【実施例】
【0087】
以下、本発明を実施例により詳細に説明するが、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
【0088】
[実施例1]
<TiO
2被覆Zn粒子の調製>
Zn活物質はZn粉末を使用し、Ti源としては、チタン(IV)テトラブトキシド(TNBT)を用いた。
1−ブタノールに所定量のTNBTを溶解させ、そこにZn粉末を加えてよく撹拌してZn粒子分散TNBT溶液を作製した。
【0089】
このZn粉末分散溶液をウォーターバス中で60℃に加熱した後、pH約11のアンモニア水を加えてTNBTを加水分解した。
【0090】
上記Zn粉末分散溶液に尿素を加え、60℃で1.5時間撹拌し、TNBTの加水分解によって生成したTiO2前駆体ナノ粒子をZn粉末表面に付着固定させた。
【0091】
その後、Zn粉末分散溶液から粉末を濾取し、純水で十分に洗浄して乾燥した後、空気中330℃で5時間焼成することによりTiO
2被覆Zn粉末を得た。
【0092】
調製したTiO
2被覆Zn粉末の被覆組成物バルク金属原子比を求めるために、ICP−AESにより定量分析を行った。
【0093】
具体的には、所定量のTiO
2被覆Zn粉末をアルカリ金属塩で融解処理し、融成物を酸に溶解し、適宜純水で希釈したものについて、エスアイアイ・ナノテクノロジー社製誘導結合プラズマ発光分光分析装置(SPS−3520)を用いて金属成分の定量分析を行った。
その結果、Tiは65.2mol%、Znは5.0mol%となり、被覆組成物バルク金属原子比は0.072であった。
【0094】
また、調製したTiO
2被覆Zn粉末の被覆組成物表面金属原子比を求めるために、X線光電子分光法(XPS)により表面金属組成の分析を行った。
【0095】
具体的には、所定量のTiO
2被覆Zn粉末をX線光電子分光分析装置(ULVAC−PHI製 ESCA5800)のサンプル設置部に置き測定を行った。X線源は単色化AlKα線(1486.6eV)300Wを用いて得られるワイドスキャンスペクトルから定性および定量を行った。光電子取り出し角度は45°(測定深さ:約5nm)、測定エリア:はφ800μmとした。
その結果、Tiは17.6mol%、Znは14.1mol%となり、被覆組成物表面金属原子比は0.56であった。
【0096】
このTiO
2被覆Zn粉末の被覆組成物表面偏在比は7.8、細孔径5nm以下の細孔容量比は0.53、被覆層厚さは40nmであった。
【0097】
また、X線光電子分光法で測定される表面窒素濃度は1.4mol%であった。上記表面窒素はリンカーとして用いた尿素に由来するものである。尿素は焼成工程において揮発あるいは分解するため、尿素の形で残っているのではなく、何らかの窒素化合物として被覆層内部の亜鉛表面と被覆層の界面から多孔質被覆層内部および被覆層表面に渡って存在していると考えられる。
【0098】
<TiO
2被覆Zn負極の作製>
TiO
2被覆Zn粉末92質量部、導電助剤(アセチレンブラック)4質量部、バインダ(ポリフッ化ビニリデン(PVdF)4質量部を混合し、N−メチルピロリドンを加えてスラリー化した。上記スラリーを基材(Cu箔)表面に塗工し、乾燥、プレスすることによって負極活物質層を形成し、TiO
2被覆Zn負極を得た。
【0099】
<電池の作製>
上記TiO
2被覆Zn負極、セパレータ(ポリオレフィン系不織布セパレータを2枚積層させたもの)、オキシ水酸化ニッケル(NiO(OH))正極を積層し、電解液(ZnO飽和溶解4M KOH水溶液)に浸漬して二次電池を得た。
【0100】
<充放電サイクル試験>
作製した二次電池を用いて充放電サイクル試験を行った。
充放電サイクル試験は亜鉛利用率75%の0.5C充放電サイクルとした。サイクル試験において、負極のみの劣化度合いを見ることができるようにするためにHg/HgO参照電極に対する負極の電位をモニタした。試験は25℃で行った。充放電サイクル耐久性は放電容量が亜鉛利用率75%に相当する容量値に対して、90%以下の値にまで実際の放電容量値が低下するまでのサイクル数を充放電サイクル試験の終点として負極耐久性を評価した。
【0101】
<自己放電率の測定>
充放電サイクル試験に用いた試験セルと同じ構成のセルを用いて自己放電率評価試験を行った。自己放電率評価試験は繰り返し充放電によるコンディショニングを行い、充放電特性が安定したことを確認し、亜鉛負極を完全放電させた後、充電レート0.5Cで充電深度75%まで充電した。充電後、セルを開回路状態で12時間保持した後、0.5Cレートで亜鉛極電位 ―0.90V vs.Hg/HgOまで放電し、充電電気量と放電電気量の比較から放電クーロン効率を求めた。自己放電率が高いほど放電クーロン効率が低下する。ここでは、充電時の副反応(水素発生反応など)による金属亜鉛充電ロスはゼロとみなし、自己放電率 = 100(%)−放電効率(%)として自己放電率を測定した。試験はすべて25℃で行った。評価結果を表3に示す。
【0102】
[実施例2]
焼成をアルゴン中で行った以外は実施例1と同じ調製法でTiO
2被覆Zn粒子を作製した。被覆組成物表面偏在比の算出、電極作製および充放電サイクル試験を実施例1と同じ条件で行った。
【0103】
上記TiO
2被覆Zn粉末の被覆組成物バルク金属原子比は0.065、被覆組成物表面偏在比は8.3、細孔径5nm以下の細孔容量比は0.48、被覆層厚さは50nmであった。また、表面窒素濃度は2.3mol%であった。
【0104】
[実施例3]
焼成時間を2時間とした以外は実施例1と同じ調製法でTiO
2被覆Zn粒子を作製した。被覆組成物表面偏在比の算出、電極作製および充放電サイクル試験を実施例1と同じ条件で行った。
【0105】
このTiO
2被覆Zn粉末の被覆組成物バルク金属原子比は0.072、被覆組成物表面偏在比は9.0、細孔径5nm以下の細孔容量比は0.26、被覆層厚さは55nmであった。また、表面窒素濃度は0.9mol%であった。
【0106】
[実施例4]
Ti源の仕込み量を半量とした以外は実施例1と同じ調製法でTiO
2被覆Zn粒子を作製した。被覆組成物表面偏在比の算出、電極作製および充放電サイクル試験を実施例1と同じ条件で行った。
【0107】
このTiO
2被覆Zn粉末の被覆組成物バルク金属原子比は0.043、被覆組成物表面偏在比は2.0、細孔径5nm以下の細孔容量比は0.16、被覆層厚さは5nmであった。
また、表面窒素濃度は0.6mol%であった。
【0108】
[実施例5]
Ti源の仕込み量を2倍量とした以外は実施例1と同じ調製法でTiO
2被覆Zn粒子を作製した。被覆組成物表面偏在比の算出、電極作製および充放電サイクル試験も実施例1と同じ条件で行った。
【0109】
このTiO
2被覆Zn粉末の被覆組成物バルク金属原子比は0.060、被覆組成物表面偏在比は15.0、細孔径5nm以下の細孔容量比は0.12、被覆層厚さは100nmであった。また、表面窒素濃度は2.5mol%であった。
【0110】
[実施例6]
Ti源の仕込み量を2倍量とし、焼成をアルゴン中300℃で行ったこと以外は実施例1と同じ調製法でTiO
2被覆Zn粒子を作製した。被覆組成物表面偏在比の算出、電極作製および充放電サイクル試験を実施例1と同じ条件で行った。
【0111】
このTiO
2被覆Zn粉末の被覆組成物バルク金属原子比は0.084、被覆組成物表面偏在比は11.0、細孔径5nm以下の細孔容量比は0.096、被覆層厚さは95nmであった。また、表面窒素濃度は4.1mol%であった。
【0112】
[実施例7]
尿素添加後の撹拌温度を40℃とした以外は実施例4と同じ調製法でTiO
2被覆Znを作製した。被覆組成物表面偏在比の算出、電極作製および充放電サイクル試験を実施例1と同じ条件で行った。
【0113】
このTiO
2被覆Zn粉末の被覆組成物バルク金属原子比は0.025、被覆組成物表面偏在比は2.9、細孔径5nm以下の細孔容量比は0.093、被覆層厚さは8nmであった。また、表面窒素濃度は2.1mol%であった。
【0114】
[実施例8]
焼成雰囲気を5体積%水素を含んだアルゴンとした以外は実施例1同じ調製法でTiO
2被覆Znを作製した。被覆組成物表面偏在比の算出、電極作製および充放電サイクル試験を実施例1と同じ条件で行った。
【0115】
このTiO
2被覆Zn粉末の被覆組成物バルク金属原子比は0.084、被覆組成物表面偏在比は5.8、細孔径5nm以下の細孔容量比は0.39、被覆層厚さは60nmであった。また、表面窒素濃度は2.2mol%であった。
【0116】
[実施例9]
Ti源の仕込み量を2倍量とし、焼成雰囲気を5体積%水素を含んだアルゴンとした以外は実施例1同じ調製法でTiO
2被覆Znを作製した。被覆組成物表面偏在比の算出、電極作製および充放電サイクル試験を実施例1と同じ条件で行った。
【0117】
このTiO
2被覆Zn粉末の被覆組成物バルク金属原子比は0.068、被覆組成物表面偏在比は12、細孔径5nm以下の細孔容量比は0.13、被覆層厚さは100nmであった。また、表面窒素濃度は1.9mol%であった。
【0118】
[実施例10]
尿素添加後の撹拌温度を40℃とし、焼成雰囲気を5体積%水素を含んだアルゴンとした以外は実施例1同じ調製法でTiO
2被覆Znを作製した。被覆組成物表面偏在比の算出、電極作製および充放電サイクル試験を実施例1と同じ条件で行った。
【0119】
このTiO
2被覆Zn粉末の被覆組成物バルク金属原子比は0.060、被覆組成物表面偏在比は8.5、細孔径5nm以下の細孔容量比は0.33、被覆層厚さは30nmであった。また、表面窒素濃度は2.6mol%であった。
【0120】
[実施例11]
Ti源の仕込み量を2倍量とし、焼成雰囲気を5体積%水素を含んだアルゴンとした以外は実施例1同じ調製法でTiO
2被覆Znを作製した。被覆組成物表面偏在比の算出、電極作製および充放電サイクル試験を実施例1と同じ条件で行った。
【0121】
このTiO
2被覆Zn粉末の被覆組成物バルク金属原子比は0.045、被覆組成物表面偏在比は1.6、細孔径5nm以下の細孔容量比は0.098、被覆層厚さは5nmであった。また、表面窒素濃度は2.9mol%であった。
【0122】
[実施例12]
Ti源の仕込み量を半量として、尿素添加後の撹拌温度を40℃とし、焼成雰囲気を5体積%水素を含んだアルゴンとした以外は実施例1同じ調製法でTiO
2被覆Znを作製した。被覆組成物表面偏在比の算出、電極作製および充放電サイクル試験を実施例1と同じ条件で行った。
【0123】
このTiO
2被覆Zn粉末の被覆組成物バルク金属原子比は0.060、被覆組成物表面偏在比は16、細孔径5nm以下の細孔容量比は0.066、被覆層厚さは100nmであった。また、表面窒素濃度は2.9mol%であった。
【0124】
[比較例1]
上記非特許文献1(J. Phys. Chem. C, 115, 2572 (2011))に示された調製法で作製した。
【0125】
具体的には、Zn粉末をエタノール中に分散させ、そこにTNBTを加えた。この分散液を6時間撹拌した後、70℃に加熱し、ゲル化するまで撹拌を行った。ゲル化した前駆体を純水で十分に洗浄し、乾燥後空気中330℃で5時間焼成してTiO
2被覆Zn粉末を得た。被覆組成物表面偏在比の算出、電極作製および充放電サイクル試験は実施例1と同じ条件で行った。
【0126】
このTiO
2被覆Zn粉末の被覆組成物バルク金属原子比は0.062、被覆組成物表面偏在比は1.1、細孔径5nm以下の細孔容量比は0.086、被覆層厚さは、観察の結果、亜鉛粒子表面における明確なTiO
2被覆層の形成が確認できなかったため、測定できなかった。また、表面窒素濃度は検出下限以下(<0.1mol%)であった。
【0127】
[比較例2]
Ti源の仕込み量を1/8量とした以外は実施例1と同じ調製法でTiO
2被覆Znを作製した。被覆組成物表面偏在比の算出、電極作製および充放電サイクル試験を実施例1と同じ条件で行った。
【0128】
このTiO
2被覆Zn粉末の被覆組成物バルク金属原子比は0.027、被覆組成物表面偏在比は1.0、細孔径5nm以下の細孔容量比は0.10、被覆層厚さは3nmであった。また、表面窒素濃度は0.5mol%であった。
【0129】
[比較例3]
Ti源の仕込み量を3倍量とし、焼成温度を380℃とした以外は実施例1と同じ調製法でTiO
2被覆Zn粉末を作製した。被覆組成物表面偏在比の算出、電極作製および充放電サイクル試験を実施例1と同じ条件で行った。
【0130】
このTiO
2被覆Zn粉末の被覆組成物バルク金属原子比は0.054、被覆組成物表面偏在比は18.0、細孔径5nm以下の細孔容量比は0.051、被覆層厚さは140nmであった。また、表面窒素濃度は1.1mol%であった。
【0131】
[比較例4]
尿素を添加しなかったこと以外は実施例1同じ調製法でTiO
2被覆Znを作製した。被覆組成物表面偏在比の算出、電極作製および充放電サイクル試験を実施例1と同じ条件で行った。
【0132】
このTiO
2被覆Zn粉末の被覆組成物バルク金属原子比は0.057、被覆組成物表面偏在比は1.3、細孔径5nm以下の細孔容量比は0.081、被覆層厚さは3nm以下であった。また、表面窒素濃度は検出下限以下(<0.1mol%)であった。
【0133】
[比較例5]
Ti源の仕込み量を2倍量とし、尿素添加後の撹拌温度を40℃とし、焼成を5体積%水素を含んだアルゴン気流中で300℃2時間とした以外は実施例1同じ調製法でTiO
2被覆Znを作製した。被覆組成物表面偏在比の算出、電極作製および充放電サイクル試験を実施例1と同じ条件で行った。
【0134】
このTiO
2被覆Zn粉末の被覆組成物バルク金属原子比は0.056、被覆組成物表面偏在比は17、細孔径5nm以下の細孔容量比は0.10、被覆層厚さは140nmであった。また、表面窒素濃度は3.1mol%であった。
【0135】
【表3】
【0136】
実施例の二次電池用亜鉛負極材を用いた二次電池は、比較例1の二次電池に対して2倍以上の充放電サイクル耐久性を示した。
【0137】
比較例1における二次電池用亜鉛負極材の調製法は、大気中の水蒸気によりチタンアルコキシドを加水分解し、TiO
2前駆体粒子とする工程を亜鉛粉末分散溶液中で行い、その後、加熱により溶媒であるエタノールを蒸発させることによりゲル化させたものである。
【0138】
上記亜鉛粉末分散溶液中では、亜鉛粒子とTiO
2前駆体粒子とは、それぞれ凝集しやすいものであるため、この方法により得られる二次電池用亜鉛負極材は、TiO
2とZnとの単なる混合物になると考えられる。
【0139】
つまり、比較例1の調製法における分散液中では、亜鉛粒子の表面とTiO
2前駆体粒子の表面とは、共に負電荷を帯び相互に反発するため、亜鉛粒子表面にTiO
2前駆体粒子が付着被覆することは非常に困難であると考えらえる。
【0140】
そして、比較例1の二次電池用亜鉛負極材は、被覆組成物表面偏在比の値がほぼ1を示したことからも、比較例1の調製法により得られる二次電池用亜鉛負極材は、TiO
2とZnの単なる混合物であると考えられる。
このような二次電池用亜鉛負極材を負極に用いた場合には充放電サイクル耐久性の改善はほとんど見られなかった。
【0141】
これに対し、実施例の二次電池用亜鉛負極材は、亜鉛粉末分散液中でTiO
2前駆体を形成した後、さらに尿素を添加し亜鉛表面にTiO
2前駆体を被覆させた。
【0142】
上記尿素は、亜鉛粉末分散液中で分子両端のアミノ基が正電荷を帯びるため、負電荷をもつ亜鉛粒子表面とTiO
2前駆体粒子表面をつなぎ合わせるリンカーの役割を果たす。
【0143】
実施例の二次電池用亜鉛負極材は、このような尿素の働きにより、亜鉛粒子表面にTiO
2前駆体粒子が付着し固定された被覆層を形成する。
【0144】
各実施例の二次電池用亜鉛負極材は、被覆組成物表面偏在比が1を大幅に上回る値を示したことからも、亜鉛粒子表面に固定された被覆組成物が、高い被覆率で亜鉛の表面を被覆していると考えられる。
【0145】
また、被覆組成物表面偏在比が1.6の実施例11は自己放電率が1.4%であったが、被覆組成物表面偏在比が1.3の比較例4は自己放電率が4.0と高いことから、被覆組成物表面偏在比が1.6以上で自己放電を抑止できることがわかる。
【0146】
さらに、被覆組成物表面偏在比が16の実施例12は充放電サイクル数が62であり、被覆層によって充放電反応が妨げられていないことがわかるが、被覆組成物表面偏在比が17の比較例5は充放電反応が妨げられて充放電サイクル数が8に低下した。