特許第6576944号(P6576944)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6576944
(24)【登録日】2019年8月30日
(45)【発行日】2019年9月18日
(54)【発明の名称】僧帽弁置換におけるトグルセル固定
(51)【国際特許分類】
   A61F 2/24 20060101AFI20190909BHJP
【FI】
   A61F2/24
【請求項の数】11
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2016-557617(P2016-557617)
(86)(22)【出願日】2015年3月13日
(65)【公表番号】特表2017-512550(P2017-512550A)
(43)【公表日】2017年5月25日
(86)【国際出願番号】US2015020446
(87)【国際公開番号】WO2015142648
(87)【国際公開日】20150924
【審査請求日】2018年2月28日
(31)【優先権主張番号】61/954,810
(32)【優先日】2014年3月18日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】511177374
【氏名又は名称】セント・ジュード・メディカル,カーディオロジー・ディヴィジョン,インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100099623
【弁理士】
【氏名又は名称】奥山 尚一
(74)【代理人】
【識別番号】100096769
【弁理士】
【氏名又は名称】有原 幸一
(74)【代理人】
【識別番号】100107319
【弁理士】
【氏名又は名称】松島 鉄男
(74)【代理人】
【識別番号】100114591
【弁理士】
【氏名又は名称】河村 英文
(74)【代理人】
【識別番号】100125380
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 綾子
(74)【代理人】
【識別番号】100142996
【弁理士】
【氏名又は名称】森本 聡二
(74)【代理人】
【識別番号】100166268
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 祐
(74)【代理人】
【識別番号】100170379
【弁理士】
【氏名又は名称】徳本 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100180231
【弁理士】
【氏名又は名称】水島 亜希子
(72)【発明者】
【氏名】ベンソン,トーマス・エム
(72)【発明者】
【氏名】エイデンシンク,トレイシー
【審査官】 細川 翔多
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2011/002996(WO,A2)
【文献】 特表2013−519462(JP,A)
【文献】 特表2010−524585(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61F 2/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸方向において流出端から流入端に延在する折畳み可能かつ拡張可能なステントであって、
複数の第1のセルであって、各々が第1の複数のストラットによって画定された開空間を有している、複数の第1のセルと、
前記第1のセルの1つの前記開空間内に入れ子になっている第2のセルであって、第2の複数のストラットによって画定されている、第2のセルと、
前記第2のセルを前記第1のセルの1つに接続する第1の接続ストラットおよび第2の接続ストラットと、
を備え、
前記第2のセルは、前記第1の接続ストラットおよび前記第2の接続ストラットを中心として、前記第1のセルの1つに対して旋回するように構成され、
前記第1のセルの1つは、表面を画定しており、前記第2のセルは、外力がステントに作用しないときに前記表面内に位置せずに第1の頂点で交わる第1のストラットおよび第2のストラットを備え、
前記第2のセルは、外力がステントに作用しないときに前記表面内に位置し第2の頂点で交わる第3のストラットおよび第4のストラットを備え、前記第1および第2の頂点は、前記表面の内側および外側に旋回するように構成されていることを特徴とする、折畳み可能かつ拡張可能なステント。
【請求項2】
前記第2の複数のストラットの少なくとも1つに操作可能に接続された引張り部材を備えていることを特徴とする、請求項1に記載のステント。
【請求項3】
前記第2の複数のストラットの少なくとも1つに開口をさらに備え、前記引張り部材が前記開口に通されていることを特徴とする、請求項2に記載のステント。
【請求項4】
前記第1のストラットおよび前記第2のストラットは、各々、前記第3のストラットおよび前記第4のストラットよりも、前記ステントの前記流出端の近くに配置されていることを特徴とする、請求項1に記載のステント。
【請求項5】
前記第1のストラットは、第1の接続点において前記第3のストラットに接続されており、
前記第2のストラットは、第2の接続点において前記第4のストラットに接続されており、
前記第1の接続点および前記第2の接続点は、前記第1の接続ストラットおよび前記第2の接続ストラットから軸方向において位置ずれしていることを特徴とする、請求項4に記載のステント。
【請求項6】
前記第1のストラットおよび前記第2のストラットは、各々、前記第3のストラットおよび前記第4のストラットの各々の軸方向長さよりも短い軸方向長さを有していることを特徴とする、請求項5に記載のステント。
【請求項7】
前記第2のセルの前記第1のストラットは、前記第1の接続ストラットを介して前記第1のセルに接続されており、
前記第2のセルの前記第2のストラットは、前記第1のストラットに接続されており、前記第2の接続ストラットを介して前記第1のセルに接続されており、
前記第2のセルの前記第3のストラットは、前記第1のストラットに接続されており、
前記第2のセルの前記第4のストラットは、前記第3のストラットおよび前記第2のストラットに接続されていることを特徴とする、請求項1に記載のステント。
【請求項8】
前記ステントの周囲に前記ステントに対して軸方向に移動可能となるように付設された帯と、
前記帯に操作可能に接続された引張りワイヤと、
を備えていることを特徴とする、請求項1に記載のステント。
【請求項9】
前記引張りワイヤは、前記帯に縫込みによって接続されていることを特徴とする、請求項8に記載のステント。
【請求項10】
前記引張りワイヤは、近位軸方向および遠位軸方向において前記帯を前記ステントに対して移動させる力を、前記帯に伝達するように操作可能になっていることを特徴とする、請求項8に記載のステント。
【請求項11】
請求項1に記載の折畳み可能かつ拡張可能なステントと、
前記ステント内に配置されおり、複数の弁尖を有している折畳み可能かつ拡張可能な弁アセンブリと、
を備えていることを特徴とする、人工心臓弁。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[関連出願の相互参照]
本願は、2014年3月18日に「僧帽弁置換におけるトグルセル固定」の標題で出願された米国仮特許出願第61/954,810号の出願日の利得を主張するものであり、その開示内容は、参照することによってここに含まれるものとする。
【0002】
[発明の分野]
本開示は、心臓弁置換に関し、特に、折畳み可能な人工心臓弁に関する。さらに詳細には、本開示は、折畳み可能な人工心臓弁を生来の弁輪内に固定するための装置および方法に関する。
【背景技術】
【0003】
比較的小さい周方向寸法に折畳み可能な人工心臓弁は、折畳み可能でない弁よりも低侵襲的に患者内に送達することができる。例えば、折畳み可能な弁は、カテーテル、トロカール、腹腔鏡器具、などのような管状の送達装置を介して患者内に送達されるようになっている。この折畳性は、全開胸/開心手術のようなより侵襲的な施術の必要性を回避することができる。
【0004】
折畳み可能な人工心臓弁は、典型的には、ステントに取り付けられた弁構造体の形態にある。弁構造体が通常取り付けられるステントには、2種類、すなわち、自己拡張式ステントおよびバルーン拡張可能なステントがある。このような弁を送達装置内にかつ最終的に患者内に配置するために、一般的に、該弁は、その周方向寸法を縮小させるために、まず折畳まれ、または圧着されるようになっている。
【0005】
折畳まれた人工弁が患者内の所望の移植部位(例えば、人工弁によって置換される患者の心臓弁の弁輪またはその近く)に達したとき、人工弁は、送達装置から展開または解放され、十分な作用寸法に再拡張されるようになっている。バルーン拡張可能な弁の場合、一般的に、この施術は、弁の全体を放出し、その適切な位置を確定し、次いで、弁ステント内に配置されたバルーンを拡張させることを含んでいる。一方、自己拡張弁の場合、弁を覆っているシースが引き込まれると、ステントが自動的に拡張するようになっている。
【発明の概要】
【0006】
本開示の一実施形態によれば、折畳み可能かつ拡張可能なステントは、軸方向において近位端から遠位端に延在している。ステントは、複数の第1のセルであって、各々が第1の複数のストラットによって画定された開空間を有している、複数の第1のセルを備えているとよい。ステントは、第1のセルの1つの開空間内に入れ子になっている第2のセルであって、ステントの第2の複数のストラットによって画定されている、第2のセルをさらに備えているとよい。加えて、ステントは、第2のセルを第1のセルの1つに接続する第1および第2の接続ストラットを備えているとよい。第2のセルは、第1および第2の接続ストラットを中心として、第1のセルの1つに対して旋回するように構成されているとよい。
【0007】
本開示のさらなる実施形態によれば、人工心臓弁を患者内に送達する方法は、近位端から遠位端に延在するシースを備える送達装置を準備することを含んでいるとよい。また、本方法は、シースを患者内の移植部位に前進させることであって、人工心臓弁が折畳状態でシース内に収容されている、ことを含んでいるとよい。人工心臓弁は、軸方向において近位端から遠位端に延在するステントを有しているとよく、該ステントは、複数の第1のセルであって、各々が第1の複数のストラットによって画定された開空間を有している、複数の第1のセルと、第1のセルの1つの開空間内に入れ子になっている第2のセルであって、第2の複数のストラットによって画定されている、第2のセルとを備えているとよい。さらに、本方法は、第2のセルの少なくとも一部がシースの遠位端から解放されるまで、シースの遠位端を人工心臓弁に対して後退させることを含んでいるとよい。さらに、本方法は、第2のセルの少なくとも一部がシースの遠位端から解放された後、第2のセルとステントの外周と間に隙間を生じさせるために、第2のセルを第1のセルの1つに対して旋回させることを含んでいるとよい。
【0008】
以下、図面を参照し、本開示の種々の実施形態について説明する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】経心尖送達アプローチを示すヒトの心臓の略切断図である。
図2】生来の僧帽弁および関連する心臓構造の略図である。
図3A】本開示の実施形態による人工心臓弁の部分正面図である。
図3B図3Aの人工心臓弁の他のセル内における拡張状態にある入れ子セルの単独拡大正面図である。
図3C】折畳状態にある図3Bの入れ子セルの単独拡大正面図である。
図3D】他のセルに対して旋回した図3Bの入れ子セルの単独拡大側面図である。
図4A】形状設定された後の拡張状態にある図3Bの入れ子セルの単独拡大側面図である。
図4B】拡張状態にある図4Aの複数の入れ子セルを組み入れている人工心臓弁の縦断面図である。
図4C】送達装置から展開される図4Bの人工心臓弁の縦断面図である。
図4D】部分的に送達装置内に位置する折畳状態にある図4Bの人工心臓弁の縦断面図である。
図4E】生来の弁輪内に配置された図4Bの人工心臓弁の略部分図である。
図4F】生来の弁輪内に配置された人工心臓弁の他の実施形態の略部分図である。
図5A】人工心臓弁の他のセル内に位置する拡張状態にある入れ子セルの他の実施形態の単独拡大正面図である。
図5B】形状設定された後の拡張状態にある図5Aの入れ子セルの単独拡大側面図である。
図5C】拡張状態にある図5Aの入れ子セルを組み入れている人工心臓弁の縦断面図である。
図5D】送達装置内の折畳状態にある図5Cの人工心臓弁の縦断面図である。
図5E】送達装置から展開されている図5Cの人工心臓弁の縦断面図である。
図6A】本開示の他の実施形態による送達装置内の折畳状態にある人工心臓弁の縦断面図である。
図6B】再鞘入れ部材が拡張状態にある図6Aの送達装置の縦断面図である。
図6C】再鞘入れ部材が拡張位置にある図6Aの送達装置内に部分的に位置する図6Aの人工心臓弁の縦断面図である。
図7A】再鞘入れ部材が第1の位置にある人工心臓弁の縦断面図である。
図7B】再鞘入れ部材が第2の位置にある図7Aの人工心臓弁の縦断面図である。
図8A】人工心臓弁の他のセル内に位置する拡張状態にある入れ子セルの実施形態の単独拡大正面図である。
図8B】折畳状態にある人工心臓弁の他のセル内に位置する図8Aの入れ子セルの単独拡大正面図である。
図8C-8E】折畳状態にある人工心臓弁の他のセルに対して旋回する種々の段階にある図8Aの入れ子セルの単独拡大斜視図である。
図9】人工心臓弁の他のセル内に位置する折畳状態にある入れ子セルの他の実施形態の単独拡大正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
従来の折畳み可能な心臓弁では、通常、ステントは、拡張するステントによって生来の弁輪に与えられる半径方向力を介して、生来の弁輪内に係留されるようになっている。もしこの半径方向力が大きすぎたなら、損傷が心臓組織に生じる可能性がある。逆に、もしこの半径方向力が小さすぎたなら、心臓弁は、その移植位置から動く可能性がある。例えば、人工僧帽弁の場合、移植された弁は、左心室内または左心房内のいずれかに移動し、この移動した弁を取り除くために緊急手術が必要とされることがある。さらに、ある特定の手術、例えば、僧帽弁置換手術では、心臓弁は、周囲の組織構造に干渉しないように、より低い輪郭を有することが必要とされている。このような低い輪郭によって、弁を適所に留めることが困難になる可能性がある。他の設計の例として、組織内生長が生じるまで組織に受動的に係合するフックまたは同様の特徴部が挙げられる。
【0011】
前述の観点から、人工心臓弁の移植および折畳み可能な人工心臓弁、特に、自己拡張式人工心臓弁の係留のための装置、システム、および方法のさらなる改良が必要とされている。本開示の装置、システム、および方法の利点は、とりわけ、これらの要求の1つまたは複数に対処することにある。
【0012】
血液は、僧帽弁を通って左心房から左心室に流れる。本明細書において、「流入端(inflow end)」という用語は、人工僧帽心臓弁に関連して用いられる場合、心臓弁が患者内に移植されたときに左心房に最も近い心臓弁の端を指し、「流出端(outflow end)」という用語は、人工僧帽心臓弁に関連して用いられる場合、心臓弁が患者内に移植されたときに左心室に最も近い心臓弁の端を指すものとする。さらに、本明細書において、送達装置に関連して用いられる「近位側(proximal)」および「遠位側(distal)という用語は、意図された方法において装置を用いるユーザーを基準としている。「近位側(proximal)」は、ユーザーに比較的近い側を指し、「遠位側(distal)」は、ユーザーから比較的遠い側を指すと理解されたい。また、本明細書において用いられる「実質的に(substantially )」、「一般的に(generally)」、および「約(about)」という用語は、絶対値からのわずかな偏りがそのように条件緩和された用語の範囲内に含まれることを意味することが意図されている。
【0013】
図1は、ヒトの心臓100の略切断図である。心臓100は、2つの心房および2つの心室、すなわち、右心房112および左心房122と、右心室114および左心室124とを備えている。心臓100は、大動脈110および大動脈弓120をさらに備えている。左心房122と左心室124との間に配置されているのは、僧帽弁130である。二尖弁または左房室弁としても知られている僧帽弁130は、左心房122が血液によって満たされたときに該左心房内の圧力増大の結果として開く2枚のフラップからなっている。心房圧が左心室124の圧力を超えて増大すると、僧帽弁130が開き、血液が左心室124内に流入する。血液は、矢印Bによって示されている方向において心臓100内を流れることになる。
【0014】
「TA」が付されている破線矢印は、人工心臓弁を移植する経心尖アプローチ、この場合、僧帽弁を置換するための経心尖アプローチを示している。経心尖送達では、人工心臓弁を目標部位に送達するために、小切口が肋骨間の左心室124の心尖内に作られる。「TS」が付された第2の破線矢印は、人工心臓弁を移植する経中隔アプローチを示している。このアプローチでは、人工心臓弁は、右心房112と左心房122との間の中隔を貫通するようになっている。本明細書では、人工心臓弁を移植するための他の経皮的アプローチも考えられる。
【0015】
図2は、生来の僧帽弁130およびその関連する構造のさらに詳細な略図である。前述したように、僧帽弁130は、2つのフラップまたは2つの弁尖、すなわち、左心房122と左心室124との間に配置された後弁尖136および前弁尖138を備えている。腱索134として知られている索状腱が、2つの弁尖136,138を内側および外側乳頭筋132に接続している。心房収縮中、血液がより高圧の左心房122からより低圧の左心室124に流れる。左心室124が心室収縮期に収縮すると、該左心室内の増大した血圧が弁尖136,138を互いに押し付けて閉鎖し、これによって、左心房122内への血液の逆流が防がれることになる。左心房122内の血圧が左心室124内の血圧よりも著しく低いので、弁尖136,138は、低圧領域の方に反転しようとする。腱索134は、この反転が強くならないように防ぎ、これによって、弁尖136,138を引っ張り、それらを閉位置に保持することになる。
【0016】
図3Aは、本開示の一実施形態による人工心臓弁300の側面図である。図3Aは、緩和状態にある人工心臓弁300を示している。人工心臓弁300は、患者の生来の僧帽弁(図1−2の生来の僧帽弁130参照)の機能を取り換えるように設計された折畳み可能な人工心臓弁である。一般的に、人工弁300は、流入端310および流出端312を有している。人工弁300は、実質的に円筒形状を有しているとよく、以下に詳細に説明するように、該人工弁を生来の心臓組織に係留するための特徴部を備えているとよい。生来の僧帽弁130との置換に用いられるとき、人工弁300は、生来の弁輪の心房機能に干渉しないように、低輪郭を有しているとよい。
【0017】
人工心臓弁300は、ステント320を備えているとよい。ステント320は、自己拡張することができる生体適合性材料、例えば、ニチノール(Nitinol)を含む形状記憶合金から形成されているとよい。ステント320は、セル324を形成する複数のストラット322を備えているとよい。これらのセル324は、ステントの周りに1つまたは複数の環状列をなすように互いに接続されている。一般的に、セル324は、いずれもステント320の周辺に沿っておよびステント320の長さに沿って実質的に同じ大きさを有しているとよい。代替的に、流入端310の近くのセル324が、流出端312の近くのセルよりも大きくなっていてもよい。ステント320は、生来の弁輪内における人工心臓弁300の位置決めおよび安定化を助長する半径方向力をもたらすように、拡張可能になっているとよい。
【0018】
人工心臓弁300は、略円筒状のカフ326も備えているとよい。カフ326は、以下に詳細に説明するように、ステント320への弁アセンブリの取付けを容易にするものである。カフ326は、例えば、縫合糸328によって、少なくともいくつかのストラット322に取り付けられているとよい。
【0019】
ステント320は、1つまたは複数の入れ子セル330を備えているとよい。入れ子セル330は、人工心臓弁300の移植時に、生来の僧帽弁尖、例えば、僧帽弁130の後弁尖136および/または前弁尖138の締付けを容易にするものである。1つの入れ子セル330が、図3B−3Dにより詳細に示されている。具体的には、図3B,3Cは、それぞれ、拡張状態および折畳状態にあるステント320のセル324内に入れ子になっているセル330を示している。なお、これらの図では、人工心臓弁300の残りが省略されている。この実施形態では、セル324は、4つのストラット、例えば、第1の対の略平行ストラット324a,324bおよび第2の対の略平行ストラット324c,324dから形成されているとみなすことができる。全体として、ストラット324a−324dは、拡張状態にあるときに略ダイヤモンド形状を形成するようになっている。入れ子セル330は、セル324と同様の形状を有しており、第1の対の略平行ストラット330a,330bおよび第2の対の略平行ストラット330c,330dからなる4つのストラット330a−330dから形成されているとみなすことができる。全体として、ストラット330a−330dは、拡張状態にあるときに略ダイヤモンド形状を形成するようになっている。ストラット330a−330dによって画定されたセル330は、セル324を形成するストラット324a−324dの周辺内に実質的に入れ子になっている。
【0020】
入れ子セル330は、接続ストラット332,334によって、セル324に接続されているとよい。接続ストラット332,334は、各々、セル324から入れ子セル330に向かってこれらのセルの中心線Mに沿って延在する比較的短いストラットであるとよい。この構成では、入れ子セル330は、以下に述べるように、接続ストラット332,334を中心としてセル324に対して回転または旋回するようになっているとよい。例えば、折畳状態にあるセル324および入れ子セル330の側面図が、図3Dに示されている。入れ子セル330は、(図3Dに示されていない)接続ストラット332,334を中心としてセル324に対して回転した状態で示されている。
【0021】
セル324に対して回転する入れ子セル330の能力は、ステント320の形状記憶特性と組み合わされて、人工弁300の送達および展開中に入れ子セル330の多くの異なる挙動をもたらすのに役立つことになる。例えば、図4Aは、入れ子セル330を示している。この図において、セル324は、仮想線によって示されており、人工心臓弁300の残りは、省略されている。この構成では、入れ子セル330は、ストラット330d,330b(ストラット330dは、図4Aに示されていない)がストラット330a,330c(ストラット330aは、図4Aに示されていない)に対して半径方向外方に傾くように、例えば、熱硬化によって、形状設定された後の状態で示されている。「半径方向外方に傾く」という用語は、半径方向外方向に実質的に直線状に広がることのみならず、半径方向外方向に湾曲して広がることも含んでいる。この形状設定によって、入れ子セル330は、外力がステント320に作用しないとき、図示されている状態に戻る傾向にある。この特定の構成の1つの利点は、1対の入れ子セル330を僧帽弁送達装置のシース390と共に用いるとき、より明らかになるだろう。
【0022】
図4Bは、拡張状態にある人工心臓弁300の縦断面図を示している。この実施形態では、人工心臓弁300は、実質的に円筒状の弁アセンブリ360も備えているとよい。弁アセンブリ360は、(図3Aに最もよく示されている)カフ326に取り付けられた1対の弁尖362,364を備えている。弁尖362,364は、図2を参照して前述した生来の僧帽弁尖136,138の機能と置き換えられるものである。すなわち、弁尖362,364は、互いに合わさって一方向弁として機能するものである。弁尖362,364は、その全体または一部が、ウシまたはブタの心膜のようなどのような適切な生物学的材料から形成されていてもよいし、またはポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ウレタン、などのようなポリマーから形成されていてもよい。ステント320は、実質的に直径方向において互いに向き合った1対の入れ子セル330を備えているとよい。入れ子セル330の各々は、図4Aに関連して述べたように形状設定されている。図4Bに示されているように、近位ストラット330b、330dが、ステント320から半径方向外方かつ近位側に延在している。遠位ストラット330a,330cは、円筒状のステント320内において実質的に真っ直ぐに配置されているので、図4Bにおいて容易に見ることができない。
【0023】
図4Cは、折畳まれた状態で送達装置のシース390内に装填されている人工弁300の縦断面図を示している。僧帽弁送達装置は、当技術分野において知られているので、入れ子セル330の機能の説明を容易にするために、シース390のみが示されている。シース390は、(図示されていない)近位端から遠位端392に延在する略円筒状のチューブの形態にあるとよい。シース390の遠位端392は、開口端として示されているが、一般的に、遠位端392を送達中に閉鎖することを可能にするために、追加的な構造が送達装置の残りと共に設けられている。生来の僧帽弁130と人工弁300との置換中、人工弁300は、最初、シース390の遠位端392の近くに圧着されているかまたはそれ以外の方法によって折畳まれ、固定されている。人工心臓弁300の外径とシース390の内径との間に間隙が示されているが、これは、明瞭さをもたらすためであり、実際には、人工心臓弁330のステント320の全てではないにしてもその一部は、シース390の内面に直接接触しているだろう。この接触によって、人工心臓弁300の拡張が拘束され、同時に入れ子セル330がステント320の外周と略真っ直ぐに並ぶことになる。換言すれば、各入れ子セル330の近位ストラット330b,330dは、ステント320から半径方向外方に広がるように形状設定されているが、シース390の内径が近位ストラット330b,330dを拘束しているので、これらの近位ストラット330b,330dは、折畳まれたステントの残りと略真っ直ぐに並ぶことになる。近位ストラット330b,330dのこの拘束は、接続ストラット332,334に回転応力を生じさせている。しかし、入れ子セル330がシース390内において半径方向外方に回転しないように拘束されているので、接続ストラット332,334のこの回転力は、ストラット330a−330dのいずれにも大きい回転をもたらさないことになる。
【0024】
例えば、経心尖経路に沿った生来の僧帽弁130への人工弁300の送達中、送達装置の遠位端392は、移植部位の近くに達するまで前進する。いったん所望の位置に達したなら、図4Dに示されているように、シース390は、人工心臓弁300に対して近位側に後退される。シースの後退が継続すると、人工心臓弁300のより多くの部分が露出し、シースによって生じている拘束が低減する。この拘束が低減または解放されると、ステント320は、(図4Dに示されていない)その形状設定された拡張状態に戻り始める。シース390の遠位端392が入れ子セル330を超えて近位側に後退し始めると、接続ストラット332,334に蓄えられている回転応力によって、遠位ストラット330a,330cが接続ストラット332,334を中心として半径方向外方に回転する。この運動によって、蓄えられている回転応力が解放され、接続ストラット332,334に逆方向の回転応力が生じる。加えて、遠位ストラット330a,330cの外方回転によって、遠位ストラットとステント320の残りの外周との間に隙間が生じる。生来の僧帽弁130の弁輪内における人工心臓弁300の展開中に、人工心臓弁300は、僧帽弁130の後弁尖136および前弁尖138の各々がこれらの隙間の1つに配置されるように、生来の僧帽弁に対して位置決めされるとよい。例えば、これは、いったん隙間が生じたなら、人工心臓弁300を遠位側に前進させることによって達成されるとよい。シース390が入れ子セル330の残りを超えてさらに近位側に後退すると、接続ストラット332,334内に蓄えられている回転応力によって、入れ子セル330は、図4Aに示されている形状設定された形態に戻ろうとする。
【0025】
もし人工弁300が適切に位置決めされていたなら、入れ子セル330がそれらの元の形状設定された形態に戻ろうとすると、図4Eに示されているように、後弁尖136は、ステント320と入れ子セルの1つの遠位ストラット330a,330cとの間に締付けられ、前弁尖138は、ステント320と他の入れ子セルの遠位ストラットとの間に締め付けられることになる。もし適切に位置決めされていなかったなら、入れ子セル330が十分に露出していない限り、人工心臓弁300をシース390内に再鞘入れすることができることに留意されたい。もし入れ子セル330が十分に露出していたなら、各入れ子セルの近位ストラット330b,330dが半径方向外方に突出し、ステント320がシース390内に後退する能力を妨げることになる。むしろ、シース390の遠位端392は、突出する近位ストラット330b,330dに引っ掛かることになるだろう。前述の締付け機構は、生来の僧帽弁130に対する人工心臓弁300の確実な固定をもたらすことになる。人工弁を生来の弁に固定するための他の周知の機構は、確実とはいえない接続しかもたらすことができず、その結果、生体内作用中、特に、組織内生長前の期間において、人工弁と生来の弁との間に相対的な運動が生じることがある。一方、前述の締付け機構は、移植の運動による人工心臓弁300と生来の僧帽弁130との間に生じる相対的な運動を軽減または排除することができる。
【0026】
人工弁と共に用いられる周知の多数の他の構成要素が設けられてもよいが、ここでは、明瞭にするために図示されていない。例えば、生来の僧帽弁130との置換に用いられる前述の人工弁300の実施形態は、人工弁300の保持を容易にする図4Fに示されている編組シール395を、その僧帽弁輪の心房側に備えていてもよい。編組ステントのこの形式および他の形式は、例えば、2013年6月18日に「係留された僧帽弁補綴」の標題で出願された米国仮特許出願第61/836,427号により詳細に記載されている。
【0027】
同様に、前述の構成要素の多くの変更形態も本開示の範囲内にある。例えば、人工心臓弁は、人工弁の実質的に直径方向において互いに向き合った部分に位置する2つの入れ子セルに関して記載されているが、1つよりも大きい数または1つよりも小さい数の入れ子セルが設けられていてもよい。例えば、1つ、3つ、4つ、または5つ以上の入れ子セルが必要に応じて用いられてもよい。一般的に、置換される生来の僧帽弁の弁尖の数と少なくとも等しい数の入れ子セルを用いると有益である。例えば、三尖弁または大動脈弁と置換する人工心臓弁の場合、少なくとも3つの入れ子セルが特に有益である。しかし、任意の数の生来の弁尖を有する弁に対して任意の数の入れ子セルが用いられてもよく、入れ子セルは、人工弁の周囲に等間隔に離間される必要がないことを理解されたい。さらに、入れ子セルのストラットは、半径方向外方に「傾いている(angled)」と記載されているが、これは、ストラットが外方に湾曲している形態も含んでいる。外方湾曲は、平角と比較して、ステントが折畳状態にあるとき、送達装置の内壁内に入り込みにくい傾向にある。例えば、入れ子セルの端が少しまたはいくらか湾曲していると、入れ子セルが送達中に送達装置内に入り込む傾向が低減し、展開力を可能な限り小さくする働きがある。
【0028】
拡張状態にある人工心臓弁400のセル424内に入れ子になっている部分セル430が、図5Aに示されている。図5Aでは、セル424および入れ子部分セル430しか示されていない。この実施形態では、人工心臓弁300におけるように、セル424は、4つのストラット、例えば、第1の対の略平行ストラット424a,424bおよび第2の対の略平行ストラット424c,424dから形成されているとみなすことができる。全体として、ストラット424a−424dは、拡張状態にあるときに略ダイヤモンド形状を形成するようになっている。しかし、入れ子部分セル430は、セル424の上半体または遠位半体と同様の形状に略追従する半体セルまたは部分セルの形態にある。入れ子部分セル430は、2つのストラット430a,430cから形成されているとみなすことができる。これらの2つのストラット430a,430cは、全体として、拡張状態にあるときに略半ダイヤモンド形状または略部分ダイヤモンド形状を形成することになる。人工心臓弁300におけるように、入れ子部分セル430は、接続ストラット432,434によってセル424に接続されているとよい。この構成では、入れ子部分セル430は、接続ストラット432,434を中心として、セル424に対して回転または旋回するようになっているとよい。加えて、入れ子部分セル430は、開口またはアイレット435のような貫通孔を備えているとよい。アイレット435は、入れ子部分セル430の(ストラット430aがストラット430cと交差する)遠位端に位置しているとよいが、他の位置付けも可能である。以下に説明するように、いくつかの実施形態では、アイレット435によって、ユーザーは、弁展開中に入れ子部分セル430を操作することが可能である。
【0029】
図5Bは、特定の1つの形態に形状設定された後の入れ子部分セル430を示しており、この図では、セル424は、仮想線によって示されており、人工心臓弁400の残りは、省略されている。この構成では、遠位ストラット430a,430c(ストラット430aは、図5Bにおいて見えていない)は、セル424に対して半径方向内方に傾いている。この形状設定では、入れ子部分セル430は、外力が作用しないとき、図示されている状態に戻る傾向にある。
【0030】
図5Cは、拡張状態にある人工心臓弁400の縦断面図を示している。人工心臓弁400は、入れ子部分セル430以外の全てにおいて、人工心臓弁300と同じであってもよい。人工心臓弁400のステント420は、実質的に直径方向において互いに向き合った1対の入れ子部分セル430を備えているとよい。入れ子部分セル430は、各々、図5Bに関連して述べたように形状設定されている。図5Cに示されているように、遠位ストラット430a,430cは、ステント420から半径方向内方かつ遠位側に延在している。
【0031】
図5Dは、折畳まれた状態で送達装置のシース490内に装填された人工弁400の縦断面図である。シース490は、シース390と実質的に同じであるとよく、(図示されていない)近位端から遠位端492に延在する略円筒状のチューブの形態を有しているとよい。送達システムは、入れ子部分セル430のアイレット435(図5A参照)に接続された引張りワイヤまたは縫合糸Sのような1つまたは複数のコネクタも備えているとよい。各縫合糸Sは、対応するアイレット435に通され、シース490内を近位側に延びる縫合糸の2本の糸部分によって、各入れ子部分セル430の遠位端にループを形成しているとよい。縫合糸Sは、好ましくは、人工弁400の外周とシース490の内周との間を通って近位側に延び、これによって、縫合糸の近位端が患者の外側に位置し、ユーザーによって操作されるようになっているとよい。縫合糸Sは、近位側に自在に延びているように示されているが、ガイド管腔のような他の構造物が縫合糸Sと併せて用いられてもよいことを理解されたい。一変更形態において、部分セル430は、アイレット435を備えていなくてもよい。このような変更形態では、ある長さの縫合糸Sが部分セル430の遠位端においてストラット430a,430cの1つまたは複数の周りに巻き付けられ、該縫合糸の2本の糸部分がシース490を通って近位側に延ばされるようになっていてもよい。
【0032】
人工弁400が、典型的にはシース490を後退させることによって展開すると、入れ子部分セル430は、シース490の拘束から解放される。いったん入れ子部分セル430がシース490から解放されたなら、ユーザーは、例えば、縫合糸Sを近位側に手動によって引っ張ることによって、縫合糸Sを操作し、図5Eに示されているように、入れ子部分セル430、特に、遠位ストラット430a,430cを半径方向外方に開き、遠位ストラットとステント420の外周との間に隙間を生じさせるとよい。前述の実施形態に関連して述べたように、いったん入れ子部分セル430が半径方向外方に広がったなら、人工心臓弁400は、生来の僧帽弁130の後弁尖136および前弁尖138の各々がこれらの隙間の1つに配置されるように、位置決めされるとよい。いったん所望の位置に配置されたなら、ユーザーは、縫合糸Sの引張を解放し、これによって、遠位ストラット430a,430cは、それらの半径方向内方に延びるように形状設定された位置に戻り始める。もし人工弁400が適切に位置決めされていたなら、後弁尖136は、ステント420と入れ子部分セルの1つの遠位ストラット430a,430との間に締め付けられ、前弁尖138は、ステント420と他の入れ子部分セルの遠位ストラットとの間に締め付けられることになる。
【0033】
もし人工弁400が適切に配置されていなかったなら、ユーザーは、縫合糸Sを再び近位側に引っ張り、遠位ストラット430a,430cを半径方向外方に移動させ、これによって、人工心臓弁を再配置することができることに留意されたい。縫合糸Sが入れ子部分セル430に接続されており、かつ人工心臓弁400の全体がシース490から解放されていない限り、人工心臓弁400は、必要に応じて、再鞘入れ可能である。いったん入れ子部分セル430が所望位置に締め付けられたなら、ユーザーは、各縫合糸Sの一方の糸部分を近位側に引っ張り、縫合糸Sを患者から取り除くことができる。
【0034】
前述の人工心臓弁400に対して変更形態がなされてもよいことを理解されたい。例えば、遠位ストラット430a,430cは、前述したように半径方向内方に曲がる傾向にあるように形状設定されているが、他の形状設定も適切に機能することができる。例えば、遠位ストラット430a,430cは、力が作用しないときに円筒形状のステント420内において略真っ直ぐに配置されるように、形状設定されていてもよい。また、アイレット435は、同様の機能をもたらす他の構造物に置き換えられてもよい。例えば、ストラット430aおよび/または430cは、隆起、フランジ、延長部、または縫合糸Sが巻き付けられる他の構造物を有していてもよい。しかし、アイレット435は、これらの代替物よりも縫合糸Sに対してより確実な接続をもたらすことができる。加えて、縫合糸Sは、ユーザーによって手動操作されるように記載されているが、それらの近位端において、送達装置のハンドル内の摺動機構のような他の構造物に接続され、これによって、縫合糸Sの近位/遠位側運動を容易にするようになっていてもよい。同様に、縫合糸Sは、アイレット435を用いることなく、入れ子部分セル430に取付けられてもよい。さらに、図3Bに関連して述べたセル330のような完全な形態にあるセルが、入れ子部分セル430に関連して述べたのと同じように、アイレットと共に用いられてもよい。
【0035】
図6Aは、折畳まれた状態で送達装置のシース590内に装填された人工弁300の縦断面図である。人工弁300は、図3A−4Bに関連して述べたものと同じであり、入れ子セル330は、図4Aに関連して述べたように形状設定されている。シース590は、シース390,490と実質的に同じであり、(図示されていない)近位端から遠位端592に延在する略円筒状のチューブの形態にあるとよい。送達システムは、アーム595のような1つまたは複数の再鞘入れ部材も備えているとよい。各アーム595は、シース590の近位端から遠位端592の方に延在しているとよい。図6Aでは、近位状態または後退状態にあるアーム595が示されており、この状態では、各アームの遠位端が、好ましくは、人工心臓弁300の外周とシース590の内周との間において、シース590内に配置されている。各アーム595の近位端は、患者の体の外側に位置するのに十分近位側に延在しており、これによって、ユーザーは、例えば、アームを押し込むかまたは引っ張ることによって、各アーム595を操作するようになっているとよい。アーム595は、代替的に、アームの操作を容易にするために送達装置のハンドルまたは他の部分に接続されていてもよい。
【0036】
アーム595の構造は、図6Bに最もよく示されている。この図は、アーム595が遠位状態または拡張状態にあるシース590を示しており、人工弁300は、この図から省略されている。アーム595は、アーム595に対するシース590の近位運動によって、例えば、アーム595に対するシース590の後退によって、図6Aに示されている後退状態から図6Bに示されている拡張状態に移行するようになっているとよい。各アーム595の遠位部分596は、その遠位端において半径方向内方に傾いたフィンガー598を有する外方に広がったセグメント597を備えているとよい。各アーム595は、遠位部596が拡張状態に移行したときに図示の形状を取るように形状設定されたニチノールのような形状記憶合金から形成されているとよい。アーム595は、拡張状態にあるときにこの形状を取るが、(遠位部分596を備える)アーム595は、後退状態にあるとき、実質的に直線状である。
【0037】
アーム595の機能は、図6Cに最もよく示されている。この図は、部分的な拡張状態にある人工弁300と共にアーム595が拡張状態にあるシース590を示している。特に、シース590は、人工弁300が図4Bに示されているのと同様の形態を取るように後退されており、近位ストラット330b,330dがシース590の遠位端592からすでに解放されている。しかし、図4Bに示されている完全に拡張した状態と違って、人工弁300は、図6Cにおいて部分的にしか拡張されていない。この時点で、もし人工弁300が適切に配置されていたなら、各入れ子セル330の遠位ストラット330a,330cは、生来の僧帽弁尖の1つを締め付けていることになる。もしその位置が好ましかったなら、ユーザーは、各アームの遠位部分596がシース内に位置するまでアーム595を引き込むとよく、この時点で、送達装置が患者から取り出されるとよい。しかし、もし人工弁300の位置が好ましくなかったなら、ユーザーは、シース590を人工弁300に対して遠位側に前進させ、これによって、アーム595を人工弁に対して動かない状態に維持することができる。シース590が遠位側に前進すると、該シースは、アーム595の広がったセグメント597およびフィンガー598を内方に圧縮または平坦化し、これによって、入れ子セル330の近位ストラット330b,330dをステント320の残りに向かって内方に圧縮することになる。いったんシース590が近位ストラット330b,330dを包囲したなら、生来の僧帽弁尖への遠位ストラット330a,330cの締付け作用が解放され、ユーザーは、必要に応じて、人工心臓弁300を再配置することができる。
【0038】
図7Aは、位置制御要素と共に拡張状態にある人工心臓弁300を示す縦断面図であり、この図では、入れ子セル330は、図4Aに関連して述べたように形状設定されている。位置制御要素は、例えば、帯600の形態にあるとよい。帯600は、人工心臓弁300を取り囲む布地または形状記憶合金のような材料片であるとよい。特に、帯600は、入れ子セル330の遠位ストラット330a,330cがそれぞれ近位ストラット330d,330bに移行する点またはその近くに配置されているとよい。換言すれば、帯600は、入れ子セル330の旋回点として作用する入れ子セル330の中線Mおよび接続ストラット332,334(図3B)を略超えて延在するように配置されているとよい。
【0039】
帯600は、1つ、2つ、または3つ以上のコネクタ610を備えているとよい。コネクタ610は、引張方向(近位方向)および押込方向(遠位方向)の両方において力を帯600に伝達するのに十分な強度および剛性を有するプッシュ/プルワイヤであるとよい。各コネクタ610は、帯600に操作可能に取り付けられた遠位端と、近位端(図示せず)と、長さとを有しており、人工心臓弁300が移植部位にあるとき、各コネクタ610の近位端が患者の体外に位置し、ユーザーによって操作されるようになっているとよい。各コネクタ610の近位端は、手動操作を可能にするために自由端になっていてもよいし、または送達装置のハンドルまたはスライダーのような他の部分に取り付けられていてもよく、これによって、コネクタ610の操作が容易になる。各コネクタ610の遠位端は、例えば、帯600に縫い込まれた対応するコネクタ部分に縫い込まれるようになっているとよい。
【0040】
帯600を有する人工弁300の送達は、図4C−4Eに関連して述べた手順と殆ど同じ手順によって行なわれるとよい。人工弁300の送達中、帯600は、入れ子セル330の遠位ストラット330a,330cがそれぞれ近位ストラット330d,330bに移行する点またはその近くの第1の位置にある。帯600は、代替的に、第1の位置にある近位ストラット330b,330dを取り囲んでいてもよい。送達装置のシースが人工弁300に対して近位側に後退すると、人工弁は、その周形状まで拡張し始める。帯600も、自己拡張によってまたは該帯が取り囲む人工心臓弁300の拡張によって、周形状を取り始める。
【0041】
人工弁300が(図7Aに示されていない)シースから部分的に解放され、これによって、人工弁300の一部がシース内に保持されているが、入れ子セル330がシースから解放された後、遠位ストラット330a,330cは、図7Aに示されているように、半径方向外方に広がることになる。この状態が生じ得るのは、帯600が近位ストラット330b,330dを取り囲み、遠位ストラットが外方に旋回されるからである。もし適切に位置決めされていたなら、この時点で、生来の僧帽弁尖は、遠位ストラット330b,330dと人工心臓弁300の残りとの間の隙間に配置されている。次いで、ユーザーは、コネクタ610を用いて、帯600をステント320に対して遠位側に前進させるとよい。帯600が第2の位置に向かって遠位側に前進すると、図7Bに示されているように、該帯が遠位ストラット300a,300cを取り囲みかつ内方に旋回させ、これによって、生来の弁尖を締め付けることができる。
【0042】
もしこの時点でユーザーが人工心臓弁300の位置決めに満足しなかったなら、ユーザーは、コネクタ610を近位側に引っ張り、これによって、帯600を第1の位置に戻すように近位側に移動させるとよい。帯600が人工心臓弁300に対して近位側に移動すると、該帯は、近位ストラット330d,330bを半径方向内方に押し込みし、次いで、遠位ストラット330a,330cを半径方向外方に旋回させ、これによって、生来の僧帽弁尖への締付け力を解放する。その後、人工心臓弁300が再鞘入れされ、人工弁300の展開が再び試みられることになる。いったん好ましい展開が得られたなら、ユーザーは、コネクタ610を回転させることによって帯600から外すとよい。いったん外されたなら、コネクタ610および送達システムの残りは、患者から取り外され、人工心臓弁300は、帯600と共に患者内に恒久的に移植されることになる。
【0043】
入れ子セル330,430を特定の構成に関連して説明してきたが、他の構成もこの開示の範囲内にあることを理解されたい。例えば、図8A,8Bは、それぞれ、拡張状態および折畳状態にあるステント320のセル324内に入れ子になっている代替的実施形態によるセル330’を示している。この図において、人工心臓弁300の残りは、明瞭にするために省略されている。この実施形態では、近位ストラット330b’、330d’は、それぞれ、接続点332’, 334’においてセル324に接続されている。接続点332’,334’は、入れ子セル330の接続点332,334より厚くなっているとよい。接続点332,334が旋回点として作用する場合、接続点を形成する材料は、接続点の必要な捻れを可能にするために、比較的薄くなっている必要がある。しかし、この捻れは、接続点332,334への比較的大きな捻れおよび/または応力を生じさせることになる。これは、望ましいことではない。接続点332’,334’は、接続点への捻れおよび/または応力を軽減させるためには厚いとよいが、この場合、セル330’に関して述べた旋回を生じさせる接続点332’,334’の能力を低減または排除させる可能性がある。以下にさらに詳細に説明するように、旋回または揺動運動は、遠位ストラット330a’,330c’をそれぞれ接続点332’,334’よりもむしろ近位ストラット330d’,330b’に直接接続することによって、厚い接続点332’,334’によって得られるようになっている。
【0044】
前述したように、近位ストラット330d’は、接続点332’の近位側に離間した第1の接続点333’において遠位ストラット330a’に接続されており、近位ストラット330b’は、接続点334’の近位側に離間した第2の接続点335’において遠位ストラット330c’に接続されている。いったん、例えば、図4Aに関連して述べたのと同じように形状設定がなされたなら、近位ストラット330b’,330d’の半径方向内方の旋回または圧縮によって、これらのストラットは、接続点332’,334’を中心として回転または旋回する。しかし、接続点332’,334’の厚みによって、これらの接続点は、比較的小さい捻れおよび低い応力しか受けないことになる。さらに、近位ストラット330b’,330d’が半径方向内方に圧縮または旋回されると、第1の接続点333’および第2の接続点335’もセル324の面に向かって移動する。遠位ストラット330a’,330c’がそれぞれ第1の接続点333’および第2の接続点335’から延在しているので、近位ストラット330b’、330c’がセル324の面に向かって移動すると、遠位ストラット330a’,330c’がセル324の面から半径方向外方に回転する。この運動は、図8C−8Eに示されている。
【0045】
図8A−8Eに示されている特定の実施形態では、遠位ストラット330a’,330c’は、セル324の面から比較的大きな距離にわたって回転または旋回することができる。接続点333’,335’を接続点332’,335’の近位側に移すことによって、近位ストラット330b’,330d’は、セル324の形状に著しい影響を与えることなく、遠位ストラット330a’,330c’よりも軸方向または長さ方向において短くなっている。換言すれば、接続点332’,334’は、セル324の実質的に中線に配置されており、接続点333’,335’は、接続点332’,334’から軸方向に位置ずれしている。図8Bに示されているように、折畳状態にあるとき、近位ストラット330b’,330d’は、遠位ストラット330a’,330c’の軸方向長さLよりも短い軸方向長さLを有している。
【0046】
前述したように、近位ストラットン330b’,330d’は、力が作用しないときに各々が人工心臓弁300から半径方向外方に広がるように、形状設定されているとよい。遠位ストラット330a’,330c’は、力が作用しないときに各々が円筒状のステント320内において略真っ直ぐに配置されるように形状設定されているとよい。図4C−4Eに関連して述べた方法と同様または同一の方法による人工弁300の回転中に、遠位ストラット330a’,330c’の軸方向長さLと比較して近位ストラット330b’、330d’の軸方向長さLが短いことによって、近位ストラットおよび遠位ストラットのそれぞれの軸方向長さが同じであるときと比較して、より大きい旋回が得られることになる。この追加的な旋回運動によって、生来の僧帽弁の締付けが容易になる。
【0047】
第1のセルと第1のセル内に入れ子になっている第2のセルとの間に比較的厚い接続点を用いる場合、図8A−8Eに関連して述べた構成と異なる構成も可能であることを理解されたい。例えば、図9は、折畳形態にあるセル324内に入れ子になっている他の実施形態によるセル330’’を示している。入れ子になっているセル330’’は、多くの点において入れ子セル330’と同様である。例えば、遠位ストラット330a’’は、第1の接続点333’’において近位ストラット330d’’に接続されており、遠位ストラット330c’’は、第2の接続点335’’において近位ストラット330b’’に接続されている。さらに、近位ストラット330d’’は、接続点332’’においてセル324に接続されており、近位ストラット330b’’は、接続点334’’においてセル324に接続されている。しかし、この実施形態では、接続点332’’,334’’は、セル324の実質的に中線に位置せず、むしろ、近位ストラット324a,324cに接続されている。この構成では、近位ストラット330b’’,330d’’は、遠位ストラット330a’’,330c’’の軸方向長さLと実質的に同じ軸方向長さLを有している。明らかなように、本明細書に開示されている概念から逸脱することなく特定の目的に適する種々の構成が可能である。
【0048】
本開示の一実施形態によれば、軸方向において近位端から遠位端に延在する折畳み可能かつ拡張可能なステントは、複数の第1のセルであって、各々が第1の複数のストラットによって画定された開空間を有している、複数の第1のセルと、第1のセルの1つの開空間内に入れ子になっている第2のセルであって、第2の複数のストラットによって画定されている、第2のセルと、第2のセルを第1のセルの1つに接続する第1および第2の接続ストラットと、を備え、第2のセルは、第1および第2の接続ストラットを中心として、第1のセルの1つに対して旋回するように構成されており;および/または
ステントは、第2の複数のストラットの少なくとも1つに操作可能に接続された引張り部材をさらに備えており;および/また
ステントは、第2の複数のストラットの少なくとも1つに開口をさらに備え、引張り部材が開口に通されており;および/または
第2の複数のストラットは、第1のストラット、第2のストラット、第3のストラット、および第4のストラットを含んでおり、第1および第2のストラットは、各々、第3および第4のストラットよりもステントの近位端の近くに配置されており;および/または
第1のストラットは、第1の接続点において第3のストラットに接続されており、第2のストラットは、第2の接続点において第4のストラットに接続されており、第1および第2の接続点は、第1および第2の接続ストラットから軸方向において位置ずれしており;および/または
第1および第2のストラットは、各々、第3および第4のストラットの各々の軸方向長さよりも短い軸方向長さを有しており;および/または
第2の複数のストラットは、第1のストラット、第2のストラット、第3のストラット、および第4のストラットを含んでおり、第1のストラットは、第1の接続ストラットを介して第1のセルに接続されており、第2のストラットは、第1のストラットに接続されており、第2の接続ストラットを介して第1のセルに接続されており、第3のストラットは、第1のストラットに接続されており、第4のストラットは、第3のストラットおよび第2のストラットに接続されており;および/または
第1のセルの1つは、表面を画定しており、第2のセルは、外力がステントに作用しないときに該表面内に位置しない第1および第2のストラットを備えており;および/または
第2のセルは、外力がステントに作用しないときに該表面内に位置する第3および第4のストラットを備えており;および/または
ステントは、ステントの周囲にステントに対して軸方向に移動可能となるように付設された帯と、帯に操作可能に接続された引張りワイヤと、を備えており;および/または
引張りワイヤは、帯に縫込みによって接続されており;および/または
引張りワイヤは、近位軸方向および遠位軸方向において帯をステントに対して移動させる力を帯に伝達するように操作可能になっており;および/または
人工心臓弁は、前述の折畳み可能かつ拡張可能なステントと、ステント内に配置されおり、複数の弁尖を有している折畳み可能かつ拡張可能な弁アセンブリと、を備えている。
【0049】
本開示の他の実施形態によれば、人工心臓弁を患者内に送達する方法は、人工心臓弁を折畳まれた状態で送達装置内に装填するステップであって、送達装置は、近位端から遠位端に延在するシースを備えており、人工心臓弁は、軸方向において近位端から遠位端に延在するステントであって、複数の第1のセルを有している、ステントを備えており、各第1のセルは、第1の複数のストラットによって画定された開空間を有しており、第2のセルが第1のセルの1つの開空間内に入れ子になっており、第2のセルは、第2の複数のストラットによって画定されている、ステップと、シースを患者内の移植部位に前進させるステップと、第2のセルの少なくとも一部がシースの外側に位置するまで、シースを人工心臓弁に対して後退させるステップと、第2のセルとステントの外周との間に隙間を生じさせるために、第2のセルを第1のセルの1つに対して旋回させるステップと、を含んでおり:
旋回ステップは、第2の複数のストラットの少なくとも1つに操作可能に接続された引張り部材を近位側に引っ張ることを含んでおり;および/または
第1のセルの1つは、表面を画定しており、第2のセルは、力がステントに作用しないときに該表面内に位置しない第1および第2のストラットを備えており;および/または
第2のセルは、力がステントに作用しないときに該表面内に位置する第3および第4のストラットを備えており;および/または
旋回ステップは、第3および第4のストラットの少なくとも一部がシースの外側に位置し、第1および第2のストラットの少なくとも一部がシースによって覆われる状態になるまで、シースを人工心臓弁に対して後退させることを含んでおり;および/または
人工心臓弁は、ステントを取り巻く帯と、帯に操作可能に接続された引張りワイヤと、を備えており;および/または
本方法は、旋回ステップの後、帯が第1および第2のストラットの上に重なるが、第3および第4のストラットの上に重ならない状態になるまで、引張りワイヤを近位側に引っ張ることによって、帯を近位軸方向においてステントに対して後退させ、これによって、第2のセルを第1のセルに対して旋回させるステップを含んでおり;および/または
本方法は、隙間が第2のセルとステントの外周との間に生じた後、生来の弁構造の少なくとも一部が隙間内に位置するまで、人工心臓弁を遠位側に前進させるステップと、生来の弁構造の該一部を第2のセルと第1のセルとの間に締め付けるために、第2のセルを第1のセルに対して旋回させるステップと、を含んでいる。
【0050】
本発明を特定の実施形態を参照して説明してきたが、これらの実施形態は、本発明の原理および用途を単に例示しているにすぎないことを理解されたい。それ故、例示的実施形態に対して多くの修正がなされてもよいこと、および添付の請求項によって規定されている本発明の精神および範囲から逸脱することなく、他の構成が考案されてもよいことを理解されたい。
【0051】
本明細書に記載されている種々の従属請求項および特徴は、元の請求項に記載されている方法と異なる方法によって組み合わされてもよいことを理解されたい。個々の実施形態と関連して記載されている特徴は、記載されている実施形態の他のものと共有されてもよいことも理解されたい。
図1
図2
図3A
図3B
図3C
図3D
図4A
図4B
図4C
図4D
図4E
図4F
図5A
図5B
図5C
図5D
図5E
図6A
図6B
図6C
図7A
図7B
図8A
図8B
図8C
図8D
図8E
図9