(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1は本発明の実施形態に係る発振装置1Aの全体を示すブロック図である。
発振装置1Aには、第1の水晶振動子10、第2の水晶振動子20と、これらの水晶振動子を発振させる第1の発振回路1、第2の発振回路2とが含まれる。第1の発振回路1、第2の発振回路2は、例えばコルピッツ型の発振回路により構成される。
【0015】
第1の発振回路1、第2の発振回路2の後段側には、DSP(Digital Signal Processor)ブロック5、PLL(Phase Locked Loop)回路部200、レジスタ7や分周器203が接続されている。DSPブロック5は、温度検出部53、PI演算部54、1次補正部56、PWM(Pulse Width Modulation)部55を含んでいる。さらに第1の水晶振動子10及び第2の水晶振動子20の近傍には、ヒーター回路50が設けられている。
ここで、既述の第1の発振回路1、第2の発振回路2、DSPブロック5、PLL回路部200、レジスタ7、及び分周器203は例えば一つの集積回路部(LSI)300内に形成されている。
【0016】
また発振装置1Aは、外部メモリ82を備え、外部メモリ82には発振装置1Aを動作させるための各種パラメータが格納されている。外部メモリ82に格納されたパラメータは、LSI300内のレジスタ7に読み込まれ、このレジスタ7を介してパラメータを利用するブロックへと読み出される。
【0017】
以下の説明では、第1の発振回路1により第1の水晶振動子10を発振させて得られた周波数信号をf1とし、第2の発振回路2により第2の水晶振動子20を発振させて得られた周波数信号をf2とする。
第1の発振回路1からの周波数信号f1は、PLL回路部200内に設けられている後述のVCXO(Voltage Controlled Xtal Oscillator、電圧制御発振器)から得られた周波数信号との位相比較が行われる基準周波数信号を得るために用いられる。さらに周波数信号f1は、その配置位置における水晶振動子10、20の温度を検出する目的にも用いられる。一方で、第2の発振回路2からの周波数信号f2は、配置位置における水晶振動子10、20の温度検出の目的のみに用いられる。
【0018】
初めに、周波数信号f1、f2を用いた温度検出の手法について説明する。第1の発振回路1からの周波数信号f1及び第2の発振回路2からの周波数信号f2は温度検出部53に入力され、f1−f2に対応する値であるΔFが演算される。ΔFは、配置位置における水晶振動子10及び20の温度に対して比例関係にある値であり、温度検出値に相当しているということができる。
【0019】
さらに、温度検出部53の出口側には、不図示の加算部が設けられており、外部メモリ82から読み出され、レジスタ7に格納された水晶振動子10、20の温度設定値に対応する値(以下、「温度設定値」と呼ぶ)と、温度検出部53にて算出された温度検出値ΔFとの差分値が後段のPI演算部54へと出力される。なお、加算部の図示を省略した便宜上、
図1においては、レジスタ7内の温度設定値を温度検出部53に入力した状態を示している。
【0020】
PI演算部54は、前記温度設定値と温度検出値ΔFとの差分値を積分することにより、ヒーター回路50の出力を調節するための制御信号であるPI演算値を後段のPWM部55へ出力する。なお、このPI演算値は、PLL回路部200内で既述の基準周波数信号を得る際の周波数設定値の補正値としても用いられる。
【0021】
PWM部55は、PI演算部54から出力されるディジタル値をアナログ信号に変換するためのものである。既述のレジスタ7には、外部メモリ82から読み出されたデューティ比が予め格納されており、このデューティ比に基づいてPWM部55の動作が制御される。なおPWM部55に代えてD/A(ディジタル/アナログ)変換器を用いてもよい。
【0022】
水晶振動子10、20の近傍に設けられたヒーター回路50は、このPWM部55の出力を制御信号として出力が調節される。ヒーター回路50はパワートランジスタを備え、電源60から供給された電力が当該パワートランジスタのコレクタに供給される。そして、パワートランジスタのベースに前記制御信号を供給して、コレクタ−エミッタ間を流れる電流を増減することにより、ヒーター回路50の出力(発熱量)を増減することができる。
なお、電源60から供給される電力は、既述のLSI300などにも供給され、当該電力は、LDO(低電圧ドロップアウトレギュレータ)などからなる電圧安定化回路6によって安定化されている。
【0023】
次いで、第1の発振回路1から得た周波数信号f1を利用し、周囲の温度が変化しても安定した周波数の周波数信号を出力するPLL回路部200について説明する。既述のようにPLL回路部200は、LSI300内に構成され、不図示のDDS(Direct Digital Synthesizer)回路部と、位相比較部と、チャージポンプ部と、VCXOの発振回路と、を備える。さらにPLL回路部200には、PLL回路部200内の発振回路により発振し、当該発振回路と共にVCXOを構成する信号発生用の水晶振動子201や、ループフィルタ202が接続されている。また、PLL回路部200には、VCXOより得られた周波数信号を分周する分周器を設けてもよい。
【0024】
PLL回路部200のDDS回路部に対しては、外部メモリ82から読み出され、レジスタ7に格納された周波数設定値を用いて周波数設定が行われる。詳細には、PI演算部54から出力されたPI演算値に対して、1次補正部56にて係数を乗算して周波数補正値を算出し、加算部58にて周波数設定値に周波数補正値を加算する。こうして得られた補正後の周波数設定値がDDS回路部に入力される。さらに周波数設定値に対しては、例えば温度検出部53の出力である温度検出値ΔFから得られた周波数補正値を用いた補正を行ってもよい。
【0025】
そしてDDS回路部は、第1の発振回路1から出力される周波数信号f1を動作クロックとして、不図示の波形テーブルから振幅データを読み出し、前記補正後の周波数設定値に対応するディジタルの基準周波数信号を発生する。
【0026】
一方でVCXOの水晶振動子201を発振させて得られたディジタルの周波数信号は、必要に応じて分周された後、位相比較部にて基準周波数信号と位相比較され、位相差に応じた信号をチャージポンプ部でアナログ変換され、ループフィルタ202に入力される。ループフィルタ202では、アナログ変換された位相差が積分され、水晶振動子201の制御電圧とされる。ここで、VCXOから得られた周波数信号は、得られた周波数をそのまま基準周波数信号と位相比較してもよいし、周波数を適宜、分周、逓倍してから基準周波数信号との位相比較を行ってもよい。VCXOの水晶振動子201は、信号発生用の水晶振動子に相当している。
【0027】
以上に説明した構成により、水晶振動子201を発振させて得られた周波数信号の周波数が、DDS回路部にて発生させた基準周波数信号の周波数に近づくように周波数制御が実行され、安定した周波数の周波数信号がVCXOから出力される。VCXOの周波数信号は、分周器203にて適宜、分周された後、発振装置1Aから出力される。
【0028】
以上に説明したように、OCXOである発振装置1Aは、水晶振動子10、20の配置位置における温度検出結果に基づいて周波数設定値を補正するTCXO(Temperature Compensated Xtal Oscillator)としても構成されており、ヒーター回路50の作用と、温度検出値ΔF(上述の例では温度設定値と温度検出値ΔFとの差分値を積分したPI演算値)に基づく周波数補正とによる二重の周波数安定化措置がとられ、高精度で周波数を安定させることができる。
【0029】
以上に説明した電気的構成を備える発振装置1Aの組み立て構造につい
図2〜
図6を参照しながら説明する。
図2、
図3は発振装置1A全体を各々別方向から見た縦断側面図であり、
図4は発振装置1Aの内部に配置された第1の基板31を上面側、及び下面側から見た平面図である。これらの図を用いて発振装置1Aの立体的な構成について説明する。
【0030】
例えば発振装置1Aは、既述の各水晶振動子10、20、201やLSI300、外部メモリ82などの各電子部品を第1の基板31の上面側、及び下面側に分けて配置した構成となっている。
図2、
図3、
図4に示すように、第1の基板31の上面側には、第1の水晶振動子10、VCXO側の水晶振動子201、及び複数のヒーター回路50が設けられている。一方で、第1の基板31の下面側には、第2の水晶振動子20、LSI300、外部メモリ82及びループフィルタ202が設けられている。
なお、
図1に示した各水晶振動子10、20、201は、振動子カバー内に収容された水晶振動片(例えば第1の水晶振動子10の例につき、
図5の水晶振動片10a)に対応するが、説明の便宜上、
図2〜
図4においては、各振動子カバー及び水晶振動片を含む電子部品全体に水晶振動子10、20、201の符号を付してある。
【0031】
第1、第2の水晶振動子10、20は、ほぼ同じ構成を備えるので、
図5を参照しながら、第1の水晶振動子10の構成について説明する。
図5(a)は第1の水晶振動子10の縦断側面図を示し、
図5(b)は横断平面図を示している。
第1の水晶振動子10の水晶振動片10aは、第1の発振回路1から出力される周波数信号f1の周波数に対応する厚さを有し、例えば平面形状が矩形である水晶片101の上下両面に、当該水晶片101を介して互いに対向するように、薄膜状の励振電極102、103を設けた、エネルギー閉込め型の振動子となっている。
【0032】
水晶振動片10aを収容する振動子カバー111の一面には、水晶振動片10aを挿入するための開口が設けられ、蓋体113によってこの開口が気密に塞がれる。前記水晶振動片10aを構成する前記水晶片101は、例えばその一辺側が、蓋体113の一面に固定されている。そして、振動子カバー111の内部空間112に前記水晶振動片10aを挿入して、蓋体113にて前記開口を塞いだとき、励振電極102、103が形成された水晶振動片10aの上面及び下面は、振動子カバー111の内壁面との間に隙間を介して配置される。この結果、励振電極102、103が設けられた面は、他の部材によって拘束されない自由振動面となる。
【0033】
励振電極102、103は、蓋体113を貫通する導電性の接続ピン114に電気的に接続されている。そして、振動子カバー111と蓋体113とに囲まれた内部空間112から、外部へと延伸された前記接続ピン114の他端側を第1の基板31上にプリントされた配線パターン(不図示)に接続することにより、LSI300内部の第1の発振回路1に対して、第1の水晶振動子10の水晶振動片10aが電気的に接続される。なお、蓋体113を貫通する接続ピン114は、当該蓋体113に対して絶縁されている。
また
図5(a)に示すように、第1の水晶振動子10の水晶振動片10aを収容した振動子カバー111は、その下面側が第1の基板31に対してはんだ115で固定されている。
【0034】
既述のように、その配置位置における温度を検出する目的、及びDDS回路部の動作クロックとして用いられる周波数信号f1を得るための第1の水晶振動子10は、周囲の温度変化や経時変化に対して安定した周波数信号を得るため、他の水晶振動子(第2の水晶振動子20、及びVCXO側の水晶振動子201)よりも大きなサイズの水晶片101を用いて構成されている。このため、振動子カバー111を含む第1の水晶振動子10のサイズも、3つの水晶振動子10、20、201のなかで最も大きい。
【0035】
一方、第2の水晶振動子20には、
図5(a)、(b)を用いて説明した第1の水晶振動子10とほぼ同様のエネルギー閉込め型の振動子が用いられるが、その周波数信号f2は第1の容器41内の温度を検出する目的のみに用いられ、DDS回路部の動作クロックの生成を行わない。このため、第2の水晶振動子20について、周囲の温度変化に対する周波数の安定性は、第1の水晶振動子10ほどまでには要求されない。そこで、発振装置1Aの小型化の観点から、
図2、
図4(a)に示す例では、水晶片の一辺の長さが第1の水晶振動子10の半分程度であり、振動子カバーのサイズも小さな第2の水晶振動子20が採用されている。
【0036】
さらにVCXO側の水晶振動子201については、当該VCXOより出力される周波数信号は、PLL回路部200にて基準周波数信号と位相比較され、この基準周波数信号と位相が揃うように周波数調整される。そして、基準周波数信号に対しては、ヒーター回路50による第1の容器41内の温度安定化や、温度検出値ΔFに基づく周波数設定値の補正により、高い精度で周波数の安定化が図られている。
【0037】
このように、受動的に周波数調整がなされるVCXO側の水晶振動子201単体の周波数安定性についても、周囲の温度変化に対する周波数の安定性は、第1の水晶振動子10ほどまでには要求されていない。そこで、当該水晶振動子201については、発振装置1Aの小型化を優先して、第2の水晶振動子20よりもさらに小型のものが用いられている。VCXO側の水晶振動子201の水晶振動片は、
図5(a)、(b)を用いて説明したエネルギー閉込め型の振動子でもよいし、水晶片の表面にIDT(Inter Digital Transducer)を形成してなるSAW(Surface Acoustic Wave)振動子であってもよい。
【0038】
以上に説明した各水晶振動子10、20、201のうち、水晶振動子10と、VCXO側の水晶振動子201とが第1の基板31の上面側に配置されている。
詳細には、
図4(b)に示すように、最も寸法の大きな第1の水晶振動子10が、第1の基板31の短辺方向中央部、長辺方向の一端側に寄った位置に配置され、寸法が最も小さいVCXO側の水晶振動子201は、第1の水晶振動子10と隣り合って、互いの長辺の向きを揃えるようにして配置されている。
【0039】
これら水晶振動子10、201が配置されている領域の周囲の第1の基板31の上面側には、第1の基板31の各辺に沿って複数のヒーター回路50が配置されている。
図4(a)に示した例では、第1の水晶振動子10によって占有されていない3辺に沿って7個のヒーター回路50が互いに間隔を開けて配置されている。
各水晶振動子10、201やヒーター回路50は、例えばリフロー方式により第1の基板31にはんだ付けされている。
【0040】
一方、残る第2の水晶振動子20は、第1の基板31の下面側の中央部に設けられ、この第2の水晶振動子20となり合ってLSI300が配置されている。さらに、第1の基板31の下面側には、外部メモリ82やループフィルタ202が設けられている。これら第2の水晶振動子20やLSI300などについても、例えばリフロー方式にて第1の基板31にはんだ付けされている。
【0041】
以上に説明した各種電子部品が配置された第1の基板31は、
図2、
図3に示すように金属製の第1の容器41内に収容されている。第1の容器41の内部において、第1の基板31は、支持部材である複数本の導電性の第1の支持ピン64によって支持され、第1の容器41の内壁から浮いた状態(内壁と接触していない状態)となるように、配置されている。第1の支持ピン64は、第1の基板31に設けられた各電子部品に対して電気的に接続されている。
【0042】
これら第1の支持ピン64は、第1の容器41の底板部412を貫通して、第1の容器41の底面から下方側へ向けて伸び出している。また、第1の支持ピン64が第1の容器41を貫通する位置において、第1の支持ピン64と第1の容器41との間には、不図示の絶縁封止部材が設けられ、第1の支持ピン64と第1の容器41とが電気的に絶縁されると共に、第1の容器41の内部が気密に保たれている。
また第1の容器41の下面には、前記第1の支持ピン64と電気的に接続された複数本の接続ピン61が、下方側へ向けて伸び出すように設けられている(
図2)。
【0043】
このように、第1の基板31上に構成されると共に、第1の容器41内に収容された発振装置1Aは、第1の容器41内がヒーター回路50によって一定の温度に調節されているので、各水晶振動子10、20、201が置かれる雰囲気の温度の変化を抑え、安定した周波数の周波数信号を出力する能力を有している。
ところが、高度な周波数安定化措置が図られている前記発振装置1Aを実際に製作したとき、外気温度の変化や気流の発生など、周囲の雰囲気の変動に起因して発振装置1Aから出力される周波数信号の安定性が低下してしまう事象が確認された。
【0044】
そこで発明者は、こうした周波数変動の原因について検討を行った。例えば上述のヒーター回路50は、20ミリ℃の制御幅内に収まるように第1の容器41内の温度を調節することができる。このとき、例えばSCカットの水晶片101を用い、各水晶振動子10、20の温度設定値が、SCカット水晶の零温度係数点(ZTC点:Zero-Temperature Coefficient、水晶振動子の温度変化による周波数変化が最低となる温度)と一致するようにヒーター回路50の出力を調節すると、理論上の周波数変動は±0.1ppb以下に抑えることができる。
例えば
図6は、SCカット水晶の周波数温度特性を示し、実線で示した温度範囲がヒーター回路50による概略の温度制御範囲を示している。
【0045】
ところが、実際の周波数変動幅は±2〜±7ppb程度になり、
図6中に破線で温度範囲を示すように、±2℃以上の温度変動に相当する大きな周波数変動が観察された。
そこで発明者は、ヒーター回路50による温度制御以外に、発振装置1Aの周波数温度特性に影響を与える要素について、さらなる検討を行った。その結果、後述の比較例に示すように、第1の容器41の周囲の雰囲気の変動が、依然として周波数信号の安定性に影響を与える一つの要因となっていることが分かった。
【0046】
そこで本例の発振装置1Aにおいては、これら外部の雰囲気の変動の影響を低減するため、上述の第1の容器41を、さらに第2の容器42内に収容した構造となっている。
即ち
図2、
図3に示すように、第1の容器41は、当該第1の容器41の下面から下方側へ向けて突出している既述の第1の支持ピン64の下端部に接続された第2の基板32によって支持されている。この第2の基板32は、さらに支持部である複数本の第2の支持ピン62によって支持され、第1の容器41及び第2の基板32が、第2の容器42の内壁から浮いた状態(内壁と接触していない状態)となるように、配置されている。
【0047】
前記第2の基板32の下面(第1の容器41と対向する面とは反対側の面)には、既述の電圧安定化回路6が設けられている。ヒーター回路50の影響を受けて温度が上昇する第1の容器41に対して、第2の基板32によって遮られる位置(第1の容器41と直接、対向しない位置)に熱の影響を受け易い電子部品(本例においては電圧安定化回路6)を配置することにより、熱の影響を抑えて周波数の安定性の向上に貢献することができる。
さらに、第2の基板32上における第1の容器41の周囲には、例えばヒーター回路50を構成するパワートランジスタへの電力供給に用いられる周辺回路83などが設けられている(
図3)。
【0048】
第2の基板32を支持する第2の支持ピン62は、第2の容器42の底板部412を貫通して、第2の容器42の底面から下方側へ向けて伸び出している。また、第2の支持ピン62が第2の容器42を貫通する位置において、第2の支持ピン62と第2の容器42との間には、不図示の絶縁封止部材が設けられ、第2の支持ピン62と第2の容器42とが電気的に絶縁されると共に、第2の容器42の内部は気密に保たれている。
【0049】
さらに第1の容器41の下面に設けられた既述の複数の接続ピン61についても、第2の基板32及び第2の容器42の底板部422を貫通して、第2の容器42の底面から下方側へ向けて伸び出している。これら接続ピン61と第2の容器42との間にも不図示の絶縁封止部材が設けられ、各接続ピン61と第2の容器42とが電気的に絶縁されると共に、第2の容器42の内部は気密に保たれている。
尚上記接続ピン61の一部は、第2の基板32に設けられた電圧安定化回路6や周辺回路83に対しても電気的に接続されている。
【0050】
図2、
図3を用いて説明した発振装置1Aの構造をまとめると、第1の容器41、及びこの第1の容器41を支持する第2の基板32は、第2の容器42内に収容され、第2の容器42の内壁から浮いた状態となるように第2の支持ピン62によって支持されている。また、発振装置1Aの主要な電子部品が配置された第1の基板31は、前記第1の容器41内に収容され、第1の容器41の内壁から浮いた状態となるように第1の支持ピン64によって支持されている。そして、第1の容器41及び第2の容器42の内部は、各々、外部から気密に区画されている。
【0051】
従って、第1の基板31に配置された各種電子部品は、第2の容器42及び第1の容器41によって、第2の容器42の周囲の雰囲気に対して、2重に隔離された状態となっている。また、第2の容器42に対する第1の容器41の熱的接触、及び第1の容器41に対する第1の基板31の熱的接触も、第1、第2の支持ピン64、62による支持などに、最低限に制限されている。このような構造により、発振装置1Aを構成する電子部品は、第2の容器42の周囲の雰囲気の変動の影響を受けにくく、ヒーター回路50による温度制御を安定して行うことができる。
【0052】
これらの構造的な特徴に加え、本例の発振装置1Aは、第1の容器41と第2の容器42との間の空間が真空雰囲気(大気圧よりも低い圧力雰囲気)となっている。
真空雰囲気となっている第2の容器42内の圧力は、大気圧雰囲気と比較して真空断熱の効果が得られる圧力であれば特段の限定はないが、例えば1kPa以下、好適には0.1kPa以下の圧力に調節される。
【0053】
第2の容器42内を真空雰囲気にする手法としては、例えば第1の容器41や第2の基板32を予め組み付けた第2の容器42の底板部422と、そのカバー部421とを用意し、目的とする第2の容器42内の圧力と同じ圧力になるように減圧された空間内でこれら底板部422とカバー部421とを接合して、第2の容器42を組み立てる手法が挙げられる。
【0054】
一方で、第1の容器41の内部については、例えば窒素などの不活性気体が封入された大気圧と同程度の圧力雰囲気であってもよいし、第2の容器42側と同様の真空雰囲気であってもよい。
第1の容器41内に気体が封入されている場合には、各水晶振動子10、20、201は、ヒーター回路50からの熱輻射や第1の基板31やはんだ115を介した熱伝導、第1の容器41内の気体を介した熱伝達によって加熱される。また、第1の容器41内が真空雰囲気である場合は、これら水晶振動子10、20、201は、主としてヒーター回路50からの熱輻射や第1の基板31などを介した熱伝導により加熱される。温度検出部53にて検出される温度は、これらの伝熱形態にてヒーター回路50により加熱された水晶振動子10、20の温度である。
【0055】
第1の容器41と第2の容器42との間の空間を真空雰囲気とし、必要に応じてさらに第1の容器41内を真空雰囲気とすることにより、第1の基板31に設けられた各水晶振動子10、20、201などの電子部品を、第2の容器42の周囲の雰囲気から真空断熱することができる。これらの電子部品が、第2の容器42の周囲の雰囲気の変動の影響を受けにくくなり、ヒーター回路50による温度制御を安定して行うことができる。
なお、ヒーター回路50による温度調節を行いやすくする観点から、各水晶振動子10、20、201において、振動子カバー111内は不活性気体などが封入され、大気圧と同程度の圧力雰囲気となっている。
【0056】
本実施の形態に係る発振装置1Aによれば、以下の効果がある。第1の容器41内に設けられた第1の基板31上に、振動子(第1の水晶振動子10、第2の水晶振動子20、信号発生用の水晶振動子201)と、これら振動子10、20、201の温度制御を行うヒーター回路50とを設けると共に、さらに第2の容器42内に、その内壁から浮いた状態で第1の容器41を配置している。そして、これら第1の容器41と第2の容器42との間の空間を真空雰囲気として真空断熱を行っているので、第1の容器41の内部が、第2の容器42の周囲の雰囲気の変動の影響を受けにくく、振動子10、20、201の温度制御を安定して行うことが可能となり、周波数の安定性が向上する。
【0057】
ここで、
図2、
図3には、発振装置1Aの各電子部品を搭載した第1の基板31が第1の容器41の内壁から浮いた状態となるように、第1の基板31を第1の支持ピン64によって支持した例を示した。但し、本例の発振装置1Aにおいては、第1の容器41と第2の容器42との間の空間を真空雰囲気としたことによる断熱効果が高いので、第1の基板31は必ずしも第1の容器41の内壁から浮いた状態となっていなくてもよい。例えば、発振装置1Aの各電子部品を第1の基板31の上面側に配置し、当該第1の基板31が第1の容器41の底板部412の上面に接するように載置してもよい。
【0058】
また、第1の水晶振動子10を第1の容器41内の温度検出用に用いることは必須ではなく、例えば熱電対やサーミスタを用いて温度検出を行い、これらの素子の温度検出結果に基づいてヒーター回路50の出力を調節してもよい。この場合には、第1の水晶振動子10は、基準周波数信号を得るためのみに用いられ、第2の水晶振動子20は設けられない。
【0059】
さらに、第1の水晶振動子10を用いて得られた周波数信号f1を、DDS回路部の動作クロックとして用いることも必須の要件ではない。例えば、当該周波数信号f1を基準周波数信号として、VCXOより得られた周波数信号との位相比較を行ってもよい。
【実施例】
【0060】
(温度周波数特性実験)
第2の容器42の有無の特性差を確認するために、第1、第2の容器41、42を備えた発振装置、及び第1の容器41のみを備えた従来構造の発振装置の周波数温度特性を比較した。
A.実験条件
(参考例1、2)第1の容器41と第2の容器42との間の空間に、大気圧と同程度の圧力の窒素が封入されている点を除き、
図2〜
図5を用いて説明した発振装置1Aと同様の構成を備えた発振装置を2台製作し、周囲の温度を−40℃〜+85℃の範囲で変化させながら、各発振装置から出力される周波数信号の周波数の温度特性を測定した。第1の容器41内は大気圧と同程度の圧力の窒素が封入されており、第1の水晶振動子10の水晶振動片10aには、M−SC(Modified SC)カットの水晶片101を用いた。温度特性の測定にあたっては、第1、第2の水晶振動子10、20の温度設定値が93℃となるようにヒーター回路50にて温度制御を行った。本発振装置の周波数設定値は20MHzである。
(比較例1、2)第2の容器42を備えていない点を除いて参考例1、2と同様の構成の2台の発振装置を製作し、参考例1、2と同様の手法で周波数信号の周波数の温度特性を測定した。
【0061】
B.実験結果
参考例1、2、比較例1、2の結果を
図7に示す。
図7の横軸は、発振装置の周囲の雰囲気の温度[℃]、縦軸は周波数設定値に対して発振装置から出力された周波数信号の周波数偏差((周波数設定値−出力周波数)/周波数設定値)[ppb]を示している。ここで、参考例1、2と、比較例1、2とを重ねて表示すると、各実験結果の識別が困難となるため、
図7には参考例1、2の周波数偏差に+2ppbのオフセット値を加算した結果を示してある。同図中、参考例1、比較例1は、太い実線で示し、参考例2、比較例2は細い実線で示してある。
【0062】
図7に示す結果によれば、参考例1、2に係る発振装置は、周囲の温度を−40℃〜+85℃の範囲で変化させたときの周波数偏差の変化は約2.3ppbであった。また、周囲の温度を変化させていったときの周波数の変動(温度に依存する雑音)も比較的小さく、直線に近い周波数温度特性が得られた。このように、2つの参考例1、2における周波数偏差の相違は、比較的小さく、異なる発振装置であっても、周囲の温度が同じであれば、周波数の揃った周波数信号を出力できていることが分かる。
【0063】
これに対して、比較例1、2に係る発振装置では、上述の温度が変化に対する周波数偏差の変化は、約2.5〜3ppb程度の範囲でばらつき、特に0℃以下の低温領域では、周波数偏差の値が比較的大きく相違する傾向がみられる。また、周囲の温度を変化させていったときの周波数の変動(温度に依存する雑音)についても、大きな凸凹が観察された。このように、2つの比較例1、2の周波数偏差の相違は、参考例1、2と比べると大きく(特に低温領域)、周囲の温度が同じであっても、発振装置が異なると、周波数信号の周波数がずれてしまう場合があることが分かる。
【0064】
以上に検討した参考例1、2、比較例1、2の結果によれば、ヒーター回路50により温度調整される振動子(第1の水晶振動子10、第2の水晶振動子20など)が設けられた第1の基板31を二重の容器(第1、第2の容器41、42)内に収容することにより、周囲の雰囲気の変動(例えば温度変化)に対して、安定した周波数の周波数信号を出力できることが確認できた。
従って、第1の容器41と第2の容器42との間の空間を真空状態として真空断熱を行うことにより、さらなる周波数特性の向上(周囲の雰囲気の変動に対する周波数の安定性の向上)が可能となることが分かる。