特許第6576278号(P6576278)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6576278
(24)【登録日】2019年8月30日
(45)【発行日】2019年9月18日
(54)【発明の名称】ダンパ装置及び建具
(51)【国際特許分類】
   F16F 9/12 20060101AFI20190909BHJP
   E05F 3/14 20060101ALI20190909BHJP
   E05F 5/00 20170101ALI20190909BHJP
   E05F 5/02 20060101ALI20190909BHJP
   F16F 9/53 20060101ALI20190909BHJP
   E05F 3/20 20060101ALI20190909BHJP
   F16F 15/03 20060101ALI20190909BHJP
【FI】
   F16F9/12
   E05F3/14
   E05F5/00 A
   E05F5/02 A
   F16F9/53
   E05F3/20 A
   F16F15/03 H
【請求項の数】7
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2016-58821(P2016-58821)
(22)【出願日】2016年3月23日
(65)【公開番号】特開2017-172684(P2017-172684A)
(43)【公開日】2017年9月28日
【審査請求日】2018年9月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】302045705
【氏名又は名称】株式会社LIXIL
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100165157
【弁理士】
【氏名又は名称】芝 哲央
(74)【代理人】
【識別番号】100126000
【弁理士】
【氏名又は名称】岩池 満
(74)【代理人】
【識別番号】100160794
【弁理士】
【氏名又は名称】星野 寛明
(72)【発明者】
【氏名】田中 淳
(72)【発明者】
【氏名】松田 宏
【審査官】 鵜飼 博人
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2014/104313(WO,A1)
【文献】 特開平04−282040(JP,A)
【文献】 特開平08−135298(JP,A)
【文献】 特表2011−519099(JP,A)
【文献】 特開2008−008418(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16F 9/12, 9/53,15/03
E05F 5/02, 3/20, 3/14,
5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
移動体の移動速度を制御するダンパ装置であって、
前記移動体の移動に連動して回転する回転軸と、
前記回転軸に連動し、該回転軸の回転方向に応じて一側から他側又は他側から一側に向かってその位置を移動する磁石と、
前記磁石の移動に伴って電磁誘導により発電する発電用コイルと、
磁界に応じて粘度が変化する性質を有し、前記回転軸の回転に対して粘度に応じた抵抗を付与する磁性流体と、
通電により前記磁性流体に磁界を作用させる抗力用コイルと、
前記磁石の移動方向に基づいて前記発電用コイルから前記抗力用コイルに送られる電流を調整する出力調整部と、
を備えるダンパ装置。
【請求項2】
前記発電用コイルで発電した電圧の極性に基づいて前記磁石の移動方向が判定され、該移動方向に基づいて前記抗力用コイルに送られる電流出力を調整する請求項1に記載のダンパ装置。
【請求項3】
磁気を検出する磁気検出部を更に備え、
前記磁気検出部の検出磁気に基づいて前記磁石の移動方向が判定され、該移動方向に基づいて前記発電用コイルから前記抗力用コイルに送られる電流を調整する請求項1記載のダンパ装置。
【請求項4】
前記磁気検出部の検出磁気から前記磁石の移動速度が取得され、該移動速度に基づいて前記抗力用コイルに流れる電流の出力を調整する請求項3に記載のダンパ装置。
【請求項5】
温度を検出する温度検出部を更に備え、
前記温度検出部の検出温度に基づいて前記抗力用コイルに送られる電流の出力を調整する請求項1又は2に記載のダンパ装置。
【請求項6】
前記抗力用コイル又は前記発電用コイルの一部のコイルの巻数を他の部分の巻数よりも多くする請求項1から5に記載のダンパ装置。
【請求項7】
建物の開口部に取り付けられる戸体及び前記戸体の移動速度を制御するダンパ装置を備える建具であって、
前記ダンパ装置は、
前記戸体の移動に連動して回転する回転軸と、
前記回転軸に連動し、該回転軸の回転方向に応じて一側から他側又は他側から一側に向かってその位置を移動する磁石と、
前記磁石の移動に伴って電磁誘導により発電する発電用コイルと、
磁界に応じて粘度が変化する性質を有し、前記回転軸の回転に対して粘度に応じた抵抗を付与する磁性流体と、
通電により前記磁性流体に磁界を作用させる抗力用コイルと、
前記磁石の移動方向に基づいて前記発電用コイルから前記抗力用コイルに送られる電流を調整する出力調整部と、
を備える建具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、移動体の移動速度を制御するダンパ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、ドア等の移動体の移動速度を減衰させるダンパ装置の技術が知られている。この種の技術を開示するものとして例えば特許文献1や特許文献2がある。
【0003】
特許文献1には、ドアが特定の半開位置にあるとき該半開位置規制ペア突起の中間に半開位置規制単独突起が位置し、ドアが特定半開位置から開閉いずれの方向に回動されても半開位置規制ペア突起と半開位置規制単独突起との径方向の距離が縮小するように形成されているドアチェック装置について記載されている。
【0004】
特許文献2には、ヒンジ(特許文献2における蝶番)に関する技術について以下のような記載がある。即ち、円筒部材の複数の磁石が、円筒本体の内面の円周方向に沿って、中心軸線を中心として等角度でずれてN極及びS極が交互に配置されている。軸部材が、中心軸線を中心として円筒部材に対して相対的に回転可能に、円筒部材の内部に挿入されている。軸部材の複数の磁石が、円筒部材の各磁石に対向するよう、軸本体の外面の回転方向に沿って中心軸線を中心として等角度でずれてN極又はS極が交互に配置されている。扉を閉じたとき、軸部材の各磁石の極性配置が、円筒部材の各磁石の極性配置と中心軸線を中心として所定の角度ずれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−264616号公報
【特許文献2】特開2008−111291号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1及び特許文献2に開示される何れの技術も、特定の位置で移動体としてのドアの回転を減衰させており、特定の位置から外れた場所では移動体の移動速度を減衰させることができなかった。また、ドア等の移動体に作用させたい減衰力はその位置や移動方向で異なるため、移動体の移動に応じて減衰力を調節するという点で改善の余地があった。
【0007】
本発明は、移動体の移動方向や移動位置に応じて作用させる減衰力を適切に調節できるダンパ装置及び建具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、移動体(例えば、後述のドア1)の移動速度を制御するダンパ装置(例えば、後述のドアクローザ5,5a〜c、ヒンジ610)であって、前記移動体の移動に連動して回転する回転軸(例えば、後述の回転軸15,625)と、前記回転軸に連動し、該回転軸の回転方向に応じて一側から他側又は他側から一側に向かってその位置を移動する磁石(例えば、後述の磁石37,682)と、前記磁石の移動に伴って電磁誘導により発電する発電用コイル(例えば、後述の発電用コイル38,430,671)と、磁界に応じて粘度が変化する性質を有し、前記回転軸の回転に対して粘度に応じた抵抗を付与する磁性流体(例えば、後述の磁気粘性流体51,664)と、通電により前記磁性流体に磁界を作用させる抗力用コイル(例えば、後述の抗力用コイル53,550,670)と、前記磁石の移動方向に基づいて前記発電用コイルから前記抗力用コイルに送られる電流を調整する出力調整部(例えば、後述の出力調整回路252,352,452,553、出力調整ユニット690)と、を備えるダンパ装置に関する。なお、磁石の一側から他側又は他側から一側に向かってその位置を移動するとは、磁石の向きを変える回転移動も含まれるものとする。
【0009】
前記発電用コイルで発電した電圧の極性に基づいて前記磁石の移動方向が判定され、該移動方向に基づいて前記抗力用コイルに送られる電流出力を調整することが好ましい。
【0010】
前記ダンパ装置は、磁気を検出する磁気検出部(例えば、後述のGMRセンサ350)を更に備え、前記磁気検出部の検出磁気に基づいて前記磁石の移動方向が判定され、該移動方向に基づいて前記発電用コイルから前記抗力用コイルに送られる電流を調整することが好ましい。
【0011】
前記磁気検出部の検出磁気から前記磁石の移動速度が取得され、該移動速度に基づいて前記抗力用コイルに流れる電流の出力を調整することが好ましい。
【0012】
前記ダンパ装置は、温度を検出する温度検出部(例えば、後述の温度センサ250)を更に備え、前記温度検出部の検出温度に基づいて前記抗力用コイルに送られる電流の出力を調整することが好ましい。
【0013】
前記抗力用コイル又は前記発電用コイルの一部のコイルの巻数を他の部分の巻数よりも多くすることが好ましい。
【0014】
本発明は、建物の開口部に取り付けられる戸体(例えば、後述のドア1)及び前記戸体の移動速度を制御するダンパ装置(例えば、後述のドアクローザ5,5a〜c、ヒンジ610)を備える建具(例えば、後述の建具4)であって、前記ダンパ装置は、前記戸体の移動に連動して回転する回転軸(例えば、後述の回転軸15,625)と、前記回転軸に連動し、該回転軸の回転方向に応じて一側から他側又は他側から一側に向かってその位置を移動する磁石(例えば、後述の磁石37,682)と、前記磁石の移動に伴って電磁誘導により発電する発電用コイル(例えば、後述の発電用コイル38,430,671)と、磁界に応じて粘度が変化する性質を有し、前記回転軸の回転に対して粘度に応じた抵抗を付与する磁性流体(例えば、後述の磁気粘性流体51,664)と、通電により前記磁性流体に磁界を作用させる抗力用コイル(例えば、後述の抗力用コイル53,550,670)と、前記磁石の移動方向に基づいて前記発電用コイルから前記抗力用コイルに送られる電流を調整する出力調整部(例えば、後述の出力調整回路252,352,452,553、出力調整ユニット690)と、を備える建具に関する。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、移動体の移動方向や移動位置に応じて作用させる減衰力を適切に調節できるダンパ装置及び建具を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の実施形態に係るドアクローザが用いられる建具の正面図である。
図2】第1実施形態のドアクローザの構成を模式的に示す図である。
図3】第2実施形態のドアクローザの構成を模式的に示す図である。
図4】第3実施形態のドアクローザの構成を模式的に示す図である。
図5】第4実施形態のドアクローザの構成を模式的に示す図である。
図6】第5実施形態のヒンジの構成を模式的に示す図である。
図7】第5実施形態の発電部の分解斜視図である。
図8】第5実施形態の発電部の平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の好ましい各実施形態について、図面を参照しながら説明する。
【0018】
<第1実施形態>
図1は、本発明の実施形態に係るドアクローザ5が用いられる建具4の正面図である。建具4は、建物の開口部に固定される枠体2と、戸体としてのドア1と、ドア1を回転可能に支持する複数のヒンジ11と、ドア1の移動速度を制御するドアクローザ5と、を備える。ドア1は、枠体2に複数のヒンジ11を介して回転可能に支持される開き戸である。
【0019】
図1に示すように、建具4に用いられるドアクローザ5は、回転軸15を回転可能に支持する本体6と、回転軸15を介して本体6に接続されるアーム部16と、アーム部16と枠体2(又は建物側)を接続するリンク機構17と、を備える。回転軸15は、アーム部16及びリンク機構17によってドア1の回動に連動する。ドアクローザ5は、回転軸15の回転力を減衰させることにより、移動体であるドア1の回転速度を制御する。
【0020】
図2は、第1実施形態のドアクローザ5の本体6の構成を模式的に示す図である。なお、図2では、アーム部16やリンク機構17の図示を省略している。図2に示すように、本体6の内部には、回転軸15の回転力を利用して発電する発電部455と、回転軸15に抗力を付与する抗力部50と、出力極性判断回路451と、出力調整回路(出力調整部)452と、が設けられる。
【0021】
発電部455は、回転軸15の周面に固定されるピニオン35と、ピニオン35に噛み合うラック36と、ラック36の長手方向の一側の端部に配置される磁石37と、磁石37の移動によって発電する発電用コイル430と、ラック36の長手方向の他側の端部に配置される戻りばね39と、を備える。
【0022】
ラック36は、水平方向でスライド移動可能に本体6の内部で支持される。回転軸15と一体的に回転するピニオン35が回転すると、ピニオン35に噛み合うラック36が回転方向に応じて水平移動する。
【0023】
磁石37は、ラック36の一側の端部に固定される永久磁石である。ラック36の移動に伴って移動する磁石37の磁界が発電用コイル430に作用する。
【0024】
発電用コイル430は、ラック36の一側の端部を囲うように配置されている。発電用コイル430の内側をラック36に固定された磁石37が移動して、発電用コイル430に近づいたり離れたりすることによって発電用コイル430に電磁誘導により電流が流れる。
【0025】
本実施形態の発電用コイル430は、第1発電用コイル431と、第2発電用コイル432と、を備える。第1発電用コイル431は内側に位置する内側コイルであり、第2発電用コイル432は第1発電用コイル431の外側に位置する外側コイルである。第2発電用コイル432は、ラック36から離れている側の端部で巻数が多くなるように構成されている。
【0026】
第1発電用コイル431の電流は第1ケーブル435を通じて出力極性判断回路451に入力され、第2発電用コイル432の電流は第2ケーブル436を通じて出力極性判断回路451に入力される。
【0027】
戻りばね39は、一側の端部がラック36の磁石37が固定される側と反対側の端部に固定されるとともに、他側の端部が本体6の内側に固定されている。ラック36は、発電用コイル38に近づく方向に移動すると、戻りばね39によって元の位置に戻そうとする力が加えられる。
【0028】
抗力部50は、磁性流体槽52と、磁性流体槽52の周面に配置される抗力用コイル53と、を備える。
【0029】
磁性流体槽52は、磁界によって粘度が変化する磁気粘性流体51が充填される容器である。磁性流体槽52には、回転軸15のアーム部16が接続される側と反対側の端部が挿入されている。回転軸15の磁性流体槽52に挿入される側の端部には撹拌フィン19が設けられる。従って、回転軸15の回転に伴って撹拌フィン19が磁気粘性流体51の粘度に応じた抵抗を受けることになる。
【0030】
抗力用コイル53は、磁性流体槽52の外周面又は内部に磁気粘性流体51を囲うように巻き付けられている。抗力用コイル53は、発電用コイル430に出力極性判断回路451及び出力調整回路452を介して電気的に接続されている。
【0031】
出力極性判断回路451は、第1発電用コイル431及び第2発電用コイル432に流れる電圧の極性を取得する。電磁誘導によって第1発電用コイル431及び第2発電用コイル432に流れる電圧の極性は、磁石37の移動方向によって決まる。磁石37の移動方向は回転軸15の回転方向によって決まるので電圧の極性によって回転軸15の回転方向、即ちドア1の回動方向がわかるのである。
【0032】
出力調整回路452は、出力極性判断回路451から入力される極性情報に基づくドア1の回転方向に基づいて抗力用コイル53に送る電流の出力調整を行う。
【0033】
本実施形態では、第1発電用コイル431と第2発電用コイル432の巻き数の違いを利用して電流の出力を調整する。例えば、ドア1が開くときは磁気粘性流体51によって撹拌フィン19によって付与される抗力が小さくなるように、巻き数の少ない第1発電用コイル431の電流が抗力用コイル53に供給されるように電流の経路をスイッチする。また、ドア1を閉じるとき等、回転軸15に付与する抗力を強くしたい場合は第2発電用コイル432の電流が抗力用コイル53に送られるように電流の経路をスイッチする。
【0034】
また、本実施形態では、電流の経路が第2発電用コイル432にスイッチされている状態で磁石37が巻き数の多い部分に位置した場合にはより多くの電流が流れるようになっている。即ち、特定の位置では磁界を強く作用させることにより、磁気粘性流体51の粘度を増大させて回転軸15への抗力を強く働かせることができるようになっている。
【0035】
以上説明した本実施形態のダンパ装置としてのドアクローザ5によれば、以下のような効果を奏する。
即ち、ドアクローザ5は、移動体としてのドア1の移動に連動して回転する回転軸15と、回転軸15に連動し、該回転軸15の回転方向に応じて一側から他側又は他側から一側に向かってその位置を移動する磁石37と、磁石37の移動に伴って電磁誘導により発電する発電用コイル430と、磁界に応じて粘度が変化する性質を有し、回転軸15の回転に対して粘度に応じた抵抗を付与する磁気粘性流体51と、通電により磁気粘性流体51に磁界を作用させる抗力用コイル53と、磁石37の移動方向に基づいて発電用コイル430から抗力用コイル53に送られる電流を調整する出力調整回路452と、を備える。
【0036】
これにより、ドア1の移動方向及び位置に応じて抗力用コイル53に送られる電流が自動的に調整されるので、磁気粘性流体51の粘度の変化を利用してドア1の移動方向に応じた減衰力を作用させることができる。例えば、ドア1が開くときは回転軸15の撹拌フィン19に付与される抗力が小さくなり、閉じるときは抗力が自動的に大きくすることができる。
【0037】
また、上記実施形態の出力調整回路452は、発電用コイル430で発電した電圧の極性に基づいて磁石37の移動方向を判定し、該移動方向に基づいて抗力用コイル53に送られる電流出力を調整する。
【0038】
これにより、磁石37の移動方向を検出するためのセンサを設けることなく、発電用コイル430に対する磁石37の移動方向がわかるので、ドア1の移動方向に応じて抗力用コイル53に通電する回路をシンプルに設計することができる。
【0039】
また、上記実施形態の発電用コイル430は、第1発電用コイル431及び第1発電用コイルよりも巻き数の多い第2発電用コイル432を有し、出力調整回路452は、発電用コイル430の電圧極性に基づいて回転軸15に付与する抵抗を相対的に弱くする場合は第1発電用コイル431で発電された電流を抗力用コイル53に送り、相対的に強くする場合は第2発電用コイル432で発電された電流を抗力用コイル53に送るように電流を送る経路を切り替える。
【0040】
これにより、発電量の異なる第1発電用コイル431及び第2発電用コイル432を利用することにより、電流の経路を切り替えるだけで磁気粘性流体51にドア1の移動方向に応じた適切な抵抗を回転軸15に付与できる構成を複雑な制御を追加することなく実現できる。
【0041】
また、上記実施形態の発電用コイル430の第2発電用コイル432は、一部のコイルの巻数が他の部分の巻数よりも多く構成される。
【0042】
これにより、ドア1の回動範囲の所定位置で抗力が強く作用させることができる。なお、抗力用コイル53の一部の巻数を他の部分の巻数よりも多く構成してもよい。
【0043】
また、本実施形態のダンパ装置としてのドアクローザ5を建具4に適用することにより、風の煽り等の意図しないドア1の回動が生じる場合でも、減衰力をドア1の回動方向に応じて適切に作用させることができる。
【0044】
次に、第1実施形態と同様にドアクローザに本発明を適用した第2実施形態から第4実施形態について順次説明する。なお、以下の各実施形態の説明において、既に説明した同様の構成については同じ符号を付してその説明を省略することがある。
【0045】
<第2実施形態>
図3は、第2実施形態のドアクローザ5aの構成を模式的に示す図である。図3に示すように、第2実施形態のドアクローザ5aは、発電部55及び抗力部530の構成が上記実施形態のドアクローザの構成と異なっている。
【0046】
第2実施形態の発電部55が備える発電用コイル38は、ラック36の一側の端部を囲うように配置されている。発電用コイル38の内側をラック36に固定された磁石37が移動して、発電用コイル38に近づいたり離れたりすることによって発電用コイル38に電流が流れる。発電用コイル38の系統が1系統であることが第1実施形態と異なっている。
【0047】
第2実施形態の抗力用コイル550は、第1抗力用コイル551と、第2抗力用コイル552と、を備える。第1抗力用コイル551は、第2抗力用コイル552よりも巻き数が少なく構成され、第2抗力用コイル552は第1抗力用コイル551の内側に配置される。
【0048】
また、第2実施形態のドアクローザ5aは、極性判定機能及び経路切替機能を有する出力調整回路553を備える。出力調整回路553は、ケーブル554を介して入力される発電用コイル38の電圧特性に応じてドア1の回転方向を判定する。
【0049】
出力調整回路553は、ケーブル556を通じて第1抗力用コイル551に接続されるとともに、ケーブル555を介して第2抗力用コイル552に接続される。出力調整回路553は、ドア1の回転方向に基づいて第1抗力用コイル551又は第2抗力用コイル552の何れかに電流が流れるように経路を切り替える。
【0050】
第2実施形態の抗力用コイル550は、第1抗力用コイル551及び第1抗力用コイル551よりも巻き数の多い第2抗力用コイル552を有し、出力調整回路553は、発電用コイル38の電圧極性(ドア1の回転方向)に基づいて回転軸15に付与する抵抗を相対的に弱くする場合は発電用コイル38で発電された電流を第1抗力用コイル551に送り、相対的に強くする場合は発電用コイル38で発電された電流を第2抗力用コイル552に送るように電流を送る経路を切り替える。
【0051】
これにより、磁気粘性流体51に作用させる磁界量の異なる第1抗力用コイル551及び第2抗力用コイル552を利用することにより、電流の経路を切り替えるだけで磁気粘性流体51にドア1の移動方向及び位置に応じた適切な抵抗を回転軸15に付与することができる。
【0052】
第2実施形態では、抗力用コイル550を構成する第1抗力用コイル551と第2抗力用コイル552のうち、第2抗力用コイル552(一部)の巻数が第1抗力用コイル551(他の部分)の巻数よりも多く構成される。これにより、ドア1が閉まる方向に移動すると判断できるときは抗力が大きくなるように巻き数が多い第2抗力用コイル552に電流を流し磁界を強くして粘度を増大させ、ドア1が開く方向に移動するときは相対的に抗力が小さくなるように第1抗力用コイル551に電流を流すことができる。
【0053】
<第3実施形態>
図4は、第3実施形態のドアクローザ5bの構成を模式的に示す図である。図4に示すように、ドアクローザ5bは、GMRセンサ350と、GMR判断回路351と、出力調整回路352と、を備える。なお、発電部55の構成は第2実施形態と同様の構成であり、抗力部50の構成は第1実施形態と同様の構成である。
【0054】
GMRセンサ350は、本体6内部に配置されており、ラック36に固定される磁石37の磁気を検出する磁気検出部である。GMRセンサ350の検出信号はGMR判断回路351に送信される。なお、磁気検出部としては、GMRセンサ350の他にホール素子を用いることもできる。
【0055】
GMR判断回路351は、磁石37とGMRセンサ350の間の距離に応じて変化する検出磁気を取得することにより、磁石37の移動方向、移動速度及び位置を取得する。
【0056】
磁石37の移動方向を検出することによってドア1の開閉方向を判断することができる。磁石37の移動速度によって回転軸15の回転速度、即ちドア1の回転速度を出力電流に反映することができる。また、磁石37の位置によってドア1の位置を取得でき、移動方向と組み合わせることで、ドア1が開き始めの位置にいるか閉じ始めの位置にいるか等も取得することができる。また、磁石37、ラック36、ピニオン35等の発電部55の機構の劣化を検出する機能も有する。
【0057】
出力調整回路352は、GMR判断回路351によって検出された移動速度(ドア1の回転速度)、移動方向及び位置に基づいて出力調整を行う。本実施形態では、回転軸15の回転速度に応じて抗力を調整する。また、ドア1に位置に応じて出力を補正する。
【0058】
以上説明した本実施形態のドアクローザ5bによれば、以下のような効果を奏する。
ドアクローザ5bは、磁気を検出するGMRセンサ350と、GMRセンサ350の検出磁気に基づいて移動速度を取得するとともに移動方向を判定し、移動情報(移動速度、移動方向及び位置等)に基づいて抗力用コイル53に流れる電流の出力を調整する出力調整回路352と、を更に備える。
【0059】
これにより、磁気粘性流体51による抗力がドア1の回転速度に応じて回転軸15に付与されることになる。また、ドア1の位置に応じて適切な抗力を調節することができる。例えば、ドア1の回転速度に応じて電流出力を設定し、ドア1が閉じるときには抗力が相対的に強く働くように電流出力を大きくし、ドア1を開くときは抗力が相対的に弱く働くように出力を調整することもできる。また、温度変化が磁気粘性流体51の粘度に影響を与えている場合でも回転速度に応じて抗力が調節されるので、温度環境を原因とする抗力の変動を効果的に抑制できる。更に、磁石37、ラック36、ピニオン35等の発電部55の機構の劣化を検出し、劣化影響を出力調整に反映させるために、発電部55の劣化等の様々な外乱因子による減衰力低下を補うプログラムを組み込むこともできる。
【0060】
<第4実施形態>
図5は、第4実施形態のドアクローザ5cの構成を模式的に示す図である。図5に示すように、第4実施形態のドアクローザ5cは、温度センサ250と、温度補正回路251と、出力調整回路252と、を備える。
【0061】
温度センサ250は、本体6内部に配置されており、本体6内部の温度を検出する温度検出部である。温度センサ250の検出信号は、温度補正回路251に送信される。
【0062】
温度補正回路251は、温度センサ250の検出温度に基づいて出力調整を行うための補正値を設定する。例えば、温度補正回路251には、テーブル形式で温度と磁気粘性流体51の粘度−温度特性に基づく温度と補正値の関係が記憶されており、温度補正回路251は温度センサ250の検出信号に基づいて補正値を設定し、この補正値に基づく補正信号を出力調整回路252に送信する。
【0063】
出力調整回路252は、発電用コイル38と抗力用コイル53を接続する電気的経路に配置されており、発電用コイル38から送られる電流の出力を調整して抗力用コイル53に送る。出力調整回路252は、温度センサ250の検出信号に基づいて温度補正回路251で設定された補正信号を反映して電流の出力調整を行う。なお、本実施形態の出力調整回路252は、発電用コイル38の電圧極性に基づいて極性を判断する機能を有し、この極性に基づいて電流の出力を調整することが可能になっており、この出力が検出温度によって補正される。
【0064】
以上説明した本実施形態のドアクローザ5cによれば、以下のような効果を奏する。
ドアクローザ5cは、温度を検出する温度センサ250と、温度センサ250の検出温度と磁性流体の粘度の温度特性に基づいて抗力用コイル53に流れる電流の出力を調整する出力調整回路252と、を更に備える。
【0065】
これにより、温度センサ250によって環境温度を検出し、環境温度の影響を考慮したプログラムにより、磁気粘性流体51の粘度の環境温度による減衰力低下を補うことができる。温度変化が大きい場所でもダンパ機能を安定的に発揮させることができる。
【0066】
なお、第4実施形態では、温度検出部として温度センサ250を利用する構成としたが、この構成に限定されない。例えば、ゼーベック素子を温度検出部として利用する構成とすることもできる。
【0067】
以上、本発明の好ましい各実施形態について説明したが、本発明は、上述の実施形態に制限されるものではなく、適宜変更が可能である。
【0068】
上記実施形態では、ドアクローザに本発明を適用する例を説明したが、ドアのヒンジ11に組み込む構成とすることもできる。
【0069】
次に、ヒンジに本発明を適用した第5実施形態について説明する。図6は、第5実施形態のヒンジ610の構成を模式的に示す図である。図6に示すように、第5実施形態のヒンジ610は、上丁番620と、下丁番640と、上丁番620と下丁番640の間に配置される受けリング30と、を備える。
【0070】
上丁番620は、上側プレート21及び上側軸体622を備える。上側軸体622には後述する発電部645及び抗力部660が設けられる。
【0071】
下丁番40は、下側プレート41及び下側軸体642を備える。下丁番640の下側軸体642の上部には回転軸625が固定されており、回転軸625の先端は磁性流体槽665に挿入される。回転軸625の先端には、抵抗部としての撹拌フィン626が形成される。回転軸625が回転すると撹拌フィン626が磁気粘性流体664の粘度に応じた抵抗をうけ、この抵抗力がドア1の回転速度をコントロールする抗力となる。
【0072】
抗力部660は、磁気粘性流体664が充填される磁性流体槽665と、磁性流体槽665の外周に巻き付けられる抗力用コイル670と、を備える。
【0073】
発電部645は、ケース681と、回転軸625の周面に固定される磁石682と、磁石682の周囲に配置される発電用コイル671と、を主要な構成として備える。
【0074】
受けリング30は、上側軸体622の下側の端面と下側軸体642の上側の端面の間に配置されている。回転軸625は、受けリング30中央の貫通孔31を通じて抗力部660に接続されている。下丁番640は、受けリング30を介して上丁番620の重量を受け止めているので、上丁番20の重量によって回転軸625が影響を受け難くなっている。
【0075】
発電部645の詳細な構成について説明する。図7は、第5実施形態の発電部645の分解斜視図である。図7に示すように、ケース681は、上ケース685と、下ケース695と、を備える。上ケース685には、その中央に貫通孔が形成され、貫通孔の周囲に周方向で等間隔に上側爪部686が4箇所形成される。下ケース695には、その中央に貫通孔が形成され、貫通孔の周囲に上側爪部686に対応する下側爪部696が設けられる。
【0076】
発電用コイル671は、ボビン684に巻き付けられた状態でケース681の内部に収容される。従って、発電用コイル671は、ボビン684ごと上ケース685と下ケース695によって上下に挟み込まれた状態となる。
【0077】
図8は、第5実施形態の発電部645の平面図である。図8に示すように、磁石682は、周方向にN極、S極、N極の順に交互に配置される永久磁石によって構成される。磁石682は、その周囲に発電用コイル671が位置するようにケース681の内側に保持される。
【0078】
磁石682は、回転軸625と一体的に回転し、発電用コイル671に磁界の変化による電流が生じる。発電用コイル671で生じた電流はケーブル675を通じて磁性流体槽665の外周に配置される抗力用コイル670に送られる。
【0079】
ケーブル675には、出力調整を行う出力調整部としての出力調整ユニット690が配置される。
【0080】
出力調整ユニット690は、磁石682の回転方向を取得し、この回転方向に基づいて抗力用コイル670に送る電流の出力調整を行う電子部品である。なお、磁石682の回転方向は、例えば、発電用コイル671の電圧(極性)を利用して取得してもよいし、磁気検出部としてのホール素子等を配置してその検出信号から取得する構成としてもよい。
【0081】
抗力用コイル670が通電することによって磁界が生じ、磁気粘性流体664の粘度が大きくなって撹拌フィン626が磁性流体槽665の内部で受ける抵抗力が変化する。第5実施形態の構成においても、ドア1の回転速度及び回転方向に応じた粘性により、ドア1の回転速度を適切にコントロールできるのである。
【0082】
上記実施形態では、何れも戸体を移動体の例として説明したが、所定範囲を回動する窓のヒンジや侵入禁止用のバーの回転機構等、移動体の移動速度を制御する種々のダンパ装置に本発明を適用することができる。
【符号の説明】
【0083】
1 ドア(移動体、戸体)
4 建具
5,5a〜c ドアクローザ(ダンパ装置)
15,625 回転軸
37,682 磁石
38,430,671 発電用コイル
51,664 磁気粘性流体(磁性流体)
53,550,670 抗力用コイル
250 温度センサ(温度検出部)
252,352,452,553 出力調整回路(出力調整部)
350 GMRセンサ(磁気検出部)
610 ヒンジ(ダンパ装置)
690 出力調整ユニット(出力調整部)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8