特許第6575724号(P6575724)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6575724
(24)【登録日】2019年8月30日
(45)【発行日】2019年9月18日
(54)【発明の名称】合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 2/02 20060101AFI20190909BHJP
   B21B 1/22 20060101ALI20190909BHJP
   C21D 9/46 20060101ALI20190909BHJP
   C22C 18/04 20060101ALI20190909BHJP
   C22C 38/00 20060101ALI20190909BHJP
   C22C 38/02 20060101ALI20190909BHJP
   C22C 38/58 20060101ALI20190909BHJP
   C23C 2/06 20060101ALI20190909BHJP
   C23C 2/28 20060101ALI20190909BHJP
   C23C 2/40 20060101ALI20190909BHJP
   C22C 18/00 20060101ALI20190909BHJP
【FI】
   C23C2/02
   B21B1/22
   C21D9/46
   C22C18/04
   C22C38/00
   C22C38/02
   C22C38/58
   C23C2/06
   C23C2/28
   C23C2/40
   C22C18/00
【請求項の数】5
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2019-514332(P2019-514332)
(86)(22)【出願日】2018年11月13日
(86)【国際出願番号】JP2018042026
【審査請求日】2019年3月14日
(31)【優先権主張番号】特願2017-219159(P2017-219159)
(32)【優先日】2017年11月14日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【弁理士】
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(74)【代理人】
【識別番号】100188592
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 洋
(72)【発明者】
【氏名】松本 優
(72)【発明者】
【氏名】橋本 茂
(72)【発明者】
【氏名】西沢 晃一
【審査官】 祢屋 健太郎
(56)【参考文献】
【文献】 特開平06−306673(JP,A)
【文献】 特開2007−239012(JP,A)
【文献】 特開平02−145757(JP,A)
【文献】 特開平04−280953(JP,A)
【文献】 特開平11−323594(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 2/02
B21B 1/22
C21D 9/46
C22C 18/00
C22C 18/04
C22C 38/00
C22C 38/02
C22C 38/58
C23C 2/06
C23C 2/28
C23C 2/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で、C:0.001%以上0.350%以下と、Si:0.001%以上2.500%以下及びP:0.001%以上0.100%以下の少なくとも一方と、Mn:0.10%以上3.00%以下と、S:0.001%以上0.010%以下と、N:0.0010以上0.0065%以下と、sol.Al:0.001%以上0.800%以下とを含有し、残部がFe及び不純物である熱延酸洗後の鋼板において、鋼板の表面に、開口面の幅10μm以上25μm以下で深さ10μm以上30μm以下の溝を20μm以上500μm以下の間隔で形成する工程と、
前記溝が前記間隔で形成された前記鋼板を30%以上の圧延率で冷間圧延する工程と、
冷間圧延後の前記鋼板を還元焼鈍する工程と、
0.10質量%以上0.20質量%以下のAlを含有し、残部がZn及び任意成分である溶融亜鉛めっき浴に前記還元焼鈍後の鋼板を浸漬し、前記鋼板の表面に溶融亜鉛めっき層を付着させる工程と、
前記溶融亜鉛めっき層を付着させた前記鋼板を加熱し、前記鋼板と前記溶融亜鉛めっき層とを合金化処理する工程と、
を含む、合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
【請求項2】
前記鋼板は、質量%で、
Cr:0.01%以上0.50%以下、
Ti:0.01%以上0.10%以下、
V:0.01%以上0.10%以下、
Nb:0.01%以上0.10%以下、
Ni:0.01%以上1.00%以下、
Cu:0.01%以上1.00%以下、
Mo:0.01%以上1.00%以下、
B:0.0003%以上0.0050%以下の一種または二種以上を更に含有する、請求項1に記載の合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
【請求項3】
前記溝の形成パターンは、前記鋼板の通板方向又は板幅方向に延伸する線状パターンである、請求項1又は2に記載の合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
【請求項4】
前記溝は、前記鋼板の表面にレーザを照射することによって形成される、請求項1〜3の何れか1項に記載の合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
【請求項5】
前記溝は、溝に対応する突起が外周面に形成されたロールにて前記鋼板を圧延することによって形成される、請求項1〜3の何れか1項に記載の合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球規模で二酸化炭素の排出量を削減することが求められている。特に、化石燃料を多量に消費する自動車分野では、排ガス量を削減し、燃費を向上させるために、車体重量を軽量化することが求められている。一方で、従来から自動車分野では、自動車の安全性を向上させることが求められている。
【0003】
これらの要請を満たすために、自動車分野では、車体の軽量化及び安全性の向上を両立させる軽量かつ高強度な鋼板に対する需要が高まっている。
【0004】
例えば、自動車のクロスメンバー及びサイドメンバー等の構造部材において、薄肉化しても強度を確保することが可能な高張力鋼板を採用することが増加している。このような高張力鋼板として、例えば、安価な元素であるSi及びPの少なくとも一方の含有量を高めることで強度及び延性を向上させた鋼板が注目されている。
【0005】
一方、自動車の車体では、耐食性及び外観を向上させるために、合金化溶融亜鉛めっきなどを施しためっき鋼板を用いることが多い。しかしながら、Siは、Feと比較して易酸化性の元素であるため、焼純工程にて鋼板表面に濃化し易い。そのため、Si含有量が高い高張力鋼板にめっきを施した場合、濃化したSiによって、めっき密着性が低下したり、プレス成形等の後加工工程にてめっきの剥離が発生したりすることがあった。
【0006】
さらに、Si及びPは、合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造工程において、Feの拡散及びFe−Zn反応に関与することで、亜鉛めっきと鋼板との合金化を遅延させる作用がある。したがって、Si含有量が高い高張力鋼板を母材とする合金化溶融亜鉛めっき鋼板では、合金化速度が低下することで生産効率が低下していた。
【0007】
そこで、合金化溶融亜鉛めっき鋼板において、亜鉛めっきと鋼板との反応性を促進させる方法が種々検討されている。
【0008】
例えば、下記特許文献1には、ロール軸方向に研磨筋を付与したワークロールを用いてSi含有鋼板を冷間圧延することによって、Si含有鋼板の表面に残留応力を付与し、亜鉛めっきと、鋼板との反応性を向上させる技術が開示されている。
【0009】
しかし、上記の特許文献1に開示された技術では、鋼板を圧延する面に凹凸を設けたロールにて冷間圧延を行うため、冷間圧延における圧延率を高くすることが困難であった。そのため、特許文献1に開示された技術では、鋼板の表面に十分な残留応力を付与することができず、鋼板と亜鉛めっきとの合金化速度を十分に向上させることができないという問題があった。
【0010】
なお、PもSiと同様の特性を有する。すなわち、Pの含有量を高めることで強度及び延性を向上させることができる。しかし、Pも焼純工程にて鋼板表面に濃化し易い。そのため、P含有量が高い高張力鋼板にめっきを施した場合、濃化したPによって、めっき密着性が低下したり、プレス成形等の後加工工程にてめっきの剥離が発生したりすることがあった。
【0011】
そこで、鋼板の表面の結晶粒を微細化し、原子が拡散しやすい結晶粒界を鋼板の表面に多数存在させることで、合金化溶融亜鉛めっき鋼板の合金化速度を向上させることが検討されている。これによれば、合金化処理時に、結晶粒界を介して、鋼板中のFe及びめっき層中のZnの拡散が促進されるため、合金化溶融亜鉛めっき鋼板1の合金化速度を向上させることができる。
【0012】
鋼板の表面の結晶粒を微細化するためには、転位などの格子欠陥を結晶組織に導入させる塑性歪みを鋼板の表面に付与することが重要である。例えば、相当塑性歪み7程度の巨大な歪みを鋼板に付与した場合、鋼板の結晶組織では、付与された歪みを受け止めるために「grain subdivision」と呼ばれる機構が作用することで結晶粒が分断され、ナノレベルの微細な結晶粒が生成される。
【0013】
このような巨大な塑性歪みを鋼板に付与するには、例えば、熱延酸洗後(すなわち、冷間圧延前)の鋼板に対して、ロールブラシ等によって鋼板の表面を一様に研削することが考えられる。しかしながら、このような研削では、鋼板の表面に十分な深さの凹凸を形成することができない。そのため、上記のロールブラシ等による研削では、微細な結晶粒の形成に十分な歪みを冷間圧延後の鋼板の表面に付与することは困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開平7−90529号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
そこで、本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、本発明の目的とするところは、亜鉛めっきと、鋼板との合金化速度をより向上させることが可能な、新規かつ改良された合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記課題を解決するために、本発明のある観点によれば、質量%で、C:0.001%以上0.350%以下と、Si:0.001%以上2.500%以下及びP:0.001%以上0.100%以下の少なくとも一方と、Mn:0.10%以上3.00%以下と、S:0.001%以上0.010%以下と、N:0.0010以上0.0065%以下と、sol.Al:0.001%以上0.800%以下とを含有し、残部がFe及び不純物である熱延酸洗後の鋼板において、鋼板の表面に、開口面の幅10μm以上25μm以下で深さ10μm以上30μm以下の溝を20μm以上500μm以下の間隔で形成する工程と、前記溝が前記間隔で形成された鋼板を30%以上の圧延率で冷間圧延する工程と、冷間圧延後の鋼板を還元焼鈍する工程と、0.10質量%以上0.20質量%以下のAlを含有し、残部がZn及び任意成分である溶融亜鉛めっき浴に還元焼鈍後の鋼板を浸漬し、鋼板の表面に溶融亜鉛めっき層を付着させる工程と、溶融亜鉛めっき層を付着させた鋼板を加熱し、鋼板と溶融亜鉛めっき層とを合金化処理する工程と、を含む、合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法が提供される。
【0017】
鋼板は、質量%で、
Cr:0.01%以上0.50%以下、
Ti:0.01%以上0.10%以下、
V:0.01%以上0.10%以下、
Nb:0.01%以上0.10%以下、
Ni:0.01%以上1.00%以下、
Cu:0.01%以上1.00%以下、
Mo:0.01%以上1.00%以下、
B:0.003%以上0.0050%以下、の一種または二種以上を更に含有してもよい。
【0018】
溝の形成パターンは、鋼板の通板方向又は板幅方向に延伸する線状パターンであってもよい。
【0019】
溝は、鋼板の表面にレーザを照射することによって形成されてもよい。
【0020】
溝は、溝に対応する突起が外周面に形成されたロールにて鋼板を圧延することによって形成されてもよい。
【発明の効果】
【0021】
以上説明したように本発明によれば、冷間圧延後の鋼板の表面に巨大な歪みを局所的に蓄積させることができるため、当該歪みを蓄積させた領域の結晶粒を、合金化速度が速い超微細結晶粒とすることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本開示の一実施形態に係る製造方法にて製造される合金化溶融亜鉛めっき鋼板を厚み方向に切断した断面の一部を示す模式図である。
図2A】表面加工工程において、鋼板の表面に形成される溝を模式的に示した断面図である。
図2B】表面加工工程において、鋼板の表面に形成される溝を模式的に示した断面図である。
図2C】表面加工工程において、鋼板の表面に形成される溝を模式的に示した断面図である。
図3】鋼板の表面に形成される溝の深さと合金化完了に要する時間の関係を示したグラフである。
図4】鋼板の表面に形成される溝の間隔と合金化完了に要する時間の関係を示したグラフである。
図5】鋼板の表面に形成される溝の幅と合金化完了に要する時間の関係を示したグラフである。
図6】表面加工工程において、鋼板の表面に形成される溝の平面パターンの一例を模式的に示した平面図である。
図7】表面加工工程において、鋼板の表面に形成される溝の平面パターンの他の例を模式的に示した平面図である。
図8】表面加工工程において、鋼板の表面に形成される溝の平面パターンの他の例を模式的に示した平面図である。
図9】表面加工工程において、鋼板の表面に形成される溝の平面パターンの他の例を模式的に示した平面図である。
図10】表面加工工程において、鋼板の表面に形成される溝の平面パターンの他の例を模式的に示した平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0024】
<1.本発明の概要>
まず、図1を参照して、本発明の一実施形態に係る合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法の概要について説明する。図1は、本実施形態に係る方法にて製造される合金化溶融亜鉛めっき鋼板を厚み方向に切断した断面の一部を示す模式図である。
【0025】
本実施形態に係る合金化溶融亜鉛めっき鋼板1の製造方法では、熱延酸洗後の鋼板10の表面に、開口面の幅10μm以上25μm以下で深さ10μm以上30μm以下の溝を20μm以上500μm以下の間隔で形成する工程の間隔で形成する。
【0026】
このような大きな起伏を有する凹凸が表面に高密度で形成された鋼板10では、冷間圧延において、凹凸を平坦化するために鋼が大きく流動するため、流動した鋼に巨大な歪みが蓄積される。これにより、冷間圧延の工程自体によって鋼板10の表面に局所的に巨大な歪みを付与することができるため、歪みが蓄積された領域の鋼板10の結晶粒を分断し、より微細化することができる。したがって、本実施形態に係る合金化溶融亜鉛めっき鋼板1の製造方法によれば、結晶粒の微細化によって、Fe及びZnの相互拡散を促進させる結晶粒界をより多く形成することができる。さらに、各々の結晶粒の方位はランダムとなっている。このため、めっき層20と鋼板10との合金化速度を向上させることができる。
【0027】
以下では、上記で概要を説明した本実施形態に係る合金化溶融亜鉛めっき鋼板1の構成及び製造方法について、具体的に説明する。
【0028】
<2.溝の表面加工工程>
ここで、図2図6を参照して、鋼板10の表面10aに溝を形成する場合について具体的に説明する。
【0029】
図2A図2Cは、表面加工工程において、鋼板10の表面に形成される溝を模式的に示した断面図である。図2A図2Cの断面図は、図7の切断線a−a´により切断された切断面を示す図である。
【0030】
図2Aに示すように、鋼板10の表面には、所定の間隔Gを空けて、深さD及び開口面の幅Wの溝11が形成される。なお、溝11の底部の断面形状は、図2Bのように曲線形状であってもよく、図2Cのように1又は2以上の頂点を有する折れ線形状であってもよい。
【0031】
溝11の深さDは、例えば、溝11の底面と、鋼板10の表面との鋼板10の厚み方向における距離に対応する。ここで、溝11の深さDは、例えば寸法測定機能を有する市販のマイクロスコープによって測定される。例えば、キーエンス社製マイクロスコープVR-3000を用い、鋼板の幅方向を4等分した位置でそれぞれ倍率40倍で測定し、溝の深さの平均値を深さDとしてもよい。
【0032】
溝11の隣接する開口面の間隔Gは、隣接する溝11の開口部の端部間距離である。ここで、溝11の間隔Gは、例えば寸法測定機能を有する市販のマイクロスコープによって測定される。例えば、キーエンス社製マイクロスコープVR-3000を用い、鋼板の溝11の長さ方向の任意の箇所でそれぞれ倍率40倍で間隔Gを測定し、それらの平均値を間隔Gとしてもよい。
【0033】
溝11の幅Wは、溝11の開口幅に対応する。すなわち、溝11の幅Wは、開口面の幅方向の長さである。ここで、幅方向は、溝11の延伸方向(長さ方向)に垂直な面方向(鋼板10の表面に平行な方向)である。溝11の面方向の長さが略同一の場合(すなわち、延伸方向が定義できない場合。例えば、溝11の開口面が円形となる場合)、任意の面方向を幅方向としてもよい。溝11の幅Wは、例えば寸法測定機能を有する市販のマイクロスコープによって測定される。例えば、キーエンス社製マイクロスコープVR-3000を用い、鋼板の長さ方向の任意の箇所でそれぞれ倍率40倍で幅Wを測定し、それらの平均値を幅Wとしてもよい。
【0034】
表面加工工程では、熱延酸洗後の鋼板10の表面に、開口面の幅10μm以上25μm以下で深さ10μm以上30μm以下の溝を20μm以上500μm以下の間隔で(すなわち、従来のようにロールブラシ等によって鋼板の表面を一様に研削する製法と比べて、より高密度で形成する。これにより、後段の冷延工程において鋼板10の表面での鋼の流動を促進し、鋼板10の表面に巨大な歪み(塑性歪み)を付与する。これによれば、巨大な歪みを付与した領域の結晶粒を分断してより微細化させ、Fe及びZnの相互拡散を促進させる結晶粒界をより多く形成させることができる。さらに、
本実施形態の製造方法によれば、冷延前に上述の溝を設けることで、溝のあった領域に冷延後に従来の製造方法よりも巨大な歪みを付与することができる。これにより、従来の製造方法であれば鋼板表面の研削された領域の結晶粒が[001]面を有することとなるのに対し、本実施形態における溝のあった領域の各々の結晶粒の方位はランダムとなっている。このため、めっき層20と鋼板10との合金化速度を向上させることができる。
【0035】
図3は熱延酸洗後の鋼板10の表面に形成される溝の深さと合金化完了時間及び外観の関係を示したものである。鋼板10の組成によっても合金化時間は異なるため、ここでは後述する表1Aの鋼種Aを用いた。合金化完了時間は520℃にて合金化処理を行い、めっき層中のFe濃度が4g/mに達するまでの時間と定義した。凹凸の表面加工を施していない同一成分の鋼板の合金化完了時間に対して表面加工を施した鋼板の合金化完了時間が短縮した割合を合金化時間短縮率とし、20%以上を合格とした。外観は、5点満点で、5点:全く筋模様がない、4点:極稀に僅かな筋模様が存在するが、外観上は問題ないもの、3点:明確な筋模様が存在し、外観上問題があるもの、2点:明確な筋模様がかなりの頻度で存在するもの、1点:ほぼ全面に筋模様が存在するもの、とし、4点以上を合格とした。深さが10μm未満である場合、外観は良好だが合金化時間の短縮が不十分である。これは、冷延工程後の鋼板10の表面に十分な歪みを付与することができないためと推定される。深さが10μm以上30μm以下である場合、外観も合格であり、合金化時間短縮率も合格である。深さが30μm超である場合、合金化時間短縮率は合格であるが、外観が不合格である。これは、冷間圧延の負荷が大きくなり、かつ鋼板10の表面に形成された溝を十分に平坦化することができなくなるためと考えられる。以上より、本実施形態において、鋼板10の表面に形成される溝の深さは、10μm以上30μm以下であり、好ましくは15μm以上25μm以下である。
【0036】
図4は後述する表1Aの鋼種Aの熱延酸洗後の鋼板10の表面に形成される溝の間隔と合金化完了時間及び外観の関係を示したものである。溝の間隔Gが20μm未満である場合、外観及び合金化時間短縮率がいずれも不合格である。これは、鋼板10の表面に形成された溝を冷間圧延によって十分に平坦化することができなくなり、鋼板10の表面に十分な歪が形成されなくなるためと推定される。溝の間隔Gが20μm以上500μm以下では外観、合金化時間短縮率とも合格である。溝の間隔Gが500μm超である場合、外観は合格であるが、合金化時間短縮率が十分ではない。これは、鋼板10の表面に占める溝の面積率が小さく、冷間圧延後に歪みが蓄積された領域が少なくなるためと考えられる。以上より、本実施形態において、鋼板10の表面に形成される溝の間隔の下限値は、20μm以上であり、好ましくは50μm以上であり、より好ましくは100μm以上である。溝の間隔の上限値は、500μm以下であり、好ましくは300μm以下であり、より好ましくは200μm以下である。
【0037】
図5は後述する表1Aの鋼種Aの熱延酸洗後の鋼板10の表面に形成される溝の開口面の幅W(以下、単に「幅」とも称する)と合金化完了時間及び外観の関係を示したものである。溝の幅Wが10μm未満である場合、外観は合格であるが、合金化時間短縮率が十分ではない。これは後段の冷延工程時の鋼の流動が不十分となることで、冷延工程後の鋼板10の表面に十分な歪みを付与することができないためと推定される。溝の幅Wが10μm以上25μm以下である場合、外観、合金化時間短縮率とも合格である。溝の幅Wが25μm超の場合、合金化時間短縮率、外観ともに不合格である。これは、冷間圧延によって溝を十分に平坦化することができなくなり、蓄積される歪が小さく、かつ合金化溶融亜鉛めっき鋼板1の表面の平坦性及び均一性も低下するためである。以上より本実施形態において、熱延酸洗後の鋼板10の表面に形成される溝の幅Wは、10μm以上25μm以下である。下限値は、好ましくは10μm以上であり、上限値は、好ましくは20μm以下である。
【0038】
図6図10は、表面加工工程において、鋼板10の表面に形成される溝11の平面パターンの一例を模式的に示した平面図である。なお、図6図10では、X方向が鋼板10の通板方向であり、Y方向が鋼板10の板幅方向である。
【0039】
図6に示すように、鋼板10の表面に形成される溝11の平面パターンは、鋼板10の圧延方向に対して角度θ傾斜した方向に延伸する線状パターンであってもよい。このような溝11は、例えば、らせん状の凸形状をもったロールにて鋼板10を圧延することで容易に形成することが可能である。ただし、連続溶融亜鉛めっきラインでの鋼板10の蛇行を避けるため、鋼板の通板方向又は板幅方向に延伸する線状パターンであってもよい。
【0040】
図7に示すように、鋼板10の表面に形成される溝11の平面パターンは、鋼板10の通板方向に延伸する線状パターンであってもよい。このような溝11は、例えば、一定の速度で搬送される鋼板10の所定の位置にレーザを照射し続けることで容易に形成することが可能である。
【0041】
図8に示すように、鋼板10の表面に形成される溝11の平面パターンは、鋼板10の通板方向に延伸し、所定の延伸距離ごとに分断されたパターンであってもよい。このような溝11は、例えば、一定の速度で搬送される鋼板10の所定の位置に間欠的にレーザを照射することで容易に形成することが可能である。
【0042】
図9に示すように、鋼板10の表面に形成される溝11の平面パターンは、鋼板10の板幅方向に延伸する線状パターンであってもよい。このような溝11は、例えば、歯車形状のロールにて鋼板10を圧延することで容易に形成することが可能である。
【0043】
図10に示すように、鋼板10の表面に形成される溝11の平面パターンは、互い違いに配置された円形状又は楕円形状の二次元向パターンであってもよい。このような溝11は、溝11が形成される面積を大きくすることが容易であるため、鋼板10のより広い領域に歪みを付与することが可能である。
【0044】
<3.鋼板の組成>
まず、合金化溶融亜鉛めっき鋼板1の母材である鋼板10の組成について説明する。以下では特に断りがない限り、「%」とは、「質量%」を示し、鋼板10の各成分の割合は、鋼板10の総質量に対する割合で示す。鋼板10は、以下で説明する各成分のうち、Cと、Si及びPのうち少なくとも一方と、Mnと、Sと、Nと、sol.Alとを含み、他の成分を任意成分として含む。任意成分の好ましい含有量は後述するが、任意成分の含有量は0%であってもよい。鋼板10に含まれうる下記の成分以外の残部は、鉄(Fe)及び不可避的不純物である。
【0045】
(C:0.001%以上0.350%以下)
C(炭素)は、鋼中に必然的に含有される元素である。Ti(チタン)及びNb(ニオブ)等が添加された極低炭素鋼板では、加工性を重視するため、C含有量は少ないほどよい。ただし、C含有量を過度に少なくした場合、鋼中の介在物が増加することで、鋼板10の伸び性に悪影響を及ぼすため、鋼板10中のC含有量の下限は0.001%とする。また、Cは、鋼板10の強度の増加に寄与する元素である。例えば、鋼板の引張強度を340MPa以上にするためには、C含有量は、0.010%以上とすることが好ましい。しかし、C含有量が0.350%を超える場合、鋼板10の溶接性が劣化するため、C含有量の上限は、0.350%とする。したがって、鋼板10中のC含有量は、0.001%以上0.350%以下である。下限値は、好ましくは0.010%以上であり、上限値は、好ましくは0.250%以下である。
【0046】
(Si:0.001%以上2.500%以下)
Si(ケイ素)は、鋼板10の延性を維持又は増加させつつ、かつ鋼板10の強度を向上させる元素である。Si含有量が0.001%未満である場合、鋼板10に対して要求される引張強度を実現することが困難になる場合があるため、鋼板10中のSi含有量の下限は、0.001%以上であることが好ましい。また、Si含有量が2.500%を超える場合、本発明を適用しても十分な合金化速度の向上が得られなくなる場合があるため、鋼板中のSi含有量の上限は、2.500%以下であることが好ましい。また、TRIP(Transformation Induced Plasticity)効果によって延性をさらに増加させるためには、鋼板10中のSi含有量は、0.300%以上とすることが好ましく、0.600%以上とすることがより好ましい。したがって、鋼板10中のSi含有量は、0.001%以上2.500%以下であり、好ましくは0.300%以上2.500%以下であり、より好ましくは0.600%以上2.500%以下である。
【0047】
(P:0.001%以上0.100%以下)
P(リン)は、固溶強化元素であり、鋼板10の強度の増加に有効であるものの、Siと同様に、亜鉛めっきと鋼板10との合金化を遅延させる元素である。鋼板10中のP含有量が0.001%未満である場合、鋼板10に対して要求される引張強度を実現することが困難になる場合があるため、好ましくない。また、鋼板10中のP含有量が0.100%を超える場合、本発明を適用しても十分な合金化速度の向上が得られなくなる場合があるため、好ましくない。したがって、鋼板10中のP含有量は、0.001%以上0.100%以下であることが好ましい。
【0048】
(Mn:0.10%以上3.00%以下)
Mn(マンガン)は、鋼板10の強度増加に寄与する元素である。例えば、鋼板10の引張強度を340MPa以上にするためには、鋼板10中のMn含有量は、0.10%以上とすることが好ましい。ただし、Mn含有量が3.00%を超える場合、転炉における鋼の溶解及び精錬が困難になり、かつ鋼板10の溶接性が劣化する可能性があるため、鋼板10中のMn含有量は、3.00%以下とすることが好ましい。したがって、鋼板10の曲げ性の低下を抑制し、かつ鋼板10の強度を増加させるためには、鋼板10中のMn含有量は、0.10%以上3.0%以下とすることが好ましい。なお、鋼板10の引張強度を980MPa以上にするためには、鋼板10中のMn含有量は、例えば、1.80%以上3.00%以下とすることが好ましい。
【0049】
(S:0.001%以上0.010%以下)
S(硫黄)は、鋼中に含有される不純物元素である。鋼板10の曲げ性及び溶接性を維持する観点から、鋼板10中のS含有量は少ないほど好ましい。鋼板10中のS含有量は、好ましくは0.010%以下であり、より好ましくは0.005%以下であり、さらに好ましくは0.003%以下である。ただし、不純物である硫黄を必要以上に除去することは鋼板10の製造コストを増加させることになるため、鋼板10中のP含有量の下限は0.001%以上であることが好ましい。
【0050】
(N:0.0010以上0.0065%以下)
N(窒素)は、鋼中に含有される不純物元素である。鋼板10の曲げ性を維持する観点から、鋼板10中のN含有量は少ないほど好ましい。鋼板10中のN含有量は、好ましくは0.0065%以下であり、より好ましくは0.0040%以下である。ただし、不純物である硫黄を必要以上に除去することは鋼板10の製造コストを増加させることになるため、鋼板10中のP含有量の下限は0.0010%以上であることが好ましい。
【0051】
(sol.Al:0.001%以上0.800%以下)
Al(アルミニウム)は、鋼の脱酸工程で添加される元素であり、鋼板10中にはsol.Al(酸可溶性アルミニウム)として含有される。Alは、炭窒化物を形成するTi等の元素の歩留まりを向上させるために有効な元素であるが、鋼板10中のSi含有量が0.2%以上である場合、必ずしも含有しなくともよい。これは、鋼板10中のSiを十分に内部酸化させるためには、酸素を消費するsol.Al含有量は少ない方が好ましいためである。鋼板10中のsol.Al含有量は、好ましくは0.800%以下であり、より好ましくは0.500%以下であり、さらに好ましくは0.010%未満である。ただし、脱酸材として添加されるAlを必要以上に除去することは鋼板10の製造コストを増加させることになるため、鋼板10中のP含有量の下限は0.001%以上であることが好ましい。
【0052】
(他の任意成分)
Cr(クロム)、Ti(チタン)、V(バナジウム)、Nb(ニオブ)、Ni(ニッケル)、Cu(銅)、Mo(モリブデン)及びB(ホウ素)は、必要に応じて、鋼板10中に1種又は2種以上含有されてもよい。これらの元素を鋼板10中に含有させることにより、例えば、鋼板10の強度、穴広げ性又は伸び性等の諸特性を向上させることができる。
【0053】
ただし、これらの元素は、所定量にて特性向上の効果が飽和してしまうため、所定量を超えて鋼板10に含有させることは、鋼板10の製造コストを増加させることになる。そのため、好ましくは、Cr含有量は0.50%以下としてもよく、Ti含有量は0.10%以下としてもよく、V含有量は0.10%以下としてもよく、Nb含有量は0.10%以下としてもよく、Ni含有量は1.00%以下としてもよく、Cu含有量は1.00%以下としてもよく、Mo含有量は1.00%以下としてもよく、B含有量は0.0050%以下としてもよい。また、上述した鋼板10の強度、穴広げ性又は伸び性等の諸特性を向上させる効果を確実に得るためには、好ましくは、Cr含有量は0.01%以上としてもよく、Ti含有量は0.01%以上としてもよく、V含有量は0.01%以上としてもよく、Nb含有量は0.01%以上としてもよく、Ni含有量は0.01%以上としてもよく、Cu含有量は0.01%以上としてもよく、Mo含有量は0.01%以上としてもよく、B含有量は0.0003%以上としてもよい。
【0054】
<4.製造方法>
次に、本実施形態に係る合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法について説明する。
【0055】
まず、上述した組成を有する鋼スラブを用意し、用意した鋼スラブを熱間圧延によって鋼板10とする。続いて、熱間圧延した鋼板10を酸洗し、酸化物等を除去した熱延酸洗後の鋼板10に対して、以下の工程を順次施すことにより、本実施形態に係る合金化溶融亜鉛めっき鋼板1を製造することができる。なお、熱間圧延及び酸洗の条件については、公知の一般的な条件を採用することができるため、ここでの説明は省略する。
【0056】
表面加工工程:鋼板10の表面に溝を形成する工程
冷延工程:溝を形成する鋼板10を冷間圧延する工程
焼鈍工程:冷間圧延した鋼板10を焼鈍する工程
めっき工程:焼鈍した鋼板10を溶融亜鉛めっき浴へ浸漬し、鋼板10の表面にめっき層20を形成する工程
合金化工程:めっき層20が形成された鋼板10を加熱し、鋼板10とめっき層20とを合金化する工程
【0057】
(表面加工工程)
前述で記載のため、ここでの説明は省略する。
【0058】
(冷延工程)
冷延工程では、表面加工工程によって表面に溝が形成された鋼板10を冷間圧延する。具体的には、熱間圧延よりも低い温度下で、溝が形成された鋼板10を圧延することで、鋼板10をさらに薄板化する。これにより、鋼板10の表面に形成された溝が圧延によって平坦化され、鋼板10の平坦化のために流動した鋼に局所的に巨大な歪みが付与されることで、歪みが付与された領域の鋼板10の結晶粒が分断され、より微細化される。
【0059】
本実施形態では、冷間圧延における鋼板10の圧延率は、30%以上である。冷間圧延における鋼板10の圧延率が30%未満である場合、鋼板10の表面に形成された溝を冷間圧延によって十分に平坦化することができず、合金化溶融亜鉛めっき鋼板1の表面の平坦性及び均一性が低下するため好ましくない。合金化溶融亜鉛めっき鋼板1の表面の平坦性及び均一性を向上させるためには、冷間圧延における鋼板10の圧延率は、好ましくは50%以上としてもよい。
【0060】
(焼鈍工程)
焼鈍工程では、冷間圧延された鋼板10を還元雰囲気下で焼鈍する。焼鈍時の雰囲気は、例えば、水素濃度が3体積%以上12体積%以下であり、露点が−40℃以上20℃以下である窒素−水素混合の還元雰囲気としてもよい。焼鈍時の雰囲気の水素濃度を低くすることにより、露点の上昇を緩和できるため、雰囲気の水素濃度は、3体積%以上12体積%以下とすることが好ましく、8体積%以下とすることがより好ましい。また、焼鈍時の雰囲気の露点の下限値は、−30℃以上が好ましく、−20℃以上がより好ましい。露点の上限値は、10℃以下が好ましい。なお、焼鈍時の雰囲気には、さらに不純物ガスとして、HO、CO、CO、CH等が微量含まれていてもよい。
【0061】
焼鈍時の温度は、焼鈍工程で一般的な温度であればよく、例えば、700℃以上850℃以下の温度としてもよい。焼鈍時の温度における保持時間は、焼鈍工程で一般的な時間であればよく、例えば、30秒以上150秒以下としてもよい。このような焼鈍工程を経ることによって、巨大な歪みが付与された鋼板10の表面の領域では、結晶粒が微細化し、原子の拡散速度が速い結晶粒界が多く形成される。これによれば、後段の合金化工程において、鋼板10とめっき層20との界面におけるFe及びZnの拡散が促進されるため、合金化溶融亜鉛めっき鋼板1の合金化速度を向上させることができる。
【0062】
(めっき工程)
めっき工程では、めっき浴の総質量に対して0.10%以上0.20%以下のAlを少なくとも含有し、残部がZnである溶融亜鉛めっき浴へ、還元焼鈍後の鋼板10を浸漬することで、鋼板10の表面(例えば、両主面)にめっき層20を形成する。
【0063】
ただし、めっき浴中のAl濃度が0.10%未満である場合、鋼板10がめっき浴に浸漬している間に、鋼板10とめっき層20との合金化が進行することで、めっき付着量の制御が困難になる可能性がある。また、めっき浴中のAl濃度が0.10%未満である場合、めっき浴を保持するポット底部にボトムドロス(例えば、FeZnなど)が形成され易くなる。このような場合、形成されたドロスが鋼板10に付着することで、めっき層20に欠陥が生じやすくなるため、合金化溶融亜鉛めっき鋼板1の歩留まりが大きく低下してしまう。したがって、めっき浴中のAl濃度は、0.10%以上とし、好ましくは0.15%以上とする。一方、めっき浴中のAl濃度が0.20%を超える場合、鋼板10とめっき層20との合金化速度が大幅に低下することで、めっき工程の操業効率が低下してしまう。よって、めっき浴中のAl濃度は、0.20%以下とする。
【0064】
なお、めっき浴中には、上述したAl以外に、不純物であるFe並びに任意成分であるPb、Cd、Sb、Cr、Ni、W、Ti、Mg又はSiがそれぞれ0.1%以下で含有されていてもよい。なお、これら各成分は、本発明の効果には影響を及ぼさない。
【0065】
めっき浴の浴温は、例えば、440℃以上470℃以下としてもよい。また、めっき浴に浸漬する鋼板10は、めっき浴の温度を安定させる観点から、浴温±20℃以内の温度になるように加熱されていてもよい。
【0066】
(合金化工程)
合金化工程では、めっき層20が形成された鋼板10を、例えば、450℃以上600℃以下の温度で加熱することで、鋼板10とめっき層20との合金化を進行させる。ただし、鋼板10及びめっき層20を高温で合金化させた場合、硬度が高いFeZn合金であるΓ相及びΓ相が形成され易いため、耐パウダリング性が低下する可能性がある。したがって、鋼板10の加熱温度は、好ましくは600℃以下であり、より好ましくは550℃以下であり、さらに好ましくは530℃以下である。鋼板10の加熱温度の下限は、特に限定されないが、例えば、450℃としてもよい。合金化工程において、鋼板10を加熱する手段は、特に制限されず、輻射加熱、高周波誘導加熱、又は通電加熱等のいずれを用いることも可能である。めっき層20には、鋼板10から拡散したFeが含有されるが、めっき層20中の平均Fe濃度は、8%以上15%以下であることが好ましい。
【0067】
なお、上述しためっき層20中の各成分の平均濃度は、めっき層20の総質量に対する各成分の割合である。各成分の平均濃度は、例えば、めっき層20を酸などで溶解した溶液をICP−AES(Inductively Coupled Plasma−Atomic Emission Spectrometry)等を用いて分析することで算出することができる。
【0068】
なお、合金化溶融亜鉛めっき鋼板1におけるめっき層20の付着量は、特に限定されないが、既存の設備で容易に調整可能な、片面あたり30g/m以上とすることが好ましい。また、めっき層20の付着量は、耐パウダリング性を大きく低下させないために、片面あたり70g/m以下とすることが好ましい。したがって、合金化溶融亜鉛めっき鋼板1のめっき層20の付着量は、好ましくは片面あたり30g/m以上70g/m以下である。付着量の下限値は、好ましくは片面あたり40g/m以上であり、付着量の上限値は、好ましくは60g/m以下である。
【0069】
以上の工程を経ることで、合金化溶融亜鉛めっき鋼板1を製造することができる。合金化溶融亜鉛めっき鋼板1では、原子の拡散速度が速い結晶粒界が鋼板10の表面に多く存在するため、Fe及びZnの拡散を促進させることで、鋼板10及びめっき層20の合金化速度を向上させることができる。
【0070】
本実施形態によれば、鋼板10及びめっき層20の合金化速度を向上させることで、合金化溶融亜鉛めっき鋼板1の生産性を向上させ、製造ラインにおける消費エネルギーを削減することができる。また、本実施形態によれば、鋼板10とめっき層20との間で未合金化の領域を低下させることができるため、合金化溶融亜鉛めっき鋼板1の歩留まりを改善すると共に、鋼板10とめっき層20との密着性を向上させることができる。
【0071】
なお、合金化溶融亜鉛めっき鋼板1のめっき層20上には、クロム酸処理、リン酸塩処理、又は樹脂皮膜塗布などの公知の後処理が施されてもよい。また、合金化溶融亜鉛めっき鋼板1の最表面(すなわち、合金化溶融亜鉛めっき鋼板1のめっき層20の表面、又は後処理被膜の表面)には、防錆油が塗付されてもよい。合金化溶融亜鉛めっき鋼板1の最表面に塗付される防錆油は、市販の一般的な防錆油を用いてもよいが、S又はCaを含有した高潤滑性防錆油を用いてもよい。
【実施例】
【0072】
以下では、実施例及び比較例を参照しながら、本発明の一実施形態に係る合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法について、より具体的に説明する。なお、以下に示す実施例は、あくまでも一条件例であり、本発明が以下の実施例に限定されるものではない。
【0073】
まず、以下の表1A〜表1Bで示す各成分を含有し、残部がFe及び不可避的不純物である鋼を鋳造し、板厚30mmのスラブに加工した。続いて、作製したスラブを大気中にて1250℃で1時間保持した後、粗圧延及び仕上げ圧延を含む熱間圧延を行った。なお、仕上げ圧延は950℃で行い、熱間圧延後の鋼板の仕上げ厚みは、2.5mmとした。次に、熱間圧延した鋼板を酸洗した後、熱延酸洗鋼板の表面に、レーザ加工を用いて、以下の表2A〜表2Bに示すパターンの溝を形成した後、板厚1.2mmとなるように冷間圧延を行った。溝の深さ、間隔、及び幅は上述した方法により測定した。
【0074】
続いて、冷間圧延した鋼板を75℃のNaOH溶液で脱脂洗浄した後、N+3体積%〜8体積%H、かつ露点−40℃の還元雰囲気中で、800℃にて60秒間、還元焼鈍した。焼鈍後、溶融亜鉛めっき浴の浴温(455℃)近傍まで、15℃/sにて鋼板を冷却した後、0.135%のAlを含有する溶融亜鉛めっき浴に鋼板を浸漬した。鋼板をめっき浴に3.0秒間浸漬した後、ワイピング方式によりめっき付着量を片面あたり50g/mに調整した。
【0075】
次に、めっき鋼板に対して、通電加熱装置を用いて520℃にて合金化処理を行い、めっき層中のFe濃度が4g/mに達するまでの目安時間を計測することで、合金化時間を測定した。なお、冷却には、空冷方式を用いた。実施例及び比較例の各々における合金化時間の測定結果を表2A〜表2Bに示す。
【0076】
さらに、合金化溶融亜鉛めっき鋼板の外観を目視で評価した。具体的には、5点満点で、5点:全く筋模様がない、4点:極稀に僅かな筋模様が存在するが、外観上は問題ないもの、3点:明確な筋模様が存在し、外観上問題があるもの、2点:明確な筋模様がかなりの頻度で存在するもの、1点:ほぼ全面に筋模様が存在するもの、とし、4点以上を合格とした。
【0077】
以下の表2A〜表2Bにて実施例及び比較例の各々の製造条件と評価結果を示す。
【0078】
【表1A】
【0079】
【表1B】
【0080】
【表2A】
【0081】
【表2B】
【0082】
表2A〜表2Bに示す結果からわかるように、本実施形態に係る合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法を用いた実施例1〜24では、表面加工を施していない比較例1、8〜21と比較して、合金化完了時間が20%以上短縮しており、合金化速度が向上していることがわかる。鋼板の組成が共通している実施例1〜10を比較すると深さと間隔がともに好ましい範囲内の値となっている実施例5、6で合金化時間が特に短く、外観がもっとも良好となっている。
【0083】
具体的には、熱延酸洗後の鋼板に溝を形成していない比較例1及び8〜21は、実施例1〜24と比較して合金化時間が短縮されていないことがわかる。また、本実施形態に係る合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法とは溝の深さ又は間隔又は開口部の幅のいずれかが異なる比較例2〜7は、実施例1〜24と比較して合金化時間が20%以上短縮されていない。
【0084】
さらに、比較例4では、溝の深さに対して間隔が狭いため、冷間圧延後に溝が残留した。このため、溶融亜鉛めっき鋼板の外観が不良になる程度の縞模様が形成された。さらに、十分なひずみ蓄積にも至らず合金化促進効果も低減し、合金化時間が長くなった。比較例5では、溝の間隔が広すぎるため、外観が不良になる程度の縞模様が形成された。さらに、溝の間隔が広すぎるため、十分な塑性歪みを付与された領域の面積割合が小さすぎ、合金化時間が長くなった。比較例2では、溝が浅すぎるため、十分な塑性歪みが付与されず、合金化時間が長くなった。比較例3は溝が深すぎて冷間圧延後に溝が残留した。このため、溶融亜鉛めっき鋼板の外観が不良になる程度の縞模様が形成された。比較例6では、溝の開口面の幅が狭すぎるため、表面に十分な歪みを付与することができず、合金化時間が長くなった。比較例7は溝の開口面の幅が広すぎるため、冷間圧延後に大きな歪が生じにくく、冷間圧延後に溝が残留した。このため、溶融亜鉛めっき鋼板の外観が不良になる程度の縞模様が形成し合金化時間の短縮もしなかった。
【0085】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例又は修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【符号の説明】
【0086】
1 合金化溶融亜鉛めっき鋼板
10 鋼板
11 溝
20 めっき層
【要約】
【課題】亜鉛めっきと、鋼板との合金化をより促進させることが可能な合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法を提供する。
【解決手段】質量%で、C:0.001%以上0.350%以下と、Si:0.001%以上2.500%以下及びP:0.001%以上0.100%以下の少なくとも一方と、Mn:0.10%以上3.00%以下と、S:0.001%以上0.010%以下と、N:0.0010以上0.0065%以下と、sol.Al:0.001%以上0.800%以下とを含有し、残部がFe及び不純物である熱延酸洗後の鋼板において、鋼板の表面に、開口面の幅10μm以上25μm以下で深さ10μm以上30μm以下の溝を20μm以上500μm以下の間隔で形成する工程と、前記鋼板を30%以上の圧延率で冷間圧延する工程と、冷間圧延後の前記鋼板を還元焼鈍する工程と、0.10質量%以上0.20質量%以下のAlを含有し、残部がZn及び任意成分である溶融亜鉛めっき浴に鋼板を浸漬し、前記鋼板の表面に溶融亜鉛めっき層を付着させる工程と、前記溶融亜鉛めっき層を付着させた前記鋼板を加熱し、前記鋼板と前記溶融亜鉛めっき層とを合金化処理する工程と、を含む、合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
【選択図】図2
図1
図2A
図2B
図2C
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10