特許第6576060号(P6576060)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6576060
(24)【登録日】2019年8月30日
(45)【発行日】2019年9月18日
(54)【発明の名称】固体電解コンデンサ及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01G 9/00 20060101AFI20190909BHJP
   H01G 9/028 20060101ALI20190909BHJP
   H01G 9/032 20060101ALI20190909BHJP
【FI】
   H01G9/00 030
   H01G9/028 E
   H01G9/032
   H01G9/00 290E
【請求項の数】16
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2015-48249(P2015-48249)
(22)【出願日】2015年3月11日
(65)【公開番号】特開2016-171111(P2016-171111A)
(43)【公開日】2016年9月23日
【審査請求日】2018年3月2日
(73)【特許権者】
【識別番号】000134257
【氏名又は名称】株式会社トーキン
(74)【代理人】
【識別番号】100123788
【弁理士】
【氏名又は名称】宮崎 昭夫
(74)【代理人】
【識別番号】100127454
【弁理士】
【氏名又は名称】緒方 雅昭
(72)【発明者】
【氏名】出水 寛之
(72)【発明者】
【氏名】菅原 康久
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 弘樹
【審査官】 須藤 竜也
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−224673(JP,A)
【文献】 特開2013−054967(JP,A)
【文献】 特開2002−060720(JP,A)
【文献】 特開平4−253771(JP,A)
【文献】 国際公開第2004/051679(WO,A1)
【文献】 特開2001−151867(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01G 9/00−9/18
H01G 9/21−9/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
陽極導体と、該陽極導体上に形成された誘電体層と、該誘電体層上に形成された固体電解質と、該固体電解質上に形成された陰極層とを含む固体電解コンデンサであって、
前記固体電解質中、もしくは前記固体電解質と接する他の層との界面に、非ハロゲン系ホスファゼン化合物の溶解析出物を含む層を有する固体電解コンデンサ。
【請求項2】
前記非ハロゲン系ホスファゼン化合物が、前記固体電解質の少なくとも一つの層全域に分布している請求項1に記載の固体電解コンデンサ。
【請求項3】
前記非ハロゲン系ホスファゼン化合物が、前記固体電解質の層間に分布している請求項1に記載の固体電解コンデンサ。
【請求項4】
前記非ハロゲン系ホスファゼン化合物が、前記固体電解質と前記誘電体層との界面に分布している請求項1に記載の固体電解コンデンサ。
【請求項5】
前記非ハロゲン系ホスファゼン化合物が、前記固体電解質と前記陰極層との界面に分布している請求項1に記載の固体電解コンデンサ。
【請求項6】
前記非ハロゲン系ホスファゼン化合物を、前記固体電解質の固形分100質量部に対して、1〜50質量部含む請求項1〜5のいずれか1項に記載の固体電解コンデンサ。
【請求項7】
前記非ハロゲン系ホスファゼン化合物は、下記一般式(A)で表される環状フェノキシホスファゼン化合物、下記一般式(B)で表される直鎖または分岐状フェノキシホスファゼン化合物、または一般式(A)または(B)の化合物が、o−フェニレン基、m−フェニレン基、p−フェニレン基、及び一般式(C)で表されるビスフェニレン基からなる群より選ばれる少なくとも1種の架橋基により架橋されている架橋フェノキシホスファゼン化合物から選択される請求項1〜6のいずれか1項に記載の固体電解コンデンサ。
【化1】
(式中、mは3〜25の整数を、Phはフェニル基を示す。)
【化2】
(式中、Xは基−N=P(OPh)または基−N=P(O)OPhを示し、Yは基−N=P(OPh)または基−N=P(O)(OPh)を示し、nは3〜1000の整数を、Phはフェニル基を示す。)
【化3】
(式中。Aは−C(CH−、−SO−、−S−または−O−を示し、zは0または1を示す。)
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の固体電解コンデンサを製造する方法であって、前記非ハロゲン系ホスファゼン化合物を溶媒に溶解して添加することを特徴とする固体電解コンデンサの製造方法。
【請求項9】
前記溶媒は、溶解パラメータ(SP値)が8〜15の溶媒である請求項に記載の固体電解コンデンサの製造方法。
【請求項10】
前記固体電解質が、導電性高分子を含む請求項8又は9に記載の固体電解コンデンサの製造方法。
【請求項11】
前記導電性高分子を含む固体電解質が、前記非ハロゲン系ホスファゼン化合物と導電性モノマーを含む溶液を化学酸化重合又は電解重合して形成される請求項10に記載の固体電解コンデンサの製造方法。
【請求項12】
前記導電性高分子を含む固体電解質が、前記非ハロゲン系ホスファゼン化合物を溶解した溶液と、前記導電性高分子を溶解した溶液又は分散した分散液を混合して調製された混合液を用いて形成される請求項10又は11に記載の固体電解コンデンサの製造方法。
【請求項13】
前記固体電解質が、二酸化マンガンを含む請求項8又は9に記載の固体電解コンデンサの製造方法。
【請求項14】
前記二酸化マンガンを含む固体電解質が、前記非ハロゲン系ホスファゼン化合物を溶解した溶液と硝酸マンガンを溶解した溶液又は分散した分散液を混合して混合液、あるいは前記非ハロゲン系ホスファゼン化合物と硝酸マンガンを溶解した溶液を熱分解して形成される請求項13に記載の固体電解コンデンサの製造方法。
【請求項15】
前記陽極導体上に誘電体層を形成した後、前記非ハロゲン系ホスファゼン化合物を溶解した溶液を前記誘電体層上に付与し、溶媒を除去する工程を有する請求項8〜14のいずれか1項に記載の固体電解コンデンサの製造方法。
【請求項16】
前記陽極導体上に誘電体層及び固体電解質を形成した後、前記非ハロゲン系ホスファゼン化合物を溶解した溶液を前記固体電解質上に付与し、溶媒を除去する工程を有する請求項8〜15のいずれか1項に記載の固体電解コンデンサの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体電解コンデンサ及びその製造方法に関し、詳しくは、難燃化に優れた固体電解コンデンサ及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、弁作用金属からなる陽極導体の表面に誘電体膜を形成し、固体電解質で誘電体膜を被覆した固体電解コンデンサが知られている。
この固体電解質には、導電性高分子などの有機物や、二酸化マンガンなどの燃焼しやすいものを用いているため、信頼性向上のために難燃化する必要があり、この難燃化のために、固体電解質の中及び近接した部分に難燃剤を添加することが必要である。
【0003】
従来の固体電解コンデンサには、難燃効果を高めるために、モールド樹脂などに難燃剤としてリン酸エステルなどを添加していた(特許文献1)。しかしながら、リン酸エステル系の難燃剤は、加水分解性が高いため、水分により分解してしまい、難燃効果が低下するという欠点がある。このため、特に、製造プロセス中に水分を含んだものを用いる固体電解質層中への添加は困難であった。
【0004】
特許文献2には、固体電解質中に粉末状の難燃剤で、水に難溶性の難燃剤を分散させる方法が開示されている。また、難燃剤として三酸化アンチモンを用いる場合、固体電解質層中のペーストにまたは、集電体層中の銀ペーストやカーボンペーストにハロゲン系の難燃剤を混合したり、これらのペーストの構成材料にハロゲン含有物質(ハロゲン化物質)を用いても良いことが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−93463号公報
【特許文献2】特開2009−224673号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献2で使用される難燃剤は無機系の難燃剤であり、水難溶性のため、固体電解質形成時に凝集しやすく、分散状態が不均一となりやすい。難燃剤の分散が不均一になると難燃効果が低下することがある。また、特許文献1の実施例では難燃剤を使用した例は示されていない。
【0007】
本発明では、固体電解質中又はその近傍に、難燃剤が層状で均等に添加された固体電解コンデンサを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明では、難燃剤として作用する耐水性の高い非ハロゲン系ホスファゼン化合物を用い、この非ハロゲン系ホスファゼン化合物を溶媒に溶解して、固体電解質中又はその近傍に層状で均等に添加する。
【0009】
即ち、本発明の一形態によれば、
陽極導体と、該陽極導体上に形成された誘電体層と、該誘電体層上に形成された固体電解質と、該固体電解質上に形成された陰極層とを含む固体電解コンデンサであって、
前記固体電解質中、もしくは前記固体電解質と接する他の層との界面に、非ハロゲン系ホスファゼン化合物の溶解析出物を含む層を有する固体電解コンデンサが提供される。
本発明の別の形態によれば、上記の固体電解コンデンサを製造する方法であって、前記非ハロゲン系ホスファゼン化合物を溶媒に溶解して添加することを特徴とする固体電解コンデンサの製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0010】
本発明では、耐水性の高い非ハロゲン系ホスファゼン化合物を溶媒に溶解した溶液状態で固体電解質中又は固体電解質近傍に添加するため、有効な難燃剤が均一に分布した難燃剤を含む層を備える固体電解コンデンサを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の一実施形態に係る固体電解コンデンサの構造を示す模式的断面図。
図2】非ハロゲン系ホスファゼン化合物の分布状態の一例を示す模式的断面図。
図3】非ハロゲン系ホスファゼン化合物の分布状態の一例を示す模式的断面図。
図4】非ハロゲン系ホスファゼン化合物の分布状態の一例を示す模式的断面図。
図5】非ハロゲン系ホスファゼン化合物の分布状態の一例を示す模式的断面図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。
[固体電解コンデンサ]
図1に、本実施形態に係る固体電解コンデンサの構造を示す模式的断面図を示す。この電解コンデンサは、陽極導体1上に、誘電体層2、固体電解質層3、グラファイト層4および銀層5がこの順に形成された構造を有している。電解質層3の外周のグラファイト層4と銀層5は陰極層を構成し、更に、導電接着剤6を介して外部との接続端子となる電極7に接続される。また、陽極導体1の固体電解質層3を形成していない面には陽極導体1と同様の弁作用金属からなる金属リード8が設けられており、金属リード8は、陰極層とは異なる接続端子の電極7に接続されている。また、全体はエポキシ樹脂等の絶縁性の外装樹脂9で覆われ、固体電解コンデンサ10が形成される。
【0013】
(陽極導体)
陽極導体1は、弁作用金属の板、箔または線;弁作用金属の微粒子からなる焼結体;エッチングによって拡面処理された多孔質体金属などによって形成される。弁作用金属としては、タンタル、アルミニウム、チタン、ニオブ、ジルコニウムおよびこれらの合金などが挙げられる。中でも、アルミニウム、タンタルおよびニオブから選択される少なくとも1種の弁作用金属であることが好ましい。なお、金属リード8は、陽極導体1と一体に形成することが好ましい。
【0014】
(誘電体層)
誘電体層2は、陽極導体1の表面を電解酸化させることで形成することができる層(酸化皮膜とも言う)であり、焼結体や多孔質体などの空孔部にも形成される。誘電体層2の厚みは、電解酸化の電圧によって適宜調整できる。
【0015】
(固体電解質層)
固体電解質層3には、ピロール、チオフェン、アニリンまたはその誘導体を重合して得られる導電性高分子;二酸化マンガン、酸化ルテニウムなどの酸化物誘導体;TCNQ(7,7,8,8−テトラシアノキノジメタンコンプレックス塩)などの有機物半導体を用いることができる。
固体電解質層3の形成方法としては、例えば、固体電解質を導電性高分子とする場合は、誘電体層2上に前述の導電性高分子の懸濁液を塗布、あるいは該懸濁液に誘電体層2を形成した陽極導体1(以下、陽極ペレットとも言う)を浸漬し、その懸濁液から溶媒を除去する方法が挙げられる。
【0016】
固体電解質層3は、単層構造でもよいが、多層構造でもよい。図1に示す固体電解コンデンサ10では、固体電解質層3を二層構造、たとえば、第一の導電性高分子層3Aおよび第二の導電性高分子層3Bで構成している。第一の導電性高分子層3Aは、化学酸化重合または電解重合で上述の空孔部内にも形成し、第二の導電性高分子層3Bは、塗布法や浸漬法(ディッピング法)で形成することができる。第一の導電性高分子層3Aに含まれる第一の導電性高分子と、第二の導電性高分子層3Bに含まれる第二の導電性高分子は、同一種の重合体であることが好ましい。
【0017】
化学酸化重合あるいは、電解重合における導電性高分子を与えるモノマーとしては、ピロール、チオフェン、アニリンおよびそれらの誘導体から選ばれる少なくとも1種を用いることができる。このモノマーを化学酸化重合または電解重合して導電性高分子を得る際に使用するドーパントとしては、ベンゼンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸、フェノールスルホン酸、スチレンスルホン酸およびその誘導体等のスルホン酸系化合物が好ましい。ドーパントの分子量としては、低分子化合物から高分子量体まで適宜選択して用いることができる。化学酸化重合または電解重合の際にはモノマーを溶媒に溶解又は懸濁させて行う。この溶媒としては、水のみでもよく、水と水に可溶な有機溶媒とを含む混和溶媒でもよい。
【0018】
塗布または浸漬の際は、上記のモノマーを別途化学酸化重合または電解重合にて導電性高分子とし、その後、水中に導電性高分子を分散して懸濁液を調製して使用する。塗布または浸漬の方法は特に制限はされないが、十分に多孔質細孔内部へ導電性高分子懸濁液を充填させるために、塗布または浸漬後に数分〜数10分放置することが好ましい。また、塗布または浸漬の繰り返しや、塗布または浸漬の際に減圧または加圧を行うことが好ましい。
導電性高分子懸濁液からの溶媒の除去は、乾燥することで行うことができる。乾燥温度は、溶媒除去が可能な温度範囲であれば特に限定されないが、熱による導電性高分子劣化防止の観点から、上限温度は300℃未満であることが好ましい。乾燥時間は、乾燥温度によって適宜最適化する必要があるが、導電性が損なわれない範囲であれば特に制限されない。
【0019】
固体電解質層3の形成方法としては、例えば、固体電解質を二酸化マンガンとする場合は、誘電体層2上に硝酸マンガン溶液を塗布、あるいは硝酸マンガン溶液に誘電体層を形成した陽極導体を浸漬し、その後、硝酸マンガンを熱分解させることにより、二酸化マンガンからなる固体電解質層を形成する。硝酸マンガンとしては、硝酸マンガン(II)六水和物などの水和物が好ましく使用される。硝酸マンガン(II)六水和物は、水やエタノールに易溶であり、これらの溶媒を単独で、あるいはこれらを混合し又は他の溶媒と組み合わせて使用する。熱分解温度は特に制限はないが、200〜250℃程度の温度で実施できる。
【0020】
本発明に係る固体電解質としては、特に限定されないが、導電性の観点から、二酸化マンガン、導電性高分子が好ましく、特に導電性高分子が好ましい。
【0021】
固体電解質層を形成する導電性高分子としては、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリアニリンおよびそれらの誘導体が挙げられる。中でも、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)またはその誘導体が好ましい。導電性高分子は、ホモポリマーでもよく、コポリマーでもよく、1種でもよく、2種以上でもよい。
導電性高分子を使用する場合には導電性高分子に高い導電性を付与するドーパントを組み合わせることが好ましい。このドーパントとしては、アルキルスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸、アントラキノンスルホン酸、カンファースルホン酸、ポリアクリル酸、ポリスチレンスルホン酸およびそれらの誘導体等が挙げられる。これらのスルホン酸は、モノスルホン酸でもジスルホン酸でもトリスルホン酸でもよい。アルキルスルホン酸の誘導体としては、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸が挙げられる。ベンゼンスルホン酸の誘導体としては、フェノールスルホン酸、スチレンスルホン酸、トルエンスルホン酸、ドデシルベンゼンスルホン酸が挙げられる。ナフタレンスルホン酸の誘導体としては、1−ナフタレンスルホン酸、2−ナフタレンスルホン酸、1,3−ナフタレンジスルホン酸、1,3,6−ナフタレントリスルホン酸、6−エチル−1−ナフタレンスルホン酸が挙げられる。アントラキノンスルホン酸の誘導体としては、アントラキノン−1−スルホン酸、アントラキノン−2−スルホン酸、アントラキノン−2,6−ジスルホン酸、2−メチルアントラキノン−6−スルホン酸が挙げられる。中でも、ポリスチレンスルホン酸が好ましい。ポリスチレンスルホン酸がドープしたポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)は水溶媒中に安定に分散した懸濁液が得られる。また、その懸濁溶液から得られる導電性高分子組成物は高い導電性を持つことが知られている。
【0022】
(グラファイト層)
グラファイト層4は、グラファイト(黒鉛)の粉末をバインダとともに所定の溶媒(希釈剤)に分散したグラファイトペーストを用いて形成することができる。グラファイトの粒径や量は、適宜所望の導電性が付与できるように適宜調整することができる。
【0023】
(銀層)
銀層5は、銀の微粒子をバインダとともに所定の溶媒(希釈剤)に分散した銀ペーストを用いて形成することができる。銀微粒子の粒径や量は、適宜所望の導電性が付与できるように適宜調整することができる。
グラファイトペーストや銀ペーストは、市販品を用いることができる。又、グラファイト層の代わりに、カーボンブラックなどの炭素材料を添加した導電層を形成してもよい。
【0024】
[非ハロゲン系ホスファゼン化合物]
非ハロゲン系ホスファゼン化合物としては、難燃剤としての効果があるものであれば特に限定されないが、アリールオキシ基で置換されたホスファゼン化合物及びその架橋物が望ましい。例えば、一般式(A)で示される環状フェノキシホスファゼン化合物、あるいは一般式(B)で示される直鎖または分岐状フェノキシホスファゼン化合物が例示される。この中で、難燃効果の観点から、特に環状フェノキシホスファゼン化合物が好ましい。
【0025】
【化1】
【0026】
(式中、mは3〜25の整数を、Phはフェニル基を示す。)
【0027】
【化2】
【0028】
(式中、Xは基−N=P(OPh)または基−N=P(O)OPhを示し、Yは基−N=P(OPh)または基−N=P(O)(OPh)を示し、nは3〜1000の整数を、Phはフェニル基を示す。)
また、上記一般式(A)または(B)の化合物が、o−フェニレン基、m−フェニレン基、p−フェニレン基、及び一般式(C)で表されるビスフェニレン基からなる群より選ばれる少なくとも1種の架橋基により架橋されている架橋フェノキシホスファゼン化合物も好適な化合物として用いることができる。
【0029】
【化3】
【0030】
(式中Aは−C(CH−、−SO−、−S−または−O−を示し、zは0または1を示す。)
【0031】
上記架橋フェノキシホスファゼン化合物においては、上記フェノキシホスファゼン化合物として環状フェノキシホスファゼン化合物(A)、および/または鎖状フェノキシホスファゼン化合物(B)が用いられるとともに、上記フェニレン系架橋基が、上記フェノキシホスファゼン化合物のフェニル基が脱離した2個の酸素原子間に介在し、かつ、当該架橋フェノキシホスファゼン化合物のフェニル基の含有割合が、上記フェノキシホスファゼン化合物中のフェニル基の総数を基準として50〜99.9%の範囲内となっている、フェノール性水酸基を少なくとも1つ有するフェニレン系架橋フェノキシホスファゼン化合物であることがより好ましい。
【0032】
これら非ハロゲン系ホスファゼン化合物の添加量は、難燃効果の観点から固体電解質の固形分100質量部に対して1質量部以上50質量部以下が好ましく、さらに、固体電解質の固形分100質量部に対して2質量部以上30質量部以下がより好ましい。固体電解質の固形分100質量部に対して5質量部以上20質量部以下が特に好ましい。非ハロゲン系ホスファゼン化合物の添加量が少ないと難燃効果が低くなる。また、添加量が多いと、固体電解質の電気伝導度低下への影響がある。
【0033】
[溶媒]
非ハロゲン系ホスファゼン化合物を溶解させる溶媒としては、非ハロゲン系ホスファゼン化合物を溶解させることが可能な溶媒であれば特に限定されないが、SP値が8〜15のものを選ぶことができる。SP値が8以上15以下の溶媒を用いることにより、非ハロゲン系ホスファゼン化合物が溶解するので、溶液中に均一に分布させることができる。SP値が8〜15の溶媒としては、たとえば、シクロへキサン、酢酸ブチル、酢酸イソブチル、イソ酢酸メチル、エチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、メチルイソプロピルケトン、エチレングリコールジメチルエーテル、ジプロピレングリコールメチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、メチルプロピルケトン、メチルエチルケトン、キシレン、酢酸プロピル、ジエチルケトン、ジメチルエーテル、炭酸ジエチル、イソプロピルアルコール、酢酸プロピル、トルエン、酢酸エチル、エチレングリコールメチルエーテルアセテート、ベンゼン、スチレン、酢酸メチル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、アセトン、シクロへキサノン、炭酸ジメチル、エチレングリコールジアセテート、メチルイソブチルカルビトール、ジプロピレングリコール、プロピレングリコールメチルエーテル、酢酸、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ブチルアルコール、N,N−ジエチルホルムアミド、ヘキサノール、N,N−ジメチルアセトアミド、エチレングリコールモノベンジルエーテル、エチレングリコールモノフェニルエーテル、プロピルアルコール、シクロヘキサノール、アセトニトリル、N,N−ジメチルホルムアミド、ジエチレングリコール、γ−ブチロラクトン、メチルグリコール、プロピレングリコール、エタノール、炭酸プロピレン、N−エチレンホルムアミド、フェノール、ジメチルスルホキシド、メタノール、エチレングリコール、エチレンカーボネート等を用いることができる。SP値は8〜12が好ましく、8〜10がより好まく、さらにカルボニル基を有する溶媒が特に好ましい。カルボニル基を有する溶媒としては、たとえば、メチルエチルケトン、アセトン、シクロへキサノン、N,N−ジメチルホルムアミド等が挙げられ、これらは水とも相溶性があることから特に好ましい。
【0034】
前記溶媒は、その他溶媒との混合溶媒としてもよく、その際の混合溶媒において、SP値が前記範囲内に入っていれば、その他溶媒は特に限定されない。例えば、水は、SP値が23.4であり、上記のSP値範囲外であり、非ハロゲン系ホスファゼン化合物は溶解しないが、水と相溶性があり、上記SP値範囲内の溶媒と組み合わせて非ハロゲン系ホスファゼン化合物を溶解した溶液を調製することができる。
また、非ハロゲン系ホスファゼン化合物を一旦上記の溶媒に溶解した後、得られた溶液を他の溶媒に添加しても良い。このように溶液状態で添加することで、難燃剤である非ハロゲン系ホスファゼン化合物を溶液中に均一に分布させることが可能となる。なお、他の溶媒のSP値や混合割合によっては、非ハロゲン系ホスファゼン化合物が析出してくることがある。その場合、以下に示す添加剤や他の方法を用いて、非ハロゲン系ホスファゼン化合物を溶媒中に均一に分散させることが好ましい。
このように、溶液状態で添加した非ハロゲン系ホスファゼン化合物は、溶媒の蒸発により又は非ハロゲン系ホスファゼン化合物の溶液を他の液体に添加した際に溶解性の低下により析出したもの(以下、「溶解析出物」という)は、元の非ハロゲン系ホスファゼン化合物の粉体よりも遙かに小さい粒径であり、そのまま粉体を分散させる場合より、難燃効果の偏在が少なくなる。その結果、良好な難燃効果を付与することができる。
【0035】
非ハロゲン系ホスファゼン化合物の溶解析出物を液体中に均一に分散させるために、各種添加剤を添加することが好ましい。
一つ目は、分散剤である。分散剤には、低分子型と高分子型がある。低分子型分散剤としては、アルキルスルホン酸系、四級アンモニウム系、高級アルコールエステル系などが挙げられる。高分子分散剤としては、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリエチレンオキシド、ポリビニルピロリドンなどを挙げることができる。
二つ目は、シランカップリング剤である。シランカップリング剤としては、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリス(β−メトキシエトキシ)シラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロへキシル)エチルトリメトキシシラン、N−β−(アミノエチル)γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−β−(アミノエチル)γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−フェニル−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−クロロプロピルトリメトキシシランなどが挙げられる。
また、非ハロゲン系ホスファゼン化合物の溶解析出物を液体中に均一分散させる方法として、上記添加剤を添加する以外に、機械的分散方法が考えられる。例えば、超音波、ビーズミル、ボールミル、ホモジナイザー等を用いる方法がある。
上記の添加剤添加及び機械的分散方法では、どれを選んでも非ハロゲン系ホスファゼン化合物の溶解析出物の液体中への均一分散に効果があるため特に限定されない。
【0036】
[非ハロゲン系ホスファゼン化合物の添加方法]
固体電解質層3の中(固体電解質の全域または層間)および近接した部分(酸化皮膜の直上、固体電解質の外側)への非ハロゲン系ホスファゼン化合物の添加方法は、以下のとおりである。
【0037】
まず、前記固体電解質層の中(全域)への非ハロゲン系ホスファゼン化合物の添加方法は、固体電解質層の形成方法により異なる。
例えば、固体電解質が導電性高分子の場合は、その導電性高分子層の形成方法により添加方法が異なる。導電性高分子液の付与(塗布、浸漬等)により、誘電体層上に導電性高分子層を形成する場合は、前記SP値が8〜15の溶媒から選択した溶媒(以下、「選定溶媒」という)あるいは前記選定溶媒とその他溶媒との混合溶媒に非ハロゲン系ホスファゼン化合物を溶解した溶液と導電性高分子を溶解した溶液又は分散した分散液を混合して調製された混合液を用いて形成する。導電性高分子と非ハロゲン系ホスファゼン化合物は、混合液中では溶解乃至は均一に分散していれば良い。導電性高分子層を、化学酸化重合を用いて形成する場合は、2つの方法があり、一つ目は、誘電体層上にあらかじめ化学酸化重合によって導電性高分子層を形成(以下、化学重合層という)しておき、この化学重合層に、前記選定溶媒あるいはその他溶媒との混合溶媒に非ハロゲン系ホスファゼン化合物を溶解させた溶液を染み込ませ、溶媒のみを揮発させて化学重合層内に非ハロゲン系ホスファゼン化合物を含ませる。二つ目の方法は、化学酸化重合に用いるモノマー及びドーパントのどちらか一方を、前記選定溶媒、または前記選定溶媒とその他溶媒との混合溶媒に溶解し、さらに非ハロゲン系ホスファゼン化合物を溶解させる。これら溶液を用い、化学酸化重合により導電性高分子層を形成する。このとき、モノマー溶液とドーパント溶液のどちらにも、非ハロゲン系ホスファゼン化合物を溶解させてもよい。導電性高分子層を、電解重合を用いて形成する場合は、電解重合に使用するモノマー、ドーパント及び非ハロゲン系ホスファゼン化合物を前記選定溶媒、または前記選定溶媒とその他溶媒との混合溶媒に溶解させ、その溶液中で電解重合することにより形成する。
【0038】
固体電解質が二酸化マンガンの場合は、硝酸マンガンと非ハロゲン系ホスファゼン化合物を前記選定溶媒、または前記選定溶媒とその他溶媒との混合溶媒に溶解させる。あるいは硝酸マンガン溶液に非ハロゲン系ホスファゼン化合物を溶解した溶液を添加しても良い。その後、熱分解させ、二酸化マンガン層を形成する。熱による非ハロゲン系ホスファゼン化合物の分解防止の観点から、熱分解温度は硝酸マンガンの分解温度以上であって、非ハロゲン系ホスファゼン化合物の分解温度未満であることが好ましい。通常、熱分解は200℃から250℃程度の温度で行うことができる。
【0039】
図2に、前記固体電解質層の中(全域)へ非ハロゲン系ホスファゼン化合物が添加された場合のコンデンサ素子の断面図を示す。11は非ハロゲン系ホスファゼン化合物の存在を模式的に示している。実際には、非ハロゲン系ホスファゼン化合物の溶解析出物が微結晶分散状態又は膜状態で分布している。以下の図も同様である。図2に示す例では、化学酸化重合又は電解重合で形成される第一の導電性高分子層3A中、導電性高分子液の塗布又は浸漬で形成される第二の導電性高分子層3B中の両方に、それらの形成時に非ハロゲン系ホスファゼン化合物11を添加して全域に均等に分布するようにしている。しかしながら、第一の導電性高分子層3Aの全域のみ、もしくは第二の導電性高分子層3Bの全域のみに非ハロゲン系ホスファゼン化合物11を添加してもよい。したがって、非ハロゲン系ホスファゼン化合物は、固体電解質の少なくとも1層に層状で均等に含まれていれば良い。なお、図2図5において、陽極導体1の孔部の第一の導電性高分子層3Aと第二の導電性高分子層3Bとの間に空隙(ボイド)を有する形態が示されているが、これはボイドの形成を許容するものであって、ボイドが形成されることを必須とするものではない。
【0040】
また、固体電解質の層間への添加は、固体電解質層3を複数回に分けて徐々に厚くする場合に、先に形成された固体電解質層上に非ハロゲン系ホスファゼン化合物を溶解した溶液を塗布あるいは、該溶液に先に形成された固体電解質層を有する陽極体を浸漬(ディッピング)し、加熱乾燥して溶媒を除去することで添加できる。その後、残りの固体電解質層を形成する。図3に第二の導電性高分子層3Bの層間に非ハロゲン系ホスファゼン化合物11を添加した例を示す。第一の導電性高分子層3Aを形成した後、第一の導電性高分子層3A上に非ハロゲン系ホスファゼン化合物を溶解した溶液を塗布又は浸漬して、第一の導電性高分子層3Aの表層の一部又は導電性高分子層3Aの全層に非ハロゲン系ホスファゼン化合物を含浸しても良い。
【0041】
次に、前記固体電解質層の近接した部分(酸化皮膜の直上、固体電解質の外側)への非ハロゲン系ホスファゼン化合物の添加方法は、前記選定溶媒あるいはその他溶媒との混合溶媒に、非ハロゲン系ホスファゼン化合物をあらかじめ溶解させておき、その溶液を、例えば、酸化皮膜の直上、または固体電解質層の外側のそれぞれに塗布、あるいは該溶液に酸化皮膜形成後の陽極体又は固体電解質層形成後の陽極体を浸漬し、その後加熱乾燥して溶媒を除去することで非ハロゲン系ホスファゼン化合物の溶解析出物の層を形成することができる。図4図5に、酸化皮膜(誘電体膜2)の直上、または固体電解質層3の外側(グラファイト層4の下)のそれぞれに非ハロゲン系ホスファゼン化合物11を添加した場合のコンデンサ素子の断面図を示す。
【0042】
さらに、図2図4及び/または図5の組み合わせや、図3図4及び/または図5の組み合わせでもよい。
最終的には非ハロゲン系ホスファゼン化合物を溶解していた溶媒は除去され、非ハロゲン系ホスファゼン化合物は固体として析出(溶解析出物)するが、前記した通り、非ハロゲン系ホスファゼン化合物の元の粉体に比較してその粒径が極めて小さい微分散状態であるか、非ハロゲン系ホスファゼン化合物の膜状物となる。本発明ではこのようにして、耐水性の非ハロゲン系ホスファゼン化合物を固体電解質層の中及び近接した部分に、難燃剤の均一分布層として添加することができる。
【0043】
グラファイト層4の形成方法としては、固体電解質層3上に、前述のグラファイトペーストを塗布し、またはグラファイトペースト中に固体電解質層3を形成した陽極ペレットを浸漬して、そのグラファイトペーストから溶媒を除去する方法が挙げられる。グラファイトペーストからの溶媒の除去は、乾燥することで行うことができる。乾燥温度は、溶媒除去が可能な温度範囲であれば特に限定されないが、熱による下層の固体電解質層劣化防止の観点から、上限温度は300℃未満であることが好ましい。乾燥時間は、乾燥温度によって適宜最適化する必要があるが、導電性が損なわれない範囲であれば特に制限されない。
【0044】
銀層5の形成方法としては、グラファイト層4上に、前述の銀ペーストを塗布または該銀ペースト中にグラファイト層4を形成した陽極ペレットを浸漬して、その銀ペーストから溶媒を除去する方法が挙げられる。銀ペーストからの溶媒の除去は、乾燥することで行うことができる。乾燥温度は、溶媒除去が可能な温度範囲であれば特に限定されないが、熱による下層の固体電解質層劣化防止の観点から、上限温度は300℃未満であることが好ましい。乾燥時間は、乾燥温度によって適宜最適化する必要があるが、導電性が損なわれない範囲であれば特に制限されない。
【実施例】
【0045】
以下、本発明を実施例に基づき、さらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0046】
実施例1〜44、比較例1〜4
陽極導体1にタンタル微粉末の焼結体(弁作用金属多孔質体)を選択した。
図1に示すように、本発明の実施形態に係る固体電解コンデンサは、陽極側電極としての金属リード8を有する陽極導体1と、この陽極導体1の表面を陽極酸化して得た誘電体層2と、固体電解質層3と、グラファイト層4、銀層5からなる陰極層、導電接着剤6および外部電極7、外装樹脂9から構成されている。下記の方法で固体電解コンデンサを製造した。
タンタル微粉末の焼結体を、リン酸水溶液中、16Vで陽極酸化し、タンタル微粉末表面全体が誘電体層2で被覆されたペレットを得た。次に、表1に示す難燃剤を、添加量、添加箇所、固体電解質の種類を変え、さらに表1に記載の方法で固体電解質層3を形成した。
【0047】
ここで、ディップ法で使用した導電性高分子液としては、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)と、ドーパントとしてポリスチレンスルホン酸と、溶媒として水を含む導電性高分子液を調製した。なお、導電性高分子は、特許第2636968号を参考に、モノマーである3,4−エチレンジオキシチオフェン(以下、EDTと略す)と、ドーパント及び分散剤として機能するポリスチレンスルホン酸(以下、PSSと略す)との質量比率がEDT/PSS=1/3となるように水に混合し、化学酸化重合にて重合反応を起こし、重合反応後、未反応のモノマーなどの不純物を取り除き、残部を導電性高分子液として得た。得られた導電性高分子液において、導電性高分子とドーパントとを合わせた含有量は1.0質量%であった。
【0048】
化学酸化重合には、EDTとPSSとの質量比率がEDT/PSS=1/3となるように水に混合した溶液中にペレットを浸漬して化学酸化重合にて重合反応させた。
【0049】
電解重合には、EDTとPSSとの質量比率がEDT/PSS=1/3となるように水に混合した溶液中にペレットを浸漬して、対極に炭素電極を用いた電解重合にて重合反応させた。
【0050】
二酸化マンガンの場合、濃度20質量%の硝酸マンガン水溶液にペレットを浸漬し、その後、温度230℃で熱分解してこれを複数回繰り返した。
実施例の非ハロゲン系ホスファゼン化合物としては、架橋フェノキシホスファゼンオリゴマー(大塚化学製、商品名「SPB−100」、難燃剤1と称す)を用い、溶媒としてシクロヘキサノン(SP値=9.9)を用いて20質量%の難燃剤溶液を調製した。比較例3,4では、難燃剤としてリン酸トリフェニル(難燃剤2と称す)を粉体のまま添加した。
【0051】
添加箇所は、以下の通り。
A:誘電体層と固体電解質との界面
B:固体電解質中
C:固体電解質層間
D:固体電解質とグラファイト層との界面
【0052】
添加箇所Aについては、誘電体層上に難燃剤溶液を塗布し、溶媒を160℃で乾燥して除去し、これを規定の添加量となるまで繰り返すことで添加した。
添加箇所Bについては、各固体電解質又はその前駆体の溶液に、難燃剤を規定の添加量となるように、各固体電解質の製造方法に従って添加した。実施例は難燃剤溶液として、比較例では難燃剤2を粉体のまま溶液に添加した。
添加箇所Cについては、各固体電解質を複数回に分けて形成し、その間に難燃剤溶液を塗布し、160℃で乾燥して形成した。添加量が多いものについては、複数の層に分けて添加した。
添加箇所Dについては、各固体電解質層を形成した後、固体電解質層上に難燃剤溶液を塗布し、溶媒を160℃で乾燥して除去し、これを規定の添加量となるまで繰り返すことで添加した。
【0053】
その後、グラファイトペーストにペレットを浸漬・引き上げた後、120℃で1時間乾燥を行い、グラファイト層4を形成した。グラファイト層4の形成後、銀ペーストにペレットを浸漬・引き上げた後、120℃で1時間乾燥を行い、銀層5を形成した。続いて、導電接着剤6および外部電極7、外装樹脂9を順番に形成し、固体電解コンデンサ10を製造した。
【0054】
このようにして製造した固体電解コンデンサの120Hzでの静電容量、100kHzでのESRを測定した。次に、上記の固体電解コンデンサにおいて、発火確認試験を行った。各コンデンサをプリント基板に実装した後、陽極酸化電圧の2倍である32Vの過電圧を印加してコンデンサ素子を短絡し、3Aの過電流を印加した状態で、コンデンサ素子が発煙・発火するか否かを確認した。なお試験には各水準50個を使用し、コンデンサ素子が発煙に至った数(発煙数)及びコンデンサ素子が発火に至った数(発火数)をカウントした。難燃性は、発煙数が5個以下であり、発火数が0個のものを○、それ以外を×とした。
【0055】
尚、32Vの過電圧および3Aの過電流の印加は通常の固体電解コンデンサに対する使用状態では実現されない過酷な条件(破壊試験)である。表1に結果を示す。
【0056】
【表1】
【0057】
実施例では、非ハロゲン系ホスファゼン化合物の固体電解質固形分100質量部に対する添加量が1〜50質量部の範囲でいずれも高い難燃性を示した。また、添加量が20質量部までであれば、難燃剤の添加をしていない比較例1,2とESR値は同等であり、ESRへの影響がほぼないことが確認された。添加量が50質量部までであれば、ESRが許容範囲内であることが確認された。加水分解性のあるリン酸トリフェニル(難燃剤2)を使用した比較例3,4では固体電解質の製造中に難燃剤が加水分解され、難燃性が十分に付与できなかった。
【符号の説明】
【0058】
1:陽極導体
2:誘電体層
3:固体電解質層
3A:第一の導電性高分子層
3B:第二の導電性高分子層
4:グラファイト層
5:銀層
6:導電接着剤
7:電極
8:金属リード(弁作用金属)
9:外装樹脂
10:固体電解コンデンサ
11:非ハロゲン系ホスファゼン化合物
図1
図2
図3
図4
図5