(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
吹付け塗装装置は、コンプレッサより供給される圧縮空気の圧力により塗料を霧化して吹き付ける塗装装置である。吹付け塗装装置は、大面積をムラなく塗装することが容易であり、比較的低粘度な塗料の塗装によく用いられる。
【0003】
一般に、塗料は粘度が水よりも高く、粘度調整のため、塗料には広く高分子が含有されている。粘度は、乾燥状態、混合物、温度等の影響を受けて変化する物性であり、高分子を含有する材料は温度が粘度に与える影響が特に大きい。
【0004】
塗料の粘度は、温度が低くなるにつれて大きくなる。塗料の粘度が大きくなると、吹付け塗装を行うに際し、様々な問題が起こる。
例えば、塗料が高粘度になると、圧縮空気による圧力が、塗料を噴出させるために十分ではなくなり、塗料がノズルを通過しにくくなり、塗料の流量が減少したり、ノズルを通過できなくなったりする。
また、塗料等の流体は、流路の断面積当たりの圧力に応じて流量が決まるが、塗料が高粘度になることにより、吐出量が減少することで、塗料の塗粒が塗装対象物に届くまでの間に、塗粒は圧縮空気により乾燥してしまい、正常な塗膜形成が困難になる。
【0005】
このため、多くの塗料や吹付け塗装装置には、塗装に適した温度帯(20〜30℃の場合が多い)がある。
塗装装置の運転温度は環境温度に依存するため、一般の屋内塗装においては、空調設備による室温管理や塗料自体の温度調整を行い、吹付け環境を維持している。
【0006】
しかし、屋外や、空調設備の無い環境における塗装の際には、圧縮空気を取り入れる吹付け塗装装置の運転温度は外気温近傍になる。
外気温は、季節、地域による変動は勿論、天気や時刻による変動が起こる。これに伴い、塗料の温度が変化し、粘度に影響を与えてしまう。
【0007】
冬期や寒冷地での塗装は、一般的な塗料の適切な施工温度を下回ることが多く、比較的外気温の高い昼間に作業を行わざるを得ず、作業時間が限定的となるといった制限を受けやすく、また、昼間の作業であっても外気温が十分でなく、粘度低下による影響を受ける場合がある。
近年、粘度上昇を抑制するために溶媒の濃度を高めた寒冷地用塗料が用いられることがあるが、施工条件と吹付け状態の管理を通常品と同等に扱うことは困難である。
【0008】
また、外気温は、昼間〜夜間にかけて、約10℃変動するため、夏期や温暖な地域においても、塗料の粘度は時刻により大きく変化し、塗料の粘度上昇が著しい場合には吹付け塗装装置が運転できなかったり、吹付け塗装ができても塗膜の品質不良が生じたりする場合がある。
【0009】
そこで、屋外等の塗装装置の運転環境を人為的に制御出来ない環境下において、外気温に影響されずに品質の良い塗膜を形成することのできる方法が望まれている。
【0010】
特許文献1には、自動車ボディ塗装用の塗料温度の管理に好適に用いることができる温度管理システムが開示されている。特許文献1の温度管理システムは、ヒータにより加温した温水とチラーにより冷却した冷水を混合した温調水によって、塗料タンク内の塗料の温度を一定に保持している。
【0011】
また、特許文献2には、塗料タンクを恒温槽の中に入れることにより、塗料タンク内の塗料の温度を一定に制御する吹付け塗装機が開示されている。
【0012】
吹付け塗装では、塗料は、ノズルを通過し、圧縮空気により霧化されて噴出される。一般的な吹付け塗装装置において、このノズルは、内径が1mm前後、或いは1mm未満といった大きさである。ノズル近傍において、流路内を通過する塗料の体積に比べて管内壁の面積は広く、予め塗料を加熱していたとしても、外気温が低い場合には、塗料は、ノズルを通過する際に冷やされ、粘度が上昇してしまう。
【0013】
このように、特許文献1や特許文献2に記載のような、塗料タンクの温度を一定に制御する方法では、外気温の変化に対して、ノズルから噴出される塗料の温度を一定に保つには不十分であり、ノズルから噴出される塗料の温度を一定に保つことのできる吹付け塗装方法の開発が望まれていた。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明は上記背景技術に鑑みてなされたものであり、その課題は、外気温に影響されず、どのような環境下にあっても、品質の良い塗膜を、安定して塗装することのできる吹付け塗装装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者は、上記の課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、温度制御された熱交換器を、吹付け塗装装置の塗料供給路を形成する熱伝導構造体に取付け、該熱伝導構造体を加温することにより、ノズル近傍まで加熱の影響が及び、ノズルから噴出される塗料を一定温度に加熱することができるため、季節や時間帯による温度変化に影響されずに吹付け塗装装置の運転が可能となり、品質の良い塗膜を、安定して塗装することができることを見出して、本発明を完成するに至った。
【0017】
すなわち、本発明は、圧縮空気供給路と、先端部がノズルになっている塗料供給路と、該ノズルの近傍にあって塗料の温度を常時測定できるようになっている測温手段と、該塗料供給路を形成する熱伝導構造体とから少なくとも構成される、圧縮空気を利用して塗料を吹き付ける吹付け塗装装置であって、
該熱伝導構造体の外部には、加熱手段を有する熱交換器が接触設置されており、
該熱交換器は、該測温手段からの信号を受けた温度調整機構により温度調整されて、塗料を一定温度に保つようになっていることを特徴とする吹付け塗装装置を提供するものである。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、吹付け塗装装置において、塗料が噴出されるノズル近傍まで加熱の影響が及ぶため(ノズル近傍を加熱するため)、吐出される際の塗料の温度を、外気温によらずに一定に制御することが可能となる。このため、気温が低い場合であっても、ノズルから吐出される塗料は、十分に低粘度化され、季節や時間帯による温度変化の影響を受けることなく、吹付け塗装を行うことができる。すなわち、塗料が高粘度になることにより、ノズルを通過しにくくなるようなことがなく、また、それに伴い正常な塗膜形成が困難になることがない。
本発明は、特に、寒冷地や冬期における屋外での吹付け塗装において顕著な効果を奏しやすい。
【0019】
従来、高粘度の塗料は、流動性が悪く、ノズルから塗料を霧化する吹付け塗装には不向きであると考えられていたが、本発明では、ノズルの近傍の温度を高温に制御することができ、塗料を低粘度化した状態で噴出することができる。このため、本発明の吹付け塗装装置では、従来使用されなかった又は使用されにくかった高粘度の塗料の吹付け塗装を行うことができる。
【0020】
低温時に粘度が高くなる塗料は、粘度を低く保つために溶剤の濃度を高める必要があったが、本発明の吹付け塗装では、そのようなことをする必要は無く、一般的な塗料の使用が可能となる。
【0021】
また、本発明では、特許文献1や特許文献2のように、塗料タンクを加熱することにより、該塗料タンクに充填された塗料を加熱するのではなく、塗料供給路を形成する熱伝導構造体の外部に加熱手段を有する熱交換器を接触設置して、熱伝導構造体を加熱する。そのため、噴射直前の塗料の温度を制御することが可能である。なお、本発明においても、塗料タンクに充填された塗料の加熱について排除はされない。
熱交換器や熱伝導構造体を、銅のような熱伝導率の大きい金属とすることにより、短時間で効率よく熱伝導構造体を目標温度まで昇温することができ、ノズル近傍も目標温度に達する。
【0022】
ノズルの近傍において、塗料供給路を通過する塗料の体積に比べて塗料供給路の内壁の面積は広いため、塗料タンクを予め加熱しなくても、ノズルを通過する際に、塗料は加熱された状態になる。
本発明では、加熱のエネルギー効率が良く、また、温度の立ち上がりが早いため、加熱開始後、すぐに塗装作業を開始することができる。従って、塗装作業を開始する際に、塗料の温度を調整するための時間を短縮できる。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明について説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではなく、任意に変形して実施することができる。
【0025】
本発明の吹付け塗装装置1の一例を、
図1に示す。
本発明の吹付け塗装装置1は、圧縮空気供給路11と、先端部がノズル12aになっている塗料供給路12と、該ノズル12aの近傍にあって塗料の温度を常時測定できるようになっている測温手段31と、該塗料供給路12を形成する熱伝導構造体10とから少なくとも構成され、圧縮空気を利用して塗料を吹き付けるものである。
【0026】
本発明の吹付け塗装装置1では、ノズル12aの近傍に測温手段31を設け、熱伝導構造体10を外部から加熱し、ノズル12aから、塗料Pを一定温度に加熱した状態(すなわち、塗料Pの粘度が低い状態)で噴出させることで、塗料Pがノズル12aを通過しやすく、正常な塗膜を形成できるようにしたものである。
【0027】
<熱伝導構造体>
熱伝導構造体10は、その内部に、圧縮空気が通過する圧縮空気供給路11と、先端部がノズル12aになっている塗料供給路12を有する。言い換えると、熱伝導構造体10が、空間である圧縮空気供給路11を形成している。
【0028】
熱伝導構造体10は、一般的な吹付け塗装装置における装置本体とも言える。上記のように、本発明では、ノズル12aの近傍を測温し、噴射直前において塗料Pを温度制御した状態で吐出させるのが特徴であり、そのために、熱伝導構造体10を外部から加熱する。
本発明では、熱伝導構造体10の形状や構造に特徴はなく、公知の吹付け塗装装置における装置本体の形状と同一のものを本発明の熱伝導構造体10として使用することもできる。
【0029】
図1は本発明の吹付け塗装装置1の一例の概略を模式的に示したものであり、熱伝導構造体10の詳しい形状や構造は省略している。
熱伝導構造体10は、ノズル12aの開閉を行って、噴射される塗料の量等を調整するニードル弁を有していたり、ニードル弁のパッキン、塗料Pの吐出量や圧縮空気の流量の調整機構等が付随していたりすることが好ましい。
【0030】
吹付け塗装装置1においては、圧縮空気を圧縮空気供給路11に流した状態において、弁を開くことにより、塗料供給路12のノズル12aの先端に生ずる空気流による真空(減圧)部分を利用して、塗料Pが霧化して噴射される。
【0031】
本発明の吹付け塗装装置に用いられる圧縮空気や塗料の供給方法に特に限定はなく、公知の方法が使用できる。例えば、塗料の供給方法は、
図1に示したような重力式でも、吸上式でも、塗料タンクが別途存在する圧送式でもよい。
塗料供給路12は、その内部を塗料Pが通過するものであり、
図1においては、塗料供給路12は塗料カップ50と接続されている。本明細書において、「塗料供給路12」とは、熱伝導構造体10の内部に形成された塗料の通り道をいう。塗装時に、熱伝導構造体10は加熱されているので、塗料供給路12の内部の塗料Pにまで熱が伝わり、塗料Pが昇温される。
【0032】
熱伝導構造体10の構成材料は、特に限定はないが、加熱した際に昇温が早く、温度ムラが生じにくいため、金属が好ましく、具体的には、銅、アルミニウム、ステンレス、真鍮、鋼等が挙げられる。
このうち、熱伝導率が高く、かつ、安価であるため、銅が特に好ましい。
【0033】
<熱交換器>
熱伝導構造体10の外部には、加熱手段21を有する熱交換器20が接触設置されている。
熱交換器20は、内部に設置された加熱手段21により発生した熱を、熱伝導構造体10へと伝送するためのものである。
【0034】
図1に示すように、熱交換器20は、熱伝導構造体10と接触設置されており、熱伝導構造体10を外部から覆ったような状態となっている。熱伝導構造体10において、熱交換器20により覆われた部分の割合は多いほどよい。
【0035】
熱交換器20の構成材料は、特に限定はないが、熱伝導構造体10と同様の理由から、熱伝導率の大きい材料、すなわち、金属が好ましく、具体的には、銅、アルミニウム、ステンレス、真鍮、鋼等が挙げられる。
このうち、熱伝導率が高く、かつ、安価であるため、銅が特に好ましい。
【0036】
熱交換器20の内部に設置された加熱手段21に特に限定はなく、例えば、電熱線ヒータ、赤外線ヒータ、温水等を内部に通過させるジャケット式ヒータ等を好適に使用することができる。
単純な構造にでき、加熱効率もよいことから、加熱手段21は、電熱線ヒータであることが特に好ましい。
【0037】
熱交換器20は、断熱材40により被覆されていると、熱交換器20の熱が外部に逃げず、熱伝導構造体10に効率よく熱を伝送できるので好ましい。
断熱材40の種類に特に限定はなく、グラスウール、セルロースファイバー等の繊維系断熱材;ウレタンフォーム、ポリスチレンフォーム等の発泡系断熱材;等が一例として挙げられる。
【0038】
<温度調整機構・測温手段>
熱交換器20は、測温手段31からの信号を受けた温度調整機構30により温度調整されて、塗料を一定温度に保つようになっている。
【0039】
測温手段31は、塗料供給路の先端のノズル12aの近傍に設置され、ノズル12aから吐出される塗料Pの温度を常時測定している。
熱交換器20の内部に設置された加熱手段21による加熱が開始されると、熱伝導構造体10に熱が伝送され、熱伝導構造体10の温度が上昇する。加温された熱伝導構造体10の内表面が昇温することにより、熱伝導構造体10の内表面に接している塗料Pが昇温し、塗料Pの粘度を低下させて流動性を確保する。
【0040】
塗料供給路のノズル12aの先端の内径は1mm前後、或いは1mm未満といった大きさであり、通過する塗料Pの体積に比べて内壁の面積は広い。このため、ノズル12aを通過する際の塗料Pの温度は、ノズル12aの近傍に設置された測温手段31により測定される温度と近似できる。
【0041】
測温手段31は、温度調整機構30と接続され、測定した温度の信号を常時送っている。温度調整機構30は、測温手段31から送られた信号を加熱手段21にフィードバックする。すなわち、測温手段31の測定した温度が、予め設定された目標の一定温度に近づくように、加熱手段21の出力を調整し、ノズル12aの近傍の温度(ノズル12aから吐出される塗料の温度)が、一定温度となるように制御する。
温度制御の方法に特に限定はなく、PID制御等の公知の制御方法が使用される。
【0042】
ノズル12aの近傍の温度(ノズル12aから噴出される塗料Pの温度)が、目標の一定温度に達したら、作業者は塗装作業を開始する。
作業者が常にノズル12aの近傍の温度を把握できるように、温度調整機構30は、温度表示機能を有し、具体的な温度の値を常時表示することが好ましいが、目標の一定温度に達したことを、点灯やアラーム等の別の方法で示してもよい。
【0043】
熱伝導構造体10や、熱交換器20の構成材料が、銅のような熱伝導率の大きい金属であれば、通常、約1分程度で、ノズル12aの近傍の温度(ノズル12aから噴出される塗料の温度)が目標の一定温度に達し、作業を開始することができる。
このため、本発明の吹付け塗装装置は、加熱のエネルギー効率が良いだけでなく、作業効率良く塗装作業を行うことができる。
【0044】
測温手段31の種類に特に限定はなく、例えば、熱電対、測温抵抗体等が挙げられる。安価であり、設置が容易なことから熱電対が好ましい。
また、熱電対には、K型、J型、T型、N型等があるが、入手のしやすさや、熱起電力の直線性等から、特に限定はないが、K型熱電対が好ましい。
【0045】
温度調整により達成される目標の一定温度は、塗料の粘度が十分に小さく、塗料がノズルを通過でき、良好な塗膜を形成することのできる温度である。
この一定温度は、塗料の種類により異なるが、本発明の吹付け塗装装置の場合、25℃以上60℃以下であることが好ましく、30℃以上55℃以下であることがより好ましく、35℃以上50℃以下であることが特に好ましい。
通常の塗料の場合、上記下限温度以上だと、粘度が十分に低下し、良好に塗装できる。また、上記上限温度以下に加熱すれば塗装性は十分であり、上記上限温度を超えると、塗料が変質したり、加熱のエネルギーが無駄になったりする場合がある。
ただし、本発明の吹付け塗装装置の構成部材は、比較的耐熱温度が低いシール部材や潤滑剤であっても、120℃程度まで耐えることができるので、粘度の大きい特殊な塗料の場合、上記上限以上(例えば、60〜100℃)に加熱してもよい。
【0046】
吹付け塗装装置1は、塗料供給路の先端のノズル12aの近傍の測温手段31の他に、他の箇所にも測温手段が設置されているのが好ましい。例えば、
図1に示すように、熱交換器20に、別の測温手段32が設置されていてもよい。
熱伝導構造体10や、熱交換器20の構成材料が、銅のような熱伝導率の大きい金属であれば、熱の伝送は良好であり、ノズル12aの近傍に設置された測温手段31により測定される温度と、熱交換器20に設置された測温手段32により測定される温度はほとんど同じである。
【0047】
ノズル12aの近傍に設置された測温手段31は、吹付け塗装を続けると、塗料Pの付着等により劣化し、正常な温度を示すことができなくなる場合がある。このような場合に、別の測温手段が設けられていると、測温手段31の校正を容易に行うことができる。
【0048】
測温手段32等の、ノズル12aの近傍に設置された測温手段31とは別の測温手段の種類については、測温手段31と同様のものを、好適に使用することができる。
【0049】
<塗料>
本発明の吹付け塗装装置により塗装される塗料の種類に特に限定はないが、本発明は、温度依存性の高い動粘度特性を有する塗料や、高粘度の塗料の塗装に特に効果的である。
このような塗料の例として、エマルジョン塗料が挙げられる。
また、比較的低粘度な塗料であっても、冬期や寒冷地では、粘度が低下しやすく、本発明の効果が発揮される。
【0050】
本発明の吹付け塗装装置が、温度変化の影響を受けることなく、どのような環境下にあっても良好な塗膜を形成できるのは、別に設けられた「塗料の充填されたタンク」や「塗料カップ50」を加熱したのではなく、塗料供給路を形成する熱伝導構造体を加熱したためと考えられる。
塗装される塗料の性質は、ノズルを通過する際の塗料の温度に依存する。塗料は、吐出される際に、極めて径の狭いノズルを通過する(すなわち、ノズル近傍において、流路内を通過する塗料の体積に比べて管内壁の面積は広い)ので、ノズルを通過する前の塗料が、どのような温度であったとしても、径の狭いノズルを通過する際の塗料の温度は、ノズル近傍の温度とほぼ等しくなると考えられる。
【0051】
本発明の吹付け塗装装置では、熱伝導構造体や熱交換器を熱伝導率の大きな材料(例えば金属)で構成するので、熱交換器の中に設置された加熱手段による加熱の影響は、短時間で塗料にまで及ぶ。
また、吸上式や圧送式における、別途設けられた「塗料の充填されたタンク」、該タンク内の塗料、重力式における塗料カップ50、該塗料カップ内の塗料等の体積と比較して、本発明における、熱伝導構造体、熱交換器、塗料供給路内の塗料等の体積は小さいので、該熱伝導構造体、該熱交換器、加熱対象の「塗料供給路内の塗料」等は、熱容量が小さく、加熱の影響は短時間で噴射される塗料に及ぶ(加熱に関して応答が速い)。
このため、ノズルを通過する際の塗料は、十分に加熱され、低粘度化された(流動性の高い)状態で吐出され、吐出量が十分であり、良好な塗膜を形成することができる。
【実施例】
【0052】
以下に、実施例及び比較例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、本発明は、その要旨を超えない限りこれらの実施例及び比較例に限定されるものではない。
【0053】
(実施例1)
熱伝導構造体及び熱交換器の構成材料として銅を使用して、熱伝導構造体の外部が熱交換器で覆われた吹付け塗装装置を作製した。熱伝導構造体の塗料供給路の先端のノズルの近傍に、K型熱電対(以下、「熱電対A」という。)を設置した。熱交換器は、内部に電熱線ヒータを有し、シース孔が設けられており、該シース孔に、K型熱電対(以下、「熱電対B」という。)を設置した。熱電対Aと熱電対Bを、温度表示機能を備えた温度調節器に接続し、それぞれの指し示す温度を常時表示するように設定した。温度調節器は、熱電対Aから送られた信号を電熱線ヒータにフィードバックするように設定した。
【0054】
電熱線ヒータによる加熱を行わずに、気温20℃の環境下において、20℃における粘度が200dPa・sの塗料を、塗装対象物に吹付け塗装したところ、塗料はノズルを通過し、一応塗装をすることはできたが、塗料の吐出量は十分でなく、作業効率は悪かった。
【0055】
次に、目標温度(熱電対Aの指し示す温度)を35℃に設定し、電熱線ヒータによる加熱を開始したところ、1分程度で、熱電対Aの指し示す温度は、35℃の定常となった。また、熱電対Bの指し示す温度も、35℃であり、熱電対Aと熱電対Bの指し示す温度に差は無かった。
【0056】
この状態で、同じ塗料を、塗装対象物に吹付け塗装したところ、塗料の吐出量が増加し、良好な塗膜を形成することができた。
【0057】
(比較例1)
実施例1と同じ吹付け塗装装置を使用して、電熱線ヒータによる加熱を行わずに、寒冷地(気温13℃)において、20℃における粘度が200dPa・sの塗料の吹付け塗装を行おうとしたが、ノズルを通過する塗料の吐出量は著しく少なかった。ノズルを通過した塗料は、塗装対象物に付着した時点でも塗粒が硬く、その形状を保持してしまい、塗膜は平滑にならず、塗膜性状は不良であった。
【0058】
(実施例2)
比較例1と同じ環境下(気温13℃)において、実施例1と同じ吹付け塗装装置を使用して、目標温度(熱電対Aの指し示す温度)を35℃に設定し、電熱線ヒータによる加熱を開始したところ、1分程度で、熱電対Aの指し示す温度は、35℃の定常となった。また、熱電対Bの指し示す温度も、35℃であり、熱電対Aと熱電対Bの指し示す温度に差は無かった。
【0059】
この状態で、同じ塗料を、塗装対象物に吹付け塗装したところ、塗料の吐出量が著しく増加し、平滑な塗膜を良好に形成することができた。
【0060】
(実施例3)
実施例1と同じ吹付け塗装装置を使用して、20℃における粘度が200dPa・sの塗料の吹付け塗装を、同じ日の昼間(気温23℃)と夜間(気温12℃)にそれぞれ実施した。
昼間も、夜間も、目標温度(熱電対Aの指し示す温度)を35℃に設定し、電熱線ヒータによる加熱を開始した。何れの場合も、加熱開始後1分程度で、熱電対Aと熱電対Bの指し示す温度は、35℃で定常となった。
この状態で、塗装対象物に吹付け塗装したところ、塗料の吐出量は十分であり、平滑な塗膜を良好に形成することができ、昼間と夜間で、塗膜の性状に差は無かった。
【0061】
各実施例・比較例の結果から、本発明の吹付け塗装装置において、加熱による温度制御をした場合、1分程度で、ノズル近傍の温度は定常となり、また、熱伝導構造体と熱交換器の伝熱は良好であり、場所による温度の差はほとんどないことがわかった。
ノズル近傍が一定温度に加熱されていれば、外気温がどのような温度であっても、塗料は十分にノズルを通過でき、良好な塗膜を形成できた。