特許第6576034号(P6576034)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6576034リン光ドーパントプロファイル操作によるOLED動作寿命の延長
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6576034
(24)【登録日】2019年8月30日
(45)【発行日】2019年9月18日
(54)【発明の名称】リン光ドーパントプロファイル操作によるOLED動作寿命の延長
(51)【国際特許分類】
   H01L 51/50 20060101AFI20190909BHJP
   H01L 27/32 20060101ALI20190909BHJP
   G09F 9/30 20060101ALI20190909BHJP
【FI】
   H05B33/14 A
   H01L27/32
   G09F9/30 365
【請求項の数】17
【外国語出願】
【全頁数】37
(21)【出願番号】特願2014-253554(P2014-253554)
(22)【出願日】2014年12月16日
(65)【公開番号】特開2015-119182(P2015-119182A)
(43)【公開日】2015年6月25日
【審査請求日】2017年6月16日
(31)【優先権主張番号】61/916,914
(32)【優先日】2013年12月17日
(33)【優先権主張国】US
(31)【優先権主張番号】61/929,354
(32)【優先日】2014年1月20日
(33)【優先権主張国】US
(31)【優先権主張番号】61/974,789
(32)【優先日】2014年4月3日
(33)【優先権主張国】US
(31)【優先権主張番号】62/040,019
(32)【優先日】2014年8月21日
(33)【優先権主張国】US
(31)【優先権主張番号】14/537,414
(32)【優先日】2014年11月10日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】513283512
【氏名又は名称】ザ レジェンツ オブ ザ ユニバーシティ オブ ミシガン
(74)【代理人】
【識別番号】100107515
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100107733
【弁理士】
【氏名又は名称】流 良広
(74)【代理人】
【識別番号】100115347
【弁理士】
【氏名又は名称】松田 奈緒子
(72)【発明者】
【氏名】ステファン・アール・フォレスト
(72)【発明者】
【氏名】ユイファン・チャン
【審査官】 小川 亮
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−032990(JP,A)
【文献】 韓国公開特許第10−2011−0056713(KR,A)
【文献】 米国特許出願公開第2009/0026938(US,A1)
【文献】 特開2005−310547(JP,A)
【文献】 特開2009−032987(JP,A)
【文献】 特開2013−229411(JP,A)
【文献】 国際公開第2008/035595(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 51/50
G09F 9/30
H01L 27/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アノードと、
カソードと、
前記アノードと前記カソードとの間に配置されている第1の発光層とを有し、
前記第1の発光層が、電子輸送化合物及びリン光発光ドーパント化合物を含み、
前記リン光発光ドーパント化合物が、前記第1の発光層において濃度勾配を有し、前記濃度勾配が、前記第1の発光層の前記カソード側に向かって非直線的に変化しており(ここで、非直線性は、二次関数、三次関数、又はより高次の関数からなる群より選択される多項式関数に対応する)
前記濃度勾配が、前記第1の発光層の前記カソード側から前記第1の発光層の前記アノード側に向かって減少することを特徴とする有機発光デバイス。
【請求項2】
アノードと、
カソードと、
前記アノードと前記カソードとの間に配置されている第1の発光層とを有し、
前記第1の発光層が、電子輸送化合物及びリン光発光ドーパント化合物を含み、
前記第1の発光層が、第2の電子輸送化合物を更に含み、前記リン光発光ドーパント化合物が、前記第2の電子輸送化合物のHOMO準位よりも少なくとも0.5eV低いHOMOエネルギー準位を有し、
前記リン光発光ドーパント化合物が、前記第1の発光層において濃度勾配を有し、前記濃度勾配が、
(i)前記第1の発光層の前記カソード側に向かって直線的に変化する、
(ii)前記第1の発光層の前記カソード側に向かって非直線的に変化する(ここで、非直線性は、二次関数、三次関数、又はより高次の関数からなる群より選択される多項式関数に対応する)、及び
(iii)段階的に変化する、
のうちの1以上に従って変化することを特徴とする有機発光デバイス。
【請求項3】
前記濃度勾配が段階的に変化し、前記リン光発光ドーパント化合物が、複数の高濃度ドーパント領域及び複数の低濃度ドーパント領域として前記第1の発光層中に分散している請求項2に記載の有機発光デバイス。
【請求項4】
前記濃度勾配が段階的に変化し、前記リン光発光ドーパント化合物が、複数の第1のドーパント領域及び複数の第2のドーパント領域として前記第1の発光層中に分散しており、前記第1のドーパント領域が、前記第2のドーパント領域よりも広い請求項2に記載の有機発光デバイス。
【請求項5】
前記アノードと前記第1の発光層との間に配置されている正孔注入層を更に含む請求項1から4のいずれかに記載の有機発光デバイス。
【請求項6】
前記正孔注入層及び前記第1の発光層が、複合厚みを有し、前記第1の発光層が、前記複合厚みの少なくとも60%である厚みを有する請求項5に記載の有機発光デバイス。
【請求項7】
前記第1の発光層が、10nm〜150nmの厚みを有する請求項6に記載の有機発光デバイス。
【請求項8】
前記アノードと前記第1の発光層との間に正孔注入層が配置されていない請求項1から4のいずれかに記載の有機発光デバイス。
【請求項9】
前記第1の発光層における前記リン光発光ドーパント化合物の濃度が均一である等価なデバイスに比べて、励起子密度が前記第1の発光層にわたって均一に分布している請求項1から8のいずれかに記載の有機発光デバイス。
【請求項10】
前記濃度勾配が、前記第1の発光層の前記カソード側から前記第1の発光層の前記アノード側に向かって減少する請求項から9のいずれかに記載の有機発光デバイス。
【請求項11】
前記濃度勾配が、前記第1の発光層の前記カソード側から前記第1の発光層の前記アノード側に向かって増加する請求項から9のいずれかに記載の有機発光デバイス。
【請求項12】
前記カソードと前記第1の発光層との間に配置されている電子輸送層を更に含む請求項1から11のいずれかに記載の有機発光デバイス。
【請求項13】
前記第1の発光層における前記リン光発光ドーパント化合物の濃度が均一である等価なデバイスに比べて、外部量子効率が少なくとも10%高い請求項1から12のいずれかに記載の有機発光デバイス。
【請求項14】
1,000cd/mの初期輝度値が80%まで低下するのにかかる時間が、前記第1の発光層における前記リン光発光ドーパント化合物の濃度が均一である等価なデバイスよりも少なくとも3.5倍長い請求項1から13のいずれかに記載の有機発光デバイス。
【請求項15】
前記濃度勾配が、(i)前記第1の発光層の前記カソード側に向かって直線的に変化する請求項2に記載の有機発光デバイス。
【請求項16】
前記濃度勾配が、(ii)前記第1の発光層の前記カソード側に向かって非直線的に変化する(ここで、非直線性は、二次関数、三次関数、又はより高次の関数からなる群より選択される多項式関数に対応する)請求項2に記載の有機発光デバイス。
【請求項17】
前記濃度勾配が、(iii)段階的に変化する請求項2に記載の有機発光デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願に関する相互参照
本願は、現在係属中の米国仮出願第61/916,914号(2013年12月17日出願)、米国仮出願第61/929,354号(2014年1月20日出願)、米国仮出願第61/974,789号(2014年4月3日出願)、及び米国仮出願第62/040,019号(2014年8月21日出願)に対する優先権及び効果を主張する。これらは全て、参照することにより全文が本明細書に援用される。
【0002】
連邦政府による資金提供を受けた研究開発の記載
本発明は、エネルギー省によって授与された契約番号DE−SC0001013−sub−K113153の下に米国政府の支援によって成された。政府は、本発明において一定の権利を有し得る。
【0003】
本明細書に特許請求される発明は、共同大学法人研究協定に基づき、以下の団体により、以下の団体を代表し、及び/又は以下の団体との関連において、なされたものである。すなわち、ミシガン州立大学及びユニバーサル・ディスプレイ社(Universal Display Corporation)の各評議員。本協定は、本明細書に特許請求される発明がなされた日以前に発効したものであり、特許請求される発明は、本協定の範囲内において行われた活動の結果としてなされたものである。
【0004】
本発明は、発光層全体に均一に分布している励起子密度を有する有機発光デバイス(OLED)に関する。
【背景技術】
【0005】
有機材料を利用する光電子デバイスは、幾つもの理由から、次第に望ましいものとなりつつある。そのようなデバイスを作製するために使用される材料の多くは比較的安価であるため、有機光電子デバイスは無機デバイスを上回るコスト優位性の可能性を有する。加えて、柔軟性等の有機材料の固有の特性により、該材料は、フレキシブル基板上での製作等の特定用途によく適したものとなり得る。有機光電子デバイスの例は、有機発光デバイス(OLED)、有機光トランジスタ、有機光電池及び有機光検出器を含む。OLEDについて、有機材料は従来の材料を上回る性能の利点を有し得る。例えば、有機発光層が光を放出する波長は、概して、適切なドーパントで容易に調整され得る。
【0006】
OLEDはデバイス全体に電圧が印加されると光を放出する薄い有機膜を利用する。OLEDは、フラットパネルディスプレイ、照明及びバックライティング等の用途において使用するためのますます興味深い技術となりつつある。数種のOLED材料及び構成は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる、特許文献1、特許文献2及び特許文献3において記述されている。
【0007】
リン光性発光分子の1つの用途は、フルカラーディスプレイである。そのようなディスプレイの業界標準は、「飽和(saturated)」色と称される特定の色を放出するように適合された画素を必要とする。特に、これらの標準は、飽和した赤色、緑色及び青色画素を必要とする。色は、当技術分野において周知のCIE座標を使用して測定することができる。
【0008】
本明細書において使用される場合、用語「有機」は、有機光電子デバイスを製作するために使用され得るポリマー材料及び小分子有機材料を含む。「小分子」は、ポリマーでない任意の有機材料を指し、且つ「小分子」は実際にはかなり大型であってよい。小分子は、幾つかの状況において繰り返し単位を含み得る。例えば、長鎖アルキル基を置換基として使用することは、「小分子」クラスから分子を排除しない。小分子は、例えばポリマー骨格上のペンダント基として、又は該骨格の一部として、ポリマーに組み込まれてもよい。小分子は、コア部分上に構築された一連の化学的シェルからなるデンドリマーのコア部分として役立つこともできる。デンドリマーのコア部分は、蛍光性又はリン光性小分子発光体であってよい。デンドリマーは「小分子」であってよく、OLEDの分野において現在使用されているデンドリマーはすべて小分子であると考えられている。
【0009】
本明細書において使用される場合、「頂部」は基板から最遠部を意味するのに対し、「底部」は基板の最近部を意味する。第一層が第二層「の上に配置されている」と記述される場合、第一層のほうが基板から遠くに配置されている。第一層が第二層「と接触している」ことが指定されているのでない限り、第一層と第二層との間に他の層があってもよい。例えば、間に種々の有機層があるとしても、カソードはアノード「の上に配置されている」と記述され得る。
【0010】
本明細書において使用される場合、「溶液プロセス可能な」は、溶液又は懸濁液形態のいずれかの液体媒質に溶解、分散若しくは輸送することができ、及び/又は該媒質から堆積することができるという意味である。
【0011】
本明細書において使用される場合、当業者には概して理解されるであろう通り、第一の仕事関数がより高い絶対値を有するならば、第一の仕事関数は第二の仕事関数「よりも大きい」又は「よりも高い」。仕事関数は概して真空準位と比べて負数として測定されるため、これは「より高い」仕事関数が更に負であることを意味する。頂部に真空準位がある従来のエネルギー準位図において、「より高い」仕事関数は、真空準位から下向きの方向に遠く離れているものとして例証される。故に、HOMO及びLUMOエネルギー準位の定義は、仕事関数とは異なる慣例に準ずる。
【0012】
OLEDについての更なる詳細及び上述した定義は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる特許文献4において見ることができる。
【0013】
非特許文献1に報告されている通り、有機発光ダイオード(OLED)は、現在の情報ディスプレイ革命における主な原動力である。例えば、非特許文献2及び3に報告されている通り、OLEDディスプレイは、モバイル端末、より最近では、テレビ及び照明において効果的であることが証明されている。OLEDの利点の中でも、消費電力及び動作寿命は、2つの主な性能指数である。非特許文献4に報告されている通り、リン光OLED(PHOLED)は、効率性が高いので、蛍光OLEDよりも消費電力が著しく低い。残念なことに、非特許文献5に報告されている通り、OLEDにおける青色サブピクセルには、類似のPHOLEDにおける動作寿命が短いので、蛍光OLEDが使用されている。過去には、リン光ドーパントにおける三重項励起子(即ち、スピン対称性分子の励起状態)と伝導ホストにおけるポーラロン(即ち、自由電子)との間のエネルギー駆動型対消滅が、青色PHOLEDにおける固有劣化の主な原因であることが示唆されている(非特許文献6及び7)。即ち、高エネルギー(青色)励起子と負に帯電している(電子)ポーラロンとの衝突により、分子結合において6eVもの高い結合エネルギーが消失して、物質を分解することがある。
【発明の概要】
【0014】
1つの態様では、本発明は、有機発光デバイスを提供する。1つの実施形態では、前記有機発光デバイスは、アノードと、カソードと、前記アノードと前記カソードとの間に配置されている第1の発光層とを含む。1つの実施形態では、前記第1の発光層は、電子輸送化合物と、リン光発光ドーパント化合物とを含む。1つの実施形態では、前記リン光発光ドーパント化合物は、発光層において、第1の発光層のカソード側から発光層のアノード側に向かって変化する濃度勾配を有する。
【0015】
幾つかの実施形態では、本発明の有機発光デバイスは、電子輸送化合物とリン光発光ドーパント化合物とを含む第1の発光層を含み、前記リン光発光ドーパント化合物は、発光層に濃度勾配を有し、前記濃度勾配は、前記第1の発光層のカソード側に向かって直線的に変化する。幾つかの実施形態では、濃度勾配は、第1の発光層のカソード側に向かって非直線的に変化する。幾つかのかかる実施形態では、非直線性は、二次関数、三次関数、又はより高次の関数からなる群より選択される多項式関数に対応する。
【0016】
幾つかの実施形態では、濃度勾配は、段階的に変化し、リン光発光ドーパント化合物は、複数の高濃度ドーパント領域及び複数の低濃度ドーパント領域として発光層に分散している。幾つかの実施形態では、濃度勾配は、段階的に変化し、リン光発光ドーパント化合物は、複数の第1のドーパント領域及び複数の第2のドーパント領域として発光層に分散しており、前記第1のドーパント領域は、前記第2のドーパント領域よりも広い。
【0017】
本発明の有機発光デバイスの幾つかの実施形態では、発光層は、第2の電子輸送化合物を更に含む。幾つかのかかる実施形態では、リン光発光ドーパント化合物は、前記第2の電子輸送化合物のHOMO準位よりも少なくとも0.5eV低いHOMOエネルギー準位を有する。
【0018】
本発明の有機発光デバイスの幾つかの実施形態では、有機発光デバイスは、アノードと発光層との間に配置されている正孔注入層を更に含む。幾つかの実施形態では、正孔注入層及び発光層は、複合厚みを有し、前記発光層は、前記複合厚みの少なくとも60%の厚みを有する。幾つかの実施形態では、発光層は、10nm〜150nmの厚みを有する。
【0019】
本発明の有機発光デバイスの幾つかの実施形態では、有機発光デバイスは、アノードと発光層との間に配置される正孔注入層を含まない。
【0020】
本発明の有機発光デバイスの幾つかの実施形態では、発光層におけるリン光発光ドーパント化合物の濃度が均一である等価なデバイスに比べて、励起子密度が発光層全体に均一に分布している。本発明の有機発光デバイスの幾つかの実施形態では、濃度勾配は、第1の発光層のカソード側から発光層のアノード側に向かって減少する。本発明の有機発光デバイスの幾つかの実施形態では、濃度勾配は、第1の発光層のカソード側から発光層のアノード側に向かって増加する。本発明の有機発光デバイスの幾つかの実施形態では、主に電子輸送化合物によって電子が輸送される。本発明の有機発光デバイスの幾つかの実施形態では、主にリン光発光ドーパント化合物によって正孔が輸送される。
【0021】
本発明の有機発光デバイスの幾つかの実施形態では、有機発光デバイスは、カソードと発光層との間に配置されている電子輸送層を更に含む。
【0022】
本発明の有機発光デバイスの幾つかの実施形態では、有機発光デバイスは、発光層におけるリン光発光ドーパント化合物の濃度が均一である等価なデバイスに比べて、外部量子効率が少なくとも10%高い。
【0023】
本発明の有機発光デバイスの幾つかの実施形態では、有機発光デバイスは、1,000cd/mの初期輝度値が80%まで低下するのにかかる時間が、発光層におけるリン光発光ドーパント化合物の濃度が均一である等価なデバイスよりも少なくとも3.5倍長い。
【0024】
別の態様では、本発明は、アノードと、カソードと、前記アノードと前記カソードとの間に配置されている第1の発光層と、前記第1の発光層と前記カソードとの間に配置されている第2の発光層とを含む有機発光デバイスを提供する。幾つかの実施形態では、第1の発光層は、第1の電子輸送化合物と第1のリン光発光ドーパント化合物とを含む。幾つかの実施形態では、第2の発光層は、前記第1の発光層と前記カソードとの間に配置されている。幾つかの実施形態では、有機発光デバイスは、前記第1の発光層と前記第2の発光層との間に配置されている相互接続層を含む。幾つかの実施形態では、第2の発光層は、第2の電子輸送化合物と第2のリン光発光ドーパント化合物とを含む。幾つかの実施形態では、第1のリン光発光ドーパント化合物は、第1の発光層のカソード側から発光層のアノード側に向かって変化する第1の濃度勾配を有し、第2のリン光発光ドーパント化合物は、第2の発光層のカソード側から第2の発光層のアノード側に向かって変化する第2の濃度勾配を有する。幾つかの実施形態では、第1の濃度勾配は、第2の濃度勾配とは異なる。幾つかの実施形態では、第1の濃度勾配は、第2の濃度勾配と同一である。幾つかの実施形態では、第1の濃度勾配は、第1の発光層のカソード側に向かって直線的に変化する。幾つかの実施形態では、第1の濃度勾配は、第1の発光層のカソード側に向かって非直線的に変化する。幾つかの実施形態では、第1の濃度勾配は、第1の発光層のカソード側に向かって非直線的に変化し、前記非直線性は、正弦状関数;二次関数、三次関数、又はより高次の関数からなる群より選択される多項式関数に対応する。
【0025】
本発明の有機発光デバイスの幾つかの実施形態では、有機発光デバイスは、第2の発光層のカソード側に向かって直線的に変化する第2の濃度勾配を含む。幾つかの実施形態では、有機発光デバイスは、第1の発光層のカソード側に向かって非直線的に変化する第2の濃度勾配を有する。幾つかの実施形態では、有機発光デバイスは、第1の発光層のカソード側に向かって非直線的に変化する第2の濃度勾配を有し、非直線性は、正弦状関数;二次関数、三次関数、又はより高次の関数からなる群より選択される多項式関数に対応する。
【0026】
本発明の有機発光デバイスの幾つかの実施形態では、第1の濃度勾配は、段階的に変化し、第1のリン光発光ドーパント化合物は、第1の複数の高濃度ドーパント領域として第1の発光層に、また、第1の複数の低濃度ドーパント領域として第1の発光層に分散している。本発明の有機発光デバイスの幾つかの実施形態では、第2の濃度勾配は、段階的に変化し、第2のリン光発光ドーパント化合物は、第2の複数の高濃度ドーパント領域として第2の発光層に、また、第2の複数の低濃度ドーパント領域として第2の発光層に分散している。本発明の有機発光デバイスの幾つかの実施形態では、第1の濃度勾配は、第1の発光層のカソード側から発光層のアノード側に向かって減少する。本発明の有機発光デバイスの幾つかの実施形態では、第1の濃度勾配は、第1の発光層のカソード側から発光層のアノード側に向かって増加する。本発明の有機発光デバイスの幾つかの実施形態では、第2の濃度勾配は、第1の発光層のカソード側から発光層のアノード側に向かって増加する。本発明の有機発光デバイスの幾つかの実施形態では、第2の濃度勾配は、第1の発光層のカソード側から発光層のアノード側に向かって減少する。本発明の有機発光デバイスの幾つかの実施形態では、第1のリン光発光ドーパント化合物は、第1の電子輸送化合物のHOMO準位よりも少なくとも0.5eV低いHOMOエネルギー準位を有する。本発明の有機発光デバイスの幾つかの実施形態では、第2のリン光発光ドーパント化合物は、第2の電子輸送化合物のHOMO準位よりも少なくとも0.5eV低いHOMOエネルギー準位を有する。
【0027】
本発明の有機発光デバイスの幾つかの実施形態では、有機発光デバイスは、アノードと第1の発光層との間に配置されている少なくとも1層の有機層を更に含む。本発明の有機発光デバイスの幾つかの実施形態では、前記少なくとも1層の有機層及び第1の発光層は、複合厚みを有し、前記第1の発光層は、複合厚みの少なくとも60%の厚みを有する。本発明の有機発光デバイスの幾つかの実施形態では、第1の発光層は、10nm〜150nmの厚みを有する。本発明の有機発光デバイスの幾つかの実施形態では、有機発光デバイスは、第1の発光層の中間領域近傍に励起子ピーク密度を有する。本発明の有機発光デバイスの幾つかの実施形態では、有機発光デバイスは、第1の発光層におけるリン光発光ドーパント化合物の濃度が均一である等価なデバイスと比べて、励起子密度が第1の発光層全体に均一に分布している。
【0028】
本発明の有機発光デバイスの幾つかの実施形態では、有機発光デバイスは、カソードと第1の発光層との間に配置されている電子輸送層を更に含む。本発明の有機発光デバイスの幾つかの実施形態では、有機発光デバイスは、第1の発光層とアノードとの間に配置されている正孔注入層を有する。本発明の有機発光デバイスの幾つかの実施形態では、有機発光デバイスは、アノードと発光層との間に配置される正孔注入層を有しない。
【0029】
本発明の有機発光デバイスの幾つかの実施形態では、有機発光デバイスは、第1の発光層における第1のリン光発光ドーパント化合物の濃度が均一である等価なデバイスに比べて、外部量子効率が少なくとも10%高い。本発明の有機発光デバイスの幾つかの実施形態では、有機発光デバイスは、1,000cd/mの初期輝度値が80%まで低下するのにかかる時間が、第1の発光層における第1のリン光発光ドーパント化合物の濃度が均一である等価なデバイスよりも少なくとも3.5倍長い。
【0030】
幾つかの好ましい実施形態では、本発明の有機発光デバイスは、アノードと、カソードと、前記アノードと前記カソードとの間に配置されており、且つ電子輸送化合物及びリン光発光ドーパント化合物を含む第1の発光層とを含み、前記リン光発光ドーパント化合物は、発光層において、第1の発光層のカソード側から発光層のアノード側に向かって変化する濃度勾配を有する。本発明の有機発光デバイスの幾つかの実施形態では、リン光発光ドーパント化合物は、電子輸送化合物のHOMO準位よりも少なくとも0.5eV低いHOMOエネルギー準位を有する。
【図面の簡単な説明】
【0031】
図1図1は、別個の電子輸送層、正孔輸送層、及び発光層に加えて他の層を有する従来技術の有機発光デバイスを示す。
【0032】
図2図2は、別個の正孔注入層、電子輸送層、及び発光層に加えて他の層を有する例示的な有機発光デバイスの例を示す。
【0033】
図3図3は、例示的な積層OLEDの例を示す。
【0034】
図4図4は、勾配なしの均一な、均一な減少勾配の、均一な段階的勾配の、均一な増加勾配の、増加−減少勾配の、及び様々な増加段階的勾配のドーピングプロファイルを示す。
【0035】
図5図5は、(i)ITO/10nmのIr(ppy)/20nmのNPD/40nmの、体積濃度15%でMCBPに均一にドーピングされた青色発光ドーパントIr(dmp)/5nmのMCBP/25nmのAlq/1nmのLiF/100nmのAlのデバイス構造を有する従来技術のOLED D1、及び(ii)ITO/10nmのIr(ppy)/50nmの、体積濃度15%でMCBPに均一にドーピングされた青色発光ドーパントIr(dmp)/5nmのMCBP/25nmのAlq/1nmのLiF/100nmのAlのデバイス構造を有するOLED D2について、外部量子効率(「EQE」)対電流密度(mA/cm)のプロットを示す。
【0036】
図6図6は、従来技術のデバイスD1及び例示デバイスD2について、70℃における輝度(初期輝度に対して正規化)対動作時間のプロットを示す。
【0037】
図7図7は、(i)ITO/10nmのIr(ppy)/20nmのNPD/40nmの、体積濃度15%でMCBPに均一にドーピングされた青色発光ドーパントIr(dmp)/5nmのMCBP/25nmのAlq/1nmのLiF/100nmのAlのデバイス構造を有する従来技術のOLED D1、及び(ii)ITO/10nmのIr(ppy)/50nmの、MCBP中で18体積%(アノード近傍)から8体積%(カソード近傍)に位置と共に直線的に変化する濃度勾配を有する青色発光ドーパントIr(dmp)/5nmのMCBP/25nmのAlq/1nmのLiF/100nmのデバイス構造を有するOLED D3について、外部量子効率(「EQE」)対電流密度(mA/cm)のプロットを示す。
【0038】
図8図8は、従来技術のデバイスD1及び例示デバイスD3について、70℃における輝度(初期輝度に対して正規化)対動作時間のプロットを示す。
【0039】
図9図9は、(i)ITO/10nmのIr(ppy)/20nmのNPD/40nmの、体積濃度15%でMCBPに均一にドーピングされた青色発光ドーパントIr(dmp)/5nmのMCBP/25nmのAlq/1nmのLiF/100nmのAlのデバイス構造を有する従来技術のOLED D1;(ii)ITO/10nmのIr(ppy)(HIL)/50nmの青色発光ドーパントIr(dmp)(EML)/5nmのMCBP/25nmのAlq/1nmのLiF/100nm(EML/HIL界面における23%からEML/MCBP界面における7%に位置と共に直線的に変化するIr(dmp)の濃度勾配を有する)のデバイス構造を有するOLED D4について、外部量子効率(「EQE」)対電流密度(mA/cm)のプロットを示す。
【0040】
図10図10は、従来技術のデバイスD1及び例示デバイスD4について、70℃における輝度(初期輝度に対して正規化)対動作時間のプロットを示す。
【0041】
図11図11は、(i)ITO/10nmのIr(ppy)/20nmのNPD/40nmの、体積濃度15%でMCBPに均一にドーピングされた青色発光ドーパントIr(dmp)/5nmのMCBP/25nmのAlq/1nmのLiF/100nmのAlのデバイス構造を有する従来技術のOLED D1;(ii)ITO/10nmのIr(ppy)(HIL)/50nmの青色発光ドーパントIr(dmp)(EML)/5nmのMCBP/25nmのAlq/1nmのLiF/100nm(EML/HIL界面における20%からEML/MCBP界面における10%に位置と共に直線的に変化するIr(dmp)の濃度勾配を有する)のデバイス構造を有するOLED D5について、外部量子効率(「EQE」)対電流密度(mA/cm)のプロットを示す。
【0042】
図12図12は、従来技術のデバイスD1及び例示デバイスD5について、70℃における輝度(初期輝度に対して正規化)対動作時間のプロットを示す。
【0043】
図13図13は、(i)ITO/10nmのIr(ppy)/20nmのNPD/40nmの、体積濃度15%でMCBPに均一にドーピングされた青色発光ドーパントIr(dmp)/5nmのMCBP/25nmのAlq/1nmのLiF/100nmのAlのデバイス構造を有する従来技術のOLED D1;(ii)ITO/10nmのIr(ppy)(HIL)/50nmの青色発光ドーパントIr(dmp)(EML)/5nmのMCBP/25nmのAlq/1nmのLiF/100nmのデバイス構造を有し、最初の30nmのIr(dmp)濃度は15%で均一であり、次いで、Ir(dmp)濃度3%の5nmの層とIr(dmp)濃度15%の5nmの層との二重層が3つ存在する(合計30nm)濃度勾配を有するOLED D6について、外部量子効率(「EQE」)対電流密度(mA/cm)のプロットを示す。
【0044】
図14図14は、従来技術のデバイスD1及び例示デバイスD6について、70℃における輝度(初期輝度に対して正規化)対動作時間のプロットを示す。
【0045】
図15図15は、(i)ITO/10nmのIr(ppy)/20nmのNPD/40nmの、体積濃度15%でMCBPに均一にドーピングされた青色発光ドーパントIr(dmp)/5nmのMCBP/25nmのAlq/1nmのLiF/100nmのAlのデバイス構造を有する従来技術のOLED D1;(ii)ITO/10nmのIr(ppy)(HIL)/50nmの青色発光ドーパントIr(dmp)(EML)/5nmのMCBP/25nmのAlq/1nmのLiF/100nmのデバイス構造を有し、EML/HIL界面から出発して、最初の30nmのIr(dmp)濃度は15%で均一であり、次いで、以下の通りIr(dmp)濃度が徐々に変化する二重層:15%〜3%でIr(dmp)濃度が徐々に変化する5nmのIr(dmp)層、3%〜15%でIr(dmp)濃度が徐々に変化する5nmのIr(dmp)層が3対存在するような濃度勾配を有するOLED D7について、外部量子効率(「EQE」)対電流密度(mA/cm)のプロットを示す。
【0046】
図16図16は、従来技術のデバイスD1及び例示デバイスD7について、70℃における輝度(初期輝度に対して正規化)対動作時間のプロットを示す。
【0047】
図17図17は、デバイスD1、D2、及びD3の発光層における青色発光ドーパントIr(dmp)の濃度を示す。
【0048】
図18a図18aは、デバイスD8〜D11(D11は、EMLがD10と同一である2つの青色発光PHOLEDのスタックである)の電流密度−電圧(J−V、散在しているマーカー)及び輝度−電圧(L−V、マーカーが線でつながれている)の特徴を示す。
図18b図18bは、D8〜D11について外部量子効率(EQE)対電流密度J(左軸)及び発光スペクトル(右軸)を示す。D8は、ITO/10nm HATCN/20nm NPD/40nm MCBP中Ir(dmp)/5nm MCBP/30nm Alq/1.5nm Liq/100nmのAlのデバイス構造を有する。D9は、以下の構造を有する:ITO/10nm HATCN/50nm MCBP中Ir(dmp)/5nm MCBP/30nmのAlq/1.5nm Liq/Al。デバイスD10は、以下の構造を有する:ITO/10nm HATCN/50nm MCBP中Ir(dmp)(Ir(dmp)は、18%〜8%で変化する)/5nm MCBP/30nmのAlq/1.5nm Liq/Al。
【0049】
図19図19は、例示発光層における電子及び正孔の輸送と再結合エネルギー論とを示す。ここでは、Ir(dmp)が、正孔輸送青色発光化合物であり、mCPBが、電子輸送化合物である。
【0050】
図20図20は、赤色発光感知層においてイリジウム(III)ビス(2−フェニルキノリル−N,C2’)アセチルアセトネート(PQIr)を使用する「プローブ」デバイスから計算したD8〜D10のEMLにおける励起子密度プロファイルを示す。前記プロファイルは、単一体のEMLにおける積分励起子密度に対して正規化されている。また、D4の励起子密度プロファイルは、D3プロファイルから計算される。
【0051】
図21a図21aは、L=3,000cd/mの初期輝度における青色PHOLEDの正規化された輝度の時間変化を示す。
図21b図21bは、L=3,000cd/mの初期輝度における動作電圧の変化ΔV(ゼロオフセット)を示す。
図21c図21cは、L=1,000cd/mの初期輝度における青色PHOLEDの正規化された輝度の時間変化を示す。
図21d図21dは、L=1,000cd/mの初期輝度における動作電圧の変化ΔV(ゼロにオフセット)を示す。
【0052】
図22図22は、MCPP上のIr(dmp)、ITO上のIr(dmp)、及びITO上のMCPBから得られた紫外光電子分光(UPS)データを示す。
【0053】
図23a図23aは、正孔のみのデバイスの電流密度−電圧(J−V)の特徴を示す。
図23b図23bは、電子のみのデバイスの電流密度−電圧(J−V)の特徴を示す。
【0054】
図24図24は、J=10mA/cmにおけるD9のプローブデバイスからの発光スペクトルを示す。
【0055】
図25図25は、PQIrセンサを備えるデバイスD9及びD10、並びにデバイスD8の10mA/cmにおける動作電圧を示す。
【0056】
図26図26は、ガラス上の厚み70nm及び120nmのITOフィルムにおけるD8の発光スペクトルを示す。
【0057】
図27図27は、デバイスD12〜D15についての電流密度(mA/cm)対電圧(V)のプロットを示す。
【0058】
図28図28は、デバイスD12〜15についての外部量子効率対電流密度(mA/cm)のプロットを示す。
【0059】
図29図29は、デバイスD12〜15についての経時に伴う電圧変化のプロットを示す。
【0060】
図30図30は、デバイスD12〜15についての効率対時間のプロットを示す。
【0061】
図31図31は、デバイスD13、D15、D16、及びD17についての電流密度(mA/cm)対電圧(V)のプロットを示す。
【0062】
図32図32は、デバイスD13、D15、D16、及びD17についての外部量子効率対電流密度(mA/cm)のプロットを示す。
【0063】
図33図33は、デバイスD13、D15、D16、及びD17についての経時に伴う電圧変化のプロットを示す。
【0064】
図34図34は、デバイスD13、D15、D16、及びD17についての効率対時間のプロットを示す。
【発明を実施するための形態】
【0065】
概して、OLEDは、アノード及びカソードの間に配置され、それらと電気的に接続された少なくとも1つの有機層を含む。電流が印加されると、アノードが正孔を注入し、カソードが電子を有機層(複数可)に注入する。注入された正孔及び電子は、逆帯電した電極にそれぞれ移動する。電子及び正孔が同じ分子上に局在する場合、励起エネルギー状態を有する局在電子正孔対である「励起子」が形成される。光は、励起子が緩和した際に、光電子放出機構を介して放出される。幾つかの事例において、励起子はエキシマー又はエキサイプレックス上に局在し得る。熱緩和等の無輻射機構が発生する場合もあるが、概して望ましくないとみなされている。
【0066】
初期のOLEDは、例えば、参照によりその全体が組み込まれる米国特許第4,769,292号において開示されている通り、その一重項状態から光を放出する発光分子(「蛍光」)を使用していた。蛍光発光は、概して、10ナノ秒未満の時間枠で発生する。
【0067】
ごく最近では、三重項状態から光を放出する発光材料(「リン光」)を有するOLEDが実証されている。参照によりその全体が組み込まれる、Baldoら、「Highly Efficient Phosphorescent Emission from Organic Electroluminescent Devices」、395巻、151〜154、1998;(「Baldo−I」)及びBaldoら、「Very high−efficiency green organic light emitting devices based on electrophosphorescence」、Appl.Phys.Lett.、75巻、3号、4〜6(1999)(「Baldo−II」)。リン光は、「禁制」遷移と呼ばれることもあるが、その理由は、遷移にはスピン状態の変化を必要とされるが、量子力学では、このような遷移が好ましくないことが示されているためである。その結果、リン光は、一般的に、少なくとも10ナノ秒、典型的には100ナノ秒を超える時間枠で生じる。リン光の自然放射寿命が長過ぎる場合、非放射機構によって三重項が崩壊することがあり、その結果、光は発せられない。また、有機リン光は、超低温で非共有電子対を有するヘテロ原子を含有する分子においてみられることが多い。2,2’−ビピリジンは、このような分子である。非放射崩壊機構は、通常温度依存性があるので、液体窒素温度でリン光を発する有機材料は、通常、室温ではリン光を発しない。しかし、Baldoによって証明されている通り、室温でリン光を発するリン光化合物を選択することによってこの問題に対処することができる。例示的な発光層としては、例えば、米国特許第6,303,238号明細書、米国特許第6,310,360号明細書、米国特許第6,830,828号明細書、米国特許第6,835,469号明細書、米国特許出願公開第2002−0182441号明細書、及び国際公開第02/074015号パンフレット等に開示されている、ドーピングされているか又はドーピングされていないリン光有機金属材料が挙げられる。
【0068】
リン光に先立って、三重項励起状態から発光崩壊が生じる中間非三重項状態への遷移が生じ得る。例えば、ランタニド元素に配位している有機分子は、多くの場合、ランタニド金属に局在している励起状態からリン光を発する。しかし、かかる材料は、三重項励起状態から直接リン光を発するのではなく、ランタニド金属イオンの中心に位置する原子励起状態から発する。ユーロピウムジケトネート錯体は、このような種類の種の1群を示す。
【0069】
三重項からのリン光は、原子番号の大きな原子に近接する有機分子の閉じ込め、好ましくは結合による閉じ込めによって、蛍光よりも強化することができる。重原子効果と呼ばれるこの現象は、スピン軌道相互作用として知られている機構によって生じる。かかるリン光遷移は、トリス(2−フェニルピリジン)イリジウム(III)等の有機金属分子の励起金属−配位子電荷移動(MLCT)状態から観察され得る。
【0070】
本明細書において使用される場合、当業者には概して理解されるであろう通り、第一の「最高被占分子軌道」(HOMO)又は「最低空分子軌道」(LUMO)エネルギー準位は、第一のエネルギー準位が真空エネルギー準位に近ければ、第二のHOMO又はLUMOエネルギー準位「よりも大きい」又は「よりも高い」。イオン化ポテンシャル(IP)は、真空準位と比べて負のエネルギーとして測定されるため、より高いHOMOエネルギー準位は、より小さい絶対値を有するIP(あまり負でないIP)に相当する。同様に、より高いLUMOエネルギー準位は、より小さい絶対値を有する電子親和力(EA)(あまり負でないEA)に相当する。頂部に真空準位がある従来のエネルギー準位図において、材料のLUMOエネルギー準位は、同じ材料のHOMOエネルギー準位よりも高い。「より高い」HOMO又はLUMOエネルギー準位は、「より低い」HOMO又はLUMOエネルギー準位よりもそのような図の頂部に近いように思われる。
【0071】
本明細書で使用するとき、用語「三重項エネルギー」とは、所与の材料のリン光スペクトルにおいて識別可能な最高エネルギーの特徴に対応するエネルギーを指す。最高エネルギーの特徴は、必ずしもリン光スペクトルにおける最高強度を有するピークではなく、例えば、かかるピークの高エネルギー側における明らかなショルダーの極大である場合がある。
【0072】
Baldo,M.A.,O’Brien,D.F.,Thompson,M.E.& Forrest,S.R.,Excitonic singlet−triplet ratio in a semiconducting organic thin film.Phys.Rev.B 60,14422−14428(1999)に報告されている通り、OLEDにおける電子−正孔再結合に伴い、一重項及び三重項の2種類の励起状態(即ち、励起子)が、1:3の比(この比は、量子スピン統計的に決定される)で形成される。蛍光OLEDの発光は、一重項に依存しているので、内部量子効率(IQE)の限界は25%である。Kondakov,D.Y.,Pawlik,T.D.,Hatwar,T.K.& Spindler,J.P.Triplet annihilation exceeding spin statistical limit in highly efficient fluorescent organic light−emitting diodes,J.Appl.Phys.106,124510(2009)に報告されている通り、三重項−三重項消滅によって、蛍光PLEDにおけるIQEは、前記限界を超えて改善されるが、その効率は、従来実現されている100%IQEよりも遥かに劣る(Adachi,C.,Baldo,M.A.,Thompson,M.E.& Forrest,S.R.,Nearly 100% internal phosphorescence efficiency in an organic light−emitting device,J.Appl.Phys.90,5048−5051(2001);Baldo,M.A.,O’Brien,D.F.,You,Y.,Shoustikov,A.,Sibley,S.,Thompson,M.E.& Forrest,S.R.,Highly efficient phosphorescent emission from organic electroluminescent devices.Nature 395,151−154(1998))。高効率に加えて、商業的に許容可能な技術には動作寿命が長いことが必須である。長年に亘る研究により、緑色及び赤色のPHOLEDの寿命においては大きな進歩が成し遂げられ、L=1,000cd/mにおいて10時間もの長いT50が報告された(Chwang,A.B.,Kwong,R.C.& Brown,J.J.,Graded mixed−layer organic light−emitting devices,Appl.Phys.Lett.80,725−727(2002);Kwong,R.C.,Nugent,M.R.,Michalski,L.,Ngo,T.,Rajan,K.,Tung,Y.J.,Weaver,M.S.,Zhou,T.X.,Hack,M.,Thompson,M.E.,Forrest,S.R.& Brown,J.J.,High operational stability of electrophosphorescent devices.Appl.Phys.Lett.81,162−164(2002);Kim,S.H.,Jang,J.& Lee,J.Y.,Lifetime improvement of green phosphorescent organic light−emitting diodes by charge confining device structure.Applied Physics Letters 90,203511−203511−203513(2007);及びChin,B.D.& Lee,C.,Confinement of charge carriers and excitons in electrophosphorescent devices:Mechanism of light emission and degradation.Advanced Materials 19,2061−2066(2007))。対照的に、青色PHOLED寿命の改善はそれほど進歩していない。例えば、青色発光イリジウム(III)ビス[(4,6−ジフルオロフェニル)−ピリジナト−N,C’]ピコリナート(FIrpic)を含むPHOLEDについては、L=1,000cd/mにおいて僅か数時間のT50しか報告されていない(Holmes,R.J.,Forrest,S.R.,Tung,Y.J.,Kwong,R.C.,Brown,J.J.,Garon,S.& Thompson,M.E.,Blue organic electrophosphorescence using exothermic host−guest energy transfer,Appl.Phys.Lett.82,2422−2424(2003);Seifert,R.,de Moraes,I.R.,Scholz,S.,Gather,M.C.,Luessem,B.& Leo,K.,Chemical degradation mechanisms of highly efficient blue phosphorescent emitters used for organic light emitting diodes,Organic Electronics(2012))。その結果、比較的効率の低い青色蛍光OLEDが、依然としてOLEDディスプレイにおいて大部分を占めている。
【0073】
OLEDの固有劣化機構は、電荷をトラップできて且つ励起子をクエンチすることができる無放射欠陥がエネルギー駆動的に形成されることに起因することが示されている(Giebink,N.C.,D’Andrade,B.W.,Weaver,M.S.,Mackenzie,P.B.,Brown,J.J.,Thompson,M.E.and Forrest,S.R.,Intrinsic luminance loss in phosphorescent small−molecule organic light emitting devices due to bimolecular annihilation reactions,J.Appl.Phys.103(2008)及びGiebink,N.,DAndrade,B.,Weaver,M.,Brown,J.and Forrest,S.,Direct evidence for degradation of polaron excited states in organic light emitting diodes,Journal of Applied Physics 105,124514−124514−124517(2009))。PHOLEDでは、これら欠陥は、エネルギーが三重項からポーラロンに移動する二分子三重項−ポーラロン消滅に主に起因して形成される。これによって、熱過程においてそれが存在している分子の結合を破壊することができる高エネルギーポーラロン(典型的に、励起子エネルギーの2倍)が生じる。その高い三重項エネルギーに起因して、青色PHOLEDにおいてTPAを通じて散逸する過剰のエネルギーは、赤色又は緑色のPHOLEDよりも著しく高く、これが、青色PHOLEDの劣化が早い理由である。更に、白色青色蛍光デバイスは、決してこの劣化経路の影響を受けないが、>1μsという三重項寿命は、蛍光分子における一重項寿命(<20ns)を遥かに超えているので、リン光デバイスにおいて励起子−ポーラロン消滅事象が生じる機会も比例して多い。
【0074】
これらの基本機構が確認されてから殆ど進展していないが、TPAを介して劣化を低減する経路は、PHOLED励起子形成領域における励起子密度を低下させることが可能である。近年、電子及び正孔輸送ホスト分子の傾斜混合を通して緑色のPHOLEDにおける励起子形成領域を15nmから>80nmに広げることによって、効率が上がることがErickson and Holmesによって示された(Erickson,N.C.& Holmes,R.J.,Investigating the Role of Emissive Layer Architecture on the Exciton Recombination Zone in Organic Light‐Emitting Devices.,Adv.Funct.Mater.(2013))。この研究において寿命のデータは報告されていない。更に、青色PHOLED用の高三重項エネルギーを有する安定なホスト材料の選択は、限定されている。
【0075】
本明細書において、発明者らは、PHOLEDの発光層(EML)におけるドーパント濃度を傾斜させると、励起子形成領域が広がることによってデバイスの寿命が著しく延びることを示す。EMLの幅、したがってデバイスの寿命は、十分に高いドーパント濃度を用いることによって更に延び、ドーパントの最高被占分子軌道準位(HOMO)は、正孔をドーパントに直接伝導するためにホストのHOMOを下回るように選択される。発明者らの知る限り、これは、濃度傾斜がEML内の励起子の分布に影響を及ぼし、それによって、デバイスの動作寿命に大きな影響を与える、傾斜ドーピングプロファイルを有するOLEDの最初の報告である。
【0076】
図1は、従来技術の有機発光デバイス100を示す。デバイス100は、基板110、アノード115、正孔注入層120、正孔輸送層125、電子ブロック層130、発光層135、正孔ブロック層140、電子輸送層145、電子注入層150、保護層155、及びカソード160を含んでいてよい。カソード160は、第1の伝導層162及び第2の伝導層164を有する複合カソードである。
【0077】
図2は、本開示に係る例示的な有機発光デバイス200を示す。デバイス200は、基板210、アノード215、正孔注入層220、発光層235、電子輸送層245、電子注入層250、及びカソード260を含んでいてよい。かかる例示的な有機発光デバイスの1つの実施形態では、前記デバイスは、正孔注入層220と発光層235との間に配置される正孔輸送層を有しない。
【0078】
図3は、本開示に係る第2の例示的な有機発光デバイス300(積層有機発光デバイス)を示す。デバイス300は、アノード225、第1の発光層335、相互接続層370、第2の発光層375、及びカソード260を含んでいてよい。相互接続層370は、第1の発光層335と第2の発光層375との間に配置されている。かかる例示的な有機発光デバイスの1つの実施形態では、前記デバイスは、第1の発光層335及び/又はカソード260と第2の発光層375とに隣接して配置される正孔輸送層を有しない。
【0079】
基板210は、所望の構造的性質をもたらす任意の好適な基板であってよい。基板210は、可撓性であっても剛性であってもよい。基板210は、透明であっても、半透明であっても、不透明であってもよい。好ましい剛性基板材料の例は、プラスチック及びガラスである。好ましい可撓性基板材料の例は、プラスチック及び金属箔である。基板210は、回路の製作を容易にするために半導体材料であってもよい。例えば、基板210は、その上に回路が製作されるシリコンウェーハであってよく、これは、基板上に後に配置されるOLEDを制御することができる。他の基板を用いてもよい。基板210の材料及び厚みは、所望の構造的性質及び光学的性質が得られるように選択してよい。
【0080】
アノード215は、正孔を有機層に輸送するのに十分な程度伝導性である任意の好適なアノードであってよい。アノード215の材料は、好ましくは、約4eVよりも高い仕事関数を有する(「高仕事関数材料」)。好ましいアノード材料としては、酸化インジウムスズ(ITO)、酸化インジウム亜鉛(IZO)、酸化アルミニウム亜鉛(AlZnO)等の伝導性金属酸化物、及び金属が挙げられる。アノード215(及び基板210)は、底面発光デバイスを作製するのに十分な程度透明であってよい。好ましい透明基板とアノードとの組み合わせは、ガラス又はプラスチック(基板)に堆積している市販のITO(アノード)である。可撓性且つ透明な基板とアノードとの組み合わせは、米国特許第5,844,363号明細書に開示されており、これは、参照することにより全文が本明細書に援用される。アノード215は、不透明及び/又は反射性であってよい。反射性アノード215は、デバイスの上部から発せられる光の量を増加させるために、一部の上面発光デバイスにとって好ましい場合がある。アノード215の材料及び厚みは、所望の伝導性及び光学的性質が得られるように選択してよい。アノード215が透明である場合、特定の材料について、所望の伝導性をもたらすのに十分な程度厚いが、所望の透明度をもたらすのに十分な程度薄い、ある範囲の厚みが存在し得る。他のアノードの材料及び構造を用いてもよい。
【0081】
1つの実施形態では、本発明は、電子輸送化合物も含有する発光層においてリン光ドーパント化合物の濃度勾配を有するOLEDを提供する。出願人らは、リン光ドーパント化合物が発光層内に濃度勾配を有する場合、発光層と電子輸送層との界面においてピーク励起子密度を有するのではなく、励起子密度が発光層全体に分布することを予想外に見出した。特に、500nm未満のピーク発光波長を有するリン光ドーパント化合物では、かかる均一な励起子密度によってOLEDデバイスの寿命が延びる。
【0082】
1つの実施形態では、本発明は、アノードと、カソードと、前記アノードと前記カソードとの間に配置されている第1の発光層とを含む有機発光デバイスであって、前記第1の発光層が、電子輸送化合物と、前記第1の発光層において前記第1の発光層のカソード側から発光層のアノード側に向かって変化する濃度勾配を有するリン光発光ドーパント化合物とを含む有機発光デバイスを提供する。1つの態様では、有機発光デバイスは、カソードと第1の発光層との間に配置されている電子輸送層を更に含んでいてよい。幾つかの実施形態では、電子は、主に電子輸送化合物によって輸送される。幾つかの実施形態では、正孔は、主にリン光発光ドーパント化合物によって輸送される。1つの実施形態では、前記デバイスは、発光層に隣接して配置される正孔輸送層を有しない。
【0083】
1つの態様では、有機発光デバイスは、アノードと第1の発光層との間に配置されている正孔注入層を更に含む。1つのかかる実施形態では、正孔注入層は、第1の発光層に隣接している。1つの実施形態では、第1の発光層は、正孔注入層及び第1の発光層の複合厚みの少なくとも60%である厚みを有する。1つのかかる実施形態では、第1の発光層は、10nm〜150nmの厚みを有する。
【0084】
別の実施形態では、本開示は、アノードと、カソードと、前記アノードと前記カソードとの間に配置されている第1の発光層であって、第1の電子輸送化合物及び第1のリン光発光ドーパント化合物を含む第1の発光層と、前記第1の発光層と前記カソードとの間に配置されている第2の発光層とを含む積層有機発光デバイスであって、前記第1の発光層と前記第2の発光層との間に相互接続層が配置されている積層有機発光デバイスを提供する。第2の発光層は、第2の電子輸送化合物と第2のリン光発光ドーパント化合物とを含む。第1のリン光発光ドーパント化合物は、第1の発光層のカソード側から発光層のアノード側に向かって変化する第1の濃度勾配を有する。第2のリン光発光ドーパント化合物は、第2の発光層のカソード側から第2の発光層のアノード側に向かって変化する第2の濃度勾配を有する。積層有機発光デバイスの幾つかの実施形態では、前記デバイスは、2層超の発光層を含んでいてよい。1つの実施形態では、前記デバイスは、第1の発光層及び/又は第2の発光層に隣接して配置される正孔輸送層を有しない。
【0085】
1つの態様では、積層有機発光デバイスは、アノードと第1の発光層との間に配置されている正孔注入層を更に含む。1つの実施形態では、第1の発光層は、正孔注入層及び発光層の複合厚みの少なくとも60%である厚みを有する。1つのかかる実施形態では、第1の発光層は、10nm〜150nmの厚みを有する。
【0086】
かかる有機発光デバイスは、発光層におけるリン光発光ドーパント化合物の濃度が均一である等価なデバイスと比べて、励起子密度が発光層全体に均一に分布している。更に、かかる有機発光デバイスは、発光層におけるリン光発光ドーパント化合物の濃度が均一である等価なデバイスと比べて、少なくとも10%高い外部量子効率を有し得る。更に、有機発光デバイスは、1,000cd/mの初期輝度値が80%まで低下するのにかかる時間が、発光層におけるリン光発光ドーパント化合物の濃度が均一である等価なデバイスよりも少なくとも3.5倍長くなり得る。
【0087】
図4は、第1の発光層及び/又は第2の発光層において用いることができる様々な濃度勾配を示す。1つの実施形態では、濃度勾配は、発光層のカソード側から発光層のアノード側に向かって直線的に減少する。別の実施形態では、濃度勾配は、発光層のカソード側から発光層のアノード側に向かって直線的に増加する。更に他の実施形態では、濃度勾配は、段階的に変化する。1つの実施形態では、濃度勾配は、発光層のカソード側から発光層のアノード側まで均一な段階的勾配を含む。1つの実施形態では、濃度勾配は、発光層のカソード側から発光層のアノード側まで不均一な段階的勾配を含む。1つの実施形態では、濃度勾配は、発光層のカソード側から発光層のアノード側まで増加−減少勾配を含む。1つの実施形態では、濃度勾配は、発光層のカソード側から発光層のアノード側に向かって増加する階段勾配を含む。1つの実施形態では、濃度勾配は、発光層のカソード側から発光層のアノード側に向かって増加する段階的勾配を含む。これらは、リン光発光ドーパント化合物が発光層のカソード側から発光層のアノード側まで均一に分散している従来技術の有機発光デバイスとは対照的である。
【0088】
1つの実施形態では、リン光発光ドーパント化合物の濃度勾配は、第1の発光層のカソード側から第1の発光層のアノード側に向かって減少してよい。濃度勾配は、第1の発光層のカソード側に向かって直線的に又は非直線的に減少してよい。濃度勾配が非直線的に変化する場合、非直線性は、正弦状関数;二次関数、三次関数、又はより高次の関数を含む多項式関数に対応し得る。1つの実施形態では、リン光発光ドーパント化合物の濃度は、第1の発光層のカソード側から第1の発光層のアノード側へ30重量%から5重量%に、又は30重量%から0重量%に減少し、電子輸送化合物の濃度は、70重量%から95重量%に、又は70重量%から100重量%に変化する。第1の発光層−電子輸送層の界面では、電子輸送化合物の濃度は、0重量%〜15重量%である。
【0089】
別の実施形態では、濃度勾配は、段階的に減少する。リン光発光ドーパント化合物は、発光層において、複数の高濃度ドーパント領域及び複数の低濃度ドーパント領域として減少しながら分散していてよい。1つの実施形態では、リン光発光ドーパント化合物は、高濃度ドーパント領域において直線的に、又は高濃度ドーパント領域において非直線的に分散していてよい。1つの実施形態では、リン光発光ドーパント化合物は、低濃度ドーパント領域において直線的に、又は低濃度ドーパント領域において非直線的に分散していてよい。リン光発光ドーパント化合物が、高濃度ドーパント領域又は低濃度ドーパント領域のいずれかにおいて非直線的に分散している場合、非直線性は、正弦状関数;二次関数、三次関数、又はより高次の関数を含む多項式関数に対応していてよい。1つの実施形態では、高濃度ドーパント領域におけるリン光発光ドーパントの濃度は、5重量%〜30重量%であり、電子輸送化合物の濃度は、95重量%〜70重量%である。1つの実施形態では、低濃度ドーパント領域におけるリン光発光ドーパントの濃度は、0重量%〜15重量%であり、電子輸送化合物の濃度は、100重量%〜85重量%である。かかる実施形態では、リン光発光ドーパントの濃度は、各高濃度ドーパント領域及び低濃度ドーパント領域全体に亘って一定である。他のかかる実施形態では、リン光発光ドーパントの濃度は、各高濃度ドーパント領域及び低濃度ドーパント領域において直線的に又は非直線的に変化する。
【0090】
また、複数の第1のドーパント領域及び複数の第2のドーパント領域として発光層中にリン光発光ドーパント化合物を分散させることによって段階的に減少する濃度勾配を得ることもでき、前記第1のドーパント領域は、前記第2のドーパント領域よりも広い。
【0091】
別の実施形態では、リン光発光ドーパント化合物の濃度勾配は、発光層のカソード側から発光層のアノード側に向かって増加してよい。濃度勾配は、第1の発光層のカソード側に向かって直線的に又は非直線的に増加してよい。濃度勾配が非直線的に変化する場合、非直線性は、正弦状関数;二次関数、三次関数、又はより高次の関数を含む多項式関数に対応していてよい。1つの実施形態では、リン光発光ドーパント化合物の濃度は、第1の発光層のカソード側から第1の発光層のアノード側へ5重量%から30重量%に、又は0重量%から30重量%に増加し、電子輸送化合物の濃度は、95重量%から70重量%に、又は100重量%から70重量%に変化する。第1の発光層−電子輸送層の界面では、電子輸送化合物の濃度は、15重量%〜0重量%である。
【0092】
別の実施形態では、濃度勾配は、段階的に増加する。リン光発光ドーパント化合物は、複数の高濃度ドーパント領域及び複数の低濃度ドーパント領域として発光層中に増加しながら分散していてよい。リン光発光ドーパント化合物は、高濃度ドーパント領域において直線的に分散していてもよく、高濃度ドーパント領域において非直線的に分散していてよい。リン光発光ドーパント化合物は、低濃度ドーパント領域において直線的に分散していてもよく、低濃度ドーパント領域において非直線的に分散していてよい。高濃度ドーパント領域又は低濃度ドーパント領域のいずれかについてリン光発光ドーパント化合物が非直線的に分散していている場合、非直線性は、正弦状関数;二次関数、三次関数、又はより高次の関数を含む多項式関数に対応していてよい。1つの実施形態では、高濃度ドーパント領域におけるリン光発光ドーパントの濃度は、5重量%〜30重量%であり、電子輸送化合物の濃度は、95重量%〜70重量%である。1つの実施形態では、低濃度ドーパント領域におけるリン光発光ドーパントの濃度は、0重量%〜15重量%であり、電子輸送化合物の濃度は、100重量%〜85重量%である。かかる実施形態では、リン光発光ドーパントの濃度は、各高濃度ドーパント領域及び低濃度ドーパント領域全体に亘って一定である。他のかかる実施形態では、各高濃度ドーパント領域及び低濃度ドーパント領域において、リン光発光ドーパントの濃度は、直線的に又は非直線的に変化する。
【0093】
複数の第1のドーパント領域及び複数の第2のドーパント領域として発光層中にリン光発光ドーパント化合物を分散させることによって、段階的に増加する濃度勾配を得ることもでき、前記第2のドーパント領域は、前記第1のドーパント領域よりも広い。
【0094】
積層有機発光デバイスの実施形態では、第1の濃度勾配は、第2の濃度勾配と異なっていてよい。別の実施形態では、第1の濃度勾配は、第2の濃度勾配と同一であってよい。
【0095】
1つの実施形態では、リン光発光ドーパント化合物の第1の濃度勾配は、第1の発光層のカソード側から第1の発光層のアノード側に向かって変化してよい。第1の濃度勾配は、第1の発光層のカソード側に向かって直線的に又は非直線的に変化してよい。第1の濃度勾配が非直線的に変化する場合、非直線性は、正弦状関数;二次関数、三次関数、又はより高次の関数を含む多項式関数に対応していてよい。かかる実施形態では、第1の濃度勾配は、第1の発光層のカソード側から発光層のアノード側に向かって減少するか、又は第1の発光層のカソード側から第1の発光層のアノード側に向かって増加する。1つの実施形態では、第1の濃度勾配における第1のリン光発光ドーパント化合物の濃度は、第1の発光層のカソード側から第1の発光層のアノード側へ30重量%から5重量%に、又は30重量%から0重量%に変化し、電子輸送化合物の濃度は、70重量%から95重量%に、又は70重量%から100重量%に変化する。第1の発光層−電子輸送層の界面では、電子輸送化合物の濃度は、0重量%〜15重量%である。
【0096】
1つの実施形態では、第2のリン光発光ドーパント化合物の第2の濃度勾配は、第2の発光層のカソード側から第2の発光層のアノード側に向かって変化し得る。第2の濃度勾配は、第1の発光層のカソード側に向かって直線的に又は非直線的に変化し得る。第2の濃度勾配が非直線的に変化する場合、非直線性は、正弦状関数;二次関数、三次関数、又はより高次の関数を含む多項式関数に対応し得る。かかる実施形態では、第2の濃度勾配は、第2の発光層のカソード側から第2の発光層のアノード側に向かって減少するか、又は第2の発光層のカソード側から第2の発光層のアノード側に向かって増加する。1つの実施形態では、第2のリン光発光ドーパント化合物の濃度は、第2の濃度勾配において、第1の発光層のカソード側から第1の発光層のアノード側へ30重量%から5重量%に、又は30重量%から0重量%に変化し、電子輸送化合物濃度は、70重量%から95重量%に、又は70重量%から100重量%に変化する。第2の発光層−相互接続層の界面では、電子輸送化合物濃度は、0重量%〜15重量%である。
【0097】
別の実施形態では、第1の濃度勾配は、段階的に変化し得る。第1のリン光発光ドーパント化合物は、複数の高濃度ドーパント領域及び複数の低濃度ドーパント領域として第1の発光層に分散していてよい。1つの実施形態では、第1のリン光発光ドーパント化合物は、高濃度ドーパント領域において直線的に分散していてもよく、高濃度ドーパント領域において非直線的に分散していてもよい。1つの実施形態では、第1のリン光発光ドーパント化合物は、低濃度ドーパント領域において直線的に分散していてもよく、低濃度ドーパント領域において非直線的に分散していてもよい。第1のリン光発光ドーパント化合物が非直線的に分散している場合、高濃度ドーパント領域又は低濃度ドーパント領域のいずれかについて、非直線性は、正弦状関数;二次関数、三次関数、又はより高次の関数を含む多項式関数に対応し得る。
【0098】
1つの実施形態では、第1の濃度勾配の高濃度ドーパント領域におけるリン光発光ドーパント濃度は、5重量%〜30重量%であり、電子輸送化合物濃度は、95重量%〜70重量%である。1つの実施形態では、第1の濃度勾配の低濃度ドーパント領域におけるリン光発光ドーパント濃度は、0重量%〜15重量%であり、電子輸送化合物濃度は、100重量%〜85重量%である。かかる実施形態では、リン光発光ドーパント濃度は、各高濃度ドーパント領域及び低濃度ドーパント領域全体に亘って一定である。他のかかる実施形態では、リン光発光ドーパント濃度は、各高濃度ドーパント領域及び低濃度ドーパント領域において直線的又は非直線的に変化する。
【0099】
別の実施形態では、第2の濃度勾配は、段階的に変化し得る。第2のリン光発光ドーパント化合物は、複数の高濃度ドーパント領域及び複数の低濃度ドーパント領域として第2の発光層に分散していてよい。1つの実施形態では、第2のリン光発光ドーパント化合物は、高濃度ドーパント領域において直線的に分散していてもよく、高濃度ドーパント領域において非直線的に分散していてもよい。1つの実施形態では、第2のリン光発光ドーパント化合物は、低濃度ドーパント領域において直線的に分散していてもよく、低濃度ドーパント領域において非直線的に分散していてもよい。第のリン光発光ドーパント化合物が非直線的に分散している場合、各高濃度ドーパント領域又は低濃度ドーパント領域について、非直線性は、正弦状関数;二次関数、三次関数、又はより高次の関数を含む多項式関数に対応し得る。
【0100】
1つの実施形態では、第2の濃度勾配の高濃度ドーパント領域におけるリン光発光ドーパント濃度は、5重量%〜30重量%であり、電子輸送化合物濃度は、95重量%〜70重量%である。1つの実施形態では、第2の濃度勾配の低濃度ドーパント領域におけるリン光発光ドーパント濃度は、0重量%〜15重量%であり、電子輸送化合物濃度は、100重量%〜85重量%である。かかる実施形態では、リン光発光ドーパント濃度は、各高濃度ドーパント領域及び低濃度ドーパント領域全体に亘って一定である。他のかかる実施形態では、リン光発光ドーパント濃度は、各高濃度ドーパント領域及び低濃度ドーパント領域において直線的又は非直線的に変化する。
【0101】
第2のドーパント領域が第1又は第2の発光層のカソード側に位置している場合、複数の第1のドーパント領域及び複数の第2のドーパント領域として、リン光発光ドーパント化合物を発光層に分散させることによって、第1の濃度勾配又は第2の濃度勾配を段階的に変化させることもできる。1つの実施形態では、第1のドーパント領域は、第2のドーパント領域よりも広い。1つの実施形態では、第2のドーパント領域は、第1のドーパント領域よりも広い。
【0102】
第1の発光層及び/又は第2の発光層は、単独で又は組み合わせて所望のスペクトルの光を発することができる1以上のリン光発光ドーパント化合物を含んでいてよい。リン光発光材料の例としては、Ir(ppy)が挙げられる。多くの有用な発光材料は、金属中心に結合している1以上の配位子を含む。配位子は、有機金属発光材料の発光性に直接寄与する場合、「光活性配位子」と呼ばれることもある。「光活性」配位子は、金属と一緒に、光子が放出されるときに電子がそこから又はそこに移動するエネルギー準位を提供し得る。他の配位子は、「補助配位子」と呼ばれることもある。補助配位子は、例えば、光活性配位子のエネルギー準位をシフトさせることによって分子の光活性を変化させることができるが、補助配位子は、光の放出に直接関与するエネルギー準位を直接提供することはない。ある分子において光活性である配位子が、別の分子では補助配位子である場合もある。光活性及び補助のこれら定義は、非限定的な説であることが意図される。例示的なリン光発光ドーパント化合物は、米国特許第7,534,505号明細書、米国特許第7,393,599号明細書、米国特許第7,445,855号明細書、米国特許第7,338,722号明細書、及び米国特許第7,655,323号明細書に見出すことができ、これらはそれぞれ、参照することにより全文が本明細書に援用される。幾つかの実施形態では、リン光化合物は、発光ドーパントであってよい。幾つかの実施形態では、前記化合物は、リン光、蛍光、熱活性化遅延蛍光、即ち、TADF(E型遅延蛍光とも呼ばれる)、三重項−三重項消滅、又はこれらプロセスの組み合わせを介して発光することができる。
【0103】
1つの実施形態では、リン光発光ドーパント化合物は、500nm未満、好ましくは450nm未満のピーク発光波長を有する。かかるリン光発光ドーパント化合物の例示的な例は、米国特許第6,458,475号明細書、米国特許第7,294,849号明細書、及び米国特許第8,142,909号明細書に見出すことができ、これらはそれぞれ、全文が本明細書に援用される。
【0104】
発光層は、ホスト材料として電子輸送化合物を更に含んでいてよい。リン光発光ドーパント化合物が、電子輸送化合物のHOMO準位よりも少なくとも0.5eV低いHOMOエネルギー準位を有するように、電子輸送化合物は選択される。1つの実施形態では、電子は、主に電子輸送化合物によって輸送される。かかる実施形態では、リン光発光ドーパント化合物の濃度は、0重量%〜30重量%、又は5重量%〜30重量%であり、電子輸送化合物の濃度は、100重量%〜70重量%、又は95重量%〜70重量%である。
【0105】
1つの実施形態では、発光層は、コホスト材料として第2の電子輸送化合物を更に含んでいてよい。リン光発光ドーパント化合物が、第2の電子輸送化合物のHOMO準位よりも少なくとも0.5eV低いHOMOエネルギー準位を有するように、第2の電子輸送化合物は選択される。かかる実施形態では、電子輸送化合物及び第2の電子輸送化合物は、類似の三重項エネルギー、HOMO、及びLUMOを有するが、化学組成は異なる。かかる実施形態では、リン光発光ドーパント化合物の濃度は、0重量%〜30重量%、又は5重量%〜30重量%であり、第1及び第2の電子輸送化合物の合計濃度は、100重量%〜70重量%、又は95重量%〜70重量%である。
【0106】
電子輸送層は、電子を輸送することができる材料を含んでいてよい。電子輸送層は、真性(ドーピングされていない)であってもよく、ドーピングされていてもよい。ドーピングを用いて、伝導性を強化することができる。Alqは、真性電子輸送層の例である。n−ドープ型電子輸送層の例は、参照することにより全文が本明細書に援用される米国特許出願公開第20030230980号明細書(Forrestら)に開示されている通り、1:1のモル比にてLiでドーピングされているBPhenである。他の電子輸送層を用いてもよい。
【0107】
積層有機発光デバイスの実施形態では、図3に示す通り、前記デバイスは、相互接続層を含んでいてよく、正孔ブロック層、金属(例えば、リチウム又はセシウム)ドープ型電子輸送層、非常に薄い(<3nm)金属(例えば、銀又はリチウム)、及び薄い正孔注入層からなっていてもよい。ここで、正孔注入層は、有機であっても、金属酸化物であってもよい。正孔ブロック層、電子輸送層、及び正孔注入層の例示的な材料は、参照することにより全文が本明細書に援用される米国特許第7,683,536号明細書中に見出すことができる。
【0108】
カソード260は、カソード260が電子を伝導し、デバイス200の有機層に前記電子を注入することができるように、当技術分野において公知である任意の好適な材料又は材料の組み合わせであってよい。カソード260は、透明であっても、不透明であってもよく、反射性であってもよい。金属及び金属酸化物は、好適なカソード材料の例である。カソード260は、単層であってもよく、複合構造を有していてもよい。複合カソードでは、より厚い層164に好ましい材料としては、ITO、IZO、及び当技術分野において公知である他の材料が挙げられる。参照することにより全文が本明細書に援用される米国特許第5,703,436号明細書及び米国特許第5,707,745号明細書には、透明且つ導電性であるスパッタ蒸着されたITO層が重ねられている、Mg:Ag等の金属の薄層を有する複合カソードを含むカソードの例が開示されている。
【実施例】
【0109】
実験
【0110】
下記デバイスでは、それぞれ、fac−トリス[3−(2,6−ジメチルフェニル)−7−メチルイミダゾ[1,2−f]フェナントリジン]イリジウム(III)(「Ir(dmp)」)及び4,4’−ビス(3−メチルカルバゾール−9−イル)−2,2’−ビフェニル(MCBP)の青色ドーパント/ホストの組み合わせを用いた(Giebink,N.C.,D’Andrade,B.W.,Weaver,M.S.,Mackenzie,P.B.,Brown,J.J.,Thompson,M.E.& Forrest,S.R.Intrinsic luminance loss in phosphorescent small−molecule organic light emitting devices due to bimolecular annihilation reactions,J.Appl.Phys.103(2008)に既に報告されている)。
【0111】
比較デバイスD1は、アノードとしての120nmのITOと、正孔注入層(「HIL」)としての10nmのトリス(2−フェニルピリジン)イリジウム(「Ir(ppy)」)と、正孔輸送層(「HTL」)としての20nmの4,4’−ビス[N−(1−ナフチル)−N−フェニル−アミノ]−ビフェニル(NPD)と、発光層(「EML」)としての、体積濃度15%でMCBPに均一にドーピングされた40nmの青色発光ドーパントIr(dmp)と、正孔ブロック層(「HBL」)としての5nmのMCBP(ETLの一部とみなすこともできる)と、電子輸送層(「ETL」)としての25nmのトリス(8−ヒドロキシキノリン)アルミニウム(「Alq」)と、カソードとしての1nmのLiF及び100nmのアルミニウムとからなる。
【0112】
本発明のデバイスD2は、アノードとしての120nmのITOと、HILとしての10nmのIr(ppy)と、EMLとしての、体積濃度15体積%でMCBPに均一にドーピングされた50nmの青色発光ドーパントIr(dmp)と、HBLとしての5nmのMCBPと、ETLとしての25nmのAlqと、カソードとしての1nmのLiF及び100nmのアルミニウムとからなる。
【0113】
本発明のデバイスD3、D4、及びD5は、アノードとしての120nmのITOと、HILとしての10nmのIr(ppy)と、EMLとしての、体積濃度15%でMCBPに均一にドーピングされた50nmの青色発光ドーパントIr(dmp)と、HBLとしての5nmのMCBPと、ETLとしての25nmのAlqと、カソードとしての1nmのLiF及び100nmのアルミニウムとからなる。D3のEMLでは、Ir(dmp)は、18体積%(アノード近傍)から8体積%(カソード近傍)に位置と共に直線的に変化する濃度勾配でmCBPにドーピングされている。D4のEMLでは、Ir(dmp)は、EML/HIL界面における23%からEML/HBL界面における7%に位置と共に直線的に変化する濃度勾配でmCBPにドーピングされている。D5のEMLでは、Ir(dmp)は、EML/HIL界面における20%からEML/HBL界面における10%に位置と共に直線的に変化する濃度勾配でmCBPにドーピングされている。
【0114】
本発明のデバイスD6は、アノードとしての120nmのITOと、HILとしての10nmのIr(ppy)と、EMLとしての、体積濃度15%でMCBPに均一にドーピングされた60nmの青色発光ドーパントIr(dmp)と、HBLとしての5nmのMCBPと、ETLとしての25nmのAlqと、カソードとしての1nmのLiF及び100nmのアルミニウムとからなる。D6のEMLでは、EML/HIL界面から出発して、最初の30nmのIr(dmp)濃度は15体積%で均一であり、次いで、Ir(dmp)濃度3体積%の5nmの層とIr(dmp)濃度15体積%の5nmの層との二重層が3つ存在する(合計30nm)ような濃度勾配で、Ir(ppy)がmCBPにドーピングされている。
【0115】
本発明のデバイスD7は、アノードとしての120nmのITOと、HILとしての10nmのIr(ppy)と、EMLとしての、体積濃度15%でMCBPに均一にドーピングされた60nmの青色発光ドーパントIr(dmp)と、HBLとしての5nmのMCBPと、ETLとしての25nmのAlqと、カソードとしての1nmのLiF及び100nmのアルミニウムとからなる。D7のEMLでは、EML/HIL界面から出発して、最初の30nmのIr(dmp)濃度は15%で均一であり、次いで、以下の通りIr(dmp)濃度が徐々に変化する二重層:15%〜3%でIr(dmp)濃度が徐々に変化する5nmのIr(dmp)層、3%〜15%でIr(dmp)濃度が徐々に変化する5nmのIr(dmp)層が3対存在するような濃度勾配で、Ir(ppy)がmCBPにドーピングされている。
【0116】
第2の比較デバイスD8は、以下の構造を有していた:120nm ITOアノード/10nm ヘキサアザトリフェニレンヘキサカルボニトリル(HATCN)HIL/20nm NPD/40nm MCBP中Ir(dmp)/5nm mCBP HBL/ETLとしての30nmのAlq/1.5nm 8−ヒドロキシキノリナトリチウム(Liq)/100nmのAlカソード。
【0117】
本発明のデバイスD9は、以下の構造を有していた:120nm ITOアノード/10nm ヘキサアザトリフェニレンヘキサカルボニトリル(HATCN)HIL/50nm EML MCBP中Ir(dmp)/5nm MCBP HBL/ETLとしての30nm Alq/1.5nm 8−ヒドロキシキノリナトリチウム(Liq)/100nmのAlカソード。
【0118】
本発明のデバイスD10は、以下の構造を有していた:120nm ITOアノード/10nm ヘキサアザトリフェニレンヘキサカルボニトリル(HATCN)HIL/50nm EML Ir(dmp)(Ir(dmp)は、18%から8%に変化する)/5nm MCBP HBL/ETLとしての30nm Alq/1.5nm 8−ヒドロキシキノリナトリチウム(Liq)/100nmのAlカソード。
【0119】
本発明のデバイスD11は、2ユニット積層OLED(SOLED)である。D11の構造は、120nm ITO/10nm HATCN/50nm EML/5nm mCBP/5nmのAlq/70nm 2体積%のLiがドーピングされているAlq/10nm HATCN/50nm EML/5nm mCBP/25nmのAlq/1.5nm Liq/100nmのAlである。
【0120】
バックグラウンド圧が〜5×10−7トールであるシステムにおいて、ガラス基板上の予め洗浄しておいたITOに、熱蒸発によって薄膜を堆積させた。ピクセルを画定するポリイミド層における開口部によって画定される2mmの活性領域を有する、予めパターニングされているITO上でデバイスを成長させ、膜の堆積後に空気に曝露することなしに、酸素及び水濃度が<0.5ppmである超高純度Nを充填したグローブボックスにパッケージングした。EMLを感知する励起子のためのデバイスは、カソード堆積中に、シャドーマスクによって画定される0.785mmの活性領域を有する70nmのITO上で成長させた。
【0121】
Forrest,S.R.,Bradley,D.D.C.& Thompson,M.E.Measuring the efficiency of organic light−emitting devices.Adv.Mater.15,1043−1048(2003)によって報告されている標準的な手順に従って、パラメータアナライザー(HP4145、Hewlett−Packard)及び校正済みフォトダイオード(FDS1010−CAL、Thorlabs製)を用いて、電流密度−電圧−輝度(J−V−L)の特性を測定した。J=10mA/cmにおいて、校正済みファイバー結合型分光器(USB4000、Ocean Optics)を用いて発光スペクトルを測定した。定電流源(U2722、Agilent)によって駆動されるPHOLEDを用いて寿命試験を実施し、データロガー(Agilent 34972A)によって電圧及び輝度を記録した。
【0122】
21.2eVのエネルギーを有するHe Iα線からの照明を用いて、超高真空(UHV)分析チャンバにおいて有機膜の紫外光電子スペクトル(UPS)を測定した。
【0123】
EMLにおける電子及び正孔輸送の特性を評価するために、以下の構造:ITO/10nm NPD/60nm EML/10nm NPD/100nmのAlを有する正孔のみ(hO)のデバイスと、以下の構造:ITO/10nmのAlq/60nm EML/10nmのAlq/1.5nm Liq/100nmのAlを有する電子のみ(eO)のデバイスを作製した。これらデバイスのEMLは、0%(hO0及びeO0)、8%(hO1及びeO1)、13%(hO2及びeO2)、及び18%(hO3,hO3)の体積濃度でIr(dmp)がドーピングされたmCBPからなっていた。有機膜の堆積前に、hO0〜hO3については、ITOでコーティングされているガラス基板をUV−オゾンで10分間処理したが、eO0〜eO3は、前処理しなかった。
【0124】
正孔のブロッキング効率を測定し、延いては、D8〜D10における励起子形成領域の形状を決定するために、その相対発光強度からEMLにおける励起子の空間的分布についての情報を得ることができるドーパントであるイリジウム(III)ビス(2−フェニルキノリル−N,C2’)アセチルアセトネート(PQIr)を用いて、赤色発光「感知」薄層を含む一連の構造体を作製した。ここで、PQIrは、D1〜D3のEMLにおいて5mm離れた異なる位置に2体積%でコドーピングされており、ドーピング層の幅は、1.5nmである。PQIrのHOMO及びLUMOエネルギーは、それぞれ、真空レベルに対して5.0eV及び2.7eVであるので、このドーパントは、EMLに正孔をトラップするとは予測されない(Kanno,H.,Holmes,R.J.,Sun,Y.,Kena Cohen,S.& Forrest,S.R.White Stacked Electrophosphorescent Organic Light Emitting Devices Employing MoO3 as a Charge Generation Layer.Advanced Materials 18,339−342(2006))。また、ドーピング濃度が低く且つ感知層が狭いことから、EMLにおける電荷輸送及び再結合性に大きな影響を与えることはないはずである。これは、感知層を有するデバイスと有しないデバイスとの間でJ−V特性が殆ど同一であることによって確認されている。
【0125】
また、発光層がリン光発光ドーパント化合物と2つのコホストとを含有するデバイスも調製した。前記デバイスは、以下の通りである:
【0126】
D12:Irppy100/NPD200/mCBP:Blue15% 400/mCBP50/Alq250;D13:Irppy100/mCBP:Blue15% 600/mCBP50/Alq250;D14:Irppy100/mCBP(55%):TcTa(30%):Blue(15%)600/mCBP(65%):TcTa(35%)50/Alq250;D15:Irppy100/mCBP(55%):TcTa(30%):Blue(15%)600/mCBP50/Alq250;D16:Irppy100/mCBP(1.1A/s):TcTa(0.6A/s):Blue(0.5A/s−0.15A/s)600/mCBP50/Alq250;及びD17:Irppy100/mCBP(1.7A/s):Blue(0.5A/s−0.15A/s)600/mCBP50/Alq250。
【0127】
図27〜30は、それぞれ、デバイスD12〜D15について、(a)電流密度(mA/cm)対電圧(V)のプロット;(b)外部量子効率対電流密度(mA/cm)のプロット;(c)経時に伴う電圧変化のプロット;及び(d)効率対時間のプロットを示す。
【0128】
図31〜34は、それぞれ、デバイスD13、D15、D16、及びD17について、(a)電流密度(mA/cm)対電圧(V)のプロット;(b)外部量子効率対電流密度(mA/cm)のプロット;(c)経時に伴う電圧変化のプロット;及び(d)効率対時間のプロットを示す。
【0129】
結果及び考察
【0130】
図5、7、9、11、13、及び15は、それぞれ、D1に比べてD2、D3、D4、D5、D6、及びD7の外部量子効率(EQE)が改善されていることを示す。
【0131】
図6、8、10、12、14、及び16は、それぞれ、D1に比べてD2、D3、D4、D5、D6、及びD7の動作寿命(即ち、定電流動作モードにおける時間の関数としての効率の減衰)が改善されていることを示す。尚、本明細書では、全てのデバイスを3,000cd/mの初期輝度で測定した。したがって、これら測定の動作電流は、D1〜D7について、それぞれ、22.5mA/cm、22.8mA/cm、21.0mA/cm、21.0mA/cm、21.1mA/cm、20.4mA/cm、21.6mA/cmである。
【0132】
デバイスの動作寿命が、デバイス効率が初期効率の80%まで低下するのにかかる時間(T80)として定義される場合、D1〜D7の寿命は、それぞれ、10.7時間、20.9時間、27.4時間、31.6時間、37.9時間、33.2時間、及び30.7時間である。劣化加速係数が1.5であると仮定すると、1,000cd/mにおけるデバイス寿命は、3,000cd/mにおけるデバイス寿命よりも約5.2倍長くなり得る。
【0133】
2ユニット積層OLED(SOLED)については、2つのEMLを利用しているので、各EMLの輝度は、デバイスD2〜D7の改善された輝度の半分あればよいと予測される(即ち、SOLEDのEQEは、D2〜D7の2倍であると予測される)。したがって、劣化加速係数が1.5であると仮定すると、動作寿命は、以前の改善の2.8倍改善されるはずである。このアプローチとドーピングプロファイルを徐々に変化させることによって得られる最高の寿命改善とを組み合わせると、合計の寿命改善は、対照デバイスの約10倍であると予測される。
【0134】
D2におけるEQE及び寿命がD1に比べて改善される理由は、非放射再結合ではなく、発光を通じて三重項励起子が有効に回収されるためである。NPDは、青色発光ドーパントの三重項エネルギーよりも低い2.3eVの三重項準位を有するので、EML/HTL界面は、三重項励起子を有効に閉じ込めることができず、EQEが低下する。また、NPDにおける非放射三重項崩壊は、HTLにおけるエネルギーの散逸を引き起し、劣化を引き起こす場合がある。また、NPDは、正孔輸送のみの場合でさえも、不安定であることが既に見出されている。
【0135】
D3〜D7におけるEQE及び寿命がD2に比べて改善される理由は、再結合領域が広がったためである。EMLでは、電子及び正孔の輸送のフロンティア軌道準位は、ゲスト分子が正孔トランスポーター及び電子ブロッカーであり、且つホスト分子が電子トランスポーター及び正孔ブロッカーであるような準位である。D3〜D5については、ゲスト濃度を傾斜させることによって、D2のように急なブロック界面に面するのではなく、正孔は、カソードに向かって徐々にブロックされ、電子は、アノードに向かって徐々にブロックされる。D6〜D7については、EMLに反復する高/低ドーピングプロファイルを導入することによって、D2のEML/HBL界面においてブロック界面が1つしか存在しないのとは対照的に、複数の励起子ブロック界面がEML中に存在する。
【0136】
図18a及び18bは、図17に示すデバイスD8〜D11の電流密度−電圧−輝度(J−V−L)、外部量子効率(EQE)、及び発光スペクトル特性を示す。これらは、表1に要約される。D8のHTLをD9のEMLで置換することにより、予想通り、動作電圧が増大する。また、EMLにおいて傾斜ドーピングプロファイルを使用することによって(D10)、均一なD9と比べて動作電圧が低下する。更に、4つのデバイスの発光スペクトルは全て同等であり、D8及びD9のEQEは、1mA/cm超でも殆ど同一である。D10のEQEは、D8及びD9のEQEよりも10%超高い。積層OLEDについて予測される通り、D11は、D3と比べて略2倍の電圧及びEQEを有し(Forrest,S.,Burrows,P.,Shen,Z.,Gu,G.,Bulovic,V.& Thompson,M.,The stacked OLED(SOLED): a new type of organic device for achieving high−resolution full−color displays, Synthetic Metals 91,9−13(1997))、例えば、10mA/cmでは、D11は、D10の8.5V及び9.3%に対して、電圧17.4V及びEQE=17.2%で動作する。これは、Cho,T.−Y.,Lin,C.−L.& Wu,C.−C.Microcavity two−unit tandem organic light−emitting devices having a high efficiency.Appl.Phys.Lett.88,111106−111106−111103(2006)に報告されている通り、積層素子間の層における電荷発生における非効率性及び積層体内の光学場分布に起因する、積層デバイスにおける僅かであるが測定可能な損失を示す。
【0137】
様々なEMLにおける電荷輸送特性を理解するために、mCBP、Ir(dmp)、及びmCBPに堆積しているIr(dmp)の薄膜の紫外光電子スペクトル(UPS)を測定した。図22は、ITO上のmCBP及びIr(dmp)3の厚み50nmの層、及びITO上の50nmのmCBP上の50nmのIr(dmp)からのUPSを示す。mCBP及びIr(dmp)の最高被占分子軌道エネルギー(HOMO)は、それぞれ、6.0±0.1eV及び4.6±0.1eVである。双極子エネルギーシフトを〜0.4eVであるとみなした後、mCBPにIr(dmp)が堆積している場合のmCBP及びIr(dmp)のHOMOエネルギーは、図19に示す通り、それぞれ、6.0eV及び5.0eVである。したがって、十分な高濃度では、ドーパントは、EMLにおける正孔輸送を支持すると予測される。
【0138】
正孔のみのデバイス及び電子のみのデバイスについての電流密度−電圧(J−V)特性を図23a及び23bに示す。図示する伝導機構は、mCBPにおけるIr(dmp)濃度を増大させたときに正孔輸送の改善を示す正孔のみのデバイスのJ−V特性によって確認される。hOデバイスのJsは、Ir(dmp)のドーピング濃度が増大するにつれて増大する。これは、EMLにおける正孔輸送がIr(dmp)を通じたものであるというUPS結果と一致する。また、電子のみのデバイスの伝導特性は、EMLにおける電子輸送がmCBPのみを通じて生じることを示す。図23bに示す通り、eOデバイスのJsは、異なるIr(dmp)濃度において殆ど同一で維持され、これは、EMLにおける電子輸送がmCBPを通じたものであることを示唆するものである。
【0139】
この構造では、mCBPの最低空分子軌道(LUMO)における電子とIr(dmp) HOMOにおける正孔とが再結合して、エキシプレックスが生じる。PHOLEDの発光は、Ir(dmp)のリン光のみであるので、中間エキシプレックス状態は、そのエネルギーをIr(dmp)三重項に速やかに移動させる。尚、mCBPにおける電子がIr(dmp)における正孔と再結合するときの熱的損失は、mCBP HOMOにおける正孔よりも1.0eV低く、このことは、青色PHOLED及びD8における比較的高い動作安定性に寄与している(これは、Giebinkらによって既に報告されている)。
【0140】
D10の傾斜EMLにおける正孔伝導は、Ir(dmp)の濃度増大に起因して、正孔注入層(HIL)/EML界面への距離が減少するにつれて増大する。EML/正孔ブロック層(HBL)界面に向かう反対方向では、正孔伝導は減少するが、電子伝導は、略一定で維持される。したがって、D8及びD9のEML/HBL界面による急な正孔ブロッキングとは対照的に、図20では、正孔は、D10のEMLにおける正孔伝導性勾配によって徐々にブロックされる。その結果、D10における励起子形成は、図20に示すD8又はD9と比べて、より長い距離に亘って生じる。
【0141】
EMLにおける励起子密度プロファイルは、「プローブ」デバイスにおける発光スペクトルI(λ)、EQE、及びアウトカップリング係数から計算される。D8〜D10のEMLにおける励起子密度対位置を計算し、結果を図10に示す(Celebi,K.,Heidel,T.& Baldo,M.,Simplified calculation of dipole energy transport in a multilayer stack using dyadic Green’s functions,Optics Express 15,1762−1772(2007))。図23a及び23bは、D9で使用されるEMLについて、デバイスから得られた例示的な発光スペクトルを示す。
【0142】
λ=466nmの波長におけるピーク強度(I)、及びλ=595nmにおける対照デバイスからの発光強度を前記ピークから減じたもの(I)から、式(1)における
【数1】
は、
【数2】
を用いて計算することができる。r(x)を図24に示す。
【0143】
また、式(1)における他の2つの項、即ち、EQE(x)及びη(x)も図24に示す。尚、図23bにおけるxの誤差は、〜3nmであるIr(dmp)からPQIrまでのForster移動半径を決定することから求められ、図23bにおけるyの誤差範囲は、EQEの偏差から求められる。
【0144】
図25は、10mA/cmにおける感知デバイスの電圧を示し、大まかに言って、電圧は、PQIrセンサの存在とは無関係であることを示す。したがって、EMLにおける輸送及び再結合特性は、PQIrドーピングによって影響を受けないと予測される。
【0145】
D8(即ち、従来の青色PHOLE)では、EML/HBL界面において励起子が著しく蓄積する。HTLが存在しないD9では、HIL/EML界面における励起子密度が低下するが、それは、対応して正孔が低濃度であることに起因する。しかし、正孔輸送効率の低下により、電子は、EMLに深く浸透するので、HIL/EML界面近傍でピーク励起子密度が生じる。対照的に、D10ではHIL/EML界面近傍における効率的な正孔輸送及びEMLにおける緩やかな正孔ブロッキングにより、D8及びD9に比べて励起子分布がより均一になり、ピーク密度はEMLの中心の近傍である。図20に示す通り、D10のEMLとD11のEMLとは同一であるので、D11の励起子密度プロファイルは、EQEが略2倍であることから(10mA/cmにおける)D10の励起子密度の53%であると推定される。
【0146】
図21a〜21dは、それぞれ、2つの初期輝度:L=3,000cd/m及び1,000cd/mについて、室温及び一定電流密度で試験した、D8、D10、及びD11のL及びVの時間変化を示す。また、図21a〜21bは、L=3,000cd/mで試験したD9について、これらと同じ特性を示す。寿命は、D8からD11へ増加傾向を示す。例えば、L=3,000cd/におけるD8〜D11のT80は、それぞれ、11.5時間、24.5時間、39時間、及び106時間であり、図20の後者の2つのデバイスの励起子形成領域が広がっていることと一致する。更に、L=1,000cd/mにおけるD11のT80は、616±10時間であり、これは、既に研究されている対照であるD8に比べて10倍超改善されていることを示す(Giebink,N.C.,D’Andrade,B.W.,Weaver,M.S.,Mackenzie,P.B.,Brown,J.J.,Thompson,M.E.& Forrest,S.R.,Intrinsic luminance loss in phosphorescent small−molecule organic light emitting devices due to bimolecular annihilation reactions,J.Appl.Phys.103(2008)に報告されている)。D11におけるT50の改善は、T80よりも僅かに有為に少なく、D8からは約7倍増加する。
【0147】
励起子密度プロファイルと動作寿命との定量的な関係を確立するために、Giebinkらに従って時間tの関数としてL及びVをモデル化した。リン光低分子有機発光デバイスにおける固有輝度損失は、二分子消滅反応に起因する。簡潔に述べると、L及びVの低下の理由は、速度kにおいてTPAに起因してEMLに欠陥(又はトラップ)が形成されるためである。以下のトラップ二分子相互作用が考えられる:速度kQn=1.44×10−13cm−1におけるトラップ電子消滅、速度kQp=4.8×10−14cm−1におけるトラップ正孔消滅、及び速度kQNにおけるトラップ三重項励起子消滅(Giebink,N.C.,D’Andrade,B.W.,Weaver,M.S.,Mackenzie,P.B.,Brown,J.J.,Thompson,M.E.& Forrest,S.R.Intrinsic luminance loss in phosphorescent small−molecule organic light emitting devices due to bimolecular annihilation reactions.J.Appl.Phys.103(2008))。トラップ形成は、局所励起子密度に依存するので、図20における密度プロファイルを用いてPHOLED劣化をモデル化した。このモデルは、自由パラメータとしてk及びkQNを用いてD8〜D11の劣化にフィッティングする(表1)。他の全てのパラメータは、Giebinkらによって報告されているように、この材料の組み合わせについて既に決定されている通りである。
【0148】
堆積中に有機膜に水が混入すると、PHOLEDの堆積バックグラウンド圧がD1と殆ど同一である5×10−8トール超である場合、初期バーンインを加速させる(Yamamoto,H.,Brooks,J.,Weaver,M.,Brown,J.,Murakami,T.& Murata,H.Improved initial drop in operational lifetime of blue phosphorescent organic light emitting device fabricated under ultra high vacuum condition.Applied Physics Letters 99,033301(2011))。本発明の場合、有機膜をベース圧力5×10−7トールのシステムで堆積させた。しかし、TPAモデルでは、水の混入等の外因性の効果を無視する。したがって、発明者らによるフィッティングにおけるこの効果を説明するために、t=0を0.95の正規化輝度に対応させ、その初期値からの電圧変化(即ち、ΔV=|V(t=0)−V(t)|)をゼロ以外になるように選択した(方法を参照)。
【0149】
表1から、D8及びD9におけるk及びkQNは、殆ど同一であり、このことは、D8からD9への動作寿命の改善が、単に、励起子密度プロファイルの変化の結果であることを示唆する。D10では、寿命の著しい延長は、EQEの増大(所与のLを達成するためにJを減少させる)及び励起子形成領域の広がりに起因する。尚、TPAモデルは、Wang,Q.& Aziz,H.Degradation of Organic/Organic Interfaces in Organic Light−Emitting Devices due to Polaron−Exciton Interactions.ACS Applied Materials& Interfaces 5,8733−8739(2013)に報告されている通り、薄膜バルクにおける劣化を考慮しているが、界面における劣化は考慮していない。実際、D10のEML/HBL界面における励起子密度が低いことは、この界面における損傷の速度を低下させることによって、観察される寿命延長に寄与することができる。
【0150】
D10及びD11についてL=1,000cd/mにおけるT50を推定するために、TPAモデルのフィッティングから得られる時間を外挿法によって推定する。更に、OLED劣化をモデル化するために使用されることの多い経験的方法は、調整された指数関数的減衰関数:
【数3】
を用いる(Feary,C.,Racine,B.,Vaufrey,D.,Doyeux,H.& Cinae,S.Physical mechanism responsible for the stretched exponential decay behavior of aging organic light−emitting diodes.Applied Physics Letters 87,−(2005))。
【0151】
式中、τ及びβは、現象学的パラメータである。また、このモデルによって、劣化データに対する合理的なフィッティングが行われ(図21c)、物理学に基づくTPAモデルから得られるものに類似したT50の外挿値が得られる(表1)。これらのフィッティングから、D11についてはL=1,000cd/mにおけるT50は3,500時間であり、これは、Shirota,Y.& Kageyama,H.Charge carrier transporting molecular materials and their applications in devices.Chem.Rev.107,953−1010(2007)によって報告されている、青色蛍光OLEDのT50、〜10時間に近付く。尚、D8〜D11は、ライトブルーでしかない(しかし、FIrpicのシアン色よりも飽和している)。しかし、より飽和している青色発光を得るための色調整は、一般的に、マイクロキャビティ及び/又はカラーフィルタの使用を通して蛍光青色ディスプレイサブピクセルにおいて実現される(Bulovic,V.,Khalfin,V.B.,Gu,G.,Burrows,P.E.,Garbuzov,D.Z.& Forrest,S.R.Weak microcavity effects in organic light−emitting devices.Phys.Rev.B 58,3730−3740(1998)及びXiang,C.,Koo,W.,So,F.,Sasabe,H.& Kido,J.,systematic study on efficiency enhancements in phosphorescent green,red and blue microcavity organic light emitting devices,Light:Science& Applications 2,e74(2013))。例えば、厚み70nmのインジウムスズオキシド(ITO)のアノードは、厚み120nmのITO層の[0.16,0.31]に対して、弱いマイクロキャビティ効果により、[0.16,0.26]のCIE座標が得られる(Yamamoto,H.,Brooks,J.,Weaver,M.,Brown,J.,Murakami,T.& Murata,H.,Improved initial drop in operational lifetime of blue phosphorescent organic light emitting device fabricated under ultra high vacuum condition,Applied Physics Letters 99,033301(2011))。
【0152】
また、図26において厚み120nm及び70nmのITOを含む基板についてD1の発光スペクトルを比較することによって、弱いマイクロキャビティ効果が観察された。長波長における抑制された発光は、したがって70nmITOサンプルにおける改善された青色CIE色座標は、弱いマイクロキャビティ効果に起因するものである。
【0153】
EMLにおける局所励起子密度N(x)は、発光スペクトルや外部量子効率EQE(x)の測定値、及びアウトカップリング係数の計算値η(x)(PQIr発光スペクトルのピークに対応する595nmの波長における)から、以下を用いて位置xにおけるPQIr感知層を含むPHOLEDから計算される:
【数4】
【0154】
ここで、Aは、
【数5】
であるような正規化係数であり、
【数6】
は、発光スペクトルの赤色ピークと青色ピークとの比から得られる、Ir(dmp)に対するPQIrからのアウトカップリング光子数比である。
【0155】
TPAに起因するトラップ(密度Q(x,t))形成、次いで、密度n(x,t)を有する電子、密度p(x,t)を有する正孔、及び密度N(x,t)を有する励起子との消滅を推定することによって、Giebinkらに従ってL(t)及びV(t)の時間変化をモデル化した:
【数7】
ここで、r=1.7×10−13cm−1は、ランジュバン再結合速度であり、τ=1.1μsは、三重項の寿命であり、G(x)は、局所再結合速度であり、
【数8】
(式中、eは、電子電荷である。)
を用いて局所励起子密度N(x)から計算される。L=1,000cd/mにおける電流密度は、表1に示す通りであり、3,000cd/mにおける電流密度は、それぞれ、D8、D9、D10、及びD11についてJ=21mA/cm、21mA/cm、17.5mA/cm、及び9.1mA/cmである。トラップ形成は、
【数9】
を用いてTPAに帰する。
次いで、
【数10】
(式中、Bは、正規化係数であり、η(x)は、Ir(dmp)について466nmのピーク発光波長におけるアウトカップリング係数の計算値であり、ε=3は、比誘電率であり、εは、真空誘電率である)。デバイス製造中の水の混入の効果を説明するために、L(0)を0.95に正規化し、D8〜D10についてΔV(0)=0.2V(3,000cd/mにおいて)及び0.3V(1,000cd/mにおいて)であり、D11について0.1V(3,000cd/mにおいて)及び0.15V(1,000cd/mにおいて)である。
【0156】
本明細書で報告する青色PHOLEDの寿命は、同様の輝度の赤色及び緑色のPHOLEDよりも依然として顕著に短いが、ディスプレイにおける青色サブピクセルは、赤色又は緑色のサブピクセルよりも顕著に低い輝度で動作する。例えば、緑色のsRGB色域を得るために必要な輝度は、青色の輝度の9.9倍である(Stokes,M.,Anderson,M.,Chandrasekar,S.& Motta,R.A standard default color space for the internet−srgb.Microsoft and Hewlett−Packard Joint Report(1996))。したがって、ディスプレイの青色PHOLEDの寿命と緑色PHOLEDの寿命とを比較すると、青色PHOLEDのサブピクセルの輝度は、緑色の〜10%しか必要ないことが示唆される。かかる条件(即ち、100cd/m)下では、TPAモデルは、青色PHOLEDの寿命が70,000時間であると推定する。また、輝度を寿命に関連付ける劣化促進係数、即ち、
【数11】
及びn=1.55を用いると、外挿した青色PHOLEDの寿命は、1.3×10時間である(Feary,C.,Racine,B.,Vaufrey,D.,Doyeux,H.& Cinae,S.Physical mechanism responsible for the stretched exponential decay behavior of aging organic light−emitting diodes.Applied Physics Letters 87,−(2005))。これは、L=1,000cd/mにおける市販の緑色PHOLEDの寿命(10時間)に近付く。
【0157】
要約すると、EMLにおける正孔伝導性リン光ドーパントの濃度プロファイルを傾斜させることによって得られる広い励起子形成領域を使用する青色PHOLEDの寿命は、10倍延びることが示された。ディスプレイで用いられる様々な色のサブピクセルの輝度を考慮すると、積層デバイスにおいて得られる青色PHOLEDの寿命の改善は、正常動作条件下における緑色PHOLEDの寿命に近付く。使用される新規デバイス構造は、エネルギー駆動三重項−ポーラロン消滅とデバイス劣化との関係に関する基本的な物理学的知見に基づいており、したがって、一般的に、広範なリン光デバイス及び蛍光デバイスに適用可能であるはずである。本明細書で用いた材料に類似し、ドーパントにおける三重項とホスト分子におけるポーラロンとの間の相互作用を最小化し、それによって、分子の分解を導き、延いては、経時的に輝度を喪失させる高エネルギーTPA相互作用の発生可能性を低下させる伝導特性を有するドーパント/ホストの組み合わせを見出すことによって、更なる寿命の改善が期待される。
【表1】
【先行技術文献】
【特許文献】
【0158】
【特許文献1】米国特許第5,844,363号明細書
【特許文献2】米国特許第6,303,238号明細書
【特許文献3】米国特許第5,707,745号明細書
【特許文献4】米国特許第7,279,704号明細書
【非特許文献】
【0159】
【非特許文献1】Tang,C.& VanSlyke,S.Organic electroluminescent diodes.Appl.Phys.Lett.51,913(1987)
【非特許文献2】National Research Council,Assessment of Advanced Solid−State Lighting.(The National Academies Press,2013)
【非特許文献3】Chung,H.−K.The Challenges and Opportunities of Large OLED TVs,SID Information Display29,4(2013)
【非特許文献4】Baldo,M.A.,O’Brien,D.F.,You,Y.,Shoustikov,A.,Sibley,S.,Thompson,M.E.& Forrest,S.R.Highly efficient phosphorescent emission from organic electroluminescent devices,Nature395,151−154(1998)
【非特許文献5】Tsujimura,T.OLED Displays:Fundamentals and Applications.(John Wiley& Sons,Inc.,2012)
【非特許文献6】Giebink,N.C.,D’Andrade,B.W.,Weaver,M.S.,Mackenzie,P.B.,Brown,J.J.,Thompson,M.E.& Forrest,S.R.,Intrinsic luminance loss in phosphorescent small−molecule organic light emitting devices due to bimolecular annihilation reactions,J.Appl.Phys.103(2008)
【非特許文献7】Giebink,N.,DAndrade,B.,Weaver,M.,Brown,J.& Forrest,S.,Direct evidence for degradation of polaron excited states in organic light emitting diodes,J.Appl.Phy.105,124514−124517(2009)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18a
図18b
図19
図20
図21a
図21b
図21c
図21d
図22
図23a
図23b
図24
図25
図26
図27
図28
図29
図30
図31
図32
図33
図34