特許第6575987号(P6575987)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6575987緑藻類培養方法およびアスタキサンチンの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6575987
(24)【登録日】2019年8月30日
(45)【発行日】2019年9月18日
(54)【発明の名称】緑藻類培養方法およびアスタキサンチンの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 1/12 20060101AFI20190909BHJP
   C12P 23/00 20060101ALI20190909BHJP
【FI】
   C12N1/12 A
   C12P23/00
【請求項の数】8
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2014-254953(P2014-254953)
(22)【出願日】2014年12月17日
(65)【公開番号】特開2016-111984(P2016-111984A)
(43)【公開日】2016年6月23日
【審査請求日】2017年9月8日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002004
【氏名又は名称】昭和電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100141139
【弁理士】
【氏名又は名称】及川 周
(74)【代理人】
【識別番号】100163496
【弁理士】
【氏名又は名称】荒 則彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【弁理士】
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(74)【代理人】
【識別番号】100064908
【弁理士】
【氏名又は名称】志賀 正武
(74)【代理人】
【識別番号】100094400
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 三義
(74)【代理人】
【識別番号】100146879
【弁理士】
【氏名又は名称】三國 修
(72)【発明者】
【氏名】橋本 陽子
(72)【発明者】
【氏名】米田 正
【審査官】 池上 文緒
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2014/119792(WO,A1)
【文献】 特開2007−097584(JP,A)
【文献】 特開2003−319795(JP,A)
【文献】 中国特許出願公開第102766578(CN,A)
【文献】 J. Ferment. Bioeng. (1992) vol.74, no.1, p.61-63
【文献】 Enzyme Microb. Technol. (2004) vol.35, issue 1, p.81-86
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 1/12
C12P 23/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
WPIDS/WPIX(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アスタキサンチンを蓄積する緑藻類のレッドステージにおいて、赤色照明光と青色照明光を同時に、3日以上、照射し、かつ前記赤色照明光と前記青色照明光の光合成光量子束密度の合計に対する青色照明光の光合成光量子束密度の割合が20〜80%であり、
前記赤色照明光および前記青色照明光の光源は、LEDである、緑藻類培養方法。
【請求項2】
前記緑藻類の培養を液体培地で行う請求項1に記載の緑藻類培養方法。
【請求項3】
前記赤色照明光および前記青色照明光の光合成光量子密度の合計が、50〜200μmol/m/sである請求項1または2に記載の緑藻類培養方法。
【請求項4】
前記レッドステージが、培地中の窒素濃度が0〜10mg/Lの状態である請求項1〜3のいずれか一項に記載の緑藻類培養方法。
【請求項5】
前記緑藻類が、ヘマトコッカス・プルビアリスまたはヘマトコッカス・ラクストリスである請求項1〜4のいずれか一項記載の緑藻類培養方法。
【請求項6】
前記赤色照射光の波長が570〜730nm、中心波長が645〜680nmである請求項1〜5のいずれか一項に記載の緑藻類培養方法。
【請求項7】
前記青色照明光の波長が400〜515nm、中心波長が440〜460nmである請求項1〜6のいずれか一項に記載の緑藻類培養方法。
【請求項8】
請求項1〜のいずれか一項に記載の緑藻類培養方法によりアスタキサンチンを製造するアスタキサンチンの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、緑藻類培養方法およびこれを用いたアスタキサンチンの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アスタキサンチンは赤色のカロテノイドの一種であり、強力な抗酸化作用を有することが知られている。アスタキサンチンを蓄積する緑藻類としてヘマトコッカス属に属する緑藻類が知られており、かかる藻類は、適切な光照射培養条件化で緑色の遊走細胞として生育する状態(グリーンステージ)と、光環境や栄養枯渇などのストレスにより遊走細胞がシスト細胞へと変化し、著量のアスタキサンチンを細胞内に蓄積する状態(レッドステージ)が存在することが知られている。
【0003】
近年、省エネルギーの観点から、蛍光灯に代わってLEDを使用した培養法への関心が高まってきている。例えば特許文献1には、青色LED光の連続光照射またはパルス光照射が、ヘマトコッカスによるアスタキサンチンの生産を促進することが記載されている。
【0004】
また、赤色LED光と青色LED光を交互に照射すること(特許文献2)や赤色LED光と青色LEDを単独または同時に照射すること(特許文献3、4)により、ヘマトコッカスの遊走細胞における生育を促進することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−147641号公報
【特許文献2】国際公開第2014/119789号
【特許文献3】国際公開第2014/119792号
【特許文献4】国際公開第2014/119794号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、いずれの上記文献にも、赤色照明光と青色照明光を同時に照射して緑藻類のアスタキサンチン蓄積を促進する方法は開示されておらず、知られていなかった。
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、緑藻類に赤色照明光と青色照明光を同時に照射して、低消費電力で高い蓄積濃度のアスタキサンチンを製造することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、人工光の照射による緑藻類のアスタキサンチン蓄積について鋭意検討を行った。その結果、レッドステージにおいて赤色照明光及び青色照明光を同時に照射することで、低消費電力でアスタキサンチン蓄積濃度を増大できることを見出した。また赤色照明光、青色照明光の比、および光照射強度を所定の条件とすることで、アスタキサンチン蓄積濃度が顕著に増大することを見出し、本発明を完成した。
本発明は以下のとおりである。
【0008】
[1]本発明の緑藻類培養方法は、アスタキサンチンを蓄積する緑藻類のレッドステージにおいて、赤色照明光と青色照明光を同時に照射し、かつ前記赤色照明光と前記青色照明光の光合成光量子束密度の合計に対する青色照明光の光合成光量子束密度の割合が20〜80%である。
[2]上記[1]に記載の緑藻類培養方法は、前記緑藻類の培養を液体培地で行ってもよい。
[3]上記[1]または[2]のいずれかに記載の緑藻類培養方法は、前記赤色照明光および前記青色照明光の光合成光量子密度の合計が、50〜200mol/m/sであってもよい。
[4]上記[1]〜[3]のいずれか一つに記載の緑藻類培養方法は、前記レッドステージが、培地中の窒素濃度が0〜10mg/Lの状態であってもよい。
[5]上記[1]〜[4]のいずれか一つに記載の緑藻類培養方法は、前記緑藻類が、ヘマトコッカス・プルビアリスまたはヘマトコッカス・ラクストリスであってもよい。
[6]上記[1]〜[5]のいずれか一つに記載の緑藻類培養方法は、前記赤色照射光の波長が570〜730nm、中心波長が645〜680nmであってもよい。
[7]上記[1]〜[6]のいずれか一つに記載の緑藻類培養方法は、前記青色照明光の波長が400〜515nm、中心波長が440〜460nmであってもよい。
[8]上記[1]〜[5]のいずれか一つに記載の緑藻類培養方法は、前記赤色照明光の光源がLEDであってもよい。
[9]上記[1]〜[6]のいずれか一つに記載の緑藻類培養方法は、前記青色照明光の光源がLEDであってもよい。
[10]本発明のアスタキサンチンの製造方法は、上記[1]〜[9]のいずれか一つに記載の緑藻類培養方法によりアスタキサンチンを製造する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、緑藻類の有用物質生産において、生産性の向上及び消費電力量の削減が可能となる簡便で優れた緑藻類培養方法及びアスタキサンチンの製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施例1〜3、比較例1〜2における青色光比率とカロテノイド蓄積濃度の関係を示す。
図2】実施例4〜11のtotal PPFDとカロテノイド蓄積濃度の関係を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を実施するための好適な形態について説明する。なお、以下に説明する実施形態は、本発明の代表的な実施形態の一例を示したものであり、本発明はそれらに限定されるものではなく、それらにより本発明の範囲が狭く解釈されることはない。
【0012】
本発明の緑藻類培養方法は、アスタキサンチンを蓄積する緑藻類のレッドステージにおいて、赤色照明光と青色照明光を同時に照射し、かつ前記赤色照明光と前記青色照明光の光合成光量子束密度の合計に対する青色照明光の割合が20〜80%であることを特徴とする。
【0013】
(レッドステージ)
レッドステージとは、緑藻類の培養において、遊走細胞が完全にシスト細胞となった段階を示す。この段階では、著量のアスタキサンチンを細胞内に蓄積して培養液が赤色となる。レッドステージは、培地中の窒素濃度が0〜10mg/Lの状態であることが好ましい。
【0014】
レッドステージに対し、緑藻類の培養において培養液が緑色ないし褐色である状態のことをグリーンステージという。これは培地内の細胞が適切な光照射培養条件化で緑色の遊走細胞として生育する状態に該当する。
生育の過程で、光環境や栄養枯渇などのストレスにより遊走細胞がシスト細胞へと変化すると、グリーンステージからレッドステージに移行する。
【0015】
グリーンステージの終盤では、緑色の細胞(遊走細胞の状態を維持している細胞)と赤色の細胞(シスト細胞へと変化した細胞)が混在し、培養液の色が褐色に変化する。本発明では、この段階もグリーンステージであると定義する。やがて遊走細胞は見られなくなり、著量のアスタキサンチンを蓄積するレッドステージに移行する。
【0016】
本発明においては、アスタキサンチンを蓄積する緑藻類のレッドステージにおいて、赤色照明光と青色照明光を同時に照射する。また、レッドステージにおける赤色照明光と青色照明光の光合成光量密度の割合を所定の値に設定することにより、アスタキサンチン蓄積濃度を増大させることができる。すなわち、少なくともレッドステージにおいて赤色照明光と青色照明光を同時に照射する培養を行えばよく、グリーンステージにおける培養方法は限定されない。グリーンステージにおける培養方法としては、太陽光による培養、蛍光灯による培養、赤色照明光と青色照明光を交互に照射する培養、赤色照明光と青色照明光を同時に照射する培養等が挙げられる。
赤色照明光と青色照明光を同時に照射する培養は、グリーンステージの段階から開始してもよいが、培地中の窒素濃度が10mg/L以下になってから開始することが好ましい。窒素濃度は市販の窒素測定キットで測定することができる。窒素は、一般の植物栽培において肥料として用いられるものであり、濃度が10mg/L以下であれば植物にとっては、栄養が枯渇しストレスを感じる。そのため、窒素濃度が10mg/L以下であれば、確実にレッドステージの緑藻類に対して、赤色照明光と青色照明光を同時に照射することができ、より生産性を高めることができる。なお、窒素濃度は、栄養等を与えなければ上昇しない。このため、一度窒素濃度を測定し、10mg/L以下であれば、レッドステージに移行したと判断して赤色照明光と青色照明光を同時に照射する培養を開始することができる。
【0017】
本発明の光の照射条件は、レッドステージにおいて、赤色照明光と青色照明光を同時に照射する。ここで、「同時に照射する」とは、デューティー比を100%未満として瞬間的な非照射時間を設けたり、パルス光を連続的に照射したりするような場合も含む。本発明で許容できる短時間の非照射時間は、最低でも計1時間以内を目安とし、好ましくは計30分以内である。非照射時間が当該範囲であれば、生産効率を最大限とすることができる。ただし、緑藻類の種類等により異なることがあるので、予備実験等により求めることが好ましい。
【0018】
また、赤色照明光と青色照明光を同時に照射するにあたり、赤色照明光と青色照明光の光合成光量子束密度は一定でもよく、任意の時間で明暗を切り替えてもよい。例えば、強い光合成光量子束密度で赤色照明光と青色照明光を16時間同時照射するサイクル、弱い光合成光量子束密度で赤色照明光と青色照明光を8時間同時照射するサイクルを交互に実施する態様も本発明に含まれる。明暗サイクルの時間は特に限定されず、例えば10〜30時間である。
【0019】
(光合成光量子束密度)
本発明においては、培養を液体培地で行うことが好ましい。液体培地であれば、培地と緑藻類の懸濁が容易で高濃度での培養が可能となる。光合成光量子密度(以下、「PPFD」と略記する)は、光照射面における値を示す。
ここで、「光照射面における値」は、PPFDを測定する機器の大きさや培養容器の形状などから、厳格に規定することが困難であるが、光照射面から限りなく近い箇所で測定した値を指す。また、培地を液体培地とする場合は、培養液の液面に限りなく近い箇所(光照射面から限りなく近い箇所)で測定した値を指す。PPFDを測定する機器としては、一般的な光量子計を用いればよい。
【0020】
レッドステージにおける赤色照明光と青色照明光のPPFDの合計に対する青色照明光の割合は、20〜80%であることが好ましく、25〜75%であることがより好ましく、25〜50%であることがさらに好ましい。当該範囲であれば、アスタキサンチンの生成速度が遅くなり過ぎず、生産性を高めることができる。また培養装置の設計上有利であり、省エネルギーでの成長を行うことができ経済的である。
【0021】
ここで、培養装置の設計上有利であるのは、以下の理由による。レッドステージにおける赤色照明光と青色照明光のPPFDの合計に対する青色照明光の割合が100%である場合でも、アスタキサンチンを蓄積することはできる。しかし、青色LEDは赤色LEDより光変換効率が低い。そのため、同一PPFDで比較した場合、青色照射光比率を低くするほど使用エネルギーを低く抑えることができる。すなわち、光照射条件が上記の範囲内とすれば、効率性を高めることができ、経済的である。
【0022】
赤色照射光および青色照射光のPPFDの合計は、好ましくは50〜200μmol/m/s、より好ましくは75〜150μmol/m/s、さらに好ましくは75〜100μmol/m/sである。当該範囲であれば、アスタキサンチンの生成速度が遅くなり過ぎず、かつ強光により細胞が死滅する可能性も低い。
【0023】
(藻類)
本発明に用いられる緑藻類は、アスタキサンチンを蓄積する緑藻類であれば特に制限なく用いることができる。例えば、ヘマトコッカス(Haematococcus)属に属する単細胞緑藻類が好ましく用いられる。
【0024】
好ましい緑藻類としては、ヘマトコッカス・プルビアリス(H.pluvialis)、ヘマトコッカス・ラクストリス(H.lacustris)、ヘマトコッカス・カペンシス(H.capensis)、ヘマトコッカス・ドロエバケンシ(H.droebakensi)、ヘマトコッカス・ジンバブエンシス(H.zimbabwiensis)などが挙げられる。
ヘマトコッカス・プルビアリス(H.pluvialis)としては、UTEX2505株、K0084株などが挙げられる。
ヘマトコッカス・ラクストリス(H.lacustris)としては、NIES144株、ATCC30402株、ATCC30453株、I AM C−302株、I AM C−393株、I AM C−394株、I AM C−339株、UTEX 16株、UTEX294株などが挙げられる。
ヘマトコッカス・カペンシス(H.capensis)としては、UTEX LB1023株などが挙げられる。
ヘマトコッカス・ドロエバケンシ(H.droebakensi)としてはUTEX 55株が挙げられる。
ヘマトコッカス・ジンバブエンシス(H.zimbabwiensis)としては、UTEX LB1758株などが挙げられる。
これらの中でも、ヘマトコッカス・プルビアリス、ヘマトコッカス・ラクストリスが好ましく用いられる。ヘマトコッカス・プルビアリス及びヘマトコッカス・ラクストリスは、アスタキサンチン蓄積量が多く、培養しやすいので好ましい。
【0025】
(波長)
本発明に用いる赤色照明光としては、波長が570〜730nmの光が挙げられ、波長が620〜730nmの光が好適に用いられる。また、645〜680nmの波長を中心波長とする赤色照明光がさらに好適に用いられ、中心波長を660nmとする赤色照明光がさらに好適である。
【0026】
本発明に用いる青色照明光としては、波長が400nm〜515nmの光が挙げられる。また、中心波長を440〜460nmとする青色照明光が好適に用いられ、中心波長を445〜450nmとする青色照明光がさらに好適である。
【0027】
赤色照明光および青色照明光は、上記波長を中心波長として所定の波長域を有するものとすることができる。なお、中心波長とは波長スペクトルにおける極大値である。波長域としては、例えば、青色照明光であれば450±30nm、好ましくは450±20nm、さらに好ましくは450±10nmであり、赤色照明光であれば660±30nm、好ましくは660±20nm、さらに好ましくは660±10nmである。赤色照明光及び青色照明光が当該範囲内であれば、所定の色以外の波長の光が植物に照射されることを抑制することができ、照射する光をより効率的に利用することができる。すなわち、省エネルギーで効率的にアスタキサンチンを製造することができる。
【0028】
(光源)
本発明に用いる、赤色照明光および青色照明光を照射するための光源としては、本発明の各工程を実行可能なものであればその形状や種類を問わず使用できる。
光源には、発光ダイオード(LED)やレーザーダイオード(LD)、SMDタイン光源、赤色半導体素子あるいは青色半導体素子を配列したライン光源やパネル光源等が使用でき、LEDが好ましい。LEDから照射される光は直進性が高く、かつ波長幅を狭くすることができる。そのため、緑藻類への光照射をより効率的に行うことができ、省エネルギーで効率的にアスタキサンチンを製造することができる。
【0029】
(照射時間)
赤色照明光と青色照明光を同時に照射する時間は、本発明の効果が奏される限り、任意に設定できるが、好ましくは3日以上、より好ましくは5〜20日、さらに好ましくは7〜15日である。
【0030】
(培地)
緑藻類の培養に用いる液体培地としては特に制限はなく、一般に、増殖に必要な窒素、微量金属の無機塩(例えば、リン、カリウム、マグネシウム、鉄など)、ビタミン類(例えば、チアミン)などを含む培地を好適に用いることができる。例えば、AF−6培地、BG−11培地、C培地、MBM培地、MDM培地、VT培地(これらの培地組成は独立行政法人国立衛生研究所ホームページの培地リストに記載されている)、などの培地およびこれらの改変培地などを用いることができる。これらの培地は緑藻類の種類や培養の目的に応じて適宜選択することができる。例えば、ヘマトコッカス属に属する緑藻を生育させる目的では、C培地またはBG−11培地およびこれらの改変培地を用いることが好ましい。培地には、上記組成のほか、炭素源、窒素源等の成分を適宜添加してもよい。
【0031】
(培養装置)
緑藻類の培養装置としては、二酸化炭素の供給と光照射が可能な装置であれば、特に形状や大きさの制限はない。例えば、実験室で行う場合には、扁平な培養ビン、三角フラスコ、平底フラスコ、などを用いることができる。パイロットスケールや工業生産スケールで実施する場合は、ガラス製またはプラスチック製の透明容器に、外部または内部から光を照射できる装置を備えた培養槽や、金属容器内に内部から光を照射できる装置を備えた培養槽などを用いることができる。このような培養槽としては、例えば、ジャー型培養槽、チューブ型培養槽、エアドーム型培養槽、中空円筒型培養槽などが用いられる。また、いずれの場合も密閉容器が好ましく用いられる。これらには必要に応じ、攪拌機を設置してもよい。
【0032】
(培養条件)
培養条件には特に制限はなく、一般に緑藻類の培養に用いられる温度、pHなどが用いられる。緑藻類の培養温度は、例えば15〜35℃の一定温度に制御することが好ましく、20〜25℃のうちの一定温度に制御することがより好ましい。培養液のpHは、4〜10に保つことが好ましく、5〜9に保つことがより好ましく、6〜8に保つことがさらに好ましい。
【0033】
炭素源の供給およびpHを制御する目的で、二酸化炭素を供給することが好ましい。二酸化炭素は、通常10〜20v/v%濃度の二酸化炭素を含有する混合空気を培地中または培養槽の上部空間に供給する。例えば、0.2〜2vvmとなるように連続的に流通させることで供給される。あるいは上記混合空気で培養槽の上部空間を置換して密閉し、これを繰り返すことにより間欠的に供給してもよい。二酸化炭素の濃度は緑藻類の生育に応じて適宜濃度を変えたり、流通量を変えたりすることが好ましい。好ましい培養条件の一例としては、例えば温度20℃、pH7で、緑藻類の細胞に光が均一に照射されるように緩やかに撹拌された状態で、10〜20v/v%濃度の二酸化炭素を含有する混合空気を1vvmとなるように連続的に流通させ、緑藻類の生育に応じてpH7を維持するように適宜流通量を変えて供給しながら培養を行う。
【0034】
(アスタキサンチンの製造)
以上の通りに緑藻類を培養し、アスタキサンチンを製造すると、高い蓄積濃度でアスタキサンチンを製造することができる。
【実施例】
【0035】
以下、実施例により本発明の効果をより明らかなものとする。なお、本発明は、以下の実施例に限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲で適宜変更して実施することができる。
なお、本実施例では、ヘマトコッカス・ラクストリスNIES−144株を用いた実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこの実施例に制限されない。
【0036】
(実施例1)
(培地の調整)
BG−11培地の改変培地を調整した。表1に培地組成を示す。
【0037】
【表1】
【0038】
(グリーンステージにおける培養)
1Lの三角フラスコ内の培地にヘマトコッカス・ラクストリスNIES−144株を接種した。光源に3in1LED照明(日本医科器械製、波長 赤:660nm、緑:520nm、青:445nm)を用い、光量子計(システムインスツルメンツ社製)を用いて赤:青=1:1(PPFD合計:30〜50μmol/m/s)になるように調整し、25℃にて培養を行った。pHが6〜8になるように、1〜2v/v%濃度で二酸化炭素を含有するガスを、0.05〜0.2vvmで供給した。
【0039】
(レッドステージにおける培養)
250mL容組織培養フラスコに上記の培養液100mLを移した。光源に3in1LED照明を用い、光量子計を用いてPPFDが培養液の照射面で赤37.5μmol/m/s、青12.5μmol/m/s(すなわち青色光比率25%)になるように調整し、20℃で10日間培養した。光照射は下面から、光源から2cmほど離して行った。
【0040】
なお、二酸化炭素の供給の際は、10〜20v/v%濃度で二酸化炭素を含有するガスを、滅菌フィルタを通してフラスコのヘッドスペースに通気し、十分置換させたのち、ブチルゴム栓をした。サンプリング時に開放した場合、その都度同様の手順でヘッドスペースを置換した。
【0041】
(窒素濃度の測定)
東亜DDK株式会社製のポータブル簡易全窒素・全リン計(TNP−10)、TNP−10ヒータ(TNP−HT)、全窒素測定試薬キット(143C191)を使用して、培地中の窒素濃度を測定した。
以下に示す実施例1〜3、比較例1〜2においては、前述の「グリーンステージにおける培養」を14日間行った後の窒素濃度が1.5mg/Lであった。このため、この時点でレッドステージに移行したと判断し、前述の「レッドステージにおける培養」を開始した。
また、実施例4〜11においては、前述の「グリーンステージにおける培養」を16日間行った後の窒素濃度が6.55mg/Lであった。このため、この時点でレッドステージに移行したと判断し、前述の「レッドステージにおける培養」を開始した。
【0042】
(総カロテノイド濃度の測定)
まず、試料を0.5mL採取し、ビーズビーター専用のジルコニアビーズ入りミクロチューブに採った。そこにアセトンを加え、細胞破砕機で破砕した。破砕後、試料を遠心分離により上清と沈殿に分け、上清(すなわち、アセトン画分)を回収した。回収したアセトン画分をアセトンで希釈し、474nmにおける吸光度を測定し、以下の式から培養液中の総カロテノイド濃度を求めた。
総カロテノイド濃度(g/L)=吸光度(474nm)×希釈倍率/210
なお、以下の実施例で使用するヘマトコッカス・ラクストリスが生産する総カロテノイドは、ほとんどがアスタキサンチンである。そのため、総カロテノイドの測定方法がアスタキサンチンの測定としても適用する。
【0043】
(実施例2〜3、比較例1〜2)
実施例2〜3及び比較例1〜2としてレッドステージにおける光の照射条件を以下のように変更した。その他の条件は実施例1と同様に培養を行った。
実施例2:赤25μmol/m/s、青25μmol/m/s(すなわち青色光比率50%)
実施例3:赤12.5μmol/m/s、青37.5μmol/m/s(すなわち青色光比率75%)
比較例1:50μmol/m/s(すなわち青色光比率0%)
比較例2:青50μmol/m/s(すなわち青色光比率100%)
【0044】
(実施例4〜11)
実施例4〜11としてレッドステージにおける光の照射条件を以下のように変更した。その他の条件は実施例1と同様に培養を行った。
実施例4:赤25μmol/m/s、青25μmol/m/s(すなわちtotal PPFD50μmol/m/s)
実施例5:赤37.5μmol/m/s、青37.5μμmol/m/s(すなわちtotal PPFD75μmol/m/s)
実施例6:赤50μmol/m/s、青50μmol/m/s(すなわちtotal PPFD100μmol/m/s)
実施例7:赤75μmol/m/s、青75μmol/m/s(すなわちtotal PPFD150μmol/m/s)
実施例8:赤100μmol/m/s、青100μmol/m/s(すなわちtotal PPFD200μmol/m/s)
実施例9:赤5μmol/m/s、青5μmol/m/s(すなわちtotal PPFD10μmol/m/s)
実施例10:赤12.5μmol/m/s、青12.5μmol/m/s(すなわちtotal PPFD25μmol/m/s)
実施例11:赤125μmol/m/s、青125μmol/m/s(すなわちtotal PPFD250μmol/m/s)
【0045】
各種条件および結果を表2にまとめて示す。実施例1〜3、比較例1〜2の青色光比率とカロテノイド蓄積濃度の関係を図1に、実施例4〜11のtotal PPFDとカロテノイド蓄積濃度の関係を図2に示す。
【0046】
【表2】
【0047】
青色光比率が0%では、その他の比率より総カロテノイド蓄積濃度が顕著に低かった。青色光比率25%以上では顕著な差は見られなかった。また、青色光比率が100%では、カロテノイド蓄積濃度は高いものの、消費電力あたりのカロテノイド蓄積濃度が低い値を示した。このため、青色光比率として0%、100%は好ましくないことを確認した。
また、total PPFDが大きくなるにつれ、カロテノイド蓄積濃度が高くなり、PPFD50μmol/m/s付近で頭打ちとなった。PPFD250μmol/m/sでは、PPFD75μmol/m/sの時の値よりカロテノイド蓄積濃度が15%程度低い値であった。さらに、total PPFDが250μmol/m/sの場合、消費電力あたりのカロテノイド蓄積濃度が低い値を示すことがわかった。
よって、total PPFDとして好ましい値は50〜200μmol/m/sであることがわかった。
図1
図2