特許第6576503号(P6576503)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6576503
(24)【登録日】2019年8月30日
(45)【発行日】2019年9月18日
(54)【発明の名称】発振器
(51)【国際特許分類】
   H03B 5/32 20060101AFI20190909BHJP
【FI】
   H03B5/32 A
【請求項の数】4
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2018-78491(P2018-78491)
(22)【出願日】2018年4月16日
(62)【分割の表示】特願2013-228498(P2013-228498)の分割
【原出願日】2013年11月1日
(65)【公開番号】特開2018-110460(P2018-110460A)
(43)【公開日】2018年7月12日
【審査請求日】2018年4月16日
(73)【特許権者】
【識別番号】000232483
【氏名又は名称】日本電波工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100166006
【弁理士】
【氏名又は名称】泉 通博
(72)【発明者】
【氏名】國友 大裕
【審査官】 橋本 和志
(56)【参考文献】
【文献】 特開2001−251141(JP,A)
【文献】 特開2003−069422(JP,A)
【文献】 特開平07−254820(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H03B5/30−5/42
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
発振信号を出力する発振部と、
前記発振部を加熱する発熱部と、
前記発振部の周囲温度を検出する温度検出部と、
前記周囲温度が目標温度よりも低い切替温度において、前記発熱部に印加される発熱制御電圧を生成する増幅器のゲインを切り替えることにより前記発熱部の発熱量を制御する制御部と、
を有し、
前記制御部は、前記切替温度よりも高い温度における前記増幅器のゲインを、前記切替温度以下の温度における前記ゲインよりも小さくする、発振器。
【請求項2】
前記切替温度に対応する調整電圧を発生する調整電圧発生部をさらに有し、
前記温度検出部は、前記周囲温度に対応する温度検出電圧を出力し、
前記制御部は、前記温度検出電圧と前記調整電圧との差分に基づいて前記ゲインを決定する、
請求項1に記載の発振器。
【請求項3】
前記制御部は、25℃よりも前記目標温度に近い前記切替温度において前記ゲインを切り替える、
請求項1又は2に記載の発振器。
【請求項4】
前記制御部は、前記温度検出電圧と基準電圧との差分を示す比較電圧を、前記ゲインで増幅する前記増幅器を有し、前記制御部は、前記比較電圧が、前記温度検出電圧が前記調整電圧よりも高い状態を示す第1電圧である場合に前記増幅器のゲインを決定する抵抗を短絡しないことで前記増幅器のゲインを第1ゲインにして、前記比較電圧が、前記温度検出電圧が前記調整電圧以下の状態を示す第2電圧である場合に前記抵抗を短絡することで前記増幅器のゲインを前記第1ゲインよりも小さい第2ゲインにすることにより前記発熱部の発熱量を制御する、
請求項2に記載の発振器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、周囲温度を制御することができる発振器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、水晶振動子を用いた水晶発振回路の温度を一定に保つために、ヒーター及び温度センサから構成される温度制御回路を備えるオーブン制御水晶発振器(以下、OCXOという)が知られている(例えば、特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−92302号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、OCXOは、温度補償型水晶発振器(以下、TCXOという)よりも周波数の精度と安定度が高い発振信号を出力することができる。しかし、OCXOにおいては、ヒーターにおける発熱により、適切な高温状態を維持するので、OCXOの電源を起動してから周波数が安定状態に至るまでに数分の時間を要する。
【0005】
温度制御回路は、P制御回路、PI制御回路、又はPID制御回路により構成される。周波数が安定するまでの時間を短縮するには、P制御におけるゲイン値を大きくすることで、制御目標温度と実温度との差に対するヒーター出力の比を大きくすることが有効である。
【0006】
しかし、ゲイン値を大きくすると、安定状態においてフィードバック回路動作が不安定になり、振動現象が発生する。振動現象が発生すると回路が不安定になるので、振動現象が発生しない程度に小さなゲイン値を用いる必要があった。したがって、ヒーター出力の大きさに制約があり、OCXOの電源を起動してから温度が安定状態に至るまでに長時間を要していた。
【0007】
そこで、本発明はこれらの点に鑑みてなされたものであり、OCXOの電源を起動してから温度が安定状態に至るまでの時間を短縮することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る発振器は、発振信号を出力する発振部と、前記発振部を加熱する発熱部と、前記発振部の周囲温度を検出する温度検出部と、前記周囲温度が目標温度よりも低い切替温度において、前記発熱部に印加される発熱制御電圧を生成する増幅器のゲインを切り替えることにより前記発熱部の発熱量を制御する制御部と、を備える。
【0009】
上記の発振器は、前記切替温度に対応する調整電圧を発生する調整電圧発生部をさらに有し、前記温度検出部は、前記周囲温度に対応する温度検出電圧を出力し、前記制御部は、前記温度検出電圧と前記調整電圧との差分に基づいて前記ゲインを決定してもよい。
【0010】
前記制御部は、前記切替温度よりも高い温度における前記ゲインを、前記切替温度以下の温度における前記ゲインよりも大きくしてもよい。また、前記制御部は、25℃よりも前記目標温度に近い前記切替温度において前記ゲインを切り替えてもよい。
【0011】
前記制御部は、前記温度検出電圧と基準電圧との差分を示す比較電圧を、前記ゲインで増幅する前記増幅器を有し、前記制御部は、前記比較電圧が、前記温度検出電圧が前記調整電圧よりも高い状態を示す第1電圧である場合に前記増幅器のゲインを決定する抵抗を短絡しないことで前記増幅器のゲインを第1ゲインにして、前記比較電圧が、前記温度検出電圧が前記調整電圧以下の状態を示す第2電圧である場合に前記抵抗を短絡することで前記増幅器のゲインを前記第1ゲインよりも小さい第2ゲインにすることにより前記発熱部の発熱量を制御してもよい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、OCXOの電源を起動してから温度が安定状態に至るまでの時間を短縮することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】第1の実施形態に係る発振器の構成を示す図である。
図2】第1の実施形態に係る制御部の構成を示す図である。
図3】制御部のゲインを4倍に設定した場合の、発振器の電源投入後の温度検出電圧と発熱制御電圧との関係を示す図である。
図4】制御部のゲインを60倍に設定した場合の、発振器の電源投入後の温度検出電圧と発熱制御電圧との関係を示す図である。
図5】切替温度において、制御部のゲインを60倍から4倍に切り替えた場合の、発振器の電源投入後の温度検出電圧と発熱制御電圧との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
<第1の実施形態>
図1は、第1の実施形態に係る発振器100の構成を示す図である。発振器100は、発振部1、発熱部2、温度検出部3、基準電圧発生部4、調整電圧発生部5、比較部6及び制御部7を備える。
【0015】
発振部1は、発振信号を出力する発振回路である。発振部1は、例えば、水晶振動子又はMEMS振動子と、当該振動子を発振させるための増幅回路とを有する。発振部1は、発熱部2により加熱される。
【0016】
発熱部2は、発振部1を加熱するヒーターである。発熱部2は、制御部7が出力する発熱制御電圧に応じた熱量を発することにより、発振部1の周囲を加熱する。発熱部2は、例えば、発振部1の周囲温度を80℃に維持するように発熱する。
【0017】
温度検出部3は、発振部1の周囲温度を検出し、検出した周囲温度に応じた温度検出電圧を出力する温度センサである。温度検出部3が出力する温度検出電圧の信号は、制御部7及び比較部6に入力される。
【0018】
基準電圧発生部4は、周囲温度の目標温度に関連付けられた基準電圧を発生する。具体的には、基準電圧発生部4は、周囲温度が目標温度に等しい場合に温度検出部3が出力する温度検出電圧を、基準電圧として発生する。基準電圧発生部4は、目標温度と基準電圧とを関連付けたテーブルを有し、外部から取得した目標温度に応じた基準電圧を発生してもよい。
【0019】
調整電圧発生部5は、基準電圧の電圧レベルを調整して調整電圧を発生するレベルシフト回路である。調整電圧発生部5は、例えば、演算増幅器又はトランジスタにより構成されている。調整電圧発生部5は、周囲温度の目標温度よりも低い温度に対応する調整電圧を発生する。具体的には、温度検出部3が出力する温度検出電圧が、周囲温度が高くなるにつれて低くなる場合、調整電圧発生部5は、基準電圧よりも電圧が高い調整電圧を発生する。例えば、目標温度が80℃であり、発振器100の電源を投入したときの室温が25℃である場合、調整電圧は、室温よりも高く目標温度よりも低い温度60℃に対応する電圧である。本明細書において、調整電圧に対応する温度を切替温度という。
【0020】
比較部6は、温度検出電圧と調整電圧とを比較するコンパレータである。比較部6は、温度検出部3が出力する温度検出電圧と調整電圧発生部5が出力する調整電圧とを受けて、温度検出電圧と調整電圧との比較結果に応じた比較電圧を出力する。比較部6は、例えば、温度検出電圧が調整電圧よりも高い場合には、ロウレベルの論理値に対応する電圧(以下、ロウレベル電圧という)を出力し、温度検出電圧が調整電圧以下の場合には、ハイレベルの論理値に対応する電圧(以下、ハイレベル電圧という)を出力する。
【0021】
制御部7は、比較電圧に基づいて発熱部2を制御する。制御部7は、比較電圧に基づいて生成される発熱制御電圧を発熱部2に入力して発熱部2を制御することにより、発振部1の周囲温度を一定の温度に保つ。制御部7は、温度検出電圧と基準電圧との差分電圧を、比較部6が出力する比較電圧に基づいて定められるゲインで増幅して得られる発熱制御電圧に基づいて、発熱部2を制御する。
【0022】
具体的には、制御部7は、比較電圧がロウレベル電圧である場合に、温度検出電圧と基準電圧との差分電圧を第1のゲイン(例えば、60倍)で増幅することにより、発熱制御電圧を生成する。制御部7は、比較電圧がハイレベル電圧である場合に、温度検出電圧と基準電圧との差分電圧を、第1のゲインよりも小さな第2のゲイン(例えば、4倍)で増幅することにより、発熱制御電圧を生成する。
【0023】
例えば、目標温度が80℃で、切替温度が60℃である場合、制御部7は、温度検出部3が検出した周囲温度が60℃以下の場合に60倍のゲインで差分電圧を増幅し、周囲温度が60℃よりも高くなると、4倍のゲインで差分電圧を増幅する。このようにすることで、周囲温度が切替温度よりも低い場合には、発熱部2の発熱量が最大になるので急速に周囲温度が上昇し、周囲温度が切替温度を超えると、発熱部2の発熱量が抑制されるので、周囲温度の上昇率が低下する。その結果、周囲温度が不安定に振動することが防止される。
【0024】
図2は、制御部7の構成を示す図である。制御部7は、温度検出部3から入力される温度検出電圧と基準電圧発生部4から入力される基準電圧との差分電圧を出力する増幅器71を有する。増幅器71の第1入力端子と温度検出部3との間には抵抗72が設けられており、増幅器71の第2入力端子と基準電圧発生部4との間には抵抗73が設けられている。
【0025】
制御部7は、増幅器71のゲインを切り替えるための回路を有する。具体的には、増幅器71の第1入力端子と出力端子との間に、互いに直列に接続された抵抗74及び抵抗75が設けられている。また、抵抗75と並列にゲイン切り替え用のスイッチ76が設けられている。スイッチ76は、例えば、CMOSアナログスイッチである。スイッチ76は、比較部6から出力される比較電圧に応じて、導通状態と非導通状態とを切り替える。スイッチ76は、例えば、比較電圧がロウレベル電圧である場合に非導通状態になり、比較電圧がハイレベル電圧である場合に導通状態になる。
【0026】
また、増幅器71の第2入力端子とグランドとの間に、互いに直列に接続された抵抗77及び抵抗78が設けられている。また、抵抗78と並列にゲイン切り替え用のスイッチ79が設けられている。スイッチ79は、スイッチ76と同様に、比較部6から出力される比較電圧に応じて、導通状態と非導通状態とを切り替える。
【0027】
比較電圧がロウレベル電圧である場合には、抵抗75及び抵抗78が短絡されず、比較電圧がハイレベル電圧である場合には、抵抗75及び抵抗78が短絡される。したがって、周囲温度が切替温度よりも低い間は、増幅器71のゲインが大きくなり、周囲温度が切替温度よりも高い間は、増幅器71のゲインが小さくなる。その結果、制御部7は、周囲温度が切替温度より低い間は、発熱部2に最大の熱量を発生させ、周囲温度が切替温度よりも高くなると、発熱部2が発生する熱量を抑制することができる。
【0028】
図3は、制御部7のゲインを4倍に設定した場合の、発振器100の電源投入後の温度検出電圧と発熱制御電圧との関係を示す図である。図4は、制御部7のゲインを60倍に設定した場合の、発振器100の電源投入後の温度検出電圧と発熱制御電圧との関係を示す図である。図5は、切替温度において、制御部7のゲインを60倍から4倍に切り替えた場合の、発振器100の電源投入後の温度検出電圧と発熱制御電圧との関係を示す図である。
【0029】
図3図4及び図5における横軸は、発振器100の電源を投入したからの経過時間、縦軸は電圧を示している。また、図3図4及び図5における破線は温度検出電圧を示しており、実線は発熱制御電圧を示している。
【0030】
図3においては、電源投入後400秒が経過するまでは、発熱制御電圧が飽和しており、電源電圧である3.3Vに等しい電圧となっている。その後、発熱制御電圧が低下し、電源を投入してから約750秒後に温度検出電圧と発熱制御電圧が一定となる。すなわち、検出温度が目標温度で安定になったとみなせる。
【0031】
図4においては、電源を投入してから約500秒が経過するまでは、発熱制御電圧が3.3Vとなっており、その後、発熱制御電圧は急峻に低下している。電源を投入してから約550秒が経過すると、発熱制御電圧が振動している。発熱制御電圧が振動すると、発熱部2の発熱量が不安定になり、発振部1の周囲温度が不安定な状態になる。電源を投入してから約550秒で、温度検出電圧が一定となる。検出温度が目標温度近傍で一定となっているように見えるが、制御系が不安定な状態なので好ましくない。
【0032】
本実施形態に係る図5に示すデータを取得する際には、周囲温度が目標温度と同じ80℃に到達した時点(図5におけるAの時間)で、ゲインが60倍から4倍に切り替わっている。その結果、温度検出電圧は、電源投入後、約550秒後に安定しており、図3と比べて約150秒早く安定している。また、発熱制御電圧は、急峻に低下した後に、電源投入後、約650秒で安定となっている。このように、本実施形態によれば、周囲温度を短時間で目標温度に到達させることができるとともに、周囲温度を安定させることができる。
【0033】
<第2の実施形態>
第1の実施形態において、比較部6は、温度検出電圧が調整電圧に等しい場合に比較電圧を切り替えた。例えば、比較部6は、周囲温度が80℃になった時点で比較電圧をロウレベル電圧からハイレベル電圧に切り替えた。
【0034】
第2の実施形態に係る比較部6は、ヒステリシスを持っている点で第1の実施形態と異なる。具体的には、比較部6は、温度検出電圧が調整電圧よりも大きくなるように変化する場合に、温度検出電圧が第1基準電圧に等しくなると、比較電圧を第1の値から第2の値に切り替えるとともに、温度検出電圧が調整電圧よりも小さくなるように変化する場合に、温度検出電圧が第1基準電圧と異なる第2基準電圧に等しくなると、比較電圧を第2の値から第1の値に切り替える。
【0035】
例えば、第1基準電圧は、周囲温度80℃に対応する電圧である、第2基準電圧は、周囲温度75℃に対応する電圧である。この場合、比較部6は、周囲温度が上昇して80℃に達した時点で、比較電圧をロウレベル電圧からハイレベル電圧に切り替え、制御部7は、ゲインを60倍から4倍に切り替える。その後、周囲温度が80℃を越えた後に、一時的に80℃を下回る温度に変化した場合、比較部6は、周囲温度が80℃の時点で、比較電圧をハイレベル電圧からロウレベル電圧に切り替えることなく、ハイレベル電圧を維持する。比較部6は、周囲温度がさらに低下して75℃に到達すると、比較電圧をハイレベル電圧からロウレベル電圧に切り替える。
【0036】
このように、比較部6の動作にヒステリシスを持たせることにより、ゲインを切り替える切替温度付近で温度が変動した場合に、頻繁にゲインが切り替わることにより不安定な状態に陥ることを防ぐことができる。
【0037】
以上、本発明を実施の形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施の形態に記載の範囲には限定されない。上記実施の形態に、多様な変更又は改良を加えることが可能であることが当業者に明らかである。そのような変更又は改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれ得ることが、特許請求の範囲の記載から明らかである。
【0038】
例えば、上記の実施形態においては、比較部6の第2入力端子には、調整電圧発生部5が出力する調整電圧が入力されていたが、第2入力端子には、外部から調整電圧を入力してもよい。また、調整電圧発生部5は、外部からの制御により調整電圧を切り替えてもよい。
【符号の説明】
【0039】
1・・・発振部、2・・・発熱部、3・・・温度検出部、4・・・基準電圧発生部、5・・・調整電圧発生部、6・・・比較部、7・・・制御部、71・・・増幅器、72、73、74、75、77、78・・・抵抗、76、79・・・スイッチ、100・・・発振器
図1
図2
図3
図4
図5