特許第6576338号(P6576338)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社タンガロイの特許一覧

<>
  • 特許6576338-切削インサート及び刃先交換式切削工具 図000002
  • 特許6576338-切削インサート及び刃先交換式切削工具 図000003
  • 特許6576338-切削インサート及び刃先交換式切削工具 図000004
  • 特許6576338-切削インサート及び刃先交換式切削工具 図000005
  • 特許6576338-切削インサート及び刃先交換式切削工具 図000006
  • 特許6576338-切削インサート及び刃先交換式切削工具 図000007
  • 特許6576338-切削インサート及び刃先交換式切削工具 図000008
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6576338
(24)【登録日】2019年8月30日
(45)【発行日】2019年9月18日
(54)【発明の名称】切削インサート及び刃先交換式切削工具
(51)【国際特許分類】
   B23C 5/20 20060101AFI20190909BHJP
【FI】
   B23C5/20
【請求項の数】6
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2016-525239(P2016-525239)
(86)(22)【出願日】2015年6月4日
(86)【国際出願番号】JP2015066230
(87)【国際公開番号】WO2015186797
(87)【国際公開日】20151210
【審査請求日】2016年3月4日
【審判番号】不服2018-8782(P2018-8782/J1)
【審判請求日】2018年6月27日
(31)【優先権主張番号】特願2014-116426(P2014-116426)
(32)【優先日】2014年6月5日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000221144
【氏名又は名称】株式会社タンガロイ
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】吉田 悟
(72)【発明者】
【氏名】山田 洋介
【合議体】
【審判長】 見目 省二
【審判官】 青木 良憲
【審判官】 栗田 雅弘
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−314301(JP,A)
【文献】 国際公開第2014/021250(WO,A1)
【文献】 特開2013−154466(JP,A)
【文献】 実開昭58−177215(JP,U)
【文献】 特許第4633081(JP,B2)
【文献】 国際公開第2011/111197(WO,A1)
【文献】 特開2010−142948(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23C 5/20
B23C 5/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1端面(2)と、該第1端面(2)と対向する第2端面(3)と、該第1端面(2)と該第2端面(3)とを接続する側面(4)と、を有する切削インサート(1)において、
前記第1端面(2)と前記側面(4)との交差稜線には、主切れ刃(8)と、該主切れ刃(8)の両端に隣接する2つの直線状の副切れ刃(9)と、が少なくとも形成されており、
前記主切れ刃(8)は、一方の前記副切れ刃(9)から離れるにしたがって前記第2端面(3)に近接する第1主切れ刃部分(8a)と、該第1主切れ刃部分(8a)に接続し且つ他方の前記副切れ刃(9)に近づくにしたがって前記第2端面(3)から離れる第2主切れ刃部分(8b)と、から少なくとも構成されており、
前記第1主切れ刃部分(8a)と前記第2主切れ刃部分(8b)との接続部は、2つの前記副切れ刃(9)間の中央点(C)から各々の前記副切れ刃(9)に向かって、前記中央点(C)と前記副切れ刃(9)の間の距離の三分の一以内の領域にあり、
前記第1主切れ刃部分(8a)及び前記第2主切れ刃部分(8b)は、前記第1端面(2)側からみて直線状をなし、かつ、前記側面(4)側からみてU字状をなすことにより、前記第1主切れ刃部分(8a)から前記第2主切れ刃部分(8b)の途中まで切り込む加工が可能に構成され、
前記側面(4)のうち、前記第1主切れ刃部分(8a)及び前記第2主切れ刃部分(8b)と接続する部分は単一の平面であり、
前記主切れ刃(8)に隣接する前記側面(4)には、切削インサート(1)の内方に向かって凹状をなす被拘束部(12)が、前記側面(4)側からみて、等幅に、かつ、両端において、前記側面(4)のうち一方の前記副切れ刃(9)に接続する平面及び他方の前記副切れ刃(9)に接続する平面にそれぞれ接続するように前記主切れ刃(8)全体に対応して形成されている、
ことを特徴とする切削インサート(1)。
【請求項2】
前記第2端面(3)も、前記側面(4)との交差稜線に、主切れ刃(8)と、該主切れ刃(8)の両端に接続する2つの副切れ刃(9)と、が少なくとも形成された構成を有しており、
当該第2端面(3)の側の構成に関し、
前記主切れ刃(8)は、一方の前記副切れ刃(9)から離れるにしたがって前記第1端面(2)に近接する第1主切れ刃部分(8a)と、該第1主切れ刃部分(8a)に接続し且つ他方の前記副切れ刃(9)に近づくにしたがって前記第1端面(2)から離れる第2主切れ刃部分(8b)と、から構成されており、
前記第1主切れ刃部分(8a)と前記第2主切れ刃部分(8b)との接続部は、2つの前記副切れ刃(9)間の中央点(C)から各々の前記副切れ刃(9)に向かって、前記中央点(C)と前記副切れ刃(9)の間の距離の三分の一以内の領域にある、
ことを特徴とする請求項1に記載の切削インサート(1)。
【請求項3】
前記接続部は、前記副切れ刃()間の前記中央点(C)である、
ことを特徴とする請求項1に記載の切削インサート(1)。
【請求項4】
前記第1主切れ刃部分(8a)と前記第2主切れ刃部分(8b)とは、切削インサート(1)の側面視にて、前記中央点(C)を基準として左右対称に形成されている、
ことを特徴とする請求項に記載の切削インサート(1)。
【請求項5】
工具ボデー(21,21’)と、該工具ボデー(21,21’)に形成された少なくとも1つのインサート座(22)と、該インサート座(22)に着脱自在に装着される切削インサートと、から少なくとも構成される刃先交換式切削工具(20,20’)において、
前記切削インサートは、請求項1から4のいずれかに記載の切削インサート(1)であり、
前記インサート座(22)には、工具回転方向前方を向いた底面(221)と、突出している側面部分(222)と、から構成されており、
前記インサート座の前記側面部分(222)は、前記切削インサート(1)の前記被拘束部(12)に当接する、
ことを特徴とする刃先交換式切削工具(20)。
【請求項6】
請求項1に記載の切削インサート(1)を用いて、
前記第1主切れ刃部分(8a)から前記第2主切れ刃部分(8b)の途中まで切り込む加工を行うステップと、
前記加工により生じた切りくずを、前記第1主切れ刃部分(8a)及び前記第2主切れ刃部分(8b)と接続する前記単一の平面の部分に衝突させるステップと、
を含む切削方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、切削インサートと、この切削インサートが着脱自在に装着された刃先交換式切削工具と、に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、刃先交換式切削工具の切削インサートとして、特許文献1に開示されている形状のものが知られている。特許文献1の切削インサートは、側面視にて、切削コーナから離間するにつれて下方に傾斜している主切れ刃部分を有している。左右の両勝手で使用可能な切削インサートとするために、全ての切削コーナから同様の角度で主切れ刃部分が下方に傾斜するように形成されており、それぞれの主切れ刃部分は、切削コーナ間の中間地点において接続し、左右対称のV字状をなしている。したがって、どの切削コーナを使用しても左右両勝手で同様の切削加工を行うこと可能である。このとき、当然ながら、この切削インサートの主切れ刃においては、切削に関与する切削コーナに接続している下り傾斜の主切れ刃部分しか切削に使用されない(すなわち、下り傾斜の主切れ刃部分と、それに接続している上り傾斜の主切れ刃部分とは、同時には切削に使用されない)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2011−104738号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1の切削インサートにおいては、2つの主切れ刃部分をV字状に接続する構成によって次の問題が生じる。切削に関与している主切れ刃部分(すなわち、切削に関与している切削コーナに接続している下り傾斜の主切れ刃部分)によって生成される切りくずは、被削物の材質によってはカールしながら排出され、比較的大きなカール半径となる場合がある。このようにカール半径の大きくなった切りくずは、下り傾斜の主切れ刃部分に接続している上り傾斜の主切れ刃部分(すなわち、切削に使用されていない主切れ刃部分)に隣接している側面に衝突することがある。後に詳述するが、使用されていない主切れ刃部分は上り傾斜となっているので、隣接する側面に切りくずが衝突しやすいのである。切りくずが衝突することによって側面に傷がついたり、切りくずの欠片やその溶着物など付着物が付着したりすることで、側面の面精度が低下する。特許文献1に開示されたような切削インサートの側面は工具ボデーのインサート座と接触する当接面として機能するため、この部分の面精度が低下すると、当該側面をインサート座との当接面としたときに切削インサートの固定性が悪くなってしまい、切削時のがたつきやびびりといった問題が生じやすくなる。
【0005】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、下り傾斜の主切れ刃部分と上り傾斜の主切れ刃部分とが中央領域において接続する構成でありながらも、切りくずの側面擦過による固定性の低下を抑制することができる切削インサート及びそれを備えた刃先交換式切削工具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、第1端面(2)と、該第1端面(2)と対向する第2端面(3)と、該第1端面(2)と該第2端面(3)とを接続する側面(4)と、を有する切削インサート(1)において、前記第1端面(2)と前記側面(4)との交差稜線には、主切れ刃(8)と、該主切れ刃(8)の両端に隣接する2つの副切れ刃(9)と、が少なくとも形成されており、前記主切れ刃(8)は、一方の前記副切れ刃(9)から離れるにしたがって前記第2端面(3)に近接する第1主切れ刃部分(8a)と、該第1主切れ刃部分(8a)に接続し且つ他方の前記副切れ刃(9)に近づくにしたがって前記第2端面(3)から離れる第2主切れ刃部分(8b)と、から少なくとも構成されており、前記第1主切れ刃部分(8a)と前記第2主切れ刃部分(8b)との接続部は、2つの前記副切れ刃(9)間の中央点(C)から各々の前記副切れ刃(9)に向かって、前記中央点(C)と前記副切れ刃(9)の間の距離の三分の一以内の領域にあり、前記第1主切れ刃部分(8a)及び前記第2主切れ刃部分(8b)は、前記第1端面(2)側からみて直線状をなし、前記主切れ刃(8)に隣接する前記側面(4)には、切削インサート(1)の内方に向かって凹状をなす被拘束部(12)が形成されている、切削インサート(1)を提供する。
【0007】
また、本発明は、工具ボデー(21,21’)と、該工具ボデー(21,21’)に形成された少なくとも1つのインサート座(22)と、該インサート座(22)に着脱自在に装着される切削インサートと、から少なくとも構成される刃先交換式切削工具(20,20’)において、前記切削インサートは、上記の切削インサート(1)であり、前記インサート座(22)には、工具回転方向前方を向いた底面(221)と、突出している側面部分(222)と、から構成されており、前記インサート座の前記側面部分(222)は、前記切削インサート(1)の前記被拘束部(12)に当接する、刃先交換式切削工具(20)を提供する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、一方の副切れ刃(9)から離れるにしたがって下り傾斜をなす第1主切れ刃部分(8a)と上り傾斜をなす第2主切れ刃部分(8b)とが中央点(C)の付近の領域において接続する構成を有する主切れ刃(8)を含んだ切削インサートにおいて、側面に凹状の部分(拘束部)を形成し、切削インサート(1)の側面はその部分においてのみ工具ボデー(21)と当接して拘束されるようにしている。そのため、第1主切れ刃部分(8a)が切削に使用されたときに、切りくずが第2主切れ刃部分(8b)につながる側面の領域に衝突することによって側面の面精度が低下したとしても、当該側面の領域が切削インサートの固定に用いられる際に固定性が低下することがない。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の切削インサートの一実施形態の斜視図を示す。
図2図1に示されている切削インサートを、主切れ刃に隣接している側面に対向する方向から見た側面図を示す。
図3図1の切削インサートを用いる本発明の刃先交換式切削工具の一実施形態の斜視図を示す。
図4図3に示されている工具ボデーの側面図を示す。
図5図1の切削インサートが切削加工を行うときに使用される切れ刃について説明する図を示す。
図6図1の切削インサートが切削加工を行うときに発生する切りくずの成長を説明するための図を示す。
図7図1の切削インサートを用いる本発明の刃先交換式切削工具の他の実施形態の斜視図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら詳細に説明する。なお、本明細書において、面その他に関連して使用され得る「上」、「下」、「右」、「左」といった用語は、説明を理解しやするするための便宜的な表現であり、絶対的な位置関係を示すものではない。
【0011】
本実施形態の切削インサート1は、図1及び図2に示されているように、略正方形形状の第1端面(上面)2と、上面2と対向し且つ上面2と略同一形状を有する第2端面(下面)3と、上面2と下面3とを接続する側面4と、から基本的に構成されている。上面2及び下面3の略中央には、上面2と下面3とを貫通するように設けられた取付穴5が設けられている。上面視にて取付穴5の中央を通って上面2及び下面3に垂直に交差するようにして、切削インサート1の中心軸IAが定められる。本実施形態の切削インサート1は、中心軸IAを基準として90°回転対称となる外郭形状を有している。また、側面4は、上面2及び下面3に対して略垂直に交差している。したがって、本実施形態の切削インサート1は、いわゆるネガティブタイプであるが、これに限定されることはない。
【0012】
上面2は、全体的な基本形状としては略正方形形状なのであるが、コーナ領域が面取りされたように切り欠かれた短辺部6をなしている。したがって、上面2は、4つの短辺部6と、短辺部6よりも相対的に長さが長い4つの長辺部7とが交互に接続した形状を有している。しかしながら、上面2の形状はこれに限定されることはなく、他の多角形形状であっても構わない。また、上面2と下面3とは同一の外郭形状であるため、下面3の外郭形状については詳細な説明を省略する。つまり、以後、上面2に関してなされた構成の説明は、全て下面3においても該当するものである。
【0013】
上面2と側面4との交差稜線には、切れ刃が形成されている。切れ刃は、主切れ刃8と、副切れ刃9と、から構成されている。主切れ刃8は上面2の長辺部7と側面4との交差稜線上に形成され、副切れ刃9は上面2の短辺部6と側面4との交差稜線上に形成されている。この切削インサート1が切削に関与するとき、主切れ刃8は被削材加工面の側壁面を切削する機能を有する。一方、副切れ刃9は被削材加工面の底壁面を切削する機能を有する。本実施形態では、切削インサート1の上面視にて、上面2が略正方形の形状であって、1つのコーナを挟む2つの主切れ刃8がなす角度は90゜であるので、主切れ刃8と副切れ刃9とは、約135°の内角で交差する位置関係にあるが、本発明はこれに限定されることはない。
【0014】
ここで、図2に示されているように、切削インサート1の側面視にて、上面2と下面3と間の中間地点において中心軸IAと垂直に交差する仮想線で表される仮想平面を、平面Mと規定する。側面視において、副切れ刃9は、平面Mと平行に形成され、且つ平面Mから最も離れた位置に配置されている。副切れ刃9に接続している主切れ刃8は、副切れ刃9から離間するにつれて平面Mに近接し、隣接する副切れ刃8間の中央地点にある中央点Cにおいて平面Mと最接近するように形成されている。本実施形態では、主切れ刃8は直線状ではなく凹曲線状に傾斜をしているので、全体としてはなだらかなU字状の形状を有している。また、主切れ刃8は、側面視にて中央点Cを通過し且つ中心軸IAと平行な基準線を中心として左右対称形状となるように形成されている。また、上面2及び下面3は、平面Mを基準として180°対称形状となるように形成されている。したがって、本実施形態の切削インサート1は、裏返して切削工具のボデーに取り付けても使用可能なものである。
【0015】
上面2には、各切れ刃8,9から切削インサート1の内方(すなわち、中心軸IAに向かって)進むにつれて平面Mに近接するような傾斜部10と、その傾斜部10に接続し且つ平面Mに対して平行な平坦面11と、が形成されている。本実施形態の切削インサート1は、上面2及び下面3の両方に切れ刃8,9が形成されている、裏返しての使用が可能なものであるため、平坦面11は工具ボデー21(図3)と接触する着座面としても機能する。
【0016】
ここで、隣接する副切れ刃9間に配置されている主切れ刃8において、一方の副切れ刃9側から中央点Cまでの部分を第1主切れ刃部分8aとし、他方の副切れ刃9側から中央点Cまでの部分を第2主切れ刃部分8bとする。本実施形態においては、切削インサート1が切削加工に使用されるときに、切削工具を工作機械と接続する基端側から見て切削工具が時計方向に回転する右勝手の場合(図3)は第1主切れ刃部分8aと副切れ刃9とが1つの組として、一方回転方向が反時計方向となる左勝手の場合(図7)は第2主切れ刃部分8bと副切れ刃9とが1つの組として、切削に関与する。そのため、本実施形態の切削インサート1においては、左右いずれの勝手においても、副切れ刃9から離れるにつれ下るような傾斜が付与された同形状の切れ刃によって同様の切削加工を行うことが可能である。そのため、左右両勝手で使用可能でありながらも切削抵抗を十分に低減させることが可能である。本実施形態では、第1主切れ刃部分8aと副切れ刃9とがなす組が上下面合わせて8組あり、第2主切れ刃部分8bと副切れ刃9とがなす組が上下面合わせて8組ある。すなわち、右勝手で8回切削を行うことができ、左勝手でも8回切削を行うことができるのである。しかし本発明はこれに限定されることはなく、使用可能な切れ刃の数については適宜変更することが可能である。また、第1主切れ刃部分8a及び第2主切れ刃部分8bは、直線又は曲線のいずれか又は両方を組み合わせた形状であってよい。
【0017】
側面4には、図2に示されているように、切削インサート1の側面視にて、上面2と下面3との中間の領域において、切削インサート1の内方に向かって凹状に陥没した被拘束部12が形成されている。被拘束部12は、工具ボデー21と当接する側面4の部分である。本実施形態において、被拘束部12は、上面2側から下面3側に向かって切削インサート1の内方へと傾斜する第1平面12aと、下面3側から上面2側に向かって切削インサート1の内方へと傾斜する第2平面12bと、が接続した形状を有している。第1平面12a及び第2端面12bは、前述した平面Mを基準として対称となるように形成されている。この被拘束部12は、切削インサート1の側面視にて、上面2の主切れ刃8と下面3の主切れ刃8との間にそれぞれ設けられている。また、第1平面12aと上面2との間及び第2平面12bと下面3との間には、それぞれ一定の間隔Gが設けられている。本実施形態の切削インサート1に設けられている被拘束部12の数は、上面2および下面3の略正方形の各長辺につながる側面部分の数に対応して4つであるが、当然ながら、上面2および下面3に採用される基本形状に応じてこれは適宜変更可能である。
【0018】
被拘束部12の形状は上述したものに限定されることはなく、凹状の被拘束部12としての所期の目的を達成することが可能な他の形状であっても構わない。凹状でありさえすれば、単一の平面ではなく、例えば複数の平面の組み合わせから構成されていてもよい。また、曲面から構成されていてもよいし、平面と曲面とを組み合わせた形状であってもよい。さらに、第1平面12aと第2平面12bとの間に明確な間隔Gが現れるものでなくてもよく、両者が滑らかにつながっているものでもよい。
【0019】
切削インサート1は、超硬合金、サーメット、セラミック、又はダイヤモンドあるいは立方晶窒化硼素を含有する超高圧焼結体、又はそれらをコーティングしたものといった硬質材料から作製されることができる。
【0020】
次に、本実施形態の切削インサート1を装着した刃先交換式切削工具20について説明する。
【0021】
上記実施形態の切削インサート1を使用する刃先交換式切削工具20の一実施形態は、図3に示されているように、回転中心軸TAを有する正面フライスの右勝手の工具ボデー21に、第1主切れ刃部分8aが切削に関与するようにして複数の切削インサート1が装着されてなる。切削インサート1は、工具ボデー21の先端側に装着されており、工具ボデー21の基端側は工作機械と接続する。工具ボデー21は、図3および図4に示されているように、外周面の工具先端側に開口するように複数のインサート座22と、それと対応する切りくずポケット23と、が形成されている。インサート座22は切削インサート1を固定する部位であり、切りくずポケット23は切削加工において発生した切りくずを排出するための空間である。
【0022】
全てのインサート座22は、図4に示されているように、工具回転方向前方を向いた底面221と、突出している側面部分222と、から構成されている。切削インサート1をインサート座22に装着したとき、底面221は切削インサート1の上面2又は下面3と当接し、側面部分222は切削インサート1の被拘束部12と当接する。底面221の中央部には切削インサート1を例えば固定ねじによって取り付けるねじ穴24が設けられている。側面部分222は、底面221に対向する方向から見たときに、工具中心軸TA側に位置している第1側面部分222aと、工具外周側に位置している第2側面部分222bと、を有する。第1側面部分222aは工具外周方向及び工具先端方向を向いており、第2側面部分222bは工具中心軸TA方向及び工具先端方向を向いている。また、本実施形態においては、第1側面部分222aと第2側面部分222bとは、底面221に対向する方向から見たときに、各々を含む平面同士が約90°の角度で交わるように配置されている。これは、本実施形態の切削インサート1が、端面視した場合において略正方形であることによる。すなわち、切削に関与している第1主切れ刃部分8aにつながる副切れ刃9の対角線上にある副切れ刃を、図3において符号9aで示すとき、その副切れ刃9aを挟んだ2つの主切れ刃8に接続する2つの側面部分ないしは被拘束部12同士が90゜をなしているためである。しかしこれに限定されることはなく、端面の基本形状に応じて第1側面部分222aと第2側面部分222bとのなす角度は適宜定め得ることは勿論である。
【0023】
切削インサート1をインサート座22に装着したとき、インサート座22の第1側面部分222a及び第2側面部分222bと、切削インサート1の側面4に設けられた隣接する2つの被拘束部12と、が当接する。本実施形態の刃先交換式切削工具20においては、インサート座22の第1側面部分222aは被拘束部12の第1平面12aとのみ当接し、インサート座22の第2側面部分222bは被拘束部12の第2平面12bとのみ当接するように構成されている。しかしながら、インサート座22の第1側面部分222a及び第2側面部分222bと被拘束部12の第1平面12a及び第2平面12bとの当接関係はこれに限定されることはなく、必要に応じて様々な組み合わせを採用してもよい。また、インサート座22の側面部分222の突出形状と切削インサート1の被拘束部12の凹形状とは、両者の当接に応じて切削インサート1が適切に拘束される相補的形状をなす部分を有するものであればよい。
【0024】
固定ねじを外して切削インサート1を回転させることによって、インサート座22の側面部分222と当接する被拘束部12を変えることができる。インサート座22の側面部分222と当接する被拘束部12が変わることによって、切削に関与する切れ刃8,9も変わる。これによって、切削に関与する切れ刃8,9を順に割り出すことが可能になる。また、前述したように本実施形態の切削インサート1は右左いずれの勝手においても使用することが可能である。
【0025】
次に、本実施形態の切削インサート1及びそれを装着した刃先交換式切削工具20の作用及び効果について説明する。
【0026】
本実施形態の切削インサート1の主切れ刃9は、隣接する副切れ刃9のうち一方の副切れ刃9に接続する第1主切れ刃部分8aと、他方の副切れ刃9に接続する第2主切れ刃部分8bと、からなり、それぞれが各副切れ刃9から離れるにしたがい平面Mに近接するように傾斜し、副切れ刃9間の中央点Cにて接続する形状を有している。そして、主切れ刃8に隣接する側面4には凹状の被拘束部12が形成されている。このような構成によって、次の効果を得ることができる。
【0027】
例えば、図5に示されているように、図3の刃先交換式切削工具20の構成に関連して切削に使用される第1主切れ刃部分および一方の副切れ刃をそれぞれ符号8a’および9’であらわし、切削に使用されない第2主切れ刃部分およびそれにつながる側面部分をそれぞれ符号8b'および4'であらわすとき、第1主切れ刃部分8a’によって比較的に大きなカール半径の切りくずが生成された場合、その切りくずは第2主切れ刃部分8b’に隣接する側面部分4’に衝突しやすい。なぜなら、そもそもカール半径が大きいために、図6に矢印で示すように、切りくずは、側面部分4’側に回り込むように螺旋状に伸びる(成長する)傾向があるからである。それと同時に、中心点Cから離れるにつれて平面Mから離れる方向の傾斜が、すなわち、切りくずの先端が側面4を避けるように伸びてゆくのを許容する方向の傾斜ではなく、突き当たる領域を増大する方向の傾斜(上り傾斜)が設けられている第2主切れ刃部分2b’が、他方の副切れ刃まで広い領域にわたって存在している。したがって、大きなカール半径の切りくずの先端が、広い範囲にわたって設けられた「上り傾斜」の側面部分4’に回り込むようにして衝突しやすくなるのである。切りくずの衝突によって傷がついたり、付着物が生じたりすることで側面4’の面精度が低下する。しかしながら本実施形態の構成では、被拘束部12は、上面2と下面3との中間の領域、すなわち主切れ刃8から離れた領域に形成され、且つ切削インサート1の内方に向かって凹陥しているため、切りくずが凹状の被拘束部12の内部まで到達することはほとんどない。そして本実施形態においては、側面4’自体ではなく、凹状の被拘束部12にて工具ボデー21と当接するようにして、切削インサート1が保持される。したがって、切削インサート1の固定性が側面4’の面精度に影響されることがないため、切りくずの衝突に関係なく高い固定性を維持することが可能となる。
【0028】
上述した説明は、第1主切れ刃部分8a’のみが切削に関与する使用態様に関して記載したが、本発明はその使用態様においてのみ有効であるのではない。すなわち、本実施形態の主切れ刃8は全体としてなだらかなU字状の形状を有しているので、第1主切れ刃部分8a’から第2主切れ刃部分8b’の途中まで切り込む加工(すなわち、切り込み量が大きな加工)も可能である。そのような切削インサートの使用態様においても、第2主切れ刃部分8b’の側面部分4’に切りくずが衝突しやすくなるという状況はある程度存在する。そのような使用態様では、第2主切れ刃部分8b’が使用されてしまうので、両勝手の切削インサートとしては使用が難しくなるものの、他の第1主切れ刃部分8aを切削に関与させるに際し、面精度が低下した側面4'がインサート座22の側面部分222aまたは222bの側に面して取り付けられることはあるので、本発明は有効である。
【0029】
また、本実施形態の切削インサート1においては、第1主切れ刃部分8aと第2主切れ刃部分8bとが中央点Cにおいて接続しているが、これに限定されることはない。第1主切れ刃部分8aと第2主切れ刃部分8bの接続点は、中央点Cから各々の副切れ刃9に向かって、中央点Cと副切れ刃9の間の距離の三分の一以内の領域にあればよい。なぜなら、接続点がこの領域にあるときにこそ、上述した切りくずの衝突が生じやすいからである。すなわち、接続点から離れるにつれて平面Mから離れる方向の傾斜が、すなわち、切りくずが側面4を避けるように伸びてゆくのを許容する方向の傾斜ではなく、切りくずが突き当たる領域を増大する方向の傾斜が設けられている第2主切れ刃部分2bが、他方の副切れ刃9まで広い領域にわたって存在しているからである。接続点が三分の一を超えた場合、第2主切れ刃部分8bの領域がかなり小さくなり、切りくずが第2主切れ刃部分8bに隣接する側面4に衝突する可能性が小さくなるので、本発明は接続点が上記領域にある場合に有効である。ただ、切削インサート1を両勝手で切削に使用する上では、接続点は中央点C上にあった方が好ましい。同様の理由により、主切れ刃8は、側面視にて中央点Cを通過し且つ中心軸IAと平行な基準線を中心として左右対称となるように形成されていることが好ましい。
【0030】
上記実施形態の切削インサート1は、図7に示すように、左勝手の工具ボデー21’を有する正面フライスの形態の刃先交換式切削工具20’に取り付けて使用することができ、この場合にも本発明は有効である。つまり、これまで第1主切れ刃部分8aが主に切削に関与する場合(図3)について説明してきたが、当然ながら、第2主切れ刃部分8bが主に切削関与する勝手の場合(図7)においては、逆に第1主切れ刃部分8aに隣接する側面4の領域に切りくずが衝突しやすくなるからである。すなわち本発明は、第2主切れ刃部分8bが主に切削に関与する場合においても、前述したものと同様の効果を得ることができる。
【0031】
なお、上記の刃先交換式切削工具20,20’及び工具ボデー21,21’は正面フライスの形態のものを例示したが、本発明はこれに限定されることはない。すなわち、本発明は、エンドミルやドリルといった他の形状をした回転切削工具やバイトといった旋削工具にも適用することが可能である。
【0032】
以上、本発明の代表的な実施形態について説明したが、本発明は種々の変更が可能であり、本願の請求の範囲によって定義される本発明の精神及び範囲から逸脱しない限り、置換、変更が可能である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7