特許第6576943号(P6576943)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6576943
(24)【登録日】2019年8月30日
(45)【発行日】2019年9月18日
(54)【発明の名称】複層ガラス
(51)【国際特許分類】
   C03C 27/06 20060101AFI20190909BHJP
   E06B 3/663 20060101ALI20190909BHJP
【FI】
   C03C27/06 101Z
   E06B3/663 B
   E06B3/663 F
   E06B3/663 M
   E06B3/663 N
【請求項の数】7
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2016-556666(P2016-556666)
(86)(22)【出願日】2015年10月30日
(86)【国際出願番号】JP2015080781
(87)【国際公開番号】WO2016068305
(87)【国際公開日】20160506
【審査請求日】2018年8月1日
(31)【優先権主張番号】特願2014-221618(P2014-221618)
(32)【優先日】2014年10月30日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】511075092
【氏名又は名称】AGC−LIXILウィンドウテクノロジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083116
【弁理士】
【氏名又は名称】松浦 憲三
(72)【発明者】
【氏名】横山 和義
(72)【発明者】
【氏名】原口 博光
(72)【発明者】
【氏名】臼井 勇一
(72)【発明者】
【氏名】久次米 稔之
(72)【発明者】
【氏名】北原 悦史
(72)【発明者】
【氏名】吉本 篤
(72)【発明者】
【氏名】八田 耕一
【審査官】 森坂 英昭
(56)【参考文献】
【文献】 特開2000−351655(JP,A)
【文献】 実開昭64−002045(JP,U)
【文献】 特開平05−254896(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C 27/00 − 29/00
E06B 3/663
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1のガラス板と、
前記第1のガラス板と対向配置される第2のガラス板と、
前記第1のガラス板と前記第2のガラス板との間に中空層を形成するため、前記第1のガラス板と前記第2のガラス板との間に配置される、空間部を有する複数のスペーサと、
前記スペーサの端部同士を連結するスペーサ接続部材であって、前記スペーサの前記空間部に挿入されるL字状に配置された挿入部と本体部とを備えるスペーサ接続部材と、
前記スペーサの前記空間部の外側から前記スペーサと前記スペーサ接続部材の前記挿入部とを固定する固定部材と、を有する複層ガラスであって、
前記スペーサ接続部材は、前記本体部と複数のL字状に配置された前記挿入部とが一体的に構成されている複層ガラス
【請求項2】
前記スペーサ接続部材の前記挿入部は、前記固定部材を受け入れる孔を有する請求項1に記載の複層ガラス。
【請求項3】
前記スペーサの表面に、前記固定部材の固定位置を明示する位置決めマークが設けられている請求項1又は2に記載の複層ガラス。
【請求項4】
前記スペーサの前記空間部に乾燥剤が収納される請求項1から3のいずれか一項に記載の複層ガラス。
【請求項5】
前記第1のガラス板と前記第2のガラス板との間には、少なくとも一枚の中間ガラス板が配置され、前記スペーサには、前記中間ガラス板の周辺部の少なくとも一部を保持する溝部が設けられ、当該溝部に中間ガラス板が保持されている、請求項1からのいずれか一項に記載の複層ガラス。
【請求項6】
前記固定部材がビスであり、前記スペーサと前記スペーサの端部の空間部に挿入された前記スペーサ接続部材の挿入部とを、前記ビスにより固定した請求項1からのいずれか一項に記載の複層ガラス。
【請求項7】
第1のガラス板と、
前記第1のガラス板と対向配置される第2のガラス板と、
前記第1のガラス板と前記第2のガラス板との間に中空層を形成するため、前記第1のガラス板と前記第2のガラス板との間に配置される、空間部を有する複数のスペーサと、
前記スペーサの端部同士を連結するスペーサ接続部材であって、前記スペーサの前記空間部に挿入されるL字状に配置された挿入部と本体部とを備えるスペーサ接続部材と、
前記スペーサの前記空間部の外側から前記スペーサと前記スペーサ接続部材の前記挿入部とを固定する固定部材と、を有する複層ガラスであって、
前記第1のガラス板と前記第2のガラス板との間には、少なくとも一枚の中間ガラス板が配置され、前記スペーサには、前記中間ガラス板の周辺部の少なくとも一部を保持する溝部が設けられ、当該溝部に中間ガラス板が保持されている複層ガラス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複層ガラスに関して、スペーサ接続部材で接続されたスペーサを含む複層ガラスに関する。
【背景技術】
【0002】
断熱性や防音性の観点から、複層ガラスが多用されている。複層ガラスは、少なくとも2枚のガラス板と、1ないし複数のスペーサとを備え、少なくとも2枚のガラス板がスペーサによって隔置されている。この構成により当該のガラス板の間に空間が形成される。複数のスペーサを有する複層ガラスにおいて、複数のスペーサは、中空部を有しており、スペーサ接続部材を中空部に挿入することで、複数のスペーサがスペーサ接続部材を介して連結される。
【0003】
スペーサとスペーサ接続部材との連結に関して、各種の提案がされている。特許文献1は、挿入されたスペーサを保持するため、中空部を有するスペーサの内側と相互にラッチするラッチ要素を備えるスペーサ接続部材を開示する。また、特許文献2は、中空部を有するスペーサの内側と摩擦接触する固定手段を有するスペーサ接続部材を開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第4931090号公報
【特許文献2】特許第5508014号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1、2では、スペーサの内側とスペーサ接続部材とをラッチ要素、又は摩擦接触する固定手段で連結しているので、スペーサ接続部材をスペーサに挿入した際、ラッチがスペーサの内側に傷を付けたり、又は接続部材の圧力によりスペーサの内側にクラックが生じる問題がある。また、スペーサに大きな力が加わると、スペーサとスペーサ接続部材とが分離してしまう問題もある。
【0006】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、スペーサとスペーサ接続部材とが確実に連結された複層ガラスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様の複層ガラスは、第1のガラス板と、前記第1のガラス板と対向配置される第2のガラス板と、前記第1のガラス板と前記第2のガラス板との間に中空層を形成するため、前記第1のガラス板と前記第2のガラス板との間に配置される、空間部を有する複数のスペーサと、前記スペーサの端部同士を連結するスペーサ接続部材であって、前記スペーサの前記空間部に挿入されるL字状に配置された挿入部と本体部とを備えるスペーサ接続部材と、前記スペーサの前記空間部の外側から前記スペーサと前記スペーサ接続部材の前記挿入部とを固定する固定部材と、を有する。
【0008】
好ましくは、前記スペーサ接続部材の前記挿入部は、前記固定部材を受け入れる孔を有する。
【0009】
好ましくは、前記スペーサの表面に、前記固定部材の固定位置を明示する位置決めマークが設けられている。
【0010】
好ましくは、前記スペーサの前記空間部に乾燥剤が収納される。
【0011】
好ましくは、前記スペーサ接続部材は、その複数のL字状に配置された前記挿入部と本体部とが一体的に構成されている。
好ましくは、前記第1のガラス板と前記第2のガラス板との間には、少なくとも一枚の中間ガラス板が配置され、前記スペーサには、前記中間ガラス板の周辺部の少なくとも一部を保持する溝部が設けられ、当該溝部に中間ガラス板が保持されている。
また、好ましくは、前記固定部材がビスであり、前記スペーサと前記スペーサの端部の空間部に挿入された前記スペーサ接続部材の挿入部とが、前記ビスにより固定されている。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、スペーサとスペーサ接続部材とが確実に連結された複層ガラスを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】複層ガラスの分解斜視図
図2】スペーサの隅部において接続するコーナーキーを示した斜視図
図3】スペーサの隅部において接続するコーナーキーを示した側面図
図4】複層ガラスの概略縦断面図
図5】複層ガラスの適用例を示した多重ガラス障子の全体斜視図
図6図5の多重ガラス障子の一部断面を含む概略斜視図
図7図5の多重ガラス障子と窓枠で構成される窓の概略縦断面図
図8】グレージングチャンネルの形状を示す概略断面図
図9】スペーサを隅部において接続するコーナーキーを示した斜視図
図10】複層ガラスの一実施形態の適用例に係る多重ガラス障子の概略断面図
図11】複層ガラスの一実施形態の適用例に係る多重ガラス障子の概略断面図
図12】複層ガラスの一実施形態の適用例に係る多重ガラス障子の概略断面図
図13】複層ガラスの一実施形態の適用例に係る多重ガラス障子の概略断面図
図14】支持板の隅部において接続する支持板用コーナーキーを示した斜視図
図15】多重ガラス障子の隅部においてスペーサとコーナーキー、及び支持板と支持板用コーナーキーの接続状態を示す側面図
【発明を実施するための形態】
【0014】
次に、本発明の複層ガラスを図1図4の図面に基づいて具体的に説明する。
【0015】
なお、図面は、本発明の好ましい実施形態を例示したものであり、本発明は、例示の図面とその説明に限定されない。
【0016】
〔複層ガラス1の全体構成〕
図1は、実施形態に係る複層ガラス1の分解斜視図である。図1に示すように複層ガラス1は、ガラス板10(第1のガラス板)と、ガラス板10と主面同士が対向配置されるガラス板12(第2のガラス板)とを有している。ガラス板10とガラス板12の周縁付近に配置された4個のスペーサ20が配置され、ガラス板10とガラス板12とは隔置されている。
【0017】
ガラス板10とガラス板12の隅部であって、スペーサ20の各端部が突き合わされる4箇所のコーナーにおいては、隣接するスペーサ20の端部同士がスペーサ接続部材であるコーナーキー50により連結される。本実施形態では、4個のスペーサ20が4個のコーナーキー50により連結される。複数のスペーサ20が複数のコーナーキー50により連結されて一体となり、ガラス板10とガラス板12との間には、スペーサ20が配置されることになる。
【0018】
コーナーキー50は、本体部52と本体部52から突出する2個の挿入部54を備えている。2個の挿入部54は、本体部52から直角方向に延設され、2個の挿入部54は、L字状に配置されている。
【0019】
コーナーキー50の挿入部54を、直交配置された2個のスペーサ20の空間部22に挿入することにより、2個のスペーサ20がコーナーキー50を介して連結される。
【0020】
4個のスペーサ20が4個のコーナーキー50により連結され、連続するスペーサ枠が構成される。以下、このスペーサ枠を単にスペーサと称することもある。第1のガラス板10と、第2のガラス板12と、コーナーキー50により連結されたスペーサ20(スペーサ枠)とにより中空層60が形成される。中空層60は、空気層、ガス層、中間層、又は空間層と呼んでもよく、中空層は、空気層、ガス層、中間層、又は空間層などと同義である。
【0021】
図1に示したように、スペーサ20は、内部に空間部22を有し、この空間部に乾燥剤(不図示)を収納することができる。
【0022】
スペーサ20及びコーナーキー50の形成材料として、合成樹脂材料が好ましく使用される。合成樹脂材料としては、硬質塩化ビニル樹脂材料、アクリロニトリル・スチレン樹脂材料、及びこれらにガラス繊維材を入れたものが好ましいが、これらの熱可塑性合成樹脂材料に限定されるものではなく、各種熱可塑性合成樹脂材料も使用できる。形成材料としては、一種に限らず、複数種の材料を用いて複合構造としてもよい。
例えば、異なる樹脂材料を共押し出し成型法により部分的に異なる合成樹脂材料からなる複合構造の枠体でもよく、合成樹脂材料とアルミニウム材料からなる複合構造の枠体でもよい。この複合構造の場合、いずれか一種のスペーサ形成材料により一体成型されていればよい。一体成型されたスペーサ20は、部分的に、又は全体に異なる合成樹脂材料及び/又は金属材料が接合されていてもよい。特に、硬質の塩化ビニル樹脂材料やアクリロニトリル・スチレン樹脂材料により形成されたスペーサ20は、複層ガラス1として用いたとき、断熱性に優れており、一体成型が容易で、耐久性に優れ、安価である。
なお、後述の図5〜8、図10〜13を参照して説明した多重ガラス障子におけるスペーサ113の形成材料としても、上記したスペーサ20と同様な形成材料を使用することができる。
【0023】
上述の中空層60には、封入ガス、例えば、乾燥空気や、アルゴンガス、クリプトンガス、ヘリウムガス等の不活性ガスが充填され、断熱性及び/又は遮音性が高められる。スペーサ20の空間部22に収納された乾燥剤(不図示)によって中空層60が乾燥される。これによって、ガラス板10、12の内部結露が防止される。
【0024】
ガラス板10、12は、通常の多くの実施態様においては、矩形の平板のガラス板であり、それぞれの厚さは、軽量化を図るために、好ましくは1.3mm〜3mmの範囲であり、ガラス板10、12の寸法は、同一、又は略同寸法である。
【0025】
また、ガラス板10、12は、前記厚さの範囲内であれば、厚さが異なっていてもよい。更に、ガラス板10、12は、厚さを薄くしても充分な強度を有する化学強化ガラスであるのが好ましい。つまり、ガラス板10、12を化学強化ガラスとすることにより、厚さが1.3mm〜3mmであっても、耐衝撃性能と耐風圧性能を得ることができる。
【0026】
化学強化ガラス板とは、ソーダライムシリケートガラス等のNa成分やLi成分を含有するガラス板を、硝酸カリウム等の溶融塩中に浸漬させ、ガラス板の表面に存在する原子径の小さなNaイオン及び/又はLiイオンと、溶融塩中に存在する原子径の大きなKイオンとを置換してガラス板の表面層に圧縮応力層を形成して強度が高められたガラス板である。化学強化ガラスによれば、板厚が2mm以下のガラス板でも、充分に高い破壊強度を有する。したがって、ガラス板10、12として化学強化ガラス板を使用すれば、厚さが1.3mm〜3mmの薄板のガラス板10、12であっても、外側に配置されるガラス板10、12として十分な強度を得られる。
なお、後述の図5〜7、図10〜13を参照して説明した多重ガラス障子におけるガラス板110,111、及び中間ガラス板112における化学強化ガラス板も、上記した化学強化ガラス板と同様である。
【0027】
また、ガラス板10、12の中空層60に対向する少なくとも一方の内面には、例えば、Low−E(Low−Emissivity)膜等の低放射膜を成膜することができる。すなわち、ガラス板10、12の少なくとも一方をLow−Eガラスとして構成することもできる。
【0028】
Low−Eガラスとは、ガラス板の表面に、例えば、酸化スズ(SnO2)を主体とした低放射膜を化学蒸着装置やスパッタリング装置等を用いて成膜したもの、又は銀(Ag)を主体とした低放射膜を、スパッタリング装置等を用いて成膜したものであり、赤外線による熱エネルギーの放射率を低くする機能を有する。ここで、銀(Ag)を主体とした低放射膜とは、銀膜を酸化物膜、窒化物膜等で積層化したタイプのものも含む。すなわち、Low−Eガラスは、熱を通し難い性能を有するので、遮熱性及び断熱性が高い。また、銀を主体とした低放射膜は、空気中の水分等によって酸化し易い性質を有するため、複層ガラスに用いる場合は、密閉された中空層に面する面側に成膜されることが好ましい。更に、酸化スズを主体とする低放射膜は、銀を主体とする低放射膜と比較して、熱線の反射性能が低く、遮熱性能は低いが、銀を主体とする低放射膜と比較して、酸化し難く、機械耐久性が高いため傷付き難いという利点がある。よって、酸化スズを主体とする低放射膜であれば、ガラス板10、12の少なくとも一方の外面に備えさせることができる。
なお、後述の図7を参照して説明した多重ガラス障子におけるガラス板110,111、及び中間ガラス板112において使用されるLow−Eガラスも、上記したLow−Eガラスと同様である。
【0029】
本実施形態のスペーサ20とコーナーキー(スペーサ接続部材)50との固定方法を、図2に基づいて説明する。図2は、スペーサ20を隅部において接続するコーナーキー50を示した斜視図である。
【0030】
スペーサ20は、略直方体の形状を有しており、ガラス板10,12の間隔を保持するため、内面部24及び外面側部26と、内面部24と外面側部26に連設されガラス板10,12の内側に面する側辺部28,28とを有している。スペーサ20は、コーナーキー50の本体部52に面する端面30を有している。スペーサ20の内面部24には孔32が形成されている。孔32は、貫通孔であり、空間部22にまで達している。
【0031】
スペーサ20は、内面部24と外面側部26と側辺部28,28とで囲まれた空間部22を有している。空間部22は、コーナーキー50の挿入部54を受け入れると共に、乾燥剤を収納することができる。スペーサ20の内面部24は、中空層60を形成する一部分をいい、スペーサ20の外面側部26は、中空層60を形成する内面部24と対向する部分をいう。
【0032】
コーナーキー50は、本体部52と、本体部52から突出し、L字状に配置された挿入部54を有しており、挿入部54には孔56が形成されている。
【0033】
スペーサ20の端面30がコーナーキー50の本体部52に接する位置まで、コーナーキー50の挿入部54がスペーサ20の空間部22に挿入される。挿入部54の断面積は、空間部22の断面積より小さく、挿入部54を空間部22の内壁とはほとんど接触せず、スペーサ20にクラック等が発生することを抑制することができる。
【0034】
スペーサ20とコーナーキー50とを連結した際、スペーサ20の孔32とコーナーキー50の挿入部54の孔56とは内面部24の側から見て重なる位置に、位置合わせされる。固定部材であるビス40が、空間部22の外側からスペーサ20の孔32に挿入される。ビス40は、スペーサ20の内面部24を貫通し、挿入部54の孔56に達する。ビス40を空間部22の外側からねじ込むことにより、ビス40がスペーサ20の孔32と挿入部54の孔56とに締結される。ビス40がスペーサ20を貫通しているので、スペーサ20とコーナーキー50の挿入部54とはビス40により確実に固定することができる。
【0035】
本実施形態では、従来のスペーサとコーナーキーとをラッチ機構や摩擦接触する固定手段とは異なり、固定部材であるビス40によりスペーサ20とコーナーキー50とを接続しているので、スペーサ20のクラック等による破損を防止でき、スペーサ20とコーナーキー50とを確実に接続することができる。
【0036】
ここで空間部22の外側とは、スペーサ20の内部に形成された空間部22に対して、スペーサ20を境界にして空間部22の反対側を意味する。
【0037】
本実施形態では、内面部24の外側から(すなわち、中空層60側から)、空間部22に向けてビス40を挿入した例を示したが、空間部22の外側であれば、外面側部26、又は側辺部28,28の外側から空間部22に向けてビス40を挿入することもできる。
【0038】
固定部材として、頭部と螺旋状の溝を設けたねじ部とを有し、ねじ先が尖ったビス40の例を示したが、固定部材として、これに限定するものではない。ビス40は、ネジ等とも称される。
【0039】
本実施形態では、ビス40の下孔として、スペーサ20に孔32、挿入部54に孔56を形成したが、これらの孔32、56を必ずしも形成する必要はない。例えば、固定部材であるビス40として、タッピングビスを使用した場合、タッピングビスによりスペーサ20及び挿入部54に孔を開けることができる。タッピングビスによりスペーサ20とコーナーキー50とを確実に接続することができる。また、ビス40と挿入部54との位置合わせのために、ビス40の固定位置を明示する位置決めマークをスペーサ20に形成することができる。
【0040】
図3は、スペーサ20とコーナーキー50とをビス40により接続した状態を示す説明図である。図3に示すように、ビス40が内面部24の孔32から、つまり空間部22の外側から、空間部22に向けて挿入される。ビス40が挿入部54の孔56と締結され、スペーサ20とコーナーキー50とが接続される。ビス40を空間部22の外側から挿入する場合、内面部24の側から挿入することが好ましい。
【0041】
図4は、2枚のガラス板で構成される複層ガラス1の断面図である。上述したように複層ガラス1は、ガラス板10,12と、ガラス板10,12を隔置するためのスペーサ20と、を備えている。図4に示す複層ガラス1は、さらに、シール材62、64及び透湿防止層66を備えている。シール材は、一次シール62と二次シール64とを使用している。ガラス板10とガラス板12とに対向するスペーサ20の側辺部28,28が、ブチルゴム(一次シール)62によってガラス板10,12とに接合される。これにより、ガラス板10とガラス板12との間に中空層60が形成される。そして、スペーサ20の外面側部26の側にポリサルファイド系、又はシリコーン系のシーリング材(二次シール)64が塗布される。これによって、複層ガラス1が構成される。シール材は、上記形態に限定されず、ガラス板10とガラス板12において接合するシール材と、スペーサ20の外面側部26の側に塗布するシール材を同一の材料としてもよい。さらに、二次シール64の外周に二次シール64を保護する別のシール材を有してもよい。
【0042】
また、外側から水分が複層ガラス1の中空層60の側に透過することを防止する透湿防止層66が形成されている。特に、スペーサ20が、合成樹脂材料、例えば硬質ポリ塩化ビニル樹脂材料、又はアクリロニトリル・スチレン樹脂材料により形成されている場合、素材自体として水分の透湿防止性が高いアルミニウム製のスペーサと同等程度の透湿防止性が求められている。
【0043】
透湿防止層66としては、複層ガラス1の中空層60内にスペーサ20自体を通して水分が透過することを防止できる材質からなるものが選ばれる。透湿防止層66としては、透湿防止塗料を塗布し、硬化されてなる層や、透湿防止フィルム状体を貼り付けてなる層が好ましい。透湿防止塗料としては、代表的には、フッ素樹脂系塗料、ポリ塩化ビニリデン樹脂系塗料などが挙げられる。透湿防止塗料の塗布により透湿防止層を形成する場合、2種以上の透湿防止塗料を塗布して2層、あるいは3層以上の複数層の構成としてもよい。
【0044】
透湿防止フィルム状体としては、透湿防止性能をもった金属被覆フィルム、セラミック被覆フィルム、金属及びセラミックの複合被覆フィルム、金属テープ、フィルム自身が透湿防止性能をもった樹脂からなる透湿防止樹脂フィルム、又は透湿防止樹脂被覆フィルムが挙げられる。ブチルゴム系接着材からなるブチルテープと、金属テープ、例えばアルミニウム箔やステンレス箔とを積層した透湿防止フィルム状体も好ましく使用することができる。
なお、後述の図6図7図10〜13を参照して説明した多重ガラス障子における透湿防止層190としても、上記した透湿防止層66と同様なものが使用できる。
【0045】
また、スペーサ20は、空間部22を有している。空間部22に乾燥剤68を充填することにより、乾燥剤68が中空層60の気体を乾燥することができる。なお、乾燥剤68は、スペーサ20の形成された開口部34により、中空層60に露出することができる。
【0046】
次に、本発明に係る複層ガラスの他の実施態様および当該実施態様の複層ガラスが適用された多重ガラス障子を図5図15の図面に基づいて具体的に説明する。なお、ここにおいて、多重ガラス障子とは、スペーサを用いて少なくとも3枚のガラス板を隔置して構成された複層ガラスと、スペーサを支持する支持板で構成されるものであり、又窓とは、上記した多重ガラス障子と窓枠とで構成されたものを意味する。
【0047】
なお、図面は、本発明の好ましい実施形態の複層ガラスおよびその適用例を例示したものであり、例示の図面とその説明に限定されない。
【0048】
図5は、本実施形態の複層ガラスおよび当該複層ガラスの適用例に係る多重ガラス障子の全体斜視図、図6は、図5に示した多重ガラス障子の一部断面を含む概略斜視図、図7は、多重ガラス障子と窓枠とを含む窓の断面図である。図8は、グレージングチャンネルを示す断面図である。図9は、スペーサの隅部において接続するコーナーキーを示した斜視図である。図10〜13は、一実施形態に係る多重ガラス障子の概略断面図である。図14は、支持板の隅部において接続する支持板用コーナーキーを示した斜視図である。図15は、多重ガラス障子の隅部においてスペーサとコーナーキー、及び支持板と支持板用コーナーキーの接続状態を示す側面図である。
【0049】
〔多重ガラス障子100の全体構成〕
図5、6の如く、実施態様に係わる複層ガラスは、ガラス板(第1のガラス板)110と、ガラス板111(第2のガラス板)と、ガラス板110とガラス板111との間に配置された3枚の中間ガラス板112A,112B,112Cと、ガラス板110とガラス板111とを隔置し中間ガラス板112A,112B,112Cを隔置して保持するスペーサ113とを備えており、また、この複層ガラスが適用された多重ガラス障子100は、スペーサ113を外側から支持する支持板200とを備えている。ガラス板110とガラス板111の隅部であって、スペーサ113の各端部が突き合わされる4箇所のコーナーにおいては、隣接するスペーサ113の端部同士がスペーサ接続部材であるコーナーキーにより連結され、また支持板200の各端部が突き合わされる4箇所のコーナーにおいても、隣接する支持板200の端部同士が支持板接続部材である支持板用コーナーキー250により連結される。
なお、中間ガラス板を総称する場合、中間ガラス板112ともいう。
【0050】
ガラス板110とガラス板111とは、その周囲において4個のコーナーキー150で連結された4個のスペーサ113により隔置され、これにより、ガラス板110とガラス板111との間に中空層が形成される。本実施形態では複数のスペーサ113が複数のコーナーキー150で連結されて一体となる。ガラス板110とガラス板111とスペーサ113とにより形成される中空層は、周囲においてスペーサ113により封着されると共に、3枚の中間ガラス板112A,112B,112Cが隔置して配置されることにより、中空層が4層の分割中空層162に分割される。
<スペーサ113>
図6の如く、スペーサ113は、ガラス板110とガラス板111との間隔を保持する内面部114及び外面側部115、内面部114及び外面側部115に連設されてガラス板110、111の内面に当接する側辺部116,116及び乾燥剤168(図7参照)を収納する複数の空間部(収納部)117,117,117,117から構成される。
【0051】
スペーサ113には、3枚の中間ガラス板112A,112B,112Cの周辺部の一部を保持するために、スペーサ113の内面部114に3列の溝部(すなわち、中間ガラス板の保持部)122が設けられる。3列の溝部122は、3枚の中間ガラス板112A,112B,112Cを平行に配置するように、スペーサ113の長手方向に沿って平行に形成される。
【0052】
本実施形態では、中間ガラス板を保持するための溝部122の形成によって空間部117が左右方向に4分割されている。空間部117の個数は、中間ガラス板112の枚数に応じて決定される。
【0053】
本実施形態では、スペーサ113は、複数の空間部117と複数の溝部122とを有するように一体的に形成されている。
【0054】
スペーサ113は、スペーサ形成材料によって成型される。成型方法としてスペーサ形成材料を押し出し成型法、共押し出し成型法、又は射出成型法等の成型法を用いることができる。スペーサ形成材料については、前述した通りである。
【0055】
本実施形態のスペーサ113の溝部122には、中間ガラス板112A,112B,112Cの端部を支持するための、グレージングチャンネル140が設けられている。グレージングチャンネル140により、スペーサ113の溝部122に中間ガラス板112A,112B,112Cを容易に固定することができる。また、グレージングチャンネル140を偏芯させることで各分割中空層162の幅を変えることができる。また、温度低下時において、分割中空層162の内圧が減少しスペーサ113が分割中空層162に移動した場合でも、グレージングチャンネル140がスペーサ113の圧力を緩和することができる。
【0056】
また、グレージングチャンネル140を溝部122において部分的に配置することができる。溝部122にグレージングチャンネル140を配置しない部分を設けることで、各分割中空層162の間を連通させることができ、各分割中空層162の内部の圧力を均等化することができる。したがって、温度上昇、温度低下に伴い、分割中空層162の体積が増減した場合でも、複数の分割中空層162の全体でその体積変化の増減を吸収することができる。グレージングチャンネル140を配置しない部分を設ける場合、中間ガラス板112の各辺の隅部近くに設けるのが好ましい。
【0057】
グレージングチャンネル140は、ショアA硬度が50度から90度の樹脂製(例えば、塩化ビニル樹脂、ウレタン樹脂)、又はゴム製であることが好ましい。ショアA硬度が50度未満であると、軟らか過ぎるため中間ガラス板112A,112B,112Cに対する十分な保持力を得難く、また、ショアA硬度が90度を超えると硬くなり過ぎるため、中間ガラス板112A,112B,112Cを嵌め込み難くなるからである。
【0058】
グレージングチャンネル140として、図6,7に示す形状に限定されず他の形状のグレージングチャンネル140を使用することができる。図8に、他のグレージングチャンネルの形状を示している。図8の如く、グレージングチャンネル140は、中間ガラス板112の端面を、グレージングチャンネル140に設けられた突起141で支持する構成を有している。
【0059】
2枚のガラス板110,111が矩形の平板形状である場合、ガラス板110,111は、4辺の周縁付近に配置された4個のスペーサ113により隔置される。図9の如く、スペーサ113の各端部が突き合わされる4箇所のコーナーにおいては、隣接するスペーサ113同士がスペーサ接続部材であるコーナーキー150により連結され、連続するスペーサ枠が構成される。
【0060】
スペーサ113は、コーナーキー150の本体部152に面する端面130を有している。スペーサ113の内面部114には孔132が形成されている。孔132は、貫通孔であり、空間部117にまで達している。
【0061】
コーナーキー150は、本体部152と、本体部152から突出し、L字状に配置された挿入部154を有しており、挿入部154には孔156が形成されている。コーナーキー150は、L字状に配置された挿入部154がスペーサ113の複数の空間部117に対応して本体部152と一体的に形成されている。
【0062】
スペーサ113の端面130がコーナーキー150の本体部152に接する位置まで、コーナーキー150の挿入部154がスペーサ113の空間部117に挿入される。挿入部154の断面積は、空間部117の断面積より小さく、挿入部154を空間部117の内壁とはほとんど接触せず、スペーサ113にクラック等が発生することを抑制することができる。
【0063】
スペーサ113とコーナーキー150とを連結した際、スペーサ113の孔132とコーナーキー150の挿入部154の孔156とは内面部114の側から見て重なる位置に、位置合わせされる。固定部材であるビス158が、空間部117の外側からスペーサ113の孔132に挿入される。ビス158は、スペーサ113の内面部114を貫通し、挿入部154の孔156に達する。ビス158を空間部117の外側からねじ込むことにより、ビス158がスペーサ113の孔132と挿入部154の孔156とに締結される。ビス158がスペーサ113を貫通しているので、スペーサ113とコーナーキー150の挿入部154とをビス158により確実に固定することができる。
【0064】
ここで空間部117の外側とは、スペーサ113の内部に形成された空間部117に対して、スペーサ113を境界にして空間部117の反対側を意味する。本実施形態では、内面部114の外側から空間部117に向けてビス158を挿入した例を示したが、空間部117の外側であれば、外面側部115、又は側辺部116,116の外側から空間部117に向けてビス158を挿入することができる。
【0065】
本実施形態では、ビス158の下孔として、スペーサ113に孔132、挿入部154に孔156を形成したが、例えば、固定部材であるビス158として、タッピングビスを使用した場合、タッピングビスによりスペーサ113及び挿入部154に孔を直接開けることができる。
【0066】
本実施形態では、ビス158により、スペーサ113のガラス板110,111に近い側の2箇所でコーナーキー150と固定しているが、これに限定されない。例えば、空間部117の形成されている4箇所、又はスペーサ113の内側に位置する2箇所で固定することもできる。
【0067】
本体部152及び挿入部154を有するコーナーキー150は、硬質の合成樹脂材料(例えば、硬質ポリ塩化ビニル樹脂材料やアクリロニトリル・スチレン樹脂材料、ポリプロピレン樹脂材料)により一体成型されたものが好ましい。一体成型とは、削り出し法、モールド法、3Dプリンターによる造形法、あるいは射出成型法等の一体成型法により成型することを意味する。このように一体成型されていれば、コーナーキー150を一つの部材にピース化することが容易であり、コーナーキー150の部品点数を削減することができ、又組み立て工程を簡略化することができる。
【0068】
<分割中空層162>
4層の分割中空層162の好ましい一態様においては、空気よりも熱伝導率が小さいアルゴンガスが封入され、多重ガラス障子100の断熱性能が高められている。また、スペーサ113の空間部117に収納された乾燥剤168によってアルゴンガスが乾燥される。これによって、ガラス板110,111、及び中間ガラス板112A,112B,112Cの内部結露が防止されている。更に、分割中空層162の厚さは、断熱性能を十分に発揮できる厚さである13mm〜17mmに設定されている。つまり、分割中空層162の厚さは、断熱性能を最大限に発揮できる最適値(15mm)に対して、前後に2mmの幅を持たせて設定されている。分割中空層162の個数は、中間ガラス板112の枚数に応じて決定される。なお、上述の分割中空層162には、アルゴンガスに限らず、封入ガスとして、例えば、乾燥空気や、クリプトンガス、ヘリウムガス等の不活性ガスが充填されてもよい。
【0069】
<ガラス板110、111>
ガラス板110,111は、通常の多くの実施態様においては、矩形の平板のガラス板であり、それぞれの厚さは、軽量化を図るために1.3mm〜3mmの範囲であるのが好ましく、ガラス板110,111の寸法は、同一、又は略同寸法であるのが好ましい。
【0070】
また、ガラス板110,111は、前記厚さの範囲内であれば、厚さが異なっていてもよい。更に、ガラス板110,111は、厚さを薄くしても充分な強度を有する化学強化ガラスであるのが好ましい。つまり、ガラス板110,111を化学強化ガラスとすることにより、厚さが1.3mm〜3mmであっても、耐衝撃性能と耐風圧性能を得ることができる。化学強化ガラスについては、前述した通りである。
【0071】
<中間ガラス板112A,112B,112C>
中間ガラス板112A,112B,112Cは、通常の多くの実施態様においては、矩形の平板のガラス板であり、ガラス板110およびガラス板111の間に配され外部に露出しないため、それぞれの厚さは、軽量化を図るために1mm〜2mmの範囲であるのが好ましく、中間ガラス板112A,112B,112Cの寸法は、同一、又は略同寸法であるのが好ましい。
【0072】
また、中間ガラス板112A,112B,112Cは、前記厚さの範囲内であれば、厚さが異なっていてもよい。更に、中間ガラス板112A、112B、112Cは、ガラス板110、111と同様に、厚さを薄くしても充分な強度を有する化学強化ガラスでも良い。例えば、厚さが1mmないし2mmの化学強化ガラスは、厚さが3mmないし6mmのフロートガラス等の非強化ガラスと同等の静的曲げ強度を有する。
【0073】
なお、中間ガラス板112A,112B,112Cは、スペーサ113の溝部122に挿入できるようにガラス板110,111よりも小寸法の相似形の矩形状とされるのが好ましい。
【0074】
本実施形態では、3枚の中間ガラス板112A,112B,112Cを例示したが、中間ガラス板は、ガラス板110,111の間に少なくとも1枚あれば良い。
【0075】
多重ガラス障子100における複層ガラスにおいては、少なくとも一枚の中間ガラス板112を備えている。したがって、分割中空層162の温度が低下し、分割中空層162の内圧が減少した場合でも、中間ガラス板112の端部がスペーサ113を支持するので、スペーサ113が分割中空層162側へ移動することを中間ガラス板112により抑制することができる。
【0076】
<低放射膜166A,166B,166C,166D>
図7の如く、ガラス板110,111の分割中空層162に対向する内面、及び中間ガラス板112A、112Cの中間ガラス板112Bに対向する内面にLow−E(Low−Emissivity)膜等の低放射膜166A,166B,166C,166Dを成膜することができる。すなわち、ガラス板110,111、及び中間ガラス板112A、112CがLow−Eガラスとして構成されている。Low−Eガラスについては、前述した通りである。
【0077】
ここで、建造物の窓や開口部等に適用された場合、ガラス板110は、室外側のガラス板を構成し、ガラス板111は室内側のガラス板を構成する。
【0078】
多重ガラス障子100において、Low−Eガラスを使用する場合、低放射膜166A,166B,166C,166Dの放射率を異ならせることができる。これにより、分割中空層162の温度と中間ガラス板112A,112B,112Cの温度上昇を抑制し、熱割れのリスクを解消することができる。「熱割れ」は、多重ガラス障子を構成するガラスの中央付近の温度と窓枠に納められるガラス周辺部分の温度差により、ガラスの中央付近と周辺付近の膨張量の違いからガラスの周辺部に引張応力が発生し、この引張応力がガラス板の許容応力を超えた場合に発生する。
【0079】
例えば、室外側のガラス板110の内面に比較的放射率の低い低放射膜166Aを成膜する。中間ガラス板112Aの中間ガラス板112Bに対向する面に低放射膜166Aより放射率の高い低放射膜166Bを形成する。中間ガラス板112Cの中間ガラス板112Bに対向する面に低放射膜166Aより放射率の高い低放射膜166Cを形成する。室外側のガラス板110の内面に低放射膜166Aより放射率の高い低放射膜166Dを成膜する。中間ガラス板112Bに低放射膜を形成しない。
【0080】
室外側のガラス板110に放射率の比較的低い低放射膜166Aを設けることで、分割中空層162の内部の温度上昇、及び中間ガラス板112A,112B,112Cの温度上昇を抑えることができる。また、ガラス温度の上昇が大きい中央の中間ガラス板112BをLow−Eガラスではなく、透明ガラス板を使用することで、中間ガラス板112の中央付近の温度上昇を抑えることができる。
【0081】
一方で、中間ガラス板112A、112Cの低放射膜166B,166Cは、低放射膜166Aより放射率が高いので、日射熱の透過性が高く、熱が中間ガラス板112に吸収されるのを抑え、室内側のガラス板111まで伝わりやすい。したがって、断熱性能を確保しつつ、分割中空層162の中間ガラス板112A,112Cの温度吸収を抑えることができる。
【0082】
上述の構成とすることにより、中間ガラス板112A,112B,112Cと分割中空層162の温度上昇を抑制し熱応力を低下することができる。
【0083】
<支持板200>
図6,7の如く、支持板200が、スペーサ113を支持するため、各スペーサ113の外面側部115に対向する位置に配置されている。支持板200は、ガラス板110とガラス板111の隅部であって、支持板200の各端部が突き合わされる4箇所のコーナーにおいては、隣接する支持板200の端部同士が支持板接続部材である支持板用コーナーキー250により連結される。
【0084】
スペーサ113が支持板200により支持されているので、温度上昇により分割中空層162の内圧が上昇して、スペーサ113が分割中空層162と反対側、つまり外に膨らもうとしても、支持板200によりスペーサ113が外に膨らむことを抑制することができる。
【0085】
本実施形態では、支持板200は、断面形状において、内部に4つの中空部202を有するホロー構造で構成される。ホロー構造を有しているので、支持板200の剛性を維持することができる。また、中空部202に断熱材を挿入することにより、断熱性能を向上させることができる。
【0086】
支持板200の形状に関して、支持板200は、スペーサ113を支持するため、スペーサ113と略同じ長さを有し、スペーサ113の幅より短い幅を有している。支持板200とガラス板110との間、支持板200とガラス板111との間にシール材として二次シール182が設けられている。また、スペーサ113と支持板200との間には透湿防止層190が設けられている。
【0087】
本実施形態では、支持板200は、複数の中空部202を有するように一体的に形成されている。支持板200は、支持板形成材料によって成型される。成型方法として支持板形成材料を押し出し成型法、共押し出し成型法、又は射出成型法等の成型法を用いることができる。
【0088】
支持板形成材料としては、合成樹脂材料が好ましく使用される。支持板形成用の合成樹脂材料としては、硬質塩化ビニル樹脂材料、アクリロニトリル・スチレン樹脂材料、及びこれらにガラス繊維材を入れたものが好ましいが、これらの熱可塑性合成樹脂材料に限定されるものではなく、各種熱可塑性合成樹脂材料も使用できる。
【0089】
また、支持板枠体形成材料としては、一種に限らず、複数種の材料を用いて複合構造としてもよい。例えば、異なる樹脂材料を共押し出し成型法により部分的に異なる合成樹脂材料からなる複合構造の枠体でもよく、合成樹脂材料とアルミニウム材料からなる複合構造の枠体でもよい。この複合構造の場合、いずれか一種のスペーサ形成材料により一体成型されていればよい。一体成型された支持板200は、部分的に、又は全体に異なる合成樹脂材料及び/又は金属材料が接合されていてもよい。特に、硬質の塩化ビニル樹脂材料やアクリロニトリル・スチレン樹脂材料により形成された支持板200は、多重ガラス障子100として用いたとき、断熱性に優れており、一体成型が容易で、耐久性に優れ、安価である。
【0090】
図10に示した多重ガラス障子100においては、支持板200が、スペーサ113の外面側部115に対向する位置であって、ガラス板110,111の端面を支持する位置に配置される。スペーサ113と支持板200との間には、スペーサ113側から透湿防止層190、二次シール182が配置される。図6,7と同様に、支持板200には中空部202が設けられている。支持板200によりスペーサ113が分割中空層162と反対側に膨らむことを防止することができる。
【0091】
図11に示した多重ガラス障子100においては、支持板200が、スペーサ113の外面側部115に対向する位置に配置される。図11の例では、支持板200が図6,7とは異なり、中空部202が設けられていない。つまり、支持板200が全体として均質な材料で構成されている。図6,7と同様に、支持板200とガラス板110との間、支持板200とガラス板111との間にシール材として二次シール182が設けられ、スペーサ113と支持板200との間には透湿防止層190が設けられている。図6,7と同様に、支持板200によりスペーサ113が分割中空層162と反対側に膨らむことを防止することができる。
【0092】
なお、コーナーキーによって支持板200を連結する場合には、支持板200の端面に穴を形成し、この穴にコーナーキーの挿入部を嵌合させればよい。
【0093】
図12に示した多重ガラス障子100においては、支持板200が、スペーサ113の外面側部115に対向する位置に配置される。図12の例では、支持板200が図6,7とは異なり、中空部202が設けられていない。支持板200は、スペーサ113と反対側の方向に向けて開放され、断面略凹状の開放部204を有している。図6,7と同様に、支持板200とガラス板110との間、支持板200とガラス板111との間にシール材として二次シール182が設けられ、スペーサ113と支持板200との間には透湿防止層190が設けられている。図6,7と同様に、支持板200によりスペーサ113が分割中空層162と反対側に膨らむことを防止することができる。
【0094】
なお、コーナーキーによって支持板200を連結する場合には、支持板200の開放部204にコーナーキーの挿入部を嵌合させればよい。
【0095】
図13に示した多重ガラス障子100においては、支持板200が、スペーサ113の外面側部115に対向する位置に配置される。図13の例では、支持板200が図6,7とは異なり、ガラス板110,111の端部より突出している。一方、図6,7と同様に、支持板200には中空部202が設けられている。スペーサ113と支持板200との間には、スペーサ113側から透湿防止層190、二次シール182が配置される。図6,7と同様に、支持板200によりスペーサ113が分割中空層162と反対側に膨らむことを防止することができる。さらに、支持板200がガラス板110,111の端部より突出しているので、窓枠に設置する際、セッティングブロックとして支持板200を利用することができる。
【0096】
図14の如く、支持板200の各端部が突き合わされる4箇所のコーナーにおいては、隣接する支持板200同士が支持板接続部材である支持板用コーナーキー250により連結され、連続する支持板枠が構成される。
【0097】
支持板200は、支持板用コーナーキー250の本体部252に面する端面230を有している。支持板200のスペーサ113と対向する面と反対側、つまり支持板200の外側に孔232が形成されている。孔232は、貫通孔であり、中空部202にまで達している。
【0098】
支持板用コーナーキー250は、本体部252と、本体部252から突出し、L字状に配置された挿入部254を有しており、挿入部254には孔256が形成されている。支持板用コーナーキー250は、L字状に配置された挿入部254が支持板200の複数の中空部202に対応して本体部252と一体的に形成されている。
【0099】
支持板200の端面230が支持板用コーナーキー250の本体部252に接する位置まで、支持板用コーナーキー250の挿入部254が支持板200の中空部202に挿入される。挿入部254の断面積は、中空部202の断面積より小さく、挿入部254を中空部202の内壁とはほとんど接触せず、支持板200にクラック等が発生することを抑制することができる。
【0100】
支持板200と支持板用コーナーキー250とを連結した際、支持板200の孔232と支持板用コーナーキー250の挿入部254の孔256とは重なる位置に、位置合わせされる。固定部材であるビス258が、中空部202の外側から支持板200の孔232に挿入される。支持板200のスペーサ113と対向する面と反対側からビス258が中空部202に向けて挿入される。ビス258は、支持板200を貫通し、挿入部254の孔256に達する。ビス258を中空部202の外側からねじ込むことにより、ビス258が支持板200の孔232と挿入部254の孔256とに締結される。ビス258が支持板200を貫通しているので、支持板200と支持板用コーナーキー250の挿入部254とをビス258により確実に固定することができる。
【0101】
ここで中空部202の外側とは、支持板200の内部に形成された中空部202に対して、支持板200を境界にして中空部202の反対側を意味する。本実施形態では、支持板200のスペーサ113と対向する面と反対側から中空部202に向けてビス258を挿入した例を示したが、支持板200のスペーサ113と対向する面から、又は支持板200の側面から中空部202に向けてビス258を挿入することができる。
【0102】
本実施形態では、ビス258の下孔として、支持板200に孔232、挿入部254に孔256を形成したが、例えば、固定部材であるビス258として、タッピングビスを使用した場合、タッピングビスにより支持板200及び挿入部254に孔を直接開けることができる。
【0103】
本実施形態では、ビス258により、支持板200のガラス板110,111に近い側の2箇所で支持板用コーナーキー250と固定しているが、これに限定されない。例えば、中空部202の形成されている4箇所、又は支持板200の内側に位置する2箇所で固定することもできる。
【0104】
本体部252及び挿入部254を有する支持板用コーナーキー250は、硬質の合成樹脂材料(例えば、硬質ポリ塩化ビニル樹脂材料やアクリロニトリル・スチレン樹脂材料、ポリプロピレン樹脂材料)により一体成型されたものが好ましい。一体成型とは、削り出し法、モールド法、3Dプリンターによる造形法、あるいは射出成型法等の一体成型法により成型することを意味する。このように一体成型されていれば、支持板用コーナーキー250を一つの部材にピース化することが容易であり、支持板用コーナーキー250の部品点数を削減することができ、又組み立て工程を簡略化することができる。
【0105】
図15は、スペーサ113とコーナーキー150とをビス158により接続した状態、及び支持板200と支持板用コーナーキー250とをビス258により接続した状態を示す説明図である。図15の如く、ビス158がスペーサ113の空間部117の外側から、スペーサ113の空間部117に向けて挿入される。ビス158はスペーサ113により囲まれた側から挿入される。ビス158がコーナーキー150の挿入部154の孔156と締結され、スペーサ113とコーナーキー150とが接続される。
【0106】
また、ビス258が支持板200の中空部202の外側から、支持板200の中空部202に向けて挿入される。ビス258は支持板200のスペーサ113と反対側から挿入される。ビス258が支持板用コーナーキー250の挿入部254の孔256と締結され、支持板200と支持板用コーナーキー250とが接続される。
【0107】
<シール材180,182>
図6、7の如く、多重ガラス障子100は、シール材180、182を備えている。シールは、一次シール180と二次シール182とを使用している。ガラス板110とガラス板111とに対向するスペーサ113の側辺部116,116が、ブチルゴム(一次シール)180によって室外側のガラス板110と室内側のガラス板111とに接合される。そして、スペーサ113の外面側部115の側にポリサルファイド系、又はシリコーン系のシーリング材(二次シール)182が塗布される。これによって、多重ガラス障子100が構成される。シール材は上記形態に限定されず、ガラス板110,111において接合するシール材と、スペーサ113の外面側部115の側に塗布するシール材を同一の材料としてもよい。さらに、二次シール182の外周に二次シール182を保護する別のシール材を有してもよい。
【0108】
図6,7の多重ガラス障子100において、スペーサ113を支持する支持板200が設けられているので、二次シール182は、支持板200とガラス板110との間、支持板200とガラス板111との間に設けられる。
【0109】
支持板200を設けることにより、二次シール182を形成する材料の使用量を減らすことができる。また、支持板200により、二次シール182を最適の形状とすることができる。また、多重ガラス障子100の総厚を変更したとしても支持板200により、二次シール182を所定の寸法とすることができる。
【0110】
また、支持板200が二次シール182の被着対象となるので、安定した接着性能を確保(2面接着)することができる。つまり、二次シール182の保持力を発現することができる。
【0111】
<透湿防止層190>
図6,7の如く、多重ガラス障子100の分割中空層162の側に外側から水分が透過することを防止する透湿防止層190が形成される。特に、スペーサ113が、合成樹脂材料、例えば硬質ポリ塩化ビニル樹脂材料、又はアクリロニトリル・スチレン樹脂材料により形成されている場合、素材自体として水分の透湿防止性が高いアルミニウム製のスペーサと同等程度の透湿防止性が求められている。透湿防止層については、前述した通りである。
【0112】
また、図7の如く、スペーサ113は空間部117を有しているので、空間部117に乾燥剤168を充填することができる。この乾燥剤168により分割中空層162の気体を乾燥させることができる。なお、乾燥剤168は、スペーサ113の内面部114に形成された開口部(不図示)により、分割中空層162に露出される。
【0113】
なお、本実施形態において、支持板200が設けられているので、透湿防止層190を保護することができる。
【0114】
<多重ガラス障子100が建造物の窓に適用された例>
図7の如く、本実施形態の窓400は、多重ガラス障子100と窓枠300とを備えている。実施形態の窓400は、建物の躯体の開口部に取り付けられている既設の窓枠300を残すとともに、窓枠300の内側に室外側から新設の窓枠である、アタッチメント枠(第2の窓枠)310を窓枠300に装着し、アタッチメント枠310に新規の障子である、多重ガラス障子100を装着することにより構成される。
【0115】
窓枠300の上にセッティングブロック350が配置され、セッティングブロック350の上に多重ガラス障子100が載置される。
【0116】
窓枠300には、気密材320,押縁322が備えられる。気密材320は、窓枠300の見込壁に備えられた気密材装着用溝部324に、その嵌合部が着脱自在に装着され、そのリップ部が、多重ガラス障子100の室内側のガラス板111に密着される。
【0117】
アタッチメント枠310は、窓枠300の室外側壁に備えられた押縁装着用溝部326に、その嵌合部310Aが装着され、既設の窓枠300に固定される。
押縁322は、アタッチメント枠310に設けられた押縁装着用溝部310Bに、その嵌合部が着脱自在に装着され、そのリップ部が、多重ガラス障子100の室外側のガラス板110に密着される。これにより、多重ガラス障子100は、室外側及び室内側から押縁322、気密材320、に押し付けられて窓枠300に保持される。
【0118】
実施形態の窓枠300、アタッチメント枠310は、いずれも硬質合成樹脂材料、又はアルミニウム合金の押出形材であり、窓枠300、アタッチメント枠310は、開閉することができないFIX窓用の窓枠である。
【0119】
本実施形態の窓400は、既存の窓枠300の押縁装着用溝部326を利用して、アタッチメント枠310を取り付けているので、開口面積を狭くすることなくアタッチメント枠310を取り付けることができる。
【0120】
アタッチメント枠310を取り付けることで、既存の、例えば複層ガラス1より厚い多重ガラス障子100を納めることができる。多重ガラス障子100を利用することにより、高断熱化することができる。一つの窓枠300に厚さの違うガラス(複層ガラス、多重ガラス障子)を入れることができる。また、アタッチメント枠310を取り付けることで、外観意匠はそのままで高断熱化することができる。
【産業上の利用可能性】
【0121】
本発明によれば、スペーサとスペーサ接続部材とが確実に連結された複層ガラスを提供することができる。
なお、2014年10月30日に出願された日本特許出願2014−221618号の明細書、特許請求の範囲、図面および要約書の全内容をここに引用し、本発明の開示として取り入れるものである。
【符号の説明】
【0122】
1…複層ガラス、10,12…ガラス板、20…スペーサ、22…空間部、24…内面部、26…外面側部、28…側辺部、30…端面、32…孔、40…ビス、50…コーナーキー、52…本体部、54…挿入部、56…孔、60…中空層、62…一次シール、64…二次シール、68…乾燥剤、100…多重ガラス障子、110,111…ガラス板、112A,112B,112C…中間ガラス板、113…スペーサ、114…内面部、115…外面側部、116…側辺部、117…空間部、130…端面、132…孔、140…グレージングチャンネル、141…突起、150…コーナーキー、152…本体部、154…挿入部、156…孔、158…ビス、162…分割中空層、168…乾燥剤、180…一次シール、182…二次シール、190…透湿防止層、200…支持板、202…中空部、204…開放部、250…支持板用コーナーキー、252…本体部、254…挿入部、256…孔、258…ビス、300…窓枠、310…アタッチメント枠、310A…嵌合部、310B…押縁装着用溝部、320…気密材、322…押縁、324…気密材装着用溝部、326…押縁装着用溝部、350…セッティングブロック、400…窓。
図1
図2
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図15