(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
操舵入力の結果として、車両の中速から高速の安定性を高めるため及び車両の一時的なヨー応答を制御するための方法であって、前記車両が、前車軸(24)、後車軸(26)、制御可能な差動装置(22)、及び前記差動装置(22)をロック及びロック解除するために配置された制御ユニット(50)を備え、前記方法が、前記車両の操作に依存して前記差動装置(22)を選択的にロック又はロック解除することを含む場合において、前記方法が、以下のことをさらに含むことを特徴とする方法:
− 少なくとも前後方向の車両スピード(V)を測定すること;
− 測定された車両スピード(V)を予め決定された第一参照スピード(VH)と比較すること;
− 前記測定された車両スピード(V)が前記第一参照スピード(VH)を越えるなら前記差動装置(22)をロックすること;及び
− 測定された車両スピード(V)が前記第一参照スピード(VH)を越えない場合には、以下のことをさらに含むこと:
− 測定された車両スピード(V)を予め決められた第二参照スピード(VL)と比較すること;
− 車両の前輪操舵角(δ)を測定すること;
− 前輪操舵角(δ)を前輪操舵角値の予め決められた参照値(δ1)と比較すること;
− 車両の前輪操舵角割合(dδ/dt)を測定すること;
− 前輪操舵角割合(dδ/dt)を前輪操舵角割合値の予め決められた参照値(dδ1)と比較すること;
− もし測定された車両スピード(V)が前記第二参照スピード(VL)を越え、かつ以下の条件i)〜iii)のいずれか一つになるなら前記差動装置(22)をロックすること;
i)測定された前輪操舵角(δ)が前輪操舵角の前記予め決められた参照値(δ1)を越える、又は
ii)測定された前輪操舵角割合(dδ/dt)が前輪操舵角割合の前記予め決められた参照値(dδ1)を越える、又は
iii)測定された前輪操舵角(δ)が前輪操舵角の前記予め決められた参照値(δ1)を越え、かつ測定された前輪操舵角割合(dδ/dt)が前輪操舵角割合の前記予め決められた参照値(dδ1)を越える。
操舵入力の結果として、車両の中速から高速の安定性を高めるため及び車両の一時的なヨー応答を制御するためのシステムであって、前記車両が、前車軸(24)、後車軸(26)、制御可能な差動装置(22)、及び前記差動装置(22)をロック及びロック解除するために配置された作動手段(40)、並びに前記車両の操作に依存して前記差動装置(22)を選択的にロック又はロック解除するために前記作動手段を制御するように構成される制御ユニット(50)を備えているものにおいて、制御ユニット(50)が、少なくとも前後方向の車両スピード(V)を測定し、測定された車両スピード(V)を予め決められた第一参照スピード(VH)と比較し、もし前記測定された車両スピード(V)が前記第一参照スピード(VH)を越えるなら前記差動装置(22)をロックするように構成されていること、及び制御ユニット(50)がさらに、測定された車両スピード(V)が前記第一参照スピード(VH)を越えない場合には、測定された車両スピード(V)を予め決められた第二参照スピード(VL)と比較するように構成され、制御ユニット(50)がまた、車両の前輪操舵角割合(dδ/dt)を測定し、前輪操舵角割合(dδ/dt)を前輪操舵角割合値の予め決められた参照値(dδ1)と比較し、車両の前輪操舵角(δ)を測定し、前輪操舵角(δ)を前輪操舵角の予め決められた参照値(δ1)と比較するように構成され、また測定された車両スピード(V)が前記第二参照スピード(VL)を越え、かつ以下の条件i)〜iii)のいずれか一つになるなら前記差動装置(22)をロックするように構成されることを特徴とするシステム:
i)測定された前輪操舵角(δ)が前輪操舵角の前記予め決められた参照値(δ1)を越える、又は
ii)測定された前輪操舵角割合(dδ/dt)が前輪操舵角割合の前記予め決められた参照値(dδ1)を越える、又は
iii)測定された前輪操舵角(δ)が前輪操舵角の前記予め決められた参照値(δ1)を越え、かつ測定された前輪操舵角割合(dδ/dt)が前輪操舵角割合の前記予め決められた参照値(dδ1)を越える。
【背景技術】
【0004】
ほとんどの車両において、急カーブでドライブするときに駆動輪間でスピード差を可能とするために駆動系には幾つかの種類の差動装置に対する要求がある。この問題に対する圧倒的に多くの一般的な解決策は、いわゆるオープン差動装置(open differential)である。しかしながら、オープン差動装置の良く知られた欠点は、駆動輪の一つが低い摩擦係数[μ]で他が高い摩擦係数[μ]で路面と係合するときに起こる。かかる場合には、低いμ接触面で発現した低いけん引力は、有意なトルクが他の車輪で発現することを防止する。オープン差動装置の二つの車軸間のトルクは、いつもはほとんど等しいので、車両をその位置から引っ張るために発現されうる総合的なけん引力がほとんどない。
【0005】
この基本的な欠点のため、様々な種類のロッキング差動装置(locking differentials)が開発されている。この欠点を解決するために開発された一つの初期の例は、完全にオープン又は完全にロックされる手動で切換え可能なロッキング差動装置である。この例は、そのロックされたモードでは、スプリット[μ]条件で最良の可能なけん引力を与える。しかしながら、ドライバー自身は、駆動軸などの極限荷重を回避するために例えば乾燥したタールマック上で急カーブをしようと試みたり、そして車両が回転するのを防止しようとする車両のヨー軸まわりの強いヨー抵抗モーメントを回避する前に、差動装置がオープンモードであることを確保することが必要である。この種のロッキング差動装置は、通常、完全でない道で低スピードけん引力を改良するためにオフロード又はユーテリティ車両に適合されている。完全にロックされた差動装置はまた、もし入力トルクが高いなら厳しいスプリット[μ]状況である程度のセルフステア挙動に導きうる。この問題は、もしドライバーがスロットル特性を適切に調整するなら又はもしけん引力制御システムがけん引能力とセルフステア挙動の間の最良の可能な妥協を得るためにトルク要求減少を行なうなら消失されることができる。これは、許容可能な程度のカウンターステアリングがドライバーによって必要とされることを意味する。
【0006】
オープン差動装置の同様の欠点はまた、完全に左右にバランスされた[μ]値を有する状況においても起こりうる。スピードを出して曲がるようなダイナミック駆動の場合には、車両のいずれかの側の駆動輪に垂直抗力差を生じさせる横方向の負荷伝達があり、それは、厳しいコーナリング状況では、強く負荷された駆動輪が、常に両駆動輪の間で等しくトルクを分割するオープン差動装置によって受けるよりずっと大きいトルクを取り扱うことが実際にできるのにもかかわらず、低い総合的なけん引力に導く極めて小さいけん引能力を軽く負荷された駆動輪に持たせることができる。
【0007】
上述の状況では、オープン差動装置は、その内部回転方向を変えることによって、外側駆動輪がコーナリング状況時により大きい道路距離を進むにしても内側駆動輪にコーナーの外側駆動輪より高い回転スピードで回転させる。これは、垂直抗力差が各個々のタイヤの前後方向の剛さを変えることによって起こり、それは、コーナー内側車輪の滑り速度が外側車輪のそれより実質的に高いことを意味する。もしあなたが同じ状況で差動装置をロックするなら、内側の駆動輪が外側をオーバースピードさせないが、代わりに、この状況では、トルクの半分より多くをコーナー外側駆動輪に送るだろう。この現象は、特許文献WO2006/041384により詳細に記載され、そこでは上述の回転方向変化事象は、「クロスオーバーポイント(cross−over−point)」と称せられ、記載されたロッキング差動装置は、「方向感知(direction sensitive)」として言及される。従って、この種の差動装置は、ここでは「方向感知ロッキング差動装置(DSLD)」として言及されるだろう。DSLDの場合において、二つの別個の作動装置が、二つの潜在的な差動方向の各々において差動装置のロッキングを制御するために使用される。DSLDを完全にロックするために両作動装置は同時に励起される。DSLDをロック解除するために別個の作動装置があってもよい。
【0008】
様々な種類の自動ロッキング(self−locking)差動装置又はいわゆる差動制限装置(LSD)を設計することによって上述の問題を解消する多くの試みがあった。これらの差動装置は、異なる原理に従って機能することができるが、おそらく最も一般的な原理は、クラッチを利用して、差動装置の出力軸を一緒に多かれ少なかれロッキングすることによって各出力軸間のトルクを伝達することができる摩擦を発生する。より簡単な例は、ばね負荷されたクラッチパックを持つことができ、予め負荷されたばねの量、動摩擦面の数及び摩擦係数は、差動装置が差動を開始するためにとるトルク差の大きさを決定するだろう。もしこの摩擦力が高いなら、けん引能力は良好であるが、LSDはまた、特にタイトなコーナーでゆっくりドライブするとき(低い横方向の負荷伝達)、かなり多くの余分のアンダーステアを誘発するだろう。これは、摩擦力が、どれがより重要であると見なされるかに依存して見出される必要がある妥協であることを意味する。
【0009】
多くの進歩したクラッチパックタイプのLSDが存在しており、それは、典型的には、入力トルクの量及び方向に応答してクラッチパックの調節されたクランピング力に対して置換えできる角度を有するカムランプを含む作動装置機構を含む。これらの力がランプに伝達することは、静的予備負荷に対する必要性がずっと小さいことを意味し、それは、ある場合には完全に省略されることさえ可能であり、それは、入力トルクが全くない限りLSDが実際にはオープン差動装置であることを意味するだろう。これらのより進んだLSDは、モータースポーツ用途で使用されることが多いが、それらの背後にある一般的な考えは、減速及びブレーキング時のトルク伝達の量から独立して加速時のトルク伝達の量を調節することができ、それによって異なるドライビング状況に対して車両のハンドリングバランスを調節することができることである。
【0010】
前述したように、横方向の加速によって、コーナリング状況においてコーナー内側車輪から外側車輪へ車輪及びタイヤに作用する垂直抗力を伝達するコーナリングに応答する横方向の負荷伝達がある。また、前後方向の加速に応答して前輪の垂直抗力を犠牲にして、又は前後方向の減速では他の方法で後輪の垂直抗力を増加する前後方向の負荷伝達がある。従って、この前後方向の負荷伝達は、(プラスの前後方向の)加速に応答してアンダーステアを引き起し、減速(換言すればマイナスの前後方向の加速)に応答してオーバーステアを引き起す。それが減速に応答してオーバーステアを引き起すことを述べるとき、それは、まず第一に車両に設計された定常状態のハンドリングバランスに依存するので、それがオーバーステアになることを必ずしも意味せず、むしろバランスがオーバーステアの方向に変化することを意味する。
【0011】
一例として、レーシングカーは、一般的にほとんどニュートラル定常状態のハンドリングバランスを持つように調節され、それらは、調節可能な差動制限装置を備えることが多い。それらがコーナーから出て加速するとき、コーナーの外側駆動輪は、一般的にずっと強く負荷される。それは、外側駆動輪が内側車輪よりかなり多い駆動トルクを扱うことができることを意味し、それは、多くの場合においてオープン差動装置が「間違った」方向に差動することを開始することを意味し、それはまた、それがクロスオーバーポイントを通過したこと、そして差動装置が一般的に性能の理由のためにこれらの状況においてロックされるべきであり、それによってより強い加速を可能にし、車両のヨー軸まわりにヨー支持モーメントを与え、結果として前後方向の加速を誘発するアンダーステアに対抗することを意味するだろう。他方、レーシングカーがコーナーに入るときにトレイルブレーキングするとき、前車軸の方への前後方向の負荷伝達は、車を潜在的にオーバーステアにして不安定にし、この状況では、ロックされた差動装置は、コーナー外側車輪が内側車輪より強くブレーキするような方法で差動させた駆動軸の車輪のブレーキングトルクを作り、それは、より軽くブレーキし、又は実際にはある場合において、駆動軸の全ブレーキングトルクが十分に低いか又はヨーレートが十分に高いならプラスの駆動トルクを持つことさえできるだろう。
【0012】
この後者のシナリオから、我々は、ロックされた又は多少ともロックされた差動装置が、そのけん引力増強の影響に加えて、例えば駆動車輪の前後方向のタイヤ力を差別化することによって減速し、それによって車両のヨー軸まわりにヨー抵抗モーメントを与えるときに、車両安定性を改良をすることを助けることができることを見ることができる。
【0013】
この全てから、我々は、ある程度適切に調節されたLSDが、前後方向の加速のアンバランスな影響をこれらが存在するときに補償することによって車のハンドリングバランスをより一貫性のあるものにすることができ、入力トルクが全くないときに多少オープンにすることができることを見ることができる。多少ロックされた差動装置が、もし入力トルクが十分に高くなるならヨー支持効果に変わることができるヨー抵抗効果を与えるという事実とともに、前後方向の加速及び付随する負荷伝達の前述の効果を考えると、もし差別化された前後方向の力が前車軸によって発生されるなら最も強いヨー抵抗モーメントが達成されることができ、逆にもしそれらが後車軸によって発生されるなら(ほぼ等しいタイヤサイズ及びほぼバランスがとれた前から後への静的重量分配があることを想定)最も強いヨー支持モーメントが達成されることができるという結論を我々は導くことができる。
【0014】
上記の全てを別として、タイヤの横方向の能力が(十分に大きい)前後方向の駆動力を受けたときに減少するという事実に起因してハンドリングバランスに他の主要な影響ももちろん存在する。それは、加速時のアンダーステアについての負荷伝達ベースの傾向の反対に作用する後輪駆動車についてのオーバーステア傾向を駆動力に関連して引き起し、逆にそれは、負荷伝達ベースのものに加わる前輪駆動車についてのアンダーステア傾向を駆動力に関連して引き起すだろう。もし我々が再びレーシングカーがコーナーから出て加速する上記の状況を見るなら、それが後輪駆動車であると仮定すると、上記の影響のうち後者は、車をオーバーステアにさせる負荷伝達ベースのものに優先し、車が方向からそれることを避けるためにドライバーにスロットルを適切に調節することを強制するかもしれない。しかしながら、もしドライバーがこれを適切な方法で何とか成し遂げるなら、後車軸から引き出すことができる横方向と前後方向を組み合わせた力の全量は、オープン差動装置よりロックされた差動装置の方がより大きいことが注目されるべきである。それは、実際にはレースカーが一般的にLSDを備える主要な理由の一つである。もし他方それが前輪駆動車であるなら、それは、これらの両方の追加の効果のため、たとえこの場合においてアンダーステアの反対に作用しようとする有利に差別化された前後方向の力があるとしても究極的にはアンダーステアになるだろう。この後者の理由付けは、原理的に前輪駆動車が加速状況においてこれらの差別化された前後方向のタイヤの力の多くを得ることがほとんどできないことを示す。この事実は、他の上述の理由付けとともに、理想的な差動装置システムの幾つかの形態が前輪駆動車において最大の利益を持つことを人が主張しうることを意味する。他方、前車軸における差別化された前後方向のタイヤ力が、トルクステア効果の形でそれ自身の問題を持ちうることが述べられるべきである。トルクステア効果は、トルクとモーメントが駆動輪から操舵輪に伝達できることを意味し、それは、それ自体操舵ジオメトリーなどに特別な要求を突きつけうる。
【0015】
我々は、上述のより進んだ差動制限装置から幾らかの性能及び安定性の利益を得ることができるが、全ての受動的なLSDの例は、まだある程度は、適切であるときの最も高い可能な効率で差動させる能力との間の妥協であるが、車両の性能及び/又は安定性にとって最良であるときにいかなる差動装置も多少とも完全にロックする能力をなお持つ。
【0016】
この理由のため、電子的に制御された差動制限装置(eLSD)が開発された。eLSDは、一般的にオープン差動装置と作動装置に接続された一つのマルチプレートクラッチを持ち、作動装置は、電子制御ユニットを介してクラッチに制御された量のクランプ圧力を適用することができ、それによって完全にオープンと完全にロックの間のいずれかにeLSDを制御する。
【0017】
レーシングカーとは対照的な乗用車は、一般的によりアンダーステアのハンドリングバランスを持つように調節される。この理由は幾つかあるが、それらのうち幾つかは、運転の安全性が優先リストにおいて高く、性能が同じリストでは低いことであり、乗用者のドライバーはまた、ハンドリング限界で運転する経験が少ないことが最も多いことである。それは、必要な回避操作のような最終的な危険な状況、特にヨーダンピングが深刻に損なわれ、ヨーオーバーシュートが突然のレーン変化操作に応答して起こるときの高スピードで、それらを取り扱うことを助けるために大きな安定性のマージンの必要性がある。しかしながら、たとえ車両が定常状態のコーナリング状況において極めて厳しいアンダーステアであるように設計されるとしても、よりニュートラルなハンドリングバランスを持つ車両と比較して、安定性を覆す入力をとったとしても、オーバーステアにし、ある一時的な状況では不安定にすることが一般的になお可能であるだろう。この事実は、強いアンダーステアの車両が運転するために最も楽しいと必ずしも考えられていない事実とともに、車両エンジニアが安定性と運転の楽しみという部分的に矛盾する特性に関してハンドリングバランスに対する妥協を見つけ出さなければならないことを意味する。
【0018】
LSD又はeLSDシステムに加えて、入力トルクにかかわらず首尾一貫したハンドリングバランスを与えることに対してさらに有効な他のシステムがある。これらのシステムは、一般的に「トルクベクタリング」システムと称され、駆動輪を強制的に差動させることができ、それによってそれらは、最も高い回転スピードで一つの駆動輪に入力トルクの半分より多くを送る能力を持つ。これは、最も低い回転スピードを持つ車輪、又はもし両輪が同じ回転スピードを持つなら最も強い抵抗力を持つ車輪にトルクの半分より多くを送ることのみができるいかなる種類のLSDでは可能でない。しかしながら、これらのトルクベクタリングシステムは、かなり複雑であり、従って高価でもある。それがハンドリングバランスにおける上述の妥協になると、様々な種類の安定性制御システムを使用する可能性がある。
【0019】
安定性制御システムは、車両が危機的な状況においてコントロールを失うことをドライバーが防止することを助けるために適用されることができる。市場において最も多い車両安定性制御システムは、ブレーキに基づく。典型的には、これらのブレーキに基づく安定性制御システムは、車両の前後方向のスピード、車両のアンダーステア勾配、及びドライバーのステアリング入力に基づいて適切なヨーレートを計算するために参照モデルを使用する。この参照ヨーレートは、閉ループ法(即ち、フィードバック制御)で車両の実際のヨーレートと連続的に比較され、もし二つが特定量、いわゆる不感帯より多く異なるなら、電子制御システムは、一つ以上の車輪にブレーキングトルクを適用して車両を意図した方向に戻すことができ、特にそれがオーバーステア修正になるとき、ヨーレートを減少する通常の方法は、コーナー外側前輪をブレーキすることである。上述の不感帯は、システムから非常に頻繁な介入を避けるために必要とされる。そのような介入は、ブレーキシステム構成要素の不必要に高い摩耗率に導き、ドライバーによって心をかき乱すか又は押し付けがましいとして潜在的に認識されるだろう。なぜならブレーキベースの安定性制御システムは、一般的に、行動的な幾らかのドライバーがこれを考えるときに車両の制御を奪われるものとして感じたり理解したりしうるからである。ブレーキベースのオーバーステア修正のような同様のヨー抵抗モーメントが例えばeLSDのような制御可能な差動装置によって達成されることができることが一般的に知られている。
【0020】
いかなる種類の安定性制御システム(及びオープン差動装置)もなければ、車両の安定性は、単にタイヤの横方向の能力に依存するが、安定性制御システムは、既に説明したように車両のヨーレートに影響するために差別化された前後方向のタイヤ力を利用する傾向がある。また、既に説明したように、ブレーキベースのシステムは、個々の車輪をブレーキングすることによってこれを行なう。それは、ヨーレートを変えることを除いてスピード減少にも導く。他方、差動装置ベースの安定性制御は、車両のヨーレートに応答して駆動車輪の既に存在するタイヤの前後方向の力を再分配する。それは、まず第一に、ブレーキベースのシステムのような正味のスピード減少を与えないこと、また車両のヨー軸まわりのヨー抵抗モーメントの量がヨーレート自体に依存することを意味する「反応」原理に従って作用することを意味する。前者は、不感帯に対する必要性が実際にないことを意味し、後者は、ヨー抵抗モーメントの量を極めて大きな範囲まで自動調整することを意味する。それは、差動装置ベースのシステムの制御努力が、車輪間の駆動系内にある作動装置によって両駆動車輪の相対的な回転スピードを調整する代わりに車輪ブレーキの強力な手段によって車輪の全回転スピードを調整する必要があるブレーキベースのシステムに対してより低いことを意味する。ブレーキベースのシステムは、多くの場合において強いヨー抵抗モーメントを究極的に発生することができるが、例えばもしμ値の概算量が正しくないなら過剰作動の危険がより大きい。
【0021】
差動装置ベースのシステムの上述の低い制御要求を別として、ブレーキ力を加える代わりに存在する前後方向の力を実際に再分配するという二つの他の理論的な利益がある。最も明らかな利益は、正味のスピード減少がなく、従って後車軸の横方向の能力を減少することによってわずかな安定性分配効果をそれ自体実際に与える前後方向の負荷伝達がないことである。他の利益は、存在する前後方向のタイヤ力を再分配することが、コーナー外側車輪をブレーキするのと比較して、等しい量のヨー抵抗モーメントに対して介入が作る車軸の横方向の能力全体の劣化がより少ないことを意味することである。いずれかの車軸において制御された差動装置からヨー抵抗モーメントを得ることが可能であるが、差動装置ベースのシステムに対しては、上述の一般的な利益にかかわらず、前車軸において介入を行なうことがそれでもわずかに効果的である。この主な理由は、もちろん、前車軸が、潜在的なオーバーステア状況において、最も高い横方向の能力のマージンを持つ車軸であること、そしてまた介入から生じる横方向の能力の小さな劣化がこの場合においてアンダーステアの方向にそれ自体導く前車軸に影響することである。
【0022】
これらの二つの異なるアプローチが同じ潜在的な安定性問題を解決するためにどのように使用されることができるかを見るとき、差動装置ベースの介入が優先され、それが十分でないとわかったときにのみブレーキベースの介入になるような方法で両方の原理を使用することによってプラスの相乗効果を得る可能性があることは極めて明らかである。(個々の車輪をブレーキングする代わりに)タイヤの力を再分配する上述の利益は、制御可能な差動装置が前車軸、後車軸、又は両方にあるにもかかわらず、それがより多く使用されることができること、そしてそれがドライバーによって一般に知覚可能でなく、その全てが車両の性能と運転経験の両方を高めることに寄与することを助けうることを意味する。しかしながら、車両安定性を改良するために(eLSDのような)制御可能な差動装置ベースのシステムを使用することは、差動装置ハードウエア構成要素とその必要な制御システムの両方に関する増大したコストを意味する。
【0023】
結果として、車両の分野において、特にドライバーが中速から高速の運転時に大きな突然の操舵入力を付与する場合に、道路車両の安定性を高め、ヨー応答を適応しかつ制御するように構成された改良された方法及びシステムに対する必要性がある。また、低コストの構成要素と簡単な制御を使用して、これを達成する必要性がある。
【図面の簡単な説明】
【0034】
添付図面を参照して、以下に例示として引用される本発明の実施形態のより詳細な記載を示す。
【0035】
【
図1】
図1は、本発明を実施することができる電子的に制御可能なロッキング差動装置を含む例示的な車両動力伝達装置構成の概略図である。
【0036】
【
図2】
図2は、本発明の一実施形態による電子的に制御可能なロッキング差動装置の状態を制御するためのアルゴリズムの論理フローチャートである。
【0037】
【
図3】
図3は、異なるレベルの横方向加速度でのコーナリングについての理論的差動割合対前後方向の速度のプロットである。
【0038】
【
図4】
図4は、特定の前後方向のスピード(この場合には90km/h)での特定のコーナー半径(この場合には100m)に対するロックされた差動装置の影響が、車両状態がクロスオーバーポイントからどのくらい近く又はどのくらい遠くであるかに依存するかを示すプロットである。
【0039】
【
図5】
図5は、オープン差動装置を有する一つの車両とロックされた差動装置を有する一つの車両においてシミュレートされたステップステア(スロットルオン/スロットルオフ)操作についての曲率半径対前後方向速度のプロットである。
【0040】
【
図6】
図6は、オープン差動装置を有する一つの車両とロックされた差動装置を有する一つの車両において
図5と同じ操作についての車両サイドスリップ角度対時間のプロットである。
【0041】
【
図7】
図7は、オープン差動装置を有する一つの車両とロックされた差動装置を有する一つの車両において
図5と同じ操作についての前(駆動)輪の前後方向のタイヤ力対時間のプロットである。
【0042】
【
図8】
図8は、オープン差動装置を有する車両における単一のレーン変化操作についての操舵輪入力及び車両ヨーレートのプロットである。
【0043】
【
図9】
図9は、ロックされた差動装置を有する車両における単一のレーン変化操作についての操舵輪入力及び車両ヨーレートのプロットである。
【0044】
【
図10】
図10は、オープン差動装置を有する車両における単一のレーン変化操作についての横方向加速度のプロットである。
【0045】
【
図11】
図11は、ロックされた差動装置を有する車両における単一のレーン変化操作についての横方向加速度のプロットである。
【0046】
【
図12】
図12は、オープン差動装置を有する車両における単一のレーン変化操作についての前(駆動)輪回転スピードのプロットである。
【0047】
【
図13】
図13は、ロックされた差動装置を有する車両における単一のレーン変化操作についての前(駆動)輪回転スピードのプロットである。
【0048】
【
図14】
図14は、オープン差動装置を有する一つの車両とロックされた差動装置を有する一つの車両における単一のレーン変化操作についての車両サイドスリップ角度のプロットである。
【0049】
【
図15】
図15は、オープン差動装置を有する車両における単一のレーン変化操作についての操舵輪入力及び車両ヨーレートのプロットである(但し、初期スピードは90km/h)。
【0050】
【
図16】
図16は、ロックされた差動装置を有する車両における単一のレーン変化操作についての操舵輪入力及び車両ヨーレートのプロットである(但し、初期スピードは90km/h)。
【0051】
【
図17】
図17は、オープン差動装置を有する車両における単一のレーン変化操作についての横方向加速度のプロットである(但し、初期スピードは90km/h)。
【0052】
【
図18】
図18は、ロックされた差動装置を有する車両における単一のレーン変化操作についての横方向加速度のプロットである(但し、初期スピードは90km/h)。
【0053】
【
図19】
図19は、ロックされた差動装置を有する車両における単一のレーン変化操作について前(駆動)輪回転スピードのプロットである(但し、初期スピードは90km/h)。
【0054】
【
図20】
図20は、オープン差動装置を有する一つの車両及びロックされた差動装置を有する一つの車両における単一のレーン変化操作についての車両サイドスリップ角度のプロットである(但し、初期スピードは90km/h)。
【発明を実施するための形態】
【0055】
本発明の実施形態を詳細に参照されたい。それらの例は、ここに記載され、かつ添付図面に示されている。本発明は、実施形態と関連して記載されているが、それらが本発明をこれらの実施形態に限定することを意図されないことが理解されるだろう。逆に、本発明は、代替例、修正例及び均等例をカバーすることを意図され、それらは、添付の請求項によって具体化される本発明の精神及び範囲内に含まれることができる。
【0056】
まず
図1を参照すると、本発明を実施することができるシステムの簡略化した概略図が示されている。特に、
図1は、本発明を実施することができる電子的に制御可能なロッキング差動装置を含む駆動系構成を有する例示的車両1の簡略化した概略図を示す。
【0057】
図1を参照すると、提案される駆動系構成20が示され、それは、限定されることを意図されない。駆動系20は、前車軸24及び後車軸26のうちの少なくとも一つに設置された電子的に制御された差動装置22a,22bを含む。以下の記載において、差動装置22にも言及するが、それは、前差動装置22a又は後差動装置22b、又は前と後の両方の差動装置22a,22bを含む組み合わせ機能によって構成されることができることを示す。制御可能な差動装置22は、左と右の車輪28,30(それぞれ前と後の車軸24,26に配置される)の間でトルクを伝達するために使用されることができる。
【0058】
図1に示されるように、参照符号10によって概略的に言及される多数のセンサーもまた、与えられており、それらは、(各車輪の)車輪スピード、操舵輪角度、車両のヨーレート、及び車両の操作条件と関連した他のパラメータを検出するために配置されることができる。検出されることができる車両のさらなる操作条件は、前後方向の車両スピード、ブレーキペダルの作動、アクセルペダルの作動、及びクラッチペダルの作動などである。
【0059】
図1を参照すると、制御ユニット50もまた、車両1に配置されている。制御ユニット50は、車両安定性を改良し、トルク伝達を使用してヨー応答を変更するための方法を実施するように構成されている。この目的のため、車両センサー10は、制御ユニット50に接続される。制御ユニット50はまた、前及び後差動装置のそれぞれのために作動装置40a,40bに接続される。これらの作動装置40a,40b(以下で「作動装置40」としても言及される)は、差動装置22を選択的にロック又はロック解除するために配置される。本発明によれば、かかるロック又はロック解除操作は、以下に記載されるように特定の操作パラメータに依存して制御される。
【0060】
制御ユニット50は、専用の別個の制御ユニットであることができるか、又は車両1の別の電子制御ユニット(ECU)、例えば車両を安定させるために車両のブレーキを制御するためのユニット(即ち、いわゆる電子安定性制御装置(ESC))の一体部分として形成されることができる。
【0061】
実施形態によれば、制御ユニット50は、車両安定性を改良し、トルク伝達を使用してヨー応答を変更するために差動装置22を制御するために構成される。これは、
図2を参照して記載され、それは、実施形態による様々な方法工程を説明するフローチャートである。
【0062】
実施形態による方法は、工程150で開始され、そこでは制御ユニット50は、車両1の前後方向の車両スピードを決定し、それを予め決められた第一参照スピードと比較する。もし車両スピードの測定された値が第一参照スピードを越えるなら、制御ユニット50は、(工程152で)車両スピードをさらなる参照スピードと比較する。さらなる参照スピードは、(工程150では)第一参照スピードより高い。もし車両スピードがより高い参照スピードV
Hを越えるなら、制御ユニット50は、差動装置22を先制してロックするだろう。即ち、差動装置22の作動装置40は、前記差動装置22をロックするために作動されるだろう。かかるロッキングの効果、結果、及び利点は、以下により詳細に記載されるだろう。
【0063】
実施形態によれば、より高い参照スピードV
Hは、80〜110km/hの範囲内で選択され、約90km/hであることが好ましい。また、より低い参照スピードV
Lは、60〜80km/hの範囲内で選択され、約70km/hであることが好ましい。
【0064】
測定された車両スピードVがより高い参照スピード(V
H)を越えないが、より低い参照スピード(V
L)を越える場合には、制御ユニット50は、(工程154において)車両の前輪操舵角割合(dδ/dt)が予め決められた参照値(dδ
1)より高いかどうかをチェックするだろう。車両の前輪操舵角の大きさもまた、測定され、前輪操舵角値の予め決められた参照値(δ
1)と比較され、差動装置22は、もし測定された車両スピードがより低い参照スピード(V
L)を越え、また以下の条件のいずれか一つであるなら、ロックされる:
i)測定された前輪操舵角(δ)が前輪操舵角の前記予め決められた参照値(δ
1)を越える、又は
ii)測定された前輪操舵角割合(dδ/dt)が前輪操舵角割合の前記予め決められた参照値(dδ
1)を越える、又は
iii)測定された前輪操舵角(δ)が前輪操舵角の前記予め決められた参照値(δ
1)を越え、かつ測定された前輪操舵角割合(dδ/dt)が前輪操舵角割合の前記予め決められた参照値(dδ
1)を越える。
もしそうでないなら、差動装置22は、ロック解除されたままであり、方法は、工程150に戻るだろう。
【0065】
図2における工程156a,bは、差動装置22が作動装置40によってロックされる状態に相当する。
【0066】
工程156aから、方法は、工程158に進み、そこでは制御ユニット50は、車両スピードVがさらなる参照値V
4以下であるかどうかをチェックする。さらなる参照値V
4は、差動装置22の前記先制したロッキングを除去するために好適な値に相当する。この理由のため、第四参照スピードV
4は、V
Hより5〜10km/h低い領域にあることが好ましい。
【0067】
工程156bから、方法は、工程160に進み、そこでは制御ユニット50は、第一に車両スピードVがさらなる参照値V
3以下であるかどうかをチェックし、第二に前輪操舵角の大きさがさらなる予め決められた参照値(δ
2)より高いかどうかをチェックする。さらなる予め決められた参照値(δ
2)は、差動装置22をロック解除するために好適である車両状態に相当する。好適には、参照値V
3は、ロックされた差動装置22の特性が、余分の車両安定性が必要とされないときの状況において低速から中速の範囲の車両スピードで車両の操作性に悪影響しないように選択される。この理由のため、第三参照スピードV
3は、55〜80km/hの範囲内で選択される。
【0068】
本発明は、車両のヨー軸まわりのヨー抵抗モーメントが非常に大きく発現するのを避けるためにコーナリング半径が十分に大きい限り、ロックされた差動装置がより一貫したハンドリングバランスを実際に与えるという洞察に基づく。この洞察は、車両がその前後方向のスピードにかかわらず同じ量の横方向の加速度を達成できると仮定すると、車両が進むことができる最小コーナー半径がその前後方向のスピードの平方に比例するという事実に密接に関連する。本発明はまた、高スピードでの操作になるとき、制限要因が、高いヨーレートを可能とする能力よりむしろ高い横方向加速度を発生させる能力について多いという洞察に基づく。
【0069】
図3は、差動装置に対する必要性が増大した前後方向のスピードでどのように指数関数的に減少するかを示す、最小可能半径について上述したことの本質的に逆の表現である異なるレベルの横方向の加速度でのコーナリングについての理論的差動割合対前後方向の速度のプロットを示す。これは、各タイヤの残骸の垂直方向の変形差を考慮に入れないゼロ入力トルク(自由回転車輪)での差動割合の純粋に理論的な表現であり、それは、もちろんいかなる付随する回転抵抗差も考慮に入れない。実生活では、差は、線が示すものよりわずかに大きく、特により高いレベルの横方向の加速度を表わす線で大きい。
【0070】
ゼロ入力トルク及びロックされた差動装置を有する高速コーナリング状況では、コーナー外側駆動輪からの特定量のブレーキングトルク及び内側駆動輪からの等しい量の駆動トルクがあり、それは、車両のヨー軸まわりのアンダーステアリング(又はヨー抵抗モーメント)を作る。もし我々が同じ状況において負の入力トルクを付与するなら、このヨー抵抗モーメントは増加し、増大した減速による前車軸の方への前後方向の負荷伝達に起因するヨーレートを増大する傾向に対抗する(回転抵抗などによるゼロ入力トルクでの特定量の減速が既にあるだろう)。もし我々が代わりに正の入力トルクを付与するなら、ヨー抵抗モーメントは減少し、前車軸の減少した負荷を犠牲にして後車軸の増大した負荷に起因するヨーレートを減少する傾向に対抗する。入力トルクの変化するレベル及び方向に応答するロックされた差動装置のこの変動する影響は、駆動軸において横方向の負荷伝達が大きくなると顕著になり、その原因は、道路表面に対して駆動輪を押す垂直抗力差及び各タイヤの結果的な前後方向の剛性差の間接的な効果である。基本的に、誰もが、車両の状態が前述のクロスオーバーポイントからどのくらい遠いのか又はどのくらい近いのかの関数としてこの全体効果を見ることができる。それは、ロックされた差動装置からの大きな影響を意味し、正確にはクロスオーバーポイントでは全く影響がない。もし横方向の加速度及び入力トルクが十分に高い(即ち、車両状態がクロスオーバーポイントより上である)なら、ロックされた差動装置は、車両のヨー軸まわりにヨー支持モーメントを生成することを開始することさえあり、さらにアンダーステアへの傾向に基づく前後方向の負荷伝達に対抗する。
【0071】
図3を再び見て、ヨーモーメントをもちろん作ることができないオープン差動装置を参照すると、それは、代わりに、ラインが負の入力トルクに応答して示すより多く、ラインが正の入力トルクに応答して示すより少なく差動するか、又はゼロラインをクロスし(クロスオーバーポイント)、それによって差動方向を変えるだろう(もちろん、この傾向はまた、駆動軸における横方向の負荷伝達が大きいほど顕著になる)。
【0072】
図4は、入力トルクのレベルに依存してコーナー内側車輪とコーナー外側車輪の間でどのように前後方向の車軸力が差別化するかを示す。二つの湾曲線は、6.25m/s
2の横方向の加速度で100メートル半径を有するコーナーにおける各車輪の前後方向のタイヤ力対前後方向のタイヤスリップ曲線を表わす。点4a及び4bは、前後方向のタイヤ力の合計が約2000Nである(かなりの強い負のヨーモーメントを与える)ときの各車輪上の前後方向のタイヤ力の量を示す。点5a及び5bは、前後方向のタイヤ力の合計が0Nである(わずかに弱い負のヨーモーメントを与える)ときの前後方向のタイヤ力の量を示す。点6a及び6bは、前後方向のタイヤ力の合計が約2500Nであるときの各車輪上の力の量を示し、わかるように両車輪は、同じ量の前後方向のタイヤ力を有し、それは、ヨーモーメントが全くないことを意味する。また、各駆動輪間のスリップ速度の差は、この点では理論的な差に等しく、より正確には差別化されたタイヤ変形及び回転抵抗の効果を含む理論的な差(トラック幅をコーナー半径で割ったもの)に等しく、それは、車がここでは正確にクロスオーバーポイントにあることを意味する。点7a及び7bは、前後方向のタイヤ力の合計が約4000Nであるときの各車輪上の前後方向のタイヤ力の量を示し、わかるように差別化されたタイヤ力による特定量の正のヨーモーメントがあるだろう。点8a及び8bは、前後方向のタイヤ力の合計が約5000Nである(さらに強いヨー支持モーメントを与える)ときの各車輪上の前後方向のタイヤ力の量を示す。この全ては、ロックされた差動装置が、前後方向の負荷伝達に応答してヨーモーメントにおける差を補償する傾向を持つ入力トルクのレベル及び方向に応答してヨー抵抗又はヨー支持モーメントを与えることを示し、それは、一般にオープン差動装置より一貫したハンドリングバランスを与えることを意味する(但し、コーナリング半径が小さすぎないことを前提とし、それは定常状態、さらには減速状況において高すぎるヨー抵抗モーメントを発現することに導きうる)。
【0073】
図5〜7は、ステップステア操作についての三つの異なるシミュレーション結果を示し、そこでは初期スピードは、100km/hであり、初期スロットル入力は、三段目のギアのフルスロットルの80%であり、ドライバーは、最初に80度の操舵輪入力を付与し、それは、操作全体を通して一定に保持され、5秒でスロットルが解放され、車は、操作の残りでエンジンブレーキをする。同じシナリオが、オープン差動装置及びロックされた差動装置の両方でなされる。
【0074】
図5は、ロックされた差動装置を有する車は、加速及び減速に対する応答では、オープン差動装置を有する車と比較して車が進行する曲率半径の差がずっと小さいことを示す。それはまた、減速におけるアンダーステアの増加は、オープン差動装置を有する車と比較してかなり小さいことを示す。
【0075】
図6は、同じ操作に対する車体のサイドスリップ角度を示し、ロックされた差動装置を有する車両が(5秒の)スロットル解放の前後でずっと一貫したサイドスリップ角度を維持することがわかる。スロット解放に応答するサイドスリップ角度の変動の振幅を比較することによって、ヨー減衰がロックされた差動装置によって有意に増加されることもわかる。また、ヨー変動頻度は、スロットル解放が見られる外乱に応答して、ロックされた差動装置とより一貫している。
【0076】
図7は、ロックされた差動装置が与える差別化された前後方向のタイヤ力の大きさを示す。わかるように、スロットルが解放する前にコーナー外側車輪は、コーナー内側車輪より有意に高い前後方向のタイヤ力を有するが、スロットルが解放した後はコーナー外側車輪は、コーナー内側車輪より有意に高いブレーキングトルクを発生する。これらの差別化された前後方向のタイヤ力は、車両が、変動されたスロットル入力に応答して前後方向の負荷伝達を明白に変える効果にかかわらず、
図5及び
図6においてより一貫した挙動を示す理由である。
【0077】
(理論的な差が大きなコーナリング半径のために小さいときの特に高いスピードで)定常状態のコーナリングにおいてクロスオーバーポイントの上を得ることを実際に意味する極めて高い横方向の負荷伝達を有する最も極端なコーナリング状況を除いて、ロックされた差動装置がほとんど定常の状態の状況においてわずかに多くアンダーステアを起こすとしても(それは、ロックされた差動装置がわずかにヨー支持モーメントを起こすことを開始することを意味する)、ほとんど定常の状態の状況において余分の安定性、そしてオフスロットル又はブレーキング状況においてさらに一層の余分の安定性はまた、我々が、まず第一により小さいアンダーステア勾配を有するベースラインハンドリングバランスを調節することができ、横方向の加速にかかわらず、より一貫したハンドリングバランスを作ることができることを意味する。
【0078】
図5を再び参照すると、コーナリング半径が増大したスピードとともに増加するときの線の険しさは、アンダーステア勾配の評価基準であり、それは、車を少ないアンダーステアに調節することが、一般的な傾斜がわずかに劣った険しさであること、それゆえコーナリング半径が高スピードでよりタイトであること又は高スピードで同じコーナリング半径に対してより小さい操舵入力が要求されることを意味することを言う。少ないアンダーステアに対して変えられたハンドリングバランスはまた、高いコーナリング性能を意味する増大したハンドリング限界スピードに直接導くだろう。
【0079】
従って、オーバーステア傾向が検出されるときに潜在的にヨー抵抗モーメントを与えるために参照モデルに応答してセンサーデータを評価し、eLSDのクラッチ圧力に対して多かれ少なかれ連続的な調整を行なう閉ループ「アクティブ」システム(即ち、フィードバック制御)を持つ代わりに、本発明の提案される方法は、予め規定された基準、又は換言すればフィードフォワード制御に「先制的な(pre−emptive)」安定性モード(それは、実際にはロックされたモードである)への切換えを引き起こさせることの一つであり、それは、ヨーレートの量、入力トルク、及び駆動輪の各タイヤの前後方向の剛さ(それは、本質的には(設計自体とは別に)各タイヤの垂直抗力及びμ値などの結果である)に応答して駆動輪の差別化された前後方向のタイヤ力を独自に機械的に調整するシステムを得ることを意味する。この全ては、駆動軸のフレキシビリティ、ロッキング装置を含む差動装置の剛性、及びタイヤ自体のフレキシビリティが起こすもの以外の遅延で起こらないだろう。
【0080】
安定性モードは、例えばハイウェイ運転のために使用されることを意味される。我々が通常、ハイウェイに沿って運転するとき、道路自体は、ドライバーがオープン又はロックされた差動装置を持つ違いに主観的に気づくことができないような十分に大きい最小コーナー半径を持つ。しかしながら、もしドライバーに回避操作を強制的に行なわせる障害物が前方にあるなら、ドライバーは、車両の前方の障害物を避けるために最小の可能な半径で車両の方向を変えたいかもしれない。ドライバーが車両が操ることができる回避操作をタイトなものとしていることを考えると、この場合には、ロックされた差動装置は、ヨーレートがオープン差動装置を用いるよりわずかに低いことを意味するが、既に述べたように、より高いスピードで、最もタイトな可能な半径で車両の方向を変える限定要因は、高いヨーレート(それは、実際には、このような状況では不必要に高くなりうる)を得るより素早く横方向の加速を確立する能力についての方が多い。
【0081】
他方、車両を少ないアンダーステアに調節することは、おそらく迅速な初期のターンイン及び横方向の加速の確立をそれに与え、わずかに低いヨーレートを補償するか又はおそらく補償するよりさらに多くするだろう。それは、車両が潜在的にさらに高い横方向の加速を得て、わずかに低いヨーレートにかかわらず小さな半径を進むことを意味する。とにかく、道路は、そのまま狭い通廊として考えられることができる。それは、ドライバーが障害物をうまく避けることができた後に道路上に留まるために他の方向に進路変更して他のレーンに進まなければならないことを意味する。
【0082】
この状況において気づく第一のことは、車両の慣性の質量モーメントのため、その現在のヨー運動を続けたいことである。それは、新しい操舵入力によって示されるようなドライバーの意思に従うために車両ヨーレートの遅れがあることを意味する。しかしながら、いったん最初の方向のヨーレートが減少しはじめると、ヨー加速は、後及び前タイヤが短時間に反対方向にかなり強い横方向の力を発現するという事実のため、最初の入力よりかなり強くなるだろう。これは、第二の操舵入力のヨーレートがほとんど例外なしに不必要に高くなること、またそれゆえ車両の質量慣性が必要とされるよりずっと長く偏揺れ運動を継続させようとすることを意味する。これは、ドライバーが車両の過剰な回転を停止するためにカウンターステアを強く行なわなければならないことを意味する。
【0083】
一時的な操舵操作に対して、車両が進むコーナリング半径が車両の実際のヨーレートにきつく縛られる必要はないことを理解することが重要である。また、ドライバーが実際にはレーン変化操作において望むことが高いヨーレートよりむしろ車両の素早い側方への移動であることを理解することが重要である。
【0084】
ロックされた差動装置でコーナリングするときの駆動軸の前述のフレキシビリティなどは、ドライバーがステアリングロックを他の方向に変えるとすぐに再び解放されるエネルギーの貯蔵として機能するワインドアップ(wind up)がシステムにあることを意味する。これは、短期間のトルクベクタリング効果を与え、それは、ヨーレートが方向を変える直前及びわずか後に短期間で最高回転スピードを有する駆動輪で高いトルクが実際に存在することを意味する。これの全ては、差動装置を制御する提案される方法がヨーレートの最大量を制限するが、それはまた、例えば回避操作のような連続的な操舵入力間に通常存在する遅れを減少することによってヨー応答を大きく変化するだろう。これは、車両をずっと強く安定させ、それはまた、連続的な操舵操作における操舵精度を改良する。それらの全ては、制御を失うことを回避するために十分な速さと精度で必要とされるカウンターステア修正を行なうことに困難性を持つことが一般的である経験に乏しいドライバーによってさえも、危険な状況において車両をずっと容易に制御させるだろう。
【0085】
図8〜14は、操作時に68km/hの初期スピードで及びゼロ入力トルク(クラッチを切っている)で実施される単一のレーン変化操作からの試験結果の様々な側面を示す。
図8は、オープン差動装置での操舵角(実線)及びヨーレート(点線)を示し、
図9は、ロックされた差動装置での同じ信号を示す。わかるように、ヨーレートの最大量及びヨーレートの遅れは、ともにロックされた差動装置によって有意に減少される。
【0086】
図10は、オープン差動装置での横方向加速を示し、
図11は、ロックされた差動装置での横方向加速度を示し、そこからわかるように、達成される横方向加速度の量の間の差は極めて小さい。
【0087】
図14は、車体のサイドスリップ角を示し、点線は、オープン差動装置に対してのものであり、実線は、ロックされた差動装置に対してのものであり、そこからわかるように、サイドスリップ角は、ロックされた差動装置の場合において実質的に半分にされる。これは、この場合には前駆動車輪の差別化された前後方向のタイヤ力のためであり、それは、飽和した後輪タイヤをその不適切な横方向の力の能力を補償することによって助ける負のヨーモーメントを加え、車両の安定性を大きく改善する。
【0088】
安定性モードは、WO2006/041384による方向感知ロッキング差動装置(Direction Sensitive Locking Differential)のような「積極的な(positive)」差動装置の場合には、十分にロックされるが、eLSDに対する制御戦略の一部として提案される方法を使用する場合には締め付け圧力は、各駆動軸間の特定の最大トルク差でクラッチがスリップを開始させる値で意識的に設定されることができる。しかしながら、この注意として、前述したように、差動装置ベースの安定性制御はその性質において良く反応すること、そしてそれはまた、ブレーキベースの安定性制御とは逆に、ヨー抵抗モーメントを発生するためにコーナー外側タイヤとコーナー内側タイヤの両方のけん引能力に依存することを指摘することは関連性のあることである。このことは、通常、高い横方向の加速操作において、横方向の負荷伝達のため、発生可能なヨー抵抗モーメントの最大量が道路面に対するグリップを見出すためにコーナー内側タイヤの能力によって制限されることを意味する。これはまた、ある場合には実際に軽く負荷された内側車輪のため、又は例えば道路面の隆起のため、特定量のワインドアップに等しい、この最大量のヨー抵抗モーメントが、システムから外に「漏れる」かもしれないことを意味しうる。これは、軽く負荷された内側車輪の貧弱なタイヤ摩擦力によるアンワインディング(unwinding)を意味する。
【0089】
単一のレーン変化操作時の(前)駆動車輪スピードを示す
図12及び
図13を参照すると、実線は、左車輪に対してのものであり、点線は、右車輪に対してのものである。
図12は、オープン差動装置についての車輪スピードを示し、スピード差が第一方向において40rpm(又は2/3rps)の領域であること、そしてそれが、
図8における同じ操作からヨーレートを比較することによってわかるように、ヨーレートが高い第二方向においてわずかに高いことがわかる。同じ比較によって、ヨーレートが兆候を変化する(
図8のヨーレートゼロ点に対応する細い線2,3及び4によって示されるようなゼロ線と交差する、但し線1は「第一」偏揺れ運動の開始に対応する)同じ瞬間に差が方向を変化していることもわかる。
【0090】
図13は、ロックされた差動装置についての車輪スピードを示し、ここで我々は、車輪のスピード差が強く阻止されることがわかる。しかしながら、第一操舵方向(区域A)の最初の部分に幾らかの差(ワインドアップ)があるが、区域Bには差が実質的にない(おそらく最小量のアンワインディングしかない)ことがわかる。後者の区域は、最も高い量の横方向加速、従って極めてわずかに負荷された内側車輪に対応するが、区域Cでは、差が再び開始する(より大きなワインドアップ)。その後、線2によって、ヨーレート方向変化があること、そして車輪のスピード差がかなり高くなることがわかる。これに対する主要な理由は、差の「領域」(区域D)の約2/3が第一操舵方向から貯蔵されたエネルギーの放出又はアンワインディングからなり、結果として差動装置自体の中のトルク逆転が線2bで起こり、そこからワインドアップが再び他の方向で開始するためである。両輪間で測定されるワインドアップの量は、区域AとCのそれぞれにおいて約12度であり、それは、区域Dにおいて20度より少し多くのアンワインディングがあることを意味する(オープン差動装置と比較すると、それは、第一操舵方向において約130度又は1回転の1/3よりわずか多くを差別化する)。(車輪で測定した)差別化方向の実際の変化がヨーレートが兆候(方向)を変化するわずか前に起こること、そして区域D中のアンワインディングがまた、高い回転スピードを有する車輪(この場合には左車輪)で高い駆動トルクがあり、操舵車輪入力によって示されるように、車両がドライバーの意図に素早く従うことを助けることを意味することを指摘することは関連性がある。区域Eでは、新しい方向にワインドアップがあるが、次いでアンワインディングとワインドアップの順序が交互になる箇所が幾つかあることがわかる。これは、一般的には、ヨーレートがこの点で高いためであり、それは、車の角度モーメントが高く、それが内側のタイヤをグリップと闘わせることを意味する。「弱い」内側のタイヤが負のヨーモーメントの最大量を制限する方法は、実際には、完全にロックされた差動装置が、もしドライバーが実際に攻撃的な操舵操作を試みるなら、スピード範囲において有益なかなりの低下が可能であることを意味する。
【0091】
既に述べたように、ロックされた差動装置から、大きく増大した高速安定性は、ベース車のハンドリングバランスが少ないアンダーステアの方に調整されることができることを意味する。これは、車両のハンドリングバランスの調整が、低速に対しては敏しょう性が好まれるべきであり、高速に対しては安定性が好まれるべきであるという方法で前後方向のスピードに対してある程度妥協があるという前提に基づく。即ち、もしあなたが低速ドライビングのために作られた車を設計するとしたら、おそらく高速ドライビングのためにのみ設計された車より少ないアンダーステアを組み込んだ車に至るだろう。この想定はまた、いかなる能動的なシステムも(例えば四輪操舵システム)、低スピードで前輪の反対方向に後輪をわずかに操舵することによって低速の敏しょう性を改良し、その応答性を改善しそのヨー加速度を高め、素早い操舵移行において及び低速ドライビングで時折遭遇するタイトなコーナーにおいてそれを良好にするために使用されることができる。同システムは、ある中速範囲でコーナリングするときに後輪を全く意識的に操舵せず、最終的により高速で前輪とわずかに同じ方向に後輪を操舵し、特定量の後タイヤ側の力を発現するために必要な車体のサイドスリップ角の量やヨー加速度を減少し、それによってヨー減衰及び安定性の不足が問題になる傾向がある高速で車を安定させ、落ち着かせる。この方法では、ハンドリングバランスは、ドライビングスピードに関して妥協の少ないものとなりうる。同様の方法では、車両のための差動装置を制御するために提案される方法は、車両のスピード範囲が三つの異なるスピード間隔(即ち、低速、中速及び高速)に分割されることを意味する。低速範囲では、差動装置はオープンにされる。方向感知ロッキング差動装置(DSLD)の場合には、デフォルト制御モードは、オープンモードであるが、例えば特定量のヨーレート、又は他の関連信号がコーナリング状況を示すとすぐに、DSLDは、適切なコーナリング性能モード(コーナリング性能左又はコーナリング性能右)に切換えられるだろう。これは、通常方向だけの差別化に対してオープンであることを意味する。即ち、コーナー外側駆動輪は、内側車輪をオーバースピードにさせるがその逆はない。同じことはまた、中速範囲に対して当てはまる。しかしながら、この全ては、本発明の範囲外であり、WO2006/041384の一部であり、参考文献としてのみここに記載される。もし本発明がDSLDを使用して実施されるなら、例えば車両のけん引能力を改良するために差動装置を制御するこれらの他の態様は、例えばeLSDにおいてこれらの同じ特性を改良するために利用されるアプローチよりわずかに異なることが指摘される。本発明は、車両の中速から高速の安定性を改良し、連続操舵操作における車両のヨー応答を変えるためにとられる工程に関係するにすぎない。
【0092】
低速と中速の範囲では、オープン差動装置は、制御装置のデフォルトモードであるだろう。それは、車両操舵応答が、特にかなりニュートラルの定常状態のハンドリングバランスに調節されるなら敏しょうになることを意味する。それはまた、例えば後車軸のトーインを少なくし、敏しょう性をさらに改良し、転がり抗力を潜在的に減少しうる。より単純な車軸のより妥協した運動学及びコンプライアンス特性が、ドライビングスピードが十分に低い限り、その欠点をあまり知覚しないという仮定の下では、コストを節約し、パッケージングを改良するためには、それはまた、マルチリンク車軸の代わりに複雑でない後車軸、例えばツイストビーム車軸を持つことができる。
【0093】
本発明によれば、上限のスピード(V
Hとして言及)があり、その上では差動装置のデフォルトモードは、そのロックされたモードであるだろう。前記上限は、もちろんそれが使用される車両のタイプに依存して、ある程度変動されうるが、前記上限はまた、例えば様々なドライバーが選択可能な設定(例えばノーマルモード、スノーモード、スポーツモードなど)に応答して変動されることができる。それはまた、例えばドライビングスタイル、道路条件の推定によって影響される車両監督電子制御に応答して変動可能でありうる。とにかく、これは、車輪において唯一の差をとる場所が、駆動軸のねじり剛性などによって決定されるものであることを意味する。これは、上述の再調整されたベース車両のハンドリングバランスなどによる安定性の低下を最も補償しやすいだろう。ロックされた差動装置のさらなる利益は、偏揺れ運動を開始する突然の操舵入力以外の外乱が自己修正する傾向を持つことであり、それは、ロックされた差動装置が誘導したヨー抵抗の反応特性による最小のためらいでそうするだろう。上述の外乱は、例えば光衝突衝撃からなることでき、それは、それが当たる場所に依存して車両の偏揺れ運動を開始するか又は開始しないものであるが、もしそうなら、それは、自己修正する傾向を持つだろう。もしそれが前輪駆動車であるなら、高速コーナリング状況における後タイヤの突然のパンク又は後車軸の他の欠陥はまた、ロックされた差動装置によって安定性の利益をもたらされるだろう。
【0094】
上述のように、上限スピードV
Hは、多数の変数に依存して変動されることができるが、一般的な考えは、ロックされた差動装置が定常状態又は半定常状態のコーナリング状況であってもほぼプラスの効果を与えるような方法で選択されるべきであることである。また、大きなコーナリング半径で実質効果が全くない形で、そして車両がタイトなカーブで加速又は減速している(高い横方向の加速)にもかかわらず、直線的な挙動で、プラスの効果を与えるような方法で選択されるべきであることである。それだけでなく、一時的な操作において安定性に関して明らかにプラスの効果を与えるような方法で選択されるべきであることである。明確化のために、一例を見ましょう。もし我々が100km/hでドライブする車を想像し、ドライバーが150メートルの半径のカーブをうまく通り抜けるなら、定常状態の横方向加速度は、5.14m/s
2になり、もし車が駆動軸で1.5メートルのトラック幅を持つなら、1%の理論的な(ゼロ入力トルク)差(トラック幅をコーナリング半径で割る)があるだろう。定常状態では、差は、等しく分割された入力トルクに依存してわずかに低くなるだろう。横方向の負荷伝達は、コーナー内側車輪でわずかに高いスリップ速度を発生する。この状況では、ドライバーが、差動装置がロックされるか又はオープンであるかを主観的に述べることは実質的に不可能であるだろう。もしコーナリング半径が代わりに90メートルであるなら、横方向加速度は、8.67m/s
2であり、車は、定常状態ではまさに「クロスオーバーポイント」であるだろう。これは、オープン差動装置が大きい理論的な差(小さい曲率半径のために1.7%)にかかわらず差動しないことを意味する。それはまた、もちろんオープンの代わりにロックされた差動装置を持つ効果が全くないことを意味する。他方、もしドライバーがスロットルペダルを解放し、減速するか又は代わりに加速しづらく絞るなら、ロックされた差動装置は、ハンドリングバランスにおいて負荷伝達ベースの変化を補償する傾向を持つだろう。これは、有利には、前後方向のタイヤの力を差別化し、従って前後方向の加速度及び負荷伝達に応答してハンドリングバランスをずっと小さく変化させ、従って定常状態又は半定常状態のコーナリング状況においてほぼプラスの効果を与えることによって行なわれるだろう。それを行なう別の方法としては、上限スピードV
Hが、差動装置が実際には必要とされない前後方向のスピードで選択されることを言わなければならないだろう。
【0095】
本発明によれば、下限スピード(V
Lとして言及される)もあり、それは、上述の上限スピードより低い前後方向の車両スピードにある。前記下限スピードは、上限スピードと同様に、様々な基準(ドライバーが選択可能又は電子的に変動される基準)に従って変動されることができるだろう。これは、下限スピードと上限スピードの間に中速範囲があることを意味する。前記中速範囲は、差動装置のデフォルトモードがそのオープンモード(又はDSLDの場合にはコーナリング性能モードのときがある)であることによって特徴づけられる。しかしながら、それは、車両スピード以外のフィードフォワード基準に依存して、どの点においてもロックされたモードに切り替えられることができる。前記基準は、例えば操舵車輪の入力スピード及び大きさに基づくことができ、それらは、おそらく車両の前後方向の加速度又はブレーキ圧力などによって影響される。前記中速範囲の必要の理由は、上限スピード以下では、もし差動装置が、特に中程度の横方向加速操作において(かなりタイトなコーナリング半径及びコーナー内側タイヤのあまり弱くない前後方向の剛性のために)ロックされるなら、不利に高いヨー抵抗モーメント、従って望ましくない程度のアンダーステアを発生する危険があるためである。又は、換言すれば、この中速範囲において定常状態又は半定常状態のコーナリング状況では望ましくない量のアンダーステアを得る可能性があり、それゆえ差動装置は、通常オープンされるべきである。他方、もしドライバーが、例えば
図12に示されるもののように(そこでは操舵入力のときの初期スピードは、68km/h未満であり、それは、一般に前記上限スピードより十分下であるだろう)、例えば極めて突然の大きな操舵入力を行なうなら、差動装置をロックすることに潜在的に大きな利益がある。これは、(車両スピード以外の)フィードフォワード基準だけに基づいてロックされたモードに切換えることが有利である状況が存在することを意味する。
【0096】
上限スピードより上になるようなスピードで((前後方向のスピードだけに基づいて)完全な先制的な安定性モードを起こすのに十分に高いスピードで)なされた操作モードとの比較のため、
図15〜20は、(
図8〜14に示されたものと同様に)単一のレーン変化の異なる側面を示すが、この場合には90km/hの初期速度でなされた。
図19はまた、
図13を参照して記載されるように同じ補助線及び区域を示す。
【0097】
出力源からの過剰の入力トルクによって起こされる差動(即ち、ホイールスピン)を別として、道路面に対する「走行」スピードによって課される最大スピード差は、1秒あたり1回転の約半分を越えることは決してないだろう。入力軸(差動機歯車箱)と出力軸の一つの間で作用するようなロッキング装置のスピード差は、さらにその半分にすぎない。このかなり低いスピード差は、いかなる「コーナリング」操作時においてもいかなる点でも差動装置をロックすることが可能であることを意味する。
図13を再び参照すると、これは、(参照線1と2の間の)初期操舵入力時に差動装置を時々ロックすることによっておそらくかなり同様の結果を持つことができることを意味する。それは、おそらくロッキングをどのくらい遅く行なうかに依存して、初期の曲がりをわずかに鋭くする。この差動装置の制御方法は、中速区間の低い範囲で意識的には有利であるだろう。もちろん初期操舵入力時の全体で差動装置をオープンにし、第二操舵入力時にそれをロックすることも可能である。
【0098】
上限スピードV
Hと下限スピードV
Lはともに、前後方向の車両スピードの範囲内で選択され、そこではヨー関連の増加及び横方向加速度の増加がかなり高いが、ヨー減衰の測定値が厳しく制限される。このため、厳しい一時的な操舵操作において車両の安定性を高めるために差別化された前後方向のタイヤ力を使用することが有益であるだろう。
【0099】
中速範囲のときの差動装置のロッキングを引き起すための前に提案したフィードフォワード値は、一時的なものにすぎず、ずっと複雑でありうる。例えば信号値は、全中速範囲V
L−V
H内で多数のスピードしきい値に対応するルックアップテーブルにおける値に対応することができ、前記ルックアップテーブルはまた、操舵入力より多くのセンサー信号を考慮してもよい。
【0100】
上記のことに関して、潜在的な将来のセンサー又はセンサーフュージョン情報、例えばレーダー、カメラ、GPSなどを述べることが関連しうるだろう。それらは、近い将来において洞察を良好にする安定性制御システムを与えることができ、全ての考えられる状況において最も適切な作用モードを選択するようにさらに良好に作られる。
【0101】
車両安定性が、フィードフォワードセンサー信号に基づいて実行しそうであることが想定されるときに安定性モードに先制的に切り替えるという基本的な考えは、第一にヨー抵抗モーメント形成の潜在的に不必要な遅れを回避すること、第二に新しい「偏揺れ方向(yawing direction)」の初期の部分において車両反応をスピードアップすること、第三に必要な制御システムを単純化することである。この方法では、車両は、安定性モードでは、有意に安定性を増し、ドライバーからの操舵反転要求に素早く反応し、オープンモードでは、それは、その(再調節された)ベースハンドリング設定を保持するだろう。それは、それがより敏しょうになることを意味する。このことを全て一緒に考えると、車両は、異なるドライビング状況のために選択されうる二つの異なるハンドリング特性を持ち、従ってハンドリングバランスは、妥協が極めて少ないだろう。また、これは、低コストで簡単な制御を使用して達成されることができる。
【0102】
本発明は、上で記載されかつ図面に示された実施形態に制限されないことが理解されるべきである。むしろ、当業者は、多くの変化及び修正が添付請求項の範囲内でなされうることを認識するだろう。