特許第6576056号(P6576056)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6576056-ガス検知装置およびその制御方法 図000002
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6576056
(24)【登録日】2019年8月30日
(45)【発行日】2019年9月18日
(54)【発明の名称】ガス検知装置およびその制御方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/12 20060101AFI20190909BHJP
   G01N 27/16 20060101ALI20190909BHJP
【FI】
   G01N27/12 D
   G01N27/12 B
   G01N27/16 Z
【請求項の数】5
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2015-47281(P2015-47281)
(22)【出願日】2015年3月10日
(65)【公開番号】特開2016-166821(P2016-166821A)
(43)【公開日】2016年9月15日
【審査請求日】2018年3月8日
(73)【特許権者】
【識別番号】000190301
【氏名又は名称】新コスモス電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】特許業務法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】久世 恭
(72)【発明者】
【氏名】中尾 茂
【審査官】 櫃本 研太郎
(56)【参考文献】
【文献】 特開2001−281194(JP,A)
【文献】 特開2007−333594(JP,A)
【文献】 特開平10−170461(JP,A)
【文献】 特開2006−047275(JP,A)
【文献】 特開昭58−106687(JP,A)
【文献】 特開2005−221464(JP,A)
【文献】 特開平06−300727(JP,A)
【文献】 特開2000−111439(JP,A)
【文献】 特開2001−074683(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2014/0004617(US,A1)
【文献】 特開昭58−042962(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/00−27/24
G01N 25/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガスの流動遅延を生じさせる遅延部を備え、
前記遅延部の下流側に、低濃度における出力の変化が大きいため低濃度の被検知ガスを検出するのに適した下流側ガス検知部と、
前記遅延部の上流側に、当該下流側ガス検知部よりも高濃度側の被検知ガスを検出するのに適した上流側ガス検知部と、を配設し、
前記上流側ガス検知部で検知した被検知ガスの濃度に応じて、前記下流側ガス検知部を活性化の状態から電圧を低下させる不活性化の状態に切り替えることができる制御部を備え
前記上流側ガス検知部および前記下流側ガス検知部は、互いの被検知ガス検出特性の一部が重なるガス検知装置。
【請求項2】
前記上流側ガス検知部の上流側に、サンプリングした被検知ガスを希釈する希釈部を備え、前記制御部は、前記上流側ガス検知部で検知した被検知ガスの濃度に応じて、当該希釈部の動作を制御する請求項1に記載のガス検知装置。
【請求項3】
前記制御部は、前記上流側ガス検知部で検知した被検知ガスの濃度が第一所定濃度範囲の場合に前記下流側ガス検知部に供する電源をオフにし、第二所定濃度範囲の場合に前記下流側ガス検知部に供する電圧を低下させる請求項1または2に記載のガス検知装置。
【請求項4】
ガスの流動遅延を生じさせる遅延部を備え、前記遅延部の下流側に熱線型半導体式ガス検知素子を配設し、かつ前記遅延部の上流側に前記熱線型半導体式ガス検知素子と被検知ガス検出特性の一部が重なる接触燃焼式ガス検知素子を配設したガス検知装置を制御するに際し、
前記接触燃焼式ガス検知素子で検知した被検知ガスの濃度に応じて、前記熱線型半導体式ガス検知素子を活性化の状態から電圧を低下させる不活性化の状態に切り替える制御を行うガス検知装置の制御方法。
【請求項5】
前記接触燃焼式ガス検知素子で検知した被検知ガスの濃度が、第一所定濃度範囲の場合に前記熱線型半導体式ガス検知素子に供する電源をオフにし、第二所定濃度範囲の場合に前記熱線型半導体式ガス検知素子に供する電圧を低下させ、かつサンプリングした被検知ガスを希釈する請求項に記載のガス検知装置の制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被検知ガスを導入するガス流路を設け、当該ガス流路に、ガス検知素子を備えたガス検知部を設け、被検知ガスをガス流路に流通させてガス検知素子に導くガス流通装置を設けたガス検知装置およびその制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、このようなガス検知装置によって、低濃度から高濃度まで広い濃度領域において被検知ガスの濃度を測定したり、検知対象ガス中の微量成分ガスについてその種類を特定したりするために、特に低濃度ガスに対するガス検知性能の高いガス検知素子を用いることが考えられている。また、このようなガス検知素子は、一般に高濃度ガスに対する暴露によって被検知ガスを検知する検知精度が低下する場合があることが知られている。
【0003】
尚、本発明における従来技術となる上述したガス検知装置は、一般的な技術であるため、特許文献等の従来技術文献は示さない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、このような形態で上述したガス検知素子を用いると、検知対象ガス中に高濃度の被検知ガスが含まれる場合は、ガス検知素子は高濃度の被検知ガスに晒され、そのガス検知素子の精度が低下してガス検知素子が劣化する虞があった。
【0005】
従って、本発明の目的は、特に低濃度ガスに対するガス検知性能の高いガス検知素子を高濃度ガスが存在する可能性のある環境下で使用した場合であっても劣化し難いガス検知装置およびその制御方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するための本発明に係るガス検知装置の第一特徴構成は、ガスの流動遅延を生じさせる遅延部を備え、前記遅延部の下流側に、低濃度における出力の変化が大きいため低濃度の被検知ガスを検出するのに適した下流側ガス検知部と、前記遅延部の上流側に、当該下流側ガス検知部よりも高濃度側の被検知ガスを検出するのに適した上流側ガス検知部と、を配設し、前記上流側ガス検知部で検知した被検知ガスの濃度に応じて、前記下流側ガス検知部を活性化の状態から電圧を低下させる不活性化の状態に切り替えることができる制御部を備え、前記上流側ガス検知部および前記下流側ガス検知部は、互いの被検知ガス検出特性の一部が重なる点にある。
【0007】
本構成によれば、遅延部を備えて被検知ガスが下流側ガス検知部に到達する時間を意図的に遅らせることができ、遅延させられている時間(遅延時間)内に下流側ガス検知部を活性化の状態から電圧を低下させる不活性化の状態に切り替える制御を行う。下流側ガス検知部の電圧を低下させて不活性化した場合は、下流側ガス検知部を緩やかに常温或いは常温付近に復帰させることができる。これにより、下流側ガス検知部におけるガス検知素子に高濃度の被検知ガスを検知させてしまうのを未然に防止して、当該ガス検知素子の劣化を抑制することができる。また、下流側ガス検知部の電圧を低下させて不活性化し、下流側ガス検知部の温度が常温より高い常温付近に低下している状態であれば、被検知ガスを検知するために下流側ガス検知部に供する電圧を上げた場合、下流側ガス検知部をガス検知に適した温度まで迅速に昇温することができる。
【0008】
従って、本発明のガス検知装置によれば、低濃度ガスに対するガス検知性能の高いガス検知素子を高濃度ガスが存在する可能性のある環境下で使用した場合であっても劣化し難いガス検知装置を供することができる。
また、本構成では、上流側ガス検知部および下流側ガス検知部は、互いの被検知ガス検出特性の一部が重なるため、高濃度から低濃度に至る被検知ガスを確実に検知でき、所謂ワイドレンジな検知を行うことができるため、検知するガス種は特に制限がないガス検知装置を供することができる。
【0009】
本発明に係るガス検知装置の第二特徴構成は、前記上流側ガス検知部の上流側に、サンプリングした被検知ガスを希釈する希釈部を備え、前記制御部は、前記上流側ガス検知部で検知した被検知ガスの濃度に応じて、当該希釈部の動作を制御する点にある。
【0010】
本構成によれば、高濃度の被検知ガスを含むサンプリングガスを、上流側ガス検知部および下流側ガス検知部に接触する前に上流側で希釈する事が出来るため、高濃度の被検知ガスを含むサンプリングガスを希釈して低濃度にし、上流側ガス検知部および下流側ガス検知部が高濃度の被検知ガスに晒されるのを防止することができる。そのため、特に下流側ガス検知部が、高濃度の被検知ガスによって劣化するのを未然に防止することができる。
【0011】
本発明に係るガス検知装置の第三特徴構成は、前記制御部は、前記上流側ガス検知部で検知した被検知ガスの濃度が第一所定濃度範囲の場合に前記下流側ガス検知部に供する電源をオフにし、第二所定濃度範囲の場合に前記下流側ガス検知部に供する電圧を低下させる点にある。
【0012】
本構成によれば、制御部の制御態様を被検知ガスの複数の濃度範囲に応じて異ならせることができる。即ち、被検知ガスの濃度が第一所定濃度範囲の場合には、下流側ガス検知部に供する電源をオフにすることで、下流側ガス検知部の温度を迅速に常温或いは常温付近に復帰させることができる。また、被検知ガスの濃度が第二所定濃度範囲の場合には、下流側ガス検知部に供する電圧を低下させることで、下流側ガス検知部の温度を緩やかに常温或いは常温付近に復帰させることができる。
【0013】
本発明に係るガス検知装置の制御方法の第一特徴手段は、ガスの流動遅延を生じさせる遅延部を備え、前記遅延部の下流側に熱線型半導体式ガス検知素子を配設し、かつ前記遅延部の上流側に前記熱線型半導体式ガス検知素子と被検知ガス検出特性の一部が重なる接触燃焼式ガス検知素子を配設したガス検知装置を制御するに際し、前記接触燃焼式ガス検知素子で検知した被検知ガスの濃度に応じて、前記熱線型半導体式ガス検知素子を活性化の状態から電圧を低下させる不活性化の状態に切り替える制御を行う点にある。
【0014】
本手段によれば、遅延部を備えて被検知ガスが下流側ガス検知部に到達する時間を意図的に遅らせることができ、遅延させられている時間(遅延時間)内に下流側ガス検知部を活性化の状態から電圧を低下させる不活性化の状態に切り替える制御を行って常温或いは常温付近に復帰させることができる。これにより、下流側ガス検知部におけるガス検知素子に高濃度の被検知ガスを検知させてしまうのを未然に防止して、当該ガス検知素子の劣化を抑制することができる。
【0015】
従って、本発明のガス検知装置の制御方法によれば、低濃度ガスに対するガス検知性能の高いガス検知素子を高濃度ガスが存在する可能性のある環境下で使用した場合であっても劣化し難いガス検知装置の制御方法を供することができる。
また、本手段では、接触燃焼式ガス検知素子および熱線型半導体式ガス検知素子は、互いの被検知ガス検出特性の一部が重なるため、高濃度から低濃度に至る被検知ガスを確実に検知でき、所謂ワイドレンジな検知を行うことができるため、検知するガス種は特に制限がないガス検知を行うことができる。
【0018】
本発明に係るガス検知装置の制御方法の第二特徴手段は、前記接触燃焼式ガス検知素子で検知した被検知ガスの濃度が、第一所定濃度範囲の場合に前記熱線型半導体式ガス検知素子に供する電源をオフにし、第二所定濃度範囲の場合に前記熱線型半導体式ガス検知素子に供する電圧を低下させ、かつサンプリングした被検知ガスを希釈する点にある。
【0019】
本手段によれば、制御部の制御態様を被検知ガスの複数の濃度範囲に応じて異ならせることができる。即ち、被検知ガスの濃度が第一所定濃度範囲の場合には、熱線型半導体式ガス検知素子に供する電源をオフにすることで、熱線型半導体式ガス検知素子の温度を迅速に常温或いは常温付近に復帰させることができる。
【0020】
被検知ガスの濃度が第二所定濃度範囲の場合には、熱線型半導体式ガス検知素子に供する電圧を低下させ、かつサンプリングした被検知ガスを希釈する。これにより、熱線型半導体式ガス検知素子の温度を緩やかに常温或いは常温付近に復帰させ、かつサンプリングした被検知ガスの濃度を希釈して低下させた状態で、熱線型半導体式ガス検知素子と被検知ガスとを接触させることができる。このように、被検知ガスの濃度に応じて制御部の制御態様を変化させることができるため、熱線型半導体式ガス検知素子に高濃度の被検知ガスを検知させてしまうのを未然に防止できるだけでなく、ガス検知素子の劣化が起こり難い状態で被検知ガスの検知を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明のガス検知装置を示す概略図である。
図2】ガス検知装置の駆動態様を示す概略図である。
図3】希釈部を動作させた場合のガス検知装置を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
本発明のガス検知装置は、被検知ガスをサンプリングして当該被検知ガスの濃度を測定する。
【0023】
図1に示したように、本発明のガス検知装置Xは、ガスの流動遅延を生じさせる遅延部40を備え、遅延部40の下流側に、低濃度における出力の変化が大きいため低濃度の被検知ガスを検出するのに適した下流側ガス検知部50と、遅延部40の上流側に、当該下流側ガス検知部50よりも高濃度側の被検知ガスを検出するのに適した上流側ガス検知部30と、を配設し、上流側ガス検知部30で検知した被検知ガスの濃度に応じて、下流側ガス検知部50を活性化の状態から不活性化の状態に切り替えることができる制御部60を備える。
【0024】
上流側ガス検知部30および下流側ガス検知部50は、被検知ガスを導入するガス流路10に配設してあり、下流側ガス検知部50の下流にはポンプPがガス流路10を介して接続されている。ポンプPの下流には、ガス流量を検知する流量検知部70が配設されている。ポンプPを作動することにより、雰囲気ガスおよび被検知ガスは吸引され、ガス入口部11、上流側ガス検知部30および下流側ガス検知部50などを経てガス排気口13から排出される。本実施形態では、上流側ガス検知部の上流側に、サンプリングした被検知ガスを希釈する希釈部80を備えた場合について説明する。
【0025】
(上流側ガス検知部)
本実施形態における上流側ガス検知部30は、接触燃焼式ガス検知素子を使用した場合について説明するが、これに限定されるものではない。接触燃焼式ガス検知素子は、後述する半導体式ガス検知素子(下流側ガス検知部50)よりも高濃度側の被検知ガスを検出するのに適したガス検知性能を有する。
【0026】
接触燃焼式ガス検知素子は、アルミナ等の金属酸化物焼結体に白金等の貴金属触媒を担持したガス感応部としての燃焼触媒部を、白金等の貴金属線に設けてあり、燃焼触媒部において検知対象となる可燃性ガスを貴金属触媒と接触・燃焼させることで、燃焼の際に生じる温度変化を貴金属線の抵抗値の変化として検出する。可燃性ガスの燃焼熱は可燃性ガスの濃度に比例し、LELまでほぼ直線であり、貴金属線の抵抗値は燃焼熱に比例するため、可燃性ガスの燃焼による貴金属線の抵抗の変化値を測定することによって可燃性ガスの濃度を測定することができる。
【0027】
(遅延部)
ガスの流動遅延を生じさせる遅延部40は、本実施形態では、流動経路をコイル状に形成することによりガスの流動遅延を生じさせるものを説明するが、これに限られるものではない。例えば、コイル状の流動経路に替えて、流動経路に長尺部を備えるものであれば、被検知ガスが移動する距離を長くすることで遅延時間を確保することができる。この場合、長尺部の長さを変えることにより、容易に遅延時間を変更することができる。また、コイル状の流動経路に替えて、大径のバッファー部を備えるものであれば、バッファー部の容積を変えることにより、容積に対応した遅延時間を確保することができる。
【0028】
このように遅延部40を備えることにより、当該遅延部40を設けない場合に比べて被検知ガスが上流側ガス検知部30を通過してから下流側ガス検知部50に到達するまでの時間を意図的に遅らせることができる。
【0029】
(下流側ガス検知部)
本実施形態における下流側ガス検知部50は、熱線型半導体式ガス検知素子を使用した半導体式センサについて説明するが、これに限定されるものではなく、薄膜型半導体式センサを含む半導体式センサや、その他のセンサも用いることができる。
半導体式ガス検知素子は、金属酸化物半導体表面でのガス吸着による熱伝導変化及び電気伝導度変化を電極で検出するように構成され、例えば白金、パラジウム、白金−パラジウム合金等の貴金属線に、酸化インジウム、酸化タングステン、酸化スズ、酸化亜鉛等の金属酸化物を主成分とする金属酸化物半導体を塗布、乾燥後焼結成型してあるガス感応部を備えている。
このように構成された半導体式ガス検知素子は、低濃度における出力の変化が大きく高感度であり、可燃性ガスのうち分子量が大きいガス成分ほど高感度を示すものとなる。
【0030】
尚、本実施形態では、上流側ガス検知部30として接触燃焼式ガス検知素子を使用し、下流側ガス検知部50として熱線型半導体式ガス検知素子を使用した場合について説明したが、これらガス検知素子は、互いの被検知ガス検出特性の一部が重なる。
このようなガス検知素子のセットを適用することで、高濃度から低濃度に至る被検知ガスを確実に検知できるガス検知装置を供することができる。
【0031】
(制御部)
制御部60は、上流側ガス検知部30で検知した被検知ガスの濃度に応じて、下流側ガス検知部50を活性化の状態から不活性化の状態に切り替える制御を行う(図2)。
【0032】
よって、本発明のガス検知装置Xは、遅延部40を備えて被検知ガスが下流側ガス検知部50に到達する時間を意図的に遅らせることができ、遅延させられている時間(遅延時間)内に下流側ガス検知部50を活性化の状態から不活性化の状態に切り替える制御を行う。下流側ガス検知部50を不活性化した場合は、下流側ガス検知部50を常温或いは常温付近に復帰させることができる。温度が常温或いは常温付近となった下流側ガス検知部50に高濃度の被検知ガスが接したとしても、下流側ガス検知部50における検知素子の金属酸化物半導体表面でのガス吸着による熱伝導変化及び電気伝導度変化は生じない。これにより、下流側ガス検知部50におけるガス検知素子に高濃度の被検知ガスを検知させてしまうのを未然に防止して、当該ガス検知素子の劣化を抑制することができる。
【0033】
具体的には、制御部60は、接触燃焼式ガス検知素子(上流側ガス検知部30)で検知した被検知ガスの濃度に応じて、熱線型半導体式ガス検知素子(下流側ガス検知部50)に供する電源をオフにするか、或いは電圧を低下させるかを制御する。
【0034】
熱線型半導体式ガス検知素子を不活性化するには、熱線型半導体式ガス検知素子に供する電源をオフにするか、熱線型半導体式ガス検知素子に供する電圧を低下させるとよい。
熱線型半導体式ガス検知素子に供する電源をオフにすることで、熱線型半導体式ガス検知素子の温度を迅速に常温或いは常温付近に復帰させることができる。また、熱線型半導体式ガス検知素子に供する電圧を低下させることで、熱線型半導体式ガス検知素子の温度を緩やかに常温或いは常温付近に復帰させることができる。このとき、熱線型半導体式ガス検知素子の温度が常温より高い常温付近にまで低下している状態であれば、被検知ガスを検知するために熱線型半導体式ガス検知素子に供する電圧を上げた場合、熱線型半導体式ガス検知素子をガス検知に適した温度まで迅速に昇温することができ、早期にガスの検知を開始することができる。
尚、熱線型半導体式ガス検知素子を不活性化した場合は、接触燃焼式ガス検知素子で検知した被検知ガスの濃度を被検知ガスの測定結果として示すように制御してもよい。また、熱線型半導体式ガス検知素子を活性化した場合であっても、接触燃焼式ガス検知素子は活性化させた状態とすることができる。
【0035】
このとき、接触燃焼式ガス検知素子で検知した被検知ガスの濃度が、第一所定濃度範囲の場合に熱線型半導体式ガス検知素子に供する電源をオフにし、第二所定濃度範囲の場合に熱線型半導体式ガス検知素子に供する電圧を低下させ、かつサンプリングした被検知ガスを希釈する。
【0036】
本構成では、制御部60の制御態様を被検知ガスの複数の濃度範囲に応じて異ならせることができる。即ち、被検知ガスの濃度が第一所定濃度範囲の場合には、熱線型半導体式ガス検知素子に供する電源をオフにすることで、熱線型半導体式ガス検知素子の温度を迅速に常温或いは常温付近に復帰させることができる。
【0037】
被検知ガスの濃度が第一所定濃度範囲と異なる第二所定濃度範囲の場合には、熱線型半導体式ガス検知素子に供する電圧を低下させ、かつサンプリングした被検知ガスを希釈する。これにより、線型半導体式ガス検知素子の温度を緩やかに常温或いは常温付近に復帰させ、かつサンプリングした被検知ガスの濃度を希釈して低下させた状態で、熱線型半導体式ガス検知素子と被検知ガスとを接触させることができる。このように、被検知ガスの濃度に応じて制御部の制御態様を変化させることができるため、下流側ガス検知部50におけるガス検知素子に高濃度の被検知ガスを検知させてしまうのを未然に防止できるだけでなく、ガス検知素子の劣化が起こり難い状態で被検知ガスの検知を行うことができる。
【0038】
尚、第二所定濃度範囲の濃度範囲は、被検知ガスの種類によって第一所定濃度範囲より高く設定してもよいし、低く設定してもよい。
【0039】
被検知ガスの希釈は、希釈部80により行うことができる。即ち、制御部60は、接触燃焼式ガス検知素子で検知した被検知ガスの濃度に応じて、希釈部80の動作を制御する(図3)。
【0040】
当該希釈部80は、被検知ガスを希釈する希釈用ガスを供することができるように構成すればよい。具体的には、希釈部80は、ガス流路10を分岐する分岐手段20(21,22)によって分岐した分岐流路10aにオリフィス部81を設け、その下流側にエア導入部12を備えたエア導入配管10bを接続し、エア導入遮断を切り替え自在に構成してある。尚、希釈部80には余剰となるエアを排出する排出路を設けてもよい。分岐手段20は、例えば三方弁を使用することができるが、このような態様に限定されるものではない。
【0041】
希釈部80における被検知ガスの希釈率は適宜設定できるが、制御部60によって予め希釈部80のガス希釈率を定めておいて、希釈後の被検知ガス濃度を求められるように構成してあれば、希釈後の測定被検知ガス濃度を基に、被検知ガス濃度を求めることが可能となる。例えば希釈率を20倍に設定しておけば、5vol%程度が検知限界となる接触燃焼式ガス検知素子は、100vol%までの検知が行える。
【0042】
上述したように、制御部60は、上流側ガス検知部30で検知した被検知ガスの濃度に応じて、下流側ガス検知部50を活性化の状態から不活性化の状態に切り替える制御を行うため、被検知ガスの濃度に応じて下流側ガス検知部50に対して状態切り替えを行えるシグナルを送信できるマイコン等の態様とすればよい。
【0043】
また、制御部60は、上流側ガス検知部30で検知した出力に基づき、被検知ガス濃度を算出する濃度算出部を備えるとよい。尚、制御部60は、上流側ガス検知部30が警報レベル以上の被検知ガスを継続して検知した場合、警報信号を警報手段(図外)に送って当該警報手段により警報を発するように制御することも可能である。
さらに、制御部60は、上流側ガス検知部30で検知した出力に基づき、希釈部80の動作および分岐手段21,22の開閉を制御するとよい。
【0044】
また、制御部60は、上流側ガス検知部30で検知した出力に基づき、ガス検知を行っているときに被検知ガスの濃度がある程度高い濃度から低くなると、下流側ガス検知部50に供する電圧を不活性化した状態から活性化させる状態にする制御を行うことが可能である。
【0045】
〔別実施形態〕
上述した実施形態では、二つのガス検知部を設けて上流側ガス検知部30を下流側ガス検知部50よりも高濃度側の被検知ガスを検出するのに適した態様としたが、さらに、上流側ガス検知部30よりも高濃度側の被検知ガスを検出するのに適した追加の検知部を設けた態様としてもよい。このような追加の検知部として、例えば気体熱伝導式ガス検知素子を使用することができるが、これに限定されるものではない。このように検知部を三つ設けた場合には、低濃度(下流側ガス検知部50)、中濃度(上流側ガス検知部30)、高濃度(追加の検知部)の被検知ガスを検知させることができる。この場合も遅延部40を設けた制御を行うことができる。
【0046】
追加の検知部は、例えば遅延部および下流側ガス検知部50の間に接続した追加の流路に配設することが可能である。この場合、制御部は、上流側ガス検知部30で検知した被検知ガスの濃度に応じて、下流側ガス検知部50および追加の検知部の何れかにサンプリングした被検知ガスを流下させるように制御することができる。
【0047】
上述した三つの検知部は、高濃度用検知部および中濃度用検知部はそれぞれの検出可能範囲が一部重複し、中濃度用検知部および低濃度用検知部はそれぞれの検出可能範囲が一部重複するように、互いの被検知ガス検出特性の一部が重なるものを選択すればよい。
【実施例】
【0048】
〔実施例1〕
本発明の実施例について説明する。
本発明のガス検知装置Xにおいて、上流側ガス検知部30として接触燃焼式ガス検知素子を使用し、下流側ガス検知部50として熱線型半導体式ガス検知素子を使用した。
接触燃焼式ガス検知素子は、1000ppm〜5vol%(50000ppm)程度の可燃性ガス(例えば都市ガス)を検知するのに適している。一方、熱線型半導体式ガス検知素子は、10〜1000ppm程度の可燃性ガスを検知するのに適している。
本実施例では、制御部60において、接触燃焼式ガス検知素子で検知した可燃性ガスの濃度が2000ppm以上の場合に、熱線型半導体式ガス検知素子に供する電源をオフにする制御を行った。
【0049】
〔実施例2〕
実施例1のガス検知装置Xにおいて、制御部60は、接触燃焼式ガス検知素子で検知した可燃性ガスの濃度が1000〜2000ppmの場合に、熱線型半導体式ガス検知素子に供する電圧を低下させる制御を行うように設定した。一方、接触燃焼式ガス検知素子で検知した可燃性ガスの濃度が1000ppm未満の場合は、熱線型半導体式ガス検知素子に供する電圧は通常の値で供した。即ち、ガス検知を行っているときに可燃性ガスの濃度がある程度高い濃度(1000〜2000ppm)から低く(1000ppm未満)なると、熱線型半導体式ガス検知素子に供する電圧を低下させた状態から通常の値に戻す制御を行った。
【0050】
〔実施例3〕
実施例1のガス検知装置Xにおいて、接触燃焼式ガス検知素子は、通常5vol%程度が検知限界となるため、5vol%以上の場合に希釈部80により可燃性ガスを希釈する制御を行った。
よって、制御部60は、第一所定濃度範囲(5〜100vol%)の場合に熱線型半導体式ガス検知素子に供する電源をオフにし、第二所定濃度範囲(2000ppm〜5vol%)の場合に熱線型半導体式ガス検知素子に供する電圧を低下させ、かつサンプリングした被検知ガスを希釈する制御を行うように設定した。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明は、所謂ワイドレンジな検知を行うことができ、検知するガス種は特に制限がないガス検知装置であって、被検知ガスを導入するガス流路を設け、当該ガス流路に、ガス検知素子を備えたガス検知部を設け、被検知ガスをガス流路に流通させてガス検知素子に導くガス流通装置を設けたガス検知装置に利用できる。
【符号の説明】
【0052】
X ガス検知装置
30 上流側ガス検知部
40 遅延部
50 下流側ガス検知部
60 制御部
80 希釈部
図1
図2
図3