特許第6576055号(P6576055)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社UACJの特許一覧

特許6576055プレコートフィン及びこれを用いた熱交換器
<>
  • 特許6576055-プレコートフィン及びこれを用いた熱交換器 図000004
  • 特許6576055-プレコートフィン及びこれを用いた熱交換器 図000005
  • 特許6576055-プレコートフィン及びこれを用いた熱交換器 図000006
  • 特許6576055-プレコートフィン及びこれを用いた熱交換器 図000007
  • 特許6576055-プレコートフィン及びこれを用いた熱交換器 図000008
  • 特許6576055-プレコートフィン及びこれを用いた熱交換器 図000009
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6576055
(24)【登録日】2019年8月30日
(45)【発行日】2019年9月18日
(54)【発明の名称】プレコートフィン及びこれを用いた熱交換器
(51)【国際特許分類】
   F28F 19/02 20060101AFI20190909BHJP
   F28F 13/18 20060101ALI20190909BHJP
   F28F 19/04 20060101ALI20190909BHJP
   F28F 9/18 20060101ALI20190909BHJP
【FI】
   F28F19/02 501Z
   F28F19/02 501A
   F28F19/02 501C
   F28F13/18 B
   F28F19/04
   F28F9/18
【請求項の数】7
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2015-45202(P2015-45202)
(22)【出願日】2015年3月6日
(65)【公開番号】特開2016-164479(P2016-164479A)
(43)【公開日】2016年9月8日
【審査請求日】2018年2月13日
(73)【特許権者】
【識別番号】000107538
【氏名又は名称】株式会社UACJ
(74)【代理人】
【識別番号】110000648
【氏名又は名称】特許業務法人あいち国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】上田 薫
(72)【発明者】
【氏名】荻原 加奈
【審査官】 土屋 正志
(56)【参考文献】
【文献】 特開2000−329495(JP,A)
【文献】 特開平07−316835(JP,A)
【文献】 特開平10−030069(JP,A)
【文献】 特開2003−286583(JP,A)
【文献】 特開2000−226675(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F28F 19/02
F28F 9/18
F28F 13/18
F28F 19/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウムチューブとろう付け接合することにより、熱交換器を製造するためのプレコートフィンであって、
アルミニウムからなるフィン材と、
該フィン材の表面に付着量100mg/m2〜2000mg/m2で形成された塗膜とを有し、
該塗膜は、1次粒子の平均粒子径が500nm以下の非晶質シリカ粒子の凝集体を含有し、
上記塗膜は、上記フィン材にプレコートされており、
上記塗膜中の上記非晶質シリカ粒子の含有量が20質量%以上であり、該非晶質シリカ粒子の付着量が100mg/m2以上であることを特徴とするプレコートフィン。
【請求項2】
上記凝集体は、非晶質コロイダルシリカを乾燥してなることを特徴とする請求項1に記載のプレコートフィン。
【請求項3】
上記塗膜は、さらに水ガラス及び/又は有機樹脂を含有することを特徴とする請求項1又は2に記載のプレコートフィン。
【請求項4】
上記有機樹脂は、水溶性アクリル樹脂及び/又はポリオキシエチレンアルキレングリコールからなることを特徴とする請求項3に記載のプレコートフィン。
【請求項5】
上記フィン材と上記塗膜との間に形成された化成皮膜からなる下地処理層を有することを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のプレコートフィン。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載のプレコートフィンと、
該プレコートフィンにろう付け接合された上記アルミニウムチューブと、からなるコア部を有することを特徴とする熱交換器。
【請求項7】
上記プレコートフィンと上記アルミニウムチューブとは、フラックスを用いたろう付けにより接合されていることを特徴とする請求項6に記載の熱交換器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミニウムチューブとろう付け接合することにより熱交換器を製造するために用いられるプレコートフィン、及びこれを使用した熱交換器に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、オールアルミニウム製の熱交換器は、冷媒が流れるアルミニウムチューブと、チューブの外側の空気との間で熱交換を行うためのアルミニウムフィンとを有しており、チューブとフィンとは互いに接合されている。熱交換器の熱交換性能にはフィンの親水性が大きく影響するため、表面に親水性の塗膜が形成されたフィンがよく用いられている。このような親水性の塗膜を有するフィンとチューブとの接合には、フィンに設けられた孔内に挿入したチューブを拡管させることによって両者を機械的に接合する方法が用いられている(特許文献1、特許文献2参照)。
【0003】
接合方法としては、上述の機械的接合の他にもろう付け接合が想定される。しかし、一般的な樹脂系又は無機系の塗膜は、ろう付け時の加熱温度で変質又は分解してしまうため、ろう付け後に親水性を十分に発揮できない。また、ろう付けにフラックスを用いると、塗膜の存在によりフラックス作用が阻害され、ろう付け接合が不十分になるおそれがある。そのため、ろう付けによって熱交換器を製造する場合には、一般にろう付け後に塗膜が形成されている(特許文献3参照)。しかし、この場合には、専用の塗膜形成設備が必要となるため、製造コストが増大するという問題がある。また、この場合には、熱交換器の大型化への対応が困難になる。
【0004】
そこで、ろう付け前に塗膜がプレコートされたフィン材として、ケイ酸塩を主成分とする塗膜を有するフィン材が提案されている(特許文献4参照)。また、熱交換器の作製において、ろう付け前に、キシレン等の支持体やシリコーンオイル等の珪素系結合剤等を含む被膜を予め形成したフィンを作製する方法が提案されている(特許文献5参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平4−278189号公報
【特許文献2】特開2012−052747号公報
【特許文献3】特開2004−347314号公報
【特許文献4】特開2013−137153号公報
【特許文献5】特表2008−508103号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述の塗膜や被膜がプレコートされたフィンを用いて製造される熱交換器には、親水性に改良の余地があり、親水性及びその持続性の更なる向上が望まれている。また、プレコートされた塗膜や被膜によって、フィンとチューブとのろう付け接合が不十分になるおそれがある。そこで、親水性及びその持続性に優れると共に、ろう付け性にも優れた熱交換器用のプレコートフィンの開発が望まれている。
【0007】
本発明は、かかる背景に鑑みてなされたものであり、ろう付け加熱後の親水性、及びその持続性に優れ、さらにろう付け性にも優れたプレコートフィン、及び該プレコートフィンを用いた熱交換器を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様は、アルミニウムチューブとろう付け接合することにより、熱交換器を製造するためのプレコートフィンであって、
アルミニウムからなるフィン材と、
該フィン材の表面に付着量100mg/m2〜2000mg/m2で形成された塗膜とを有し、
該塗膜は、1次粒子の平均粒子径が500nm以下の非晶質シリカ粒子の凝集体を含有し、
上記塗膜は、上記フィン材にプレコートされており、
上記塗膜中の上記非晶質シリカ粒子の含有量が20質量%以上であり、該非晶質シリカ粒子の付着量が100mg/m2以上であることを特徴とするプレコートフィンにある。
【0009】
本発明の他の態様は、上記プレコートフィンと、
該プレコートフィンにろう付け接合された上記アルミニウムチューブと、からなるコア部を有することを特徴とする熱交換器にある。
【発明の効果】
【0010】
上記特定の塗膜をフィン材の表面に有するプレコートフィンは、アルミニウムチューブとのろう付け接合時の加熱により塗膜性能が劣化し難い。そのため、プレコートフィンの塗膜は、ろう付け後においても優れた親水性を発揮することができる。さらに、塗膜は、親水性の持続性にも優れており、初期の優れた親水性を長期間維持することができる。また、塗膜は、ろう付け時にプレコートフィンとアルミニウムチューブとのろう付け接合をほとんど阻害しない。そのため、上記プレコートフィンは、塗膜を有しているにもかかわらずろう付け性にも優れており、アルミニウムチューブとの充分な接合が可能である。
【0011】
また、上記熱交換器は、上述の親水性、その持続性、及びろう付け性に優れたプレコートフィンをアルミニウムチューブにろう付け接合してなるコア部を有している。したがって、熱交換器は、親水性及びその持続性に優れ、プレコートフィンとアルミニウムチューブとの接合性にも優れている。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】実施例1における熱交換器のコア部(ミニコア)の斜視図。
図2】実施例1における熱交換器のコア部(ミニコア)の断面図。
図3】実施例1における熱交換器のプレコートフィンの拡大断面図。
図4】実施例1における下地処理層を有するプレコートフィンの拡大断面図。
図5】実施例1におけるろう付け接合前のフィン材とチューブとの断面構造を示す説明図(a)、ろう付け接合後のフィン材とチューブとの断面構造を示す説明図(b)。
図6】実施例2における熱交換器の斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本明細書において、「アルミニウム」は、純アルミニウムだけでなく、アルミニウム合金を含む概念である。即ち、アルミニウムチューブの材質は、純アルミニウムだけでなく、アルミニウム合金を含み、フィン材の材質も、純アルミニウムだけでなく、アルミニウム合金を含む。具体的には、A1000系の純アルミニウム、A3000系のアルミニウム合金等を用いることができる。
【0014】
フィン材としては、コルゲートフィン、プレコートフィン、ピンフィン等の形状を採用することができる。また、フィン材としては、表面にろう材が塗布されていないベアフィン材を用いることができる。熱交換性能の向上のため、フィン材はスリットを有していてもよい。
【0015】
プレコートフィンは、フィン材の表面に上述の塗膜を有している。塗膜は、フィン材の片面に形成されていてもよいし、両面に形成されていてもよい。塗膜の付着量が100mg/m2未満の場合には、親水性が不十分になるおそれがある。一方、付着量が2000mg/m2を超える場合には、ろう付け性が損なわれるおそれがある。したがって、塗膜の付着量は、上述のように、100mg/m2〜2000mg/m2であることが好ましく、100mg/m2〜1000mg/m2であることがより好ましく、300mg/m2〜800mg/m2であることがさらに好ましい。なお、上述の塗膜の付着量は、片面当たりの付着量である。
【0016】
また、塗膜は、1次粒子の平均粒子径が500nm以下の非晶質シリカ粒子の凝集体を含有している。平均粒子径が500nmを超える場合には、塗膜によりろう付け性が阻害されるおそれがある。また、塗膜から非晶質シリカ粒子が部分的に脱落し、親水性が低下するおそれがある。同様の観点から、非晶質シリカ粒子の1次粒子の平均粒子径は、300nm以下であることがより好ましく、100nm以下であることがさらに好ましい。また、原料の入手が困難になり、製造コストが増大するという観点からは、非晶質シリカ粒子の1次粒子の平均粒子径は1nm以上であることが好ましく、5nm以上であることがより好ましい。非晶質シリカ粒子の1次粒子の平均粒子径は、例えば原料として用いられる非晶質コロイダルシリカ等の平均粒子径から知られる。具体的には、例えば原料(非晶質コロイダルシリカ)を乾燥し、BET法(比表面積測定法)を用いて比表面積を求め、重量と密度から逆算することにより、1次粒子の平均粒子径を求めることができる。この際、使用する原料(非晶質コロイダルシリカ)の全量についてBET法により全体の比表面積を求め、その全重量と密度から一次粒子径(平均値)を算出することができる。
【0017】
凝集体は、非晶質コロイダルシリカを乾燥してなることが好ましい。この場合には、塗膜は、非晶質コロイダルシリカの乾燥物からなる凝集体を含有し、塗膜の親水性がより向上する。塗膜は、例えば少なくとも非晶質コロイダルシリカを含む塗料をフィン材の表面に塗布し、乾燥させることにより形成することができる。
【0018】
また、塗膜中の非晶質シリカ粒子の含有量が20質量%未満の場合、又は非晶質シリカ粒子の付着量が100mg/m2未満の場合には、親水性やその持続性が低下するおそれがある、したがって、塗膜中の非晶質シリカの含有量は上述のように20質量%以上であることが好ましく、50質量%以上であることがより好ましく、80質量%以上であることがさらに好ましい。上限は100質量%である。また、塗膜中に存在する非晶質シリカ粒子の付着量は100mg/m2以上であることが好ましく、200mg/m2以上であることがより好ましく、400mg/m2以上であることがさらに好ましい。上限は、塗膜の付着量と同様に2000mg/m2である。なお、非晶質シリカ粒子の付着量は塗膜片面当たりの付着量である。
【0019】
塗膜は、さらに水ガラス及び/又は有機樹脂を含有することができる。この場合には、塗膜形成時の塗工性が向上すると共に、塗膜中の非晶質シリカ粒子の保持性が向上し、非晶質シリカ粒子の脱落を防止することができる。なお、水ガラスは、一般にはケイ酸塩の水溶液を示すが、塗膜中に含まれる上述の水ガラスは、水ガラスの固形分、即ちケイ酸塩のことである。
【0020】
また、有機樹脂は、水溶性アクリル樹脂及び/又はポリオキシエチレンアルキレングリコール(PAE)からなることが好ましい。この場合には、有機樹脂がろう付け時の加熱により分解され易く、塗膜中から有機樹脂を消失させることが可能になる。その結果、ろう付け後の塗膜中の有機樹脂が少なくなるため、ろう付け性が阻害されることを防止できる。
【0021】
また、プレコートフィンは、フィン材と塗膜との間に形成された化成皮膜からなる下地処理層を有することが好ましい。この場合には、フィン材と塗膜との密着性の向上が可能になる。化成皮膜からなる下地処理層は、例えばリン酸クロメート処理、リン酸ジルコニウム処理、ベーマイト処理などにより形成することができる。下地処理層は、フィン材と塗膜との密着性を向上させることができればよく、その他の処理により形成してもよい。
【0022】
アルミニウムチューブの形状としては、丸管あるいは扁平管等を採用することができる。チューブ内には、内部を複数の通路に区画する内柱が形成されていてもよい。より具体的には、チューブとしては、例えば扁平多穴管を採用することができる。
【0023】
プレコートフィンとアルミニウムチューブとのろう付け接合は、例えば両者の当接部にろう材を供給して加熱することにより行うことができる。また、アルミニウムチューブの表面に予めろう材層を形成し、ろう材層上にプレコートフィンを当接した状態で加熱を行うことにより接合を行うこともできる。ろう材としては、例えばAl−Si系合金粉末、Si粉末、Al−Si−Zn系合金粉末等が用いられる。これらの粉末を上述のように加熱の前に予め接合部に塗布したり、これらの粉末を用いて上述のようにろう材層を形成することができる。なお、上述の粉末のうち、Si粉末は、ろう付け加熱時に、アルミニウムチューブ及び/又はプレコートフィン中に含まれるAlとAl−Si系合金を形成することによりろう材としての機能を発揮する。また、上述のろう材には、フラックスやバインダ樹脂を混合することもできる。フラックスとしては、例えばフルオロアルミン酸カリウム、フルオロ亜鉛酸カリウム等のフッ化物系フラックス粉末等が用いられる。バインダ樹脂としては、例えばアクリル系樹脂等が用いられる。
【0024】
アルミニウムチューブとしては、例えばブレージングシートを丸管形状又は扁平管形状に加工してなるチューブを用いることもできる。ブレージングシートは、アルミニウムからなる心材に、ろう材又は犠牲陽極材をクラッドしてなる。このようなブレージングシートを加工してなるチューブを用いる場合には、接合時に別途ろう材を使用する必要がなくなる。心材にクラッドされるろう材としては、上述の粉末と同様の材料が用いられる。また、犠牲陽極材としては、例えばZn、Al−Zn合金、Al−Zn−Mg合金、Al−Sn合金、Al−In合金等が用いられる。
【0025】
ろう付け時の加熱は、例えば不活性ガス雰囲気中で、570℃〜610℃の最高到達温度で行われる。この加熱により、プレコートフィンとアルミニウムチューブとの当接部においてろう材が溶融し、その後の冷却により、溶融したろう材が硬化する。これにより、プレコートフィンとアルミニウムチューブとのろう付け接合が可能になる。
【0026】
熱交換器は、プレコートフィンと、このフィンにろう付け接合されたアルミニウムチューブとからなるコア部を有する。熱交換器の具体例は、後述の実施例において図面を用いて説明するが、熱交換器は、コア部に、ヘッダ、サイドサポート、出入り口管等を組み付けることにより製造される。
【0027】
熱交換器において、プレコートフィンとアルミニウムチューブとは、フラックスを用いたろう付けにより接合されていることが好ましい。この場合には、フラックス作用によりろう付け性がより向上し、フィンとチューブとの接合性がより向上する。また、上述の特定の塗膜は、フラックス作用をほとんど阻害しない。そのため、フラックスを用いても優れたろう付け性を示すことができ、フィンとチューブとの充分に優れた接合が可能になる。なお、ろう付け時にフラックスを用いる場合には、フラックス作用を充分に得るために、不活性ガス雰囲気中でろう付け加熱を行うことが好ましい。
【0028】
熱交換器は、例えば、空調機、冷蔵庫に用いることができる。また、自動車のコンデンサ、エバポレータ、ラジエータ、ヒータ、インタークーラ、オイルクーラ等に用いることもできる。さらに、ハイブリッド自動車や電気自動車の駆動用モータを制御するインバータユニットに備えられたIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)等の発熱体を冷却するための冷却装置に用いることもできる。
【実施例】
【0029】
(実施例1)
本例は、本発明の実施例及び比較例にかかる複数のプレコートフィンを作製し、その性能を比較する例である。具体的には、これらのプレコートフィンをそれぞれ用いて、熱交換器用のコア部を作製し、親水性、ろう付け性を比較評価する。本例においては、コア部として試験用のミニコア(試料E1〜試料E25、試料C1〜試料C10)を作製する。
【0030】
図1及び図2に示すごとく、ミニコア1は、プレコートフィン2と、アルミニウムチューブ3とを有し、コルゲート形状のプレコートフィン2がアルミニウムチューブ3に挟まれている。なお、図1においては、プレコートフィン2のコルゲート形状を明示するために、プレコートフィン2を挟む2つのアルミニウムチューブ3の一方を破線にて示してある。
【0031】
プレコートフィン2は、図3に示すごとく、コルゲート状に成形されたアルミニウム板よりなるフィン材21と、フィン材21の両面に形成された塗膜22とを有する。本例においては、後述の表1及び表2に示すごとく、付着量、組成等が異なる複数の塗膜を形成する。
【0032】
図1及び図2に示すごとく、アルミニウムチューブ3は、アルミニウム合金製の扁平多穴管からなる心材31と、この心材31の表面に形成されたろう材層32とを有する。心材31は、冷媒を流通させるための多数の冷媒流路311を有している。ミニコア1においては、図5(b)に示すごとく、プレコートフィン2とアルミニウムチューブ3とはろう付け接合されており、両者の間には接合部100が形成されている。
【0033】
以下、本例のミニコア1の製造方法について説明する。具体的には、まず、JIS規格のA1050組成の板状のフィン材21に対して、バーコーターを用いて、表1及び表2に示す原料配合組成の各塗料を所定量塗布し、温度200℃で乾燥させることにより塗膜22を形成した(図3参照)。各表中に示すコロイダルシリカ(非晶質コロイダルシリカ)、ケイ酸リチウム及び/又はケイ酸ナトリウムを含む水ガラス、有機樹脂の配合量は、固形分量である。また、表中には、コロイダルシリカの1次粒子の平均粒子径、乾燥後の塗膜22の付着量、塗膜中のシリカ(非晶質シリカ粒子)の含有量、塗膜中のシリカ(非晶質シリカ粒子)の付着量を示す。次いで、塗膜22を形成した板状のフィン材21をコルゲート状に加工した。このようにして、フィン材21の表面に形成された塗膜22を有するコルゲート状のプレコートフィン2を得た(図1図3参照)。これらのプレコートフィン2は、表1における試料E1〜試料E21、試料E25、表2における試料C1〜試料C10のミニコア1の製造にそれぞれ用いられる。
【0034】
また、表1中の試料E22〜試料E24のミニコア1の製造に用いられるプレコートフィンの2作製においては、まず、下地処理を行うことにより、図4に示すごとく板状のフィン材21の表面に、化成皮膜からなる下地処理層23を形成した。下地処理としては、リン酸クロメート処理、ジルコニウム処理、又はベーマイト処理を行った。下地処理層23の厚みは例えば1μm程度である。次いで、この下地処理層23上に表1に示す各塗料を所定量塗布し、温度200℃で乾燥させることにより塗膜22を形成した。次いで、下地処理層23及び塗膜22が形成されたフィン材21をコルゲート状に加工した。これにより、フィン材21と塗膜22との間に下地処理層23を有する、コルゲート状のプレコートフィン2を得た。
【0035】
次いで、押出加工により、3000系アルミニウム合金製の扁平多穴管からなる心材31を作製した(図1及び図2参照)。そして、心材31の表面にSi粉末からなるろう材を塗布することにより、ろう材層32を形成した。このようにして、アルミニウムチューブ3を得た。
【0036】
次に、2つのアルミニウムチューブ3の間に、コルゲート状のプレコートフィン2を挟み込んで組立品を作製した(図1及び図2参照)。このとき、各アルミニウムチューブ3のろう材層32を互いに対向させた状態で両者の間にプレコートフィン2を挟み込むことにより、コルゲート状のプレコートフィン2の各頂点20とろう材層32とを当接させた。次いで、図5(a)に示すごとく、フラックスを水に分散させて作製した分散液101を、アルミニウムチューブ3とプレコートフィン2とからなる組立品の全体に噴霧した。その後、窒素ガス雰囲気で温度600℃の炉内に、組立品を3分間保持した後、室温(25℃)まで冷却した。この炉内での加熱時にろう材層32が溶融し、冷却時に溶融したろう材層32が硬化する。このろう材層32の溶融と硬化により、プレコートフィン2とアルミニウムチューブ3とが接合し、接合部100が形成される(図5(b)参照)。このようにして、図1及び図2に示すごとく、ミニコア1を得た。なお、本例においては、上述のようにフラックスを用いたろう付け接合によって作製したミニコア(試料E1〜試料E24、試料C1〜試料C10)の他に、フラックスを用いずにろう付け接合を行ったミニコア(試料E25)も作製した。
【0037】
次に、上記のようにして得られた各試料について、以下のようにして親水性、その持続性の評価を行うと共に、ろう付け性の評価を行った。その結果を表1及び表2に示す。
【0038】
<親水性>
親水性の評価は、表1及び表2に示す各試料におけるプレコートフィンと同じ構成の平板状の試験板を用いて行った。試験板に対しては、塗膜形成の後に行われるろう付けを想定した加熱が行われている。具体的には、試験板を窒素ガス雰囲気で温度600℃の炉内で3分間加熱した。次いで、各試験板の塗膜上における水滴の接触角を測定することにより、親水性の評価を行った。接触角の測定は、協和界面化学株式会社製のFACE自動接触角計「CA−Z」を用いて行った。具体的には、室温で、塗膜上に水滴を滴下し、30秒後の水滴の接触角を測定した。接触角が20°以下の場合を「A」と評価し、20°を超え30°以下の場合を「B」と評価し、30°を超える場合を「C」と評価した。
【0039】
<親水性の持続性>
上述の試験板を純水に2分間浸漬した後、6分間風乾した。この純水への浸漬と風乾というサイクルを300回繰り返し実施した。その後、上述の親水性の評価と同様に塗膜と水滴との接触角を測定した。300サイクル後の接触角が25°以下の場合を「A」と評価し、25°を超え40°以下の場合を「B」と評価し、40°を超える場合を「C」と評価した。
【0040】
<ろう付け性>
ろう付け接合後の各試料のミニコアにおけるろう付け接合部をカッターナイフにより切断し、フィンの接合長さL1をフィンの山部の長さL2の総和で割算して100分率で表した値(L1/L2×100)を接合率(%)とした。接合率が80%以上の場合を「A」と評価し、接合率が60%以上かつ80%未満の場合を「B」と評価し、60%未満の場合を「C」と評価した。
【0041】
【表1】
【0042】
【表2】
【0043】
表1及び表2より知られるように、試料E1〜試料E25は、親水性、持続性、及びろう付け性のいずれもが良好であった。これに対し、試料C1〜試料C10は、親水性、持続性、ろう付け性のいずれかが不十分であった。試料E1〜試料E24と試料C1〜試料C10との対比から、塗膜中に含まれるコロイダルシリカ由来の非晶質シリカ粒子は、1次粒子の平均粒子径が500nm以下であることが好ましく、塗膜中の非晶質シリカ粒子の含有量は20質量%以上であり、該非晶質シリカ粒子の付着量は100mg/m2以上であることが好ましい。さらに、塗膜の付着量は100mg/m2〜2000mg/m2であることが好ましい。これらの条件を満足する塗膜を備えたプレコートフィン(試料E1〜試料E25参照)は、ろう付け後の親水性及びその持続性に優れ、さらにろう付け性にも優れる。また、これらの条件を満足する塗膜を備えるプレコートフィンは、ろう付け時にフラックスを用いても、フラックス作用が損なわれることなく、優れたろう付け性を発揮することができる。
【0044】
(実施例2)
次に、実施例1において示したプレコートフィンを用いたコア部を有する熱交換器の例について説明する。図6に示すごとく、熱交換器4は、実施例1のミニコアと同様の構成を多数備えるコア部10を有する。具体的には、コア部1は、コルゲート状のプレコートフィン2と、アルミニウムチューブ3とを交互に多数積層してなり、プレコートフィン2とアルミニウムチューブ3とが実施例1のミニコアと同様にしてろう付け接合されている。
【0045】
チューブ3の両端には、ヘッダ5が組み付けられており、コア部1の積層方向における両端(最外側)には、サイドプレート6が組み付けられている。また、ヘッダ5には、タンク7が組み付けられている。これらのヘッダ5、サイドプレート6、及びタンク7は、上述のプレコートフィン2とアルミニウムチューブ3との接合と同様に、例えばろう付けにより接合を行うことができる。
【0046】
熱交換器4においては、実施例1における試料E1〜試料E25と同様の塗膜を有するプレコートフィン2を採用することができる。これにより、ろう付け後に得られる熱交換器4は、優れた親水性及びその持続性を発揮することができる。さらに、フィン2とチューブ3とのろう付け性にも優れる。また、熱交換器4において、少なくともプレコートフィン2とアルミニウムチューブ3とは、フラックスを用いたろう付けにより接合されていることが好ましい。この場合には、フラックス作用が充分に発揮され、プレコートフィン2とアルミニウムチューブ3とが優れた接合性を発揮することできる。これは、実施例1に示すように塗膜がフラックス作用の低下を防止できるためである。
【0047】
以上のように、本発明の実施例について詳細に説明したが、本発明は上記実施例に限定されるものではなく、本発明の趣旨を損なわない範囲内で種々の変更が可能である。
【符号の説明】
【0048】
1 ミニコア
10 コア部
2 プレコートフィン
21 フィン材
22 塗膜
3 アルミニウムチューブ
4 熱交換器
図1
図2
図3
図4
図5
図6