特許第6576800号(P6576800)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6576800
(24)【登録日】2019年8月30日
(45)【発行日】2019年9月18日
(54)【発明の名称】磁気歯車装置
(51)【国際特許分類】
   F16H 49/00 20060101AFI20190909BHJP
   H02K 49/10 20060101ALI20190909BHJP
【FI】
   F16H49/00 A
   H02K49/10 A
【請求項の数】13
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2015-225747(P2015-225747)
(22)【出願日】2015年11月18日
(65)【公開番号】特開2017-53480(P2017-53480A)
(43)【公開日】2017年3月16日
【審査請求日】2018年10月26日
(31)【優先権主張番号】特願2015-175461(P2015-175461)
(32)【優先日】2015年9月7日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086793
【弁理士】
【氏名又は名称】野田 雅士
(74)【代理人】
【識別番号】100087941
【弁理士】
【氏名又は名称】杉本 修司
(72)【発明者】
【氏名】山田 裕之
(72)【発明者】
【氏名】杉浦 顕
【審査官】 岡本 健太郎
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2013/001557(WO,A1)
【文献】 国際公開第2013/137252(WO,A1)
【文献】 特開2012−157205(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 49/00
H02K 49/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
それぞれ複数の永久磁石を有する2つの回転子と、磁気的に前記2つの回転子間に位置し、磁束を変調可能な複数のポールピースを有する固定子とを備え、
前記2つの回転子のうちの一方の回転子は、この回転子の回転軸と垂直な方向のラジアルギャップを介して前記固定子と対向し、かつ前記2つの回転子のうちの他方の回転子は、この回転子の回転軸と平行な方向のアキシアルギャップを介して前記固定子と対向し、
前記ポールピースが圧粉磁心を用いて構成されていることを特徴とする磁気歯車装置。
【請求項2】
請求項1に記載の磁気歯車装置において、前記他方の回転子は、隣接する2つの永久磁石の磁極の向きが互いに異なるように、前記複数の永久磁石が同一円周上に等間隔で配置されている磁気歯車装置。
【請求項3】
請求項1に記載の磁気歯車装置において、前記他方の回転子は、前記複数の永久磁石がハルバッハ配列で配置されている磁気歯車装置。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の磁気歯車装置において、前記ポールピースにおける少なくとも前記一方の回転子と正対する部分は、前記他方の回転子に近づくに従って、前記一方の回転子の回転軸と垂直な断面の断面積が大きくなっている磁気歯車装置。
【請求項5】
請求項4に記載の磁気歯車装置において、前記ポールピースにおける少なくとも前記一方の回転子と正対する部分は、前記他方の回転子に近づくに従って、前記一方の回転子の回転軸と垂直な断面の断面積が連続的に大きくなっている磁気歯車装置。
【請求項6】
請求項4または請求項5に記載の磁気歯車装置において、前記ポールピースにおける前記一方の回転子と正対する部分以外の部分は、前記他方の回転子に近づくに従って、前記一方の回転子の回転軸と垂直な断面の断面積が小さくなっている磁気歯車装置。
【請求項7】
請求項1ないし請求項6のいずれか1項に記載の磁気歯車装置において、前記ポールピースの前記他方の回転子と対向する面の形状が、前記他方の回転子の回転軸を中心とする互いに半径が異なる2本の同心円弧と、前記他方の回転子の回転軸から互いに異なる方向に放射状に延びる2本の直線とで囲まれた扇台形状である磁気歯車装置。
【請求項8】
請求項1ないし請求項7のいずれか1項に記載の磁気歯車装置において、前記一方の回転子が前記固定子の内周側に配置された磁気歯車装置。
【請求項9】
請求項1ないし請求項7のいずれか1項に記載の磁気歯車装置において、前記一方の回転子が前記固定子の外周側に配置された磁気歯車装置。
【請求項10】
請求項1ないし請求項9のいずれか1項に記載の磁気歯車装置において、前記2つの回転子のいずれかまたは両方の回転子における前記固定子から見て背面側の面に、磁性材料からなる磁界強化用のバックヨークが設けられた磁気歯車装置。
【請求項11】
請求項1ないし請求項10のいずれか1項に記載の磁気歯車装置において、前記一方の回転子の前記永久磁石は、前記一方の回転子の回転軸と垂直な方向から着磁されている磁気歯車装置。
【請求項12】
請求項1ないし請求項10のいずれか1項に記載の磁気歯車装置において、前記一方の回転子の前記永久磁石は、前記一方の回転子の回転軸と垂直な平面に沿う一方向から着磁されている磁気歯車装置。
【請求項13】
請求項1ないし請求項10のいずれか1項に記載の磁気歯車装置において、前記一方の回転子の前記永久磁石がハルバッハ配列で配置されている磁気歯車装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、原動側の回転子と従動側の回転子とが互いに非接触で動力を伝達する磁気歯車装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車、鉄道、産業用機械、家電製品等の駆動部には、モータ等の回転電動機が装備されている。この回転電動機の出力は、歯車等によって所望のトルクまたは回転数に変換して、作用部に伝達される。従来の一般的な機械式歯車では、互いに噛み合う一対の歯車の歯が接触しながら動力を伝達するため、歯と歯の間に摩擦が生じる。そのため、以下の問題があった。
・歯が擦れて摩耗する。
・振動や騒音が発生する。
・限界トルクや疲労破壊等により歯が損傷する。
・オイルやグリス等の潤滑剤が必要となり、クリーンな環境で使用できない。
【0003】
歯と歯の接触が無ければ上記問題はすべて解決する。歯と歯の接触が無い動力伝達機構として磁気歯車がある。磁気歯車の特徴は非接触で動力を伝達することであるから、伝達可能トルクの絶対値は機械式歯車に比べて低いものの、以下の多くのメリットがある。
・振動や騒音がほぼ無い。
・発塵が無い。このためクリーンな環境で使用できる。
・摩擦や摩耗による劣化がほぼ無く、メンテナンスフリーが実現できる。
・歯と歯の間に隔壁(非磁性体)があっても動力の伝達が可能である。このため、2つの歯がそれぞれ異なる媒質中に存在することが可能である。
・能力以上のトルクがかかった場合に脱調するトルクリミッタ機能を有する。機械式歯車に能力以上のトルクがかかった場合は、歯が損傷する可能性がある。
・摩擦損失が無いため、構成によっては高効率のトルク伝達が可能である。
【0004】
磁気歯車を用いた変速機構が、特許文献1,2に記載されている。
特許文献1の磁気歯車装置は、原動側および従動側の各回転子(外歯車、内歯車)が同心円状に配置され、各回転子間に固定子(ステータ歯車)が介在している。各回転子と固定子とは、それぞれラジアルギャップを介して対向している。固定子には、円周方向に並ぶ複数のポールピース(磁性歯部)が設けられている。このポールピースに積層電鋼板を用いることで、回転中の渦電流を低減させ、高効率での変速を可能としている。さらに、ポールピースを軸方向に対してスキューさせることで、磁界の急峻な変化を低減しコギングトルクを抑制している。
【0005】
特許文献2の磁気歯車機構も、2つの回転子間に、これら2つの回転子とそれぞれラジアルギャップを介して対向する固定子(磁極片体)が介在している。特許文献2では、回転子の永久磁石を軟磁性材料の内部へ埋め込む構造にすることで、大きなトルク伝達を可能にし、さらに永久磁石を軸方向に分割構造とすることで、回転中の磁石内部に発生する渦電流を低減し、高効率のトルク伝達を可能としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第5389122号
【特許文献2】特許第5526281号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記のように、特許文献1、2の磁気歯車を用いた変速機構は、原動側および従動側の回転子が共に、ラジアルギャップを介して固定子に対向している。この構成であると、全体の径方向寸法が大きくなる。そこで、全体の径方向寸法を抑えるために、原動側および従動側の回転子のうち一方の回転子はラジアルギャップを介して固定子に対向し、他の回転子はアキシアルギャップを介して固定子に対向する構成からなる磁気歯車装置の開発を試みた。
【0008】
2つの回転子が共にラジアルギャップを介して固定子に対向する構成や、2つの回転子が共にアキシアルギャップを介して固定子に対向する構成の場合、磁束の流れに方向性があるため、ポールピースに積層電鋼板を用いることが有効である。しかし、ラジアルギャップとアキシアルギャップを組み合わせた構成では、ポールピースにおける磁束の流れが3次元的となるため、ポールピースに積層電鋼板を用いると、ラジアル方向およびアキシアル方向のうちの一方向の渦電流成分しか低減することができず、トルク伝達効率が低下することが試験により確認された。
【0009】
この発明の目的は、2つの回転子のうち一方の回転子はラジアルギャップを介して固定子に対向し、他の回転子はアキシアルギャップを介して固定子に対向する構成において、3次元的に流れる磁束の渦電流損失を抑制し、高いトルク伝達効率を実現できる磁気歯車装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この発明の磁気歯車装置は、それぞれ複数の永久磁石を有する2つの回転子と、磁気的に前記2つの回転子間に位置し、磁束を変調可能な複数のポールピースを有する固定子とを備え、前記2つの回転子のうちの一方の回転子は、この回転子の回転軸と垂直な方向のラジアルギャップを介して前記固定子と対向し、かつ前記2つの回転子のうちの他方の回転子は、この回転子の回転軸と平行な方向のアキシアルギャップを介して前記固定子と対向し、前記ポールピースは圧粉磁心を用いて構成されていることを特徴とする。
【0011】
この構成によると、原動側となる回転子の回転が従動側となる回転子へ、両回転子の永久磁石の極対数に応じた変速比で伝達される。2つの回転子のうちの一方の回転子はラジアルギャップを介して固定子に対向し、他の回転子はアキシアルギャップを介して固定子に対向するため、2つの回転子が共にラジアルギャップを介して固定子に対向する構成に比べて、磁気歯車装置全体の径方向寸法を抑えることができる。また、2つの回転子が共にアキシアルギャップを介して固定子に対向する構成に比べて、磁気歯車装置全体の軸方向寸法を抑えることができる。
【0012】
2つの回転子のうちの一方の回転子はラジアルギャップを介して固定子に対向し、他の回転子はアキシアルギャップを介して固定子に対向する構成の場合、固定子のポールピースを流れる磁束方向が3次元的となる。例えば、一方の回転子と他方の回転子の各磁極間で作用する磁束方向はおおよそ各回転子の回転軸の方向となるが、一方の回転子や他方の回転子の磁極境界付近と面している部位では、磁束は周方向に発生する。そのため、2次元的な磁束方向の抑制効果しか持たない積層電磁鋼板でポールピースが構成されていると、渦電流損失の低減効果が弱く、トルク伝達効率が低下する。しかし、この発明の構成のように、圧粉磁心を用いてポールピースを構成すると、3次元的な磁束方向に対する渦電流の低減効果が高いため、渦電流損失を抑制して、トルク伝達効率を向上させることができる。
【0013】
この発明において、前記他方の回転子は、隣接する2つの永久磁石の磁極の向きが互いに異なるように、前記複数の永久磁石が同一円周上に等間隔で配置されていても良い。また、前記他方の回転子は、前記複数の永久磁石がハルバッハ配列で配置されていても良い。
いずれの場合も、渦電流損失を抑制して、トルク伝達効率を向上させることができる。
【0014】
この発明において、前記ポールピースにおける少なくとも前記一方の回転子と正対する部分は、前記他方の回転子に近づくに従って、前記一方の回転子の回転軸と垂直な断面の断面積が大きくなっていると良い。前記断面積は、他方の回転子に近づくに従って連続的に大きくなっていても良く、段階的に大きくなっていても良い。
2つの回転子間のトルク伝達性能の面で見た場合、2つの回転子の間で互いの磁束が無駄なく作用することが望ましい。ポールピースの断面積が他方の回転子に近づくに従って大きくなっていると、ポールピース内の磁束の流れがスムーズになり、ポールピースにおける他方の回転子から遠く離れた部位で発生する漏洩磁束を最小限に抑制できる。その結果、他方の回転子に作用する磁束が増え、伝達トルクおよび伝達効率が向上する。
【0015】
前記ポールピースにおける前記一方の回転子と正対する部分以外の部分は、前記他方の回転子に近づくに従って、前記一方の回転子の回転軸と垂直な断面の断面積が小さくなっていても良い。
他方の回転子の極数が多い磁気歯車装置の場合、ポールピースの一方の回転子と正対する部分以外の部分の軸方向断面積が他方の回転子に近づくに従って大きくなっていると、ポールピースの他方の回転子との対向面積が大きくなり過ぎて、一つのポールピースが周方向に隣合うN極とN極、またはS極とS極に跨って対向する可能性がある。そこで、ポールピースの一方の回転子と正対する部分以外の部分の軸方向断面積を他方の回転子に近づくに従って小さくして、ポールピースの他方の回転子との対向面積を小さくすることで、上記ポールピースの跨りを回避する。
【0016】
この発明において、前記ポールピースの前記他方の回転子と対向する面の形状が、前記他方の回転子の回転軸を中心とする互いに半径が異なる2本の同心円弧と、前記他方の回転子の回転軸から互いに異なる方向に放射状に延びる2本の直線とで囲まれた扇台形状であっても良い。
ポールピースの他方の回転子と対向する面の形状が略四角形である場合、モータに例えて言うと、スキュー角を付けたことと同じ現象となり、コギングトルクやトルクリップルの抑制効果を期待できるが、一方で最大トルクは低下する。ポールピースの他方の回転子と対向する面の形状を上記扇台形状とすると、最大トルクの低下を抑制することができる。
【0017】
この発明において、前記一方の回転子が前記固定子の内周側に配置されていても良い。また、前記一方の回転子が前記固定子の外周側に配置されていても良い。
いずれの場合も、渦電流損失を抑制して、トルク伝達効率を向上させることができる。
【0018】
この発明において、前記2つ回転子のいずれかまたは両方の回転子における前記固定子から見て背面側の面に、磁性材料からなる磁界強化用のバックヨークを設けると良い。
この場合、バックヨークが設けられた回転子の磁界が強化され、伝達可能トルクが上昇する。
【0019】
この発明において、前記一方の回転子の前記永久磁石は、前記一方の回転子の回転軸と垂直な方向から着磁されていても良い。また、前記一方の回転子の前記永久磁石は、前記一方の回転子の回転軸と垂直な平面に沿う一方向から着磁されていても良い。さらに、前記一方の回転子の各永久磁石がハルバッハ配列で配置されていても良い。
いずれの場合も、渦電流損失を抑制して、トルク伝達効率を向上させることができる。
【発明の効果】
【0020】
この発明の磁気歯車装置は、それぞれ複数の永久磁石を有する2つの回転子と、磁気的に前記2つの回転子間に位置し、磁束を変調可能な複数のポールピースを有する固定子とを備え、前記2つの回転子のうちの一方の回転子は、この回転子の回転軸と垂直な方向のラジアルギャップを介して前記固定子と対向し、かつ前記2つの回転子のうちの他方の回転子は、この回転子の回転軸と平行な方向のアキシアルギャップを介して前記固定子と対向し、前記ポールピースは圧粉磁心を用いて構成されているため、3次元的に流れる磁束の渦電流損失を抑制し、高いトルク伝達効率を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】この発明の第1の実施形態にかかる磁気歯車装置の斜視図である。
図2】同磁気歯車装置におけるポールピースの磁束の流れを示す図である。
図3】この発明の第2の実施形態にかかる磁気歯車装置の斜視図である。
図4】この発明の第3の実施形態にかかる磁気歯車装置の斜視図である。
図5】この発明の第4の実施形態にかかる磁気歯車装置の斜視図である。
図6】この発明の第5の実施形態にかかる磁気歯車装置の斜視図である。
図7】この発明の第6の実施形態にかかる磁気歯車装置の斜視図である。
図8】この発明の第7の実施形態にかかる磁気歯車装置の斜視図である。
図9】この発明の第8の実施形態にかかる磁気歯車装置の斜視図である。
図10】この発明の第9の実施形態にかかる磁気歯車装置の斜視図である。
図11】同磁気歯車装置におけるポールピースの磁束の流れを示す図である。
図12】同磁気歯車装置におけるポールピースの他方の回転子と対向する面の形状を示す図である。
図13】ポールピースの他方の回転子と対向する面の異なる形状を示す図である。
図14】この発明の第10の実施形態にかかる磁気歯車装置の斜視図である。
図15】この発明の第11の実施形態にかかる磁気歯車装置の斜視図である。
図16】同磁気歯車装置におけるポールピースの磁束の流れを示す図である。
図17】この発明の第12の実施形態にかかる磁気歯車装置の斜視図である。
図18】この発明の第13の実施形態にかかる磁気歯車装置の斜視図である。
図19】この発明の第14の実施形態にかかる磁気歯車装置の斜視図である。
図20】この発明の第15の実施形態にかかる磁気歯車装置の斜視図である。
図21】一方の回転子の一例の平面図である。
図22】一方の回転子の他の例の平面図である。
図23】一方の回転子のさらに他の例の平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
この発明の実施形態を図面と共に説明する。
図1はこの発明の第1の実施形態を示す。この磁気歯車装置は、2つの回転子1,2と、磁気的に前記2つの回転子1,2の間に介在する固定子3とを備える。2つの回転子1,2のうちの一方の回転子1はその回転軸O1と垂直な方向すなわち径方向のラジアルギャップRGを介して固定子3と対向し、他方の回転子2はその回転軸O2と平行な方向すなわち軸方向のアキシアルギャップAGを介して固定子3と対向している。2つの回転子1,2の回転軸O1,O2は、同軸上に位置する。
【0023】
前記一方の回転子1は、複数の永久磁石1aが、回転軸O1を中心に円筒状に配置されている。各永久磁石1aは、例えば図21に示すように、径方向に着磁されている。隣合う2つの永久磁石1aは、互いに磁極の向きが逆である。つまり、N極とS極が交互に並ぶN−S配列となっている。図の例では、永久磁石1aの数は2個である。
【0024】
図1において、前記他方の回転子2は、複数の永久磁石2aが、回転軸O2を中心に円筒状に配置されている。各永久磁石2aは、例えば回転軸O2の方向に着磁されている。隣合う2つの永久磁石2aは、互いに磁極の向きが逆である。つまり、N極とS極が交互に並ぶN−S配列となっている。図の例では、永久磁石2aの数は6個である。
【0025】
前記固定子3は、一方の回転子1の回転軸O1を中心とする円周上に等間隔で配置された複数のポールピース3aからなる。各ポールピース3aは、内周面の一端側の部分(図の上部)が一方の回転子1と対向し、他端側の端面(図の底面)が他方の回転子2と対向している。
【0026】
この実施形態の場合、ポールピース3aの形状がL型とされている。すなわち、一方の回転子1に対向する面である内周面は、軸方向の全体に亘って同一の円筒面からなり、かつ一方の回転子1から見て背面側の面である外周面は、他方の回転子2側の一部分(図の下端部)の径が他の部分の径よりも段状に大きい。ポールピース3aの周方向の幅は、軸方向の全体に亘って同じである。後で説明するように、ポールピース3aの形状は、上記以外の形状としても良い。
【0027】
ポールピース3aの個数は、2つの回転子1,2の極対数の和とされている。この例の場合、一方の回転子1は2極すなわち1極対であり、他方の回転子2は6極すなわち3極対であるから、1(極対数)+3(極対数)=4(ポールピースの個数)となり、固定子3は4個のポールピース3aを有する。この例の回転子1,2の極対数以外である場合も、上記回転子1,2の極対数とポールピース3aの個数との関係は成立する。
【0028】
前述したように、固定子3が一方の回転子1とラジアルギャップRGを介して対向し、かつ他方の回転子2とアキシアルギャップAGを介して対向することで、固定子3は回転子1,2と磁気回路的に結合している。これにより、原動側となる回転子の回転が従動側となる回転子へ、両回転子の磁極数に応じた変速比で伝達される。従動側となる回転子の回転方向は、原動側となる回転子の回転方向の逆向きとなる。例えば、他方の回転子2が原動側となる回転子、一方の回転子1が従動側となる回転子とすると、他方の回転子2の回転に対して、一方の回転子1が3倍の速度で逆方向に回転する。この場合、磁気歯車装置は増速機となる。原動側と従動側とが入れ換わると、減速機となる。
【0029】
前記ポールピース3aは、圧粉磁心を用いて構成されている。圧粉磁心とは、磁性体を微細な粉末にし、その表面を絶縁被膜で覆い加圧して固めた鉄心であり、ダストコアとも呼ばれる。圧粉磁心は、粉末レベルで絶縁された構造であるため、あらゆる磁束方向に対する渦電流の低減効果が高いのが特徴である。
【0030】
ポールピース3aに圧粉磁心を用いる理由を説明する。
一方の回転子1がラジアルギャップRGを介して固定子3に対向し、他の回転子2がアキシアルギャップAGを介して固定子3に対向する構成の場合、固定子3の各ポールピース3aを流れる磁束方向が3次元的となる。図2に示すように、一方の回転子1と他方の回転子2の各磁極間で作用する磁束方向はおおよそ各回転子1,2の回転軸O1,O2の方向となるが、一方の回転子1や他方の回転子2の磁極境界付近と面している部位では磁束が周方向に発生する。そのため、2次元的な磁束方向の抑制効果しか持たない積層電磁鋼板でポールピース3aが構成されていると、渦電流損失の低減効果が弱く、トルク伝達効率が低下する。しかし、圧粉磁心を用いてポールピースを構成すると、3次元的な磁束方向に対する渦電流の低減効果が高いため、渦電流損失を抑制して、トルク伝達効率を向上させることができる。
【0031】
この磁気歯車装置は、2つの回転子1,2が互いに非接触でトルクを伝達するため、「背景技術」の欄に記載した磁気歯車装置のメリットがそのまま該当する。また、一方の回転子1と固定子3間のラジアルギャップRGの部分、および他方の回転子2と固定子3間のアキシアルギャップAGの部分の両方または片方に隔壁を挟むことが可能である。そのため、2つの回転子1,2をそれぞれ異なる媒質中で駆動することができる。よって、この磁気歯車装置は、例えばポンプ等の用途に適している。
【0032】
図3はこの発明の第2の実施形態を示す。図1の磁気歯車装置は、一方の回転子1が固定子3の内周側に配置されているのに対し、図3の磁気歯車装置は、一方の回転子1が固定子3の外周側に配置されている。他の構成は、図1の磁気歯車装置と同じである。一方の回転子1が固定子3の内周側に配置されていても外周側に配置されていても、同様に3次元的な渦電流を低減する効果が得られる。
【0033】
図1の磁気歯車装置および図3の磁気歯車装置のいずれについても、一方の回転子1と他方の回転子2の大小関係は任意に決めることができる。例えば、図1の磁気歯車装置のように、一方の回転子1が固定子3の内周側に配置されている構成であっても、固定子3のポールピース3aの形状を工夫することで、一方の回転子1の直径を他方の回転子2の直径より大きくしても良い。また、図3の磁気歯車装置のように、一方の回転子1が固定子3の外周側に配置されている構成であっても、一方の回転子1の直径を他方の回転子2の直径より小さくしても良い。
【0034】
図4はこの発明の第3の実施形態を示す。この磁気歯車装置は、図1の磁気歯車装置に、磁界強化用のバックヨーク4,5を追加したものである。バックヨーク4,5は磁性材料からなる。バックヨーク4は一方の回転子1の内周面に設けられ、バックヨーク5は他方の回転子2の底面に設けられている。一方の回転子1の内周面および他方の回転子2の底面は、回転子1,2における固定子3から見て背面側の面である。バックヨーク4,5が設けられていると、回転子1,2の磁界が強化され、伝達可能トルクが上昇する。
【0035】
図5はこの発明の第4の実施形態を示す。この磁気歯車装置は、図3の磁気歯車装置に、磁界強化用のバックヨーク4,5を追加したものである。バックヨーク4は一方の回転子1の外周面に設けられ、バックヨーク5は他方の回転子2の底面に設けられている。この場合も、前記同様に、回転子1,2の磁界が強化され、伝達可能トルクが上昇する。
図4図5の例では、2つの回転子1,2の両方にバックヨーク4,5が設けられているが、片方の回転子1(2)だけにバックヨーク4(5)を設けた構成としても良い。
【0036】
図6はこの発明の第5の実施形態を示す。この磁気歯車装置は、他方の回転子2の永久磁石の配列を、図1の磁気歯車装置のN−S配列から、ハルバッハ配列に変更したものである。つまり、回転軸O2の方向に着磁された永久磁石2bと、周方向に着磁された永久磁石2cとが、同一円周上に交互に配置されている。隣合う2つの永久磁石2bの着磁方向は互いに逆向きであり、かつ隣合う2つの永久磁石2cの着磁方向は互いに逆向きである。他の構成は、図1の磁気歯車装置と同じである。
【0037】
このように、他方の回転子2の永久磁石2b,2cの配列をハルバッハ配列とすることにより、他方の回転子2の磁界が強化され、磁気歯車装置の伝達可能トルクが上昇すると共に、アキシアルギャップAGを広くしても駆動伝達が可能となる。
【0038】
図7図9はこの発明の第6〜第8の実施形態を示す。これらの磁気歯車装置は、前記同様に、他方の回転子2の永久磁石の配列を、図3図4図5の各磁気歯車装置のN−S配列から、ハルバッハ配列に変更したものである。他の構成は、図3図4図5の各磁気歯車装置と同じである。この場合も、前記同様の作用・効果が得られる。
【0039】
以下、ポールピース3aの形状が異なる実施形態について説明する。
図10はこの発明の第9の実施形態を示す。この磁気歯車装置のポールピース3aは、一方の回転子1から見て背面側の面である外周面が、図の上端から図の下端の近傍に行くに従い径が連続的に大きくなるテーパ形状に形成されている。ポールピース3aの内周面は、一方の回転子1と正対する部分10と他の部分11との境界に段差12が設けられており、一方の回転子1と正対する部分10の径が小さく、他の部分11の径が大きい。このポールピース3aの形状は、少なくとも一方の回転子1と正対する部分10については、他方の回転子2に近づくに従って軸方向断面積、つまり回転軸O1と垂直な断面の断面積が連続的に大きくなっていると言える。また、他の部分11だけについて言えば、やはり他方の回転子2に近づくに従って軸方向断面積が連続的に大きくなっている。
【0040】
ポールピース3aが上記形状であると、図11に示すように、ポールピース3a内の磁束の流れがスムーズになり、ポールピース3aにおける他方の回転子2から遠く離れた部位で発生する漏洩磁束を最小限に抑制できる。このことは、試験により確かめられた。漏洩磁束が抑制されることで、他方の回転子2に作用する磁束が増え、伝達トルクおよび伝達効率が向上する。
【0041】
図10の磁気歯車装置を含めここまで説明してきた各実施形態の磁気歯車装置は、図12に示すように、ポールピース3aにおける他方の回転子2と対向する面である底面13(ハッチングを付した部分)の形状が略四角形である。このようにポールピース3aの底面13の形状が略四角形である場合、モータに例えて言うと、スキュー角を付けたことと同じ現象となり、コギングトルクやトルクリップルの抑制効果を期待できるが、一方で最大トルクは低下する。
【0042】
この対策として、ポールピース3aの底面13の形状を、図13に示す扇台形状とすると良い。扇台形状は、他方の回転子2の回転軸O2を中心とする互いに半径が異なる2本の同心円弧14,15と、他方の回転子2の回転軸O2から互いに異なる方向に放射状の延びる2本の放射状直線16,16とで囲まれた形状である。この例では、2本の同心円弧14,15の半径は、それぞれ他方の回転子2の外径と内径である。このようにポールピース3aの底面13の形状を扇台形状とすることで、最大トルクの低下を抑制することができる。2本の放射状直線16,16の成す中心角θの最適角度は、他方の回転子2の極数や、他方の回転子2とポールピース3aとのアキシアルギャップAG(図10)等の関係により異なる。前記中心角θの最適角度は、磁場解析等により求める。
【0043】
また、図10の磁気歯車装置は、ポールピース3aの一方の回転子1と正対する部分10の軸方向断面積が、他方の回転子2に近づくに従って連続的に大きくなっているだけでなく、他の部分11の軸方向断面積も、他方の回転子2に近づくに従って連続的に大きくなっている。これはポールピース3a内の磁束の流れをスムーズにさせるためであるが、一方の回転子1と他方の回転子2の極対数の関係によっては、他の部分11については上記形状とすることができない場合がある。なお、他の部分11は、請求項で言う「一方の回転子と正対する部分以外の部分」のことである。
【0044】
例えば、図14に示す第10の実施形態のように、他方の回転子2の極数が多い磁気歯車装置の場合、次のような問題がある。すなわち、ポールピース3aの他の部分11の軸方向断面積が他方の回転子2に近づくに従って大きくなっていると、ポールピース3aの他方の回転子2との対向面積が大きくなり過ぎて、一つのポールピース3aが周方向に隣合うN極とN極、またはS極とS極に跨って対向する可能性がある。そこで、ポールピース3aの他の部分11の軸方向断面積を他方の回転子2に近づくに従って小さくして、ポールピース3aの他方の回転子2との対向面積を小さくすることで、上記ポールピース3aの跨りを回避する。
【0045】
なお、図14の磁気歯車装置は、一方の回転子1が2極(1極対)、他方の回転子2が12極(6極対)、ポールピース3aが7個(1極対+6極対)とした例である。一般的に、他方の回転子2の極数が多くなるほど、ポールピース3aの他方の回転子2との対向面積を小さくする必要がある。図14の磁気歯車装置は、ポールピース3aの軸方向断面積が他方の回転子2に近づくに従ってテーパ状に小さくなっているが、段階的に小さくなっていてもよい。
【0046】
図10に示す実施形態のポールピース3aは、図の上端から図の下端の近傍にかけて外周面の径が連続して大きくなっているが、段階的に大きくなっていても良い。その場合も、ポールピース3aにおける他方の回転子2から遠く離れた部位で発生する漏洩磁束を抑制する効果がある。
【0047】
図15はこの発明の第11の実施形態を示す。この磁気歯車装置のポールピース3aは、図の上端から図の下端に亘り外周面が同一径である。ポールピース3aの内周面は、図10に示す実施形態と同様に、一方の回転子1と正対する部分10と他の部分11との境界に段差部12を有する。このポールピース3aの形状は、ほぼ矩形に近い形状である。
【0048】
ポールピース3aが矩形に近い形状であると、図16に示すように、ポールピース3aにおける他方の回転子2から遠く離れた部位で漏洩磁束が発生し易い。よって、この矩形に近いポールピース3aの形状は、トルクの伝達効率の面からはあまり好ましくはない。しかし、形状がシンプルであるので、成形がし易く、磁気歯車装置が収容される筐体との固定や位置決めがし易いといった利点がある。
【0049】
図17はこの発明の第12の実施形態を示す。この磁気歯車装置のポールピース3aは、外周面および内周面が共に、図の上端から図の下端に亘って同一径であり、完全に矩形形状である。完全な矩形形状であると、図15の矩形に近い形状よりも、より一層形状がシンプルで、成形がし易い。トルクの伝達効率は、図15の磁気歯車装置とほぼ同じである。
【0050】
図1に示すL型のポールピース3aは、図の下端部の外径が他の部分の外径よりも段状に大きい形状であるから、他方の回転子2に近づくに従って軸方向断面積が段階的に大きくなっている形態の一種と言える。但し、ポールピース3aの一方の回転子1と正対する部分に限定すると、他方の回転子2に近づくに従って軸方向断面積が大きくなっていない。
【0051】
上記形態であるL型のポールピース3aを備えた図1の磁気歯車装置は、図10に示す外周面がテーパ形状のポールピース3aを備えた磁気歯車装置と、図15図17に示す矩形または矩形に近い形状のポールピース3aを備えた磁気歯車装置との中間的な特性を有する。すなわち、トルクの伝達効率については、図15図17のものよりも優れるが、図10のものよりは劣る。また、成形のし易さについては、図10のものよりも優れるが、図15図17のものよりは劣る。どの形状のポールピース3aを採用するかは、磁気歯車装置の目的や用途等に応じて決めればよい。
【0052】
図18はこの発明の第13の実施形態を示す。この磁気歯車装置のポールピース3aは、図の上側部分における外周面から円周方向を向く側面にかけて略三角錐状に切欠くことで、他方の回転子2に近づくに従って軸方向断面積が次第に大きくなる形態としたものである。このようにポールピース3aを形成することによっても、ポールピース3aにおける他方の回転子2から遠く離れた部位で発生する漏洩磁束を抑制して、伝達トルクおよび伝達効率の向上を図ることができる。図示しないが、この略三角錐状に切欠く手法と、外周面をテーパ形状に形成する手法とを組み合わせても、伝達トルクおよび伝達効率を向上させる効果がある。
【0053】
図19はこの発明の第14の実施形態を示す。この磁気歯車装置は、一方の回転子1が固定子3の外周側に配置されている形態の磁気歯車装置に対して、磁束の漏洩を抑制するポールピース3aの形状を適用したものである。この磁気歯車装置のポールピース3aは、一方の回転子1から見て背面側の面である内周面が、図の上端から図の下端の近傍に行くに従い径が連続的に大きくなるテーパ形状に形成されている。ポールピース3aの外周面は、図の下端部の径が他の部分の径よりも段状に大きくなっている。
【0054】
このポールピース3aの形状も、図10の磁気歯車装置と同様に、他方の回転子2に近づくに従って軸方向断面積が大きくなっている。このため、ポールピース3aにおける他方の回転子2から遠く離れた部位で発生する漏洩磁束を最小限に抑制でき、伝達トルクおよび伝達効率が向上する。
【0055】
図20はこの発明の第15の実施形態を示す。この磁気歯車装置は、図10の磁気歯車装置に、磁界強化用のバックヨーク4,5を追加したものである。バックヨーク4は一方の回転子1の内周面に設けられ、バックヨーク5は他方の回転子2の底面に設けられている。このような、漏洩磁束を抑制できる形状のポールピース3aを備えた磁気歯車装置にバックヨーク4,5を追加することで、回転子1,2の磁界がより一層強化され、伝達可能トルクが上昇する。
【0056】
図21図23は、互いに異なる一方の回転子を軸方向から見た図である。図21に示す一方の回転子1は、円周上にN極とS極が交互に並ぶN−S配列であり、永久磁石1aが径方向から着磁されたラジアル着磁である。図22に示す回転子1は、N−S配列であるが、永久磁石1aが回転軸O1と垂直な平面上の一方向から着磁された平行着磁である。また、図23に示す一方の回転子1は、永久磁石1b,1cがハルバッハ配列で配置されている。
【0057】
上記各実施形態の磁気歯車装置は、一方の回転子1がN−S配列である例(図21または図22)を示しているが、一方の回転子1をハルバッハ配列(図23)としても良い。その場合、一方の回転子1の磁界が強化され、磁気歯車装置の伝達可能トルクが上昇すると共に、ラジアルギャップRGを広くしても駆動伝達が可能となる。
【0058】
以上、実施例に基づいて本発明を実施するための形態を説明したが、ここで開示した実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではない。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0059】
1…一方の回転子
1a,1b,1c…永久磁石
2…他方の回転子
2a,2b,2c…永久磁石
3…固定子
3a…ポールピース
4,5…バックヨーク
10…一方の回転子と正対する部分
11…他の部分(一方の回転子と正対する部分以外の部分)
13…ポールピースの底面(他方の回転子と対向する面)
14,15…同心円弧
16…放射状直線
AG…アキシアルギャップ
O1…一方の回転子の回転軸
O2…他方の回転子の回転軸
RG…ラジアルギャップ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23