(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の表皮材被覆発泡粒子成形体の製造方法について詳細に説明する。
【0015】
本発明においては、次の(I)〜(IV)の工程により、空洞が設けられた表皮材被覆発泡粒子成形体が得られる。
(I)熱可塑性樹脂を押出してパリソンを形成する工程
(II)パリソンの対向する壁部どうしを融着させると共に、パリソンをブロー成形することにより、独立したn室(ただし、n≧2)の中空部を有する中空成形体を形成する工程
(III)該中空成形体のn室の中空部のうち、n
2室(ただし、n
1+n
2=n)の中空部には発泡粒子を充填せずに、n
1室(ただし、1≦n
1≦n−1)の中空部に発泡粒子を充填する工程
(IV)中空部内に充填された該発泡粒子をスチームにより加熱して相互に融着させる工程
なお、上記n、n
1、n
2は自然数である。
【0016】
(I)〜(IV)の工程により得られた表皮材被覆発泡粒子成形体は、発泡粒子成形体が中空成形体からなる表皮材で被覆され、かつ一部に発泡粒子成形体が存在しない中空室(空洞部)を有するものである。
【0017】
工程(I)においては、熱可塑性樹脂を押出してパリソンを形成し、該パリソンをブロー成形することにより、中空成形体を形成する。具体的には、押出機に取付けられたダイ1の直下に位置する成形用分割型を構成する金型2a、2b間に、中空成形体を構成する熱可塑性樹脂を筒状に押出してパリソン3を形成する(
図1(a))。
図1は、工程(I)の一例を示す説明図である。
図1において、1はダイを、2a、2bは金型を、3はパリソンを、4は凸条部をそれぞれ示す。
【0018】
前記中空成形体(表皮材)を形成するための熱可塑性樹脂としては、ポリスチレン系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂、アクリル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂等を用いることができる。
【0019】
本明細書において、ポリオレフィン系樹脂とは、樹脂中にオレフィン成分構造単位が50重量%以上存在するものであり、好ましくは60重量%以上、より好ましくは80重量%以上存在するものをいう。具体的には、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂等が挙げられ、その他に、エチレン、プロピレン、ブテン、ペンテン等のオレフィンとオレフィン以外のモノマーとの共重合体等も使用することができる。
【0020】
前記ポリエチレン系樹脂としては、例えば低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、超低密度ポリエチレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−メチルメタクリレート共重合体、エチレン−メタクリル酸共重合体やその分子間を金属イオンで架橋したアイオノマー系樹脂等が挙げられる。また、ポリプロピレン系樹脂としては、プロピレン単独重合体、プロピレンに由来する構造単位が50重量%以上のプロピレン系共重合体が挙げられ、該共重合体としては、エチレン−プロピレン共重合体、プロピレン−ブテン共重合体、プロピレン−エチレン−ブテン共重合体などのプロピレンと炭素数4以上のαオレフィンとの共重合体や、プロピレン−アクリル酸共重合体、プロピレン−無水マレイン酸共重合体等が例示できる。なお、これらの共重合体は、ブロック共重合体、ランダム共重合体、グラフト共重合体のいずれでもよい。
【0021】
表皮材を形成するための熱可塑性樹脂として、前記熱可塑性樹脂の中では、機械的強度に優れると共に、柔軟性、靱性に優れることから、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂等のポリオレフィン系樹脂が好ましい。その中では、耐熱性に優れ、より機械的強度、靱性に優れることからポリプロピレン系樹脂が好ましい。また、耐衝撃性に優れる表皮材被覆発泡成形体を得るという観点からは、高密度ポリエチレンまたはプロピレン−エチレンブロック共重合体を用いることが好ましい。
なお、表皮材を形成するための熱可塑性樹脂は、後述する発泡粒子を構成する樹脂と融着可能な同種の樹脂を用いることが、表皮材被覆発泡粒子成形体の強度を向上させる観点から好ましい。
【0022】
工程(II)においては、押出されたパリソン内に空気などのプリブローエアを吹き込んでパリソンを拡幅しつつ金型間に配置し、型締めしてパリソンを金型にて挟み込んだ後、金型内に位置するパリソン内にブローピンを打ち込み、パリソン内にブローピンから空気などのブローエアを吹き込んでブロー成形を行う。この際、ブローピンは、各中空部ごとに打ち込む。ブローエアの圧力は、0.3〜0.7MPa(G:ゲージ圧)とすることが好ましい。拡幅による融着部の薄肉化、内面温度低下を防ぐ観点から、拡幅比(パリソン径をダイ径で除した値)は1.5未満であることが好ましい。
【0023】
パリソンの形成、及びブロー成形には従来公知の技術を用いることができる。
【0024】
本発明のブロー成形においては、パリソンをブロー成形する際に、パリソンの対向する壁部どうしを融着させて融着部を設けることにより、独立したn室(ただし、n≧2)の中空部を有する中空成形体を形成する。
【0025】
対向する壁部どうしを融着させて、仕切られた独立の中空部を形成する方法に制限はないが、例えば、
図1、
図2に示すように、分割金型を構成する金型1の成形キャビティ2の一方又は両方に凸条部4を設け、金型でパリソン3を挟み込む際に、(1)
図2に示すように、該凸条部4によってパリソン3を押し込んで、対向するパリソンの壁部3a、3bどうしを融着させて融着部5を形成する方法や、(2)少なくとも一方の金型に成形キャビティ内にスライド可能な凸条部を設け(図示せず。)、金型でパリソンを挟み込みながら又は金型で挟み込んだ後、凸条部をスライドさせてパリソンを押し込んで、対向するパリソンの壁部どうしを融着させて融着部を形成する方法などを採用することができる。
なお、
図2は工程(II)の一例を示す説明図であり、
図2において、2a、2bは金型を、3a、3bはパリソンの壁部の融着する部分を、4は凸条部を、5は融着部を、7は中空成形体を、8及び9はそれぞれ独立した中空部を、10はブローピンをそれぞれ示す。
【0026】
図3に、工程(II)で得られた中空成形体の一例を示す。
図3(a)は、得られた中空成形体の正面図であり、
図3(b)は得られた中空成形体の平面図であり、
図3(c)は得られた中空成形体の側面図である。
図3における符号は、
図2と同一である。
【0027】
良好な融着部を形成するために、融着部における金型のクリアランスは〔中空成形体(表皮)の厚み−1.5mm〕≦金型のクリアランス≦〔中空成形体(表皮)の厚み+1.5mm〕の範囲であることが好ましい(ただし、金型のクリアランスは0より大きい)。同様に、融着部の幅は5〜20mmであることが好ましく、融着部の肉厚は2.0〜6.0mmであることが好ましい。また、ブロー成形する際の金型温度は50〜90℃に設定し、金型を締める直前のパリソン内面温度を160℃以上とすることが好ましい。
【0028】
工程(III)においては、中空成形体のn室の中空部のうち、n
1室(ただし、1≦n
1≦n−1)の中空部に発泡粒子を充填する。この中空部(成形室)内で発泡粒子を互いに融着させることにより、この部分は発泡粒子成形体で満たされた中実部となる。以下、この中空部を成形室ともいう。
一方、n
2室(ただし、n
1+n
2=n)の中空部には発泡粒子を充填しないで中空のままにしておく。この中空部が表皮材被覆発泡粒子成形体における中空室となる。
なお、
図2、
図3に示す例においては、中空成形体7は2室の中空部(n=2)を有し、その内の一の中空部8(n
1=1)が成形室となり、他の中空部9(n
2=1)が中空室となる。
【0029】
成形室への発泡粒子の充填は、次のように行う。まず、金型から中空成形体の成形室に向けて、充填ガンなどの充填装置を中空成形体に突刺して、成形室内に充填装置を挿入すると共に、スチーム供給排出ピン(以下、スチームピンともいう。)を中空成形体に突刺して、成形室内にスチームピンを挿入する、続いて、スチームピンから排気しつつ充填装置から成形室内に発泡粒子群を充填する。なお、スチーム供給排出ピンとは、成形室内へスチームを供給することもできれば、成形室内からスチームを排出することもできるピンを意味する。
【0030】
成形室内の排気効率と発泡粒子の充填速度とのバランスがよく、融着部の接着不良を起こしにくいことから、充填ガンによる開口面積に対するスチームピンによる開口面積の比は0.5〜1.2であることが好ましい。
【0031】
発泡粒子の充填方法として、発泡粒子の圧縮率を高めて成形室に充填する、所謂圧縮充填法を採用することができる。この圧縮充填法は、加圧された成形室に、予め成形室内の圧力よりも高い圧力で加圧することにより圧縮しておいた発泡粒子を充填する方法である。発泡粒子を充填する際の成形室内の圧力は、発泡粒子のかさ倍率にもよるが、0.17MPa(G)以下にすることが好ましく、より好ましくは0.16MPa(G)以下、特に好ましくは0.15MPa(G)以下である。該圧力の下限は、概ね0.07MPa(G)である。この範囲内に調整することにより、発泡粒子間を通過するスチーム量をコントロールでき、必要以上のスチームを中空成形体の内面に流さないことにより、表面平滑性をより良化させることができる。
【0032】
中空成形体の中空部の室数nは2以上であれば特に制限されるものではないが、その上限は10程度であることが好ましく、更に5程度であることが金型の構造を複雑化させないため好ましい。
【0033】
本発明においては、発泡粒子としてポリオレフィン系樹脂発泡粒子が用いられる。ポリオレフィン系樹脂は、耐熱性、耐薬品性の観点から好ましい。さらに、曲げ強度や圧縮強度などの機械的強度と靱性とのバランスに優れることから、得られる表皮材被覆発泡粒子成形体の強度及び弾性を向上させることができる。発泡粒子のポリオレフィン系樹脂として、表皮材のポリオレフィン系樹脂と同様なものを用いることができる。
【0034】
ポリオレフィン系樹脂の中では、機械的強度、靱性、耐熱性とのバランスにより優れるポリプロピレン系樹脂が好ましく、発泡粒子の二次発泡力を比較的コントロールし易い観点から、プロピレン−エチレンランダム共重合体がより好ましい。
【0035】
なお、前記中空成形体(表皮材)を構成する樹脂と発泡粒子を構成する樹脂とは、融着可能な樹脂を選択することが好ましい。例えば、表皮材の基材樹脂としてポリプロピレン系樹脂を用い、発泡粒子の基材樹脂としてポリプロピレン系樹脂を用いると、表皮材と発泡粒子とを融着させることができ、表皮材発泡粒子成形体の耐衝撃性や金型形状再現性がより向上する。
【0036】
工程(IV)においては、前記n
1室の中空部(成形室)内にスチームを導入し、加熱して、充填された発泡粒子を相互に融着させる。
【0037】
成形室へ導入するスチームの蒸気圧は、使用するポリオレフィン系樹脂発泡粒子の融点により異なる。概ね[ポリオレフィン系樹脂発泡粒子の融点−10℃]〜[ポリオレフィン系樹脂発泡粒子の融点+10℃]の範囲内となる圧力のスチームが使用される。
ポリプロピレン系樹脂発泡粒子の場合、0.25MPa〜0.50MPa(G)であることが好ましく、0.30MPa〜0.45MPa(G)であることがより好ましい。
【0038】
なお、ポリオレフィン系樹脂の融点は、JIS K7121−1987に基づき、試験片の状態調節として、「(2)一定の熱処理を行なった後、融解温度を測定する場合(冷却温度10℃/分)」を採用し、熱流束示差走査熱量測定(加熱温度10℃/分)により求められる。
【0039】
本発明においては、成形室内にスチームを導入する際に、前記スチームの圧力に対する圧力比が0.8以上の圧力の気体(以下、加圧気体ともいう。)により、発泡粒子が充填された中空部(成形室)と隣接する、発泡粒子が充填されていない中空部内を加圧することを要する。該気体は、樹脂と化学反応することがなく安定性があるものであれば、その種類に制限はないが、通常窒素や空気が用いられる。なお、発泡粒子が充填された中空部(成形室)と隣接しない、発泡粒子が充填されていない中空部が存在する場合には、該中空部を加圧気体により加圧してもよく、加圧しなくてもよい。加圧する場合には、他の発泡粒子が充填されていない中空部と略同じ圧力で加圧することが好ましい。
【0040】
前記スチームの圧力に対する加圧気体の圧力の比(加圧気体の圧力/スチームの圧力)が小さすぎると、即ちスチーム圧に対し、中空室の気体圧が低すぎると、スチームにより成形室側から中空室に向かってピンホールが形成されるおそれがある。表皮材融着部にピンホールが形成されると、スチームが発泡粒子が存在しない中空室に漏れ、発泡粒子どうしの融着性が低下し、また表皮材被覆発泡粒子成形体の外観不良が発生する。
かかる観点から、圧力比は、好ましくは1超、より好ましくは1.1以上、更に好ましくは1.2以上である。一方、ブロー成形機の型締め力にもよるが、その上限は、概ね2とすることが好ましく、より好ましくは1.5である。
【0041】
次に、前記成形室へのスチームの導入、加熱について説明する。スチームによる加熱は、各成形室ごとにその中に複数のスチームピンを中空成形体の壁部に突き刺して挿入し、挿入された複数のスチームピンの一方を供給側とし他方を排出側として、供給側からスチームを供給し、排出側を開放するか排出側から吸引を行うことによって行うことができる。加熱方法としては、供給側と排出側を固定して一方向からのみ加熱を行う一方加熱法、あるいは一方を供給側とし他方を排出側として一度スチーム加熱を行った後供給側と排出側とを交替してスチーム加熱を行う交互加熱法のどちらも採用することができる。発泡粒子成形体の各部位において均一に発泡粒子同士を融着させるためには、交互加熱法が好ましい。さらに、交互加熱後に、全部のスチームピンよりスチームを導入する本加熱工程を行うことがより好ましい。
【0042】
スチームの供給は、通常、高圧のスチームをスチームチャンバーで所望の圧力に減圧調整し、この圧力を調整したスチームをスチームピンを通して成形室へと供給することにより行われる。
【0043】
前記スチームピンの成形室内への挿入箇所及び挿入方向は特に限定されるものではないが、成形室内において発泡粒子全体がスチームにより万遍なく加熱されるように、成形室の形状に応じて、成形室内へと挿入する箇所及び挿入方向が適宜決定される。意匠性などの観点から、スチームピンの挿入跡が中空成形体に残ることを避けたい場合にはスチームピンの挿入箇所は少ないほど望ましく、挿入方向は一方向、或いは二方向であることが好ましい。
【0044】
成形型の一方向からスチームピンを挿入する場合には、成形型の側面(型締め方向と直交する方向)からスチームピンを挿入するか、分割型の一方の型面からスチームピンを挿入することができる。また、二方向からスチームピンを挿入する場合には、成形型の両側の側面から、スチームピン同士を対向させてスチームピンを挿入することや、両方の型面からスチームピン同士を対向させてスチームピンを挿入することもできる。
【0045】
供給側のスチームピンと排出側のスチームピンは列ごとに交互に配することができれば、供給側のピンと排出側のピンとを行毎に交互に配置することもでき、供給側のピンと排出側のピンとを市松模様状に交互に配置することもできる。
【0046】
発泡粒子成形体の各部位における融着率をより均一にし、かつ十分な機械的強度を得るためには、供給側ピンと排出側ピンとの距離(ピッチ)を200〜400mmとすることがより好ましい。
【0047】
スチームピンのスチーム供給排出口は、スチームピンの挿入方向が一方向である場合には、スチームピンの側面のみに設ければ良いが、スチームピンの挿入方向が相対向する二方向である場合には、側面のみではなくピンの先端にも供給排出口を有することが好ましい。
【0048】
表皮材発泡粒子成形体が意匠面を有する場合、意匠性を確保するという観点から、スチームピンのスチーム供給排出口と意匠面側の表皮とは対向しないように配置されることが好ましい。また、スチーム供給排出口と表皮内面との間隔は、直線距離において10mm以上離すことが好ましく、15mm以上離すことが更に好ましい。
意匠面とは、表皮材被覆発泡粒子成形体を構造部材として使用したときに、外側に現れて人の目に触れる中空成形体の面を言う。
【0049】
冷却終了後、表皮材被覆発泡成形体からスチームピンをぬき去り、分割金型を開いて、成形バリを周囲に有する表皮材被覆発泡成形体を取り出す。最後に周囲の成形バリを取り除いて表皮材被覆発泡粒子成形体を得る。得られた表皮材被覆発泡粒子成形体は、発泡粒子成形体が中空成形体からなる表皮材で被覆され、かつ一部に発泡粒子成形体が存在しない中空室(空洞)を有する表皮材被覆発泡粒子成形体である。
【0050】
次に、本発明方法で得られる表皮材被覆発泡粒子成形体の物性について説明する。
発泡粒子成形体部分の見かけ密度は、得られる成形体の軽量性と機械的強度とのバランスを考慮すると、30〜90kg/m
3が好ましく、より好ましくは30〜60kg/m
3である。
【0051】
該見かけ密度は、発泡粒子成形体部分の重量を該成形体の外形寸法から求められる体積で割算することにより求めることができる。
【0052】
前記見かけ密度の発泡粒子成形体を得るには、前記発泡粒子のかさ密度が20〜90kg/m
3であることが好ましく、より好ましくは20〜60kg/m
3である。前記圧縮充填法を採用する場合には、その圧縮率にもよるが、発泡粒子成形体部分の所望の見掛け密度に対して、1.5倍程度のかさ密度を有する発泡粒子を用いることが好ましい。
【0053】
本明細書において、発泡粒子のかさ密度(kg/m
3)は次のように測定される。
1Lのメスシリンダーを用意し、発泡粒子をメスシリンダーの1Lの標線まで充填し、充填された発泡粒子の重量(g)を秤量することにより、1Lあたりの発泡粒子の重量(g/L)を求め、さらに(kg/m
3)に単位換算することにより求める。
【0054】
表皮材被覆発泡粒子成形体の軽量性と表面性とのバランスを考慮すると、表皮材の平均厚みは1.0〜4.5mmであることが好ましく、より好ましくは1.5〜4.0mmである。
【0055】
表皮材発泡粒子成形体の表皮材表面の最大高さ粗さRzは20μm以下であることが好ましい。
最大高さ粗さRzの測定法については、実施例において説明する。
【0056】
表皮材被覆発泡粒子成形体における融着部の剥離強度は、130MPa以上であることが好ましく、より好ましくは140MPa、さらに好ましくは150MPaである。また、その上限は概ね300MPaである。
融着部の剥離強度の測定法については、実施例において説明する。
【0057】
表皮材被覆発泡粒子成形体の機械的強度や外観の観点から、発泡粒子同士の融着率は、30〜100%であることが好ましく、より好ましくは40〜100%である。同様に、発泡粒子と表皮材とが融着する樹脂からなる場合には、発泡粒子と表皮材との融着率は、50〜100%であることが好ましく、より好ましくは60〜100%である。
融着率の測定法については、実施例において説明する。
【実施例1】
【0058】
実施例1
ブロー成形用の分割金型として、
図3に示す中空成形体を得ることができる金型を用いた。該中空成形体は、外形寸法:縦1700mm×横1400mm×厚さ100mmの中空状の平板形状であり、その一方側の板面11の中央部付近には、略矩形状に連続した凹条部14が形成されており、凹条部14の底面の内面側と反対側の板面12の内面側とが融着して融着部5を形成し、融着部5により仕切られた平面視略四角形(板面11側の寸法:縦800mm×横950mm)の独立した中空部(成形室)を備えた中空成形体である。
【0059】
該分割金型の一方側には、前記中空部(成形室)を形成するために、略矩形状に連続した凸条部(先端側の外形寸法:縦850×横1000mm、先端の幅7mm、他方の金型とのクリアランス3mm)を設けた。さらに、該分割金型側には、凸条部で囲まれた面内に、1本の充填フィーダ(内径24mm)および16本(縦4本×横4本)のスチームピン(内径8mm)を縦250mm間隔(ピッチ)、横300mm間隔(ピッチ)で設けた。スチームピン全てのスチーム供給排出口の合計開口面積は4.32cm
2であり、発泡粒子充填ガンによる充填口の開口面積は4.52cm
2であった。充填ガン開口面積に対するスチーム供給排出口の合計開口面積の比は0.96であった。
【0060】
内径120mmの押出機に、ポリプロピレン系樹脂〔日本ポリプロ株式会社製プロピレン−エチレンブロック共重合体、商品名:ノバテックPP、グレード:EC9EV、メルトフローレイト(MFR):0.35g/10分(230℃、荷重2.16kg)、溶融張力(MT):10.8cN(230℃)、融点:161℃〕を供給し、205℃で加熱、混練して溶融樹脂とした。
次に、溶融樹脂を押出機とダイリップとの間に付設されたアキュムレータ(205℃に設定)に充填した。次いで、円環状のダイリップから溶融樹脂を押出して、ダイ直下に配置された分割金型(60℃に温調)間に円筒状のパリソンを形成した。次いで、プリブローによりパリソンを拡幅しつつ、金型を型締めしてパリソンを金型にて挟み込んだ。金型を締める直前のパリソン内面温度は165℃であった。そして、金型内のパリソンの各中空部となる箇所にブローピンを打ち込み、ブローピンから0.50MPa(G)の加圧空気(ブローエア)を30秒間パリソン内に吹き込み、金型キャビティの形状が賦形された2の独立した中空部を有する中空成形体を形成した。表皮材の平均厚みは3.0mmであった。
【0061】
ブローエア吹き込み停止後、成形室となる中空成形体の中央の中空部内に、充填ガン及びスチームピンを挿入し、該スチームピンの周壁部に設けられたスチーム供給排出口から成形室内の気体を排気することにより、成形室内部の圧力を0.13MPa(G)に調整しながら、0.20MPa(G)にて圧縮しておいたポリオレフィン系樹脂発泡粒子を充填ガンを通して充填した。該発泡粒子としては、ポリプロピレン系樹脂発泡粒子[基材樹脂:プロピレン−エチレンランダム共重合体(融点145℃、エチレン含有量2.5重量%)、かさ密度26kg/m
3、平均粒子径:3.3mm]を用いた。
【0062】
発泡粒子充填後、成形室の周囲に位置する中空部(中空室)に圧力0.50MPa(G)の加圧空気を供給して、該中空室を加圧しながら、以下のように、成形室にスチームを供給することにより発泡粒子を相互に融着させて発泡粒子成形体を形成した。まず、成形室内に挿入された16本のスチームピンうち8本のスチームピン(スチームピンA)により成形室内を吸引しながら、残りの8本のスチームピン(スチームピンB)から圧力0.40MPa(G)のスチームを成形室内に20秒間供給した。次に、スチームピンBから成形室内を吸引しながら、スチームピンAから圧力0.40MPa(G)のスチームを成形室内に20秒時間供給した(交互加熱工程)。そして、全てのスチームピンから圧力0.40MPa(G)のスチームを成形室内に10秒間供給することにより(本加熱工程)、発泡粒子を相互に融着させると共に、成形室における表皮材の内面と発泡粒子とを融着させた。
表皮材被覆発泡粒子成形体を冷却し、スチームピンを抜き取ったのち、金型を開き、成形体を取り出し、成形バリを取り除いて目的とする表皮材被覆発泡粒子成形体を得た。表皮材融着部の厚みは3mm、幅は7mmであった。得られた成形体の物性を表2に示した。
【0063】
実施例2
中空室に供給する加圧空気の圧力を0.56MPa(G)とした以外は、実施例1と同様にして表皮材被覆発泡粒子成形体を得た。得られた成形体の物性を表2に示した。
【0064】
実施例3
中空室に供給する加圧空気の圧力を0.35MPa(G)とした以外は、実施例1と同様にして表皮材被覆発泡粒子成形体を得た。得られた成形体の物性を表2に示した。
【0065】
実施例4
成形室に圧力0.45MPa(G)のスチームを供給し、中空室に圧力0.55MPa(G)の加圧空気を供給した以外は、実施例1と同様に表皮材被覆発泡粒子成形体を得た。得られた成形体の物性を表2に示した。
【0066】
比較例1
中空室に供給するエアー圧力を0.28MPa(G)とした以外は、実施例1と同様にして表皮材被覆発泡粒子成形体を得た。得られた成形体の物性を表2に示した。
成形室に供給するスチームの圧力に対して中空室に供給する加圧空気の圧力の比が小さすぎるので、融着部にピンホールが発生した。
比較例1で得られた表皮材被覆発泡粒子成形体における融着部の断面写真である。ピンホールが形成されていることを確認できる。
【0067】
【表1】
【0068】
【表2】
【0069】
表中の各物性は、次の方法で測定した。
(表皮材厚み)
表皮材被覆発泡粒子成形体の長手方向中央部および長手方向両端部付近の計3箇所の長手方向に対する垂直断面において、各垂直断面の表皮材周方向に沿って等間隔に6箇所(ただし、融着部を除く。)の表皮材の厚みの測定を行い、得られた18箇所の厚みの算術平均値を表皮材の平均厚みとした。
【0070】
(発泡粒子成形体部分の密度)
発泡粒子成形体部分の密度は、表皮材被覆発泡粒子成形体から発泡粒子成形体部分を切り分け、発泡粒子成形体部分の重量を発泡粒子成形体部分の体積により除した値をkg/m
3に単位換算することにより求めた。
【0071】
(表面平滑性指標:最大高さ粗さRz)
表面粗さ表皮材被覆発泡粒子成形体の板面の中心部および四隅部(R部分を除く)の計5箇所から切り出した試験片を用いて表面粗さの測定を行った。測定装置としては株式会社小坂研究所製サーフコーダのSE1700αを使用した。水平な台に試験片を静置し、先端曲率半径が2μmの触針の先端を試験片の表面に当接させて、試験片を0.5mm/sにて押出方向に移動させ、触針の上下変位を順次測定することで表面粗さの値を測定した。試験片の移動距離で特定される測定長さは、カットオフ値の3倍以上の所定の長さに定めた。なお、カットオフ値は8mmとし、そのほかのパラメータは、JIS B0601(2001)の定義に準拠して、粗さ曲線要素の最大高さ粗さRz(μm)を得た。次の基準により評価した。
◎:Rzが15μm以下である
○:Rzが15μmよりも大きく20μm以下
×:Rzが20μmよりも大きい
【0072】
(金型再現性)
三次元寸法測定機によって、金型に対する表皮材被覆発泡粒子成形体の変形状態を確認した。次の基準により評価した。
◎:成形体の板面部において、金型との公差が±2.5mm以下
○:成形体の板面部において、金型との公差が±2.5mmよりも大きく±3mm以下
×:成形体の板面部において、金型との公差が±3mmより大きい
【0073】
(融着部剥離強度)
無作為に選択した表皮材被覆発泡粒子成形体の5箇所から、融着部に対して直交する方向に沿って、融着部が含まれるようにして幅30mmの試験片を5点切り出した。切り出した試験片における両表皮材の端部をそれぞれ剥離強度測定用冶具に挟み込み、テンシロンにて10mm/分の引張速度にて融着部の融着面に対して垂直方向に引張ることにより引張試験を行なった(n=5)。各試験片において測定された最大点応力のうち、最も小さい値を剥離強度(MPa)としてそれぞれ表2に示す。なお、融着性が良好なものの剥離強度(最大点応力)は概ね120MPa以上であった。
【0074】
(表皮材と発泡粒子成形体間の融着率)
表皮材と発泡粒子成形体との融着性評価試験片として、得られた表皮材被覆発泡粒子成形体の中実部の中央及び四隅付近(R部を除く)の計5箇所から、両面側の表皮材を含む縦:100mm×横:100mm×厚み:表皮材を含む成形体厚みの試験片を切出した。それぞれの試験片から両面側共に表皮材を剥がして、各剥離面における発泡粒子成形体の発泡粒子100個以上について、目視で剥離面の発泡粒子の状態を観察し、破壊された発泡粒子と、発泡粒子と表皮材間の界面で剥離した発泡粒子の数をそれぞれ計数し、破壊された発泡粒子と発泡粒子と表皮材間の界面で剥離した発泡粒子の合計に対する破壊された発泡粒子の割合を求めた。5箇所×2面(計10箇所)の測定値のうち最も低い値を発泡粒子と表皮材の融着率とした。
【0075】
(発泡粒子成形体における発泡粒子の融着率)
発泡粒子どうしの融着率測定用試験片として、得られた表皮材被覆発泡粒子成形体の中実部の中心および四隅付近(R部分を除く)の計5箇所から、表皮材を含まないようにして縦100mm×横100mm×厚み:表皮材を除く成形体厚みに切り出し試験片とした。それぞれの試験片の板面側の面の横方向中央部に縦方向に沿って深さ1mm×長さ100mmの切込みを設け、試験片を折り曲げて該切込みをきっかけとして試験片を破断し、破断面を目視観察し、100個以上について、破壊された発泡粒子と、界面で剥離した発泡粒子数をそれぞれ計数し、破壊された発泡粒子と、発泡粒子と表皮材間の界面で剥離した発泡粒子との合計に対する破壊された発泡粒子の割合を求めた。5箇所の測定値の中で最も低い値を融着率とした。
【0076】
(融着部のピンホール)
融着部の片側よりライトを当て、融着部にピンホールが存在するか否かを確認した。次の基準により評価した。
◎:光の透過がまったくない
○:光の透過がうっすらと確認される
×:光の透過が数箇所ある