【実施例】
【0109】
実験
【0110】
下記デバイスでは、それぞれ、fac−トリス[3−(2,6−ジメチルフェニル)−7−メチルイミダゾ[1,2−f]フェナントリジン]イリジウム(III)(「Ir(dmp)
3」)及び4,4’−ビス(3−メチルカルバゾール−9−イル)−2,2’−ビフェニル(MCBP)の青色ドーパント/ホストの組み合わせを用いた(Giebink,N.C.,D’Andrade,B.W.,Weaver,M.S.,Mackenzie,P.B.,Brown,J.J.,Thompson,M.E.& Forrest,S.R.Intrinsic luminance loss in phosphorescent small−molecule organic light emitting devices due to bimolecular annihilation reactions,J.Appl.Phys.103(2008)に既に報告されている)。
【0111】
比較デバイスD1は、アノードとしての120nmのITOと、正孔注入層(「HIL」)としての10nmのトリス(2−フェニルピリジン)イリジウム(「Ir(ppy)
3」)と、正孔輸送層(「HTL」)としての20nmの4,4’−ビス[N−(1−ナフチル)−N−フェニル−アミノ]−ビフェニル(NPD)と、発光層(「EML」)としての、体積濃度15%でMCBPに均一にドーピングされた40nmの青色発光ドーパントIr(dmp)
3と、正孔ブロック層(「HBL」)としての5nmのMCBP(ETLの一部とみなすこともできる)と、電子輸送層(「ETL」)としての25nmのトリス(8−ヒドロキシキノリン)アルミニウム(「Alq
3」)と、カソードとしての1nmのLiF及び100nmのアルミニウムとからなる。
【0112】
本発明のデバイスD2は、アノードとしての120nmのITOと、HILとしての10nmのIr(ppy)
3と、EMLとしての、体積濃度15体積%でMCBPに均一にドーピングされた50nmの青色発光ドーパントIr(dmp)
3と、HBLとしての5nmのMCBPと、ETLとしての25nmのAlq
3と、カソードとしての1nmのLiF及び100nmのアルミニウムとからなる。
【0113】
本発明のデバイスD3、D4、及びD5は、アノードとしての120nmのITOと、HILとしての10nmのIr(ppy)
3と、EMLとしての、体積濃度15%でMCBPに均一にドーピングされた50nmの青色発光ドーパントIr(dmp)
3と、HBLとしての5nmのMCBPと、ETLとしての25nmのAlq
3と、カソードとしての1nmのLiF及び100nmのアルミニウムとからなる。D3のEMLでは、Ir(dmp)
3は、18体積%(アノード近傍)から8体積%(カソード近傍)に位置と共に直線的に変化する濃度勾配でmCBPにドーピングされている。D4のEMLでは、Ir(dmp)
3は、EML/HIL界面における23%からEML/HBL界面における7%に位置と共に直線的に変化する濃度勾配でmCBPにドーピングされている。D5のEMLでは、Ir(dmp)
3は、EML/HIL界面における20%からEML/HBL界面における10%に位置と共に直線的に変化する濃度勾配でmCBPにドーピングされている。
【0114】
本発明のデバイスD6は、アノードとしての120nmのITOと、HILとしての10nmのIr(ppy)
3と、EMLとしての、体積濃度15%でMCBPに均一にドーピングされた60nmの青色発光ドーパントIr(dmp)
3と、HBLとしての5nmのMCBPと、ETLとしての25nmのAlq
3と、カソードとしての1nmのLiF及び100nmのアルミニウムとからなる。D6のEMLでは、EML/HIL界面から出発して、最初の30nmのIr(dmp)
3濃度は15体積%で均一であり、次いで、Ir(dmp)
3濃度3体積%の5nmの層とIr(dmp)
3濃度15体積%の5nmの層との二重層が3つ存在する(合計30nm)ような濃度勾配で、Ir(ppy)
3がmCBPにドーピングされている。
【0115】
本発明のデバイスD7は、アノードとしての120nmのITOと、HILとしての10nmのIr(ppy)
3と、EMLとしての、体積濃度15%でMCBPに均一にドーピングされた60nmの青色発光ドーパントIr(dmp)
3と、HBLとしての5nmのMCBPと、ETLとしての25nmのAlq
3と、カソードとしての1nmのLiF及び100nmのアルミニウムとからなる。D7のEMLでは、EML/HIL界面から出発して、最初の30nmのIr(dmp)
3濃度は15%で均一であり、次いで、以下の通りIr(dmp)
3濃度が徐々に変化する二重層:15%〜3%でIr(dmp)
3濃度が徐々に変化する5nmのIr(dmp)
3層、3%〜15%でIr(dmp)
3濃度が徐々に変化する5nmのIr(dmp)
3層が3対存在するような濃度勾配で、Ir(ppy)
3がmCBPにドーピングされている。
【0116】
第2の比較デバイスD8は、以下の構造を有していた:120nm ITOアノード/10nm ヘキサアザトリフェニレンヘキサカルボニトリル(HATCN)HIL/20nm NPD/40nm MCBP中Ir(dmp)
3/5nm mCBP HBL/ETLとしての30nmのAlq
3/1.5nm 8−ヒドロキシキノリナトリチウム(Liq)/100nmのAlカソード。
【0117】
本発明のデバイスD9は、以下の構造を有していた:120nm ITOアノード/10nm ヘキサアザトリフェニレンヘキサカルボニトリル(HATCN)HIL/50nm EML MCBP中Ir(dmp)
3/5nm MCBP HBL/ETLとしての30nm Alq
3/1.5nm 8−ヒドロキシキノリナトリチウム(Liq)/100nmのAlカソード。
【0118】
本発明のデバイスD10は、以下の構造を有していた:120nm ITOアノード/10nm ヘキサアザトリフェニレンヘキサカルボニトリル(HATCN)HIL/50nm EML Ir(dmp)
3(Ir(dmp)
3は、18%から8%に変化する)/5nm MCBP HBL/ETLとしての30nm Alq
3/1.5nm 8−ヒドロキシキノリナトリチウム(Liq)/100nmのAlカソード。
【0119】
本発明のデバイスD11は、2ユニット積層OLED(SOLED)である。D11の構造は、120nm ITO/10nm HATCN/50nm EML/5nm mCBP/5nmのAlq
3/70nm 2体積%のLiがドーピングされているAlq
3/10nm HATCN/50nm EML/5nm mCBP/25nmのAlq
3/1.5nm Liq/100nmのAlである。
【0120】
バックグラウンド圧が〜5×10
−7トールであるシステムにおいて、ガラス基板上の予め洗浄しておいたITOに、熱蒸発によって薄膜を堆積させた。ピクセルを画定するポリイミド層における開口部によって画定される2mm
2の活性領域を有する、予めパターニングされているITO上でデバイスを成長させ、膜の堆積後に空気に曝露することなしに、酸素及び水濃度が<0.5ppmである超高純度N
2を充填したグローブボックスにパッケージングした。EMLを感知する励起子のためのデバイスは、カソード堆積中に、シャドーマスクによって画定される0.785mm
2の活性領域を有する70nmのITO上で成長させた。
【0121】
Forrest,S.R.,Bradley,D.D.C.& Thompson,M.E.Measuring the efficiency of organic light−emitting devices.Adv.Mater.15,1043−1048(2003)によって報告されている標準的な手順に従って、パラメータアナライザー(HP4145、Hewlett−Packard)及び校正済みフォトダイオード(FDS1010−CAL、Thorlabs製)を用いて、電流密度−電圧−輝度(J−V−L)の特性を測定した。J=10mA/cm
2において、校正済みファイバー結合型分光器(USB4000、Ocean Optics)を用いて発光スペクトルを測定した。定電流源(U2722、Agilent)によって駆動されるPHOLEDを用いて寿命試験を実施し、データロガー(Agilent 34972A)によって電圧及び輝度を記録した。
【0122】
21.2eVのエネルギーを有するHe Iα線からの照明を用いて、超高真空(UHV)分析チャンバにおいて有機膜の紫外光電子スペクトル(UPS)を測定した。
【0123】
EMLにおける電子及び正孔輸送の特性を評価するために、以下の構造:ITO/10nm NPD/60nm EML/10nm NPD/100nmのAlを有する正孔のみ(hO)のデバイスと、以下の構造:ITO/10nmのAlq
3/60nm EML/10nmのAlq
3/1.5nm Liq/100nmのAlを有する電子のみ(eO)のデバイスを作製した。これらデバイスのEMLは、0%(hO0及びeO0)、8%(hO1及びeO1)、13%(hO2及びeO2)、及び18%(hO3,hO3)の体積濃度でIr(dmp)
3がドーピングされたmCBPからなっていた。有機膜の堆積前に、hO0〜hO3については、ITOでコーティングされているガラス基板をUV−オゾンで10分間処理したが、eO0〜eO3は、前処理しなかった。
【0124】
正孔のブロッキング効率を測定し、延いては、D8〜D10における励起子形成領域の形状を決定するために、その相対発光強度からEMLにおける励起子の空間的分布についての情報を得ることができるドーパントであるイリジウム(III)ビス(2−フェニルキノリル−N,C
2’)アセチルアセトネート(PQIr)を用いて、赤色発光「感知」薄層を含む一連の構造体を作製した。ここで、PQIrは、D1〜D3のEMLにおいて5mm離れた異なる位置に2体積%でコドーピングされており、ドーピング層の幅は、1.5nmである。PQIrのHOMO及びLUMOエネルギーは、それぞれ、真空レベルに対して5.0eV及び2.7eVであるので、このドーパントは、EMLに正孔をトラップするとは予測されない(Kanno,H.,Holmes,R.J.,Sun,Y.,Kena Cohen,S.& Forrest,S.R.White Stacked Electrophosphorescent Organic Light Emitting Devices Employing MoO3 as a Charge Generation Layer.Advanced Materials 18,339−342(2006))。また、ドーピング濃度が低く且つ感知層が狭いことから、EMLにおける電荷輸送及び再結合性に大きな影響を与えることはないはずである。これは、感知層を有するデバイスと有しないデバイスとの間でJ−V特性が殆ど同一であることによって確認されている。
【0125】
また、発光層がリン光発光ドーパント化合物と2つのコホストとを含有するデバイスも調製した。前記デバイスは、以下の通りである:
【0126】
D12:Irppy100/NPD200/mCBP:Blue15% 400/mCBP50/Alq250;D13:Irppy100/mCBP:Blue15% 600/mCBP50/Alq250;D14:Irppy100/mCBP(55%):TcTa(30%):Blue(15%)600/mCBP(65%):TcTa(35%)50/Alq250;D15:Irppy100/mCBP(55%):TcTa(30%):Blue(15%)600/mCBP50/Alq250;D16:Irppy100/mCBP(1.1A/s):TcTa(0.6A/s):Blue(0.5A/s−0.15A/s)600/mCBP50/Alq250;及びD17:Irppy100/mCBP(1.7A/s):Blue(0.5A/s−0.15A/s)600/mCBP50/Alq250。
【0127】
図27〜30は、それぞれ、デバイスD12〜D15について、(a)電流密度(mA/cm
2)対電圧(V)のプロット;(b)外部量子効率対電流密度(mA/cm
2)のプロット;(c)経時に伴う電圧変化のプロット;及び(d)効率対時間のプロットを示す。
【0128】
図31〜34は、それぞれ、デバイスD13、D15、D16、及びD17について、(a)電流密度(mA/cm
2)対電圧(V)のプロット;(b)外部量子効率対電流密度(mA/cm
2)のプロット;(c)経時に伴う電圧変化のプロット;及び(d)効率対時間のプロットを示す。
【0129】
結果及び考察
【0130】
図5、7、9、11、13、及び15は、それぞれ、D1に比べてD2、D3、D4、D5、D6、及びD7の外部量子効率(EQE)が改善されていることを示す。
【0131】
図6、8、10、12、14、及び16は、それぞれ、D1に比べてD2、D3、D4、D5、D6、及びD7の動作寿命(即ち、定電流動作モードにおける時間の関数としての効率の減衰)が改善されていることを示す。尚、本明細書では、全てのデバイスを3,000cd/m
2の初期輝度で測定した。したがって、これら測定の動作電流は、D1〜D7について、それぞれ、22.5mA/cm
2、22.8mA/cm
2、21.0mA/cm
2、21.0mA/cm
2、21.1mA/cm
2、20.4mA/cm
2、21.6mA/cm
2である。
【0132】
デバイスの動作寿命が、デバイス効率が初期効率の80%まで低下するのにかかる時間(T80)として定義される場合、D1〜D7の寿命は、それぞれ、10.7時間、20.9時間、27.4時間、31.6時間、37.9時間、33.2時間、及び30.7時間である。劣化加速係数が1.5であると仮定すると、1,000cd/m
2におけるデバイス寿命は、3,000cd/m
2におけるデバイス寿命よりも約5.2倍長くなり得る。
【0133】
2ユニット積層OLED(SOLED)については、2つのEMLを利用しているので、各EMLの輝度は、デバイスD2〜D7の改善された輝度の半分あればよいと予測される(即ち、SOLEDのEQEは、D2〜D7の2倍であると予測される)。したがって、劣化加速係数が1.5であると仮定すると、動作寿命は、以前の改善の2.8倍改善されるはずである。このアプローチとドーピングプロファイルを徐々に変化させることによって得られる最高の寿命改善とを組み合わせると、合計の寿命改善は、対照デバイスの約10倍であると予測される。
【0134】
D2におけるEQE及び寿命がD1に比べて改善される理由は、非放射再結合ではなく、発光を通じて三重項励起子が有効に回収されるためである。NPDは、青色発光ドーパントの三重項エネルギーよりも低い2.3eVの三重項準位を有するので、EML/HTL界面は、三重項励起子を有効に閉じ込めることができず、EQEが低下する。また、NPDにおける非放射三重項崩壊は、HTLにおけるエネルギーの散逸を引き起し、劣化を引き起こす場合がある。また、NPDは、正孔輸送のみの場合でさえも、不安定であることが既に見出されている。
【0135】
D3〜D7におけるEQE及び寿命がD2に比べて改善される理由は、再結合領域が広がったためである。EMLでは、電子及び正孔の輸送のフロンティア軌道準位は、ゲスト分子が正孔トランスポーター及び電子ブロッカーであり、且つホスト分子が電子トランスポーター及び正孔ブロッカーであるような準位である。D3〜D5については、ゲスト濃度を傾斜させることによって、D2のように急なブロック界面に面するのではなく、正孔は、カソードに向かって徐々にブロックされ、電子は、アノードに向かって徐々にブロックされる。D6〜D7については、EMLに反復する高/低ドーピングプロファイルを導入することによって、D2のEML/HBL界面においてブロック界面が1つしか存在しないのとは対照的に、複数の励起子ブロック界面がEML中に存在する。
【0136】
図18a及び18bは、
図17に示すデバイスD8〜D11の電流密度−電圧−輝度(J−V−L)、外部量子効率(EQE)、及び発光スペクトル特性を示す。これらは、表1に要約される。D8のHTLをD9のEMLで置換することにより、予想通り、動作電圧が増大する。また、EMLにおいて傾斜ドーピングプロファイルを使用することによって(D10)、均一なD9と比べて動作電圧が低下する。更に、4つのデバイスの発光スペクトルは全て同等であり、D8及びD9のEQEは、1mA/cm
2超でも殆ど同一である。D10のEQEは、D8及びD9のEQEよりも10%超高い。積層OLEDについて予測される通り、D11は、D3と比べて略2倍の電圧及びEQEを有し(Forrest,S.,Burrows,P.,Shen,Z.,Gu,G.,Bulovic,V.& Thompson,M.,The stacked OLED(SOLED): a new type of organic device for achieving high−resolution full−color displays, Synthetic Metals 91,9−13(1997))、例えば、10mA/cm
2では、D11は、D10の8.5V及び9.3%に対して、電圧17.4V及びEQE=17.2%で動作する。これは、Cho,T.−Y.,Lin,C.−L.& Wu,C.−C.Microcavity two−unit tandem organic light−emitting devices having a high efficiency.Appl.Phys.Lett.88,111106−111106−111103(2006)に報告されている通り、積層素子間の層における電荷発生における非効率性及び積層体内の光学場分布に起因する、積層デバイスにおける僅かであるが測定可能な損失を示す。
【0137】
様々なEMLにおける電荷輸送特性を理解するために、mCBP、Ir(dmp)
3、及びmCBPに堆積しているIr(dmp)
3の薄膜の紫外光電子スペクトル(UPS)を測定した。
図22は、ITO上のmCBP及びIr(dmp)3の厚み50nmの層、及びITO上の50nmのmCBP上の50nmのIr(dmp)
3からのUPSを示す。mCBP及びIr(dmp)
3の最高被占分子軌道エネルギー(HOMO)は、それぞれ、6.0±0.1eV及び4.6±0.1eVである。双極子エネルギーシフトを〜0.4eVであるとみなした後、mCBPにIr(dmp)
3が堆積している場合のmCBP及びIr(dmp)
3のHOMOエネルギーは、
図19に示す通り、それぞれ、6.0eV及び5.0eVである。したがって、十分な高濃度では、ドーパントは、EMLにおける正孔輸送を支持すると予測される。
【0138】
正孔のみのデバイス及び電子のみのデバイスについての電流密度−電圧(J−V)特性を
図23a及び23bに示す。図示する伝導機構は、mCBPにおけるIr(dmp)
3濃度を増大させたときに正孔輸送の改善を示す正孔のみのデバイスのJ−V特性によって確認される。hOデバイスのJsは、Ir(dmp)
3のドーピング濃度が増大するにつれて増大する。これは、EMLにおける正孔輸送がIr(dmp)
3を通じたものであるというUPS結果と一致する。また、電子のみのデバイスの伝導特性は、EMLにおける電子輸送がmCBPのみを通じて生じることを示す。
図23bに示す通り、eOデバイスのJsは、異なるIr(dmp)
3濃度において殆ど同一で維持され、これは、EMLにおける電子輸送がmCBPを通じたものであることを示唆するものである。
【0139】
この構造では、mCBPの最低空分子軌道(LUMO)における電子とIr(dmp)
3 HOMOにおける正孔とが再結合して、エキシプレックスが生じる。PHOLEDの発光は、Ir(dmp)
3のリン光のみであるので、中間エキシプレックス状態は、そのエネルギーをIr(dmp)
3三重項に速やかに移動させる。尚、mCBPにおける電子がIr(dmp)
3における正孔と再結合するときの熱的損失は、mCBP HOMOにおける正孔よりも1.0eV低く、このことは、青色PHOLED及びD8における比較的高い動作安定性に寄与している(これは、Giebinkらによって既に報告されている)。
【0140】
D10の傾斜EMLにおける正孔伝導は、Ir(dmp)
3の濃度増大に起因して、正孔注入層(HIL)/EML界面への距離が減少するにつれて増大する。EML/正孔ブロック層(HBL)界面に向かう反対方向では、正孔伝導は減少するが、電子伝導は、略一定で維持される。したがって、D8及びD9のEML/HBL界面による急な正孔ブロッキングとは対照的に、
図20では、正孔は、D10のEMLにおける正孔伝導性勾配によって徐々にブロックされる。その結果、D10における励起子形成は、
図20に示すD8又はD9と比べて、より長い距離に亘って生じる。
【0141】
EMLにおける励起子密度プロファイルは、「プローブ」デバイスにおける発光スペクトルI(λ)、EQE、及びアウトカップリング係数から計算される。D8〜D10のEMLにおける励起子密度対位置を計算し、結果を
図10に示す(Celebi,K.,Heidel,T.& Baldo,M.,Simplified calculation of dipole energy transport in a multilayer stack using dyadic Green’s functions,Optics Express 15,1762−1772(2007))。図
23a及び23bは、D9で使用されるEMLについて、デバイスから得られた例示的な発光スペクトルを示す。
【0142】
λ=466nmの波長におけるピーク強度(I
B)、及びλ=595nmにおける対照デバイスからの発光強度を前記ピークから減じたもの(I
R)から、式(1)における
【数1】
は、
【数2】
を用いて計算することができる。r(x)を図
24に示す。
【0143】
また、式(1)における他の2つの項、即ち、EQE(x)及びη
R(x)も
図24に示す。尚、図
23bにおけるxの誤差は、〜3nmであるIr(dmp)
3からPQIrまでのForster移動半径を決定することから求められ、
図23bにおけるyの誤差範囲は、EQEの偏差から求められる。
【0144】
図25は、10mA/cm
2における感知デバイスの電圧を示し、大まかに言って、電圧は、PQIrセンサの存在とは無関係であることを示す。したがって、EMLにおける輸送及び再結合特性は、PQIrドーピングによって影響を受けないと予測される。
【0145】
D8(即ち、従来の青色PHOLE)では、EML/HBL界面において励起子が著しく蓄積する。HTLが存在しないD9では、HIL/EML界面における励起子密度が低下するが、それは、対応して正孔が低濃度であることに起因する。しかし、正孔輸送効率の低下により、電子は、EMLに深く浸透するので、HIL/EML界面近傍でピーク励起子密度が生じる。対照的に、D10ではHIL/EML界面近傍における効率的な正孔輸送及びEMLにおける緩やかな正孔ブロッキングにより、D8及びD9に比べて励起子分布がより均一になり、ピーク密度はEMLの中心の近傍である。
図20に示す通り、D10のEMLとD11のEMLとは同一であるので、D11の励起子密度プロファイルは、EQEが略2倍であることから(10mA/cm
2における)D10の励起子密度の53%であると推定される。
【0146】
図21a〜21dは、それぞれ、2つの初期輝度:L
0=3,000cd/m
2及び1,000cd/m
2について、室温及び一定電流密度で試験した、D8、D10、及びD11のL及びVの時間変化を示す。また、
図21a〜21bは、L=3,000cd/m
2で試験したD9について、これらと同じ特性を示す。寿命は、D8からD11へ増加傾向を示す。例えば、L
0=3,000cd/
m2におけるD8〜D11のT80は、それぞれ、11.5時間、24.5時間、39時間、及び106時間であり、
図20の後者の2つのデバイスの励起子形成領域が広がっていることと一致する。更に、L
0=1,000cd/m
2におけるD11のT80は、616±10時間であり、これは、既に研究されている対照であるD8に比べて10倍超改善されていることを示す(Giebink,N.C.,D’Andrade,B.W.,Weaver,M.S.,Mackenzie,P.B.,Brown,J.J.,Thompson,M.E.& Forrest,S.R.,Intrinsic luminance loss in phosphorescent small−molecule organic light emitting devices due to bimolecular annihilation reactions,J.Appl.Phys.103(2008)に報告されている)。D11におけるT50の改善は、T80よりも僅かに有為に少なく、D8からは約7倍増加する。
【0147】
励起子密度プロファイルと動作寿命との定量的な関係を確立するために、Giebinkらに従って時間tの関数としてL及びVをモデル化した。リン光低分子有機発光デバイスにおける固有輝度損失は、二分子消滅反応に起因する。簡潔に述べると、L及びVの低下の理由は、速度k
QにおいてTPAに起因してEMLに欠陥(又はトラップ)が形成されるためである。以下のトラップ二分子相互作用が考えられる:速度k
Qn=1.44×10
−13cm
3s
−1におけるトラップ電子消滅、速度k
Qp=4.8×10
−14cm
3s
−1におけるトラップ正孔消滅、及び速度k
QNにおけるトラップ三重項励起子消滅(Giebink,N.C.,D’Andrade,B.W.,Weaver,M.S.,Mackenzie,P.B.,Brown,J.J.,Thompson,M.E.& Forrest,S.R.Intrinsic luminance loss in phosphorescent small−molecule organic light emitting devices due to bimolecular annihilation reactions.J.Appl.Phys.103(2008))。トラップ形成は、局所励起子密度に依存するので、
図20における密度プロファイルを用いてPHOLED劣化をモデル化した。このモデルは、自由パラメータとしてk
Q及びk
QNを用いてD8〜D11の劣化にフィッティングする(表1)。他の全てのパラメータは、Giebinkらによって報告されているように、この材料の組み合わせについて既に決定されている通りである。
【0148】
堆積中に有機膜に水が混入すると、PHOLEDの堆積バックグラウンド圧がD1と殆ど同一である5×10
−8トール超である場合、初期バーンインを加速させる(Yamamoto,H.,Brooks,J.,Weaver,M.,Brown,J.,Murakami,T.& Murata,H.Improved initial drop in operational lifetime of blue phosphorescent organic light emitting device fabricated under ultra high vacuum condition.Applied Physics Letters 99,033301(2011))。本発明の場合、有機膜をベース圧力5×10
−7トールのシステムで堆積させた。しかし、TPAモデルでは、水の混入等の外因性の効果を無視する。したがって、発明者らによるフィッティングにおけるこの効果を説明するために、t=0を0.95の正規化輝度に対応させ、その初期値からの電圧変化(即ち、ΔV=|V(t=0)−V(t)|)をゼロ以外になるように選択した(方法を参照)。
【0149】
表1から、D8及びD9におけるk
Q及びk
QNは、殆ど同一であり、このことは、D8からD9への動作寿命の改善が、単に、励起子密度プロファイルの変化の結果であることを示唆する。D10では、寿命の著しい延長は、EQEの増大(所与のL
0を達成するためにJを減少させる)及び励起子形成領域の広がりに起因する。尚、TPAモデルは、Wang,Q.& Aziz,H.Degradation of Organic/Organic Interfaces in Organic Light−Emitting Devices due to Polaron−Exciton Interactions.ACS Applied Materials& Interfaces 5,8733−8739(2013)に報告されている通り、薄膜バルクにおける劣化を考慮しているが、界面における劣化は考慮していない。実際、D10のEML/HBL界面における励起子密度が低いことは、この界面における損傷の速度を低下させることによって、観察される寿命延長に寄与することができる。
【0150】
D10及びD11についてL
0=1,000cd/m
2におけるT50を推定するために、TPAモデルのフィッティングから得られる時間を外挿法によって推定する。更に、OLED劣化をモデル化するために使用されることの多い経験的方法は、調整された指数関数的減衰関数:
【数3】
を用いる(Feary,C.,Racine,B.,Vaufrey,D.,Doyeux,H.& Cinae,S.Physical mechanism responsible for the stretched exponential decay behavior of aging organic light−emitting diodes.Applied Physics Letters 87,−(2005))。
【0151】
式中、τ及びβは、現象学的パラメータである。また、このモデルによって、劣化データに対する合理的なフィッティングが行われ(図
21c)、物理学に基づくTPAモデルから得られるものに類似したT50の外挿値が得られる(表1)。これらのフィッティングから、D11についてはL
0=1,000cd/m
2におけるT50は3,500時間であり、これは、Shirota,Y.& Kageyama,H.Charge carrier transporting molecular materials and their applications in devices.Chem.Rev.107,953−1010(2007)によって報告されている、青色蛍光OLEDのT50、〜10
4時間に近付く。尚、D8〜D11は、ライトブルーでしかない(しかし、FIrpicのシアン色よりも飽和している)。しかし、より飽和している青色発光を得るための色調整は、一般的に、マイクロキャビティ及び/又はカラーフィルタの使用を通して蛍光青色ディスプレイサブピクセルにおいて実現される(Bulovic,V.,Khalfin,V.B.,Gu,G.,Burrows,P.E.,Garbuzov,D.Z.& Forrest,S.R.Weak microcavity effects in organic light−emitting devices.Phys.Rev.B 58,3730−3740(1998)及びXiang,C.,Koo,W.,So,F.,Sasabe,H.& Kido,J.,systematic study on efficiency enhancements in phosphorescent green,red and blue microcavity organic light emitting devices,Light:Science& Applications 2,e74(2013))。例えば、厚み70nmのインジウムスズオキシド(ITO)のアノードは、厚み120nmのITO層の[0.16,0.31]に対して、弱いマイクロキャビティ効果により、[0.16,0.26]のCIE座標が得られる(Yamamoto,H.,Brooks,J.,Weaver,M.,Brown,J.,Murakami,T.& Murata,H.,Improved initial drop in operational lifetime of blue phosphorescent organic light emitting device fabricated under ultra high vacuum condition,Applied Physics Letters 99,033301(2011))。
【0152】
また、
図26において厚み120nm及び70nmのITOを含む基板についてD1の発光スペクトルを比較することによって、弱いマイクロキャビティ効果が観察された。長波長における抑制された発光は、したがって70nmITOサンプルにおける改善された青色CIE色座標は、弱いマイクロキャビティ効果に起因するものである。
【0153】
EMLにおける局所励起子密度N(x)は、発光スペクトルや外部量子効率EQE(x)の測定値、及びアウトカップリング係数の計算値η
R(x)(PQIr発光スペクトルのピークに対応する595nmの波長における)から、以下を用いて位置xにおけるPQIr感知層を含むPHOLEDから計算される:
【数4】
【0154】
ここで、Aは、
【数5】
であるような正規化係数であり、
【数6】
は、発光スペクトルの赤色ピークと青色ピークとの比から得られる、Ir(dmp)
3に対するPQIrからのアウトカップリング光子数比である。
【0155】
TPAに起因するトラップ(密度Q(x,t))形成、次いで、密度n(x,t)を有する電子、密度p(x,t)を有する正孔、及び密度N(x,t)を有する励起子との消滅を推定することによって、Giebinkらに従ってL(t)及びV(t)の時間変化をモデル化した:
【数7】
ここで、r=1.7×10
−13cm
3s
−1は、ランジュバン再結合速度であり、τ
N=1.1μsは、三重項の寿命であり、G(x)は、局所再結合速度であり、
【数8】
(式中、eは、電子電荷である。)
を用いて局所励起子密度N(x)から計算される。L
0=1,000cd/m
2における電流密度は、表1に示す通りであり、3,000cd/m
2における電流密度は、それぞれ、D8、D9、D10、及びD11についてJ=21mA/cm
2、21mA/cm
2、17.5mA/cm
2、及び9.1mA/cm
2である。トラップ形成は、
【数9】
を用いてTPAに帰する。
次いで、
【数10】
(式中、Bは、正規化係数であり、η
B(x)は、Ir(dmp)
3について466nmのピーク発光波長におけるアウトカップリング係数の計算値であり、ε=3は、比誘電率であり、ε
0は、真空誘電率である)。デバイス製造中の水の混入の効果を説明するために、L(0)を0.95に正規化し、D8〜D10についてΔV(0)=0.2V(3,000cd/m
2において)及び0.3V(1,000cd/m
2において)であり、D11について0.1V(3,000cd/m
2において)及び0.15V(1,000cd/m
2において)である。
【0156】
本明細書で報告する青色PHOLEDの寿命は、同様の輝度の赤色及び緑色のPHOLEDよりも依然として顕著に短いが、ディスプレイにおける青色サブピクセルは、赤色又は緑色のサブピクセルよりも顕著に低い輝度で動作する。例えば、緑色のsRGB色域を得るために必要な輝度は、青色の輝度の9.9倍である(Stokes,M.,Anderson,M.,Chandrasekar,S.& Motta,R.A standard default color space for the internet−srgb.Microsoft and Hewlett−Packard Joint Report(1996))。したがって、ディスプレイの青色PHOLEDの寿命と緑色PHOLEDの寿命とを比較すると、青色PHOLEDのサブピクセルの輝度は、緑色の〜10%しか必要ないことが示唆される。かかる条件(即ち、100cd/m
2)下では、TPAモデルは、青色PHOLEDの寿命が70,000時間であると推定する。また、輝度を寿命に関連付ける劣化促進係数、即ち、
【数11】
及びn=1.55を用いると、外挿した青色PHOLEDの寿命は、1.3×10
5時間である(Feary,C.,Racine,B.,Vaufrey,D.,Doyeux,H.& Cinae,S.Physical mechanism responsible for the stretched exponential decay behavior of aging organic light−emitting diodes.Applied Physics Letters 87,−(2005))。これは、L
0=1,000cd/m
2における市販の緑色PHOLEDの寿命(10
6時間)に近付く。
【0157】
要約すると、EMLにおける正孔伝導性リン光ドーパントの濃度プロファイルを傾斜させることによって得られる広い励起子形成領域を使用する青色PHOLEDの寿命は、10倍延びることが示された。ディスプレイで用いられる様々な色のサブピクセルの輝度を考慮すると、積層デバイスにおいて得られる青色PHOLEDの寿命の改善は、正常動作条件下における緑色PHOLEDの寿命に近付く。使用される新規デバイス構造は、エネルギー駆動三重項−ポーラロン消滅とデバイス劣化との関係に関する基本的な物理学的知見に基づいており、したがって、一般的に、広範なリン光デバイス及び蛍光デバイスに適用可能であるはずである。本明細書で用いた材料に類似し、ドーパントにおける三重項とホスト分子におけるポーラロンとの間の相互作用を最小化し、それによって、分子の分解を導き、延いては、経時的に輝度を喪失させる高エネルギーTPA相互作用の発生可能性を低下させる伝導特性を有するドーパント/ホストの組み合わせを見出すことによって、更なる寿命の改善が期待される。
【表1】