特許第6576901号(P6576901)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6576901
(24)【登録日】2019年8月30日
(45)【発行日】2019年9月18日
(54)【発明の名称】ボルト・ナットの弛み止め構造
(51)【国際特許分類】
   F16B 39/32 20060101AFI20190909BHJP
   F16B 39/284 20060101ALI20190909BHJP
【FI】
   F16B39/32 A
   F16B39/284 Z
【請求項の数】1
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2016-235882(P2016-235882)
(22)【出願日】2016年12月5日
(65)【公開番号】特開2018-91420(P2018-91420A)
(43)【公開日】2018年6月14日
【審査請求日】2018年7月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】591209246
【氏名又は名称】濱中ナット株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091465
【弁理士】
【氏名又は名称】石井 久夫
(72)【発明者】
【氏名】濱中 重信
(72)【発明者】
【氏名】藤 政幸
【審査官】 杉山 豊博
(56)【参考文献】
【文献】 実開昭48−040608(JP,U)
【文献】 特開平11−125231(JP,A)
【文献】 実開昭53−113955(JP,U)
【文献】 特開平06−346912(JP,A)
【文献】 実公昭38−028915(JP,Y1)
【文献】 特開2016−161126(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16B 39/32
F16B 39/284
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ナット(13)はねじ穴を囲む筒状部分(13B)と該筒状部分(13B)周壁の切欠き(13C)とを有する頂面構造をなし、上記筒状部分(13B)外周にはリング状のばね部材(20)が筒状部分(13B)外面に対する強圧接状態で外嵌めされており、上記ばね部材(20)はナット弛み回転方向側に傾斜する弾性アーム(20A)を有し、該弾性アーム(20A)の先端部は筒状部分(13B)周壁の切欠き(13C)を通して筒状部分(13B)内に伸びて筒状部分(13B)外面におけるばね部材(20)の締付け力と、弾性アーム(20A)の弾性押付け力とによってボルト軸部(12)の雄ねじ(11)のねじ山又はフランク面に強圧され、弾性アーム(20A)の先端部とボルト軸部(12)の雄ねじ(11)のねじ山又はフランク面との間の摩擦によって弛み方向への相対回転が阻止されていることを特徴とするボルト・ナットの弛み止め構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はボルト・ナットの弛み止め構造に関し、特にコスト高を招来することなく、安定した弛み止め性能を確保できるようにした構造に関する。
【背景技術】
【0002】
ボルト・ナットを用いて被締結部材を締結する方式は多くの構造物において採用されている。ボルト・ナットは単純に螺合し締付けただけでは、座面の陥没による弛み、ねじ締結体の接触部のあらさ、うねりあるいは形状誤差による初期弛み、軸力の静的な変動あるいは動的な変動に起因するナットの戻り回転などにより、締結の弛みが生ずることが懸念される。
【0003】
そこで、従来より、種々な弛み止め構造が提案されている。例えば、ナットを螺挿したボルト軸部にスプリングワッシャーを嵌め、あるいはダブルナットによってナットの弛み方向への回転を阻止する方法が提案されている。しかし、これらの方法では長期にわたって使用すると、振動や衝撃などによってナットが一旦弛み始めると、ボルト・ナットの締結が簡単に外れてしまうなど、弛み止め性能が不十分である。
【0004】
他方、ボルト雄ねじにねじ山を横断する係止溝を形成し、ナット頂面側に弾性を有する係止爪を設け、ボルト・ナットの締め付け時にはナット側の係止爪を弾性変形させることによってボルト側の係止溝を乗り越えさせる一方、ボルト・ナットが弛み方向に相対回転しようとすると、ナット側の係止爪をボルト側の係止溝に嵌入させることによって、ボルト・ナットの弛みを阻止するようにした弛み止め構造が提案されている(特許文献1、特許文献2、特許文献3、特許文献4、特許文献5、特許文献6)。
【0005】
しかし、かかる弛み止め構造ではいずれもボルト雄ねじのねじ山を横断するように係止溝を形成しているので、ボルト雄ねじを成形した後に雄ねじに係止溝を加工する必要があって、製造工程が複雑になる。
【0006】
これに対し、ボルトの雄ねじの谷底には係止突起を形成し、ナット頂面側には弾性を有する係止爪を設け、ボルト・ナットの締め付け時にはナット側の係止爪を係止突起によって案内させて弾性変形させることによって、係止突起を乗り越えさせてボルト・ナットの相対回転を許容する一方、ボルト・ナットの弛み方向への回転時には係止爪を係止突起に係止させることによって、ボルト・ナットの弛み方向への相対回転を阻止するようにした弛み止め構造が提案されている(特許文献7)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2004−211753号公報
【特許文献2】特開平09−291924号公報
【特許文献3】実開平03−29717号公報
【特許文献4】実開昭61−124713号公報
【特許文献5】実開昭57−71808号公報
【特許文献6】実用新案登録第3023230号公報
【特許文献7】特開2015−21595号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献7記載の弛み止め構造ではボルト雄ねじの成形時に係止突起を形成でき、製造工程の複雑さを招来することがないものの、ボルト・ナットともに規格、例えばJIS規格のボルト・ナットではなく、コスト高となってしまう。
【0009】
本発明はかかる問題点に鑑み、コスト高を招来することなく、安定した弛み止め性能を確保できるようにしたボルト・ナットの弛み止め構造を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係るボルト・ナットの弛み止め構造は、ナットはねじ穴を囲む筒状部分を有する頂面構造をなし、上記筒状部分内にはリング状のばね部材が筒状部分内面に対する強圧接状態で嵌め込まれており、上記ばね部材はナット弛み回転方向側に傾斜する弾性アームを有し、該弾性アームの先端部は筒状部分内におけるばね部材の拡径力に起因する反力と、弾性アームの弾性押付け力とによってボルト雄ねじのねじ山又はフランク面に強圧され、弾性アームの先端部とボルト雄ねじのねじ山又はフランク面との間の摩擦によって弛み方向への相対回転が阻止されていることを特徴とする。
【0011】
また、本発明に係るボルト・ナットの弛み止め構造は、ナットはねじ穴を囲む筒状部分と該筒状部分周壁の切欠きとを有する頂面構造をなし、上記筒状部分外周にはリング状のばね部材が筒状部分外面に対する強圧接状態で外嵌めされており、上記ばね部材はナット弛み回転方向側に傾斜する弾性アームを有し、該弾性アームの先端部は筒状部分周壁の切欠きを通して筒状部分内に伸びて筒状部分外面におけるばね部材の締付け力と、弾性アームの弾性押付け力とによってボルト雄ねじのねじ山又はフランク面に強圧され、弾性アームの先端部とボルト雄ねじのねじ山又はフランク面との間の摩擦によって弛み方向への相対回転が阻止されていることを特徴とする。
【0012】
本発明の特徴の1つはナット頂面をねじ穴を囲む筒状部分を有する頂面構造となし、筒状部分の内面又は外面にリング状のばね部材を嵌込み又は外嵌めして強く圧接させ、弾性アームの先端部をばね部材の拡径力に起因する反力又は筒状部分外面におけるばね部材の締付け力と弾性アームの弾性押付け力とによってボルト雄ねじの山頂又はフランク面に強く押付け、弾性アームの先端部とボルト雄ねじのねじ山又はフランク面との間の摩擦によって弛み方向への相対回転を阻止するようにした点にある。
【0013】
これにより、弾性アームの弾性押付け力に加え、さらにばね部材の拡径力に対する反力又は筒状部分外面におけるばね部材の締付け力が弾性アームの先端部に働くこととなり、弾性アームの先端部がボルト雄ねじの山頂又はフランク面に強く押付けられ、両者の間の摩擦が大きくなる結果、ボルト・ナットの弛み方向への相対回転を確実に阻止でき、ボルト・ナットに振動が繰り返し加わっても、安定した弛み止め性能を確保できる。
【0014】
また、ナットは特殊な形状であるが、ボルトは規格、例えばJIS規格のボルトを使用できるので、特許文献7記載のようにボルト・ナット共に特殊な形状にする場合に比較して製造の煩雑さを少なくでき、コスト高を招来することがない。
【0015】
また、ばね部材は弾性力が大きいので、ナット頂面の筒状部分に嵌め込み又は外嵌めによって取付け状態に保持してもよいが、筒状部分の上端縁に壁面状の取付け部を立設し、取付け部を内方又は外方に折り曲げてばね部材をナット頂面の筒状部分に固定するようにしてもよい。
【0016】
また、ばね部材は線ばねを1条又は複数条の螺旋形状であってもよく、又所定の幅の板ばねを環状にしたものであってもよい。
【0017】
ところで、弛み止めボルト・ナットのセットで重要なのは特殊ねじ、例えばJISに規定のないねじを使用することによって、使用に際して特別な設計が必要となるので、使用を嫌う傾向があるが、本件発明では規格、例えばJIS規格のままのねじを使用できるので、今までの設計を使用できる。
【0018】
すなわち、本発明に係るボルト・ナットの弛み止め構造では弾性アームを有する弛み止めナットに特徴がある。ここで、弛み止めナットとボルトは規格、例えばJISB0205−1(一般メートルねじの基本山形)を満足し、ナット高さは呼び寸法の8割又は10割で製造されることができる。
このため、JISB1082(ねじの有効断面積及び座面の負荷荷重)を適用することができる。この特徴から、本発明に係るボルト・ナットの弛み止め構造ではJISB1083(ねじの締め付け通則)を満足し、被締結部材の締結に際して特別の配慮をせずに締付け作業管理が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明に係る弛み止め構造を有するボルト・ナットの好ましい実施形態を示す構成図である。
図2】上記実施形態におけるナットの構造を示す図である。
図3】上記実施形態における弾性アームとボルト雄ねじの関係を示す図である。
図4】第2の実施形態を示す図である。
図5】上記実施形態におけるナットの構造を示す図である。
図6】上記実施形態における弾性アームとボルト雄ねじの関係を示す図である。
図7】第3の実施形態におけるナットの構造を示す図である。
図8】上記実施形態における弾性アームとボルト雄ねじの関係を示す図である。
図9】第4の実施形態を示す図である。
図10】上記実施形態におけるナットの構造を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明を図面に示す具体例に基づいて詳細に説明する。図1ないし図3は本発明に係るボルト・ナットの弛み止め構造の好ましい実施形態を示す。図において、ボルト10は軸部12に雄ねじ11が転造ダイス、例えば平ダイスを用いて形成されている。
【0021】
他方、ナット13は頂面13Aにねじ穴を囲んで円筒状部分13Bを有する頂面構造をなし、円筒状部分13B内にはリング状のばね部材20が圧入によって円筒状部分13Bの内面に対して強く圧接された状態で嵌め込まれている。
【0022】
このばね部材20はばね鋼線を複数状螺旋状に曲げ加工して製造され、その一端部分はナット弛み回転方向側に傾斜する弾性アーム20Aが折り曲げ形成され、弾性アーム20Aの先端部は円筒状部分13B内におけるばね部材20の拡径力に起因する反力と、弾性アーム20Aの弾性押付け力とによってボルト軸部12の雄ねじ11のねじ山(又はフランク面)に強く押し付けられて強圧されている。
【0023】
今、ボルト10の軸部12を被締結部材30、31及びワッシャ32の穴に挿通してナット13に螺合させ、ボルト10・ナット13を締め付ける方向に相対回転させると(ナット13の締付け回転方向を図3の矢印Aで示す)、ボルト10の雄ねじがナット13の雌ねじに対して螺進する。
【0024】
このとき、ナット13側の弾性アーム20Aはナットの弛み回転方向側に傾斜されているので、弾性アーム20Aの弾性押付け力が多少ナット13の回転抵抗となるが、少し重くなるだけで円滑に締付けることができる。
【0025】
他方、ボルト10・ナット13を締結した後、ボルト10・ナット13が弛み方向(図3の矢印A’方向)に相対回転しようとすると、ナット13側の弾性アーム20Aはナットの弛み回転方向側に傾斜され、弾性アーム20Aの先端部は円筒状部分13B内におけるばね部材20の拡径力に起因する反力と、弾性アーム20Aの弾性押付け力とによってボルト雄ねじ11のねじ山(又はフランク面)に強く押し付けられて強圧され、弾性アーム20Aの先端部とボルト雄ねじ11のねじ山(又はフランク面)との間の大きな摩擦が生じ、ナット13の弛み方向への相対回転が阻止され、確実に弛み止めを行うことができる。
【0026】
図4ないし図6は第2の実施形態を示す。図において図1ないし図3と同一符号は同一又は相当部分を示す。本例ではばね部材20はばね鋼線ではなく、板ばねをリング状に曲げ加工して製造され、両端部分は内方に傾斜するように折り曲げ加工され、一方は弾性アーム20A、他方はバランス用の傾斜アーム20Dとなっており、ばね部材20は縮径された状態で円筒状部分13B内に圧入され、解放されることによって円筒状部分13Bの内面に対して強く圧接された状態で嵌め込まれている。
【0027】
また、弾性アーム20Aの先端部は円筒状部分13B内におけるばね部材20の拡径力に起因する反力と、弾性アーム20Aの弾性押付け力とによってボルト軸部12の雄ねじ11のねじ山に強く押し付けられて強圧されている一方、傾斜アーム20Dはボルト軸部12の雄ねじのねじ山に押し付けられてバランスをとっており、弾性アーム20Aの先端部とボルト雄ねじ11のねじ山との間の大きな摩擦が生じ、ナット13の弛み方向への相対回転が阻止され、確実に弛み止めを行うことができるようになっている。
【0028】
なお、バランス用の傾斜アーム20Dによってボルト10・ナット13の締付けが多少重くなるが、締付け作業に支障となることはない。
【0029】
図7及び図8は第3の実施形態を示す。図において図4ないし図6と同一符号は同一又は相当部分を示す。本例ではナット13の円筒状部分13Bには切欠き13Cが形成される一方、円筒状部分13Bの外周には板ばね製のばね部材20が拡径された状態で圧入され、解放されることによって円筒状部分13Bの外周面に対して強く圧接された状態で外嵌めされている。
【0030】
また、ばね部材20の弾性アーム20A及び傾斜アーム20Dは切欠き13Cから円筒状部分13Bの内方に突出されており、弾性アーム20Aの先端部はばね部材20の締付け力と、弾性アーム20Aの弾性押付け力とによってボルト軸部12の雄ねじ11のねじ山に強く押し付けられて強圧されている一方、傾斜アーム20Dはボルト軸部12の雄ねじ11のねじ山に軽く押し付けられてバランスをとっており、弾性アーム20Aの先端部とボルト雄ねじ11のねじ山との間の大きな摩擦が生じ、ナット13の弛み方向への相対回転が阻止され、確実に弛み止めを行うことができるようになっている。
【0031】
図9及び図10は第4の実施形態を示す。図において図7及び図8と同一符号は同一又は相当部分を示す。本例では板ばね製のばね部材20に代え、ばね鋼線製のばね部材20を用いている点が異なるだけである。
【符号の説明】
【0032】
10 ボルト
11 雄ねじ
12 軸部
13 ナット
13A 頂面
13B 円筒状部分
13C 切欠き
20 ばね部材
20A 弾性アーム
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10