特許第6575992号(P6575992)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6575992電気化学測定用電極、分析装置及び分析方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6575992
(24)【登録日】2019年8月30日
(45)【発行日】2019年9月18日
(54)【発明の名称】電気化学測定用電極、分析装置及び分析方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/30 20060101AFI20190909BHJP
【FI】
   G01N27/30 B
【請求項の数】6
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2015-98576(P2015-98576)
(22)【出願日】2015年5月13日
(65)【公開番号】特開2016-212067(P2016-212067A)
(43)【公開日】2016年12月15日
【審査請求日】2018年2月2日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002004
【氏名又は名称】昭和電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100141139
【弁理士】
【氏名又は名称】及川 周
(74)【代理人】
【識別番号】100163496
【弁理士】
【氏名又は名称】荒 則彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【弁理士】
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(74)【代理人】
【識別番号】100064908
【弁理士】
【氏名又は名称】志賀 正武
(74)【代理人】
【識別番号】100094400
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 三義
(74)【代理人】
【識別番号】100146879
【弁理士】
【氏名又は名称】三國 修
(72)【発明者】
【氏名】門田 隆二
(72)【発明者】
【氏名】塙 健三
【審査官】 大瀧 真理
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−019120(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2013/0180852(US,A1)
【文献】 特開2006−317360(JP,A)
【文献】 Zelin Dong et al.,Carbon nanotube-nanopipe composite vertical arrays for enhanced electrochemical capacitance,Carbon,2013年,Vol.64,pp.507-515
【文献】 X. Sun et al.,3D carbon nanotube network based on a hierarchical structure grown on carbon paper backing,Chemical Physics Letters,2004年,Vol.394,pp.266-270
【文献】 関山沙織 他,多層カーボンナノチューブ分散Nafion膜修飾グラッシーカーボン電極と疎水性陽イオン界面活性剤を用いる17β-エストラジオールの濃縮ボルタンメトリー,分析化学,2008年,Vol.57, No.8,pp.613-618
【文献】 Yanli Yao, Kwok-Keung Shiu,Electron-transfer properties of different carbon nanotube materials, and their use in glucose biosensor,Analytical and Bioanalytical Chemistry,2007年,Vol.387,pp.303-309
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/26 − 37/49
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均直径100nm以上の第1のカーボンナノチューブと平均直径30nm以下の第2のカーボンナノチューブとを含み、前記第1のカーボンナノチューブの表面に前記第2のカーボンナノチューブが付着し、前記第2のカーボンナノチューブが、複数の前記第1のカーボンナノチューブ間に跨った構造を有し、
任意の100本の前記第2のカーボンナノチューブを観察したとき、10本以上の前記第2のカーボンナノチューブが複数の前記第1のカーボンナノチューブ間を跨った構造が確認される、電気化学測定用電極。
【請求項2】
前記第1のカーボンナノチューブ及び前記第2のカーボンナノチューブの表面に水溶性導電性高分子が付着している請求項1に記載の電気化学測定用電極。
【請求項3】
前記水溶性導電性高分子がスルホ基を有する請求項2に記載の電気化学測定用電極。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の電気化学測定用電極を用いた分析装置。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の電気化学測定用電極を電極に用いる分析方法。
【請求項6】
前記分析方法が、ボルタンメトリー分析法、アンペロメトリー分析法、クーロメトリー分析法、サイクリックボルタンメトリー分析法、クロノアンペロメトリー分析法、及び、クロノクーロメトリー分析法から選ばれる少なくとも1種の方法である請求項5に記載の分析方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気化学測定用電極、分析装置及び分析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電気化学測定法は、溶液中のイオンや残留物質等を定量、定性分析する際に用いられる。電気化学測定法では、電池の起電力や電気分解を行った時に流れる電流を測定することにより、溶液中のイオンや残留物質等を測定する。近年、溶液中に所定のイオン及び残留物質の存在をより精密に測定することが求められている。
【0003】
例えば、非特許文献1には、多層カーボンナノチューブを分散させたナフィオン(登録商標)溶液を、グラッシーカーボンの表面にスピンコートした電極が記載されている。17β−エストラジオール(E2)と陽イオン界面活性剤の疎水性部位が吸着することで、電極表面にE2が濃縮され、高感度にE2を測定できることが記載されている。
【0004】
また例えば、非特許文献2には、ポリアクリロニトリル系繊維を原料とするカーボンフェルトを酸化アルミニウムの散布後に焼成することで、カーボンフェルトの比表面積を大きくできることが記載されている。カーボンフェルトの表面積を大きくすることで、高感度なクーロメトリー分析装置を実現している。
【0005】
この他にも例えば特許文献1には、所定の径及び比表面積を有するクーロメトリック型分析装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第2925639号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】関山沙織,倉光秀樹,波多宣子,田口茂;分析化学,Vol.57,No.8,pp.613−618(2008)
【非特許文献2】浜本修,中村幸夫,内山俊一,保母俊行;The Japan Society for Analytical Chemistry,Vol.40,pp.617−622(1991)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1及び非特許文献1,2に記載の電極を用いても、十分に高感度な電気化学測定を行うことができなかった。特許文献1及び非特許文献2に記載の電極は、電極を構成する炭素質材料の繊維径が大きい。そのため、十分な比表面積を得ることができず、十分に高感度な測定を行うことができない。非特許文献1に記載の電極は、多層のカーボンナノチューブを用いているため、炭素質材料の繊維径が小さい。そのため、大きな比表面積を得ることができる。しかしながら、カーボンナノチューブ同士のネットワークを十分に得ることができず、十分な導電性を得ることができない。
【0009】
また特許文献1及び非特許文献1、2に記載の電極は、原則として1回の使用を目的にしており、再利用することを考慮していない。例えば、特許文献1は多孔性黒鉛質炭素成形体のため、再成形等をすることができない。非特許文献1に記載の電極は、カーボンナノチューブがグラッシーカーボンにコートされている。グラッシーカーボンにコートされたカーボンナノチューブは密着強度が弱い。そのため電極として使用した後、剥がれてしまい、複数回の使用に耐えることができない。また非特許文献2に記載の電極は、カーボンフェルトの表面に凹凸を形成し、官能基を導入している。この官能基は電極として使用すると、再度利用することはできない。もし再利用することができたとしても、再度800℃以上で加熱処理し、酸化アルミニウムあるいは硝酸による表面改質を行う等の種々の作業を行う必要があり、簡便に再利用することができない。
【0010】
本発明は上記問題に鑑みてなされたものであり、高感度で、簡便に再利用可能な電気化学測定用電極を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、鋭意検討の結果、2種類のカーボンナノチューブが混在した炭素材料を用いることで、高感度で、再利用可能な電気化学測定用電極を得ることを見出し、発明を完成させた。
【0012】
すなわち、本発明は、上記課題を解決するため、以下の手段を提供する。
【0013】
(1)本発明の一態様に係る電気化学測定用電極は、平均径100nm以上の第1のカーボンナノチューブと平均径30nm以下の第2のカーボンナノチューブとを含み、前記第1のカーボンナノチューブの表面に前記第2のカーボンナノチューブが付着し、前記第2のカーボンナノチューブが、複数の前記第1のカーボンナノチューブ間に跨った構造を有する。
【0014】
(2)上記(1)に記載の電気化学測定用電極において、前記第1のカーボンナノチューブ及び前記第2のカーボンナノチューブの表面に水溶性導電性高分子が付着していてもよい。
【0015】
(3)上記(2)に記載の電気化学測定用電極において、前記水溶性導電性高分子がスルホ基を有してもよい。
【0016】
(4)本発明の一態様に係る分析装置は、上記(1)〜(3)のいずれか一つに記載の電気化学測定用電極を用いる。
【0017】
(5)本発明の一態様に係る分析方法は、上記(1)〜(3)のいずれか一つに記載の電気化学測定用電極を電極に用いる。
【0018】
(6)上記(5)に記載の分析方法において、前記分析方法が、ボルタンメトリー分析法、アンペロメトリー分析法、クーロメトリー分析法、サイクリックボルタンメトリー分析法、クロノアンペロメトリー分析法、及び、クロノクーロメトリー分析法から選ばれる少なくとも1種の方法であってもよい。
【発明の効果】
【0019】
高感度で、再利用可能な電気化学測定用電極を得ることができる。また高感度な分析装置及び分析方法を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の一態様に係る電気化学測定用電極の透過電子顕微鏡写真を示す。
図2】本発明の一態様に係る電気化学測定用電極の斜視模式図である。
図3】電気化学測定用電極の製造方法を説明するための模式図である。
図4】本発明の一態様に係る分析装置の断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明を適用した電気化学測定用電極、分析装置及び分析方法について詳細に説明する。
以下の説明において例示される材質、寸法等は一例であって、本発明はそれらに限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲で適宜変更して実施することが可能である。
【0022】
(電気化学測定用電極)
図1に本発明の一態様に係る電気化学測定用電極の透過電子顕微鏡写真を示す。図2は、本発明の一態様に係る電気化学測定用電極の斜視模式図である。本発明の一態様に係る電気化学測定用電極10は、平均径100nm以上の第1のカーボンナノチューブ1と平均径30nm以下の第2のカーボンナノチューブ2とを含み、第1のカーボンナノチューブ1の表面に第2のカーボンナノチューブ2が付着(接触)することで、第2のカーボンナノチューブ2が複数の第1のカーボンナノチューブ1間に跨った構造を有する。
【0023】
第2のカーボンナノチューブ2が、複数の第1のカーボンナノチューブ1間に跨った構造となることにより、電気化学測定用電極10がその成形過程でバラバラになることなく形を維持することができる。また第2のカーボンナノチューブ2が、第1のカーボンナノチューブ1に跨っていることで、導電性の主となる第1のカーボンナノチューブ1間の空隙を、第2のカーボンナノチューブ2が埋めることができる。すなわち、電気化学測定用電極10は、通常のカーボンナノチューブからなる膜と比較しても、高い強度を有し、高い導電性を有する。そのため、この電気化学測定用電極10は、再利用に耐えることができる。また、上記の跨った構造を有するため、高い通液性を有する。したがって、例えばこの電気化学測定用電極10を用いた分析装置は、高い感度を実現することができるとともに、再利用するための処理を簡便に行うことが出来る。
【0024】
第2のカーボンナノチューブ2は、第1のカーボンナノチューブ1に絡まった構造であることがより好ましい。第1のカーボンナノチューブ1に第2のカーボンナノチューブ2が絡まることにより、電気化学測定用電極10はその強度をより高くすることができる。電気化学測定用電極10の導電性が更に向上し、分析装置の感度をさらに高めることができる。
【0025】
ここで、「跨った構造」とは、例えば、透過電子顕微鏡で電気化学測定用電極10を観察した際に、第1のカーボンナノチューブ1に跨った第2のカーボンナノチューブ2が確認できればよい。例えば任意の100本の第2のカーボンナノチューブ2を観察したとき、好ましくは10本以上、より好ましくはその50本以上の第2のカーボンナノチューブ2が複数の第1のカーボンナノチューブ1間を跨った構造の確認ができればよい。複数カ所を観察して、第2のカーボンナノチューブ2を100本観察するのでも構わない。例えば、10カ所について各々10本の第2のカーボンナノチューブを観察して、合計100本の第2のカーボンナノチューブを観察することにしてもよい。
【0026】
第1のカーボンナノチューブ1は、その平均径が100nm以上であり、好ましくは100〜1000nmであり、より好ましくは100〜300nmである。第2のカーボンナノチューブ2は、その平均径が30nm以下であり、好ましくは1〜30nmであり、より好ましくは5〜20nmである。第1のカーボンナノチューブ1及び第2のカーボンナノチューブ2の繊維長は、いずれも1〜100μmであることが好ましい。
【0027】
第1のカーボンナノチューブ1および第2のカーボンナノチューブ2の大きさが上述の範囲であると、電気化学測定用電極10が強度および導電性を高いレベルで維持することができる。これは、第1のカーボンナノチューブ1が幹となり、第2のカーボンナノチューブ2が、複数の第1のカーボンナノチューブ1間に枝状に懸架されるためである。例えば、第1のカーボンナノチューブ1の平均径が100nm以下であると、幹が不安定となり電気化学測定用電極10の構造に割れが生じる等の問題が生じ、十分な強度を保つことが難しくなる。一方で、第2のカーボンナノチューブ2の平均径が30nm以上であると、枝が剛直になりすぎ撓みにくくなるため、第2のカーボンナノチューブ2が十分に第1のカーボンナノチューブ1に絡まることができず、導電性が悪くなる。
【0028】
第1のカーボンナノチューブ1および第2のカーボンナノチューブ2の平均径は、電子顕微鏡にて100本以上の第1のカーボンナノチューブ1および第2のカーボンナノチューブ2の繊維の直径をそれぞれ測定し、その算術平均値としてそれぞれ求めることができる。
【0029】
第2のカーボンナノチューブ2は、100質量部の第1のカーボンナノチューブ1に対し、好ましくは1〜20質量部、より好ましくは4〜17質量部、さらに好ましくは8〜14質量部含まれる。第2のカーボンナノチューブ2がこの範囲で含まれれば、この電気化学測定用電極10の導電性が向上する。これは、第2のカーボンナノチューブ2がこの範囲で含まれていることで、第1のカーボンナノチューブ1が導電の主として機能し、さらに第2のカーボンナノチューブ2が、それぞれの第1のカーボンナノチューブ1間を電気的に繋ぎ、伝導を効率的にサポートするためと考えられる。
【0030】
電気化学測定用電極10は、水溶性導電性高分子を含むことが好ましい。水溶性高分子は、カーボンナノチューブ(第1のカーボンナノチューブ1及び第2のカーボンナノチューブ2)の表面に吸着し、元来撥水性のカーボンナノチューブの表面を親水化する。カーボンナノチューブの表面が親水化すると、電気化学測定用電極10を溶液に浸した際に、その細部にまで溶液を浸透させることができる。すなわち、電気化学反応に寄与する表面積をより大きくすることができ、電気化学測定用電極10の感度をより高めることができる。親水化は、カーボンナノチューブの表面にOH基、COOH基等を導入しても実現することができる。電気化学測定用電極10の内部まで十分に親水化するという点からは、水溶性導電性高分子を電気化学測定用電極10に含ませることが特に好ましい。
【0031】
水溶性導電性高分子としては、スルホ基を有する導電性高分子が好ましく、ポリイソチアナフテンスルホン酸がより好ましい。水溶性導電性高分子がスルホ基を有すると、自己ドープ型導電性高分子となり安定した導電性を発現することが可能である。またスルホ基は親水性基でもあるため、溶液中で用いる電極として使用する際に、電解質との親和性が高いという利点を有する。中でもイソチアナフテン骨格はベンゼン環を有するためπ電子を持ち、電極を構成するカーボンナノチューブの骨格のπ電子との親和性が高いため、ポリイソチアナフテンスルホン酸がより好ましい。
【0032】
このスルホ基のサルファイドイオンは、より電気化学測定用電極10の検出感度を高めることにも寄与する。例えば、17β−エストラジオール(E2)の検出器に本発明の一態様に係る電気化学測定用電極10を用いた場合を例に説明する。
【0033】
E2の検出を行う際は、試料溶液に疎水性陽イオン界面活性剤を添加した溶液を用いることでその感度を高めることができることが知られている(例えば、非特許文献1)。これは、E2が疎水性陽イオン界面活性剤の疎水性部位と吸着することで、陽イオン界面活性剤と炭素材料との高い吸着性を利用し、E2の検出能を高めることができるためである。このとき、電気化学測定用電極10がサルファイドイオンを有すると、このサルファイドイオンとE2に吸着した陽イオン界面活性剤とが静電的相互作用により吸着する。すなわち、電気化学測定用電極10がサルファイドイオンを有することで、電気化学測定用電極10へのE2の吸着能をより高めることができる。またこの装置の検出感度をより高めることができる。
【0034】
電気化学測定用電極10は、カーボンナノチューブ層のいずれかの面に、導電性基材をさらに有していてもよい。カーボンナノチューブ層とは、前述の第2のカーボンナノチューブが、複数の前記第1のカーボンナノチューブ間に跨った構造体を意味する。カーボンナノチューブのいずれかの面に導電性基材を設けることで電気化学測定用電極10の強度をさらに高めることができる。導電性基材は、導電性を有していればよいが、炭素材料からなるグラッシーカーボン等が特に好ましい。グラッシーカーボンは、硬く緻密で、酸化及び還元方向に電位窓が広いため、電気化学反応に好適に用いることができる。
【0035】
(電気化学測定用電極の製造方法)
電気化学測定用電極の製造方法は、カーボンナノチューブの分散液を作製する工程と、作製した分散液をシート状に加工する工程を有する。
【0036】
カーボンナノチューブの分散液を作製する工程について説明する。平均径100nm以上の第1のカーボンナノチューブと平均径30nm以下の第2のカーボンナノチューブとを用意する。これらは、公知の方法で製造することができる。
【0037】
得られた第1のカーボンナノチューブと第2のカーボンナノチューブを分散液中に分散させる。分散液に用いる溶媒としては、水又は有機溶剤から適宜選択すれば良い。例えば、水、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、プロピルアルコール、ブタノール等のアルコール類;アセトン、メチルエチルケトン、エチルイソブチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類;エチレングリコール、エチレングリコールメチルエーテル、エチレングリコールモノ−n−プロピルエーテル等のエチレングリコール類;プロピレングリコール、プロピレングリコールメチルエーテル、プロピレングリコールエチルエーテル、プロピレングリコールブチルエーテル、プロピレングリコールプロピルエーテル等のプロピレングリコール類;ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等のアミド類;N−メチルピロリドン、 N−エチルピロリドン等のピロリドン類;ジメチルスルオキシド、γ−ブチロラクトン、乳酸メチル、乳酸エチル、β−メトキシイソ酪酸メチル、α−ヒドロキシイソ酪酸メチル等のヒドロキシエステル類等;アニリン、N−メチルアニリン等のアニリン類が挙げられる。特に、併用することのできる導電性高分子を溶かす意味で、水又は含水有機溶剤が好ましい。この分散液は、導電性高分子水溶液であることが好ましい。導電性高分子水溶液を用いることにより、カーボンナノチューブが後述する湿式ジェットミル等による混合の際に、分散しやすくなる。詳細は不明であるが、得られた電気化学測定用電極表面に当該導電性高分子が残留するためか、本発明の材料で構成される電気化学測定用電極はその表面が親水性になりやすい。
【0038】
導電性高分子水溶液中の導電性高分子としては、スルホ基を有する導電性高分子が好ましく、更に繰り返し単位にチオフェン骨格を含む導電性高分子が好ましく、更にイソチアナフテンスルホン酸を含む導電性高分子がより好ましく、ポリイソチアナフテンスルホン酸がより好ましい。
【0039】
加える導電性高分子の量は、以下を考慮して添加すれば良い。例えば、カーボンナノチューブの量に対して、導電性高分子は、0.0001〜50質量%が好ましい。すなわち、導電性高分子は、カーボンナノチューブを親水化するためと分散性を向上させるために十分な量を添加すれば良い。
これは予備実験により確認でき、例えば、親水化に必要な量は、導電性高分子水溶液中にカーボンナノチューブを投入しても、導電性高分子水溶液中の導電性高分子の濃度が大幅に低下しない量を言う。
また分散性の向上に必要な量は、例えば、後述する方法で200μmの厚さになるような電極を作製した際、表面粗さを測定し、導電性高分子を添加しなかったときの算術平均粗さRaの1/5以下になる量である。より好ましくは、1/10以下の量である。
特に、ポリイソチアナフテンスルホン酸は、親水化及び分散性向上に顕著な効果があるため、添加量は極少量で良い。そのため、ポリイソチアナフテンスルホン酸の場合、親水化に必要な量の3倍量添加しておけば、充分分散もできる。
【0040】
カーボンナノチューブは、凝集しやすい。そのため、第1のカーボンナノチューブと第2のカーボンナノチューブを溶媒に分散させる際は、第1のカーボンナノチューブと第2のカーボンナノチューブを加えた溶液にせん断力を加えながら分散させることが好ましい。せん断力を加える方法としては、湿式ジェットミル等が好ましい。湿式ジェットミルとは、溶液に高圧を加えながら、狭い流路を通過させる方法である。この狭い流路を通過する際に、第1及び第2のカーボンナノチューブにせん断力が加わり、分散性を高めることができる。またこの第1及び第2のカーボンナノチューブの分散性の高さは、電気化学測定用電極の強度を高める。分散性が低いと凝集粒が生じ、そこから破損が生じやすくなる。
【0041】
湿式ジェットミルを用いることにより第1のカーボンナノチューブの損傷を抑えつつ、第2のカーボンナノチューブを分散させることができる。混合時の圧力は、好ましくは100MPa以上、より好ましくは150〜250MPaである。当該範囲であれば、より顕著に第1のカーボンナノチューブの損傷を抑えつつ、第2のカーボンナノチューブを分散させることができる。
【0042】
次いで、作製したカーボンナノチューブを含む分散液から電気化学測定用電極を作製する。この工程は大まかには、紙漉きの要領で作製することができる。
例えば、数mm程度の孔を有するステンレスのメッシュ上に、通液性を有する基材を設置する。そして、この基材上に分散液を供給し拡げる。すると、通液性を有する基材及びメッシュの孔部を通過して、溶媒が排出され電気化学測定用電極を得ることができる。このとき基材上に供給された分散液は乾燥機等を用いて、溶媒の除去を手助けしてもよい。この方法は、比較的小さな面積の電極を少量作製する場合、好適である。
【0043】
また量産性の観点からは、図3に示すような手順で作製してもよい。
通液性を有する基材11上に、作製したカーボンナノチューブの分散液31を供給源32から滴下する。次いで、滴下した分散液31を均一な厚さになるように塗工手段33を用いて塗工する。塗工手段33としては、ワイヤーバーコーター、ナイフコーター、エアーナイフコーター、ブレードコーター、リバースロールコーター、ダイコーター等を用いることが出来る。
【0044】
基材11上に塗工された分散液31に含まれる溶媒34は、通液性を有する基材11を通過して、下方から排出される。このとき基材11上に供給された分散液31及び基材11上に設けられた乾燥機35等を用いて、溶媒34の除去を手助けしてもよい。塗工された分散液31から溶媒を除去することで、電気化学測定用電極10を得ることができる。
【0045】
このとき基材上に供給する分散液の量や塗工される分散液の厚みは、得られる電気化学測定用電極10の厚みに対して適宜設定することができる。塗工膜の厚みと得られる電気化学測定用電極との関係を事前に検討しておくことで、所望の厚さの電気化学測定用電極を得ることができる。
【0046】
ここまでは、電気化学測定用電極10を単体で作製する場合について説明した。この他にも、導電性基材上にカーボンナノチューブの分散液を作製する工程で得られた分散液をスピンコート法、キャスティング法、マイクログラビアコート法、グラビアコート法、バーコート法、ロールコート法、ワイアーバーコート法、ディップコート法、スプレーコート法、スクリーン印刷法、フレキソ印刷法、オフセット印刷法、インクジェットプリント法等により塗膜してもよい。その後、乾燥等により塗膜から溶媒を除去し、導電性基材上にカーボンナノチューブ層が形成された電気化学測定用電極10を得ることができる。
【0047】
作製される電極は平坦でも良いし、凹凸や蛇腹の形状をしていても良い。凹凸や蛇腹の電極は、表面積が大きくなり、電極として作用する表面積が増えるため好ましい。このような形状の電極は、基材上で水分を除去した後、さらに水分を除去する際、凹凸や蛇腹の形状を有する型上で、乾燥や加圧を行うことで作製することができる。
【0048】
基材11は、溶媒を透過できるものであることが好ましい。基材11が溶媒を透過できることで、カーボンナノチューブの分散液から、溶媒を容易に除去することができる。基材11としては、例えば、プラスチック系のフィルム、紙等適宜選択することができる。
電気化学測定用電極10として用いる際には、この基材11が密着した状態であってもよい。基材の形状は、その表面に電気化学測定用電極を設けることができればよく、平坦でも良いし、凹凸、蛇腹、針状の形状をしていても良い。
【0049】
基材11は、電気化学測定用電極10の使用態様まで考慮して、選択してもよい。より薄く、より軽量のものが求められる場合は、紙や樹脂フィルム等を用いることが好ましい。非導電性が求められる場合は、ガラス繊維で構成される不織布(ガラスペーパー)、アラミド、ポリエステル、ナイロン、ビニロン、ポリオレフィン、レーヨン等の合成樹脂繊維で構成される不織布を用いることが好ましい。この他、耐酸性が求められる場合は、フッ素樹脂、フッ素系エラストマー、ポリエステル、アクリル樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリイミド、ポリフェニレンサルファイド等を用いた不織布等がより好ましい。耐酸化性が求められる場合は、フッ素樹脂、フッ素系エラストマー、ポリエチレン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリフェニレンサルファイド等を用いた不織布等がより好ましい。耐熱性が求められる場合は、フッ素樹脂、フッ素系エラストマー、ポリエステル、ポリプロピレン、ポリアリレート、ポリエーテルエーテルケトン、ポリイミド、ポリフェニレンサルファイド等を用いた不織布、難燃フィルム、難燃紙等が好ましい。耐アルカリ性が求められる場合は、アラミドの樹脂繊維で構成される不織布が好ましい。電池に用いる場合は、耐酸性、耐酸化性等が求められることが多い。
なお、電気化学測定用電極10として使用する際の基材は、製造段階で用いた基材11と同一であることが好ましいが、必ずしも同一である必要はない。
【0050】
カーボンナノチューブの電極を親水化する方法として、水溶性導電性高分子の例を説明したが、親水化の方法はこの方法に限られない。例えば、カーボンナノチューブの電極をフッ素ガスと酸素ガスの共存下で加熱処理することにより親水化してもよい。その他、公知の方法で親水化してもよい。
【0051】
電気化学測定用電極の成形に際して、成形しやすくするために適当な構造体を同時に用いてもよい。例えば、電気化学測定用電極を成形する際に、好ましくは導電性の繊維、より好ましくは炭素繊維と共に成形してもよい。その他、電極材料と共に、適宜、触媒金属、バインダー等の添加物を用いて成形してもよい。
【0052】
(電気化学測定用電極の再利用性)
本発明の一態様に係る電気化学測定用電極は再利用可能である。特に電気化学測定用電極が破損しても容易に再利用可能である。以下、再利用の手順について説明する。
【0053】
まず、使用済みの電気化学測定用電極を分析装置から取り外す。そして取り外した電気化学測定用電極の表面状態を目視で確認する。目視で確認した際に、ひび等が見られない場合とひび等の破損が確認できる場合がある。この状態により、再利用の手順を変更する。ひび等が見られない場合を第1の手順、ひび等の破損が確認できる場合を第2の手順として以下に説明する。
【0054】
第1の手順について説明する。第1の手順の場合、ひび等が確認されないため、形状を保ったまま再利用することができる。再利用の手順としては、水で洗浄するだけで良い。または必要に応じて有機溶剤、例えばアルコール類(例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール等)でも洗浄することができる。より具体的には、分析装置から取り外した電気化学測定用電極を一旦乾燥させる。乾燥した電気化学測定用電極を濾過機に設置する。電極が破損する恐れのある場合は、所定の型枠を濾過機に設置し、その上に電極を置いて洗浄すると良い。そして、水を徐々に加えて電気化学測定用電極に水を吸収させる。その後、水を吸収した電気化学測定用電極から再度濾過機により水を吸引する。必要に応じて、電気化学測定用電極に圧力を加えたり、乾燥機を用いて残存した水を除去しても良い。また洗浄した電極は、電極に用いる電解液で置換しておいても良い。本発明の電極は、親水性に優れるため、容易に洗浄できる。また通液性が高く、離水性に優れるため、簡便に水の除去ができる。
【0055】
このような手順を行うことで、電気化学測定用電極に付着した測定対象等を除去することができる。例えば、従来のカーボンフェルトやカーボンナノチューブ等からなる電極でも、この手順により再利用を行うことはできる。しかしながら、従来のカーボンフェルトやカーボンナノチューブ等からなる電極は、強度が十分では無い。つまり、作業中に破損が生じる恐れがあり、作業効率を高めることができない。また十分な洗浄を行うことができず、測定感度を維持することが難しい。そのため、1度使った電極は再利用しないことが一般的である。これに対し、本発明の一態様に係る電気化学測定用電極は、2種類のカーボンナノチューブが互いに懸架することにより高い強度を有する。そのため、効率的に電気化学測定用電極を再利用することができる。また、本発明の一態様に係る電気化学測定用電極は親水性に優れるため水を通液するだけで簡単に洗浄が可能である。これに対し従来の炭素質材料の電極は親水性に劣るため、同様にしても容易に洗浄できない。
【0056】
次いで、第2の手順について説明する。破損が生じている場合は、一度カーボンナノチューブが切断されない程度の力で解砕する。例えば、水または有機溶剤を加えて回転粉砕機等を用いることにより、カーボンナノチューブが切断されずに、大まかに解砕することができる。解砕は、カーボンナノチューブの塊の最大粒径が、乾燥状態の電極の厚みの1/5以下になるまで行う。解砕後に残った大きな塊は、濾過等によって除去しても良い。その後、解砕した電気化学測定用電極は、所定の型枠を有する濾過機に設置する。その後、水、必要に応じて有機溶剤、例えばアルコール類(例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール等)を用いて洗浄すると共に、濾過機により水及び有機溶剤を吸引する。必要に応じて、電気化学測定用電極に圧力を加えたり、乾燥機を用いて残存した水及び有機溶剤を除去しても良い。また洗浄した電極は、電極に用いる電解液で置換しておいても良い。
【0057】
また上記の回転粉砕機に加えて高速回転粉砕機を用いて、より細かく解砕してもよい。また解砕後に得られた溶液を再度液相ジェットミル等にかけて分散液にしてもよい。この分散液は、製造工程における分散液中の分散液に相当する状態である。
【0058】
このような手順を行うことで、破損していても電気化学測定用電極を再利用することができる。近年の高感度な検出器用の電極では、この再利用工程を行うことが非常に難しい。例えば、非特許文献1の電極の場合は、カーボンナノチューブ表面にナフィオン(登録商標)が付着している。一度解砕すると、このナフィオン(登録商標)とカーボンナノチューブの関係性を元に戻すことが難しい。また非特許文献2の電極の場合は、カーボンフェルトの表面を凹凸にしている。そのため解砕すると、この凹凸によりさらにカーボンフェルトの各繊維が破損することが考えられる。また解砕後のカーボンフェルトを、もとの凹凸形状を有する状態に戻すことが難しい。本発明の一態様に係る電気化学測定用電極は、2種類のカーボンナノチューブは加工が施されていない。そのため、これらの絡まりを水等により解き、再度濾過により結合させるだけで、再利用前の電気化学測定用電極と同等の性能を再現することができる。
【0059】
本発明の一態様に係る電気化学測定用電極は、水及びアルコールによる洗浄の他、硫酸、硝酸、塩酸、王水等の強酸で洗浄しても良い。さらに100℃〜800℃で焼成しても良い。特に400℃以上の高温で焼成する場合は、窒素ガス等の不活性ガス気流中で行うことが好ましい。
【0060】
本発明の一態様に係る電気化学測定用電極は、高い導電性と、広い比表面積を有するため、電気化学測定法において高感度なセンサーとして機能することができる。また本発明の一態様に係る電気化学測定用電極は高い強度を有するため、破損し難く再利用しやすい。
【0061】
(分析装置及び分析方法)
本発明の一態様に係る電気化学測定用電極は、電極表面で起きる電気化学反応に対応した電気量を測定する分析装置に用いることができる。分析装置は少なくとも電極と計測部から構成される。
分析装置を用いた測定方法には、被測定試料と電極の関係から、個別に準備した被測定試料に電極を挿入して測定するバッチ方式、連続的に流れている試料に電極を挿入して測定する連続測定方式がある。
【0062】
分析装置に用いる電極は、その用途に合わせてその表面に、各種の修飾を施すことができる。例えば、導電性高分子(例えばナフィオン(登録商標)など)で修飾した電極、金属(例えば金、チタンなど)で修飾した電極、生体由来材料(酵素、抗体、細胞、DNA等)を固定化したバイオセンサー電極を挙げることができる。
【0063】
分析装置は、分析機器として独立した系を構成しても良いし、電極をプロセス中の監視箇所に設置して、計測部にてその情報の演算、蓄積、表示するプロセス監視装置又はその情報に基づくプロセス運転条件を制御するプロセス制御装置を構成しても良い。対象プロセスとしては、化学工業製品製造プロセス、食品製造プロセス、環境対策処理プロセス、医学・生物学的状態管理プロセス、製品品質管理プロセスなどを挙げることができる。
【0064】
以下、図4を基に、具体的な分析装置について説明する。図4は、本発明の一態様に係る分析装置100の断面模式図である。分析装置100は、セル101内に設けられた作用電極102と、対極103と、参照電極104と、これらからの情報を処理する計測部105とを有する。セル内には溶液106が貯留されている。本発明の一態様に係る電気化学測定用電極10は、作用電極102として用いることができる。対極103及び参照電極104には、公知のものを用いることができる。
【0065】
計測部105による計測方法は、電圧制御のボルタンメトリー分析法でも、電流制御のアンペロメトリー分析法でも、クーロン量制御のクーロメトリー分析法でもよい。その他公知の方法を採用する事ができる。例えば、サイクリックボルタンメトリー分析法、クロノアンペロメトリー分析法、クロノクーロメトリー分析法等を用いることができる。
また図4ではセル内に測定対象溶液を貯留するバッチ式の分析装置を図示したが、測定対象溶液が流動するフロー式の分析装置の作用電極として用いることもできる。
【0066】
本発明の一態様に係る分析装置100は、電気化学測定用電極10により高感度なセンサーとして機能できる。
【0067】
以上、本発明の好ましい実施の形態について詳述したが、本発明は特定の実施の形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲内に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【実施例】
【0068】
以下、本発明の実施例について説明する。なお、本発明は以下の実施例のみに限定されるものではない。
【0069】
(実施例1−1)
第1のカーボンナノチューブとして昭和電工製VGCF(登録商標)−H(平均直径150nm、平均繊維長10μm)900gを用い、第2のカーボンナノチューブとして昭和電工製VGCF(登録商標)−X(平均直径15nm、平均繊維長3μm)100gを用いた。この両者を純水50リットルにポリイソチアナフテンスルホン酸0.5gを溶解した溶液に入れて、ミキサー(IKA社製 ULTRA−TURRAX UTC 80)を用いて予備的に混合した。
【0070】
得られた混合物を湿式ジェットミル(スギノマシン社製StarBurst HJP−25005)を用いて圧力200MPaで処理した。得られた分散液に構造体としてカーボン繊維(ドナカーボ・チョップS−232、大阪ガス社製)を100g添加して、再び湿式ジェットミル(ULTRA−TURRAX UTC 80)を用いて混合した。
【0071】
カーボン繊維を混合したこの分散液を3リットル用いて、横210mm、縦300mmの長方形の濾過機に流し込み、吸引濾過してケーキを作製した。得られたケーキに総荷重20トンをかけて圧縮してから、重しを載せて200℃の乾燥器に入れて乾燥させた。乾燥したケーキの厚さは5mmで総重量は56gであった。乾燥したケーキを50mm ×50mmの大きさに切りだし、電気化学測定用電極とした。
【0072】
(実施例1−2)
ポリイソチアナフテンスルホン酸15gを溶解したこと、およびカーボン繊維を添加しなかったことを除いて、実施例1−1と同じ条件で電気化学測定用電極を作製した。
【0073】
(実施例1−3)
第1のカーボンナノチューブとして平均直径100nmのカーボンナノチューブ900gを用いたことを除いて、実施例1−1と同じ条件で電気化学測定用電極を作製した。
【0074】
(実施例1−4)
第2のカーボンナノチューブとして平均直径30nmのカーボンナノチューブ100gを用いたことを除いて、実施例1−1と同じ条件で電気化学測定用電極を作製した。
【0075】
実施例1−1〜1−4のいずれの電極用部材も透過電子顕微鏡により観察したところ、実施例1−1と同様に第2のカーボンナノチューブが複数の第1のカーボンナノチューブ間に跨った構造を有することが確認された。実施例1−1では、合計100本の第2のカーボンナノチューブを観察した結果、72本の第2のカーボンナノチューブが複数の第1のカーボンナノチューブ間を跨った構造をしていた。
【0076】
(比較例1−1)
実施例1−1において、第2のカーボンナノチューブを1000g用い、第1のカーボンナノチューブを用いなかったことを除き、同様に電極材料の作製を試みた。第2のカーボンナノチューブは湿式ジェットミルを通したのち、濾過機に流し込んで、同様な方法で乾燥させた。しかし、乾燥収縮でバラバラになってしまい、50mm×50mmの試験片を取れなかった。そのため、その後の工程に進むことができなかった。これは、湿式ジェットミルとともに、第1のカーボンナノチューブも第2のカーボンナノチューブの分散に寄与しているものと考えられる。
【0077】
(比較例1−2)
実施例1−1において、第1のカーボンナノチューブを1000g用い、第2のカーボンナノチューブを用いなかったことを除き、同様に電気化学測定用電極を作製した。実施例1−1とおなじ濾過機に分散液を流し込んで、同様に乾燥させて取り出したところ、数本大きな割れが発生してしまった。割れた切れ端の大きいところを選んで、50mm×50mmを切り出し、電気化学測定用電極とした。
【0078】
(比較例1−3)
第1のカーボンナノチューブとして平均直径80nmのカーボンナノチューブ900gを用いたことを除いて、実施例1−1と同じ条件で濾過機に分散液を流し込んで、同様に乾燥させて取り出した。圧縮されたケーキ全体に大きな割れが複数発生し、50mm×50mmの試験片を取れなかったので、その後の工程に進めなかった。
【0079】
(比較例1−4)
第2のカーボンナノチューブとして平均直径80nmのカーボンナノチューブ100gを用いたことを除いて、実施例1−1と同じ条件で濾過機に分散液を流し込んで、同様に乾燥させて取り出した。圧縮されたケーキは、乾燥収縮でバラバラになってしまい、50mm×50mmの試片を取れなかったので、その後の工程に進めなかった。
【0080】
(比較例1−5)
ミキサーを用いた予備混合後の湿式ジェットミル(スギノマシン社製StarBurst HJP−25005)による処理、およびカーボン繊維添加後の湿式ジェットミル(ULTRA−TURRAX UTC 80)による混合のいずれも行わなかったことを除いて、実施例1と同じ条件で濾過機に分散液を流し込んで、同様に乾燥させて取り出した。圧縮されたケーキは、乾燥収縮でバラバラになってしまった。
【0081】
比較例1−1〜1−5において、バラバラになった小片を透過電子顕微鏡により観察した。この結果、第2のカーボンナノチューブが、複数の第1のカーボンナノチューブに跨った構造は観察されなかった。
【0082】
実施例1−1〜1−4及び比較例1−2で作製した電気化学測定用電極を用いて再現性試験を行った。比較例1−1、1−3〜1−5は、電気化学測定用電極を作製することができなかったため、試験を行うことができなかった。
再現性試験は、実施例1−1〜1−4及び比較例1−2の電気化学測定用電極のそれぞれについて、100サイクル行った。装置への装着、測定、装置からの取外し、洗浄乾燥、再度装置への装着を1サイクルとした。洗浄は取り出した電極を濾過機に設置し、水、エタノールで洗浄した後、再度水を通液させたことにより行った。その後、洗浄した電極を80℃の乾燥機に30分入れて乾燥し、再度装置へ装着した。試験は、外観検査と測定結果の比較試験を行った。外観検査は、洗浄乾燥後、装置への再装着前に行った。測定結果の比較試験は、クーロメトリー法、ボルタンメトリー法の2方法でそれぞれ行った。
【0083】
実施例1−1〜1−4の電気化学測定用電極は、100回のサイクル全てで測定結果に再現性が確認された。また外観検査の結果、ひび、破損等の欠陥は見られなかった。
これに対し、比較例1−2の電気化学測定用電極は、再現性が悪かった。また外観検査の結果、電気化学測定用電極表面に擦れ傷等が確認された。
【符号の説明】
【0084】
1…第1のカーボンナノチューブ、2…第2のカーボンナノチューブ、10…電気化学測定用電極、11…基材、31…分散液、32…供給源、33…塗工手段、34…溶媒、35…乾燥機、100…分析装置、101…セル、102…作用電極、103…対極、104…参照電極、105…計測部、106…溶液
図1
図2
図3
図4