特許第6576924号(P6576924)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6576924新規の選択ベクターおよび真核宿主細胞を選択する方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6576924
(24)【登録日】2019年8月30日
(45)【発行日】2019年9月18日
(54)【発明の名称】新規の選択ベクターおよび真核宿主細胞を選択する方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/09 20060101AFI20190909BHJP
   C12N 15/65 20060101ALI20190909BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20190909BHJP
   C12P 21/02 20060101ALI20190909BHJP
【FI】
   C12N15/09 ZZNA
   C12N15/65 Z
   C12N5/10
   C12P21/02 C
【請求項の数】17
【全頁数】67
(21)【出願番号】特願2016-530647(P2016-530647)
(86)(22)【出願日】2014年7月29日
(65)【公表番号】特表2016-525366(P2016-525366A)
(43)【公表日】2016年8月25日
(86)【国際出願番号】IB2014063517
(87)【国際公開番号】WO2015015419
(87)【国際公開日】20150205
【審査請求日】2017年7月28日
(31)【優先権主張番号】61/860,439
(32)【優先日】2013年7月31日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】504389991
【氏名又は名称】ノバルティス アーゲー
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100095360
【弁理士】
【氏名又は名称】片山 英二
(74)【代理人】
【識別番号】100120134
【弁理士】
【氏名又は名称】大森 規雄
(74)【代理人】
【識別番号】100141195
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 恵美子
(74)【代理人】
【識別番号】100104282
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 康仁
(72)【発明者】
【氏名】アサラフ,イェフダ ジー.
(72)【発明者】
【氏名】ジョストック,トーマス
(72)【発明者】
【氏名】クノッフ,ハンス−ピーター
【審査官】 飯室 里美
(56)【参考文献】
【文献】 特表2011−505861(JP,A)
【文献】 特表2012−518992(JP,A)
【文献】 特開2012−235787(JP,A)
【文献】 Biochemistry, 1997, Vol.36, p.6157-6163
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
UniProt/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)変異型葉酸受容体を選択可能マーカーとしてコードするポリヌクレオチドであって、ここで、前記変異型葉酸受容体が、野生型葉酸受容体に比べて葉酸結合親和性が低下しており、前記コードされた変異型葉酸受容体が、成熟型の野生型ヒト葉酸受容体アルファ配列(配列番号1)のアミノ酸49位に構造的に対応するかまたはアミノ酸配列相同性により対応する位置にアラニンからロイシンへの置換を含む変異型葉酸受容体アルファである、ポリヌクレオチドと、
b)目的のポリペプチドをコードする少なくとも1つのポリヌクレオチドと
を含み、宿主細胞内へ導入された際に、前記目的のポリペプチドが前記宿主細胞から分泌される、
発現ベクターまたは少なくとも2つの発現ベクターの組合せ。
【請求項2】
以下の特徴の1または複数を有する、請求項1に記載の発現ベクターまたは少なくとも2つの発現ベクターの組合せ:
a) 前記コードされた変異型葉酸受容体が、成熟型の野生型ヒト葉酸受容体アルファ(配列番号1)のアミノ酸配列に由来するアミノ酸配列を含み、前記変異型葉酸受容体のアミノ酸配列が、前記成熟型の野生型ヒト葉酸受容体アルファ(配列番号1)に比べて葉酸結合親和性を低下させる2以上の変異を含む;および/または
b) 前記コードされた変異型葉酸受容体が、成熟型の野生型ヒト葉酸受容体配列の104位および166位から選択されるアミノ酸位置に構造的に対応するかまたはアミノ酸配列相同性により対応するアミノ酸位置に、少なくとも1つの置換を含む。
【請求項3】
前記変異型葉酸受容体が、野生型葉酸受容体に比べて、5−メチルテトラヒドロ葉酸の6Sジアステレオ異性体への結合親和性が低下している、および/または
前記変異型葉酸受容体が、野生型葉酸受容体に比べて、葉酸(folic acid)への結合親和性が低下している、請求項1または2に記載の発現ベクターまたは少なくとも2つの発現ベクターの組合せ。
【請求項4】
前記コードされた変異型葉酸受容体が、成熟型の野生型ヒト葉酸受容体アルファ配列(配列番号1)のアミノ酸49に構造的に対応するかまたはアミノ酸配列相同性により対応する位置にアミノ酸置換を含み、
前記野生型配列の49位に存在するアラニンが、ロイシンによって置換されている、
請求項3に記載の発現ベクターまたは少なくとも2つの発現ベクターの組合せ。
【請求項5】
前記コードされた変異型葉酸受容体が以下の特徴:
a)前記成熟型の変異型葉酸受容体が、以下の配列
【化24】
を含み、Xaaは、ロイシンであること、または
b)前記成熟型の変異型葉酸受容体が、配列番号9として示される配列と少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%もしくは少なくとも99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含み、Xaaは、前記変異型葉酸受容体ではアラニンではなくロイシンであり、Xaaがアラニンである成熟型の野生型ヒト葉酸受容体アルファ配列(配列番号1を参照)に比べて、前記変異型葉酸受容体の葉酸結合親和性が低減していること
を有する、請求項1から4のいずれか1項に記載の発現ベクターまたは少なくとも2つの発現ベクターの組合せ。
【請求項6】
前記コードされた変異型葉酸受容体が以下の特徴:
a)以下の配列
【化25】
を含み、Xaaはロイシンであること、または
b)配列番号13として示される配列と少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%もしくは少なくとも99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含み、Xaaはロイシンであり、Xaaがアラニンである成熟型の野生型ヒト葉酸受容体アルファ配列(配列番号1を参照)に比べて、5−メチルテトラヒドロ葉酸の6Sジアステレオ異性体への前記変異型葉酸受容体の結合親和性が低減していること
を有する、請求項1から5のいずれか1項に記載の発現ベクターまたは少なくとも2つの発現ベクターの組合せ。
【請求項7】
葉酸類代謝に関与する選択可能マーカーをコードするポリヌクレオチドを追加的に含み、
選択可能マーカーをコードする前記ポリヌクレオチドが、任意選択で、ジヒドロ葉酸レダクターゼをコードする、請求項1から6のいずれか1項に記載の発現ベクターまたは少なくとも2つの発現ベクターの組合せ。
【請求項8】
a)変異型葉酸受容体をコードするポリヌクレオチドを含む発現カセットであって、前記コードされた変異型葉酸受容体が、成熟型の野生型ヒト葉酸受容体アルファ配列(配列番号1)のアミノ酸49に構造的に対応するかまたはアミノ酸配列相同性により対応する位置にアミノ酸置換を含む変異型葉酸受容体アルファであり、前記位置にて野生型配列に存在するアラニンがロイシンによって置換されている、発現カセットと、
b)目的のポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを含む、少なくとも1つの発現カセットと、
c)ジヒドロ葉酸レダクターゼをコードするポリヌクレオチドを選択可能マーカーとして含む、発現カセットと
を含む、請求項1から7のいずれか1項に記載の発現ベクターまたは少なくとも2つの発現ベクターの組合せ。
【請求項9】
生存能が葉酸類の取込みに依存している宿主細胞であって、
a)野生型葉酸受容体に比べて葉酸結合親和性が低下した変異型葉酸受容体をコードする、選択可能マーカーとして導入されたポリヌクレオチドであって、前記コードされた変異型葉酸受容体が、成熟型の野生型ヒト葉酸受容体アルファ配列(配列番号1)のアミノ酸49位に構造的に対応するかまたはアミノ酸配列相同性により対応する位置にアラニンからロイシンへの置換を含む変異型葉酸受容体アルファである、ポリヌクレオチドと、
b)目的のポリペプチドをコードする少なくとも1つの導入されたポリヌクレオチドと
を含み、前記目的のポリペプチドは、前記宿主細胞から分泌される、宿主細胞。
【請求項10】
前記変異型葉酸受容体が、請求項2から6のいずれか1項に規定された1つまたは複数の特徴を有し、
宿主細胞が、任意選択で、請求項1から8のいずれか1項に規定された発現ベクターまたは少なくとも2つの発現ベクターの組合せを含む、請求項9に記載の宿主細胞。
【請求項11】
以下の特徴:
a)哺乳類細胞であること、
b)齧歯類細胞であること、
c)CHO細胞であること、
d)内因性の葉酸受容体を発現すること、
e)葉酸類代謝に関与する選択可能マーカー、好ましくはジヒドロ葉酸レダクターゼをコードする、導入されたポリヌクレオチドを含むこと、および/または
f)前記導入されたポリヌクレオチドが、安定にゲノムへ組み込まれていること
のうち1つまたは複数を有する、請求項9または10に記載の宿主細胞。
【請求項12】
生存能が葉酸類の取込みに依存している宿主細胞に、
a)野生型葉酸受容体に比べて葉酸結合親和性が低下した変異型葉酸受容体を選択可能マーカーとしてコードするポリヌクレオチドであって、前記コードされた変異型葉酸受容体が、成熟型の野生型ヒト葉酸受容体アルファ配列(配列番号1)のアミノ酸49位に構造的に対応するかまたはアミノ酸配列相同性により対応する位置にアラニンからロイシンへの置換を含む変異型葉酸受容体アルファである、ポリヌクレオチドと、
b)前記宿主細胞から分泌される目的のポリペプチドをコードする少なくとも1つのポリヌクレオチドと
を導入するステップを含み、
請求項1から8のいずれか1項に記載の発現ベクターまたは少なくとも2つの発現ベクターの組合せを任意選択で宿主細胞内へ導入する、請求項9〜11の少なくとも1項に記載の宿主細胞を作製するための方法。
【請求項13】
目的のポリペプチドを所望の収量で発現することが可能な少なくとも1つの宿主細胞を選択するための方法であって、
a)請求項9から11のいずれかに記載の複数の宿主細胞を提供するステップと、
b)制限的な濃度で葉酸類を含む選択培養培地中で、前記複数の宿主細胞を培養するステップと、
c)目的のポリペプチドを発現する少なくとも1つの宿主細胞を取得するステップと
を含む方法。
【請求項14】
以下の特徴:
i)ステップb)およびc)を含む1回または複数回の選択サイクルを実施すること、
ii)ステップc)の後、前記細胞を、非制限的な濃度の葉酸類を含む培養培地で培養し、次いで、再度ステップb)に従って培養し、ステップc)に従って取得すること、
iii)ステップb)および/もしくはc)を実施する前および/もしくは後に、フローサイトメトリーに基づく選択および前記宿主細胞に導入された1つもしくは複数の追加的な選択可能マーカーについての選択から選択される1つもしくは複数の追加的な選択ステップを実施すること、
iv)宿主細胞を安定にトランスフェクトすること、ならびに/または
v)選択された宿主細胞が免疫グロブリン分子を組換えによって発現して分泌すること
のうち1つまたは複数を有する、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
a)請求項9〜11の少なくとも1項に記載の宿主細胞、ならびに/または請求項13または14に従って選択された宿主細胞を目的のポリペプチドの発現および分泌を可能にする条件下で培養するステップと、
b)細胞培養培地から目的のポリペプチドを単離するステップと、
c)任意選択で、単離された目的のポリペプチドを処理するステップと
を含む、目的のポリペプチドを生産するためのプロセス。
【請求項16】
a)以下の配列
【化26】
を含む変異型葉酸受容体アルファであって、Xaaはアラニンではなくロイシンであり、
前記変異型葉酸受容体の葉酸結合親和性が、Xaaがアラニンである対応する野生型葉酸受容体(配列番号1)に比べて低減している、変異型葉酸受容体アルファ、または
b)配列番号9として示される配列と少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%もしくは少なくとも99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む変異型葉酸受容体であって、Xaaは、前記変異型葉酸受容体ではアラニンではなくロイシンであり、Xaaがアラニンである成熟型の野生型ヒト葉酸受容体アルファ配列(配列番号1を参照)に比べて、前記変異型葉酸受容体の葉酸結合親和性が低減している、変異型葉酸受容体アルファをコードするポリヌクレオチドの、生存能を葉酸類の取込みに依存している細胞を選択するための選択可能マーカーとしての使用。
【請求項17】
a)以下の配列
【化27】
を含み、Xaaがロイシンである、変異型葉酸受容体アルファ、または
b)配列番号9として示される配列となくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%もしくは少なくとも99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含み、Xaaが、b)による前記変異型葉酸受容体ではロイシンである、変異型葉酸受容体アルファをコードするポリヌクレオチドの、生存能を葉酸類の取込みに依存している細胞を選択するための選択可能マーカーとしての使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、目的のポリペプチドを発現する宿主細胞、具体的には哺乳類宿主細胞を選択するために変異型葉酸受容体(mutated folate receptor)を選択可能マーカーとして使用することに基づく、新規の選択系に関する。本発明は、適した発現ベクター、宿主細胞、および目的の組換えポリペプチドを高収量で発現する宿主細胞を選択するための方法を提供する。さらに、本発明は、組換えポリペプチドを高収量で効率良く生産するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
クローニングし、大量の組換えのペプチドやタンパク質などの目的の生産物を発現する能力は、ますます重要になりつつある。高レベルのタンパク質を精製する能力は、ヒトの医薬およびバイオテクノロジーの分野に、例えばタンパク質医薬を生産するために、ならびに基礎研究環境に、例えばタンパク質を結晶化してその3次元構造を決定することを可能にするために、重要である。ともすれば多量に得るのが難しいタンパク質は、宿主細胞内で過剰発現させて、続いて単離および精製することができる。
【0003】
組換えタンパク質を生産するための発現系の選定は、細胞の成長特性、発現レベル、細胞内および細胞外の発現、翻訳後修飾、および目的のタンパク質の生物活性、ならびに治療用タンパク質の生産に関する規制上の課題および経済上の考慮を含めた、多数の要因に依拠する。細菌や酵母などの他の発現系を上回る哺乳類細胞の鍵となる利点は、適正なタンパク質の折畳み、複雑なN−結合型グリコシル化および真正のO−結合型グリコシル化、ならびに広範な他の翻訳後修飾を実施できる能力である。記載されている利点のために、現在のところ、真核細胞、および具体的には哺乳類細胞が、モノクローナル抗体などの複雑な治療用タンパク質を生産するために選定される発現系である。
【0004】
高発現の宿主細胞(高生産株(producer)ともよばれる)を得るための最も一般的なアプローチは、第1のステップとして、目的のポリペプチドを発現するための適切な発現ベクターを生成することである。発現ベクターは、目的のポリペプチドをコードするポリヌクレオチドの発現を、宿主細胞中で駆動させ、組換え細胞株を生成するための少なくとも1つの選択可能マーカーを提供する。
【0005】
目的のポリペプチドを高収量で発現する高生産の細胞株を得るための確立された1つの手順は、宿主細胞の安定なトランスフェクションである。目的のポリペプチドは、次いで、培養培地中へ分泌されて、そこから大量に得ることができる。しかし、ゲノム内への安定な組み込みは稀な事象であり、安定にトランスフェクトされた細胞のほんのわずかなサブセットが高生産株である。
【0006】
選択可能マーカーおよび選択系は、目的のポリペプチドを高収量で発現する宿主細胞を得るために広く使用される。それぞれの系はまた、安定にトランスフェクトされたクローンを生成して特定するために有用である。それぞれの選択可能マーカーおよび選択系を使用することの第1の目標は、選択的な成長条件に曝露されるとすぐに、目的の組換え生産物を高レベルで生産することができる細胞を特定することを可能にする、選択可能遺伝子を導入することである。確立された選択可能マーカーとしては、例えばジヒドロ葉酸レダクターゼ(DHFR)またはグルタミンシンターゼ(GS)が挙げられる。
【0007】
別の選択系は、還元型葉酸担体選択系(reduced folate carrier selection system)に基づく。還元型葉酸担体(RFC)は、普遍的に発現される膜型糖タンパク質であり、5−メチル−THFや5−ホルミル−THFなどの還元型葉酸類(folates)を取り込むための主要な輸送体としての役割を果たす。しかし、RFCは、酸化型葉酸類である葉酸(folic acid)に極めて低い親和性を呈する。そのため、RFCの発現に乏しいか、またはゲノムのRFC遺伝子座を欠失している細胞は、5−ホルミル−THFなどの還元型葉酸類が次第に成長培地から奪われる条件下で、選択可能マーカー遺伝子であるRFCをトランスフェクトするためのレシピエントとしての役割を果たし、その結果、細胞は、増加したレベルでこの葉酸輸送体を発現するように仕向けられる。RFC選択系にはいくつかの欠点があり、a)標的ノックアウトまたは機能喪失型変異によって内因性のRFC遺伝子座がノックアウトまたは不活化された、RFCのないレシピエント細胞を使用しなければならないこと、b)RFCが、葉酸のための輸送親和性に極めて乏しく、それゆえこの酸化型葉酸類を選択に使用することができないこと、およびc)葉酸受容体に基づく系(以降を参照)が方向付けのない葉酸取込み系であるのに対して、RFCは、葉酸類の強力な移入と移出とを均等に示す二方向性の葉酸輸送体であることがある。このことは、葉酸類欠乏の条件下では、過剰発現されたRFCを介して葉酸をさらに移出するレシピエント細胞にとって、RFCの過剰発現が有害となる場合があることを意味する。
【0008】
最近提案されたさらに別の選択系は、葉酸受容体アルファなどの葉酸受容体を選択可能マーカーとして使用することに基づく。この系は、WO2009/080759に記載されている。この系は、いくつかの利点を有し、選択のために、毒性のある基質を何ら必要としないこと、およびさらに、宿主細胞の内因性の葉酸受容体がノックアウトされている必要がないことがある。葉酸受容体を選択可能マーカーとして使用することに基づくさらに別の選択系は、WO2010/097240に記載されている。
【0009】
葉酸受容体およびその変異体は、例えばShen et al “Identification of amino acid residues that determine the differential ligand specificities of folate receptors alpha and beta” (Biochemistry 1997, 36, 6157-6163)に記載されている。医学的な障害に関連がある葉酸受容体アルファの変異もまた記載されている。葉酸受容体でのアミノ酸の位置もまた、Ramamoorthy et al “In silico analysis of functionally important residues in folate receptors”(Bioinformation 2 (4): 157-162 (2007))において分析されている。
【0010】
高いストリンジェンシーの選択系は、選択し、それゆえトランスフェクトされた集団から高生産細胞を濃縮するために、極めて重要である。選択系のストリンジェンシーが高いほど、選択工程後の低生産性株の数が少なくなり、非常に稀少な過剰生産クローンを見出す機会が高くなる。さらには、先行技術の方法よりも迅速に高生産クローンを得ることを可能にする選択系を提供することが大きく求められている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、目的のポリペプチドを高収量で生産する宿主細胞を選択するためのストリンジェントな選択系、ならびに適した発現ベクターおよび宿主細胞を提供することである。具体的には、本発明の狙いは、上記に記述されている先行技術の選択系を上回るいくらかの利点を有する、新規の選択系を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本開示は、目的のポリペプチドを高収量で発現する宿主細胞を選択するのに適した選択系に関する。前記選択系は、変異型の機能的な膜結合型葉酸受容体を選択可能マーカーとして使用することに基づく。特に、前記選択系は、対応する野生型の機能的な膜結合型葉酸受容体を選択可能マーカーとして使用する選択系よりも、さらにストリンジェントでありかつ速く高生産株を選択することを可能にする。
【0013】
第1の態様によれば、本開示は、
a)変異型葉酸受容体を選択可能マーカーとしてコードするポリヌクレオチドであって、前記変異型葉酸受容体が、野生型葉酸受容体に比べて葉酸結合親和性(folate binding affinity)が低下している、ポリヌクレオチドと、
b)目的のポリペプチドをコードする少なくとも1つのポリヌクレオチドと
を含み、前記発現ベクターまたは少なくとも2つの発現ベクターの組合せが宿主細胞内へ導入された際に、前記目的のポリペプチドが前記宿主細胞から分泌される、発現ベクターまたは少なくとも2つの発現ベクターの組合せを提供する。
【0014】
第2の態様によれば、本発明は、生存能が葉酸類の取込みに依存する宿主細胞であって、
a)野生型葉酸受容体に比べて葉酸結合親和性が低下した変異型葉酸受容体をコードする、選択可能マーカーとして導入されたポリヌクレオチドと、
b)目的のポリペプチドをコードする少なくとも1つの導入されたポリヌクレオチドと
を含み、前記目的のポリペプチドは、前記宿主細胞から分泌される、宿主細胞に関する。
【0015】
第3の態様によれば、本開示は、生存能が葉酸類の取込みに依存している宿主細胞に、少なくとも
a)選択可能マーカーとして、野生型葉酸受容体に比べて葉酸結合親和性が低下している、変異型葉酸受容体をコードするポリヌクレオチドと、
b)前記宿主細胞から分泌される目的のポリペプチドをコードする、少なくとも1つのポリヌクレオチドと
を導入するステップを含む、本発明の第2の態様による宿主細胞を生産するための方法に関する。
【0016】
第4の態様によれば、本開示は、目的のポリペプチドを発現することが可能な少なくとも1つの宿主細胞を選択するための方法であって、
a)第2の態様による複数の宿主細胞を提供するステップと、
b)制限的な濃度で葉酸類を含む選択培養培地中で、前記複数の宿主細胞を培養するステップと、
c)目的のポリペプチドを発現する少なくとも1つの宿主細胞を取得するステップと
を含む方法を提供する。
【0017】
第5の態様によれば、本開示は、
a)第2の態様による宿主細胞ならびに/または目的のポリペプチドの発現および選択を可能にする条件下で第4の態様に従って選択された宿主細胞を培養するステップと、
b)細胞培養培地から目的のポリペプチドを単離するステップと、
c)任意選択で、単離された目的のポリペプチドをさらに処理するステップと
を含む、目的のポリペプチドを生産するためのプロセスに関する。
【0018】
第6の態様によれば、本開示は、
a)以下の配列
【化1】
を含む変異型葉酸受容体であって、Xaaはアラニンではなく、前記変異型葉酸受容体の葉酸結合親和性が、Xaaがアラニンである対応する野生型葉酸受容体(配列番号1)に比べて低下している、変異型葉酸受容体、または
b)配列番号9として示される配列と少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%もしくは少なくとも99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む変異型葉酸受容体であって、Xaaは、前記変異型葉酸受容体ではアラニンではなく、Xaaがアラニンである成熟型の野生型ヒト葉酸受容体アルファ配列(配列番号1を参照)に比べて、前記変異型葉酸受容体の葉酸結合親和性が低下している、変異型葉酸受容体
をコードするポリヌクレオチドの、生存能を葉酸類の取込みに依存している細胞を選択するための選択可能マーカーとしての使用に関する。
【0019】
第7の態様によれば、本開示は、
a)以下の配列
【化2】
を含み、Xaaがロイシンである、変異型葉酸受容体、または
b)配列番号9として示される配列と少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%もしくは少なくとも99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含み、Xaaが、b)による前記変異型葉酸受容体ではロイシンである、変異型葉酸受容体
をコードするポリヌクレオチドの、生存能を葉酸類の取込みに依存している細胞を選択するための選択可能マーカーとしての使用に関する。
【0020】
実施例によって示されるように、それぞれの変異型葉酸受容体は、非常に効率の良い、ストリンジェントな選択可能マーカーであり、該マーカーはまた、それぞれの選択可能マーカーを発現する宿主細胞を、野生型葉酸受容体よりも迅速に選択することを可能にする。
【0021】
本願の他の目的、特徴、利点および態様は、以下の記載および添付の特許請求の範囲から、当業者に明らかになろう。しかし、以下の記載、添付の特許請求の範囲および特有の実施例は、本願の好適な実施形態を示す一方で、実例のみとして与えられていることを理解されたい。
【0022】
図1から図5は、種々の発現ベクターを用いて予めトランスフェクトし、種々の選択条件を使用して得たポリクローナルな細胞プールから、限界希釈法によって得た個々の細胞クローンの抗体生産性を示す。そのため、選択後に得たクローンの生産性が示されている。単一細胞クローニングのために、細胞を完全培地(それによって、選択後に選択圧を維持していなかった)または選択培地(それによって、選択後に選択圧を維持していた)のどちらかで培養した。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】V−DHFRrefを用いたトランスフェクタントの選択(125nM MTX)後の単一細胞クローニングを示す図である。
図2】V−DHFRrefを用いたトランスフェクタントの選択(250nM MTX)後の単一細胞クローニングを示す図である。
図3】V−wtFRalphaを用いたトランスフェクタントの選択(15nM FA)後の単一細胞クローニングを示す図である。
図4】V−mutFRalphaを用いたトランスフェクタント(5nM)の単一細胞クローニングを示す図である。見ての通りに、野生型葉酸受容体を選択可能マーカーとして使用した場合に比べて、変異型葉酸受容体を選択可能マーカーとして使用した場合に、さらに多くの高発現細胞クローンを得た。さらに、発現率は、DHFRを選択可能マーカーとして使用した選択で観察されたよりも高かった。
図5】V−mutFRalpha/V−DHFRrefを同時トランスフェクトされた集団[50nM葉酸(FA)/50nM MTX]の単一細胞クローニングを示す図である。見ての通りに、そのような共選択の戦略を使用した場合に、大幅にさらに多数の、さらに高発現の細胞クローンを得た。
【発明を実施するための形態】
【0024】
驚くべきことに、葉酸受容体を選択可能マーカーとして使用することに基づく選択系は、葉酸受容体の変異型の形態を使用することによってかなり改善することができることを見出した。変異型の選択可能マーカーは、哺乳類細胞などの真核細胞を選択するための優性の選択可能マーカーとして使用することができる。前記変異体は、対応する野生型の葉酸受容体に比べて葉酸結合親和性が変調されている。変異型葉酸受容体は、対応する野生型葉酸受容体に比べて、葉酸結合親和性が低下しており、選択可能マーカーとして重要な利点を有することを見出した。
【0025】
この新規の系は、組換えポリペプチドを高収量で安定に発現し分泌する真核の、具体的には哺乳類の細胞クローンの選択、スクリーニングおよび樹立を加速するために、使用することができる。選択は、制限的な濃度の葉酸類、具体的には制限的な濃度の葉酸を含む培養培地を使用して、実施することができる。この新規の系は、葉酸受容体を選択可能マーカーとして使用することに関連する全般的な利点に加えて、以下に説明されるように、先行技術分野にて利用可能な選択系を上回り、また、野生型葉酸受容体を選択可能マーカーとして使用することを上回る、いくつかの重要な利点を示す。
【0026】
1.迅速性と成長特性の向上。実施例に示されるように、変異型葉酸受容体を選択可能マーカーとして使用することによって、例えばDHFRを選択可能マーカーとして使用することなどに基づく標準的な選択系よりも、かなり速く選択することが可能になる。さらに、本開示による選択系はまた、野生型葉酸受容体を選択可能マーカーとして使用することに基づく選択系よりも速い。具体的には、野生型葉酸受容体を選択可能マーカーとして使用するのに比べて、本開示による変異型葉酸受容体を選択可能マーカーとして組み入れている細胞は、極めて微量の葉酸類濃度を含む選択培養培地中で培養した際に、さらに速く分裂して回復する。この達成された迅速性は、選択サイクルの長さを低減する際立った利点である。それぞれの成長の優位性は、野生型葉酸受容体を選択可能マーカーとしてトランスフェクトされた細胞の成長を損ないさえする選択培養培地中に、非常にストリンジェントな選択条件とそれゆえに高度に制限的な葉酸濃度とが使用された場合でさえ、観察された。そのため、本開示による変異型葉酸受容体を選択可能マーカーとして使用する際には、さらにストリンジェントな選択条件を使用することができる。野生型葉酸受容体を上回る、本開示による変異型葉酸受容体のこの利点は、完全に予想外であった。好ましくは葉酸などの葉酸類は、細胞成長、プリンおよびピリミジン核酸の生合成、DNA複製ならびにそれゆえの細胞増殖を持続させるために、培養培地中に存在しなければならず、宿主細胞内に効率良く組み入れられなければならない。この背景を考慮すると、葉酸結合親和性が低下している変異型葉酸受容体を用いてトランスフェクトされた細胞は、野生型葉酸受容体を用いてトランスフェクトされた細胞に比べて、成長の優位性がないことが予想された。そのような変異型葉酸受容体を選択可能マーカーとしてトランスフェクトされた細胞は、完全な葉酸結合親和性を具えた野生型葉酸受容体を内因的に発現する非トランスフェクト細胞に比べて、成長の優位性を有することすらない可能性があることが想定さえされた。このことは、具体的には、制限的な濃度の葉酸類を含む培養培地で非トランスフェクト細胞が培養された場合に、内因性の葉酸受容体の発現が増加することとして知られている[Zhu et al, Journal of Cellular Biochemistry 81:205-219 (2001)を参照されたい]。そのため、葉酸結合親和性の低下した変異型葉酸受容体が、野生型葉酸受容体をさらに超える効率の良い選択可能マーカーを提供するということを本発明者らが見出したことは、極めて驚くべきことである。
【0027】
2.ストリンジェンシーと生産性の向上。本開示による変異型葉酸受容体を選択可能マーカーとして組み入れた細胞は、野生型葉酸受容体を選択可能マーカーとして含む細胞よりも選択培養培地中で低い葉酸類濃度に、驚くべき耐性を有する。このことによって、さらにストリンジェントな選択条件を使用することが可能になる。そのため、本明細書に記載の新規の選択可能マーカーを使用した際に、高い生産率を有する細胞をさらに速く得ることができる。本開示による変異型葉酸受容体の葉酸結合親和性が、野生型に比べて低下しているという事実を考慮すると、このことは完全に予想外であった。
【0028】
3.信頼性の向上。本開示による変異型葉酸受容体を選択可能マーカーとして使用した際に、培養培地中の葉酸類濃度への線形の用量依存性が観察される。選択培地中の葉酸類濃度が低いほど、選択された細胞の結果としての生産性は高い。野生型葉酸受容体を選択可能マーカーとして使用した際には、それぞれの依存性は同じように観察されない。この線形の用量依存性によって、選択条件のさらに信頼性のある制御と最適化とが容易になる。この知見もまた、完全に予想外であった。
【0029】
このように、対応する野生型葉酸受容体に比べて葉酸結合親和性が低下した変異型葉酸受容体を選択可能マーカーとして使用することに基づいた、本明細書に記載のこの新規の葉酸に基づく選択法は、目的の組換えポリペプチドを高収量で発現する安定な細胞の選択を加速するのによく適した、優れた戦略である。本明細書に記載の有益な結果は、細胞培養培地中の低い葉酸類濃度で達成することができ、他の様々な選択系に日常的に使用されるように、殺細胞薬物選択がない場合でさえ達成することができる。
【0030】
発現ベクターおよび発現ベクターの組合せ
第1の態様によれば、本開示は、
a)変異型葉酸受容体を選択可能マーカーとしてコードするポリヌクレオチドであって、前記変異型葉酸受容体が、野生型葉酸受容体に比べて葉酸結合親和性が低下している、ポリヌクレオチドと、
b)目的のポリペプチドをコードする少なくとも1つのポリヌクレオチドと
を含み、宿主細胞内へ導入された際に、前記目的のポリペプチドが前記宿主細胞から分泌される、発現ベクターまたは少なくとも2つの発現ベクターの組合せを提供する。
【0031】
本開示による「ベクター」とは、具体的には、少なくとも1つのポリヌクレオチド断片を担持することが可能なポリヌクレオチドを指す。ベクターは、宿主細胞内へポリヌクレオチドを送達する分子担体のように機能する。発現ベクターは、その中に組み入れられたポリヌクレオチドを適正に発現させるための調節配列を含む、少なくとも1つの発現カセットを含んでいてもよい。細胞内へ導入されるポリヌクレオチド(例えば目的のポリペプチドまたは選択可能マーカーをコードする)は、そこから発現されるように、ベクターの発現カセット(複数可)内へ挿入されていてもよい。宿主細胞内に導入される際に、発現カセットは特に、目的のポリペプチドをコードする組み入れられたポリヌクレオチドをRNAへと転写するように、細胞の機構を方向付けることができ、該RNAは次いで、通常はさらにプロセシングされ、最終的に該目的のポリペプチドに翻訳される。ベクターは、環状または線状(化された)の形態で存在しうる。「ベクター」という用語はまた、人工染色体、ウイルスベクター、または外来性の核酸断片の移入を可能にする類似のそれぞれのポリヌクレオチドを含む。
【0032】
「ポリヌクレオチド」とは、通常は1つのデオキシリボースまたはリボースから別の1つに連結されているヌクレオチドのポリマーであり、文脈に応じてDNAならびにRNAを指す。「ポリヌクレオチド」という用語は、いかなるサイズの限定も含まない。
【0033】
続いて、我々は、本開示による発現ベクターおよび少なくとも2つの発現ベクターの組合せの実施形態を記載する。変異型葉酸受容体をコードするポリヌクレオチドおよび目的のポリペプチドをコードするポリヌクレオチドは、少なくとも2つの発現ベクターの組合せを使用する場合に、同じ発現ベクターにも別々の発現ベクターにも位置することができる。少なくとも2つの発現ベクターの組合せを使用する場合であって、一方の発現ベクターが、目的のポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを含み、他方の発現ベクターが、変異型葉酸受容体をコードするポリヌクレオチドを含む場合に、前記組合せは、選択を可能にするために、同じ宿主細胞内へ同時トランスフェクトされる。それぞれのトランスフェクションの戦略は、当業者に周知であり、また、実施例に記載されている。続いて、我々は、両方のポリヌクレオチドが同じ発現ベクターに位置する実施形態に主に併せて、特有の実施形態および利点を記載する。但し、前記開示は、細胞内に同時トランスフェクトされる少なくとも2つの発現ベクターの組合せを使用する実施形態を準用する。適切な箇所では、我々は、発現ベクターまたは少なくとも2つの発現ベクターの組合せに関連がある利点を、目的のポリペプチドを高収量で発現する宿主細胞を選択するための前記発現ベクター(複数可)の使用に併せて記載する。
【0034】
変異型葉酸受容体
本明細書で使用されるときの「葉酸受容体」とは、機能的であり、それゆえ真核細胞、具体的には哺乳類細胞へ葉酸類またはその誘導体を移入または取り込むことができる受容体を指す。好ましくは、葉酸受容体は、真核宿主細胞、具体的には哺乳類細胞へ葉酸類またはその誘導体を方向付けなく移入または取り込むことができる。さらに、本明細書で使用されるときの葉酸受容体は、膜結合している。そのため、本明細書に記載の葉酸受容体は、膜結合した機能的な葉酸受容体である。これを変異型ならびに野生型の葉酸受容体に適用する。膜への繋留(anchorage)は、例えば膜貫通アンカーまたはグリコシルホスファチジルイノシトール(GPI)アンカーによって達成される。葉酸受容体の自然な状態に対応することから、GPIアンカーが好ましい。葉酸受容体(FR)は、高親和性の葉酸結合糖タンパク質である。FRは、3つの別個の遺伝子であるFRアルファ、FRベータおよびFRガンマによってコードされている。FRアルファは、成人型葉酸結合タンパク質またはFDPとして、葉酸受容体1またはFOLR(マウスではfolbp1)として、および卵巣がん関連抗原としても知られている。FRベータは、FOLR2(胎児)として、およびFBP/PL−1(胎盤)としても知られている。FRガンマは、FOLR3として、およびFR−Gとしても知られている[M.D. Salazar and M. Ratnam, Cancer Metastasis Rev. 2007 26(1), pp.141-152によって概説されている]。成熟型のFR類は、特徴がよく明らかにされており、約70〜80%のアミノ酸配列同一性を有する相同なタンパク質であり、229個から236個のアミノ酸ならびに2箇所から3箇所のN−グリコシル化部位を含有する。FRアルファおよびFRベータは、膜結合したタンパク質である。FRアルファおよびFRベータは、GPIで繋留された細胞表面糖タンパク質であるのに対し、FRガンマは、GPIアンカーを欠いた分泌タンパク質である。しかし、それは、遺伝子工学的に変えられて膜貫通ドメインまたはGPIアンカーを含むことができる。膜アンカーを含むそのような変えられたFRガンマの形態はまた、上記に記載されているように、真核細胞内へ葉酸類またはその誘導体を移入または取り込むことができる場合に、野生型の葉酸受容体と見做される。FRアルファおよびFRベータは、葉酸(Kd=0.1〜1nM)、5,10−ジデアザテトラヒドロ葉酸(DDATHF;ロメトレキソール;[H]葉酸を基質として使用してKi=0.4〜1.3nM)およびBGC945(FRアルファを介してのみ特異的に輸送され、還元型葉酸担体を介さない、シクロペンタ[g]キナゾリンに基づくチミジレートシンターゼ阻害剤である)(Kd=1nM)に対し高い親和性を呈するが、MTXにははるかに低い親和性を呈する(Kd>100nM)。葉酸類および葉酸代謝拮抗剤(antifolate)のFR依存的な取込みは、受容体によって媒介されるエンドサイトーシスの古典的な機序を介して進行する。
【0035】
「野生型葉酸受容体に比べて葉酸結合親和性が低下した変異型葉酸受容体」または本明細書に使用される類似の表現は、具体的には、対応する野生型葉酸受容体に比べて、還元型葉酸類および酸化型葉酸類からなる群から選択される少なくとも1つの葉酸類への結合親和性が低減した、変異型葉酸受容体を指す。前記用語は、具体的には、対応する野生型葉酸受容体に比べて、特有の葉酸類への結合親和性が低下している、変異型葉酸受容体を指す。他の葉酸類、すなわち前記特有の葉酸類とは異なる葉酸類への葉酸結合親和性は、不変であってもよい。一実施形態によれば、葉酸結合親和性が低下した変異型葉酸受容体は、対応する野生型葉酸受容体に比べて、還元型葉酸類および酸化型葉酸類からなる群から選択される少なくとも1つの葉酸類への結合親和性を低下させる、少なくとも1つの変異を含む。一実施形態によれば、変異型葉酸受容体は、対応する野生型葉酸受容体に比べて低下している、還元型葉酸類への結合親和性を示す。一実施形態によれば、変異型葉酸受容体は、対応する野生型葉酸受容体に比べて低減した、5−メチルテトラヒドロ葉酸の6Sジアステレオ異性体への結合親和性を示す。一実施形態によれば、変異型葉酸受容体は、還元型葉酸類に対して、好ましくは5−メチルテトラヒドロ葉酸の6Sジアステレオ異性体に対して、対応する野生型葉酸受容体のIC50値よりも少なくとも20倍、少なくとも30倍、少なくとも40倍、少なくとも50倍、または少なくとも55倍高いIC50値を有する。IC50値が大幅に高いために、それは、野生型葉酸受容体に比べて、前記還元型葉酸類への結合親和性が大幅に低減している。一実施形態によれば、変異型葉酸受容体は、葉酸への結合性の低減を示す。
【0036】
葉酸結合親和性の低下をもたらす少なくとも1つの変異は、例えば、アミノ酸の置換、欠失または挿入でありうる。一実施形態によれば、少なくとも1つの変異は、予測される葉酸結合ポケットに存在する。一実施形態によれば、前記変異は、予測される葉酸結合ポケットにある置換である。
【0037】
本開示に従って選択可能マーカーとして使用される変異型葉酸受容体は、対応する野生型葉酸受容体に比べて葉酸結合親和性が低下している。上記に記載されているように、および実施例に示されるように、対応する野生型葉酸受容体に比べて少なくとも5−メチルテトラヒドロ葉酸の6Sジアステレオ異性体に対する結合親和性が低下した変異型葉酸受容体を使用することは、好都合である。葉酸結合親和性の低下は、1つまたは複数の変異を野生型配列に導入することによって達成される。適した例を以降に記載する。理論に縛られるわけではないが、葉酸結合親和性が低下しているために、本開示に従って発現ベクター(複数可)をトランスフェクトされた細胞は、選択的な葉酸類欠乏条件下で生き残るために、さらに多くの変異型葉酸受容体を発現して十分な葉酸類の取込み率を達成する必要があると考えられている。そのため、目的のポリペプチドもまた、生き残った集団によってさらに高いレベルで発現される。実施例によって示されるように、本明細書に記載されているような変異型葉酸受容体を選択可能マーカーとして使用した際に、選択培養培地中の葉酸類濃度が低減された場合には、生産性が増加する。それぞれの相関関係は、野生型葉酸受容体を選択可能マーカーとして使用した際には、同じように観察されない。さらに、変異型葉酸受容体を選択可能マーカーとして使用した際には、選択培養培地中の葉酸類濃度をいっそう低減させることができ、それゆえトランスフェクト細胞の選択圧をさらに増加させることができる。それによって、野生型葉酸受容体を選択可能マーカーとして使用した選択系を凌ぐ、非常にストリンジェントかつ速い選択系が提供される。本開示による変異型葉酸受容体の葉酸結合親和性が、野生型葉酸受容体に比べて低下するという事実を考慮すれば、このことは予想外であり、極めて驚くべきことであった。さらに、変異型葉酸受容体を用いてトランスフェクトされた細胞は、高度にストリンジェントな選択条件が使用された際でさえ、優れた特徴を示すこと、具体的には選択条件からさらに早期に復活するということが、驚くべきことに見出された。
【0038】
好ましくは、選択可能マーカーとして使用される変異型葉酸受容体は、葉酸結合ポケットに少なくとも1つの変異を含み、前記変異は、対応する野生型葉酸受容体に比べて葉酸結合親和性が低下するという効果がある。適した変異を続いて記載する。葉酸結合ポケットに変異を組み入れることは、葉酸結合親和性を低減するために非常に効率の良いアプローチである。導入された変異型葉酸受容体を高度に過剰発現する細胞のみが、培養培地から十分量の葉酸類を組み入れて、細胞成長、DNA複製、およびそれゆえの細胞増殖を持続させることができる。驚くべきことに、細胞が、葉酸への親和性が低下した変異型葉酸受容体を選択可能マーカーとして組み入れているとしても、そのトランスフェクト細胞は、野生型葉酸受容体を用いてトランスフェクトされた細胞に比べて、または、DHFRなどの従来の選択可能マーカーを用いてトランスフェクトされた細胞に比べて、大きく加速された成長を示す。この加速された成長は、選択を実施するのに必要な時間を低減することから、重要な利点である。
【0039】
本開示に従って利用される変異型葉酸受容体は、本開示の範疇でそれが機能することになる限り、すなわち、利用され、かつトランスフェクトされた宿主細胞から発現される際に葉酸類、具体的には葉酸を、培養培地から宿主細胞内へ組み入れる宿主細胞に、それが適合可能である限り、任意の種の葉酸受容体に由来しうる。
【0040】
概して、真核宿主細胞内へ導入されて選択可能マーカーとして利用される変異型葉酸受容体は、宿主細胞の内因性の葉酸受容体(内因性の葉酸受容体が存在する場合に好適であるもの)と相同でも非相同でもありうる。それが相同である場合は、宿主細胞と同じ種に由来することになる。それが非相同である場合は、宿主細胞以外の別の種に由来することになる。例えば、ヒト由来の葉酸受容体が、選択可能なマーカーとして齧歯類宿主細胞、例えばCHO細胞に使用されてもよい。好ましくは、哺乳類種由来の葉酸受容体が使用され、例えばマウス、ラットやハムスターなどの齧歯類に由来し、または、さらに好適にはヒトに由来する。一実施形態によれば、ヒト葉酸受容体アルファ由来の変異型葉酸受容体が、選択可能マーカーとして使用される。
【0041】
変異型葉酸受容体は、葉酸受容体アルファ、葉酸受容体ベータおよび葉酸受容体ガンマからなる群から選択することができる。変異型葉酸受容体は、以降に配列番号1、3、4、6、7および8に示されるアミノ酸配列を含む野生型葉酸受容体を由来としてもよいが、前記変異型葉酸受容体は、対応する野生型葉酸受容体に比べて低下した葉酸結合親和性をもたらす少なくとも1つの変異を含む。好ましくは、変異型葉酸受容体は、葉酸受容体アルファ、具体的にはヒト葉酸受容体アルファに由来する。
【0042】
成熟型の野生型ヒト葉酸受容体アルファは、以下のアミノ酸配列(配列番号1、1文字コード、N末端からC末端の方向に示されている):
【化3】
を含む。
【0043】
葉酸受容体アルファは、天然にはGPIアンカーによって細胞膜に繋留されている。GPIアンカーのシグナル配列は、配列番号1に示されていない。一実施形態によれば、配列番号1に由来する変異型葉酸受容体アルファは、GPIアンカーシグナルをC末端に含む。任意の適したGPIアンカーシグナルが使用されうる。ヒト葉酸受容体アルファの天然のGPIアンカーシグナル配列は、以下(配列番号2、1文字コード、N末端からC末端の方向に示されている):
【化4】
である。
【0044】
膜の繋留は、代替的には、膜アンカー、例えば膜貫通アンカーを使用することによって達成されうる。この実施形態では、変異型葉酸受容体は、C末端に膜アンカーを含む。適したアンカーは、先行技術分野にて公知である。
【0045】
配列番号1に由来する変異型葉酸受容体アルファは、N末端にリーダー配列を含んでいてもよい。変異型葉酸受容体の機能的な発現を確保する、任意の適したリーダー配列を使用することができる。
【0046】
野生型ヒト葉酸受容体アルファの天然のリーダー配列(N末端、下線部)および天然のGPIアンカーシグナル配列(C末端、下線部)を含む全長アミノ酸配列は、以下(配列番号3、1文字コード、N末端からC末端の方向に示されている):
【化5】
である。
【0047】
成熟型のヒト葉酸受容体ベータの野生型配列は、以下のアミノ酸配列(配列番号4、1文字コード、N末端からC末端の方向に示されている):
【化6】
を有する。
【0048】
葉酸受容体ベータは、天然にはGPIアンカーによって膜に繋留されている。GPIアンカーのシグナル配列は、配列番号4に示されていない。一実施形態によれば、配列番号4に由来する変異型葉酸受容体ベータは、GPIアンカーシグナルをC末端に含む。任意の適したGPIアンカーシグナルが使用されうる。ヒト葉酸受容体ベータの天然のGPIアンカーシグナル配列は、以下(配列番号5、1文字コード、N末端からC末端の方向に示されている):
【化7】
である。
【0049】
膜の繋留はまた、膜アンカー、例えば膜貫通アンカーを使用することによって達成されうる。この実施形態では、変異型葉酸受容体は、C末端に膜アンカーを含む。適したアンカーは、先行技術分野にて公知である。
【0050】
配列番号4に由来する変異型葉酸受容体ベータは、N末端にリーダー配列を含んでいてもよい。変異型葉酸受容体の機能的な発現を確保する、任意の適したリーダー配列が使用されうる。
【0051】
野生型ヒト葉酸受容体ベータのリーダー配列(N末端、下線部)および天然のGPIアンカーシグナル配列(C末端、下線部)を含む全長アミノ酸配列は、以下(配列番号6、1文字コード、N末端からC末端の方向に示されている):
【化8】
である。
【0052】
さらに、天然には膜結合していない葉酸受容体が使用されうる。そのような非膜結合型葉酸受容体は、膜結合するように変えられうる。例えば、膜アンカーが提供されうるため、前記葉酸受容体は、葉酸受容体と、別のポリペプチドの膜アンカーとを含む融合タンパク質として発現されうる。さらに、配列が改変されて、GPIアンカーシグナル配列を組み入れられうる。適したGPIアンカーシグナル配列は、上記に記載されており、先行技術分野にて公知でもある。それによって、葉酸受容体は、GPIアンカーによって細胞膜に繋留されうる。同様に、当業者に容易に使用可能となりうる他のバリアントが使用されうる。この点で好適な例は、葉酸受容体ガンマに基づく変異型葉酸受容体でありうるのであって、好ましくはヒト葉酸受容体ガンマでありうるが、この受容体は、遺伝子工学的に変えられて膜アンカーを含む。ここで、葉酸受容体ガンマ配列は、本開示の教示に従い変異されて、低下した葉酸結合親和性を示すことになる。
【0053】
野生型のヒト可溶型葉酸受容体ガンマは、以下のアミノ酸配列(配列番号7、1文字コード、N末端からC末端の方向に示されている):
【化9】
を有する。
【0054】
さらに、配列番号7に由来する変異型葉酸受容体ガンマは、N末端にリーダー配列を含んでいてもよい。変異型葉酸受容体の機能的な発現を確保する、任意の適したリーダー配列が使用されうる。
【0055】
野生型ヒト葉酸受容体ガンマのリーダー配列(下線部)を含む全長アミノ酸配列は、以下(配列番号8、1文字コード、N末端からC末端の方向に示されている):
【化10】
である。
【0056】
葉酸受容体ガンマに基づく本開示による変異型葉酸受容体は、少なくとも1つの変異をそれぞれの配列に含み、葉酸結合親和性の低下した変異型葉酸受容体を提供する。好ましくは、該変異は、葉酸結合ポケットにある。
【0057】
一実施形態によれば、変異型葉酸受容体は、葉酸受容体アルファまたはベータに由来する。一実施形態によれば、変異型葉酸受容体は、葉酸受容体アルファおよびベータに由来するキメラアミノ酸配列を提供することによって得られる。葉酸受容体アルファおよびベータで、リガンド結合に関与する重要なアミノ酸位置は、対応する成熟型の葉酸受容体のアミノ酸配列(例えば配列番号1および4を参照)を参照するならば、49位、104位および166位である(Ramoorthy et al., 2007も参照)。一実施形態によれば、変異型葉酸受容体は、対応する野生型配列の49位、104位および166位から選択されるアミノ酸位置に構造的に対応するかまたはアミノ酸配列相同性により対応するアミノ酸位置に、少なくとも1つの置換を含む。また、1つを超えるアミノ酸が、それぞれの位置にて変異型葉酸受容体中で置換されていてもよい。これらのアミノ酸位置の1つまたは複数での置換は、葉酸結合親和性に強い影響を及ぼす。該置換は、好ましくは、対応する野生型葉酸受容体に比べて、変異型葉酸受容体の葉酸結合親和性を低下させる。一実施形態によれば、結果として得られる変異型葉酸受容体は、対応する野生型葉酸受容体に比べて低減した、5−メチルテトラヒドロ葉酸の6Sジアステレオ異性体への結合親和性を示す。一実施形態によれば、結果として得られる変異型葉酸受容体は、葉酸への結合性の低減を示す。一実施形態によれば、対応する野生型配列中に天然に発生したアミノ酸は、非保存的なアミノ酸によって置換され、前記置換は、変異型葉酸受容体の葉酸結合親和性を低下させる。一実施形態によれば、対応する野生型配列中に天然に発生したアミノ酸は、保存的なアミノ酸によって置換される。保存的な交換では、アミノ酸は、類似の特性を有する群内の別のアミノ酸によって置き換えられる。対応する群の例は:
− 非極性の側鎖を有するアミノ酸:A、G、V、L、I、P、F、W、M
− 極性の側鎖を有する、電荷のないアミノ酸:S、T、G、C、Y、N、Q
− 芳香族側鎖を有するアミノ酸:F、Y、W
− 正電荷があるアミノ酸:K、R、H
− 負電荷があるアミノ酸:D、E
− 類似のサイズおよび分子量であるアミノ酸であって、置き換わっているアミノ酸の分子量は、本来のアミノ酸の分子量から最大で+/−25%(または+/−20%、+/−15%、+/−10%)まで隔たりがある。
【0058】
当該群がまた、例えば正電荷の側鎖を表す群の場合のホモアルギニンなど、それぞれの側鎖のプロファイルを有する改変されたアミノ酸および非天然アミノ酸を含むことは自明である。一実施形態によれば、野生型配列に天然に発生したアミノ酸は、変異型葉酸受容体を提供するために、天然のL−アミノ酸によって置換される。
【0059】
好ましくは、変異型葉酸受容体は、葉酸受容体アルファである。変異型葉酸受容体は、マウス、ラットやハムスターなどの齧歯類に由来しうるか、またはヒト葉酸受容体アルファに由来しうる。好ましくは、変異型葉酸受容体は、ヒト葉酸受容体アルファに由来する。一実施形態によれば、本開示による変異型葉酸受容体は、上記に示した配列番号1または配列番号3を有する野生型ヒト葉酸受容体アルファに由来するが、前記変異型葉酸受容体アルファは、野生型葉酸受容体に比べて低下した葉酸結合親和性をもたらす、少なくとも1つの変異を含む。一実施形態によれば、結果として得られる変異型葉酸受容体は、対応する野生型葉酸受容体に比べて低減した、5−メチルテトラヒドロ葉酸の6Sジアステレオ異性体への結合親和性を示す。一実施形態によれば、結果として得られる変異型葉酸受容体は、代替的にまたは追加的に、葉酸への結合親和性の低減を示す。
【0060】
好ましくは、本開示による変異型葉酸受容体は、配列番号1に示されるような成熟型の野生型ヒト葉酸受容体アルファ配列のアミノ酸49に構造的に対応するかまたはアミノ酸配列相同性により対応するアミノ酸位置に置換を含む。葉酸受容体アルファの成熟型の野生型配列の49位の変異は、葉酸結合ポケットに変異を導入し、それゆえ葉酸結合親和性に強い影響を及ぼす。野生型配列の49位のこのアラニンは、ヒトならびに対応するマウスの野生型葉酸受容体アルファの配列に見出される。もちろん、本開示による変異型葉酸受容体は、その変異型葉酸受容体が機能的である限り、他の位置に追加的な変異を含む。一実施形態によれば、野生型葉酸受容体に比べて葉酸結合親和性を低下させる少なくとも1つの変異は、ロイシン、グリシン、バリン、イソロイシン、ヒスチジンおよびアスパラギン酸からなる群から選択されるアミノ酸による、成熟型の野生型葉酸受容体アルファ配列の49位に存在するアラニンの置換である。好ましくは、該アラニンは、ロイシンによって置換される。本発明者らは、驚くべきことに、葉酸受容体アルファの配列中のA49L置換が、対応する野生型葉酸受容体アルファに比べて、選択可能マーカーとして優れた特性を有する変異型葉酸受容体アルファを提供することを見出した。それぞれのA49L置換を含む変異型葉酸受容体アルファは、対応する野生型葉酸受容体アルファに比べて、葉酸類、とりわけ5−メチルテトラヒドロ葉酸の6Sジアステレオ異性体への結合親和性の低減を示す。さらに、実施例に示されるように、ヒト葉酸受容体アルファのA49L変異体は、首尾よくトランスフェクトされた哺乳類宿主細胞を特定して選択するための、選択マーカーとして使用される際に、重要な利点を示す。そのため、選択マーカーとして使用して、目的の組換えポリペプチドを高収量で発現する宿主細胞を特定することが好ましい。
【0061】
一実施形態によれば、成熟型の変異型葉酸受容体は、ヒト葉酸受容体アルファ(配列番号1)の成熟型の野生型配列に、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%または少なくとも99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むが、該成熟型の変異型葉酸受容体のアミノ酸配列は、野生型ヒト葉酸受容体アルファに比べて葉酸結合親和性を低下させる、少なくとも1つの変異を含む。上記に議論したように、野生型葉酸受容体に比べて葉酸結合親和性を低下させる、該少なくとも1つの変異は、好ましくは、ロイシン、グリシン、バリン、イソロイシン、ヒスチジンおよびアスパラギン酸からなる群から選択されるアミノ酸による、成熟型の野生型葉酸受容体アルファ配列(配列番号1を参照)の49位に存在するアラニンの置換である。好ましくは、49位の該アラニンは、ロイシンによって置換される。そのような変異型葉酸受容体は、対応する野生型葉酸受容体に比べて、5−メチルテトラヒドロ葉酸の6Sジアステレオ異性体への結合親和性の低減と、選択可能マーカーとしての特徴の向上とを示す。
【0062】
一実施形態によれば、第1のポリヌクレオチドは、変異型葉酸受容体をコードし、前記変異型葉酸受容体は、以下の特徴を有する:
a)成熟型の変異型葉酸受容体が、以下の配列
【化11】
を含み、Xaaはアラニンではなく、好ましくはロイシン、グリシン、バリン、イソロイシン、ヒスチジンおよびアスパラギン酸から選択されるアミノ酸であり、さらに好ましくは、Xaaはロイシンである、または
b)成熟型の変異型葉酸受容体が、配列番号9として示される配列と少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%または少なくとも99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含み、Xaaは、前記変異型葉酸受容体中でアラニンではなく、好ましくは、Xaaは、ロイシン、グリシン、バリン、イソロイシン、ヒスチジンおよびアスパラギン酸から選択されるアミノ酸であり、さらに好ましくは、Xaaはロイシンであり、Xaaがアラニンである成熟型の野生型ヒト葉酸受容体アルファ配列(配列番号1を参照)に比べて、前記変異型葉酸受容体の葉酸結合親和性が低減している。一実施形態によれば、前記変異型葉酸受容体は、対応する野生型葉酸受容体に比べて低減した、5−メチルテトラヒドロ葉酸の6Sジアステレオ異性体への結合親和性を示す。一実施形態によれば、結果として得られる変異型葉酸受容体は、追加的にまたは代替的に、葉酸への結合の低減を示す。b)による変異型葉酸受容体は、a)の機能的なバリアントとして見ることができ、a)による変異型葉酸受容体に比べて、1つまたは複数のアミノ酸の追加的な変異(複数可)を含む。例えば、それは、葉酸受容体としての機能が除去されない限り、1つもしくは複数の追加的な置換、欠失および/または1つもしくは複数のアミノ酸の添加を含んでいてもよい。また、包含されるのは、それぞれの変異型葉酸受容体配列を含む、融合タンパク質である。
【0063】
上記に議論したように、好ましくは、Xaaはロイシンである。実施例に示されるように、葉酸受容体アルファの野生型配列の49位に含まれるアラニンをロイシンへ変異させることによって、対応する野生型配列に比べて、選択可能マーカーとして優れた特徴がある変異型葉酸受容体が提供される。実施例によって示されるように、葉酸受容体アルファの成熟型の野生型配列の49位に対応する位置に変異を担持する変異型葉酸受容体を、選択可能マーカーとして含む細胞は、選択後に、高い目的のポリペプチドの生産性を示し、その生産性は、対応する野生型葉酸受容体を選択可能マーカーとして使用した際に達成される生産性よりもしばしばいっそうかなり高く、また、他の変異型受容体の形態を用いて達成される生産性よりも高い。さらに、該細胞は、さらに速く選択から回復する。これらの重要な利点は、A49L変異型葉酸受容体を、選択可能マーカーとして特に適するものとする。前記変異型葉酸受容体アルファは、Shen et al, 1997に記載され、特徴が明らかにされている。そこでは、前記変異型バージョンは、5−メチルテトラヒドロ葉酸の6Sジアステレオ異性体への結合親和性の低減を示し、野生型葉酸受容体アルファ(2.9)からほぼ60倍に(179.0)へと増加するIC50(nM)値によって見ることができる通りであるということが示されている。
【0064】
変異型葉酸受容体は、膜結合しており、例えばGPIアンカーまたは膜貫通アンカーを含んでいてもよい。上記に記載されているように、葉酸受容体アルファおよびベータは、天然にはGPIアンカーによって細胞膜に繋留されている。GPIアンカーを膜の繋留に使用する際には、コードするポリヌクレオチドは、GPIアンカーを付加するための適切なシグナル配列を提供しなければならない。GPIアンカーに適したシグナル配列は、先行技術分野にて公知であり、また、上記にも記載された。上記に説明したように、それぞれのGPIアンカーシグナル配列は、C−末端に供されて、本開示と併せて使用することができる。
【0065】
一実施形態によれば、未熟型の変異型葉酸受容体は、野生型の機能的なヒト葉酸受容体アルファのリーダー配列を含み、以下(配列番号10、1文字コード、N末端からC末端の方向に示されている)に示される通りである。
【化12】
【0066】
野生型ヒト葉酸受容体ベータおよびガンマのリーダー配列を続いて示す(配列番号11および12、1文字コード、N末端からC末端の方向に示されている)。
【化13】
【0067】
一実施形態によれば、第1のポリヌクレオチドは、変異型葉酸受容体をコードし、前記変異型葉酸受容体は、以下の特徴を有する:
a)以下の配列
【化14】
を含み、Xaaはロイシンである、変異型葉酸受容体、または
b)配列番号13として示される配列と少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%または少なくとも99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含み、Xaaは、b)による前記変異型葉酸受容体中でロイシンであり、Xaaがアラニンである成熟型の野生型ヒト葉酸受容体アルファ配列(配列番号1を参照)に比べて、5−メチルテトラヒドロ葉酸の6Sジアステレオ異性体への前記変異型葉酸受容体の結合親和性が低減している、変異型葉酸受容体。
【0068】
目的のポリペプチド
発現ベクターまたは発現ベクターの組合せは、目的のポリペプチドをコードする少なくとも1つのポリヌクレオチドを含む。前記発現ベクターまたはベクターの組合せが、本明細書に記載のように、例えば哺乳類細胞などの葉酸類依存性の宿主細胞に導入される際に、目的のポリペプチドが、前記宿主細胞から分泌される。したがって、目的のポリペプチドは、分泌型のポリペプチドである。ポリヌクレオチドは、天然に分泌されるポリペプチドをコードしていてもよいし、適切な分泌リーダー配列を供することによって分泌されるように変えられていてもよい。大多数の分泌型ポリペプチドは、生合成の間に新生の前駆体ポリペプチドから切り離される、アミノ末端リーダーペプチド(分泌リーダー配列またはシグナルペプチドともいう)を保有する。分泌リーダーペプチドは、通常5から60アミノ酸長である。この配列は、分泌に必要であり十分である。数多くの分泌リーダー配列の例が、先行技術分野にて周知であり、それゆえ本明細書で詳細な記載を何ら必要としない。多数のこれらの分泌リーダーペプチドを分析することによって、著しいアミノ酸配列相同性がなく発生する一般的な構造モチーフが明らかにされている(Von Heijne, 1981;Perlman et al, 1983、Bird et al, 1990)。概して、分泌リーダー配列は、正電荷があるアミノ末端(n)、疎水性コア(h)、およびシグナルペプチダーゼ切断部位を画定するさらに極性が高いカルボキシ末端(c)からなる。欠失によって、または親水性もしくは電荷のあるアミノ酸への疎水性残基の置換によって、h領域を破壊することは、シグナル機能の喪失を引き起こすが、一方で、「n」領域を変えることは、殆ど影響を及ぼさない。カルボキシ末端または切断領域は、典型的には約6アミノ酸長である。この領域は、シグナルペプチダーゼの認識および切断に関与し、通常はタンパク質の最終的な折畳みおよび分泌を達成するために要される。
【0069】
目的のポリペプチドは、医薬的にもしくは治療上の活性がある化合物、またはアッセイなどに利用される研究ツールでありうる。目的のポリペプチドは、任意の種類でありうる。「ポリペプチド」という用語は、ペプチド結合(複数可)によって共に連結されたアミノ酸のポリマーを含む分子を指す。ポリペプチドは、タンパク質(例えば50アミノ酸超を有する)およびペプチド(例えば2〜49アミノ酸)を含めた、任意の長さのポリペプチドを含む。ポリペプチドは、任意の活性、機能またはサイズを有するタンパク質および/またはペプチドを含み、例えば酵素(例えばプロテアーゼ、キナーゼ、ホスファターゼ)、受容体、輸送体、殺菌性および/またはエンドトキシン結合性タンパク質、構造ポリペプチド、糖タンパク質、球状タンパク質、免疫ポリペプチド、毒素、抗生物質、ホルモン、成長因子、血液因子、ワクチンなどが挙げられうる。ポリペプチドは、ペプチドホルモン、インターロイキン、組織プラスミノーゲン活性化因子、サイトカイン、免疫グロブリン、具体的には抗体もしくは機能性抗体断片またはそれらのバリアント、およびFc融合タンパク質からなる群から選択されてもよい。本明細書に記載の教示に従って発現される目的のポリペプチドはまた、例えば抗体の重鎖または軽鎖やそれらの機能的断片または誘導体など、ポリペプチドのサブユニットまたはドメインであってもよい。「目的のポリペプチド」という用語は、文脈に依拠して、そのような個々のサブユニットもしくはドメイン、またはそれぞれのサブユニットもしくはドメインからなる最終的なタンパク質を指しうる。好適な実施形態では、目的のポリペプチドは、免疫グロブリン分子であり、さらに好ましくは抗体、またはそのサブユニットもしくはドメイン、例えば抗体の重鎖や軽鎖などである。本明細書で使用されるときの「抗体」という用語は、具体的には、ジスルフィド結合によって接続された少なくとも2つの重鎖と2つの軽鎖とを含む、タンパク質を指す。「抗体」という用語は、天然に発生した抗体、ならびに例えばヒト化抗体、完全ヒト抗体およびキメラ抗体などの抗体の全ての組換え形態を含む。各重鎖は、通常、重鎖可変領域(VH)および重鎖定常領域(CH)からなる。各軽鎖は、通常、軽鎖可変領域(VL)および軽鎖定常領域(CL)からなる。しかし、「抗体」という用語はまた、単ドメイン抗体、重鎖抗体、例えば1つまたは複数、具体的には2つの重鎖からなるのみの抗体、およびナノボディ、例えば単一のモノマーの可変ドメインからなるのみの抗体など、他の種類の抗体をも含む。上記に議論したように、目的のポリペプチドをコードするポリヌクレオチドはまた、抗体の1つまたは複数のサブユニットまたはドメイン、例えば重鎖もしくは軽鎖または機能的断片またはその誘導体などを、目的のポリペプチドとしてコードしていてもよい。前記サブユニットまたはドメインは、同じ発現カセットと異なる発現カセットとのどちらかからでも発現されうる。抗体の「機能的断片またはその誘導体」とは、具体的には、抗体由来であり、かつ同じ抗原に、具体的にはその抗体と同じエピトープに結合することが可能な、ポリペプチドを指す。抗体の抗原結合機能は、抗体全長またはその誘導体の断片によって実行されることが示されている。抗体の断片または誘導体の例としては、(i)重鎖および軽鎖それぞれの可変領域と第1の定常ドメインからなる一価の断片であるFab断片、(ii)ヒンジ領域でジスルフィド架橋によって連結された2つのFab断片を含む二価の断片であるF(ab)断片、(iii)重鎖の可変領域と第1の定常ドメインCH1とからなるFd断片、(iv)抗体の単腕の重鎖および軽鎖の可変領域からなるFv断片、(v)単ポリペプチド鎖からなるFv断片であるscFv断片、(vi)共有結合で共に連結した2つのFv断片からなる(Fv)断片、(vii)重鎖可変ドメイン、ならびに(viii)重鎖および軽鎖の可変領域の会合が、分子内ではなく分子間にのみ発生しうるように、共有結合で共に連結した重鎖可変領域および軽鎖可変領域からなるマルチボディが挙げられる。
【0070】
追加的な選択可能マーカー
一実施形態によれば、本開示による発現ベクターまたは少なくとも2つの発現ベクターの組合せは、さらに別の選択可能マーカーをコードする1つまたは複数のポリヌクレオチドを追加的に含む。選択可能マーカーは、適切な選択培養条件下で、前記選択可能マーカーを発現する宿主細胞の選択を可能にする。選択可能マーカーは、選択条件下で前記マーカーの担体に、生存および/または成長の優位性を付与する。典型的には、選択可能マーカー遺伝子は、薬物など、例えば抗生物剤や他の毒性剤などの選択剤に対する抵抗性を付与するか、または宿主細胞の代謝不全もしくは異化不全を補うことになる。それは、陽性選択マーカーでも陰性選択マーカーでもよい。首尾よくトランスフェクトされた宿主細胞を選択するために、使用された選択可能マーカーに対する選択を可能にする選択剤を含む培養培地が、宿主細胞を培養するために使用されてもよい。他の実施形態では、選択マーカーは、選択マーカーを欠いた宿主細胞が生存および/または増殖するために不可欠な化合物の非存在下または低減下で生存および増殖することを、宿主細胞に可能にせしめる。一実施形態によれば、選択可能マーカーは、前記薬物を伴う選択条件に抵抗性を付与するタンパク質をコードする、薬物耐性マーカーである。種々の選択可能マーカー遺伝子が当業者に周知であり、文献に記載されている(例えばWO92/08796、WO94/28143、WO2004/081167、WO2009/080759、WO2010/097240)。選択可能マーカーは、一実施形態によれば、増幅可能な選択可能マーカーであってもよい。哺乳類細胞で一般に使用される選択可能マーカー遺伝子としては、アミノグリコシドホスホトランスフェラーゼ(APH)、ハイグロマイシンホスホトランスフェラーゼ(hyg)、ジヒドロ葉酸レダクターゼ(DHFR)、チミジンキナーゼ(tk)、グルタミンシンターゼ、アスパラギンシンターゼの遺伝子、ならびにネオマイシン(G418)、ピューロマイシン、ハイグロマイシンおよびゼオシンへの抵抗性をコードする遺伝子が挙げられる。そのような選択可能マーカーは、変異型葉酸受容体に加えて使用されてもよい。
【0071】
一実施形態によれば、発現ベクターまたは発現ベクターの組合せは、葉酸類代謝(folate metabolism)に関与する選択可能マーカーをコードする追加的なポリヌクレオチドを含み、そこでは、前記選択可能マーカーの活性は、変異型葉酸受容体の活性によって少なくとも部分的に影響を受ける。追加的な選択可能マーカーの活性が、変異型葉酸受容体の活性によって少なくとも部分的に影響を受けるという特色は、具体的には、前記追加的な選択可能マーカーの活性が、変異型葉酸受容体の活性もしくは機能によって影響を受けるおよび/または少なくともある程度は直接的または間接的に依拠するということを意味する。変異型葉酸受容体およびさらに別の選択可能マーカーのこの依存性/相互作用を使用して、選択培養条件下で宿主細胞への選択圧を、かなり増加させることができる。
【0072】
一実施形態によれば、追加的な選択可能マーカーは、葉酸類、葉酸類の誘導体、および/またはDHFやTHFなどの葉酸類もしくは機能的バリアントもしくは前述物の誘導体のプロセシングによって得ることができる生産物である基質を、プロセシングする酵素である。それぞれの基質は、核酸を生産するために重要である。好ましくは、追加的な選択可能マーカーは、ジヒドロ葉酸レダクターゼ(DHFR)、またはチミジレートシンターゼ(TS)やセリンヒドロキシメチルトランスフェラーゼ(SHMT)など、DHFRの下流でもしくはDHFRと併せて動作する酵素である。好ましくは、追加的な選択可能マーカーは、DHFRである。DHFRはまた、融合タンパク質の一部として発現されてもよい。
【0073】
選択可能マーカー、すなわち、本開示による変異型葉酸受容体と、上記に記載されているような葉酸類代謝に関与する追加的な選択可能マーカー、好ましくはDHFRとのそれぞれの組合せを使用することによって、トランスフェクトされた宿主細胞集団から高生産細胞を取得して濃縮するための、非常にストリンジェントな選択系が提供される。好ましくはDHFRなど、葉酸類代謝に関与するさらに別の選択可能マーカーと併せて、葉酸受容体を選択可能マーカーとして使用するというこの概念および関連する利点は、参照により本明細書に組み入れられているWO2010/097240に開示されている。実施例によって示されるように、この実施形態による選択系の高いストリンジェンシーは、選択後に得られた集団中の低生産株の数をかなり低下させ、それによって、非常に稀少な過剰生産クローンを見出す機会を増加させる。その上、スクリーニングの労力を低減する選択の後に、さらに均一な高生産細胞の集団が得られる。このことは、高生産細胞の単一細胞クローニングを簡素にする。実施例によって示されるように、本明細書に記載されているような変異型葉酸受容体を、上記に記載されているような葉酸類代謝に関与する追加的な選択可能マーカー、好ましくはDHFRと組み合わせて使用することによって、野生型葉酸受容体をそのような選択可能マーカーと組み合わせて使用した際と比べて、結果の向上がもたらされる。そのため、それぞれの選択可能マーカーの組合せを使用した際にも、本開示によって、変異型葉酸受容体の使用に起因する多大な利点が提供される。
【0074】
上記に議論されているように、追加的な選択可能マーカーは、好ましくはDHFR酵素である。本開示に併せて選択可能マーカーとして使用することができる、いくつかの適したDHFR酵素およびそれに準じた遺伝子が、先行技術分野にて公知である。「ジヒドロ葉酸レダクターゼ」または「DHFR」という用語は、野生型DHFRを指すと共に、対応する野生型DHFR酵素のアミノ酸配列について1つまたは複数のアミノ酸配列変換(例えば欠失、置換または添加)を有するDHFR酵素、DHFR酵素を含む融合タンパク質、ならびに追加的な構造および/または機能を付与するように改変されたDHFR酵素、ならびに前述物の機能的断片であってDHFR酵素の少なくとも1つの機能を依然として有する断片を指す。そのような実施形態は、先行技術分野にて周知であり、それゆえ詳細に記載される必要はない。例えば、DHFR酵素は、野生型DHFR酵素および/または発現される場合に宿主細胞によって内因的に発現されるDHFR酵素よりも、MTXなどの葉酸代謝拮抗剤に対する感受性がさらに高いまたは低い選択可能マーカーとして、使用されることがある。それぞれのDHFR酵素は、先行技術分野にて周知であり、例えば、欧州特許第0246049号および他の書類に記載されている。DHFR酵素は、本発明の範囲内で機能的となる限り、すなわち、利用される哺乳類宿主細胞に適合する限り、任意の種に由来することができる。例えば、MTXに主要な抵抗性がある変異マウスDHFRが、哺乳類細胞で最も有力な選択可能マーカーとして、広く使用されている。DHFR(プラス)宿主細胞でありそれゆえ機能的な内因性のDHFR遺伝子を含む宿主細胞で内因的に発現されるDHFR酵素よりも、MTXなどのDHFR阻害剤から受ける影響が低いDHFR酵素が、選択可能マーカーとして使用されてもよい。一実施形態によれば、イントロンまたはその断片が、DHFR遺伝子のオープンリーディングフレームの3’末端に配置される。DHFR発現カセットで使用されるイントロンは、さらに小さく非機能的なDHFR遺伝子のバリアントをもたらす(Grillari et al., 2001, J. Biotechnol. 87, 59-65)。それによって、DHFR遺伝子の発現レベルは低下し、このことは選択のストリンジェンシーをさらに増加させる。DHFR遺伝子の発現レベルを低減させるためのイントロンを使用する代替の方法は、欧州特許第0724639に記載されており、それも使用することができよう。
【0075】
追加的な選択可能マーカーをコードするポリヌクレオチドは、変異型葉酸受容体をコードするポリヌクレオチドおよび/または目的のポリペプチドをコードする少なくとも1つのポリヌクレオチドと同じ発現ベクターに位置しうるか、または発現ベクターの組合せが使用される場合には別々の発現ベクターに位置しうる。この場合には、全てのポリヌクレオチド(変異型葉酸受容体、目的のポリペプチドおよび追加的な選択可能マーカーをコードする)を含む発現ベクターの組合せが、宿主細胞にトランスフェクトされて、選択を可能にすることになる。
【0076】
好適な実施形態によれば、発現ベクターまたは発現ベクターの組合せは、
− ヒト葉酸受容体アルファの成熟型の野生型配列(配列番号1を参照)のアミノ酸49に構造的に対応するかそのアミノ酸位置により対応する少なくとも1つの変異を含む変異型葉酸受容体をコードするポリヌクレオチドであって、前記変異は、野生型葉酸受容体アルファに比べて葉酸結合親和性を低下させ、好ましくは、前記位置にて野生型配列中に存在するアラニンは、ロイシンによって置換されている、ポリヌクレオチドと、
− 野生型DHFR酵素および/または宿主細胞中で選択可能マーカーとして内因的に発現されるDHFR酵素よりもMTXに対する感受性が低いDHFRをコードするポリヌクレオチドとを含む。前記DHFRはまた、好ましくは、上記に記載されているようにイントロンを含む。それぞれのマーカーの組合せは、DHFR(プラス)細胞を宿主細胞として使用する場合に、特に好適である。DHFR(プラス)細胞は、内因性のDHFRを発現する。実施例によって示されるように、非常に高生産の細胞クローンは、それぞれのベクターまたは発現ベクターの組合せを使用した際に、効率良く選択することができる。
【0077】
本開示による発現ベクターまたは少なくとも2つの発現ベクターの組合せは、選択可能マーカーをコードする1つまたは複数のさらに別のポリヌクレオチド(複数可)を追加的に含んでいてもよい。そのようなさらに別の選択可能マーカーは、変異型葉酸受容体および葉酸類代謝に関与する追加的な選択可能マーカー、好ましくはDHFRに加えて存在しうる。
【0078】
真核宿主細胞の選択を可能にするさらに別の真核の選択可能マーカーの他に、原核の選択可能マーカーもまた、発現ベクターまたは発現ベクターの組合せに存在しうる。これは、例えば、原核生物内でベクター(複数可)の増幅を可能にする。「原核の選択可能マーカー」とは、適切な選択条件下で原核宿主細胞での選択を可能にする、選択可能マーカーである。それぞれの原核の選択可能マーカーの例は、例えばアンピシリン、カナマイシン、テトラサイクリンおよび/またはクロラムフェニコールなどの抗生物質に対する抵抗性を付与するマーカーである。
【0079】
さらに別のベクターエレメントおよび発現ベクター(複数可)の実施形態
発現ベクターまたは少なくとも2つの発現ベクターの組合せは、さらに別のベクターエレメントを追加的に含むことができる。例えば、さらに別の目的のポリペプチドをコードする少なくとも1つの追加的なポリヌクレオチドが含まれうる。上記に説明したように、そして発現されうるポリペプチドに関する記載された実施例から明らかになるように、宿主細胞によって生産されて分泌される最終的なポリペプチドはまた、いくつかの個々のサブユニットまたはドメインから構成されるタンパク質でもありうる。それぞれのタンパク質の好適な例は、免疫グロブリン分子であり、具体的には、例えば重鎖と軽鎖とを含む抗体である。種々の個々のサブユニットまたはドメインから構成されるそれぞれのタンパク質を生産するためのいくつかの選択肢があり、適切なベクターの設計は、当技術分野にて公知である。一実施形態によれば、前記タンパク質の2つまたはそれ以上のサブユニットまたはドメインが、1つの発現カセットから発現される。この実施形態では、タンパク質の個々のサブユニットまたはドメインのコード領域を含むそれぞれの発現カセットから、1つの長い転写物が得られる。一実施形態によれば、少なくとも1つのIRESエレメント(内部リボソーム進入部位)が、個々のサブユニットまたはドメインのコード領域の間に機能的に位置し、それぞれのコード領域を、分泌リーダー配列が先行する。それによって、前記転写物から別々の翻訳産物が得られ、最終的なタンパク質が正しくアセンブリされて分泌されうることが確保される。それぞれの技術は、先行技術分野にて公知であり、それゆえ本明細書にて詳細な記載を何ら必要としない。
【0080】
しかし、種々の発現カセットから個々のサブユニットまたはドメインを発現させることは、本開示の範囲内にもあり、かつ抗体の発現などのいくつかの実施形態のためにいっそう好適である。一実施形態によれば、目的のポリペプチドを発現させるために使用する発現カセットは、モノシストロン性の発現カセットである。好ましくは、発現ベクターまたは発現ベクターの組合せに含まれる全ての発現カセットは、モノシストロン性である。一実施形態によれば、したがって、各発現カセットは、目的のポリペプチドとして発現されるタンパク質の1つのサブユニットまたはドメインをコードするポリヌクレオチドを含む。例えば、抗体の場合には、1つの発現カセットが、抗体の軽鎖をコードし、別の発現カセットが、抗体の重鎖をコードする。個々の発現カセットから個々のサブユニット/ドメインが発現された後に、抗体などの最終的なタンパク質が、前記サブユニットまたはドメインからアセンブリされて、宿主細胞から分泌される。この実施形態は、抗体などの免疫グロブリン分子を発現させるために、特に適する。この場合、目的のポリペプチドをコードする第1のポリヌクレオチドは、例えば免疫グロブリン分子の重鎖または軽鎖をコードし、目的のポリペプチドをコードする第2のポリヌクレオチドは、免疫グロブリン分子のもう一方の鎖をコードする。一実施形態によれば、発現ベクターまたは少なくとも2つの発現ベクターの組合せは、免疫グロブリン分子の重鎖またはその機能的断片をコードするポリヌクレオチドを含む少なくとも1つの発現カセットと、免疫グロブリン分子の軽鎖またはその機能的断片をコードするポリヌクレオチドを含む少なくとも1つの発現カセットとを含む。少なくとも2つの発現ベクターの組合せが使用される場合、前記ポリヌクレオチドは、同じ発現ベクター上に位置していても異なる発現ベクター上に位置していてもよい。トランスフェクトされた宿主細胞で前記ポリヌクレオチドが発現されるとすぐに、機能的な免疫グロブリン分子が得られて、宿主細胞から分泌される。
【0081】
目的の組換え生産物を発現させるために使用される発現ベクターは、発現カセットのエレメントとして、例えばプロモーター、エンハンサー、ポリアデニル化シグナル、転写休止または終結シグナルなど、転写を駆動するのに適した転写制御エレメントを、発現カセットのエレメントとして含有する。適した翻訳制御エレメントが、好ましくは含まれており、例えばリボソームのリクルートに適した5’キャップ構造をもたらす5’非翻訳領域および翻訳過程を終結させる終止コドンなどである。選択可能マーカー遺伝子(複数可)の結果として得られる転写物および目的のポリペプチドのそれは、十分なレベルのタンパク質発現(すなわち翻訳)および適正な翻訳終結を推進する、機能的な翻訳エレメントを具える。機能的な発現ユニットは、組み入れられたポリヌクレオチドの発現を適正に駆動することが可能であり、本明細書では「発現カセット」ともいう。目的の分泌されるポリペプチドをコードするポリヌクレオチド(複数可)と、本明細書に記載されているような選択可能マーカー(複数可)をコードするポリヌクレオチドとが、好ましくは発現カセットに含められる。いくつかの実施形態が適しており、例えば、前記ポリヌクレオチド(複数可)のそれぞれは、別々の発現カセットに含められうる。しかし、少なくとも2つのそれぞれのポリヌクレオチドはまた、1つの発現カセットに含められていてもよい。一実施形態によれば、少なくとも1つの内部リボソーム進入部位(IRES)エレメントが、同じ発現カセットから発現されるポリヌクレオチドの間に、機能的に位置する。それによって、別々の転写産物が前記転写物から得られることが確保される。IRESに基づくそれぞれの発現技術、および他のバイシストロン性またはポリシストロン性の系は、周知であり、それゆえここにさらに進んだ記載を何ら必要とはしない。
【0082】
記載されているように、本開示による発現ベクターまたは発現ベクターの組合せは、発現カセットのエレメントとして、少なくとも1つのプロモーターおよび/またはプロモーター/エンハンサーエレメントを含んでいてもよい。プロモーターは2つのクラスに、恒常的に機能するものと、誘導または抑制によって調節されるものとに分けることができる。どちらも本願の教示に併せるのに適している。哺乳類細胞での高レベルのタンパク質の生産に使用されるプロモーターは、広範な細胞の種類で強力であるか、好ましくは活性があるべきである。多くの細胞の種類で発現を駆動する強力な恒常的なプロモーターとしては、以下に限定されないが、アデノウイルス主要後期プロモーター、ヒトサイトメガロウイルス即時初期プロモーター、SV40およびラウス肉腫ウイルスプロモーター、およびマウス3−ホスホグリセレートキナーゼプロモーター、EF1aが挙げられる。一実施形態によれば、プロモーターおよび/またはエンハンサーは、CMVおよび/またはSV40のどちらかから得られる。転写プロモーターは、SV40プロモーター、CMVプロモーター、EF1アルファプロモーター、RSVプロモーター、BROAD3プロモーター、マウスrosa26プロモーター、pCEFLプロモーターおよびβ−アクチンプロモーターからなる群から選択されうる。
【0083】
一実施形態によれば、目的のポリペプチドをコードする少なくとも1つのポリヌクレオチド、変異型葉酸受容体をコードするポリヌクレオチドおよび/または第2の選択可能マーカーをコードするポリヌクレオチドは、別々の転写プロモーターの制御下にある。ポリヌクレオチドからの発現を駆動する別々の転写プロモーターは、同じであるかまたは異なりうる。
【0084】
一実施形態によれば、目的のポリペプチドをコードする少なくとも1つのポリヌクレオチドの発現を駆動するために、変異型葉酸受容体および/または1つまたは複数の追加的な選択可能マーカーをコードするポリヌクレオチドの発現を駆動させるためのものよりも強力なプロモーターおよび/またはエンハンサーが使用される。この仕組みは、選択可能マーカーのためのものよりも多くの転写物が、目的のポリペプチドのために生成するという効果を有する。異種の生産物を生産するための個々の細胞の能力は、無限ではなく、それゆえ目的のポリペプチドに集中させるべきであることから、目的のポリペプチドの生産が、選択可能マーカーの生産よりも優勢であるということは、好都合である。さらに、選択の過程は、発現細胞株を樹立する初発の段階に発生するのみであり、該発現細胞株は、次いで、目的のポリペプチドを絶えず生産する。そのため、目的のポリペプチドの発現/生産に細胞の資源を集中することは、好都合である。さらに、目的のポリペプチドを発現させるために使用するよりも強さに劣るプロモーターを、選択可能マーカーを発現させるために使用する場合、トランスフェクトされた宿主細胞への選択圧はさらに増加する。
【0085】
一実施形態によれば、目的のポリペプチドをコードするポリヌクレオチド(複数可)の発現を駆動するプロモーターは、CMVプロモーターであり、変異型葉酸受容体をコードするポリヌクレオチドの発現を駆動するプロモーターは、SV40プロモーターである。CMVプロモーターは、哺乳類での発現に利用可能な最強のプロモーターの1つとして公知であり、非常に良好な発現率をもたらす。それは、SV40プロモーターよりも大幅に多くの転写物を与えると考えられている。しかし、他のプロモーターも使用することができる。
【0086】
さらに別の実施形態によれば、目的のポリペプチドをコードする少なくとも1つのポリヌクレオチド、変異型葉酸受容体をコードするポリヌクレオチドおよび/または選択可能マーカーをコードするポリヌクレオチドは、存在する場合に、同じ転写プロモーターの制御下にある。適したプロモーターは、上記に記載されている。この実施形態では、前記転写プロモーターの制御下にあるそれぞれの発現カセットから1つの長い転写物が得られる。一実施形態によれば、少なくとも1つのIRESエレメントが、同じ発現カセットから発現されるポリヌクレオチドの間に、機能的に位置する。
【0087】
発現ベクターまたは少なくとも2つの発現ベクターの組合せは、発現カセットのエレメントとして、適切な転写終結部位を含んでいてもよい。これは、上流のプロモーターから第2の転写ユニットを経て継続される転写として、下流のプロモーターの機能を阻害する場合があり、プロモーター閉塞または転写干渉として知られる現象である。転写終結部位は、特徴がよく明らかにされており、それが発現ベクターへ組み入れられることは、遺伝子発現への複数の有益な効果を有することが示されている。
【0088】
発現カセットは、ポリアデニル化部位を含んでいてもよい。哺乳類発現ベクターに使用することができるいくつかの効率の良いポリAシグナルがあり、そのようなシグナルとしては、ウシ成長ホルモン(bgh)、マウスベータ−グロビン、SV40初期転写ユニット、および単純ヘルペスウイルスチミジンキナーゼ遺伝子に由来するものが挙げられる。しかし、合成ポリアデニル化部位も公知である[例えばLevitt el al, 1989, Genes Dev. 3, (7): 1019-1025に基づくプロメガ(Promega)社のpCI−neo発現ベクターを参照]。ポリアデニル化部位は、SV40後期および初期のポリA部位(例えばSubramani et al, 1981, Mol.Cell. Biol. 854-864に記載されているようなプラスミドpSV2−DHFRを参照)などのSV40ポリA部位、合成ポリA部位[例えばLevitt el al, 1989, Genes Dev. 3, (7): 1019-1025に基づくプロメガ社のpCI−neo発現ベクターを参照]、およびbghポリA部位(ウシ成長ホルモン)からなる群から選択することができる。
【0089】
さらに、発現カセットは、少なくとも1つのイントロンを含んでいてもよい。通常、イントロンは、オープンリーディングフレームの5’末端に配置されるが、3’末端にも配置されていてもよい。
【0090】
したがって、イントロンを発現カセット(複数可)に含めて、発現率を増加させてもよい。前記イントロンは、プロモーターおよびまたはプロモーター/エンハンサーエレメント(複数可)と、発現されるポリヌクレオチドのオープンリーディングフレームの5’末端との間に、位置していてもよい。本開示と併せて使用することができるいくつかの適したイントロンが、最先端の技術分野にて公知である。一実施形態によれば、目的のポリペプチドを発現させるための発現カセットで使用されるイントロンは、SISやRKイントロンなどの合成イントロンである。RKイントロンは、CMVプロモーターのイントロン供与スプライシング部位およびマウスIgG重鎖可変領域の受容スプライシング部位からなり[例えば、Eaton et al., 1986, Biochemistry 25, 8343-8347, Neuberger et al., 1983, EMBO J. 2(8), 1373-1378を参照、pRK−5ベクター(BD PharMingen)から得ることができる]、好ましくは目的の遺伝子のATG開始コドンの前に配置される。
【0091】
本開示による発現ベクターまたはベクターの組合せは、宿主細胞内に環状の形態でも線状化された形態でもトランスフェクトされうる。トランスフェクション前の発現ベクターの線状化は、安定なトランスフェクションの効率をしばしば向上させる。これはまた、発現ベクターがトランスフェクションの前に線状化される場合に、線状化の箇所として制御されてもよい。前記線状化部位に適した設計は、例えばWO2009/080720に記載されている。発現ベクター(複数可)はまた、原核の複製起点を含んでいてもよい。
【0092】
本開示による発現ベクターまたは発現ベクターの組合せは、先行技術分野にて公知の他の選択系を用いた変異型葉酸受容体の使用に基づく、本開示による選択方法の組合せを可能にするために、追加的なエレメントを含んでもよい。
【0093】
高発現宿主細胞を選択するために、先行技術分野にて公知の確立された選択方法の1つは、フローサイトメトリー、具体的には蛍光活性化細胞選別法(FACS)の使用に基づくものである。フローサイトメトリーを採用した選択方法は、多数の細胞を、所望の特徴ある発現収量について、迅速にスクリーニングすることができるという利点がある。高生産細胞クローンを特定するために特に有用な一選択方法では、目的のポリペプチド、例えば抗体などの一片が、膜結合した融合ポリペプチドとして発現される。それによって、生産物の一片が、細胞表面に融合ポリペプチドとして提示される。生産された融合ポリペプチドの量は、全体の発現率に相関するため、フローサイトメトリーを介して、細胞表面に提示された融合ポリペプチドの量に基づき、宿主細胞を選択することができる。これによって、高生産宿主細胞を迅速に選択することが可能になる。本開示による選択系は、フローサイトメトリーの使用に基づくそれぞれの選択方法と、好都合に組み合わせることができる。FACSを使用した効率の良い選択を可能にするために、好ましくは、特殊な発現カセットを、目的のポリペプチドを発現させるために使用する。そのため、一実施形態によれば、目的のポリペプチドをコードするポリヌクレオチドは、発現された目的のポリペプチドの一片が膜貫通アンカーを含むように設計された発現カセットに含まれている。その結果を達成するために、いくつかの選択肢が存在する。
【0094】
一実施形態によれば、目的のポリペプチドを発現させるための前記発現カセットは、少なくとも
(i)目的のポリペプチドをコードするポリヌクレオチドと、
(ii)該目的のポリペプチドをコードするポリヌクレオチドの下流にある少なくとも1つの終止コドンと、
(iii)該終止コドンの下流にあり、膜アンカーおよび/または膜アンカーのためのシグナルをコードするさらに別のポリヌクレオチドと
を含む。
【0095】
上記に記載の発現カセットに含まれている目的のポリペプチドをコードするポリヌクレオチドの転写によって、少なくとも
(i)ポリヌクレオチドであって、前記ポリヌクレオチドの翻訳によって、目的のポリペプチドをもたらすポリヌクレオチドと、
(ii)前記ポリヌクレオチドの下流にある少なくとも1つの終止コドンと、
(iii)前記終止コドンの下流にあり、膜アンカーおよび/または膜アンカーのためのシグナルをコードするポリヌクレオチドと
を順序通りに含む転写物がもたらされる。
【0096】
転写物の一片は、少なくとも1つの終止コドンの翻訳リードスルーによって、目的のポリペプチドと膜アンカーとを含む融合ポリペプチドに翻訳される。この発現カセットの設計は、翻訳リードスルー過程を経て(終止コドンは「漏れやすい」)、目的のポリペプチドの一片が膜アンカーを含む融合ポリペプチドとして生産されるという効果を有する。残りは、目的の分泌型ポリペプチドとして発現される。融合ポリペプチドは、細胞表面に提示されるため、膜に繋留された融合ポリペプチドを高レベルで提示する細胞は、フローサイトメトリーによって、好ましくはFACSによって、例えば適切な細胞表面染色手法を使用して、選択することができる。それによって、高い発現率を有する宿主細胞が選択される。この終止コドンに基づく技術の詳細および好適な実施形態は、WO2005/073375およびWO2010/022961に記載されている。それは、この開示に付託される。
【0097】
一実施形態によれば、発現カセットは、(iv)例えばGFPなどのレポーターをコードするポリヌクレオチドを追加的に含む。レポーターをコードする前記ポリヌクレオチドは、終止コドンの下流に位置する。終止コドンのリードスルーがあるとすぐに、レポーターを含む融合ポリペプチドが得られ、それによって、例えば蛍光など、発現されたレポーターの特徴に基づいてフローサイトメトリーによって選択することを可能とする。好ましくは、レポーターをコードするポリヌクレオチドは、膜アンカーをコードするポリヌクレオチドの下流に位置する。
【0098】
代替の実施形態によれば、前記発現カセットは、少なくとも
(i)目的のポリペプチドをコードするポリヌクレオチドと、
(ii)5’スプライシング供与部位および3’スプライシング受容部位を含み、インフレームの翻訳終止コドンおよびポリアデニル化シグナルを含むイントロンと、
(iii)前記イントロンの下流にあって、膜アンカーおよび/または膜アンカーのためのシグナルをコードするポリヌクレオチドと
を含む。
【0099】
この発現カセットの設計は、転写および転写物のプロセシングを経て、少なくとも2つの種々の成熟型mRNA(mRNA−POI)および(mRNA−POI−ANCHOR)を発現カセットから得るという効果を有する。mRNA−POIの翻訳によって、目的のポリペプチドがもたらされる。mRNA−POI−ANCHORの翻訳によって、目的のポリペプチド(POI)および膜アンカーを含む融合ポリペプチドがもたらされる。その結果、この融合ポリペプチドは、細胞表面に再び提示され、膜に繋留された融合ポリペプチドを高レベルで提示する細胞は、フローサイトメトリーによって、好ましくはFACSによって、選択することができる。それによって、高い発現率を有する宿主細胞が選択される。このイントロンに基づく技術の詳細および好適な実施形態は、WO2007/131774に記載されている。それは、この開示に付託される。一実施形態によれば、発現カセットは、(iv)例えばGFPなどのレポーターをコードするポリヌクレオチドを追加的に含む。レポーターをコードする前記ポリヌクレオチドは、イントロンの下流に位置する。これによって、レポーターを含む融合ポリペプチドが得られ、それによって、例えば蛍光など、発現されたレポーターの特徴に基づいてフローサイトメトリーによって選択することを可能とする。好ましくは、レポーターをコードするポリヌクレオチドは、膜アンカーをコードするポリヌクレオチドの下流に位置する。それによって、レポーターは、宿主細胞の内部に位置する。
【0100】
一実施形態によれば、発現カセットは、およそ≦50%、≦25%、≦15%、≦10%、≦5%、≦2.5%、≦1.5%、≦1%または≦0.5%以下の融合ポリペプチドが得られるように構築される。残りの一片は、膜アンカーを含まない分泌型ポリペプチドの形態として生産される。膜アンカーは、細胞膜へ目的のポリペプチドを繋留することができ、それゆえ細胞表面での融合ポリペプチドの提示を可能にする限り、どの種類であってもよい。適した実施形態としては、以下に限定されないが、GPIアンカーまたは膜貫通アンカーが挙げられる。細胞表面との融合ポリペプチドの密な結合を推進し、かつ融合タンパク質の分断を回避するためには、膜貫通アンカーが好適である。特に好適であるのは、具体的には、目的のポリペプチドとして抗体を発現する際には、免疫グロブリンの膜貫通アンカーの使用である。他の膜アンカーおよび免疫グロブリン膜貫通アンカーの好適な実施形態は、WO2007/131774、WO2005/073375およびWO2010/022961に記載されている。
【0101】
一実施形態によれば、目的のポリペプチドは、抗体などの免疫グロブリン分子である。免疫グロブリン分子の重鎖をコードするポリヌクレオチドと、免疫グロブリン分子の軽鎖をコードするポリヌクレオチドとは、同じ発現カセットに含まれていてもよく、または好ましくは、上記に記載されているように別々の発現カセットに含まれる。上記に記載されているような発現カセットの設計を使用する際には、目的のポリペプチドの一片は、膜に繋留された融合ポリペプチドとして、翻訳リードスルーまたは選択的スプライシングによって生産されるが、そのような発現カセットの設計は、抗体重鎖を発現するために使用される。
【0102】
宿主細胞
第2の態様によれば、本開示は、生存能が葉酸類の取込みに依存する細胞であって、少なくとも
a)野生型葉酸受容体に比べて葉酸結合親和性が低下した変異型葉酸受容体をコードする、選択可能マーカーとして導入されたポリヌクレオチドと、
b)目的のポリペプチドをコードする導入されたポリヌクレオチドと
を含み、前記目的のポリペプチドが前記宿主細胞から分泌される、宿主細胞を提供する。
【0103】
「導入されたポリヌクレオチド」とは、例えば、トランスフェクションなどの組換え手法を使用することによって、宿主細胞内に導入されたポリヌクレオチド配列を指す。宿主細胞は、導入されたポリヌクレオチドに機能的に対応するまたは一致する内因性のポリヌクレオチドを、含んでいても含んでいなくてもよい。好ましくは、導入は、導入されるポリヌクレオチド、例えば目的のポリペプチドをコードするか、または変異型葉酸受容体をコードする、ポリヌクレオチドを含む発現カセットを含む発現ベクターを使用して、達成される。本開示による発現ベクターおよび発現ベクターの組合せの好適な例は、本開示の第1の態様に併せて上記に記載されている。導入は、例えば、宿主細胞のゲノム内に組み込まれうる、適した発現ベクターをトランスフェクトすることによって(安定なトランスフェクション)達成されてもよい。ポリヌクレオチドがゲノム内に挿入されない場合、それは後期の段階で、例えば細胞が有糸分裂を経る際に、失われることがある(一過的トランスフェクション)。適したベクターはまた、例えばエピゾーマルな複製によって、ゲノム内に組み込まれることなく宿主細胞に維持される可能性がある。安定なトランスフェクションは、目的のポリペプチドを工業用規模で生産するのに適した高発現細胞クローンを生成するために好適である。発現ベクターなどのポリヌクレオチドを真核宿主細胞に導入するための、先行技術分野にて公知のいくつかの適切な方法がある。それぞれの方法は、以下に限定されないが、リン酸カルシウムトランスフェクション、電気穿孔法、ヌクレオフェクション、リポフェクション、遺伝子銃およびポリマーによって媒介される遺伝子移入などが挙げられる。昔ながらのランダム組み込みに基づく方法以外に、組換えによって媒介されるアプローチもまた、導入するポリヌクレオチドを宿主細胞ゲノム内へ移入するために使用することができる。それぞれの方法は、先行技術分野にて周知であり、ここでは詳細な記載を何ら必要としない。しかし、ポリヌクレオチドを宿主細胞内へ導入するための他の手法もまた、先行技術分野に公知であり、以降にさらに詳細に記載される。
【0104】
一実施形態によれば、宿主細胞は、上記におよび特許請求の範囲に詳細に記載された、第1の態様による発現ベクターまたは少なくとも2つの発現ベクターの組合せを含む。我々は、ここで適用もされた前記開示に付託する。好ましくは、前記発現ベクターまたは発現ベクターの組合せは、安定にゲノム内へ組み込まれる。
【0105】
本開示による系を用いた選択を可能にするために、宿主細胞の細胞生存能は、葉酸類の取込みに、好ましくは葉酸の取込みに依存していなければならない。適した真核細胞は、哺乳類細胞、昆虫細胞、酵母細胞、植物細胞および真菌細胞からなる群から選択されうる。真菌細胞および植物細胞は、葉酸類に対し原栄養性である場合がある(すなわち、そのような細胞は、それらの細胞生存能、すなわち細胞成長および増殖に必要な自身の葉酸類を自律的に合成することができる)。本開示は、葉酸類に対し原栄養性であるか、または原栄養性にされる、そのような真菌および植物細胞を包含する。このことは、例えば遺伝子操作に起因する場合があり、すなわち、細胞は、それゆえ細胞生存能に必要な十分量の葉酸類を合成することができない。好ましくは、宿主細胞は哺乳類細胞である。あらゆる哺乳類細胞は、葉酸類の取込みに依存し、したがって、本明細書に記載の選択系と併せて使用することができる。一実施形態によれば、哺乳類細胞は、齧歯類細胞、ヒト細胞およびサル細胞からなる群から選択することができる。特に好適であるのは、齧歯類細胞であり、CHO細胞、BHK細胞、NS0細胞、マウス3T3線維芽細胞およびSP2/0細胞からなる群から選択することができる。特に好適な齧歯類細胞は、CHO細胞である。ヒト細胞もまた使用することができ、HEK293細胞、MCF−7細胞、PerC6細胞、CAP細胞およびHeLa細胞からなる群から選択することができる。サル細胞は、COS−1、COS−7細胞およびVero細胞からなる群から選択することができる。
【0106】
一実施形態によれば、宿主細胞は、少なくとも1つの内因性の葉酸受容体の完全な活性を欠いている。それぞれの細胞株は、選択/スクリーニング過程を経て、または、例えばノックアウト細胞株を生成するために遺伝子工学的手法によって、得ることができる。そのため、また、ある宿主細胞が提供されるが、該細胞では、方向付けのない内因性の機能的な葉酸類輸送系、例えば少なくとも1つの内因性の葉酸受容体を含む系が、完全な活性を欠いている、すなわち弱化されている。そのような弱化は、例えば、問題になっている内因性の葉酸類輸送系、例えば内因性の葉酸受容体の任意の種類の変異によってもたらされ、該変異としては、例えば点突然変異、遺伝子破壊などがある。弱化は、部分的でも完全でもありうる。この場合、本開示による宿主細胞は、内因性の機能的な方向付けのない機能的な葉酸類輸送系、例えば内因性の葉酸受容体を含まない。
【0107】
しかし、好適な実施形態によれば、本開示による宿主細胞は、例えば上記に記載されている発現ベクターまたは発現ベクターの組合せを介して、前記宿主細胞内に導入される変異型葉酸受容体に加えて、少なくとも1つの内因性の機能的な方向付けのない機能的な葉酸類輸送系、具体的には1つまたは複数の内因性の葉酸受容体(複数可)を含む。そのため、遺伝的に変えられていない細胞が、本開示による発現ベクターまたは発現ベクターの組合せを用いて、トランスフェクションに使用されうる。本明細書に記載の選択系が、そのような方向付けのない内因性の機能的な葉酸類輸送系が存在していてさえ、すなわち、そこでそのような内因性の系が存続していてさえ利用されうることは、本開示の利点である。このことは好都合であるが、その理由は、葉酸類についての非選択的な条件下で起こる、目的のポリペプチドの以後続く生産に、それぞれの宿主細胞を使用することは、内因性の系が存続しそれゆえ機能的である場合に、さらに扱いやすいためである。上記に記載されているように、哺乳類宿主細胞が好適である。
【0108】
したがって、また、方向付けのない少なくとも1つの内因性の機能的な葉酸類輸送系を含む宿主細胞が提供されるが、そこでは、そのような方向付けのない内因性の機能的な葉酸類輸送系は、好ましくは1つの内因性の葉酸受容体を含む。その好適な実施形態では、内因性の葉酸受容体は、葉酸受容体アルファおよび葉酸受容体ベータからなる群から選択される。
【0109】
一実施形態によれば、宿主細胞は、葉酸類代謝に関与する追加的な選択可能マーカーをコードする導入されたポリヌクレオチドを追加的に含む。実施形態は、第1の態様に併せて上記に記載されており、それは先の開示に付託される。好ましくは、前記追加的な選択可能マーカーは、DHFRである。この実施形態に併せて、例えば、DHFR遺伝子を欠いた宿主細胞(例えばCHO細胞)[例えば標的ゲノム欠失によって、DHFR(マイナス)宿主細胞ともよばれる]は、DHFR遺伝子を選択可能マーカーとして同時トランスフェクトするために、レシピエントとして使用することができる。しかし、DHFR選択を実施する際に、DHFRを内因的に発現する宿主細胞[DHFR(プラス)宿主細胞]を使用することも可能であり、好適である。この場合、好ましくはDHFR酵素が、DHFR(プラス)宿主細胞によって発現される内因性DHFR酵素よりもMTXに対する感受性が低い選択可能マーカーとして使用される。
【0110】
一実施形態によれば、ポリヌクレオチドをトランスフェクションによって導入する前に、宿主細胞の内因性の葉酸類の代謝または機序は、遺伝的に変えられていない。
【0111】
目的のポリペプチドをコードする少なくとも1つのポリヌクレオチド、変異型葉酸受容体をコードするポリヌクレオチド、および任意選択で、葉酸類代謝に関与する選択可能マーカー(好ましくはDHFRである)をコードするポリヌクレオチド、および任意選択で、第1の態様に併せて上記に記載されているようなさらに別のポリヌクレオチドが、前記宿主細胞に安定に導入されてもよい。安定な導入それぞれにトランスフェクションは、発現細胞株を樹立するために、および具体的には、抗体などの目的の分泌型ポリペプチドの大規模生産に用いるために、好都合である。
【0112】
組換え宿主細胞を生産するための方法
第3の態様によれば、第2の態様による宿主細胞を生産するための方法が提供され、本法は、生存能が葉酸類の取込みに依存している宿主細胞内に、少なくとも
a)野生型葉酸受容体に比べて葉酸結合親和性が低下した変異型葉酸受容体を選択可能マーカーとしてコードするポリヌクレオチドと、
b)前記宿主細胞から分泌される目的のポリペプチドをコードする、少なくとも1つのポリヌクレオチドと
を導入するステップを含む。
【0113】
ポリヌクレオチドおよび発現ベクターを宿主細胞内へ導入するための、先行技術分野にて公知のいくつかの適切な方法があり、そのような宿主細胞としては、哺乳類宿主細胞などの真核宿主細胞が挙げられる。それぞれの方法は、先行技術分野に公知であり、上記に記載もされている。昔ながらのランダム組み込みに基づく方法以外に、組換えによって媒介されるアプローチもまた、目的のポリペプチドをコードするポリヌクレオチドと、変異型葉酸受容体をコードするポリヌクレオチドと、任意選択で、追加的な選択可能マーカーをコードするポリヌクレオチド(および/またはさらに別のポリヌクレオチド)とを、宿主細胞のゲノム内に移入するために使用することができる。そのような組換え方法としては、導入遺伝子の直接的な挿入を媒介することができるCre、FlpまたはΦC31[例えばOumard et al, Cytotechnology (2006) 50: 93-108を参照]のような部位特異的リコンビナーゼの使用が挙げられうる。あるいは、相同組換えの機序が、前記ポリヌクレオチドを挿入するために使用される場合がある(Sorrell et al, Biotechnology Advances 23 (2005) 431-469に概説されている)。組換えに基づく遺伝子挿入によって、宿主細胞へ移入/導入される異種の核酸に含まれるエレメントの数を最小にすることが可能になる。例えば、残りのエレメントのみが宿主細胞へ移入/トランスフェクトされるように、既にプロモーターおよびポリA部位(外因性または内因性の)を提供している挿入遺伝子座が使用される場合がある。目的のポリペプチド、変異型葉酸受容体、および1つまたは複数の選択可能マーカー(使用される場合)、ならびにそれらの組合せに関する詳細は、上記に詳細に記載されており、我々は先の開示に付託する。一実施形態によれば、第1の態様による発現ベクターまたは発現ベクターの組合せが、宿主細胞内へ導入される。該発現ベクターおよび該発現ベクターの組合せは、上記におよび特許請求の範囲に詳細に記載されている。それは、それぞれの開示に付託される。さらに、生存能が葉酸類の取込みに依存している宿主細胞に適した実施例もまた、上記に記載されており、それは、それぞれの開示に付託される。
【0114】
選択方法
第4の態様によれば、本開示は、目的の組換えポリペプチドを高収量で発現することが可能な少なくとも1つの宿主細胞を選択するための方法を提供し、本法は、
a)本開示の第2の態様による複数の宿主細胞を提供するステップと、
b)制限的な濃度の葉酸類を含む選択培養培地中で、前記複数の宿主細胞を培養するステップと、
c)目的のポリペプチドを発現する少なくとも1つの宿主細胞を取得するステップと
を含む。
【0115】
本明細書で使用されるときの「選択する」または「選択」という用語は、具体的には、選択して、したがって、本開示による発現ベクターやベクターの組合せなど、導入されるポリヌクレオチドを組み入れている宿主細胞を得るために、選択可能マーカーおよび選択培養条件を使用する過程を指す。首尾よくトランスフェクトされた宿主細胞は、例えばトランスフェクトされた宿主細胞の集団から単離および/または濃縮することによって得られる。首尾よくトランスフェクトされた宿主細胞は、選択条件を生き残って、目的のポリペプチドを発現することが可能である。選択方法は、ex vivoの方法である。
【0116】
本明細書で使用されるときの「制限的な濃度の葉酸類」とは、具体的には、宿主細胞に選択圧をもたらす選択培養培地中の葉酸類(複数可)の濃度を指す。したがって、葉酸類は、選択培養培地中に豊富に含まれず、培養培地中のこの葉酸類(複数可)の制限によって、宿主細胞に選択圧がもたらされる。そのような選択条件下では、基本的に、葉酸受容体を選択可能マーカーとして組み入れている宿主細胞のみが、成長および/または増殖する。発現ベクターまたは少なくとも2つの発現ベクターの組合せなど、導入されるポリヌクレオチドを首尾よく組み入れておらず、そのため、変異型葉酸受容体を選択可能マーカーとして発現しないか、または発現が低い宿主細胞は、制限的な濃度の葉酸類を与える選択培養条件下で、増殖、成長することができないおよび/または死滅する。これに対して、本開示による発現ベクターまたはベクターの組合せを首尾よく組み入れ、かつ十分な収量で変異型葉酸受容体を選択可能マーカーとして発現する(したがって、共導入した目的のポリペプチドを発現する)宿主細胞は、選択圧に対する抵抗性があるか、または選択圧による影響が少なく、それゆえ、選択の間に、首尾よくトランスフェクトされなかったか、または安定なトランスフェクションの場合に細胞のゲノムの組み込み部位が有利ではない宿主細胞よりも、成長することができる。
【0117】
制限的な濃度で選択培養培地に含まれる葉酸類は、宿主細胞内へ取り込まれて、宿主細胞によって、具体的には選択可能マーカーとして使用される変異型葉酸受容体を組み込んでいる宿主細胞によって、プロセシングされうる。葉酸類、および具体的には宿主細胞によってプロセシングされないかまたはされ得ない葉酸類の誘導体は、葉酸受容体を選択可能マーカーとして組み入れている宿主細胞を選択するために発揮される選択圧に寄与せず、したがって、制限的な葉酸類の濃度には寄与しない。しかし、それぞれの葉酸類、例えば葉酸代謝拮抗剤などは、例えば、本明細書に記載されているように追加的な選択可能マーカーとしてDHFRと組み合わせた選択を実施する場合に、存在していてもよく、いっそう好ましくは存在している。制限的な濃度で選択培養培地に存在する葉酸類は、例えば酸化型葉酸類もしくは還元型葉酸類またはそれらの誘導体でありうる。葉酸などの酸化型葉酸類、ならびに還元型葉酸類またはテトラヒドロ葉酸(THF)として知られる葉酸の還元型誘導体は、哺乳類細胞でプリン、チミジンおよびある種のアミノ酸の生合成に不可欠な補因子および/または補酵素である、B9ビタミン類の一群である。還元型葉酸類の例としては、5−メチルテトラヒドロ葉酸、5−ホルミル−テトラヒドロ葉酸、10−ホルミル−テトラヒドロ葉酸および5,10−メチレン−テトラヒドロ葉酸が挙げられる。概して、成長および増殖を維持するために、その葉酸類が宿主細胞内へ取り込まれて、宿主細胞によってプロセシングされることが可能となる限り、葉酸類は有用である。好ましくは、制限的な濃度で選択培養培地中に含まれる葉酸類は、葉酸である。制限的な濃度の葉酸類を提供するのに適した濃度範囲は、以降に記載される。
【0118】
選択の間、本開示による発現ベクター(複数可)を首尾よく組み入れている宿主細胞は、トランスフェクトされた宿主細胞の集団から、プールとして濃縮されうる。そのようなプールは、次いで、例えば、含まれている宿主細胞を特定するために分析され、そのような宿主細胞は、目的のポリペプチドを発現し、例えば、特に良好な発現率、成長特性および/または固有の安定性を有する。また、個々の宿主細胞は、トランスフェクトされて選択された宿主細胞の集団から、単一クローンとして単離することができる(例えば、クローンでの選択やFACSによる選択によって)。選択後に生き残っている宿主細胞の集団から、首尾よくトランスフェクトされた単一クローンを得る(例えば、FACSによる選別や限界希釈法によって)ための選択手順の適した実施形態は、先行技術分野に周知であり、したがって、詳細な記載を何ら必要としない。
【0119】
宿主細胞、変異型の選択可能マーカー、追加的な選択可能マーカーおよびマーカーの組合せ、発現ベクターおよび発現ベクターの組合せの適した好適な実施形態は、上記に詳細に記載されており、それは、先の開示に付託される。
【0120】
記載されているように、本開示による選択方法は、細胞培養培地中の葉酸類、好ましくは葉酸の可用性の制限に基づく。本系は、広く適用可能であり、具体的には、細胞生存能が葉酸類、具体的には葉酸の取込みに依存している真核細胞、具体的には哺乳類細胞などを選択するために使用することができる。哺乳類細胞の例は、上記に記載されている。変異型葉酸受容体を選択可能マーカーとして使用することを組み合わせた、この葉酸に基づく選択は、培養哺乳類細胞での加速された安定な高レベルのポリペプチドの過剰発現によく適した、優れた戦略である。実施例に示されているように、変異型葉酸受容体が選択可能マーカーとして使用された、本開示による方法は、高レベルの抗体などの組換え生産物を過剰発現する宿主細胞、具体的には哺乳類宿主細胞の選択、スクリーニングおよび樹立を加速することを可能にする。その結果は、野生型葉酸受容体を選択可能マーカーとして使用することを上回って改善される。
【0121】
本開示による選択系は、上記に記載されているように、トランスフェクションの前に、内因性の葉酸受容体遺伝子(複数可)のゲノム欠失または弱化を要さず、それゆえに任意のレシピエント細胞に、たとえ内因性の葉酸受容体遺伝子の発現が存在しているとしても、適用することができる。この鍵となる優位性は、変異型葉酸受容体を選択可能マーカーとしてトランスフェクションすることに続いて、成長培地からの葉酸類(例えば葉酸)の急激かつ過酷な欠乏に、細胞を曝露することができるという事実に基づく。ここで、葉酸結合親和性がさらに低い変異型葉酸受容体を使用する際に、野生型葉酸受容体を使用する選択系に比べて、いっそう低い濃度の葉酸類を選択培養培地中で使用することができる。大量の変異型葉酸受容体を選択可能マーカーとして発現するトランスフェクタント細胞のみが、十分な葉酸類を宿主細胞内へ輸送して、DNA複製および細胞増殖を持続させることができる。このことは、選択サイクルの間に内因性の葉酸受容体アルファ遺伝子の発現に何ら有意な上昇がなくてさえ起こる。さらに、明らかに、本開示による選択系は、内因性のRFCの発現の増加を含めた葉酸類取込みの代替ルートの発現の上昇を介した、選択圧の軽減に起因する選択のストリンジェンシーの喪失に悩まされることはない。この重要な利点は、葉酸受容体アルファが、葉酸に対して顕著な親和性を有し(Kd=0.1nM)、RFCが、葉酸に対して極めて乏しい親和性を有する(Km=0.2〜0.4mM)という事実に起因する。
【0122】
本開示のストリンジェントなスクリーニング/選択手順の結果として得られる細胞は、元の細胞集団の選択されていない細胞から単離し濃縮することができる。それらは、個々の細胞または細胞プールとして単離し培養することができる。得られる宿主細胞はまた、1つもしくは複数の追加的な選択のラウンドで、任意選択で追加的な定性もしくは定量解析のために使用することができるか、または、例えばタンパク質生産のためのクローン性の細胞株を開発する際に使用されうる。一実施形態によれば、上記に記載されているように選択された生産宿主細胞の濃縮された集団は、目的のポリペプチドを良好な収量で生産するための集団として、直接的に使用される。
【0123】
好ましくは、目的のポリペプチドを安定に発現して、それゆえ分泌する宿主細胞が選択される。安定なトランスフェクション/発現の利点は、上記に詳細に記載されている。我々は、先の開示に付託する。好ましくは、目的のタンパク質を所望の高収量で発現する選択された宿主細胞から、クローン性の細胞株が樹立される。
【0124】
少なくとも1つの選択ステップb)で使用される選択培養培地は、1つまたは複数の種類の葉酸類を含んでいてもよい。選択培養培地中に制限的な濃度で含まれる葉酸類は、トランスフェクトされた宿主細胞内へ取り込まれて、トランスフェクトされた宿主細胞によってプロセシングされることができ、生存を可能にし、好ましくは細胞の成長および増殖を持続させることを可能にする。ステップb)で使用される選択培養培地は、1つまたは複数の以下の特徴を有しうる:
(a)制限的な濃度の葉酸類を含み、前記葉酸類は、好ましくは、約2000nM以下、約1750nM以下、約1500nM以下、約1000nM以下、約500nM以下、約350nM以下、約300nM以下、約250nM以下、約150nM以下、約100nM以下、約75nM以下、約50nM以下、約40nM以下、約35nM以下、約30nM以下、約25nM以下、約20nM以下、約15nM以下、約10nM以下、約5nM以下、および約2.5nM以下から選択される濃度の葉酸である、ならびに/または
(b)約2000nM以下、約1750nM以下、約1500nM以下、約1000nM以下、約500nM以下、約100nM以下、約75nM以下、約50nM以下、約40nM以下、約35nM以下、約30nM以下、約25nM以下、約20nM以下、約15nM以下、約10nM以下、約5nM以下、および約2.5nM以下から選択される濃度の葉酸を含む。
【0125】
選択培養培地中の葉酸類、具体的に葉酸の好適な濃度は、
(a)約2000nM〜0.1nM、
(b)約1750nM〜0.1nM、
(c)約1500nM〜0.1nM、
(d)約1250nM〜0.1nM
(e)約1000nM〜0.1nM
(f)約750nM〜0.1nM、
(g)約500nM〜0.1nM、
(h)約250nM〜0.1nM、好ましくは約250nM〜1nMまたは約250nM〜2.5nM、
(i)約150nM〜0.1nM、好ましくは約150nM〜1nMまたは約150nM〜2.5nM、
(j)約100nM〜0.5nM、好ましくは約100nM〜1nMまたは約100nM〜2.5nM、
(k)約75nM〜0.5nM、好ましくは約75nM〜1nMまたは約75nM〜2.5nM、
(l)約50nM〜1nM、好ましくは約50nM〜2.5nMまたは約50nM〜5nM、
(m)約35nM〜0.5nMおよび
(n)約25nM〜1nM、または約25nM〜2.5nM、約20nM〜3nM、約15nM〜4nMまたは約10nM〜5nM、
から選択されうる。
【0126】
一実施形態によれば、葉酸は、制限的な濃度の葉酸類に寄与する、選択培養培地中に含まれる唯一の葉酸類である。
【0127】
上記に記載されているような濃度および濃度範囲は、CHO細胞など、成長の早い浮遊細胞に特に適しており、そのような細胞は、商業用生産細胞株に用いるのに好適な表現型である。選択培養培地中に含まれる葉酸類は、好ましくは葉酸である。しかし、異なる細胞株は、異なる葉酸消費の特性を有することがある。とはいえ、適した濃度は、当業者によって、実験的に容易に決定されうる。実施例によって示されるように、変異型葉酸受容体を選択可能マーカーとして使用することによって、選択培養培地中でさらに低い葉酸類濃度を使用することが可能になる。
【0128】
一実施形態によれば、宿主細胞は、葉酸類不含の培養培地中で、または制限的な濃度の葉酸類を含む培養培地中で、トランスフェクションおよび/または選択ステップb)の前に前培養される。それによって、細胞は、内部の葉酸類の蓄積を使い果たすことを余儀なくされる。適した制限的な葉酸類濃度は、上記に記載されている。好ましくは、宿主細胞を前培養するための前記培養培地は、葉酸類、具体的には葉酸を、100nM以下、75nM以下、50nM以下、好ましくは25nM以下、さらに好適には15nM以下、最も好適には10nM以下の濃度で含むか、または葉酸類不含でさえありうる。一実施形態によれば、細胞バンク、例えばマスター細胞バンクまたはワーキング細胞バンクは、制限的な濃度の葉酸類、例えば葉酸で前培養されたそのような宿主細胞から作製される。このことは、トランスフェクションおよび細胞株の生成のための調製時間をさらに短くするという利点を有する。
【0129】
好適な実施形態によれば、本開示の教示に従って選択可能マーカーとして使用される変異型葉酸受容体は、上記に記載されているような追加的な選択可能マーカーと組み合わせて使用される。上記に議論したように、前記追加的な選択可能マーカーは、好ましくは葉酸類代謝に関与し、好ましくはDHFRである。一実施形態によれば、細胞は、さらに別の選択可能マーカーを用いて追加的にトランスフェクトされ、ステップb)で使用される選択培養培地は、前記追加的な選択可能マーカーに対する少なくとも1つの適した阻害剤を含む。選択培養培地中の前記阻害剤の使用濃度(次第に増加させてもよい)は、選択条件のストリンジェンシーに寄与する。さらに、選択圧を維持するために、培養培地は、追加的な選択可能マーカーの活性を迂回することを可能にしうる十分量の代謝物を含むべきではない。例えば、葉酸類代謝に関与するDHFRを追加的な選択可能マーカーとして使用する場合に、選択培養培地は、関連するヌクレオチドを含まないことが好都合である。概して、代謝物、または選定した選択戦略に干渉する他の添加物は、選択培地中では制御される、例えば回避されるものとする。
【0130】
変異型葉酸受容体に用いる選択条件(制限的な葉酸類濃度)および追加的な選択可能マーカーに用いる選択条件(例えば、DHFRを選択可能マーカーとして使用する場合はDHFR阻害剤)は、適切な選択培養培地を使用することによって、ステップb)の際に同時に適用することができる。このことは、選択圧を増加させて、さらに効率の良い選択手順を可能にし、それによって、目的のポリペプチドを高収量で発現する適した細胞株を得るための時間を低減する。選択可能マーカーの組合せである変異型葉酸受容体/DHFRに用いるために、選択培養培地がステップb)で好ましくは使用され、該ステップは、制限的な濃度の葉酸類(葉酸類の適した濃度および例は、上記に記載されている)を含み、葉酸代謝拮抗剤などのDHFRの阻害剤を追加的に含む。DHFRの阻害剤とは、具体的には、ジヒドロ葉酸レダクターゼ(DHFR)の活性を阻害する化合物を指す。それぞれの阻害剤は、例えば、DHFRとの結合についてDHFR基質と競合してもよい。適したDHFR阻害剤は、例えばメトトレキセート(MTX)などの葉酸代謝拮抗剤である。さらに別の例としては、以下に限定されないが、トリメトレキセートグルクロネート(ニュートレキシン)、トリメトプリム、ピリメタミンおよびペメトレキセドが挙げられる。そのため、一実施形態によれば、ステップb)で使用される選択培養培地は、好ましくはMTXなどの葉酸代謝拮抗剤など、少なくとも1つのDHFR阻害剤を追加的に含む。
【0131】
そのため、一実施形態によれば、ステップb)で提供される宿主細胞は、DHFRである選択可能マーカーをコードする導入されたポリヌクレオチドを含み、ステップb)では、1500nM以下、1250nM以下、1000nM以下、750nM以下、500nM以下、250nM以下、200nM以下、150nM以下、125nM以下、100nM以下、または75nM以下の濃度で葉酸代謝拮抗剤を含む選択培養培地が使用される。一実施形態では、選択培養培地は、MTXを葉酸代謝拮抗剤として含む。好ましくは、選択培養培地は、350nM以下、200nM以下、150nM以下、125nM以下、100nM以下、75nM以下、または50nM以下の濃度でMTXを含む。実施例によって示されるように、極めて低いMTX濃度を、本開示の方法と併せて使用することができることは、具体的な利点である。葉酸代謝拮抗剤および具体的にはMTXの好適な濃度は、
(a)約500nM〜1nM
(b)約350nM〜2.5nM
(c)約200nM〜5nM
(d)約150nM〜7.5nM
(e)約100nM〜10nMおよび
(f)約75nM〜10nM
から選択されうる。
【0132】
上記に記載されている葉酸類および葉酸代謝拮抗剤の好適な濃度および濃度範囲は、互いに組み合わせることができる。一実施形態では、約0.1nM〜100nM、好ましくは1nM〜75nM、さらに好適には5nM〜50nMの葉酸類濃度が、選択培養培地中で、約2.5nM〜150nM、好ましくは5nM〜125nM、さらに好適には7.5nM〜100nM、さらに好ましくは10nM〜50nMの葉酸代謝拮抗剤濃度と組み合わせて使用される。記載されているように、好ましくは、葉酸が葉酸類として、MTXが葉酸代謝拮抗剤として使用される。
【0133】
さらに、使用される葉酸類および葉酸代謝拮抗剤の濃度は、互いに影響しうることも見出された。そのため、葉酸類および葉酸代謝拮抗剤の絶対濃度以外に、比率もまた、適した選択条件を提供するための要因でありうる。葉酸代謝拮抗剤(好ましくはMTX)の濃度は、葉酸類(好ましくは葉酸)の濃度の約20倍まででありうる。葉酸代謝拮抗剤(好ましくはMTX)濃度は、葉酸類(好ましくは葉酸)濃度の約10倍であってもよい。好ましくは、選択培養培地は、葉酸類および葉酸代謝拮抗剤を1:10から10:1の濃度比率で、好ましくは1:5から5:1の濃度比率で含む。およそ等モル濃度の葉酸類および葉酸代謝拮抗剤を使用した場合に、非常に良好な結果が得られる。実施例によって示されるように、これらの比率は、所望の選択可能マーカーの組合せを使用した場合に、高生産宿主細胞を得るのに非常に適した選択培養条件を提供する。
【0134】
本開示によるこの実施形態では、変異型葉酸受容体が、葉酸類代謝に関与する選択可能マーカー、好ましくはDHFRと組み合わせて選択に使用され、該実施形態は、選択を生き残る細胞集団の生産性が著しく増加するという利点を有する。具体的には、この原理が、本開示による変異型葉酸受容体と併せて使用された場合に、生産性の平均は、実施例によって示されるように著しく増加する。実施例では、選択方法の後に得られた宿主細胞は、目的のポリペプチドを特に高い収量で生産することが示されている。このように、さらに低いスクリーニングの労力で高生産株クローンを見出す機会が高められる。ゆえに、本開示による選択系は、先行技術分野にて使用される選択系よりも優れている。
【0135】
その上、選択ステップb)が少なくとも2回実施され、各選択ステップb)の間に、非制限的なまたは少なくとも制限の少ない濃度の葉酸類を含み、好ましくはDHFR阻害剤を含まず、それゆえ、例えば葉酸代謝拮抗剤を含まない培養培地で、トランスフェクトされた宿主細胞が培養された場合に、生産率がさらに増加さえしうることが見出されている。そのため、各ステップb)の間に、非選択的な条件下で細胞を培養することが好適である。それぞれの繰り返し選択は、選択ステップまたは選択サイクルの間に細胞が回復することを可能にする場合に、目的のタンパク質を特に高い収量で発現する宿主細胞を提供し、さらに、高生産株の数が大幅に増加したことが見出されている。
【0136】
上記に記載されているように、変異型葉酸受容体に加えて、および葉酸類代謝に関与する選択可能マーカーに加えて、1つまたは複数のさらに別の選択可能マーカーを使用してもよい。そのようなさらに別の選択可能マーカーのための選択条件は、変異型葉酸受容体および任意選択で葉酸類代謝に関与する選択可能マーカーのための選択条件を、ステップb)にて適用する前に(例えば、ステップa)とb)の間で行われる選択前の段階で)、または同時に、適用することができる。例えば、ネオマイシンホスホトランスフェラーゼ遺伝子(neo)がさらに別の選択可能マーカーとして使用される場合に、本開示による発現ベクターまたは少なくとも2つの発現ベクターの組合せを組み入れている細胞を予め選択するために、細胞をまず、例えばG418を含有する培地中で成長させることができる。高発現細胞を、次いで、DHFRに基づく選択と組み合わせた好都合な実施形態に従って、変異型葉酸受容体に基づく選択を使用して、前記予め選択された細胞集団から選択する。
【0137】
さらに、上記に記載されているように、本開示による選択方法は、先行技術分野にて公知のフローサイトメトリーに基づく選択方法と組み合わせることができる。そのため、一実施形態によれば、宿主細胞が本開示の方法に従って選択された後であり、それゆえステップc)の後に、フローサイトメトリーを含む選択ステップが実施される。このことを、目的のポリペプチドを高収量で発現する生き残りの集団から宿主細胞を選択するために行うことができる。そのようなアプローチは、手作業のクローニングステップ(例えば限界希釈法)を廃れさせている。このため、好ましくは、少なくとも一片の目的のポリペプチドが、宿主細胞の細胞表面に提示された、膜に繋留された融合ポリペプチドとして発現される。提示された融合ポリペプチドの量に基づいて、フローサイトメトリーを使用して、好ましくはFACSを使用して、目的のポリペプチドを高収量で発現する宿主細胞を選択することができる。それぞれの選択を可能にする目的のポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを発現するのに適した発現カセットは、上記に記載されている。それは、それぞれの開示に付託される。選択のために、宿主細胞を培養して目的のポリペプチドを発現することを可能とし、その結果、少なくとも一片の目的のポリペプチドが、膜アンカーを含む融合ポリペプチドとして発現されるが、その際に、前記融合ポリペプチドは、前記宿主細胞の表面に提示されており、少なくとも1つの宿主細胞が、該細胞表面に提示された融合ポリペプチドの量に基づいて選択される。ここで、融合タンパク質の細胞外片に結合する標識化検出化合物を使用することができる。例えば、蛍光による標識化検出化合物が使用されてもよい。あるいは、融合タンパク質は、細胞を標示しそれによってレポーターの特徴に基づく直接的な選択を可能にする、GFPなどのレポーターを追加的に含んでいてもよい。好ましくは、レポーターは、膜貫通アンカーの下流であり、それゆえ細胞内に位置している。上記に議論したように、フローサイトメトリー、具体的にはFACSを使用して、宿主細胞を発現収量に基づいて選択することができる。
【0138】
目的のポリペプチドを生産するための方法
第5の態様によれば、目的の組換えポリペプチドを生産するためのプロセスが提供され、本プロセスは、目的のポリペプチドの発現および分泌を可能にする条件下で、本開示による宿主細胞および/または本開示の教示によって選択された宿主細胞を培養するというステップを含む。目的のポリペプチドを生産するために本開示による宿主細胞を使用することは、目的のポリペプチドを高収量で生産することができるという利点を有する。このことは、具体的には、発現に用いるのに適切な宿主細胞を選択するために、本開示による選択方法を実施する際に。そのため、本開示は、目的のポリペプチドを生産するための改善された方法を提供する。適した宿主細胞は、上記に記載されており、我々は、先の開示に付託する。
【0139】
ポリペプチドは、培養培地中に分泌されて、そこから得ることができる。このために、適切な分泌リーダーペプチドを目的のポリペプチドに付与する。例は上記に記載されている。それによって、組換えポリペプチドを、効率良く高収量で生産および取得/単離することができる。一実施形態によれば、前記宿主細胞は、無血清条件下で培養される。
【0140】
目的のポリペプチドを生産するための方法は、少なくとも1つの以下のステップを含んでいてもよい:
− 前記細胞培養培地から目的のポリペプチドを単離するステップ、および/または
− 単離された目的のポリペプチドを処理するステップ。
【0141】
本開示に従って生産された目的のポリペプチドは、目的のポリペプチドを所望の品質で生産するために、例えば精製および/または修飾ステップなど、さらに別の処理ステップに付されてもよい。例えば、生産物は、従来の手順によって、栄養培地から回収されてもよく、そのような手順としては、以下に限定されないが、遠心分離、濾過、限外濾過、抽出または沈殿が挙げられる。精製は、当技術分野にて公知の種々の手順によって行われ、そのような手順としては、以下に限定されないが、クロマトグラフィー(例えばイオン交換、親和性、疎水性、クロマト分画およびサイズ排除)、電気泳動による手順(例えば分取用等電点電気泳動)、溶解性の差異(硫酸アンモニウム沈殿)または抽出が挙げられる。単離された目的のポリペプチドは、医薬組成物として製剤化されてもよい。
【0142】
目的のポリペプチドの例は、第1の態様と併せて上記に記載されており、それは、それぞれの開示に付託される。哺乳類細胞は、目的のポリペプチドをコードするポリヌクレオチドに対応する、それぞれ一致する内因性のポリヌクレオチドを、含んでいても含んでいなくてもよい。一実施形態によれば、哺乳類細胞は、目的のポリペプチドに対応する内因性の遺伝子を含まない。また、提供されるのは、上記および特許請求の範囲に規定されている本開示による方法によって得られるポリペプチドである。前記ポリペプチドは、具体的には、免疫グロブリン分子またはその機能的断片であってもよい。
【0143】
使用
本開示の第6の態様は、
a)以下の配列
【化15】
を有するか含む変異型葉酸受容体であって、Xaaはアラニンではなく、前記変異型葉酸受容体の葉酸結合親和性が、Xaaがアラニンである対応する野生型葉酸受容体(配列番号1)に比べて低減した、変異型葉酸受容体、または
b)配列番号9として示される配列と少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%または少なくとも99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む変異型葉酸受容体であって、Xaaは、前記変異型葉酸受容体ではアラニンではなく、Xaaがアラニンである野生型葉酸受容体アルファ配列(配列番号1を参照)に比べて、前記変異型葉酸受容体の葉酸結合親和性が低減している、変異型葉酸受容体
をコードするポリヌクレオチドを選択可能マーカーとして使用することに関する。前記選択可能マーカーは、具体的には哺乳類細胞など、生存能が葉酸類の取込みに依存している首尾よくトランスフェクトされた宿主細胞を選択するために、使用することができる。具体的には、それは、目的の組換えポリペプチドを高収量で発現する宿主細胞を特定するために、選択マーカーとして使用することができる。好ましくは、前記変異型葉酸受容体は、発現ベクターに含まれる。それぞれに変異させた葉酸受容体を選択可能マーカーとして使用することおよび適切な発現ベクターの詳細、組合せおよび利点は、上記に記載されており、それは、先の開示に付託される。特に好適であるのは、本開示の方法にて使用されることである。上記に記載されているように、Xaaは、好ましくはロイシン、グリシン、バリン、イソロイシン、ヒスチジンおよびアスパラギン酸から選択されるアミノ酸である。最も好ましくは、Xaaはロイシンである。好ましくは、変異型葉酸受容体は、GPIで繋留されている。一実施形態によれば、前記選択可能マーカーは、追加的な選択可能マーカーとしてのDHFRと共に使用される。この実施形態の詳細および適切な選択条件は、上記に記載されており、それは、先の開示に付託される。
【0144】
本開示の第7の態様は、
a)以下の配列
【化16】
または
【化17】
を含み、Xaaがロイシンである、変異型葉酸受容体、または
b)配列番号9もしくは配列番号13として示される配列と少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%または少なくとも99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含み、Xaaが、b)による前記変異型葉酸受容体ではロイシンである、変異型葉酸受容体
をコードするポリヌクレオチドを選択可能マーカーとして使用することに関する。前記選択可能マーカーは、具体的には哺乳類細胞など、生存能が葉酸類の取込みに依存している細胞を選択するために、使用することができる。具体的には、それは、目的の組換えポリペプチドを高収量で発現する宿主細胞を特定するために、選択マーカーとして使用することができる。好ましくは、選択可能マーカーとして使用される前記変異型葉酸受容体は、発現ベクターに含まれる。それぞれに変異させた葉酸受容体(A49L変異体)を選択可能マーカーとして使用することおよび適した好適な発現ベクターを使用することの詳細、組合せおよび利点は、上記に記載されており、また、本実施例に記載されている。それは、先の開示に付託される。特に好適であるのは、本開示の方法にて使用されることである。好ましくは、変異型葉酸受容体は、GPIで繋留されている。一実施形態によれば、前記選択可能マーカーは、追加的な選択可能マーカーとしてのDHFRと共に使用される。この実施形態の詳細および適切な選択条件は、上記に記載されており、それは、先の開示に付託される。この第7の態様の好適な実施形態は、以下に再度記載される。
【0145】
第7の態様の一実施形態によれば、
a)変異型葉酸受容体を選択可能マーカーとしてコードするポリヌクレオチドであって、
i)前記変異型葉酸受容体は、以下の配列
【化18】
または
【化19】
を含み、Xaaはロイシンである、または、
ii)前記変異型葉酸受容体は、配列番号9もしくは配列番号13として示される配列と少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%または少なくとも99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含み、Xaaは、ii)による前記変異型葉酸受容体ではロイシンである、
ポリヌクレオチドと、
b)目的のポリペプチドをコードする少なくとも1つのポリヌクレオチドと
を含む、発現ベクターまたは少なくとも2つの発現ベクターの組合せが使用される。
【0146】
好ましくは、変異型葉酸受容体をコードするポリヌクレオチドと、目的のポリペプチドをコードするポリヌクレオチドとは、別々の発現カセットに含まれる。発現カセットおよび発現ベクターの適した好適な実施形態の詳細は、上記に記載されており、それは、先の開示に付託される。好ましくは、目的のポリペプチドは、分泌型ポリペプチドである。詳細は、第1の態様と併せて、上記に記載されている。一実施形態によれば、発現ベクターまたは少なくとも2つの発現ベクターの組合せは、葉酸類代謝に関与する選択可能マーカー、好ましくはジヒドロ葉酸レダクターゼをコードするポリヌクレオチドを追加的に含む。適した好適な実施形態は、上記に記載されており、それは、先の開示に付託される。好ましくはDHFRである前記選択可能マーカーは、好ましくは別々の発現カセットに含まれる。
【0147】
この態様の一実施形態によれば、また、提供されるのは、生存能が葉酸類の取込みに依存している宿主細胞であり、該細胞は、
a)変異型葉酸受容体をコードする、導入されたポリヌクレオチドであって、
i)前記変異型葉酸受容体は、以下の配列
【化20】
または
【化21】
を含み、Xaaはロイシンである、または、
ii)前記変異型葉酸受容体は、配列番号9もしくは配列番号13として示される配列と少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%または少なくとも99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含み、Xaaは、ii)による前記変異型葉酸受容体ではロイシンである、
導入されたポリヌクレオチドと、
b)目的のポリペプチドをコードする少なくとも1つのポリヌクレオチドであって、目的のポリペプチドは、前記宿主細胞から分泌される、ポリヌクレオチドと
を含む。
【0148】
好ましくは、前記宿主細胞は、上記に記載されているような発現ベクターまたは少なくとも2つの発現ベクターの組合せを含む。一実施形態によれば、宿主細胞は、哺乳類細胞である。好ましくは、それは齧歯類細胞であり、さらに好ましくはCHO細胞である。一実施形態によれば、哺乳類宿主細胞は、内因性の葉酸受容体を発現する。一実施形態によれば、哺乳類宿主細胞は、葉酸類代謝に関与する選択可能マーカー、好ましくはジヒドロ葉酸レダクターゼをコードする、導入されたポリヌクレオチドを含む。適した好適な実施形態は、それぞれの宿主細胞を生産するための方法と共に、上記に詳細に記載されている。それは、それぞれの開示に付託される。
【0149】
この態様の一実施形態によれば、また、提供されるのは、目的の組換えポリペプチドを所望の収量で発現することが可能な少なくとも1つの宿主細胞を選択するための方法であり、本法は、
a)生存能が葉酸類の取込みに依存している、複数の宿主細胞を提供するステップであって、
aa)変異型葉酸受容体をコードする、導入されたポリヌクレオチドであって、
i)前記変異型葉酸受容体は、以下の配列
【化22】
または
【化23】
を含み、Xaaはロイシンである、または、
ii)前記変異型葉酸受容体は、配列番号9もしくは配列番号13として示される配列と少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%または少なくとも99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含み、Xaaは、ii)による前記変異型葉酸受容体ではロイシンである、
導入されたポリヌクレオチドと、
bb)目的のポリペプチドをコードする、少なくとも1つの導入されたポリヌクレオチドと
を含むステップと、
b)制限的な濃度で葉酸類を含む選択培養培地中で、前記複数の宿主細胞を培養するステップと、
c)目的のポリペプチドを発現する少なくとも1つの宿主細胞を取得するステップと
を含む。
【0150】
ステップb)で使用される選択培養培地は、制限的な濃度の葉酸類を含み、前記葉酸類は、好ましくは、約2000nM以下、約1750nM以下、約1500nM以下、約1000nM以下、約500nM以下、約350nM以下、約300nM以下、約250nM以下、約150nM以下、約100nM以下、約75nM以下、約50nM以下、約40nM以下、約35nM以下、約30nM以下、約25nM以下、約20nM以下、約15nM以下、約10nM以下、約7.5以下、約5nM以下、および約2.5M以下から選択される濃度の葉酸である。好ましくは、葉酸は、葉酸類として使用される。宿主細胞は、好ましくは哺乳類細胞である。一実施形態によれば、宿主細胞は、ジヒドロ葉酸レダクターゼである選択可能マーカーをコードする、導入されたポリヌクレオチドを追加的に含む。この実施形態では、ステップb)で使用される選択培養培地は、一実施形態に従って、葉酸代謝拮抗剤を、1500nM以下、1000nM以下、750nM以下、500nM以下、200nM以下、150nM以下、125nM以下、100nM以下、75nM以下、50nM以下、25nM以下、20nM以下、15nM以下、12nM以下、および10nM以下から選択される濃度で追加的に含む。一実施形態によれば、ステップc)の後に、細胞は、非限定的な濃度の葉酸類を含む培養培地中で培養され、次いで、ステップb)に従って再び培養されて、ステップc)に従って得られる。好適な適した選択培養培地のさらに進んだ詳細、および選択方法の実施形態は、第4の態様と併せて上記に記載されており、それは、それぞれの開示に付託される。
【0151】
この態様のさらに別の実施形態によれば、また、提供されるのは、目的のポリペプチドを生産するためのプロセスであり、本プロセスは、
a)この態様に関する先行する段落に記載されているような宿主細胞、および/または目的のポリペプチドの発現および分泌を可能にする条件下で、この態様の先行する段落に記載されているような方法に従って選択された宿主細胞を培養するステップと、
b)細胞培養培地から目的のポリペプチドを単離するステップと、
c)任意選択で、単離された目的のポリペプチドを処理するステップと
を含む。
【0152】
それぞれの生産方法に関する詳細、ならびに目的のポリペプチドの適した好適な実施形態はまた、上記に記載されており、それは、先の開示に付託される。好ましくは、目的のポリペプチドは、抗体など、治療上の活性があるポリペプチドである。
【0153】
本発明は、本明細書に開示される例示的な方法および材料によって限定されない。本明細書に記載の数値範囲は、範囲を規定する数を含む。本明細書に付されている見出しは、本明細書面を総じて参照することによって読み取ることのできる、本発明の様々な態様または実施形態を限定するものではない。一実施形態によれば、ある要素を含むものとして本明細書に記載される主題はまた、それぞれの要素からなる主題を指す。具体的には、ある配列を含むものとして本明細書に記載のポリヌクレオチドはまた、それぞれの配列からなることがある。本明細書に記載の好適な実施形態を選択および組み合わせることは好適であり、好適な実施形態のそれぞれの組合せから生じる特有の主題もまた、本開示に属する。
【0154】
以下の実施例は、本開示を説明するために、その範囲を何ら限定することなく役割を果たす。具体的には、本実施例は、本開示の好適な実施形態に関わる。
【実施例】
【0155】
以降の実験では、以下のベクターを使用した。
【0156】
参照ベクター「V−DHFRref」は、以下の主要な発現カセット、すなわち、DHFRをコードするポリヌクレオチドを選択マーカーとして含む発現カセット、抗体の軽鎖をコードするポリヌクレオチドを含む発現カセット、抗体の重鎖をコードするポリヌクレオチドを含む発現カセット、およびネオマイシンホスホトランスフェラーゼをコードするポリヌクレオチドを含む発現カセットを含んでいた。全ての発現カセットは、同じ方向に向いていた。抗体全長を前記参照ベクターから発現させた。適したベクターの設計は、WO2009/080720にも記載されている。
【0157】
葉酸受容体を選択マーカーとして含むベクターは、参照ベクターに基づいており、葉酸受容体を選択可能マーカーとしてコードするポリヌクレオチドに対し、DHFRを選択可能マーカーとしてコードするポリヌクレオチドを交換することによって、設計した。その他の点では、発現カセットを同じに残した。ベクター「V−wtFRalpha」は、野生型ヒト葉酸受容体アルファを選択マーカーとして含んでいた。ベクター「V−mutFRalpha」は、A49L変異を含む変異型ヒト葉酸受容体アルファを含んでいた。
【実施例1】
【0158】
単独のトランスフェクション
単独のトランスフェクションには、野生型ヒト葉酸受容体アルファ(ベクター:V−wtFRalpha)または変異型ヒト葉酸受容体アルファ(ベクター:V−mutFRalpha)を、選択マーカーとしてCHO細胞に導入した。この実験は、葉酸受容体選択系の機能を解析する目的に応えたものであり、該選択系は、DHFR/MTX系とは反対に、細胞成長の有毒な阻害に基づかないが、培養培地中の葉酸欠乏に起因する成長阻害に基づく。葉酸は、ビタミンB9の酸化形態である。葉酸は、テトラヒドロ葉酸(THF)という還元形態で生物活性を有する。葉酸は、細胞中で、酵素ジヒドロ葉酸レダクターゼ(DHFR)によるNADPH依存的な反応で、ジヒドロ葉酸(DHF)を経て、生物活性形態であるテトラヒドロ葉酸(THF)へと還元される。葉酸の取込みは、細胞成長および細胞増殖を持続させるために、哺乳類細胞には不可欠である。
【0159】
トランスフェクトされたベクターをゲノム内へ組み込み、かつ野生型葉酸受容体アルファ(V−wtFRalpha)と変異型葉酸受容体アルファ(V−mutFRalpha)とのどちらかを高効率で発現する細胞のみが、培養培地中での制限的な濃度の葉酸類に基づく選択条件を生き残ることができる。これらの細胞は、制限的な濃度の葉酸を培養培地が含む場合でも、細胞成長の際の増殖を持続させるために、十分量の葉酸を培養培地から細胞内へ組み入れることができる。発現ベクターはまた、目的のタンパク質(これらの実験では、抗体の重鎖および軽鎖)をコードするポリヌクレオチドを細胞内へ導入することから、葉酸受容体に基づく選択技術を使用して、安定な高生産細胞株を選択することができる。
【0160】
細胞の成長に及ぼす葉酸濃度の影響を決定するために、種々の選択培養培地を供試した。標準的な培養培地は、11.7μM葉酸を含む(完全培地)。最もストリンジェントな選択条件は、培養培地中に≦50nM葉酸を使用した際に達成されることが見出された。さらに、種々の葉酸濃度を使用した際に、成長速度の差異が観察された。培養培地中に葉酸が少ないほど、細胞の成長は遅かった。
【0161】
まず、CHO細胞の内部の葉酸の蓄積が低減し、標準培養培地(完全培地)から選択培地中への葉酸からの共移入が阻害された。そのため、トランスフェクションの前に、制限的な葉酸濃度を用いた選択を意図した細胞を、PBSを用いて3回洗浄し、葉酸不含の培地中に播種した。参照対照(ベクターV−DHFRref)を、同じ細胞密度を用いて完全培地中で継代した。細胞の成長をトランスフェクションの前に分析し、完全培地中で成長した培養物(5×10LZ/ml)は、選択培地中で成長した培養物(2.5×10LZ/ml)よりもおよそ2倍良好に成長したことが見出された。
【0162】
ヌクレオフェクションを使用して、ベクターを細胞内へトランスフェクトした。3μgのベクターDNAを用いて、5×10個の生細胞(LZ/ml)をトランスフェクトした。ベクターV−wtFRalpha、V−mutFRalphaならびに陰性対照(V−DHFRrefおよびDNA不含)を含むCHO細胞を、選択培地中へ移し入れ、参照トランスフェクションを、完全培地中へ移し入れた。実施した単独トランスフェクションを表1に要約する。選択は、トランスフェクションの48時間後に始め、それによって、細胞をヌクレオフェクションから回復させ、導入された発現ベクターの発現を開始させた。供試する選択マーカーを含む細胞を、制限された濃度の葉酸に曝露した。並行して、選択マーカーDHFR(V−DHFRref)を、種々のMTXを含む培養培地ならびに種々の葉酸(FA)を含有する選択培地に曝露した。追加的なDNAを含まない培養を、陰性対照として供した。
【0163】
【表1】
【0164】
トランスフェクション効率を、GFP対照を介して48時間後に決定した。以降の表2は、葉酸に基づく選択の12日目の到達生細胞密度をまとめた概要を提供する。
【0165】
【表2】
【0166】
表2は、対照(V−DHFRref、DNA不含)、V−wtFRalphaおよびV−mutFRalphaを用いてトランスフェクトし、種々の葉酸濃度を使用して選択した細胞プールの細胞密度(LZ/ml)を示す。見ての通りに、選択培地中の葉酸濃度が低減する際に、成長が低減する。変異型葉酸受容体アルファを選択マーカーとしてトランスフェクトした細胞プールは、制限的な濃度の葉酸を含む選択培地中で、他のプールで観察された細胞成長の約2倍の高さであるか、またはそれよりいっそう高い細胞成長を示した。12日目では、野生型葉酸受容体アルファを用いてトランスフェクトされた細胞は、成長の優位性をまだ示さなかった。それらは、V−DHFRrefまたは陰性対照を含む集団とほぼ同等に成長した。しかし、野生型葉酸受容体アルファを用いて見られた成長の優位性は、後期の段階を始めた際に、使用した葉酸濃度に応じて、およそ16日目から20日目に見られた。そのため、両方の型の葉酸受容体(野生型および変異型)が、培養培地中で制限的な濃度の葉酸に基づいて細胞を選択するのに適している。しかし、首尾よくトランスフェクトされた細胞の成長の優位性が、野生型葉酸受容体アルファを用いるよりも早期に見られたことから、本開示によって教示されているように変異型葉酸受容体アルファを選択可能マーカーとして使用することは、さらに好都合である。その上、変異型葉酸受容体は、さらに低い葉酸濃度で、15nMや5nMでさえ、選択することを可能にする。そのため、本開示による変異型葉酸受容体を選択マーカーとして使用した際には、さらにストリンジェントな選択条件を使用することができる。
【0167】
選択12日目に細胞プールの生存率を分析した際に、観察された生存率は、35〜50nMの葉酸濃度ではほぼ同じであった(細胞プールの生存率>90%)。高い生存率であったため、この日に集団を継代することが可能であった。しかし、さらに低い葉酸濃度では、生存率が低減した。最も低い葉酸選択培地では、V−mutFRalphaをトランスフェクトされた集団のみが、76%という比較的高い生存率を示した。
【0168】
さらに、選択に必要な時間を分析した。選択に必要な総時間は、新しい選択マーカーを確立する際に重要である。CHO細胞を培養する際には、単回の選択ステップのDHFR−MTX選択を、使用した選択条件に応じて15日目から16日目に完了してもよい。しかし、複数ステップの遺伝子増幅は、通常、大幅にさらに長期にわたる。この期間の間に、細胞は、選択圧に起因して誘発される危機から回復するはずである。表3は、次の継代までの選択中であった日数、すなわち、細胞が90%超の生存率を達成し、したがって、細胞を抗体力価スクリーニングに使用しうることを達成するために必要な期間を示す。
【0169】
【表3】
【0170】
表3は、次の継代までの選択中であった日数、すなわち、細胞が選択の危機を克服し、90%超の生存率を達成するために必要であった時間枠を示す。見ての通りに、始めた時には、全ての細胞プールが、50、45または35nMの葉酸を含む選択培地中で培養された際に回復した。しかし、さらに低い葉酸濃度は、さらに高い選択圧を細胞に及ぼし、その結果、V−mutFRalphaの使用のみが、これらの非常にストリンジェントな条件下で16日後に、良好な回復とそれゆえの生存を可能にした。ここで、V−mutRFalphaを用いてトランスフェクトされた集団は、5nMから25nMの葉酸を含むのみの選択培地中で回復し、90%超の生存率を示した。V−wtFRalphaを用いてトランスフェクトされた細胞は、さらに多くの時間を要し、非常に低い葉酸濃度では回復することができなかった。
【実施例2】
【0171】
抗体生産性の決定
目的の遺伝子(ここでは参照抗体)の発現に基づくトランスフェクションおよび選択の成果を分析するために、得られた、すなわち実施例1に従って選択された細胞を、選択後の細胞の生産性を決定するために、13日間の振盪フラスコ中でのバッチ培養として培養した。細胞は、90%超の生存率を有していた。13日目に、プロテインA親和性クロマトグラフィーを使用して、培養上清中の抗体濃度を決定した[mg/L]。結果を表4に示す。
【0172】
【表4】
【0173】
導入された発現ベクターから発現された抗体は、全ての細胞集団から検出することができた。DNAを用いてトランスフェクトされなかったプールにも少量の抗体が確認されたことから、9mg/l超の値のみを有意であるものと定めた。125nM MTX(標準的なDHFR/MTX選択系)の参照集団は、28mg/lを生産した。V−wtFRalphaを用いてトランスフェクトされた4つの細胞集団の結果は、さらに高い葉酸濃度でバックグラウンドの範囲にあった。しかし、培養培地中の葉酸濃度を15nM葉酸に低下させた際に、抗体発現は、参照対照のV−DHFRrefを125nM MTX中で用いたもの(28mg/l)とほぼ同等に高かった(24mg/l)。このことは、選択に毒性剤を使用しない場合でさえ、野生型葉酸受容体が選択マーカーとして役割を果たし、確立されたDHFR/MTX系に匹敵する効率を達成することができるという従前の知見を立証する。V−mutFRalphaを用いてトランスフェクトされた細胞プールは、培養培地中の葉酸濃度に応じて、抗体力価に線形の増加を示した。培養培地中の葉酸濃度が低いほど、結果として生じる抗体発現率は高かった。そのため、本開示による変異型葉酸受容体を選択マーカーとして使用することは、野生型葉酸受容体を選択マーカーとして使用することを上回る利点を有する。
【0174】
組み込まれた導入遺伝子の数は、発現率に重要な影響を及ぼすことから、細胞プールのゲノムDNAに基づいて定量的PCRを使用し、最も重要なエレメント、とりわけ発現された抗体の軽鎖および重鎖(LC、HC)のコピー数、ならびに葉酸受容体(変異型または野生型)のコピー数を決定した。
【0175】
測定された抗体力価に関連して、コピー数は、ゲノム内への組み込みの箇所が、発現の強さまたは弱さの原因であるか否かという疑問に関する洞察を、間接的に提供することができる。単一細胞クローンではなく、選択を生き残った種々の細胞の集団が分析されたため、本明細書で実施されているような定量的PCR分析は、導入遺伝子のコピー数の平均値を与える。
【0176】
【表5】
【0177】
表5は、選択後のV−wtFRalphaおよびV−mutFRalphaのトランスフェクタントの定量的PCR分析の結果を示す。対照プールから、最も高い選択のストリンジェンシー(V−DHFRref:125nM MTX、35nM葉酸、DNA不含:25nM葉酸)を生き残っていたプールを分析した。さらに、選択圧なく培養された非トランスフェクトCHO細胞を、陰性対照として分析した。表5は、軽鎖および重鎖のコピー数、ならびに選択マーカーとして使用した葉酸受容体のコピー数を示す。値は、CHO細胞の理論的なゲノムサイズを基準とする。表5は、非トランスフェクトCHO細胞には、期待通りに、抗体配列を確認することができなかったことを示す。さらに、内因性の野生型葉酸受容体アルファのコピーのみが確認された。125nM MTXを用いて選択された参照対照V−DHFRrefは、平均で2倍の抗体導入遺伝子の組み込みを示した。35nM葉酸を用いて選択された集団V−DHFRrefに目を向けると、抗体の軽鎖および重鎖のはるかに高い組み込みを見ることができた。5.5コピーの重鎖および6.8コピーの軽鎖が検出された。FRアルファ遺伝子のコピー数は、親CHO細胞と同等であり、内因性の対立遺伝子に起因する。
【0178】
V−wtFRalphaを用いてトランスフェクトされたプールは、V−DHFRrefを用いた対照に比べて、わずかなHCおよびLCのコピーのみを示した。濃度依存的な差異は何も観察されなかった。葉酸受容体のコピー数は、50nMから35nM葉酸で2.8コピーに増加したが、次いで25nMで低下した。また、15nM葉酸を用いて選択されたプールは、平均2.6コピーの抗体鎖を組み入れていた。これに対して、V−mutFRalphaを用いてトランスフェクトされた細胞プールは、選択培地中の葉酸の低減と並行して、抗体鎖の遺伝子コピーについてほぼ線形の増加を示した。そのため、選択培地中の葉酸の濃度が低くなるほど、選択された細胞に、さらに多くのLCおよびHCの遺伝子のコピー数が検出された。変異型葉酸受容体アルファ遺伝子のコピー数は、同程度の傾向を示した。5nM葉酸を使用して選択されたプールは、組み込まれた抗体のコピー数が、125nM MTXを用いて選択された参照対照V−DHFRrefのおよそ3倍であった。
【実施例3】
【0179】
単一細胞クローニング
目的の遺伝子を高収量で安定に生産する細胞株を開発するために、実施例1による選択を生き残った種々の生産細胞の得られた集団から、高い抗体発現率と良好な細胞成長との両方を示す最も優良なクローンを選択することが必要である。このため、細胞株を、単一の細胞から限界希釈法によって生成した。限界希釈法は、実施例1による選択を生き残った細胞のポリクローナルな集合体から開始して、モノクローナルな細胞集団を得ることを可能にする。これは、親(ポリクローナルな)細胞培養物の希釈を増加させた系列を用意することによって達成される。親細胞の懸濁液を作製する。次いで、開始時の集団中の細胞数に応じて、適切な希釈物を作製する。最終的な希釈物を生産した後に、単個の細胞を細胞培養プレートのウェルに配置し、それからクローンを作製する。モノクローナル細胞の集団を確立することによって、長期間にわたる安定な抗体発現が保証される。選択された細胞集団V−wtFRalpha(15nM葉酸)、V−mutFRalpha(5nM葉酸)、V−DHFRref(125nM MTX)およびV−DHFRref(250nM MTX−異なるトランスフェクション由来)をそれぞれクローン化した。クローニングを、完全培地中にて、さらに、予め選択に使用したような対応する選択培地中にて実施した。そのため、後者の場合には、単一細胞クローニングの間、選択圧を維持した。首尾よく成長した後、70%超の密集度でクローンを24ウェルプレートへ移し入れて、その抗体生産量についてバッチ培養(10日の継続期間)にて試験した。バッチ培養の間、再び完全培地(選択圧なし)と選択培地(選択圧を維持)のどちらかを使用した。クローンを、最高の発現レベルから最低の発現レベルまで並べた(培地に応じて)。結果を図1から図4までに示す。
【0180】
示されているのは、完全培地(選択後に選択圧を維持していなかった)と選択培地(選択後に選択圧を維持した)のどちらかにて達成されたクローニングの結果である。ここで、手作業によるクローニング手順の典型的な進歩が見られる。1〜5クローンの高生産細胞クローンを見出し、その後、曲線は、低発現または発現すらない細胞クローンにまで急激に降下している。さらに、低生産細胞クローン内では、広範な細胞生産性が観察されたが、大多数は、閾値9mg/lを下回っていた。
【0181】
V−DHFRrefを用いてトランスフェクトされた細胞(125nM MTXを用いて選択された)の完全培地および選択培地中でのクローニングの結果、6×96ウェルプレートから86クローンがもたらされた(53は完全培地中、33は選択培地中)。最も高生産性のクローンを、選択培地中で培養し、24ウェルのバッチに28.4mg/lを生産した。250ml振盪フラスコ(計50ml)では、元のポリクローナルなプールもまた、28mg/lの力価を達成した。V−DHFRrefを用いてトランスフェクトされた細胞(250nM MTXを用いて選択された)の完全培地および選択培地中でのクローニングによって、76クローンを単離することが可能であった(41は完全培地中、35は選択培地中)。選択後に完全培地中で培養した細胞から、最も優良な3クローンを単離し、その他では、選択培地中で成長した細胞が、完全培地中でクローンとしてさらに高い総生産性を示した。開始時のポリクローナルなプールは、27mg/lの力価を有し、最も高生産性の細胞クローンは、24ウェルで42mg/lを達成した。両参照対照は、選択の間に使用された最も高いMTX濃度が、必ずしも最も高い力価をもたらす訳ではないということを示している。最も優良なクローンを単離するためには、多数の細胞クローンを分析する必要がある。
【0182】
野生型葉酸受容体アルファを選択可能マーカーとして含むベクターV−wtFRalphaを用いてトランスフェクトされた細胞(15nM葉酸を用いて選択された)をまた、完全培地(選択後に選択圧を維持していなかった)と選択培地(それによって選択後に選択圧を維持していた)のどちらかでクローン化した。最も高生産の2クローンを選択培地中で単離した。最も優良なクローンは、24ウェルフォーマットで53mg/lを達成した。この選択培地中で7クローンのみが生き残ったことは、注目に値する。完全培地中では、49クローンが生き残った。元のプールは、250ml振盪フラスコで、抗体濃度がおよそ24mg/lであった。
【0183】
変異型葉酸受容体アルファを選択可能マーカーとして含むベクターV−mutFRalphaを用いてトランスフェクトされた細胞(5nM葉酸を用いて選択された)をまた、完全培地(選択後に選択圧を維持していなかった)と選択培地(それによって選択後に選択圧を維持していた)のどちらかでクローン化した。最も優良な2クローンを完全培地ならびに選択培地中で単離した。最も高生産性のクローンは、上清中で42mg/lであった。合わせて100クローンを24ウェルプレート内へ移し入れることができ、その条件下では、完全培地で52、選択培地で48であった。ここで、選択培地および完全培地で同様の結果が達成された。表6は、最も優良な生産クローンの生産率を要約している。
【0184】
【表6】
【0185】
表6は、2つの選択可能マーカーである野生型葉酸受容体アルファ(V−wtFRalpha)および変異型葉酸受容体(V−mutFRalpha)を用いた選択が、参照の選択可能マーカーDHFRと同等に良好な少なくとも1つの結果をクローニング実験にて達成した細胞クローンを、単一細胞クローニング後に与えることを示す。さらに別の実験(以降を参照)は、本開示による変異型葉酸受容体を選択可能マーカーとして使用した際に、さらに高い総生産率をも得られうることを示している。
【実施例4】
【0186】
同時トランスフェクション実験
選択培地中の葉酸欠乏およびMTX添加の形態をとった二重選択圧の、選択のストリンジェンシーと効率とを分析するために、V−DHFRrefおよびV−mutFRalphaを用いて、細胞を同時トランスフェクトした。トランスフェクトされた全てのベクターは、同じ抗体遺伝子を目的のタンパク質として含む。2つの別々の発現ベクターを同時トランスフェクトし、それぞれのベクターは、抗体の軽鎖および重鎖を発現するための発現カセットを含む。完全培地から持ち込まれる葉酸を低減するために、トランスフェクションの前に、PBSを用いてCHO細胞(DHFR参照対照に使用された細胞を除く)を3回洗浄し、トランスフェクションのために選択培地へ継代した。参照対照V−DHFRrefのトランスフェクションに使用されるCHO細胞の継代は、完全培地中で実施された。
【0187】
ヌクレオフェクションを使用して、ベクターを細胞内へトランスフェクトした。単独のベクタートランスフェクションに対して、2倍量の細胞(1×10LZ/ml)および2倍量のDNA(ベクター3μgあたり)を、同時トランスフェクションのためにトランスフェクトした。しかし、細胞個あたりに基づけば、トランスフェクトされたDNA量は同じであった。V−DHFRref/V−mutFRalphおよび対照を用いてトランスフェクトされたCHO細胞を、選択培地中へ移し入れ、参照トランスフェクション物を、完全培地中へ移し入れた。トランスフェクションの48時間後に、選択を開始した。試験設定あたり3回のトランスフェクション物を48時間後に合一し、遠心分離して9mLの選択培地または完全培地に再懸濁し、3つの選択培地へ3連として分割した。同時トランスフェクトされた細胞プールおよび対照の3つのバッチを、選択のために、3つの種々の濃度の葉酸/MTXに曝露した。それに並行して、ベクターV−DHFRrefを用いて、G418/MTX選択を使用して、参照対照を実施した。ここで、細胞を、葉酸を豊富に含む完全培地中で培養した。選択サイクルを開始するために、次いで、選択剤を添加して、選択圧を誘発した。陰性対照として、DNAを添加しないトランスフェクションを実施した。実施したトランスフェクションおよび使用した培養培地を、以降の表7に要約する。
【0188】
【表7】
【0189】
選択が完了した後に、組み込まれた抗体遺伝子の発現率を決定するために、選択された細胞からバッチ培養を調製した。バッチ培養の間、細胞集団を完全培地中で培養した。抗体発現を確認するために、バッチ培養の13日後に、同時トランスフェクションおよび参照トランスフェクションについて、プロテインA親和性クロマトグラフィーを使用して、全ての細胞集団で抗体濃度を決定した。結果を表8に示すが、ここではバッチ培養を、選択培地中でそれらが発生した後に命名しており、すなわち、選択(50/50、50/100、12.5/50[nM FA/nM MTX]またはV−DHFRref−G418−MTX−3連で実施する)が実施された後に命名している。生き残らなかった細胞プールは示されていない。さらに、使用した測定方法に起因して、9mg/l超の値のみを有意とみなす。
【0190】
【表8】
【0191】
表8から見ての通りに、DHFR参照方法のプールは、3回の選択ステップ(0.8mg/l G418−500nM MTX−1μM MTX)の後に、58mg/lまでの抗体力価を生産した。V−mutFRalpha/V−DHFRrefを使用した同時トランスフェクションからは、選択後に細胞を完全培地へ移し入れた際に、ほぼ全ての細胞プールが生き残った。50/50選択培地から発生したV−mutFRalpha/V−DHFRrefプールは、25mg/lまでを生産し、プール−50/100および12.5/50集団は、36mg/lまでの力価を生産した。
【0192】
3回の連続した選択サイクルを、DHFR参照方法で使用したが、その理由は、G418選択に2回のMTX選択サイクル(500nMおよび1μM MTX)を続けたためである。それゆえ、細胞培養培地中で、制限的な濃度の葉酸およびMTXを使用して、2つの選択サイクルを実施した際に発現率を増加させることができるか否かを、追加的に試験した。そのため、制限的な濃度の葉酸およびMTX(使用された濃度については先を参照のこと)を使用して、1回目の選択サイクルを実施した後に、細胞を完全培地中へ移し入れて、回復を可能にした。その後、細胞を、2回目の選択サイクルで、再度同じ選択培地へ、それゆえ同じ選択圧へ曝露した。結果を表9に示す。
【0193】
【表9】
【0194】
表9は、V−mutFRalpha/V−DHFRrefを用いてトランスフェクトされた細胞が、35〜38日後に再び選択圧に曝露された際に、該細胞が、21mg/lから670mg/lまで非常に高く大幅な生産量の増加を示したことを示す。これは、抗体力価での30倍の増加である。また、50/50選択培地中の他の集団は、繰り返された選択圧下で、完全培地中で培養された培養物の20倍を生産した。さらに、得られた結果は、3回の選択サイクルが実施されたDHFR参照方法(表8を参照)よりも、大幅に良好であった。それゆえ、制限的な濃度の葉酸類および葉酸代謝拮抗剤を含む選択培地を使用して、非選択培地中での中間の培養ステップを伴い2回の選択サイクルを実施するという、この選択の原理は、並外れて高い発現力価をもたらす。
【実施例5】
【0195】
単一細胞クローニング
安定なベクターの発現を伴う細胞株を生成するために、実施例4に従って得られた細胞集団を、選択が完了した後にクローン化した。選択後、6×96ウェルプレート中で、完全培地(それによって、クローニングの間に選択圧を維持していない)および選択培地(それによって、クローニングの間に選択圧を維持している)で限界希釈法を使用して、ポリクローナルなトランスフェクションのプール50/50をクローン化した。クローンが首尾よく成長した後に、70%超の密集度の際に、クローンを24ウェルプレートへ移し入れて、その抗体生産性についてバッチ培養の10日後に試験した。V−mutFRalpha/V−DHFRrefを同時トランスフェクトされて選択された集団をクローニングした際に達成された結果を図5に示す。図5に示されているように、完全培地および選択培地中でのV−mutFRalpha/V−DHFRref細胞のクローニングの結果、6×96ウェルプレートから65クローンがもたらされた(55は完全培地であり、10は50nM FA/50nM MTXを含む選択培地)。クローンを最も高い発現レベルから最も低い発現レベルまで並べた(培地に応じて)。最も高生産のクローンは、完全培地中でのクローニングから単離され、24ウェルのバッチで450mg/lを生産した。250ml振盪フラスコ(計50ml)では、元のプールは、670mg/lの力価を達成した。
【0196】
参照として、先行のG418−MTX選択後のDHFRベクターV−DHFRrefの限界希釈クローニングを実施した。それぞれの結果を、先行の実験から得て、類似の条件下で実施した。クローニングを選択培地で実施し、それによって、クローニングの間に選択圧を維持した。結果を表10に示す。
【0197】
【表10】
【0198】
ここで、漸次のG418 500nM MTX 1μM−MTX選択を実施した。表10は、選択培地(1μM MTX)での集団の終点希釈物の結果を示す。クローンを最も高い発現レベルから最も低い発現レベルまで並べている。この参照の最も高生産のクローンは、20ウェルのバッチで51mg/lを達成した。広範な細胞生産性が達成されたが、多くが9mg/lの閾値を下回った。
【0199】
図5および表10に示されている結果は、V−mutFRalpha/V−DHFRrefを用いた同時トランスフェクションが、大幅に高い生産性をもたらし、さらに、単離された高生産細胞クローンの数が、大幅に増加したことを示す。選択されたポリクローナルな集団から単離されたクローンの50%超が、300mg/lよりも高い力価を達成した。最も高い選択ストリンジェンシー下での同時トランスフェクションは、V−mutFRalpha、V−DHFRref(種々の選択方法)およびV−mutFRalpha/V−DHFRrefの最上位の生産細胞クローン内で、9倍の抗体濃度の増加を達成した。結果を表11に示す。
【0200】
【表11】
【0201】
表11は、クローニング後に実施された選択の最上位の生産株の抗体濃度[mAb(mg/L)]を示す。見ての通りに、V−mutFRalpha/V−DHFRrefの同時トランスフェクションと、制限された濃度の葉酸を含み、かつ追加的に葉酸代謝拮抗剤を含む選択培地中での選択とは、最も良好な結果をもたらす。
【0202】
先の結果は、変異型葉酸受容体を選択可能マーカーとして使用することに基づく選択が、首尾よくトランスフェクトされた細胞を、制限量の葉酸類、ここでは葉酸を含む選択培地が使用された際に、生き残らせることを可能にすることを示す。変異型葉酸受容体アルファを選択マーカーとして使用した選択は、野生型葉酸受容体アルファを選択マーカーとして使用した際よりも速い。野生型葉酸受容体アルファは、高い親和性で葉酸に結合することから(KD=0.1nM)、選択圧は、耐えうる葉酸の閾値濃度を下回る高さであり、その濃度下では、DNA不含でトランスフェクトされた細胞も生き残ることができる。このことは、決定された抗体濃度にも反映されている。変異型葉酸受容体を用いてトランスフェクトされた細胞は、供試した全ての選択培地中で生き残ることができた。さらに、比較的均一な成長が観察された。最も高濃度の3つの培養培地では、細胞は、12日後に継代することができ、最も低い葉酸濃度を含む3つの培地では、16日目までに回復が達成された。これらの場合では、細胞への選択圧が、野生型葉酸受容体に比べていっそう増加していた。変異型葉酸受容体の過剰発現は、目的のタンパク質の発現と関連していることから、決定された抗体力価は、選択培地中の葉酸濃度と逆相関する。
【実施例6】
【0203】
dhfr、野生型FolRおよびFolR A49Lを選択可能マーカーとして有するベクターのトランスフェクション
この実施例では、種々の選択条件を供試し比較した。ベクターV−DHFRref、V−wtFRalphaおよびV−mutFRalpha(A49L変異体)を用いて、CHO細胞をトランスフェクトした。選択培地中での制限的な濃度の葉酸を使用して、宿主細胞への選択圧を作り出したが、これを、本明細書では葉酸欠乏ともいう。
【0204】
化学的に明確な培養培地中で浮遊成長性CHO細胞を使用して、細胞培養、トランスフェクションおよびスクリーニングを、振盪フラスコ内で実施した。細胞を電気穿孔法(ヌクレオフェクション)によってトランスフェクトした。葉酸欠乏に基づいて選択するために、細胞を、トランスフェクションの3日前に、葉酸不含の培地へ継代し、葉酸不含の培地中でトランスフェクトして、内部の葉酸の蓄積を低減させた。細胞の生存率に応じて、トランスフェクションの24〜48時間後に、細胞へ選択培地を添加することによって選択を開始した。
【0205】
6通りの種々の葉酸濃度(11700、150、50、5、0.5および0nM)を使用して、V−wtFRalphaおよびV−mutFRalphaをトランスフェクトされた細胞を選択し、一方、V−DHFRrefをトランスフェクトされた細胞の場合には、6通りの種々のMTX濃度を参照として供試した(2000、1000、500、250、125および0nM)。
【0206】
選択後に細胞が80%超の生存率まで回復した後に、生き残っていた細胞集団の生産性を分析した。11.7μM葉酸を含有する完全培地中にて過剰成長させた振盪フラスコのバッチ培養を介して選択した後に、選択された細胞集団の生産性を分析した。50mlの作業容量を用いて、振盪フラスコ(125)中にバッチ培養物を播種し、振盪キャビネット内(加湿されない)にて150rpmおよび10%COで培養した。アッセイを開始する際に、細胞の生存率を>90%としなければならなかった。播種細胞密度を2×10c/mlとした。力価の決定を13日目に行った。培養を開始して13日後に、細胞培養上清中の抗体力価を、プロテインA HPLCによって決定した。
【0207】
この実験の結果を以下に示す。制限的な葉酸濃度下での両方の葉酸受容体バリアントの選択のストリンジェンシーを見積もるために、11700nM(参照培地、完全培地)から0nMまでに及ぶ種々の葉酸濃度を供試して、抗体の過剰発現細胞を選択した。並行して、参照DHFRベクターを用いて種々のMTX濃度を供試して、性能を比較した。トランスフェクトされた全ての細胞集団が回復することができた。0nM葉酸のものは、恐らくは、前培養の培地から持ち込んだいくらかの痕跡量の葉酸を含有していた。これらの残余量の葉酸は、細胞のサブポーションが生き残るのを促進するために、明らかに十分であった。しかし、続いて葉酸を含む培地をフィードすることが、それらの集団を回復させるために必要であった。上記に記載されているように、生産性を評価した。表12は、生産性の結果を要約している。
【0208】
【表12】
【0209】
表12は、種々の葉酸またはMTX濃度で選択されたトランスフェクト細胞について、振盪フラスコのバッチ培養で分析された結果を示す。培養の13日目に、培養培地の試料を採取し、プロテインA HPLCによって抗体の含量を分析した。全ての細胞集団が抗体を生産することが見出された。V−wtFRalphaを用いて、5nM葉酸で選択した際に、最大限の生産性が達成された。この葉酸の濃度は、上記の実験にて観察された濃度よりも低く、この実施例でいくらかの葉酸が初発の培養培地から持ち込まれたという事実に起因する可能性がある。このことはまた、0nM葉酸にて達成された回復および生産率を説明することになろう。野生型葉酸受容体を使用した際には、葉酸をさらに低減することによって、高い生産性はもたらされない。これに対して、V−mutFRalphaを用いれば、選択の間に最も低い葉酸濃度を用いて、高い生産性が達成される。変異体を用いて達成される生産性は、野生型葉酸受容体を用いて達成される生産性よりも大幅に高く、また、DHFR/MTXを用いるように大幅に高い。
【0210】
さらに、選択の間の細胞の回復を分析する際に、V−mutFRalphaを用いてトランスフェクトされた細胞が、非常に低い葉酸濃度下で、具体的には<25nMで、さらに大幅に早く回復することが見出された。それゆえ、上記に記載されているさらに速い回復率は、この実験でも立証された。
【0211】
上記に記載されているように、実施例1から6は、変異型葉酸受容体が選択のために使用されるという、本開示の教示を用いて達成される利点を示す。例えば、上記に記載されている実施例では、参照集団(DHFR)、28mg/lの抗体分泌が確認され、V−wtFRalphaをトランスフェクトされた細胞が最も高い生存選択のストリンジェンシーにあった場合には、24mg/lが得られ、V−mutFRalphaをトランスフェクトされた細胞では、26.6mg/lが得られた。それゆえ、それぞれの実験で決定された生産率は類似の範囲にあり、選択可能マーカーとして、野生型葉酸受容体アルファならびに変異型葉酸受容体アルファは、「至適基準」(gold standard)として認識されうる確立されたDHFR/MTX選択系に匹敵する結果を達成した。さらに、選択に必要な期間を比較した際に、本開示によって供されるような変異型葉酸受容体に基づく系を用いて、大幅にさらに速く選択することが可能であることが観察された。15nM葉酸および25nM葉酸中でV−wtFRalphaベクターを用いてトランスフェクトされており、かつ同じ濃度でV−mutFRalphaをトランスフェクトされた細胞よりも長い回復相を要する細胞さえ、20日間で、この時点では依然として危機的状態にある参照対照(DHFR)を上回る明確な優位性を示す。本開示による葉酸受容体変異体を使用することは、それゆえDHFR/MTX系に比べて、細胞株を開発する際に選択相におかれる時間を節約し、また、野生型に基づく選択系よりも速い。結果はまた、変異型葉酸受容体を使用することが、細胞に、供試した選択培地中での野生型葉酸受容体の使用に比べて優位性を付与することも示すが、その理由は、細胞が、さらに大きな葉酸濃度幅で生き残り、具体的にはさらに低い葉酸濃度を生き残ることができることにあり、それゆえさらにストリンジェントな選択条件が可能になるためである。さらに、選択の危機は、野生型葉酸受容体によってトランスフェクトされた細胞を用いる場合よりも大幅に早期に、変異型葉酸受容体を用いて回復される。結果は、本明細書に記載されているような変異型葉酸受容体を使用することが、重要な利点を有することを示す。
【0212】
さらに、また、制限的な濃度で葉酸を含み、かつ追加的に葉酸代謝拮抗剤を含む選択培地を使用して、選択可能マーカーとしての葉酸受容体およびDHFRに対する二重選択を実施する実験は、変異型葉酸受容体についての利点を明確に示す。葉酸受容体内の変異は、前記二重選択圧下で、細胞成長への正の効果を明らかに有する。理論に縛られる訳ではないが、MTXなどの葉酸代謝拮抗剤との親和性は、変異体では低減している可能性があり、その結果、細胞内へはさらに少なくMTXが組み入れられる。さらに、細胞が1回目の選択ラウンド後に回復することを可能にするために、選択を繰り返して、2つの選択サイクルの間に完全培地へ細胞を移し入れることは、好都合であることが見出された。細胞を選択培地へ再度移し入れた後、両方のベクターがゲノム内へ組み込まれており、それゆえ二重選択圧を生き残ることが可能な細胞を、濃縮することができる。生産性が、完全培地に比べて20倍から30倍にまで増加したことが見出された。このことは重大な利点である。標準的なG418/MTX複数ステップ選択の後の参照対照に比べると、生産性に依然として6倍から13倍の増加が観察された。そのため、変異型葉酸受容体がDHFRと組み合わせて使用されるという、本開示による選択系は、先行技術の選択系を上回る明確な優位性を有する。さらに、この二重選択戦略を使用して、300mg/l超の力価を示す50%超の高生産クローンを選び出すことができた。それゆえ、非常に高生産のクローンの探索は、煩わしさが少ないものであったが、このことは、具体的には工業用タンパク質生産のために、既存のスクリーニング技術を上回る大幅な改善である。
【0213】
本開示に従って選択マーカーとして使用される変異型葉酸受容体は、非常に好都合であり、その理由は、トランスフェクトされた集団が、参照の選択系よりも速やかに成長の危機を生き残るためである。さらに、変異型葉酸受容体を用いてトランスフェクトされた細胞集団は、選択後、種々の選択培地中に、葉酸の濃度に逆相関した受容体および抗体の発現を示す。この相関は、ゲノムDNA(コピー数)ならびにRNAレベルでの分子生物学的な分析を使用して示すことができた。さらに、本明細書に記載されているような変異型葉酸受容体を使用することは、DHFR/MTXとの共選択を推し進める際に、非常に好都合であることが見出された。使用された対照(FRwt、FRmutおよびDHFRの単独のトランスフェクション)は、葉酸欠乏とMTXとのストリンジェントな組合せの致死的な効果を生き残ることができなかった。そうであったにも関わらず、この選択系の高いストリンジェンシーはまた、同時トランスフェクトされた集団のいくつかが選び出されたという効果を有していた。しかし、FRmut/DHFRを用いた二重選択の原理を使用した際に、中間ステップとして葉酸を添加し、2回目の選択を実施することによって、同時トランスフェクションの原理を用いて非常に良好な結果が達成された。この方法は、最も優良な生産性の(最上位の)クローンについて、さらに速やかにかつ煩わしさの少ないスクリーニングを可能にすることが示された。最も高生産の細胞集団(50mlの培養容量中に670mg/l)の単一細胞クローニングの結果、300mg/l超を生産するおよそ50%の高生産細胞クローンが回収された。単独トランスフェクションおよび参照に比べて、同時トランスフェクトされた集団のクローニングは、40倍の生産性の増加である240mg/lの平均生産性を達成した。最上位の生産細胞クローンは、24ウェルバッチで450mg/lを達成した。これらの結果は、変異型葉酸受容体を選択マーカーとして使用することに基づく本開示が、既存の選択系に重大な寄与を生じるということを立証する。
【実施例7】
【0214】
2つの選択可能マーカーを含む発現ベクターのトランスフェクション
この実施例では、変異型ヒト葉酸受容体アルファ(A49L変異体−mutFRalpha、上記を参照)をコードするポリヌクレオチドを含む発現カセットと、DHFR(V−wtFRalpha/DHFRref)をコードするポリヌクレオチドを含む発現カセットとを含む発現ベクターを用いて、CHO細胞をトランスフェクトした(ヌクレオフェクション)。そのため、両方の選択可能マーカーmutFRalphaおよびDHFRは、同じ発現ベクター上にあった。さらに、発現ベクターは、抗体の軽鎖をコードするポリヌクレオチドを含む発現カセットと、抗体の重鎖をコードするポリヌクレオチドを含む発現カセットとを含んでいた。この実験では、先行の実施例とは異なる抗体を発現させた。50nM葉酸(FA)と種々の濃度のMTXとを使用した5つの種々の選択条件を供試した。選択培地を、以下に続く表13にて要約する。選択後に、選択された細胞プールを、完全培地へ移し入れて、振盪フラスコのバッチ培養にて成長させた。培養の13日目に、培養培地の試料を採取し、プロテインA HPLCによって抗体の含量を分析した。結果を表13にも示す。
【0215】
【表13】
【0216】
見ての通りに、変異型葉酸受容体とDHFRとを選択可能マーカーとして含む発現ベクターV−mutFRalpha/DHFRrefを使用した際に、既に5nMという低いMTX濃度は、大きな選択の優位性を付与する。このことは、他の実施例中にも示される選択のために、DHFRと組み合わせて変異型葉酸受容体を使用することの優位性を立証する。抗体生産性が大幅に増加し、その上、選択の間にさらに低い濃度のMTXを使用することができるが、このことは、MTXが毒性剤であることを考慮すると、重大な利点である。
【実施例8】
【0217】
親CHO細胞の簡素化された前処理を用いたトランスフェクション
手順にて、細胞の遠心分離/洗浄ステップを回避することができるか否かを試験するために、全培地と50nM葉酸を含む培地とのどちらかで凍結保存した細胞から、制限的な濃度の50nM葉酸を含有する培養培地を使用した培養に、親CHO細胞を供した。この培地中で何回か継代した後、ヌクレオフェクション法と、モノクローナル抗体をコードする発現ベクターV−mutFRalpha/DHFRrefとを使用して、細胞をトランスフェクトした。50nM葉酸を含む同じ培地を使用して、このトランスフェクションとこれに続く培養とを行った。次いで、トランスフェクションから48時間後に、10nM MTXを培養物へ添加することによって、選択圧を増加させた。完全培地を使用して、振盪フラスコのバッチ培養で、選択から回復した培養物の生産性を評価した。結果を表14に示す。表14に示されているように、トランスフェクションおよび選択の手順に用いるそのような簡素化したプロトコールによって、先の実施例での手順(例えば表13)に匹敵する生産性がもたらされる。
【0218】
【表14】

本発明は以下の態様を含み得る。

[1]
a)変異型葉酸受容体を選択可能マーカーとしてコードするポリヌクレオチドであって、前記変異型葉酸受容体が、野生型葉酸受容体に比べて葉酸結合親和性が低下している、ポリヌクレオチドと、
b)目的のポリペプチドをコードする少なくとも1つのポリヌクレオチドと
を含み、宿主細胞内へ導入された際に、前記目的のポリペプチドが前記宿主細胞から分泌される、発現ベクターまたは少なくとも2つの発現ベクターの組合せ。
[2]
前記コードされた変異型葉酸受容体が、野生型葉酸受容体に比べて低下した葉酸結合親和性をもたらす少なくとも1つの変異を葉酸結合ポケットに含む、請求項1に記載の発現ベクターまたは少なくとも2つの発現ベクターの組合せ。
[3]
前記コードされた変異型葉酸受容体が、低下した葉酸結合親和性をもたらすアミノ酸の置換、欠失または挿入から選択される少なくとも1つの変異を含む、請求項1または2に記載の発現ベクターまたは少なくとも2つの発現ベクターの組合せ。
[4]
前記コードされた変異型葉酸受容体が、変異型葉酸受容体アルファである、請求項1から3のうち1項または複数項に記載の発現ベクターまたは少なくとも2つの発現ベクターの組合せ。
[5]
前記コードされた変異型葉酸受容体が、成熟型の野生型ヒト葉酸受容体アルファ(配列番号1)のアミノ酸配列に由来するアミノ酸配列を含み、前記変異型葉酸受容体のアミノ酸配列が、前記成熟型の野生型ヒト葉酸受容体アルファ(配列番号1)に比べて葉酸結合親和性を低下させる少なくとも1つの変異を含む、請求項4に記載の発現ベクターまたは少なくとも2つの発現ベクターの組合せ。
[6]
前記変異型葉酸受容体が、成熟型の野生型ヒト葉酸受容体配列の49位、104位および166位から選択されるアミノ酸位置に構造的に対応するかまたはアミノ酸配列相同性により対応するアミノ酸位置に、少なくとも1つの置換を含む、請求項4または5に記載の発現ベクターまたは少なくとも2つの発現ベクターの組合せ。
[7]
前記変異型葉酸受容体が、成熟型の野生型ヒト葉酸受容体アルファ配列(配列番号1)のアミノ酸49に構造的に対応するかまたはアミノ酸配列相同性により対応するアミノ酸位置に置換を含む、請求項1から6のうち1項または複数項に記載の発現ベクターまたは少なくとも2つの発現ベクターの組合せ。
[8]
前記変異型葉酸受容体が、野生型葉酸受容体に比べて、5−メチルテトラヒドロ葉酸の6Sジアステレオ異性体への結合親和性が低下している、請求項1から7のうち1項または複数項、具体的には請求項6または7に記載の発現ベクターまたは少なくとも2つの発現ベクターの組合せ。
[9]
前記変異型葉酸受容体が、野生型葉酸受容体に比べて、葉酸への結合親和性が低下している、請求項1から8のうち1項または複数項、具体的には請求項6または7に記載の発現ベクターまたは少なくとも2つの発現ベクターの組合せ。
[10]
前記コードされた変異型葉酸受容体が、成熟型の野生型ヒト葉酸受容体アルファ配列(配列番号1)のアミノ酸49に構造的に対応するかまたはアミノ酸配列相同性により対応する位置にアミノ酸置換を含み、前記野生型配列に存在するアラニンが、ロイシン、グリシン、バリン、イソロイシン、ヒスチジンおよびアスパラギン酸からなる群から選択されるアミノ酸によって置換されている、請求項7から9のうち1項または複数項に記載の発現ベクターまたは少なくとも2つの発現ベクターの組合せ。
[11]
前記野生型配列の49位に存在するアラニンが、ロイシンによって置換されている、請求項10に記載の発現ベクターまたは少なくとも2つの発現ベクターの組合せ。
[12]
前記コードされた成熟型の変異型葉酸受容体が、ヒト葉酸受容体アルファの成熟型の野生型配列(配列番号1)と少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%または少なくとも99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含み、前記成熟型の変異型葉酸受容体のアミノ酸配列が、前記野生型ヒト葉酸受容体アルファに比べて前記成熟型の変異型葉酸受容体の葉酸結合親和性を低下させる少なくとも1つの変異を含む、請求項1から11のうち1項または複数項に記載の発現ベクターまたは少なくとも2つの発現ベクターの組合せ。
[13]
前記コードされた変異型葉酸受容体が以下の特徴:
a)前記成熟型の変異型葉酸受容体が、以下の配列
【化24】

を含み、Xaaは、アラニンではなく、好ましくはロイシン、グリシン、バリン、イソロイシン、ヒスチジンおよびアスパラギン酸から選択されるアミノ酸であり、さらに好ましくは、Xaaはロイシンであること、または
b)前記成熟型の変異型葉酸受容体が、配列番号9として示される配列と少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%もしくは少なくとも99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含み、Xaaは、前記変異型葉酸受容体ではアラニンではなく、好ましくは、Xaaは、ロイシン、グリシン、バリン、イソロイシン、ヒスチジンおよびアスパラギン酸から選択されるアミノ酸であり、さらに好ましくは、Xaaはロイシンであり、Xaaがアラニンである成熟型の野生型ヒト葉酸受容体アルファ配列(配列番号1を参照)に比べて、前記変異型葉酸受容体の葉酸結合親和性が低減していること
を有する、請求項1から12のうち1項または複数項に記載の発現ベクターまたは少なくとも2つの発現ベクターの組合せ。
[14]
前記コードされた変異型葉酸受容体が以下の特徴:
a)以下の配列
【化25】

を含み、Xaaはロイシンであること、または
b)配列番号13として示される配列と少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%もしくは少なくとも99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含み、Xaaはロイシンであり、Xaaがアラニンである成熟型の野生型ヒト葉酸受容体アルファ配列(配列番号1を参照)に比べて、5−メチルテトラヒドロ葉酸の6Sジアステレオ異性体への前記変異型葉酸受容体の結合親和性が低減していること
を有する、請求項1から13のうち1項または複数項に記載の発現ベクターまたは少なくとも2つの発現ベクターの組合せ。
[15]
葉酸類代謝に関与する選択可能マーカーをコードするポリヌクレオチドを追加的に含む、請求項1から14のうち1項または複数項に記載の発現ベクターまたは少なくとも2つの発現ベクターの組合せ。
[16]
選択可能マーカーをコードする前記ポリヌクレオチドが、ジヒドロ葉酸レダクターゼをコードする、請求項15に記載の発現ベクターまたは少なくとも2つの発現ベクターの組合せ。
[17]
a)変異型葉酸受容体をコードするポリヌクレオチドを含む発現カセットであって、前記コードされた変異型葉酸受容体が、成熟型の野生型ヒト葉酸受容体アルファ配列(配列番号1)のアミノ酸49に構造的に対応するかまたはアミノ酸配列相同性により対応する位置にアミノ酸置換を含み、前記位置にて野生型配列に存在するアラニンがロイシンによって置換されている、発現カセットと、
b)目的のポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを含む、少なくとも1つの発現カセットと、
c)ジヒドロ葉酸レダクターゼをコードするポリヌクレオチドを選択可能マーカーとして含む、発現カセットと
を含む、請求項1から16のうち1項または複数項に記載の発現ベクターまたは少なくとも2つの発現ベクターの組合せ。
[18]
生存能が葉酸類の取込みに依存している宿主細胞であって、
a)野生型葉酸受容体に比べて葉酸結合親和性が低下した変異型葉酸受容体をコードする、選択可能マーカーとして導入されたポリヌクレオチドと、
b)目的のポリペプチドをコードする少なくとも1つの導入されたポリヌクレオチドと
を含み、前記目的のポリペプチドは、前記宿主細胞から分泌される、宿主細胞。
[19]
前記変異型葉酸受容体が、請求項2から14のいずれか1項に規定された1つまたは複数の特徴を有する、請求項18に記載の宿主細胞。
[20]
請求項1から17のうち1項または複数項に規定された発現ベクターまたは少なくとも2つの発現ベクターの組合せを含む、請求項19に記載の宿主細胞。
[21]
以下の特徴:
a)哺乳類細胞であること、
b)齧歯類細胞であること、
c)CHO細胞であること、
d)内因性の葉酸受容体を発現すること、
e)葉酸類代謝に関与する選択可能マーカー、好ましくはジヒドロ葉酸レダクターゼをコードする、導入されたポリヌクレオチドを含むこと、および/または
f)前記導入されたポリヌクレオチドが、安定にゲノムへ組み込まれていること
のうち1つまたは複数を有する、請求項18から20のうち1項または複数項に記載の宿主細胞。
[22]
生存能が葉酸類の取込みに依存している宿主細胞に、
a)野生型葉酸受容体に比べて葉酸結合親和性が低下した変異型葉酸受容体を選択可能マーカーとしてコードするポリヌクレオチドと、
b)前記宿主細胞から分泌される目的のポリペプチドをコードする少なくとも1つのポリヌクレオチドと
を導入するステップを含む、請求項18から21のうち少なくとも1項に記載の宿主細胞を作製するための方法。
[23]
請求項1から17のうち1項または複数項に記載の発現ベクターまたは少なくとも2つの発現ベクターの組合せを宿主細胞内へ導入する、請求項22に記載の方法。
[24]
目的のポリペプチドを所望の収量で発現することが可能な少なくとも1つの宿主細胞を選択するための方法であって、
a)請求項18から21のうち1項または複数項に記載の複数の宿主細胞を提供するステップと、
b)制限的な濃度で葉酸類を含む選択培養培地中で、前記複数の宿主細胞を培養するステップと、
c)目的のポリペプチドを発現する少なくとも1つの宿主細胞を取得するステップと
を含む方法。
[25]
ステップb)で使用される前記選択培養培地が、約2000nM以下、約1750nM以下、約1500nM以下、約1250nM以下、約1000nM以下、約750nM以下、約500nM以下、約350nM以下、約300nM以下、約250nM以下、約150nM以下、約100nM以下、約75nM以下、約50nM以下、約40nM以下、約35nM以下、約30nM以下、約25nM以下、約20nM以下、約15nM以下、約10nM以下、約7.5以下、約5nM以下、および約2.5nM以下から選択される濃度で、制限的な濃度の葉酸類を含み、前記葉酸類が、好ましくは葉酸である、請求項24に記載の方法。
[26]
前記宿主細胞が、ジヒドロ葉酸レダクターゼである選択可能マーカーをコードする導入されたポリヌクレオチドを含み、ステップb)で使用される前記選択培養培地が、1500nM以下、1250nM以下、1000nM以下、750nM以下、500nM以下、200nM以下、150nM以下、125nM以下、100nM以下、75nM以下、50nM以下、25nM以下、20nM以下、15nM以下、および10nM以下から選択される濃度で葉酸代謝拮抗剤を含む、請求項24または25に記載の方法。
[27]
以下の特徴:
i)ステップb)およびc)を含む1回または複数回の選択サイクルを実施すること、
ii)ステップc)の後、前記細胞を、非制限的な濃度の葉酸類を含む培養培地で培養し、次いで、再度ステップb)に従って培養し、ステップc)に従って取得すること、
iii)ステップb)および/もしくはc)を実施する前および/もしくは後に、フローサイトメトリーに基づく選択および前記宿主細胞に導入された1つもしくは複数の追加的な選択可能マーカーについての選択から選択される1つもしくは複数の追加的な選択ステップを実施すること、
iv)宿主細胞を安定にトランスフェクトすること、ならびに/または
v)選択された宿主細胞が免疫グロブリン分子を組換えによって発現して分泌すること
のうち1つまたは複数を有する、請求項24から26のいずれか1項に記載の方法。
[28]
a)請求項18から21のうち少なくとも1項に記載の宿主細胞、ならびに/または目的のポリペプチドの発現および分泌を可能にする条件下で請求項24から27のうち少なくとも1項に従って選択された宿主細胞を培養するステップと、
b)細胞培養培地から目的のポリペプチドを単離するステップと、
c)任意選択で、単離された目的のポリペプチドを処理するステップと
を含む、目的のポリペプチドを生産するためのプロセス。
[29]
a)以下の配列
【化26】

を含む変異型葉酸受容体であって、Xaaはアラニンではなく、前記変異型葉酸受容体の葉酸結合親和性が、Xaaがアラニンである対応する野生型葉酸受容体(配列番号1)に比べて低減している、変異型葉酸受容体、または
b)配列番号9として示される配列と少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%もしくは少なくとも99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む変異型葉酸受容体であって、Xaaは、前記変異型葉酸受容体ではアラニンではなく、Xaaがアラニンである成熟型の野生型ヒト葉酸受容体アルファ配列(配列番号1を参照)に比べて、前記変異型葉酸受容体の葉酸結合親和性が低減している、変異型葉酸受容体をコードするポリヌクレオチドの、生存能を葉酸類の取込みに依存している細胞を選択するための選択可能マーカーとしての使用。
[30]
Xaaが、ロイシン、グリシン、バリン、イソロイシン、ヒスチジンおよびアスパラギン酸から選択されるアミノ酸であり、好ましくはXaaがロイシンである、請求項29に記載の使用。
[31]
a)以下の配列
【化27】

を含み、Xaaがロイシンである、変異型葉酸受容体、または
b)配列番号9として示される配列と少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%もしくは少なくとも99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含み、Xaaが、b)による前記変異型葉酸受容体ではロイシンである、変異型葉酸受容体
をコードするポリヌクレオチドの、生存能を葉酸類の取込みに依存している細胞を選択するための選択可能マーカーとしての使用。
[32]
前記変異型葉酸受容体が、請求項8、9または14のうち1項または複数項に規定された特徴を有する、請求項29から31のいずれか1項に記載の使用。
[33]
ポリヌクレオチドによってコードされている前記変異型葉酸受容体が、GPIで繋留されている、請求項29から32のいずれか1項に記載の使用。
[34]
前記変異型葉酸受容体が、選択可能マーカーとしてのジヒドロ葉酸レダクターゼと組み合わせた選択可能マーカーとして使用される、請求項29から33のうち1項または複数項に記載の使用。
[35]
請求項24から28に記載の方法における、請求項29から34のうち1項または複数項に記載の使用。
図1
図2
図3
図4
図5
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]