(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6576113
(24)【登録日】2019年8月30日
(45)【発行日】2019年9月18日
(54)【発明の名称】フッ素樹脂含有水性ポリイミド前駆体組成物及びそれを用いた積層体とプリント配線基板、並びにその積層体の製造方法
(51)【国際特許分類】
C08L 79/08 20060101AFI20190909BHJP
B32B 15/08 20060101ALI20190909BHJP
B32B 15/082 20060101ALI20190909BHJP
C08L 27/12 20060101ALI20190909BHJP
H05K 1/03 20060101ALI20190909BHJP
【FI】
C08L79/08 A
B32B15/08 U
B32B15/082 B
C08L27/12
H05K1/03 630E
H05K1/03 670Z
H05K1/03 650
【請求項の数】5
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2015-121370(P2015-121370)
(22)【出願日】2015年6月16日
(65)【公開番号】特開2016-20488(P2016-20488A)
(43)【公開日】2016年2月4日
【審査請求日】2018年4月9日
(31)【優先権主張番号】特願2014-124674(P2014-124674)
(32)【優先日】2014年6月17日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】390005050
【氏名又は名称】東邦化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000040
【氏名又は名称】特許業務法人池内アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】冨永 茂武
(72)【発明者】
【氏名】今西 勝哉
(72)【発明者】
【氏名】綿貫 弘子
【審査官】
中西 聡
(56)【参考文献】
【文献】
特表2007−500762(JP,A)
【文献】
特開平01−123851(JP,A)
【文献】
特開2009−091511(JP,A)
【文献】
特開平11−029736(JP,A)
【文献】
国際公開第2014/010968(WO,A1)
【文献】
特開昭54−026830(JP,A)
【文献】
特開2012−082329(JP,A)
【文献】
特開昭63−112674(JP,A)
【文献】
特開2007−063482(JP,A)
【文献】
特開2007−269878(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00−101/14
B32B 1/00−43/00
H05K 1/03
C09D 1/00−10/00,101/00−201/10
C09J 1/00−201/10
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂層と、フッ素樹脂含有ポリイミド層と、金属層とを含む積層体であって、
前記樹脂層と前記金属層とは、前記フッ素樹脂含有ポリイミド層を介して接合され、
前記フッ素樹脂含有ポリイミド層は、ポリイミド成分とフッ素樹脂成分とが均一に混合して形成され、
前記樹脂層は、ポリイミドからなり、
前記フッ素樹脂含有ポリイミド層が、フッ素樹脂含有水性ポリイミド前駆体組成物を用いて形成されており、
前記フッ素樹脂含有水性ポリイミド前駆体組成物が、水性ポリイミド前駆体と、フッ素樹脂と、水とを含み、前記水性ポリイミド前駆体と、前記フッ素樹脂と、前記水とが均一に混合しているフッ素樹脂含有水性ポリイミド前駆体組成物であることを特徴とする積層体。
【請求項2】
前記フッ素樹脂含有ポリイミド層と前記金属層との間に熱溶着可能なフッ素樹脂層を更に含む請求項1に記載の積層体。
【請求項3】
前記フッ素樹脂層は、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)及びテトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)から選ばれる少なくとも一つを含む請求項2に記載の積層体。
【請求項4】
前記金属層は、銅箔からなる請求項1〜3のいずれか1項に記載の積層体。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の積層体を含むことを特徴とするプリント配線基板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フッ素樹脂含有水性ポリイミド前駆体組成物及びそれを用いた積層体とプリント配線基板、並びにその積層体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子機器内に設けられるプリント配線基板については、電子機器の小型化、軽量化、薄型化に伴い、更なる高性能化、高密度化が要求されている。このプリント配線基板は、通常、絶縁体である樹脂層と、導体である金属層とを接着層を介して積層した積層体として製造される。例えば、特許文献1には、ポリイミドフィルムと銅箔とをエポキシ系接着剤で接着した3層型CCLが提案されている。
【0003】
また、特許文献2には、ポリイミド層と銅箔とを直接接着させた2層型CCLが提案されている。
【0004】
更に、特許文献3には、非熱可塑性ポリイミド層と銅箔とを熱可塑性ポリイミド層を介して接着させた擬似2層型CCLが提案されている。
【0005】
また、特許文献4には、ポリイミドフィルムの表裏両面に溶融タイプのフッ素樹脂であるテトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)をコーティングし、又はラミネートして高い耐熱性と優れた耐薬品性及びガスバリヤ性を備えた銅張り積層板用積層フィルムが提案されている。特許文献4では使用場所を選ばず、更に他部品の搭載も可能なプリント配線板を提供できるとされている。しかし、電気特性については触れられていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−308686号公報
【特許文献2】特開2010−125793号公報
【特許文献3】特開2012−140568号公報
【特許文献4】実開平7−26128号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献1〜4に記載されている従来の3層型CCL、2層型CCL、擬似2層型CCL等は、近年の電子機器の高機能化により要求されるCCLの低誘電率化、低誘電正接化に対応できないという問題がある。即ち、フレキシブルプリント配線基板(FPC)では、デバイスの高集積化・薄肉化に伴い、現状の2層型CCL、3層型CCLより更に信号伝達損失を低下させる必要があるため、誘電率・誘電正接のより低いCCL材料が要望されている。また、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)をポリイミドフィルムに被覆積層したタイプの基板材料でも、広い周波数、特に高周波領域での電気特性(誘電正接)に課題がある。
【0008】
本発明は、上記問題を解消するためになされたものであり、プリント配線基板等を製造するためのフッ素樹脂含有水性ポリイミド前駆体組成物、特にポリテトラフルオロエチレン(PTFE)含有水性ポリイミド前躯体組成物、及びそれを用いた積層体とプリント配線基板、並びにその積層体の製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のフッ素樹脂含有水性ポリイミド前駆体組成物は、水性ポリイミド前駆体と、フッ素樹脂と、水とを含み、前記水性ポリイミド前駆体と、前記フッ素樹脂と、前記水とが均一に混合していることを特徴とする。
【0010】
また、本発明の積層体は、樹脂層と、フッ素樹脂含有ポリイミド層と、金属層とを含む積層体であって、前記樹脂層と前記金属層とは、前記フッ素樹脂含有ポリイミド層を介して接合され、前記フッ素樹脂含有ポリイミド層は、ポリイミド成分とフッ素樹脂成分とが均一に混合して形成され、前記フッ素樹脂含有ポリイミド層が、上記本発明のフッ素樹脂含有水性ポリイミド前駆体組成物を用いて形成されていることを特徴とする。
【0011】
また、本発明のプリント配線基板は、上記本発明の積層体を含むことを特徴とする。
【0012】
また、本発明の積層体の第1の製造方法は、樹脂層と、フッ素樹脂含有ポリイミド層と、金属層とを含む積層体の製造方法であって、上記本発明のフッ素樹脂含有水性ポリイミド前駆体組成物を調製する工程と、樹脂フィルム及び金属箔の少なくとも一方に前記フッ素樹脂含有水性ポリイミド前駆体組成物を塗布する工程と、塗布した前記フッ素樹脂含有水性ポリイミド前駆体組成物を介して前記樹脂フィルム及び前記金属箔を積層して積層体前駆体を形成する工程と、前記積層体前駆体を200℃以上400℃以下で加熱して前記フッ素樹脂含有水性ポリイミド前駆体組成物を硬化させることによりフッ素樹脂含有ポリイミド層を形成し、前記フッ素樹脂含有ポリイミド層を介して前記樹脂フィルムと前記金属箔とを接合する工程とを含むことを特徴とする。
【0013】
また、本発明の積層体の第2の製造方法は、樹脂層と、フッ素樹脂含有ポリイミド層と、フッ素樹脂層と、金属層とを含む積層体の製造方法であって、上記本発明のフッ素樹脂含有水性ポリイミド前駆体組成物を調製する工程と、樹脂フィルムに前記フッ素樹脂含有水性ポリイミド前駆体組成物を塗布する工程と、塗布した前記フッ素樹脂含有水性ポリイミド前駆体組成物の上に熱溶着可能なフッ素樹脂を塗布し、250℃以上400℃以下で加熱して前記フッ素樹脂含有水性ポリイミド前駆体組成物及び前記フッ素樹脂を各々硬化及び焼成させることによりフッ素樹脂含有ポリイミド層及び熱溶着可能なフッ素樹脂層を形成する工程と、前記フッ素樹脂含有ポリイミド層及び前記フッ素樹脂層を介して前記樹脂フィルムと金属箔とを積層して積層体前駆体を形成する工程と、前記積層体前駆体を300℃以上400℃以下で加熱して前記フッ素樹脂層と前記金属箔とを接合する工程とを含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明のフッ素樹脂含有水性ポリイミド前駆体組成物を用いることにより、低誘電率、低誘電正接、低伝送損失等の特性に優れ、信頼性の高い積層体及びそれを用いたプリント配線基板を提供できる。また、上記フッ素樹脂含有水性ポリイミド前駆体組成物は水性であるため、油性の組成物に比べて、環境性や取扱性に優れている。
【発明を実施するための形態】
【0015】
(実施形態1)
先ず、本発明のフッ素樹脂含有水性ポリイミド前駆体組成物について説明する。本発明のフッ素樹脂含有水性ポリイミド前駆体組成物は、水性ポリイミド前駆体と、フッ素樹脂と、水とを含み、上記水性ポリイミド前駆体と、上記フッ素樹脂と、上記水とが均一に混合していることを特徴とする。
【0016】
本発明のフッ素樹脂含有水性ポリイミド前駆体組成物は、水性であるため、市販されているフッ素樹脂粒子の水性分散体を安定性良く均一に混合して用いることができる。上記水性ポリイミド前駆体と、上記フッ素樹脂と、上記水とを均一に混合したフッ素樹脂含有水性ポリイミド前駆体組成物とすることにより、上記フッ素樹脂含有水性ポリイミド前駆体組成物を用いて作製したCCL等の特性を均質にできる。
【0017】
また、本発明のフッ素樹脂含有水性ポリイミド前駆体組成物は、フッ素樹脂を含んでいるため、例えば、本発明のフッ素樹脂含有水性ポリイミド前駆体組成物を接着剤として用いた場合、CCL全体及びそのCCLを用いたFPC全体の低誘電率化及び低誘電正接化を行うことができる。これにより、上記接着層を有する積層体、例えばCCL、FPCの厚さを薄くできる。また、上記接着層の低誘電率化及び低誘電正接化により、上記接着層を有する積層体の伝送損失を低下できる。
【0018】
上記フッ素樹脂の含有量は、電気特性向上のため、上記水性ポリイミド前駆体と上記フッ素樹脂との合計重量に対して10重量%以上であることが好ましく、20重量%以上がより好ましい。一方、上記フッ素樹脂の含有量が多すぎると、本発明のフッ素樹脂含有水性ポリイミド前駆体組成物を、例えばポリイミドフィルムの接着剤として用いた場合、接着層の接着力が低下する傾向にあるので、上記フッ素樹脂の含有量は、上記水性ポリイミド前駆体と上記フッ素樹脂との合計重量に対して80重量%以下であることが好ましい。
【0019】
上記水性ポリイミド前駆体については、特に限定されないが、ポリアミック酸塩の水溶液を用いることができる。上記ポリアミック酸塩の水溶液は次のようにして作製できる。
【0020】
先ず、テトラカルボン酸2無水物とジアミンとを原料に、溶媒中で等モルで重合させ、ポリアミック酸を作製する。上記テトラカルボン酸2無水物としては、例えば、ピロメリット酸無水物(PMDA)、ビフェニルテトラカルボン酸無水物(BPDA)等を用いることができる。上記ジアミンとしては、例えば、N,N’−ジアミノジフェニルエーテル(ODA)、P−ジアミノベンゼン(PPD)等を用いることができる。上記溶媒としては、例えば、N−メチルピロリドン(NMP)、ジメチルホルムアミド(DMF)等を用いることができる。ポリアミック酸のNMP溶液は市販されている。また、粉状のポリアミック酸も市販されている。
【0021】
次に、上記ポリアミック酸と、アンモニア水又は有機アミン化合物とを反応させてポリアミック酸塩とし、このポリアミック酸塩を水に溶解させることにより、ポリアミック酸塩の水溶液を作製することができる。
【0022】
上記有機アミン化合物としては、水に溶解する有機アミン化合物であれば特に限定されず、例えば、メチルアミン、エチルアミン、n−プロピルアミン、2−エタノールアミン、2−アミノ−2−メチル−1−プロパノール等の第1級アミン;ジメチルアミン、2−(メチルアミノ)エタノール、2−(エチルアミノ)エタノール等の第2級アミン;2−ジメチルアミノエタノール、2−ジエチルアミノエタノール、1−ジメチルアミノ−2−プロパノール等の第3級アミン;テトラメチルアンモニウムヒドロキサイド、テトラエチルアンモニウムヒドロキサイド等の第4級アンモニウム塩等を用いることができる。
【0023】
上記フッ素樹脂としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)及びテトラフルオロエチレン−パーフルオロメチルビニルエーテル(MFA)からなる群から選択される少なくとも1つを使用できる。中でもPTFEは、電気特性の点で好ましい。
【0024】
上記フッ素樹脂は、粉体、水分散体等の形態で供給することができ、特に上記に列挙したフッ素樹脂の水性ディスパージョンから供給することが好ましい。上記水性ポリイミド前駆体と上記水性フッ素樹脂ディスパージョンとの混合が容易となるからである。
【0025】
本発明のフッ素樹脂含有水性ポリイミド前駆体組成物の製造方法は特に限定されず、所定量の上記水性ポリイミド前駆体と、上記フッ素樹脂と、上記水とを室温で混合すればよい。また、上記フッ素樹脂含有水性ポリイミド前駆体組成物には、必要に応じて、界面活性剤;シリカ、シランカップリング剤等の無機材料;エポキシ等の有機材料等を添加することができる。更に、上記フッ素樹脂含有水性ポリイミド前駆体組成物には、水と混合可能なNMP、DMF、DMSO等の極性溶媒を少量配合することもできる。
【0026】
本発明のフッ素樹脂含有水性ポリイミド前駆体組成物の用途については特に限定されないが、例えば、CCL、プリント配線基板等に用いる積層体形成用接着剤、カバーレイ用接着剤、ICチップ用接着剤、COF(Chip on film)用接着剤等としての用途が挙げられる。
【0027】
(実施形態2)
次に、本発明の積層体について説明する。本発明の積層体は、樹脂層と、フッ素樹脂含有ポリイミド層と、金属層とを備える積層体である。また、上記樹脂層と上記金属層とは、上記フッ素樹脂含有ポリイミド層を介して接合され、上記フッ素樹脂含有ポリイミド層は、ポリイミド成分とフッ素樹脂成分とが均一に混合して形成され、上記フッ素樹脂含有ポリイミド層が、実施形態1で説明した本発明のフッ素樹脂含有水性ポリイミド前駆体組成物を用いて形成されていることを特徴とする。
【0028】
本発明の積層体の接着層はフッ素樹脂を含んでいるため、積層体の低誘電率化及び低誘電正接化を行うことができる。これにより、積層体の厚さを薄くできる。また、接着層の低誘電率化及び低誘電正接化により、積層体の伝送損失を低下できる。
【0029】
上記樹脂層の材質は特に限定されず、例えば、ポリイミド、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリエーテルスルホン等を用いることができるが、特にポリイミドが好ましい。ポリイミドは、機械的強度が大きく、ガラス転移温度が高く、化学的分解耐性及び熱的分解耐性が大きく、高い絶縁耐性を有しているからである。
、
【0030】
上記金属層の材質は特に限定されず、銅、アルミニウム、銀、ニッケル、チタン等を使用できるが銅が好ましく、具体的には電気伝導性が高い銅箔が好ましい。
【0031】
上記積層体は、上記フッ素樹脂含有ポリイミド層と上記金属層との間に熱溶着可能なフッ素樹脂層を更に備えることができる。これにより、上記フッ素樹脂含有ポリイミド層の中のフッ素樹脂の配合量が多い場合でも上記金属層との接着力を向上できる。
【0032】
上記熱溶着可能なフッ素樹脂層を構成するフッ素樹脂としては、上記金属層と熱溶着可能なフッ素樹脂であれば特に限定されないが、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)及びテトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)から選ばれる少なくとも一つが好ましい。これらは溶融流動性を有し、上記金属層との熱溶着が可能だからである。
【0033】
また、上記熱溶着可能なフッ素樹脂層には、上記積層体の耐リフロー性を向上するために、溶融温度の高いポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリイミド等の耐熱樹脂やシリカ等の無機フィラーを添加してもよい。
【0034】
次に、本発明の積層体の製造方法について説明する。本発明の積層体の第1の製造方法は、実施形態1で説明した本発明のフッ素樹脂含有水性ポリイミド前駆体組成物を調製する工程と、樹脂フィルム及び金属箔の少なくとも一方に上記フッ素樹脂含有水性ポリイミド前駆体組成物を塗布する工程と、塗布した上記フッ素樹脂含有水性ポリイミド前駆体組成物を介して上記樹脂フィルム及び上記金属箔を積層して積層体前駆体を形成する工程と、上記積層体前駆体を200℃以上400℃以下で加熱して上記フッ素樹脂含有水性ポリイミド前駆体組成物を硬化させることによりフッ素樹脂含有ポリイミド層を形成し、上記フッ素樹脂含有ポリイミド層を介して上記樹脂フィルムと上記金属箔とを接合する工程とを備えることを特徴とする。
【0035】
また、本発明の積層体の第2の製造方法は、実施形態1で説明した本発明のフッ素樹脂含有水性ポリイミド前駆体組成物を調製する工程と、樹脂フィルムに上記フッ素樹脂含有水性ポリイミド前駆体組成物を塗布する工程と、塗布した上記フッ素樹脂含有水性ポリイミド前駆体組成物の上に熱溶着可能なフッ素樹脂を塗布し、250℃以上400℃以下、好ましくは300℃以上400℃以下、更に好ましくは350℃以上400℃以下で加熱して上記フッ素樹脂含有水性ポリイミド前駆体組成物及び上記フッ素樹脂を各々硬化及び焼成させることによりフッ素樹脂含有ポリイミド層及び熱溶着可能なフッ素樹脂層を形成する工程と、上記フッ素樹脂含有ポリイミド層及び上記フッ素樹脂層を介して上記樹脂フィルムと金属箔とを積層して積層体前駆体を形成する工程と、上記積層体前駆体を300℃以上400℃以下、好ましくは350℃以上400℃以下で加熱して上記フッ素樹脂層と上記金属箔とを接合する工程とを備えることを特徴とする。
【0036】
上記樹脂フィルムは、ポリイミドフィルムであることが好ましく、上記金属箔は、銅箔であることが好ましい。
【0037】
(実施形態3)
次に、本発明のプリント配線基板について説明する。本発明のプリント配線基板は、実施形態2で説明した積層体を備えていることを特徴とする。本発明のプリント配線基板は、本発明のフッ素樹脂含有水性ポリイミド前駆体組成物を用いて作製した積層体を備えているため、伝送損失の低い薄膜プリント配線基板を提供できる。また、本発明のプリント配線基板は、本発明のフッ素樹脂含有水性ポリイミド前駆体組成物を用いて作製した積層体を備えているため、樹脂層とフッ素樹脂含有ポリイミド層と金属層とを備える積層体の接着強度が大きく、フレキシブルプリント配線基板としてもその耐久性を維持できる。
【実施例】
【0038】
以下、実施例に基づき本発明を説明する。
【0039】
(実施例1)
ポリイミド前駆体であるポリアミック酸(山曹ミクロン社製、“PIA”)14gを、界面活性剤であるオクチルフェノールエトキシレート6%を含む純水65gに分散させ、この分散液に濃度28%のアンモニア水6gを添加し、攪拌することによりポリイミド前駆体水溶液(ポリアミック酸塩水溶液)を得た。
【0040】
次に、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)の水性ディスパージョン(ダイキン工業社製、“D−210C”)38gを上記ポリイミド前駆体水溶液に添加し、撹拌混合して、フッ素樹脂含有水性ポリイミド前駆体溶液を調製した。続いて、上記フッ素樹脂含有水性ポリイミド前駆体溶液を厚さ2mmのステンレス鋼板へ塗布し、100℃で15分間乾燥後、380℃で20分間焼成を行い、ステンレス鋼板(金属層)とフッ素含有ポリイミド層からなる積層体を得た。上記積層体のフッ素含有ポリイミド層の厚さは12μmであった。
【0041】
(実施例2)
ポリアミック酸の使用量を9gに変更し、オクチルフェノールエトキシレート6%を含む純水の使用量を43gに変更し、アンモニア水をジメチルアミノエタノール4gに変更し、PTFEの水性ディスパージョンの使用量を67gに変更した以外は、実施例1と同様にして積層体を作製した。上記積層体のフッ素含有ポリイミド層の厚さは12μmであった。
【0042】
(実施例3)
ポリアミック酸の使用量を6gに変更し、オクチルフェノールエトキシレート6%を含む純水の使用量を26gに変更し、アンモニア水の使用量を2gに変更し、PTFEの水性ディスパージョンの使用量を91gに変更した以外は、実施例1と同様にして積層体を作製した。上記積層体のフッ素含有ポリイミド層の厚さは35μmであった。
【0043】
(実施例4)
ポリアミック酸の使用量を15gに変更し、オクチルフェノールエトキシレート6%を含む純水の使用量を69gに変更し、アンモニア水の使用量を6gのままとし、PTFEの水性ディスパージョンに代えてテトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)の水性ディスパージョン(ダイキン工業社製“AD−2”)32gを用いた以外は、実施例1と同様にして積層体を作製した。上記積層体のフッ素含有ポリイミド層の厚さは16μmであった。
【0044】
(実施例5)
ポリアミック酸の使用量を15gに変更し、オクチルフェノールエトキシレート6%を含む純水の使用量を69gに変更し、アンモニア水の使用量を6gのままとし、PTFEの水性ディスパージョンに代えてテトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)の水性ディスパージョン(ダイキン工業社製“ND−110”)29gを用いた以外は、実施例1と同様にして積層体を作製した。上記積層体のフッ素含有ポリイミド層の厚さは8μmであった。
【0045】
(実施例6)
ポリイミド前駆体であるポリアミック酸(山曹ミクロン社製、“PIA”)15gを、オクチルフェノールエトキシレート6%を含む純水70gに分散させ、この分散液に濃度28%のアンモニア水6gを添加し、攪拌することによりポリイミド前駆体水溶液(ポリアミック酸塩水溶液)を得た。
【0046】
次に、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)の水性ディスパージョン(ダイキン工業社製、“D−210C”)27gを上記ポリイミド前駆体水溶液に添加し、撹拌混合して、フッ素樹脂含有水性ポリイミド前駆体溶液を調製した。続いて、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)の水性ディスパージョン(ダイキン工業社製“AD−2”)を厚さ2mmのステンレス鋼板へ塗布し、更にその上に上記フッ素樹脂含有水性ポリイミド前駆体溶液を塗布し、100℃で15分間乾燥後、380℃で20分間焼成を行い、ステンレス鋼板(金属層)とフッ素樹脂層とフッ素含有ポリイミド層からなる積層体を得た。上記積層体のフッ素含有ポリイミド層の厚さは25μmであった。
【0047】
(比較例1)
ポリイミド前駆体水溶液を含まないポリテトラフルオロエチレン(PTFE)の水性ディスパージョン(ダイキン工業社製、“D−210C”)のみを厚さ2mmのステンレス鋼板へ塗布し、100℃で15分間乾燥したところ、ステンレス鋼板の上にPTFE粉末が生じ、PTFE層は形成されず、ステンレス鋼板(金属層)とPTFE層からなる積層体を得ることができなかった。
【0048】
(比較例2)
ポリイミド前駆体であるポリアミック酸(山曹ミクロン社製、“PIA”)15gを、オクチルフェノールエトキシレート6%を含む純水70gに分散させ、この分散液に濃度28%のアンモニア水6gを添加し、攪拌することによりポリイミド前駆体水溶液(ポリアミック酸塩水溶液)を得た。
【0049】
次に、上記ポリイミド前駆体水溶液のみを厚さ2mmのステンレス鋼板へ塗布し、100℃で15分間乾燥後、380℃で20分間焼成を行い、ステンレス鋼板(金属層)とポリイミド層からなる積層体を得た。上記積層体のポリイミド層の厚さは5μmであった。
【0050】
上記実施例1〜6及び比較例1〜2の積層体について電気特性を次のように評価した。即ち、積層体を電極に接続し、電圧100V、周波数1kHzの交流を印加して電極間に蓄えられる電気容量(キャパシタンス)を、ADCMT製のデジタル超高抵抗計/微小電流計5450/5451を用いて測定し、積層体の比誘電率(ε
r)及び誘電正接(tanδ)を算出した。上記結果を表1に示す。
【0051】
【表1】
【0052】
表1から、本発明の実施例1〜6の積層体は、接着層にフッ素樹脂を含まない比較例2に比べて、誘電率(ε
r)及び誘電正接(tanδ)が低いことが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明のフッ素樹脂含有水性ポリイミド前駆体組成物を用いることにより、低誘電率、低誘電正接、低伝送損失等の特性に優れた積層体及びそれを用いたプリント配線基板を提供できる。