(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6576752
(24)【登録日】2019年8月30日
(45)【発行日】2019年9月18日
(54)【発明の名称】シール構造体及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
F16J 15/447 20060101AFI20190909BHJP
F16D 3/205 20060101ALI20190909BHJP
F16J 15/3264 20160101ALI20190909BHJP
F16J 15/3232 20160101ALI20190909BHJP
【FI】
F16J15/447
F16D3/205 M
F16J15/3264
F16J15/3232 201
【請求項の数】3
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2015-177455(P2015-177455)
(22)【出願日】2015年9月9日
(65)【公開番号】特開2017-53429(P2017-53429A)
(43)【公開日】2017年3月16日
【審査請求日】2018年8月27日
(73)【特許権者】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107423
【弁理士】
【氏名又は名称】城村 邦彦
(74)【代理人】
【識別番号】100120949
【弁理士】
【氏名又は名称】熊野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100155457
【弁理士】
【氏名又は名称】野口 祐輔
(72)【発明者】
【氏名】榑松 宏
【審査官】
熊谷 健治
(56)【参考文献】
【文献】
特開2015−064025(JP,A)
【文献】
特開2011−241859(JP,A)
【文献】
特開2008−202591(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16J 15/447
F16D 3/205
F16J 15/3232
F16J 15/3264
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
環状部品と、外周面に前記環状部品が固定された軸部とを備え、前記環状部品とこれに対して相対回転するシール部材とでシール機構を構成するシール構造体であって、
前記軸部の外周面に、前記環状部品の内周面が締め代を介して嵌合固定される固定面と、前記固定面の軸方向一方側に隣接し、前記固定面よりも小径な小径外周面とを設け、
前記環状部品の内周面と前記軸部の小径外周面との間に、前記環状部品から生じたバリを収容する隙間を設け、
前記環状部品の軸方向一方側の端部に、軸方向一方側を縮径させたテーパ部を設け、
前記軸部の小径外周面が、前記固定面よりも小径な第一円筒面と、前記第一円筒面の軸方向他方側に設けられ、前記第一円筒面よりも大径な第二円筒面と、前記第一円筒面と前記第二円筒面とを連続するテーパ面とを有し、
前記環状部品の内周面と前記第二円筒面との間に前記隙間を形成し、
前記環状部品のテーパ部の軸方向に対する傾斜角度と、前記テーパ面の軸方向に対する傾斜角度とを同一とし、前記環状部品のテーパ部の内周面を前記テーパ面に当接させたシール構造体。
【請求項2】
マウス部及び該マウス部の底部の軸心から軸方向一方側に延びる軸部を有する外側継手部材と、前記マウス部の内周に収容された内側継手部材と、前記外側継手部材と前記内側継手部材との間でトルクを伝達するトルク伝達部材と、前記外側継手部材の軸部の外周面に固定され、相対回転するシール部材とでシール機構を構成する環状部品とを備えた等速自在継手であって、
前記軸部の外周面に、前記環状部品の内周面が締め代を介して嵌合固定される固定面と、前記固定面の軸方向一方側に隣接し、前記固定面よりも小径な小径外周面とを設け、
前記環状部品の内周面と前記軸部の小径外周面との間に、前記環状部品から生じたバリを収容する隙間を設け、
前記環状部品の軸方向一方側の端部に、軸方向一方側を縮径させたテーパ部を設け、
前記軸部の小径外周面が、前記固定面よりも小径な第一円筒面と、前記第一円筒面の軸方向他方側に設けられ、前記第一円筒面よりも大径な第二円筒面と、前記第一円筒面と前記第二円筒面とを連続するテーパ面とを有し、
前記環状部品の内周面と前記第二円筒面との間に前記隙間を形成し、
前記環状部品のテーパ部の軸方向に対する傾斜角度と、前記テーパ面の軸方向に対する傾斜角度とを同一とし、前記環状部品のテーパ部の内周面を前記テーパ面に当接させた等速自在継手。
【請求項3】
環状部品と、外周面に前記環状部品が固定された軸部とを備え、前記環状部品とこれに対して相対回転するシール部材とでシール機構を構成するシール構造体の製造方法であって、
前記軸部の外周面に、固定面と、前記固定面の軸方向一方側に隣接し、前記固定面よりも小径な小径外周面とを設け、
前記環状部品の軸方向一方側の端部に、軸方向一方側を縮径させたテーパ部を設け、
前記軸部の小径外周面が、前記固定面よりも小径な第一円筒面と、前記第一円筒面の軸方向他方側に設けられ、前記第一円筒面よりも大径な第二円筒面と、前記第一円筒面と前記第二円筒面とを連続するテーパ面とを有し、
前記環状部品のテーパ部の軸方向に対する傾斜角度と、前記テーパ面の軸方向に対する傾斜角度とを同一とし、
前記環状部品を、前記軸部の固定面に軸方向一方側から締め代を介して嵌合固定すると共に、前記環状部品のテーパ部の内周面を前記テーパ面に当接させ、このときに前記環状部品が削られて生じるバリを、前記環状部品の内周面と前記軸部の小径外周面の前記第二円筒面との間の隙間に収容するシール構造体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軸部及びその外周面に固定された環状部品を備え、環状部品とこれに対して相対回転するシール部材とでシール機構を構成するシール構造体及びその製造方法に関し、特に、シール構造体を適用した等速自在継手に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、無段変速機に組み込まれたデファレンシャル装置とドライブシャフトとの組付構造が示されている。具体的には、
図7に示すように、無段変速機のハウジング102の左右両側の開口部にそれぞれドライブシャフト108が挿入され、各ドライブシャフト108の先端がデファレンシャル装置107のサイドギア128とスプライン嵌合している。
【0003】
ハウジング102の開口部の内周面とドライブシャフト108の外周面との間には、ハウジング102の内部に充填された潤滑油の外部への漏れだしを防止するオイルシール133が設けられる。オイルシール133は、
図8に拡大して示すように、ハウジング102の開口部の内周面に固定されたシール部材135と、ドライブシャフト108の外周面に固定された金属製のシールカップ136とで構成される。シール部材135は、ゴム製の第1リップ135a、第2リップ135b、及び第3リップ135cを有する。シール部材135の第1リップ135a及び第2リップ135bはドライブシャフト108の外周面と摺接し、シール部材135の第3リップ135cは、シールカップ136と協働してラビリンスシールを構成する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−214662号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のシールカップ136は、ドライブシャフト108の外周面に軸端側から締め代を介して嵌合固定される。通常、シールカップ136は生材(非熱処理品)の金属板で構成され、ドライブシャフト108の外周面には焼き入れ処理が施されるため、シールカップ136はドライブシャフト108の外周面よりも硬度が低くなっている。このため、
図9に示すように、シールカップ136をドライブシャフト108の外周面に軸方向一方側(図中左側)から締め代を介して嵌め合わせる(すなわち圧入する)と、シールカップ136の内周面の一部が削られて、その削り屑が細かな糸状のバリBとなってシールカップ136の軸方向一方側に付着する。このバリBが、シールカップ136から脱落してハウジング102内の潤滑油にコンタミとして混入すると、デファレンシャル装置107の各部に不具合が生じる恐れがある。このため、従来は、ドライブシャフト108にシールカップ136を固定した後に、バリBを除去する作業が必要となり、工数増によるコスト高が問題であった。
【0006】
以上の事情から、本発明が解決すべき課題は、シールカップ(環状部品)を軸部の外周面に締め代を介して嵌合固定して得られるシール構造体の製造コストを低減することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するために、本発明は、環状部品と、外周面に前記環状部品が固定された軸部とを備え、前記環状部品とこれに対して相対回転するシール部材とでシール機構を構成するシール構造体であって、前記軸部の外周面に、前記環状部品の内周面が締め代を介して嵌合固定される固定面と、前記固定面の軸方向一方側に隣接し、前記固定面よりも小径な小径外周面とを設け、前記環状部品の内周面と前記軸部の小径外周面との間に、前記環状部品から生じたバリを収容する隙間を設けたことを特徴とするシール構造体を提供する。
【0008】
また、前記課題を解決するために、本発明は、環状部品と、外周面に前記環状部品が固定された軸部とを備え、前記環状部品とこれに対して相対回転するシール部材とでシール機構を構成するシール構造体の製造方法であって、前記軸部の外周面に、固定面と、前記固定面の軸方向一方側に隣接し、前記固定面よりも小径な小径外周面とを設け、前記環状部品を、前記軸部の固定面に軸方向一方側から締め代を介して嵌合固定すると共に、このときに前記環状部品が削られて生じるバリを、前記環状部品の内周面と前記軸部の小径外周面との間の隙間に収容する等速自在継手の製造方法を提供する。
【0009】
このように、本発明では、環状部品の内周面を、固定面の軸方向一方側に隣接した小径外周面まで延ばし、環状部品と小径外周面との間に隙間を設けた。これにより、環状部品を固定面の軸方向一方側から締め代を介して嵌合させた(すなわち圧入した)ときに、環状部品と固定面との圧入領域の軸方向一方側(圧入方向後方側)に隣接して上記の隙間が形成されるため、圧入により環状部品から生じたバリを上記の隙間に収容することができる。これにより、環状部品を固定面に固定した後にバリを除去する工程が不要となり、シール構造体の製造コストを低減することができる。
【0010】
上記のシール構造体において、前記環状部品の軸方向一方側の端部に、軸方向一方側を縮径させたテーパ部を設ければ、バリを収容する隙間の開口部の径方向幅を狭めることができるため、バリが隙間から出ていく事態を防止できる。特に、前記環状部品の軸方向一方側の端部を前記軸部の小径外周面に当接させれば、バリを収容する隙間の軸方向一方側の端部を閉じることができるため、隙間内にバリを確実に捕捉しておくことができる。
【0011】
上記のシール構造体において、前記軸部の小径外周面が、前記固定面よりも小径な円筒面を有する場合、前記環状部品の軸方向一方側の端部を前記円筒面の軸方向領域に配すれば、前記環状部品の内周面と前記円筒面との間に前記隙間を形成することができる。この場合、環状部品の軸方向長さを調整することで、前記隙間の容積を調整することができる。
【0012】
また、前記軸部の小径外周面が、前記固定面よりも小径な円筒面と、前記固定面と前記円筒面とを連続するテーパ面とを有する場合、前記環状部品の軸方向一方側の端部を前記テーパ面の軸方向領域に配すれば、前記環状部品の内周面と前記テーパ面との間に前記隙間を形成することができる。この場合、円筒面の軸方向領域まで環状部品を延ばす必要がないため、環状部品を小型化することができる。
【0013】
また、前記軸部の小径外周面が、前記固定面よりも小径な第一円筒面と、前記第一円筒面の軸方向他方側に設けられ、前記第一円筒面よりも大径な第二円筒面と、前記第一円筒面と前記第二円筒面とを連続するテーパ面とを有する場合、前記環状部品の内周面と前記第二円筒面との間に前記隙間を形成することができる。この場合、第二円筒面の軸方向長さや外径寸法を調整することで、前記隙間の容積を調整することができる。また、前記環状部品のテーパ部の軸方向に対する傾斜角度と、前記テーパ面の軸方向に対する傾斜角度とを同一とし、前記環状部品のテーパ部の内周面を前記テーパ面に当接させれば、これらを面接触させることができるため、前記隙間を確実に密閉することができる。
【0014】
上記のシール構造体は、例えば等速自在継手に適用することができる。すなわち、本発明は、マウス部及び該マウス部の底部の軸心から軸方向一方側に延びる軸部を有する外側継手部材と、前記マウス部の内周に収容された内側継手部材と、前記外側継手部材と前記内側継手部材との間でトルクを伝達するトルク伝達部材と、前記外側継手部材の軸部の外周面に固定され、相対回転するシール部材とでシール機構を構成する環状部品とを備えた等速自在継手であって、前記軸部の外周面に、前記環状部品の内周面が締め代を介して嵌合固定される固定面と、前記固定面の軸方向一方側に隣接し、前記固定面よりも小径な小径外周面とを設け、前記環状部品の内周面と前記軸部の小径外周面との間に、前記環状部品から生じたバリを収容する隙間を設けたことを特徴とする等速自在継手として特徴づけることができる。
【発明の効果】
【0015】
以上のように、本発明によれば、環状部品を固定面に対して締め代を介して嵌合固定した後に、環状部品から生じるバリを除去する工程が不要となるため、シール構造体の製造コストを低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の一実施形態に係るシール構造体を適用した等速自在継手の断面図である。
【
図2】上記シール構造体の環状部品の断面図である。
【
図3】上記環状部品を軸部に嵌合した状態を示す断面図である。
【
図4】他の実施形態に係る環状部品を軸部に嵌合した状態を示す断面図及びその拡大図である。
【
図5】他の実施形態に係る環状部品を軸部に嵌合した状態を示す断面図及びその拡大図である。
【
図6】他の実施形態に係る環状部品を軸部に嵌合した状態を示す断面図の拡大図である。
【
図7】デファレンシャル装置とドライブシャフトとの組付構造を示す断面図である。
【
図8】上記組付構造のオイルシール付近を示す拡大図である。
【
図9】
図8のオイルシールの環状部品(シールカップ)を軸部に取り付ける様子を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0018】
図1に、本発明に係るシール構造体を適用した等速自在継手1を示す。等速自在継手1は、外側継手部材10と、内側継手部材20と、トルク伝達部材としての複数のボール30と、複数のボール30を保持するケージ40と、ブーツ50とを主に備える。図示例の等速自在継手1は、外側継手部材10と内側継手部材20との相対的な軸方向移動を許容しながら、両者の間でトルクを等速で伝達する、いわゆる摺動型の等速自在継手である。この等速自在継手1は、ドライブシャフトの一部を構成し、外側継手部材10の軸部12が、
図7に示すハウジング102の開口部に挿入され、その先端がデファレンシャル装置107のサイドギア128に取り付けられる。
【0019】
外側継手部材10は、カップ状のマウス部11と、マウス部11の底部の軸心から軸方向一方側(図中右側)に延びる軸部12を有する。マウス部11の内周面には、軸方向に延びる複数(例えば6本)のトラック溝11aが形成される。図示例では、トラック溝11aが軸方向と平行な直線状に形成される。
【0020】
内側継手部材20は、外側継手部材10のマウス部11の内周に収容され、外周面に、軸方向に延びる複数(例えば6本)のトラック溝21が形成される。図示例では、トラック溝21が軸方向と平行な直線状に形成される。内側継手部材20の軸心には軸方向の貫通孔22が形成され、この貫通孔22に形成された雌スプライン部に、中間シャフト2の先端に形成された雄スプライン部が嵌合している。
【0021】
外側継手部材10のトラック溝11aと内側継手部材20のトラック溝21とで形成される複数のボールトラックには、ボール30が一つずつ配される。各ボール30は、ケージ40のポケットに収容され、周方向等間隔位置で保持される。
【0022】
ブーツ50は、中間シャフト2に固定される小径部51と、外側継手部材10のマウス部11の外周面に固定される大径部52と、小径部51と大径部52とを連結する蛇腹部53とを有する。このブーツ50の内部にグリースが充填され、このグリースにより、外側継手部材10、内側継手部材20、ボール30、及びケージ40間の摺動部の潤滑が行われる。
【0023】
外側継手部材10の軸部12の外周面には、環状部品60が固定される。環状部品60は、例えば生材の金属板(鋼板等)のプレス成形品からなる。環状部品60は、
図2に示すように、軸方向一方側(図中右側)に開口した断面コの字形状を成している。具体的に、環状部品60は、小径筒部61と、大径筒部62と、小径筒部61及び大径筒部62の軸方向他端(図中左端)同士を径方向に連結する連結部63とを有する。小径筒部61は、円筒部61aと、円筒部61aの軸方向一方側に隣接して設けられ、軸方向一方側を縮径させたテーパ部61bとを有する。大径筒部62は、軸方向一方側を若干拡径させた略円筒部62aと、略円筒部62aの軸方向一方側に隣接して設けられ、外径側に屈曲させた屈曲部62bとを有する。連結部63は、軸方向と直交する平板状とされる。
【0024】
外側継手部材10の軸部12の外周面には、
図3に示すように、軸部12の軸方向他端付近に設けられた円筒面状の固定面12aと、固定面12aの軸方向一方側に設けられ、固定面12aよりも小径な小径外周面12bとが設けられる。
図3の拡大図に示すように、小径外周面12bは、固定面12aよりも小径な円筒面12b1と、固定面12aと円筒面12b1とを連続するテーパ面12b2とを有する。円筒面12b1は、後述するシール部材70が接触するシール面として機能する。
【0025】
外側継手部材10の軸部12は、鍛造あるいは切削によりマウス部11と一体に形成された後、熱処理(焼き入れ処理)が施される。この熱処理により、軸部12の外周面に表面硬化層が形成される。このため、軸部12の外周面は、生材の金属板のプレス品からなる環状部品60よりも硬度が高くなっている。その後、軸部12の円筒面状の外周面の軸方向一部領域に研削加工が施すことにより、小径外周面12bが形成される。すなわち、軸部12の外周面のうち、小径外周面12b(円筒面12b1及びテーパ面12b2)は研削面であり、固定面12aは、研削加工が施されていない鍛造面あるいは切削面である。
【0026】
軸部12及び環状部品60は、ハウジング(図示省略)の内周面に圧入固定されたシール部材70(
図3に点線で示す)と協働してシール機構を構成する。シール部材70は、樹脂製(ゴム製)の第1リップ71、第2リップ72、及び第3リップ73を一体に有する。シール部材70の第1リップ71及び第2リップ72は、軸部12の小径外周面12bの円筒面12b1と摺動して、接触シールを構成する。シール部材70の第3リップ73は、環状部品60の小径筒部61、大径筒部62、及び連結部63で囲まれた空間に挿入され、これにより非接触シール(ラビリンスシール)が構成される。尚、第3リップ73を環状部品60に摺動させて、接触シールを構成してもよい。
【0027】
環状部品60は、外側継手部材10の軸部12の外周面に固定される。詳しくは、環状部品60の小径筒部61の円筒部61aのうちの軸方向他方側の領域が、外側継手部材10の軸部12の固定面12aに締め代を介して嵌合固定される。このとき、環状部品60の小径筒部61の円筒部61aの軸方向寸法L2(
図2参照)は、円筒部61aと外側継手部材10の軸部12の固定面12aとの嵌合領域(圧入領域)の軸方向寸法L1(
図3参照)よりも大きくなっている。これにより、環状部品60の小径筒部61が、外側継手部材10の軸部12の小径外周面12bの軸方向領域まで延び、環状部品60の小径筒部61と軸部12の小径外周面12bとの間に径方向の隙間Gが形成される。
【0028】
環状部品60の小径筒部61の軸方向一端にはテーパ部61bが設けられているため、隙間Gの開口部の径方向幅は狭められている。特に、図示例では、テーパ部61bの端部が小径外周面12bに全周で当接し、隙間Gの軸方向一方の端部が完全に閉じている。詳しくは、軸部12に装着する前の環状部品60の小径筒部61の軸方向一端の内径d2(
図2参照)が、軸部12の小径外周面12bの円筒面12b1の外径d1(
図3参照)と同じかこれよりも僅かに小さくなっている(d2≦d1)。
【0029】
環状部品60は、外側継手部材10の軸部12に軸方向一方側(軸端側)から組み付けられる。具体的には、環状部品60を外側継手部材10の軸部12に軸端側から外嵌し、小径筒部61の円筒部61aと軸部12の固定面12aとを締め代を介して嵌合させながら、環状部品60を軸方向他方側へ押し進める。このとき、環状部品60よりも固定面12aの方が硬いため、環状部品60の内周面の一部が削られて、環状部品60と固定面12aとの嵌合領域(圧入領域)の軸方向一端に糸状のバリBが形成される(
図3の拡大図参照)。ここで、環状部品60と固定面12aとの嵌合領域の軸方向一方側には、環状部品60の小径筒部61と軸部12の小径外周面12bとで囲まれた隙間Gが設けられるため、この隙間GにバリBを捕捉することができる。本実施形態では、環状部品60の小径筒部61の軸方向一端にテーパ部61bを設けることにより、隙間Gの開口部の径方向幅が小さくなっている。特に、図示例では、隙間Gの開口部の径方向幅が0になっており、すなわち、隙間Gが密閉空間になっている。これにより、バリBを隙間Gの内部に確実に捕捉することができ、隙間GからバリBが出ていくことがない。従って、環状部品60を軸部12に取り付けた後にバリBを除去する工程を省略することができるため、等速自在継手1の製造工程における工数が削減され、製造コストの低減が図られる。
【0030】
本発明は、上記の実施形態に限られない。以下、本発明の他の実施形態を説明するが、上記の実施形態と重複する点については説明を省略する。
【0031】
図4に示す実施形態では、環状部品60の小径筒部61の軸方向一端(テーパ部61bの内径端)を、軸部12の小径外周面12bのテーパ面12b2に当接させている。環状部品60のテーパ部61bの軸方向に対する傾斜角度θ1は、軸部12の小径外周面12bのテーパ面12b2の軸方向に対する傾斜角度θ2よりも大きい(θ1>θ2)。これにより、小径筒部61の内周面とテーパ面12b2との間に隙間Gが形成され、この隙間Gに、環状部品60から生じるバリBが捕捉される。この場合、環状部品60の小径筒部61を、軸部12の小径外周面12bの円筒面12b1の軸方向領域まで延ばす必要がなくなるため、小径筒部61の軸方向寸法を縮小できる。
【0032】
図5に示す実施形態は、軸部12の小径外周面12bのテーパ面12b2の軸方向他方側に、固定面12aより小径で、円筒面(第一円筒面)12b1よりも大径な第二円筒面12b3を設けている。環状部品60の小径筒部61の軸方向一端は、軸部12のテーパ面12b2に当接させている。これにより、環状部品60の小径筒部61の内周面と、軸部12の小径外周面12bの第二円筒面12b3との間に隙間Gが形成され、この隙間GにバリBが捕捉される。このように、固定面12aとテーパ面12b2との間に、固定面12aよりも小径な第二円筒面12b3を設けることで、隙間Gの容積を十分に確保することができる。特に図示例のように、第二円筒面12b3のうちの軸方向他方側の領域に凹部12b30を設けることで、隙間Gの容積をさらに拡大することができる。
【0033】
また、
図5に示す実施形態では、環状部品60のテーパ部61bの軸方向に対する傾斜角度θ1と、軸部12の小径外周面12bのテーパ面12b2の軸方向に対する傾斜角度θ2とを同一としているため、これらの面が面接触している。これにより、隙間Gの開口部を確実に閉塞し、隙間GからバリBが飛び出る事態を確実に防止できる。
【0034】
このとき、環状部品60の軸方向一端を当接させる場所は、
図5に示すテーパ面12b2に限らず、例えば
図6に示すように、軸部12の第二円筒面12b3に当接させてもよい。あるいは、環状部品60の軸方向一端を、軸部12の第一円筒面12b1に当接させてもよい(図示省略)。
【0035】
以上の実施形態では、環状部品60の小径筒部61の軸方向一端を、軸部12の小径外周面12b(円筒面12b1、テーパ面12b2等)に当接させた場合を示したが、これに限らず、環状部品60の小径筒部61の軸方向一端と軸部12の小径外周面12bとを離隔させてもよい。特に、
図3に示す実施形態において、環状部品60の最小内径d2を、軸部12の円筒面12b1の外径d1よりも僅かに大きくすれば、環状部品60を軸部12の軸方向一方側から嵌合させる際に、両者の過度の接触を回避して、シール面として機能する軸部12の円筒面12b1が傷つく事態を防止できる。
【0036】
また、環状部品60の加工方法や材質は上記に限らず、例えば、プレス品以外の金属加工品や、樹脂で形成してもよい。また、環状部品60の形状も上記に限らず、軸部12の固定面12aに締め代を介して嵌合固定され、且つ、軸部12の小径外周面12bとの間に隙間Gを形成するものであればよい。
【0037】
また、本発明のシール構造体は、トリポード型等速自在継手や、ダブルオフセット型等速自在継手、固定型等速自在継手等の他の等速自在継手や、等速自在継手以外の他の機械部品に適用することもできる。
【符号の説明】
【0038】
1 等速自在継手
10 外側継手部材
11 マウス部
12 軸部
12a 固定面
12b 小径外周面
12b1 円筒面
12b2 テーパ面
60 環状部品
61 小径筒部
61a 円筒部
61b テーパ部
62 大径筒部
63 連結部
70 シール部材
71 第1リップ
72 第2リップ
73 第3リップ
B バリ
G 隙間