特許第6575807号(P6575807)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6575807高減衰組成物、粘弾性ダンパおよび粘弾性支承
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6575807
(24)【登録日】2019年8月30日
(45)【発行日】2019年9月18日
(54)【発明の名称】高減衰組成物、粘弾性ダンパおよび粘弾性支承
(51)【国際特許分類】
   C08L 7/00 20060101AFI20190909BHJP
   C08L 9/00 20060101ALI20190909BHJP
   C08K 3/013 20180101ALI20190909BHJP
   C08K 3/36 20060101ALI20190909BHJP
   C08K 3/38 20060101ALI20190909BHJP
   C08K 5/5419 20060101ALI20190909BHJP
   F16F 15/02 20060101ALI20190909BHJP
   E04H 9/02 20060101ALN20190909BHJP
【FI】
   C08L7/00
   C08L9/00
   C08K3/013
   C08K3/36
   C08K3/38
   C08K5/5419
   F16F15/02 L
   !E04H9/02 351
【請求項の数】5
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2015-163126(P2015-163126)
(22)【出願日】2015年8月20日
(65)【公開番号】特開2017-39864(P2017-39864A)
(43)【公開日】2017年2月23日
【審査請求日】2018年6月22日
(73)【特許権者】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087701
【弁理士】
【氏名又は名称】稲岡 耕作
(74)【代理人】
【識別番号】100101328
【弁理士】
【氏名又は名称】川崎 実夫
(74)【代理人】
【識別番号】100149766
【弁理士】
【氏名又は名称】京村 順二
(72)【発明者】
【氏名】正尾 菜実
【審査官】 横山 法緒
(56)【参考文献】
【文献】 特開2015−129251(JP,A)
【文献】 特開2006−169952(JP,A)
【文献】 特開2007−187297(JP,A)
【文献】 特開2007−308938(JP,A)
【文献】 特開昭64−009249(JP,A)
【文献】 特開平11−144402(JP,A)
【文献】 特開2007−009073(JP,A)
【文献】 特開2007−291286(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00−101/14
C08K 3/00−13/08
F16F 15/02
E04H 9/02
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジエン系ゴム、前記ジエン系ゴムの総量100質量部あたり、100質量部以上、180質量部以下のシリカ、および30質量部以上、60質量部以下の窒化ホウ素を含む高減衰組成物。
【請求項2】
前記ジエン系ゴムは、天然ゴム、イソプレンゴムおよびブタジエンゴムからなる群より選ばれた少なくとも1種である請求項1に記載の高減衰組成物。
【請求項3】
さらに、式(1):
【化1】
〔式中Rは炭素数1〜3のアルキル基を示す。〕
で表されるフェニル型シリル化剤を含む請求項1または2に記載の高減衰組成物。
【請求項4】
前記請求項1ないしのいずれか1項に記載の高減衰組成物からなる粘弾性体を備える粘弾性ダンパ。
【請求項5】
前記請求項1ないしのいずれか1項に記載の高減衰組成物からなる粘弾性体を備える粘弾性支承。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、振動エネルギーの伝達を緩和したり吸収したりする粘弾性体のもとになる高減衰組成物と、当該高減衰組成物からなる粘弾性体を備えた粘弾性ダンパおよび粘弾性支承に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えばビルや橋梁等の建築物、産業機械、航空機、自動車、鉄道車両、コンピュータやその周辺機器類、家庭用電気機器類、さらには自動車用タイヤ等の幅広い分野において粘弾性体が用いられる。粘弾性体を用いることで振動エネルギーの伝達を緩和したり吸収したりする、すなわち免震、制震、制振、防振等をすることができる。
粘弾性体は、主に天然ゴム等のジエン系ゴムを含む高減衰組成物によって形成される。
【0003】
高減衰組成物としては、例えばジエン系ゴムにシリカと、シリル化剤等のシラン化合物とを配合して混練したのち、さらにジエン系ゴムを架橋させるための架橋成分を加えて混練したもの等が知られている。
上記の配合においてシラン化合物は、シリカと反応してその表面を改質することで、当該シリカのジエン系ゴムに対する親和性、分散性を向上し、ジエン系ゴム中に良好に分散させるために機能する。
【0004】
そして、かかるシラン化合物の機能によってジエン系ゴム中にシリカを均一に分散させることにより、架橋後の粘弾性体に、振動が加えられた際のヒステリシスロスを大きくして当該振動のエネルギーを効率よく速やかに減衰する性能、すなわち減衰性能が付与される。またシリカを分散させることで、上記粘弾性体に適度な剛性も付与される。
そこで上記の組成を基本として、粘弾性体の減衰性能をさらに向上させるべく、当該粘弾性体のもとになる高減衰組成物におけるシリカの配合割合を多くしたり(特許文献1)、当該高減衰組成物にさらに微粒子状カーボンブラックを配合したり(特許文献2)、ロジン誘導体や石油樹脂などの粘着付与剤を配合したり(特許文献3)すること等が検討されている。
【0005】
また同様の目的で、高減衰組成物にさらに液状ゴムおよびカーボンブラックを配合したり(特許文献4)、極性側鎖を有しないジエン系ゴムにシリカと2以上の極性基を有する粘着付与剤等とを配合したり(特許文献5)、特定の軟化点を有するロジン誘導体を配合したり(特許文献6)、イミダゾール化合物とヒンダードフェノール系化合物とを配合したり(特許文献7)すること等も検討されている。
【0006】
ところがこれら従来の技術はいずれも数年、数十年に一度の単発的な地震に対する減衰性能を向上させることを目的とするものであって、例えば本震後に頻発する余震、長時間に亘って揺れが続く地震、あるいは橋桁の風揺れなどの、短いスパンで繰り返される振動や比較的長時間に亘って続く振動などに対する減衰性能は考慮されていないのが現状である。
【0007】
すなわち前述した高減衰組成物からなる粘弾性体においては、揺れの運動エネルギーを熱エネルギーに変換することで減衰性能を発現させており、上で説明した従来の技術ではいずれも、変換された熱エネルギーは振動が停止すると自然に発散されて粘弾性体は元の温度に戻り、粘弾性体の温度は基本的に環境温度と同じであると想定して減衰性能が設定されている。
【0008】
しかし、上記のように振動が短いスパンで繰り返されたり比較的長時間に亘って続いたりした場合には、発生した熱エネルギーが発散されずに粘弾性体中に徐々に蓄積される結果、当該粘弾性体の温度が環境温度よりも高くなって所期の減衰性能を維持できなくなる場合がある。
ガラス転移温度Tgが粘弾性体の使用温度よりも低いゴムを使用して減衰性能の温度依存性を小さくして、温度上昇の影響を低減することも検討されているが、抜本的な解決策とは言えない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特許第2796044号公報
【特許文献2】特許第3523613号公報
【特許文献3】特開2007−63425号公報
【特許文献4】特開2009−30016号公報
【特許文献5】特開2009−138053号公報
【特許文献6】特開2010−189604号公報
【特許文献7】特許第5086386号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、減衰性能に優れる上、熱が蓄積されにくいため、振動が短いスパンで繰り返されたり比較的長時間に亘って続いたりしても良好な減衰性能を維持しうる粘弾性体を形成できる高減衰組成物を提供することにある。
また本発明の目的は、かかる高減衰組成物を用いて形成した粘弾性体を備え、上記のように振動が短いスパンで繰り返されたり比較的長時間に亘って続いたりしても熱が蓄積されにくいため、常に良好な減衰性能を維持できる粘弾性ダンパおよび粘弾性支承を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、ジエン系ゴム、前記ジエン系ゴムの総量100質量部あたり、100質量部以上、180質量部以下のシリカ、および30質量部以上、60質量部以下の窒化ホウ素を含む高減衰組成物である。
また本発明は、上記本発明の高減衰組成物からなる粘弾性体を備える粘弾性ダンパである。
さらに本発明は、上記本発明の高減衰組成物からなる粘弾性体を備える粘弾性支承である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、減衰性能に優れる上、熱が蓄積されにくいため、振動が短いスパンで繰り返されたり比較的長時間に亘って続いたりしても良好な減衰性能を維持しうる粘弾性体を形成できる高減衰組成物を提供できる。
また本発明によれば、かかる高減衰組成物を用いて形成した粘弾性体を備え、上記のように振動が短いスパンで繰り返されたり比較的長時間に亘って続いたりしても熱が蓄積されにくいため、常に良好な減衰性能を維持できる粘弾性ダンパおよび粘弾性支承を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の実施例、比較例の高減衰組成物からなる粘弾性体の減衰性能を評価するために作製する、上記粘弾性体のモデルとしての試験体を分解して示す分解斜視図である。
図2】同図(a)(b)は、上記試験体を変位させて変位量と荷重との関係を求めるための試験機の概略を説明する図である。
図3】上記試験機を用いて試験体を変位させて求められる、変位量と荷重との関係を示すヒステリシスループの一例を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
《高減衰組成物》
本発明は、ジエン系ゴム、前記ジエン系ゴムの総量100質量部あたり、100質量部以上、180質量部以下のシリカ、および30質量部以上、60質量部以下の窒化ホウ素を含む高減衰組成物である。
発明者の検討によるとシリカも熱伝導に寄与し、当該シリカの配合割合を多くすれば粘弾性体の熱伝導性をある程度は向上できる。しかしその効果は未だ十分ではない上、熱伝導性の向上を目的としてシリカを多く配合しすぎると高減衰組成物の加工性が低下するおそれもある。
【0015】
これに対し、シリカよりも高い熱伝導性を持つ窒化ホウ素を、高減衰組成物の加工性が低下しない範囲でシリカとともに少量併用すると、当該加工性の低下を抑制しながら、シリカ単独の場合よりも粘弾性体の熱伝導性を大きく向上して、振動減衰時に発生する熱を、シリカ単独の場合と比べてできるだけ速やかに発散させることが可能となる。
しかもシリカとの併用系において窒化ホウ素は、粘弾性体の減衰性能の向上を補助するためにも機能する。
【0016】
そのため上記所定の配合割合でシリカと窒化ホウ素とを併用した本発明の高減衰組成物によれば、減衰性能に優れる上、熱が蓄積されにくいため、振動が短いスパンで繰り返されたり比較的長時間に亘って続いたりしても良好な減衰性能を維持しうる粘弾性体を形成できる。
また本発明によれば、かかる高減衰組成物を用いて形成した粘弾性体を備え、上記のように振動が短いスパンで繰り返されたり比較的長時間に亘って続いたりしても熱が蓄積されにくいため、常に良好な減衰性能を維持できる粘弾性ダンパおよび粘弾性支承を形成できる。
【0017】
〈ジエン系ゴム〉
ジエン系ゴムとしては、シリカおよび窒化ホウ素を配合することで良好な剛性と高い減衰性能とを発現しうる種々のジエン系ゴムが使用可能である。
かかるジエン系ゴムとしては、例えば天然ゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、スチレンブタジエンゴム等の1種または2種以上が挙げられる。これらのジエン系ゴムは、当該ジエン系ゴムに対するシリカの親和性、分散性を向上するために配合されるシラン化合物等との反応性に優れる上、ガラス転移温度が室温(2〜35℃)付近に存在しないため最も一般的な使用温度域である上記室温付近での剛性等の特性の温度依存性を小さくして、広い温度範囲で安定した減衰性能を示す粘弾性体を形成できるという利点がある。
【0018】
中でも、架橋させた状態でのゴム分子同士の架橋構造が緩やかで減衰性能に優れた粘弾性体を形成できる上、入手がしやすく高減衰組成物や粘弾性体をコスト安価に製造できるといった利点を有するため、特に天然ゴムが好ましい。
〈シリカ〉
シリカは、先に説明したようにシラン化合物の機能によってジエン系ゴム中に分散されることで、粘弾性体の剛性および減衰性能を向上するために機能する。
【0019】
かかるシリカとしては、その製法によって分類される湿式法シリカ、乾式法シリカのいずれを用いてもよい。またシリカとしては、粘弾性体の減衰性能を向上する効果をさらに良好に発現させることを考慮すると、BET比表面積が100〜400m/g、特に200〜280m/gであるものを用いるのが好ましい。BET比表面積は、例えば柴田化学器械工業(株)製の迅速表面積測定装置SA−1000等を使用して、吸着気体として窒素ガスを用いる気相吸着法で測定した値でもって表すこととする。
【0020】
シリカとしては、例えば東ソー・シリカ(株)製のNipsil(ニップシール、登録商標)KQ〔BET比表面積:215〜265m2/g〕等が挙げられる。
シリカの配合割合は、前述したように、ジエン系ゴムの総量100質量部あたり100質量部以上、180質量部以下に限定され、特に140質量部以上であるのが好まし
シリカの配合割合がこの範囲未満では、たとえ窒化ホウ素と併用しても粘弾性体に高い剛性と良好な減衰性能、そして良好な熱伝導性を付与できないおそれがある。
【0021】
一方、シリカの配合割合が上記の範囲を超える場合には高減衰組成物の加工性が低下するおそれがある。
〈窒化ホウ素〉
窒化ホウ素としては、任意の合成方法によって製造される粒状、粉末状等の種々の性状の窒化ホウ素が使用可能である。
【0022】
窒化ホウ素の配合割合は、ジエン系ゴム100質量部あたり30質量部以上、60質量部以下に限定される
窒化ホウ素の配合割合がこの範囲未満では、シリカとともに窒化ホウ素を併用することによる、粘弾性体の減衰特性や熱伝導性を向上する効果が十分に得られず、特に粘弾性体に熱が蓄積されやすくなって、振動が短いスパンで繰り返されたり比較的長時間に亘って続いたりした際に良好な減衰性能を維持する効果が得られなくなるおそれがある。
【0023】
一方、窒化ホウ素の配合割合が上記の範囲を超える場合には高減衰組成物の加工性が低下するおそれがある。
〈シラン化合物〉
本発明の高減衰組成物には、従来同様にシラン化合物を配合する。
シラン化合物としては、シリカと反応してその表面を改質することでジエン系ゴムに対する親和性、分散性を向上して、当該シリカをジエン系ゴム中に良好に分散させるために機能する、例えばシリル化剤やシランカップリング剤等の種々のシラン化合物が使用可能である。
【0024】
特に、粘弾性体に高い剛性と良好な減衰性能とを付与することを考慮すると、シラン化合物としては、式(1):
【0025】
【化1】
【0026】
〔式中Rは炭素数1〜3のアルキル基を示す。〕
で表されるフェニル型シリル化剤が好ましい。
フェニル型シリル化剤の具体例としては、例えばフェニルトリメトキシシラン(R=メチル基)、フェニルトリエトキシシラン(R=エチル基)等の少なくとも1種が挙げられる。特に上述した効果の点でフェニルトリエトキシシランが好ましい。
【0027】
フェニル型シリル化剤の配合割合は、ジエン系ゴム100質量部あたり5質量部以上、特に23質量部以上であるのが好ましく、30質量部以下、特に27質量部以下であるのが好ましい。
フェニル型シリル化剤の配合割合がこの範囲未満では、上述したシリカの表面を改質してジエン系ゴムに対する親和性、分散性を向上する効果が十分に得られないため、高減衰組成物の加工性が低下するおそれがある。また粘弾性体に高い剛性と良好な減衰性能とを付与できないおそれもある。
【0028】
一方、フェニル型シリル化剤の配合割合が上記の範囲を超える場合には却って粘弾性体の剛性や減衰性能が低下したり、高減衰組成物の加工性が低下したりするおそれがある。
〈架橋成分〉
本発明の高減衰組成物には、ジエン系ゴムを架橋させるための架橋成分を配合する。
架橋成分としては、ジエン系ゴムを架橋しうる種々の架橋成分が使用可能である。特に硫黄加硫系の架橋成分を用いるのが好ましい。
【0029】
硫黄加硫系の架橋成分としては、加硫剤、促進剤等、および促進助剤を組み合わせたものが挙げられる。特に粘弾性体のゴム弾性が上昇して減衰性能が低下する問題を生じにくい加硫剤、促進剤、促進助剤を組み合わせるのが好ましい。
このうち加硫剤としては、例えば硫黄や含硫黄有機化合物等が挙げられる。特に硫黄が好ましい。
【0030】
促進剤としては、例えばスルフェンアミド系促進剤、チウラム系促進剤等が挙げられる。促進剤は、種類によって加硫促進のメカニズムが異なるため2種以上を併用するのが好ましい。
このうちスルフェンアミド系促進剤としては、例えば大内新興化学工業(株)製のノクセラー(登録商標)NS〔N−tert−ブチル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド〕等が挙げられる。またチウラム系促進剤としては、例えば大内新興化学工業(株)製のノクセラーTBT−N〔テトラブチルチウラムジスルフィド〕等が挙げられる。
【0031】
促進助剤としては例えば酸化亜鉛、ステアリン酸等が挙げられる。通常は両者を併用するのが好ましい。
加硫剤、促進剤、促進助剤の配合割合は特に限定されず、粘弾性体の用途等によって異なる減衰性能や剛性等の特性に応じて適宜調整すればよい。
ただし加硫剤の配合割合は、ジエン系ゴムの総量100質量部あたり0.5質量部以上であるのが好ましく、3質量部以下であるのが好ましい。
【0032】
またスルフェンアミド系促進剤の配合割合は、ジエン系ゴムの総量100質量部あたり0.5質量部以上であるのが好ましく、3質量部以下であるのが好ましい。
またチウラム系促進剤の配合割合は、ジエン系ゴムの総量100質量部あたり0.5質量部以上であるのが好ましく、3質量部以下であるのが好ましい。
酸化亜鉛の配合割合は、ジエン系ゴム100質量部あたり1質量部以上であるのが好ましく、5質量部以下であるのが好ましい。
【0033】
さらにステアリン酸の配合割合は、ジエン系ゴム100質量部あたり1質量部以上であるのが好ましく、3質量部以下であるのが好ましい。
〈その他の成分〉
本発明の高減衰組成物には、上記の各成分に加えて、さらにシリカ以外の他の無機充填剤や軟化剤、粘着性付与剤、老化防止剤等を適宜の割合で配合してもよい。
【0034】
(無機充填剤)
シリカ以外の他の無機充填剤としては、例えばカーボンブラック等が挙げられる。
またカーボンブラックとしては、その製造方法等によって分類される種々のカーボンブラックのうち、充填剤として機能しうるカーボンブラックの1種または2種以上が使用可能である。
【0035】
カーボンブラックの配合割合は、ジエン系ゴム100質量部あたり1質量部以上であるのが好ましく、5質量部以下であるのが好ましい。
(軟化剤)
軟化剤は、高減衰組成物の加工性をさらに向上するための成分であって、当該軟化剤としては、例えば室温(2〜35℃)で液状を呈する液状ゴムが挙げられる。また液状ゴムとしては、例えば液状ポリイソプレンゴム、液状ニトリルゴム(液状NBR)、液状スチレンブタジエンゴム(液状SBR)等の1種または2種以上が挙げられる。
【0036】
このうち液状ポリイソプレンゴムが好ましい。液状ポリイソプレンゴムとしては、例えば(株)クラレ製のクラプレン(登録商標)LIR−30(数平均分子量:28000)、LIR−50(数平均分子量:54000)等が挙げられる。
液状ポリイソプレンゴムの配合割合は、ジエン系ゴム100質量部あたり5質量部以上であるのが好ましく、50質量部以下であるのが好ましい。
【0037】
配合割合がこの範囲未満では、当該液状ポリイソプレンゴムを配合することによる、高減衰組成物の加工性を向上する効果が十分に得られないおそれがある。一方、液状ポリイソプレンゴムの配合割合が上記の範囲を超える場合には粘弾性体の減衰性能が低下するおそれがある。
また他の軟化剤としては、例えばクマロンインデン樹脂等が挙げられる。
【0038】
クマロンインデン樹脂としては、主にクマロンとインデンの重合物からなり、平均分子量1000以下程度の比較的低分子量であって、軟化剤として機能しうる種々のクマロンインデン樹脂が挙げられる。
クマロンインデン樹脂としては、例えば日塗化学(株)製のニットレジン(登録商標)クマロンG−90〔平均分子量:770、軟化点:90℃、酸価:1.0KOHmg/g以下、水酸基価:25KOHmg/g、臭素価9g/100g〕、G−100N〔平均分子量:730、軟化点:100℃、酸価:1.0KOHmg/g以下、水酸基価:25KOHmg/g、臭素価11g/100g〕、V−120〔平均分子量:960、軟化点:120℃、酸価:1.0KOHmg/g以下、水酸基価:30KOHmg/g、臭素価6g/100g〕、V−120S〔平均分子量:950、軟化点:120℃、酸価:1.0KOHmg/g以下、水酸基価:30KOHmg/g、臭素価7g/100g〕等の1種または2種以上が挙げられる。
【0039】
クマロンインデン樹脂の配合割合は特に限定されないが、ジエン系ゴム100質量部あたり3質量部以上であるのが好ましく、20質量部以下であるのが好ましい。
(粘着性付与剤)
粘着性付与剤としては、例えば石油樹脂等が挙げられる。また石油樹脂としては、例えば丸善石油化学(株)製のマルカレッツ(登録商標)M890A〔ジシクロペンタジエン系石油樹脂、軟化点:105℃〕等が好ましい。
【0040】
石油樹脂の配合割合は特に限定されないが、ジエン系ゴム100質量部あたり3質量部以上であるのが好ましく、30質量部以下であるのが好ましい。
(老化防止剤)
老化防止剤としては、例えばベンズイミダゾール系、キノン系、ポリフェノール系、アミン系等の各種老化防止剤の1種または2種以上が挙げられる。特にベンズイミダゾール系老化防止剤とキノン系老化防止剤を併用するのが好ましい。
【0041】
このうちベンズイミダゾール系老化防止剤としては、例えば大内新興化学工業(株)製のノクラック(登録商標)MB〔2−メルカプトベンズイミダゾール〕等が挙げられる。またキノン系老化防止剤としては、例えば丸石化学品(株)製のアンチゲンFR〔芳香族ケトン−アミン縮合物〕等が挙げられる。
両老化防止剤の配合割合は特に限定されないが、ベンズイミダゾール系老化防止剤は、ジエン系ゴム100質量部あたり0.5質量部以上であるのが好ましく、5質量部以下であるのが好ましい。またキノン系老化防止剤は、ジエン系ゴム100質量部あたり0.5質量部以上であるのが好ましく、5質量部以下であるのが好ましい。
【0042】
本発明の高減衰組成物によれば、例えばビル等の建築物の基礎に組み込まれる免震用の粘弾性支承や、あるいは建築物の構造中に組み込まれる制震(制振)用の粘弾性ダンパを構成する粘弾性体を形成できる。
また本発明の高減衰組成物によれば、例えば吊橋や斜張橋等のケーブルの制振部材、産業機械や航空機、自動車、鉄道車両等の防振部材、コンピュータやその周辺機器類あるいは家庭用電気機器類等の防振部材、さらには自動車用タイヤのトレッド等として使用される各種の粘弾性体をも形成できる。
【0043】
そして本発明によればジエン系ゴム、シリカ、窒化ホウ素、シラン化合物、架橋成分その他、各種成分の種類とその組み合わせおよび配合割合を調整することにより、それぞれの粘弾性体を、それぞれの用途に適した優れた減衰性能を有するものとすることができる。
《粘弾性ダンパ》
特に本発明の高減衰組成物を形成材料として用いて、建築物の構造中に組み込まれる粘弾性ダンパの粘弾性体を形成した場合には、当該粘弾性体が高い減衰性能を有するとともに良好な熱伝導性を有することから、前述したように本震後に繰り返される余震や長時間に亘って揺れが続く地震などに対しても熱の蓄積による減衰性能の低下を抑制し、良好な減衰性能を維持して建築物の破損や倒壊等を防止することができる。
【0044】
またジエン系ゴムは、先に説明したように粘弾性体の減衰性能や物性等の温度依存性を小さくできることから、例えば温度差の大きい建築物の外壁付近に粘弾性ダンパを設置することもできる。したがって建築物等における、粘弾性ダンパによる制震性能の設計の自由度を拡げることもできる。
《粘弾性支承》
また本発明の高減衰組成物を形成材料として用いて、建築物の基礎に組み込まれる粘弾性支承の粘弾性体を形成した場合には、やはり当該粘弾性体が高い減衰性能を有するとともに良好な熱伝導性を有することから、本震後に繰り返される余震や長時間に亘って揺れが続く地震などに対しても熱の蓄積による減衰性能の低下を抑制し、良好な減衰性能を維持して建築物の破損や倒壊等を防止することができる。
【実施例】
【0045】
〈実施例1〉
(高減衰組成物の調製)
ジエン系ゴムとしての天然ゴム〔SMR(Standard Malaysian Rubber)−CV60〕100質量部に、シリカ〔東ソー・シリカ(株)製のNipSil KQ〕150質量部、式(1)で表されるフェニル型シリル化剤としてのフェニルトリエトキシシラン〔信越化学工業(株)製のKBE−103〕20質量部、および窒化ホウ素〔KENNAMETAL SINTEC社製のBN5000〕30質量部と、下記表1に示す各成分のうち架橋剤、促進剤以外の成分とを配合し、密閉式混練機を用いて混練したのち、さらに架橋剤、促進剤を加えて混練して高減衰組成物を調製した。
【0046】
混練は容易であり、加工性は良好(○)と評価した。
【0047】
【表1】
【0048】
表中の各成分は下記のとおり。また表中の質量部は、それぞれ天然ゴム100質量部あたりの質量部である。
液状ポリイソプレンゴム:(株)クラレ製のLIR−50、数平均分子量:54000
カーボンブラック:FEF、東海カーボン(株)製のシーストSO
ベンズイミダゾール系老化防止剤:2−メルカプトベンズイミダゾール、大内新興化学工業(株)製のノクラックMB
キノン系老化防止剤:丸石化学品(株)製のアンチゲンFR
酸化亜鉛2種:三井金属鉱業(株)製
ステアリン酸:日油(株)製の「つばき」
クマロン樹脂:軟化点90℃、日塗化学(株)製のニットレジン(登録商標) クマロンG−90
ジシクロペンタジエン系石油樹脂:軟化点105℃、丸善石油化学(株)製のマルカレッツ(登録商標)M890A
5%オイル処理粉末硫黄:加硫剤、鶴見化学工業(株)製
スルフェンアミド系促進剤:N−tert−ブチル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド、大内新興化学工業(株)製のノクセラー(登録商標)NS
チウラム系促進剤:テトラブチルチウラムジスルフィド、大内新興化学工業(株)製のノクセラーTBT−N
〈実施例2、3〉
シリカの配合割合を、天然ゴム100質量部あたり100質量部(実施例2)、180質量部(実施例3)としたこと以外は実施例1と同様にして高減衰組成物を調製した。
【0049】
いずれも混練は容易であり、加工性は良好(○)と評価した。
〈実施例4、比較例1
窒化ホウ素の配合割合を、天然ゴム100質量部あたり1質量部(比較例1)、80質量部(実施例)としたこと以外は実施例1と同様にして高減衰組成物を調製した。
いずれも混練は容易であり、加工性は良好(○)と評価した。
【0050】
〈比較例
窒化ホウ素を配合しなかったこと以外は実施例1と同様にして高減衰組成物を調製した。
混練は容易であり、加工性は良好(○)と評価した。
〈比較例
シリカを配合しなかったこと以外は実施例1と同様にして高減衰組成物を調製した。
【0051】
混練は容易であり、加工性は良好(○)と評価した。
〈減衰特性試験〉
(試験体の作製)
実施例、比較例で調製した高減衰組成物をシート状に押出成形したのち打ち抜いて、図1に示すように円板1(厚み5mm×直径25mm)を作製し、この円板1の表裏両面に、それぞれ加硫接着剤を介して厚み6mm×縦44mm×横44mmの矩形平板状の鋼板2を重ねて積層方向に加圧しながら150℃に加熱して円板1を形成する高減衰組成物を加硫させるとともに円板1を2枚の鋼板2と加硫接着させて、粘弾性体のモデルとしての減衰特性評価用の試験体3を作製した。
【0052】
(変位試験)
図2(a)に示すように上記の試験体3を2個用意し、この2個の試験体3を、一方の鋼板2を介して1枚の中央固定治具4にボルトで固定するとともに、それぞれの試験体3の他方の鋼板2に、1枚ずつの左右固定治具5をボルトで固定した。そして中央固定治具4を、図示しない試験機の上側の固定アーム6に、ジョイント7を介してボルトで固定し、かつ2枚の左右固定治具5を、上記試験機の下側の可動盤8に、ジョイント9を介してボルトで固定した。
【0053】
次にこの状態で、可動盤8を図中に白抜きの矢印で示すように固定アーム6の方向に押し上げるように変位させて、円板1を図2(b)に示すように厚み方向と直交方向に歪み変形させた状態とし、次いでこの状態から、可動盤8を図中に白抜きの矢印で示すように固定アーム6の方向と反対方向に引き下げるように変位させて図2(a)に示す状態に戻す操作を1サイクルとして円板1を繰り返し歪み変形、すなわち振動させた際の、円板1の厚み方向と直交方向の変位量(mm)と荷重(N)との関係を示すヒステリシスループH(図3参照)を求めた。
【0054】
測定は、温度20℃の環境下、上記の操作を3サイクル実施して3回目の値を求めた。また最大変位量は、円板1を挟む2枚の鋼板2の、当該円板1の厚み方向と直交方向のずれ量が円板1の厚みの100%となるように設定した。
次いで、上記の測定により求めた図3に示すヒステリシスループHのうち最大変位点と最小変位点とを結ぶ、図中に太線の実線で示す直線Lの傾きKeq(N/mm)を求め、この傾きKeq(N/mm)と、円板1の厚みT(mm)と、円板1の断面積A(mm)とから、式(a):
【0055】
【数1】
【0056】
により等価せん断弾性率Geq(N/mm)を求めた。そして比較例1における等価せん断弾性率Geq(N/mm)を100としたときの、各実施例、比較例の等価せん断弾性率Geq(N/mm)の相対値を求めた。
また図3中に斜線を付して示した、ヒステリシスループHの全表面積で表される吸収エネルギー量ΔWと、同図中に網線を付して示した、直線Lと、グラフの横軸と、直線LとヒステリシスループHとの交点から横軸におろした垂線Lとで囲まれた領域の表面積で表される弾性歪みエネルギーWとから、式(b):
【0057】
【数2】
【0058】
により等価減衰定数Heqを求めた。そして比較例1における等価減衰定数Heqを100としたときの、各実施例、比較例の等価減衰定数Heqの相対値を求め、かかる相対値が100以下のものを不良、100を超えるものを良好、105以上のものを特に良好と評価した。
〈熱伝導性試験〉
実施例、比較例で調製した高減衰組成物をシート状に押出成形し、さらにプレス成形して厚み5mmの試験体を作製し、その厚み方向の熱伝導率を、迅速熱伝導率計〔京都電子工業(株)製のQTM−500〕を用いて測定した。そして比較例1における熱伝導率を100としたときの、各実施例、比較例の熱伝導率の相対値を求め、かかる相対値が110未満のものを不良、110以上のものを良好と評価した。
【0059】
以上の結果を表2に示す。
【0060】
【表2】
【0061】
表2の実施例1〜、比較例1〜3の結果より、ジエン系ゴムにシリカとともに窒化ホウ素を配合することで、減衰性能に優れる上、熱が蓄積されにくいため、振動が短いスパンで繰り返されたり比較的長時間に亘って続いたりしても良好な減衰性能を維持しうる粘弾性体を形成できることが判った。
ただし実施例1、4、比較例1の結果より、高減衰組成物の良好な加工性を維持しながら上記の効果をより一層向上するためには、窒化ホウ素の配合割合を、天然ゴム100質量部あたり30質量部以上、60質量部以下とする必要があることが判った。
【0062】
さらに実施例1〜3の結果より、高減衰組成物の良好な加工性を維持しながら上記の効果をより一層向上するためには、シリカの配合割合を、天然ゴム100質量部あたり100質量部以上、180質量部以下とする必要があり、特に140質量部以上とするのが好ましいことが判った。
【符号の説明】
【0063】
H ヒステリシスループ
Heq 等価減衰定数
直線
垂線
W エネルギー
ΔW 吸収エネルギー量
1 円板
2 鋼板
3 試験体
4 中央固定治具
5 左右固定治具
6 固定アーム
7 ジョイント
8 可動盤
9 ジョイント
図1
図2
図3