特許第6576758号(P6576758)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6576758
(24)【登録日】2019年8月30日
(45)【発行日】2019年9月18日
(54)【発明の名称】切削装置及びその制御方法
(51)【国際特許分類】
   B23Q 15/14 20060101AFI20190909BHJP
   B23B 1/00 20060101ALI20190909BHJP
   B23B 21/00 20060101ALI20190909BHJP
   B23B 25/06 20060101ALI20190909BHJP
   B23Q 17/09 20060101ALI20190909BHJP
【FI】
   B23Q15/14 Z
   B23B1/00 Z
   B23B1/00 N
   B23B21/00 C
   B23B25/06
   B23Q17/09 H
【請求項の数】8
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2015-184902(P2015-184902)
(22)【出願日】2015年9月18日
(65)【公開番号】特開2017-56533(P2017-56533A)
(43)【公開日】2017年3月23日
【審査請求日】2018年5月11日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001960
【氏名又は名称】シチズン時計株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100126583
【弁理士】
【氏名又は名称】宮島 明
(72)【発明者】
【氏名】野口 賢次
【審査官】 藤井 浩介
(56)【参考文献】
【文献】 特許第5766895(JP,B1)
【文献】 特開昭57−089546(JP,A)
【文献】 特開2011−123777(JP,A)
【文献】 特開平05−185306(JP,A)
【文献】 特開2009−113143(JP,A)
【文献】 特開2012−206188(JP,A)
【文献】 特開平06−206145(JP,A)
【文献】 特開平06−277901(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23Q 15/00−15/28;17/00−23/00
G05B 19/18−19/416;19/42−19/427
B23B 1/00−25/06
B23C 1/00−9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被加工材をその軸線の周りに回転させ、工具の刃先を前記軸線に直交する方向に対してアプローチ角をもって前記被加工材に押し当てて、前記被加工材を切削加工する切削装置の制御方法であって、
前記工具が前記被加工材を切削加工中、継続して、前記工具が受ける背分力を検出し、
検出される背分力の値とゼロ又はゼロに近い背分力目標値との差に基づいて、前記アプローチ角の変更量を算出し、
前記検出される背分力の値が常にゼロに近づくように、前記工具を前記軸線を含む平面内で回転させて、前記変更量だけ前記アプローチ角を調整することを特徴とする切削装置の制御方法。
【請求項2】
前記検出される背分力の値とゼロ又はゼロに近い背分力目標値との差、及び予め用意された前記アプローチ角と背分力との関係に基づいて、前記アプローチ角の変更量を算出することを特徴とする請求項1に記載の切削装置の制御方法。
【請求項3】
PID演算によって前記アプローチ角の変更量を算出することを特徴とする請求項に記載の切削装置の制御方法。
【請求項4】
前記工具の刃先のノーズRの中心を軸として、前記工具を前記平面内で回転させることによって前記アプローチ角を調整することを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の切削装置の制御方法。
【請求項5】
被加工材をその軸線の周りに回転させ、工具の刃先を前記軸線に直交する方向に対してアプローチ角をもって前記被加工材に押し当てて、前記被加工材を切削加工する切削装置であって、
前記工具を前記軸線を含む平面に沿って保持する回転テーブルと、
該回転テーブルを回転可能に支持する工具台と、
前記回転テーブルを前記工具台に対して前記平面に沿って回転させる回転手段と、
前記工具台を前記軸線に沿う第1の方向と、前記平面に沿い且つ前記軸線に直交する第2の方向とに移動させる工具台移動手段と、
前記工具が前記被加工材を切削加工中に受ける背分力を検出する背分力検出手段と、
前記切削加工中、継続して、前記背分力検出手段によって検出される背分力の値とゼロ又はゼロに近い背分力目標値との差に基づいて、前記アプローチ角の変更量を算出し、
記検出される背分力の値が常にゼロに近づくように、前記回転手段による前記回転テーブルの回転量及び前記工具台移動手段による前記工具台の前記第1の方向と前記第2の方向の各移動量を制御して、前記変更量を達成するように、前記アプローチ角を調整する制御手段と、
を備えたことを特徴とする切削装置。
【請求項6】
前記制御手段は、前記検出される背分力値とゼロ又はゼロに近い背分力目標値との差、及び予め用意された前記アプローチ角と背分力との関係に基づいて、前記アプローチ角の変更量を算出することを特徴とする請求項5に記載の切削装置。
【請求項7】
前記制御手段は、PID演算によって前記アプローチ角の変更量を算出することを特徴とする請求項に記載の切削装置。
【請求項8】
前記制御手段は、前記工具の刃先のノーズRの中心を軸として前記工具が回転して前記アプローチ角が変化するように、前記回転手段による前記回転テーブルの回転量及び前記工具台移動手段による前記工具台の前記第1の方向と前記第2の方向の各移動量を制御することを特徴とする請求項5から7のいずれか一項に記載の切削装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、回転する被加工材に工具の刃先を押し当てて切削加工する切削装置及びその制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動旋盤やマシニングセンタ等の工作機械を切削装置として使用して、被加工材をその軸線の周りに回転させながら、工具の刃先をその軸線に直交する方向から被加工材に押し当てて、被加工材を切削加工して製品を製造することが、部品製造業では広く行なわれている。
【0003】
このような切削装置によって、例えば、回転する被加工材としての丸棒材のワークの表面に、工具の刃先を押し当てて、その表面を切削加工する場合、切削動力に対応する切削抵抗が発生する。この切削抵抗は、ワークの表面の接線方向の分力である主分力と、送り方向(ワークの軸線方向)の分力である送り分力と、径方向の分力である背分力とに分けられる。そのうち背分力は、被加工材の回転軸線に対する法線方向(径方向)の分力であり、工具をワークに押し付けている力に相当する。
【0004】
ところで、細軸材や薄肉の被加工材を切削加工するような場合、被加工材の変形を防ぐために、この背分力を小さくする必要があることが知られている。
そのため、例えば特許文献1には、切削加工中に工具の切削力を検出し、その切削力に応じて、工具保持具を主軸の軸心の回りと、主軸の回転軸心と直角方向の軸の回りに回転させ、背分力が小さくなるように、工具のすくい角と横すくい角を調整することが開示されている。
【0005】
また、特許文献2には、切削加工を開始する前に、予め背分力が小さくなるように、被加工材に対する工具のアプローチ角を設定することが開示されている。アプローチ角とは、工具の刃先を被加工材に押し当てる際の、被加工材の回転軸線に直交する方向に対する傾き角度である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平5−185306号公報(段落0003〜0011)
【特許文献2】特開2009−113143号公報(段落0021〜0028)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、切削加工中に工具のすくい角及び横すくい角を変更すると、被加工材の回転方向に対して、工具の刃先を適切な位置や角度で当てることができなくなるため、切削異常が起こり易くなるという問題がある。
また、切削加工前に、予め背分力が小さくなるように被加工材に対する工具のアプローチ角を設定しても、切削加工中に工具の磨耗や溶着など、何らかの変化が生じて背分力が増加した場合や、被加工材等に起因する加工条件の変更等による背分力の増加に、速やかに対応することができないという問題があった。
【0008】
この発明は、このような問題を解消するためになされたものであり、切削加工中、被加工材の回転方向に対して工具の刃先を当てる位置や角度を適切な状態に保ちながら、工具の状況の変化や加工条件の変更等があっても、常に背分力を小さくできるようにすること
を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明による切削装置の制御方法は、被加工材をその軸線の周りに回転させ、工具の刃先を上記軸線に直交する方向に対してアプローチ角をもって上記被加工材に押し当てて、上記被加工材を切削加工する切削装置の制御方法であって、上記の目的を達成するため、上記工具が上記被加工材を切削加工中、継続して、その工具が受ける背分力を検出し、検出される背分力の値とゼロ又はゼロに近い背分力目標値との差に基づいて、上記アプローチ角の変更量を算出し、上記検出される背分力の値が常にゼロに近づくように、上記工具を上記軸線を含む平面内で回転させて、上記変更量だけ上記アプローチ角を調整することを特徴とする。
【0010】
上記検出される背分力の値とゼロ又はゼロに近い背分力目標値との差、及び予め用意された上記アプローチ角と背分力との関係に基づいて、上記アプローチ角の変更量を算出するとよい。
その場合、PID演算によって上記アプローチ角の変更量を算出することができる。
上記工具の刃先のノーズRの中心を軸として、上記工具を上記平面内で回転させることによって上記アプローチ角を調整するのが望ましい。
【0011】
この発明による切削装置は、被加工材をその軸線の周りに回転させ、工具の刃先を上記軸線に直交する方向に対してアプローチ角をもって上記被加工材に押し当てて、上記被加工材を切削加工する切削装置であって、上記の目的を達成するため、上記工具を上記軸線を含む平面に沿って保持する回転テーブルと、その回転テーブルを回転可能に支持する工具台と、上記回転テーブルを上記工具台に対して上記平面に沿って回転させる回転手段と、上記工具台を上記軸線に沿う第1の方向と、上記平面に沿い且つ上記軸線に直交する第2の方向とに移動させる工具台移動手段と、上記工具が上記被加工材を切削加工中に受ける背分力を検出する背分力検出手段と、上記切削加工中、継続して、上記背分力検出手段によって検出される背分力検出値とゼロ又はゼロに近い背分力目標値との差に基づいて、上記アプローチ角の変更量を算出し、記検出される背分力の値が常にゼロに近づくように、上記回転手段による上記回転テーブルの回転量及び上記工具台移動手段による上記工具台の上記第1の方向と上記第2の方向の各移動量を制御して、上記変更量を達成するように、上記アプローチ角を調整する制御手段と、を備えたことを特徴とする。
【0012】
上記制御手段は、上記検出される背分力値とゼロ又はゼロに近い背分力目標値との差、及び予め用意された上記アプローチ角と背分力との関係に基づいて、上記アプローチ角の変更量を算出するとよい。
【0013】
その場合、上記制御手段は、PID演算によって上記アプローチ角の変更量を算出することができる。
上記制御手段は、上記工具の刃先のノーズRの中心を軸として上記工具が回転して上記アプローチ角が変化するように、上記回転手段による上記回転テーブルの回転量及び上記工具台移動手段による上記工具台の上記第1の方向と上記第2の方向の各移動量を制御するのが望ましい。
【発明の効果】
【0014】
この発明による切削加工装置及びその制御方法によれば、切削加工中、被加工材の回転方向に対して工具の刃先を当てる位置や角度を適切な状態に保ちながら、工具の状況の変化や加工条件の変更等があっても、常に背分力を小さくすることができる。
それによって、被加工材の切削加工中のたわみや変形を抑えることができ、高精度な切削加工が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】この発明による切削装置の一実施形態の概略構成を示す図である。
図2A】アプローチ角が0°の場合のワークと工具の配置関係の例を示す図である。
図2B】アプローチ角が負の角度である場合のワークと工具の配置関係の例を示す図である。
図2C】アプローチ角が正の角度である場合のワークと工具の配置関係の例を示す図である。
図3図1における工具保持機構の斜視図である。
図4】アプローチ角を変更する際の回転テーブルの回転とその回転中心のX,Z方向への移動について説明するための図である。
図5図4における破線円で囲んだ部分の拡大図である。
図6】アプローチ角と背分力との関係の一例を示す線図である。
図7図1に示した切削装置によって切削加工を行う場合の準備工程での作業と加工工程での制御処理の流れを示すフローチャートである。
図8】背分力のフィードバック制御の具体例を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、この発明を実施するための形態を図面に基づいて具体的に説明する。
まず、この発明による切削装置の一実施形態の概略構成を図1によって説明する。この切削装置1は自動旋盤を想定しており、その装置本体である加工部10には、図示を省略したベッドに設置された主軸台に、主軸11が回転自在に支持されている。その主軸11は、主軸モータを含む回転駆動機構によって回転駆動される。
【0017】
主軸11の先端部には、ワーク支持手段であるチャック12が備えられている。そして、被加工材である細い円柱状のワーク2が、そのチャック12によって、主軸11の回転軸線とワークの軸線Lとが一点鎖線で示すように一致するように固定支持される。したがって、主軸11の回転によって、チャック12を介してワーク2がその軸線Lの回りに回転される。
【0018】
一方、切削加工用の工具(刃物)13は、チャック12の近傍に設けられた工具ホルダの役目をなす回転テーブル14に、ワーク2の軸線Lを含む平面に沿って、軸線Lに略直交する方向に、刃先13aをワーク2に向けて保持される。その回転テーブル14は、工具台15に回転可能に支持されている。
その工具台15内には、回転テーブル14を工具台15に対してワーク2の軸線Lを含む上記平面に沿って回転させる回転手段と、工具13がワーク2を切削加工中に受ける背分力を検出する背分力検出手段とを備えている。
【0019】
回転手段は、例えばパルスモータを動力源とする回転駆動機構、背分力検出手段は動力計である。動力計は市販されているものであり、複数の圧電センサを内蔵し、この例では回転テーブル14を介して、工具13が表面加工中に受ける切削抵抗の3分力を測定するが、ここではそのうちの背分力の測定値を使用する。
その工具台15は、ワーク2の軸線Lに沿う第1の方向であるZ方向と、上記平面に沿い且つ軸線Lに直交する第2の方向であるX方向とに移動させる工具台移動手段であるX−Zステージ16に搭載されている。これらの回転テーブル14と工具台15とX−Zステージ16とによって、工具13のアプローチ角を調整可能な工具保持機構17を構成している。
【0020】
この切削装置1は、被加工材であるワーク2をその軸線Lの周りに回転させ、工具13の刃先13aを軸線Lに直交する方向に対してアプローチ角をもってワーク2に押し当てて、ワークを切削加工する。
この切削装置1はさらに、上述した工具保持機構を制御してアプローチ角を調整するための制御手段20を備えている。
この制御手段20は、工具13によるワーク2の切削加工中、背分力検出手段である動
力計によって検出される背分力の値が常にゼロに近づくように、工具台15内の回転手段及び工具台移動手段であるX−Zステージ16を制御して、工具13のワーク2に対するアプローチ角を調整する。そのために、この制御手段20はアプローチ角変更量算出部21と、座標変換部22を有している。
【0021】
アプローチ角変更量算出部21は、動力計によって検出される背分力の値とゼロ又はゼロに近い背分力目標値との差に基づいて、アプローチ角の変更量を算出する。座標変換部22は、アプローチ角変更量算出部21によって算出されたアプローチ角の変更量である変更角度を、回転テーブル14の回転角度と、X−Zステージ16をX方向及びZ方向へ移動させるためのX、Z座標に変換する。そして、その回転角度とX、Z座標によって、工具台15内の回転手段及び工具台移動手段であるX−Zステージ16を制御して、工具13のアプローチ角を調整する。
アプローチ角変更量算出部21には角度制限値が入力され、工具13の回転範囲を規制する。座標変換部22には、工具13の刃先位置情報が入力される。
【0022】
ここで、アプローチ角について図2A図2Cを用いて説明する。これらの図において、図1と対応する部分には同一の符号を付している。
図2Aに示すように、チャック12によってワーク2を保持した主軸が、矢示A方向に回転する。工具13はワーク2の回転の軸線に略直交する方向から、その刃先13aをワークに押し当てて切削加工を行う。その際、工具13にはワーク2の径方向(矢示B方向)に背分力が作用する。この背分力が作用する方向、すなわちワークの軸線に直交する方向に対して、軸線Lを含む平面内で工具13がワーク2に当接する方向の傾きをアプローチ角と称する。
【0023】
図2Aに示すように、工具13がワーク2に当接する方向が、背分力が作用するワークの軸線に直交する方向と一致している場合は、アプローチ角θは0°である。
工具13を矢示Cで示すように回動させると、アプローチ角θが正又は負の値になる。
図2Bに示すように、工具13を後端部がチャック12から遠ざかるように回動させると、アプローチ角θが負の値になる。
逆に、図2Cに示すように、工具13を後端部がチャック12に近づくように回動させると、アプローチ角θが正の値になる。
【0024】
図3は、このように工具13のアプローチ角を調整するための図1に示した工具保持機構17の斜視図である。この工具保持機構17は、工具台15内に設けた回転手段によって、工具13を保持する回転テーブル14を、ワーク2の軸線を含む平面に沿って回転させることによって、アプローチ角θを変更する。しかし、それだけでは工具13の刃先13aの先端の位置がずれてしまい、切削加工中に工具13を回転させることができない。そのため、回転テーブル14の回転に伴って、X−Zステージ16によって工具台15をX方向及びZ方向に移動させる必要がある。
【0025】
図4は、アプローチ角を変更する際の回転テーブルの回転とその回転中心のX,Z方向への移動について説明するための図である。図5図4における破線円で囲んだ部分の拡大図である。
図4に示すように、ワーク2を切削加工中の工具13のアプローチ角を、0°の状態から矢示Dで示すように正方向へθだけ変更するものとする。この場合、回転テーブル14を矢示E方向に角度θ回転させるだけでは、工具13が回転テーブル14の回転中心(位置P1)を中心に図4で角度θだけ右旋回転し、刃先13aがワーク2の切削点から離れてしまう。
【0026】
そのため、回転テーブル14を矢示E方向へ回転させながら、その回転中心の位置P1
を例えば位置P2へ移動させる必要がある。
切削点がずれないようにするためには、工具13を、図5に示す刃先13aのノーズRの中心Qを軸(回転中心)として、ワーク2の軸線を含む平面内で回転させるのが望ましい。
位置P1の座標を(x,z)、位置P2の座標を(x′,z′)とすると、移動後の位置P2の座標は次式によって算出できる。
(x′,z′)=(x・cosθ+z・sinθ+R(1−cosθ−sinθ),
x・sinθ+z・cosθ+R(1−cosθ−sinθ)
この式において、θは回転テーブル14の回転角度、Rは工具13のノーズRの中心Qからの半径である。
この座標の差x′−xだけX方向へ、z′−zだけZ方向へ、X−Zステージ16を移動させる。実際にはこれだけではなく、ワーク2の切削による送り移動を加えて、X−Zステージ16を移動させる必要がある。
【0027】
それによって、工具13の刃先13aのノーズRの中心Qが移動することなく、工具13のアプローチ角を正方向へθだけ変化させることができるため、刃先13aとワーク2の接触する位置がずれない。これにより、切削中にアプローチ角を変えても切削精度に影響を及ぼさず切削することができる。
工具のセッティング時に、アプローチ角θ=0におけるX方向及びZ方向の刃先13aの位置と、ノーズRのR値(半径)を設定する。例えば、X方向は径の分かっている被加工材(ワーク2)で、Z方向は被加工材の端面の位置で合わせる。
なお、Z方向の移動は、主軸11によりワーク2側を軸線方向に移動させてもよい。
【0028】
図6は、アプローチ角と背分力との関係の一例を示す線図である。
これは、被加工材がS45C(機械構造用炭素鋼)で、加工条件が、切削速度:100m/min、切込量:1.0mm、送り速度0.03mm/revの場合の例を示す。
この図6に示すように、アプローチ角と背分力とは略比例関係にある。この例ではアプローチ角が0°から−20°の負の角度範囲で、背分力が8Nから−8Nまで変化し、アプローチ角が−9°程度のときに背分力が0(ゼロ)になっている。背分力がマイナスになると、工具がワークに引き寄せられるような力が作用することになる。
【0029】
背分力はゼロにするのが望ましいが、加工条件によってアプローチ角の可変範囲が制限されるので、常にゼロにできるとは限らないが、切削加工中、背分力の値が常にゼロに近づくように、アプローチ角を自動的に調整する。
アプローチ角と背分力との関係は、被加工材の材料や工具の種類、および加工条件などによって異なるが、いずれにしてもこれに類似した相関関係が認められる。
【0030】
したがって、アプローチ角と背分力との関係が予め分かっている切削加工の場合には、その相関データを図1に示した制御手段20内のメモリに記憶させておけばよい。それによって、アプローチ角変更量算出部21は、動力計によって検出される背分力をゼロに近づけるためのアプローチ角変更量を、そのメモリに記憶された相関データに基づいて容易に算出することができる。
【0031】
次に、図7のフローチャートによって、図1に示した切削装置によって切削加工を行う場合の準備工程での作業と加工工程での制御処理の流れを説明する。
図1に示した制御手段20は、マイクロコンピュータ(以下、CPUと略称する)を備えており、そのCPUによって、アプローチ角変更量算出部21及び座標変換部22の機能を果す。
準備工程では、切削装置1の図示していない操作盤から作業者が加工に必要な情報を入力する。
【0032】
ステップS1では、切削条件を入力する。すなわち、主軸回転数、切削速度、切込量、送り速度等を入力する。
ステップS2では、工具情報を入力する。すなわち、工具の前述したノーズR(半径R)と、旋回可能角度(アプローチ角の変更可能範囲)等を入力する。
ステップS3では、工具の刃先の先端位置を設定する。すなわち、回転テーブルの旋回角度0°(アプローチ角0°)での刃先位置として、ノーズRの中心の座標を設定する。
このステップS1〜S3は任意の順番で行うことができ、並行して行ってもよい。
【0033】
これらの準備工程の作業が完了し、図7には記載されていないが、作業者がワークのセット及び工具のセットを行った後、加工開始ボタンを押すと、加工工程を開始する。
この加工工程の処理は、図1における制御手段20(主にCPU)が加工部10を制御して実行する。
ステップS4で、CPUは主軸11を回転させて切削を開始する。そして、ステップS5で背分力を測定する。それは、工具台15内に設けた動力計によって測定させる。
【0034】
次いで、ステップS6でアプローチ角変更量を算出する。それは、測定された背分力検出値と、ゼロ又はゼロに近い背分力目標値との差に基づいて、背分力がゼロに近づくように、アプローチ角変更量を算出する。
ステップS7では、算出したアプローチ角変更量(変更角度)を、X−Zステージ16の移動座標と、回転テーブル14の旋回角度に変換する。
【0035】
そして、ステップS8で回転テーブル14を旋回させ、X−Zステージ16をX方向とZ方向に移座標分だけ移動させる。
その後、ステップS9で所定量切削したか否かを判断し、所定量切削したら切削を終了するが、所定量切削するまでは、ステップS5へ戻って、ステップS5〜S9の処理を繰り返す。それによって、切削加工中常に、測定させる背分力がゼロに近づくように、工具のアプローチ角を調整し続ける。
したがって、切削方向や切削条件が変わったりしても、背分力を常にゼロ又はゼロに近い状態で切削加工を行うことができる。
【0036】
図8は、背分力のフィードバック制御の具体例を示すブロック図である。
これは、図1における制御手段20に相当する部分である。
制御部25はPID制御、すなわち比例制御と積分制御と微分制御を組み合せたフィードバック制御を行う。
【0037】
入力された背分力目標値(ゼロ又はゼロに近い値)と、動力計による背分力の測定によって測定された背分力との差を制御部25に入力し、制御部25はその差をゼロに近づけるように、PID制御によってアプローチ角の変更量を算出する。そのアプローチ角の変更量によって、図1における回転テーブル14を回転させると共に、X−Zステージ16をX,Z方向に移動させ、工具13のアプローチ角を変更する。その結果、背分力が減少するが、工具の磨耗や溶着などの外乱が加わったとしても、背分力を常に動力計で測定してフィードバック制御を継続することで、背分力を、常に入力された背分力目標値(ゼロ又はゼロに近い値)に近い状態で切削加工を行うことができる。
【0038】
図6に示したようなアプローチ角と背分力との関係が分かっている場合は、測定した背分力と背分力目標値との差から、容易にアプローチ角の変更量を算出できる。
しかし、様々な被加工材料や加工条件で切削加工を行う場合は、アプローチ角と背分力との関係が変わるため、PID制御のような制御方法で、アプローチ角の変更量を設定する。
P(比例)I(積分)D(微分)のそれぞれのパラメータを別途設定できるようにすることによって、最適な制御条件をマニュアルで設定することもできる。
【0039】
なお、図1に示した加工部10は、比較的短いワーク13をチャック12で把持するタイプの旋盤の例を示したが、主軸内にガイドブッシュを備え、長い棒状のワークをガイドブッシュに挿入して、主軸を貫通して装填し、そのワークを繰り出しながら加工するタイプの旋盤でもよい。また、主軸移動型の旋盤のようにワークの軸方向の移動は主軸側が移動して行うようにしてもよい。
また、背分力検出手段は工具台15に限らず、回転テーブル14に備えてもよい。
さらに、被加工材も円柱状や丸棒状の鋼材に限らず、一部加工した二次加工品等でもよいし、鋼材以外の真鍮やアルミニウム、その他の金属材料でもよい。
【0040】
以上、この発明の実施形態について説明してきたが、その実施形態の各部の具体的な構成や処理の内容等は、そこに記載したものに限るものではない。
また、この発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲の各請求項に記載された技術的特徴を有する以外は、何ら限定されるものではないことは言うまでもない。
さらに、以上説明してきた実施形態の構成例、動作例及び変形例等は、適宜変更又は追加したり一部を削除してもよく、相互に矛盾しない限り任意に組み合わせて実施することも可能であることは勿論である。
【産業上の利用可能性】
【0041】
この発明による切削装置の制御方法及び切削装置は、被加工材を切削加工することが可能な各種の工作機械に幅広く利用することができる。
【符号の説明】
【0042】
1:切削装置 2:ワーク(被加工材) 10:加工部 11:主軸
12:チャック 13:工具(刃物) 13a:刃先 14:回転テーブル
15:工具台 16:X−Zステージ(工具台移動手段) 17:工具保持機構
20:制御手段 21:アプローチ角変更量算出部 22:座標変換部
25:制御部(PID)
図1
図2A
図2B
図2C
図3
図4
図5
図6
図7
図8