特許第6575761号(P6575761)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6575761
(24)【登録日】2019年8月30日
(45)【発行日】2019年9月18日
(54)【発明の名称】眼内レンズの挿入器具
(51)【国際特許分類】
   A61F 2/16 20060101AFI20190909BHJP
【FI】
   A61F2/16
【請求項の数】3
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2015-552447(P2015-552447)
(86)(22)【出願日】2014年12月8日
(86)【国際出願番号】JP2014082462
(87)【国際公開番号】WO2015087846
(87)【国際公開日】20150618
【審査請求日】2017年12月7日
(31)【優先権主張番号】特願2013-254152(P2013-254152)
(32)【優先日】2013年12月9日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000163006
【氏名又は名称】興和株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100100549
【弁理士】
【氏名又は名称】川口 嘉之
(74)【代理人】
【識別番号】100123319
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 武彦
(74)【代理人】
【識別番号】100151596
【弁理士】
【氏名又は名称】下田 俊明
(72)【発明者】
【氏名】小林 研一
【審査官】 寺澤 忠司
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−105736(JP,A)
【文献】 特表平11−506357(JP,A)
【文献】 特開2012−125355(JP,A)
【文献】 特開2012−50713(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61F 2/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
レンズ本体と前記レンズ本体に一端が接続されている長尺の支持部とを有する眼内レンズを折り畳んだ状態で眼内に挿入する挿入筒部を先端に有する略筒状の器具本体と、
前記眼内レンズを前記器具本体内に配置可能に収納した収納部と、
前記器具本体内を摺動して前記眼内レンズを前記挿入筒部に移動させ、眼内に押し出す眼内レンズ押出部材と、
を備える眼内レンズの挿入器具であって、
前記眼内レンズ押出部材の先端部の外周面に、前記眼内レンズが前記挿入筒部に移動したときに、前記支持部のうち少なくとも前記一端側の一部の姿勢を規制する姿勢規制手段が設けられ、
前記眼内レンズ押出部材の前記先端部は、前記収納部に収納された前記眼内レンズの光軸前側に位置する、前記支持部を収納する切欠部をさらに有し、
前記姿勢規制手段は、前記先端部の前記眼内レンズと当接する面の前記収納部に収納された前記眼内レンズの光軸後側の位置から前記切欠部に至り、前記支持部の前記一部が嵌まる溝である
ことを特徴とする眼内レンズの挿入器具。
【請求項2】
前記姿勢規制手段は、前記収納部に収納された前記眼内レンズの光軸前側方向に、前記支持部のうち少なくとも前記一端側の一部が挙動することを規制する、ことを特徴とする請求項1に記載の眼内レンズの挿入器具。
【請求項3】
前記先端部の外周面に、前記支持部の前記一端に対する他端側の一部を受け入れる凹部が設けられていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の眼内レンズの挿入器具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、眼内レンズの挿入器具に関する。
【背景技術】
【0002】
白内障治療においてヒト混濁水晶体の置換や屈折の補正のために水晶体の代用として挿入される眼内レンズが実用に供されている。白内障治療における眼内レンズ挿入手術においては、例えば角膜の縁に数ミリの切開の創口(切開創)が設けられ、超音波水晶体乳化吸引術などにより水晶体が粉砕されて切開創から取り除かれた後、眼内レンズが挿入及び固定される。
【0003】
近年においては、眼内レンズを切開創より眼球内に挿入する際に、あらかじめ眼内レンズがカートリッジに装填された挿入器具が用いられる場合が多い。使用者は、器具本体の先端部に設けられた挿入筒部の先端開口を上述の切開創を通じて眼球内に挿し入れると共に、眼内レンズを器具本体内で小さく変形せしめた状態で挿入筒部の先端開口から棒状のプランジャによって押し出すことにより、眼内レンズを眼球内に放出して挿入する。このような挿入器具を用いることにより、水晶体の摘出除去のために形成した切開創を利用して眼内レンズを簡単に眼球内に挿入できるので、手術を簡略化することができ、手術後の乱視の発生や感染症の発生を抑制することができる。
【0004】
一般に眼内レンズは、レンズ本体とレンズ本体に接続される支持部とを有する。そして、眼内レンズを上記の挿入器具を用いて眼球内に挿入する場合、プランジャが眼内レンズを先端開口側に移動するにつれて、眼内レンズは挿入筒部の内壁形状に合わせて折り畳まれた状態になる。このとき、単にプランジャによって眼内レンズを押し出すだけでは、挿入筒部内で眼内レンズの位置が定まらず、眼内レンズの挙動を安定させることができない。そこで、特許文献1や特許文献2や特許文献3では、プランジャの先端部に挿入筒部内における眼内レンズの挙動を安定させるための構成を設けることが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2012−50713号公報
【特許文献2】特開平5−103803号公報
【特許文献3】特開2009−18009号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1や特許文献2に示された眼内レンズの挿入器具では、プランジャの先端部に眼内レンズの支持部を受け入れるための構成が設けられているにすぎないためプランジャの先端部が眼内レンズの支持部を受け入れた後も、依然として支持部の位置が変動して眼内レンズが異常な挙動を示す可能性がある。また、特許文献3に示された眼内レンズの挿入器具では、レンズが前に傾いてノズル先端から放出されるという、いわゆる前傾射出を起こす可能性がある。
【0007】
本件開示の技術は、上記の事情に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、眼内レンズの挙動をより安定させることができる眼内レンズの挿入器具を実現することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本件開示の眼内レンズの挿入器具は、レンズ本体とレンズ本体に一端が接続されている長尺の支持部とを有する眼内レンズを折り畳んだ状態で眼内に挿入する挿入筒部を先端に有する略筒状の器具本体と、眼内レンズを器具本体内に配置可能に収納した収納部と、器具本体内を摺動して眼内レンズを挿入筒部に押し出す眼内レンズ押出部材とを備える眼内レンズの挿入器具であって、眼内レンズ押出部材の先端部の外周面に、眼内レンズが挿入筒部に移動したときに、支持部のうち少なくとも一端側の一部の姿勢を規制する姿勢規制手段が設けられている。これにより、眼内レンズを挿入部から眼内に放出する際にIOLが前傾射出にならないような方向に支持部の根元部分の姿勢を規制することで眼内レンズの挙動を安定させ、前傾射出を防止することができる。
【0009】
また、姿勢規制手段は、眼内レンズのノズルから眼内への放出時に、支持部のうち少なくとも一端側の一部が、上方向(すなわち、眼内レンズが収納部に収納された時における当該眼内レンズの光軸の前側方向)に挙動することを規制する。また、眼内レンズ押出部材の先端部は、収納部に収納された眼内レンズの光軸前側に位置する、支持部を収納する切欠部をさらに有し、姿勢規制手段は、先端部の眼内レンズと当接する面の収納部に収納された眼内レンズの光軸後側の位置から切欠部に至る帯状の領域内に設けられている。さらに、姿勢規制手段は、支持部の一部が嵌まる溝であってもよいし、支持部の一部と当接する互いに平行に延びる一対の凸部であってもよいし、支持部の一部との間の摩擦力が大きくなるよう帯状に設けられた粗面であってもよい。
【0010】
さらに、本件開示の眼内レンズの挿入器具において、先端部の外周面に、支持部の一端に対する他端側の一部を受け入れる凹部が設けられている構成としてもよい。これにより、眼内レンズの支持部の先端を凹部に逃がすことで、当該支持部の先端が眼内レンズの押出部材と器具本体の挿入筒部との間で挟まれて眼内レンズが異常な挙動を示すことが好適に防止される。
【発明の効果】
【0011】
本件開示の技術によれば、眼内レンズの挙動をより安定させることができる眼内レンズの挿入器具を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】一実施形態における眼内レンズの挿入器具の概略構成を示す図である。
図2】一実施形態における眼内レンズの概略構成を示す図である。
図3】一実施形態におけるノズル本体の概略構成を示す図である。
図4】一実施形態における位置決め部材の概略構成を示す図である。
図5】一実施形態におけるプランジャの概略構成を示す図である。
図6】一実施形態におけるプランジャの先端部の概略構成を示す図である。
図7】一実施形態におけるプランジャの先端部と眼内レンズを示す図である。
図8】一実施形態におけるプランジャの先端部と眼内レンズを示す図である。
図9】一実施形態におけるプランジャの先端部と眼内レンズの支持部とノズル部の位置関係を示す断面図である。
図10】変形例1におけるプランジャの先端部の概略構成を示す図である。
図11】変形例2におけるプランジャの先端部の概略構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。
【0014】
〔実施例〕
図1に、本実施形態の挿入器具1の概略構成を示す。図1(a)はステージ蓋部13を開蓋した場合の挿入器具1の平面図、図1(b)はステージ蓋部13を閉蓋した場合の挿入器具1の側面図を示している。挿入器具1は、器具本体としてのノズル本体10と、眼内レンズの押出部材としてのプランジャ30と、眼内レンズの収納部としてのステージ部12及びステージ蓋部13を有する。ステージ部12は、ノズル本体10に一体又は別体に設けられる。ノズル本体10にはプランジャ30が挿入されている。ステージ部12には、眼内レンズ2がセットされる。ステージ部12は、ステージ蓋部13と一体に形成されている。図1には、ステージ蓋部13を開けた状態を示す。
【0015】
挿入器具1のノズル本体10は、断面略矩形の筒状に形成されており片側の端部は大きく開口し(以下、大きく開口した側を後端部10bという。)、別の側の端部には細く絞られたノズル部15と先端部10aを備える。図1(b)に示すように、先端部10aは斜めに開口している。プランジャ30は、ノズル本体10に挿入され往復運動可能である。
【0016】
以下の説明において、ノズル本体10の後端部10bから先端部10aへ向かう方向を前方向、その逆方向を後方向、図1(a)において紙面手前側を上方向、その逆方向を下方向、図1(b)において紙面手前方向を左方向、その逆方向を右方向とする。また、この場合、上側は後述するレンズ本体2aの光軸前側に、下側はレンズ本体2aの光軸後側に、前側はプランジャ30による押圧方向前側に、後側はプランジャ30による押圧方向後側に相当する。
【0017】
ノズル本体10の後端部10b付近には、板状に迫り出し、使用者がプランジャ30をノズル本体10の先端側に押し込む際に指を掛けるホールド部11が一体的に設けられている。また、ノズル本体10におけるノズル部15の後側には、眼内レンズ2をセットするステージ部12が設けられている。このステージ部12は、ステージ蓋部13を開蓋することでノズル本体10の上側が開放されるようになっている。また、ステージ部12には、ノズル本体10の下側から位置決め部材50が取り付けられている。この位置決め部材50によって、使用前(輸送中)においてもステージ部12内で眼内レンズ2が安定して保持されている。
【0018】
すなわち、挿入器具1においては、製造時に、ステージ蓋部13が開蓋し位置決め部材50がステージ部12に取り付けられた状態で、眼内レンズ2がステージ部12に、光軸前側が上になるようにセットされる。そして、ステージ蓋部13を閉蓋させた後出荷され、販売される。そして、使用者はステージ蓋部13を閉蓋したままで位置決め部材50を取り外し、その後プランジャ30をノズル本体10の先端側に押し込む。これにより、プランジャ30によって眼内レンズ2を押圧し、ノズル部15まで移動させた上で、先端部10aより眼内レンズ2を眼球内に放出する。なお、挿入器具1におけるノズル本体10、プランジャ30、位置決め部材50はポリプロピレンなどの樹脂の素材で形成される。ポリプロピレンは医療用機器において実績があり、耐薬品性などの信頼性も高い素材である。
【0019】
図2は、眼内レンズ2の概略構成を示した図である。図4(a)は平面図、図4(b)は側面図を示す。眼内レンズ2は、いわゆるスリーピース型である。眼内レンズ2は、所定の屈折力を有するレンズ本体2aと、レンズ本体2aに連結された、レンズ本体2aを眼球内で保持するためのヒゲ状の2本の支持部2b、2bとから形成されている。レンズ本体2a及び支持部2bは可撓性の樹脂材料から形成されている。本実施例における挿入器具1内では、2つの支持部2b、2bのうちの一つが、レンズ本体2aの後側、もう一つがレンズ本体の前側に配置されるように、眼内レンズ2がセットされる。
【0020】
図3にはノズル本体10の平面図を示す。前述のようにノズル本体10においては、眼内レンズ2はステージ部12にセットされる。そして、その状態でプランジャ30によって眼内レンズ2が押圧されて先端部10aから放出される。なお、ノズル本体10の内部にはノズル本体10の外形の変化に応じて断面形状が変化する貫通孔10cが設けられている。そして、眼内レンズ2が放出される際は、眼内レンズ2は、ノズル本体10内の貫通孔10cの断面形状の変化に応じて変形して折り畳まれた状態となり、患者の眼球に形成された切開創に入り易い形に変形した上で放出される。
【0021】
また、先端部10aは、ノズル部15の上側の領域が下側の領域より前側になるように斜めにカットされた形状となっている。なお、この先端部10aの斜めにカットされた形状については、左右方向から見て直線的に斜めにカットされていてもよいし、外側に膨らみを持つように、すなわち曲面形状となるように斜めにカットされていてもよい。
【0022】
ステージ部12には、眼内レンズ2のレンズ本体2aの径より僅かに大きな幅を有するステージ溝12aが形成されている。ステージ溝12aの前後方向の寸法は、眼内レンズ2の両側に延びる支持部2b、2bを含む最大幅寸法よりも大きく設定されている。また、ステージ溝12aの底面によってセット面12bが形成されている。セット面12bの上下方向位置は、ノズル本体10の貫通孔10cの底面の高さ位置よりも上方に設定されており、セット面12bと貫通孔10cの底面とは底部斜面10dによって連結されている。
【0023】
ステージ部12とステージ蓋部13とは一体に形成されている。ステージ蓋部13はステージ部12と同等の前後方向の寸法を有している。ステージ蓋部13は、ステージ部12の側面がステージ蓋部13側に延出して形成された薄板状の連結部14によって連結されている。連結部14は中央部で屈曲可能に形成されており、ステージ蓋部13は、連結部14を屈曲させることでステージ部12に上側から重なり閉蓋することができる。
【0024】
ステージ蓋部13において、閉蓋時にセット面12bと対向する面には、ステージ蓋部13を補強し、眼内レンズ2の位置を安定させるためにリブ13a及び13bが設けられている。また、プランジャ30の上側のガイドとして案内突起13cが設けられている。
【0025】
ステージ部12のセット面12bの下側には、位置決め部材50が取外し可能に設けられている。図4に、位置決め部材50の概略構成を示す。図4(a)は位置決め部材50の平面図を示し、図4(b)は位置決め部材50の左側面図を示している。位置決め部材50はノズル本体10と別体として構成されており、一対の側壁部51、51が連結部52で連結された構造とされている。それぞれの側壁部51の下端には、外側に向けて延出して広がる保持部53、53が形成されている。
【0026】
そして、それぞれの側壁部51、51の上端部には、上方から見た形状が円弧形状であり上側に突出した一対の第一載置部54、54が形成されている。さらに、第一載置部54、54の上端面における外周側には、第一位置決め部55、55が突出して形成されている。第一位置決め部55、55の内径どうしの距離は、眼内レンズ2のレンズ本体2aの径寸法よりも僅かに大きく設定されている。
【0027】
また、連結部52の前後方向の両端には、上方から見た形状が矩形状であり上側に突出した一対の第二載置部56、56が形成されている。第二載置部56、56の上面の高さは、第一載置部54、54の上面の高さと同等になっている。さらに、第二載置部56、56の上面において外側の部分には、第二載置部56、56の左右方向の全体にわたって上側にさらに突出する第二位置決め部57、57が形成されている。第二位置決め部57、57の内側どうしの離隔は、眼内レンズ2のレンズ本体2aの径寸法よりも僅かに大きく設定されている。加えて、第二載置部56、56の上端部には左右方向の全体にわたり、前後方向に僅かに突出した係止爪58、58が形成されている。
【0028】
上記の位置決め部材50は、ノズル本体10のセット面12bの下側から組み付けられる。ノズル本体10のセット面12bには、厚さ方向にセット面12bを貫通するセット面貫通孔12cが形成されている。セット面貫通孔12cの外形は、位置決め部材50の第一載置部54、54及び第二載置部56、56を上側から見た形状に対し僅かに大きな略相似形状とされている。そして、位置決め部材50がノズル本体10に取り付けられる際には、第一載置部54、54及び第二載置部56、56が、セット面12bの下側からセット面貫通孔12cに挿入され、セット面12bの上側に突出する。
【0029】
その際、第二位置決め部57、57に設けられた係止爪58、58がセット面貫通孔12cを介してセット面12bに突出し、セット面12bの上面に係止される。このことによって、位置決め部材50がノズル本体10の下側から組み付けられ、第一載置部54、54及び第二載置部56、56がセット面12bから突出した状態で固定される。そして、眼内レンズ2がセット面12bにセットされる際には、レンズ本体2aの外周部底面が、第一載置部54、54及び第二載置部56、56の上面に載置される。また、レンズ本体2aは第一位置決め部55、55及び第二位置決め部57、57によって水平方向(セット面12bに水平な方向)に対して位置規制される。
【0030】
眼内レンズ2を眼球内に挿入する際は、位置決め部材50をノズル本体10から取り外す。これにより、眼内レンズ2のレンズ本体2aを支持していた第一載置部54、54および第二載置部56、56がセット面12bから後退し、眼内レンズ2がセット面12b上に移動可能に載置される。
【0031】
続いて、眼組織に設けた切開創に、ノズル本体10のノズル部15における先端部10aを挿入する。ここにおいて、先端部10aは斜めの開口形状を有しているので、切開創への挿入を容易に行なうことができる。そして、切開創にノズル部15を挿入した後に、プランジャ30の押圧板部33をノズル本体10の先端側に押し込む。これにより、セット面12aにセットされた眼内レンズ2のレンズ本体2a外周にプランジャ30の作用部31の先端が当接し、プランジャ30によって眼内レンズ2が先端部10aに向けて案内される。
【0032】
図5に、本実施形態に係るプランジャ30の概略構成を示す。プランジャ30は、ノズル本体10よりもやや大きな前後方向長さを有している。そして、円柱形状を基本とした先端側の作用部31と、矩形ロッド形状を基本とした後端側の挿通部32とから形成されている。そして、作用部31は、円柱形状とされた円柱部31aと、円柱部31aの左右方向に広がる薄板状の扁平部31bとを含んで構成されている。
【0033】
プランジャ30の先端部でもある作用部31の先端部31cには、切欠部31dが形成されている。この切欠部31dは、図5から分かるように、作用部31の上方向に開口し左右方向に貫通する溝状に形成されている。また、図5(b)から分かるように、切欠部31dの先端側の溝壁は作用部31の先端側に行くに連れて上方に向かう傾斜面で形成されている。なお、切欠部31dは、ステージ部12及びステージ蓋部13とで構成される収納部に収納された眼内レンズ2の光軸前側に位置する。
【0034】
そして、先端部31cの左側面には、先端部31cの先端面31fから切欠部31dに至る溝31eが設けられている。溝31eは、眼内レンズ2の支持部2bのうちレンズ本体2a側の一部の姿勢を規制する手段であり、眼内レンズ2をノズル部15の先端10aに移動させたときに支持部2bの当該一部の移動を規制する手段でもある。ここで、眼内レンズ2の支持部2bの姿勢とは、先端部31cの外周面における、支持部2bの長手方向であり、支持部2bの長手方向とは垂直な方向でもある。
【0035】
さらに、先端部31cの右側面には円柱部31aの中心軸に向かって窪む凹部31gが設けられている。凹部31gは、眼内レンズ2の支持部2bのうち溝31eによって保持されている部分とは別の一部を保持するための凹部である。また、先端部31cの上側の外周面には、円柱部31aの外周面から上側に向けて突出する凸部31hが設けられている。凸部31hは、眼内レンズ2の支持部2bが切欠部31dから円柱部31aの後方向に逃げることを防止するための凸部である。先端部31cの各部の構造や機能の詳細については後述する。
【0036】
挿通部32は、全体的に概略H字状の断面を有しており、その左右方向及び上下方向の寸法は、ノズル本体10の貫通孔10cよりも僅かに小さく設定されている。また、挿通部32の後端には、上下左右方向に広がる円板状の押圧板部33が形成されている。
【0037】
挿通部32の前後方向の中央より先側の部分には、挿通部32の上側に向けて突出し、プランジャ30の素材の弾性により上下に移動可能な爪部32aが形成されている。そして、プランジャ30がノズル本体10に挿入された際には、ノズル本体10の上面において厚さ方向に設けられた図3に示す係止孔10eと爪部32aが係合し、このことにより初期状態におけるノズル本体10とプランジャ30との相対位置が決定される。なお、爪部32aと係止孔10eの形成位置は、係合状態において、作用部31の先端が、ステージ部12にセットされた眼内レンズ2のレンズ本体2aの後側に位置し、レンズ本体2aの後側の支持部2bを切欠部31dが下方から支持可能な場所に位置するよう設定されている。
【0038】
図6は、本実施形態におけるプランジャ30の作用部31の先端部31cの概略を示す拡大図である。図6(a)は上面図、図6(b)は左側面図、図6(c)は底面図、図6(d)は右側面図、図6(e)は正面図、図6(f)は図6(e)の正面図の一部拡大図をそれぞれ示す。図6(f)に示すように、先端面31fにおいて溝31eは、円柱部31aの中心軸Oを含み左右方向(水平方向)に広がる平面Pに対して中心軸Oから所定の角度をなす方向に設けられている。
【0039】
後述するように、プランジャ30がノズル本体10の先端部10a側に押し込まれて、眼内レンズ2がノズル部15の先端部10aに移動する際に、眼内レンズ2の後方向側の支持部2bが溝31eに嵌まることで、支持部2bの姿勢が規制される。また、眼内レンズ2の後方向側の支持部2bは、溝31eとノズル部15の内壁とで挟まれることで、支持部2bの移動が規制される。これにより、眼内レンズ2は異常な挙動を示さないよう抑制される。したがって、上記の中心軸Oからの所定の角度とは、プランジャ30により眼内レンズ2を先端部10aに移動するときに、眼内レンズ2の支持部2bが先端面31fに設けられた溝31eに収まるように適宜決定される。本実施形態において、溝31eはV字形の溝である。また、先端面31fにおける溝31eの幅や深さは、眼内レンズ2の支持部2bが溝31eとノズル部15の内壁とで良好に挟まれるように適宜設定することができる。
【0040】
また、図6(b)及び図6(c)に示すように、本実施形態では、溝31eは、先端部31cの側面に沿って一様な幅で形成された溝である。図6(b)に示すように、溝31eは、円柱部31aの中心軸Oに対して所定の傾斜角度を有する。本実施形態では、眼内レンズ2は、スリーピース型であるため、ステージ部12のセット面12bには上に凸となるようにセットされる場合がある。このように眼内レンズ2がステージ部12のセット面2bにセットされる場合は、眼内レンズ2は、プランジャ30によりノズル部15の先端部10aに移動されると折り畳まれた状態となり、このとき眼内レンズ2の支持部2bの根元部分、すなわち支持部2bのうちレンズ本体2aに近い側の部分は、図7及び図8で説明するように、先端部31cの先端面31fの下端近傍に当接する位置に移動する。ここで先端面31fの下端とは、ステージ部12及びステージ蓋部13とで構成される収納部に収納された眼内レンズの光軸後側に位置する端部である。
【0041】
したがって、本実施形態では、図6(b)に示すように、プランジャ30の先端部31cの外周面において、溝31eは、先端面31fの下端近傍から斜め上方に延びて切欠部31dに至る溝として形成される。本実施形態では、プランジャ30を押し込んで眼内レンズ2を挿入筒部の先端に移動する際に、眼内レンズ2の支持部2bの根元部分が、溝31eに嵌まり、眼内レンズ2の支持部2bが溝31eとノズル部15の内壁とで挟まれることにより、先端部10aの開口から放出する際の眼内レンズ2の挙動を安定させることができる。なお、スリーピース型の眼内レンズ2の代わりに、いわゆるワンピース型の眼内レンズを用いる場合、ワンピース型の眼内レンズはステージ部12のセット面12bには下に凸になるようにセットされる場合がある。このように眼内レンズがステージ部12のセット面12bにセットされる場合は、ワンピース型の眼内レンズがノズル部15の先端部10aに移動されたときの眼内レンズの支持部とプランジャ30の先端部31cとの位置関係は上記のスリーピース型の眼内レンズ2の支持部2bとは異なる。したがって、ワンピース型の眼内レンズを用いる場合は、プランジャ30の先端部31cの外周面における溝31eが設けられる位置や延びる方向を適宜変更すればよい。
【0042】
仮に円柱部31aに溝31eが設けられていないとした場合、プランジャ30を押し込むときに支持部2bがプランジャの円柱部31aとノズル部15の内壁とで締め付けられ、眼内レンズ2を先端部10aの開口から放出できない可能性がある。しかし、本実施形態では溝31eを設けることで、そのような現象を好適に防止し、眼内レンズ2の挙動を安定させるだけでなく、眼内レンズ2をより確実に眼内に放出できるという効果も期待できる。
【0043】
眼内レンズ2の支持部2bが溝31eに嵌まると、支持部2bのうち溝31eに保持された部分よりも先端側の部分は、切欠部31dに延びていく。切欠部31dに延びた支持部2bは、壁部31i及び凸部31hによって円柱部31aの後方向に進行しないように切欠部31d内に収まるように屈曲する。したがって、凸部31hは、支持部2bの先端が切欠部31dから後述する凹部31gに受け入れられる可能性を高める機能を有する。このため、支持部2bは屈曲した状態で切欠部31d内に収納される。
【0044】
凹部31gは、切欠部31d内において凸部31hや壁部31iに当接して屈曲した支持部2bの先端を逃がすために設けられている。凹部31gは、先端部31cにおいて、中心軸Oに対して溝31eが設けられている側とは反対側の側面に形成されている。また、図6(a)及び図6(c)に示すように、凹部31gは、先端部31cの側面が中心軸Oに向かって窪んでいる。これにより、支持部2bのうち凹部31g内に延びた部分は、凹部31gとノズル部15の内壁とにより形成される隙間に収納された状態となる。
【0045】
次に、図7及び図8に、眼内レンズ2がノズル部15の先端部10aに移動したときの、眼内レンズ2の支持部2bとプランジャ30の先端部31cの位置関係を示す。なお、図7及び図8において、ノズル部15は図示を省略している。プランジャ30の押し込みにより眼内レンズ2がノズル部15の先端部10aに移動すると、眼内レンズ2のレンズ本体2aは、ノズル部15の内壁の形状に合わせて折り畳まれていく。また、レンズ本体2aの後方向側の外周が、プランジャ30の先端部31cの先端面31fに当接し、眼内レンズ2の後方向側の支持部2bは、プランジャ30の先端部31cの溝31eに嵌まった状態となる。
【0046】
図7に示すように、先端部31cの溝31eに沿って、眼内レンズ2の支持部2bの基端側、すなわちレンズ本体2a側の一部が嵌まる。また、支持部2bのうち溝31eに嵌まっている部分から先端側の部分は、切欠部31dに延びている。図8に示すように、切欠部31dに延びた支持部2bは、凸部31hや壁部31iに当接している。支持部2bのうち、凸部31hや壁部31iに当接している部分から先端側の部分は、切欠部31dとノズル部15の内壁とで囲まれる空間内で湾曲しつつ凹部31gに延びていく。仮に、凹部31gがない場合、支持部2bの先端部は、プランジャ30の先端部31cの外周面とノズル部15の内壁との間に挟み込まれてしまい、眼内レンズ2を眼内に放出できない可能性がある。これに対し、本実施形態では、凹部31gを設けることで、支持部2bの先端部がプランジャ30の先端部31cの外周面とノズル部15の内壁との間に挟み込まれることを防止している。
【0047】
図9には、支持部2bが溝31eに嵌まっているときの中心軸Oに垂直な平面における断面の部分拡大図を示す。図9に示すように、支持部2bは溝31eの内面32、32及びノズル部15の内壁15aに当接している。したがって、支持部2bは溝31eに嵌まることで先端部31cの外周面31jとノズル部15の内壁15aとの間に挟まれることがない。また、支持部2bは、溝31eの内面32、32とノズル部15の内壁15aとの間の空間に挟まれることで、溝31eから外れないように移動が規制される。この結果、支持部2bに接続されているレンズ本体2のノズル部15内における挙動も安定する。
【0048】
以上が本実施形態に関する説明であるが、上記の挿入部などの構成は、上記の実施形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想と同一性を失わない範囲内において種々の変更が可能である。例えば、上記の説明では、プランジャ30の先端部31cの凹部31gは、図6(a)に示すように、その上面図においてV字形となるように形成されているが、支持部2bの先端が凹部31gとノズル部15の内壁との間に延びるようにすることができれば、凹部31gの形状は適宜変更することができる。また、凸部31hについても、支持部2bが円柱部31aの後方向側に延びないようにすることができれば、凹部31hの突起形状は適宜変更することができる。また、以下に説明する変形例と上記の実施形態とを適宜組み合わせてプランジャ30の先端部31cを構成してもよい。
【0049】
以下に上記の実施形態の変形例を2例示す。なお、以下の説明において各構成要素は、上記の実施形態における構成要素に対応するものについては、同一の符号を付し、特に言及しない限りその説明を省略する。
【0050】
〔変形例1〕
図10に、変形例1におけるプランジャ30の先端部31cの概略図を示す。図10(a)に示すように、変形例1では、上記の実施形態における溝31eの代わりに、先端部31cの外周面31jから突出する一対の凸部31k、31kが形成されている。また、凸部31k、31kは、先端面31fから切欠部31dに至るまで、互いに平行に延びている。図10(b)は、眼内レンズ2の支持部2bが凸部31k、31kとノズル部15の内壁15aとの間で挟まれたときの、図9と同様の断面図を示す。図10(c)は、図10(b)における先端部31cのみを示す断面図である。
【0051】
図10(b)及び図10(c)からわかるように、凸部31k、31kの互いに向き合う内壁33、33と先端部31cの外周面31jのうち凸部31k、31kの間の側面34とが、支持部2bに当接してノズル部15の内壁15aとで支持部2bを挟むことで、支持部2bの移動を規制する。また、凸部31k、31kは先端面31fから切欠部31dに至るまで延びているので、凸部31k、31kは支持部2bが切欠部31dに延びるように支持部2bの姿勢を規制する。なお、凸部31k、31kの形状や高さや離間する間隔、内壁33の外周面31jに対する傾斜角、側面34の面形状などは適宜変更することができる。また、上記の説明では、支持部2bがノズル部15の内壁15a、凸部31k、31kの内壁33、33、先端部31cの外周面31jのいずれにも当接しているが、支持部2bがこれらすべてに当接せずすれが生じる場合でも、支持部2bの姿勢規制に支障を与えない範囲であれば当該ずれは許容できる。
【0052】
〔変形例2〕
図11に、変形例2におけるプランジャの先端部の概略図を示す。図11(a)に示すように、変形例2では、上記の実施形態における溝31eの代わりに先端部31cの側面において周囲の領域よりも粗度が大きい粗面31mが形成されている。粗面31mは、溝31eと同様に、先端面31fから切欠部31dに至るまで延びている。また、図11(b)は、眼内レンズ2の支持部2bが粗面31mとノズル部15の内壁15aとの間で挟まれたときの、図9と同様の断面図を示す。
【0053】
変形例2では、粗面31mが、支持部2bが切欠部31dに延びるように支持部2bの姿勢を規制する役割を果たす。また、粗面31mの粗度を周囲の領域よりも大きくすることで、プランジャ30が眼内レンズ2をノズル部15の先端部10aに移動して、眼内レンズ2の支持部2bが粗面31mとノズル部15の内壁15aとの間で挟まれたときに、支持部2bと粗面31mの間に生じる静止摩擦力により、支持部2bが外周面31jとノズル部15の内壁15aの間を移動しないように規制することができる。なお、先端部31cの外周面31jにおける粗面31mを設ける範囲や粗面31mの粗度などは適宜変更することができる。
【0054】
なお、上述の3つの実施例では、支持部の一部を溝に収納する例で説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、支持部が上方向(すなわち眼内レンズが挿入器具にセットされた時における当該眼内レンズの光軸前側方向)に挙動して、眼内レンズがノズル先端から放出される時に眼内レンズの光学部が過度に前傾になることを防ぐことが重要であるので、支持部が上方向に挙動しないように、その方向にのみ挙動を規制する構造であればよく、例えばプランジャに切り欠きや突起などを設けてもよい。
【符号の説明】
【0055】
1 挿入器具
2 眼内レンズ
2a レンズ本体
2b 支持部
10 ノズル本体
15 ノズル部
30 プランジャ
31a 円柱部
31c プランジャの先端部
31d 切欠部
31e 溝
31f 先端面
31g 凹部
31h、31k 凸部
31i 壁部
31j 先端部の外周面
31m 粗面
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11