特許第6577037号(P6577037)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6577037
(24)【登録日】2019年8月30日
(45)【発行日】2019年9月18日
(54)【発明の名称】硬質被膜および硬質被膜被覆部材
(51)【国際特許分類】
   C23C 14/06 20060101AFI20190909BHJP
   B23B 27/14 20060101ALN20190909BHJP
   B23B 51/00 20060101ALN20190909BHJP
   B23C 5/16 20060101ALN20190909BHJP
   B23G 5/06 20060101ALN20190909BHJP
【FI】
   C23C14/06 P
   C23C14/06 A
   C23C14/06 L
   !B23B27/14 A
   !B23B51/00 J
   !B23C5/16
   !B23G5/06 C
【請求項の数】8
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2017-537188(P2017-537188)
(86)(22)【出願日】2015年9月4日
(86)【国際出願番号】JP2015075271
(87)【国際公開番号】WO2017037956
(87)【国際公開日】20170309
【審査請求日】2018年3月1日
(73)【特許権者】
【識別番号】000103367
【氏名又は名称】オーエスジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100085361
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 治幸
(74)【代理人】
【識別番号】100147669
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 光治郎
(72)【発明者】
【氏名】櫻井 正俊
(72)【発明者】
【氏名】ワン メイ
【審査官】 安齋 美佐子
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2011/058636(WO,A1)
【文献】 特開2006−336032(JP,A)
【文献】 特開2011−167794(JP,A)
【文献】 国際公開第2010/007661(WO,A1)
【文献】 特開2010−207916(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2015/0232978(US,A1)
【文献】 特表2013−516331(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/00−14/58
B23B 27/14,51/00
B23C 5/16
B23G 5/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
母材の表面に被覆される硬質被膜であって、
前記硬質被膜は、物理的蒸着法により、A層と、B層およびC層が交互に積層されたナノレイヤー交互層とが交互に積層されて、0.5〜20μmの総膜厚となるように構成されたものであり、
前記A層は、組成式が[Al1−W−XCr(SiC)]Nで、原子比Wが0.20〜0.80、原子比Xが0.01〜0.20で表されるAlCr(SiC)窒化物であって、50〜1000nmの厚みを有するものであり、
前記B層は、組成式が[Ti1−YAl]Nで、原子比Yが0.30〜0.85で表されるTiAl窒化物であって、1〜100nmの厚みを有するものであり、
前記C層は、組成式が[Ti1−Z(SiC)]Nで、原子比Zが0.05〜0.45で表されるTi(SiC)窒化物であって、1〜100nmの厚みを有するものであり、
前記ナノレイヤー交互層は、50〜1000nmの厚みを有するものである
ことを特徴とする硬質被膜。
【請求項2】
前記A層の膜厚Tと前記ナノレイヤー交互層の膜厚TNLの比の値T/TNLは0.2〜10である
ことを特徴とする請求項1の硬質被膜。
【請求項3】
前記A層は、V、Y、Zr、Nb、Mo、Ta、およびWからなる群より選択された少なくとも1種の元素から成る添加物αを、20at%以下含む
ことを特徴とする請求項1または2の硬質被膜。
【請求項4】
前記B層は、B、C、V、Cr、Zr、Nb、Mo、Hf、TaおよびWからなる群より選択された少なくとも1種の元素から成る添加物βを、10at%以下含む
ことを特徴とする請求項1から3のいずれかの硬質被膜。
【請求項5】
前記C層は、B、V、Y、Nb、Mo、およびWからなる群より選択された少なくとも1種の元素から成る添加物γを、10at%以下含む
ことを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の硬質被膜。
【請求項6】
前記硬質被膜は、前記母材に直接被覆されている
ことを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の硬質被膜。
【請求項7】
前記硬質被膜は、界面層を介して前記母材に被覆され、
前記界面層は、前記A層、前記B層、または前記ナノレイヤー交互層と同様の材料から50〜1000nmの厚みに形成されている
ことを特徴とする請求項1からのいずれかに記載の硬質被膜。
【請求項8】
請求項1から7のいずれかの硬質被膜によって前記母材の一部または全部が被覆された
ことを特徴とする硬質被膜被覆部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐熱性、耐溶着性に優れている硬質被膜および硬質被膜被覆部材に関し、特に、AlCr(SiC)窒化物であるA層と、TiAl窒化物であるナノオーダの厚みのB層およびTi(SiC)窒化物であるナノオーダの厚みのC層のナノレイヤーの交互層とを、交互に積層した、耐摩耗性および耐溶着性に優れた硬質被膜に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ドリルやエンドミル、フライス、バイト等の切削工具、盛上げタップ、転造工具、プレス金型等の非切削工具などの種々の加工工具、或いは耐摩耗性が要求される摩擦部品などの種々の工具部材において、超硬合金製或いは高速度工具鋼製の母材の表面に、硬質被膜をコーティングすることにより、耐摩耗性や耐久性を向上させることが提案されている。
【0003】
これに対して、特許文献1および非特許文献1には、TiAlN系/TiCrN系の硬質被膜を施したドリルが提案されている。また、特許文献2には、AlCrN系とTiSiN系の多層構造から成る硬質被膜を施したドリルが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開2013/000557号
【特許文献2】特開2008−534297号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】オー・ディラン−ドルーアン,エー・イー・サンタナ,エー・カリミ,ブイ・エッチ・デルフリンガー,エー・シュッツ(O.Durdnd−Drouhin,A.E.Santana,A.Karimi,V.H.Derflinger,A.Schutze)著、「メカニカル プロパティーズ アンド フェイリアー モデルズ オブ ティーアイエーエル(エスアイ)エヌ シングル アンド マルチレイヤー シン フィルムズ(Mechanical properties and failure models of TiAl(Si)N single and multilayer thin films)」、サーフェス アンド コーティング テクノロジー(Surface and Coatings Technology)、(スイス)、エルゼビア サイエンス(Elsevier Science)、2003年、163−164巻、p.260−266
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記特許文献1および非特許文献1に記載のドリルは、炭素鋼や鋳鉄の穴あけ加工に用いられると、耐摩耗性が十分に得られないという問題があった。また、上記特許文献2に記載のドリルは、合金鋼やステンレス鋼の穴あけ加工に用いられると、耐溶着性が十分でないため十分な性能が得られないという問題があった。
【0007】
本発明は以上の事情を背景として為されたものであり、その目的とするところは、炭素鋼や鋳鉄などの切削では耐摩耗性が得られ、合金鋼やステンレス鋼などの切削では耐溶着性が得られる硬質被膜被覆工具を提供することにある。
【0008】
本発明者等は以上の事情を背景として種々研究を重ねるうち、AlCr(SiC)窒化物から成るA層と、TiAl窒化物から成るB層およびTi(SiC)窒化物から成るC層のナノレイヤー交互層とが、総膜厚が20μm以下となるように交互に積層された硬質被膜を工具に用いると、炭素鋼や鋳鉄の切削では耐摩耗性が得られ、合金鋼やステンレス鋼の切削では耐溶着性が得られるという事実を見出した。本発明は斯かる知見に基づいてなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
すなわち、第1発明の要旨とするところは、(a)母材の表面に被覆される硬質被膜であって、(b)前記硬質被膜は、物理的蒸着法により、A層と、B層およびC層が交互に積層されたナノレイヤー交互層とが交互に積層されて、0.5〜20μmの総膜厚となるように構成されたものであり、(c)前記A層は、組成式が[Al1−W−XCr(SiC)]Nで、原子比Wが0.20〜0.80、原子比Xが0.01〜0.20で表されるAlCr(SiC)窒化物であって、50〜1000nmの厚みを有するものであり、(d)前記B層は、組成式が[Ti1−YAl]Nで、原子比Yが0.30〜0.85で表されるTiAl窒化物であって、1〜100nmの厚みを有するものであり、(e)前記C層は、組成式が[Ti1−Z(SiC)]Nで、原子比Zが0.05〜0.45で表されるTi(SiC)窒化物であって、1〜100nmの厚みを有するものであり、(f)前記ナノレイヤー交互層は、50〜1000nmの厚みを有するものであることにある。
【0010】
また、第2発明の要旨とするところは、前記A層の膜厚Tと前記ナノレイヤー交互層の膜厚TNLの比の値T/TNLは0.2〜10である。
【0011】
また、第3発明の要旨とするところは、前記A層は、V、Y、Zr、Nb、Mo、Ta、およびWからなる群より選択された少なくとも1種の元素から成る添加物αを、20at%以下含むことにある。
【0012】
また、第4発明の要旨とするところは、前記B層は、B、C、V、Cr、Zr、Nb、Mo、Hf、TaおよびWからなる群より選択された少なくとも1種の元素から成る添加物βを、10at%以下含むことにある。
【0013】
また、第5発明の要旨とするところは、前記C層は、B、V、Y、Nb、Mo、およびWからなる群より選択された少なくとも1種の元素から成る添加物γを、10at%以下含むことにある。
【0014】
また、第6発明の要旨とするところは、前記硬質被膜は、前記母材に直接被覆されていることにある。
【0015】
また、第7発明の要旨とするところは、前記硬質被膜は、界面層を介して前記母材に被覆され、前記界面層は、前記A層、前記B層、前記C層、または前記ナノレイヤー交互層と同様の材料から50〜1000nmの厚みに形成されていることにある。
【0016】
また、第8発明の要旨とするところは、第1発明から第7発明のいずれかの硬質被膜によって前記母材の一部または全部が被覆された硬質被膜被覆部材であることにある。
【発明の効果】
【0017】
第1発明によれば、母材の表面に被覆される硬質被膜は、物理的蒸着法により、A層と、B層およびC層が交互に積層されたナノレイヤー交互層とが交互に積層されて、0.5〜20μmの総膜厚となるように構成されたものであり、前記A層は、組成式が[Al1−W−XCr(SiC)]Nで、原子比Wが0.20〜0.80、原子比Xが0.01〜0.20で表されるAlCr(SiC)窒化物であって、50〜1000nmの厚みを有するものであり、前記B層は、組成式が[Ti1−YAl]Nで、原子比Yが0.30〜0.85で表されるTiAl窒化物であって、1〜100nmの厚みを有するものであり、前記C層は、組成式が[Ti1−Z(SiC)]Nで、原子比Zが0.05〜0.45で表されるTi(SiC)窒化物であって、1〜100nmの厚みを有するものであり、前記ナノレイヤー交互層は、50〜1000nmの厚みを有するものであることから、各層の結晶粒が微細化され、膜強度が向上するとともに、優れた耐酸化性、高硬度、高靱性を備え、さらにA層とナノレイヤー交互層とが交互に積層された交互積層構造がクラックの進行を防止することで、耐摩耗性、耐欠損性が向上する。その結果として、炭素鋼や鋳鉄などの切削では耐摩耗性が得られ、合金鋼やステンレス鋼などの切削では耐溶着性が得られる工具が得られる。
【0018】
第2発明によれば、前記A層の膜厚Tと前記ナノレイヤー交互層の膜厚TNLの比の値T/TNLは0.2〜10であるので、炭素鋼や鋳鉄などの切削では耐摩耗性が得られ、合金鋼やステンレス鋼などの切削では耐溶着性が得られる工具が得られる。
【0019】
第3発明によれば、前記A層は、V、Y、Zr、Nb、Mo、Ta、およびWからなる群より選択された少なくとも1種の元素から成る添加物αを、20at%以下含むことから、A層中で固溶強化が生じてA層の硬度を高めることができ、また、耐摩耗性に優れるものとなるため、さらに切削時の発熱により高温強度向上及び高温靱性向上が得られ、被膜の表面に酸化物が形成されて優れた耐摩耗性が得られ、耐溶着性とのバランスが好適なものとなって長い工具寿命が得られる。
【0020】
第4発明によれば、前記B層は、B、C、V、Cr、Zr、Nb、Mo、Hf、TaおよびWからなる群より選択された少なくとも1種の元素から成る添加物βを、10at%以下含むことから、B層中での固溶強化が生じることによってTiAl窒化物の硬度を高めることができ、優れた耐摩耗性が得られる。
【0021】
第5発明によれば、前記C層は、B、V、Y、Nb、Mo、およびWからなる群より選択された少なくとも1種の元素から成る添加物γを、10at%以下含むことから、C層中での固溶強化が生じることによってTi(SiC)窒化物の硬度を高めることができるので、優れた耐摩耗性が得られる。特に、V、Nb、Mo、およびWは、切削時の高温によって酸化物を形成して自己潤滑作用が得られるので、一層長い工具寿命が得られる。
【0022】
第6発明によれば、前記硬質被膜は、前記母材に直接被覆されていることから、前記硬質被膜と前記母材との間の界面層が不要となるので、製造が容易となる。
【0023】
第7発明によれば、前記硬質被膜は、界面層を介して前記母材に被覆され、前記界面層は、前記A層、前記B層、前記C層、または前記ナノレイヤー交互層と同様の材料から50〜1000nmの厚みに形成されている。このため、硬質被膜と母材との間の接着強度が一層高められる。
【0024】
第8発明によれば、第1発明から第7発明のいずれかの硬質被膜によって前記母材の一部または全部が被覆された硬質被膜被覆工具であることから、炭素鋼や鋳鉄の切削では耐摩耗性が得られ、合金鋼やステンレス鋼の切削では耐溶着性が得られる工具が得られる。
【0025】
ここで、好適には、前記硬質被膜被覆工具は、ドリルやフライス等の回転切削工具、バイト等の非回転の切削工具、或いは盛上げタップ、転造工具、プレス金型等の非切削工具など、種々の硬質被膜被覆加工工具に好適に適用される。しかし、そのような加工工具以外でも軸受部材など耐摩耗性や耐酸化性が要求される種々の耐摩耗性の硬質被膜被覆部材として適用され得る。
【0026】
また、本発明の硬質被膜は、好適には、アークイオンプレーティング法やイオンビーム支援蒸着法、スパッタリング法等のPVD法、その他の物理的蒸着法によって成膜される。
【0027】
また、本発明の硬質被膜が被覆される母材としては、超硬合金や高速度工具鋼が好適に用いられるが、サーメット、セラミックス、多結晶ダイヤモンド、多結晶CBNなど、種々の工具材料を採用できる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】本発明の一実施例の硬質被膜が設けられたドリルを示す正面図である。
図2図1のドリルの構成を説明するためにその先端側から示す拡大底面図である。
図3図1のドリルに被覆された硬質被膜の積層構造例を説明する模式図である。
図4図1のドリルに被覆された硬質被膜の他の積層構造例を説明する模式図である。
図5図1のドリルに被覆された硬質被膜の他の積層構造例を説明する模式図である。
図6図1のドリルに被覆された硬質被膜の他の積層構造例を説明する模式図である。
図7図1の硬質被膜を工具母材上に成膜する物理的蒸着装置の一例であるアークイオンプレーティング装置を説明する概略図である。
図8】硬質被膜を構成するA層、B層、およびC層の構成元素の種類および比率、添加物の種類および組成比率、および膜厚を変化させた試験品1〜試験品50について、A層を構成するAlCr(SiC)窒化物の構成元素の種類および比率をそれぞれ示す図表である。
図9図8の試験品1〜試験品50について、B層を構成するTiAl窒化物の構成元素の種類および比率をそれぞれ示す図表である。
図10図8の試験品1〜試験品50について、C層を構成するTi(SiC)窒化物の構成元素の種類および比率をそれぞれ示す図表である。
図11図8の試験品1〜試験品50について、A層、B層、およびC層の厚み、B層とC層との積層対数、ナノレイヤー交互層の厚み、界面層の厚み、A層とナノレイヤー交互層との積層対数、硬質被膜の総膜厚をそれぞれ示す図表である。
図12図8の試験品1〜試験品50について、被膜硬さ、摩耗幅、切削距離、判定結果をそれぞれ示す図表である。
図13図8の試験品1〜試験品50のうちの試験品2、3、12、22、29、37、40、44について、切削距離の増加に伴う摩耗幅の増加特性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の硬質被膜の一実施例について図面を参照して詳細に説明する。
【実施例】
【0030】
図1および図2は、本発明の硬質被膜24が被覆された硬質被膜被覆工具或いは硬質被膜被覆部材の一例であるドリル10を示す図である。図1は軸心Oと直角な方向から見た正面図、図2は切れ刃12が設けられた先端側から見た拡大底面図である。このドリル10は、2枚刃のツイストドリルで、シャンク14およびボデー16を軸方向に一体に備えており、ボデー16には軸心Oの右まわりにねじれた一対の溝18が形成されている。ボデー16の先端には、溝18に対応して一対の切れ刃12が設けられており、シャンク14側から見て軸心Oの右まわりに回転駆動されることにより切れ刃12によって穴を切削加工するとともに、切屑が溝18を通ってシャンク14側へ排出される。
【0031】
ボデー16の先端面において、一対の切れ刃12に隣接するそれぞれの逃げ面20には、シャンク14の端面からシャンク14およびボデー16を縦通した一対の切削液導出孔22が、開口させられている。なお、図1において、斜線部分は、硬質被膜としての硬質被膜24のコーティング部分を示している。本実施例では、硬質被膜24は、ドリル10の一部であるボデー16にコーティングされているが、ドリル10全体がコーティングされても差し支えない。
【0032】
図3は、ドリル10の硬質被膜24の断面を拡大して説明する模式図である。図3において、たとえば超硬合金製の工具母材30の上には、物理的蒸着法により50〜1000nm程度の厚みに形成された界面層32を介して、硬質被膜24が積層されている。この硬質被膜24は、物理的蒸着法により、50〜1000nmの厚みを有するように形成されたA層34と、1〜100nmの厚みのB層36および1〜100nmの厚みのC層38が50〜1000nmの厚みとなるように交互に積層された複層領域であるナノレイヤー交互層40とが交互に積層されて、0.5〜20μmの総膜厚となるように構成されたものである。図3に示す硬質被膜24において、A層34とナノレイヤー交互層40との積層数はたとえば偶数であり、ナノレイヤー交互層40内におけるB層36とC層38との積層数はたとえば3以上の奇数である。
【0033】
A層34は、組成式が[Al1−W−XCr(SiC)]Nで、原子比Wが0.20〜0.80、原子比Xが0.01〜0.20で表されるAlCr(SiC)窒化物であって、50〜1000nmの厚みを有するものである。このA層34は、V、Y、Zr、Nb、Mo、Ta、およびWからなる群より選択された少なくとも1つの元素である添加物αを、20at%以下の割合で含む。この添加物αは、固溶強化が生じてAlCr(SiC)窒化物の硬度を高めたり、切削時の高温により、AlCr(SiC)窒化物の強度を向上させるとともに酸化物をAlCr(SiC)窒化物の表面に形成して、耐摩耗性を高めるという、特徴がある。
【0034】
B層36は、組成式が[Ti1−YAl]Nで、原子比Yが0.30〜0.85で表されるTiAl窒化物であって、1〜100nmの厚みを有するものである。このB層36は、B、C、V、Cr、Zr、Nb、Mo、Hf、TaおよびWからなる群より選択された少なくとも1種の元素から成る添加物βを、10at%以下の割合で含む。この添加物βは、固溶強化を発生させてTiAl窒化物の硬度を高め、耐摩耗性を高めることに寄与する。
【0035】
C層38は、組成式が[Ti1−Z(SiC)]Nで、原子比Zが0.05〜0.45で表されるTi(SiC)窒化物であって、1〜100nmの厚みを有するものである。このC層38は、B、V、Y、Nb、Mo、およびWからなる群より選択された少なくとも1種の元素から成る添加物γを、10at%以下の割合で含む。この添加物γは、固溶強化が生じてTi(SiC)窒化物の硬度を高め、耐摩耗性を高めることに寄与する。また、上記添加物γのうちのV、Nb、Mo、およびWは、切削時の高温によって酸化物を形成して自己潤滑作用を発生させるので、工具寿命に寄与する。
【0036】
界面層32は、硬質被膜24と同様の物理的蒸着法により50〜1000nmの厚みとなるように、A層34を構成するAlCr(SiC)窒化物、B層36を構成するTiAl窒化物、C層38を構成するTi(SiC)窒化物、またはナノレイヤー交互層40と同様のナノレイヤー積層構造の材料(TiAl窒化物/Ti(SiC)窒化物)から構成され得る。図3では、一例として、界面層32がA層34と同様の材料すなわちAlCr(SiC)窒化物から構成されている。
【0037】
ここで、ナノレイヤー交互層40では、B層36およびC層38の積層数が偶数であってもよいし、3以上の奇数であってもよく、その最上層或いは最下層は、B層36およびC層38のいずれであってもよい。また、硬質被膜24では、A層34とナノレイヤー交互層40との積層数は、偶数であってもよいし、3以上の奇数であってもよく、その最上層或いは最下層は、A層34およびナノレイヤー交互層40のいずれであってもよい。
【0038】
図4図5図6は、硬質被膜24の他の構成例をそれぞれ示している。図4の硬質被膜24は、図3に比較して、A層34とナノレイヤー交互層40との積層数が奇数である点、およびナノレイヤー交互層40内のB層36とC層38との積層数が奇数である点、および界面層32がB層36と同様の材料であるTiAl窒化物で構成されている点で相違する。図5に示す硬質被膜24は、図3に比較して、工具母材30と硬質被膜24との間に介在させられた界面層32がナノレイヤー交互層40と同様のナノレイヤー積層構造の材料(TiAl窒化物/Ti(SiC)窒化物)で構成されている点で相違する。図6に示す硬質被膜24は、図3に比較して、A層34とナノレイヤー交互層40との積層数が奇数である点、硬質被膜24の最上層がナノレイヤー交互層40である点、および硬質被膜24が界面層32を介さないで工具母材30の上に直接積層されている点で相違する。
【0039】
図7は、ドリル10の製造に用いられるアークイオンプレーティング装置50を説明する概略構成図(模式図)である。アークイオンプレーティング装置0は、物理的蒸着法の一種であるアークイオンプレーティング法により、界面層32、A層34、B層36、C層38を、図1および図2に示すドリル10と同様の形状を有する工具母材30の上に成膜する。
【0040】
アークイオンプレーティング装置50は、たとえば、複数のワークすなわち硬質被膜24を被覆する前の切れ刃12、溝18等が形成された複数個の工具母材30を保持し、略垂直な回転中心まわりに回転駆動される回転テーブル54、工具母材30に負のバイアス電圧を印加するバイアス電源56、工具母材30などを内部に収容している処理容器としてのチャンバ58、チャンバ58内に設けられたヒータ59、チャンバ58内に所定の反応ガスを供給する反応ガス供給装置60、チャンバ58内の気体を真空ポンプなどで排出して減圧する排気装置62、第1アーク電源64、第2アーク電源66、第3アーク電源68等を備えている。回転テーブル54は、上記回転中心を中心とする円筒形状或いは多角柱形状を成しており、先端が上方へ突き出す姿勢で複数本の工具母材30を外周部に保持している。また、反応ガス供給装置60は、アルゴンガス(Ar)を貯えるタンクおよび窒素ガスを貯えるタンクを備えており、界面層32、A層34、B層36、C層38を形成するときには窒素ガスを供給する。
【0041】
第1アーク電源64、第2アーク電源66および第3アーク電源68は、何れも蒸着材料から成る第1蒸発源70、第2蒸発源74、第3蒸発源78をカソードとして、アノード72、76、80との間に所定のアーク電流を選択的に通電してアーク放電させることにより、それ等の第1蒸発源70、第2蒸発源74、第3蒸発源78から蒸発材料を選択的に蒸発させるもので、蒸発した蒸発材料は正イオンになって負(−)のバイアス電圧が印加されている工具母材30に被覆させられる。界面層32、A層34、B層36、C層38が得られるように、所定の組成を蒸発させるように、第1アーク電源64、第2アーク電源66および第3アーク電源68が選択されるように設定されるとともに、アーク電流、バイアス電圧が定められ、同時に、400〜550℃の温度、2〜10Paの真空度等の成膜条件が定められる。上記界面層32、A層34、B層36、C層38の厚みについては、成膜時間の制御で調整される。
【0042】
たとえば、第1蒸発源70は、組成式が[Al1−W−XCr(SiC)]Nで、原子比Wが0.20〜0.80、原子比Xが0.01〜0.20で表されるAlCr(SiC)窒化物であって、V、Y、Zr、Nb、Mo、Ta、およびWからなる群より選択された少なくとも1つの元素である添加物αを、20at%以下の割合で含むA層用蒸発源材料から構成されている。第2蒸発源74は、[Ti1−YAl]Nで、原子比Yが0.30〜0.85で表されるTiAl窒化物であって、B、C、V、Cr、Zr、Nb、Mo、Hf、TaおよびWからなる群より選択された少なくとも1種の元素から成る添加物βを、10at%以下の割合で含むB層用蒸発源材料から構成されている。第3蒸発源78は、組成式が[Ti1−Z(SiC)]Nで、原子比Zが0.05〜0.45で表されるTi(SiC)窒化物であって、B、V、Y、Nb、Mo、およびWからなる群より選択された少なくとも1種の元素から成る添加物γを、10at%以下の割合で含むC層用蒸発源材料から構成されている。
【0043】
工具母材30の上に界面層32を形成するときは、たとえば第1アーク電源64により第1蒸発源70からAlCr(SiC)窒化物が蒸発させられるか、或いは第2アーク電源66により第2蒸発源74からTiAl窒化物が蒸発させられる。工具母材30の上にA層3を形成するときは、第1アーク電源64により第1蒸発源70からAlCr(SiC)窒化物が蒸発させられる。工具母材30の上にナノレイヤー交互層40を形成するときは、第2アーク電源66により第2蒸発源74からTiAl窒化物が蒸発させられる区間と第3アーク電源68により第3蒸発源78からTi(SiC)窒化物が蒸発させられる区間が交互に設けられることで、TiAl窒化物から成るナノレイヤーオーダのB層3とTi(SiC)窒化物からなるナノレイヤーオーダのC層3とが交互に積層される。このような動作の選択により、たとえば図3に示す硬質被膜24が工具母材30の上に積層される。
【0044】
本発明者は、耐摩耗性および耐溶着性を確認するために、図7のアークイオンプレーティング装置50を用いて、図1および図2に示すドリル10と同様の形状を有する超硬合金製の工具母材30の上に形成された図3に示す硬質被膜24の、界面層、32、A層34、B層36、C層38の組成比率(at%)および膜厚(nm)、ナノレイヤー交互層40内のB層36およびC層38の積層対数、ナノレイヤー交互層40の厚み、A層3およびナノレイヤー交互層40の積層対数を、図8図9図10図11に示すように相違させた50種類の試験品1〜試験品50を作成した。そして、それらの試験品1〜試験品50の被膜の硬さを以下に示す被膜硬さ(ビッカース硬さ)測定方法にしたがってそれぞれ測定するとともに、以下に示す切削試験条件に従って試験品1〜試験品50を用いてそれぞれ切削したときの摩耗幅および切削距離を、以下に示す測定方法に従って測定し、切削性能を判定した。図12はそれらの評価結果を示す。なお、図8図9図10に示される組成値の単位はat%(原子%)である。
【0045】
(被膜硬さ測定方法)
ビッカース硬さ試験法(JISG0202、Z2244)に従って、硬さ記号HV0.025で示される条件下で試験品1〜試験品50の硬質被膜のHV値(ビッカース硬さ)を測定。
【0046】
(切削試験条件)
被削材:SCM440(30HRC)
切削速度:100m/min.
回転速度:5305min−1
送り量:0.18mm/rev.
加工深さ:30mm止まり
ステップ量:ノンステップ
切削液:水溶性切削油
【0047】
(摩耗幅の測定方法)
ドリルの先端切れ刃の切削距離が50mに到達するまで穴加工を繰り返し、切削距離が50mに到達したときの、ドリルの先端二番面における被膜の摩耗幅すなわち切れ刃に隣接した基材の露出幅を、スケール付き実体顕微鏡を用いて実測し、図12の※1に示した。
(切削距離の測定方法および合格判定方法)
切削試験条件(回転速度:5305min−1、送り量:0.18mm/rev、加工深さ:30mm)と、ドリルの摩耗幅が0.2mmに到達するまでの穴加工数(総加工深さ)とに基づいてドリルの先端切れ刃の切削距離を算出し、図12の※2に示した。この切削距離が50m未満であれば不合格判定として×印を、50m以上であれば合格判定として○印を、図12の※3に示した。
【0048】
図12に示すように、実施例品に対応する試験品7〜試験品50の被膜硬さは3190〜3540(HV0.025)であり、比較例品に対応する試験品1〜試験品6の最大値2510よりも高い被膜硬さが得られた。
【0049】
図12に示すように、比較例品に対応する試験品1〜試験品6は、摩耗幅が0.2mmに到達するまでの切削距離が合格判定値50m未満であるために不合格判定された。試験品1はB層36が設けられていないためB層36およびC層38の交互層であるナノレイヤー交互層40が形成されておらず、界面層32の膜厚が1000nmを超えている。試験品2は、C層38が設けられていないためB層36およびC層38の交互層であるナノレイヤー交互層40が形成されておらず、A層34の膜厚Tが1000nmを超えている。試験品3は、A層34を備えておらず、B層36の膜厚TおよびC層38の膜厚Tが100nmを超え、ナノレイヤー交互層40の厚みが1000nmを超え、且つ総膜厚が20μmを超えている。試験品4は、B層36の膜厚Tが100nmを超え、C層38の膜厚T厚みが1nmを下回り、且つ界面層32の厚みが1000nmを超えている。試験品5は、A層34を備えておらず、B層36の膜厚TおよびC層38の膜厚Tが1nmを下回り、ナノレイヤー交互層40の厚みが50nmを下回り、且つ総膜厚が0.5μmを下回っている。試験品6は、A層34の膜厚Tが薄くて50nmを下まわり、B層36の膜厚TおよびC層38の膜厚Tが1nmを下回り、界面層32の膜厚が50nmを下回り、且つ総膜厚が0.5μmを下回っている。
【0050】
しかし、実施例品に対応する試験品7〜試験品50は、摩耗幅が0.2mmに到達するまでの切削距離が合格判定値50m以上であるために合格判定された。なお、図4に示すドリル、図5に示すドリル、図6に示すドリルでも、図12と同様の結果が得られた。すなわち、界面層32の有無、硬質被膜24の最上層或いは最下層がA層34であるか、ナノレイヤー交互層40であるか、硬質被膜24の積層数が偶数か奇数か、ナノレイヤー交互層40の積層数が奇数か偶数化に拘わらず、図12と同様の結果が得られた。
【0051】
図12の実施例品に対応する試験品7〜試験品50において、A層34の組成範囲は、たとえば図8の試験品7、13に示されるように、Alは20〜79at%の範囲内、Crは78〜20at%の範囲内、(SiC)は0.5〜20at%の範囲内、添加物αは、V、Y、Zr、Nb、Mo、Ta、Wから選択された元素であって、0〜20at%の範囲内である。すなわち、A層34の好適な組成は、組成式が[Al1−W−XCr(SiC)]Nで、原子比Wが0.20〜0.80、原子比Xが0.01〜0.20で表されるAlCr(SiC)窒化物である。また、A層34の膜厚Tの好適な厚み範囲は、たとえば図11の試験品7、および試験品1に示されるように、50〜1000nmである。
【0052】
また、図12の実施例品に対応する試験品7〜試験品50において、B層36の組成範囲は、たとえば図9の試験品7、13に示されるように、Tiは15〜70at%の範囲内、Alは85〜30at%の範囲内、添加物βは、B、C、V、Cr、Zr、Nb、Mo、Hf、TaおよびWのうちの少なくとも1つの元素であって、0〜10at%の範囲内である。すなわち、B層36の好適な組成は、組成式が[Ti1−YAl]Nで、原子比Yが0.30〜0.85で表されるTiAl窒化物である。また、B層36の膜厚TBの好適な範囲は、たとえば図11の試験品10に示されるように、1〜100nmである。
【0053】
また、図12の実施例品に対応する試験品7〜試験品50において、C層38の組成範囲は、たとえば図10の試験品12、16に示されるように、Tiは53〜94.5at%の範囲内、(SiC)は5〜45at%の範囲内、添加物γは、B、C、V、Y、Nb、Mo、およびWのうちの少なくとも1つの元素であって、0〜10at%の範囲内である。すなわち、C層38の好適な組成は、組成式が[Ti1−Z(SiC)]Nで、原子比Zが0.05〜0.45で表されるTi(SiC)窒化物である。また、C層38の膜厚Tの好適な範囲は、たとえば図11の試験品10、12に示されるように、1〜100nmである。
【0054】
また、図12の実施例品に対応する試験品7〜試験品50において、ナノレイヤー交互層40の厚み範囲は、たとえば図11の試験品7、12に示されるように、50〜1000nmである。また、A層34の膜厚Tとナノレイヤー交互層40の膜厚TNLの比の値T/TNLは、0.2〜10の範囲である。
【0055】
また、図12の実施例品に対応する試験品7〜試験品50において、界面層32の厚み範囲は、たとえば図11の試験品7、11に示すように、50〜1000nmである。
【0056】
また、図12の実施例品に対応する試験品7〜試験品50において、硬質被膜24の総合厚み(総膜厚)の範囲は、たとえば図11の試験品19、20に示すように、0.5〜20μmである。
【0057】
そして、図12の実施例品に対応する試験品7〜試験品50において、B層36およびC層38が積層されたナノレイヤー交互層40における繰り返し数すなわち一対のB層36およびC層38の対数は、たとえば試験品48、12に示すように2〜500である。また、A層34およびナノレイヤー交互層40が積層された硬質被膜24における繰り返し数すなわち一対のA層34およびナノレイヤー交互層40の対数は、たとえば試験品7、12に示すように2〜199である。
【0058】
図13は、試験品1〜試験品50のうちの、比較例品に対応する試験品2、3と実施例品に対応する試験品12、22、29、37、40、44について、前記切削試験における切削距離の増加に伴う摩耗幅の増加特性を示している。比較例品に対応する試験品2、3の摩耗幅の増加率は、実施例品に対応する試験品12、22、29、37、40、44に比較してきわめて大きい。
【0059】
本実施例によれば、工具母材30の表面に被覆される硬質被膜24は、物理的蒸着法により、A層34と、B層36およびC層38がナノオーダの厚みで交互に積層されたナノレイヤー交互層40とが交互に積層されて、0.5〜20μmの膜厚となるように構成されたものであり、A層34は、組成式が[Al1−W−XCr(SiC)]Nで、原子比Wが0.20〜0.80、原子比Xが0.01〜0.20で表されるAlCr(SiC)窒化物であって、50〜1000nmの厚みを有するものであり、B層36は、組成式が[Ti1−YAl]Nで、原子比Yが0.30〜0.85で表されるTiAl窒化物であって、1〜100nmの厚みを有するものであり、C層38は、組成式が[Ti1−Z(SiC)]Nで、原子比Zが0.05〜0.45で表されるTi(SiC)窒化物であって、1〜100nmの厚みを有するものであり、ナノレイヤー交互層40は、50〜1000nmの厚みを有するものであることから、炭素鋼や鋳鉄などの切削では耐摩耗性が得られ、合金鋼やステンレス鋼などの切削では耐溶着性が得られるドリル10が得られる。
【0060】
また、本実施例によれば、A層34の膜厚Tとナノレイヤー交互層40の膜厚TNLの比の値T/TNLは0.2〜10であるので、炭素鋼や鋳鉄などの切削では耐摩耗性が得られ、合金鋼やステンレス鋼などの切削では耐溶着性が得られる工具が得られる。
【0061】
また、本実施例によれば、A層34は、V、Y、Zr、Nb、Mo、Ta、およびWからなる群より選択された少なくとも1つの元素である添加物αを、20at%以下の割合で含むため、A層34中で固溶強化が生じてAlCr(SiC)窒化物の硬度を高めることができ、切削時の高温により、強度が向上するとともに酸化物が表面に形成されて優れた耐摩耗性が得られ、耐溶着性とのバランスが好適なものとなってドリル10の長い工具寿命が得られる。
【0062】
また、本実施例によれば、B層36は、B、C、V、Cr、Zr、Nb、Mo、Hf、TaおよびWからなる群より選択された少なくとも1種の元素から成る添加物βを、10at%以下の割合で含むため、B層36中での固溶強化が生じることによってTiAl窒化物の硬度を高めることができ、ドリル10の優れた耐摩耗性が得られる。
【0063】
また、本実施例によれば、C層38は、B、V、Y、Nb、Mo、およびWからなる群より選択された少なくとも1種の元素から成る添加物γを、10at%以下の割合で含むことから、C層38中での固溶強化が生じることによってTi(SiC)窒化物の硬度を高めることができるので、ドリル10の優れた耐摩耗性が得られる。特に、V、Nb、Mo、およびWは、切削時の高温によって酸化物を形成して自己潤滑作用が得られるので、一層長いドリル10の工具寿命が得られる。
【0064】
また、本実施例によれば、図6に示される硬質被膜24は、工具母材30に直接被覆されていることから、硬質被膜24と工具母材30との間の界面層が不要となるので、製造が容易となる。
【0065】
また、本実施例によれば、図3図4図5に示される硬質被膜24は、界面層32を介して工具母材30に被覆され、界面層32は、A層34、B層36、またはナノレイヤー交互層40と同様の材料から50〜1000nmの厚みに形成されている。このため、硬質被膜24と工具母材30との間の接着強度が一層高められる。
【0066】
また、本実施例のドリル10によれば、硬質被膜24によって一部が被覆された硬質被膜被覆工具であることから、炭素鋼や鋳鉄の切削では耐摩耗性が得られ、合金鋼やステンレス鋼の切削では耐溶着性が得られる。
【0067】
以上、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、これ等はあくまでも一実施形態であり、本発明は当業者の知識にづいて種々の変更、改良を加えた態様で実施することができる。
【符号の説明】
【0068】
10:ドリル(硬質被膜被覆工具、硬質被膜被覆部材)
30:工具母材(母材)
24:硬質被膜
34:A層
36:B層
38:C層
40:ナノレイヤー交互層
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13