(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記複数のカーボンナノチューブ単糸を束ねる工程において、前記複数のカーボンナノチューブ単糸を撚り合わせて、撚糸を調製することを特徴とする、請求項2に記載のカーボンナノチューブ複合材の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0036】
1.カーボンナノチューブ複合材の構成
カーボンナノチューブ複合材1は、
図1Aおよび
図1Bに示すように、マトリックス2と、カーボンナノチューブ糸3とを備え、好ましくは、マトリックス2と、カーボンナノチューブ糸3とからなり、マトリックス2およびカーボンナノチューブ糸3が複合化されている。
【0037】
マトリックス2は、カーボンナノチューブ複合材1の基材であって、弾性を有している。詳しくは、マトリックス2の25℃における引張弾性率Eは、0.01GPa以上、好ましくは、0.08GPa以上、さらに好ましくは、0.5GPa以上、5GPa以下、好ましくは、3GPa以下である。なお、マトリックス2の引張弾性率Eの測定方法は、マトリックス2の材料に応じて公知の方法が適宜選択される。例えば、マトリックス2が熱可塑性樹脂(後述)からなる場合、JIS K 7161(2014)に準拠し、マトリックス2が熱硬化性樹脂(後述)からなる場合、JIS K 6251(2010)に準拠して求められる引張応力および歪みから算出される(引張応力/歪み)。また、マトリックス2の引張弾性率Eは、各種公知文献により確認することもできる。
【0038】
マトリックス2の25℃における引張弾性率Eが、上記上限以下であると、マトリックス2にカーボンナノチューブ糸3を確実に貫通させることができ、マトリックス2の取扱性の向上を図ることができる。また、マトリックス2の25℃における引張弾性率Eが、上記下限以上であると、マトリックス2の弾性を確実に確保でき、マトリックス2がカーボンナノチューブ糸3を確実に保持することができる。
【0039】
マトリックス2の材料は、マトリックス2の引張弾性率Eが上記範囲となる材料であれば特に制限されず、例えば、樹脂材料などが挙げられる。樹脂材料としては、熱可塑性樹脂と、熱硬化性樹脂とが挙げられる。
【0040】
熱可塑性樹脂は、例えば、ポリエステル(例えば、ポリエチレンテレフタレートなど)、ポリオレフィン(例えば、ポリエチレン、ポリプロピレンなど)、ポリアミド、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリビニルアルコール、ポリ塩化ビニリデン、ポリアクリロニトリル、ポリウレタン、フッ素系ポリマー、熱可塑性エラストマーなどが挙げられる。
【0041】
このような熱可塑性樹脂のなかでは、好ましくは、フッ素系ポリマーおよび熱可塑性エラストマーが挙げられる。
【0042】
フッ素系ポリマーとしては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニル、ポリフッ化ビニリデンなどが挙げられ、好ましくは、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)が挙げられる。
【0043】
熱可塑性エラストマーとしては、例えば、オレフィン系エラストマー(例えば、エチレン−プロピレンゴム、エチレン−プロピレン−ジエンゴムなど)、スチレン系エラストマー、塩化ビニル系エラストマーなどが挙げられ、好ましくは、オレフィン系エラストマーが挙げられ、さらに好ましくは、エチレン−プロピレンゴムが挙げられる。
【0044】
熱硬化性樹脂は、硬化体(硬化後の熱硬化性樹脂)であって、例えば、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂、フェノール樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、熱硬化性エラストマーなどが挙げられる。
【0045】
このような熱硬化性樹脂のなかでは、好ましくは、熱硬化性エラストマーが挙げられる。熱硬化性エラストマーとしては、例えば、加硫ゴム、シリコーンゴム、アクリルゴムなどが挙げられ、好ましくは、シリコーンゴムが挙げられる。
【0046】
マトリックス2の形状は、特に制限されず用途に応じて適宜変更される。具体的には、マトリックス2の形状としては、例えば、シート形状、柱形状(例えば、円柱形状、角柱形状など)、球体状などが挙げられ、好ましくは、シート形状が挙げられる。
【0047】
なお、第1実施形態では、マトリックス2がシート形状を有する場合について説明する。つまり、マトリックス2は、平板形状を有し、具体的には、所定の厚みを有し、厚み方向と直交する面方向(縦方向および横方向)に延び、平坦な表面2Aおよび平坦な裏面2Bを有している。また、マトリックス2は、平面視において、
図1Aにおいて仮想線で示すように、円形形状を有していてもよく、
図1Aにおいて実線で示すように、多角形形状(例えば、四角形、六角形など)を有していてもよい。
【0048】
マトリックス2の厚みは、特に制限されず、例えば、1μm以上、好ましくは、300μm以上、さらに好ましくは、10mm以上、例えば、500mm以下、好ましくは、100mm以下、さらに好ましくは、50mm以下である。
【0049】
また、マトリックス2の表面2A(裏面2B)の面積は、例えば、1cm
2以上、好ましくは、10cm
2以上、例えば、300cm
2以下、好ましくは、100cm
2以下である。
【0050】
また、マトリックス2の質量割合は、カーボンナノチューブ複合材1の質量100%に対して、例えば、91.04質量%以上、好ましくは、96.21質量%以上、例えば、99.99質量%以下、好ましくは、99.80質量%以下である。
【0051】
カーボンナノチューブ糸3は、
図3Aに示すように、複数のカーボンナノチューブ5を有し、糸形状(線形状)に形成されている。例えば、カーボンナノチューブ糸3は、複数のカーボンナノチューブ単糸4を備え(からなり)、複数のカーボンナノチューブ単糸4が束ねられている。
【0052】
カーボンナノチューブ単糸4は、
図2Dに示すように、複数のカーボンナノチューブ5を有しており、複数のカーボンナノチューブ5は、カーボンナノチューブ単糸4において、それらの延びる方向に直線状に連続的に繋がっている。つまり、複数のカーボンナノチューブ5は、カーボンナノチューブ単糸4の延びる方向に沿うように配向されている。
【0053】
複数のカーボンナノチューブ5のそれぞれは、単層カーボンナノチューブおよび多層カーボンナノチューブのいずれであってもよく、好ましくは、
図3Bに示すように、多層カーボンナノチューブである。これらカーボンナノチューブ5は、単独使用または2種類以上併用することができる。
【0054】
なお、
図3B、
図4Dおよび
図4Eでは、便宜上、カーボンナノチューブ5が3層の多層カーボンナノチューブであるように記載されているが、多層カーボンナノチューブ5の層数は、これに限定されず、例えば、2層以上、好ましくは、3層以上、さらに好ましくは、4層以上、例えば、50層以下、好ましくは、40層以下である。
【0055】
カーボンナノチューブ5の平均外径は、例えば、1nm以上、好ましくは、5nm以上、例えば、100nm以下、好ましくは、50nm以下、さらに好ましくは、20nm以下である。
【0056】
カーボンナノチューブ5の平均長さ(平均軸線方向寸法)は、例えば、1μm以上、好ましくは、100μm以上、さらに好ましくは、200μm以上、例えば、1000μm以下、好ましくは、500μm以下、さらに好ましくは、400μm以下である。なお、カーボンナノチューブ5の層数、平均外径および平均長さは、例えば、ラマン分光分析や、電子顕微鏡観察などの公知の方法により測定される。
【0057】
また、カーボンナノチューブ単糸4の外径は、例えば、30nm以上、好ましくは、60nm以上、例えば、100nm以下、好ましくは、80nm以下である。
【0058】
そして、カーボンナノチューブ糸3は、複数のカーボンナノチューブ単糸4が撚り合わされていない無撚糸であってもよいが、好ましくは、複数のカーボンナノチューブ単糸4が撚り合わされる撚糸である。
【0059】
カーボンナノチューブ糸3の外径は、例えば、5μm以上、好ましくは、40μm以上、例えば、80μm以下、好ましくは、60μm以下、さらに好ましくは、30μm以下である。
【0060】
また、カーボンナノチューブ糸3の嵩密度は、例えば、0.6g/cm
3以上、好ましくは、0.6g/cm
3を超過し、さらに好ましくは、0.8g/cm
3以上、例えば、2.0g/cm
3以下である。
【0061】
また、カーボンナノチューブ糸3の熱伝導率は、カーボンナノチューブ糸3の延びる方向において、例えば、2W/(m・K)以上、好ましくは、5W/(m・K)以上、例えば、1000W/(m・K)以下、好ましくは、500W/(m・K)以下である。なお、熱伝導率は、公知の熱伝導率測定装置(例えば、メンターグラフィックスジャパン社製など)により測定される。
【0062】
また、カーボンナノチューブ糸3の電気伝導率は、カーボンナノチューブ糸3の延びる方向において、例えば、1000S/m以上、好ましくは、2500S/m以上、例えば、500000S/m以下、好ましくは、250000S/m以下である。なお、電気伝導率は、公知の電気伝導率測定装置(例えば、横河電機社製)により測定される。
【0063】
つまり、カーボンナノチューブ糸3は、カーボンナノチューブ糸3の延びる方向において、熱伝導性および電気伝導性を有している。
【0064】
そして、カーボンナノチューブ糸3は、
図1Bに示すように、マトリックス2を厚み方向に貫通しており、マトリックス2に保持されている。第1実施形態において、カーボンナノチューブ糸3は、マトリックス2に複数保持されており、複数のカーボンナノチューブ糸3のそれぞれは、マトリックス2を厚み方向に沿って貫通している。つまり、カーボンナノチューブ糸3は、マトリックス2を厚み方向に複数貫通しており、複数のカーボンナノチューブ糸3は、互いに独立して略平行となるように延びている。
【0065】
具体的には、カーボンナノチューブ糸3は、2本以上のカーボンナノチューブ糸3が束状となるカーボンナノチューブ糸束6として、マトリックス2を貫通している。
【0066】
カーボンナノチューブ糸束6は、2本以上、好ましくは、4本以上、例えば、50本以下、好ましくは、30本以下のカーボンナノチューブ糸3を有する。なお、
図1A、
図1B、
図4A〜
図4Cでは、カーボンナノチューブ糸束6が、2本のカーボンナノチューブ糸3を有する場合を示す。
【0067】
また、カーボンナノチューブ糸束6は、
図1Aおよび
図1Bに示すように、縦方向に互いに間隔を隔てて直線的に複数配列されて、糸束列7を構成する。そして、糸束列7は、横方向に互いに間隔を隔てて複数並列配置されている。
【0068】
糸束列7において、互いに隣り合うカーボンナノチューブ糸束6の間の間隔は、例えば、0.5mm以上、好ましくは、1mm以上、例えば、50mm以下、好ましくは、10mm以下である。
【0069】
また、複数の糸束列7のうち、互いに隣り合う糸束列7の間の間隔は、例えば、0.5mm以上、好ましくは、1mm以上、例えば、50mm以下、好ましくは、10mm以下である。
【0070】
このような複数のカーボンナノチューブ糸束6の密度は、マトリックス2の表面2Aの単位面積当たり、例えば、1束/cm
2以上、好ましくは、2束/cm
2以上、例えば、360束/cm
2以下、好ましくは、80束/cm
2以下である。
【0071】
各カーボンナノチューブ糸束6において、カーボンナノチューブ糸3は、その両端部がマトリックス2から突出している。つまり、カーボンナノチューブ糸3の長さLは、マトリックス2の厚みよりも大きく、マトリックス2の厚みに対して、例えば、1.05倍以上、好ましくは、1.1倍以上、例えば、1.3倍以下、好ましくは、1.2倍以下である。
【0072】
詳しくは、カーボンナノチューブ糸3は、埋設部3Aと、第1端部3Bと、第2端部3Cとを有している。
【0073】
埋設部3Aは、カーボンナノチューブ糸3の略中央部分である。埋設部3Aは、マトリックス2に埋設されており、マトリックス2に密着されている。埋設部3Aの長さL1は、カーボンナノチューブ糸3の長さLに対して、例えば、76.9%以上、好ましくは、83.3%以上、例えば、95.2%以下、好ましくは、90.9%以下である。
【0074】
第1端部3Bは、カーボンナノチューブ糸3の厚み方向の一方端部であって、マトリックス2の表面2Aから突出している。第1端部3Bの長さL2は、カーボンナノチューブ糸3の長さLに対して、例えば、2.4%以上、好ましくは、4.5%以上、例えば、11.5%以下、好ましくは、8.3%以下である。
【0075】
第2端部3Cは、カーボンナノチューブ糸3の厚み方向の他方端部であって、マトリックス2の裏面2Bから突出している。第2端部3Cの長さL2の範囲は、第1端部3Bの長さL2の範囲と同一である。
【0076】
また、複数のカーボンナノチューブ糸3の密度は、マトリックス2の表面2Aの単位面積当たり、例えば、5本/cm
2以上、好ましくは、10本/cm
2以上、例えば、1800本/cm
2以下、好ましくは、400本/cm
2以下である。
【0077】
カーボンナノチューブ糸3の密度が上記下限以上であれば、カーボンナノチューブ複合材1に熱伝導性および電気伝導性を確実に付与することができ、カーボンナノチューブ糸3の密度が上記上限以下であれば、カーボンナノチューブ複合材1において、マトリックス2の特性を確実に確保することができる。また、カーボンナノチューブ糸3の密度を変更することにより、カーボンナノチューブ複合材1に熱伝導性および電気伝導性を適宜調整することができる。
【0078】
また、カーボンナノチューブ糸3の質量割合(カーボンナノチューブ糸3が複数である場合、それらの総和の質量割合)は、カーボンナノチューブ複合材1の質量100%に対して、例えば、0.01質量%以上、好ましくは、0.20質量%以上、例えば、8.96質量%以下、好ましくは、3.79質量%以下であり、マトリックス2の100質量部に対して、例えば、0.01質量部以上、好ましくは、0.20質量部以上、例えば、9.84質量部以下、好ましくは、3.94質量部以下である。
【0079】
2.カーボンナノチューブ複合材の製造方法
次に、カーボンナノチューブ複合材1の製造方法について説明する。カーボンナノチューブ複合材1を製造するには、
図4Aに示すように、まず、マトリックス2およびカーボンナノチューブ糸3を準備する。
【0080】
マトリックス2は、カーボンナノチューブ複合材1の用途により適宜選択され、例えば、カーボンナノチューブ複合材1が熱伝導性シートである場合、シリコーンゴムやフッ素系ポリマーからなり、シート形状を有するマトリックス2が選択され、カーボンナノチューブ複合材1が電気伝導性シートである場合、熱伝導性シートと同様のマトリックス2が選択され、シート形状を有するマトリックス2が選択される。このようなマトリックス2は、市販品を用いることもできる。
【0081】
カーボンナノチューブ糸3を準備するには、例えば、
図2A〜
図3Aに示すように、化学気相成長法(CVD法)により、基板9上に垂直に配向される複数のカーボンナノチューブ5を成長させた後、複数のカーボンナノチューブ5から、複数のカーボンナノチューブ単糸4を引き出して、複数のカーボンナノチューブ単糸4を束ねる。
【0082】
より詳しくは、
図2Aに示すように、まず、基板9を準備する。基板9は、特に限定されず、例えば、CVD法に用いられる公知の基板が挙げられ、市販品を用いることができる。
【0083】
基板9として、具体的には、シリコン基板や、二酸化ケイ素膜11が積層されるステンレス基板12などが挙げられ、好ましくは、二酸化ケイ素膜11が積層されるステンレス基板12が挙げられる。なお、
図2A〜
図2Dおよび
図3Aでは、基板9が、二酸化ケイ素膜11が積層されるステンレス基板12である場合を示す。
【0084】
そして、
図2Aに示すように、基板9上、好ましくは、二酸化ケイ素膜11上に触媒層13を形成する。基板9上に触媒層13を形成するには、金属触媒を、公知の成膜方法により、基板9(好ましくは、二酸化ケイ素膜11)上に成膜する。
【0085】
金属触媒としては、例えば、鉄、コバルト、ニッケルなどが挙げられ、好ましくは、鉄が挙げられる。このような金属触媒は、単独使用または2種類以上併用することができる。成膜方法としては、例えば、真空蒸着およびスパッタリングが挙げられ、好ましくは、真空蒸着が挙げられる。
【0086】
これによって、基板9上に触媒層13が配置される。なお、基板9が、二酸化ケイ素膜11が積層されるステンレス基板12である場合、二酸化ケイ素膜11および触媒層13は、例えば、特開2014−94856号公報に記載されるように、二酸化ケイ素前駆体溶液と金属触媒前駆体溶液とが混合される混合溶液を、ステンレス基板12に塗布した後、その混合液を相分離させ、次いで、乾燥することにより、同時に形成することもできる。
【0087】
次いで、触媒層13が配置される基板9を、
図2Bに示すように、例えば、700℃以上900℃以下に加熱する。これにより、触媒層13が、凝集して、複数の粒状体13Aとなる。
【0088】
そして、加熱された基板9に、
図2Cに示すように、原料ガスを供給する。原料ガスは、炭素数1〜4の炭化水素ガス(低級炭化水素ガス)を含んでいる。炭素数1〜4の炭化水素ガスとしては、例えば、メタンガス、エタンガス、プロパンガス、ブタンガス、エチレンガス、アセチレンガスなどが挙げられ、好ましくは、アセチレンガスが挙げられる。
【0089】
また、原料ガスは、必要により、水素ガスや、不活性ガス(例えば、ヘリウム、アルゴンなど)、水蒸気などを含むこともできる。
【0090】
原料ガスが水素ガスや不活性ガスを含む場合、原料ガスにおける炭化水素ガスの濃度は、例えば、1体積%以上、好ましくは、30体積%以上、例えば、90体積%以下、好ましくは、50体積%以下である。原料ガスの供給時間としては、例えば、1分以上、好ましくは、5分以上、例えば、60分以下、好ましくは、30分以下である。
【0091】
これによって、複数の粒状体13Aのそれぞれを起点として、複数のカーボンナノチューブ5が成長する。なお、
図2Cでは、便宜上、1つの粒状体13Aから、1つのカーボンナノチューブ5が成長するように記載されているが、これに限定されず、1つの粒状体13Aから、複数のカーボンナノチューブ5が成長してもよい。
【0092】
このような複数のカーボンナノチューブ5のそれぞれは、基板9上において、互いに略平行となるように、基板9の厚み方向に延びている。つまり、複数のカーボンナノチューブ5は、基板9に対して直交するように配向(垂直に配向)されている。
【0093】
これによって、複数のカーボンナノチューブ5を備えるカーボンナノチューブ集合体10が、基板9上に形成される。
【0094】
このようなカーボンナノチューブ集合体10は、
図3Aに示すように、複数のカーボンナノチューブ5が縦方向に直線的に並ぶ列10Aを、横方向に複数備えている。これによって、カーボンナノチューブ集合体10は、略シート形状に形成されている。
【0095】
カーボンナノチューブ集合体10において、複数のカーボンナノチューブ5の嵩密度は、例えば、10mg/cm
3以上、好ましくは、20mg/cm
3以上、例えば、60mg/cm
3以下、好ましくは、50mg/cm
3以下である。なお、カーボンナノチューブ5の嵩密度は、例えば、単位面積当たり質量(目付量:単位 mg/cm
2)と、カーボンナノチューブの長さ(SEM(日本電子社製)または非接触膜厚計(キーエンス社製)により測定)とから算出される。
【0096】
次いで、
図2Dに示すように、カーボンナノチューブ集合体10から、複数のカーボンナノチューブ単糸4を引き出す。
【0097】
カーボンナノチューブ集合体10から複数のカーボンナノチューブ単糸4を引き出すには、例えば、カーボンナノチューブ集合体10のうち、各列10Aの縦方向端部に位置するカーボンナノチューブ5を、図示しない引出具により一括して保持し、基板9の厚み方向と交差する方向、好ましくは、縦方向に引っ張る。
【0098】
すると、引っ張られたカーボンナノチューブ5は、対応する粒状体13Aから引き抜かれる。このとき、引き抜かれるカーボンナノチューブ5に隣接するカーボンナノチューブ5は、引き抜かれるカーボンナノチューブ5との摩擦力およびファンデルワ―ルス力などにより、そのカーボンナノチューブ5の一端(上端)が、引き抜かれるカーボンナノチューブ5の他端(下端)に付着され、対応する粒状体13Aから引き抜かれる。
これによって、複数のカーボンナノチューブ5が、順次連続して、カーボンナノチューブ集合体10から引き出され、複数のカーボンナノチューブ5が連続的に繋がるカーボンナノチューブ単糸4を形成する。
【0099】
より詳しくは、カーボンナノチューブ単糸4において、連続するカーボンナノチューブ5は、先側のカーボンナノチューブ5の他端(下端)が、次に連続するカーボンナノチューブ5の一端(上端)に付着されている。
【0100】
カーボンナノチューブ単糸4の引き出し速度としては、例えば、10mm/分以上、好ましくは、30mm/分以上、例えば、100mm/分以下、好ましくは、70mm/分以下である。
【0101】
以上によって、カーボンナノチューブ集合体10から、複数のカーボンナノチューブ単糸4が、同時に一括して引き出される。
【0102】
次いで、複数のカーボンナノチューブ単糸4を束ねてカーボンナノチューブ糸3を調製する。複数のカーボンナノチューブ単糸4を束ねる方法としては、例えば、カーボンナノチューブ糸3が無撚糸である場合、複数のカーボンナノチューブ単糸4を穴部を有するダイに通過させる方法(例えば、特開2014−169521号公報に記載の方法など)などが挙げられ、カーボンナノチューブ糸3が撚糸である場合、複数のカーボンナノチューブ単糸4を撚り合わせる方法などが挙げられる。このような方法の中では、好ましくは、複数のカーボンナノチューブ単糸4を撚り合わせる方法が挙げられる。
【0103】
複数のカーボンナノチューブ単糸4を撚り合わせる方法は、例えば、
図3Aに示すように、紡績装置20により連続的に実施される。紡績装置20は、供給部21と、供給部21に対して間隔を空けて配置される回収部22とを備えている。なお、以下の紡績装置20の説明において、供給部21と回収部22とが向かい合う方向を前後方向とし、前後方向と直交する方向を左右方向とする。
【0104】
供給部21は、紡績装置20の後側部分に配置されており、カーボンナノチューブ糸3を回収部22に向かって送り出すように構成されている。供給部21は、カーボンナノチューブ支持体8と、図示しない引出具と、収束部23とを備えている。
【0105】
カーボンナノチューブ支持体8は、基板9と、カーボンナノチューブ集合体10とを備えている。そして、カーボンナノチューブ支持体8は、カーボンナノチューブ集合体10の縦方向が前後方向に沿うように配置されている。
【0106】
収束部23は、カーボンナノチューブ支持体8と回収部22との間に配置されている。収束部23は、支持板24と、1対の軸部25とを備えている。
【0107】
支持板24は、左右方向に延びる平面視略矩形形状の板状を有している。1対の軸部25は、支持板24の上面において、左右方向に互いに僅かな間隔を隔てて配置されている。1対の軸部25のそれぞれは、上下方向に延びる略円柱形状を有しており、支持板24に、軸芯周りに相対回転可能に支持されている。
【0108】
回収部22は、紡績装置20の前側部分に配置されており、供給部21から送り出されたカーボンナノチューブ糸3を回収するように構成されている。回収部22は、回転部26と、回収軸27と、軸駆動部28と、回転駆動部29とを備えている。
【0109】
回転部26は、後側に向かって開放される略コ字状を有している。回収軸27は、回転部26の左右両側壁の間に配置されている。回収軸27は、左右方向に延びる略円柱形状を有し、回転部26の左右両側壁に回転可能に支持されている。
【0110】
軸駆動部28は、外部から電力が供給されることにより、回収軸27に駆動力を供給するように構成されている。軸駆動部28は、モータ軸28Aと、駆動伝達ベルト28Bとを備えている。
【0111】
モータ軸28Aは、回転部26の前壁と回収軸27との間に配置されており、回転部26の右側壁に回転可能に支持されている。モータ軸28Aは、図示しないモータ本体から駆動力が入力されることで回転する。駆動伝達ベルト28Bは、公知の無端ベルトであって、モータ軸28Aの右端部と、回収軸27の右端部とに架け渡されている。
【0112】
回転駆動部29は、外部から電力が供給されることにより、回転部26に駆動力を供給するように構成されている。回転駆動部29は、回転部26に対して前側に配置されている。
【0113】
回転駆動部29は、例えば、公知のモータからなり、モータ本体29Aと、モータ本体29Aに回転可能に支持されるモータ軸29Bとを備えている。そして、モータ軸29Bの後端部は、回転部26の前壁の左右方向中央に固定されている。これによって、回転部26は、モータ軸29B、つまり、前後方向に沿う軸線を回転中心として回転可能である。
【0114】
このような紡績装置20では、カーボンナノチューブ集合体10から、図示しない引出具により、複数のカーボンナノチューブ単糸4を引き出す。そして、複数のカーボンナノチューブ単糸4を、1対の軸部25の間に通過させる。このとき、1対の軸部25のそれぞれは、複数のカーボンナノチューブ単糸4と摺擦することにより、従動回転する。
【0115】
これによって、複数のカーボンナノチューブ単糸4が、線形状(糸形状)に束ねられる。そして、束ねられた複数のカーボンナノチューブ単糸4の前端部を、回収部22の回収軸27に固定する。
【0116】
次いで、回転駆動部29に電力を供給するとともに、軸駆動部28に電力を供給する。すると、回転駆動部29のモータ軸29Bおよび回転部26が、前側から見て時計回り方向に回転し、軸駆動部28のモータ軸28Aおよび回収軸27が、左側から見て時計回り方向に回転する。
【0117】
これによって、複数のカーボンナノチューブ単糸4が、カーボンナノチューブ集合体10から連続的に引き出され、収束部23に束ねられた後、前側から見て時計回り方向に回転し撚り合わされながら、前側に向かって移動し、回収軸27に巻き取られる。
【0118】
以上によって、撚糸であるカーボンナノチューブ糸3が、紡績装置20により調製(準備)される。
【0119】
このとき、回転部26の回転速度(周速度)は、例えば、1000rpm以上、好ましくは、2000rpm以上、例えば、5000rpm以下、好ましくは、4000rpm以下である。
【0120】
また、回収軸27の回転による、カーボンナノチューブ糸3の移動速度は、例えば、0.1m/min以上、好ましくは、0.5m/min以上、例えば、10m/min以下、好ましくは、6.0m/min以下である。
【0121】
次いで、
図4A〜
図4Cに示すように、カーボンナノチューブ糸3をマトリックス2に複合化させる。具体的には、カーボンナノチューブ糸3をマトリックス2に厚み方向に貫通させる。カーボンナノチューブ糸3をマトリックス2に貫通させる方法としては、例えば、カーボンナノチューブ糸3をマトリックス2に縫い付ける方法が挙げられる。
【0122】
カーボンナノチューブ糸3の縫付方法としては、特に制限されず、並み縫い、半返し縫い、本返し縫いなどが挙げられ、好ましくは、並み縫いが挙げられる。
【0123】
カーボンナノチューブ糸3を並み縫いによりマトリックス2に縫い付けるには、例えば、
図4Aおよび
図4Bに示すように、1本のカーボンナノチューブ糸3を、縫針31の針穴に通し、2重となるように折り返し、縫針31をマトリックス2に厚み方向に貫通させる。
【0124】
これにより、カーボンナノチューブ糸3が、マトリックス2の厚み方向に沿うように、マトリックス2を貫通する。このとき、マトリックス2を貫通するカーボンナノチューブ糸3は、マトリックス2の弾性力により、マトリックス2に密着される。そして、カーボンナノチューブ糸3を、マトリックス2に順次複数回貫通させる。
【0125】
また、カーボンナノチューブ糸3は、
図5Aおよび
図5Bに示すように、ミシンにより、マトリックス2に縫い付けることもできる。
【0126】
より具体的には、カーボンナノチューブ糸3を下糸として、ボビン33に巻き付け、上糸37を、ミシン針30の針穴に通す。上糸37としては、特に制限されず、例えば、カーボンナノチューブ糸3であってもよく、公知のミシン糸であってもよい。そして、下糸(カーボンナノチューブ糸3)が、マトリックス2を貫通して、マトリックス2の表面2Aから露出するように、上糸37の張力を調整し、ミシンを駆動させる。これにより、カーボンナノチューブ糸3が、マトリックス2の厚み方向に沿うように、マトリックス2を複数回貫通する。
【0127】
これらにより、カーボンナノチューブ糸3のうち複数の部分が、
図4Bおよび
図5Aに示すように、マトリックス2を、同一方向である厚み方向に貫通する。
【0128】
次いで、
図4Cおよび
図5Bに示すように、カーボンナノチューブ糸3において、マトリックス2を貫通する複数の部分が互いに分離するように、カーボンナノチューブ糸3を切断する。より具体的には、カーボンナノチューブ糸3において、第1端部3Bがマトリックス2の表面2Aから突出し、かつ、第2端部3Cがマトリックス2の裏面2Bから突出するように、その他の部分を、切断刃32により切断して除去する。なお、
図5Bに示すように、カーボンナノチューブ糸3がミシンによりマトリックス2に縫い付けられている場合、上糸37も除去する。
【0129】
これにより、カーボンナノチューブ糸3のうちマトリックス2を貫通する複数の部分が、互いに分離され、1本のカーボンナノチューブ糸3が、互いに独立する複数のカーボンナノチューブ糸3に切り分けられる。また、複数のカーボンナノチューブ糸3は、上記のように、複数のカーボンナノチューブ糸束6を含んでいる(からなる)。
【0130】
以上によって、マトリックス2と、複数のカーボンナノチューブ糸3(複数のカーボンナノチューブ糸束6)とを備えるカーボンナノチューブ複合材1が製造される。
【0131】
このようなカーボンナノチューブ複合材1の用途としては、例えば、熱伝導性シート、電気伝導性シート、電磁波吸収体などが挙げられ、好ましくは、熱伝導性シートおよび電気伝導性シートが挙げられる。
【0132】
カーボンナノチューブ複合材1が熱伝導性シートとして利用される場合、例えば、カーボンナノチューブ複合材1は、
図9Aに示すように、電子素子ユニット34に備えられる。電子素子ユニット34は、カーボンナノチューブ複合材1に加え、電子素子35およびヒートシンク36を備えている。そして、カーボンナノチューブ複合材1は、カーボンナノチューブ糸3が、電子素子35およびヒートシンク36のそれぞれと接触するように、電子素子35およびヒートシンク36の間に挟まれる。
【0133】
このような電子素子ユニット34では、電子素子35が発熱したときに、カーボンナノチューブ複合材1のカーボンナノチューブ糸3を介して、電子素子35からの熱が、ヒートシンク36に伝達される。
【0134】
また、カーボンナノチューブ複合材1が電気伝導性シートとして利用される場合、例えば、カーボンナノチューブ複合材1は、ウェアラブル生体センサ39に備えられる。ウェアラブル生体センサ39は、カーボンナノチューブ複合材1に加え、センサ本体41およびゲルパッド40を備えている。この場合、カーボンナノチューブ複合材1のマトリックス2は、可撓性を有する樹脂材料(例えば、シリコーンゴムなどの熱硬化性エラストマー)からなる。また、ゲルパッド40は、図示しないが、金属からなる接触部を有している。そして、カーボンナノチューブ複合材1は、カーボンナノチューブ糸3が、ゲルパッド40の接触部およびセンサ本体41のそれぞれと接触するように、ゲルパッド40およびセンサ本体41の間に挟まれる。
【0135】
このようなウェアラブル生体センサ39は、ゲルパッド40の接触部が検知対象42(例えば、検知対象者)と接触するように、検知対象42に貼着される。このとき、ゲルパッド40は、検知対象42に沿うように弾性変形し、カーボンナノチューブ複合材1は、ゲルパッド40の弾性変形に追従するように、弾性変形する。この状態においても、ゲルパッド40の接触部とセンサ本体41とが、カーボンナノチューブ複合材1のカーボンナノチューブ糸3を介して、電気的に接続される。
【0136】
3.作用効果
カーボンナノチューブ複合材1では、
図1Bに示すように、マトリックス2の25℃における引張弾性率Eが5GPa以下であるので、カーボンナノチューブ糸3がマトリックス2を貫通することができ、マトリックス2の25℃における引張弾性率Eが0.01GPa以上であるので、マトリックス2は、その弾性力により、マトリックス2を貫通するカーボンナノチューブ糸3と密着することができる。そのため、マトリックス2とカーボンナノチューブ糸3とを確実に複合化できながら、マトリックス2がカーボンナノチューブ糸3を確実に保持することができ、カーボンナノチューブ糸3がマトリックス2から脱落することを抑制できる。
【0137】
そして、カーボンナノチューブ糸3がマトリックス2を厚み方向に貫通しているので、マトリックス2の厚み方向において、カーボンナノチューブ複合材1の熱伝導性および電気伝導性のそれぞれの向上を精度よく図ることができる。
【0138】
カーボンナノチューブ単糸4は、
図2Dに示すように、複数のカーボンナノチューブ5がそれらの延びる方向に連続的に繋がっている。そのため、カーボンナノチューブ単糸4において、複数のカーボンナノチューブ5は、カーボンナノチューブ単糸4の延びる方向に沿うように配向される。
【0139】
その結果、複数のカーボンナノチューブ単糸4が束ねられるカーボンナノチューブ糸3において、カーボンナノチューブ5の配向性を確実に確保することができる。
【0140】
また、カーボンナノチューブ糸3は、
図3Aに示すように、複数のカーボンナノチューブ単糸4が撚り合わされる撚糸である。そのため、カーボンナノチューブ糸3の強さを確実に確保することができ、
図4Aおよび
図4Bに示すように、カーボンナノチューブ糸3をマトリックス2に確実に貫通させることができる。
【0141】
また、カーボンナノチューブ糸3は、
図1Bに示すように、マトリックス2を同一方向の厚み方向に複数貫通している。そのため、マトリックス2の厚み方向において、カーボンナノチューブ複合材1の熱伝導性および電気伝導性のそれぞれの向上を確実に図ることができる。
【0142】
カーボンナノチューブ糸3は、
図4Cに示すように、マトリックス2を貫通する複数の部分が互いに分離するように切断されている。そのため、カーボンナノチューブ糸3の切断面において、複数のカーボンナノチューブ単糸4が露出する。
【0143】
その結果、カーボンナノチューブ糸3の複数のカーボンナノチューブ単糸4を、熱伝導および/または電気伝導のために効率的に利用でき、ひいては、マトリックス2の厚み方向において、カーボンナノチューブ複合材1の熱伝導性および電気伝導性のそれぞれのさらなる向上を図ることができる。
【0144】
また、カーボンナノチューブ5は、
図4Eに示すように、複数のグラフェンシートが径方向に積層される多層カーボンナノチューブ5である。そして、カーボンナノチューブ糸3が切断されているので、カーボンナノチューブ糸3の切断面において、多層カーボンナノチューブ5の各層(各グラフェンシート)が露出する。そのため、多層カーボンナノチューブ5の各層を、熱伝導および/または電気伝導のために利用でき、ひいては、マトリックス2の厚み方向において、カーボンナノチューブ複合材1の熱伝導性および電気伝導性のそれぞれのより一層の向上を図ることができる。
【0145】
また、カーボンナノチューブ複合材1の製造方法では、
図4Bに示すように、マトリックス2の25℃における引張弾性率Eが5GPa以下であるので、マトリックス2にカーボンナノチューブ糸3を所定方向に貫通させることができ、マトリックス2の25℃における引張弾性率Eが0.01GPa以上であるので、マトリックス2がカーボンナノチューブ糸3を確実に保持することができる。そのため、カーボンナノチューブ糸3を、所望する方向に精度よく配向させることができる。その結果、所望する方向において、マトリックス2に優れた熱伝導性および電気伝導性を付与することができる。
【0146】
よって、簡易な方法でありながら、所望する方向において、優れた熱伝導性および電気伝導性を有するカーボンナノチューブ複合材1を製造することができる。
【0147】
また、カーボンナノチューブ単糸4は、
図2Dに示すように、基板9に対して垂直に配向される複数のカーボンナノチューブ5を備えるカーボンナノチューブ集合体10から、引き出される。そのため、複数のカーボンナノチューブ5は、カーボンナノチューブ単糸4において、カーボンナノチューブ単糸4の延びる方向に沿うように配向される。
【0148】
その結果、複数のカーボンナノチューブ単糸4が束ねられるカーボンナノチューブ糸3において、カーボンナノチューブ5の配向性を確実に確保することができる。
4.第2実施形態〜第7実施形態
次に、
図6A〜
図8を参照して、本発明のカーボンナノチューブ複合材1の第2実施形態〜第7実施形態について説明する。なお、第2実施形態〜第7実施形態では、上記した第1実施形態と同様の部材には同様の符号を付し、その説明を省略する。
【0149】
(1)第2実施形態
第1実施形態では、
図1Bに示すように、カーボンナノチューブ糸束6が2本のカーボンナノチューブ糸3を有しているが、これに限定されず、第2実施形態では、カーボンナノチューブ糸束6は、
図6Aに示すように、3本以上のカーボンナノチューブ糸3を有している。この場合、例えば、カーボンナノチューブ糸3をマトリックス2に複合化させる工程において、複数本のカーボンナノチューブ糸3を、縫針31の針穴に通し、マトリックス2に貫通させた後、上記のように切断する。
【0150】
このような第2実施形態によれば、複数のカーボンナノチューブ糸3のマトリックス2の単位面積当たりの密度の向上を確実に図ることができる。また、この第2実施形態によっても、第1実施形態と同様の作用効果を奏することができる。
【0151】
(2)第3実施形態
第1実施形態では、
図1Bに示すように、カーボンナノチューブ糸3が、シート形状を有するマトリックス2を厚み方向に貫通しているが、これに限定されず、第3実施形態では、カーボンナノチューブ糸3は、
図6Bに示すように、シート形状を有するマトリックス2を面方向(縦方向または横方向)に貫通している。この場合、マトリックス2の面方向が、所定方向の一例として対応する。このような第3実施形態によっても、第1実施形態と同様の作用効果を奏することができる。
【0152】
(3)第4実施形態
第1実施形態では、
図1Bに示すように、複数のカーボンナノチューブ糸束6が、互いに平行となるように、シート形状を有するマトリックス2を厚み方向に沿って貫通しているが、複数のカーボンナノチューブ糸束6は、マトリックス2を厚み方向に貫通していれば、これに限定されない。例えば、第4実施形態では、
図6Cに示すように、複数のカーボンナノチューブ糸束6のそれぞれは、マトリックス2の厚み方向と交差するようマトリックス2を厚み方向に貫通しており、互いに異なる方向に延びている。このような第4実施形態によっても、第1実施形態と同様の作用効果を奏することができる。
【0153】
また、
図1B、
図4C、
図5B〜
図7において、各カーボンナノチューブ糸束6が有する複数のカーボンナノチューブ糸3は互いに平行であるが、これに限定されず、各カーボンナノチューブ糸束6が有する複数のカーボンナノチューブ糸3は、互いに異なる方向に延びていてもよい。
【0154】
(4)第5実施形態
第1実施形態では、
図1Aに示すように、マトリックス2がシート形状を有するが、これに限定されず、第5実施形態では、
図7に示すように、マトリックス2が角柱形状を有している。
【0155】
また、複数のカーボンナノチューブ糸3は、マトリックス2を複数の方向に貫通していてもよい。これにより、互いに異なる複数の方向において、カーボンナノチューブ複合材1の熱伝導性および電気伝導性の向上を図ることができる。また、このような第5実施形態によっても、第1実施形態と同様の作用効果を奏することができる。
【0156】
(5)第6実施形態
第6実施形態では、
図8に示すように、カーボンナノチューブ糸3に、樹脂材料が付着されている。樹脂材料としては、特に制限されず、例えば、上記した樹脂材料が挙げられ、好ましくは、熱可塑性樹脂、さらに好ましくは、ポリビニルアルコールが挙げられる。
【0157】
カーボンナノチューブ糸3に樹脂材料を付着させるには、例えば、カーボンナノチューブ糸3を、樹脂材料を含有する樹脂含有液(例えば、樹脂材料が溶解される樹脂溶液など)に浸漬した後、乾燥させる。
【0158】
このような場合、紡績装置20は、浸漬部45と、乾燥部46とを備えている。
【0159】
浸漬部45は、収束部23と回収部22との間に配置されている。浸漬部45は、浸漬槽47と、複数のローラ48とを備えている。浸漬槽47は、上側に向かって開放される略ボックス形状を有しており、その内部に、樹脂含有液が貯留されている。複数のローラ48のそれぞれは、カーボンナノチューブ糸3(複数のカーボンナノチューブ単糸4)が、浸漬槽47内の樹脂含有液に浸漬されるように、所定の位置に適宜配置されている。
【0160】
乾燥部46は、浸漬部45と回収部22との間に配置されている。乾燥部46は、公知の乾燥器であって、内部にカーボンナノチューブ糸3が通過するように構成されている。
【0161】
これによって、カーボンナノチューブ糸3(複数のカーボンナノチューブ単糸4)は、浸漬槽47内の樹脂含有液に浸漬された後、乾燥部46を通過するときに乾燥され、カーボンナノチューブ糸3に樹脂材料が付着(担持)される。
【0162】
また、カーボンナノチューブ糸3に、高分子材料が溶解した高分子溶液をエレクトロスピニングすることにより、カーボンナノチューブ糸3に樹脂材料を付着させることもできる。
【0163】
なお、カーボンナノチューブ糸3に樹脂材料を付着させるタイミングは、カーボンナノチューブ糸3をマトリックス2に複合化させる前であれば、特に制限されない。
【0164】
第6実施形態によれば、カーボンナノチューブ糸3に樹脂材料が付着されているので、カーボンナノチューブ糸3をマトリックス2に複合化したときに、それらの間に作用する抵抗(摩擦力)の向上を図ることができる。そのため、カーボンナノチューブ複合材1において、カーボンナノチューブ糸3が、マトリックス2から脱落すること確実に抑制できる。その結果、マトリックス2の厚みの低減を図ることができ、ひいては、カーボンナノチューブ複合材1の熱伝導性のさらなる向上を図ることができる。
【0165】
また、カーボンナノチューブ糸3をマトリックス2に複合化させる前に、カーボンナノチューブ糸3を表面処理することもできる。カーボンナノチューブ糸3の表面処理としては、例えば、プラズマ処理、UV処理などが挙げられる。これにより、カーボンナノチューブ糸3の表面を改質できる。そのため、カーボンナノチューブ複合材1において、カーボンナノチューブ糸3およびマトリックス2の間に作用する抵抗(摩擦力)の向上を図ることができる。
【0166】
また、このような第6実施形態によっても、第1実施形態と同様の作用効果を奏することができる。
【0167】
5.変形例
第1実施形態では、
図4Cに示すように、カーボンナノチューブ糸3は、マトリックス2を貫通する複数の部分が互いに分離するように切断されているが、これに限定されず、カーボンナノチューブ糸3は、
図4Bに示すように、マトリックス2を貫通する複数の部分が互いに連続していてもよい。
【0168】
つまり、カーボンナノチューブ糸3は、マトリックス2を複数貫通し、かつ、連続する糸である。しかし、このようなカーボンナノチューブ複合材1では、カーボンナノチューブ糸3の複数のカーボンナノチューブ単糸4のうち、カーボンナノチューブ糸3の表面に露出するカーボンナノチューブ単糸4のみが、他の部材と接触する。さらに、カーボンナノチューブ5が多層カーボンナノチューブ5である場合、多層カーボンナノチューブ5のうち、最も外側に位置する層(グラフェンシート)のみが、他の部材と接触する。
【0169】
その結果、カーボンナノチューブ糸3の表面に露出しない内側(中心部)のカーボンナノチューブ単糸4、および、多層カーボンナノチューブ5の径方向内側の層(グラフェンシート)を、熱伝導および/または電気伝導のために有効に利用できない。そのため、第1実施形態は、この変形例よりも好ましい。
【0170】
第1実施形態では、
図1Aに示すように、複数のカーボンナノチューブ糸束6が互いに間隔を空けて配置されているが、これに限定されず、複数のカーボンナノチューブ糸3が1本ずつ互いに間隔を空けて配置されていてもよい。
【0171】
また、第1実施形態では、複数のカーボンナノチューブ糸3は、マトリックス2の全体にわたって一様に保持されているが、マトリックス2の一部分にのみ保持されていてもよい。この場合、マトリックス2のカーボンナノチューブ糸3を保持する領域の面積は、マトリックス2の表面2Aの面積に対して、例えば、10%以上、好ましくは、30%以上、例えば、90%以下、好ましくは、80%以下である。
【0172】
また、第1実施形態では、カーボンナノチューブ糸3の両端部が、マトリックス2から突出しているが、カーボンナノチューブ糸3がマトリックス2を所定方向に貫通していれば、特に限定されず、カーボンナノチューブ糸3の両端面のそれぞれは、マトリックス2の表面2Aおよび裏面2Bのそれぞれと面一であってもよい。また、カーボンナノチューブ糸3の両端部のいずれか一方が、マトリックス2から突出し、他方の端面が、マトリックス2の表面(裏面)と面一であってもよい。
【0173】
また、第1実施形態では、カーボンナノチューブ糸3を、マトリックス2に複数貫通させた後、マトリックス2を貫通する複数の部分が互いに分離するように切断しているが、これに限定されず、カーボンナノチューブ糸3を、マトリックス2に貫通させる毎に、そのカーボンナノチューブ糸3が所定の長さLとなるように切断し、これを複数回繰り返してもよい。
【0174】
また、第1実施形態では、複数のカーボンナノチューブ単糸4を、カーボンナノチューブ集合体10から一括して引き出しているが、カーボンナノチューブ単糸4を、カーボンナノチューブ集合体10から、1本ずつ複数回引き出すこともできる。
【0175】
これら第1実施形態〜第6実施形態および変形例は、適宜組み合わせることができる。
【実施例】
【0176】
以下に実施例を示し、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は、それらに限定されない。以下の記載において用いられる配合割合(含有割合)、物性値、パラメータなどの具体的数値は、上記の「発明を実施するための形態」において記載されている、それらに対応する配合割合(含有割合)、物性値、パラメータなど該当記載の上限値(「以下」、「未満」として定義されている数値)または下限値(「以上」、「超過」として定義されている数値)に代替することができる。
【0177】
実施例1
ステンレス製の基板に二酸化ケイ素膜を積層した後、二酸化ケイ素膜上に、触媒層として鉄を蒸着した。なお、基板の横方向寸法は3cm、基板の縦方向寸法は12cm、基板の厚みは50μmである。
【0178】
次いで、基板を所定の温度に加熱して、触媒層に原料ガス(アセチレンガス)を供給した。これにより、基板上において、平面視略矩形形状のカーボンナノチューブ集合体が形成された。カーボンナノチューブ集合体において、複数のカーボンナノチューブは、互いに略平行となるように延び、基板に対して直交するように配向(垂直配向)されていた。カーボンナノチューブの平均外径は、約12nm、カーボンナノチューブの平均長さは、約200μm、カーボンナノチューブ集合体における、複数のカーボンナノチューブ5の嵩密度は、約40mg/cm
3であった。
【0179】
そして、カーボンナノチューブ集合体において、縦方向の一端に配置される複数のカーボンナノチューブを、引出具により、全幅にわたって一括して保持し、縦方向に引っ張った。これによって、カーボンナノチューブ支持体のカーボンナノチューブ集合体から、複数のカーボンナノチューブ単糸を引き出した。複数のカーボンナノチューブ単糸のそれぞれの径は、約60nm〜80nmであった。
【0180】
次いで、複数のカーボンナノチューブ単糸を、
図3Aに示す紡績装置により、撚り合わせて、撚糸であるカーボンナノチューブ糸を調製した。紡績装置の回転部の回転速度は、3000rpmであった。また、回収軸の回転によるカーボンナノチューブ糸の移動速度は、3.5m/minであった。
【0181】
以上により、撚糸であるカーボンナノチューブ糸が調製された。カーボンナノチューブ糸の径は、約50μmであった。
【0182】
また、円形形状のシリコーンゴムシート(マトリックス)を準備した。シリコーンゴムシートの直径は50mmであり、シリコーンゴムシートの厚みは10mmである。シリコーンゴムシートの25℃における引張弾性率Eは、0.09GPaである。
【0183】
そして、カーボンナノチューブ糸を、縫針の針穴に通し、2重となるように折り返した後、シリコーンゴムシートを厚み方向に複数貫通するように縫い付けた。次いで、カーボンナノチューブ糸を、シリコーンゴムシートを貫通する複数の部分が互いに分離するように切断した。
【0184】
以上により、シリコーンゴムシートと、複数のカーボンナノチューブ糸とを備えるカーボンナノチューブ複合材を調製した。カーボンナノチューブ糸の両端部は、マトリックスから突出していた。また、複数のカーボンナノチューブ糸は、2本ずつ束状となるカーボンナノチューブ糸束を複数含んでおり、複数のカーボンナノチューブ糸束は、縦方向に互いに2mmの間隔を空けて配置されていた。また、複数のカーボンナノチューブ糸束が直線的に配列される糸束列は、横方向に互いに2mmの間隔を空けて複数並列配置されていた。
【0185】
カーボンナノチューブ糸束の密度は、シリコーンゴムシートの単位面積当たり、10束/cm
2であった。つまり、カーボンナノチューブ糸の密度は、シリコーンゴムシートの単位面積当たり、20本/cm
2であった。
【0186】
実施例2
カーボンナノチューブ糸束の密度が、マトリックスの単位面積当たり、20束/cm
2となるように、カーボンナノチューブ糸をマトリックスに縫い付けた以外は、実施例1と同様にして、カーボンナノチューブ複合材を調製した。つまり、カーボンナノチューブ糸の密度は、シリコーンゴムシートの単位面積当たり、40本/cm
2であった。
【0187】
実施例3
シリコーンゴムシートを、正方形形状のポリテトラフルオロエチレンシート(マトリックス)に変更した以外は、実施例1と同様にして、カーボンナノチューブ複合材を調製した。なお、ポリテトラフルオロエチレンシートの25℃における引張弾性率Eは、0.55GPaである。ポリテトラフルオロエチレンシートの一辺の寸法は5cmであり、ポリテトラフルオロエチレンシートの厚みは500μmである。
【0188】
実施例4
実施例1と同様にして、カーボンナノチューブ糸を調製した。そして、カーボンナノチューブ糸を、10質量%のポリビニルアルコール溶液に浸漬した後、乾燥させて、カーボンナノチューブ糸にポリビニルアルコールを付着させた。
【0189】
また、正方形形状のシリコーンゴムシート(マトリックス)を準備した。シリコーンゴムシートの一辺の寸法は5cmであり、シリコーンゴムシートの厚みは3cmである。なお、シリコーンゴムシートの25℃における引張弾性率Eは、0.09GPaである。
【0190】
そして、ポリビニルアルコールが付着するカーボンナノチューブ糸を、実施例1と同様に、シリコーンゴムシートに縫い付けた後、シリコーンゴムシートを貫通する複数の部分が互いに分離するように切断した。
【0191】
以上により、カーボンナノチューブ複合材を調製した。カーボンナノチューブ糸の密度は、マトリックスの単位面積当たり、20本/cm
2であった。
【0192】
実施例5
正方形形状のシリコーンゴムシートを、正方形形状のポリテトラフルオロエチレンシート(マトリックス)に変更した以外は、実施例4と同様にして、カーボンナノチューブ複合材を調製した。なお、ポリテトラフルオロエチレンシートの25℃における引張弾性率Eは、0.55GPaである。ポリテトラフルオロエチレンシートの一辺の寸法は5cmであり、ポリテトラフルオロエチレンシートの厚みは500μmである。
【0193】
比較例1
円形形状のシリコーンゴムシート(マトリックス)を準備した。シリコーンゴムシートの直径は50mmであり、シリコーンゴムシートの厚みは10mmである。
【0194】
熱伝導率の測定:
実施例1および2のカーボンナノチューブ複合材、および、比較例1のシリコーンゴムシートについて、厚み方向の熱伝導率を、熱伝導率測定装置(商品名:T3Ster DynTIM Tester、Mentor Graphics社製)により測定した。その結果を、表1および
図10に示す。
【0195】
【表1】