特許第6576476号(P6576476)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6576476Naドープされた、およびNbドープされた、Wドープされたおよび/またはMoドープされたHE−NCM
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6576476
(24)【登録日】2019年8月30日
(45)【発行日】2019年9月18日
(54)【発明の名称】Naドープされた、およびNbドープされた、Wドープされたおよび/またはMoドープされたHE−NCM
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/505 20100101AFI20190909BHJP
   H01M 4/525 20100101ALI20190909BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20190909BHJP
   C01G 53/00 20060101ALI20190909BHJP
【FI】
   H01M4/505
   H01M4/525
   H01M4/36 C
   C01G53/00 A
【請求項の数】19
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2017-564893(P2017-564893)
(86)(22)【出願日】2016年5月24日
(65)【公表番号】特表2018-524769(P2018-524769A)
(43)【公表日】2018年8月30日
(86)【国際出願番号】EP2016061639
(87)【国際公開番号】WO2016202536
(87)【国際公開日】20161222
【審査請求日】2018年2月13日
(31)【優先権主張番号】102015210895.3
(32)【優先日】2015年6月15日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】390023711
【氏名又は名称】ローベルト ボツシユ ゲゼルシヤフト ミツト ベシユレンクテル ハフツング
【氏名又は名称原語表記】ROBERT BOSCH GMBH
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100135633
【弁理士】
【氏名又は名称】二宮 浩康
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】マルテ ロルフ
(72)【発明者】
【氏名】アニカ マルチュク
(72)【発明者】
【氏名】トーマス エックル
【審査官】 冨士 美香
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2012/039413(WO,A1)
【文献】 特開2011−071090(JP,A)
【文献】 特開2005−235628(JP,A)
【文献】 特開2014−197540(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/121220(WO,A1)
【文献】 特開2009−032681(JP,A)
【文献】 特開2014−132572(JP,A)
【文献】 特開2011−210536(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2009/0155691(US,A1)
【文献】 WEI HE et.al.,JOURNAL OF MATERIALS CHEMISTRY A,ENHANCED HIGH-RATE CAPABILITY AND CYCLING STABILITY OF Na-STABILIZED LAYERED Li1.2[Co0.13Ni0.13Mn0.54]O2 CATHODE MATERIAL,2013年10月 7日,Vol.1, No.37,p.11397-11403
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00−4/62
C01G 53/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般化学式:
x(LiMO2):1−x(Li2-yNayMn1-zM′z3
[式中、Mは、ニッケルおよび/またはコバルトおよび/またはマンガンを表し、
M′は、ニオブおよび/またはタングステンおよび/またはモリブデンを表し、
0<x<1、0<y<0.5および0<z<1である]に基づく、電気化学エネルギー貯蔵装置用の活物質。
【請求項2】
Mは、ニッケル、コバルトおよびマンガンを表し、この場合、前記少なくとも1つの活物質は、一般化学式:
x(LiNiaCobMn1-a-b2):1−x(Li2-yNayMn1-zM′z3
[式中、0≦a≦1であり、かつ0≦b≦1である]に基づく、請求項1記載の活物質。
【請求項3】
M′は、ニオブおよび/またはタングステンを表し、かつ/または0.01≦z<0.3である、請求項1または2記載の活物質。
【請求項4】
少なくとも1つの、ナトリウムでドープされた、リチウム化可能な、遷移金属酸化物を基礎とする活物質を有する粒子(14)を含み、ここで、前記粒子(14)または前記粒子(14)を有する基体(20)に、リチウムイオン伝導性でありかつニオブおよび/またはタングステンおよび/またはモリブデンを含む機能層(16)が少なくとも部分的に備え付けられている、電気化学エネルギー貯蔵装置用の電極材料。
【請求項5】
前記機能層(16)は、ニオブ、および/またはタングステンを含む、請求項4記載の電極材料。
【請求項6】
前記少なくとも1つの活物質は、一般化学式:
x(LiMO2):1−x(Li2-yNayMnO3
[式中、Mは、ニッケルおよび/またはコバルトおよび/またはマンガンを表し、0<x<1および0<y<0.5である]に基づく、請求項4または5記載の電極材料。
【請求項7】
前記少なくとも1つの活物質は、一般化学式:
x(LiNiaCobMn1-a-b2):1−x(Li2-yNayMnO3
[式中、0≦a≦1および0≦b≦1である]に基づく、請求項6記載の電極材料。
【請求項8】
前記少なくとも1つの活物質は、請求項1から3までのいずれか1項記載の活物質を含むか、または請求項1から3までのいずれか1項記載の活物質である、請求項4から7までのいずれか1項記載の電極材料。
【請求項9】
方法工程:
− 少なくとも1つのリチウム化可能な、遷移金属酸化物を基礎とする活物質を有する粒子(14)、または前記粒子(14)を有する基体(20)を準備すること(100、100′)、ここで、前記少なくとも1つの活物質は、ポリマー熱分解法(100a、100b、100d、100e;100a′、100b′、100d′、100e′)により製造され、かつ/またはナトリウムでドープされるかもしくはドープされている;および
− 前記粒子および/または前記基体(20)を、リチウムイオン伝導性であり、かつニオブおよび/またはタングステンおよび/またはモリブデンを含む機能層(16)で被覆すること(102、108′)
を含む、請求項1から3までのいずれか1項記載の活物質および/または請求項4から8までのいずれか1項記載の電極材料および/または電極(10,10′)の製造方法。
【請求項10】
前記ポリマー熱分解法(100a、100b、100d、100e;100a′、100b′、100d′、100e′)は、方法工程:
− 少なくとも1つのリチウム塩および遷移金属塩を、少なくとも1つの重合可能なモノマーを含む溶液中に溶解および/または分散させること(100a;100a′);
− 前記少なくとも1つの重合可能なモノマーを少なくとも1つのポリマーに重合させること(100b;100b′);
− 前記少なくとも1つのポリマーを熱分解すること(100d;100d′);および
− 前記熱分解後に残留する残留物をか焼すること(100e;100e′)を含む、請求項9記載の方法。
【請求項11】
前記少なくとも1つの重合可能なモノマーがアクリル酸であり、
前記少なくとも1つのポリマーがポリアクリラートである、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
少なくとも1つのリチウム塩、ナトリウム塩および遷移金属塩を、溶液中に溶解および/または分散(100a;100a′)させる、請求項10または11記載の方法。
【請求項13】
前記機能層(16)は、ニオブおよび/またはタングステンを含む、請求項9から12までのいずれか1項記載の方法。
【請求項14】
前記少なくとも1つの活物質は、一般化学式:
x(LiMO2):1−x(Li2-yNayMnO3
[式中、Mは、ニッケルおよび/またはコバルトおよび/またはマンガンを表し、0<x<1および0<y<0.5である]に基づく、請求項9から13までのいずれか1項記載の方法。
【請求項15】
請求項1から3までのいずれか1項記載の少なくとも1つの活物質を有する、電極(10,10′)。
【請求項16】
請求項4から8までのいずれか1項記載の電極材料を有する、電極(10,10′)。
【請求項17】
請求項1から3までのいずれか1項記載の少なくとも1つの活物質を含む、電気化学エネルギー貯蔵装置。
【請求項18】
請求項4から8までのいずれか1項記載の電極材料を含む、電気化学エネルギー貯蔵装置。
【請求項19】
請求項15記載の電極を含む、電気化学エネルギー貯蔵装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気化学エネルギー貯蔵装置用の、ことにリチウムセル用の活物質、電極材料および電極、それらについての製造方法、ならびにそれらを備えた電気化学エネルギー貯蔵装置に関する。
【0002】
先行技術
現時点で、自動車の電化が著しく前進し、ここで、ことにリチウム−イオン−バッテリーが研究の焦点となっている。電気自動車での用途にとって、バッテリーは、長い寿命、例えば>10年の長い寿命を保証することが好ましい。この場合、セル電圧、および放電時に放出されるエネルギーは、例えば10年後でもなお初期値の約≧90%であるのが好ましい。
【0003】
リチウム過剰層状酸化物(OLO;英語でOverlithiated Layered Oxide)ともいわれる一般化学式:xLiMO2:1−xLi2MnO3[式中、Mはニッケル(Ni)、コバルト(Co)およびマンガン(Mn)を表す]の高エネルギーニッケル−コバルト−マンガン酸化物(HE−NCM)のようないわゆる高エネルギー材料は、高い開始エネルギー密度および開始電圧に基づき、極めて興味深いバッテリー材料であるが、今までは限定的なレート能力(Ratenfaehigkeit)を有し、かつ寿命の経過において容量低下(英語:Capacity Fade)を伴う電圧状態の明らかな損失(英語:Voltage Fade)を示し、それゆえ今まで商業的には利用されていない。
【0004】
W. He et al.は、Journal of Materials Chemistry A, 2013, 1, 第11397頁〜第11403頁において、ナトリウム安定化層状Li1.2[Co0.13Ni0.13Mn0.54]O2カソード材料を記載している。
【0005】
米国特許出願公開第2009/0155691号明細書(US 2009/0155691 A1)の文献は、リチウム二次電池用の正極材料としてのリチウムアルカリ遷移金属酸化物の製造方法に関する。
【0006】
米国特許出願公開第2008/0090150号明細書(US 2008/0090150 A1)の文献は、少なくとも1つの第1のリチウム−ニッケル−複合酸化物を含むリチウムイオン二次電池の活物質粒子に関する。
【0007】
欧州特許出願公開第2720305号明細書(EP 2 720 305 A1)の文献は、カソード活物質およびカソード活物質の前駆体としてのニッケル−複合水酸化物に関する。
【0008】
米国特許出願公開第2009/0297947号明細書(US 2009/0297947 A1)の文献は、ナノ構造化された、緻密でかつ球状に積層された正活物質に関する。
【0009】
発明の開示
本発明の主題は、一般化学式:
x(LiMO2):1−x(Li2-yNayMn1-zM′z3
[式中、Mは、ニッケル(Ni)および/またはコバルト(Co)および/またはマンガン(Mn)を表し、M′は、ニオブ(Nb)および/またはタングステン(W)および/またはモリブデン(Mo)、例えばニオブ(Nb)および/またはタングステン(W)を表し、
ここで、0<x<1、0<y<0.5および0<z<1である]を基礎とする、例えばリチウム過剰の、例えばナトリウムドープされた、ことにリチウム化可能な、遷移金属酸化物を基礎とする活物質、ことにカソード活物質、または正極用の、電気化学エネルギー貯蔵装置用の、ことにリチウムセル用の、例えばリチウムイオンセル用の、活物質に関する。
【0010】
活物質とは、ことに、充電過程または放電過程に関与し、かつそれにより本来の活性材料を表すことができる材料であると解釈することができる。
【0011】
電気化学エネルギー貯蔵装置とは、本発明の主旨で、ことに任意のバッテリーであると解釈することができる。ことに、エネルギー貯蔵装置は、一次電池、またはことに二次電池、つまり再充電可能な蓄電池を含むことができる。バッテリーは、この場合、1つのガルバーニ素子または複数の相互に接続されたガルバーニ素子を含むことができるか、またはこれらであることができる。例えば、エネルギー貯蔵装置は、例えばリチウムイオンバッテリーのようなリチウムを基礎とするエネルギー貯蔵装置を含むことができる。この場合、例えばリチウムイオンバッテリーのようなリチウムを基礎とするエネルギー貯蔵装置とは、ことに充電過程または放電過程の間の電気化学プロセスが少なくとも部分的にリチウムイオンに基づくエネルギー貯蔵装置であると解釈することができる。この場合、この種のエネルギー貯蔵装置は、例えばラップトップ用途、PDA用途、携帯電話用途および他のコンシューマー用途、電動工具、園芸工具、ならびに車両、例えばハイブリッド車両、プラグインハイブリッド車両、および電気自動車のためのバッテリーとして使用することができる。
【0012】
リチウムセルとは、ことにアノード(負極)がリチウムを含む電気化学セルであると解釈することができる。例えば、これは、リチウムイオンセル、アノード(負極)がインターカレーション材料、例えば黒鉛および/またはケイ素を含み、この中でリチウムが可逆的に出し入れ可能であるようなセル、または金属リチウムもしくはリチウム合金からなるアノード(負極)を有するセルであることができる。
【0013】
リチウム化可能な材料とは、ことに可逆的にリチウムイオンを収容および再放出することができる材料であると解釈することができる。例えば、リチウム化可能な材料は、リチウムイオンでインターカレート可能でありかつ/またはリチウムイオンで合金化可能であり、かつ/または相転移下でリチウムイオンを収容および再放出することができる。
【0014】
遷移金属とは、ことに、周期表において21〜30、39〜48、57〜80および89〜112の原子番号を有する元素であると解釈することができる。
【0015】
この種の活物質、例えば高エネルギー(HE)−NCM材料は、好ましくは明らかに改善されたレート能力ならびに安定化された活物質構造およびそれに伴う電圧状態および容量の安定化、または電圧低下の抑制または少なくとも明らかな低減、ならびに改善された出力エネルギー、ことに高められた出力電圧および出力容量、およびそれによる放電容量を有することができる。
【0016】
電圧状態および容量の安定化により、また好ましくは、これを備えたバッテリーの寿命を延長することができ、かつ高エネルギーバッテリー、例えば高エネルギーリチウムイオンバッテリーを、商業的用途のために利用可能にすることができる。
【0017】
したがって、全体として、好ましくは、電気化学エネルギー貯蔵装置、例えばリチウムセル、例えばリチウムイオンセルの寿命を延長することができ、かつ例えば電気化学エネルギー貯蔵装置は、商業的用途のため、ことに自動車用途のような高エネルギー用途に提供することができる。
【0018】
ニッケル、コバルトおよびマンガンは、好ましくはリチウム層状酸化物を形成することができ、この電気化学的潜在能力は、例えば自動車用途についての潜在能力は、ことにできる限り高い電圧状態および高い容量の観点で興味深い。
【0019】
ことにリチウムを部分的に置き換えることができるナトリウムによるドーピングによって、ナトリウムの比較的大きなイオン半径に基づき、リチウム層を広げることができ、このことが固有材料抵抗の低減を引き起こし、それによりレート能力の明らかな改善を引き起こすことができる。
【0020】
一般式:x(LiMO2):1−x(Li2-yNayMn1-zM′z3)を基礎とする活性材料の場合に、ことにLi2-yNayMn1-zM′z3を基礎とする領域が、構造的にLiMO2を基礎とする領域内に組み込まれていてよい。この場合、ことに、ドープされたLi2-yNayMn1-zM′z3状の領域は、活物質構造の安定化、およびそれに伴う電圧状態および容量の安定化、ならびに出力電圧および出力容量、ひいては放電容量の改善を引き起こすことができる。
【0021】
ニオブ、ことにニオブ(IV)、タングステン、ことにタングステン(IV)、およびモリブデン、ことにモリブデン(IV)は、好ましくは、構造安定化剤として公知の酸化還元不活性のスズ(IV)と極めて類似のイオン半径を有することができる。酸化還元不活性のスズ(IV)とは反対に、ニオブ、ことにニオブ(IV)、タングステン、ことにタングステン(IV)、およびモリブデン、ことにモリブデン(IV)は、ことにイオン半径の僅かな変化下で酸化還元活性であり、かつ好ましくは、スズおよびマグネシウムのような酸化還元不活性のドーパント元素とは反対に、付加的容量を提供することができる。それにより、好ましくは、スズおよびマグネシウムのような酸化還元不活性のドーパント元素と比べて、改善された出力エネルギー密度、ことに高められた出力電圧および出力容量、ひいては放電容量を達成することができる。
【0022】
化成の間に、初めはマンガンに関して電気化学的にまだ不活性のLi2-yNayMn1-zM′z3成分を、酸素を不可逆に脱離しながら活性化することができ、この場合、部分的に、Mn(IV)を、電気化学的に活性のニオブ、ことにニオブ(IV)、タングステン、ことにタングステン(IV)、および/またはモリブデン、ことにモリブデン(IV)に置き換えることができる。それにより、材料の必然的な活性化ひいては、遷移金属、ことにマンガンおよび/またはニッケルの移動、およびそれによる、例えば活物質中での局所的な構造的な転移による電圧低下を促進しかねない酸素空孔の形成を低減することができる。ことに、ドープされていないかまたは酸化還元不活性の元素、例えばスズ(IV)でドープされた材料の場合よりも少ない酸素を不可逆に放出することを達成することができる。これは、好ましくは構造の安定化、ひいては電圧状態の安定化を引き起こすことができる、というのも活物質または電極材料中に、遷移金属、ことにマンガンおよび/またはニッケルが移動し、それにより構造を変化させるかまたは不安定化しかねない欠陥が余り生じないためである。
【0023】
M′は、ことに、ニオブ(IV)および/またはタングステン(IV)および/またはモリブデン(IV)を表すことができる。ニオブ(IV)、タングステン(IV)およびモリブデン(IV)は、好ましくは、構造安定化するが、酸化還元不活性のスズ(IV)のイオン半径とほぼ同じであることができる、例えば≧70pm〜≦85pmの範囲内のイオン半径を有することができる。例えば格子定数a、bおよび/またはcの増加により特徴付けることができる結晶格子の拡張は、サイクルの間に、遷移金属、ことにマンガンおよび/またはニッケルの移動を促進することができる。それに対して、ニオブ(IV)および/またはタングステン(IV)および/またはモリブデン(IV)によるドーピングにより、ひいては、活性化の際に低減された酸素放出により、好ましくは、活物質もしくは電極材料中での結晶格子の拡張、ひいては遷移金属、ことにマンガンおよび/またはニッケルの移動を低減することができ、ならびに遷移金属、ことにマンガンおよび/またはニッケルの溶解に対する保護を実現することができる。これにより、好ましくは容量低下および電圧低下をさらに低減することができ、ならびに電気化学エネルギー貯蔵装置、例えばリチウムセルおよび/またはリチウムバッテリーの寿命を延長することができる。
【0024】
さらに、ニオブ(IV)、タングステン(IV)およびモリブデン(IV)は、好ましくは、少なくとも2つの連続する酸化状態で、ことに酸化還元反応の進行の際に、イオン半径の僅かな変化を示すことがある。例えば、これらは少なくとも2つの連続する酸化状態で、それぞれ例えば≧70pm〜≦85pmの範囲内にあることができるイオン半径を有することができる。サイクルの間のイオン半径の著しい変化が遷移金属の移動をさらに促進しかねないため、イオン半径の僅かな変化により、遷移金属の溶解に対してより良好な保護が提供され、ならびに活物質または電極材料をさらに安定化することができる。
【0025】
Mは、ことにニッケル(II)および/またはコバルト(II)および/またはマンガン(II)を表すことができる。例えば、0.2≦x≦0.7、例えば0.3≦x≦0.55であることができる。例えばM、はマンガン(Mn)およびニッケル(Ni)および/またはコバルトを表すことができる。
【0026】
一実施形態の範囲内で、Mはニッケル(Ni)、コバルト(Co)およびマンガン(Mn)を表す。
【0027】
この実施形態の特別な実施態様の範囲内で、少なくとも1つの活物質は、一般化学式:
x(LiNiaCobMn1-a-b2):1−x(Li2-yNayMn1-zM′z3)、
[式中、0≦a≦1、例えば0.2≦a≦0.8、例えば0.3≦a≦0.45、および0≦b≦1、例えば0≦b≦0.5、例えば0.2≦b≦0.35]に基づく。例えば、aおよびbは、1/3を表し、例えばこの場合、LiNiaCobMn1-a-b2は、LiMn1/3Ni1/3Co1/32である。
【0028】
別の実施形態の範囲内で、0.01≦z≦0.3である。ことに、0.01≦z≦0.2であることができる。
【0029】
別の実施形態の範囲内で、M′は、ニオブ、ことにニオブ(IV)、および/またはタングステン、ことにタングステン(IV)を表す。
【0030】
本発明による活物質のさらなる技術的特徴および利点に関しては、これにより、本発明による電極材料、本発明による製造方法、本発明による電極、本発明による電気化学エネルギー貯蔵装置との関連での説明、ならびに図面および図面の説明を明確に参照する。
【0031】
本発明の別の主題は、少なくとも1つの、例えばリチウム過剰の、ことにナトリウム(Na)でドープされた、リチウム化可能な、遷移金属酸化物を基礎とする活物質を有する粒子を含み、ここで、この粒子または粒子を有する基体は、少なくとも部分的に機能層を備えていて、この機能層はリチウムイオン伝導性であり、かつニオブ(Nb)および/またはタングステン(W)および/またはモリブデン(Mo)を含む電極材料、ことに正極用の、電気化学エネルギー貯蔵装置用の、ことにリチウムセル用の、例えばリチウムイオンセル用の、カソード材料もしくは電極材料である。
【0032】
粒子とは、ことに、例えば出発粉末の一次粒子および/または二次粒子であると解釈することができる。
【0033】
基体とは、ことに1つの、例えば加工し終えた、電極材料からなる物体であると解釈され、この物体または電極材料は、少なくとも1つの活物質を含む粒子を含むかまたは少なくとも1つの活物質を含む粒子からなる。
【0034】
機能層とは、ことに、例えばリチウム電池中で使用する場合に、活物質と電解質との相互作用を妨げる保護層であると解釈することができる。
【0035】
リチウムイオン伝導性でかつニオブ、タングステンおよび/またはモリブデンを含む機能層を設けることにより、好ましくは、遷移金属、ことにマンガンおよび/またはニッケルの損失もしくは電解質中での溶解に対して、活物質もしくは電極材料の極めて効果的な保護を提供することができ、そうでなければリチウム含有遷移金属化合物のアノード上への析出を引き起こし、それにより提供される遷移金属および/またはリチウムの損失を引き起こし、それにより容量低下を引き起こしかねない。この場合、機能層は、好ましくは一種のバリアとして機能することができ、この場合、構造安定化するおよび酸化還元活性のニオブ、タングステンおよび/またはモリブデンが、例えばリチウムセル中での使用の際に、粒子の活物質と電解質との相互作用を妨げ、それにより遷移金属の溶解または流出を妨げることができる。よって、好ましくは容量低下の低減、ひいてはリチウムセルおよび/またはリチウムバッテリーの寿命の延長を達成することができる。
【0036】
粒子の被覆もしくは粒子を有する基体の被覆の際に、好ましくは、1つの方法工程で、ニオブ、タングステンおよび/またはモリブデンによるドーピングを、少なくとも1つの活物質、ことにLi2-yNayMn1-zM′z3成分内へ導入することができる。したがって、1つだけの方法工程により、好ましくは極めて効果的でかつ低コストの方法様式で、HE−NCM材料の2つの中心的問題に対して、つまり容量低下に対しては機能層により、ならびに電圧低下に対しては機能層に由来するニオブ、タングステンおよび/またはモリブデンによるドーピングにより対抗することができる。
【0037】
例えば、少なくとも1つの活物質、ことに粒子は、少なくとも1つの、例えばリチウム過剰の、例えばナトリウムドープされた、ことにリチウム化可能な、遷移金属酸化物を基礎とする活物質、例えばマンガン酸化物、ことにニッケル−コバルト−マンガン酸化物を含むか、またはそれらであってよい。
【0038】
一実施形態の範囲内で、少なくとも1つの活物質、ことに粒子は、一般化学式:
x(LiMO2):1−x(Li2-yNayMnO3
[式中、Mは、ニッケル(Ni)および/またはコバルト(Co)および/またはマンガン(Mn)を表し、かつ0<x<1、および0<y<0.5である]に基づく。
例えば、Mは、マンガン(Mn)およびニッケル(Ni)および/またはコバルトを表すことができる。
【0039】
この実施形態の一実施態様の範囲内で、Mは、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)およびマンガン(Mn)を表す。
【0040】
ことに、この場合、少なくとも1つの活物質、ことに粒子は、一般化学式:
x(LiNiaCobMn1-a-b2):1−x(Li2-yNayMnO3
[式中、0≦a≦1、例えば0.2≦a≦0.8、例えば0.3≦a≦0.45であり、かつ0≦b≦1、例えば0≦b≦0.5、例えば0.2≦b≦0.35である]に基づくことができる。
【0041】
機能層は、ことにニオブ(IV)および/またはタングステン(IV)および/またはモリブデン(IV)を含むことができる。
【0042】
一実施形態の範囲内で、機能層は、ニオブ、ことにニオブ(IV)、および/またはタングステン、ことにタングステン(IV)を含む。
【0043】
既に説明したように、少なくとも1つの活物質、ことに粒子を、機能層からのニオブ、タングステンおよび/またはモリブデンによりドープすることができる。したがって、ことに、少なくとも1つの活物質、ことに粒子は、例えばナトリウムおよびニオブおよび/またはタングステンおよび/またはモリブデン、例えばナトリウムおよびニオブおよび/またはタングステンでドープされているリチウム過剰の、マンガン酸化物、ことにニッケル−コバルト−マンガン酸化物を含むか、またはそれらであってよい。
【0044】
別の実施形態の範囲内で、少なくとも1つの活物質、ことに粒子は、先に説明した本発明による活物質を含むか、またはそれらであってよい。
【0045】
粒子に加えて、基体は、例えば少なくとも1つの導電性添加物、例えば単体炭素、例えばカーボンブラック、黒鉛および/またはカーボンナノチューブ、および/または例えば天然または合成のポリマー、例えばポリフッ化ビニリデン(PVDF)、アルギナート、スチレン−ブタジエン−ゴム(SBR)、ポリエチレングリコールおよび/またはポリエチレンイミンの群から選択される少なくとも1つの結合剤を含むことができる。
【0046】
この基体は、例えば、基体の厚さ方向で見てニオブ、タングステンおよび/またはモリブデンの勾配を有することができる。この場合、この勾配は例えば、ことに機能層から出発して、ことに電流導出体として機能する金属支持体に向かって減少することができる。これは、好都合なことに十分であることがある、というのも活物質と電解質との相互作用はほぼ表面領域において行われ、よってこのコストを酸化還元活性のドーパント元素によって低減することができるためである。
【0047】
さらに、場合により、粒子および/または基体の被覆、例えば酸化アルミニウム(Al23)、フッ化アルミニウム(AlF3)、酸化アルミニウムリチウム(LiAlOx)、二酸化ジルコニウム(ZrO2)、二酸化チタン(TiO2)、リン酸アルミニウム(AlPO4)および/またはリチウムリン酸窒化物(LiPON;英語:Lithium Phosphorous Oxynitride)および/または例えば遷移金属溶解および/または他の材料−電解質相互作用を低下させることができる他の化合物(「single particle coating」)の被覆が存在していてもよい。
【0048】
本発明による電極材料の他の技術的特徴および利点に関しては、これによって、本発明による活物質、本発明による製造方法、本発明による電極、本発明による電気化学エネルギー貯蔵装置との関連での説明、ならびに図面および図面の説明を明確に参照する。
【0049】
本発明の別の主題は、電気化学エネルギー貯蔵装置用の、活物質、ことにカソード活物質、および/または電極材料、ことにカソード材料、および/または電極、ことにカソードもしくは正極の製造方法である。ことに、本発明による活物質、および/または本発明による電極材料、および/または本発明による電極の製造方法であることができる。
【0050】
この方法は、ことに方法工程:
− 少なくとも1つの活物質がポリマー熱分解法によって製造され、かつ/またはナトリウムでドープされるかまたはドープされている、少なくとも1つのリチウム化可能な、遷移金属酸化物を基礎とする活物質を有する粒子、またはこの粒子を有する基体を準備すること;および
− この粒子および/または基体を、リチウムイオン伝導性でありかつニオブ(Nb)および/またはタングステン(W)および/またはモリブデン(Mo)を含む機能層で被覆すること、
を含むことができる。
【0051】
例えば、少なくとも1つの活物質、ことに粒子は、少なくとも1つの、例えばリチウム過剰の、例えばナトリウムでドープされた、ことにリチウム化可能な、遷移金属酸化物を基礎とする活物質、例えばマンガン酸化物、ことにニッケル−コバルト−マンガン酸化物を含むかまたはこれらであることができる。
【0052】
一方で、この方法により、極めて簡単な方法様式で、遷移金属、ことにニッケルおよび/またはマンガンの溶解または流出を妨げ、かつそれに伴う容量低下を妨げるために、活物質用の保護する機能層を提供することができる。他方で、この方法は、機能層のニオブおよび/またはタングステンおよび/またはモリブデンの一部を粒子もしくは基体の被覆の際にドーパント元素として活物質内に導入することができるという著しい利点を付加的に提供することができる。それにより、好ましくは、結果として構造安定化を行うことができるニオブおよび/またはタングステンおよび/またはモリブデンによる活物質のドーピングを引き起こすことができる。後者は、先に説明したように、電気化学的に不活性なLi2MnO3成分を活性化する第1の化成サイクルの際に、余り酸素を不可逆に脱離せず、それによりドーピングされていないHE−NCM材料の場合よりも少ない酸素欠損箇所が形成されることに起因すると見なすことができる。したがって、唯一の方法工程で、HE−NCM材料の2つの主要な問題、つまり容量低下を、粒子もしくは基体を機能層で被覆することにより、ならびに電圧低下を、機能層に由来する酸化還元活性のニオブおよび/またはタングステンおよび/またはモリブデンによる活物質の同時のドーピングにより考慮することができる。
【0053】
例えば、唯一のプロセス工程で、電圧状態の損失と対抗するための金属ドーピングおよび容量低下に対抗するための保護層を導入するために、粒子を、例えばポリマー熱分解法により準備するかもしくは製造する際に、ニオブおよび/またはタングステンおよび/またはモリブデンを含む少なくとも1つの化合物の混合、および例えば、Al23、LiAlOx、ZrO2、TiO2、AlPO4、LiPON、マグネシウム化合物および/またはスズ化合物を含む酸化還元不活性の元素を基礎とする被覆を行わないこともできる。
【0054】
一実施形態の範囲内で、ポリマー熱分解法は、方法工程:
− 少なくとも1つの重合可能なモノマーを含む溶液中で、少なくとも1つのリチウム塩および遷移金属塩を溶解および/または分散させること;
− 少なくとも1つの重合可能なモノマーを少なくとも1つのポリマーに重合させること。
− 少なくとも1つのポリマーを熱分解すること;および
− 熱分解の後に残留する残留物をか焼すること
を含む。
【0055】
例えば、少なくとも1つの重合可能なモノマーはアクリル酸を含むかまたはアクリル酸であることができる。この場合、少なくとも1つのポリマーは、ことにポリアクリラートを含むかまたはポリアクリラートであることができる。
【0056】
これらの塩をまずモノマー含有溶液中に溶解し、かつこのモノマーをポリマーに重合させることにより、好ましくは、ことに金属が微細に分配されて存在するポリマー金属塩前駆体、例えばポリアクリラートを形成することができる。
【0057】
この溶液は、例えば水溶液であることができる。
【0058】
この実施形態の一実施態様の範囲内で、少なくとも1つのリチウム塩、ナトリウム塩および遷移金属塩、ことにマンガン塩を、溶液中に溶解および/または分散させる。さらに、この溶液中に、例えば少なくとも1つのニッケル塩および/またはコバルト塩を溶解および/または分散させることができる。例えば、少なくとも1つのリチウム塩、ナトリウム塩、マンガン塩、ニッケル塩およびコバルト塩を、溶液中に溶解および/または分散させることができる。
【0059】
リチウム塩は、例えば水酸化リチウム、例えばLiOH・H2Oを含むか、または水酸化リチウムであることができる。ナトリウム塩は、例えば水酸化ナトリウム、例えばNaOHを含むか、または水酸化ナトリウムであることができる。マンガン塩は、例えばマンガン(II)塩、および/または硝酸マンガン、ことに硝酸マンガン(II)、例えばMn(NO32を含むか、またはこれらであることができる。ニッケル塩は、例えばニッケル(II)塩および/または硝酸ニッケル、ことに硝酸ニッケル(II)、例えばNi(NO32・6H2Oを含むか、またはこれらであることができる。コバルト塩は、例えばコバルト(II)塩および/または硝酸コバルト、ことに硝酸コバルト(II)、例えばCo(NO32・6H2Oを含むか、またはこれらであることができる。
【0060】
これらの金属塩は、例えば化学量論量で使用することができる。しかしながら、リチウム塩の中で、ことに、例えば5%の過剰量を使用することができる。このようにして、好ましくは後のか焼の際のリチウム損失を補償することができる。
【0061】
少なくとも1つの重合可能なモノマー、例えばアクリル酸を、少なくとも1つのポリマー、例えばポリアクリラートに重合するために、ことに少なくとも1つの重合開始剤を溶液および/または分散液に添加することができる。例えば、重合開始剤として、少なくとも1つのペルオキソ二硫酸塩、例えばペルオキソ二硫酸アンモニウム、例えば(NH4228を使用することができる。
【0062】
場合により、少なくとも1つのポリマーを、ことに熱分解の前に、≧100℃、例えば約120℃の温度で乾燥することができる。
【0063】
少なくとも1つのポリマーの熱分解を、ことに空気雰囲気下で実施することができる。例えば、少なくとも1つのポリマーの熱分解を、≧450℃、例えば約480℃の温度で実施することができる。例えば、この熱分解を、≧4h、例えば約5hの時間にわたり実施することができる。
【0064】
熱分解後に残留する残留物のか焼を、ことに同様に空気雰囲気下で実施することができる。例えば、熱分解後に残留する残留物のか焼を、≧850℃、例えば約900℃の温度で実施することができる。例えば、このか焼を、≧4h、例えば約5hの時間にわたり実施することができる。
【0065】
例えば、少なくとも1つの活物質、ことに粒子は、一般化学式:
x(LiMO2):1−x(Li2-yNayMnO3
[式中、Mは、ニッケル(Ni)および/またはコバルト(Co)および/またはマンガン(Mn)を表し、かつ0<x<1および0<y<0.5である]に基づくことができる。例えば、Mは、この場合、マンガン(Mn)およびニッケル(Ni)および/またはコバルト(Co)を表すことができる。ことに、Mは、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)およびマンガン(Mn)を表すことができる。例えば、少なくとも1つの活物質、ことに粒子は、一般化学式:
x(LiNiaCobMn1-a-b2):1−x(Li2-yNayMnO3
[式中、0≦a≦1、例えば0.2≦a≦0.8、例えば0.3≦a≦0.45であり、かつ0≦b≦1、例えば0≦b≦0.5、例えば0.2≦b≦0.35である]に基づくことができる。
【0066】
機能層は、ことにニオブ(IV)および/またはタングステン(IV)および/またはモリブデン(IV)を含むことができる。
【0067】
別の実施形態の範囲内で、機能層は、ニオブ、ことにニオブ(IV)、および/またはタングステン、ことにタングステン(IV)を含む。
【0068】
粒子、例えば一次粒子および/または二次粒子を、機能層で被覆することは、ことに、粒子、例えばポリマー熱分解法により得られた粉末を、例えば水および/または他の分散媒体中で、ニオブ(Nb)および/またはタングステン(W)および/またはモリブデン(Mo)を含む少なくとも1つの化合物と一緒に混合することにより行うことができる。次いで、固体を分散液から、例えば濾別により分離することができる。この固体もしくは残留物を、次いで場合により、≧100℃、例えば約105℃で、例えば数時間、例えば約10h乾燥させることができる。この固体を、(次いで)≧450℃の温度で、例えば数時間、例えば約5h強熱することができる。しかしながら、粒子を機能層で被覆するためには、ニオブおよび/またはタングステンおよび/またはモリブデンを含む少なくとも1つの化合物を用いたスパッタリング(英語:Sputtering)のような、当業者に公知の別の被覆方法を実施することもできる。
【0069】
基体、もしくは加工し終えた、例えば積層した電極を機能層で被覆することは、当業者に公知の方法、例えば、ニオブおよび/またはタングステンおよび/またはモリブテンを含む少なくとも1つの化合物を用いた原子層堆積(英語:Atomic Layer Deposition)および/またはスパッタリング(英語:Sputtering)によって実施することができる。
【0070】
例えば、ニオブ化合物として、Li7La3Nb213、Li7NbO6、Li3NbO4、LiTiNb29および/またはLi8-xZr1-xNbx6を使用することができる。タングステン化合物として、例えば、Li6WO6、Li4WO5および/またはLi629を使用することができる。
【0071】
一実施態様の範囲内で、ことに、粒子を被覆する実施態様の範囲内で(「single particle coating」)、この方法は、次の方法工程を有することができる:
− 少なくとも1つのリチウム化可能な、遷移金属酸化物を基礎とする活物質を含む粒子、またはこの粒子を含む基体を準備すること、ここで、少なくとも1つの活物質は、ポリマー熱分解法により製造されかつ/またはナトリウムでドープされるかもしくはドープされている;
ことに、この場合、ポリマー熱分解法は次の方法工程:
− 少なくとも1つのリチウム塩および遷移金属塩を、少なくとも1つの重合可能なモノマーを含む溶液に溶解および/または分散させること;
− 少なくとも1つの重合可能なモノマーを少なくとも1つのポリマーに重合させること;
− 場合により、少なくとも1つのポリマーを乾燥すること;
− 少なくとも1つのポリマーを熱分解すること;および
− 熱分解後に残留する残留物をか焼すること;
を含む;
− 粒子を、リチウムイオン伝導性であり、かつニオブおよび/またはタングステンおよび/またはモリブデン、例えばニオブおよび/またはタングステンを含む機能層で被覆すること、
− 導電性添加物および結合剤を添加すること;
− 機能層を有する粒子、導電性添加物および結合剤からなる群からなる成分を乾式プレスするか、または機能層を有する粒子、導電性添加物および結合剤からなる群からなる成分を、溶媒、例えばN−メチル−2−ピロリドン中に分散させること;
− こうして得られた圧縮結合体を、金属支持体、例えばアルミニウム箔に塗布するか、またはこうして得られた分散液を、金属支持体、例えばアルミニウム箔に塗布、ことにブレード塗布すること;および
− 場合により、分散液を乾燥すること。
【0072】
一実施態様の範囲内で、ことに基体を被覆する実施態様の範囲内で(「laminate coating」)、この方法は次の方法工程を有することができる:
− 少なくとも1つのリチウム化可能な、遷移金属酸化物を基礎とする活物質を有する粒子、またはこの粒子を有する基体を準備すること、ここでこの少なくとも1つの活物質は、ポリマー熱分解法により製造されかつ/またはナトリウムでドープされるかもしくはドープされている;
ことに、ここで、ポリマー熱分解法は、方法工程:
− 少なくとも1つのリチウム塩および遷移金属塩を、少なくとも1つの重合可能なモノマーを含む溶液中に溶解および/または分散させること;
− 少なくとも1つの重合可能なモノマーを少なくとも1つのポリマーに重合させること;
− 場合により、少なくとも1つのポリマーを乾燥すること;
− 少なくとも1つのポリマーを熱分解すること;および
− 熱分解後に残留する残留物をか焼すること;
を含む;
− 導電性添加物および結合剤を添加すること;
− 粒子、導電性添加物および結合剤からなる群からなる成分を乾式プレスするか、または粒子、導電性添加物および結合剤からなる群からなる成分を、溶媒、例えばN−メチル−2−ピロリドン中に分散させること;
− 粒子を有する基体を形成するために、こうして得られた圧縮結合体を、金属支持体、例えばアルミニウム箔に塗布するか、またはこうして得られた分散液を、金属支持体、例えばアルミニウム箔に塗布、ことにブレード塗布すること;
− 場合により、分散液を乾燥すること;
− 基体を、リチウムイオン伝導性であり、かつニオブおよび/またはタングステンおよび/またはモリブデン、例えばニオブおよび/またはタングステンを含む機能層で被覆すること。
【0073】
本発明の主題は、さらに、本発明による方法により製造された活物質および/または本発明による方法により製造された電極材料である。
【0074】
本発明による製造方法ならびに本発明による製造方法により製造された活物質もしくは電極材料の別の技術的特徴および利点に関しては、これによって、本発明による活物質、本発明による電極材料、本発明による電極、本発明による電気化学エネルギー貯蔵装置との関連での説明、ならびに図面および図面の説明を明確に参照する。
【0075】
本発明の別の主題は、ことに、少なくとも1つの本発明による活物質および/または本発明による方法により製造された活物質、および/または本発明による電極材料および/または本発明による方法により製造された電極材料を含む、および/または本発明による方法により製造されている電極、ことにカソードである。
【0076】
本発明による電極の別の技術的特徴および利点に関して、これによって、本発明による活物質、本発明による電極材料、本発明による製造方法、本発明による電気化学エネルギー貯蔵装置との関連での説明、ならびに図面および図面の説明を明確に参照する。
【0077】
さらに、本発明は、本発明による活物質および/または本発明により製造された活物質および/または本発明による電極材料および/または本発明により製造された電極材料および/または本発明による電極および/または本発明により製造された電極を含む電気化学エネルギー貯蔵装置、ことにリチウムセルおよび/またはリチウムバッテリー、例えばリチウムイオンセルおよび/またはリチウムイオンバッテリーに関する。
【0078】
本発明による電気化学エネルギー貯蔵装置の別の技術的特徴および利点に関して、これによって、本発明による活物質、本発明による電極材料、本発明による製造方法、本発明による電極との関連での説明、ならびに図面および図面の説明を明確に参照する。
【0079】
図面
本発明による主題の別の利点および好ましい実施態様は、図面により説明され、かつ次の記載において説明される。この場合、これらの図面は、説明する性質を有するだけであり、かつ本発明を何らかの形で限定するものとは意図されないことに留意すべきである。
【図面の簡単な説明】
【0080】
図1】電極の一実施形態の略示断面図である。
図2】機能層で被覆された粒子の一実施形態の略示断面図である。
図3】電極の別の実施形態の略示断面図である。
図4図1に示した電極を製造するための本発明による方法の一実施態様のフローチャートである。
図5図3に示した電極を製造するための本発明による方法の別の実施形態のフローチャートである。
【0081】
図1には、金属支持体12を有する電極10が示されている。金属支持体12は、この場合、リチウムセルまたはリチウムバッテリーにおいて、導出体、ことにカソード導出体として利用することができる。電極10は、さらに、多数の粒子14を有し、この粒子は金属支持体12上に配置されている。この場合、粒子14は、少なくとも1つの、ナトリウムでドープされた、リチウム化可能な遷移金属酸化物を基礎とする活物質を有する。
【0082】
図1および2から明らかなように、粒子14は、機能層16を備えているかまたは機能層16で被覆されている。この場合、本発明による機能層16は、リチウムイオン伝導性であり、かつニオブおよび/またはタングステンおよび/またはモリブデンを含む。酸化還元活性のニオブおよび/またはタングステンおよび/またはモリブデンに基づき、機能層16は、例えばリチウムセルの使用の際にもしくはリチウムセルの運転の際に、この機能層16が活物質と電解質との相互作用を妨げ、それにより電極を遷移金属の損失から保護することができるように構成されている。粒子14は、完全にまたは部分的にだけ、機能層16により取り囲まれていてもよい。表示の理由から、図1中では、全ての粒子14の機能層16を個別に記入することを行わなかった。多数の粒子14は電極10の表面に配置されていて、かつこの場合、機能層16により覆われることなくこの表面から突き出すことも十分に考えられる。
【0083】
図1および2にさらに示されているように、大部分の粒子14は、さらに酸化還元活性のニオブおよび/またはタングステンおよび/またはモリブデン18をドーパント元素として有する。ことに、粒子14は、ニオブおよび/またはタングステンおよび/またはモリブデン18でドープされている少なくとも1つの活物質を有する。酸化還元活性のニオブおよび/またはタングステンおよび/またはモリブデンは、ことに機能層16に由来する。電極10は、少なくとも1つの活物質の他に、例えばさらに少なくとも1つの導電性添加物および少なくとも1つの結合剤(図示されていない)を有することができる。この場合、例えば、少なくとも1つの活物質、少なくとも1つの導電性添加物、および少なくとも1つの結合剤が、電極10の電極材料を形成することができる。
【0084】
図3には、電極10′が示されていて、この電極10′は図1における電極10と同様に、金属支持体12を有する。金属支持体12上に、基体20が配置されていて、この基体20は、粒子14を有するかまたは粒子14からなる。この場合、個々の粒子14は未被覆であり、かつ同様に少なくとも1つの、ナトリウムでドープされた、リチウム化可能な遷移金属酸化物を基礎とする活物質を有する。この場合、電極10′もしくは基体20は、活物質の他に付加的に適切な導電性添加剤および適切な結合剤(図示されていない)有することができる。図3は、さらに、基体20が機能層16を備えていることを示す。この場合、機能層16は、図1および2との関連で説明された機能層と同様に、リチウムイオン伝導性であり、かつニオブおよび/またはタングステンおよび/またはモリブデンを含む。機能層16は、ことにその組成に基づいて、機能層16が、例えばリチウムセルの使用の際にもしくはリチウムセルの運転の際に、活物質と電解質の相互作用を妨げ、かつそれにより電極10′を遷移金属の損失から保護することができるように構成されている。電極10′は、例えば、基体20を機能層16で被覆する前に、積層し終えていてよい。
【0085】
図1および2にさらに示されているように、電極10′もしくは基体20は、さらに酸化還元活性のニオブおよび/またはタングステンおよび/またはモリブデン18をドーパント元素として有する。ことに、基体20もしくは基体20の粒子14は、少なくとも1つの活物質を有し、この活物質はニオブおよび/またはタングステンおよび/またはモリブデン18でドープされている。酸化還元活性のニオブおよび/またはタングステンおよび/またはモリブデンは、ことに機能層16に由来する。さらに、基体20は、その厚さ方向で見て、酸化還元活性のニオブおよび/またはタングステンおよび/またはモリブデン18の勾配を有することができる。酸化還元活性のニオブおよび/またはタングステンおよび/またはモリブデン18の勾配は、ことに機能層16から金属支持体12に向かって減少する。
【0086】
図4は、図1によるリチウムセル用の電極10、ことにカソードの製造方法のフローチャートを示す(「single particle coating」)。この方法は、少なくとも1つのリチウム化可能な遷移金属酸化物を基礎とする活物質を有する粒子14を準備する工程100を有し、この場合、少なくとも1つの活物質は、ポリマー熱分解法100a、100b、100c、100d、100eを用いて製造されかつ/またはナトリウムでドープされるかもしくはドープされている。この場合、ポリマー熱分解法は、少なくとも1つのリチウム塩および遷移金属塩を、少なくとも1つの重合可能なモノマーを有する溶液中へ溶解および/または分散させる工程100a、少なくとも1つの重合可能なモノマーを少なくとも1つのポリマーに重合させる工程100b、場合により、少なくとも1つのポリマーを乾燥させる工程100c、少なくとも1つのポリマーを熱分解する工程100d、および熱分解後に残留する残留物をか焼する工程100eを含む。さらに、この方法は、粒子14を、リチウムイオン伝導性でありかつニオブおよび/またはタングステンおよび/またはモリブデンを含む機能層16で被覆する工程102、導電性添加物および結合剤を添加する工程104、機能層16を備えた粒子14、導電性添加物および結合剤からなる群からの成分を乾式プレスする工程106、または機能層16を備えた粒子14、導電性添加物および結合剤からなる群からの成分を溶媒中に分散させる工程106、こうして得られた圧縮結合体を、金属支持体12上に施す工程108、もしくはこうして得られた分散液を金属支持体12上に施す、ことにブレード塗布する工程108、および場合により分散液を乾燥させる工程(図示されていない)を含む。
【0087】
図5は、図3によるリチウムセル用の電極10′、ことにカソードの製造方法のフローチャートを示す(「laminate coating」)。この方法は、少なくとも1つのリチウム化可能な遷移金属酸化物を基礎とする活物質を有する粒子14を準備する工程100′を有し、この場合、少なくとも1つの活物質は、ポリマー熱分解法100a′、100b′、100c′、100d′、100e′を用いて製造されかつ/またはナトリウムでドープされるかもしくはドープされている。この場合、ポリマー熱分解法は、少なくとも1つのリチウム塩および遷移金属塩を、少なくとも1つの重合可能なモノマーを含む溶液中に溶解および/または分散させる工程100a′、少なくとも1つの重合可能なモノマーを少なくとも1つのポリマーに重合させる工程100b′、場合により、少なくとも1つのポリマーを乾燥させる工程100c′、少なくとも1つのポリマーを熱分解する工程100d′、および熱分解後に残留する残留物をか焼する工程100e′を含む。さらに、この方法は、導電性添加物および結合剤を添加する工程102′、粒子14、導電性添加物および結合剤からなる群からの成分を乾式プレスする工程104′、または粒子14、導電性添加物および結合剤からなる群からの成分を溶媒中に分散させる工程104′、粒子14を有する基体20を形成するために、こうして得られた圧縮結合体を金属支持体12上に施す工程106′、もしくはこうして得られた分散液を金属支持体12上に施す、ことにブレード塗布する工程106′、場合により、分散液を乾燥させる工程(図示されていない)、および基体20を、リチウムイオン伝導性でありかつニオブおよび/またはタングステンおよび/またはモリブデンを含む機能層16で被覆する工程108′を含む。
図1
図2
図3
図4
図5