特許第6576352号(P6576352)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6576352
(24)【登録日】2019年8月30日
(45)【発行日】2019年9月18日
(54)【発明の名称】無線送信局
(51)【国際特許分類】
   H04B 7/0413 20170101AFI20190909BHJP
   H04W 16/28 20090101ALI20190909BHJP
【FI】
   H04B7/0413 310
   H04W16/28 130
【請求項の数】7
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2016-546679(P2016-546679)
(86)(22)【出願日】2015年9月2日
(86)【国際出願番号】JP2015074981
(87)【国際公開番号】WO2016035828
(87)【国際公開日】20160310
【審査請求日】2018年7月11日
(31)【優先権主張番号】特願2014-179444(P2014-179444)
(32)【優先日】2014年9月3日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】392026693
【氏名又は名称】株式会社NTTドコモ
(74)【代理人】
【識別番号】100125689
【弁理士】
【氏名又は名称】大林 章
(74)【代理人】
【識別番号】100128598
【弁理士】
【氏名又は名称】高田 聖一
(74)【代理人】
【識別番号】100121108
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 太朗
(72)【発明者】
【氏名】沈 紀▲ユン▼
(72)【発明者】
【氏名】須山 聡
(72)【発明者】
【氏名】奥村 幸彦
【審査官】 羽岡 さやか
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−104547(JP,A)
【文献】 特表2013−531412(JP,A)
【文献】 特開2010−283480(JP,A)
【文献】 特開2011−259140(JP,A)
【文献】 特開2012−231322(JP,A)
【文献】 特開2012−199920(JP,A)
【文献】 シン キユン他,高周波数帯を用いた超高速Massive MIMO OFDM伝送における平均信号電力補正によるPAPR削減法 ,電子情報通信学会2014年通信ソサイエティ大会 ,2014年 9月 9日,P.335,B-5-64
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04B 7/02−7/10
H04J 99/00
H04W 16/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気信号を電波に変換して電波を放出する複数の送信アンテナ素子と、
前記送信アンテナ素子に供給される電気信号にプリコーディングウェイトを与えることにより、前記送信アンテナ素子から放出される電波のビームの方向を制御するプリコーダと、
前記複数の送信アンテナ素子に供給される電気信号の電力の相違が減縮されるように、少なくとも一部の送信アンテナ素子に供給される電気信号の電力を調整する少なくとも1つの電力調整部と
を備え、
前記電力調整部は、配列された前記複数の送信アンテナ素子のうち、端部に配置された送信アンテナ素子に供給される電気信号の電力を低減させ
ことを特徴とする無線送信局。
【請求項2】
電気信号を電波に変換して電波を放出する複数の送信アンテナ素子と、
前記送信アンテナ素子に供給される電気信号にプリコーディングウェイトを与えることにより、前記送信アンテナ素子から放出される電波のビームの方向を制御するプリコーダと、
前記複数の送信アンテナ素子に供給される電気信号の電力の相違が減縮されるように、少なくとも一部の送信アンテナ素子に供給される電気信号の電力を調整する少なくとも1つの電力調整部と
を備え、
前記電力調整部は、配列された前記複数の送信アンテナ素子のうち、中央に配置された送信アンテナ素子に供給される電気信号の電力を増加させ
ことを特徴とする無線送信局。
【請求項3】
前記電力調整部は、前記少なくとも一部の送信アンテナ素子に供給される電気信号の電力を、あらかじめ設定された調整量だけ調整する
ことを特徴とする請求項1または請求項に記載の無線送信局。
【請求項4】
前記プリコーダは、異なるプリコーディングアルゴリズムから選択されたプリコーディングアルゴリズムを使用して、前記送信アンテナ素子に供給される電気信号にプリコーディングウェイトを与え、
前記電力調整部は、前記プリコーダで使用されるプリコーディングアルゴリズムに応じて、電力の調整量を変更する
ことを特徴とする請求項1からのいずれか1項に記載の無線送信局。
【請求項5】
前記少なくとも一部の送信アンテナ素子に供給される電気信号の電力を測定する測定部をさらに備え、
前記電力調整部は、前記測定部で測定された電力に基づいて、前記少なくとも一部の送信アンテナ素子に供給される電気信号の電力を調整する
ことを特徴とする請求項1または請求項に記載の無線送信局。
【請求項6】
前記電力調整部は、前記測定部で測定された前記少なくとも一部の送信アンテナ素子に供給される電気信号の電力の時間平均または正規化電力の逆数を、前記少なくとも一部の送信アンテナ素子に供給される電気信号の電力に乗算する
ことを特徴とする請求項に記載の無線送信局。
【請求項7】
前記電力調整部での電力の調整結果を無線受信局に通知する
ことを特徴とする請求項1から請求項のいずれか1項に記載の無線送信局。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無線送信局に関する。
【背景技術】
【0002】
無線通信の分野において、無線送信局と無線受信局との双方で複数のアンテナを用いて送受信を実行することにより、信号伝送の高速化および高品質化を実現するMIMO(Multiple-Input and Multiple-Output)伝送方式が活用されている。
【0003】
信号伝送の更なる高速化と干渉低減とを図るために、アンテナの小型化と広い帯域幅の確保とが可能な高周波数帯(例えば、10 GHz以上)において、大量のアンテナ素子(例えば、100素子以上)を使用したMassive MIMO伝送方式が検討されている(例えば、特許文献1)。例えば、UMTS(Universal Mobile Telecommunications System)のLTE−A以降の移動通信システムでは、Massive MIMO伝送方式が検討されている。
【0004】
Massive MIMOにおいては、従来のMIMOと比較して、大量のアンテナ素子を用いた高度なプリコーディング(precoding)を実施可能である。この明細書において、プリコーディングは、ビームフォーミング(Beam Forming)を行うとともに、空間的に分離した複数のストリームを送信するために、アンテナ素子に供給される電気信号にウェイト(重み付け係数)を与えることにより、電気信号の位相および振幅を調整し、アンテナ素子から放出される電波のビームの方向を制御する技術である。ビームフォーミングは、複数のアンテナ素子を制御することによりビームの指向性および形状を制御する技術である。MIMOでは、各アンテナ素子について位相および振幅の制御が可能であるので、使用されるアンテナ素子の数が多いほどビーム制御の自由度が高まる。プリコーディングのためのウェイト(プリコーディングウェイト)は、無線送信局と無線受信局の間の伝送路のチャネル状態情報(CSI)に基づいて選択される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2013−232741号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
Massive MIMOに限らず、MIMOにおいては、無線送信局が複数のストリームを送信するためにプリコーディングを行うので、複数の送信アンテナ素子のうち特定の送信アンテナ素子に供給される電気信号の電力が、他の送信アンテナ素子に供給される電気信号の電力よりも極めて高い。プリコーディングの結果、各送信アンテナ素子に供給される電気信号の電力は、送信アンテナ素子全体の配列、使用されるプリコーディングアルゴリズム、その送信アンテナ素子の位置、およびビームの送信方向に依存すると考えられる。
【0007】
したがって、MIMO、特にMassive MIMOにおいては、信号のピーク対平均電力比(PAPR)が高くなる。ここでのPAPRは、ある送信アンテナ素子に供給される最大の電力の、すべての送信アンテナ素子に供給される電力の平均に対する比率である。一般に、無線送信局では、複数の送信アンテナ素子に供給される電気信号の電力は、複数の電力増幅器でそれぞれ増幅される。電力増幅器は、入力と出力の線形性が維持される範囲があり、高い電力が供給されると、出力される信号に非線形歪みが生じ、このため通信品質が低下する。また、非線形歪みに起因して、所望の周波数とは異なる周波数成分が発生し、そのような周波数で電波が送信されることにより、他の機器または他のシステムへの干渉が増加する。
【0008】
従来、OFDM(Orthogonal Frequency-division Multiplexing)におけるPAPRの低減方式の研究が行われている。しかし、OFDMでは、特定のサブキャリアに対する電力が他のサブキャリアに対する電力より高いことに起因してPAPRが高くなる。MIMOでは、複数の電気信号が同じアンテナで合成されることが問題なのであり、OFDMでのPAPRの低減方式は、役に立ったとしても効果は限定的である。
【0009】
そこで、本発明は、複数の送信アンテナ素子に供給される電気信号の電力の相違が減縮される無線送信局を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る無線送信局は、電気信号を電波に変換して電波を放出する複数の送信アンテナ素子と、前記送信アンテナ素子に供給される電気信号にプリコーディングウェイトを与えることにより、前記送信アンテナ素子から放出される電波のビームの方向を制御するプリコーダと、前記複数の送信アンテナ素子に供給される電気信号の電力の相違が減縮されるように、少なくとも一部の送信アンテナ素子に供給される電気信号の電力を調整する少なくとも1つの電力調整部とを備える。
【発明の効果】
【0011】
本発明においては、複数の送信アンテナ素子に供給される電気信号の電力の相違が減縮される。したがって、送信アンテナ素子に供給される電気信号の電力が電力増幅器で増幅される場合でも、電力増幅器から出力される信号の非線形歪みを低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】Massive MIMOの概要を説明するための図である。
図2】Massive MIMOのビームフォーミングの効果を説明するための図である。
図3】Massive MIMOのビームフォーミングで形成されるビームの形状を説明するための図である。
図4】Massive MIMOが使用されるスモールセル基地局が配置されるヘトロジニアスネットワークを示す概略図である。
図5】本発明の第1の実施の形態に係る無線送信局と無線受信局の構成を示すブロック図である。
図6】第1の実施の形態の無線送信局のMassive MIMOの送信アンテナセットを示す斜視図である。
図7】電力調整部を有しない無線送信局が固有モードプリコーディングによって電波を放出する場合の送信電力の分布を調査したシミュレーション結果を示すグラフである。
図8】電力調整部を有しない無線送信局がゼロフォーシングによって電波を放出する場合の送信電力の分布を調査したシミュレーション結果を示すグラフである。
図9】電力調整部を有しない無線送信局がチャネル行列のエルミート転置をプリコーディング行列として使うプリコーディングアルゴリズムによって電波を放出する場合の送信電力の分布を調査したシミュレーション結果を示すグラフである。
図10】第1の実施の形態に係る電力調整を説明するための図である。
図11】第1の実施の形態の無線送信局の変形を示すブロック図である。
図12】本発明の第2の実施の形態の無線送信局を示すブロック図である。
図13】第2の実施の形態に係る無線送信局が電波を放出する場合の送信電力の分布を調査したシミュレーション結果を示すグラフである。
図14】本発明の第3の実施の形態の無線送信局を示すブロック図である。
図15】本発明の無線送信局となりうるグループモビリティ中継局の用途を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、添付の図面を参照しながら本発明に係る様々な実施の形態を説明する。
Massive MIMO
本発明の実施の形態に係るMassive MIMO伝送方式について説明する。多数の送信アンテナを用いて無線通信を実行するMassive MIMOにおいては、多数ストリームの多重化によって高い無線通信速度(データレート)が実現される。また、ビームフォーミングを行う際のアンテナ制御の自由度が高まるため、従来よりも高度なビームフォーミングが実現される。そのため、干渉量の低減および無線リソースの有効利用が実現される。Massive MIMOに適応した無線送信局が備える送信アンテナの数は、限定されないが、例えば32本以上であり、100本以上、1000本以上のこともある。
【0014】
Massive MIMOでは、高周波数帯(例えば、10 GHz以上の周波数帯)を効果的に使用することができる。高周波数帯では、低周波数帯と比較して、高速通信に帰結する広い帯域幅(例えば、200 MHz以上)の無線リソースを確保しやすい。また、送信アンテナの大きさは信号の波長に比例することから、無線信号の波長が短い高周波数帯を用いる場合には、送信アンテナをより小型化することが可能である。一方、周波数が高いほど伝搬損失が増大するため、仮に同じ送信電力で基地局から無線信号を送信しても、高周波数帯を用いた場合には、低周波数帯を用いる場合と比較して、移動局における受信信号強度が低下する結果となる。しかしながら、高周波数帯を用いることによる受信信号強度の低下は、Massive MIMOのビームフォーミング利得により補償可能である。
【0015】
図1は、周波数に応じたビーム(無線信号)の到達範囲を模式的に示す図である。従来の基地局1(例えば、マクロセル基地局)は、低周波数帯を用いて無線通信を行うので、Massive MIMOを実施せずに幅の広い放射パターンのビームを用いても遠くまでビームを到達させることができる。他方、高周波数帯を使用する基地局2は、Massive MIMOを実施せずに幅の広い放射パターンのビーム2Aを用いる場合には、遠くまでビームを到達させることができない。しかし、基地局2がMassive MIMOのビームフォーミングを利用し、これによって細い放射パターンのビーム2Bを放出する場合には、より遠くまでビームを到達させることができる。
【0016】
ビームフォーミングは、複数のアンテナについて、電波の振幅および位相を制御することによって、電波のビームに指向性を与える技術である。図2に示すように、各アンテナに送信信号sが単に供給される場合には、これらのアンテナから放射されるビーム2Aの幅は広く、遠くまでビームは到達しない。他方、各アンテナに供給される送信信号sに適切なプリコーディングウェイトw〜w(nはアンテナ数)を与えることにより、幅が狭い1以上のビーム2B1,2B2がこれらのアンテナから放射され、ビーム2B1,2B2はより遠くまで到達する。同時かつ同じ周波数を使用し、複数の無線受信局の各々に、1つ以上の送信ビームを向けることも可能である。アンテナ数が多いほど、ビーム数を増加させ、ビームの幅を狭くし、ビームの方向を精度より制御することができる。ビームの幅が狭いほど、高い利得が得られる(すなわち無線受信局では高い電力で信号を受信することができる)。
【0017】
図3に示すように、ビームフォーミングで形成されるビーム2Bの形状は、アンテナの配列により制約される。図3では、紙面に対して平行なビーム2Bの断面を示すが、実際のビーム2Bの形状は当然、立体的である。横方向一列にアンテナが配列される場合には、縦方向に長く横方向に短い断面を持つビーム2Bが形成され、縦方向一列にアンテナが配列される場合には、横方向に長く縦方向に短い断面を持つビーム2Bが形成される。縦横ともに複数列にアンテナが配列される場合には、縦横に狭いビーム2Bが形成されうる。
【0018】
ビームフォーミングは無線送信局で送信ビームを形成するために使われるだけではなく、無線受信局において受信アンテナで受信した信号にウェイトを与えることにより受信ビームを形成するためにも使われる。無線送信局でのビームフォーミングを送信ビームフォーミングと呼び、無線受信局でのビームフォーミングを受信ビームフォーミングと呼ぶ。
【0019】
ヘテロジニアスネットワーク
図4は、Massive MIMOが使用される基地局の配置の例を示す。図4に示す無線通信ネットワークは、マクロセル基地局10、中央制御局(MME(Mobility Management Entity))12およびスモールセル基地局20を備える。マクロセル基地局10およびスモールセル基地局20は、ユーザ装置(移動局、UE(User Equipment))30と通信する。図4では、1つのユーザ装置30のみが図示されているが、各基地局は多数のユーザ装置30と通信する。
【0020】
マクロセル基地局10は、Massive MIMOを使用しないが、低周波数帯(例えば、2 GHz帯)を使用し、そこから放出された電波は遠くまで到達する。図4において、符号10Aはマクロセル基地局10のマクロセルエリアを示す。マクロセル基地局10は広いカバレッジを有するので、ユーザ装置30と安定的に接続する。
【0021】
スモールセル基地局20は、高周波数帯(例えば、10 GHz帯)を使用する。スモールセル基地局20はMassive MIMOを使用するが、そこから放出された電波の到達範囲(スモールセル基地局20のスモールセルエリア20A)は、マクロセルエリア10Aより小さい。そのため、スモールセル基地局20とユーザ装置30は見通し線(line-of-sight)で接続される可能性が高く、その場合には、スモールセル基地局20とユーザ装置30の間の無線チャネルでは周波数選択性が小さいであろう。スモールセル基地局20は、広い帯域幅(例えば、200 MHz以上)を使用し、高速通信に適する。
【0022】
スモールセルエリア20Aがマクロセルエリア10Aに重なるように、スモールセル基地局20は配置される。スモールセルエリア20Aに入ったユーザ装置30はスモールセル基地局20と通信する。典型的には、スモールセル基地局20は多くのユーザ装置30が存在しトラフィック量が多いと予測されるホットスポットに配置されるであろう。図4では、1つのスモールセル基地局20のみが図示されているが、マクロセルエリア10Aには多数のスモールセル基地局20を配置することができる。このように、図示のネットワークは、カバレッジが異なる異種の基地局を有するヘテロジニアスネットワークである。
【0023】
ユーザ装置30は、複数の基地局と同時に通信するMultiple Connectivityをサポートする機能を有する。典型的には、スモールセルエリア20Aに入ったユーザ装置30に対して、スモールセル基地局20は広い帯域幅による高速という長所を活用したデータ通信を行う一方、マクロセル基地局10はユーザ装置30との接続を維持したまま、ユーザ装置30に制御信号を送信し、ユーザ装置30からスモールセル基地局20との接続に必要な信号を受信する。この場合、マクロセル基地局10は、ユーザ装置30の無線通信ネットワークへの接続およびユーザ装置30のモビリティを維持する役割を果たす。つまり、スモールセル基地局20はUプレーン(user plane)を担当し、マクロセル基地局10はCプレーン(control plane)を担当する。スモールセル基地局20は、ユーザ装置30とデータ通信を行うだけでなく、データ通信に必要ないくつかの制御信号もユーザ装置30と交換してもよい。マクロセル基地局10とスモールセル基地局20は、上位レベルの制御情報を共有する。
【0024】
マクロセル基地局10は、スモールセルエリア20Aに入ったユーザ装置30がスモールセル基地局20と通信するために必要な情報(サイドインフォメーション)をスモールセル基地局20に供給する。このようなマクロセル基地局10によるユーザ装置30とスモールセル基地局20の通信の支援をマクロアシストまたはネットワークアシストと呼ぶ。図4の例では、スモールセル基地局20とマクロセル基地局10は中央制御局12に接続されており、中央制御局12が両者の間の情報を中継する。但し、スモールセル基地局20とマクロセル基地局10は直接接続されていてもよい。
【0025】
このネットワークでは、下りリンクの無線通信にはOFDMA(Orthogonal Frequency Division Multiple Access)が使用され、上りリンクの無線通信にはSC−FDMA(Single Carrier-Frequency Division Multiple Access)が使用される。スモールセル基地局20の下りリンクの無線通信は、OFDMAの多重の利益に加え、MIMOの空間多重の利益を享受する。
【0026】
図4の例では、マクロセル基地局10とスモールセル基地局20は同じ無線アクセス技術(RAT(Radio Access Technology))を使用する。例えば、マクロセル基地局10とスモールセル基地局20はLTE−Aまたはそれ以降の3GPP(Third Generation Partnership Project)の規格に準拠した通信を行ってもよい。しかし、マクロセル基地局10とスモールセル基地局20は、異なるRATを使用してもよい。例えば、マクロセル基地局10とスモールセル基地局20のいずれかが、WiFi(登録商標)などの無線LANの規格に準拠した通信を行ってもよい。
【0027】
以下、スモールセル基地局20が無線送信局であり、ユーザ装置30が無線受信局である例をとって、本発明に係る実施の形態を説明する。但し、本発明に係る無線送信局は、スモールセル基地局20に限らず、複数の送信アンテナとこれらの送信アンテナから放出される電波のビームの方向を制御する機構を有する他の通信装置であってもよい。
【0028】
第1の実施の形態
図5は、本発明の第1の実施の形態に係る無線送信局と無線受信局の構成を示すブロック図である。図5に示すように、無線送信局は、プリコーダ(precoder)40、N個の逆高速フーリエ変換器42、N個のガードインターバル(GI)付与器44、N個の電力調整部46、N個の電力増幅器48、およびN個の送信アンテナ素子50を備える。
【0029】
送信アンテナ素子50はMassive MIMOの送信アンテナセット51を構成する。プリコーダ40は、データ信号のM本のストリームに、プリコーディングウェイトを与え、N個の電気信号を生成する。このように、電気信号にプリコーディングウェイトを与えることにより、送信アンテナ素子50から放出される電波のビームの方向が制御される。N個の電気信号は、逆高速フーリエ変換器42で逆高速フーリエ変換され、GI付与器44によりガードインターバルを付与されて、電力調整部46に供給される。
【0030】
電力調整部46は、N個の送信アンテナ素子50に供給される電気信号の電力(N個の電力増幅器48に供給される電気信号の電力)の相違が減縮されるように、少なくとも一部の送信アンテナ素子50に供給される電気信号の電力(電力増幅器48に供給される電気信号の電力)を調整する。図5では、N個の電力調整部46が示されているが、電力調整部46は、電力調整される電気信号の数と同じ数、設けてもよい。電力増幅器48は一定の増幅率で電気信号を増幅する。これらの電力増幅器48は同じ性能を有する。
【0031】
プリコーダ40は、フルデジタルタイプ(full digital type)であってもよいし、ハイブリッドタイプ(hybrid type)であってもよい。フルデジタルタイプのプリコーダ40は、すべての送信アンテナ素子50の各々のために、プリコーディングのためのデジタル回路を有する。ハイブリッドタイプのプリコーダ40は、デジタル回路と、アナログの位相回転素子を有しており、位相回転素子でビームの方向をおおまかに制御する一方、デジタル回路でビームの方向を詳細に制御する。
【0032】
無線送信局の送信アンテナ素子50から放出された電波は、Hで示された伝搬路を通って、無線受信局の受信アンテナ素子62に受信される。
【0033】
無線受信局は、N個の受信アンテナ素子62、N個のガードインターバル(GI)除去器64、N個の高速フーリエ変換器66、およびポストコーダ68を備える。
【0034】
受信アンテナ素子62で受信された電波に由来する電気信号は、ガードインターバル(GI)除去器64によりガードインターバルが除去されて、高速フーリエ変換器66で高速フーリエ変換され、ポストコーダ68に供給される。ポストコーダ68は、N個の電気信号にポストコーディング行列を与え、データ信号のM本のストリームを再生する。
【0035】
各サブキャリアにおけるポストコーディング後の受信信号ベクトル
【数1】
は、下記の式(1)で表すことができる。
【数2】
【0036】
ここで、
【数3】
は、M×Nのプリコーディング行列であり、
【数4】
は、N×Nのチャネル行列であり、
【数5】
は、N×Mのポストコーディング行列であり、
【数6】
は、送信信号ベクトルであり、
【数7】
は、無線受信局の熱雑音に起因する雑音ベクトルである。
【0037】
無線受信局は、式(1)を利用した公知の手法でデータ信号のM本のストリームを再生する。
【0038】
無線送信局のプリコーダ40でプリコーディング行列を与えるためのアルゴリズム(プリコーディングアルゴリズム)には、例えば、固有モードプリコーディング(eigenmode precoding)、ゼロフォーシング(Zero Forcing(ZF))、チャネル行列のエルミート転置(Hermitian transpose)をプリコーディング行列として使う方法、および非線形ビームフォーミング(nonlinear beam forming)などがある。これらのアルゴリズムは公知であり、詳しくは説明しない。
【0039】
図6は、この実施の形態の無線送信局のMassive MIMOの送信アンテナセット51を示す斜視図である。図6に示すように、この送信アンテナセット51は、横方向(x方向)に16個、縦方向(y方向)に16個の正方形一様平面アレーであって、256個の送信アンテナ素子50を有する。アンテナ素子50の横方向の間隔Δxは使用される波長の半分であり、縦方向の間隔Δzも使用される波長の半分である。
【0040】
Massive MIMOに限らず、MIMOにおいては、無線送信局が複数のストリームを送信するためにプリコーディングを行うので、複数の送信アンテナ素子のうち特定の送信アンテナ素子に供給される電気信号の電力が、他の送信アンテナ素子に供給される電気信号の電力よりも極めて高い。プリコーディングの結果、各送信アンテナ素子に供給される電気信号の電力は、送信アンテナ素子全体の配列、使用されるプリコーディングアルゴリズム、その送信アンテナ素子の位置、およびビームの送信方向に依存すると考えられる。
【0041】
図7は、電力調整部46を有しない無線送信局が固有モードプリコーディングによって電波を放出する場合の送信電力の分布を調査したシミュレーション結果を示すグラフである。シミュレーションにおいては、図6に示す送信アンテナセットによって、送信アンテナセットがなす平面に対して90°の角度で16ストリームを放出すると想定し、仲上・ライス分布のフェージング(K = 10 dB、Kはライス係数である)を有する伝搬路を想定し、各送信アンテナ素子50に供給される電気信号の電力の時間平均値を計算した。
【0042】
図7から明らかなように、送信アンテナセットの中央に配置された送信アンテナ素子50での電力が低いのに対して、送信アンテナセットの端部に配置された送信アンテナ素子50での電力が顕著に高い。特に、送信アンテナセットの四隅に配置された送信アンテナ素子50での電力は極めて高い。
【0043】
図8は、電力調整部46を有しない無線送信局がゼロフォーシングによって電波を放出する場合の送信電力の分布を調査したシミュレーション結果を示すグラフである。シミュレーションにおいては、図6に示す送信アンテナセットによって、送信アンテナセットがなす平面に対して90°の角度で16ストリームを放出すると想定し、仲上・ライス分布のフェージング(K = 10 dB)を有する伝搬路を想定し、各送信アンテナ素子50に供給される電気信号の電力の時間平均値を計算した。
【0044】
図8から明らかなように、送信アンテナセットの中央に配置された送信アンテナ素子50での電力が低いのに対して、送信アンテナセットの端部に配置された送信アンテナ素子50での電力が顕著に高い。特に、送信アンテナセットの四隅に配置された送信アンテナ素子50での電力は極めて高い。ゼロフォーシングでは、固有モードプリコーディングに比べて、端部での電力が高く、ダイナミックレンジがより上昇する。
【0045】
図9は、電力調整部46を有しない無線送信局がチャネル行列のエルミート転置をプリコーディング行列として使うプリコーディングアルゴリズムによって電波を放出する場合の送信電力の分布を調査したシミュレーション結果を示すグラフである。シミュレーションにおいては、図6に示す送信アンテナセットによって、送信アンテナセットがなす平面に対して90°の角度で16ストリームを放出すると想定し、仲上・ライス分布のフェージング(K = 10 dB)を有する伝搬路を想定し、各送信アンテナ素子50に供給される電気信号の電力の時間平均値を計算した。但し、このプリコーディングアルゴリズムでは、ストリームの角度は90°に限定される。図9から明らかなように、この場合には、電力の分布はかなり平坦であり、ダイナミックレンジが小さい。
【0046】
図7図9のシミュレーション結果から、送信アンテナ素子50に供給される電気信号の電力の相違を減縮する電力調整部46を設ける場合には、下記のように電力を調整することが好ましいと理解される。
・ 無線送信局で固有モードプリコーディングまたはゼロフォーシングを使用する場合には、送信アンテナセット51の端部に配置された送信アンテナ素子50に供給される電気信号の電力を減衰させるべきである。特に、送信アンテナセット51の四隅に配置された送信アンテナ素子50(図10の送信アンテナ素子50C)に供給される電気信号の電力を、四隅以外の端部に配置された送信アンテナ素子50(図10の送信アンテナ素子50E)に供給される電気信号の電力よりもさらに減衰させるべきである。図10において、送信アンテナ素子50Eは、送信アンテナセット51の4つの端部にそれぞれ1列にあるであるが、2列でもよい。
・ これに代えてまたはこれに加えて、無線送信局で固有モードプリコーディングまたはゼロフォーシングを使用する場合には、送信アンテナセット51の中央に配置された送信アンテナ素子50に供給される電気信号の電力を増加させるべきである。
・ 無線送信局で使用されるプリコーディングアルゴリズムによって、電力調整を行うべきか否かを決定すべきである。
・ 無線送信局で使用されるプリコーディングアルゴリズムによって、電力調整の程度を決定すべきである。
・ 無線送信局で1つのプリコーディングアルゴリズムしか使用しないのであれば、電力調整の程度は固定でもよい。
・ 無線送信局でチャネル行列のエルミート転置をプリコーディング行列として使うプリコーディングアルゴリズムしか使用しないのであれば、電力調整はしなくてよいかもしれない。但し、この場合も電力調整を行ってもよい。
・電力調整の手段の詳細については後述するが、さらに従来のOFDMにおけるPAPR低減手段を用いてもよい。この場合、PAPR低減に用いるパラメータとして、プリコーディングアルゴリズムやアンテナ素子の情報を用いてもよい。
【0047】
図5に示す各電力調整部46の最も簡単な構成は、減衰率が固定の減衰器または増幅率が固定の増幅器である。無線送信局で1つのプリコーディングアルゴリズム(例えば、固有モードプリコーディングまたはゼロフォーシング)しか使わないのであれば、減衰率または増幅率は固定でよい。すなわち、電力調整部46は、送信アンテナ素子50に供給される電気信号の電力(電力増幅器48に供給される電気信号の電力)を、あらかじめ設定された調整量だけ調整すればよい。使用されるプリコーディングアルゴリズムに対して、複数の送信アンテナ素子50に供給される電気信号の電力の相違が減縮されるように(好ましくは電力の時間平均値が一様になるように)、減衰率または増幅率、すなわち調整量を選択することができる。
【0048】
送信アンテナセット51の四隅以外の端部に配置された送信アンテナ素子50(図10の送信アンテナ素子50E)に供給される電気信号の電力は、減衰器である電力調整部46で減衰すなわち低減される。送信アンテナセット51の四隅に配置された送信アンテナ素子50(図10の送信アンテナ素子50C)に供給される電気信号の電力も、減衰器である電力調整部46で減衰される。送信アンテナ素子50Cについての減衰量は、送信アンテナ素子50Eについての減衰量より大きいことが好ましい。他の送信アンテナ素子50(送信アンテナセット51の中央に配置された送信アンテナ素子50)に供給される電気信号の電力は、増幅器である電力調整部46で増幅すなわち増加される。
【0049】
電力調整部46を有しない無線送信局について、シミュレーションまたは実験により各送信アンテナ素子50に供給される電気信号の電力(例えば電力の時間平均)を調査し、調査結果に基づいて、電力調整部46の減衰率または増幅率、すなわち調整量を選択することができる。例えば、減衰率は電力の逆数であってよい。
【0050】
送信アンテナセット51のすべての送信アンテナ素子50に供給される電気信号(すべての電力増幅器48に供給される電気信号の電力)にそれぞれ電力調整部46を設ける場合には、送信アンテナセット51のすべての送信アンテナ素子50に供給される電気信号(すべての電力増幅器48に供給される電気信号の電力)の電力の時間平均値を容易に一様にすることができる。また、送信アンテナセット51の四隅を含む端部での電力を低減するため、無線送信局全体で使用できる電力に余裕が生ずるので、送信アンテナセット51の各送信アンテナ素子50に供給される電気信号の電力を全体的に増加させることができる。
【0051】
しかし、多数の電力調整部46を設けるのは、回路の規模が大きくなり、電力消費も増大する。そこで、減衰器である電力調整部46だけを設けて、送信アンテナセット51の端部の送信アンテナ素子50に供給される電気信号の電力だけ調整してもよいし、増幅器である電力調整部46だけを設けて、送信アンテナセット51の中央の送信アンテナ素子50に供給される電気信号の電力だけ調整してもよい。
【0052】
以上のように、この実施の形態においては、複数の送信アンテナ素子に供給される電気信号の電力の相違が減縮される。したがって、送信アンテナ素子に供給される電気信号の電力が電力増幅器48で増幅される場合でも、電力増幅器48から出力される信号の非線形歪みを低減することができる。
【0053】
図11は、第1の実施の形態の無線送信局の変形を示す。この変形では、プリコーダ40は、異なるプリコーディングアルゴリズム(例えば、固有モードプリコーディングおよびゼロフォーシング)から選択されたプリコーディングアルゴリズムを使用して、送信アンテナ素子50に供給される電気信号にプリコーディングウェイトを与える。電力調整部46は、減衰率が可変の減衰器または増幅率が可変の増幅器である。この無線送信局は、電力制御部52を有しており、電力制御部52は、プリコーダ40で使用されるプリコーディングアルゴリズムに応じて、電力調整部46の調整量(電力調整部46が減衰器の場合には減衰率、電力調整部46が増幅器の場合には増幅率)を調整する。したがって、電力調整部46は、プリコーダ40で使用されるプリコーディングアルゴリズムに応じて、電力の調整量を変更する。電力制御部52は、コンピュータプログラムによって動作するCPU(central processing unit)であってよい。この変形でも電力調整部46は、電力調整の対象となる少なくとも一部の送信アンテナ素子50に対して設けてよいし、すべての送信アンテナ素子50に対して設けてすべての送信アンテナ素子50に供給される電気信号の電力を調整してもよい。
【0054】
電力調整部46を有しない無線送信局について、各プリコーディングアルゴリズムでのシミュレーションまたは実験により各送信アンテナ素子50に供給される電気信号の電力(例えば電力の時間平均)を調査し、調査結果に基づいて、電力調整部46の減衰率または増幅率、すなわち調整量を選択することができる。例えば、減衰率は電力の逆数であってよい。
【0055】
この変形では、上記の実施の形態の効果に加えて、無線送信局で複数のプリコーディングアルゴリズムを使用しうる場合に、プリコーダ40で使用されるプリコーディングアルゴリズムに応じて、適切に電力の調整量を変更することができる。
【0056】
第2の実施の形態
図12は、本発明の第2の実施の形態の無線送信局を示す。図12において、図5と共通する構成要素を示すために同一の符号が使用され、これらの構成要素については詳細には説明しない。
【0057】
第2の実施の形態の無線送信局は、少なくとも一部の送信アンテナ素子50に供給される電気信号の電力を測定する複数の測定部54と、電力制御部56を有する。測定部54は、電力調整の対象となる少なくとも一部の送信アンテナ素子50に対して設けてよいし、すべての送信アンテナ素子50に対して設けてすべての送信アンテナ素子50に供給される電気信号の電力を測定してもよい。
【0058】
電力調整部46は、減衰率が可変の減衰器または増幅率が可変の増幅器である。第1の実施の形態と同様に、電力調整部46は、電力調整の対象となる少なくとも一部の送信アンテナ素子50に対して設けてよいし、すべての送信アンテナ素子50に対して設けてすべての送信アンテナ素子50に供給される電気信号の電力を調整してもよい。
【0059】
電力制御部56は、コンピュータプログラムによって動作するCPUであってよい。電力制御部56は、電力制御部56の測定結果に基づいて、各送信アンテナ素子50に供給される電気信号の電力の時間平均または正規化電力を計算し、これらの時間平均電力または正規化電力に従って、電力調整部46の調整量(電力調整部46が減衰器の場合には減衰率、電力調整部46が増幅器の場合には増幅率)を調整する。したがって、電力調整部46は、測定部54で測定された電力に基づいて(より具体的には、時間平均電力または正規化電力に従って)、電力の調整量を変更する。例えば、減衰率は時間平均電力または正規化電力の逆数であってよい。この場合、電力調整部46は、時間平均電力または正規化電力の逆数を、送信アンテナ素子に供給される電気信号の電力に乗算する。
【0060】
図13は、この実施の形態に係る無線送信局が電波を放出する場合の送信電力の分布を調査したシミュレーション結果を示すグラフである。シミュレーションにおいては、図6に示す送信アンテナセットによって、送信アンテナセットがなす平面に対して90°の角度で16ストリームを放出すると想定し、仲上・ライス分布のフェージング(K = 10 dB)を有する伝搬路を想定し、各送信アンテナ素子50に供給される電気信号の電力の時間平均値を計算した。シミュレーションでは、送信アンテナセット51のすべての送信アンテナ素子50に供給される電気信号の電力(すべての電力増幅器48に供給される電気信号の電力)の各々に、当該電力の時間平均または正規化電力の逆数を乗算した。シミュレーションでは、固有モードプリコーディング、ゼロフォーシング、チャネル行列のエルミート転置をプリコーディング行列として使うプリコーディングアルゴリズムについて、電力分布を調査し、図13に示す同じ結果が得られた。図13から明らかなように、電力の時間平均値の分布は平坦であり、電力の時間平均値を一様にすることができた。
【0061】
以上のように、この実施の形態においては、複数の送信アンテナ素子に供給される電気信号の電力の相違が減縮される。したがって、送信アンテナ素子に供給される電気信号の電力が電力増幅器48で増幅される場合でも、電力増幅器48から出力される信号の非線形歪みを低減することができる。また、この実施の形態では、電力調整部46は、測定部54で測定された電力に基づいて、少なくとも一部の送信アンテナ素子50に供給される電気信号の電力を調整するので、実際の電力に応じて、適切に電力の調整量を変更することができる。また、無線送信局で複数のプリコーディングアルゴリズムを使用しうる場合に、プリコーダ40で使用されるプリコーディングアルゴリズムに応じて、適切に電力の調整量を変更することができる。
【0062】
第3の実施の形態
図14は、本発明の第3の実施の形態の無線送信局を示す。図14において、図12と共通する構成要素を示すために同一の符号が使用され、これらの構成要素については詳細には説明しない。第3の実施の形態の無線送信局は、情報送信部58を備える。情報送信部58は、CPUであってよい。
【0063】
情報送信部58は、電力制御部56による電力調整部46での電力の調整結果を示す情報を生成し、この情報を無線受信局に送信する。情報の送信形式は、情報を直接的に示す制御情報であってよい。あるいは、特別な情報送信部58を設けずに、参照信号に電力調整部46で行った電力調整と同じ電力調整を行い、無線受信局が電力の調整結果を推定してもよい。つまり、電力の調整結果を無線受信局に間接的に通知してもよい。
【0064】
上記のように、電力調整部46が少なくとも一部の送信アンテナ素子50に供給される電気信号の電力を調整する場合には、送信アンテナセット51で形成される実際のビームの方向が、プリコーダ40のプリコーディング行列で引き起こされるビームの方向とは異なる。無線送信局が電力調整部46での電力の調整結果を無線受信局に通知することによって、無線受信局は、例えばポストコーダ68のポストコーディング行列を補正するなどの処置によって、実際のビームに適した受信処理を行うことが可能である。第3の実施の形態は、第2の実施の形態の修正であるが、上記の修正は第1の実施の形態およびその変形で適用してもよい。
【0065】
他の変形
以上、Massive MIMOを例示して本発明の実施の形態を説明したが、本発明はMassive MIMOに限られず他のMIMOにも適用可能である。送信アンテナセットの送信アンテナ素子の数は256に限られず、例えば9でもよいし、送信アンテナセットは正方形アレーに限られず、円形アレーまたは他の形状のアレーでもよい。
【0066】
上記の実施の形態では、スモールセル基地局20が無線送信局であり、ユーザ装置30が無線受信局であるが、無線送信局はGM(グループモビリティ)中継局であって、無線受信局は基地局15であってもよい。図15は、GM中継局の用途を示す。GM中継局200は、移動可能な乗物100に固定的に搭載されており、Massive MIMOのアンテナセット220を備える。GM中継局200は、基地局15と通信し、少なくとも基地局15への上りリンク通信にMassive MIMOを使用する。基地局15は、マクロセル基地局10であってもよいし、スモールセル基地局20であってもよい。GM中継局200は、ユーザ装置30と通信するための送受信アンテナ210と通信する。GM中継局200は、基地局15と乗物100内のユーザ装置30との通信を中継する。つまり、GM中継局200は、基地局15から送信された乗物100内のいずれかのユーザ装置30宛ての下りリンク信号を例えばアンテナセット220で受信し、送受信アンテナ210でそのユーザ装置30宛ての下りリンク信号を送信する。また、GM中継局200は、乗物100内のいずれかのユーザ装置30から送信された上りリンク信号を送受信アンテナ210で受信し、アンテナセット220で上りリンク信号のビームを基地局15に向けて送信する。乗物100は、不特定かつ複数のユーザを収容し得るバス、列車、トラム、その他の公共交通機関の乗物であるが、自家用車等の個人用の乗物であってもよい。このように、同様に移動する複数のユーザ装置30で構成されるグループのために信号を中継するため、中継局200は、GM(グループモビリティ)中継局と呼ばれる。
【0067】
上記の実施の形態では、電力増幅器48の前段に電力調整部46が配置されているが、本発明は実施の形態に限定されない。電力調整部46は、電力増幅器48に供給される電気信号の電力を調整することができれば、任意の位置に配置することができる。
【符号の説明】
【0068】
2 基地局、10 マクロセル基地局、12 中央制御局、15 基地局(無線受信局)、20 スモールセル基地局(無線送信局)、30 ユーザ装置(無線受信局)、40 プリコーダ、42 逆高速フーリエ変換器、44 ガードインターバル(GI)付与器、46 電力調整部、48 電力増幅器、50 送信アンテナ素子、51 送信アンテナセット、52 電力制御部、54 測定部、56 電力制御部、58 情報送信部、62 受信アンテナ素子、64 ガードインターバル(GI)除去器、66 高速フーリエ変換器、68 ポストコーダ、100 乗物、200 GM中継局(無線送信局)、210 送受信アンテナ、220 アンテナセット。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
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図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15