特許第6575908号(P6575908)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6575908プレストレストコンクリート構造物のPC鋼材腐食抑制構造
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6575908
(24)【登録日】2019年8月30日
(45)【発行日】2019年9月18日
(54)【発明の名称】プレストレストコンクリート構造物のPC鋼材腐食抑制構造
(51)【国際特許分類】
   C23F 13/06 20060101AFI20190909BHJP
   C23F 13/02 20060101ALI20190909BHJP
   E04G 21/12 20060101ALI20190909BHJP
【FI】
   C23F13/06
   C23F13/02 A
   C23F13/02 L
   E04G21/12 104Z
【請求項の数】5
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2015-221454(P2015-221454)
(22)【出願日】2015年11月11日
(65)【公開番号】特開2017-88965(P2017-88965A)
(43)【公開日】2017年5月25日
【審査請求日】2018年10月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】000112196
【氏名又は名称】株式会社ピーエス三菱
(74)【代理人】
【識別番号】100089886
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 雅雄
(74)【代理人】
【識別番号】100172096
【弁理士】
【氏名又は名称】石井 理太
(72)【発明者】
【氏名】鴨谷 知繁
(72)【発明者】
【氏名】石井 浩司
【審査官】 萩原 周治
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−144771(JP,A)
【文献】 特開2013−002055(JP,A)
【文献】 特開2004−076292(JP,A)
【文献】 特開2005−023567(JP,A)
【文献】 特表2015−514872(JP,A)
【文献】 特開2009−179876(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2015/0060298(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23F 13/06
C23F 13/02
E04G 21/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンクリート構造体内に埋設されたシースに挿通させたPC鋼材と、前記シースとPC鋼材との間に充填材が充填されてなるPC側充填部とを備え、緊張した前記PC鋼材によって前記コンクリート構造体にプレストレスが導入されてなるプレストレストコンクリート構造物にあって、前記PC鋼材の腐食を抑制するためのプレストレストコンクリート構造物のPC鋼材腐食抑制構造において、
前記コンクリート構造体の表面より前記シースを貫通して前記PC鋼材の近傍にまで至る貫通孔と、該貫通孔内に挿入された陽極材と、前記貫通孔と前記陽極材との間に充填材が充填されてなる陽極側充填部とを備え、
前記PC鋼材と前記陽極材とが接続され、前記PC鋼材と前記陽極材との電位差を利用して前記PC鋼材に電流を供給するようにしたことを特徴とするプレストレストコンクリート構造物のPC鋼材腐食抑制構造。
【請求項2】
前記PC側充填部には、互いに塩化物濃度の異なる既存充填部分と再充填部分とを有し、前記貫通孔は、前記既存充填部分と前記再充填部分との境界の近傍に配置されている請求項1に記載のプレストレストコンクリート構造物のPC鋼材腐食抑制構造。
【請求項3】
前記陽極材は、前記PC鋼材に対して酸化還元電位が低い金属材により形成された流電陽極である請求項1又は2に記載のプレストレストコンクリート構造物のPC鋼材腐食抑制構造。
【請求項4】
前記貫通孔内、且つ、前記陽極材の外側に絶縁体からなる絶縁被覆体を備え、該絶縁被覆体が前記シースの内外に跨って配置されている請求項1〜3の何れか1に記載のプレストレストコンクリート構造物のPC鋼材腐食抑制構造。
【請求項5】
前記PC鋼材の長手方向に間隔を置いて前記貫通孔が形成されている請求項1〜4の何れか1に記載のプレストレストコンクリート構造物のPC鋼材腐食抑制構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主にポストテンション方式によってプレストレスが導入されてなるプレストレストコンクリート構造物のPC鋼材腐食抑制構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ポストテンション方式のプレストレストコンクリート構造物(以下、PC構造物という)では、コンクリート構造体内に埋設されたシースにPC鋼材を挿通させるとともに、シースとPC鋼材との間にセメント系の充填材(グラウト)を充填し、PC鋼材とコンクリート構造体とを一体化させている。
【0003】
その場合、PC鋼材は、セメント系の充填材に覆われ、高アルカリ性雰囲気中にあって、充填材による被覆と不導態皮膜によって腐食から保護された状態にある。
【0004】
しかしながら、充填材の充填作業は、シース内に未充填部分が生じぬように行われるが、充填材の材料分離や粘性不足等の原因によってシース内の一部に充填材が充填されずに空隙が形成されてしまう場合がある。
【0005】
特に、このような未充填部分(空隙)は、高架道路のPC桁のように、PC鋼材の端部定着部が舗装の下にあってシースの端部が斜め上向きに配置されている場合や、何らかの原因でシースが潰れて充填材の流動が妨げられる場合、シースが波形状に配置される場合等に生じやすくなっている。
【0006】
また、シース内にPC鋼材を挿通した後、且つ、充填材が充填される前の一定期間、PC鋼材は、充填材が未充填の状態でシース内に晒される。
【0007】
シース内に充填材の未充填部分が存在すると、当該未充填部分に飛来塩分や凍結防止剤等が浸入した場合、その塩化物イオンによってPC鋼材が腐食し、PC鋼材の劣化による強度低下、PC鋼材の腐食による膨張によってコンクリート構造体のひび割れ等を招くおそれがあった。
【0008】
そこで、従来では、当該未充填部分に充填材を再充填して修復することによって、PC鋼材を被覆することで保護する方法が知られている(例えば、特許文献1を参照)。
【0009】
一方、コンクリート構造体内に埋設された鉄筋等の鋼材の腐食を防止又は抑制する方法には、コンクリート構造体内の表面部に陽極を埋設し、この陽極と鉄筋との電位差を利用して鉄筋に防食電流を供給することで鉄筋の腐食を抑制する電気防食工法も知られている(例えば、特許文献2を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2005−023567号公報
【特許文献2】特表平08−511581号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、上述の如き充填材の再充填による方法では、充填材によって未充填部分を埋めて修復しても、既に腐食した部分の劣化の進行を阻止することは容易でなかった。
【0012】
また、このような未充填部分は、その部分を完全に充填材で再充填することは困難であり、特に、PC鋼材がより線の場合、PC鋼材を構成する単線間の隙間にまで充填材を充填させることは容易ではなかった。
【0013】
また、この方法では、充填材の再充填によりPC鋼材が保護され、塩化物イオンによる劣化が回避できた場合であっても、シース内には既存の充填材と新たに充填された充填材とが混在することとなり、両新旧充填材の塩化物濃度が異なると、当該塩化物濃度差によってシース内にマクロセル(巨視的電池)が形成されることによって新たな腐食が引き起こされる懸念があった。
【0014】
一方、上述の電気防食工法は、コンクリート構造体の比較的表面に近い位置に埋設された鉄筋等の鋼材の腐食を抑制又は防止するものであり、比較的コンクリート構造体の表面から離れた位置に配置されるPC鋼材の腐食に対しては効果が及ばないおそれがあった。
【0015】
また、この種の電気防食工法では、コンクリート構造体に埋設されたシースが導電性の金属材によって構成されている場合、陽極から流れる防食電流がシースによって遮蔽されてPC鋼材に流れず、電気防食構造として機能しないという問題もあった。
【0016】
尚、従来、コンクリート構造物の塩害による劣化は、塩化物イオン等の劣化因子がコンクリート構造体の表面から内部に拡散することによって生じることについて広く知られているが、コンクリート構造体の内部から塩化物イオン等の劣化因子が周囲に拡散していく事象については余り知られておらず、このような事象に対する有効な解決策が見出されていない現状にあった。
【0017】
そこで、本発明は、このような従来の問題に鑑み、好適にPC鋼材の腐食を抑制できるプレストレストコンクリート構造物のPC鋼材腐食抑制構造及びPC鋼材腐食抑制方法の提供を目的としてなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上述の如き従来の問題を解決し、所期の目的を達成するための請求項1に記載の発明の特徴は、コンクリート構造体内に埋設されたシースに挿通させたPC鋼材と、前記シースとPC鋼材との間に充填材が充填されてなるPC側充填部とを備え、緊張した前記PC鋼材によって前記コンクリート構造体にプレストレスが導入されてなるプレストレストコンクリート構造物にあって、前記PC鋼材の腐食を抑制するためのプレストレストコンクリート構造物のPC鋼材腐食抑制構造において、前記コンクリート構造体の表面より前記シースを貫通して前記PC鋼材の近傍まで至る貫通孔と、該貫通孔内に挿入された陽極材と、前記貫通孔と前記陽極材との間に充填材が充填されてなる陽極側充填部とを備え、前記PC鋼材と前記陽極材とが接続され、前記PC鋼材と前記陽極材との電位差を利用して前記PC鋼材に電流を供給するようにしたプレストレストコンクリート構造物のPC鋼材腐食抑制構造にある。
【0019】
請求項2に記載の発明の特徴は、請求項1の構成に加え、前記PC側充填部には、互いに塩化物濃度の異なる既存充填部分と再充填部分とを有し、前記貫通孔は、前記既存充填部分と前記再充填部分との境界の近傍に配置されていることにある。
【0020】
請求項3に記載の発明の特徴は、請求項1又は2の構成に加え、前記陽極材は、前記PC鋼材に対して酸化還元電位が低い金属材により形成された流電陽極であることにある。
【0021】
請求項4に記載の発明の特徴は、請求項1〜3の何れか1の構成に加え、前記貫通孔内、且つ、前記陽極材の外側に絶縁体からなる絶縁被覆体を備え、該絶縁被覆体が前記シースの内外に跨って配置されていることにある。
【0022】
請求項5に記載の発明の特徴は、請求項1〜4の何れか1の構成に加え、前記PC鋼材の長手方向に間隔を置いて前記貫通孔が形成されていることにある。
【発明の効果】
【0023】
本発明に係るプレストレストコンクリート構造物のPC鋼材腐食抑制構造は、上述したように、コンクリート構造体内に埋設されたシースに挿通させたPC鋼材と、前記シースとPC鋼材との間に充填材が充填されてなるPC側充填部とを備え、緊張した前記PC鋼材によって前記コンクリート構造体にプレストレスが導入されてなるプレストレストコンクリート構造物にあって、前記PC鋼材の腐食を抑制するためのプレストレストコンクリート構造物のPC鋼材腐食抑制構造において、前記コンクリート構造体の表面より前記シースを貫通して前記PC鋼材の近傍まで至る貫通孔と、該貫通孔内に挿入された陽極材と、前記貫通孔と前記陽極材との間に充填材が充填されてなる陽極側充填部とを備え、前記PC鋼材と前記陽極材とが接続され、前記PC鋼材と前記陽極材との電位差を利用して前記PC鋼材に電流を供給するようにしたことにより、当該電流を防食電流としてPC鋼材の腐食を抑制することができる。
【0024】
また、本発明において、前記PC側充填部には、互いに塩化物濃度の異なる既存充填部分と再充填部分とを有し、前記貫通孔は、前記既存充填部分と前記再充填部分との境界の近傍に配置されていることにより、既存充填部分と再充填部分との間に塩化物濃度に差が生じ、その差によって生じるマクロセル腐食を抑制し、充填材の再充填による保護効果を補完することができる。
【0025】
更に、本発明において、前記陽極材は、前記PC鋼材に対して酸化還元電位が低い金属材により形成された流電陽極であることにより、発生する電流量は小さいが、十分な腐食抑制効果が期待でき、且つ、外部電源等が不要で導入費用や維持管理費用の低減を図ることができる。
【0026】
更にまた、本発明において、前記貫通孔内、且つ、前記陽極材の外側に絶縁体からなる絶縁被覆体を備え、該絶縁被覆体が前記シースの内外に跨って配置されていることにより、シースに電流が流れるのを防止し、確実にPC鋼材に電流を供給することができる。
【0027】
更にまた、本発明において、前記PC鋼材の長手方向に間隔を置いて前記貫通孔が形成されていることにより、充填材の未充填部分(腐食が懸念される部分)の有無又はその位置が不明であっても好適にPC鋼材の腐食を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】本発明に係るプレストレストコンクリート構造物のPC鋼材腐食抑制構造の一例を示す縦断面図である。
図2】同上のPC鋼材腐食抑制構造の概略を示す横断面図である。
図3図2中のA−A線矢視拡大断面図である。
図4】(a)〜(c)は同上のPC鋼材腐食抑制構造の構築方法を示す断面図であって、(a)は構築前の状態、(b)は貫通孔穿孔工程の状態、(c)は完成した状態を示す図である。
図5】本発明構造における絶縁被覆体を用いる場合とそうでない場合の電流の流れを比較する為の断面図であって、(a)は絶縁被覆体を用いた場合、(b)は同用いない場合である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
次に、本発明に係るプレストレストコンクリート構造物のPC鋼材腐食抑制構造の実施態様を図1図5に示した実施例に基づいて説明する。尚、図中符号1はPC桁等のプレストレストコンクリート構造物である。
【0030】
このプレストレストコンクリート構造物(以下、PC構造物という)1は、図1に示すように、コンクリート構造体2内に埋設されたシース3に挿通させたPC鋼材4と、PC鋼材4とシース3との間に充填材5が充填されてなるPC側充填部6とを備え、PC鋼材4とコンクリート構造体2とが一体化され、緊張したPC鋼材4によってプレストレスが導入されている。
【0031】
また、このPC構造物1は、PC鋼材4の端部定着部7がコンクリート構造体2の上面側に位置し、シース3の端部が斜め上向きに配置され、端部定着部7下には、当初のグラウト作業においてシース端部に未充填部分8が生じ、この未充填部分8にセメント系グラウト等の充填材5が再充填されている。
【0032】
端部定着部7は、コンクリート構造体2の表面に形成した凹部9内に備えられ、PC鋼材4を緊張定着した後に、グラウト作業と後処理を行い、定着部保護コンクリート10を打設して凹部9を埋めることにより端部定着部7を保護している。
【0033】
シース3は、帯状の鋼板を隙間なく螺旋状に巻いた螺旋筒状或いは管状に形成され、コンクリート構造体2の全長方向に亘って埋設されている。
【0034】
PC鋼材4は、鋼製の複数の単線4a,4a...を単に束ねたPC鋼線、単線4a,4aを撚り合わせたPC鋼撚り線又はPC鋼棒によって構成され、シース3内に挿通させた状態でポストテンション方式によりコンクリート構造体2にプレストレスを導入するようになっている。
【0035】
PC側充填部6は、先に充填材5が充填された既存充填部分6aと、シース端部に生じた未充填部分8に充填材5を再充填してなる再充填部分6bとを有し、既存充填部分6aと再充填部分6bとが互いに隣接している。
【0036】
尚、既存充填部6aと再充填部6bとでは、互いに塩化物濃度が異なり、既存充填部分6a側の塩化物濃度が高く、新たに充填された再充填部分6b側の塩化物濃度が低いもとのし、この塩化物濃度差に起因してマクロセルが形成され、このマクロセルにおいて既存充填部分6a側が陰極(カソード)、再充填部6b側が陽極(アノード)を成しているものとする。
【0037】
このPC構造物1のPC鋼材腐食抑制構造は、コンクリート構造体2に形成された貫通孔11,11...と、各貫通孔11内に挿入された陽極材12と、貫通孔11と陽極材12との間に充填材5を充填してなる陽極側充填部13とを備え、PC鋼材4と陽極材12とが接続され、PC鋼材4と陽極材12との電位差を利用してPC鋼材4に電流を供給することでPC鋼材4の腐食を抑制するようになっている。
【0038】
貫通孔11,11...は、コンクリート構造体2の表面よりシース3を貫通してPC鋼材4の近傍にまで至る形状に形成され、且つ、シース3の長手方向と交差する方向に向けられ、互いにPC鋼材4の長手方向に適宜間隔を置いて配置されている。
【0039】
ここでPC鋼材4の近傍とは、充填材5を媒介としてPC鋼材4と陽極材12との間に電流を流すことが可能な距離を隔てた位置を言うものとする。
【0040】
この貫通孔11,11...は、互いに一定間隔を置いて配置してもよく、予めPC鋼材4の腐食が確認されている場合、その箇所に合わせて設けてもよい。
【0041】
また、マクロセル腐食が懸念される部分においては、貫通孔11が既存充填部分6aと再充填部分6bとの境界6cの近傍に配置されることが好ましい。
【0042】
ここで、境界6cの近傍とは、既存充填部分6aと再充填部分6bとの塩化物濃度差によって、境界6cを挟んで既存充填部分6aと再充填部分6bとに跨って形成されたマクロセルの腐食影響範囲内をいう。尚、本実施例のマクロセル部分における貫通孔11の配置は、境界6c近傍の既存充填部分6a側に配置されているが、境界6cを挟んだ既存充填部分6a側、再充填部分6b側の何れ側であってもよい。
【0043】
この貫通孔11,11...内には、図2図3に示すように、その内側、且つ、陽極材12の外側に絶縁体からなる筒状の絶縁被覆体14を備え、絶縁被覆体14がシース3の内外に跨って配置されている。
【0044】
絶縁被覆体14の態様は、特に限定されないが、塩化ビニル管等の絶縁体からなる管体をもって構成し、それを貫通孔11内に挿入してもよく、貫通孔11の内周面にエポキシ樹脂塗料を塗布してなる絶縁性塗装膜としてもよく、貫通孔11の内周面にゴムシート等を貼り付けて形成してもよい。
【0045】
陽極材12は、亜鉛やアルミニウム等のPC鋼材4に対して酸化還元電位が低い金属により形成された流電陽極を成し、リード線15及び接続ボックス16を介してPC鋼材4に対し電気的に接続されている。
【0046】
陽極側充填部13は、PC側充填部6と同様のセメント系の充填材5を充填することにより形成され、シース3を貫通してPC側充填部6、即ち、既存充填部分6a又は再充填部分6bと一体化するようになっている。
【0047】
次に、PC鋼材腐食抑制構造を既存のPC構造物1に適用する場合ついて説明する。尚、上述の実施例と同様の構成には同一符号を付して説明し、図中符号1は既存のPC構造物である。
【0048】
このPC構造物1においてPC鋼材4の腐食を抑制するには、先ず、図4(a)〜図4(b)に示すように、コンクリート構造体2の表面2aよりシース3及びPC鋼材4の軸方向と交差する方向に向けてドリル等を用いて穿孔し、コンクリート構造体2の表面からシース3を貫通してPC側充填部6内のPC鋼材4近傍に至る複数の貫通孔11,11...をPC鋼材4の長手方向に適宜間隔を置いて形成する。
【0049】
その際、PC側充填部6を構成する既存充填部分6aと再充填部分6bとの境界部分において、貫通孔11は、その境界6cの近傍に配置されるように形成する。
【0050】
次に、貫通孔11,11...が形成されたら、各貫通孔11,11...の内側に絶縁被覆体14を設ける。その場合、絶縁被覆体14は、図3に示すように、少なくとも先端部分がシース3の内外に跨るように配置する。
【0051】
そして、図4(c)に示すように、この貫通孔11,11...の絶縁被覆体14の内側にリード線15に接続した状態で陽極材12を貫通孔11の奥側位置、即ち、PC鋼材4の近傍まで挿入し、リード線15の他端側を貫通孔11の開口部より導出させておく。
【0052】
また、陽極材12の挿入とともに、貫通孔11内にセメント系の充填材5を注入し、貫通孔11,11...と陽極材12との間の隙間を充填材5で充填し、充填材5を養生・固化させて各陽極側充填部13と、既存充填部分6a又は再充填部分6bとをそれぞれ一体化させる。
【0053】
しかる後、リード線15を接続ボックス16に接続し、接続ボックス16にリード線15を介して接続されたPC鋼材4と電気的に接続する。
【0054】
以上の工程を貫通孔11,11...毎に繰り返すことによりPC鋼材腐食抑制構造が構築される。
【0055】
このように構成されたPC構造物1のPC鋼材腐食抑制構造は、陽極材12よりPC鋼材4に電流を供給することによって、この電流を防食電流としてPC鋼材4の腐食を抑制することができる。
【0056】
さらに、このPC鋼材腐食抑制構造では、陽極材12がPC鋼材4に対して酸化還元電位が低い金属材により形成された流電陽極であるので、発生する電流量は小さいが、十分な腐食抑制効果が期待でき、且つ、外部電源等が不要で導入費用や維持管理費用を安価に抑えることができる。
【0057】
更にまた、貫通孔11,11...内、且つ、陽極材12の外側に絶縁被覆体14を設け、且つ、絶縁被覆体14をシース3の内外に配置したことによって、シース3が導電性の金属の場合であっても、図5(a)に示すように、PC鋼材4に好適に電流eを供給することができる。
【0058】
一方、絶縁被覆体14を用いない場合には、図5(b)に示すように、導電性金属材からなるシース3に向かって電流eが流れ、PC鋼材4への電流供給が困難となる場合がある。
【0059】
また、このPC鋼材防食抑制構造では、貫通孔11がPC側充填部6を構成する既存充填部分6aと再充填部分6bとの境界6cの近傍に配置されることで、境界6cを挟んで既存充填部6aと再充填部分6bとに跨って形成されたマクロセルの影響範囲内においてPC鋼材4に好適に電流を供給することができ、既存充填部分6aと再充填部分6bとの塩化物濃度差によるマクロセル腐食を抑制できる。
【0060】
尚、上述の実施例では、流電陽極方式を採用した例について説明したが、陽極材12をチタン等の不溶性金属によって構成し、この不溶性陽極と陰極を成すPC鋼材4との間に直流電源装置を接続し、鉄筋に不溶性陽極から電流を供給するようにしてもよい。
【0061】
この外部電源方式の場合には、安定した電位差を確保できることから、腐食抑制法ではなく電気防食法に分類されるが、ここでは、この種の電気防食法も腐食抑制法に含まれる概念として説明している。
【0062】
更に、上述の実施例では、傾斜したシース端部の未充填部分に再充填部分6bが形成された場合について説明したが、再充填部6bの態様は、上述の実施例に限定されず、例えば、シース3が上下に波打つ形状に配置されている場合におけるグラウトの先流れによって生じる傾斜部の未充填部分に充填材を再充填した再充填部6bであってもよい。
【0063】
尚、上述の実施例では、PC構造物1としてPC桁を例に挙げて説明したが、PC構造物1はこれに限定されない。
【符号の説明】
【0064】
1 プレストレストコンクリート構造物(PC構造物)
2 コンクリート構造体
3 シース
4 PC鋼材
5 充填材
6 PC側充填部
6a 既存充填部分
6b 再充填部分
7 端部定着部
8 未充填部分
9 凹部
10 定着部保護コンクリート
11 貫通孔
12 陽極材
13 陽極側充填部
14 絶縁被覆体
15 リード線
16 接続ボックス
図1
図2
図3
図4
図5