特許第6576807号(P6576807)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6576807油性ボールペンレフィルおよびそれを用いた油性ボールペン
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6576807
(24)【登録日】2019年8月30日
(45)【発行日】2019年9月18日
(54)【発明の名称】油性ボールペンレフィルおよびそれを用いた油性ボールペン
(51)【国際特許分類】
   B43K 7/02 20060101AFI20190909BHJP
   B43K 7/12 20060101ALI20190909BHJP
   C09D 11/18 20060101ALI20190909BHJP
   C09B 67/20 20060101ALI20190909BHJP
【FI】
   B43K7/02
   B43K7/12
   C09D11/18
   C09B67/20 F
【請求項の数】10
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2015-230344(P2015-230344)
(22)【出願日】2015年11月26日
(65)【公開番号】特開2017-94629(P2017-94629A)
(43)【公開日】2017年6月1日
【審査請求日】2018年9月12日
(73)【特許権者】
【識別番号】303022891
【氏名又は名称】株式会社パイロットコーポレーション
(72)【発明者】
【氏名】藤井 武
【審査官】 中澤 俊彦
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−307080(JP,A)
【文献】 特開2015−193086(JP,A)
【文献】 特開2003−041170(JP,A)
【文献】 国際公開第02/024821(WO,A1)
【文献】 国際公開第2013/133180(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B43K 7/02
B43K 7/12
C09B 67/20
C09D 11/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
インキ収容筒の先端部に、ボールを回転自在に抱持したボールペンチップを装着してなり、前記インキ収容筒内に、着色剤、有機溶剤、樹脂を含んでなる油性ボールペン用インキ組成物を収容してなる油性ボールペンレフィルであって、前記ボール表面の算術平均粗さが、0.1〜15nmであり、前記油性ボールペン用インキ組成物が、着色剤として、酸性含金染料と芳香環を有するアミンとの造塩染料を含んでなることを特徴とする油性ボールペンレフィル。
【請求項2】
前記ボールの軸方向の移動量が、5〜20μmであることを特徴とする請求項1に記載の油性ボールペンレフィル。
【請求項3】
前記樹脂がポリビニルブチラール樹脂および/またはケトン樹脂であることを特徴とする請求項1または2に記載の油性ボールペンレフィル。
【請求項4】
前記樹脂がポリビニルブチラール樹脂であり、該ポリビニルブチラール樹脂の含有量が、前記油性ボールペン用インキ組成物中の全樹脂の総含有量に対して50%以上であることを特徴とする請求項1または2に記載の油性ボールペンレフィル。
【請求項5】
前記酸性含金染料が銅フタロシアニン系酸性染料であることを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1項に記載の油性ボールペンレフィル。
【請求項6】
前記芳香環を有するアミンが、4級アミンであることを特徴とする請求項1ないし5のいずれか1項に記載の油性ボールペンレフィル。
【請求項7】
前記油性ボールペン用インキ組成物に、酸性染料と芳香環を有するアミンとの造塩染料(ただし酸性含金染料と芳香環を有するアミンとの造塩染料を除く)を更に含んでなることを特徴とする請求項1ないし6のいずれか1項に記載の油性ボールペンレフィル。
【請求項8】
20 ℃、剪断速度5sec−1におけるインキ粘度が、5000mPa・s以下であることを特徴とする請求項1ないし7のいずれか1項に記載の油性ボールペンレフィル。
【請求項9】
請求項1ないし8のいずれか1項に記載の油性ボールペンレフィルを軸筒内に配設したことを特徴とする油性ボールペン。
【請求項10】
請求項9に記載の油性ボールペンレフィルを軸筒内に摺動自在に配設してなり、前記ボールペンチップのチップ先端部を前記軸筒先端部から出没可能とすることを特徴とした出没式油性ボールペン
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は油性ボールペン用レフィルおよびそれを用いた油性ボールペンに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、油性ボールペン用インキ組成物において、着色剤として、ニグロシン系染料や、塩基性染料、酸性染料など様々な染料やそれを加工したタイプの染料を用いた油性ボールペン用インキ組成物や、インキ吐出量を設定した油性ボールペン用インキ組成物の技術が提案されている。
【0003】
このような油性ボールペン用インキ組成物としては、様々な着色剤を用いているが、ニグロシン系染料を用いたものとしては、特開平5−320558号公報「油性黒色インキ」、トリアリルメタン系塩基性染料とアゾ系黄色酸性染料の造塩染料を用いたものとしては、特開平9−165542号公報「油性黒色インキ」、特開平9−71745号公報「油性黒色インキ」、塩基性染料を母体とした造塩染料を用いたものとしては、特開平8−134393号公報「油性ボールペン用黒インキ組成物」等に、開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】「特開平5−320558号公報」
【特許文献2】「特開平9−165542号公報」
【特許文献3】「特開平9−71745号公報」
【特許文献4】「特開平8−134393号公報」
【特許文献5】「特開2011−153199号公報」
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1では、着色剤として、ニグロシン系染料を用いた場合、濃度が濃く、コストが安く、従来用いられているが、有機溶剤、樹脂、界面活性剤などのインキ成分との安定性に影響が出やすく、インキ経時安定性を考慮に入れる必要があった。
【0006】
また、特許文献2、3では、着色剤として、トリアリルメタン系塩基性染料とアゾ系黄色酸性染料の造塩染料を用いた場合、長期間の経時によって造塩染料の一部が崩れ、析出物の発生や、書き味が十分ではなく、さらに濃い筆跡が得らない問題があった。
【0007】
また、特許文献4では、着色剤として、塩基性染料を母体とした造塩染料では、インキ経時安定性は良好であるが、書き味を良好とするために、新たに界面活性剤などを含有することで、書き味を向上することができるが、界面活性剤と染料が反応し析出物が発生することもあり、懸念される問題があった。
【0008】
また、特許文献5では、200mあたりのインキ吐出量を32〜47mg(100mあたり換算で16〜23.5mg)に設定したボールペン用インキでは、それだけでは筆跡の濃さが十分ではなく、より濃い筆跡が求められていた。
【0009】
そのため、書き味を向上するために、インキ粘度を低減する技術があり、ある程度書き味を向上することは可能であるが、インキ粘度が低いため、ボールとチップ先端の間隙よりインキ漏れ(インキ垂れ下がり)が発生してしまい、書き味とインキ漏れ(インキ垂れ下がり)性能の両方を向上するには、改良すべき点があった。
【0010】
さらに、特許文献1〜5のような着色剤として染料のみを用いたインキにおいてでも、耐光性の向上が求められ、一層求められている。
【0011】
本発明の目的は、インキ経時安定性、インキ垂れ下がり性能、書き味、耐光性が優れ、濃い筆跡である油性ボールペンレフィルおよびそれを用いた油性ボールペンを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、上記課題を解決するために
「1.インキ収容筒の先端部に、ボールを回転自在に抱持したボールペンチップを装着してなり、前記インキ収容筒内に、着色剤、有機溶剤、樹脂を含んでなる油性ボールペン用インキ組成物を収容してなる油性ボールペンレフィルであって、前記ボール表面の算術平均粗さが、0.1〜15nmであり、前記油性ボールペン用インキ組成物が、着色剤として、酸性含金染料と芳香環を有するアミンとの造塩染料を含んでなることを特徴とする油性ボールペンレフィル。
2.前記ボールの軸方向の移動量が、5〜20μmであることを特徴とする第1項に記載の油性ボールペンレフィル。
3.前記樹脂がポリビニルブチラール樹脂および/またはケトン樹脂であることを特徴とする第1項または第2項に記載の油性ボールペンレフィル。
4.前記樹脂がポリビニルブチラール樹脂であり、該ポリビニルブチラール樹脂の含有量が、前記油性ボールペン用インキ組成物中の全樹脂の総含有量に対して50%以上であることを特徴とする第1項または第2項に記載の油性ボールペンレフィル。
5.前記酸性含金染料が銅フタロシアニン系酸性染料であることを特徴とする第1項ないし第4項のいずれか1項に記載の油性ボールペンレフィル。
6.前記芳香環を有するアミンが、4級アミンであることを特徴とする第1項ないし第5項のいずれか1項に記載の油性ボールペンレフィル。
7.前記油性ボールペン用インキ組成物に、酸性染料と芳香環を有するアミンとの造塩染料(ただし酸性含金染料と芳香環を有するアミンとの造塩染料を除く)を更に含んでなることを特徴とする第1項ないし第6項のいずれか1項に記載の油性ボールペンレフィル。
8.20 ℃、剪断速度5sec−1におけるインキ粘度が、5000mPa・s以下であることを特徴とする第1項ないし第7項のいずれか1項に記載の油性ボールペンレフィル。
9.第1項ないし第8項のいずれか1項に記載の油性ボールペンレフィルを軸筒内に配設したことを特徴とする油性ボールペン。
10.第9項に記載の油性ボールペンレフィルを軸筒内に摺動自在に配設してなり、前記ボールペンチップのチップ先端部を前記軸筒先端部から出没可能とすることを特徴とした出没式油性ボールペン。」とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明は、インキ経時安定性、インキ垂れ下がり性能、書き味、耐光性が優れ、さらに濃い筆跡である油性ボールペンレフィルおよびそれを用いた油性ボールペンを提供することができた。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明におけるボールペンレフィルの縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の特徴は、インキ収容筒の先端部に、ボールを回転自在に抱持したボールペンチップを装着してなり、前記インキ収容筒内に、着色剤、有機溶剤、樹脂を含んでなり油性ボールペン用インキ組成物を収容してなる油性ボールペンレフィルであって、前記ボール表面の算術平均粗さが、0.1〜15nmであり、前記油性ボールペン用インキ組成物が、着色剤として、酸性含金染料と芳香環を有するアミンとの造塩染料を含んでなることを特徴とする油性ボールペンレフィルとすることである。
【0016】
本発明で用いる着色剤については、酸性含金染料と芳香環を有するアミンとの造塩染料を用いる。これは、耐光性を良好とするために、Cu、Cr、Fe、Coを含む酸性含金染料を用いることが必要であり、該酸性含金染料を油性インキ中で安定させるために、芳香環を有するアミンで中和反応させて造塩染料とする。そこで酸性含金染料と芳香環を有するアミン間での強いイオン結合力が働いており、油性インキ中において、長期間インキ経時安定性が保つことができると推測できるためである。
【0017】
さらに、インキ垂れ下がり性能と、書き味に優れるようにするには、樹脂を含む必要があり、油性ボールペン用インキ組成物に用いる樹脂としては、ポリビニルブチラール樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、セルロース樹脂、ポリビニルピロリドン樹脂、ケトン樹脂、テルペン樹脂、アルキッド樹脂、フェノキシ樹脂、ポリ酢酸ビニル樹脂を用いる。本発明では、酸性含金染料と芳香環を有するアミンとの造塩染料とのインキ中での安定性に優れるようにするには、ポリビニルブチラール樹脂および/またはケトン樹脂を用いると良い。
【0018】
また、本発明で用いるボールペンチップのボール表面の算術平均粗さ(Ra)については、0.1〜15nmとすることが好ましい。これは、算術平均粗さ(Ra)が0.1nm未満だと、ボール表面に十分にインキが載りづらく、筆記時に濃い筆跡が得られづらく、筆跡に線とび、カスレが発生しやすく、算術平均粗さ(Ra)が15nmを越えると、ボール表面が粗すぎて、ボールとボール座の回転抵抗が大きいため、書き味が劣りやすく、さらに、筆跡にカスレ、線とび、線ムラなどの筆記性能に影響が出やすくなるためである。特に、前記ポリビニルブチラール樹脂、ケトン樹脂は、前記算術平均粗さ(Ra)が0.1〜10nmのボール表面にインキが載りやすいためより好ましい。特に、前記ポリビニルブチラール樹脂の平均重合度が1500以下のものを用いる場合は、本発明で用いる酸性含金染料と芳香環を有するアミンとの造塩染料とのインキの載りやすくなることを考慮すれば、1〜8nmが好ましく、より好ましくは、2〜7nmである。なお、表面粗さの測定は(セイコーエプソン社製の機種名SPI3800N)で求めることができる。
【0019】
上記のように、本発明のように、インキ経時安定性、インキ垂れ下がり性能、書き味、耐光性が優れ、濃い筆跡とするには、前記ボール表面の算術平均粗さが0.1〜15nmとし、さらに前記油性ボールペン用インキ組成物が、酸性含金染料と芳香環を有するアミンとの造塩染料、樹脂を含んでなることが、重要となる。
【0020】
また、本発明では、より濃い筆跡を得る手段としては、筆記時に紙面にインキを多く吐出することが好ましい。具体的には、油性ボールペンレフィルのインキ消費量については、100mあたりのインキ消費量が30mg未満だと、濃い筆跡や、良好な書き味が得られにくいため、30mg以上が好ましく、100mあたりのインキ消費量が70mgを越えると、ボールとチップ先端の間隙よりインキ垂れ下がりが発生しやすく、泣きボテも発生しやすいため、70mg以下が好ましい。そのため、油性ボールペンレフィルの100mあたりのインキ消費量が30〜70mgが好ましく、より濃い筆跡にするには、40mg以上が好ましく、よりインキ垂れ下がり性能や泣きボテを向上するには、より好ましくは、40〜60mgが好ましい。
なお、インキ消費量については、20℃、筆記用紙JIS P3201筆記用紙上に筆記角度70°、筆記荷重200gの条件にて、筆記速度4m/minの速度で、試験サンプル5本を用いて、らせん筆記試験を行い、その100mあたりのインキ消費量の平均値を、100mあたりのインキ消費量と定義する。
【0021】
また、本発明に用いるボールペンチップのボールの縦軸方向の移動量が、5〜20μmとすることが好ましい。これは、5μm未満であると、100mあたりのインキ消費量が少なくなり、インキ消費量が30mg以上に設定しづらく、濃い筆跡が得られづらくなり、20μmを越えると、インキ消費量が多くなり、インキ消費量が70mg以下に設定しづらく、インキ垂れ下がり性能に影響が出やすくなるためで、よりそのことを考慮すれば、7〜17μmとすることが好ましく、より考慮すれば、10〜16μmとすることが好ましい。
【0022】
また、ボールに用いる材料は、特に限定されるものではないが、タングステンカーバイドを主成分とする超硬合金ボール、ステンレス鋼などの金属ボール、炭化珪素、窒化珪素、アルミナ、シリカ、ジルコニアなどのセラミックスボール、ルビーボールなどが挙げられる。書き味やボール座の摩耗、経時安定性を考慮してセラミックスボールとすることが好ましい。また、ボールの直径は、特に限定されないが、一般的には0.25mm〜2.0mm程度である。
【0023】
また、ボ−ルペンチップの材料は、ステンレス鋼、洋白、ブラス(黄銅)、アルミニウム青銅、アルミニウムなどの金属材、ポリカーボネート、ポリアセタール、 ABSなどの樹脂材が挙げられるが、書き味や切削等の加工性を考慮すれば洋白製のチップ本体が好ましく、ボール座の摩耗、経時安定性を考慮するとステンレス製のチップ本体とすることが好ましい。
【0024】
また、樹脂の中でも、インキ垂れ下がり性能と、書き味が優れるようにすることを考慮すれば、ポリビニルブチラール樹脂を用いることが好ましい。ポリビニルブチラール樹脂については、ポリビニルアルコール(PVA) をブチルアルデヒド(BA)と反応させたものであり、ブチラール基、アセチル基、水酸基を有した構造であるが、従来技術としては、ポリビニルブチラール樹脂を顔料分散剤として、好適に用いた技術はあるが、本発明では、インキ垂れ下がり性能、書き味を向上することを見出した。
なお、前記ポリビニルブチラール樹脂の水酸基量(mol%)とは、ブチラール基(mol%)、アセチル基(mol%)、水酸基(mol%)の全mol量に対して、水酸基(mol%)の含有率を示すものである。
【0025】
本発明で、ポリビニルブチラール樹脂を用いる理由は、チップ先端を大気中に放置した状態にした場合、ポリビニルブチラール樹脂が、チップ先端で樹脂皮膜を形成し、ボールとチップ先端の間隙を覆うことで、インキ垂れ下がりを抑制することが可能となるためである。ポリビニルブチラール樹脂の含有量は、全樹脂の含有量に対して50%以上とし、主たる樹脂として用いることが良い。これは、ポリビニルブチラール樹脂の含有量が全樹脂の含有量の50%未満となると、その他の樹脂によって、チップ先端の樹脂皮膜の形成を阻害してしまいインキ垂れ下がりを抑制できず、さらに弾力性があるインキ層を形成するのを阻害してしまい、書き味向上の効果が得られなくなる傾向があるためである。よりインキ垂れ下がり性能や書き味が向上する傾向を考慮すれば、ポリビニルブチラール樹脂の含有量は、全樹脂の含有量に対して70%以上が好ましく、よりその傾向を考慮すれば、90%以上が好ましい。さらに、酸性含金染料と芳香環を有するアミンとの造塩染料とポリビニルブチラール樹脂との相性も良く、ポリビニルブチラール樹脂の含有量が多く、90%以上としても、インキ経時安定性に影響が出にくいため、好ましい。
【0026】
また、本発明で用いるポリビニルブチラール樹脂は、水酸基量25mol%以上とすることが好ましい。これは、前記した水酸基量25mol%以上のポリビニルブチラール樹脂は、チップ先端を大気中に放置した状態にした場合、チップ先端で厚い樹脂皮膜を形成し、ボールとチップ先端の間隙を覆うことで、インキ垂れ下がりを抑制することが可能となるためである。一方、水酸基量25mol未満のポリビニルブチラール樹脂では、有機溶剤への溶解性が十分でなく、均一な樹脂皮膜ではないため、インキ垂れ下がり抑制の十分な効果が得られにくくなるため、水酸基量25mol%以上のポリビニルブチラール樹脂を用いることが好ましいためである。また、前記水酸基量30mol%以上のポリビニルブチラール樹脂は、書き味が向上しやすくなるため、好ましい。これは、筆記時において、ボールの回転により摩擦熱が発生することで、チップ先端部のインキが温められて、該インキの温度が高くなるが、前記ポリビニルブチラール樹脂は他の樹脂とは違い、インキ温度が高くなっても、インキ粘度を下がりづらくする性質があり、ボールとボール座との間に常に弾力性があるインキ層を形成して、直接接触しづらくするため、書き味を向上しやすい傾向がある。特に、油性ボールペンでは、高筆圧で筆記することも多いため、油性ボールペンでは効果的である。また、前記水酸基量40mol%を越えるポリビニルブチラール樹脂を用いると、吸湿量が多くなりやすく、油性インキ成分との経時安定性に影響が出やすいため、水酸基量40mol%以下のポリビニルブチラール樹脂が好ましい。そのため、水酸基量30〜40mol%のポリビニルブチラール樹脂が好ましく、さらに好ましくは、水酸基量30〜36mol%が好ましい。
なお、前記ポリビニルブチラール樹脂の水酸基量(mol%)とは、ブチラール基(mol%)、アセチル基(mol%)、水酸基(mol%)の 全mol量に対して、水酸基(mol%)の含有率を示すものである。
【0027】
また、ポリビニルブチラール樹脂の平均重合度については、前記平均重合度は200以上であると、インキ垂れ下がり性能が向上するとともに、インキの凝集力を高めることができ、ボール表面にインキが載りやすく、ボールにインキが残ることで、ボールとボール座の間にインキが入り込みやすいため、ボールがボール座と直接接触しづらくなるため、書き味を向上しやすい傾向がある。一方、前記平均重合度は2000を超えると、インキ粘度が高くなりすぎて書き味に影響する傾向があるため、前記平均重合度は、200〜2000が好ましい。さらに、前記酸性含金染料と芳香環を有するアミンとの造塩染料との安定性を考慮すれば、前記平均重合度は1500以下であることが好ましく、より書き味を考慮すれば、前記平均重合度は1000以下が好ましい。そのため、前記平均重合度は200〜1500が好ましく、より好ましくは、前記平均重合度は200〜1000が最も好ましい。ここで、平均重合度とは、ポリビニルブチラール樹脂の1分子を構成している基本単位の数をいい、JISK6728(2001年度版)に規定された方法に基づいて測定された値を採用可能である。
【0028】
ポリビニルブチラール樹脂については、具体的には、積水化学工業(株)製の商品名;エスレックBH−3(水酸基量:34mol%、平均重合度:1700)、同BH−6(水酸基量:30mol%、平均重合度:1300)、同BX−1(水酸基量:33±3mol%、平均重合度:1700)、同BX−5(水酸基量:33±3mol%、平均重合度:2400)、同BM−1(水酸基量:34mol%、平均重合度:650)、同BM−2(水酸基量:31mol%、平均重合度:800)、同BM−5(水酸基量:34mol%、平均重合度:850)、同BL−1(水酸基量:36mol%、平均重合度:300)、同BL−1H(水酸基量:30mol%)、同BL−2(水酸基量:36mol%、平均重合度:450)、同BL−2H(水酸基量:29mol%)、同BL−10(水酸基量:28mol%)などや、クラレ(株)製の商品名;モビタールB20H(水酸基量:26〜31mol%、平均重合度:250〜500)、同30T(水酸基量:33〜38mol%、平均重合度:400〜650)、同30H(水酸基量:26〜31mol%、平均重合度:400〜650)、同30HH(水酸基量:30〜34mol%、平均重合度:400〜650)、同45H(水酸基量:26〜31mol%、平均重合度:600〜850)、同60T(水酸基量:34〜38mol%、平均重合度:750〜1000)、同60H(水酸基量:26〜31mol%、平均重合度:750〜1000)、同75H(水酸基量:26〜31mol%、平均重合度:1500〜1750)などが挙げられる。これらは、単独又は2種以上混合して使用してもよい。
【0029】
前記ポリビニルブチラール樹脂の含有量は、インキ組成物全量に対し、3.0質量%より少ないと、樹脂皮膜形成量が足りないおそれがあり、インキ垂れ下がり性能が劣りやすく、40.0質量%を越えると、インキ中で溶解性が劣りやすいため、インキ組成物全量に対し、3.0〜40.0質量%が好ましい。さらに、インキ垂れ下がり性能を考慮すれば5.0質量%以上が好ましく、30.0質量%を越えると、インキ粘度が高くなりすぎて書き味に影響する傾向があるため、5.0〜30.0質量%が好ましく、より考慮すれば、7.0〜25.0質量%が最も好ましい。
【0030】
ポリビニルブチラール樹脂以外の樹脂は、インキ粘度調整樹脂や曳糸性付与樹脂を適宜用いてもよい。特に、曳糸性付与樹脂を配合することで、インキの結着性を高め、チップ先端における余剰インキ(泣きボテ)の発生を抑制しやすいため、曳糸性付与樹脂を含有することが好ましい。曳糸性付与樹脂としては、ポリビニルピロリドンが好ましく、具体的には、アイエスピー・ジャパン(株)製の商品名;PVP K−15、PVP K−30、PVP K−90、PVP K−120などが挙げられる。これらは、単独又は2種以上混合して使用してもよい。
【0031】
本発明で用いる曳糸性付与樹脂の含有量は、油性ボールペン組成物中の全樹脂の含有量に対して0.1〜20.0%であることが好ましい。これは、曳糸性付与樹脂の含有量が全樹脂の含有量の0.1%未満となると、余剰インキ(泣きボテ)の発生を抑制しにくい傾向があり、20%を越えると、ポリビニルブチラール樹脂の効果を阻害しやすく、具体的には、チップ先端の樹脂皮膜の形成を阻害してしまいインキ垂れ下がりを抑制しづらくし、さらに弾力性があるインキ層を形成するのを阻害してしまい、書き味向上の効果が得られにくくしやすいためである。より余剰インキを抑制する傾向を考慮すれば、曳糸性付与樹脂の含有量は、全樹脂の含有量に対して1.0〜20.0%が好ましく、インキ垂れ下がり性能や書き味が向上する傾向を考慮すれば、1.0〜10.0%が好ましく、さらにその傾向を考慮すれば、2.0〜7.0%が好ましい。
【0032】
また、本発明で用いる酸性含金染料については、スルホ基 (-SOH)やカルボキシル基 (-COOH)などを有するものが挙げられるが、より潤滑性の向上を考慮すれば、スルホ基(-SOH)を有する酸性含金染料が好ましい。これは、スルホ基(-SOH)を有すると、ボールとボール座間に強固な潤滑層を形成しやすいため、潤滑性が向上しやすいと考えられ、芳香環を有するアミンと併用することで相乗的な潤滑効果も得られるためである。
【0033】
酸性含金染料としては、耐光性を良好とするために、Cu、Cr、Fe、Coを含む酸性含金染料が挙げられるが、本発明で用いるポリビニルブチラール樹脂との相性が良く、経時安定性を良好とすることを考慮すれば、Cuを含む酸性含金染料を用いることが好ましい。さらに、フタロシアニン系、アゾ系などあるが、その中でも、銅フタロシアニン系酸性染料を用いることが好ましい。具体的には、銅フタロシアニン系酸性染料としては、ダイレクトブルー86、ダイレクトブルー87、ダイレクトブルー199等が挙げられるが、芳香環を有するアミンとの安定性や耐光性を考慮すればダイレクトブルー86が好ましい。
【0034】
本発明で用いる芳香環を有するアミンは、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環などの芳香環を有するアミンであり、芳香環を有することで、書き味が良好とすることが可能となる。これは、芳香環が、金属チップに吸着し易い潤滑膜を形成することで、ボールとチップ本体間の金属接触を抑制する効果があり、潤滑性を向上して、書き味が良好となると推測する。そのため、本発明では、酸性含金染料と芳香環を有するアミンとの造塩染料を用いることで、インキ経時安定性と、書き味を向上し、耐光性を良好とすることが可能となるため、必須とする。そのため、前記造塩染料は、従来とは異なり、着色剤と潤滑剤との効果を併せ持つことが可能となる。
【0035】
また、芳香環を有するアミンとしては、1級アミン、2級アミン、3級アミンや4級アミンなどが挙げられるが、酸性含金染料を十分に中和反応させ、より安定した造塩染料を作成するためには、芳香環を有する4級アミンを用いることが好ましい。
【0036】
芳香環を有する4級アミンは、ベンゾキソニウム化合物(Benzoxonium)、アルキルジメチルベンジルアンモニウム化合物、アルキルジエチルベンジルアンモニウム化合物などが挙げられ、酸性含金染料との中和反応性の相性によるインキ経時安定性、書き味を考慮すれば、ベンゾキソニウム化合物(Benzoxonium)が好ましい。具体的には、ベンゾキソニウム化合物(Benzoxonium)として、ベンジルビステトラデシルアンモニウム化合物(Benzylbis(2-hydroxypropyl)tetradecylammonium)、ベンジルドデシルビスアンモニウム化合物(Benzyldodecylbis(2-hydroxypropyl)ammonium)、ベンジルデシルビスアンモニウム化合物(Benzyldecylbis(2-hydroxypropyl)ammonium)などが挙げられ、アルキルジメチルベンジルアンモニウム化合物として、テトラデシルジメチルベンジルアンモニウム化合物、ヘキサデシルジメチルベンジルアンモニウム化合物、オクタデシルジメチルベンジルアンモニウム化合物、ヤシアルキルジメチルベンジルアンモニウム化合物などが挙げられ、アルキルジエチルベンジルアンモニウム化合物としては、ドデシルジエチルベンジルアンモニウム化合物などが挙げられる。これらは、単独または2種以上混合して使用してもよい。
【0037】
また、前記酸性含金染料と芳香環を有するアミンとの造塩染料の含有量は、インキ組成物全量に対し、0.1質量%より少ないと、所望の潤滑性や筆跡の濃さが得られづらく、40.0質量%を越えると、インキ経時が不安定性になりやすいため、インキ組成物全量に対し、0.1〜40.0質量%が好ましい。より好ましくは、インキ組成物全量に対し、1.0〜25.0質量%であり、より好ましくは、5.0〜20.0質量%であり、ポリビニルブチラールとの安定性を考慮すれば、7.0〜15.0質量%が好ましい。
【0038】
また、着色剤としては、前述した酸性含金染料と芳香環を有するアミンとの造塩染料以外のものとしては、色調の調整などするには、様々な染料、顔料を用いることができるが、酸性含金染料と芳香環を有するアミンとの造塩染料とのインキ経時安定性や、濃い瑞々しい筆跡を得られやすく、一方、顔料を用いると顔料分散安定性を得るためには、顔料分散剤の選定などの課題やコスト面の問題があるため、着色剤としては、染料のみを用いることが好ましい。さらに、インキ経時安定性を考慮して、同系統である染料である酸性染料と芳香環を有するアミン(ただし酸性含金染料と芳香環を有するアミンとの造塩染料を除く)を用いることが好ましい。これは、酸性含金染料と芳香環を有するアミンとの造塩染料と同様に、酸性染料と芳香環を有するアミンを用いることで、インキ経時安定性と、書き味を向上することが可能であり、着色剤と潤滑剤との効果を併せ持つことが可能となり、本発明で用いる酸性含金染料と芳香環を有するアミンとの造塩染料と同系統の染料であり、相性が良いためである。
【0039】
また、酸性染料と芳香環を有するアミンただし酸性含金染料と芳香環を有するアミンとの造塩染料を除く)は、芳香環を有するアミンとしては、1級アミン、2級アミン、3級アミンや4級アミンなどが挙げられるが、酸性含金染料を十分に中和反応させるため、より安定した造塩染料を作成するためには、芳香族4級アミンを用いることが好ましい。さらに、芳香族4級アミンは、ベンゾキソニウム化合物(Benzoxonium)、アルキルジメチルベンジルアンモニウム化合物、アルキルジエチルベンジルアンモニウム化合物などが挙げられ、酸性含金染料との中和反応性の相性によるインキ経時安定性、書き味を考慮すれば、ベンゾキソニウム化合物(Benzoxonium)が好ましい。これらは、単独または2種以上混合して使用してもよい。
【0040】
さらに、酸性染料としては、トリアリルメタン系酸性染料、アゾ系酸性染料、アントラキノン系酸性染料、オキサジン系酸性染料などがあるが、芳香環を有するアミンと安定した造塩染料として、長期間インキ経時安定性を保つことを考慮すれば、トリアリルメタン系酸性染料、または、アゾ系酸性染料を用いることが好ましい。
【0041】
また、前記酸性染料と芳香環を有するアミンただし酸性含金染料と芳香環を有するアミンとの造塩染料を除く)の含有量は、インキ組成物全量に対し、0.1質量%より少ないと、所望の潤滑性や筆跡の濃さが得られづらく、40.0質量%を越えると、インキ経時が不安定性になりやすいため、インキ組成物全量に対し、0.1〜40.0質量%が好ましい。より好ましくは、インキ組成物全量に対し、1.0〜25.0質量%であり、より好ましくは、1.0〜15.0質量%であり、ポリビニルブチラールとの安定性を考慮すれば、3.0〜10.0質量%が好ましい。
【0042】
また、その他の着色剤としては、一般的な染料や顔料を用いても良い。
染料としては、油溶性染料、酸性染料、塩基性染料、含金染料などや、それらの各種造塩タイプの染料等を採用しても良い。具体的には、バリファーストブラック1802、バリファーストブラック1805、バリファーストブラック1807、バリファーストブルー1601、バリファーストブルー1605、バリファーストブルー1621、バリファーストレッド1320、バリファーストレッド1355、バリファーストレッド1360、バリファーストイエロー1101、バリファーストイエロー1151、ニグロシンベースEXBP、ニグロシンベースEX、BASE OF BASIC DYES ROB−B、BASE OF BASIC DYES RO6G−B、BASE OF BASIC DYES VPB−B、BASE OF BASIC DYES VB−B、BASEOF BASIC DYES MVB−3(以上、オリエント化学工業(株)製)、アイゼンスピロンブラック GMH−スペシャル、アイゼンスピロンバイオレット C−RH、アイゼンスピロンブルー GNH、アイゼンスピロンブルー 2BNH、アイゼンスピロンブルー C−RH、アイゼンスピロンレッド C−GH、アイゼンスピロンレッド C−BH、アイゼンスピロンイエロー C−GNH、アイゼンスピロンイエロー C−2GH、S.P.T.ブルー111、S.P.T.ブルーGLSH−スペシャル、S.P.T.レッド533、S.P.T.オレンジ6、S.B.N.バイオレット510、S.B.N.イエロー530、S.R.C−BH(以上、保土谷化学工業(株)製)等が挙げられる。
【0043】
また、顔料については、無機、有機、加工顔料などが挙げられるが、具体的にはカーボンブラック、アニリンブラック、群青、黄鉛、酸化チタン、酸化鉄、フタロシアニン系、アゾ系、キナクリドン系、DPP系、キノフタロン系、スレン系、トリフェニルメタン系、ペリノン系、ペリレン系、ギオキサジン系、メタリック顔料、パール顔料、蛍光顔料、蓄光顔料等が挙げられる。これら顔料は、ボールとボール座の隙間に入り込むことで、金属接触を抑制し、潤滑性を向上しやすい。また、チップ内部の隙間関係を考慮し、平均粒子径は、300nm以下が好ましい。より好ましくは、150nm以下である。ここで、平均粒子径とは、粒度分布計による平均粒子径D50のことである。これらの顔料は、単独又は2種以上組み合わせて使用してもかまわない。
【0044】
その他の着色剤の含有量は、インキ組成物全量に対し、1.0〜30.0質量%が好ましい。これは1.0質量%未満だと、濃い筆跡が得られにくい傾向があり、30.0質量%を越えると、インキ中で凝集しやすい傾向があるためであり、よりその傾向を考慮すれば、3.0〜20.0質量%が最も好ましい。
【0045】
さらに、高筆圧下(筆記荷重400gf)においても潤滑性を保ち、ボール座の摩耗を抑制するには、リン酸エステル系界面活性剤を用いることが好ましい。これは、リン酸エステル系界面活性剤において、リン酸基が金属表面に吸着しやすく、ボールとチップ本体との間の潤滑性を保ち、書き味がより向上しやすいためである。特に、本発明では、上述のように、前記ボリビニルブチラールによって形成するインキ層とリン酸基によって、より潤滑性を向上しやすいためより好ましく、さらに、前記芳香環を有するアミンによって形成される潤滑層とによって、より金属接触を抑制することで、高筆圧下(筆記荷重400gf)においても潤滑性を保ちやすくなる。
【0046】
リン酸エステル系界面活性剤としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル又はポリオキシエチレンアルキルアリールエーテルのリン酸モノエステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル又はポリオキシエチレンアルキルアリールエーテルのリン酸ジエステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル又はポリオキシエチレンアルキルアリールエーテルのリン酸トリエステル、アルキルリン酸エステル、アルキルエーテルリン酸エステル或いはその誘導体等が挙げられ、前記リン酸エステル系界面活性剤のアルキル基は、スチレン化フェノール系、ノニルフェノール系、ラウリルアルコール系、トリデシルアルコール系、オクチルフェノール系などが挙げられる。これらのリン酸エステル系界面活性剤は、単独又は2種以上混合して使用してもよい。その中でも、潤滑性を考慮すれば、アルキル基に含まれる炭素数が5〜18であることが好ましく、さらに考慮すれば、前記炭素数が10〜18であることがより好ましく、前記酸性含金染料と芳香環を有するアミンとの造塩染料との安定性を考慮すれば、前記炭素数12〜18が好ましい。アルキル基の炭素数が過度に少ないと、潤滑性が不足しやすい傾向があり、炭素数が過度に多いと、インキ経時安定性に影響が出やすい傾向があるので注意が必要である。
【0047】
さらに、リン酸エステル系界面活性剤は、形成される皮膜を柔らかくする傾向があり、ドライアップ時の書き出し性能を改良できることがある。本発明で用いる前記ポリビニルブチラール樹脂は、形成された皮膜によって、ドライアップ時の書き出し性能が劣りやすく、リン酸エステル系界面活性剤を用いると、形成された皮膜を和らげて、書き出しを向上しやすいため、好ましく、その中でもアルキル基に含まれる炭素数が12〜18であることが好ましく、さらに考慮すれば、前記炭素数が12〜15であることがより好ましい。特に、ノック式筆記具や回転繰り出し式筆記具等の出没式筆記具においては、キャップ式筆記具とは異なり、常時ペン先が外部に露出した状態であるため、ドライアップ時の書き出し性能に影響しやすいため、リン酸エステル系界面活性剤を用いることはより好ましい。
【0048】
また、リン酸エステル系界面活性剤の含有量は、インキ組成物全量に対し、0.1〜5.0質量%がより好ましい。これは、0.1質量%より少ないと、所望の潤滑性が得られにくい傾向があり、5.0質量%を越えると、インキ経時が不安定性になりやすい傾向があるためであり、その傾向を考慮すれば、インキ組成物全量に対し、0.3〜3.0質量%が好ましく、より考慮すれば、0.5〜3.0質量%が、最も好ましい。
【0049】
リン酸エステル系界面活性剤の具体例としては、プライサーフシリーズ(第一工業製薬(株))の中から、プライサーフA217E(アルキル基:炭素数14、酸価:45〜58)、同A219B(アルキル基:炭素数12、酸価:44〜58)、同A215C(アルキル基:炭素数12、酸価:80〜95)、同A208B(アルキル基:炭素数12、酸価:135〜155)、同A208N(アルキル基:炭素数12と13の混合物、酸価:160〜185)、フォスファノールシリーズ(東邦化学工業(株)製)の中から、フォスファノールRB410(アルキル基:炭素数18、酸価:80〜90)、同RS−610(アルキル基:炭素数13、酸価:75〜90)、同RS−710(アルキル基:炭素数13、酸価:55〜75)等が挙げられる。これらの界面活性剤は単独又は2種以上混合して使用してもよい。
なお、酸価については、試料1g中に含まれる酸性成分を中和するのに要する水酸化カリウムのmg数で表すものとする。
【0050】
本発明に用いる有機溶剤としては、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールモノフェニルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、3−メトキシブタノール、3−メトキシ−3−メチルブタノール等のグリコールエーテル溶剤、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ブチレングリコール、エチレングリコール等のグリコール溶剤、ベンジルアルコール、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、イソプロパノール、イソブタノール、t−ブタノール、プロパギルアルコール、アリルアルコール、3−メチル−1−ブチン−3−オール、エチレングリコールモノメチルエーテルアセタートやその他の高級アルコール等のアルコール溶剤など、油性ボールペン用インキとして一般的に用いられる有機溶剤が例示できる。
【0051】
これら有機溶剤の中でも、インキ垂れ下がり性能を考慮すれば、グリコールエーテル溶剤を用いると、前記ポリビニルブチラール樹脂との溶解性を安定させることで、ポリビニルブチラール樹脂のチップ先端での樹脂皮膜形成の効果が得られやすいため、好ましく、特に、水酸基量25mol%以上のポリビニルブチラール樹脂を用いる場合では、樹脂皮膜形成の効果が得られやすいため、好ましい、また、アルコ−ル溶剤は、揮発しやすく、チップ先端での乾燥をしやすく、樹脂皮膜形成が速くなりやすく、インキ垂れ下がり性能を向上しやすいため、好ましい。そのため、本発明では、グリコールエーテル溶剤とアルコ−ル溶剤を少なくとも併用して用いることが好ましい。さらに、芳香族アルコール溶剤を用いることで、前記ポリビニルブチラール樹脂と、前記酸性含金染料と芳香環を有するアミンとの造塩染料をそれぞれ溶解安定し、お互い分離することなく、長期間インキ経時安定性が得られため、好ましい。さらに、潤滑性を向上することを考慮すれば、芳香環を有することが好ましいので、芳香族のグリコールエーテル溶剤と芳香族のアルコ−ル溶剤を少なくとも併用して用いることが好ましい。これらの有機溶剤は、1種又は2種以上用いることができる。
【0052】
また、有機溶剤の含有量は、溶解性、筆跡乾燥性、にじみ等を向上することを考慮すると、インキ組成物全量に対し、30.0〜80.0質量%が好ましい。また、グリコールエーテル溶剤の含有量は、前記ポリビニルブチラール樹脂との溶解安定性を考慮すれば、インキ組成物全量に対して、5.0〜50.0質量%が好ましく、より好ましくは10.0〜40.0質量%である。また、アルコ−ル溶剤の含有量は、チップ先端での乾燥性を考慮すれば、全有機溶剤に対し、30.0〜80.0質量%が好ましく、より好ましくは40.0〜70.0質量%である。
【0053】
さらに、有機溶剤の含有量は、前記ポリビニルブチラール樹脂と、前記酸性含金染料と芳香環を有するアミンとの造塩染料をそれぞれ長期間溶解安定することや、インキ垂れ下がり性能とのバランスを考慮すれば、グリコールエーテル溶剤の含有量に対するアルコ−ル溶剤の含有量との比率は、1:1〜1:5が好ましく、より好ましくは、1:1〜1:3が好ましい。
【0054】
また、本発明のように、酸性含金染料と芳香環を有するアミンとの造塩染料、ポリビニルブチラール樹脂を含んでなる油性ボールペン用インキ組成物では、潤滑性をより向上させるために、微粒子を用いてもよい。これは、微粒子が、顔料と同様に、ボールとボール座の隙間に微粒子が入り込むことで、金属接触を抑制することで、潤滑性を向上することが可能であるためである。微粒子は具体的には、アクリル系、シリコーン系、ポリエチレン系等の樹脂微粒子やアルミナ微粒子、シリカ微粒子などが挙げられる。その中でも、球状のシリカ微粒子が好ましい。また、微粒子は、潤滑性を考慮すれば、平均粒子径が5〜100nmの微粒子が好ましく、平均粒子径はメジアン径であり、遠心沈降式やレーザー回折式、BET法等によって求めるこができる。
【0055】
さらに、本発明の油性ボールペン用インキに、芳香環を有するアミンとは、別にエチレンオキサイド (CH2CH2O)を有する有機アミンをさらに併用すると、より潤滑効果が得られ易い。そのため、エチレンオキサイド (CH2CH2O)を有するオキシエチレンアルキルアミン、ポリオキシエチレンアルキルアミンを用いることが好ましい。これ等は、単独又は2種以上混合して使用してもよい。
【0056】
オキシエチレンアルキルアミン、ポリオキシエチレンアルキルアミンとしては、具体的には、ナイミーンL−201、同L−202、同L−207、同S−202、同S−204、同S−210、同T2 -206、同S−210、同DT−203、同DT−208、同L−207、同T2 -206、同DT−208(日本油脂(株)社製)等が挙げられる。前記オキシエチレンアルキルアミン、ポリオキシエチレンアルキルアミンの含有量は、潤滑性や経時安定性を考慮すると、インキ組成物全量に対し、0.1〜10.0質量%が好ましく、より好ましくは、1.0〜5.0質量%である。
【0057】
また、その他として、潤滑性を向上させるために、界面活性剤として、フッ素系界面活性剤、シリコーン系界面活性剤、脂肪酸アルカノールアミドや、陰イオン性界面活性剤および/または陽イオン性界面活性剤の造塩体を、安定剤として、脂肪酸を、粘度調整剤として、ケトン樹脂、テルペン樹脂、アルキッド樹脂、フェノキシ樹脂、ポリ酢酸ビニル等の樹脂や脂肪酸アマイド、水添ヒマシ油などの擬塑性付与剤を、また、着色剤安定剤、可塑剤、キレート剤、水などを適宜用いても良い。これらは、単独又は2種以上組み合わせて使用してもかまわない。
【0058】
さらに、本発明のように油性ボールペン用インキ組成物に新たに酸性含金染料と芳香環を有するアミンとの造塩染料を含有する場合に、インキ経時安定性を保つには、製造時や経時による吸湿等によって、油性インキ中に水を含有するため、pH値についても着目することが好ましい。尚、本発明において、pH値が3.9以下を強酸性領域、pH値が10.1以上を強アルカリ領域、pH4.0〜10.0を強酸性領域と強アルカリ領域の中間領域(弱酸性、中性、弱アルカリ性)とする。
【0059】
前記油性ボールペン用インキ組成物のインキ経時安定性を保つには、pH値が4.0〜10.0の中性領域とすることが好ましい。これは、pH値が3.9以下だと、チップ本体内の金属イオンが溶出し易いため、前記造塩染料とで金属塩析出物が発生し易く、pH値が10.1以上だと、前記造塩染料のイオン結合が離れやすくなるため、インキ経時安定性や、色調に影響が出やすい傾向があり、さらに顔料分散安定性が得られなくなってしまうためである。さらに、よりインキ経時安定性を考慮すれば、pH値が5.0〜9.0が好ましい。
【0060】
尚、本発明におけるpH値は、油性ボールペン用インキ組成物の測定方法においては、油性インキを容器に採取し、イオン交換水を加えて、攪拌しながら加温し、加温後放冷し、蒸発した水分量を補充後、濾紙を用いて濾過する。その濾過したろ液の上層を用いて、pH測定は東亜ディーケーケー社製IM−40S型pHメーターを用いて、20℃にて測定した値を示すものである。
【0061】
本発明の油性ボールペン用インキ組成物のインキ粘度は、特に限定されるものではないが、20℃、剪断速度5sec−1におけるインキ粘度は5000mPa・s以下とすることが好ましい。特に、インキ粘度を5000mPa・sとするのに加えて、以下で説明するが、100mあたりのインキ消費量をA(mg)、前記ボール径をB(mm)とした場合、40≦A/B≦100の関係として、従来のボールペンとは異なる関係とすることで、より相乗的にボールの回転抵抗を抑制しやすいため、潤滑性を向上し、書き味を向上しやすい。また、20℃、剪断速度5sec−1におけるインキ粘度が500mPa・s未満の場合では、インキ垂れ下がりを抑制しづらいため、インキ粘度は500〜5000mPa・s、が好ましい。また、書き味やインキ垂れ下がり抑制をより向上することを考慮すれば、前記インキ粘度は1000〜4000mPa・sがより好ましく、さらに、より考慮すれば、1500〜3500mPa・sが最も好ましい。
【0062】
また、より濃い筆跡にするにはインキ消費量を設定するだけではなく、ボール径との関係も重要である。前記油性ボールペンレフィルの100mあたりのインキ消費量をA(mg)、前記ボール径をB(mm)とした場合、40≦A/B≦100の関係とし、従来とは異なる関係とすることで、より濃い筆跡になりやすい。また、40≦A/B≦100の関係については、40>A/Bだと、ボール径に対して、インキ消費量が十分ではなく、濃い筆跡や、良好な書き味が得られにくく、A/B>100だと、ボールとチップ先端の間隙よりインキ垂れ下がりや、泣きボテが発生し、筆跡乾燥性にも影響しやすい。より濃い筆跡とインキ垂れ下がりを考慮すれば、50≦A/B≦80の関係とすることが好ましい。具体的に例を挙げると、ボール径をB(mm)=0.7(mm)の場合、100mあたりのインキ消費量A(mg)は、A=30〜70(mg)とすることで、40≦A/B≦100の関係とすることができる。
【0063】
本発明で用いるインキ収容筒としては、耐薬品性、水分透過性、空気透過性等の観点から採用可能な材料に制限がある。その点、従来からポリプロピレンを材料として用いることが、好ましい。しかし、本発明で用いる酸性含金染料と芳香環を有するアミンとの造塩染料と、ポリビニルブチラール樹脂を用いた場合、ポリプロピレンのインキ収容筒と非常に親和性が強く、インキ収容筒内をインキが移動する際、インキが内壁に付着しやすく、インキ残量が分かりづらい。そのため、ポリプロピレンをインキ収容筒とする場合はそのインキ収容筒内壁をシリコーンで処理することが好ましい。これは、シリコーンをインキ収容筒内壁に塗布することで、収容筒材料であるポリプロピレンとインキとが直接接することなく、あくまでもシリコーンを中間に介在させた関係を維持し、インキが移動する際において収容筒内壁への付着防止することが可能ある。
【0064】
シリコーンの材料としては、ジメチルシリコーン、メチルフェニルシリコーン、メチル水素シリコーン、アルキルアラルキルシリコーン、ポリエーテルシリコーン、高脂肪酸エステル脂肪酸シリコーンなどが挙げられ、その中でも、付着防止性が優れ、非反応性であるため、油性インキ成分に対しても安定性を考慮すれば、アルキルアラルキルシリコーンが好ましい。塗布の方法は押出成形時において内壁に同時に均一に塗布することが最も効果的である。
【0065】
次に図面を参照しながら、本発明のボールペンの実施形態を説明するが、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0066】
実施例1
図1に示す実施例1のボールペンレフィル1は、インキ収容筒2の先端に、ボール径がボール表面の算術平均粗さ(Ra)3nmのボール3(φ0.7mm)を回転自在に抱時し、前記ボール3をコイルスプリング6によりチップ先端縁の内壁に押圧したボールペンチップ4(ボールの縦軸方向の移動量:12μm)を装着するとともに、インキ収容筒2内に、実施例1の油性ボールペン用インキ組成物10(0.4g)及びグリース状のインキ追従体5を、を直に収容してボールペンレフィル1を得ている。
【0067】
次に酸性含金染料と芳香環を有するアミンとの造塩染料の作成方法を説明する。
配合例1
まず、ビーカーに水を1000g、ダイレクトブルー86(酸性含金染料(銅フタロシアニン系染料))を30g秤量し、加温した後、ディスパー攪拌機を用いて溶解させた後、ベンゾキソニウム化合物60gを秤量し、攪拌後、濾紙を用い濾過を行って、濾紙上の残渣を乾燥させ造塩染料を得た。
【0068】
次に酸性染料と芳香環を有するアミンとの造塩染料の作成方法を説明する。
配合例2
まず、ビーカーに水を1000g、Acid Yellow42(アゾ系酸性染料(スルホ基あり))を30g秤量し、加温した後、ディスパー攪拌機を用いて溶解させた後、ベンゾキソニウム化合物(芳香環を有するアミン)60gを秤量し、攪拌後、濾紙を用い濾過を行って、濾紙上の残渣を乾燥させ造塩染料を得た。
【0069】
次に、実施例を示して本発明を説明する。
実施例1の油性ボールペン用インキ組成物は、着色剤として造塩染料、有機溶剤としてアルコール溶剤、グリコールエーテル溶剤、ポリビニルブチラール樹脂、潤滑剤としてリン酸エステル系界面活性剤、曳糸性付与樹脂としてポリビニルピロリドンを採用し、これを所定量秤量して、60℃に加温した後、ディスパー攪拌機を用いて完全溶解させて油性ボールペン用インキ組成物を得た。具体的な配合量は下記の通りである。
尚、ティー・エイ・インスツルメント株式会社製AR−G2(ステンレス製40mm 2°ローター)を用いて20℃の環境下で、剪断速度5sec−1にてインキ粘度を測定したところ、2000mPa・sであった。
また、pH値を測定したところ、pH=7.7であった。
また、実施例1の100mあたりのインキ消費量(A)は、ボール径(B)0.7mmのボールペンレフィルでらせん筆記試験を行ったところ、45mg/100mで、A/B=64であった。
また、実施例2の100mあたりのインキ消費量(A)は、ボール径(B)0.5mmのボールペンレフィルでらせん筆記試験を行ったところ、38mg/100mで、A/B=76であった。
【0070】
実施例1
配合例1の造塩染料 12.0質量%
配合例2の造塩染料 6.0質量%
アルコール溶剤(ベンジルアルコール) 43.0質量%
グリコールエーテル溶剤(エチレングリコールモノフェニルエーテル) 27.5質量%
ポリビニルブチラール樹脂
(エスレックBL−1、水酸基量:36mol%、平均重合度:300)10.0質量%
潤滑剤(リン酸エステル系界面活性剤) 1.0質量%
曳糸性付与樹脂(ポリビニルピロリドン) 0.5質量%
【0071】
実施例2〜10
表1、2に示すように、インキ組成物の各成分とチップ仕様を変更した以外は、実施例1と同様な手順で実施例2〜10の油性ボールペン用インキ組成物を得た。
実施例11
表2に示すように、インキ組成物の各成分とチップ仕様を変更した以外は、水以外の各成分を実施例1と同様な手順で行い、室温冷却後水を添加しディスパー攪拌にて油性ボールペン用インキ組成物を得た。
【表1】
【表2】
【0072】
比較例1〜8
表3に示すように、インキ組成物の各成分とチップ仕様を変更した以外は、実施例1と同様の手順で、配合し、比較例1〜8の油性ボールペン用インキ組成物を得た。表3に測定、評価結果を示す。
【表3】
【0073】
試験及び評価
実施例1〜11及び比較例1〜8で作製した油性ボールペンレフィル1を(株)パイロットコーポレーション製の油性ボールペン(商品名:アクロボール)に配設して、油性ボールペンを作製し、筆記試験用紙として筆記用紙JIS P3201を用いて以下の試験及び評価を行った。
【0074】
インキ経時試験:チップ本体内のインキを顕微鏡観察した。
析出物がなく、良好のもの ・・・◎
析出物が微少に発生したもの ・・・○
析出物が発生したが、実用上問題のないもの ・・・△
析出物が発生し、カスレや筆記不良などの原因になるもの・・・×
【0075】
インキ垂れ下がり性能試験:30℃、85%RHの環境下にペン先下向きで7日放置し、チップ先端からのインキ漏れを確認した。
チップ先端のインキ滴がないもの ・・・◎
チップ先端のインキ滴がテーパー部の1/4以内のもの ・・・○
チップ先端のインキ滴がテーパー部の1/4以上、1/2以内のもの・・・△
チップ先端のインキ滴がテーパー部の1/2以上のもの ・・・×
【0076】
書き味:手書きによる官能試験を行い評価した。
非常に滑らかなもの ・・・◎
滑らかなもの ・・・○
やや重いもの ・・・△
重いもの ・・・×
【0077】
耐光性試験:JIS P3201筆記用紙Aに筆記角度70°、筆記荷重150gの条件にて、筆記速度4.5m/minの速度で、らせん筆記試験を行い、1時間放置した後、キセノンフェードメーター
X15F(スガ試験機株式会社製)を用いて、ブルースケールが3級退色するまで照射し、筆跡を観察した。
退色しない若しくは若干退色する ・・・◎
退色するが、実用上問題ないレベルのもの ・・・○
退色が目立ち、実用上問題になるレベルのもの ・・・×
【0078】
筆跡の濃さ:手書きにより筆記した筆跡を観察した。
濃く鮮明な筆跡であるもの ・・・◎
濃い筆跡であるもの ・・・○
実用上問題ない濃さの筆跡であるもの ・・・△
薄い筆跡のもの ・・・×
【0079】
高筆圧筆記試験:荷重400gf、筆記角度70°、4m/minの走行試験機にて筆記試験後のボール座の摩耗を測定した。
ボール座の摩耗が5μm未満のもの ・・・◎
ボール座の摩耗が5μm以上、10μm未満であるもの ・・・○
ボール座の摩耗が10μm以上、20μm未満であるが、筆記可能であるもの ・・・△
ボール座の摩耗がひどく、筆記不良になってしまうのもの ・・・×
【0080】
実施例1〜11では、インキ経時試験、書き味、インキ垂れ下がり性能、耐光性、筆跡の濃さ、高筆圧筆記試験ともに良好な性能が得られた。
【0081】
比較例1、2では、酸性含金染料と脂肪族アミンとの造塩染料を用いたため、析出物が発生し、インキ経時安定性が悪かった。
【0082】
比較例3、4、5では、酸性含金染料と塩基性染料との造塩染料を用いず、酸性含金染料がないため、耐光性試験では、退色が目立ち、実用上問題になるレベルで、筆跡の濃さも、劣ってしまった。さらに、比較例3、4では、析出物が発生してしまい、インキ経時安定性が悪かった。
【0083】
比較例6では、顔料を用いたため、インキ経時が安定しなかった。
【0084】
比較例7、8では、ボール表面の算術平均粗さ(Ra)22nm、17nmのボールを用いたため、書き味が劣ってしまい、高筆圧筆記試験においてもボール座の摩耗も劣ってしまった。
【0085】
本発明のように、書き味を向上するために、20℃、剪断速度5sec−1におけるインキ粘度を、5000mPa・s以下の範囲に設定する場合には、インキの垂れ下がりを防止するため、ボールペンチップ先端に回転自在に抱持したボールを、コイルスプリングにより直接又は押圧体を介してチップ先端縁の内壁に押圧して、筆記時の押圧力によりチップ先端縁の内壁とボールに間隙を与えインキを流出させる弁機構を具備し、チップ先端の微少な間隙も非使用時に閉鎖することが好ましい。
【0086】
本発明では、ボールの表面及び/又は当接面の表面に潤滑被膜層を設けることで、潤滑被膜層と前記したインキ層による流体潤滑又は混合潤滑との相乗効果によって、ボールとチップ内壁との接触抵抗を著しく軽減しやすく、当接面の耐摩耗性及び筆感を著しく向上しやすくなるため、好ましい。
【0087】
尚、本発明に用いる潤滑被膜層としては、ダイヤモンドライクカーボン(DLC)、二硫化タングステン(WS2)、二硫化モリブデン(MoS2)やグラファイト、四フッ化エチレン(PTFE)等の含フッ素高分子、シリコーン樹脂等、従来から知られている固体潤滑剤などを適宜用いることができる。また、潤滑被膜層を被覆する方法は、特に制限されず、真空蒸着、イオン蒸着、物理的蒸着、化学的蒸着、真空アーク蒸着などが挙げられ、直接又は前記した潤滑剤を含有した被膜層であってもよい。特に前記した潤滑剤の中でも、耐摩耗性及び潤滑性を考慮してダイヤモンドライクカーボン(DLC)を用いることが最も好ましい。
【産業上の利用可能性】
【0088】
本発明は油性ボールペンとして利用でき、さらに詳細としては、該油性ボールペン用インキ組成物を充填した、キャップ式、ノック式等の水性ボールペンとして広く利用することができる。
【符号の説明】
【0089】
1 ボールペンレフィル
2 インキ収容筒
3 ボール
4 ボールペンチップ
5 インキ追従体
6 コイルスプリング
10 油性ボールペン用インキ
図1