特許第6576902号(P6576902)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6576902
(24)【登録日】2019年8月30日
(45)【発行日】2019年9月18日
(54)【発明の名称】水性エポキシ樹脂分散液
(51)【国際特許分類】
   C08G 59/18 20060101AFI20190909BHJP
   C09D 5/02 20060101ALI20190909BHJP
   C09D 7/63 20180101ALI20190909BHJP
   C09D 163/00 20060101ALI20190909BHJP
【FI】
   C08G59/18
   C09D5/02
   C09D7/63
   C09D163/00
【請求項の数】7
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2016-241844(P2016-241844)
(22)【出願日】2016年12月14日
(62)【分割の表示】特願2015-114982(P2015-114982)の分割
【原出願日】2010年11月22日
(65)【公開番号】特開2017-115138(P2017-115138A)
(43)【公開日】2017年6月29日
【審査請求日】2017年1月12日
【審判番号】不服2018-12397(P2018-12397/J1)
【審判請求日】2018年9月14日
(31)【優先権主張番号】09176892.9
(32)【優先日】2009年11月24日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】512015987
【氏名又は名称】オルネクス オーストリア ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
(74)【代理人】
【識別番号】100094112
【弁理士】
【氏名又は名称】岡部 讓
(74)【代理人】
【識別番号】100128668
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 正巳
(74)【代理人】
【識別番号】100096943
【弁理士】
【氏名又は名称】臼井 伸一
(72)【発明者】
【氏名】フィッシャー,トマス
(72)【発明者】
【氏名】プルシャー,エルフリーデ
【合議体】
【審判長】 近野 光知
【審判官】 大熊 幸治
【審判官】 武貞 亜弓
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭63−168425(JP,A)
【文献】 特開2004−359746(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 59/00- 59/72
C08L 63/00- 63/10
C09D 5/00- 7/80
C09D163/00-163/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水分散性エポキシ樹脂Eの製造方法であって、前記水分散性エポキシ樹脂Eは、脂肪族ポリエーテルポリオールAと、1分子当たり少なくとも2つのエポキシド基を有するエポキシ樹脂Bと、Bと同一であってもBと異なっていてもよい、1分子当たり少なくとも2つのエポキシド基を有するエポキシ樹脂B’と、エポキシ官能性脂肪酸エステルDと、芳香族ポリオールCとに由来する構成成分を含んでおり、かつ前記エポキシ官能性脂肪酸エステルDが、1個〜10個の炭素原子を有する少なくとも一価の脂肪族アルコールD1と、6個〜30個の炭素原子を有する単官能性脂肪酸D2とのエステルであり、該アルコールD1及び該脂肪酸D2の少なくとも一方がその分子中にエポキシ基を有しており、前記製造方法が以下のステップ:
第1の工程において、酸性触媒の存在下で、脂肪族ポリエーテルポリオールAと、1分子当たり少なくとも2つのエポキシド基を有し、かつ多価アルコールB2のポリグリシジルエーテル、多価フェノールB1のポリグリシジルエーテル、多価フェノールB1の水素化生成物のポリグリシジルエーテル、及び/又はノボラックB3のポリグリシジルエーテルから選択されたエポキシ樹脂Bとを縮合反応させることであって、
該縮合反応に使用される、前記脂肪族ポリオールA中のOH基の数と、前記1分子当たり少なくとも2つのエポキシド基を有するエポキシ樹脂Bのエポキシド基の数との比が、1:0.85〜1:3.5となるように付加物ABを形成し、かつ該付加物ABのエポキシド基の固有物質量が0.002mol/kg〜5mol/kgとなるように、前記脂肪族ポリエーテルポリオールA及び前記1分子当たり少なくとも2つのエポキシド基を有するエポキシ樹脂Bの分量を選ぶよう反応させること、
その後、前記付加物ABを、前進反応における第2の工程において、水の不存在下で、多価アルコールB2のポリグリシジルエーテル、多価フェノールB1のポリグリシジルエーテル、多価フェノールB1の水素化生成物のポリグリシジルエーテル、及び/又はノボラックB3のポリグリシジルエーテルから選択された更なるエポキシ樹脂B’、エポキシ官能性脂肪酸エステルD及び芳香族ポリオールCと反応させることであって、
Dの少なくとも5%である一部が未反応のまま残るように、Dの量を選ぶことを含む製造方法。
【請求項2】
前記脂肪族ポリエーテルポリオールAが、少なくとも20%の質量分率のオキシエチレン基を含み、かつ0.2kg/mol〜20kg/molの数平均モル質量Mを有するポリオキシアルキレンエーテルグリコールである請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記芳香族ポリオールCが、5個〜20個の炭素原子と少なくとも2つのヒドロキシル基とを有する芳香族化合物である請求項1に記載の製造方法。
【請求項4】
エポキシ官能性脂肪酸エステルDの量が、0.5%〜20%の質量分率に相当するように選ばれ、該質量分率が、該組成物中の成分Dの質量mと樹脂Eの質量mとの比m/mである請求項1に記載の製造方法。
【請求項5】
前記第1の工程中、該縮合反応に使用される、前記脂肪族ポリオールA中のOH基の数と、前記エポキシ化合物Bのエポキシド基の数との比が、1:0.9〜1:2となるように、前記脂肪族ポリエーテルポリオールA及び1分子当たり少なくとも2つのエポキシド基を有するエポキシ樹脂Bの分量を選ぶ請求項1に記載の製造方法。
【請求項6】
水性エポキシ樹脂系コーティング組成物を調製する方法であって、
請求項1に記載の製造方法により得られた水分散性エポキシ樹脂Eと、多官能性アミン、アミンとエポキシ樹脂との付加物、マンニッヒ塩基及びポリアミドアミンから選ばれた塩基性硬化剤;ポリカルボン酸、その無水物及び多官能性フェノールから選ばれた酸性硬化剤;並びに、アミノプラスト樹脂及びフェノプラスト樹脂から選ばれたエーテル結合若しくはイミン結合を形成する硬化剤からなる群より選択された1種以上の硬化剤を混和させる工程を含む調製方法。
【請求項7】
基板のコーティング方法であって、
請求項に記載の調製方法で調製した水性エポキシ樹脂系コーティング組成物を、刷毛塗、噴霧、浸漬及びロール塗、並びに塗工用ブレード又は塗工用ワイヤによる塗布からなる群より選択された方法によって、金属、木材、ガラス、コンクリート、プラスチック及びセラミックからなる群より選択された基板上に堆積させて塗膜を形成する工程と、
該塗布した塗膜を加熱により硬化させる工程と、
を含むコーティング方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、VOCが少ない水性エポキシ樹脂分散液、それらの製造方法、並びにコーティング用途における、特に金属及びコンクリートのコーティングのためのそれらの使用方法に関する。
【0002】
特に金属コーティング及び防食における水性エポキシ樹脂分散液の利用が、とりわけ特許文献1により知られている。
【0003】
溶剤系エポキシ樹脂は、硬化時に大量の揮発性溶剤を放出するが、一般に使用されている水系エポキシ樹脂コーティング組成物も揮発性成分を含んでいる。これは、このような化合物が通常、連続した広範囲の膜の形成を促す合着剤(coalescent agents)として使用されているためである。ほとんどの場合、ベンジルアルコールが使用されている。この構成成分は、特に床打ち又は大型金属パーツのコーティング等の用途における一般的な乾燥手順である、周囲条件における乾燥及び架橋時に徐々に失われる。かかる合着剤は、可塑剤としても作用するため、硬度の増大が妨げられる。より遅い硬度の増大はまた、膜が水又は湿度による膨潤性及びこれらに対する透過性を保ち続けるため、塗膜の耐水性の増大を妨げることとなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】欧州特許第1266920号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
したがって、本発明の目的は、水性エポキシ樹脂をベースとするコーティング組成物の乾燥及び架橋中に発生する揮発性材料の量を減少させ、エポキシ樹脂系コーティングの好ましい成膜特性、特にエポキシ樹脂系コーティングによりもたらされる耐食性を犠牲にすることなく、早期の硬化進行を導くことである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
水乳化されたエポキシ樹脂は有益には、欧州特許出願公開第0272595号に従って調製することができ、ここで、自己乳化型エポキシ樹脂は、0.1mol/kg〜4mol/kgのエポキシ基の固有物質量(specific amount of substance)(250g/mol〜10000g/molのいわゆる「エポキシ当量」に相当する)を有し、かつ(a)1分子当たり少なくとも2つのエポキシド基を含有しかつ0.5mol/kg〜10mol/kgのエポキシ基の固有物質量(100g/mol〜2000g/molのエポキシ当量に相当する)を有する、反応混合物の質量に基づいて50%〜80%、好ましくは55%〜70%の質量分率のエポキシ化合物;35%〜17%、好ましくは35%〜20%の質量分率の芳香族ポリオール;200g/mol〜20000g/molの数平均モル質量Mを有する脂肪族ポリオールと、1分子当たり少なくとも2つのエポキシ基を含有しかつ0.5mol/kg〜10mol/kgのエポキシ基の固有物質量(100g/mol〜2000g/molの「エポキシ当量」に相当する)を有するエポキシ化合物との15%〜3%、好ましくは9%〜4%の質量分率の縮合生成物の縮合生成物であり、縮合反応に使用される、脂肪族ポリオール中のOH基の数とエポキシ化合物のエポキシ基の数との比は1:0.85〜1:3.5であり、上記縮合生成物のエポキシ基の固有物質量は0.02mol/kg未満〜5mol/kg(200g〜少なくとも50000g/molの「エポキシ当量」に相当する)である。適切な硬化剤、並びに任意に、顔料、フィラー及び添加剤とともにエポキシ樹脂から配合されるコーティング組成物は通常、融合助剤(coalescing agents)も含み、通常、好ましくはベンジルアルコールが選ばれる。上記で概説したように、この構成成分は、このようにして調製されるコーティング組成物のVOCを増大させる。
【0007】
本発明の基礎をなす研究及び実験において、上記の反応混合物に添加するこの融合助剤を、エポキシ基を有する反応性脂肪酸エステルで有益に置き換えて、水性分散させたエポキシ樹脂を調製することができることが見出された。
【0008】
本発明はしたがって、水分散性エポキシ樹脂Eであって、脂肪族ポリエーテルポリオールAと、1分子当たり少なくとも2つのエポキシド基を有するエポキシ樹脂Bと、Bと同一であってもBと異なっていてもよい、1分子当たり少なくとも2つのエポキシド基を有するエポキシ樹脂B’と、エポキシ官能性脂肪酸エステルDと、芳香族ポリオールCとに由来する構成成分(building blocks)を含む、水分散性エポキシ樹脂に関する。
【0009】
本発明は、水分散性エポキシ樹脂Eの製造方法であって、第1の工程において、酸性触媒の存在下で、脂肪族ポリエーテルポリオールAと、1分子当たり少なくとも2つのエポキシド基を有するエポキシ樹脂Bとを反応させることであって、付加物ABを形成するよう反応させることを含む、水分散性エポキシ樹脂Eを製造する方法にも関する。その後、この付加物ABを、前進反応における第2の工程において、更なるエポキシ樹脂B’、エポキシ官能性脂肪酸エステルD及び芳香族ポリオールCと反応させる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
好ましい実施形態では、水分散性エポキシ樹脂Eが、
少なくとも20%の質量分率のオキシエチレン基を含み、かつ好ましくは0.2kg/mol〜20kg/molの数平均モル質量Mを有するポリオキシアルキレンエーテルグリコールである、脂肪族ポリエーテルポリオールAと、
好ましくはポリエーテル構造を有し、更に該ポリオール構造が、1,2,3−トリヒドロキシプロパンに由来する部位と、芳香族ジヒドロキシ化合物に由来する部位とを有する、1分子当たり少なくとも2つのエポキシド基を有するエポキシ樹脂Bと、
Bと同一であってもBと異なっていてもよく、好ましくはポリエーテル構造を有し、更に該ポリオール構造が、1,2,3−トリヒドロキシプロパンに由来する部位と、芳香族ジヒドロキシ化合物に由来する部位とを有する、1分子当たり少なくとも2つのエポキシド基を有するエポキシ樹脂B’と、
1個〜10個の炭素原子を有する少なくとも一価の脂肪族アルコールD1と、6個〜30個の炭素原子を有する単官能性脂肪酸D2とのエステルであり、アルコール及び脂肪酸の少なくとも一方がその分子中にエポキシ基を有する、エポキシ官能性脂肪酸エステルDと、
5個〜20個の炭素原子と少なくとも2つのヒドロキシル基とを有する芳香族化合物である、芳香族ポリオールCと、
に由来する構成成分を含む。
【0011】
脂肪族ポリエーテルポリオールAは好ましくは、オキシエチレン基を排他的に有するポリエチレングリコール、又は、オキシエチレン単位とオキシプロピレン単位とのランダムコポリマー若しくは好ましくはブロックコポリマーであってもよくかつ好ましくは少なくとも2つのヒドロキシル基を有するコポリマーである。その数平均モル質量Mは、0.2kg/mol〜20kg/mol、好ましくは0.5kg/mol〜12kg/mol、特に好ましくは1kg/mol〜10kg/molである。また、このようなポリオール、特にポリオキシエチレンポリオールの混合物、特に好ましくは2つのこのようなポリオールの混合物を使用することが好ましい。
【0012】
エポキシ樹脂Bは、1分子当たり少なくとも2つのエポキシド基を有し、かつ好ましくはポリエーテル構造を有し、更に該ポリエーテル構造が、1,2,3−トリヒドロキシプロパンに由来する部位と、芳香族ジヒドロキシ化合物又はポリヒドロキシ化合物B1に由来する部位とを有する。概して、ポリエポキシドは、1分子当たり平均して少なくとも2つのエポキシ基を有する。上記エポキシ化合物は、脂肪族、脂環式、芳香族又は複素環式であってもよく、またヒドロキシル基を含有していてもよい。それらはその上、混合条件又は反応条件下で、干渉する副反応を起こさない置換基、例えば、アルキル置換基又はアリール置換基、エーテル基(groupings)等を含有していてもよい。好ましくは、これらのエポキシ化合物は、多価アルコール、好ましくは二価アルコールB2、多価フェノール、好ましくは二価フェノールB1、該フェノールB1の水素化生成物、及び/又はノボラックB3(酸性触媒の存在下における、一価フェノール又は二価フェノールとアルデヒド、別段、ホルムアルデヒドとの反応生成物)をベースとするポリグリシジルエーテルである。上記エポキシ化合物Bのエポキシ基の固有物質量は好ましくは、2mol/kg〜6mol/kg、好ましくは4mol/kg〜5.9mol/kg(160g/mol〜500g/mol、別段、170g/mol〜250g/molの「エポキシ当量」)である。多価フェノールB1として、例えば、レソルシノール、ヒドロキノン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−プロパン(ビスフェノールA)、ジヒドロキシジフェニルメタンの異性体混合物(ビスフェノールF)、テトラブロモビスフェノールA、4,4’−ジヒドロキシジフェニルシクロヘキサン、4,4’−ジヒドロキシ−3,3’−ジメチルジフェニルプロパン、4,4’−ジヒドロキシジフェニル、4,4’−ジヒドロキシベンゾフェノン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1,1−エタン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1,1−イソブタン、ビス(4−ヒドロキシ−tert−ブチルフェニル)−2,2−プロパン、ビス(2−ヒドロキシナフチル)−メタン、1,5−ジヒドロキシナフタレン、トリス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)エーテル、及びビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホン、並びにまた、上述の化合物の塩素化生成物及び臭素化生成物について言及することができる。この関連ではビスフェノールAが特に好ましい。
【0013】
多価アルコールB2のポリグリシジルエーテルも、エポキシ樹脂Bとして好適である。このような多価アルコールB2の例として、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、ポリオキシプロピレングリコール(2個〜10個の1,2−プロピレンオキシ単位を有する)、1,3−プロピレングリコール、1,4−ブチレングリコール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,2,6−ヘキサントリオール、グリセロール、及びビス(4−ヒドロキシシクロへキシル)−2,2−プロパンについて言及することができる。
【0014】
エピクロロヒドリン又は類似のエポキシ化合物と、脂肪族、脂環式又は芳香族ポリカルボン酸、例えば、シュウ酸、コハク酸、アジピン酸、グルタル酸、フタル酸、テレフタル酸、ヘキサヒドロフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸及び二量化リノレン酸との反応によって得られる、ポリカルボン酸のポリグリシジルエステルB4を使用することも可能である。例は、ジグリシジルアジペート、ジグリシジルフタレート及びジグリシジルヘキサヒドロフタレートである。
【0015】
好適なエポキシ化合物Bの詳細な列挙は、A. M. Paquinによる「エポキシ化合物及びエポキシ樹脂(Epoxidverbindungen und Epoxidharze [Epoxy Compounds and Epoxy Resins])」と題されるハンドブック(Springer Verlag発行(ベルリン、1958年)、第IV章)並びにLee及びNevilleの「エポキシ樹脂ハンドブック(Handbook of Epoxy Resins)」(1967年、第2章)に見られる。
【0016】
また、幾つかのエポキシ化合物Bの混合物を使用してもよい。
【0017】
エポキシ化合物、又はエポキシ樹脂B’は、上記で詳述したものと同じ化合物群から選択してもよいが、これらと同一であることは要しない。このように、成分Bとして、ビスフェノールAをベースとするエポキシ樹脂、及びエポキシ樹脂B’として、ポリオキシプロピレングリコールのグリシジルエーテルをベースとするエポキシ樹脂を使用することが可能である。
【0018】
芳香族ポリオールCであるOH基を含有する化合物は好ましくは、上記で詳述したような化合物B1、すなわち、多価フェノール、好ましくは二価フェノール、それらの塩素化生成物若しくは臭素化生成物、及び/又はノボラックの群から選択される。ここでも、ビスフェノールAが特に好ましい。
【0019】
エポキシ官能性脂肪酸エステルDは、1個〜10個の炭素原子を有する少なくとも一価の脂肪族アルコールD1と、6個〜30個の炭素原子を有する単官能性脂肪酸D2とのエステルであり、アルコール及び脂肪酸の少なくとも一方がその分子中にエポキシ基を有する。このように、エポキシ官能性アルコールD1eと、エポキシ官能性を有しない脂肪酸D2nとを;又は、エポキシ官能性脂肪酸D2eと、エポキシ官能性を有しないアルコールD1nとを;及び、エポキシ官能性アルコールD1eとエポキシ官能性脂肪酸D2eとを組み合わせることが可能である。第1の変形についての例は、5個〜40個の炭素原子を有する脂肪酸のグリシジルエステル、例えば、グリシジルペンタノエート、グリシジル2−エチルヘキサノエート、グリシジルステアレート、並びに、二量化脂肪酸のグリシジルモノエステル及びグリシジルジエステルであり、少なくとも8個の炭素原子を有する脂肪酸のエステルが融合助剤としてのより良好な作用を示した。第2の変形についての例は、エポキシ化一価不飽和脂肪酸、例えば、エルカ酸、パルミトレイン酸、オレイン酸と、1個〜20個の炭素原子を有する一価脂肪族アルコール、好ましくは、2個〜20個の炭素原子を有する二価脂肪族アルコール、特に好ましくは、少なくとも3個〜20個の炭素原子を有する少なくとも三価の脂肪族アルコールとのエステルである。2つのヒドロキシル基を有する二価アルコール又は少なくとも3つのヒドロキシル基を有する多価アルコールの場合、ヒドロキシル基の少なくとも1つが、エポキシ官能性脂肪酸でエステル化され、好ましくは、全ヒドロキシル基がそのようにエステル化される。特に好ましい実施形態は、グリセロールと、天然油由来のエポキシ化脂肪酸、例えば、エポキシ化ダイズ油脂肪酸、エポキシ化トール油脂肪酸、又はエポキシ化アマニ油脂肪酸の混合物とのエステルの使用を含む。0.5%〜20%、特に好ましくは1.5%〜15%、格段に好ましくは5%〜10%の質量分率に相当する量のエポキシ官能性脂肪酸エステルDを使用することが好ましく、質量分率は、組成物中の成分Dの質量mと樹脂Eの質量mとのm/m比である。0.5%よりも少量のDは、水の蒸発又は多孔性基板中へのその拡散の際、妥当な塗膜形成に必要とされる可撓性をもたらすのに十分でなく、より多量であれば塗膜の硬度が不十分なものとなることが見出された。
【0020】
水分散性エポキシ樹脂Eを製造する方法は好ましくは、第1の工程において、酸性触媒の存在下で、脂肪族ポリエーテルポリオールAと、1分子当たり少なくとも2つのエポキシド基を有するエポキシ樹脂Bとを反応させて、付加物ABを形成することを含む。
【0021】
脂肪族ポリエーテルポリオールA及び1分子当たり少なくとも2つのエポキシド基を有するエポキシ樹脂Bの分量は、縮合反応に使用される、脂肪族ポリオールA中のOH基の数と、エポキシ化合物Bのエポキシ基の数との比が、1:0.85〜1:3.5、好ましくは1:0.9〜1:2、特に好ましくは1:0.95〜1:1.5となり、かつ上記縮合生成物のエポキシ基の固有物質量が、0.002mol/kg〜5mol/kg(200g/mol〜500000g/molの「エポキシ当量」に相当する)、特に好ましくは2.5mmol/kg〜10mmol/kgとなるように選ばれる。エポキシ基の固有物質量が0.002mol/kgより一層小さいものとする条件を使用することも可能である。使用される触媒は好ましくはルイス酸タイプのもの、例えば、三フッ化ホウ素若しくは五フッ化アンチモン、又はエーテル若しくはアミンとのそれらの錯体である。
【0022】
その後、この付加物ABを、前進反応における第2の工程において、更なるエポキシ樹脂B’、エポキシ官能性脂肪酸エステルD及び芳香族ポリオールCと反応させる。前進反応は水の不存在下で行い、好ましくは一般に使用されている触媒系、例えば、ホスフィン、特にトリフェニルホスフィン、例えばベンジルトリメチルホスホニウムクロライド等のホスホニウム塩、例えばベンジルジメチルアミン等の第三級アミン、例えばテトラメチルアンモニウムクロライド等の第四級アンモニウム塩、NaOH、LiOH等のアルカリ金属水酸化物、炭酸ナトリウム、炭酸リチウム等のアルカリ金属炭酸塩、ギ酸ナトリウム及び安息香酸リチウム等の有機酸のアルカリ金属塩によって触媒する。
【0023】
好ましい実施形態は、反応混合物中に存在するエポキシ基の少なくとも90%が消費されるまで、付加物AB、更なるエポキシ樹脂B’及び芳香族ポリオールCを初めに触媒の存在下で反応させ、その後、成分D及び任意に更なる触媒を添加し、反応を完了させることである。その後、反応生成物を水中に分散させて、およそ50%の質量分率の固形分の、400nm〜800nmの平均粒径を有する微粒子分散液を得る。この反応の変形により形成される膜の品質は、全反応物を同じ段階で添加するワンポット反応よりも改善されることが見出された。
【0024】
反応の好ましい実施形態は、その少なくとも5%である一部が未反応のまま残るようにな量のDを添加することを含む。一部の未反応の成分Dを含む得られる混合物は、簡潔にするため「樹脂E」とも称する。樹脂Eの質量について触れる場合、この質量は未反応の成分Dの質量も含む。Eの得られるエポキシ樹脂分散液を、アミンとエポキシ樹脂との反応生成物をベースとする硬化剤と合わせると、表面のむらの不存在により、特にこのようにして得られる良好な耐食性により、このようにして形成された膜の品質が一層改善されることが見出された。
【0025】
このようにして得られる反応生成物である水分散させたエポキシ樹脂Eは、既知の塩基性又はアミン硬化剤、例えば、多官能性アミン、アミンとエポキシ樹脂との付加物、マンニッヒ塩基及びポリアミドアミンから選択される硬化剤と合わせて、水性エポキシ樹脂系コーティング組成物を配合するのに使用することができる。酸性硬化剤、例えば、ポリカルボン酸及びそれらの無水物、並びに多官能性フェノール、並びにアミノプラスト樹脂及びフェノプラスト樹脂を使用することもできる。
【0026】
本発明による分散液は、好適な硬化剤と併せると、主に、最も多様な利用分野のためのコーティング又は中塗りを調製するのに、別段、金属、また他の粗面基板及び多孔性基板上の保護コーティングとして適する。それらは、耐薬品性コーティング及び耐候性コーティング、並びに対象物のライニング、特に金属、格段、卑金属のコーティング及びライニングに更に好適である。
【0027】
それらの有利な特性のために、本発明による分散液はまた、単層コーティングに著しく好適である。接着剤コーティング層は変化しないままであってもよいが、中間層、すなわち、更なるコーティングのための基礎として機能してもよく、更に、同様の一般的なコーティング組成物又は異なる一般的なコーティング組成物からなるものであってもよい。
【0028】
更なる可能性は、水希釈性接着剤のためのそれらの使用である。それらは、布地、及び有機材料又は無機材料用のバインダとして利用してもよい。加えて、それらは、合成セメント用の添加剤としても機能し得る。
【0029】
主に水性コーティング組成物中のコーティング剤として使用する場合、基板、例えば、金属、木材、ガラス、コンクリート、プラスチック、セラミック等の上への堆積は、従来方法、例えば、刷毛塗、噴霧、浸漬又はロール塗によって行う。自然乾燥では如何なる硬化も働かない場合、硬化に十分な時間、通例、約5分〜1時間100℃〜250℃に加熱することによって、コーティングを硬化させる。好ましい利用は、本発明の系と併せて可能となる少ないVOCに起因して、床打ち用のコーティングにおけるもの、及び水硬セメント用の添加剤としてのものである。
【0030】
限定すると解釈されるものではない以下の実施例において本発明を更に説明する。
【0031】
「%」(cg/g)で示す濃度は、質量分率、すなわち、溶液の質量で除算した溶質の質量である。
【実施例】
【0032】
実施例1 乳化剤ABの調製
実施例1.1
3kg/molの重量平均モル質量Mを有する1500gのポリエチレングリコール、及び5.41mol/kgのエポキシ基の固有物質量(185g/molのエポキシ当量に相当する)を有する、ビスフェノールAをベースとする185gのポリグリシジルエーテルを合わせて100℃に加熱した。1,4−ジオキサンで5重量%に希釈した9gのBF−ジエチルエーテラートを、撹拌しながら添加した。反応混合物を130℃に加熱し、反応が終了するまでこの温度で維持し、反応の終了は規定値へのエポキシ基の固有物質量の減少によって示した。OH基の数とエポキシド基の数との比は1:1であり、反応生成物のエポキシ基の固有物質量は2.8mmol/kg(およそ360000g/molのエポキシ当量)であった。
【0033】
実施例1.2
別の行程では、4kg/molの重量平均モル質量Mを有する300gのポリエチレングリコール、及び5.03mol/kgのエポキシ基の固有物質量(199g/molの「エポキシ当量」に相当する)を有する、ポリオキシプロピレングリコールをベースとする34.4gのポリグリシジルエーテルを合わせて100℃に加熱し、10mlのメチルイソブチルケトンで希釈した0.7gのBF−ジエチルエーテラートを、撹拌しながら添加した。反応混合物を130℃に加熱し、反応が終了するまでこの温度で維持し、反応の終了は規定値へのエポキシ基の固有物質量の減少によって示した。OH基の数とエポキシド基の数との比は1:1.15であり、エポキシ基の固有物質量は6.7mmol/kg(およそ150000g/molのエポキシ当量に相当する)であった。
【0034】
実施例2 水分散させたエポキシ樹脂の調製
2400gのビスフェノールAのジグリシジルエーテル、実施例1.1の乳化剤の400gの水溶液(濃度50%)、及び725gのビスフェノールAを混合させ、85℃に加熱した。減圧下で水を留去した後、1.6gのトリフェニルホスフィンを添加し、混合物を撹拌しながら150℃に加熱した。1時間後、195gのエポキシ化ダイズ油を、更なる1gのトリフェニルホスフィンとともに添加した。反応を更に2時間続けた後、600gの冷たい完全に脱イオン化させた水を強力撹拌しながら徐々に添加した。容器温度を70℃に降下させ、その後、218gの完全に脱イオン化させた水を更に3度、60℃で撹拌しながら添加した。次に、得られる白濁分散液を室温まで冷却させ、更に1400gの完全に脱イオン化させた水を添加した。
【0035】
690nmの平均粒径並びに100s−1の剪断速度及び23℃における790mPa・sの粘度を伴って、57%の質量分率の固形分を有する樹脂分散液が得られた。
【0036】
実施例3 塗布試験
以下の処方に従って透明なコーティング組成物を調製した:
実施例2の樹脂分散液、比較のために、3%のベンジルアルコールと7%のメトキシプロパノールとを含有する、欧州特許第0272595号の実施例IV−1に従って調製した樹脂分散液を各々50g、それぞれ25.3g及び19.4gの、エポキシ樹脂と脂肪族アミンとの商業用付加物硬化剤((商標)Beckopox VEH 2188/55WA、Cytec Austria GmbH)と混合させた。粘度は、両方の系について、完全に脱イオン化させた水の添加によって830mPa・sに適合させた。ポットライフはいずれの場合も3時間であることが確認された。
【0037】
これらの透明なコーティング組成物(実施例2のエポキシ樹脂分散液を含む塗料3.1、及び比較用エポキシ樹脂分散液を含む塗料3.2)を、ガラス板に塗布し、23℃で7日間乾燥させた(およそ70μmの乾燥膜厚)。両塗膜を硬度(Konig手法(DIN EN ISO 1522)に従って、23℃及び相対湿度50%、飽和蒸気試験については23℃及び相対湿度100%の周囲条件で測定したペンデュラム硬度)について試験した。
【0038】
鋼板への付着性は、GT 0のクロスハッチ試験結果を伴って両方とも同レベルにあった。Gardner法による衝撃試験は、ASTM D 2794−93(1in・lb=25.4mm×4.448N=113.0mJ)に従って行い、およそ55μmの乾燥膜厚を有する塗装鋼パネル上で測定した。結果を表1にまとめる:
【0039】
表1 塗布結果
【表1】
【0040】
ベンジルアルコールの不存在及び成分Dの存在の双方により、塗膜におけるより速い硬化進行、及びより良好な耐湿性がもたらされることを、実施例から容易に理解することができる。膜の弾性についての尺度であるGardner衝撃も、ベンジルアルコールを合着剤として有する標準的な系に比べ改善される。
【0041】
期待した通り、VOCレベルは、ベンジルアルコールの不存在によって、188g/Lのレベル(コーティング組成物3.2にかかる樹脂分散液)から4g/Lのレベル(本発明によるコーティング組成物3.1にかかる樹脂分散液)へと著しく低減される。腐食試験は、EN ISO 9227(NSS Test)に準拠して行い、中心に引っ掻き傷をつけた各試料を試験した。中心の引っ掻き傷からのクリープ距離は著しく低減され、これによって、本発明の樹脂組成物から作られるコーティングにより実現される優れた耐食性が示される。