(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6576818
(24)【登録日】2019年8月30日
(45)【発行日】2019年9月18日
(54)【発明の名称】高弾性水性接着剤組成物及びこれを用いた成形品の表面処理方法
(51)【国際特許分類】
C09J 175/04 20060101AFI20190909BHJP
C09J 175/06 20060101ALI20190909BHJP
C09J 11/04 20060101ALI20190909BHJP
C09J 11/06 20060101ALI20190909BHJP
C08G 18/66 20060101ALI20190909BHJP
B60R 13/02 20060101ALI20190909BHJP
B05D 1/14 20060101ALI20190909BHJP
B05D 7/02 20060101ALI20190909BHJP
【FI】
C09J175/04
C09J175/06
C09J11/04
C09J11/06
C08G18/66
B60R13/02 B
B05D1/14
B05D7/02
【請求項の数】11
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2015-248684(P2015-248684)
(22)【出願日】2015年12月21日
(65)【公開番号】特開2017-8288(P2017-8288A)
(43)【公開日】2017年1月12日
【審査請求日】2018年7月10日
(31)【優先権主張番号】10-2015-0084855
(32)【優先日】2015年6月16日
(33)【優先権主張国】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】591251636
【氏名又は名称】現代自動車株式会社
【氏名又は名称原語表記】HYUNDAI MOTOR COMPANY
(73)【特許権者】
【識別番号】500518050
【氏名又は名称】起亞自動車株式会社
【氏名又は名称原語表記】KIA MOTORS CORPORATION
(74)【代理人】
【識別番号】100091982
【弁理士】
【氏名又は名称】永井 浩之
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100082991
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 泰和
(74)【代理人】
【識別番号】100105153
【弁理士】
【氏名又は名称】朝倉 悟
(74)【代理人】
【識別番号】100127465
【弁理士】
【氏名又は名称】堀田 幸裕
(74)【代理人】
【識別番号】100162123
【弁理士】
【氏名又は名称】佐々木 誠
(72)【発明者】
【氏名】ハン、イン、ス
(72)【発明者】
【氏名】イ、ミョン、リョル
(72)【発明者】
【氏名】キム、ドゥ、ス
(72)【発明者】
【氏名】ホン、スン、ピョ
(72)【発明者】
【氏名】イ、ヨン、チョル
(72)【発明者】
【氏名】チョン、ジ、ヨン
(72)【発明者】
【氏名】アン、ジェ、ボム
【審査官】
田澤 俊樹
(56)【参考文献】
【文献】
韓国公開特許第10−2013−0063625(KR,A)
【文献】
特表2007−529578(JP,A)
【文献】
特開2006−111877(JP,A)
【文献】
特開2000−096027(JP,A)
【文献】
特開平06−032883(JP,A)
【文献】
特開2004−051778(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09J 1/00−201/10
C09D 1/00−201/10
C08G 18/66
B60R 13/02
B05D 1/14,7/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水酸基を持つ水希釈性ポリウレタン樹脂10〜23.1重量%、水分散性ポリウレタン樹脂20〜40重量%、硬化剤5〜20重量%、体質顔料3〜10重量%、湿潤剤0.1〜5.0重量%、スリップ剤0.1〜3.0重量%、消泡剤0.1〜2.0重量%、硬化促進剤0.01〜2.00重量%、光安定剤0.5〜5.0重量%、増粘剤0.1〜3.0重量%、及び溶剤20〜40重量%を含むことを特徴とする、高弾性水性接着剤組成物。
【請求項2】
前記水酸基を持つ水希釈性ポリウレタン樹脂は、a)平均官能基の数が2以上であるイソシアネート、b)ジメチルプロピオン酸、c)ポリエステルポリオール、d)溶剤、及びe)中和剤を含むことを特徴とする、請求項1に記載の高弾性水性接着剤組成物。
【請求項3】
前記水酸基を持つ水希釈性ポリウレタン樹脂は、a)前記平均官能基の数が2以上であるイソシアネート1〜10重量%、b)ジメチルプロピオン酸1〜10重量%、c)前記ポリエステルポリオール55〜80重量%、d)前記溶剤5〜20重量%、及びe)前記中和剤1〜5重量%を含むことを特徴とする、請求項2に記載の高弾性水性接着剤組成物。
【請求項4】
前記平均官能基の数が2以上であるイソシアネートは、トルエンジイソシアネート、4,4−ジフェニルメタンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート及びこれらから誘導された多官能性イソシアネートからなる群から選択された1種以上であることを特徴とする、請求項2に記載の高弾性水性接着剤組成物。
【請求項5】
前記ポリエステルポリオールは、重量平均分子量が、500〜5000であることを特徴とする、請求項2に記載の高弾性水性接着剤組成物。
【請求項6】
前記溶剤は、N−メチルピロリドン、アセトン、メチルエチルケトン、ジメチルホルムアミド、グリコールエーテルエステル及び水素化フランからなる群から選択された1種以上であることを特徴とする、請求項2に記載の高弾性水性接着剤組成物。
【請求項7】
前記中和剤は、N−メチルジエタノールアミン、トリエタノールアミン又はこれらの混合物であることを特徴とする、請求項2に記載の高弾性水性接着剤組成物。
【請求項8】
前記水分散性ポリウレタン樹脂は、ポリアクリルポリオール、ポリエステルポリオール及びポリカーボネートポリオールからなる群から選択された1種以上のポリオールを含むことを特徴とする、請求項1に記載の高弾性水性接着剤組成物。
【請求項9】
自動車内装材用プラスチック成形品の表面処理方法であって、
プラスチック成形品上に請求項1〜8のいずれか一項の高弾性水性接着剤組成物を塗布した後、パイルを塗装するフュージョンスエード加工工程を含むことを特徴とする、自動車内装材用プラスチック成形品の表面処理方法。
【請求項10】
前記高弾性水性接着剤組成物は、30〜40μmの厚さに塗布することを特徴とする、請求項9に記載の自動車内装材用プラスチック成形品の表面処理方法。
【請求項11】
前記パイルは、ナイロン/ポリエステル分割糸であることを特徴とする、請求項9に記載の自動車内装材用プラスチック成形品の表面処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高弾性水性接着剤組成物及びこれを用いた成形品の表面処理方法に係り、より詳しくは水分散性ポリウレタン樹脂に水酸基を持つ水希釈性ポリウレタン樹脂を添加することで有機溶剤による臭い及びVOCの発生を減らすことにより、環境に優しくて、既存の物性をそのまま満足しながらも弾性回復力及び耐スクラッチ性の物性を向上させることができる高弾性水性接着剤組成物及びこれを用いた成形品の表面処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
既存の自動車内装のプラスチック部品が提供する表面の硬い感じ、つまり低価のイメージは高級さを願う消費者の要求を十分に反映していない。それで、自動車内装材の感性品質を向上させるために、射出品の外面を多様な織物で包むことで暖かい感じの感性を向上させるようにする方式を取った。具体的に、射出品の外面に油性接着剤を塗布した後、作業者が織物をピンと張って射出品を包むようにする方法で表面処理した。
【0003】
しかし、この場合、高価の織物(スエード)使用による価格的な負担が大きく、油性接着剤に含有された有機溶剤によって揮発性有機化合物(volatile organic compounds:VOC)を発生させて環境汚染を誘発し、臭いがひどくて作業者の健康をこわすなどの欠点があった。
【0004】
よって、近年、このような問題を解消するために、自動車メーカでVOC放出量最小要求基準などを指定しておき、国内外の各種環境関連法規によって制裁を強化する趨勢にある。
【0005】
また、油性接着剤を改善するために使われる水性接着剤としては、水分散性ポリウレタンを使うことができる。水分散性ポリウレタンは、イソシアネートを用いて両末端を水溶化させ、鎖延長剤として多価アミンを使って両末端に尿素基が形成されたプレポリマーを水に分散させることで製造することができる。しかし、前記のような方法で得られた水分散性ポリウレタンは、分散の際、再現性及び分子量制御が難しい欠点がある。特に、これを接着剤として用いる場合、硬化反応を引き起こし得る作用基の不足によって、硬化後に塗膜を軟化させて耐候性、耐磨耗性などの塗膜物性に悪影響を及ぼすため、自動車用水溶性上塗り(クリア)として使うのには非常に適しない。また、分子量が大きく、ハードな特性が強いため、塗装作業性の確保が難しい欠点がある。
【0006】
従来、大韓民国登録特許第1161893号には、ポリエステル−ポリウレタン樹脂分散液とヒドロキシ−官能性の水性又は水希釈性結合剤を含む水分散液に関して開示されているが、水分散工程が付け加わる欠点がある。
【0007】
また、大韓民国登録特許第217448号には、ヒドロキシ−官能性重合体の混合物を含む水希釈可能な有機ポリオール成分の水溶液又は水性分散液とポリイソシアネート成分を含む水性結合剤組成物に関して開示されているが、水性分散液に有機溶剤の含量が高くなる欠点がある。
【0008】
また、大韓民国特許公開第2006−0052176号には、水性ポリウレタン−ポリ尿素分散物、ヒドロキシ官能性水性又は水希釈性結合剤、ポリイソシアネート、発泡体及び安定化剤を含む水性発泡体コーティング組成物に関して開示されているが、発泡工程の追加と発泡体の摩耗性低下という欠点がある。
【0009】
したがって、有機溶剤の使用を減らして環境汚染を予防し、質感、耐磨耗性、耐スクラッチ性などの物性を向上させることができる新規の接着剤とこれを用いた成形品の表面処理方法に対する開発が必要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】大韓民国特許登録第1161893号公報
【特許文献2】大韓民国特許登録第217448号公報
【特許文献3】大韓民国特許公開第2006−0052176号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
前記のような問題の解決のために、本発明は、有機溶剤による臭い及びVOCの発生を減らすことにより、環境に優しくて、既存の物性をそのまま満足しながらも弾性回復力及び耐スクラッチ性の物性を向上させることができる。また、前記高弾性水性接着剤組成物と分割糸パイルを適用して成形品を表面処理することにより、製造コストを節減するとともに環境に優しくて弾性回復力及び耐スクラッチ性に優れた柔らかい触感のスエード質感を具現することができるという事実が分かって本発明を完成した。
【0012】
したがって、本発明の目的は、既存の物性をそのまま満足しながらも弾性回復力及び耐スクラッチ性を向上させることができる高弾性水性接着剤組成物を提供することにある。
【0013】
本発明の他の目的は、製造コストを節減するとともに柔らかい触感のスエード質感を具現することができる自動車内装材用プラスチック成形品の表面処理方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、水酸基を持つ水希釈性ポリウレタン樹脂10〜30重量%、水分散性ポリウレタン樹脂20〜40重量%、硬化剤5〜20重量%、体質顔料3〜10重量%、湿潤剤0.1〜5.0重量%、スリップ剤0.1〜3.0重量%、消泡剤0.1〜2.0重量%、硬化促進剤0.01〜2.00重量%、光安定剤0.5〜5.0重量%、増粘剤0.1〜3.0重量%、及び溶剤20〜40重量%を含む高弾性水性接着剤組成物を提供する。
【0015】
また、本発明は、自動車内装材用プラスチック成形品の表面処理方法であって、プラスチック成形品上に前記高弾性水性接着剤組成物を塗布した後、パイル(pile)を塗装するフュージョンスエード加工工程を含む自動車内装材用プラスチック成形品の表面処理方法を提供する。
【発明の効果】
【0016】
本発明による高弾性水性接着剤組成物は、水分散性ポリウレタン樹脂に水酸基を持つ水希釈性ポリウレタン樹脂を添加して有機溶剤による臭い及びVOCの発生を減らすことにより、環境に優しくて、既存の物性をそのまま満足しながらも弾性回復力及び耐スクラッチ性の物性を向上させることができる。
【0017】
また、前記高弾性水性接着剤組成物と分割糸パイルを適用して成形品を表面処理することにより、製造コストを節減するとともに環境に優しくて弾性回復力及び耐スクラッチ性に優れた柔らかい触感のスエード質感を具現することができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を一実施例に基づいてより詳細に説明する。
【0019】
本発明の高弾性水性接着剤組成物は、(1)水酸基を持つ水希釈性ポリウレタン樹脂10〜30重量%、(2)水分散性ポリウレタン樹脂20〜40重量%、(3)硬化剤5〜20重量%、(4)体質顔料3〜10重量%、(5)湿潤剤0.1〜5.0重量%、(6)スリップ剤0.1〜3.0重量%、(7)消泡剤0.1〜2.0重量%、(8)硬化促進剤0.01〜2.00重量%、(9)光安定剤0.5〜5.0重量%、(10)増粘剤0.1〜3.0重量%、及び(11)溶剤20〜40重量%を含む。
【0020】
本発明の好適な具現例によると、前記高弾性水性接着剤組成物は、水分散性ポリウレタン樹脂に水酸基を持つ水希釈性ポリウレタン樹脂を添加して有機溶剤による臭い及びVOCの発生を減らすことにより、環境に優しくて、既存の物性をそのまま満足しながらも弾性回復力及び耐スクラッチ性の物性を向上させることができる。
【0021】
このような前記高弾性水性接着剤組成物は、次のような成分を含むことができる。
【0022】
(1)水酸基を持つ水希釈性ポリウレタン樹脂
【0023】
本発明の好適な具現例によると、前記水酸基を持つ水希釈性ポリウレタン樹脂は、a)平均官能基の数が2以上であるイソシアネート、b)平均官能基の数が2以上である親水性ポリオール、c)ポリエステルポリオール、d)溶剤、及びe)中和剤を含むことができる。
【0024】
本発明の好適な具現例によると、前記水酸基を持つ水希釈性ポリウレタン樹脂は、多価アミンのような鎖延長剤を使用せずに、ポリウレタンプレポリマーを製造し、親水性ポリオール、及びイソシアネートのOH/NCOの当量比を0.5〜0.6:1に合わせて水酸基の含量が10〜80mgKOH/gになるように製造することができる。
【0025】
水酸基の残存のために、NCOの含量が少ないことが好ましい。この際、残存する水酸基が接着剤に適用される場合、水分散ポリイソシアネートと硬化反応して、耐候性、耐磨耗性などの接着剤物性を大きく向上させることができる。よって、固形分(NV:Non−Volatile)の調整を容易にするために水分散させないで水に希薄可能な水酸基を含む水希釈性ポリウレタン樹脂を製造することができる。
【0026】
本発明の好適な具現例によると、前記水酸基を持つ水希釈性ポリウレタン樹脂は、その含量が10重量%より少なければ、物性の確保が難しくて質感がこちこちになり、耐スクラッチ性が低下することができ、30重量%より多ければ、質感はよくなるが、接着剤の乾燥後、べたつく感じが強くて、摩耗性が低下することができる。
【0027】
本発明の好適な具現例によると、前記水酸基を持つ水希釈性ポリウレタン樹脂は、具体的に、a)前記平均官能基の数が2以上であるイソシアネート1〜10重量%、b)前記平均官能基の数が2以上である親水性ポリオール1〜10重量%、c)前記ポリエステルポリオール55〜80重量%、d)前記溶剤5〜20重量%、及びe)前記中和剤1〜5重量%を含むことができる。
【0028】
本発明の好適な具現例によると、前記平均官能基の数が2以上であるイソシアネートは、トルエンジイソシアネート、4,4−ジフェニルメタンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、及びこれから誘導された多官能性イソシアネートからなる群から選択された1種以上のものを使うことができる。より好ましくは、イソホロンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート又はこれらの混合物を使うことが良い。このようなイソシアネートは、前記水酸基を持つ水希釈性ポリウレタン樹脂の総重量に対して1〜10重量%を使うことがよい。具体的に、前記イソシアネートの含量が1重量%より少なければ、機械的物性及び耐化学性が落ちる問題が発生し、10重量%より多ければ、粘度が高くなって合成が難しい問題が発生するので、前記範囲内で使うことがよい。
【0029】
本発明の好適な具現例によると、前記平均官能基の数が2以上である親水性ポリオールは、ジメチルプロピオン酸、ジメチルブタン酸、ポリオキシエチレングリコール、測鎖にカルボキシル基を含むポリカプロラクトンジオール、測鎖にスルホン酸基を持つポリエーテルジオール、及び測鎖にアルコキシ基で置換されたポリオキシエチレン基を持つポリオールからなる群から選択された1種以上のものを使うことができる。このような前記親水性ポリオールは、前記水酸基を含む水希釈性ポリウレタン樹脂の総重量に対し、1〜10重量%を使うことがよい。具体的に、前記親水性ポリオールの含量が1重量%より少なければ、親水性が不足して水分散されない問題が発生し、10重量%より多ければ、耐水性が低下する問題が発生するので、前記範囲内で使うことがよい。
【0030】
本発明の好適な具現例によると、ポリウレタン樹脂を製造するのに主成分として使われる前記ポリエステルポリオールは、アルコール化合物と酸を縮合反応させて製造することができる。具体的には、ジエチレングリコールとアジピン酸を母体とし、500〜5,000の重量平均分子量(Mw)を持つポリエステルやメチルプロパンジオールのアルコール化合物とアジピン酸、イソフタル酸などの酸を縮合反応させて製造することができる。前記ポリエステルポリオールは、重量平均分子量(Mw)が500〜5000のものを使うことができる。具体的に、前記重量平均分子量の範囲を外れる場合、耐化学性及び生産性が低下する問題があり得る。
【0031】
本発明の好適な具現例によると、前記溶剤は、一般的な溶剤を使うことができ、好ましくはN−メチルピロリドン、アセトン、メチルエチルケトン、ジメチルホルムアミド、グリコールエーテルエステル及び水素化フランからなる群から選択された1種以上のものを使うことができる。前記溶剤は、前記水酸基を持つ水希釈性ポリウレタン樹脂の総重量に対して5〜20重量%を使うことがよい。具体的に、前記含量範囲を外れる場合、物性の確保が難しいとか、あるいは接着剤として使用するとき、乾燥時間が長くかかる問題があり得る。
【0032】
本発明の好適な具現例によると、前記中和剤は、N−メチルジエタノールアミン、トリエタノールアミン、又はこれらの混合物を使うことができる。より好ましくは、トリエタノールアミンを使うことがよい。前記中和剤の含量は、1〜5重量%を使うことができる。具体的には、前記中和剤の含量が1重量%より少なければ、中和させる効果が低く、5重量%より多ければ、臭い及び変色を引き起こす問題があり得るので、前記範囲内で使うことがよい。
【0034】
本発明の好適な具現例によると、前記水分散性ポリウレタン樹脂は、ポリオール及びイソシアネートを反応させて合成することができる。具体的に、前記水分散性ポリウレタン樹脂は、ポリアクリルポリオール、ポリエステルポリオール及びポリカーボネートポリオールからなる群から選択された1種以上のポリオールを含むものを使うことができる。また、前記水分散性ポリウレタン樹脂は、pHが6〜10、引張強度が5〜35mPa、破断伸びが600〜800%であることが好ましい。
【0035】
本発明の好適な具現例によると、前記水分散性ポリウレタン樹脂は、前記高弾性水性接着剤組成物に対して20〜40重量%を使うことができる。具体的に、前記含量範囲を外れる場合、付着性などの接着剤物性に問題が発生する。
【0037】
本発明の好適な具現例によると、前記硬化剤は、前記高弾性水性接着剤組成物の硬化のために添加できる。このような前記硬化剤は、無黄変と耐候性に優れたイソホロンジイソシアネート、親水性ヘキサメチレンジイソシアネート又はこれらの混合物を使うことができる。また、前記硬化剤は、前記高弾性水性接着剤組成物に対し、5〜20重量%を使うことができる。具体的に、前記含量が5重量%より少なければ、接着剤の硬化が起きなくて塗膜の物性確保が難しい問題があり、20重量%より多ければ、硬化剤の量があまり多くて可使時間が短くなって作業上問題が発生することができる。
【0039】
本発明の好適な具現例によると、前記体質顔料は、接着剤の保存性(沈降防止)確保と着色力向上のために添加できる。好ましくは、硫酸バリウム(BaSo
4)、炭酸カルシウム(CaCo
3)及びシリカ(SiO
2)からなる群から選択された1種以上のものを使うことができる。また、前記体質顔料は、前記高弾性水性接着剤組成物に対し、3〜10重量%使うことができる。具体的に、前記含量が3重量%より少なければ、沈降防止効果を期待することができなく、10重量%より多ければ、接着剤の粘度が上昇して作業性がめっきり減少するなど物性が低下する。
【0041】
一般的に素材の湿潤力は、接着剤の表面張力と被塗体の表面張力との差によって決定できる。一般的な法則は、接着剤の表面張力が被塗体の表面張力より低いなど少なくとも同じでなければならない。例えば、接着剤が塗装面によく分散されないなど付かない場合には、接着剤の表面張力が被塗体の表面張力より高いからである。よって、水を多く含有した水性接着剤は、一般的に表面張力が非常に高くて湿潤性問題がたびたび発生する。
【0042】
したがって、本発明は、接着剤の表面張力を強く低下させて素材の湿潤性を向上させ、噴火口現象を防止し、その外に表面にスリップ性を付与することができる湿潤剤を使うことができる。このような前記湿潤剤としては、ポリエーテル変性シロキサン、ポリエーテルシロキサン共重合体、ポリジメチルシロキサン及びポリエーテル変性ポリジメチルシロキサンからなる群から選択された1種以上の湿潤剤を使うことができる。また、前記湿潤剤は、前記高弾性水性接着剤組成物に対し、0.1〜5重量%を使うことができる。具体的に、前記含量が0.1重量%より少なければ、塗装表面のほこりによる外観不良問題が発生し、5重量%より多ければ、再塗装の際、付着性低下の問題を引き起こす。
【0044】
本発明の好適な具現例によると、前記スリップ剤は、塗膜表面のスリップ性を向上させるために添加するもので、シリコンを使うことができる。前記スリップ剤は、耐スクラッチ性、耐オゾン性を向上させ、洗浄を容易にし、耐粘着性を向上させる役目をすることができる。前記スリップ剤は、前記高弾性水性接着剤組成物に対し、0.1〜3重量%を使うことができる。具体的に、前記含量が0.1重量%より少なければ、耐磨耗性及び耐スクラッチ性などの物理的特性が低下し、3重量%より多ければ、再塗装の際、付着性低下の問題を引き起こすことができる。
【0046】
生産工程中に気泡が発生すれば、接着剤を包装するとき、最適量を入れることができなく、前記接着剤の塗布の際、気泡の発生によって表面を不良にすることができる。また、このような気泡発生は、外観上にも良くないだけでなく、保護機能を持つ接着剤の固有性能を低下させるので、問題点がある。したがって、気泡発生を防止するために、前記消泡剤を使うことができる。前記消泡剤は非シリコン系消泡剤を使うことができ、その含量は、前記高弾性水性接着剤組成物に対し、0.1〜2重量%を使うことができる。具体的に、前記含量が0.1重量%より少なければ、消泡効果が充分でなく、2重量%より多ければ、再塗装の際、付着性低下の問題を引き起こすことができる。
【0048】
本発明の好適な具現例によると、前記硬化促進剤は、トリメチレンジアミン、オクタン酸スズ、ジブチルスズジラウレート及び2−エチルヘキサン酸鉛からなる群から選択された1種以上のものを使うことができる。また、前記硬化促進剤は、前記高弾性水性接着剤組成物に対し、0.01〜2.00重量%を使うことができる。具体的には、前記含量が0.01重量%より少なければ、乾燥時間が長くなり、耐薬品性、耐湿性及び摩耗性などの物理的特性が低下し、2重量%より多ければ、接着剤の硬化がとても急激に発生し、塗布作業の際、接着剤の表面にポンピング現象が発生するとか接着剤の収縮を引き起こす。
【0050】
本発明の好適な具現例によると、前記光安定剤は、長期間にわたって光に露出されて発生する塗膜の老化、変色などを防止するために使うことができる。具体的に、紫外線遮断、光エネルギーの吸収及び転換、自由ラジカル除去機能などをすることができる。このような前記光安定剤は、紫外線吸収系(UV absorbers)と立体障害効果を持つ有機アミン系化合物である紫外線阻害アミン光安定化剤(UV hindered amine light stabilizer)系を適切に混合して使うことができる。前記紫外線吸収系光安定剤としては、ベンゾフェノン系、オキサニリド系、ベンゾトリアゾール系及びトリアジン系からなる群から選択された1種以上のものを使うことができる。前記有機アミン系光安定剤としては、4−ベンゾイルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、2,4−ジ−tert−ブチルフェニル−3,5−ジ−tert−ブチル−ヒドロキシベンゾイド又はこれらの混合物を使うことができる。好ましくは、前記紫外線吸収系と前記紫外線阻害アミン光安定化剤系の比率を2:1の重量比で混合して使うことが好ましい。前記光安定剤は、前記高弾性水性接着剤組成物に対し、0.5〜5.0重量%を使うことができる。具体的に、前記含量が0.5重量%より少なければ、時間が経つにつれて塗膜が易しく黄変するとか光沢低下する問題があり、5重量%より多ければ、接着剤の保存性の不安定な問題がある。
【0052】
本発明の好適な具現例によると、前記増粘剤は、アクリル系、ウレタン及びエチレンビニルアセテートからなる群から選択された1種以上のものを使うことができる。また、前記増粘剤は、前記高弾性水性接着剤組成物に対し、0.1〜3.0重量%を使うことができる。具体的に、前記含量が0.1重量%より少なければ、塗装の際、接着剤が流れて作業性が低下し、3重量%より多ければ、保存性が低下し、塗膜の外観が不良になる。
【0054】
本発明の好適な具現例によると、前記溶剤は、一般的な溶剤を使うことができ、好ましくは、N−メチルピロリドン、アセトン、メチルエチルケトン、ジメチルホルムアミド、グリコールエーテルエステル及び水素化フランからなる群から選択された1種以上のものを使うことができる。
【0055】
一方、本発明は、自動車内装材用プラスチック成形品の表面処理方法において、プラスチック成形品上に前記高弾性水性接着剤組成物を塗布した後、パイル(pile)を塗装するフュージョンスエード加工工程を含む自動車内装材用プラスチック成形品の表面処理方法を提供する。
【0056】
本発明の好適な具現例によると、前記フュージョンスエード(FUSION SUEDE)加工工程は、粉体塗装機に近い構造にパイルを付けた後、エアと専用ブラシを併用してナイロン−ポリエステル分割糸パイルを多数本に分割する工法である。このような工法は、表面層ブラシ工程によって薄い原糸形態に噴射されて柔らかいスエード質感を具現することができる。
【0057】
本発明の好適な具現例によると、前記高弾性水性接着剤組成物は、30〜40μmの厚さに塗布することができる。具体的に、前記厚さが30μmより薄ければ、接着性能が低下し、40μmより厚ければ、接着剤が流れて作業性が低下する。
【0058】
本発明の好適な具現例によると、高価の織物使用による価格負担を改善するために、前記パイルはナイロン/ポリエステル分割糸であるものを使うことができる。具体的に、前記パイルはナイロンとポリエステルからなる分割糸パイル(PILE)で、静電植毛(FLOCKING)方式を応用して既存の高級な織物(特に、高級織物として使われるスエード)の質感を具現することができる。
【0059】
また、前記静電植毛(FLOCKING)方式は、パイルの種類と太さによってさまざまな質感を具現することができる。前記パイルの種類の場合は、染色糸と分割糸に大別することができる。前記ポリエステル及びナイロンの混合でなった分割糸の場合、薄い原糸形態に分割されるが、染色糸の場合、単一物質からなっているため、分割が不可能である。すなわち、薄い原糸形態に分割可能な分割糸の場合、加工後に柔らかいスエード質感を具現することができる。
【0060】
また、自動車内装材として静電植毛(FLOCKING)工程に使われるパイルの太さは、3.0D(0.8mm)、1.5D(0.6mm)、0.8D(0.4mm)などのいろいろの太さが使われることができる。このような前記パイルは、太さが薄いほど荒くてこちこちな質感から柔らかい質感の具現が可能である。しかし、薄いパイルの太さはパイルの保管及び加工が難しいだけでなく、静電植毛(FLOCKING)加工後にも耐スクラッチ性及び耐磨耗性が低い問題がある。したがって、本発明では、加工が容易な適正のパイル太さである1.5D(0.6mm)を持つ分割糸を使うことが好ましい。
【0061】
本発明の好適な具現例によると、前記フュージョンスエード加工工程の際、前記高弾性水性接着剤組成物は、主剤対硬化剤の混合比を10:1重量比で混合することができる。その後、希釈剤(脱イオン水)によって粘度を120〜250秒/F.C#4、20℃にして使うことができる。前記フュージョンスエード加工工程は、次のように遂行することができる。
【0062】
PPとPC及びABS混合樹脂を前処理(IPA)した後、水性プリマーを用いて8〜12μmの厚さに塗装する。その後、80℃で10分間ベーキング(BAKING)処理した後、前記高弾性水性接着剤組成物を30〜40μmの厚さに塗装した。その後、湿潤(WETTING)状態で1分以内にナイロン−ポリエステル分割糸パイルを塗装した後、80℃で30分間ベーキング(BAKING)処理した。その後、乳化剤を処理した後、前記と同様にベーキング処理し、分割工程及び残余パイル除去工程によって加工することができる。
【0063】
以下、本発明を実施例に基づいてもっと具体的に説明するが、本発明が次の実施例によって限定されるものではない。
【0065】
前記製造例1〜3で、下記の表1に記載した成分比で混合して水希釈性ポリウレタン樹脂を製造した。
【0066】
具体的に、前記製造例1の方法は次のようである。4口フラスコに温度計、凝縮器、撹拌器及び加熱器を付着した後、N−メチルピロリドン20重量%にジメチルプロピオン酸2.25重量%を投入した後、60℃まで昇温し、約1時間溶解した。その後、イソホロンジイソシアネート7重量%を投入し、80℃の温度に昇温し、1時間維持反応した後、ポリエステルポリオールを投入した。2時間経過後、NCOの比率(%)を測定し、0.1%以下の時を終末点(ここで、0.1%以下は、NCO%測定時に誤差範囲が0.1%であるので、これを基準にする)にした。NCOの比率(%)を確認した後、冷却を実施し、70℃以下で中和剤であるN−メチルジエタノールアミン1.69重量%を添加して撹拌及び中和させた後、反応を終了することで、水希釈性ポリウレタン樹脂を製造した。
【0068】
前記表1のように水希釈性ポリウレタン樹脂を3種の比率で製造したが、前記製造例2、3の場合、OH/NCOの比率が低くて耐久性(耐光性)が低く、特に前記製造例3の場合には、ジメチルプロピオン酸及びイソシアネートの含量が同時に増加してハードな部分が相対的に多くなって質感が低下する問題が発生した。
【0070】
前記実施例1及び比較例1、2で、下記のように構成成分を準備して下記の表2に記載した成分比で混合した後、フュージョンスエード加工工程で塗装処理することで成形品を製造した。
【0071】
[構成成分]
水酸基を持つ水希釈性ポリウレタン樹脂:前記製造例1によって製造された水希釈性ポリウレタン樹脂を使った。
【0072】
水分散性ポリウレタン樹脂:ポリエステルポリオール及びイソシアネートが0.6:1重量比で混合された水分散性ポリウレタン樹脂を使った。
【0073】
水分散アクリル樹脂:水分散アクリレート
硬化剤:親水性ヘキサメチレンジイソシアネートトリマー
体質顔料:シリカ(SiO
2)
湿潤剤:ポリジメチルシロキサン
スリップ剤:ポリシロキサンポリエーテルコポリマー
消泡剤:ポリオキシエチレン脂肪酸エステル
促進剤:ジブチルスズジラウレート
光安定剤:UV吸収剤とHALS(Hindered Amine Light Stabilizer)混用
増粘剤:ポリウレタン
【0076】
前記実施例2及び比較例3、4で、下記の表3に記載した条件でフュージョンスエード工程を実施してプラスチック成形品をスエード質感で表面処理した。
【0079】
前記実施例1、2及び比較例1〜4で製造された成形品の物性及びその加工特性を確認するために、下記の表4〜7の項目を評価方法に従って測定した後、その結果を下記の表8に示す。
【0081】
(1)表面摩耗性評価方法:JIS L 1084の染色堅牢度試験器を使用した。20mm×20mm大きさの摩擦子に6号綿帆布(KS K 1450)を被せ、荷重4.9N(500gf)で1000回摩耗させた後、表面を表面摩耗性等級に肉眼で判定した。
【0082】
(2)摩擦堅牢度評価方法:JIS L 1084の染色堅牢度試験器を使用した。20mm×20mm大きさの摩擦子に6号綿帆布(KS K 1450)を被せ、荷重4.9N(500gf)で100回摩耗させた後、摩擦堅牢度等級に肉眼で判定した。この際、綿帆布はDIWに湿潤させた後、湿式で評価した。
【0088】
前記表8の結果によれば、前記比較例1、2の接着剤組成物を用いて実施例2、比較例3及び4の加工方法で加工したタイプ(type)2〜5の場合、質感が良くないとか、あるいは表面摩耗性、耐スクラッチ性及び摩擦堅牢度の物性が低下することを確認することができた。特に、前記実施例1の接着剤組成物を用いて前記比較例3の加工方法で加工したタイプ(type)4の場合、耐スクラッチ性は向上したが、表面摩耗性が良くないことが分かった。
【0089】
これに対し、前記実施例1の接着剤組成物を用いて前記実施例2の加工方法で加工したタイプ(type)1の場合、質感、表面摩耗性、耐スクラッチ性及び摩擦堅牢度の物性がいずれも均等に向上したことを確認することができた。
【0090】
したがって、前記実施例1の接着剤組成物を使うことで有機溶剤による臭い及びVOCの発生を減らすことにより、環境に優しくて、既存の物性をそのまま満足しながらも弾性回復力及び耐スクラッチ性の物性を向上させることができる効果を確認した。
【0091】
また、前記実施例1の高弾性水性接着剤組成物と分割糸パイルを適用した前記実施例2の加工方法で成形品を表面処理する場合、製造コストを節減するとともに環境に優しくて弾性回復力及び耐スクラッチ性に優れた柔らかい触感のスエード質感を具現することができることを確認した。