(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6576876
(24)【登録日】2019年8月30日
(45)【発行日】2019年9月18日
(54)【発明の名称】ガスセンサ素子の製造方法
(51)【国際特許分類】
G01N 27/409 20060101AFI20190909BHJP
【FI】
G01N27/409 100
【請求項の数】2
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2016-93794(P2016-93794)
(22)【出願日】2016年5月9日
(65)【公開番号】特開2017-203634(P2017-203634A)
(43)【公開日】2017年11月16日
【審査請求日】2018年9月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004547
【氏名又は名称】日本特殊陶業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100113022
【弁理士】
【氏名又は名称】赤尾 謙一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100110249
【弁理士】
【氏名又は名称】下田 昭
(74)【代理人】
【識別番号】100116090
【弁理士】
【氏名又は名称】栗原 和彦
(72)【発明者】
【氏名】石川 孝典
(72)【発明者】
【氏名】山内 和也
【審査官】
黒田 浩一
(56)【参考文献】
【文献】
特開2018-54547(JP,A)
【文献】
特開2012-163532(JP,A)
【文献】
特開2002-131277(JP,A)
【文献】
特開2011-220819(JP,A)
【文献】
特開平6-43105(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/26−27/49
C04B 33/30
B65G 47/00−47/32
B65G 47/64−47/78
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸線方向に延びるガスセンサ素子を無限軌道搬送路の上方における所定の供給位置から供給することによって、該無限軌道搬送路上の前記供給位置に配置される上面視円形の柱部を有する保持部の上に前記ガスセンサ素子を設置し、前記無限軌道搬送路上で前記ガスセンサ素子を前記保持部毎搬送し、該無限軌道搬送路の所定の位置に配置された処理部で前記ガスセンサ素子に所定の処理を施すガスセンサ素子の製造方法において、
前記無限軌道搬送路は、対向する1対の直線状搬送路と、対向する1対の円弧状搬送路とを無端に繋ぐと共に、前記円弧状搬送路の内周に沿った円弧状ガイドを備え、
前記供給位置をいずれかの前記円弧状搬送路とし、前記処理部を前記供給位置の下流に繋がる前記直線状搬送路を含むように配置すると共に、
前記柱部の中心に係合部を備え、前記ガスセンサ素子の一端側に該係合部を係合させて前記ガスセンサ素子を前記保持部に設置し、
前記円弧状ガイドに前記柱部を接しさせて、前記円弧状ガイドの外周と前記柱部の外周との2つの接線のなす角をθとしたとき、
二股に分岐した分岐部を有し、該分岐部の開き角度φがθ未満である押し付け治具にて、該分岐部の内面に前記柱部を収容しながら前記円弧状ガイドに前記柱部を押圧し、前記保持部を前記供給位置に配置することを特徴とするガスセンサ素子の製造方法。
【請求項2】
前記分岐部の先端に、前記開き角度φの2等分線に平行に延びるストレート部が設けられている請求項1記載のガスセンサ素子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の燃焼制御等に用いられるガスセンサ素子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車等の内燃機関の排気管等に取り付けられて使用され、排気ガス中の特定ガス(例えばNOx(窒素酸化物)や酸素など)の濃度を検出するガスセンサ素子を備えるガスセンサが知られている。このようなガスセンサでは、ガスセンサ素子は酸素イオン導電性の固体電解質体と該固体電解質体に配置された一対の電極とを有するセルを備えており、このセルにて被検出ガス中の酸素濃度に応じた起電力を測定している。そして、ガスセンサ素子を被水や被検出ガス中のスス等から保護するため、ガスセンサ素子の先端の検出部の外表面を、多孔質層からなる保護層で覆うことも行われている。
この保護層は、セラミック粒子を分散させたスラリーにガスセンサ素子を浸漬し、ガスセンサ素子の先端部位にスラリー膜を形成した後、焼成して製造することができる(特許文献1)。
【0003】
上記保護層は、例えば
図5に示すようにして形成することができる。
まず、筒状(コップ型)のガスセンサ素子50の後端部を治具302にて把持し、スラリーを貯留したディップ槽300にガスセンサ素子50の先端部を浸漬してスラリー膜を形成する。次に、ガスセンサ素子50の先端が上を向き、後端の開口部が下を向くよう、治具302の上下を反転し、焼成炉100へ移動する。
焼成炉100は、長円状のトラックを有するコンベア(無限軌道搬送路)102と、コンベア102の内周に沿って立設する長円状のガイド104と、コンベア102の所定部位を覆って内部を加熱する炉体106と、コンベア102上を搬送する複数の保持部110と、保持部110をコンベア102上の所定位置に配置する押し付け治具220と、を備えている。
保持部110は、略矩形のベース112と、ベース112上に載置された上面視円形の円柱部114と、円柱部114の中心から上方に突出したピン110pとを有している。そして、ガスセンサ素子50の開口部にピン110pを挿入して保持することで、個々のガスセンサ素子50を保持部110に設置するようになっている。
【0004】
ガスセンサ素子50は、自身の開口部が下を向いた状態で、コンベア102上の供給位置Pから順次供給され、供給位置Pのコンベア102上に配置された保持部110上(のピン110p)に設置された後、保持部110毎コンベア102上を炉体106の内部へ搬送され、スラリー膜を焼成する。その後、ガスセンサ素子50は、炉体106の外部の搬出位置Qで焼成炉100の系外へ搬出され、次工程へ移動する。ガスセンサ素子50を取り出された空の保持部110は、順次供給位置Pへ戻る。
ここで、保持部110上にガスセンサ素子50を設置する際、保持部110(のピン110p)が丁度供給位置Pに配置されるよう、押し付け治具220にて個々の保持部110の円柱部114をガイド104に接するように押圧し、位置決めする。これは、円柱部114上のピン110pが供給位置Pに対してずれて配置されると、ピン110pがガスセンサ素子50の開口部に合わずにガスセンサ素子50の縁や内面に接触し、ガスセンサ素子50が破損したり、開口部の内面に形成された電極が削れるおそれがあるからである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−323471号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、焼成炉100の炉体106へガスセンサ素子50を搬送する際には、昇温速度や加熱パターンを正確に制御するため、コンベア102が直線状であることが好ましい。従って、ガスセンサ素子の製造ラインのスペースに余裕がある場合には、コンベア102全体を直線状にし、コンベア102の一端側からガスセンサ素子50を供給すればよい。
一方、製造ラインのスペースに余裕が無い場合には、上述のようにコンベア102を長円状のトラックにして無端に繋がざるを得ず、そのうち、
図6に示す直線状搬送路102Lを炉体106への導入部分に割り当てる必要がある。この場合、ガスセンサ素子50を供給する供給位置Pは、上述のように直線状搬送路102Lの上流側の円弧状搬送路102cとなる。
【0007】
ここで、
図6に示すように、押し付け治具220は、二股に分岐した(Y字状の)分岐部222を有している。そして、分岐部222の内面に円柱部114を収容しながら、分岐部222の中心線(分岐部222の開き角度の2等分線)LBが供給位置Pに一致するよう、ガイド104の円弧状部位に円柱部114を押圧し、供給位置Pに位置決めする。
しかしながら、
図7に示すように、押し付け治具220で円柱部114を押圧した際、円柱部114が中心線LB(供給位置P)とずれた位置で分岐部222の内面に保持されたまま位置決めされ、この状態でガスセンサ素子50が設置されることがある。この場合、上述のようにガスセンサ素子50が破損したり、開口部の内面に形成された電極が削れてしまうので、生産性や歩留りが低下するという問題がある。
これは、供給位置Pが円弧状搬送路102cであると、直線に比べて不安定な円弧状のガイド104に円柱部114を押圧することになるため、ガイド104上で円柱部114がずれ易くなるためと考えられる。
【0008】
すなわち、本発明は、ガスセンサ素子を保持して搬送する保持部を、無限軌道搬送路上の所定部位に高い精度で位置決めして配置することができるガスセンサ素子の製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のガスセンサ素子の製造方法は、軸線方向に延びるガスセンサ素子を無限軌道搬送路の上方における所定の供給位置から供給することによって、該無限軌道搬送路上の前記供給位置に配置される上面視円形の柱部を有する保持部の上に前記ガスセンサ素子を設置し、前記無限軌道搬送路上で前記ガスセンサ素子を前記保持部毎搬送し、該無限軌道搬送路の所定の位置に配置された処理部で前記ガスセンサ素子に所定の処理を施すガスセンサ素子の製造方法において、前記無限軌道搬送路は、対向する1対の直線状搬送路と、対向する1対の円弧状搬送路とを無端に繋ぐと共に、前記円弧状搬送路の内周に沿った円弧状ガイドを備え、
前記供給位置をいずれかの前記円弧状搬送路とし、前記処理部を前記供給位置の下流に繋がる前記直線状搬送路を含むように配置すると共に、前記柱部の中心に係合部を備え、前記ガスセンサ素子の一端側に該係合部を係合させて前記ガスセンサ素子を前記保持部に設置し、前記円弧状ガイドに前記柱部を接しさせて、前記円弧状ガイドの外周と前記柱部の外周との2つの接線のなす角をθとしたとき、二股に分岐した分岐部を有し、該分岐部の開き角度φがθ未満である押し付け治具にて、該分岐部の内面に前記柱部を収容しながら前記円弧状ガイドに前記柱部を押圧し、前記保持部を前記供給位置に配置することを特徴とする。
【0010】
このガスセンサ素子の製造方法によれば、分岐部の開き角度φが角θ未満であるため、押し付け治具の押圧力のうち押圧方向の分力が、その垂直方向の分力に比べて相対的に大きくなる。このため、柱部が分岐部の内面で供給位置に対して押圧方向とは垂直な方向へずれるように働く力が小さくなる一方、柱部を押し付ける力が相対的に大きくなる。その結果、柱部、ひいては保持部が供給位置からずれることを抑制し、保持部を供給位置へ高い精度で位置決めして配置することができる。
【0011】
本発明のガスセンサ素子の製造方法において、前記分岐部の先端に、前記開き角度φの2等分線に平行に延びるストレート部が設けられていてもよい。
このガスセンサ素子の製造方法によれば、両ストレート部がガイドとなって柱部が分岐部の内面に導入されると共に、柱部は両ストレート部の間で保持されるので、柱部が供給位置に対して押圧方向とは垂直な方向へずれて位置決めされることをさらに抑制できる。
【発明の効果】
【0012】
この発明によれば、ガスセンサ素子を保持して搬送する保持部を、無限軌道搬送路上の所定部位に高い精度で位置決めして配置することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の実施形態に係るガスセンサ素子の製造方法に用いる押し付け治具の構成の一例を説明する上面図である。
【
図2】円弧状ガイドの外周と円柱部の外周との2つの接線のなす角θを示す図である。
【
図3】本発明の実施形態に係るガスセンサ素子の製造方法において、押し付け治具による保持部の位置決めを示す図である。
【
図4】押し付け治具により円柱部に掛かる押圧力を示す模式図である。
【
図5】ガスセンサ素子の焼成炉を含む製造ラインの一例を説明する図である。
【
図7】従来の押し付け治具を用いたときの保持部の位置ずれを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、
図1〜
図4を参照し、本発明の実施形態に係るガスセンサ素子の製造方法について説明する。なお、本発明の実施形態に係るガスセンサ素子の製造方法は、押し付け治具20が異なること以外は、従来のガスセンサ素子の製造方法と同様であるので、従来のガスセンサ素子の製造方法を説明するために用いた上述の
図5、
図6を引用する。
図5に示した炉体106、ピン110pがそれぞれ特許請求の範囲の「処理部」、「係合部」に相当する。
図1は押し付け治具20の構成の一例を説明する上面図、
図2は円弧状ガイド104の外周と円柱部114の外周との2つの接線t1、t2のなす角θを示す図である。
【0015】
図1に示すように、押し付け治具20は、二股に分岐した(Y字状の)分岐部22を有している。そして、分岐部22の内面に円柱部114を収容しながら、分岐部22の中心線(分岐部22の開き角度φの2等分線)LBに沿って円柱部114を押圧する。
又、各分岐部22の先端に、2等分線LBに平行に延びるストレート部22sがそれぞれ設けられ、各ストレート部22sの先端側は外側に向かって互いにテーパ状に拡径する面取り部22eを形成している。さらに、面取り部22eの先端側は2等分線LBに垂直な水平部となっている。なお、ストレート部22sの間隔Dは、円柱部114の直径より若干大きくなっている。
ここで、
図2に示すように、ガイド104の円弧状部位(特許請求の範囲の「円弧状ガイド」に相当)に円柱部114を接しさせたとき、円弧状ガイド104の外周と円柱部114の外周との2つの接線t1、t2のなす角をθとする。そして、押し付け治具20の開き角度φをθ未満に規定する。開き角度φを90度以下とすると好ましい。
【0016】
そして、
図3に示すように、分岐部22の内面に円柱部114を収容しながら、2等分線LBが供給位置Pに一致するよう、円弧状ガイド104に円柱部114を押圧し、供給位置Pに位置決めする。
ここで、
図4に示すように、2等分線LBに沿って押し付け治具20により円柱部114を押圧力Fで押圧したとき、押圧力Fの分岐部22に沿った分力がそれぞれF1、F2となる。そして、F1(F2)の2等分線LB方向(押圧方向)及びその垂直方向の分力がそれぞれFy,Fx1となる。
【0017】
本発明では、分岐部22の開き角度φはθ未満であり、Fx1に比べて相対的にFyが大きくなる。特に、φ≦90度の場合、Fx1≦Fyとなる。このため、円柱部114が分岐部22の内面で供給位置Pに対してFx1方向へずれるように働く力Fx1が小さくなる一方、力Fyによって円柱部114を押圧方向に押し付ける力が相対的に大きくなる。その結果、円柱部114、ひいては保持部110が供給位置Pに対してずれることを抑制し、保持部110を供給位置Pへ高い精度で位置決めして配置することができる。
一方、従来の分岐部222のようにθに比べて開き角度が大きくなると、Fyに比べて相対的にFx2が大きくなり、円柱部114が分岐部22の内面で供給位置Pに対してFx1方向へずれる力が強くなる。そのため、
図7に示すように、本来の分岐部222の安定点である2等分線LBからずれた位置で、円柱部114が分岐部222の内面に保持されて位置決めされてしまうと考えられる。
【0018】
さらに、各分岐部22の先端にストレート部22sを設けると、両ストレート部22sがガイドとなって円柱部114が分岐部22の内面に導入されると共に、円柱部114は両ストレート部22sの間で保持されるので、円柱部114が供給位置Pに対してFx1方向へずれて位置決めされることをさらに抑制できる。
【0019】
なお、保持部110が円柱部114を有している理由は、押し付け治具20による押圧(位置決め)の際に、円柱部114は円弧状ガイド104の外周上で供給位置Pに向かって滑らかに動き、位置決めが確実になるからである。
また、ピン110pが円柱部114の中心に配置されている理由は、上述のように円柱部114は円弧状ガイド104の外周上で動く(回転する)ため、その回転中心にピン110pが存在しないと、ピン110pが供給位置Pに対してずれてしまうからである。
【0020】
本発明は上記した実施形態に限定されず、本発明の思想と範囲に含まれる様々な変形及び均等物に及ぶことはいうまでもない。
ガスセンサ素子50としては、上記したように有底円筒状の固体電解質体の内面及び外面にそれぞれ内側電極及び外側電極を有する筒状素子が挙げられる。
係合部は、円柱部114の中心に配置されていればよく、例えばピン110pの代わりにガスセンサ素子50の一端側を収容する凹溝でもよい。
又、係合部は円柱部114に1個配置されていればよい。
又、保持部110は円柱部114を有していればその形状は上記に限られず、例えばベース部112を省略して円柱部114のみとしてもよい。
なお、
図5に示す本実施形態では、処理部(炉体)106は、1対の直線状搬送路102Lと、その間の1個の円弧状搬送路102cとを含むように配置されているが、処理部は供給位置Pの下流に繋がる1つの直線状搬送路102Lを少なくとも含んでいればよい。又、処理部が搬送方向に2以上配置されていてもよく、各処理部で異なる処理をガスセンサ素子50に施してもよい。
【符号の説明】
【0021】
20 押し付け治具
22 分岐部
22s ストレート部
50 ガスセンサ素子
102 無限軌道搬送路(コンベア)
102c 円弧状搬送路
102L 直線状搬送路
104 円弧状ガイド
106 処理部(炉体)
110 保持部
110p 係合部(ピン)
114 柱部(円柱部)
P 供給位置
LB 開き角度φの2等分線
t1、t2 2つの接線