特許第6575916号(P6575916)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6575916
(24)【登録日】2019年8月30日
(45)【発行日】2019年9月18日
(54)【発明の名称】作業車両
(51)【国際特許分類】
   F15B 11/17 20060101AFI20190909BHJP
   E02F 9/22 20060101ALI20190909BHJP
【FI】
   F15B11/17
   E02F9/22 K
【請求項の数】6
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2016-160039(P2016-160039)
(22)【出願日】2016年8月17日
(65)【公開番号】特開2018-28196(P2018-28196A)
(43)【公開日】2018年2月22日
【審査請求日】2018年7月4日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005522
【氏名又は名称】日立建機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000442
【氏名又は名称】特許業務法人 武和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】神谷 純平
(72)【発明者】
【氏名】田中 秀幸
【審査官】 北村 一
(56)【参考文献】
【文献】 特開平07−076859(JP,A)
【文献】 特開2015−158099(JP,A)
【文献】 特開2017−166587(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F15B 11/00−11/22;21/14
E02F 3/42− 3/43; 3/84− 3/85; 9/20− 9/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンにより駆動されるメインポンプおよびアクセサリポンプと、前記メインポンプから吐出される圧油により駆動される作業装置と、前記作業装置を操作する操作装置と、前記アクセサリポンプから吐出される圧油により駆動される補機と、前記アクセサリポンプから吐出された圧油を前記補機へ導く通常位置と前記アクセサリポンプから吐出された圧油を前記作業装置へ導く合流位置との間で切り換えられる優先弁と、作業車両を前進方向または後進方向に走行させる指示を行う前後進操作装置と、を備えた作業車両において、
前記前後進操作装置により指示された前進方向または後進方向のいずれかの方向と、前記作業車両の進行方向とが不一致の状態にあるときには、前記優先弁を前記通常位置に保持し、前記前後進操作装置により指示された前進方向または後進方向のいずれかの方向と、前記作業車両の進行方向とが一致し、前記操作装置が操作された状態にあるときには、前記優先弁を前記合流位置に切り換える制御装置を備えていることを特徴とする作業車両。
【請求項2】
請求項1に記載の作業車両において、
前記前後進操作装置による指示に基づいて、前後進の切り換えを行うトランスミッションを備え、
前記制御装置は、前後進切換動作中であるか否かを判定する前後進判定部と、前記作業車両の走行方向を推定する走行方向推定部と、を有し、
前記前後進判定部は、前記前後進操作装置の指示方向と、前記作業車両の走行方向とが逆となったとき、前記前後進切換動作が開始したと判定することを特徴とする作業車両。
【請求項3】
請求項2に記載の作業車両において、
前記作業車両の車速を検出する車速検出装置を備え、
前記前後進判定部は、前記前後進操作装置の指示方向と、前記作業車両の走行方向とが一致し、かつ、前記車速検出装置で検出された車速が所定値よりも高い場合、前記前後進切換動作が終了したと判定することを特徴とする作業車両。
【請求項4】
請求項2に記載の作業車両において、
前記前後進判定部は、前記前後進操作装置の指示方向と、前記作業車両の走行方向とが一致し、かつ、前記作業車両の走行方向が一致してから予め設定された所定時間を経過した場合、前記前後進切換動作が終了したと判定することを特徴とする作業車両。
【請求項5】
請求項1に記載の作業車両において、
前記制御装置は、前記操作装置により前記作業装置の操作が行われてから予め設定された所定時間を経過するまでは、前記優先弁を前記通常位置に保持することを特徴とする作業車両。
【請求項6】
エンジンにより駆動されるメインポンプおよびアクセサリポンプと、前記メインポンプから吐出される圧油により駆動される作業装置と、前記作業装置を操作する操作装置と、前記アクセサリポンプから吐出される圧油により駆動される補機と、前記アクセサリポンプから吐出された圧油を前記補機へ導く通常位置と前記アクセサリポンプから吐出された圧油を前記作業装置へ導く合流位置との間で切り換えられる優先弁と、を備えた作業車両において、
前記操作装置により前記作業装置の操作が行われてから予め設定された所定時間を経過するまでは、前記優先弁を前記通常位置に保持する制御装置を備えていることを特徴とする作業車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、作業車両に関する。
【背景技術】
【0002】
補機用のアクセサリポンプから吐出される作動油をメインポンプから吐出される作動油に合流させてアームシリンダ(ブームシリンダ)へ供給し、アーム(ブーム)の動作速度を上昇させる作業車両が知られている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2015−158099号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ホイールローダなどの作業車両では、作業車両の動作によっては、上記アクセサリポンプから吐出される作動油とメインポンプから吐出される作動油を合流させる制御を実行すると、エンジンに作用する負荷が大きくなることに起因して、エンジンの回転速度が一時的に落ち込むラグダウンという現象が発生し、その結果、車両の動きがギクシャクしたり、ガクガクしたりしてしまい、運転者に大きな違和感を与えてしまうおそれがある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一態様による作業車両は、エンジンにより駆動されるメインポンプおよびアクセサリポンプと、前記メインポンプから吐出される圧油により駆動される作業装置と、前記作業装置を操作する操作装置と、前記アクセサリポンプから吐出される圧油により駆動される補機と、前記アクセサリポンプから吐出された圧油を前記補機へ導く通常位置と前記アクセサリポンプから吐出された圧油を前記作業装置へ導く合流位置との間で切り換えられる優先弁と、作業車両を前進方向または後進方向に走行させる指示を行う前後進操作装置と、を備えた作業車両において、前記前後進操作装置により指示された前進方向または後進方向のいずれかの方向と、前記作業車両の進行方向とが不一致の状態にあるときには、前記優先弁を前記通常位置に保持し、前記前後進操作装置により指示された前進方向または後進方向のいずれかの方向と、前記作業車両の進行方向とが一致し、前記操作装置が操作された状態にあるときには、前記優先弁を前記合流位置に切り換える制御装置を備えていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、ラグダウンを抑制し、作業車両の動きを円滑にできる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】本発明の一実施の形態に係る作業車両の一例であるホイールローダの側面図。
図2】ホイールローダの概略構成を示す図。
図3】トランスミッションの概略構成を示す図。
図4】メインコントローラの機能ブロック図。
図5】アクセルペダルの操作量Lと目標エンジン回転速度Ntの関係を示す図。
図6】合流条件判定部の機能を説明するブロック図。
図7】合流許容温度条件について説明するブロック図。
図8】前後進切換動作判定を説明する状態遷移図。
図9】土砂等をダンプトラックへ積み込む方法の1つであるVシェープローディングについて示す図。
図10】ホイールローダによる掘削作業を示す図。
図11】前後進切換操作を行った場合の挙動を説明する図。
図12】掘削操作を行った場合の挙動を説明する図。
図13】変形例に係る出力分割型のHMTの概略構成を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、図面を参照して、本発明による作業車両の一実施の形態を説明する。
図1は、本発明の一実施の形態に係る作業車両の一例であるホイールローダの側面図である。ホイールローダは、アーム(リフトアーム、あるいはブームとも呼ばれる)111、バケット112、および、車輪113(前輪)等を有する前部車体110と、運転室121、機械室122、および、車輪113(後輪)等を有する後部車体120とで構成される。
【0009】
アーム111はアームシリンダ117の駆動により上下方向に回動(俯仰動)し、バケット112はバケットシリンダ115の駆動により上下方向に回動(クラウドまたはダンプ)する。掘削や荷役等の作業を行うフロント作業装置(作業系)119は、アーム111およびアームシリンダ117、バケット112およびバケットシリンダ115を含んで構成される。前部車体110と後部車体120はセンタピン101により互いに回動自在に連結され、ステアリングシリンダ116の伸縮により後部車体120に対し前部車体110が左右に屈折する。
【0010】
機械室122の内部にはエンジンが設けられ、運転室121の内部にはアクセルペダルやアーム操作装置、バケット操作装置、操舵装置、前後進切換レバーなどの各種操作装置が設けられている。
【0011】
図2は、ホイールローダの概略構成を示す図である。アーム111を操作するアーム操作装置およびバケット112を操作するバケット操作装置は、それぞれ、回動操作可能なレバーと、レバーの操作量に応じて操作信号を出力する操作信号出力装置31と、を備えている。操作信号出力装置31は、複数のパイロット弁を有し、アーム111の上昇指令、下降指令、バケット112のクラウド指令、ダンプ指令に相当する操作信号であるパイロット圧を出力する。
【0012】
操舵装置は、回動操作可能なステアイングホイールと、ステアリングホイールの操作量に応じて操舵信号を出力する操舵信号出力装置43と、を備えている。操舵信号出力装置43は、たとえばオービットロール(登録商標)であり、ステアリングホイールにステアリングシャフトを介して連結され、左旋回指令、右旋回指令に相当する操舵信号であるパイロット圧を出力する。
【0013】
ホイールローダは、メインコントローラ100およびエンジンコントローラ15などの制御装置を備えている。メインコントローラ100およびエンジンコントローラ15は、CPUや、ROM,RAMなどの記憶装置、その他の周辺回路などを有する演算処理装置を含んで構成され、ホイールローダの各部(油圧ポンプや弁、エンジン等)を制御する。
【0014】
ホイールローダは、エンジン190の駆動力を車輪113に伝達する走行駆動装置(走行系)を備えている。なお、エンジン190には、出力分配器13を介して、後述するメインポンプ11およびアクセサリポンプ12が接続されている。走行駆動装置は、エンジン190の出力軸に連結されたトランスミッション3と、トランスミッション3の出力軸に連結されたアクスル装置5と、を備えている。
【0015】
図3は、トランスミッション3の概略構成を示す図である。トランスミッション3は、HMT(Hydro-Mechanical Transmission:油圧−機械式変速装置)であり、HST(Hydro Static Transmission)31と、機械伝動部32とを備え、エンジン190の駆動力をHST3と機械伝動部32へパラレルに伝達する。エンジン190の出力軸の回転はトランスミッション3で変速される。変速後の回転は、出力軸4やアクスル装置5を介して車輪113に伝達されて、ホイールローダが走行する。
【0016】
トランスミッション3は、前進用の油圧クラッチ(以下、前進クラッチ18と記す)と、後進用の油圧クラッチ(後進クラッチ19と記す)を有するクラッチ装置16を備え、前後進切換レバー164による指示に基づいて、前後進の切り換えを行う。前進クラッチ18および後進クラッチ19は、トランスミッション制御装置20を介して供給される圧油の圧力(クラッチ圧)が増加すると係合(接続)動作を行い、クラッチ圧が減少すると解放(切断)動作を行う。
【0017】
エンジン190の出力軸は、クラッチシャフト22に連結されている。前進クラッチ18が係合状態の場合、後進クラッチ19は解放状態であり、クラッチシャフト22は前進クラッチ18と一体に回転し、ホイールローダを前進方向に走行させる。後進クラッチ19が係合状態の場合、前進クラッチ18は解放状態であり、クラッチシャフト22は後進クラッチ19と一体に回転し、ホイールローダを後進方向に走行させる。
【0018】
クラッチシャフト22の回転力は、ギアを介して入力軸23に伝達される。入力軸23には、遊星歯車機構140のサンギア147が固定されている。サンギア147の外周には、複数のプラネタリギア148が歯合されている。各プラネタリギア148は、遊星キャリア149に軸支され、遊星キャリア149は出力軸150に固定されている。出力軸150は、上述の出力軸4に接続されている。プラネタリギア群の外周にはリングギア141が歯合され、リングギア141の外周にポンプ入力ギア142が歯合されている。ポンプ入力ギア142は、走行用の油圧ポンプ(以下、HSTポンプ40と記す)の回転軸に固定されている。HSTポンプ40には、走行用の油圧モータ(以下、HSTモータ50と記す)が閉回路接続されている。HSTモータ50の回転軸には、モータ出力ギア154が固定されており、モータ出力ギア154が出力軸150のギア143に歯合されている。
【0019】
HSTポンプ40は、傾転角に応じて押しのけ容積が変更される斜板式あるいは斜軸式の可変容量型の油圧ポンプである。押しのけ容積はレギュレータ41により制御される。図示しないが、レギュレータ41は傾転シリンダと、メインコントローラ100からの前後進切換信号に応じて切り換わる前後進切換弁とを有する。傾転シリンダには、前後進切換弁を介して制御圧力が供給され、制御圧力に応じて押しのけ容積が制御されるとともに、前後進切換弁の切換に応じて傾転シリンダの動作方向が制御され、HSTポンプ40の傾転方向が制御される。
【0020】
HSTモータ50は、傾転角に応じて押しのけ容積が変更される斜板式あるいは斜軸式の可変容量型の油圧モータである。メインコントローラ100からモータ用のレギュレータ51に制御信号が出力されることで、HSTモータ50の押しのけ容積(モータ容量)が制御される。メインコントローラ100は、エンジンストールが発生することを防止するために、エンジン190の要求回転速度に対して、エンジン190の実回転速度が低く、その差が大きい場合、その差が小さい場合に比べて押しのけ容積を小さく制御する。以下、エンジン190の実回転速度を実エンジン回転速度Naとも記し、エンジン190の要求回転速度を要求エンジン回転速度Nrとも記す。
【0021】
このように、本実施の形態では、入力分割型のトランスミッション3を採用している。入力分割型のトランスミッション3では、遊星歯車機構140に連結したHSTポンプ40と油圧回路により接続されたHSTモータ50を、変速装置の出力軸150と回転比一定で連結する構成とされている。エンジン190の出力トルクは、遊星歯車機構140を経由して、HST31と機械伝動部32にパラレルに伝達され、車輪113が駆動される。
【0022】
メインコントローラ100には、車両を前進方向または後進方向に走行させる指示、すなわちホイールローダの進行方向を指示する前後進切換レバー164が接続されている。前後進切換レバー164の操作位置(前進(F)/中立(N)/後進(R))を表す指示信号(すなわち前進信号/中立信号/後進信号)は、メインコントローラ100によって検出される。メインコントローラ100は、前後進切換レバー164が前進(F)位置に切り換えられると、トランスミッション3の前進クラッチ18を係合状態とするための制御信号をトランスミッション制御装置20に出力する。メインコントローラ100は、前後進切換レバー164が後進(R)位置に切り換えられると、トランスミッション3の後進クラッチ19を係合状態とするための制御信号をトランスミッション制御装置20に出力する。
【0023】
トランスミッション制御装置20では、前進クラッチ18または後進クラッチ19を係合状態とするための制御信号を受信すると、トランスミッション制御装置20に設けられているクラッチ制御弁(不図示)が動作して、前進クラッチ18または後進クラッチ19が係合状態とされ、作業車両の進行方向が前進側または後進側に切り換えられる。メインコントローラ100は、前後進切換レバー164が中立(N)位置に切り換えられると、前進クラッチ18および後進クラッチ19を解放状態とするための制御信号をトランスミッション制御装置20に出力する。これにより、前進クラッチ18および後進クラッチ19は解放状態とされ、トランスミッション3は中立状態となる。
【0024】
メインコントローラ100には、クラッチセンサ131および車速センサ132が接続されている。クラッチセンサ131は、前進クラッチ18および後進クラッチ19が係合状態にあるか否かを検出し、係合状態であればオン信号、解放状態であればオフ信号をメインコントローラ100に出力する。車速センサ132は、車速に相当する物理量であるトランスミッション3の出力軸4の回転速度を検出して、検出信号をメインコントローラ100に出力する。なお、前進クラッチ18が係合状態で後進クラッチ19が解放状態であるとき、トランスミッション3の出力軸4は一方に回転し、車両が前進する。このとき、車速センサ132は正の出力値をメインコントローラ100に出力する。後進クラッチ19が係合状態で前進クラッチ18が解放状態であるとき、トランスミッション3の出力軸4は他方に回転し、車両が後進する。このとき、車速センサ132は負の出力値をメインコントローラ100に出力する。
【0025】
図2に示すように、ホイールローダは、メインポンプ11と、アクセサリポンプ12と、複数の油圧シリンダと、制御弁21と、操舵弁85と、を備えている。制御弁21は、作業装置を駆動させる油圧シリンダ(115,117)への圧油の流れを制御する。操舵弁85は、走行装置を駆動させる油圧シリンダ(116)への圧油の流れを制御する。複数の油圧シリンダには、アーム111を駆動させるアームシリンダ117、およびバケット112を駆動させるバケットシリンダ115、前部車体110を後部車体120に対して屈曲させるステアリングシリンダ116が含まれる。メインポンプ11は、エンジン190により駆動され、作動油タンク内の作動油を吸い込み、圧油として吐出する。
【0026】
メインポンプ11から吐出された圧油は、制御弁21を介してアームシリンダ117やバケットシリンダ115に供給され、アームシリンダ117やバケットシリンダ115によってアーム111やバケット112が駆動される。制御弁21は、操作信号出力装置31から出力されるパイロット圧により操作され、メインポンプ11からアームシリンダ117およびバケットシリンダ115への圧油の流れを制御する。このように、作業装置を構成するアームシリンダ117やバケットシリンダ115は、メインポンプ11から吐出される圧油により駆動される。
【0027】
メインポンプ11から吐出された圧油は、操舵弁85を介して左右一対のステアリングシリンダ116に供給され、左右一対のステアリングシリンダ116によって後部車体120に対し前部車体110が左右に屈折して操舵される。操舵弁85は、操舵信号出力装置43から出力されるパイロット圧により操作され、メインポンプ11からステアリングシリンダ116への圧油の流れを制御する。このように、走行装置を構成するステアリングシリンダ116は、メインポンプ11から吐出される圧油により駆動される。
【0028】
アクセサリポンプ12は、エンジン190により駆動され、作動油タンク内の作動油を吸い込み、圧油として吐出する。アクセサリポンプ12は、優先弁33およびファン駆動システム34を介してファンモータ26へ作動油を供給する。ファンモータ26は、複数の補機のうちの一つである。ファンモータ26は、エンジン190用のラジエータ(不図示)に冷却風を送風するファンを駆動する駆動源である。ファン駆動システム34は、ファンモータ26への作動油の供給量を制御する。
【0029】
アクセサリポンプ12から吐出された作動油は、補機である操作信号出力装置31や操舵信号出力装置43にも供給される。操作信号出力装置31は、アクセサリポンプ12から吐出される圧油を減圧して、レバーの操作量に応じたパイロット圧を制御弁21のパイロット受圧部に出力する。操舵信号出力装置43は、アクセサリポンプ12から吐出される圧油を減圧して、ステアリングホイールの操作量に応じたパイロット圧を操舵弁85のパイロット受圧部に出力する。このように、補機であるファンモータ26や操作信号出力装置31、操舵信号出力装置43は、アクセサリポンプ12から吐出される圧油により駆動される。
【0030】
優先弁33は、合流ライン35により制御弁21と接続されている。なお、合流ライン35は、必ずしも制御弁21につながっている必要はなく、制御弁21とアームシリンダ117との間の供給ラインに別途バルブを設けた状態でつなげた構成としてもよい。
【0031】
優先弁33は、アクセサリポンプ12から吐出された圧油を、ファン駆動システム34を介してファンモータ26へ導く通常位置と、制御弁21を介してアームシリンダ117へ導く合流位置との間で切り換えられる。優先弁33は、メインコントローラ100からの制御信号に基づいて制御される。
【0032】
優先弁33には、ソレノイド(不図示)が設けられており、このソレノイドへの通電がメインコントローラ100からの制御信号に基づいて、優先弁33が通常位置と合流位置との間で切り換えられる。なお、優先弁33は、合流位置に切り換えられたとき、アクセサリポンプ12から吐出された作動油の全部を制御弁21に導くのではなく、作動油の一部を制御弁21に導くようにしてもよい。
【0033】
図4は、メインコントローラ100の機能ブロック図である。メインコントローラ100は、目標速度設定部100aと、要求速度設定部100bと、合流条件判定部100cと、弁制御部100eと、閾値設定部100fと、前後進判定部100gと、走行方向推定部100hと、を機能的に備えている。
【0034】
メインコントローラ100には、ペダル操作量センサ134aが接続されている。ペダル操作量センサ134aは、アクセルペダル134の踏み込み操作量を検出し、検出信号をメインコントローラ100に出力する。目標速度設定部100aは、ペダル操作量センサ134aで検出したアクセルペダル134の操作量に応じてエンジン190の目標回転速度を設定する。以下、エンジン190の目標回転速度は、目標エンジン回転速度Ntとも記す。
【0035】
図5は、アクセルペダル134の操作量Lと目標エンジン回転速度Ntの関係を示す図である。メインコントローラ100の記憶装置には、図5に示す目標エンジン回転速度特性Tnのテーブルが記憶されており、目標速度設定部100aは特性Tnのテーブルを参照し、ペダル操作量センサ134aで検出された操作量Lに基づいて目標エンジン回転速度Ntを設定する。アクセルペダル134の非操作時(0%)の目標エンジン回転速度Ntはローアイドル回転速度Nsに設定される。アクセルペダル134のペダル操作量Lの増加に伴い目標エンジン回転速度Ntは増加する。ペダル最大踏み込み時(100%)の目標エンジン回転速度Ntは定格点における定格回転速度Nmaxとなる。
【0036】
図4に示す要求速度設定部100bは、燃料の消費を抑制することなどを目的として、ホイールローダの運転状態に応じて、目標速度設定部100aで設定された目標エンジン回転速度Ntを補正し、補正後の目標エンジン回転速度Ntを要求エンジン回転速度Nrとして設定する。なお、補正量を0として、目標エンジン回転速度Ntをそのまま要求エンジン回転速度Nrとして設定する場合もある。
【0037】
メインコントローラ100は、要求エンジン回転速度Nrに対応した制御信号をエンジンコントローラ15に出力する。エンジンコントローラ15には、回転速度センサ136が接続されている。回転速度センサ136は、実エンジン回転速度Naを検出し、検出信号をエンジンコントローラ15に出力する。なお、エンジンコントローラ15は、実エンジン回転速度Naの情報をメインコントローラ100に出力する。エンジンコントローラ15は、メインコントローラ100からの要求エンジン回転速度Nrと、回転速度センサ136で検出された実エンジン回転速度Naとを比較して、実エンジン回転速度Naが要求エンジン回転速度Nrとなるように燃料噴射装置190a(図2参照)を制御する。
【0038】
メインコントローラ100には、T/M作動油温センサ160、循環作動油温センサ161、および、冷却水温センサ162が接続されている。T/M作動油温センサ160は、トランスミッション3の作動油の温度Ttを検出し、検出信号をメインコントローラ100に出力する。循環作動油温センサ161は、メインポンプ11から吐出され、油圧回路を循環する作動油の温度Tmを検出し、検出信号をメインコントローラ100に出力する。冷却水温センサ162は、冷却水の温度Twを検出し、検出信号をメインコントローラ100に出力する。
【0039】
メインコントローラ100には、アーム上げパイロット圧センサ163を含む複数のパイロット圧センサが接続されている。アーム上げパイロット圧センサ163は、操作信号出力装置31から出力され、制御弁21のパイロット受圧部に作用する圧力(アーム上げパイロット圧P)を検出し、検出信号をメインコントローラ100に出力する。つまり、アーム上げパイロット圧センサ163は、アーム操作装置のレバー操作量を検出する装置である。
【0040】
図6は、合流条件判定部100cの機能を説明するブロック図であり、図6を参照して、合流有効条件および合流無効条件について説明する。
合流条件判定部100cは、以下の有効個別条件1〜4の全てが満たされた場合に、合流有効条件が成立していると判定する。
(有効個別条件1)実エンジン回転速度Naが、要求エンジン回転速度Nrに基づいて設定される速度閾値Non以上であること
(有効個別条件2)合流許容温度条件が成立していること
(有効個別条件3)アーム上げパイロット圧Pが、圧力閾値Ps1以上となった後(P≧Ps1)、圧力閾値Ps2未満まで低下することなく、所定時間tsを経過したこと(計測時間t≧ts)
(有効個別条件4)前後進切換動作中でないこと
【0041】
合流条件判定部100cは、以下の無効個別条件1〜4のいずれかが満たされた場合に、合流無効条件が成立していると判定する。
(無効個別条件1)実エンジン回転速度Naが、要求エンジン回転速度Nrに基づいて設定される速度閾値Noff以下であること
(無効個別条件2)合流許容温度条件が成立していないこと
(無効個別条件3)アーム上げパイロット圧Pが、圧力閾値Ps2未満であること(P<Ps2)、あるいは、アーム上げパイロット圧Pが、圧力閾値Ps1以上となった後(P≧Ps1)、圧力閾値Ps2未満まで低下していない状態で所定時間tsを経過していないこと(計測時間t<ts)
(無効個別条件4)前後進切換動作中であること
【0042】
有効個別条件1および無効個別条件1における速度閾値Non,Noffについて説明する。メインコントローラ100の記憶装置には、要求エンジン回転速度Nrに応じた速度閾値テーブルTon,Toffが記憶されている。速度閾値テーブルTon,Toffは、要求エンジン回転速度Nrの増加に応じて、段階的に増加する特性を有している(本実施の形態では3段階)。閾値設定部100fは、速度閾値テーブルTonを参照し、要求速度設定部100bで設定された要求エンジン回転速度Nrに基づいて速度閾値Nonを設定する。閾値設定部100fは、速度閾値テーブルToffを参照し、要求速度設定部100bで設定された要求エンジン回転速度Nrに基づいて速度閾値Noffを設定する。
【0043】
図7を参照して、有効個別条件2および無効個別条件2における合流許容温度条件について説明する。図7は、合流許容温度条件について説明するブロック図である。合流条件判定部100cは、以下の温度個別条件1〜3のいずれかが満たされた場合に、合流許容温度条件は成立していないと判定し、以下の温度個別条件1〜3のいずれもが満たされていない場合に、合流許容温度条件が成立していると判定する。
【0044】
(温度個別条件1)トランスミッション3の作動油の温度Ttが温度閾値Tt1以上であること、かつ、温度Ttが温度閾値Tt1以上となった後、温度閾値Tt2以下となっていないこと
温度閾値Tt1と温度閾値Tt2の大小関係は、Tt1>Tt2である。
(温度個別条件2)メインポンプ11から吐出され、油圧回路を循環する作動油の温度Tmが温度閾値Tm1以上であること、かつ、温度Tmが温度閾値Tm1以上となった後、温度閾値Tm2以下となっていないこと
温度閾値Tm1と温度閾値Tm2の大小関係は、Tm1>Tm2である。
(温度個別条件3)冷却水の温度Twが温度閾値Tw1以上であること、かつ、温度Twが温度閾値Tw1以上となった後、温度閾値Tw2以下となっていないこと
温度閾値Tw1と温度閾値Tw2の大小関係は、Tw1>Tw2である。
【0045】
温度閾値Tt1,Tt2,Tm1,Tm2,Tw1,Tw2は、各流体の最高使用温度を考慮して、たとえば、90〜110℃程度の温度が予め定められ、メインコントローラ100の記憶装置に記憶されている。
【0046】
有効個別条件3および無効個別条件3における圧力閾値Ps1,Ps2および所定時間tsについて説明する。メインコントローラ100の記憶装置には、予め定められた圧力閾値Ps1,Ps2が記憶されている。圧力閾値Ps1は、アーム上げ操作が行われたか否かを判定するための閾値である。合流条件判定部100cは、アーム上げパイロット圧Pが圧力閾値Ps1以上である場合、アーム上げ操作が行われていると判定し、アーム上げパイロット圧Pが圧力閾値Ps1未満である場合、アーム上げ操作が行われていないと判定する。圧力閾値Ps2は、アーム上げ操作を行った後、アーム操作装置のレバーが中立位置に戻されたか否かを判定するための閾値である。合流条件判定部100cは、アーム上げパイロット圧Pが圧力閾値Ps2以上である場合、アーム上げ操作が継続している状態であると判定し、アーム上げパイロット圧Pが圧力閾値Ps2未満である場合、アーム操作装置のレバーが中立位置に戻されていると判定する。
【0047】
所定時間tsは、たとえば、0.5秒〜1秒程度の任意の値が予め設定され、メインコントローラ100の記憶装置に記憶されている。アーム上げ操作が行われてから地山130に突入するまでの時間を実機試験等により測定し、この時間よりも長い時間を所定時間tsとして設定できる。なお、所定時間tsを長くしすぎると、ダンプトラックに向かって前進走行する間にアーム上げを行う場合の合流制御開始のタイミング、すなわちアーム上昇の増速開始のタイミングが遅くなるので、長くても2〜3秒程度以下にすることが好ましい。
【0048】
メインコントローラ100は、アーム上げパイロット圧Pが圧力閾値Ps1以上になると、内蔵するタイマにより時間の計測を開始する。図6に示す立ち上がり遅延ブロックは、アーム上げパイロット圧Pが、圧力閾値Ps1以上となった後、圧力閾値Ps2未満に低下することなく、所定時間tsを経過したか否かを判定する。上記判定処理で肯定判定された場合、立ち上がり遅延ブロックは、有効個別条件3が成立していることを表す信号を出力する。上記判定処理で否定判定された場合、立ち上がり遅延ブロックは、無効個別条件3が成立していることを表す信号を出力する。
【0049】
有効個別条件4および無効個別条件4における前後進切換動作中の判定について説明する。図4に示す走行方向推定部100hは、車速センサ132で検出された車速を表す出力値の正負に基づいて、ホイールローダの走行方向を推定する。車速センサ132からの出力値が正の値である場合、走行方向推定部100hは、ホイールローダの走行方向は前進方向であると推定する。車速センサ132からの出力値が負の値である場合、走行方向推定部100hは、ホイールローダの走行方向は後進方向であると推定する。
【0050】
図8は、前後進切換動作判定を説明する状態遷移図である。前後進切換動作中であるか否かは、前後進判定部100gにより、次のようにして判定される。前後進判定部100gは、通常状態S1であるときに、前後進切換レバー164の指示方向と、走行方向推定部100hで推定されたホイールローダの走行方向とが逆、すなわち不一致となったとき、前後進切換動作が開始したと判定する。これにより、ホイールローダの状態は、通常状態S1から反転状態S2に遷移する。
【0051】
前後進判定部100gは、反転状態S2であるときに、前後進切換レバー164の指示方向と、走行方向推定部100hで推定されたホイールローダの走行方向とが同じ、すなわち一致すると、待機条件が成立したと判定し、反転状態S2から待機状態S3に遷移する。前後進判定部100gは、待機状態S3であるときに、車速センサ132で検出された車速Vの絶対値|V|が所定値Vtよりも高いか否かを判定する。前後進判定部100gは、車速Vの絶対値|V|が所定値Vt以下の場合、前後進切換動作は継続中であると判定し、車速Vの絶対値|V|が所定値Vtよりも高い場合、前後進切換動作が終了したと判定する。前後進切換動作が終了すると、ホイールローダの状態は、待機状態S3から通常状態S1に遷移する。前後進判定部100gは、前後進切換動作が開始されてから終了するまで、前後進切換動作中であると判定する。
【0052】
なお、待機状態S3であるときに、前後進切換レバー164の指示方向と、走行方向推定部100hで推定されたホイールローダの走行方向とが不一致となった場合は、待機状態S3から反転状態S2へと遷移する。
【0053】
所定値Vtは、前後進切換レバー164の指示方向と、走行方向推定部100hで推定されたホイールローダの走行方向とが一致してから、トランスミッション3の負荷トルクが十分に低下し、エンジン回転速度の低下が起こりにくい状態になったときの車速Vが設定される。所定値Vtは、たとえば、5km/h以上の任意の値に予め定められ、メインコントローラ100の記憶装置に記憶されている。
【0054】
弁制御部100eは、合流条件判定部100cにより、合流有効条件が成立していると判定された場合、優先弁33のソレノイドを励磁させ、優先弁33を合流位置に切り換える。弁制御部100eは、合流条件判定部100cにより、合流無効条件が成立していると判定された場合、優先弁33のソレノイドを消磁させ、優先弁33を通常位置に切り換える。
【0055】
図9は、土砂等をダンプトラックへ積み込む方法の1つであるVシェープローディングについて示す図である。図10は、ホイールローダによる掘削作業を示す図である。図9に示すように、Vシェープローディングでは、矢印aで示すように、ホイールローダを土砂等の地山130に向かって前進させる。
【0056】
図10に示すように、地山130にバケット112を突入し、バケット112を操作してからアーム111を上げ操作する、あるいはバケット112とアーム111を同時に操作しながら最後にアーム111のみを上げ操作して掘削作業を行う。
【0057】
掘削作業が終了すると、図9の矢印bで示すように、ホイールローダを一旦後退させる。矢印cで示すように、ダンプトラックに向けてホイールローダを前進させて、ダンプトラックの手前で停止し、すくい込んだ土砂等をダンプトラックに積み込み、矢印dで示すように、ホイールローダを元の位置に後退させる。以上が、Vシェープローディングによる掘削、積み込み作業の基本的な動作である。
【0058】
本実施の形態では、合流無効条件が成立している場合には、優先弁33を通常位置に切り換える。これにより、実エンジン回転速度Naの低下を抑制することができる。以下、比較例と比較して、本実施の形態の作用効果について説明する。
【0059】
図11は、前後進切換操作を行った場合の挙動を説明する図である。図中、実線は、本実施の形態に係るホイールローダの挙動を示し、破線は、比較例に係るホイールローダの挙動を示している。比較例に係るホイールローダでは、上述した有効個別条件3に代えて有効個別条件3Cを有し、上述した有効個別条件4を有していない。
(有効個別条件3C)アーム上げパイロット圧Pが、圧力閾値Ps1以上であること(P≧Ps1)
また、比較例に係るホイールローダでは、上述した無効個別条件3に代えて無効個別条件3Cを有し、上述した無効個別条件4を有していない。
(無効個別条件3C)アーム上げパイロット圧Pが、圧力閾値Ps2未満であること(P<Ps2)
【0060】
後進中のホイールローダを前進させる際、運転者はアクセルペダル134を戻し操作し、前後進切換レバー164を後進から前進に切り換え操作する。このため、後進から前進への移行の際には、後方への車体の慣性エネルギーが、機械伝動部32を介してエンジン190に負荷として作用する。さらに、運転者は、ダンプトラックでの積み込み作業を考え、後進から前進への移行の際、アーム操作レバーを上げ側に操作してアーム111を上昇させる。このとき、比較例では、アーム111の上げ操作により、合流条件が成立し、優先弁33が合流位置に設定されると、アーム111を駆動させるためのメインポンプ11およびアクセサリポンプ12の負荷がエンジン190に作用する。このように、後進から前進へ進行方向を切り換えるとともにフロント作業装置119を駆動する動作(以下、進行切換複合動作と記す)が行われると、走行系および作業系を駆動させるために必要なエンジン出力トルクが不足してラグダウンが発生する。
【0061】
実エンジン回転速度Naが要求エンジン回転速度Nrに対して大きく低下すると、車両の動作がギクシャクしたり、ガクガクしたりしてしまい、大きな違和感を運転者に与えてしまうおそれがある。また、前進に移行した後の加速がもたつくことに起因した大きな違和感を運転者に与えてしまうおそれもある。
【0062】
本実施の形態では、前後進切換動作中は合流無効条件が成立し、優先弁33が通常位置に設定されるので、エンジン190に作用するアクセサリポンプ12の負荷を抑制できる。その結果、実エンジン回転速度Naの低下が抑制される。本実施の形態と、比較例とでは、実エンジン回転速度Naの最小値の差(低下抑制量)ΔN1は数百rpm程度である。本実施の形態では、比較例に比べて、実エンジン回転速度Naの低下量を抑えることができるので、運転者に対する違和感を低減することができる。
【0063】
図12は、掘削操作を行った場合の挙動を説明する図である。図中、実線は、本実施の形態に係るホイールローダの挙動を示し、破線は、上述した比較例に係るホイールローダの挙動を示している。
【0064】
ホイールローダを地山130に向かって前進させ、地山130にバケット112を突入させる際、運転者は突入直前からアーム操作レバーを上げ側に操作してアーム111を上昇させることがある。このとき、比較例では、アーム111の上げ操作により、合流有効条件が成立し、優先弁33が合流位置に設定される。このため、バケット112が地山130に突入した際に、突入に伴うトランスミッション3からの負荷がエンジン190に作用するとともに、アーム111を上昇駆動させるためのメインポンプ11およびアクセサリポンプ12の負荷がエンジン190に作用する。このように、突入の際、フロント作業装置119を駆動する動作(以下、突入複合動作と記す)が行われると、走行系および作業系を駆動させるために必要なエンジン出力トルクが不足してラグダウンが発生する。
【0065】
実エンジン回転速度Naが要求エンジン回転速度Nrに対して大きく低下すると、車両の動作がギクシャクしたり、ガクガクしたりしてしまい、大きな違和感を運転者に与えてしまうおそれがある。また、掘削時のフロント作業装置119の減速に起因した大きな違和感を運転者に与えてしまうおそれもある。なお、実エンジン回転速度Naが速度閾値Noff以下になると、優先弁33が通常位置に切り換えられ、エンジン190に作用する負荷が低減される。
【0066】
本実施の形態では、アーム上げ操作後から所定時間tsを経過するまでは合流無効条件が成立し、優先弁33が通常位置に設定されるので、エンジン190に作用するアクセサリポンプ12の負荷を抑制できる。その結果、実エンジン回転速度Naの低下が抑制される。本実施の形態と、比較例とでは、実エンジン回転速度Naの最小値の差(低下抑制量)ΔN2は数百rpm程度である。本実施の形態では、比較例に比べて、実エンジン回転速度Naの低下量を抑えることができるので、運転者に対する違和感を低減することができる。
【0067】
なお、図9の矢印cで示すように、ホイールローダをダンプトラックに向けて前進走行し、前進走行中にアーム上げ操作を行う場合、合流制御が実行されない合流無効期間が発生するが、合流無効期間は僅かな時間(たとえば、1秒程度)であり、アーム111をダンプ高さまで上昇させるまでの所要時間に比べて短い。また、合流無効期間中もメインポンプ11から吐出される圧油により、アーム111の上げ動作は実行される。このため、ダンプトラックに近づく際に、アーム上げ操作後、1秒程度、合流制御に入るタイミングを遅らせたとしても、運転者のフィーリングに与える影響は小さくて済む。
【0068】
上述した実施の形態によれば、次の作用効果が得られる。
(1)メインコントローラ100は、ホイールローダが前後進切換動作中であるときは、優先弁33を通常位置に切り換える。つまり、メインコントローラ100は、前後進切換レバー164により指示された前進方向または後進方向のいずれかの方向と、ホイールローダの進行方向とが不一致の状態にあるときには、優先弁33を通常位置に保持する。また、メインコントローラ100は、前後進切換レバー164により指示された前進方向または後進方向のいずれかの方向と、ホイールローダの進行方向とが一致し、アーム操作装置が操作された状態にあるときには、優先弁33を合流位置に切り換える。これにより、前後進切換動作を行ったときに合流制御を実行させる場合に比べて、エンジン回転速度の低下を抑え、ホイールローダの動きを円滑にできるので、運転者に対する違和感を低減できる。
【0069】
(2)メインコントローラ100は、アーム操作装置により作業装置を構成するアーム111の操作が行われてから予め設定された所定時間tsを経過するまでは、優先弁33を通常位置に保持する。これにより、掘削作業の際、アーム操作レバーを上げ側に操作してから地山130に突入した場合に、合流制御を実行させる場合に比べて、エンジン回転速度の低下を抑え、ホイールローダの動きを円滑にできるので、運転者に対する違和感を低減できる。
【0070】
(3)メインコントローラ100は、車速センサ132で検出された車速を表す出力値の正負に基づいてホイールローダの走行方向を推定し、推定した走行方向と前後進切換レバー164による指示方向とが逆となったとき、前後進切換動作が開始したと判定する。車速センサ132を利用して走行方向を推定し、前後進切換動作の開始判定を行うことができるので、追加する構成要素を抑えることができ、部品点数およびコストの増加を抑えることができる。
【0071】
(4)メインコントローラ100は、前後進切換レバー164による指示方向と、ホイールローダの走行方向とが一致し、かつ、車速センサ132で検出された車速Vの絶対値|V|が所定値Vtよりも高い場合、前後進切換動作が終了したと判定する。これにより、トランスミッションの負荷トルクが低減してから、合流制御に移行できる。
【0072】
(5)本実施の形態では、ホイールローダが前進走行中に、アーム上げ操作が行われる場合、そのアーム上げ操作が、地山130に突入する直前のアーム上げ操作なのか、あるいは、ダンプトラックに向けて移動する際のアーム上げ操作なのかを判別することなく、一律に、アーム上げ操作後から所定時間が経過するまでは、合流制御を実行しない構成とされている。ミリ波レーダやレーザレーダなどによる対象物との距離を検出する装置が不要であるので、部品点数やコストを低減できる。
【0073】
次のような変形も本発明の範囲内であり、変形例の一つ、もしくは複数を上述の実施形態と組み合わせることも可能である。
(変形例1)
上述した実施の形態では、車速センサ132で検出された車速に相当する出力値の正負に基づいて、ホイールローダの走行方向を推定する例について説明したが、本発明はこれに限定されない。クラッチ装置16の係合状態に基づいて、ホイールローダの走行方向を推定してもよい。この場合、走行方向推定部100hは、前進クラッチ18が係合状態であり、かつ、後進クラッチ19が解放状態である場合、ホイールローダの走行方向は前進方向であると推定する。走行方向推定部100hは、後進クラッチ19が係合状態であり、かつ、前進クラッチ18が解放状態である場合、ホイールローダの走行方向は後進方向であると推定する。
【0074】
(変形例2)
上述した実施の形態では、アーム操作装置のレバー操作量に基づいて、アーム111の操作が行われているか否かを判定する例について説明したが、本発明はこれに限定されない。
(変形例2−1)
アーム111の角度を検出する角度検出装置を備え、角度検出装置で検出されたアーム111の角度の時間変化率、すなわち角速度に基づいて、アーム111の操作が行われているか否かを判定する。この場合、合流条件判定部100cは、上述した有効個別条件3に代えて、以下の有効個別条件3Bが満たされているか否かを判定する。
(有効個別条件3A)アーム111の角度の時間変化率ωが予め設定された所定値ωs以上となってから所定時間tsを経過したこと
合流条件判定部100cは、上述した無効個別条件3に代えて、以下の無効個別条件3Aが満たされているか否かを判定する
(無効個別条件3A)アーム111の角度の時間変化率ωが予め設定された所定値ωs未満であること、あるいは、アーム111の角度の時間変化率ωが予め設定された所定値ωs以上となってから所定時間tsを経過していないこと
【0075】
(変形例2−2)
アームシリンダ117のボトム圧を検出するボトム圧検出装置を備え、ボトム圧検出装置で検出されたボトム圧の時間変化率Ptに基づいて、アーム111の操作が行われているか否かを判定してもよい。この場合、合流条件判定部100cは、上述した有効個別条件3に代えて、以下の有効個別条件3Aが満たされているか否かを判定する。
(有効個別条件3A)ボトム圧の時間変化率Ptが予め設定された所定値Pts以上となってから所定時間tsを経過したこと
合流条件判定部100cは、上述した無効個別条件3に代えて、以下の無効個別条件3Bが満たされているか否かを判定する
(無効個別条件3B)ボトム圧の時間変化率Ptが予め設定された所定値Pts未満であること、あるいは、ボトム圧の時間変化率Ptが予め設定された所定値Pts以上となってから所定時間tsを経過していないこと
【0076】
(変形例3)
合流有効条件および合流無効条件は、上述した実施の形態に限定されない。たとえば、合流条件判定部100cは、上述した有効個別条件1〜4、ならびに以下に示す有効個別条件5および有効個別条件6の全てが満たされた場合に、合流有効条件が成立していると判定する。
(有効個別条件5)掘削中でないこと
(有効個別条件6)前後進切換レバー164が前進位置(F)または中立位置(N)に切り換えられていること
【0077】
また、合流条件判定部100cは、上述した無効個別条件1〜4、ならびに以下に示す無効個別条件5および無効個別条件6のいずれかが満たされた場合に、合流無効条件が成立していると判定する。
(無効個別条件5)掘削中であること
(無効個別条件6)前後進切換レバー164が後進位置(R)に切り換えられていること
【0078】
掘削中であるか否かは、メインポンプ11の吐出圧に基づいて、メインコントローラ100により判定される。メインコントローラ100には、メインポンプ11の吐出圧を検出する吐出圧検出装置が接続されている。メインコントローラ100は、吐出圧が予め設定された所定圧力以上である場合は掘削中であると判定し、吐出圧が予め設定された所定圧力未満である場合は掘削中でないと判定する。掘削中には合流制御を実行しないようにすることで、掘削中におけるエンジンの負荷を低減できる。
【0079】
(変形例4)
上述した実施の形態では、前後進切換動作中の待機状態S3から通常状態S1に遷移する条件が、車速Vの絶対値|V|が所定値Vtよりも大きくなった場合について説明したが、本発明はこれに限定されない。車速Vにかかわらず、反転状態S2から待機状態S3に遷移してからの時間が予め設定された所定時間ttを経過したとき、待機状態S3から通常状態S1に遷移するようにしてもよい。所定時間ttは、前後進切換レバー164の指示方向と、走行方向推定部100hで推定されたホイールローダの走行方向とが一致してから、トランスミッション3の負荷トルクが十分に低下し、エンジン回転速度の低下が起こりにくい状態になるまでの時間が設定される。所定時間ttは、たとえば、2秒以上の任意の値に予め定められ、メインコントローラ100の記憶装置に記憶されている。このように、前後進判定部100gは、前後進切換レバー164の指示方向と、ホイールローダの走行方向とが一致し、かつ、ホイールローダの走行方向が一致してから予め設定された所定時間ttを経過した場合、前後進切換動作が終了したと判定してもよい。このような場合であっても、上述した実施の形態と同様の作用効果を得ることができる。
【0080】
(変形例5)
上述した実施の形態では、アーム上げ操作後の合流無効期間を一定の所定時間tsとする例について説明したが、本発明はこれに限定されない。車速センサ132で検出された車速Vに基づいて、所定時間tsを変更してもよい。この場合、メインコントローラ100の記憶装置に、車速が低いほど所定時間tsが長くなる特性のデータテーブルが記憶されている。メインコントローラ100はこのテーブルを参照して、車速Vに応じた所定時間tsを設定する。通常よりも、車速Vが低く、アーム上げ操作から地山130に突入するまでの時間が長くなったとしても合流制御が実行されることを防止できる。
【0081】
(変形例6)
上述した実施の形態では、進行切換複合動作として、後進走行から前進走行へ移行する際に、アーム111を上げ動作させる例について説明したが、本発明はこれに限定されない。たとえば、前進走行から後進走行へ移行する際に、アーム111を上げ動作させる場合にも上述と同様の作用効果を奏する。
【0082】
(変形例7)
上述した実施の形態では、入力分割型のトランスミッション3(図3参照)を例に説明したが、本発明はこれに限定されない。入力分割型のトランスミッション3に代えて、図13に示すように、出力分割型のHMT203を採用してもよい。出力分割型のHMT203では、遊星歯車機構240に連結したHSTモータ50と油圧回路により接続されたHSTポンプ40を、変速装置の入力軸23と回転比一定で連結する構成とされている。本変形例では、エンジン190の出力トルクがHST31と機械伝動部32にパラレルに伝達され、遊星歯車機構240を経由して、車輪113が駆動される。
【0083】
図13に示すように、出力分割型のHMT203では、入力軸23の回転力は、入力軸23のギア243およびポンプ入力ギア142を介してHST31に伝達される。また、入力軸23には、遊星歯車機構240のサンギア147が固定されている。サンギア147の外周には、複数のプラネタリギア148が歯合されている。各プラネタリギア148は、遊星キャリア149に軸支され、遊星キャリア149は出力軸150に固定されている。出力軸150は、上述の出力軸4に接続されている。プラネタリギア群の外周にはリングギア141が歯合され、リングギア141の外周にモータ出力ギア154が歯合されている。モータ出力ギア154はHSTモータ50の回転軸に固定されている。
【0084】
(変形例8)
上述した実施の形態では、HMTを備えたホイールローダを例に説明したが、本発明はこれに限定されない。周知のインペラ、タービン、ステータからなる流体クラッチであるトルクコンバータを介してエンジン出力をトランスミッションに伝達させる、いわゆるトルコン駆動形式の作業車両の油圧制御装置に本発明を適用することもできる。なお、機械伝動部を有するHMTにより、エンジン190の駆動力を車輪に伝達する作業車両では、前後進切換時や掘削突入時にエンジン190に作用する負荷の影響が、トルクコンバータを備える作業車両に比べて大きい。HMT駆動形式では、走行負荷が高い状態で合流制御が実行されたときのエンジンの負荷上昇率がトルコン駆動形式に比べて大きいため、本発明の効果はHMT駆動形式の方が高い。
【0085】
(変形例9)
制御弁21を操作するアーム操作装置やバケット操作装置は、油圧パイロット式に代えて電気式としてもよい。前後進切換指示装置として、前後進切換レバー164を採用する例について説明したが、前後進切換スイッチとしてもよい。
【0086】
(変形例10)
上述した実施の形態では、作業車両の一例としてホイールローダを例に説明したが、本発明はこれに限定されず、たとえば、ホイールショベル、フォークリフト、テレハンドラー、リフトトラック等、他の作業車両であってもよい。
【0087】
上記では、種々の実施の形態および変形例を説明したが、本発明はこれらの内容に限定されるものではない。本発明の技術的思想の範囲内で考えられるその他の態様も本発明の範囲内に含まれる。
【符号の説明】
【0088】
3 トランスミッション、11 メインポンプ、12 アクセサリポンプ、17 前後進切換レバー(前後進操作装置)、26 ファンモータ(補機)、33 優先弁、100 メインコントローラ(制御装置)、100g 前後進判定部、100h 走行方向推定部、111 アーム(作業装置)、132 車速センサ(車速検出装置)、190 エンジン
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13