(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に、本発明の実施の形態について図面を参照しながら説明する。
【0017】
図1は、一実施形態の車両用前照灯システムの構成を示すブロック図である。本実施形態の車両用前照灯システムは、カメラ10、画像処理部11、制御部12、レーザーレーダー13、GPSセンサ14、ヘッドランプユニット15、赤外線ランプユニット16を含んで構成されている。
【0018】
カメラ10は、自車両の所定位置(例えばダッシュボード上、フロントガラス上部等)に設置され、自車両の前方空間を撮影する。本実施形態のカメラ10は、可視光と赤外光の各波長帯に対応している。
【0019】
画像処理部11は、カメラ10によって撮影される車両の前方空間の画像に基づいて自車両の前方に存在する対向車両や先行車両(以下これらを「前方車両」という。)や歩行者を検出する。
【0020】
制御部12は、画像処理部11によって検出される前方車両と歩行者に対応してヘッドランプユニット15による選択的な光照射を行うための制御を行うものである。
【0021】
レーザーレーダー13は、例えば近赤外域(一例として波長870nm)のレーザー光を自車両の前方へ照射し、その反射光に基づいて自車両の前方に存在する歩行者や自動車、道路、地形などを検知するものである。本実施形態では、主に自車両の前方に存在する歩行者の位置や自車両との距離を検知するために用いられる。
【0022】
GPSセンサ14は、GPS衛星からの信号を受信し、この信号に基づいて自車両の現在位置を検出するために用いられる。
【0023】
ヘッドランプユニット15は、自車両の前部の左右にそれぞれ設置されており、自車両の前方へ光(可視光)を照射するために用いられる。
【0024】
赤外光ランプユニット16は、自車両の前部に設置されており、自車両の前方へ赤外光を照射するために用いられる。
【0025】
上記の制御部12は、例えばCPU、ROM、RAM等を備えるコンピュータシステムにおいて所定の動作プログラムを実行することによって構成されるものであり、機能ブロックとして、光照射範囲設定部21、歩行者検出部22、マーキングビーム設定部23、配光制御部24を有する。
【0026】
光照射範囲設定部21は、画像処理部11による前方車両の検出結果に基づいて前方車両の位置を検出し、それに基づいてヘッドランプユニット15によって光照射可能な全範囲のうち前方車両の位置を含んだ一定範囲を非照射範囲としてそれ以外の範囲を光の照射範囲として設定する。
【0027】
歩行者検出部22は、レーザーレーダー13による自車両前方の検出結果に基づいて、自車両の前方に存在する歩行者の位置および自車両との相互間の距離を検出する。
【0028】
マーキングビーム設定部23は、歩行者検出部22によって検出される歩行者の位置および自車両との距離に基づいて、マーキングビームの照射位置(以下「ビーム照射位置」という。)を設定する。このとき、マーキングビーム設定部23は、歩行者と自車両との距離に応じて、マーキングビームの幅(以下「ビーム幅」という。)を可変に設定する。具体的には、歩行者と自車両との距離が小さいほどビーム幅が大きく設定される。
【0029】
配光制御部24は、光照射範囲設定部によって設定される光照射範囲並びに非照射範囲に基づいた配光パターンを形成させるための制御信号を生成し、ヘッドランプユニット15へ出力する。また、配光制御部24は、マーキングビーム設定部23によって設定されるビーム照射位置およびビーム幅に基づいたマーキングビームを形成させるための制御信号を生成し、ヘッドランプユニット15へ出力する。
【0030】
図2は、ヘッドランプユニットの構成例を示す模式的な正面図である。なお、ここでは何れの図においても車両の前部左側に設置されるヘッドランプユニットを示すが、車両の前部右側に設置されるヘッドランプユニットも左右対称の構成を備えるものとする。
図2(A)に示す構成例のヘッドランプユニット15は、ADB(Adaptive Driving Beam)モジュール15a、ロービームモジュール15b、ポジション/DRL(Daytime Running Lamps)モジュール15cを含んで構成されている。ADBモジュール15aは、前方車両の存在する位置を遮光した選択的なハイビーム(走行ビーム)の照射を行うためのモジュールである。ロービームモジュール15bは、ロービーム(すれ違いビーム)の照射を行うためのモジュールである。ポジション/DRLモジュール
15cは、周辺車両や歩行者からの被視認性を向上させるための光を照射するためのモジュールである。この構成例のヘッドランプユニット15においては、ADBモジュール15aによってマーキングビームも形成する。
【0031】
図2(B)に示す構成例のヘッドランプユニット15は、上記した
図2(A)のヘッドランプユニット15に対して、さらに1つのADBモジュール15dを加えた構成である。
図2(C)に示す構成例のヘッドランプユニット15は、上記した
図2(A)のヘッドランプユニット15におけるADBモジュール15aとロービームモジュール15bの機
能を兼ね備えたロー/ADBモジュール15eを備えている。
図2(D)に示す構成例のヘッドランプユニット15は、マーキング
ビームを形成するためのマーキングビームモジュール15fと、ハイビームを形成するためのハイビームモジュール15gと、ロービームモジュール15bを備えている。
【0032】
図3は、ヘッドランプユニットに含まれるADBモジュールの構成例を示す図である。ADBモジュール15aは、LEDアレイ30と、投影レンズ32を含んで構成されている(
図3(B)参照)。LEDアレイ30は、マトリクス状に配列された複数のLED31を有する(
図3(A)参照)。各LED31は、図示のような格子状配列のほか、例えば千鳥状配列されていてもよい。各LED31は、図示しないLEDユニット駆動部によってそれぞれ個別に点灯制御される。LEDアレイ30の各LED31から出射する光は投影レンズ32によって自車両前方へ投影される。制御部12の光照射範囲設定部21によって設定された光照射範囲及び非照射範囲に対応して各LED31が個別に点消灯制御されることにより、所望の配光パターンが形成され、前方車両の位置に応じた選択的な光照射が実現される。一例として、各LED31の発光部サイズを0.7mm×0.7mmとし、投影レンズのレンズ径を700mm程度、レンズ焦点を60mm〜80mmとすることで、自車両の前方に向けて角度で表すと1°程度の分解能のビーム幅で光照射を行うことができる。本実施形態ではこのADBモジュール15aによってマーキングビームの照射も行われる。
【0033】
なお、上記したADBモジュール15d、複合モジュール15eについてもADBモジュール15aと同様の構成を備えているものとする。また、以下では
図2(A)に示した構成例のヘッドランプユニット15を用いることを前提にして説明する。
【0034】
図4は、歩行者と自車両との距離とマーキングビームのビーム幅との関係を説明するための図である。本実施形態における前提として、おおよそ人間の幅は0.5mであり、左右のマージンを各0.25mずつ取ってマーキングビームを照射するものとする。この前提によれば、マーキングビームのビーム幅としては1.0mの幅が必要となる。
図4(A)に示すグラフは、歩行者と自車両との距離を横軸にとり、1.0mのビーム幅を視角(degree)に換算した値を縦軸にとったものである。このグラフから分かるように、例えば約60mの距離にいる歩行者に対して幅1.0mのマーキングビームを照射するには2.0°のビーム幅が必要となる。そして、ビーム幅は、距離が小さくなるほど大きくなる関係にある。
【0035】
図4(A)に示した関係に基づき、本実施形態では
図4(B)に示す関係をもってマーキングビームのビーム幅を設定している。ここで、距離が60mの場合には
図4(A)に示す値と同様にビーム幅1.0°と設定するが、距離が60mよりも小さい値であるときには、歩行者に照射されるマーキングビームの幅がより広くなるようにしている。例えば、距離30mの場合には、
図4(A)に示すように必要なビーム幅が約4.0°であるのに対して、実際に制御するときのビーム幅を5.0°としている。すなわち、ビーム幅を拡げている。これは、歩行者と自車両との距離が近くなるにつれて歩行者の位置が運転者の視野の周辺に移動するため、運転者が歩行者を視認する際の分解能が低下するため、それを補って視認性を向上させるためである。また、距離が60mよりも大きい値である場合には、距離に応じてビーム幅を小さくするのではなくビーム幅を2.0°で固定している。これは、距離が60mよりも大きくなる場合には視認される歩行者の幅がより狭くなるもののそれに追随してビーム幅を小さくしても運転者による歩行者の視認性が向上しないためである。
【0036】
図4(C)は、上記した
図4(B)に示す関係に基づいて実際にビーム幅を設定する際の数値の設定例を示す図である。本実施形態では、歩行者と自車両との距離Dが60m以上の範囲ではビーム幅を2.0°に設定し、距離Dが50m以上60m未満の範囲ではビーム幅を3.0°に設定し、距離Dが40m以上50m未満の範囲ではビーム幅を4.0°に設定し、距離Dが30m以上40m未満の範囲ではビーム幅を5.0°に設定し、距離Dが20m以上30m未満の範囲ではビーム幅を6.0°に設定する。すなわち、ビーム幅を段階的に設定している。なお、これは一例であり、距離Dに応じて連続的にビーム幅を変化させてもよい。
【0037】
図5は、車両用前照灯システムの動作手順を示すフローチャートである。ここでは、マーキングビームを照射するための動作手順のみを示す。以下、
図5を参照しながら車両用前照灯システムの動作について詳述する。
【0038】
制御部12の歩行者検出部22は、レーザーレーダー13の出力に基づいて自車両の前方における歩行者の有無を検知し(ステップS11)、歩行者が存在するか否かを判定する(ステップS12)。歩行者が存在しない場合にはステップS11へ戻る(ステップS12;NO)
【0039】
歩行者が存在する場合に(ステップS12;YES)、歩行者検出部22は、GPSセンサ14の検出結果に基づいて自車両の現在位置を検出する(ステップS13)。次いで、歩行者検出部22は、レーザーレーダー13の検出結果およびGPSセンサ14によって検出された自車両の現在位置に基づいて、歩行者の位置と、歩行者と自車両との距離を検出する(ステップS14)。
【0040】
なお、歩行者検出部22は、画像処理部11による検出結果を用いて歩行者の有無やその位置、自車両との距離を検知してもよい。また、歩行者検出部22は、レーザーレーダー13による検出結果のみを用いて歩行者と自車両との距離を検知してもよい。
【0041】
次に、マーキングビーム設定部23は、歩行者検出部22によって検出された歩行者と自車両との距離Dに基づいて、マーキングビームのビーム幅を設定し、かつマーキングビームのビーム照射位置を設定する(ステップS15)。距離に応じたビーム幅の設定値については上記した通りである(
図4(C)参照)。
【0042】
次に、配光制御部24は、マーキングビーム設定部23により設定されたビーム照射位置およびビーム幅に基づいたマーキングビームを形成させるための制御信号を生成し、ヘッドランプユニット15へ出力する。この制御信号に基づいて、ヘッドランプユニット15により歩行者の存在する領域へマーキングビームが照射される(ステップS16)。
【0043】
図6は、マーキングビームの照射状態を模式的に示した図である。
図6(A)に示すように、歩行者Pが自車両から比較的近い距離(例えば20〜30m)に存在する場合には、図示のように広いビーム幅W1(例えば6.0°)のマーキングビームMB1が形成され、照射される。また、
図6(B)に示すように、歩行者Pと自車両の距離が大きく(例えば40〜50m)、歩行者Pの見かけ上の大きさが小さい場合には、その距離に応じてより小さい値に設定されたビーム幅W2(例えば4.0°)のマーキングビームMB2が形成され、照射される。また、
図6(C)に示すように、歩行者Pと自車両の距離がさらに大きく(例えば60mまたはそれ以上)、歩行者Pの見かけ上の大きさがさらに小さい場合には、その距離に応じてより小さい値に設定されたビーム幅W3(例えば2.0°)のマーキングビームMB3が形成され、照射される。各マーキングビームMB1、MB2、MB3の照射方法については、連続的に点灯させてもよいし、点消灯を繰り返す方法(フラッシング)を用いてもよい。フラッシングの場合には、人間にとって点滅が感得できる程度に点消灯を繰り返すことが好ましく、例えば2Hz以上10Hz以下の周波数で点消灯を繰り返すことが好ましい。
【0044】
なお、ここではいずれのマーキングビームMB1、MB2、MB3においてもビーム高さは同じに設定されているが、歩行者Pの見かけ上の大きさに追随するように、自車両と歩行者との距離に応じてビーム高さを小さくしてもよい。
【0045】
図7は、ヘッドランプユニットによる光照射状態を模式的に示した図である。
図7(A)には、ヘッドランプユニット15からロービームLBが照射され、ハイビームHBが非照射であるときに、自車両の前方右側に存在する歩行者Pに対してその位置と距離に応じてマーキングビームMBを照射した場合の光照射状態が示されている。
図7(B)には、ヘッドランプユニット15からロービームLBが照射され、ハイビームHBが部分的に照射されているときに、自車両の前方右側に存在する歩行者Pに対してその位置と距離に応じてマーキングビームMBを照射した場合の光照射状態が示されている。
図7(C)には、ヘッドランプユニット15からロービームLBが照射され、ハイビームHBが全範囲で照射されているときに、自車両の前方右側に存在する歩行者Pに対してその位置と距離に応じてマーキングビームMBを照射した場合の光照射状態が示されている。この場合には、ハイビームHBよりもマーキングビームMBの光量(光強度)を大きくすることや、マーキングビーム
MBを点消灯させることがより好ましい。
【0046】
ところで、上記実施形態において、歩行者が横断(移動)していることが検出される場合にはその移動方向に対してマーキングビームの幅を広げるようにしてもよい。
図8は、この実施形態におけるマーキングビームの光照射状態を模式的に示す図である。図示のように、例えば歩行者の移動方向が紙面の右から左へ向かう方向であるとする。歩行者の移動方向については、例えば画像処理部11による画像認識によって得られる時刻t1とその次の時刻t2における歩行者の位置を歩行者検出部22において取得し、歩行者の位置の移動する方向を検出することによって判断することが可能である。この場合には、マーキングビームMBの幅が歩行者の移動方向側(左側)に拡張される。具体的には、上記したように歩行者を中心にして左右対称に設定されるビーム幅W11(例えば1.0m)に対して、左側にビーム幅W12だけマーキングビームMBの幅を拡張してマーキングビームMBの照射範囲が設定される。
【0047】
上記の場合に、拡張するビーム幅W12の大きさは、歩行者と自車両との距離Dに応じて、距離が小さいほどビーム幅W12を大きく設定することが好ましい。例えば、距離が小さいほど拡張するビーム幅W12が大きくなるという前提のもとで、(a)距離Dが60m以上の場合にはビーム幅W12を0.2°以上0.7°以下の範囲で設定し、(b)距離Dが50m以上60m未満の場合にはビーム幅W12を0.3°以上0.8°以下の範囲で設定し、(c)距離Dが40m以上50m未満の場合にはビーム幅W12を0.4°以上0.9°以下の範囲で設定し、(d)距離Dが30m以上40m未満の場合にはビーム幅W12を0.7°以上1.2°以下の範囲で設定し、(e)距離Dが20m以上30m未満の場合にはビーム幅W12を1.1°以上1.6°以下の範囲で設定することができる。
【0048】
ここで、上記した他の実施形態においては、0.1°またはそれ以下の分解能でマーキングビームMBのビーム幅を可変に設定する必要がある。この場合には、上記したADBモジュールのLEDサイズや光学系を細密化して対応してもよいし、以下に例示するような、レーザー光などを走査するタイプのモジュールをマーキングビームモジュールとして用いることも好ましい。
【0049】
図9は、レーザー光を走査するタイプのマーキングビームモジュールの構成例を示す図である。
図9に示すマーキングビームモジュールは、レーザーダイオード(発光素子)40、集光レンズ41、MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)ミラー(走査素子)42、波長変換部材43、投影レンズ44を含んで構成されている。
【0050】
レーザーダイオード40は、例えば励起光として青色域(例えば、発光波長450nm)のレーザー光を放出する半導体発光素子である。MEMSミラー42は、レーザーダイオード40から入射するレーザー光を二次元方向(水平方向および垂直方向)に走査して波長変換部材43へ入射させる。
【0051】
波長変換部材43は、入射するレーザー光の少なくとも一部を異なる波長に変換する。本実施形態では、波長変換部材43は、レーザー光によって励起されて黄色光を発する蛍光体を備える。この黄色光と、波長変換部材43を透過するレーザー光(青色)との混色により擬似的な白色光が得られる。投影レンズ44は、波長変換部材43から出射する光を車両前方へ投影する。
【0052】
このマーキングビームモジュールにおいては、レーザーダイオード40から放出されるレーザー光が集光レンズ41によって集光されてMEMSミラー42へ入射する。MEMSミラー42は、このレーザー光を二次元スキャンして波長変換部材43へ入射させる。MEMSミラーによるスキャン動作とレーザーダイオード40の点消灯駆動を同期させることにより、上記の分解能にて歩行者に対してマーキングビームを照射することができる。
【0053】
以上のような実施形態によれば、自車両との相互間の距離に応じてビーム幅が可変に設定されたマーキングビームが歩行者に対して照射されるので、運転者が車両前方に存在する歩行者を容易に認識することが可能となる。
【0054】
なお、本発明は上述した実施形態の内容に限定されるものではなく、本発明の要旨の範囲内において種々に変形して実施をすることが可能である。例えば、上記実施形態では前方車両の位置に応じた選択的な光照射を行うヘッドランプユニットに本発明を適用した場合を例示していたが、従来からのロービームとハイビームの組み合わせによる光照射を行うヘッドランプユニットに本発明を適用することも可能である。