特許第6576462号(P6576462)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6576462
(24)【登録日】2019年8月30日
(45)【発行日】2019年9月18日
(54)【発明の名称】二次電池用亜鉛負極材
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/42 20060101AFI20190909BHJP
【FI】
   H01M4/42
【請求項の数】6
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2017-548760(P2017-548760)
(86)(22)【出願日】2016年11月1日
(86)【国際出願番号】JP2016082375
(87)【国際公開番号】WO2017077991
(87)【国際公開日】20170511
【審査請求日】2018年4月25日
(31)【優先権主張番号】特願2015-218656(P2015-218656)
(32)【優先日】2015年11月6日
(33)【優先権主張国】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成21年度、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構、革新型蓄電池先端科学基礎研究事業/革新型蓄電池先端科学基礎研究開発に係る委託事業、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
(74)【代理人】
【識別番号】100102141
【弁理士】
【氏名又は名称】的場 基憲
(74)【代理人】
【識別番号】100137316
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 宏
(72)【発明者】
【氏名】小野 正樹
(72)【発明者】
【氏名】中田 明良
(72)【発明者】
【氏名】荒井 創
(72)【発明者】
【氏名】小久見 善八
【審査官】 松嶋 秀忠
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭57−163963(JP,A)
【文献】 特開昭57−126068(JP,A)
【文献】 特開平05−144431(JP,A)
【文献】 特開平06−283157(JP,A)
【文献】 特開平03−272563(JP,A)
【文献】 特開2015−170390(JP,A)
【文献】 Sang-Heon Lee et al.,Characteristics and Electrochemical Performance of the TiO2-Coated ZnO Anode for Ni-Zn Secondary Batteries,THE JOURNAL OF PHYSICAL CHEMISTRY C,2011年,VOL.115,PP.2572-2577
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/38−48
H01M 4/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも被覆層を有する亜鉛含有活物質を含む二次電池用亜鉛負極材であって、
上記被覆層を形成する被覆組成物が、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、マグネシウム(Mg)、スズ(Sn)、イットリウム(Y)から選ばれる金属の酸化物を1種以上含むものであり、
X線源としてAlKα線(1486.6eV)300Wを用い、光電子取り出し角度45°で、測定深さ5nm、測定エリアφ800μmをXPS分析したとき、 下記式(1)で表される上記被覆組成物の表面偏在比が、1.6〜16であることを特徴とする二次電池用亜鉛負極材。
【数1】
但し、式(1)中、
被覆組成物表面金属原子比は、下記式(2)で表され、
被覆組成物バルク金属原子比は、下記式(3)で表される。
【数2】
【数3】
【請求項2】
上記被覆組成物表面金属原子比が0.087〜0.90であることを特徴とする請求項1に記載の二次電池用亜鉛負極材。
【請求項3】
全細孔容量に対する細孔径5nm以下の細孔容量(細孔径5nm以下の細孔容量/全細孔容量)が0.12以上であることを特徴とする請求項1又は2に記載の二次電池用亜鉛負極材。
【請求項4】
上記被覆層の厚さが5〜500nmであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1つの項に記載の二次電池用亜鉛負極材。
【請求項5】
基材上に負極材を有し、
上記負極材が請求項1〜4の二次電池用亜鉛負極材であることを特徴とする二次電池用亜鉛負極。
【請求項6】
正極と、負極と、電解液とを備え、
上記負極が請求項5に記載の二次電池用亜鉛負極であることを特徴とする二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二次電池用亜鉛負極材に関する。さらに詳細には、本発明は、例えば、空気−亜鉛二次電池やニッケル−亜鉛二次電池などの二次電池に代表される二次電池に適用される二次電池用亜鉛負極材に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、大気汚染や地球温暖化に対処するため、二酸化炭素排出量の低減が切に望まれている。自動車業界では、電気自動車(EV)やハイブリッド電気自動車(HEV)などの導入による二酸化炭素排出量の低減に期待が集まっている。
【0003】
特に、上記電気自動車は、1充電当たりの航続距離がガソリン自動車に匹敵すること、およびガソリン自動車並みの走行性能が求められる。これらの実用化の鍵となるモータ駆動用二次電池の開発が盛んに行われている。
【0004】
上記モータ駆動用二次電池としては、高いエネルギー密度を有するリチウムイオン二次電池が注目を集めており、現在急速に開発が進められている。しかしながら、従来のリチウムイオン二次電池の技術的改善では、目標到達が非常に難しいことが指摘されている。
【0005】
そこで、リチウムイオン二次電池を凌駕するより高いエネルギー密度化を実現し得る電池として、負極に亜鉛を用いた金属空気電池が注目を浴びている。
【0006】
上記金属空気電池に用いられる亜鉛(Zn)は、地球上に多くの資源を有する安価な材料であり、理論容量密度が高い。このような亜鉛を負極として用いる二次電池は、従来から実用されている二次電池と比較して、低コストかつ大幅にエネルギー密度を高めることが可能な二次次電池として実用化が期待されている。
【0007】
しかしながら、水系電解液を用いた亜鉛二次電池においては、充放電サイクルの寿命が非常に短いという問題点があり、実用化に向けて克服しなければならない大きな障壁となっている。
【0008】
つまり、負極活物質に亜鉛を用いた二次電池では、充放電のくり返しにより、亜鉛デンドライト成長、緻密化(Densification)や形状変化(Shape change)などにより、内部短絡の発生や放電容量の低下などの電池性能の劣化が起こる。
【0009】
上記亜鉛(Zn)は、下記反応式(1)に示す放電反応により、放電生成物として強アルカリ電解液に可溶なジンケートアニオン(Zn(OH)2−)を生成する。

放電反応:Zn + 4OH → Zn(OH)2− + 2e…反応式(1)
【0010】
このようなZn成分の電解液への溶解を抑えるために、亜鉛負極を用いる電池では、通常、酸化亜鉛(ZnO)を飽和溶解させた強アルカリ水溶液を電解液として用いる。
【0011】
しかしながら、ZnOを飽和溶解させても、ジンケートアニオンは過飽和溶解し、飽和溶解度に対して数倍の濃度にまで溶解するため、放電によって生じたジンケートアニオンは電解液中を容易に拡散移動することができる。
【0012】
負極の充電あるいは放電の過程において、ジンケートアニオン濃度が局所的に過飽和溶解度を超えたような場合、あるいは局所的に電解液のOH濃度が低くなったためにジンケートアニオンに対する過飽和溶解度が低下したような場合、ジンケートアニオンは下記反応式(2)に示す化学的な反応により固体の酸化亜鉛となって析出する。

Zn(OH)2− → ZnO + HO + 2OH …反応式(2)
【0013】
つまり、充放電の繰返しにより、負極内の同様な箇所で上記のような酸化亜鉛の析出と堆積が繰り返されるため、亜鉛極の形状変化が進行すると考えられる。
【0014】
また、亜鉛負極の充電反応は亜鉛酸化種(ZnOまたはZn(OH)2−)を電気化学的に還元することにより金属亜鉛が生成する。

充電反応1:ZnO + HO + 2e → Zn + 2OH …反応式(3)
充電反応2:Zn(OH)2− + 2e → Zn + 4OH …反応式(4)
【0015】
しかし、金属亜鉛は強アルカリ電解液に対して可溶であるため、下記反応式(5)の水素発生型溶解反応が起こり、生成した金属亜鉛を消費する自己放電が進行するため、充電容量に対する亜鉛負極の放電容量が低下してしまう。

Zn + 2OH+ HO → Zn(OH)2− + H↑ …反応式(5)
【0016】
このような水素発生型溶解反応による亜鉛負極の自己放電が進行することを抑制するため、低アルカリ濃度の電解液を使用するなどの対策が試みられてきたが、電解液のイオン導電率の低下や電解液のHO活量が上がることにより亜鉛極充電時の水素発生副反応の増加などが起こるため、電池の充放電過電圧が上昇することによるエネルギーロスの増大や、充放電効率が低下する欠点があるため、低アルカリ濃度の電解液を使用することは困難である。
【0017】
非特許文献1には、酸化亜鉛(ZnO)粒子を酸化チタン(TiO)でコートしたとされる活物質を用いた二次電池は、酸化亜鉛(ZnO)粒子を被覆せずに、そのまま活物質とする二次電池よりも充電サイクル耐久性が向上する旨が開示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0018】
非特許文献1:Characteristics and Electrochemical Performance of the TiO2−Coated ZnO Anode for Ni−Zn Secondary Batteries
S−H Lee et al., J. Phys. Chem. C, 115, 2572 (2011)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
しかしながら、非特許文献1に記載のものは、酸化亜鉛粒子表面をコートする酸化チタンのコート状態が適切でないため、充放電サイクル数の増加とともに連続的に放電容量が低下し、充放電サイクル耐久性が未だ充分ではない。また、サイクル初期の放電容量も十分でない。
【0020】
本発明は、このような従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、二次電池の充電サイクル耐久性を向上でき、なおかつ自己放電を抑制できる二次電池用亜鉛負極材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明者は、上記目的を達成すべく鋭意検討を重ねた結果、亜鉛含有粒子被覆する被覆層を適切な状態にすることにより、上記目的が達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0022】
すなわち、本発明の二次電池用亜鉛負極材は、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、マグネシウム(Mg)、スズ(Sn)、イットリウム(Y)から選ばれる金属の酸化物を1種以上含む被覆組成物で被覆された亜鉛含有粒子を有する。
そして、X線源としてAlKα線(1486.6eV)300Wを用い、光電子取り出し角度45°で、測定深さ5nm、測定エリアφ800μmをXPS分析したとき、下記式(1)で表される上記被覆組成物の表面偏在比が、1.6〜16である。
【0023】
【数1】
但し、式(1)中、
被覆組成物表面金属原子比は、下記式(2)で表されるものであり、
被覆組成物バルク金属原子比は、下記式(3)で表されるものである。
【0024】
【数2】
【0025】
【数3】
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、亜鉛を負極に用いた電池内の環境において、化学的および電気化学的に十分な安定性を有する特定の被覆組成物を用い、亜鉛含有活物質を適切な状態で被覆したため、高い充放電サイクル耐久性を持つ二次電池用亜鉛負極材を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明の被覆層を有する亜鉛含有活物質を備える二次電池用亜鉛負極材について詳細に説明する。
まず、本発明の二次電池用亜鉛負極材を構成する材料について説明する。
<被覆組成物>
【0028】
上記被覆層を構成する被覆組成物は、強アルカリ電解液中で亜鉛の充電および放電電位の範囲において安定に存在し、かつ、充電時(亜鉛金属生成時)に水素発生反応に対する過電圧が亜鉛と同等かそれ以上に大きいものを使用することができる。
【0029】
すなわち、充電時の亜鉛金属生成反応(Zn(OH)2− + 2e−→Zn + 4OH)と、同時に水素発生反応(2HO + 2e→H + 2OH)が起こるものを用いると、亜鉛の充電効率を低下させるため、水素発生反応に対する過電圧が亜鉛以上であるものを用いる。
【0030】
上記被覆組成物としては、例えば、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、マグネシウム(Mg)、スズ(Sn)、イットリウム(Y)から選ばれる金属の酸化物を挙げることができる。
【0031】
上記金属酸化物の強アルカリ電解液に対する溶出量を測定し、金属酸化物の化学的安定性を評価した。
具体的には、金属酸化物粉末を60℃に保った8M 水酸化カリウム(KOH)水溶液中に7日間浸漬した後、水溶液中に溶出した金属成分をICP−AES法により定量分析を行った。評価結果を表1に示す。
【0032】
【表1】
【0033】
上記評価試験では、電池を保存状態にしておいた場合を模擬しており、被覆組成物の電解液中における化学的安定性を評価することができる。上記金属酸化物は金属成分の溶出量は検出限界以下であり、いずれも非常に安定であることから、負極材料として十分な化学的安定性を示すものであることがわかる。
【0034】
また、上記金属酸化物について還元分極試験を行った。
具体的には、純金属板の表面を熱酸化することにより緻密な酸化膜を形成し、これを試験極として強アルカリ電解液中(4M KOH水溶液)に浸漬し、温度25℃で開回路電位から亜鉛の充電電位に相当する電位(−1.60V vs.Hg/HgO)まで一定の掃引速度(−1mV/s)でリニアスウィープボルタンメトリにより還元分極試験を行い、電流密度と試験極の外観変化の有無を評価した。評価結果を表2に示す。
【0035】
【表2】
【0036】
上記金属酸化物は、−1.60V vs.Hg/HgOにおける還元電流密度が1mA/cm未満であり、なおかつ、強アルカリ電解液によって溶損や変形、色調の変化がないことから電気化学的に安定であり、水素発生反応速度が十分に小さいものであると見ることができ、被覆組成物材として適用可能であることがわかる。
【0037】
上記金属酸化物は、電子伝導性が十分に低く、強アルカリ電解液に対して化学的および電気化学的に安定であるため、還元分極しても、上記金属酸化物を含む被覆組成物が関与した反応は起こらない。
【0038】
したがって、上記金属酸化物を亜鉛負極の被覆組成物として適用した場合には、充電時に亜鉛の充電反応だけが選択的に進行し、別の副反応を抑制することができるため、上記金属酸化物を含む被覆組成物が存在しても亜鉛を含む負極は高い充電効率を保つことができる。
【0039】
<亜鉛含有活物質>
亜鉛含有活物質としては、亜鉛及び酸化亜鉛などの亜鉛化合物のいずれか一方又は双方を負極活物質として含むものを使用でき、粒子状の亜鉛含有活物質であることが好ましい。
【0040】
本発明の二次電池用亜鉛負極材は、被覆層によって亜鉛含有活物質が被覆されたものであり、下記式(1)表される被覆組成物表面偏在比が1.6〜16を満たす。
【0041】
【数4】
但し、式(1)中、
被覆組成物表面金属原子比は、下記式(2)で表されるものであり、
被覆組成物バルク金属原子比は、下記式(3)で表されるものである。
【0042】
【数5】
【0043】
【数6】
【0044】
上記式(1)表される被覆組成物表面偏在比が1.6〜16を満たす二次電池用亜鉛負極材は、被覆組成物が容易に脱離することのない被覆層を形成したものであり、亜鉛負極材の形状変化及び自己放電が抑制されるため高い充放電サイクル耐久性を有する。
【0045】
つまり、本発明の被覆組成物は亜鉛含有活物質に付着し、単に亜鉛含有活物質の表面を覆っているだけではなく、亜鉛含有活物質の表面に固定されて容易に脱離しないものを多く含む。
【0046】
したがって、放電時に生成するZn放電生成物が電解液中を自由に移動することを防止し、Zn放電生成物を生成部位付近に保持することができる。
【0047】
そして、生成部位付近に留まった上記Zn放電生成物は充電時には還元されて生成部位付近に戻るため、デンドライトの成長等、電極の形状変化の発生が抑えられるものと考えられる。
【0048】
また、被覆層により亜鉛含有活物質が被覆されていると、電解液に可溶な亜鉛種の拡散流出が大幅に抑制されて、亜鉛含有活物質表面の溶解亜鉛種濃度が高い状態が保持されることによって、反応式(5)示したような金属亜鉛の溶解反応の進行を大幅に抑制することができるため、自己放電反応による容量低下が防止される。
【0049】
上記被覆組成物表面偏在比が1.6未満であると、亜鉛含有活物質に固定された被覆組成物が少ないため、亜鉛放電生成物の拡散抑制効果が小さくなり、充放電サイクル寿命の改善があまり得られない。また、亜鉛含有活物質が露出して電解液に直接接触する割合が多くなり、金属亜鉛の溶出拡散を抑制できず自己放電反応が進行する。加えて、放電生成物の拡散抑制に寄与しない被覆組成物の含有量が多くエネルギー密度が低下する。
【0050】
一方、被覆組成物表面偏在比が16を超えると、亜鉛含有活物質表面に固定された被覆組成物が多すぎるため、電極反応に必要なHOやOHの拡散や亜鉛含有活物質への電子伝導が妨げられて、充放電そのものが困難になり電池性能が低下する。
【0051】
上記被覆組成物表面偏在比について説明する。
二次電池用亜鉛負極材の表面に存在する被覆組成物の比率は、亜鉛負極材表面の被覆組成物に含まれる金属と亜鉛との総和に占める被覆組成物金属の比率により知ることができる。
【0052】
上記被覆組成物金属の比率は、X線光電子分光法(XPS)によって測定することができ、上記X線光電子分光法は、亜鉛負極材の表面(深さ数ナノメートルまで)の元素分布を測定できるものである。
【0053】
しかし、亜鉛含有活物質の表面には、亜鉛含有活物質に固定されておらず、単に亜鉛含有活物質に付着しているだけの非固定被覆組成物も存在する。したがって、上記X線光電子分光法では、上記単に付着しているだけで、放電生成物の移動制限に寄与しない非固定被覆組成物も検出されてしまう。
【0054】
つまり、二次電池用亜鉛負極材は、亜鉛含有活物質表面に固定された被覆組成物によって被覆された被覆亜鉛含有活物質と、亜鉛含有活物質に固定されていないフリーの非固定被覆組成物との混合物である場合がある。
【0055】
このような混合物においては、上記被覆亜鉛含有活物質に対して上記非固定被覆組成物の含有量が多くなると、亜鉛含有活物質表面に載っているだけの非固定被覆組成物の量も多くなるため、上記X線光電子分光法では亜鉛含有活物質に固定された被覆組成物の量を知ることができない。
【0056】
上記非固定被覆組成物が、亜鉛含有活物質の表面に載ることで該亜鉛含有活物質の表面に存在する量は、亜鉛含有活物質の表面に固定された被覆組成物が亜鉛含有活物質の表面に偏在する量に比して少なくなる。
【0057】
そこで、本発明においては、二次電池用亜鉛負極材全体に含まれる被覆組成物バルク金属原子のうち、どの程度の被覆組成物金属原子が亜鉛含有活物質の表面に存在するかを表す、上記被覆組成物表面偏在比によって亜鉛含有活物質に固定された被覆組成物量を規定することとした。
【0058】
上記式(2)で表される被覆組成物表面金属原子比は、二次電池用亜鉛負極材の表面に占める被覆組成物量を表すものであり、X線光電子分光法(XPS)によって二次電池用亜鉛負極材の表面(数nm程度の深さ)に存在するピークから元素の種類・存在量等を測定し、解析ソフトにより原子濃度を求めることで測定できる。
【0059】
また、上記式(3)で表される被覆組成物バルク金属原子比は、二次電池用亜鉛負極材全体に占める被覆組成物量を表すものであり、誘導結合プラズマ(ICP)発光分析法により測定できる。
【0060】
具体的には、二次電池用亜鉛負極材を希酸水溶液に溶解して試料溶液とし、該溶液を霧状にしてアルゴン(Ar)プラズマに導入し、励起された元素が基底状態に戻る際に放出される光を分光して、波長から元素の定性、強度から定量を行うことで測定できる。
【0061】
上記被覆組成物表面偏在比は、二次電池用亜鉛負極材全体に含まれる被覆組成物と亜鉛含有活物質の表面に存在する被覆組成物との比であり、亜鉛含有活物質表面が被覆組成物によってどの程度被覆されているかを示す被覆率を表すものではない。つまり、被覆率が同じであっても、亜鉛含有活物質の表面積が小さくなると被覆組成物表面偏在比の値が大きくなる傾向がある。
【0062】
本発明の二次電池用亜鉛負極材は、被覆組成物表面金属原子比が0.087〜0.90であることが好ましい。
【0063】
被覆組成物表面金属原子比が0.087以上であれば、深度の高い充放電や、サイクル数が多い充放電サイクルや低レートのため長い時間を要する充放電サイクルにおいて、生成する亜鉛放電生成物の量に対して、充分な被覆率を有し、亜鉛放電生成物の拡散を長期に亘り抑制できるため、高い充放電サイクル耐久性を示す。
【0064】
また、被覆組成物表面金属原子比が0.90以下であれば、被覆層内で亜鉛放電生成物濃度が極端に上昇することがなく、充放電効率が低下することがない。したがって、充放電に使用されなくなる電気化学的に不活性な亜鉛の増加を抑えることができ、充放電サイクル毎に放電容量が低下することがなく、高い充放電サイクル耐久性を示す。
【0065】
本発明の二次電池用亜鉛負極材は、全細孔容量に対する細孔径5nm以下の細孔容量(細孔径5nm以下の細孔容量/全細孔容量)が0.12以上であることが好ましい。
【0066】
被覆層を構成する被覆組成物自体は、必ずしも電子伝導性やイオン伝導性を有する必要はなく、電極反応に必要な物質が移動可能な細孔を有することで、電極反応に必要な物質の移動を可能にする。つまり、亜鉛含有活物質の表面が被覆層で覆われていても、被覆層が細孔を有することによって、上記細孔を通じて電極反応に必要な物質の移動が可能である。
【0067】
細孔径5nm以下の細孔は、電極反応に必要な物質の移動を妨害することなく、亜鉛放電生成物の拡散を抑制できるものであり、細孔径5nm以下の細孔容量が全細孔容量に対して0.12以上であることで、亜鉛放電生成物の拡散を抑制できる。
【0068】
細孔径5nm以下の細孔亜鉛放電生成物の拡散を抑制できる理由は、物理的な篩効果だけでは説明できず、必ずしも明らかにされているわけではないが、直径5nm以下の細孔径は、被覆組成物の細孔内壁と亜鉛放電生成物の相互作用が有効に働き始める径であると考えられる。
【0069】
そして、直径5nm以下の細孔では、細孔内に実際に形成される拡散マトリクスや細孔内壁と亜鉛放電生成物の静電的相互作用などにより、亜鉛放電生成物の拡散が効果的にコントロールされていると考えられる。
【0070】
細孔径5nm以下の細孔容量が0.12未満であると、大きな径の細孔容量が大きくなり、該大きな径の細孔は、亜鉛放電生成物の拡散抑制効果が小さくなるため、被覆組成物による充放電サイクル改善効果が低下することがある。
【0071】
上部細孔径分布は窒素吸着法によって測定され、BJH法によって解析した結果より細孔径分布を求めることができる。
【0072】
なお、窒素吸着法では、吸着媒である窒素分子の有効直径(窒素単分子吸着層厚さ:0.354nm)より小さい細孔が存在しても、そのような細孔の内部には窒素分子が入れないことから、0.354nm以下の細孔の容量は測定されない。正確な細孔容量が測定可能な細孔径は少なくとも吸着媒分子の有効直径の2倍以上の大きさの細孔となる。
したがって、上記細孔径5nm以下は、実質的に0.7nm〜5nmを意味する。
【0073】
また、上記細孔径の分布は、後述する焼成条件や被覆組成物を構成する金属酸化物となる金属アルコキシドの加水分解条件等により調節することができる。
【0074】
さらに、上記被覆層の厚さは5〜500nmであることが好ましい。
被覆層の厚さが5nm未満であると、亜鉛放電生成物の拡散抑制効果が十分に得られず、充放電サイクル耐久性を充分向上できないことがある。また、500nmを超えると、HO、OH、電子等の電極反応に必要な物質の移動距離が長くなり、放電および充電反応における物質移動の律速領域になりやすいため、実用的な充電速度や高出力が得られなくなることがある。
【0075】
被覆組成物の厚さは負極材料をミクロトーム法やイオンミリング法などにより精密に断面を形成した上で電子顕微鏡観察することによって測定される。
【0076】
また、上記被覆層の厚さは、被覆組成物を構成する金属酸化物となる金属アルコキシドと含有量や、リンカーの添加量等により調節することができる。
【0077】
次に、本発明の二次電池用亜鉛負極材の製造方法について説明する。
二次電池用亜鉛負極材は、被覆組成物を構成する金属酸化物となる金属アルコキシドを加水分解して金属酸化物前駆体とし、リンカーにより亜鉛含有活物質の表面に上記金属酸化物前駆体を固定した後、焼成することで作製できる。
【0078】
上記リンカーとしては、亜鉛含有活物質表面及び金属酸化物表面の電荷と異なる符号に帯電するものを使用できる。
【0079】
負極材料分散液の液性や被覆組成物を形成する金属酸化物前駆体にもよるが、例えば、尿素、オキサミド、エチレンジアミン、プトレシン、フェニレンジアミン、グリシンアミドなどのアミノ基を複数有する有機化合物、ジカルボン酸などの複数のカルボン酸基を有する有機化合物、アミノ基とカルボン酸基両方を有する有機化合物等を挙げることができる。
【0080】
上記リンカーの使用量は金属酸化物前駆体の当量以上であることが好ましい。リンカーを当量以上使用することで、ほぼすべての金属酸化物前駆体を亜鉛含有活物質に固定することができ、放電生成物の移動制限に寄与しない非固定被覆組成物量が減少し、エネルギー密度を向上させることができる。
【0081】
被覆組成物がリンカーによって亜鉛含有活物質に固定されているか否かは、リンカー由来の元素、例えば窒素(N)をX線光電子分光法(XPS)で検出することによっても確認できる。
【0082】
上記焼成条件としては、例えば、空気中又はアルゴン等の不活性ガス中で300℃〜400℃の温度で1時間〜10時間焼成することが挙げられる。
【0083】
<亜鉛二次電池>
次に、本発明の一実施形態に係る亜鉛二次電池について説明する。
上記二次電池用亜鉛負極材空気−亜鉛二次電池やニッケル−亜鉛二次電池などのアルカリ二次電池に適用したとき、副反応により生じる水素ガスの発生や、亜鉛の析出時に発生するデンドライト、亜鉛の形状変化を抑制し得る。その結果、長期の充放電サイクル及び優れた充放電効率を実現し得る。
【0084】
本実施形態の亜鉛二次電池は、正極と、負極と、電解液とを有するものであり、上記負極として本発明の上記二次電池用亜鉛負極材を用いるものである。
【0085】
正極としては、炭素材料と酸素還元触媒と結着剤で構成された空気極や、オキシ水酸化ニッケルを主たる成分とする金属水酸化物と発泡ニッケルなどの集電体とで構成されたニッケル極などを好適例として挙げることができる。しかしながら、これに限定されるものではなく、アルカリ二次電池の正極として用いられる従来公知の材料を適宜用いることができる。
【0086】
上記電解液としては、例えば、水にアルカリ塩を溶解させたアルカリ電解液を挙げることができる。アルカリ塩としては、水酸化カリウム(KOH)、水酸化ナトリウム(NaOH)水酸化リチウム(LiOH)などを好適例として挙げることができる。これらは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
本発明においては、例えば、上記負極と酸化還元反応を繰り返し実施できればよく、これらに限定されるものではない。
【実施例】
【0087】
以下、本発明を実施例により詳細に説明するが、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
【0088】
[実施例1]
<TiO被覆Zn粒子の調製>
Zn活物質はZn粉末を使用し、Ti源としては、チタン(IV)テトラブトキシド(TNBT)を用いた。
1−ブタノールに所定量のTNBTを溶解させ、そこにZn粉末を加えてよく撹拌してZn粒子分散TNBT溶液を作製した。
【0089】
このZn粉末分散溶液をウォーターバス中で60℃に加熱した後、pH約11のアンモニア水を加えてTNBTを加水分解した。
【0090】
上記Zn粉末分散溶液に尿素を加え、60℃で1.5時間撹拌し、TNBTの加水分解によって生成したTiO2前駆体ナノ粒子をZn粉末表面に付着固定させた。
【0091】
その後、Zn粉末分散溶液から粉末を濾取し、純水で十分に洗浄して乾燥した後、空気中330℃で5時間焼成することによりTiO被覆Zn粉末を得た。
【0092】
調製したTiO被覆Zn粉末の被覆組成物バルク金属原子比を求めるために、ICP−AESにより定量分析を行った。
【0093】
具体的には、所定量のTiO被覆Zn粉末をアルカリ金属塩で融解処理し、融成物を酸に溶解し、適宜純水で希釈したものについて、エスアイアイ・ナノテクノロジー社製誘導結合プラズマ発光分光分析装置(SPS−3520)を用いて金属成分の定量分析を行った。
その結果、Tiは65.2mol%、Znは5.0mol%となり、被覆組成物バルク金属原子比は0.072であった。
【0094】
また、調製したTiO被覆Zn粉末の被覆組成物表面金属原子比を求めるために、X線光電子分光法(XPS)により表面金属組成の分析を行った。
【0095】
具体的には、所定量のTiO被覆Zn粉末をX線光電子分光分析装置(ULVAC−PHI製 ESCA5800)のサンプル設置部に置き測定を行った。X線源は単色化AlKα線(1486.6eV)300Wを用いて得られるワイドスキャンスペクトルから定性および定量を行った。光電子取り出し角度は45°(測定深さ:約5nm)、測定エリア:はφ800μmとした。
その結果、Tiは17.6mol%、Znは14.1mol%となり、被覆組成物表面金属原子比は0.56であった。
【0096】
このTiO被覆Zn粉末の被覆組成物表面偏在比は7.8、細孔径5nm以下の細孔容量比は0.53、被覆層厚さは40nmであった。
【0097】
また、X線光電子分光法で測定される表面窒素濃度は1.4mol%であった。上記表面窒素はリンカーとして用いた尿素に由来するものである。尿素は焼成工程において揮発あるいは分解するため、尿素の形で残っているのではなく、何らかの窒素化合物として被覆層内部の亜鉛表面と被覆層の界面から多孔質被覆層内部および被覆層表面に渡って存在していると考えられる。
【0098】
<TiO被覆Zn負極の作製>
TiO被覆Zn粉末92質量部、導電助剤(アセチレンブラック)4質量部、バインダ(ポリフッ化ビニリデン(PVdF)4質量部を混合し、N−メチルピロリドンを加えてスラリー化した。上記スラリーを基材(Cu箔)表面に塗工し、乾燥、プレスすることによって負極活物質層を形成し、TiO被覆Zn負極を得た。
【0099】
<電池の作製>
上記TiO被覆Zn負極、セパレータ(ポリオレフィン系不織布セパレータを2枚積層させたもの)、オキシ水酸化ニッケル(NiO(OH))正極を積層し、電解液(ZnO飽和溶解4M KOH水溶液)に浸漬して二次電池を得た。
【0100】
<充放電サイクル試験>
作製した二次電池を用いて充放電サイクル試験を行った。
充放電サイクル試験は亜鉛利用率75%の0.5C充放電サイクルとした。サイクル試験において、負極のみの劣化度合いを見ることができるようにするためにHg/HgO参照電極に対する負極の電位をモニタした。試験は25℃で行った。充放電サイクル耐久性は放電容量が亜鉛利用率75%に相当する容量値に対して、90%以下の値にまで実際の放電容量値が低下するまでのサイクル数を充放電サイクル試験の終点として負極耐久性を評価した。
【0101】
<自己放電率の測定>
充放電サイクル試験に用いた試験セルと同じ構成のセルを用いて自己放電率評価試験を行った。自己放電率評価試験は繰り返し充放電によるコンディショニングを行い、充放電特性が安定したことを確認し、亜鉛負極を完全放電させた後、充電レート0.5Cで充電深度75%まで充電した。充電後、セルを開回路状態で12時間保持した後、0.5Cレートで亜鉛極電位 ―0.90V vs.Hg/HgOまで放電し、充電電気量と放電電気量の比較から放電クーロン効率を求めた。自己放電率が高いほど放電クーロン効率が低下する。ここでは、充電時の副反応(水素発生反応など)による金属亜鉛充電ロスはゼロとみなし、自己放電率 = 100(%)−放電効率(%)として自己放電率を測定した。試験はすべて25℃で行った。評価結果を表3に示す。
【0102】
[実施例2]
焼成をアルゴン中で行った以外は実施例1と同じ調製法でTiO被覆Zn粒子を作製した。被覆組成物表面偏在比の算出、電極作製および充放電サイクル試験を実施例1と同じ条件で行った。
【0103】
上記TiO被覆Zn粉末の被覆組成物バルク金属原子比は0.065、被覆組成物表面偏在比は8.3、細孔径5nm以下の細孔容量比は0.48、被覆層厚さは50nmであった。また、表面窒素濃度は2.3mol%であった。
【0104】
[実施例3]
焼成時間を2時間とした以外は実施例1と同じ調製法でTiO被覆Zn粒子を作製した。被覆組成物表面偏在比の算出、電極作製および充放電サイクル試験を実施例1と同じ条件で行った。
【0105】
このTiO被覆Zn粉末の被覆組成物バルク金属原子比は0.072、被覆組成物表面偏在比は9.0、細孔径5nm以下の細孔容量比は0.26、被覆層厚さは55nmであった。また、表面窒素濃度は0.9mol%であった。
【0106】
[実施例4]
Ti源の仕込み量を半量とした以外は実施例1と同じ調製法でTiO被覆Zn粒子を作製した。被覆組成物表面偏在比の算出、電極作製および充放電サイクル試験を実施例1と同じ条件で行った。
【0107】
このTiO被覆Zn粉末の被覆組成物バルク金属原子比は0.043、被覆組成物表面偏在比は2.0、細孔径5nm以下の細孔容量比は0.16、被覆層厚さは5nmであった。
また、表面窒素濃度は0.6mol%であった。
【0108】
[実施例5]
Ti源の仕込み量を2倍量とした以外は実施例1と同じ調製法でTiO被覆Zn粒子を作製した。被覆組成物表面偏在比の算出、電極作製および充放電サイクル試験も実施例1と同じ条件で行った。
【0109】
このTiO被覆Zn粉末の被覆組成物バルク金属原子比は0.060、被覆組成物表面偏在比は15.0、細孔径5nm以下の細孔容量比は0.12、被覆層厚さは100nmであった。また、表面窒素濃度は2.5mol%であった。
【0110】
[実施例6]
Ti源の仕込み量を2倍量とし、焼成をアルゴン中300℃で行ったこと以外は実施例1と同じ調製法でTiO被覆Zn粒子を作製した。被覆組成物表面偏在比の算出、電極作製および充放電サイクル試験を実施例1と同じ条件で行った。
【0111】
このTiO被覆Zn粉末の被覆組成物バルク金属原子比は0.084、被覆組成物表面偏在比は11.0、細孔径5nm以下の細孔容量比は0.096、被覆層厚さは95nmであった。また、表面窒素濃度は4.1mol%であった。
【0112】
[実施例7]
尿素添加後の撹拌温度を40℃とした以外は実施例4と同じ調製法でTiO被覆Znを作製した。被覆組成物表面偏在比の算出、電極作製および充放電サイクル試験を実施例1と同じ条件で行った。
【0113】
このTiO被覆Zn粉末の被覆組成物バルク金属原子比は0.025、被覆組成物表面偏在比は2.9、細孔径5nm以下の細孔容量比は0.093、被覆層厚さは8nmであった。また、表面窒素濃度は2.1mol%であった。
【0114】
[実施例8]
焼成雰囲気を5体積%水素を含んだアルゴンとした以外は実施例1同じ調製法でTiO被覆Znを作製した。被覆組成物表面偏在比の算出、電極作製および充放電サイクル試験を実施例1と同じ条件で行った。
【0115】
このTiO被覆Zn粉末の被覆組成物バルク金属原子比は0.084、被覆組成物表面偏在比は5.8、細孔径5nm以下の細孔容量比は0.39、被覆層厚さは60nmであった。また、表面窒素濃度は2.2mol%であった。
【0116】
[実施例9]
Ti源の仕込み量を2倍量とし、焼成雰囲気を5体積%水素を含んだアルゴンとした以外は実施例1同じ調製法でTiO被覆Znを作製した。被覆組成物表面偏在比の算出、電極作製および充放電サイクル試験を実施例1と同じ条件で行った。
【0117】
このTiO被覆Zn粉末の被覆組成物バルク金属原子比は0.068、被覆組成物表面偏在比は12、細孔径5nm以下の細孔容量比は0.13、被覆層厚さは100nmであった。また、表面窒素濃度は1.9mol%であった。
【0118】
[実施例10]
尿素添加後の撹拌温度を40℃とし、焼成雰囲気を5体積%水素を含んだアルゴンとした以外は実施例1同じ調製法でTiO被覆Znを作製した。被覆組成物表面偏在比の算出、電極作製および充放電サイクル試験を実施例1と同じ条件で行った。
【0119】
このTiO被覆Zn粉末の被覆組成物バルク金属原子比は0.060、被覆組成物表面偏在比は8.5、細孔径5nm以下の細孔容量比は0.33、被覆層厚さは30nmであった。また、表面窒素濃度は2.6mol%であった。
【0120】
[実施例11]
Ti源の仕込み量を2倍量とし、焼成雰囲気を5体積%水素を含んだアルゴンとした以外は実施例1同じ調製法でTiO被覆Znを作製した。被覆組成物表面偏在比の算出、電極作製および充放電サイクル試験を実施例1と同じ条件で行った。
【0121】
このTiO被覆Zn粉末の被覆組成物バルク金属原子比は0.045、被覆組成物表面偏在比は1.6、細孔径5nm以下の細孔容量比は0.098、被覆層厚さは5nmであった。また、表面窒素濃度は2.9mol%であった。
【0122】
[実施例12]
Ti源の仕込み量を半量として、尿素添加後の撹拌温度を40℃とし、焼成雰囲気を5体積%水素を含んだアルゴンとした以外は実施例1同じ調製法でTiO被覆Znを作製した。被覆組成物表面偏在比の算出、電極作製および充放電サイクル試験を実施例1と同じ条件で行った。
【0123】
このTiO被覆Zn粉末の被覆組成物バルク金属原子比は0.060、被覆組成物表面偏在比は16、細孔径5nm以下の細孔容量比は0.066、被覆層厚さは100nmであった。また、表面窒素濃度は2.9mol%であった。
【0124】
[比較例1]
上記非特許文献1(J. Phys. Chem. C, 115, 2572 (2011))に示された調製法で作製した。
【0125】
具体的には、Zn粉末をエタノール中に分散させ、そこにTNBTを加えた。この分散液を6時間撹拌した後、70℃に加熱し、ゲル化するまで撹拌を行った。ゲル化した前駆体を純水で十分に洗浄し、乾燥後空気中330℃で5時間焼成してTiO被覆Zn粉末を得た。被覆組成物表面偏在比の算出、電極作製および充放電サイクル試験は実施例1と同じ条件で行った。
【0126】
このTiO被覆Zn粉末の被覆組成物バルク金属原子比は0.062、被覆組成物表面偏在比は1.1、細孔径5nm以下の細孔容量比は0.086、被覆層厚さは、観察の結果、亜鉛粒子表面における明確なTiO被覆層の形成が確認できなかったため、測定できなかった。また、表面窒素濃度は検出下限以下(<0.1mol%)であった。
【0127】
[比較例2]
Ti源の仕込み量を1/8量とした以外は実施例1と同じ調製法でTiO被覆Znを作製した。被覆組成物表面偏在比の算出、電極作製および充放電サイクル試験を実施例1と同じ条件で行った。
【0128】
このTiO被覆Zn粉末の被覆組成物バルク金属原子比は0.027、被覆組成物表面偏在比は1.0、細孔径5nm以下の細孔容量比は0.10、被覆層厚さは3nmであった。また、表面窒素濃度は0.5mol%であった。
【0129】
[比較例3]
Ti源の仕込み量を3倍量とし、焼成温度を380℃とした以外は実施例1と同じ調製法でTiO被覆Zn粉末を作製した。被覆組成物表面偏在比の算出、電極作製および充放電サイクル試験を実施例1と同じ条件で行った。
【0130】
このTiO被覆Zn粉末の被覆組成物バルク金属原子比は0.054、被覆組成物表面偏在比は18.0、細孔径5nm以下の細孔容量比は0.051、被覆層厚さは140nmであった。また、表面窒素濃度は1.1mol%であった。
【0131】
[比較例4]
尿素を添加しなかったこと以外は実施例1同じ調製法でTiO被覆Znを作製した。被覆組成物表面偏在比の算出、電極作製および充放電サイクル試験を実施例1と同じ条件で行った。
【0132】
このTiO被覆Zn粉末の被覆組成物バルク金属原子比は0.057、被覆組成物表面偏在比は1.3、細孔径5nm以下の細孔容量比は0.081、被覆層厚さは3nm以下であった。また、表面窒素濃度は検出下限以下(<0.1mol%)であった。
【0133】
[比較例5]
Ti源の仕込み量を2倍量とし、尿素添加後の撹拌温度を40℃とし、焼成を5体積%水素を含んだアルゴン気流中で300℃2時間とした以外は実施例1同じ調製法でTiO被覆Znを作製した。被覆組成物表面偏在比の算出、電極作製および充放電サイクル試験を実施例1と同じ条件で行った。
【0134】
このTiO被覆Zn粉末の被覆組成物バルク金属原子比は0.056、被覆組成物表面偏在比は17、細孔径5nm以下の細孔容量比は0.10、被覆層厚さは140nmであった。また、表面窒素濃度は3.1mol%であった。
【0135】
【表3】
【0136】
実施例の二次電池用亜鉛負極材を用いた二次電池は、比較例1の二次電池に対して2倍以上の充放電サイクル耐久性を示した。
【0137】
比較例1における二次電池用亜鉛負極材の調製法は、大気中の水蒸気によりチタンアルコキシドを加水分解し、TiO前駆体粒子とする工程を亜鉛粉末分散溶液中で行い、その後、加熱により溶媒であるエタノールを蒸発させることによりゲル化させたものである。
【0138】
上記亜鉛粉末分散溶液中では、亜鉛粒子とTiO前駆体粒子とは、それぞれ凝集しやすいものであるため、この方法により得られる二次電池用亜鉛負極材は、TiOとZnとの単なる混合物になると考えられる。
【0139】
つまり、比較例1の調製法における分散液中では、亜鉛粒子の表面とTiO前駆体粒子の表面とは、共に負電荷を帯び相互に反発するため、亜鉛粒子表面にTiO前駆体粒子が付着被覆することは非常に困難であると考えらえる。
【0140】
そして、比較例1の二次電池用亜鉛負極材は、被覆組成物表面偏在比の値がほぼ1を示したことからも、比較例1の調製法により得られる二次電池用亜鉛負極材は、TiOとZnの単なる混合物であると考えられる。
このような二次電池用亜鉛負極材を負極に用いた場合には充放電サイクル耐久性の改善はほとんど見られなかった。
【0141】
これに対し、実施例の二次電池用亜鉛負極材は、亜鉛粉末分散液中でTiO前駆体を形成した後、さらに尿素を添加し亜鉛表面にTiO前駆体を被覆させた。
【0142】
上記尿素は、亜鉛粉末分散液中で分子両端のアミノ基が正電荷を帯びるため、負電荷をもつ亜鉛粒子表面とTiO前駆体粒子表面をつなぎ合わせるリンカーの役割を果たす。
【0143】
実施例の二次電池用亜鉛負極材は、このような尿素の働きにより、亜鉛粒子表面にTiO前駆体粒子が付着し固定された被覆層を形成する。
【0144】
各実施例の二次電池用亜鉛負極材は、被覆組成物表面偏在比が1を大幅に上回る値を示したことからも、亜鉛粒子表面に固定された被覆組成物が、高い被覆率で亜鉛の表面を被覆していると考えられる。
【0145】
また、被覆組成物表面偏在比が1.6の実施例11は自己放電率が1.4%であったが、被覆組成物表面偏在比が1.3の比較例4は自己放電率が4.0と高いことから、被覆組成物表面偏在比が1.6以上で自己放電を抑止できることがわかる。
【0146】
さらに、被覆組成物表面偏在比が16の実施例12は充放電サイクル数が62であり、被覆層によって充放電反応が妨げられていないことがわかるが、被覆組成物表面偏在比が17の比較例5は充放電反応が妨げられて充放電サイクル数が8に低下した。