【実施例1】
【0013】
以下、本発明の実施例を図面を参照して説明する。以下の実施例では便宜上、止具の打込み方向が鉛直方向下向きとなるように打込機を設置した状態を基準にして、上下左右、前後方向を図中で示すように定義して説明する。
【0014】
図1は本実施例の打込機1の全体構成を縦断面図である。打込機1の外殻(広義のハウジング)は、後述するピストンが往復動する空間を覆う略円筒状の胴体部2aと、胴体部2aから射出方向に略直交する方向に延在するハンドル部2bと、胴体部2aの軸方向の一端側(上側)の開口部を覆うトップカバー3と、胴体部2aの軸方向の他端側(下側)の開口部を覆うノーズ部材4により構成される。ハンドル部2bは作業者が把持する部分となる。ハンドル部2bの後端にはエアプラグ58が設けられ、図示しないエアホースを介して外部の圧縮機(図示せず)から圧縮空気が供給される。ハンドル部2bの内部及びトップカバー3の内部には、図示しない圧縮機からの圧縮空気を蓄積するための蓄圧室50が形成される。ノーズ部材4は合金鋼素材に熱処理を施した材質が用いられ、内部にドライバブレード(後述)によって打ち込まれる釘が通過する射出通路4bが設けられる。ノーズ部材4の側面の一部には釘を順次給送するための開口部(図示せず)が設けられ、開口部を囲むように釘を供給するマガジン6の一端側が取り付けられる。マガジン6はその長手方向(給送方向)が、射出方向に対してわずかに斜めになるように配置され、図示しないロール連結釘を収容して、順次釘を射出通路4bに供給する。マガジン6の構造については公知であるので、ここでの詳細な説明は省略する。
【0015】
ノーズ部材4の先端には、プッシュレバー15が設けられる。プッシュレバー15はノーズ部材4に対して射出方向と同方向及び反対方向に所定の範囲で移動可能な可動部材であって、ノーズ部材4の射出口たる先端4aを被打込み材に向かって押し当てていない状態では、プッシュレバー15は
図1に示すように下方側に位置する(第二の位置)。ノーズ部材4の先端4aを被打込み材に向かって押し当てる動作をすると、プッシュレバー15は上方に移動し(第一の位置)、プッシュレバー15のアーム部16aと連結部16b、及び、接続部17が上方に移動することによりプッシュレバーブッシュ47を上方に移動させる。プッシュレバープランジャ41の下端はフランジ状に径が広がるフランジ部が形成され、フランジ部とプッシュレバーブッシュ47およびプッシュレバーブッシュカバー48の下端に形成されたフランジ部との間には、紙面裏側(図示なし)に設けられたスプリングが介在され、プッシュレバーブッシュ47を下方向に付勢する。トリガ20は、ハンドル部2bと胴体部2aの付け根付近に配置された揺動軸22と、揺動軸22を中心に揺動するトリガレバー21を含んで構成される。本明細書では、トリガ20又はトリガレバー21を引くという意味は、トリガレバー21を射出方向とは反対側(上方)に移動させることを意味する。作業者は、プッシュレバー15の先端(下端)を、釘を打ち込む対象物(被打込み材)に押し当てた状況、かつ、トリガレバー21を引くという両方の操作により、ピストン8を含む打撃駆動要素を起動させて釘を打ち込むことができる。
【0016】
打込機1の打撃駆動要素は、円筒状のシリンダ10と、シリンダ10内で上下に摺動(往復動)可能なピストン8と、ピストン8に接続されたドライバブレード9を含んで構成される。ドライバブレード9は、釘等の止具を打撃するためのものであって、円筒形のシリンダ10の下端側から下方に延在するように配置される。ドライバブレード9はピストン8と一体又は別体式に製造することができる。
【0017】
シリンダ10は内面でピストン8を摺動可能に支持するもので、上端側の開口においてフランジ状に径方向外側に広がり、その下側に配置されたスプリング14により上向きに付勢されるようにして保持され、下方向に僅かに移動可能にされる。シリンダ10内は、ピストン8によりピストン上室とピストン下室とに区画されることになる。ピストン8の上室は、シリンダ10の上端部が当接されるヘッドキャップ18の下に形成される。ヘッドキャップ18は、バルブ保持部材19の下側に設けられる。
【0018】
シリンダ10の下側外周には、ドライバブレード9を上死点に復帰させるための圧縮空気を貯める戻り空気室11が形成される。シリンダ10の軸方向中央部にはシリンダ10の内側からの外側の戻り空気室11への一方向にのみ圧縮空気の流入を許容する複数の空気穴12aが形成され、その外周側には逆止弁13が備えられる。また、シリンダ10の下方には、戻り空気室11に常時開放されている空気穴12bが形成される。シリンダ10の下端には、ピストン8の下方への急激な移動による釘打込み後の余剰エネルギーを吸収するため、ゴム等の弾性体からなり、中心にドライバブレード9が挿通する貫通孔を有するピストンバンパ26が設けられる。
【0019】
ハンドル部2bの打込機1との接続部分には、作業者によって操作されるトリガレバー21と、蓄圧室50に連通して圧縮空気の通路の開放又は遮断を行う第一スイッチ30と、一方が第一スイッチ30の出口側と連通され他方がメインバルブ室25に通じる通路に連通する第二スイッチ40が設けられる。第一スイッチ30と第二スイッチ40はそれぞれ空気の流れを許容又は遮断する開閉弁を含んで構成される。ハンドル部2bの胴体部2aと離れた側の端部には、リリーフバルブ機構60が配置される。リリーフバルブ機構60は、トリガレバー21により開閉される第一スイッチ30と、エアプラグ58との間に配置されるものであって、空気圧によって動作しエアプラグ58から蓄圧室50への空気の流入の制御を行う開閉弁と、蓄圧室50から排気口82aへの空気の排出
を制御
する制御弁を有する。ここではリリーフバルブ機構60はエアプラグ58の近傍に設けられる。
【0020】
打込時において、ノーズ部材4の先端4aを被打込み材に向かって押し当てながらトリガレバー21を操作することによって、第一スイッチ30及び第二スイッチ40がオンになると、蓄圧室50から貫通穴38を通って第一スイッチ30及び第二スイッチ40に高圧の空気が流れ、メインバルブ室25に到達してシリンダ10を下側に移動させる。この移動によりヘッドキャップ18とシリンダ10の上側開口を離反させて、トップカバー3内の蓄圧室50からピストン上室に圧縮空気が一気に流入する。この圧縮空気の流入によってピストン8とともにドライバブレード9が急激に下降し、ドライバブレード9が射出通路4b内を摺動して、射出通路4b内に給送されている図示しない釘を被打込み材に対して打ち込む。
【0021】
図2は、本実施例に係る打込機1のハンドル部2b付近の構造を示す拡大断面図である(その1)。本実施例のトリガ機構では、トリガレバー21によって開閉されるバルブ機構である第一スイッチ30と、プッシュレバー15の被打込み材への押し当てにより開閉されるバルブ機構である第二スイッチ40を有して構成される。第一スイッチ30と第二スイッチ40は、空気の流れ方向に直列に接続され、蓄圧室50からメインバルブ室25(
図1参照)への圧縮空気の流入を許容又は遮断する2つのバルブ手段(後述)を含んで構成される。第一スイッチ30はトリガレバー21の操作に連動して開閉するバルブ機構であり、
図2のようにトリガレバー21が引かれて矢印24の方向に揺動した際に、貫通穴38を入り口として蓄圧室50から第二スイッチ側へ圧縮空気の流入を許容する。第二スイッチ40は、プッシュレバー15の移動に連動して開閉するバルブ機構であって、打込機1の本体が被打込み材に押しつけられてプッシュレバー15が上昇した位置に移動した際に、第一スイッチ30側からメインバルブ室25側への圧縮空気の流入を許容する。プッシュレバー15が通常の位置(下死点位置)にあるときには、第二スイッチ40は遮断状態となる。本実施例ではさらに、第一スイッチ30の空気通路から分岐してリリーフバルブ機構60へ圧縮空気の一部を流すための接続パイプ61が設けられる。トリガレバー21が矢印24の方向に引かれた際に接続パイプ61へ圧縮空気の一部を供給し、トリガレバー21が解除された際(矢印24と反対方向に移動した際)に、接続パイプ61の空気圧を開放してほぼ大気圧に戻すように構成される。
【0022】
リリーフバルブ機構60は、略円筒形のハンドル部2bの内側部分に設けられ、ハンドル部2bの軸方向に移動可能なリリーフバルブピストン65と、リリーフバルブピストン65を収容する略円筒形のリリーフバルブケース70と、リリーフバルブケース70の開口面の一方を閉鎖するキャップ80を含んで構成される。リリーフバルブピストン65は、空気の圧力を利用して動作する
制御弁であって、空気の流入が一定量に達したら蓄圧室50の空気を一気に外部に排出させるようにして、タイマー時間が経過したら作動するタイマー弁として機能する。キャップ80には、圧縮空気を供給する図示しないホースを接続するためのエアプラグ58が取り付けられる。接続パイプ61は、一端側が第一スイッチ30の空気流路に接続され、他端がリリーフバルブケース70の開口71bに接続される。リリーフバルブ機構60による蓄圧室50から大気中への空気の排出動作が行われていないときには、エアプラグ58から供給される空気は、矢印のようにキャップ80とリリーフバルブピストン65の内部空間を通って蓄圧室50に流入する。この結果、蓄圧室50は外部のコンプレッサ等から供給される高い空気圧に維持される。
【0023】
次に
図3を用いて第一スイッチ30と第二スイッチ40の動作について説明する。
図3は、
図2のトリガ付近の拡大断面図であって、第一スイッチ30がON状態(空気通路を連通している状態)で、第二スイッチ40がOFF状態(空気通路を遮断している状態)を示している。ハンドル部2bの付け根付近の下部には、下から上方向に延びる2つの円筒穴が形成される。2つの円筒穴のうちシリンダ10とは遠い側の内部には第一スイッチ30が収容され、シリンダ10とは近い側の内部には第二スイッチ40が収容される。
【0024】
トリガレバー21は、作業者の引き操作により揺動軸22を中心に動作するように設けられたU字状の薄板バネ23の付勢力に抗して揺動軸22を中心として反時計回り方向、すなわち上方向に移動可能である。薄板バネ23は上側の板23bがトリガブッシュ32の下面に当接し、下側の板23aがトリガレバー21の上面に当接し、作業者がトリガレバー21を離した際に、図にて時計回りに回動することによりトリガプランジャ31を下方向に移動させる。
【0025】
蓄圧室50に溜められた圧縮空気は、貫通穴38を介して矢印46aの方向に第一バルブ室34に流入する。第一スイッチ30がON(連通状態)になると、第一スイッチ30を通過した空気は、矢印46bのように空気通路39を通って第二スイッチ40側の第二バルブ室44に流れる。第二スイッチ40がON(連通状態)になると第二スイッチ40の弁機構たるプッシュレバーバルブ42が上方に移動するため、弁部分となる開口部43を圧縮空気が通過して、矢印46cのように貫通穴47aから圧縮空気が排出され、メインバルブ室25(
図1参照)に流れる。このように蓄圧室50側の圧縮空気は、直列に接続された2つのスイッチ手段(空気流を遮断する弁機構)を通過することによって打撃駆動手段たるピストン8による駆動動作の起動を制御する。
【0026】
第一スイッチ30は、略円筒状のトリガブッシュ32と、トリガブッシュ32内に配置されたトリガプランジャ31と、略球状の弁部材35によって主に構成される。トリガブッシュ32は下側付近の外周側に形成された雄ねじによって、円筒穴側に形成された雌ねじに対してネジ止めされる。トリガブッシュ32の上端部分にはパッキン36が介在される。弁部材35は、蓄圧室50及び空気通路39と連通する第一バルブ室34内に収容されもので、略円筒状のトリガブッシュ32の内径部分に形成された段差状の開口部34aを開放又は閉鎖することにより、空気の通路を遮断又は開放する。開口部34aの径は、弁部材35の径より小さい。弁部材35は蓄圧室50側の圧縮空気の作用により矢印46aの方向に常時付勢され。従って、弁部材35が貫通穴38を介して蓄圧室50内の圧縮空気の圧力により下方の圧力を受けると、弁部材35が開口部34aに係止され、第一バルブ室34が閉鎖される。すなわち、第一スイッチ30が閉鎖状態(OFF)となる。
【0027】
トリガプランジャ31は、弁部材35の下方において、上下に移動可能なように保持される。トリガプランジャ31の先端部31cは弁部材35を移動させる作用片であり、中央付近には軸方向に垂直な断面形状が略十字形の形状とされた部分が形成され、トリガプランジャ31の外周側に所定の空間を形成して軸方向への空気の流れを許容する。トリガプランジャ31は、トリガレバー21により下端部が上方向に押圧されると、第一スイッチ30の弁部材35を上方向に圧縮空気の圧力に抗して押圧し、第一スイッチ30を開放状態にする。そのため開口部34aが開放されるとトリガプランジャ31の軸方向に空気が流れて、開口部32aに空気が到達し、逆止弁33を通って空気通路39側に排出される。逆止弁33は、例えば周方向に連続した円筒状のゴム部材で構成でき、開口部32aの大部分が空気通路39に連通するが、空気の一部が縦方向溝32dによって貫通穴37にも流れる。従って、開口部34aが開放されると、矢印46aのように流入した圧縮空気は空気通路39を介して矢印46bの方向と、縦方向溝32d、貫通穴37を介して接続パイプ61側に矢印46dのように分岐して流れる。トリガレバー21を離してトリガプランジャ31が下降した際には、空気通路39と接続パイプ61の内部に残留する圧縮空気は、縦方向孔32cと径方向溝32bを介して、図示しない排出口から外部に排出される。接続パイプ61は、トリガレバー21が引かれたときに、リリーフバルブ機構60側に圧縮空気の一部を供給する空気通路であって、金属製又は合成樹脂製のパイプにより構成される。接続パイプ61の貫通穴37への接続部分は、Oリング62によって接続パイプ61内部に蓄圧室50の高圧空気が混入しないようにシールされる。
【0028】
第二スイッチ40は、シリンダ10に近い側の円筒穴の内部に配置され、円筒穴には径が細い径部分と太い径部分が形成される。第二スイッチ40は、太い径部分に圧入された略円筒状のプッシュレバープランジャ41と、プッシュレバープランジャ41内に配置されたプッシュレバーバルブ42と、プッシュレバーバルブ42を所定の方向に付勢するコイル状のプランジャスプリング45によって主に構成される。プッシュレバーバルブ42は、プッシュレバー15の動作に応じて空気通路39から貫通穴47aへの圧縮空気の流入の遮断又は流通を切り替える弁である。プッシュレバープランジャ41は、略上下に延びて内部に通路を有する管状に形成され、その上端に形成された開口部43には、プッシュレバーバルブ42のフランジ状の部分が当接することにより空気の流れを遮断し(
図3の状態)、プッシュレバーバルブ42が上方に移動してフランジ状の部分が開口部43から離れることにより空気の流れを許容する。開口部43の下方の外周側には貫通穴47aが形成される。貫通穴47aは第二バルブ室44からの流路の出口となり、メインバルブ室25(
図1参照)に接続される。
【0029】
プッシュレバーバルブ42は、上下方向に移動し、プッシュレバープランジャ41の上端の開口部43を開放または閉鎖する。プッシュレバーバルブ42は、円筒状のプッシュレバープランジャ41の上側の空間内にその半分程度が収容され、開口部43を閉鎖又は開口するように移動する。プッシュレバーバルブ42は上側に円柱部42aが形成され、軸方向の中央付近にフランジ部が形成され、下側部分は断面形状が十字状の窪み部42bが形成される。この窪み部42bとプッシュレバープランジャ41の内壁面との隙間を介して空気が第二バルブ室44から貫通穴47aに流れることになる。また、フランジ部の下側にはOリング等のシール部材を配置するための周方向に連続した溝部が形成される。円柱部42aはコイル式のプランジャスプリング45の内側に配置される。このようにして、フランジ部の下側面が段差状の開口部43の上面に接する状態(
図3の状態)で、第二スイッチ40の流路を閉鎖状態とすることができる。プッシュレバーバルブ42はプランジャスプリング45により下方向へ付勢され、プッシュレバープランジャ41の押圧によりプランジャスプリング45の付勢力に抗して上方向に移動する。
【0030】
プランジャスプリング45は、一端部がハウジング2側にて保持され、他端部はプッシュレバーバルブ42のフランジ部分の上面に当接する。プッシュレバーブッシュ47は、プッシュレバー15とともに上下に移動し、プッシュレバーバルブ42を移動させるものである。プッシュレバー15と協働した状態でトリガレバー21を引き操作すると、蓄圧室50内に溜められた圧縮空気は、第一スイッチ30と第二スイッチ40を介してメインバルブ室25(
図1参照)に供給されるため、シリンダ10内に大量の圧縮空気が流入し、ピストン8を上死点から下死点に駆動する。これによって、ピストン8に固定されたドライバブレード9は、マガジン6から射出通路4bに給送された先頭の釘(図示せず)を打撃し、ノーズ部材4の先端から被打込み部材の中へ打込む。釘打込み後にトリガレバー21の開放、または、プッシュレバー15の押し当て解除のいずれか一方を行うことにより第一スイッチ30又は第二スイッチ40のいずれかがOFF状態となるので、蓄圧室50側からシリンダ10への圧縮空気の供給は遮断される。
【0031】
本実施例では、リリーフバルブ機構60を設ける打込機の前提構成としてプッシュレバー15とトリガレバー21にて動作する第一スイッチ30の存在を前提にしているが、第一スイッチ30に加えて第二スイッチ40を設けるか否かは任意であり、第二スイッチ40を設けなくてもプッシュレバー15を押しつけないと第一スイッチ30が動作しないように構成したものであって、トリガレバー21の引き操作を維持した状態で打込機1本体を上下動させて止具を連続して打込む“連発打込みモード”を有する構成であれば、他のスイッチ機構としても良い。
【0032】
“単発打込みモード”では、1回の打込みが終了したら、一旦トリガレバー21を離してトリガオフ状態にしたのちに、再びトリガレバー21を引かない限り次の打込みは行われない(もちろん次の打込み動作時にプッシュレバー15が被打込み材に押し当てられている状態であることは必須条件である)。一方、“連発打込みモード”では、作業者が1回目の打込みを完了したあとにトリガレバー21を戻さずに引いた状態のままで、打込機1本体を移動させて被打込み材の次の打込み位置にプッシュレバー15を押し当てるとその時点で釘の打込みをおこなうことが可能となる。即ち、作業者が打込みを完了したあとにトリガレバー21を戻さずに引いた状態のままの場合は、第一スイッチ30のON状態を維持したままとし、第二スイッチ40側で圧縮空気の流れを開放及び遮断できる。このように“連発打込みモード”を設けることは、連続的にたくさんの釘を打ち付けるような作業の場合は大変便利で使い勝手が良い。トリガレバー21を引きっぱなしにしておいて、次の打込位置にプッシュレバー15を位置付けて押し当てるだけで良いからである。しかしながら、作業者にそのような連発打込みの癖が付いた場合、連発打ち込みに続いて慎重に打ち込み位置を定めた作業を行う場合、トリガレバー21を戻さずに打ち込み位置の微調整を行ってしまう場合が考えられ、時として、所望の打ち込み位置とは若干ずれた位置に打ち込み(ミスショット)をしてしまうことがあった。
【0033】
本実施例では、そのような恐れを大幅に無くすために、“連発打込みモード”において作業者がトリガレバー21を引きっぱなしにした場合は,所定時間の経過後に蓄圧室50の空気を強制的に排出することにより、その後の連発打ちができないようにした。しかしながら、作業者が気がつかないうちに蓄圧室50の空気を勝手に排出すると、連発打ち作業を行っている場合で、次の釘打ちがたまたま遅れた場合にいきなり打ち込みができなくなり、作業の妨げになる恐れがある。そこで本実施例では、所定時間の経過後に予告も無しにいきなり蓄圧室50の圧縮空気を強制的に排出するのではなく、排出の前に予告的なお知らせ音を所定時間だけ発するようにして、そのお知らせ音を所定時間だけ鳴らした後に、蓄圧室50の高圧空気の強制排出を行うようにすることで作業者の利便性をさらに向上した。この予告的なお知らせ音(報知音)は空気漏洩音を用いるだけでなく、スピーカーや電気的な制御手段を用いてもよい。本実施例では、バッテリーなど電気的な制御手段を有しない空気工具に好適な実施形態として、圧縮空気を用いて鳴らす例を例示する。このお知らせ音を聞いた作業者はトリガレバー21を戻すようにすれば、不用意なトリガレバー21の引き状態維持を防止できミスショットを減らすことができ、また、連続的な打込作業を中断した後に次の釘打ちを再開する場合は、一旦トリガレバーを離すことにより、以後の釘打ち作業を支障なく継続することができる。
【0034】
図4は、本発明の実施例に係る打込機1のハンドル部2b付近の構造を示す拡大断面図であって、予告的なお知らせ音を鳴らしている状態の様子を示している。ここでは、“連発打込みモード”において釘打ちが行われた後であって、蓄圧室50の内部の圧力が所定の高圧状態に戻った状態から、トリガレバー21が引かれたまま数秒が経過した状態を示している。トリガレバー21は前回の打込完了後から引かれたままであるため、蓄圧室50の圧縮空気が矢印51のように流れて、接続パイプ61の内部を流れて、開口71bからリリーフバルブケース70の内部空間に流入する。流入した空気は、リリーフバルブピストン65のフランジ部65aの前面側の空間(空気室73)に流入する。この結果、流れ込んだ空気の圧力により所定の力PSが作用してリリーフバルブピストン65を後方側に移動させる力が働く。一方、フランジ部65aの後方側にはスプリング77によってリリーフバルブピストン65が前方側に付勢される。そのため、フランジ部65aの後方側から力Fが作用し、力PSと力Fが均等する位置にてリリーフバルブピストン65が停止する。円筒形のリリーフバルブピストン65の後端部65dは閉鎖されており、内側空間から外側空間に連通する貫通穴65bと貫通穴65cが形成される
。貫通穴65bは、
図2で示したようにエアプラグ58側から蓄圧室50への流入通路となる。貫通穴65cは蓄圧室50の空気の一部を外部に排出するための通路である。
【0035】
次に
図5を用いてリリーフバルブ機構60の詳細構造を説明する。
図5は
図4のリリーフバルブ機構60付近を拡大した図である。リリーフバルブケース70は、カップ状に形成され、円筒形のハンドル部2bの後方側の開口から前方側の内部に向かって装着される。リリーフバルブケース70は、前方側に位置する底面部分に空気を通すための大きな貫通穴71aが形成され、側壁部分は外周の径が細い細径部70a、中径部70b、太径部70cのように段差状に広くなり、開口面の周囲は径方向外側に延在するように延びるフランジ部70dに形成される。フランジ部70dとハンドル部2bの終端部分との間にはパッキン69が介在され、ネジ72によって固定される。円筒形のリリーフバルブケース70の内側空間は、リリーフバルブピストン65が前後方向に移動するための摺動空間となっている。リリーフバルブピストン65の外壁と、リリーフバルブケース70又はキャップ80の内壁の間には、複数のOリング66a〜66eが設けられる。また、リリーフバルブピストン65の外壁の後端付近であってエアプラグ58に接する付近にもOリング66fが設けられる。キャップ80の外周側とリリーフバルブケース70の間にもOリング84が設けられる。この際、一端側が閉鎖された略円筒状のリリーフバルブピストン65に形成された貫通穴65b、65cとキャップ80の内周側に形成された通路との相対位置関係により、エアプラグ58側からリリーフバルブピストン65の内部空間への空気の流入と、リリーフバルブピストン65の内部空間からキャップ80を介して大気への空気の放出を制御する。つまり、リリーフバルブピストン65は、空気の入口通路と出口通路の開閉弁としての作用をする。
【0036】
キャップ80はリリーフバルブピストン65の後方側を保持すると共に、エアプラグ58を保持するための固定部材となるものである。リリーフバルブケース70、リリーフバルブピストン65、キャップ80は、金属の一体品又は合成樹脂の一体品にて製造することができる。キャップ80の内周面には、円周方向に連続する円環溝81が形成され、円環溝81の一部(ここでは上方)から後方側に向けて貫通する大気通路82が形成される。大気通路82の円環溝81の離れた端部は、大気と連通する排気口82aとなっている。円環溝81の他の一部(ここでは下方)から前方側にかけて、斜めの細い通路83が形成される。通路83の前方側は、円周方向に連続する円環溝85が形成される。円環溝85の断面形状(
図5のように見た断面)は台形になっており、その内側には貫通穴65cが隣接する。貫通穴65cは周方向に複数箇所形成され、その外周側は断面形状を部分的に細くするともに、その細くなった部分にOリング66cが配置される。
【0037】
リリーフバルブピストン65が
図2のように前方側に位置する場合は、キャップ80の内壁との間が狭いためOリング66cが径方向外側に移動できないため、貫通穴65cが閉鎖されている状態となる。一方、
図4、5のようにリリーフバルブピストン65が後方側に移動すると、円環溝85の斜面にOリング66cが当接するため、わずかに貫通穴65cが開口されて、蓄圧室50からの圧縮空気が矢印52の方向に、即ち貫通穴65c、通路83、円環溝81、大気通路82を介して外部に排出される。この際、貫通穴65cがわずかに開口しているだけなので、僅かながらの空気が大気中に排出される。また、逆止弁を構成するOリング66cからバネ室74側にも圧縮空気が供給され、フランジ部65aを左方向に移動させる圧力Fが発生する。従って、空気室73からの圧力PSが上昇しても、同様にしてバネ室74側からの圧力Fも上昇するため、リリーフバルブピストン65の右方向への移動が緩やかになる。尚、スプリング77の付勢力を調整するために、バネ圧調整リング78が設けられる。バネ圧調整リング78は、キャップ80とスプライン結合され、ゴムリング等の弾性体バンパ79により後端側が保持される。弾性体バンパ79はキャップ80の段差部分80bに当たるように配置される。キャップ80はリリーフバルブケース70から軸方向後方に抜けないように保持されるものの、回転方向には回転できるように構成される。また、バネ圧調整リング78の外周面が雄ねじになり、バネ圧調整リング78に対向するリリーフバルブケース70の内周部分(太径部70cの内周側部分)が雌ねじになっているので、キャップ80を回転させることによりバネ圧調整リング78も回転することによってその軸方向の調整を行うことができる。その結果、スプリング77によるリリーフバルブピストン65の付勢力の強さを調整することができ、トリガレバー21を引きっぱなしにしてからお知らせ音が鳴り始めるまでの時間、又は、圧縮空気の排出までに要する時間の調整機構として機能する。
【0038】
排気口82aの開口面積を適切に設定して、排気時には、例えば「シュー」というような空気の漏れる音が、通常の作業時における騒音の中において、作業者に十分に聞こえるように構成する。この音は音量が大きすぎずに、且つ、耳障りな音にならないようにすると良い。また、排気口82aに笛のような部材を付加しても良いし、大気通路82の排出方向と交差するさらなる貫通穴を形成し、笛の原理にて大きな音が鳴るようにしても良い。この音の鳴るのは一瞬だけでは無くてある程度の時間、例えば3〜5秒程度とすれば良い。そうすれば、お知らせ音が鳴っているときに作業者は、次の釘の打ち込み動作を行うか、あるいは、トリガレバー21を戻すかの判断を容易に行うことができる。尚、この音が鳴っている状態、即ち矢印52のように圧縮空気の一部が外部に漏れている場合であっても、リリーフバルブピストン65の後端外周部分とエアプラグ58の太内壁部58bの先端が矢印59cのように離反しているので、エアプラグ58の細内壁部58aから流入する空気が貫通穴65bを通って蓄圧室50に補充される。従って、蓄圧室50の内部の圧力は一定に保たれるので、お知らせ音が鳴っている際にも次の釘の打ち込み動作を行うことができる。
【0039】
以上のように、釘を打ち終わった後に所定の時間が経過、例えば3〜5秒程度経過した後に圧縮空気の一部を大気中に放出することにより、作業者に対してトリガレバー21が戻されていないことの音による報知を行うことができる。
【0040】
次に
図6を用いて
図5の状態でお知らせ音が鳴り続いて数秒経過した後の状態を説明する。ここでは、作業者がプッシュレバー15を被打込材に押しつけていない状態(第二スイッチ40がオフの状態)であるが、トリガレバー21が引かれている状態(第一スイッチ30がオンの状態)であるので、蓄圧室50の圧縮空気が矢印51のように流れ続けて、リリーフバルブケース70の内部空間でリリーフバルブピストン65のフランジ部65aに対してPSの力を増加させ続ける。この結果、リリーフバルブピストン65が
図4、
図5の状態よりもさらに右側に移動し、円環溝85の底面に対向する位置にOリング66cがくるため、貫通穴65cが大きく開口されて、蓄圧室50からの圧縮空気が矢印52の経路で通路83、円環溝81、大気通路82、排気口82aを介して外部に一気に排出される。この排出時には、前述したお知らせ音とは違い大きな音となる。この際、リリーフバルブピストン65の後端外周部分とエアプラグ58の太内壁部58bの先端が密接するので貫通穴65bが閉鎖され、矢印53のようなエアプラグ58側から蓄圧室50への空気の流入が阻止される。従って、蓄圧室50の内部の圧力は一気に大気圧まで低下する。蓄圧室50の圧力が大気圧に戻ると、作業者がプッシュレバー15を被打込材に押しつけても打込み動作は行われない。
【0041】
図6の状態から作業者がトリガレバー21を離すと、
図3において第一スイッチ30のトリガプランジャ31の十字状の部分が径方向溝32bと対向することにより、径方向溝32bが大気と連通することになる。その結果、接続パイプ61の内部空間61a及び空気室73内に残留していた空気が大気中に排出されるので、リリーフバルブピストン65に作用する力PSが低下する。この結果、スプリングの力F>空気室73の圧力PSとなり、リリーフバルブピストン65は
図2で示す位置に復帰するように移動する。この移動には矢印53の方向で作用する圧縮空気の圧力も寄与する。
【0042】
次に
図7を用いて本実施例による蓄圧室の空気排出に至る各部の状態の関係を説明する。
図7(1)〜(5)はそれぞれの横軸が時間(単位:秒)であり、それぞれの横軸を合わせて図示している。打込機1の打込みモードは連発打込みモードである。(1)は、トリガレバー21の操作(トリガ操作91)を示している。こ
こでは作業者によって直前の打込動作の開始時の時刻t
1からずっとトリガレバー21が引かれており、その引かれた状態が時刻t
5まで続く。
図7(2)はプッシュレバー15の状態を示す図である。作業者は時刻t
1において、トリガレバー21を引くと同時にプッシュレバー15の先端(下端)を、釘を打ち込む対象物(被打込み材)に押し当てる。するとプッシュレバー操作92は、時刻t
1でオンになり釘の打ち込み動作が行われる。釘が打ち込まれるとその反動により打込機1の本体が被打込み材から離れる方向に移動するため、プッシュレバー15が時刻t
2においてオフになる。時刻t
2の時点では、釘の打ち込みが完了している。
【0043】
図7(3)は蓄圧室圧力93を示すものであり、縦軸は圧力(単位Pa)である。ここでは、エアプラグ58を介して外部のコンプレッサ(図示せず)から送られる圧縮空気を打撃のために用いるため、時刻t
1から
t2において蓄圧室50の圧力93が矢印93aのように低下する。しかしながら、その後すぐにエアプラグ58を介して圧縮空気が補充されるため、矢印93bにおいて所定の圧力Pに復帰する。
図7(4)は外部のコンプレッサからエアプラグ58を介して流入する空気の流量である。ここで時刻0〜t
1は、蓄圧室50が所定の高い圧力Pにあるため空気の流入はない。釘の打込
みが行われた時刻t
1~t
2及びt
2直後は、矢印94aのように空気が流入する。しかしながら、打込完了の時刻t
2から所定の時間、ここでは3秒程度だけ次の打撃が行われないで、そのままトリガレバー21を引いたままの状態が維持されたら、時刻t
3の直前ら
図4のように圧縮空気の一部が排気口82aから外部に排出され、その排出に伴う排気音が発せられる。この音は時刻t
3からt
4まで約4秒程度継続される。この時刻t
3からt
4までの間には、矢印94bのように外部のコンプレッサから圧縮空気が補充されるため、
図7(3)からわかるように蓄圧室50の圧力は、所定の圧力Pに維持される。よって、お知らせ音が発せられているときの打込みは正常に行うことができる。
【0044】
その後、時刻t
4においては、
図6にて示したようにエアプラグ58から蓄圧室50への流路が閉鎖されるため(4)のコンプレッサ流量94が矢印94cのようにゼロになる。同時に、
図5のOリング66cが大きく開放されるため蓄圧室50の空気が排出されて、蓄圧室圧力93が、(3)の矢印93cから93dのように急激に低下する。その後、作業者が時刻t
5においてトリガレバー21を離したら、再び
図2のようにリリーフバルブピストン65がトリガレバー21側に移動するため、矢印94dのようにエアプラグ58から蓄圧室50へ圧縮空気が流入する。その結果、蓄圧室圧力も(3)の矢印93eのように上昇し、時刻t
6にて次の打撃が可能な状況になる。
【0045】
図
7(5)は、リリーフバルブピストン65のフランジ部65aに作用する力、即ち、P×Sの大きさ95を示すグラフである。P
1は空気室73の圧力であり、Sはフランジ部65aの前面側の断面積である。ここでは、時刻t
3においてリリーフバルブピストン65の位置が
図5のように後退するため、空気が外部に漏れはじめると共に矢印95aのようにP×Sが大きくなる。そして時刻t
4にてエアプラグ58からの流入を阻止するための力P
1×Sに到達する。この状態は作業者がトリガレバー21を戻すまで維持され、時刻t
5でトリガレバー21が戻されると、第一スイッチ30付近を介して空気室73の空気が排出されるため、P×Sの大きさ95は矢印95bのように時刻t
5からt
6にかけて低下し、ゼロに戻る。時刻t
6においては、スプリング77の力だけがリリーフバルブピストン65にかかるため、リリーフバルブピストン65は
図2で示す元の位置に戻る。
【0046】
本実施例によれば、プッシュレバー15が第二の位置にあるときにトリガレバー21を引いたままの状態が第一の時間以上継続したらお知らせ音を発するようにし、そのお知らせ音が第二の時間だけ継続したら蓄圧室内の空気を外部に一気に排出させて蓄圧室の圧力を低下させるようにした。よって、作業者に対して
トリガレバー21を必要以上に引いたままにしないように意識を向けることができる。このお知らせ音によるお知らせ機能は、蓄圧室の空気の一部を排出することで鳴らしているので、電気的な構成要素を設ける必要が無い。しかも、従来の打込機のハンドル部の内部に接続パイプ61とリリーフバルブ機構60を設置することで比較的容易に実現できる。
【0047】
以上、本発明を実施例に基づいて説明したが、本発明は上述の実施例に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲内で種々の変更が可能である。例えば、上述の実施例では第一スイッチ30と第二スイッチ40の2つのトリガバルブ機構を用いたトリガ機構にてリリーフバルブ機構60を実現したが、トリガバルブ機構側の構成はそれだけに限られずに、トリガスイッチのON状態に連動して接続パイプ61に圧縮空気を導くようにできるトリガ機構であれば、いわゆる1バルブ方式のトリガ機構においても本願発明は同様に適用できる。また、上述の実施例ではリリーフバルブ機構60をハンドル部2bの内部であってエアプラグ58が取り付けられる箇所に配置したが、リリーフバルブ機構60を設ける位置は任意であり、エアプラグからの空気の流入と、蓄圧室の空気の排出を連動して制御できるリリーフ機構が実現できるならば上述の実施例以外の構成としても良い。
【0048】
また、上述した実施形態では報知手段として、圧縮空気の放出を利用した「音」を例示したが、他の報知手段、例えば、圧縮空気の排出経路に偏心したおもりを有する回動部材(羽根車等)を設け、圧縮空気の排出に伴い、本体(特にハンドル部)に振動(バイブレーション)が生じる構造としてもよく、また、小型の発電コイルを有する回動部材(羽根車等)を圧縮空気の排出経路に設け、回転により生じた起電力を用いて圧電ブザーやスピーカーから音を鳴ら
すことや、ユーザの見やすい位置に設けたLED等の発光により報知を行ってもよい。