(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記金属酸化物における金属はチタン(Ti)、バナジウム(V)、クロム(Cr)、ジルコニウム(Zr)、ニオブ(Nb)、及びモリブデン(Mo)からなる群から選択される少なくとも1種であることを特徴とする
請求項1〜4のいずれか一項に記載のデュアルイオンバッテリ。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下の説明において例示される材料、寸法等は一例であって、本発明はそれらに限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲で適宜変更して実施することが可能である。
【0016】
[デュアルイオンバッテリ]
本発明の一実施形態に係るデュアルイオンバッテリ(DIB)は、正極集電体とその上に配置された正極活物質とを含む正極と、負極集電体とその上に配置された負極活物質とを含む負極と、を有する。正極活物質は黒鉛を含み、負極活物質は陽イオンを吸蔵放出し得る金属酸化物を含む。正極集電体及び負極集電体は、非晶質炭素被膜で被覆されたアルミニウム材からなる。
【0017】
デュアルイオンバッテリは、充電時、電解液に含まれる電解質の陰イオンが正極活物質の層間に挿入され、陽イオンは負極活物質の層間に挿入される。その際、電解質の陰イオンや陽イオンはSEI被膜等を介さず、直接正極活物質や負極活物質の層間に挿入脱離するので、イオンの挿入脱離の抵抗が小さくなる。そのため、リチウムイオン電池に比べて、デュアルイオンバッテリの入出力特性が高くなるのが特徴である。また、デュアルイオンバッテリに用いられる正極活物質や負極活物質に対して挿入脱離される、電解質の陰イオンや陽イオンは種々の物を用いることができるのも特徴である。例えば、正極活物質にはBF
4イオンやPF
6イオン等が代表的であり、負極活物質にはLi、Na、K等のアルカリ金属イオン、MgやCa等のアルカリ土類金属イオン等を用いることができる。Liの場合は正極活物質にリチウムイオンを可逆的に挿入脱離できる材料が多く、また実用化されている材料が多いため、いわゆるシャトルコック反応型でリチウムイオンのみが正極と負極を移動することでリチウムイオン電池を成立させている。しかし、Li以外のアルカリ金属イオンやアルカリ土類金属イオンの場合は可逆的に挿入脱離できる正極材料が限定的、あるいは可逆性が低い正極材料が多い。そのため、これらの金属イオンを用いるイオン電池は、リチウムイオン電池のようなシャトルコック反応型で成立させることが難しい。また、Na、K、Mg、Ca等の陽イオンは黒鉛等の炭素材料中へは挿入脱離できる材料が存在する。したがって、本発明のようなデュアルイオンバッテリであれば、正極に陰イオンを挿入脱離できる電解質を用い、負極にはNaやK、Mg、Ca等の陽イオンを挿入脱離できる活物質を選択することで蓄電デバイスとして成立させることができる。
【0018】
本発明では正極活物質に黒鉛等の炭素材、負極活物質に、陽イオンを吸蔵放出し得る金属酸化物を用いている。例えば、正極活物質に黒鉛、負極活物質にチタン酸リチウムを用いることによって充放電容量を大きくすることができた。言い換えると、チタン酸リチウムは160〜170mAh/gの実用容量を持っている。活性炭負極の実用容量は30〜50mAh/gなので、対向する黒鉛の容量も同程度しか発現できないが、チタン酸リチウムを用いることによって高めることができた結果である。正極活物質の黒鉛の容量をより使えるようにしたことによって、セルのエネルギー密度を高めることができた。また、正極活物質や負極活物質への陰イオンや陽イオンの挿入脱離反応では、リチウムイオン電池の黒鉛負極のSEI被膜や溶媒和を外す等の抵抗成分がないために、陰イオンや陽イオンの移動抵抗が小さくなり、大きな電流での充放電性能(高入出力性能)がリチウムイオン電池に比べて高くなった。
しかし、今度はサイクル寿命特性が低下するという課題が現れた。この課題の原因は、負極にチタン酸リチウムなどの金属酸化物を用いると、活性炭を負極に用いた場合の電極電位が斜めに直線状に減少変化するのに比べて、チタン酸リチウムなどの金属酸化物の電位曲線が平坦になる。このため、負極にチタン酸リチウムなどの金属酸化物の電位曲線は、活性炭の電位曲線よりもより卑な電位でさらされる時間が長くなる。これによって、デュアルイオンバッテリの負極集電体が、従来のキャパシタの負極集電体より溶解し易くなる。この結果、高温耐久性能が低下したり、充放電サイクル寿命特性が低下した。この課題に対して、本発明の耐食性を高めた集電体を負極集電体に用いることで集電体の溶解を抑制できることを見出した。すなわち、充放電容量が活性炭よりも大きな負極活物質を用いることで、セルのエネルギー密度を向上できたが、負極集電体が溶解する影響が顕在化した。本発明の耐食性を高めた集電体を適用することでその課題を解決することができた。
【0019】
<負極>
本発明の一実施形態のデュアルイオンバッテリで用いる負極は、集電体(負極集電体)とその上に形成されている負極活物質層を含む。負極活物質層は、負極活物質とバインダーと導電材とを含む。
【0020】
「負極活物質層」
負極活物質層は、負極活物質とバインダーと導電材とを含む。
負極活物質層は主に、負極活物質、バインダー、及び、必要に応じた量の導電材を含むペースト状の負極材料を、負極集電体上に塗布し、乾燥して、形成することができる。
【0021】
〔バインダー〕
本実施形態のデュアルイオンバッテリで用いる負極は、さらにバインダーを含むことが好ましい。
バインダーとしては、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、フッ素ゴム、エチレンプロピレンジエンゴム、スチレンブタジエン、アクリル系、オレフィン系、カルボキシメチルセルロース(CMC)系、ゼラチンやキトサン、アルギン酸等の天然高分子の単独、もしくは2種類以上の混合系を用いることができる。
【0022】
〔導電材〕
導電材としては、負極活物質層の導電性を良好にするものであれば特に限定されず、公知の導電材を用いることができる。例えば、カーボンブラック、炭素繊維(カーボンナノチューブ(CNT)、VGCF(登録商標)等を含み、カーボンナノチューブに限らない)等を用いることができる。
【0023】
〔負極活物質〕
負極活物質としては、後述する電解液に含まれる電解質イオンである陽イオンを吸蔵し得る金属酸化物を含むものである。すなわち、陽イオンを可逆的に挿入脱離できる材料であれば用いることができる。陽イオンとしては、例えば、Li、Na、K等のアルカリ金属イオン、Mg、Ca等のアルカリ土類金属イオン等を用いることができる。
ここで、リチウムを用いた例を例示する。例えば、リチウムを挿入脱離できる金属酸化物を用いることができる。より具体的には、リチウムを含有する金属酸化物あるいはリチウムを含有しない金属酸化物を用いることができる。リチウムを挿入脱離できる金属酸化物の金属としては、周期律表の4、5、6周期の4、5、6族を用いることができる。具体的には、チタン(Ti)、バナジウム(V)、クロム(Cr)、ジルコニウム(Zr)、ニオブ(Nb)、モリブデン(Mo)等の遷移金属を用いることが好ましい。リチウムを含有する金属酸化物としては、例えばリチウム含有チタン酸化物であるLi
4Ti
5O
12やリチウム含有ニオブ酸化物であるLiNbO
2、リチウム含有バナジウム酸化物であるLi
1.1V
0.9O
2等を用いることができる。また、リチウムを含有しない金属酸化物としては、例えばTiO
2、NbO
2、V
2O
5等を用いることができる。
【0024】
本発明の効果をより大きくする観点から、負極活物質の単位重量当たりの容量は、正極活物質(黒鉛)の単位重量当たりの容量よりも高いことが好ましい。正極に用いる黒鉛の理論容量は、372mAh/gである。しかし、リチウムイオンに比べて大きな陰イオンを挿入脱離する本発明の黒鉛正極の容量は、サイクル寿命や黒鉛正極の膨張度合の観点から50mAh/g〜100mAh/gが好ましい。一方、負極に用いる活物質の理論容量は各々、Li
4Ti
5O
12は175mAh/g、LiNbO
2は203mAh/g、Li
1.1V
0.9O
2は313mAh/g、TiO
2は335mAh/g、NbO
2は214mAh/g、V
2O
5は147mAh/gである。これらの負極活物質を用いた負極は上記黒鉛正極とは異なり、理論容量近くまで充放電することができる。したがって、上記負極活物質の実用容量は、上記黒鉛正極の実用容量(50mAh/g〜100mAh/g)よりも大きい。すなわち、本発明の正極活物質は、実用容量が50mAh/g〜100mAh/gである黒鉛であり、本発明の負極活物質は、その黒鉛正極の実用容量より高いことが好ましい。本発明の正極活物質は、実用容量が50mAh/g〜100mAh/gである黒鉛であり、本発明の負極活物質は、Li
4Ti
5O
12、LiNbO
2、Li
1.1V
0.9O
2、TiO
2、NbO
2、及びV
2O
5からなる群から選択される少なくとも1種であることがより好ましい。本発明の正極活物質は、実用容量が50mAh/g〜100mAh/gである黒鉛であり、本発明の負極活物質は、Li
4Ti
5O
12であることがさらに好ましい。
また、上記負極活物質の容量は、活性炭負極の実用容量(30mAh/g〜50mAh/g)よりも大きくなる。活性炭負極を用いた従来のハイブリッドキャパシタでは、その負極の容量が律速となるため、エネルギー密度を高めにくかった。しかし、本発明の負極活物質は活性炭に比べて容量が大きくなるため、本発明の負極活物質を用いることで、黒鉛正極の容量を高めることができる。その結果、本発明のデュアルイオンバッテリは高エネルギー密度化を図ることができる。
【0025】
「負極集電体」
負極集電体は、非晶質炭素被膜で被覆されたアルミニウム材である。
【0026】
基材であるアルミニウム材としては、一般的に集電体用途で使用されるアルミニウム材を用いることができる。
アルミニウム材の形状としては、箔、シート、フィルム、メッシュなどの形態をとることができる。集電体としては、アルミニウム箔を好適に用いることができる。
また、アルミニウム材としてプレーンなものの他、後述するエッチドアルミニウムを用いてもよい。
【0027】
アルミニウム材が箔、シートまたはフィルムである場合の厚みについては、特に限定されないが、セル自体のサイズが同じ場合、薄いほどセルケースに入れる活物質を多く封入できるというメリットはあるが、強度が低下するため、適正な厚みを選択する。実際の厚みとしては、10μm〜40μmが好ましく、15μm〜30μmがより好ましい。厚みが10μm未満の場合、アルミニウム材の表面を粗面化する工程、または、他の製造工程中において、アルミニウム材の破断または亀裂を生じるおそれがある。
【0028】
非晶質炭素被膜で被覆されたアルミニウム材として、エッチドアルミニウムを用いてもよい。
エッチドアルミニウムは、エッチングによって粗面化処理されたものである。エッチングは一般的に塩酸等の酸溶液に浸漬(化学エッチング)したり、塩酸等の酸溶液中でアルミニウムを陽極として電解(電気化学エッチング)する方法等が用いられる。電気化学エッチングでは、電解の際の電流波形、溶液の組成、温度等によりエッチング形状が異なるので、デュアルイオンバッテリの性能の観点で選択できる。
【0029】
アルミニウム材は、表面に不動態層を備えているもの、備えていないもののいずれも用いることができる。アルミニウム材は、その表面に自然酸化膜である不動態膜が形成されている場合、非晶質炭素被膜層をこの自然酸化膜の上に設けてもよいし、自然酸化膜を例えば、アルゴンスパッタリングにより除去した後に設けてもよい。
アルミニウム材上の自然酸化膜は不動態膜であり、それ自体、電解液に浸食されにくいという利点がある一方、集電体の抵抗の増大につながるため、集電体の抵抗の低減の観点では、自然酸化膜がない方がよい。
【0030】
本明細書において、非晶質炭素被膜とは、非晶質の炭素膜または水素化炭素膜であり、ダイヤモンドライクカーボン(DLC)膜、カーボン硬質膜、アモルファスカーボン(a−C)膜、水素化アモルファスカーボン(a−C:H)膜等を含む。非晶質炭素被膜の成膜方法としては、炭化水素系ガスを用いたプラズマCVD法、スパッタ蒸着法、イオンプレーティング法、真空アーク蒸着法等の公知の方法を用いることができる。なお、非晶質炭素被膜は、集電体として機能する程度の導電性を有することが好ましい。
【0031】
例示した非晶質炭素被膜の材料のうち、ダイヤモンドライクカーボンは、ダイヤモンド結合(sp
3)とグラファイト結合(sp
2)の両方が混在したアモルファス構造を有する材料であり、高い耐薬品性を有する。ただし、集電体の被膜に用いるには導電性が低いため、導電性を高めるためにホウ素や窒素をドーピングするのが好ましい。
【0032】
非晶質炭素被膜の厚みは60nm以上、300nm以下であることが好ましい。非晶質炭素被膜の膜厚は、60nm未満であると薄すぎて非晶質炭素被膜の被覆効果が小さくなり、定電流定電圧連続充電試験での集電体の腐食を十分抑制できず、300nmを超えて厚すぎると非晶質炭素被膜が抵抗体になって活物質層との間の抵抗が高くなるので、適正な厚みを適宜選択する。非晶質炭素被膜の厚みは80nm以上、300nm以下であればより好ましく、120nm以上、300nm以下であればさらに好ましい。炭化水素系ガスを用いたプラズマCVD法によって非晶質炭素被膜を成膜した場合、非晶質炭素被膜の厚みはアルミニウム材へ注入するエネルギー、具体的には印加電圧、印加時間、温度で制御することができる。
【0033】
本実施形態のデュアルイオンバッテリの負極集電体はアルミニウム材の表面に非晶質炭素被膜を有するので、アルミニウム材が電解液に接することを阻止して、電解液による集電体の腐食を防止することができる。
【0034】
負極集電体は、非晶質炭素被膜上に導電性炭素層が形成されていることがより好ましい。
導電性炭素層を備えることにより、非晶質炭素被膜にピンホールがある場合でも、そのピンホールを封孔して、アルミニウム材が電解液に接することを阻止して、電解液による集電体の腐食を防止することができる。
また、導電性炭素層を備えることにより、集電体を被覆する非晶質炭素被膜と負極活物質との接触抵抗を低減し、放電率を高め、出力特性を高めるとともに高温耐久性を高めることができる。
【0035】
非晶質炭素被膜と負極活物質との間に導電性炭素層が形成されている集電体においては、非晶質炭素被膜層の上に、さらに導電性炭素層が形成されている。導電性炭素層の厚みは5μm以下であれば好ましく、3μm以下であればより好ましい。厚みが5μmを超えると、セルや電極になったとき、エネルギー密度が小さくなるからである。導電性炭素層の材料としては、導電性が高い炭素ならば種類を問わないが、導電性が高い炭素として黒鉛が含まれていることが好ましく、黒鉛のみであればより好ましい。
【0036】
導電性炭素層の材料の粒径は、活物質である黒鉛や本発明に係る多孔質炭素材料の大きさに比べて1/10以下であることが好ましい。これは、粒径がこの範囲にあれば、導電性炭素層と活物質層が接する界面での接触性が高くなり、界面(接触)抵抗を低減できるからである。具体的には導電性炭素層の炭素材料の粒径が、1μm以下であれば好ましく、0.5μm以下であればより好ましい。
【0037】
また、導電性炭素層を形成する際、溶媒と共にバインダーを加えて塗料化し、DLCコーティングしたアルミニウム箔上に塗布する。塗布方法としては、スクリーン印刷、グラビア印刷、コンマコーター(登録商標)、スピンコーター等を用いることができる。バインダーとしては、セルロース、アクリル、ポリビニルアルコール、熱可塑性樹脂、ゴム、有機樹脂を用いることができる。熱可塑性樹脂としてはポリエチレンやポリプロピレン、ゴムとしてはSBR(スチレンブタジエンラバー)やEPDM(エチレンプロピレンジエンゴム)、有機樹脂としてはフェノール樹脂やポリイミド樹脂等を用いることができる。
【0038】
導電性炭素層は、粒子間の隙間が少なく、接触抵抗が低い方が好ましい。また、上記の導電性炭素層を形成するためのバインダーを溶かすための溶剤としては、水溶液と有機溶剤の2種類がある。電極活物質層を形成するためのバインダーが有機溶剤に溶解するものであれば、導電性炭素層には水溶液に溶解するバインダーを用い、逆に電極活物質層を形成するためのバインダーが水溶液の場合は導電性炭素層には有機溶剤に溶解するバインダーを用いるのが好ましい。これは同種の溶剤を電極活物質層と導電性炭素層に用いると、電極活物質層を塗布する際に導電性炭素層のバインダーが溶けやすく、不均一になりやすいからである。
【0039】
<正極>
本発明の一実施形態のデュアルイオンバッテリで用いる正極は、集電体(正極集電体)とその上に形成されている正極活物質層を含む。正極活物質層は、正極活物質とバインダーと導電材とを含む。
【0040】
「正極活物質層」
正極活物質層は、正極活物質とバインダーと導電材とを含む。
正極活物質層は主に、正極活物質、バインダー、及び、必要に応じた量の導電材を含むペースト状の正極材料を、正極集電体上に塗布し、乾燥して、形成することができる。
【0041】
〔バインダー〕及び〔導電材〕
正極のバインダー及び導電材は、上記負極のバインダー及び導電材と同様な類型のものを用いることができる。
【0042】
〔正極活物質〕
正極活物質は、黒鉛を含むものである。黒鉛としては、人造黒鉛、天然黒鉛のいずれも用いることができる。また、天然黒鉛としては鱗片状のものと土状のものが知られている。天然黒鉛は、採掘した原鉱石を粉砕し、浮遊選鉱と呼ばれる選鉱を繰り返すことによって得られる。また、人造黒鉛は例えば、高温度によって炭素材料を焼成する黒鉛化工程を経て製造されるものである。より具体的には例えば、原料のコークスにピッチなどの結合剤を加えて成形し、1300℃付近まで加熱することで一次焼成し、次に一次焼成品をピッチ樹脂に含浸させ、さらに3000℃に近い高温で二次焼成することで得られる。また、黒鉛粒子表面を炭素でコーティングしているものも用いることができる。
【0043】
黒鉛の結晶構造は大きく分けて、ABABからなる層構造の六方晶と、ABCABCからなる層構造の菱面体晶がある。これらは条件によってそれらの構造単独、あるいは混合状態になるが、いずれの結晶構造のものも混合状態のものも用いることができる。例えば、後述する実施例で用いたイメリス・ジーシー・ジャパン株式会社製KS−6(商品名)の黒鉛は菱面体晶の比率が26%であり、大阪ガスケミカル株式会社製の人造黒鉛であるメソカーボンマイクロビーズ(MCMB)は菱面体晶の比率0%である。
【0044】
「正極集電体」
正極集電体は、上記負極集電体と同様、非晶質炭素被膜で被覆されたアルミニウム材である。
【0045】
また、正極集電体は、上記負極集電体と同様に、非晶質炭素被膜上に導電性炭素層が形成されていることがより好ましい。
導電性炭素層を備えることにより、非晶質炭素被膜にピンホールがある場合でも、そのピンホールを封孔して、アルミニウム材が電解液に接することを阻止して、電解液による集電体の腐食を防止することができる。
また、導電性炭素層を備えることにより、集電体を被覆する非晶質炭素被膜と正極活物質との接触抵抗を低減し、放電率を高め、出力特性を高めるとともに高温耐久性を高めることができる。
【0046】
<電解液>
本実施形態のデュアルイオンバッテリで用いる電解液としては、例えば、有機溶媒に電解質を溶解した有機電解液を用いることができる。電解液としては、電極に挿入脱離可能な電解質イオンを含む。具体的には、リチウム塩等を用いることができる。
有機溶媒としては、例えば、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、トリフルオロプロピレンカーボネート等の環状カーボネート、ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジプロピルカーボネート等の鎖状カーボネート等が挙げられる。これらの有機溶媒は、1種を単独で用いても、2種以上を混合して用いてもよい。
リチウム塩としては、例えば、LiPF
6、LiBF
4、LiClO
4、LiAsF
6、LiN(CF
3SO
2)
2等が挙げられる。
また、高温耐久性能や充放電サイクル特性、入出力特性等を高めるために、電解液に添加剤を用いてもよい。
【0047】
<セパレータ>
本実施形態のデュアルイオンバッテリで用いるセパレータとしては、正極と負極の短絡防止や電解液保液性の確保等の理由から、セルロース系の紙状セパレータや、ガラス繊維セパレータ、ポリエチレンやポリプロピレンの微多孔膜等が好適である。
【実施例】
【0048】
(合成例1)
「チタン酸リチウム(Li
4Ti
5O
12)の合成」
平均粒径が3μmのアナターゼ型酸化チタンと水酸化リチウムをチタンとリチウムの化学量論比が5:4モルになるように秤量し、るつぼに入れ、電気式雰囲気炉に投入し、大気中700℃で10時間焼成してチタン酸リチウム(Li
4Ti
5O
12)を得た。
【0049】
(合成例2)
「バナジウム酸リチウム(Li
1.1V
0.9O
2)の合成」
V
2O
5とLi
2CO
3をバナジウムとリチウムの化学量論比が0.9:1.1モルになるように秤量し、るつぼに入れ、電気式雰囲気炉に入れ、アルゴンフロー(500ml/分)中で1100℃で5時間焼成してバナジウム酸リチウム(Li
1.1V
0.9O
2)を得た。
【0050】
(実施例1)
<集電体の作製>
「DLCコーティングしたアルミニウム箔の作製」
DLCコーティングしたアルミニウム箔(以下、「DLCコートアルミニウム箔」ということがある)は、非晶質炭素被膜で被覆されたアルミニウム材に相当する。DLCコートアルミニウム箔の製造法としては、純度99.99%のアルミニウム箔(株式会社UACJ製箔製、厚さ20μm)に対して、アルゴンスパッタリングでアルミニウム箔表面の自然酸化膜を除去した後、そのアルミニウム表面近傍にメタン、アセチレン及び窒素の混合ガス中で放電プラズマを発生させ、アルミニウム材に負のバイアス電圧を印加することによりDLC膜を生成させた。ここで、DLCをコーティング(被覆)したアルミニウム箔上のDLC膜の厚みを、ブルカー(BRUKER)社製触針式表面形状測定器DektakXTを用いて計測したところ、160nmであった。
【0051】
「導電性炭素層を被覆したDLCコートアルミニウム箔からなる集電体の作製」
得られたDLCコートアルミニウム箔(厚さ20μm、DLC膜厚160nm)上に、スクリーン印刷機を用いて、日本黒鉛工業株式会社製の黒鉛製導電性ペースト(商品名:バニーハイトT−602U、セルロース系樹脂バインダー、水溶液)を塗布することで導電性炭素層を形成した後、100℃で20分間熱風乾燥機中で乾燥させ、正極集電体及び負極集電体である、導電性炭素層を被覆したDLCコートアルミニウム箔を得た。導電性炭素層の厚みをマイクロメーターを用いて計測したところ、3μmであった。
【0052】
<負極の作製>
負極活物質として合成1で得られたチタン酸リチウム(Li
4Ti
5O
12)、アセチレンブラック(導電材)、ポリフッ化ビニリデン(有機溶剤系バインダー)を、重量パーセント濃度(wt%)の比率が80:10:10となるように秤量し、N−メチルピロリドン(有機溶剤)で溶解混合することで得たペーストを、得られた負極集電体上に、ドクターブレードを用いて塗布し、本実施例の負極を得た。マイクロメーターを用いて負極の厚みを計測したところ、60μmであった。
【0053】
<正極の作製>
正極活物質としてイメリス・ジーシー・ジャパン株式会社製黒鉛(商品名:KS−6、平均粒径6μm)、アセチレンブラック(導電材)、ポリフッ化ビニリデン(有機溶剤系バインダー)を、重量パーセント濃度(wt%)の比率が80:10:10となるように秤量し、N−メチルピロリドン(有機溶剤)で溶解混合することで得たペーストを、得られた正極集電体上に、ドクターブレードを用いて塗布し、本実施例の正極を得た。マイクロメーターを用いて正極の厚みを計測したところ、80μmであった。
【0054】
<コインセルの作製>
得られた正極を直径16mm、得られた負極を直径14mmの円板状に打ち抜いたものを150℃で24時間真空乾燥した後、アルゴングローブボックスへ移動した。乾燥後の正極と負極を、ニッポン高度紙工業株式会社製紙セパレータ(商品名:TF40−30)を介して積層し、電解質に1MのLiBF
4(四フッ化ホウ酸リチウム)、溶媒にプロピレンカーボネートを用いた電解液を0.1mL加えて、アルゴングローブボックス中で2032型コインセルを作製した。
【0055】
(実施例2)
負極集電体としてDLCコートアルミニウム箔(厚さ20μm、DLC膜厚160nm)を用いたこと以外は、実施例1と同様の方法でコインセルを作製した。
【0056】
(実施例3)
正極集電体としてDLCコートアルミニウム箔(厚さ20μm、DLC膜厚160nm)を用いたこと以外は、実施例1と同様の方法でコインセルを作製した。
【0057】
(実施例4)
正極集電体及び負極集電体としてDLCコートアルミニウム箔(厚さ20μm、DLC膜厚160nm)を用いたこと以外は、実施例1と同様の方法でコインセルを作製した。
【0058】
(実施例5)
正極集電体及び負極集電体である導電性炭素層を被覆したDLCコートアルミニウム箔を作製する際、DLC膜厚100nmのDLCコートアルミニウム箔を用いた以外は、実施例1と同様の方法でコインセルを作製した。
【0059】
(比較例1)
負極集電体としてプレーンのアルミニウム箔(株式会社UACJ製箔製、厚さ20μm)を用いたこと以外は、実施例1と同様の方法でコインセルを作製した。
【0060】
(比較例2)
負極活物質として株式会社クラレ製活性炭YP−50Fを用いたこと以外は、実施例1と同様の方法でコインセルを作製した。
【0061】
(試験1)エネルギー量の評価
得られた実施例1と比較例2のセルについて、株式会社ナガノ製充放電試験装置BTS2004を用いて、25℃の恒温槽中で、0.4mA/cm
2の電流密度、3.5Vの電圧で定電流定電圧充電を行ない、その後、定電流(電流密度0.4mA/cm
2)の放電電流値で2.0Vまで放電を行なう充放電試験を行なった。2.0Vまで放電した時間と放電電流の積により、放電容量を算出した。また、エネルギー量(Wh)は放電時の平均電圧と放電容量の積により算出した。その結果を表1に示す。表1においては、実施例1のエネルギー量を比較例2で規格化した値を示した。この際、比較例2の結果を100として規格化した。
【0062】
(試験2)放電容量維持率の評価
得られた実施例1〜実施例5、比較例1のセルについて、株式会社ナガノ製充放電試験装置BTS2004を用いて、25℃の恒温槽中で、0.4mA/cm
2の電流密度、3.5Vの電圧で定電流定電圧充電を行ない、その後、電流密度0.4mA/cm
2の放電電流値で2.0Vまで放電を行なう充放電試験を行い、定電流定電圧連続充電試験前の放電容量を計測した。
次に充放電試験装置BTS2004を用いて、60℃の恒温槽中で、電流密度0.4mA/cm
2、電圧3.5Vで連続充電試験(定電流定電圧連続充電試験)を行なった。具体的には、充電の途中、所定の時間で充電を止め、恒温槽の温度を25℃に変更し、5時間経過後、上記と同様に0.4mA/cm
2の電流密度、3.5Vの電圧で定電流定電圧充電を行ない、その後、電流密度0.4mA/cm
2の放電電流値で2.0Vまで放電を行なう充放電試験を5回行うことで放電容量を得た。その後、恒温槽の温度を60℃に戻し、5時間経過後、連続充電試験を再開し、連続充電試験時間の総計が2000時間になるまで試験を実施した。
2000時間での放電容量維持率(%)は、試験開始前の放電容量を100とし、試験開始後、2000時間経過後の放電容量を、その100の放電容量に対する割合で示したものである。60℃耐久性は、この60℃、2000時間での放電容量維持率を用いて評価した。その結果を表1に示す。表1においては、実施例1〜5の放電容量維持率(%)を比較例1で規格化した値を示した。この際、比較例1の結果を100として規格化した。
【0063】
【表1】
【0064】
実施例2は、比較例1と比べて負極集電体が異なるだけである。実施例2の負極集電体はDLCコートアルミニウム箔であるのに対して、比較例1の負極集電体はプレーンアルミニウム箔である。
実施例2の放電容量維持率は比較例1の放電容量維持率の22倍であり、大きな60℃耐久性を示した。この大きな効果は、負極集電体のアルミニウム箔がDLCコートを有することによるものである。
【0065】
負極集電体がDLCコートアルミニウム箔を用いたことで、放電容量維持率が20倍以上大幅に改善された。DLC膜による耐腐食効果以外の原因もあると考えられる。例えば、負極活物質と負極集電体のDLC膜との何らかの相互作用は、このような大きい効果に寄与したと、考えられる。すなわち、従来のプレーンアルミニウム箔を用いる場合、本発明の負極活物質としての金属酸化物は、アルミニウム箔又はその酸化物と直接に接触した。しかし、本発明のDLCコートアルミニウム箔を用いる場合、本発明の負極活物質としての金属酸化物は、アルミニウム箔又はその酸化物と直接に接触せず、DLC膜と接触した。このことによって、放電容量維持率を大幅に改善されたと考えられる。
後述の実施例1では、DLCコートアルミニウム箔のDLCコート(被膜)上にさらに導電性炭素層が形成されている。実施例2よりも大きい効果が確認された。アルミニウム箔又はその酸化物と直接に接触せず、炭素質の膜や層を介してアルミニウム箔上に形成した場合、同様に、大きい効果が観測されることがわかった。すなわち、負極活物質であるチタン酸リチウムの導電性が低いため、集電体との界面に導電性炭素層を形成したことによって界面抵抗が下がった効果と考えられる。本発明の導電性炭素層を形成したDLCコートアルミニウム箔の効果は負極に対してより有効であることを示す。
また、後述の実施例6などでも、数倍の改善効果が観測されたことから、それらの相互作用の大きさは、負極活物質としての金属酸化物の種類に依存する可能性がある。
【0066】
また、実施例1は、実施例2と比べて負極集電体が異なるだけである。実施例1の負極集電体は、DLCコートアルミニウム箔のDLCコート(被膜)上に導電性炭素層が形成されているのに対して、実施例2の負極集電体は導電性炭素層が形成されていない。
実施例1の放電容量維持率は実施例2の放電容量維持率の1.14倍であり、さらに60℃耐久性を向上させることができた。この効果は、負極集電体のDLCコートアルミニウム箔のDLCコート(被膜)上に導電性炭素層が形成されていることによるものである。
【0067】
また、実施例2は、実施例4と比べて正極集電体が異なるだけである。実施例2の正極集電体は、DLCコートアルミニウム箔のDLCコート(被膜)上に導電性炭素層が形成されているのに対して、実施例4の正極集電体は導電性炭素層が形成されていない。
実施例2の放電容量維持率は実施例4の放電容量維持率の1.26倍であり、60℃耐久性を向上させることができた。この効果は、正極集電体のDLCコートアルミニウム箔のDLCコート(被膜)上に導電性炭素層が形成されていることによるものである。
【0068】
また、実施例3は、実施例4と比べて負極集電体が異なるだけである。実施例3の負極集電体は、DLCコートアルミニウム箔のDLCコート(被膜)上に導電性炭素層が形成されているのに対して、実施例4の負極集電体は導電性炭素層が形成されていない。
実施例3の放電容量維持率は実施例4の放電容量維持率の1.31倍であり、60℃耐久性を向上させることができた。この効果は、負極集電体のDLCコートアルミニウム箔のDLCコート(被膜)上に導電性炭素層が形成されていることによるものである。すなわち、負極活物質であるチタン酸リチウムの導電性が低いため、集電体との界面に導電性炭素層を形成したことによって界面抵抗が下がった効果と考えられる。本発明の導電性炭素層を形成したDLCコートアルミニウム箔の効果は負極に対してより有効であることを示す。
【0069】
また、実施例1は、実施例5と比べて負極集電体及び正極集電体が異なるだけである。実施例1の負極集電体及び正極集電体のDLCコート(被膜)の厚さが160nmであるのに対して、実施例5の負極集電体及び正極集電体のDLCコート(被膜)の厚さは100nmである。
実施例1の放電容量維持率は実施例5の放電容量維持率の1.35倍であり、60℃耐久性を向上させることができた。この効果は、DLCコート(被膜)の厚さの違いによるものである。
【0070】
(実施例6)
負極活物質としてLiNbO
2を用いたこと以外は、実施例1と同様の方法でコインセルを作製し、実施例1と同様の方法で評価した。
【0071】
(実施例7)
負極活物質として合成2で得られたLi
1.1V
0.9O
2を用いたこと以外は、実施例1と同様の方法でコインセルを作製し、実施例1と同様の方法で評価した。
【0072】
(実施例8)
負極活物質としてアナターゼ型TiO
2を用いたこと以外は、実施例1と同様の方法でコインセルを作製し、実施例1と同様の方法で評価した。
【0073】
(実施例9)
負極活物質としてV
2O
5を用いたこと以外は、実施例1と同様の方法でコインセルを作製し、実施例1と同様の方法で評価した。
【0074】
(比較例3)
負極集電体としてプレーンのアルミニウム箔(株式会社UACJ製箔製、厚さ20μm)を用いたこと以外は、実施例6と同様の方法でコインセルを作製し、実施例1と同様の方法で評価した。
【0075】
(比較例4)
負極集電体としてプレーンのアルミニウム箔(株式会社UACJ製箔製、厚さ20μm)を用いたこと以外は、実施例7と同様の方法でコインセルを作製し、実施例1と同様の方法で評価した。
【0076】
(比較例5)
負極集電体としてプレーンのアルミニウム箔(株式会社UACJ製箔製、厚さ20μm)を用いたこと以外は、実施例8と同様の方法でコインセルを作製し、実施例1と同様の方法で評価した。
【0077】
(比較例6)
負極集電体としてプレーンのアルミニウム箔(株式会社UACJ製箔製、厚さ20μm)を用いたこと以外は、実施例9と同様の方法でコインセルを作製し、実施例1と同様の方法で評価した。
【0078】
実施例6〜9及び比較例3〜6の評価の結果として得られた放電容量維持率を表2に示す。表2においては、実施例6〜9の放電容量維持率を各々比較例3〜6で規格化した値を示した。この際、比較例3〜6の結果を100として規格化した。
【0079】
【表2】
【0080】
実施例6〜9のそれぞれは、比較例3〜6のそれぞれと比べて負極集電体が異なるだけである。実施例6〜9の負極集電体は、DLCコートアルミニウム箔のDLCコート(被膜)上に導電性炭素層が形成されているのに対して、比較例3〜6の負極集電体はプレーンアルミニウム箔である。
実施例6〜9の放電容量維持率はそれぞれ、比較例3〜6のそれぞれの放電容量維持率の2.5倍、3.3倍、2.85倍、1.75倍であった。このような大きな効果は、負極集電体のアルミニウム箔がDLCコート(被膜)及び導電性炭素層を有することによるものである。また、本発明に係るどの負極活物質を用いても本発明の効果が得られることがわかった。
高温耐久性に優れたデュアルイオンバッテリを提供することを目的とする。本発明のデュアルイオンバッテリは、正極集電体とその上に配置された正極活物質とを含む正極と、負極集電体とその上に配置された正極活物質とを含む負極と、
を有する。正極活物質は黒鉛を含む。負極活物質は陽イオンを吸蔵放出し得る金属酸化物を含む。正極集電体及び負極集電体は、非晶質炭素被膜で被覆されたアルミニウム材からなる。