【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成25年度、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「リチウムイオン電池応用・実用化先端技術開発事業」、「高性能リチウムイオン電池技術開発」及び「高容量・低コスト酸化物正極を用いた高エネルギー密度リチウムイオン電池の研究開発」に関する委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記リチウムイオンを吸蔵放出可能な材料が、単体ケイ素、シリコン酸化物及び炭素からなる群より選ばれた少なくとも1種を含有することを特徴とする請求項1又は2に記載のリチウムイオン二次電池。
【発明を実施するための形態】
【0015】
《リチウムイオン二次電池》
本発明のリチウムイオン二次電池の第一実施形態は、正極活物質を含む正極と、リチウムイオンを吸蔵放出可能な材料を主成分とする負極と、電解液と、を少なくとも有するリチウムイオン二次電池である。
【0016】
<正極活物質>
前記正極活物質は、層状岩塩型構造を有する、化学式Li
xFe
sM
1(z-s)M
2y O
2-δ で表わされるリチウム鉄マンガン系複合酸化物である。
【0017】
ここで、前記リチウム鉄マンガン系複合酸化物が有する「層状岩塩型構造」とは、X線を回折又は散乱し得る層状構造を意味する。すなわち、前記酸化物は少なくとも一部に結晶性を有する。このような層状岩塩型構造として、例えばα−NaFeO
2型が挙げられる。この型は、立方晶岩塩型構造の<111>方向に遷移金属とリチウムが規則配列して二次元平面を形成し、リチウムの二次元拡散によって電池反応が進行し得る構造として従来知られている。前記リチウム鉄マンガン系複合酸化物の層状岩塩型構造の型は特に制限されず、α−NaFeO
2型であってもよいし、他の型であってもよい。前記酸化物の層状岩塩型構造において、リチウム層に遷移金属が不規則配列した構造が含まれていてもよいし、遷移金属層にリチウムが不規則配列した構造が含まれていてもよいが、このような不規則構造は充放電特性を悪化させる可能性があるので、なるべく含まれない方が好ましい。
【0018】
前記リチウム鉄マンガン系複合酸化物が有する「層状岩塩型構造」は、従来公知の粉末X線回折法、粉末中性子線回折法、X線若しくは中性子線の小角散乱法又は全散乱法、磁性測定法等によって解析することができる。
【0019】
前記層状岩塩型構造を有するリチウム鉄マンガン系複合酸化物を表わす、化学式Li
xFe
sM
1(z-s)M
2y O
2-δ 中、各パラメータは以下の通りである。
【0020】
1.05≦x≦1.32、0.06≦s≦0.50、0.06≦z≦0.50、0.33≦y≦0.63、0≦δ≦0.80であり、M
1はCo、Ni及びMnから選択される何れか1種以上の金属、又はそれらの混合物であり、M
2はMn、Ti及び Zrから選択される何れか1種以上の金属、又はそれらの混合物である。
【0021】
前記化学式中、M
1はCo又はNiであることが好ましく、Niであることがより好ましい。前記化学式中、M
2はMn又はTiであることが好ましく、Mnであることがより好ましい。
【0022】
前記化学式で表わされるリチウム鉄マンガン系複合酸化物の合成方法は特に制限されず、従来公知の層状岩塩型構造を有する酸化物の合成方法が適用可能である。具体的には、例えば、前述したナトリウム鉄系複合酸化物(α−NaFeO
2型)の従来公知の合成方法が適用可能である。従来公知の合成方法として例えば、特開2013−100197号公報を参照することにより、前記化学式で表わされるリチウム鉄マンガン系複合酸化物を合成することができる。
【0023】
前記正極の総質量に対する、前記リチウム鉄マンガン系複合酸化物の質量は、特に制限されないが、50〜99質量%であることが好ましく、70〜99質量%であることがより好ましく、85〜95質量%であることがさらに好ましい。
【0024】
前記正極活物質を構成する前記リチウム鉄マンガン系複合酸化物は、1種であってもよいし、2種以上であってもよい。
また、前記正極には、前記リチウム鉄マンガン系複合酸化物以外の正極活物質又は導電補助材が含まれていてもよい。このような材料として、従来公知のリチウムイオン二次電池の正極活物質又は導電補助材として用いられる材料が適用可能であり、例えばケッチェンブラック等の炭素系材料が挙げられる。
【0025】
前記正極の正極活物質以外の構成材料は特に制限されず、従来公知の導電補助材、バインダ、樹脂等を用いることができる。例えばポリフッ化ビニリデンが適用可能である。
【0026】
<フッ素化エーテル>
前記フッ素化エーテル(以下、フッ素含有エーテル化合物と呼ぶことがある。)は、下記一般式(I)で表されるフッ素含有エーテル化合物であることが好ましい。
【0027】
【化2】
[式中、R
1は炭素数3〜8のアルキル基を表し、R
2は炭素数1のアルキル基を表し、R
1のアルキル基に結合する水素原子のうち少なくとも6個はフッ素原子で置換され、R
2のアルキル基に結合する水素原子のうち少なくとも1個はフッ素原子で置換されている。]
【0028】
前記一般式(I)のR
1は直鎖状、分岐鎖状又は環状のアルキル基であり、非水系溶媒中における溶解性を高める観点から、直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基であることが好ましく、直鎖状アルキル基であることがより好ましい。
R
1で表されるアルキル基を構成する炭素数は、非水系溶媒中における溶解性を高める観点から、3〜6が好ましく、3〜5がより好ましく、3又は4が更に好ましい。
R
1で表されるアルキル基を構成する水素原子のうち、少なくとも6個はフッ素原子で置換されている。R
1で表されるアルキル基を構成する水素原子の全てがフッ素原子で置換されていても良いが、R
1は少なくとも1個の水素原子を有することが好ましい。
【0029】
R
2で表されるアルキル基、即ちメチル基を構成する水素原子のうち、少なくとも1個はフッ素原子で置換されている。R
2で表されるメチル基を構成する水素原子の全てがフッ素原子で置換されていても良いが、R
2は少なくとも1個の水素原子を有することが好ましい。
【0030】
前記一般式(I)で表されるフッ素含有エーテル化合物群のうち、より好ましい化合物は、以下の一般式(I−a)で表される。
【0031】
【化3】
[式中、X
1〜X
10は水素原子又はフッ素原子を表し、X
1〜X
7のうち少なくとも6個がフッ素原子であり、X
8〜X
10のうち少なくとも1個がフッ素原子である。]
【0032】
前記一般式(I−a)中、X
4〜X
7のうち何れか1個が水素原子であることが好ましく、X
4又はX
5が水素原子であることがより好ましい。
前記一般式(I−a)中、X
8〜X
10のうち何れか1個又は2個が水素原子であることが好ましく、X
8〜X
10のうち何れか1個が水素原子であることがより好ましい。
【0033】
本実施形態の電解液における更に好ましいフッ素含有エーテル化合物は、下記式(I−a−1)〜(I−a−6)で表される化合物であり、これらの中でも、下記式(I−a−1)で表される1,1,2,3,3,3-ヘキサフルオロプロピルジフルオロメチルエーテルが特に好ましい。
【0035】
本実施形態の電解液に含まれる前記フッ素含有エーテル化合物は、1種であってもよいし、2種以上であってもよい。
【0036】
前記フッ素含有エーテル化合物(フッ素化エーテル)の前記電解液全体に占める割合は、1体積%から90体積%が好ましく、1体積%から60体積%がより好ましく、3体積%から30体積%がさらに好ましく、5体積%から20体積%が特に好ましい。
【0037】
<電解液>
前記電解液は、前記フッ素含有エーテル化合物とともに非水系溶媒を含むことが好ましい。非水系溶媒としては、前記フッ素含有エーテル化合物を安定に溶解可能であり、さらに支持塩としてのリチウム塩を溶解可能な有機溶媒であることが好ましい。このような有機溶媒としては、例えば、鎖状カーボネート系溶媒、環状カーボネート系溶媒が挙げられる。
【0038】
より具体的には、例えば、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、メチルエチルカーボネート、ジエチルカーボネート(DEC)、ビニレンカーボネート等の炭酸エステル化合物;前記炭酸エステル化合物の任意の水素原子のうち少なくとも1個がフッ素原子で置換されたフッ素含有炭酸エステル化合物;γ−ブチロラクトン等のラクトン化合物;ギ酸メチル、酢酸メチル、プロピオン酸メチル等のカルボン酸エステル化合物;テトラヒドロフラン、ジメトキシエタン等のエーテル化合物;アセトニトリル等のニトリル化合物;スルホラン等のスルホン化合物が挙げられる。
【0039】
上記の有機溶媒の中でも、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート及びジエチルカーボネートから選ばれる少なくとも1種の鎖状カーボネート系溶媒を含むことが好ましく、また、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート及びフルオロエチレンカーボネートから選ばれる少なくとも1種の環状カーボネート系溶媒を含むことが好ましい。
前記有機溶媒は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0040】
前記有機溶媒は、前記炭酸エステル化合物及び前記フッ素含有炭酸エステル化合物からなる群から選択される2種以上を組み合わせた混合溶媒であることが好ましい。混合溶媒における各溶媒の混合比は、前記フッ素含有エーテル化合物及びリチウム塩の溶解性及び安定性を考慮して決定することができる。
【0041】
前記混合溶媒の好ましい例として、エチレンカーボネート(EC)とジエチレンカーボネート(DEC)との混合溶媒が挙げられる。EC:DEC(体積比)は10:90〜90:10が好ましく、20:80〜50:50がより好ましく、30:70〜40:60がさらに好ましい。
【0042】
前記混合溶媒の好ましい例として、モノフルオロエチレンカーボネート(FEC)とジエチレンカーボネート(DEC)との混合溶媒が挙げられる。FEC:DEC(体積比)は35:65〜65:35が好ましく、40:60〜60:40がより好ましく、45:55〜55:45がさらに好ましい。
【0043】
前記非水系溶媒の総量に対するFECの含有量は、リチウムイオン二次電池の充放電サイクルに伴う容量低下を低減する観点から、30〜70体積%が好ましい。
【0044】
<リチウムイオンを吸蔵放出可能な材料>
前記負極を構成するリチウムイオンを吸蔵放出することができる材料は特に制限されず、従来公知のリチウムイオン二次電池で用いられている材料が適用可能である。具体的には、例えば、単体ケイ素、シリコン酸化物、炭素等が挙げられる。前記シリコン酸化物としては、例えば、一酸化ケイ素(SiO)、二酸化ケイ素(SiO
2)等が挙げられる。
【0045】
前記炭素としては、例えば、非晶質炭素、ダイヤモンド状炭素、カーボンナノチューブ又はこれらの複合物が挙げられる。結晶性の高い黒鉛は、電気伝導性が高く、銅などの金属からなる負極集電体との接着性および電圧平坦性が優れているため、好ましい。一方、結晶性の低い非晶質炭素は、体積膨張が比較的小さいため、負極全体の体積膨張を緩和する効果が高く、かつ結晶粒界や欠陥といった不均一性に起因する劣化が起きにくいため、好ましい。
【0046】
前記負極の総質量に対する、前記リチウムイオンを吸蔵放出可能な材料の質量は、特に制限されないが、50〜99質量%であることが好ましく、65〜95質量%であることがより好ましく、80〜95質量%であることがさらに好ましい。
【0047】
前記負極のリチウムイオンを吸蔵放出可能な材料以外の構成材料は特に制限されず、従来公知のバインダ、樹脂等を用いることができる。例えば加熱によりポリイミド樹脂を形成可能なポリアミック酸等が適用可能である。
【0048】
<リチウム塩>
本実施形態の電解液を構成するリチウム塩としては、公知のリチウムイオン二次電池で使用されているリチウム塩が適用できる。具体的には、例えば、六フッ化リン酸リチウム(LiPF
6)、四フッ化ホウ素リチウム(LiBF
4)、リチウムビスフルオロスルホニルイミド(LiFSI)、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドリチウム(LiN(SO
2CF
3)
2、LiTFSI)等が挙げられる。リチウム塩は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0049】
本実施形態の電解液の総量に対する前記リチウム塩の含有量は特に限定されず、例えば、リチウム原子(Li)の濃度が、好ましくは0.2〜3.0モル/リットル、より好ましくは0.4〜2.0モル/リットルとなるように、前記含有量を調節することができる。
【0050】
<任意成分>
本実施形態の電解液は、前記非水系溶媒、リチウム塩、及び前記フッ素含有エーテル化合物以外に、本発明の効果を損なわない範囲内において、任意成分が配合されていてもよい。前記任意成分は、目的に応じて適宜選択すればよく、特に限定されない。
【0051】
<ホウ素系化合物>
本実施形態の電解液には、前記任意成分として、下記一般式(B−1)で表されるホウ素系化合物を含有してもよい。
【0052】
【化5】
[式中、R
3は炭素数1〜4のアルキル基又は炭素数2〜4アルケニル基を表し、R
4は炭素数1〜4のアルキル基を表す。]
【0053】
前記一般式(B−1)のR
3がアルキル基である場合、このアルキル基は、リチウムイオン二次電池の充放電に伴う容量低下を低減する観点から、直鎖状又は分岐鎖状であることが好ましく、直鎖状であることがより好ましい。前記アルキル基の炭素数は、1〜3が好ましく、1又は2がより好ましい。
前記一般式(B−1)のR
3がアルケニル基である場合、リチウムイオン二次電池の充放電に伴う容量低下を低減する観点から、ビニル基、1−プロペニル基又は2−プロペニル基(アリル基)であることが好ましく、ビニル基又はアリル基であることがより好ましく、ビニル基であることがさらに好ましい。
【0054】
前記一般式(B−1)のR
4は直鎖状、分岐鎖状又は環状のアルキル基であり、非水系溶媒中における溶解性を高める観点から、直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基であることが好ましく、直鎖状アルキル基であることがより好ましい。
R
4で表されるアルキル基を構成する炭素数は、非水系溶媒中における溶解性を高める観点から、1〜3が好ましく、1又は2がより好ましく、1がさらに好ましい。
【0055】
前記一般式(B−1)で表される好適な化合物として、ビニルボロン酸(N−メチルイミノジ酢酸)メチルエステル、ビニルボロン酸(N−メチルイミノジ酢酸)エチルエステル、アリルボロン酸(N−メチルイミノジ酢酸)エチルエステルが例示できる。これらの中でも、特に、下記式(B−1−s)で表されるビニルボロン酸(N−メチルイミノジ酢酸)メチルエステルを用いることにより、リチウムイオン二次電池の前記容量低下を一層低減させることができる。
本実施形態の電解液に含まれる前記一般式(B−1)で表されるホウ素系化合物は1種であってもよいし、2種以上であってもよい。
【0057】
本実施形態の電解液の総量に対する前記ホウ素系化合物の含有量は、0.01〜5質量%であることが好ましく、0.03〜1質量%がより好ましく、0.06〜0.5質量%が更に好ましい。
【0058】
本実施形態の電解液において、前記フッ素含有エーテル化合物100質量部に対する前記ホウ素系化合物の含有量は、5質量部以下であることが好ましく、1質量部以下であることがより好ましい。
【0059】
<電解液の調製方法>
本実施形態の電解液の調製方法は、前記非水系溶媒、リチウム塩及び前記フッ素含有エーテル化合物、並びに必要に応じて添加する前記任意成分を混合し、各成分を均一に溶解又は分散できる方法であればよく、公知の電解液と同様に調製することができる。
【0060】
《リチウムイオン二次電池》
本発明のリチウムイオン二次電池は、前述した正極、負極、及び電解液を備えている。
これら以外の構成については、従来公知のリチウムイオン二次電池の構成が適用できる。
以下、本発明のリチウムイオン二次電池に適用可能な実施形態の一例を説明するが、本発明はこの実施形態に限定されない。
【0061】
本実施形態のリチウムイオン二次電池の構成として、例えば、正極および負極が対向配置された電極素子と、電解液とが外装体に内包されている構成が挙げられる。二次電池の形状は特に制限されず、例えば、円筒型、扁平捲回角型、積層角型、コイン型、扁平捲回ラミネート型および積層ラミネート型のいずれであってもよい。これらの中でも、積層ラミネート型が好ましい。以下、積層ラミネート型の二次電池について、本実施形態の一例として説明する。
【0062】
図1は、積層ラミネート型の二次電池が有する電池要素(電極素子)の構造を示す模式的断面図である。この電極素子は、複数の正極1および複数の負極2が、セパレータ3を挟んで積層されることにより形成されている。各正極1が有する正極集電体1Aは、正極活物質に覆われていない端部で互いに溶接されて電気的に接続され、さらにその溶接箇所に正極リードタブ1Bが溶接されている。各負極2が有する負極集電体2Aは、負極活物質に覆われていない端部で互いに溶接されて電気的に接続され、さらにその溶接箇所に負極リードタブ2Bが溶接されている。
【0063】
<負極>
前記負極は、負極活物質が負極用結着剤によって負極集電体を覆うように結着されてなる。前記負極活物質として、例えば、リチウムイオンを吸蔵、放出し得る炭素材料(a)と、リチウムと合金を形成することが可能な金属(b)と、リチウムイオンを吸蔵及び放出し得る金属酸化物(c)とを用いることができる。
【0064】
前記炭素材料(a)としては、黒鉛、非晶質炭素、ダイヤモンド状炭素、カーボンナノチューブ、又はこれらの複合物を用いることができる。結晶性の高い黒鉛は、電気伝導性が高く、銅などの金属からなる正極集電体との接着性および電圧平坦性が優れているため、好ましい。一方、結晶性の低い非晶質炭素は、体積膨張が比較的小さいため、負極全体の体積膨張を緩和する効果が高く、かつ結晶粒界や欠陥といった不均一性に起因する劣化が起きにくいため、好ましい。
【0065】
金属(b)としては、Al、Si、Pb、Sn、In、Bi、Ag、Ba、Ca、Hg、Pd、Pt、Te、Zn、La、又はこれらの2種以上の金属を含む合金を用いることができる。
特に、金属(b)としてシリコン(Si)を含むことが好ましい。
【0066】
金属酸化物(c)としては、酸化シリコン、酸化アルミニウム、酸化スズ、酸化インジウム、酸化亜鉛、酸化リチウム、またはこれらの複合物を用いることができる。特に、比較的安定で他の化合物との反応を引き起こしにくい酸化シリコンを含むことが好ましい。
また、金属酸化物(c)は、金属(b)を構成する金属の酸化物であることが好ましい。また、金属酸化物(c)の電気伝導性を向上させる観点から、金属酸化物(c)に、窒素、ホウ素およびイオウの中から選ばれる一種または二種以上の元素を、例えば0.1〜5質量%添加してもよい。
【0067】
金属酸化物(c)は、その全部または一部がアモルファス構造を有することが好ましい。アモルファス構造の金属酸化物(c)は、他の負極活物質である炭素材料(a)や金属(b)の体積膨張を抑制することができ、フッ素含有エーテル化合物を含む電解液の分解を抑制することもできる。このメカニズムは明確ではないが、金属酸化物(c)がアモルファス構造であることにより、炭素材料(a)と電解液の界面への皮膜形成に影響があると推定される。また、アモルファス構造は、結晶粒界や欠陥といった不均一性に起因する要素が比較的少ないと考えられる。なお、金属酸化物(c)の全部または一部がアモルファス構造を有することは、エックス線回折測定(一般的なXRD測定)にて確認することができる。具体的には、金属酸化物(c)がアモルファス構造を有しない場合には、金属酸化物(c)に固有のピークが観測されるが、金属酸化物(c)の全部または一部がアモルファス構造を有する場合には、金属酸化物(c)に固有のピークがブロードとなって観測される。
【0068】
金属(b)は、その全部または一部が金属酸化物(c)中に分散していることが好ましい。金属(b)の少なくとも一部を金属酸化物(c)中に分散させることで、負極全体としての体積膨張をより抑制することができ、電解液の分解も抑制することができる。なお、金属(b)の全部または一部が金属酸化物(c)中に分散していることは、透過型電子顕微鏡観察(一般的なTEM観察)とエネルギー分散型X線分光法測定(一般的なEDX測定)を併用することで確認することができる。具体的には、金属粒子(b)を含むサンプルの断面を観察し、金属酸化物(c)中に分散している金属粒子(b)の酸素濃度を測定し、金属粒子(b)を構成している金属が酸化物となっていないことを確認することができる。
【0069】
炭素材料(a)と金属(b)と金属酸化物(c)とを含み、金属酸化物(c)の全部または一部がアモルファス構造であり、金属(b)の全部または一部が金属酸化物(c)中に分散しているような負極活物質は、公知方法で作製することができる。すなわち、金属酸化物(c)をメタンガスなどの有機物ガスを含む雰囲気下でCVD処理を行うことで、金属酸化物(c)中の金属(b)がナノクラスター化し、かつ表面が炭素材料(a)で被覆された複合体を得ることができる。また、炭素材料(a)と金属(b)と金属酸化物(c)とをメカニカルミリングで混合することでも、上記負極活物質を作製することができる。
【0070】
前記負極活物質の総量に対する、炭素材料(a)、金属(b)および金属酸化物(c)の個々の含有割合は特に制限されない。炭素材料(a)は、炭素材料(a)、金属(b)および金属酸化物(c)の合計に対し、2〜50質量%とすることが好ましく、2〜30質量%とすることが好ましい。金属(b)は、炭素材料(a)、金属(b)および金属酸化物(c)の合計に対し、5〜90質量%とすることが好ましく、20〜50質量%とすることが好ましい。金属酸化物(c)は、炭素材料(a)、金属(b)および金属酸化物(c)の合計に対し、5〜90質量%とすることが好ましく、40〜70質量%とすることが好ましい。
【0071】
また、前記負極活物質の総量に対する、炭素材料(a)の含有割合が0%であってもよい。この場合、前記負極物質の総量に対する、金属(b)及び金属酸化物(c)の合計の質量が100質量%となってもよい。さらに、前記負極活物質に代えて、金属(b)又は金属酸化物(c)のみからなる負極材を用いてもよい。
【0072】
炭素材料(a)、金属(b)および金属酸化物(c)の形状は、特に制限されず、例えば、それぞれ粒子状とすることができる。例えば、金属(b)の平均粒子径は、炭素材料(a)の平均粒子径および金属酸化物(c)の平均粒子径よりも小さい構成とすることができる。このようにすれば、充放電時に伴う体積変化の小さい金属(b)が相対的に小粒径となり、体積変化の大きい炭素材料(a)や金属酸化物(c)が相対的に大粒径となるため、デンドライト(dendrite)生成および合金の微粉化がより効果的に抑制される。また、充放電の過程で大粒径の粒子、小粒径の粒子、大粒径の粒子の順にリチウムが吸蔵、放出されることとなり、この点からも、残留応力、残留歪みの発生が抑制される。金属(b)の平均粒子径は、例えば20μm以下とすることができ、15μm以下とすることが好ましい。
【0073】
金属酸化物(c)の平均粒子径が炭素材料(a)の平均粒子径の1/2以下であることが好ましく、金属(b)の平均粒子径が金属酸化物(c)の平均粒子径の1/2以下であることが好ましい。より好ましくは、金属酸化物(c)の平均粒子径が炭素材料(a)の平均粒子径の1/2以下であり、かつ金属(b)の平均粒子径が金属酸化物(c)の平均粒子径の1/2以下である。平均粒子径をこのような範囲に制御すれば、金属および合金相の体積膨脹の緩和効果をより有効に得ることができ、エネルギー密度、サイクル寿命と効率のバランスに優れた二次電池を得ることができる。より具体的には、シリコン酸化物(c)の平均粒子径を黒鉛(a)の平均粒子径の1/2以下とし、シリコン(b)の平均粒子径をシリコン酸化物(c)の平均粒子径の1/2以下とすることが好ましい。さらに具体的には、シリコン(b)の平均粒子径は、例えば20μm以下とすることができ、15μm以下とすることが好ましい。
【0074】
前記負極用結着剤としては、ポリフッ化ビニリデン、ビニリデンフルオライド−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、ビニリデンフルオライド−テトラフルオロエチレン共重合体、スチレン−ブタジエン共重合ゴム、ポリテトラフルオロエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリイミド、ポリアミドイミド等を用いることができる。これらの中でも、ポリイミド又はポリアミドイミドが、結着性が強いため、好ましい。使用する負極用結着剤の量は、トレードオフの関係にある「十分な結着力」と「高エネルギー化」とのバランスを取る観点から、前記負極活物質100質量部に対して、5〜25質量部が好ましい。
【0075】
負極集電体としては、電気化学的な安定性から、例えば、アルミニウム、ニッケル、銅、銀、及びそれらの合金が好ましい。その形状は特に制限されず、例えば、箔、平板状、メッシュ状が挙げられる。
【0076】
負極の作製方法としては、例えば、前記負極集電体上に、前記負極活物質と前記負極用結着剤を含む負極活物質層を形成する方法が挙げられる。負極活物質層は、例えば、ドクターブレード法、ダイコーター法などによって形成することができる。予め負極活物質層を任意の支持体上に形成した後に、蒸着、スパッタ等の方法でアルミニウム、ニッケル、又はそれらの合金の薄膜を前記負極活物質層の上に形成して、この薄膜を負極集電体としてもよい。前記薄膜は、例えば、CVD法、スパッタリング法などによって形成することができる。
【0077】
<正極>
前記正極は、例えば、正極活物質が正極用結着剤によって正極集電体を覆うように結着されてなる。正極活物質は、前記化学式Li
xFe
sM
1(z-s) M
2yO
2-δ で表わされる層状岩塩型構造を有するリチウム鉄マンガン系複合酸化物を含む。
上記以外の正極活物質としては、LiMnO
2、Li
XMn
2O
4(0<x<2)等の層状構造を持つマンガン酸リチウム又はスピネル構造を有するマンガン酸リチウム;LiCoO
2、LiNiO
2又はこれらの遷移金属の一部を他の金属で置き換えたもの;LiNi
1/3Co
1/3Mn
1/3O
2などの特定の遷移金属が半数を超えないリチウム遷移金属酸化物;これらのリチウム遷移金属酸化物において化学量論組成よりもLiを過剰にしたもの等が挙げられる。特に、Li
αNi
βCo
γAl
δO
2(1≦α≦1.2、β+γ+δ=1、β≧0.7、γ≦0.2)またはLi
αNi
βCo
γMn
δO
2(1≦α≦1.2、β+γ+δ=1、β≧0.6、γ≦0.2)が好ましい。正極活物質は、一種を単独で、または二種以上を組み合わせて使用することができる。
【0078】
前記正極用結着剤としては、前記負極用結着剤と同様のものを用いることができる。汎用性や低コストの観点から、ポリフッ化ビニリデンが好ましい。使用する正極用結着剤の量は、トレードオフの関係にある「十分な結着力」と「高エネルギー化」とのバランスを取る観点から、正極活物質100質量部に対して、2〜10質量部が好ましい。
【0079】
前記正極集電体としては、負極集電体と同様のものを用いることができる。
前記正極活物質を含む前記正極活物質層には、インピーダンスを低下させる目的で、導電補助材を添加してもよい。導電補助材としては、例えば、グラファイト、カーボンブラック、アセチレンブラック等の炭素質微粒子が挙げられる。
【0080】
<セパレータ>
前記セパレータとしては、ポリプロピレン、ポリエチレン等の多孔質フィルムや不織布、又はそれらを積層した積層体を用いることができる。
【0081】
<外装体>
前記外装体は、電解液に安定で、かつ十分な水蒸気バリア性を持つものであればよい。
例えば、積層ラミネート型の二次電池の場合、外装体としては、アルミニウム、シリカをコーティングしたポリプロピレン、ポリエチレン等のラミネートフィルムを用いることができる。特に、体積膨張を抑制する観点から、アルミニウムラミネートフィルムを用いることが好ましい。
【実施例】
【0082】
以下、実施例を示して本発明についてさらに詳しく説明する。ただし、本発明は以下に示す実施例に何ら限定されない。
【0083】
[実施例1]
<正極>
層状岩塩型構造を有するリチウム酸化物Li
1.136Fe
0.16Ni
0.151Mn
0.475O
2を92質量%、ケッチェンブラックを4質量%、ポリフッ化ビニリデンを4質量%含むスラリーを、アルミニウム箔(厚み20μm)からなる正極集電体1A上に塗布・乾燥し、厚み175μmからなる正極1を作製した。正極集電体1Aの両面に正極1を塗布し乾燥させた両面電極も同様に作製した。
【0084】
<負極>
平均粒径15μmのSiOを85質量%、ポリアミック酸を15質量%含むスラリーを、銅箔(厚み10μm)からなる負極集電体2A上に塗布・乾燥し、厚み46μmの負極2を作製した。作製した負極は窒素雰囲気下350℃で3時間アニールし、バインダを硬化させた。
【0085】
<電解液>
1,1,2,3,3,3-ヘキサフルオロプロピルジフルオロメチルエーテル(HFPDFME)/フルオロエチレンカーボネート(FEC)/ジエチルカーボネート(DEC)を体積比10/45/45で混合し、そこに1.0Mのヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF
6)を溶解させて電解液を調製した。
【0086】
<リチウムイオン二次電池の作製>
上記方法で作製した正極および負極を成形した後、多孔質のフィルムセパレータを挟んで積層し、Al板からなる正極リードタブ1BおよびNi板からなる負極リードタブ2Bを各々溶接することで電池要素を作製した(
図1参照)。この電池要素をアルミラミネートフィルムからなる外装体4で包み、三方(三辺)を熱融着により封止した後、上記電解液を適度な真空度にて含浸させた。その後、減圧下にて残りの一方(一辺)を熱融着封止し、活性化処理前のリチウムイオン二次電池を作製した。
【0087】
<活性化処理工程>
作製した活性化処理前のリチウムイオン二次電池について、正極活物質1gあたり20 mAの電流で4.5Vまで充電し、同じく正極活物質1gあたり20 mAの電流で1.5Vまで放電するサイクルを2回繰り返した。その後、一旦封口部(封止)を破り、減圧することで電池内部のガスを抜き、再び封止することにより、本発明にかかる実施例1のリチウムイオン二次電池を作製した。
【0088】
[実施例2]
実施例1において使用した、層状岩塩型構造を有するリチウム酸化物Li
1.136Fe
0.16Ni
0.151Mn
0.475O
2を、Li
1.21Fe
0.15Ni
0.15Mn
0.46O
1.99に置き換え、その他は実施例1と同じ方法でリチウムイオン二次電池を作製した。
【0089】
[実施例3]
HFPDFME/FEC/DEC=10/45/45(体積比)の混合溶媒の代わりに、HFPDFME/EC/DEC=10/27/63(体積比)の混合溶媒を用いた以外は、実施例1と同じ方法でリチウムイオン二次電池を作製した。
【0090】
[比較例1]
HFPDFME/FEC/DEC=10/45/45(体積比)の混合溶媒の代わりに、FEC/DEC=50/50(体積比)を用いた以外は、実施例1と同じ方法でリチウムイオン二次電池を作製した。
【0091】
[比較例2]
HFPDFME/FEC/DEC=10/45/45(体積比)の混合溶媒の代わりに、EC/DEC=30/70(体積比)を用いた以外は、実施例1と同じ方法でリチウムイオン二次電池を作製した。
【0092】
[比較例3]
HFPDFME/FEC/DEC=10/45/45(体積比)の混合溶媒の代わりに、FEC/EC/DEC=10/27/63(体積比)を用いた以外は、実施例1と同じ方法でリチウムイオン二次電池を作製した。
【0093】
[比較例4]
HFPDFME/FEC/DEC=10/45/45(体積比)の混合溶媒の代わりに、りん酸トリス(2,2,2-トリフルオロエチル)(TTFEP)/EC/DEC=10/27/63(体積比)を用いた以外は、実施例1と同じ方法でリチウムイオン二次電池を作製した。
【0094】
[比較例5]
HFPDFME/FEC/DEC=10/45/45(体積比)の混合溶媒の代わりに、ヘプタフルオロプロピル-1,2,2,2-テトラフルオロエチルエーテル(HFPTFEE)/EC/DEC=10/27/63(体積比)を用いた以外は、実施例1と同じ方法でリチウムイオン二次電池を作製した。
【0095】
<リチウムイオン二次電池の評価方法>
上記方法で作製したリチウムイオン二次電池を、45℃の恒温槽中、正極活物質1gあたり40mAの定電流で4.5Vまで充電し、さらに正極活物質1gあたり5mAの電流になるまで4.5Vの定電圧で充電を続けた。その後、正極活物質1gあたり5mAの電流で1.5Vまで放電し、初期容量を求めた。さらに初期容量測定後のリチウムイオン電池について、45℃の恒温槽中で、正極活物質1gあたり40mAの定電流で4.5Vまで充電し、さらに正極活物質1gあたり5mAの電流になるまで4.5Vの定電圧で充電を続け、その後、正極活物質1gあたり40mAの電流で1.5Vまで放電する充放電サイクルを30回繰り返した。そして、1サイクル目で得られた初期容量(単位:mAh/g)と30サイクル目で得られた放電容量の比から、30サイクル後の容量維持率(単位:%)を求めた。この結果を表1に示す。
【0096】
【表1】
【0097】
実施例1、2と比較例1の比較から、及び実施例3と比較例2の比較から、電解液に1,1,2,3,3,3-ヘキサフルオロピロピルジフルオロメチルエーテル(HFPDFME)が混合されていることによって、放電時の電圧を4.5Vという従来よりも高い電位に設定して使用した場合においても、高い容量が安定して得られることが分かった。
また、実施例3と比較例3、4の比較から、電解液にフッ素化合物を添加する場合、特に1,1,2,3,3,3-ヘキサフルオロピロピルジフルオロメチルエーテル(HFPDFME)を混合することによって、放電時の電圧を4.5Vという従来よりも高い電位に設定して使用した場合においても、高い容量が安定して得られることが分かった。
【0098】
実施例1と比較例5の比較から、直鎖状のフッ素含有エーテル化合物の中でも、特に1,1,2,3,3,3-ヘキサフルオロピロピルジフルオロメチルエーテル(HFPDFME)を用いることにより、放電時の電圧を4.5Vという従来よりも高い電位に設定して使用した場合においても、高い容量が安定して得られることが分かった。