特許第6576694号(P6576694)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6576694
(24)【登録日】2019年8月30日
(45)【発行日】2019年9月18日
(54)【発明の名称】プレキャスト基礎接合構造
(51)【国際特許分類】
   E02D 27/01 20060101AFI20190909BHJP
   E04B 1/58 20060101ALI20190909BHJP
【FI】
   E02D27/01 101C
   E04B1/58 503B
【請求項の数】6
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2015-109274(P2015-109274)
(22)【出願日】2015年5月29日
(65)【公開番号】特開2016-223128(P2016-223128A)
(43)【公開日】2016年12月28日
【審査請求日】2018年4月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】390037154
【氏名又は名称】大和ハウス工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】598037569
【氏名又は名称】會澤高圧コンクリート株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086793
【弁理士】
【氏名又は名称】野田 雅士
(74)【代理人】
【識別番号】100087941
【弁理士】
【氏名又は名称】杉本 修司
(72)【発明者】
【氏名】川上 浩史
(72)【発明者】
【氏名】高橋 秀一
(72)【発明者】
【氏名】市岡 大幸
(72)【発明者】
【氏名】南野 貴洋
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 良影
(72)【発明者】
【氏名】青木 涼
【審査官】 神尾 寧
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−211496(JP,A)
【文献】 特開平07−180161(JP,A)
【文献】 特開2007−321449(JP,A)
【文献】 特開平04−343917(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02D 27/01
E04B 1/58
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに端面を略突き合わせ状態に接合する一対のプレキャスト基礎における一方のプレキャスト基礎に、前記端面から突出して、突出部分の水平断面がT字状の雄側接合金物が脚部で埋め込み状態に設けられ、他方のプレキャスト基礎に、前記雄側接合金物が隙間を介して嵌まり込む水平断面がT字状の接合溝部を有する雌側接合金物が前記端面および上面に開口して設けられ、前記雄側接合金物と雌側接合金物との嵌め合い隙間に硬化性の充填材が充填されるプレキャスト基礎接合構造において、
前記雄側接合金物の頭部における首側面とこの首側面に対向する前記雌側接合金物の前記接合溝の内面部分との隙間である首側隙間、および前記雄側接合金物の前記頭部における反首側面とこの反首側面に対向する前記雌側接合金物の前記接合溝の内面部分との隙間である反首側隙間のいずれか一方または両方に、前記両プレキャスト基礎間に作用する長手方向荷重の伝達用の金属製充填部材が介在し、
前記金属製充填部材が、前記首側隙間のうち、前記雄側接合金物の首部を挟む両側の首側隙間に介在させる一対の挿入片部と、これら一対の挿入片部の上端を繋いで前記雄側接合金物の上に載る繋ぎ片部とを含む下向き溝形の形状部分を有し、前記繋ぎ片部は、前記雌側接合金物が設けられた前記プレキャスト基礎のコンクリート部分に、前記雌側接合金物の上方に位置して形成された上方溝部内に位置し、この上方溝部内に硬化性の充填材が充填されたプレキャスト基礎接合構造。
【請求項2】
請求項に記載のプレキャスト基礎接合構造において、前記金属製充填部材が、前記繋ぎ片部から両側にそれぞれ張出して前記雄側接合金物に載る一対の張出し片部を有し、互いに同じ形状の前記金属製充填部材が、前記首側隙間と前記反首側隙間とに介在するプレキャスト基礎接合構造。
【請求項3】
請求項に記載のプレキャスト基礎接合構造において、前記金属製充填部材が、前記繋ぎ片部および前記張出し片部で構成される上片部分の幅方向複数箇所に、上下方向に延びるリブを有するプレキャスト基礎接合構造。
【請求項4】
請求項に記載のプレキャスト基礎接合構造において、前記金属製充填部材の全体が、前記一対の挿入片部と前記繋ぎ片部とでなる下向き溝形の形状であり、前記繋ぎ片部の幅方向複数箇所に、上下方向に延びるリブを有するプレキャスト基礎接合構造。
【請求項5】
請求項1ないし請求項のいずれか1項に記載のプレキャスト基礎接合構造において、前記金属製充填部材が、前記首側隙間および前記反首側隙間のいずれか一方または両方に複数枚重ねられて介在したプレキャスト基礎接合構造。
【請求項6】
互いに端面を略突き合わせ状態に接合する一対のプレキャスト基礎における一方のプレキャスト基礎に、前記端面から突出して、突出部分の水平断面がT字状の雄側接合金物が脚部で埋め込み状態に設けられ、他方のプレキャスト基礎に、前記雄側接合金物が隙間を介して嵌まり込む水平断面がT字状の接合溝部を有する雌側接合金物が前記端面および上面に開口して設けられ、前記雄側接合金物と雌側接合金物との嵌め合い隙間に硬化性の充填材が充填されるプレキャスト基礎接合構造において、
前記雄側接合金物の頭部における首側面とこの首側面に対向する前記雌側接合金物の前記接合溝の内面部分との隙間である首側隙間、および前記雄側接合金物の前記頭部における反首側面とこの反首側面に対向する前記雌側接合金物の前記接合溝の内面部分との隙間である反首側隙間のいずれか一方または両方に、前記両プレキャスト基礎間に作用する長手方向荷重の伝達用の金属製充填部材が介在し、
前記金属製充填部材が丸鋼または鋼板からなり、前記首側隙間のうち、前記雄側接合金物の脚部を挟む両側の首側隙間に、互いに別個の前記金属製充填部材が介在したプレキャスト基礎接合構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、一対のプレキャスト基礎の両端面を互いに略突き合わせ状態に接合するプレキャスト基礎接合構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、住宅等の建物の布基礎において、図22(C)に示すように、立ち上がり部をプレキャスト基礎21とし、ベース部22を現場打ちコンクリートとすることがある。ベース部22の現場打ちは、プレキャスト基礎21の配置の後に行われる。
プレキャスト基礎21は、長手方向に複数並べ、相互間を荷重伝達可能なように接合する。具体的には、同図(A),(B)に示すように、互いに接合される一対のプレキャスト基礎21、21のうち、一方のプレキャスト基礎21には、その端面から突出する雄側接合金物31が埋め込み状態に設けられる。他方のプレキャスト基礎21には、前記雄側接合金物31に嵌まり込む雌側接合金物32が、そのプレキャスト基礎21の端面および上面に開口して設けられる。図23に拡大水平面図で示すように、前記雄側接合金物31の突出部分31aを前記雌側接合金物32の接合溝部32aに嵌合させ、雄側接合金物31と雌側接合金物32との嵌め合い隙間にグラウト等の硬化性の充填材(図示せず)を充填させることにより、図22のように前記一対のプレキャスト基礎21、21が両端面間で長手方向に接合される。なお、前記雄側接合金物31および雌側接合金物32には、鉄筋等からなるアンカー33が接合されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2013−227787号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記した従来のプレキャスト基礎接合構造において、両プレキャスト基礎21、21の間に図23のように基礎長手方向の引張力Fが作用したとき、前記雄側接合金物31と雌側接合金物32の嵌合により、両プレキャスト基礎21、21間で引張力Fが伝達される。しかし、同図の接合構造では、雄側接合金物31と雌側接合金物32との嵌め合い隙間に充填される硬化性の充填材が前記引張力Fで圧縮されて雄側接合金物31と雌側接合金物32が変位し、その変位が進み、雄側接合金物31と雌側接合金物32の嵌合部に隙間が発生する懸念がある。隙間が発生すると、変位が大きくなり、引張力Fを効果的に伝達できなくなる。
【0005】
この発明の目的は、引張力を受けても、雌雄の接合金物間に介在する充填材の変形による隙間の発生が抑制され、引張力を効果的に伝達できるプレキャスト基礎接合構造を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明のプレキャスト基礎接合構造は、互いに端面を略突き合わせ状態に接合する一対のプレキャスト基礎における一方のプレキャスト基礎に、前記端面から突出して、突出部分の水平断面がT字状の雄側接合金物が脚部で埋め込み状態に設けられる。他方のプレキャスト基礎には、前記雄側接合金物が隙間を介して嵌まり込む水平断面がT字状の接合溝部を有する雌側接合金物が前記端面および上面に開口して設けられ、前記雄側接合金物と雌側接合金物との嵌め合い隙間に硬化性の充填材が充填される。
前記雄側接合金物の頭部における首側面とこの首側面に対向する前記雌側接合金物の前記接合溝の内面部分との隙間である首側隙間、および前記雄側接合金物の前記頭部における反首側面とこの反首側面に対向する前記雌側接合金物の前記接合溝の内面部分との隙間である反首側隙間のいずれか一方または両方に、前記両プレキャスト基礎間に作用する長手方向荷重の伝達用の金属製充填部材が介在する。
【0007】
この構成によると、前記雄側接合金物と雌側接合金物間に生じる前記首側隙間および反首側隙間のいずれか一方または両方に介在する充填材を金属製充填部材としたため、グラウト等の硬化性の充填材と異なり、両プレキャスト基礎間に作用する長手方向の引っ張り力が大きくても、充填材が金属製充填部材であって変形が生じ難く、変形による隙間の発生が抑制される。そのため、両プレキャスト基礎間で引張力を効果的に伝達できる。
【0008】
この発明のプレキャスト基礎接合構造は、上記構成において、前記金属製充填部材が、前記首側隙間のうち、前記雄側接合金物の首部を挟む両側の首側隙間に介在させる一対の挿入片部と、これら一対の挿入片部の上端を繋いで前記雄側接合金物の上に載る繋ぎ片部とを含む下向き溝形の形状部分を有し、前記繋ぎ片部は、前記雌側接合金物が設けられた前記プレキャスト基礎のコンクリート部分に、前記雌側接合金物の上方に位置して形成された上方溝部内に位置し、この上方溝部内に硬化性の充填材が充填されている。
【0009】
この構成の場合、前記金属製充填部材は、前記両側の首側隙間に介在させる一対の挿入片部が繋ぎ片部で繋がっているため、両側の首側隙間に個別の金属製充填部材を介在させる場合に比べて、首側隙間への挿入作業の作業性が向上する。また、前記繋ぎ片部が前記上方溝部内に位置し、上方溝部内の硬化性の充填材の中に埋め込まれるため、金属製充填部材が引っ張り力を受けたときに、前記繋ぎ片部が充填材からの反力を受けることで、前記金属製充填部材の変位が進むことが防止される。また、前記金属製充填部材が前記首側隙間に挿入される場合は、前記繋ぎ片部が前記雄側接合金物の首部に載るため、前記首側隙間に前記金属製充填部材が落ち込むことが防止される。
【0010】
前記金属製充填部材が前記繋ぎ片部を有する場合に、前記金属製充填部材が、前記繋ぎ片部から両側にそれぞれ張出して前記雌側接合金物に載る一対の張出し片部を有し、互いに同じ形状の前記金属製充填部材が、前記首側隙間と前記反首側隙間とに介在するものとしても良い。
このように金属製充填部材が雌側接合金物に載る一対の張出し片部を有する場合、これら張出し片部が雌側接合金物の上に載るため、前記反首側隙間内に金属製充填部材が落ち込むのを防止することができる。
【0011】
この発明において、前記金属製充填部材が、前記繋ぎ片部および前記張出し片部で構成される上片部分の幅方向複数箇所に、上下方向に延びるリブを有するものとしても良い。 前記リブが設けられていると、このリブにより金属製充填部材の上片部分の強度が増す。そのため、金属製充填部材の上端を叩いて前記首側隙間や反首側隙間に挿入するときに金属製充填部材が変形せず、円滑に挿入することができる。
【0012】
この発明において、前記金属製充填部材の全体が、前記一対の挿入片部と前記繋ぎ片部とでなる下向き溝形の形状であり、前記繋ぎ片部の幅方向複数箇所に、上下方向に延びるリブを有するものとしても良い。
前記張出し片部を有しない場合も、前記リブが設けられていると金属製充填部材の強度が増し、金属製充填部材の上端を叩いて前記首側隙間や反首側隙間に挿入するときに金属製充填部材が変形せず、円滑に挿入することができると言う効果が得られる。
【0013】
この発明において、前記金属製充填部材が、前記首側隙間および前記反首側隙間のいずれか一方または両方に複数枚重ねられて介在しても良い。
前記雄側接合金物の頭部が雌側接合金物における接合溝部内のどのような偏り位置に存在するかによって、前記頭部の両側位置する前記首側隙間と反首側隙間の隙間寸法の大きさが変動する。このような隙間の寸法の変動に対して、金属製充填部材の重ね枚数の調整により対処することができる。
【0014】
この発明において、前記金属製充填部材が丸鋼または鋼板からなり、前記首側隙間のうち、前記雄側接合金物の脚部を挟む両側の首側隙間に、互いに別個の前記金属製充填部材が介在しても良い。
前記金属製充填部材が丸鋼または鋼板であると、金属製充填部材が簡素な構成で済む。この場合も、金属製充填部材の変形が生じ難く、変形による隙間の発生が抑制されるという効果が得られる。
【発明の効果】
【0015】
この発明のプレキャスト基礎接合構造は、互いに端面を略突き合わせ状態に接合する一対のプレキャスト基礎における一方のプレキャスト基礎に、前記端面から突出して、突出部分の水平断面がT字状の雄側接合金物が脚部で埋め込み状態に設けられ、他方のプレキャスト基礎に、前記雄側接合金物が隙間を介して嵌まり込む水平断面がT字状の接合溝部を有する雌側接合金物が前記端面および上面に開口して設けられ、前記雄側接合金物と雌側接合金物との嵌め合い隙間に硬化性の充填材が充填されるプレキャスト基礎接合構造において、前記雄側接合金物の頭部における首側面とこの首側面に対向する前記雌側接合金物の前記接合溝の内面部分との隙間である首側隙間、および前記雄側接合金物の前記頭部における反首側面とこの反首側面に対向する前記雌側接合金物の前記接合溝の内面部分との隙間である反首側隙間のいずれか一方または両方に、前記両プレキャスト基礎間に作用する長手方向荷重の伝達用の金属製充填部材が介在するため、プレキャスト基礎間に引張力が作用しても、雌雄の接合金物間に介在する充填材の変形による隙間の発生が抑制され、引張力を効果的に伝達することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】(A)はこの発明の一実施形態にかかるプレキャスト基礎接合構造における雄側接合金物が埋め込まれたプレキャスト基礎の平面図、(B)は同正面図である。
図2】(A)は同プレキャスト基礎の水平断面図、(B)は同縦断面図である。
図3】(A)は同プレキャス基礎の部分拡大平面図、(B)は同水平断面図である。
図4】同プレキャスト基礎の部分拡大縦断面図である。
図5】(A)は図4におけるVA−VA矢視正面図、(B)はVB−VB矢視断面図、(C)はVC−VC矢視断面図である。
図6】(A)は雌側接合金物が埋め込まれたプレキャスト基礎の部分拡大平面図、(B)は同水平断面図である。
図7】同プレキャスト基礎の部分拡大縦断面図である。
図8】(A)は図7におけるVIIIA−VIIIA矢視正面図、(B)はVIIIB−VIIIB矢視断面図、(C)はVIIIC−VIIIC矢視断面図である。
図9】(A)は接合金物嵌合部の金属充填部材が介在する前の状態を示す平面図、(B)は接合金物嵌合部に金属充填部材が介在した状態を示す平面図、(C)は接合金物嵌合部に硬化性の充填材が充填された状態を示す平面図である。
図10】(A)は金属充填部材の平面図、(B)は同正面図である。
図11】(A)は雌側接合金物を断面して見た接合金物嵌合部の正面図、(B)は雌側接合金物を断面して雌側接合金物の背面側から見た接合金物嵌合部の側面図である。
図12】この発明の他の実施形態にかかるプレキャスト基礎接合構造における接合金物嵌合部を示す平面図である。
図13】(A)は金属製充填部材の他の例を示す平面図、(B)は同正面図である。
図14】(A)は金属製充填部材のさらに他の例を示す平面図、(B)は同正面図である。
図15】(A)は金属製充填部材のさらに他の例を示す平面図、(B)は同正面図である。
図16】同金属製充填部材が介在した接合金物嵌合部の平面図である。
図17】(A)は金属製充填部材のさらに他の例を示す平面図、(B)は同正面図である。
図18】金属製充填部材のさらに他の例を示す正面図である。
図19】同金属製充填部材が介在した接合金物嵌合部の平面図である。
図20】金属製充填部材のさらに他の例を示す正面図である。
図21】同金属製充填部材が介在した接合金物嵌合部の平面図である。
図22】従来例の平面図、正面図および側面図である。
図23】同従来例における接合金物嵌合部の拡大平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
この発明の一実施形態を図1ないし図14と共に説明する。図1(A),(B)は、この実施形態のプレキャスト基礎接合構造により接合される一対のプレキャスト基礎1A,1B(図9)における一方のプレキャスト基礎1Aの平面図および正面図を示す。また、図2(A),(B)は、同プレキャスト基礎1Aの水平断面図および正面側から見た縦断面図を示す。図3(A)は図1(A)の一部を拡大して示し、図3(B)は図2(A)の一部を拡大して示し、図4図2(B)の一部を拡大して示す。
このプレキャスト基礎1Aは、住宅等の建物における布基礎の立上り部を構成するプレキャストコンクリート体である。このプレキャスト基礎1Aのコンクリート部分19の内部には、基礎長手方向に延びる上端筋2、上下に延びるあばら筋3、およびアンカーボルト5が埋め込まれ、プレキャスト基礎1Aの下端から突出する前記あばら筋3の下端に、布基礎のベース部20(図5(A)に仮想線で示す) の主筋となる下端筋4が溶接されている。
【0018】
このプレキャスト基礎1Aには、その端面から突出する雄側接合金物11が脚部11bで埋め込み状態に設けられる。雄側接合金物11の突出部分11aは、水平断面がT字状である。この雄側接合金物11は、ここではプレキャスト基礎1Aの両端面近傍で上部近くの位置にそれぞれ設けられる。前記雄側接合金物11の背面には、基礎長手方向に延びる鉄筋からなる複数本のアンカー6の一端が、螺合などにより接合されている。これらのアンカー筋6を、例えば図示しない結束線であばら筋3などに結束することにより、雄側接合金物11のコンクリート未硬化時における位置決めがなされている。
【0019】
雄側接合金物11の突出部分11aが突出する前記プレキャスト基礎1Aの端面には、図4のVA−VA矢視正面図を示す図5(A)のように、溝部7A,7B、および複数のコッタ成形用凹部7Baが形成されている。溝部7Aは、雄側接合金物11の位置から上面に至る上方部分に形成され、溝部7Bは、雄側接合金物11の位置から下端に至る下方部分にかけて形成されている。コッタ成形用凹部7Baは、雄側接合金物11の位置からその下の溝部7Bの途中に、複数形成されている。コッタ成形用凹部7Baは、前記溝部7Bよりも深く、溝部7Bの幅よりも広い幅に形成されている。なお、図5(B)は図4のVB−VB矢視断面図を、図5(C)は図4のVC−VC矢視断面図をそれぞれ示す。この他に、前記プレキャスト基礎1Aには、図2(B)に示すように、このプレキャスト基礎1Aを吊り上げて昇降するための2つの吊り用結合具9が埋め込み状態に設けられている。
【0020】
前記一対のプレキャスト基礎1A,1Bにおける他方のプレキャスト基礎1Bも、その配筋構造は先の一方のプレキャスト基礎1Aと略同様であるが、このプレキャスト基礎1Bでは、図6(A),(B)に部分平面図および部分水平断面図で示し、図7に部分縦断面図で示すように雌側接合金物12が設けられている。雌側接合金物12は、前記プレキャスト基礎1Aの雄側接合金物11が隙間を介して嵌まり込む接合溝部12aを有し、プレキャスト基礎1Bの端面および上面に開口して設けられている。この雌側接合金物12は、プレキャスト基礎1Bの上部近くに前記プレキャスト基礎1Aの雄側接合金物11と対向するように設けられる。この雌側接合金物12も、前記雄側接合金物11と同様に、その背面に基礎長手方向に延びる鉄筋からなる複数本のアンカー6の一端が螺合などにより接合されている。これらのアンカー6を、例えば図示しない結束線であばら筋3などに結束することにより、雌側接合金物12のコンクリート未硬化時における位置決めがなされている。
【0021】
雌側接合金物12が開口する前記プレキャスト基礎1Bの端面には、図7のA−A矢視正面図を示す図8(A)のように、雌側接合金物12の位置から上面に至る部分、および雄側接合金物12の位置から下端に至る部分にかけて溝部8A,8Bが形成されている。また、前記プレキャスト基礎1Bの端面における雌側接合金物12の位置から下の溝部8Bには、途中に複数のコッタ成形用凹部8Baが形成されている。このコッタ成形用凹部8Baは前記溝部8Bよりも深く、溝部8Bの幅よりも広い幅に形成されている。なお、図8(B)は図7のVIIIB−VIIIB矢視断面図を、図8(C)は図7のVIIIC−VIIIC矢視断面図をそれぞれ示す。
【0022】
図9(A)は、前記一対のプレキャスト基礎1A、1Bを、それらの端面を互いに略突き合わせ状態に接合した状態の部分拡大平面図を示す。この接合状態は、雌側接合金物12を有するプレキャスト基礎1Bを先に基礎構築場所における基礎支持面の上に起立姿勢の状態で支持しておき、次に雄側接合金物11を有するプレキャスト基礎1Aを起立姿勢の状態で吊り重機を用いて吊り上げ、その雄側接合金物11の突出部分11aが設置済みの前記プレキャスト基礎1Bの雌側接合金物12の接合溝部12aに隙間を介して嵌まり込むように基礎支持面の上に降ろすことで達成される。
【0023】
図9(A)に示すように、雄側接合金物11の突出部分11aは、前述のように水平断面T字状とされ、雌側接合金物12の接合溝部12aは、前記突出部分11aが隙間を介して嵌まり込む水平断面T字状とされている。雄側接合金物11と雌皮接合金物12がこのように嵌まり合った状態で、図9(B)のように雄側接合金物11と雌皮接合金物12との隙間に、前記両プレキャスト基礎1A,1B間に作用する長手方向荷重の伝達用の金属製充填部材14を介在させる。金属製充填部材14として、この実施形態では鋼板製のフィラープレートを用いている。具体的には、雄側接合金物11の頭部11aaにおける首側面とこの首側面に対向する雌側接合金物12の接合溝部12aの内面部分との隙間である首側隙間13aに、図10(A),(B)に平面図および正面図で示す形状のフィラープレートからなる金属製充填部材14を介在させている。金属製充填部材14は複数枚を重ねて用いても良く、その場合に、前記首側隙間13aの大きさに応じてその枚数を異ならせる。
【0024】
前記フィラープレートからなる金属製充填部材14は、前記首側隙間13aのうち、雄側接合金物11の首部11abを挟む両側の首側隙間13a,13aに介在させる一対の挿入片部14a,14aと、これら一対の挿入片部14a,14aの上端を繋いで雄側接合金物11の上に載る繋ぎ片部14bとを含む下向き溝形の形状部分を有する。繋ぎ片部14bは、図9(B)のように、雌側接合金物12が設けられたプレキャスト基礎1Bのコンクリート部分19における、雌側接合金物12の上方に位置して形成された上方溝部8A内に位置する。図11(A)は、その状態を雌側接合金物12を断面して示した側面図、図11(B)は雌側接合金物12の背面側から見た背面図である。
前記金属製充填部材14は、前記繋ぎ片部14bから両側にそれぞれ張出して雌側接合金物12に載る一対の張出し片部14cを有する。また、前記繋ぎ片部14bおよび張出し片部14cで構成される上片部分の幅方向複数箇所には、上下方向に延びる水平断面山形のリブ14dが形成されている。リブ14dは、フィラープレートからなる金属製充填部材14の一部を断面山形に折り曲げて成形されている。
【0025】
前記両プレキャスト基礎1A,1Bの接合状態で、これらの上方の溝部7A,8Aから前記雄側接合金物11と雌側接合金物12との嵌め合い隙間に硬化性の充填材が充填される。硬化性の充填材として、例えばグラウト、セメントペースト、セメントミルク、モルタル、および樹脂系材料(例えばエポキシ系樹脂)を用いることができるが、ここではグラウト15が用いられる。グラウト15は両プレキャスト基礎1A,1Bの前記上方の溝部7A,8Aから、雄側接合金物11と雌側接合金物12との嵌め合い隙間に充填され、さらに下方の溝部7B,8Bに達して前記コッタ成形用凹部7Ba, 8Baにも充填されて、両プレキャスト基礎1A,1Bの端面間に複数のコッタが成形される。また、前記上方の溝部7A,8A内に露出する前記フィラープレートからなる金属製充填部材14の繋ぎ片部14bおよび張出し片部14cは、図9(C)のように、前記上方の溝部7A,8Aに充填されたグラウト15内に埋め込まれる。
【0026】
この構成のプレキャスト基礎接合構造によると、雄側接合金物11の頭部11aaにおける首側面とこの首側面に対向する雌側接合金物12の接合溝部12aの内面部分との隙間である首側隙間13aに、前記両プレキャスト基礎1A,1B間に作用する長手方向荷重の伝達用のフィラープレートからなる金属製充填部材14を介在させ、雄側接合金物11と雌側接合金物12との嵌め合い隙間に硬化性の充填材であるグラウト15を充填している。このため、図11(A) のように雄側接合金物11と雌側接合金物12が基礎長手方向の引張力Fを受けても、両プレキャスト基礎1A,1Bの接合部の変位を小さく抑えて引張力Fを効果的に伝達できる。すなわち、雄側接合金物11と雌側接合金物12の嵌め合い隙間に充填されたグラウト15が引張力Fを受けて圧縮すると、雄側接合金物11と雌側接合金物12との接続部に隙間が発生する懸念があるが、首側隙間13aにフィラープレートからなる金属製充填部材14が介在することで、両プレキャスト基礎1A,1Bの接合部の変位を小さく抑えることができ、両プレキャスト基礎1A,1B間で引張力Fを効果的に伝達できる。
【0027】
また、この実施形態では、フィラープレートからなる金属製充填部材14が、雄側接合金物11の首部11abを挟む両側の首側隙間13a,13aに介在させる一対の挿入片部14a,14aと、これら一対の挿入片部14a,14aの上端を繋いで雄側接合金物11の上に載る繋ぎ片部14bとを含む下向き溝形の形状部分を有する。前記繋ぎ片部14bは、雌側接合金物12が設けられたプレキャスト基礎1Bのコンクリート部分19に、雌側接合金物12の上方に位置して形成された上方の溝部8A内に位置し、この溝部8A内に硬化性の充填材であるグラウト15が充填される。このため、前記引張力Fを受けたとき、図11(A)のように、前記繋ぎ片部14bがグラウト15からの反力Pを受けることで、雄側接合金物11および雌側接合金物12の変位が進むのを防止できる。
【0028】
また、この実施形態では、フィラープレートからなる金属製充填部材14の前記繋ぎ片部14bおよび張出し片部14cで構成される上片部分の幅方向複数箇所に、上下方向に延びる水平断面山形のリブ14dを有する。そのため、フィラープレートからなる金属製充填部材14の上端を叩いて前記首側隙間13aに挿入するときに金属製充填部材14が変形せず、円滑に挿入することができる。
【0029】
なお、図9では、金属製充填部材14を雄側接合金物11と雌側接合金物12との嵌め合い隙間における首側隙間13aに介在させる場合を示したが、これに限らず図12に平面図で示すように、雄側接合金物11の頭部11aaにおける反首側面とこの反首側面に対向する雌側接合金物12の接合溝部12aの内面部分との隙間である反首側隙間13bに、前記フィラープレートからなる金属製充填部材14を介在させても良い。
この場合、金属製充填部材14の一対の張出し片部14c,14cが雌側接合金物12の上に載り、またリブ14dも雄側接合金物11の頭部11aaや雌側接合金物12の上に張り出すので、前記反首側隙間13b内に金属製充填部材14が落ち込むのを防止することができる。その他の効果は図9に示した構成例の場合と同様である。
【0030】
また、金属製充填部材14の介在位置は、図9に示した首側隙間13aの場合と、図12に示した反首側隙間13bの場合に限らず、互いに同じ形状の金属製充填部材14を前記首側隙間13aと反首側隙間13bの両方に介在させても良い。
【0031】
また、上記実施形態では、金属製充填部材14のリブ14dが水平断面山形の場合について示したが、図13(A),(B)に平面図および正面図で示すように、前記リブ14dが水平断面半円形の金属製充填部材14を用いても良い。この他に、図14(A),(B)に平面図および正面図で示すように、前記リブ14dが水平断面台形の金属製充填部材14を用いても良い。
【0032】
図15および図16は、この発明の他の実施形態を示す。この実施形態では、図9に示した先の実施形態において、フィラープレートからなる金属製充填部材14として、図15(A),(B)に平面図および正面図で示すように、前記一対の挿入片部14a,14aと前記繋ぎ片部14bとでなる下向き溝形の形状のものを用いている。この金属製充填部材14は、図16のように、雄側接合金物11と雌側接合金物12との嵌め合い隙間のうち、雄側接合金物11の首部11abを挟む両側の首側隙間13a,13aに前記一対の挿入片部14a,14aを介在させる。その他の構成および作用効果は、図1図14に示した先の実施形態の場合と略同様である。
【0033】
この実施形態において、前記フィラープレートからなる金属製充填部材14は、その繋ぎ片部14bの幅方向複数箇所に、図17(A),(B)に平面図および正面図で示すように上下方向に延びるリブ14dを有するものとしても良い。この場合には、フィラープレートからなる金属製充填部材14の上端を叩いて前記首側隙間13aに挿入するときに金属製充填部材14が変形せず、円滑に挿入することができる。
【0034】
図18および図19は、この発明のさらに他の実施形態を示す。この実施形態では、図9に示した先の実施形態において、金属製充填部材として図18のように一対の丸鋼16,16を用いている。この一対の丸鋼16,16は、図19のように、雄側接合金物11と雌側接合金物12との嵌め合い隙間のうち雄側接合金物11の首部11abを挟む両側の首側隙間13a,13aに介在させる。その他の構成および作用効果は、図1図14に示した先の実施形態の場合と略同様である。
【0035】
なお、前記各実施形態では、互いに接合する一方のプレキャスト基礎1Aは両端に雄側接合金物11を有し、他方のプレキャスト基礎1Bは両端に雌側接合金物12を有する構成としたが、各プレキャスト基礎1A,1Bが一端に雄側接合金物11、他端に雌側接合金物12を有する構成であっても良い。
【0036】
図20および図21は、この発明のさらに他の実施形態を示す。この実施形態では、図9に示した先の実施形態において、金属製充填部材として図20のように一対の短冊状の鋼板17,17を用いている。この一対の鋼板17,17は、図21のように、雄側接合金物11と雌側接合金物12との嵌め合い隙間のうち雄側接合金物11の首部11abを挟む両側の首側隙間13a,13aに介在させる。その他の構成および作用効果は、図1図14に示した先の実施形態の場合と略同様である。
【符号の説明】
【0037】
1A,1B…プレキャスト基礎
11…雄側接合金物
11a…突出部分
11aa…頭部
11ab…首部
11b…脚部
12…雌側接合金物
12a…接合溝部
13a…首側隙間
13b…反首側隙間
14…金属製充填材(フィラープレート)
14a…挿入片部
14b…繋ぎ片部
14c…張出し片部
14d…リブ
15…グラウト(硬化性の充填材)
16…丸鋼(金属製充填材)
17…鋼板(金属製充填材)
図1
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