部が形成された後に溶解樹脂が流入する第2樹脂溜まり部によって、ウェルド部における強化繊維の配向を乱し、ウェルド部の強度を向上することを図っている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、特許文献1記載の製造方法では、注入樹脂材料の合流箇所、すなわちウェルド形成位置と一致する位置に樹脂溜めが設けられている。したがって、キャビティと連通する樹脂溜めの連通部(開口部)近傍で、補強繊維材が樹脂材料の流動方向に対して垂直に配向し易く、ウェルド補強効果が十分に得られない。
【0011】
特許文献2記載の樹脂製保持器では、樹脂溜めが設けられていない、ポケットが偶数となるゲート間の領域では、柱部に溶解樹脂が溶着一体化しただけであるウェルドが形成されてしまうため、使用条件によってはウェルド強度が不十分になる可能性がある。
【0012】
特許文献3記載の軸受用樹脂製保持器の製造方法では、各樹脂射出ゲートの間の領域に、第1及び第2樹脂溜まり部を設けているので、溶解樹脂の材料コストが高くなる。
【0013】
本発明は、上述した課題を鑑みてなされたものであり、その目的は、強度低下を抑制可能な軸受用保持器の製造方法
、及び軸受用保持器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の上記目的は、下記の構成により達成される。
(1) 成形金型内に形成した略円環状のキャビティの周縁部に設けられた複数の樹脂射出ゲートから、溶解樹脂を前記キャビティ内に射出することによって成形される軸受用保持器の製造方法であって、
前記軸受用保持器は、
略円環状の基部と、
前記基部の軸方向側面から、周方向に所定の間隔で軸方向に突出する複数且つ偶数個の柱部と、
隣り合う一対の前記柱部の互いに対向する面と前記基部の軸方向側面とによって形成された、前記柱部と同数のポケットと、
を有し、
複数の前記柱部のうち、半数の前記柱部には、それぞれ前記樹脂射出ゲートが設けられ、
前記樹脂射出ゲートが設けられる前記柱部と、前記樹脂射出ゲートが設けられない前記柱部と、が周方向に交互に配置され、
複数の前記樹脂射出ゲートのうち、1個の前記樹脂射出ゲートの断面積が、他の前記樹脂射出ゲートの断面積よりも大きく、
前記樹脂射出ゲートが設けられない複数の前記柱部のうち、他の前記樹脂射出ゲートよりも断面積が大きい前記樹脂射出ゲートが設けられた前記柱部と径方向に対向する前記柱部に、又は当該対向する前記柱部の近傍の前記柱部に、前記溶解樹脂を貯留可能な樹脂溜りが設けられており、
前記柱部と連通する前記樹脂溜りの連通部の断面積は、複数の前記樹脂射出ゲートの断面積のうち最小であるものよりも小さい
軸受用保持器の製造方法。
(2) 複数の前記樹脂射出ゲートのうち、1個の前記樹脂射出ゲートの断面積が他の前記樹脂射出ゲートの断面積よりも大きく、
当該他の前記樹脂射出ゲートは、断面積が大きいものと断面積が小さいものとが、周方向に交互に配置される
(1)に記載の軸受用保持器の製造方法。
(3) 略円環状の基部と、
前記基部の軸方向側面から、周方向に所定の間隔で軸方向に突出する複数且つ偶数個の柱部と、
隣り合う一対の前記柱部の互いに対向する面と前記基部の軸方向側面とによって形成された、前記柱部と同数のポケットと、を有する軸受用保持器であって、
複数の前記柱部のうち、半数の前記柱部には、それぞれ第1の樹脂切断跡が設けられ、
前記第1の樹脂切断跡が設けられる前記柱部と、前記第1の樹脂切断跡が設けられない前記柱部と、が周方向に交互に配置され、
複数の前記第1の樹脂切断跡のうち、1個の前記第1の樹脂切断跡の断面積が、他の前記第1の樹脂切断跡の断面積よりも大きく、
前記第1の樹脂切断跡が設けられない複数の前記柱部のうち、他の前記第1の樹脂切断跡よりも断面積が大きい前記第1の樹脂切断跡が設けられた前記柱部と径方向に対向する前記柱部に、又は当該対向する前記柱部の近傍の前記柱部に、第2の樹脂切断跡が設けられており、
前記第2の樹脂切断跡の断面積は、複数の前記第1の樹脂切断跡の断面積のうち最小であるものよりも小さい軸受用保持器。
(4) 複数の前記第1の樹脂切断跡のうち、1個の前記第1の樹脂切断跡の断面積が他の前記第1の樹脂切断跡の断面積よりも大きく、
当該他の前記第1の樹脂切断跡は、断面積が大きいものと断面積が小さいものとが、周方向に交互に配置される(3)に記載の軸受用保持器。
【発明の効果】
【0015】
本発明の軸受用保持器の製造方法によれば、キャビティ内に圧力勾配が生じ、圧力が高い断面積が大きい樹脂射出ゲートから、圧力の低い樹脂溜りに向かって、溶解樹脂の流動が起きる。この溶解樹脂の流動により、溶解樹脂の合流時にいったん流動方向(周方向)に対し垂直(径方向)に配向していた補強繊維材の配向が制御されて周方向を向く。したがって、ウェルドの強度が向上する。これにより、保持器の強度低下を抑制することが可能となる。
また、本発明の軸受保持器には、製造時に設けられた樹脂射出ゲートに対応する第1の樹脂切断跡、及び製造時に設けられた樹脂溜りに対応する第2の樹脂切断跡が形成される。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明に係る軸受用保持器の製造方法
、及び軸受用保持器の各実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
【0018】
(第1実施形態)
図1には、本実施形態の軸受用保持器1(以後、単に保持器と呼ぶことがある。)が示されている。保持器1は、いわゆる冠形保持器であり、略円環状の基部10と、基部10の軸方向側面12から、周方向に所定間隔で軸方向に突出する複数且つ偶数個(本実施形態では14個)の柱部20と、隣り合う一対の柱部20、20の互いに対向する面22、22と基部10の軸方向側面12とによって形成され、軸受の転動体(不図示)を保持する複数且つ偶数個(本実施形態では14個)のポケット30と、を有している。すなわち、柱部20とポケット30は同数であると共に複数且つ偶数個形成されており、柱部20はそれぞれのポケット30の周方向両側に設けられる。
【0019】
このような保持器1の製造方法は、多点ゲート方式の射出成形が採用される。具体的には、保持器1は、成形金型内に形成した環状のキャビティ(不図示)の外周側周縁部に設けた複数の樹脂射出ゲート(以下、単にゲートと呼ぶ。)51から、補強繊維材を添加した溶解樹脂をキャビティ内に射出し、冷却固化することによって成形される。樹脂材料としては、例えば、46ナイロンや66ナイロンなどのポリアミド系樹脂、ポリブチレンテレフタレート、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエーテルニトリル(PEN)等の樹脂に、10〜50wt%の補強繊維材(例えば、ガラス繊維や炭素繊維。)を添加した樹脂組成物が用いられる。なお、
図1中、キャビティは不図示であるが、その内部構造は保持器1の構造と略同一とされている。
【0020】
各ゲート51には、それぞれ径方向に延びる略円筒状のランナー53を介して、略円筒状のスプルー55から溶解樹脂が供給される。スプルー55は、保持器1(キャビティ)の略中心において軸方向に延びており、ランナー53と接続される。したがって、スプルー55から供給された溶解樹脂は、各ランナー53を介して各ゲート51に到達し、各ゲート51から同時にキャビティ内に流入する。
【0021】
複数の柱部20のうち、半数(本実施形態では7個)の柱部20には、それぞれゲート51
(第1の樹脂切断跡に対応)が設けられる。各ゲート51は柱部20(キャビティ)の内周面の周方向中央部に連通している。ゲート51が設けられる柱部20と、ゲート51が設けられない柱部20と、は周方向に交互に配置される。このように、多数のゲート51を等間隔に配置することにより、保持器1の真円度崩れを抑制し、軸受の高精度な回転が実現される。ここで、複数(7個)のゲート51のうち、1個のゲート51(以下、大径ゲート51aと表すことがある。)の断面積が、他のゲート51(以下、小径ゲート51bと表すことがある。)の断面積よりも大きい。
【0022】
ゲート51が設けられない複数の柱部20のうち、大径ゲート51aが設けられた柱部20と径方向に対向する柱部20には、溶解樹脂を貯留可能な樹脂溜り40
(第2の樹脂切断跡に対応)が設けられている。樹脂溜り40は柱部20(キャビティ)の外周面の周方向中央部に連通している。
【0023】
このような構成において、ゲート51からキャビティ内に射出され、ゲート51の周方向両側に流動した溶解樹脂は、隣り合うゲート51の間において合流する。具体的に、小径ゲート51b同士の間においては、当該小径ゲート51b同士の周方向中間位置で溶解樹脂が合流し、柱部20の周方向中間部にウェルドWが形成される。一方、大径ゲート51aと小径ゲート51bとの間においては、これらの周方向中間位置よりも小径ゲート51b側にずれた位置で溶解樹脂が合流し、柱部20の周方向中間部よりも小径ゲート51b側にずれた位置にウェルドWが形成される。これは、溶解樹脂の大径ゲート51aからの流入量が、小径ゲート51bからの流入量よりも多いからである。
【0024】
図9及び10を用いて後に詳述するが、ゲート51からキャビティ内に注入された溶解樹脂が合流する前の状態(
図9参照)では、キャビティ内の圧力は低い状態である。一方、溶解樹脂が合流した後の状態(
図10参照)では、溶解樹脂の大径ゲート51aからの流入量が小径ゲート51bからの流入量よりも多いため、大径ゲート51a近傍ではキャビティ内の圧力が他の部位よりも高くなる。また、樹脂溜り40には、溶解樹脂が合流した後も溶解樹脂が充填されない領域が残存しており、樹脂溜り40の内部圧力は他の部位よりも低くなる。したがって、キャビティ内の圧力は、大径ゲート51aから樹脂溜り40に向かうにしたがって略円環状に低くなる。このように、キャビティ内に圧力勾配が生じ、圧力の高い大径ゲート51aから、圧力の低い樹脂溜り40に向かって、溶解樹脂の流動が起きる。この溶解樹脂の流動により、溶解樹脂の合流時にいったん流動方向(周方向)に対し垂直(径方向)に配向していた補強繊維材の配向が制御され、ウェルドWの強度が向上する。これにより、保持器1の強度低下を抑制することが可能となる。また、特許文献3の製造方法と異なり、樹脂溜り40が1個のみであるので、溶解樹脂の材料コストを削減することができる。
【0025】
ここで、柱部20と連通し、キャビティへの開口部である樹脂溜り40の連通部42の断面積は、複数のゲート51の断面積のうち最小であるもの(本実施形態では小径ゲート51bの断面積)よりも小さい。これによれば、溶解樹脂が合流してウェルドWが形成された後で樹脂溜り40への溶解樹脂の流入が始まるので、ウェルドWにおける強制的な樹脂の流動によって補強繊維材の配向を制御する効果をより確実に発現することができる。
【0026】
(第2実施形態)
次に、本発明に係る第2実施形態の軸受用保持器の製造方法について図面を参照して説明する。
【0027】
図2に示すように、本実施形態は、複数(7個)のゲート51のうち、1個のゲート51(以下、大径ゲート51aと表すことがある。)の断面積が、他のゲート51の断面積よりも大きい点で第1実施形態と同様である。一方、他のゲート51は、断面積が大きいもの(以下、中径ゲート51cと表すことがある。)と断面積が小さいもの(以下、小径ゲート51dと表すことがある。)とが、周方向に交互に配置される点で、第1実施形態と相違する。
【0028】
このような構成において、ゲート51からキャビティ内に射出され、ゲート51の周方向両側に流動した溶解樹脂は、隣り合うゲート51の間において合流する。ここで、隣り合うゲート51の周方向中間位置よりも、断面積が小さいゲート51側にずれた位置で溶解樹脂が合流し、当該合流位置にウェルドWが形成される。
【0029】
具体的には、大径ゲート51aと小径ゲート51dとの間においては、これらの周方向中間位置よりも小径ゲート51d側にずれた位置で溶解樹脂が合流し、小径ゲート51d側のポケット30にウェルドWが形成される。小径ゲート51dと中径ゲート51cとの間においては、これらの周方向中間位置よりも小径ゲート51d側にずれた位置で溶解樹脂が合流し、柱部20の周方向中間部よりも小径ゲート51b側にずれた位置にウェルドWが形成される。中径ゲート51cと大径ゲート51aとの間においては、これらの周方向中間位置よりも中径ゲート51c側にずれた位置で溶解樹脂が合流し、柱部20の周方向中間部よりも中径ゲート51c側にずれた位置にウェルドWが形成される。
【0030】
この構成によれば、第1実施形態と同様に、キャビティ内の圧力は、大径ゲート51aから樹脂溜り40に向かうにしたがって低くなる。このように、キャビティ内に圧力勾配が生じ、圧力の高い大径ゲート51aから、圧力の低い樹脂溜り40に向かって、溶解樹脂の流動が起きる。この溶解樹脂の流動により、溶解樹脂の合流時にいったん流動方向(周方向)に対し垂直(径方向)に配向していた補強繊維材の配向が制御され、ウェルドWの強度が向上する。これにより、保持器1の強度低下を抑制することが可能となる。
【0031】
さらに本実施形態では、一部のウェルドWにおいて、樹脂溜り40に向かって流路断面積が拡大する方向に溶解樹脂の強制的な流動が発生する。したがって、ウェルドWにおける繊維配向の乱れた領域が、断面積の広い部分に移動するため、ウェルドWの強度をより向上させる効果を有する。その他の構成は、上記実施形態と同様であり、上記実施形態と同様の効果を奏することが可能である。
【0032】
(第3実施形態)
次に、本発明に係る第3実施形態の軸受用保持器の製造方法について図面を参照して説明する。
【0033】
図3に示すように、本実施形態では、柱部20の内周面に樹脂溜り40が設けられる点で、第2実施形態と相違する。その他の構成は、第2実施形態と同様であり、第2実施形態と同様の効果を奏することが可能である。
【0034】
(第4実施形態)
次に、本発明に係る第4実施形態の軸受用保持器の製造方法について図面を参照して説明する。
【0035】
図4に示すように、ゲート51が設けられない複数の柱部20のうち、他のゲート51(中径ゲート51c及び小径ゲート51d)よりも断面積が大きい大径ゲート51aが設けられた柱部20と径方向に対向する柱部20の近傍の柱部20に、溶解樹脂を貯留可能な樹脂溜り40が設けられている。このような構成によっても、第2及び第3実施形態と同様の効果を奏することが可能である。なお、本実施形態において、柱部20の内周面に樹脂溜り40を設けても構わない。
【0036】
(第5実施形態)
次に、本発明に係る第5実施形態の軸受用保持器の製造方法について図面を参照して説明する。
【0037】
図5に示すように、本実施形態では、柱部20及びポケット30の個数が12個である。12個の柱部20のうち、半数である6個の柱部20には、それぞれゲート51が設けられる。ゲート51が設けられる柱部20と、ゲート51が設けられない柱部20と、は周方向に交互に配置される。6個のゲート51のうち、1個のゲート51(大径ゲート51a)の断面積は、他のゲート51の断面積よりも大きい。他のゲート51は、断面積が大きいもの(中径ゲート51c)と断面積が小さいもの(小径ゲート51d)とが、周方向に交互に配置される。また、ゲート51が設けられない複数の柱部20のうち、大径ゲート51aが設けられた柱部20と径方向に対向する柱部20の近傍の柱部20に、溶解樹脂を貯留可能な樹脂溜り40が設けられている。
【0038】
この構成によれば、上記実施形態と同様に、キャビティ内の圧力は、大径ゲート51aから樹脂溜り40に向かうにしたがって低くなる。このように、キャビティ内に圧力勾配が生じ、圧力の高い大径ゲート51aから、圧力の低い樹脂溜り40に向かって、溶解樹脂の流動が起きる。この溶解樹脂の流動により、溶解樹脂の合流時にいったん流動方向(周方向)に対し垂直(径方向)に配向していた補強繊維材の配向が制御され、ウェルドWの強度が向上する。これにより、保持器1の強度低下を抑制することが可能となる。
【0039】
さらに本実施形態では、一部のウェルドWにおいて、樹脂溜り40に向かって流路断面積が拡大する方向に溶解樹脂の強制的な流動が発生する。したがって、ウェルドWにおける繊維配向の乱れた領域が、断面積の広い部分に移動するため、ウェルドWの強度をより向上させる効果を有する。その他の構成は、上記実施形態と同様であり、上記実施形態と同様の効果を奏することが可能である。なお、本実施形態において、柱部20の内周面に樹脂溜り40を設けても構わない。
【0040】
このように、本発明の軸受用保持器の製造方法は、上記した冠形保持器に限定されず、くし形保持器等、様々な種類の保持器に適用可能である。以下、本発明の軸受用保持器の製造方法をくし形保持器に適用した場合の実施形態について説明する。
【0041】
(第6実施形態)
次に、本発明に係る第6実施形態の軸受用保持器の製造方法について図面を参照して説明する。
【0042】
図6には、本実施形態の軸受用保持器1A(以後、単に保持器と呼ぶことがある。)が示されている。保持器1Aは、いわゆるくし形保持器であり、略円環状の基部10Aと、基部10Aの軸方向側面12Aから、周方向に所定間隔で軸方向に突出する複数且つ偶数個(本実施形態では14個)の柱部20Aと、隣り合う一対の柱部20A、20Aの互いに対向する面22A、22Aと基部10Aの軸方向側面12Aとによって形成され、軸受の転動体(不図示)を保持する複数且つ偶数個(本実施形態では14個)のポケット30Aと、を有している。すなわち、柱部20Aとポケット30Aは同数であると共に複数且つ偶数個形成されており、柱部20Aはそれぞれのポケット30Aの周方向両側に設けられる。
【0043】
このようなくし形保持器1Aにおいても、上記実施形態と同様の製造方法が適用可能である。すなわち、14個の柱部20Aのうち、半数である7個の柱部20Aには、それぞれゲート51が設けられる。ゲート51が設けられる柱部20Aと、ゲート51が設けられない柱部20Aと、は周方向に交互に配置される。7個のゲート51のうち、1個のゲート51(大径ゲート51a)の断面積は、他のゲート51の断面積よりも大きい。他のゲート51は、断面積が大きいもの(中径ゲート51c)と断面積が小さいもの(小径ゲート51d)とが、周方向に交互に配置される。また、ゲート51が設けられない複数の柱部20Aのうち、大径ゲート51aが設けられた柱部20Aと径方向に対向する柱部20Aに、溶解樹脂を貯留可能な樹脂溜り40が設けられている。
【0044】
この構成によれば、上記実施形態と同様に、キャビティ内の圧力は、大径ゲート51aから樹脂溜り40に向かうにしたがって低くなる。このように、キャビティ内に圧力勾配が生じ、圧力の高い大径ゲート51aから、圧力の低い樹脂溜り40に向かって、溶解樹脂の流動が起きる。この溶解樹脂の流動により、溶解樹脂の合流時にいったん流動方向(周方向)に対し垂直(径方向)に配向していた補強繊維材の配向が制御され、ウェルドWの強度が向上する。これにより、保持器1の強度低下を抑制することが可能となる。
【0045】
さらに本実施形態では、一部のウェルドWにおいて、樹脂溜り40に向かって流路断面積が拡大する方向に溶解樹脂の強制的な流動が発生する。したがって、ウェルドWにおける繊維配向の乱れた領域が、断面積の広い部分に移動するため、ウェルドWの強度をより向上させる効果を有する。
【0046】
また、本実施形態では、基部10Aと柱部20Aとが交差する隅部のR部の近傍に、ウェルドWが形成される。しかしながら、ウェルドWが隅部のR部の近傍から遠ざかる方向に、溶解樹脂の強制的な流動が発生するので、ウェルドWの強度向上効果をより高めることが可能である。その他の構成は、上記実施形態と同様であり、上記実施形態と同様の効果を奏することが可能である。
【0047】
(第7実施形態)
次に、本発明に係る第7実施形態の軸受用保持器の製造方法について図面を参照して説明する。
【0048】
図7に示すように、ゲート51が設けられない複数の柱部20Aのうち、他のゲート51(中径ゲート51c及び小径ゲート51d)よりも断面積が大きい大径ゲート51aが設けられた柱部20Aと径方向に対向する柱部20Aの近傍の柱部20Aに、溶解樹脂を貯留可能な樹脂溜り40が設けられている。このような構成によっても、上記実施形態と同様の効果を奏することが可能である。なお、本実施形態において、柱部20Aの内周面に樹脂溜り40を設けても構わない。
【0049】
(第8実施形態)
次に、本発明に係る第8実施形態の軸受用保持器の製造方法について図面を参照して説明する。
【0050】
図8に示すように、本実施形態では、柱部20A及びポケット30Aの個数が12個である。12個の柱部20Aのうち、半数である6個の柱部20Aには、それぞれゲート51が設けられる。ゲート51が設けられる柱部20Aと、ゲート51が設けられない柱部20Aと、は周方向に交互に配置される。6個のゲート51のうち、1個のゲート51(大径ゲート51a)の断面積は、他のゲート51の断面積よりも大きい。他のゲート51は、断面積が大きいもの(中径ゲート51c)と断面積が小さいもの(小径ゲート51d)とが、周方向に交互に配置される。また、ゲート51が設けられない複数の柱部20Aのうち、大径ゲート51aが設けられた柱部20Aと径方向に対向する柱部20Aの近傍の柱部20Aに、溶解樹脂を貯留可能な樹脂溜り40が設けられている。
【0051】
このような構成によっても、上記実施形態と同様の効果を奏することが可能である。なお、本実施形態において、柱部20Aの内周面に樹脂溜り40を設けても構わない。
【0052】
(実施例)
次に、ゲート51からキャビティ内に溶解樹脂が注入される際の、キャビティ内の圧力分布について説明する。
【0053】
図9及び
図10に示すように、本実施例においては、第4〜5実施形態(
図4〜5参照)や第7〜8実施形態(
図7〜8参照)のように、ゲート51が設けられない複数の柱部20(20A)のうち、大径ゲート51aが設けられた柱部20(20A)と径方向に対向する柱部20(20A)の近傍の柱部20(20A)に、溶解樹脂を貯留可能な樹脂溜り40が設けられる構成を例に、説明する。
【0054】
図9及び
図10には示されていないが、本実施例において、柱部20(20A)及びポケット30(30A)の個数は16個であり、16個の柱部20(20A)のうち、半数である8個の柱部20(20A)には、それぞれゲート51が設けられる。8個のゲート51のうち、1個のゲート51(大径ゲート51a)の断面積が、他のゲート51(小径ゲート51b)の断面積よりも大きい。
【0055】
図9及び
図10には、溶解樹脂による圧力の高低がハッチングの濃淡で示されている。
図9に示すように、ゲート51からキャビティ60内に注入された溶解樹脂が合流する前の状態では、キャビティ60内の圧力は低い状態である。一方、
図10に示すように、溶解樹脂が合流した後の状態では、溶解樹脂の大径ゲート51aからの流入量が小径ゲート51bからの流入量よりも多いため、大径ゲート51a近傍ではキャビティ60内の圧力が他の部位よりも高くなる。また、樹脂溜り40には、溶解樹脂が合流した後も溶解樹脂が充填されない領域が残存しており、樹脂溜り40の内部圧力は他の部位よりも低くなる。したがって、キャビティ60内の圧力は、大径ゲート51aから樹脂溜り40に向かうにしたがって低くなる。このように、キャビティ60内に圧力勾配が生じ、圧力の高い大径ゲート51aから、圧力の低い樹脂溜り40に向かって、溶解樹脂の流動が起きる。この溶解樹脂の流動により、溶解樹脂の合流時にいったん流動方向(周方向)に対し垂直(径方向)に配向していた補強繊維材の配向が制御されて周方向を向く。したがって、ウェルドWの強度が向上する。これにより、保持器1の強度低下を抑制することが可能となる。
【0056】
尚、本発明は、前述した各実施形態に限定されるものではなく、適宜、変形、改良、等が可能である。
【0057】
このように、本発明の軸受用保持器の製造方法は、上記した冠形保持器1に限定されず、くし形保持器等、様々な種類の保持器に適用可能である。
【0058】
また、本発明の軸受用保持器は、強度低下が少なく耐久性に優れるため、転がり軸受に適用することが好適である。すなわち、このような転がり軸受は、内輪と、外輪と、内輪及び外輪との間に設けられた複数の転動体と、転動体をポケットに転動自在に保持し、耐久性に優れる軸受用保持器と、を備えるので、高速回転や高負荷等の要求を満たすことが可能である。