特許第6577801号(P6577801)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6577801
(24)【登録日】2019年8月30日
(45)【発行日】2019年9月18日
(54)【発明の名称】ベローズポンプ
(51)【国際特許分類】
   F04B 43/08 20060101AFI20190909BHJP
【FI】
   F04B43/08 A
【請求項の数】2
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2015-186949(P2015-186949)
(22)【出願日】2015年9月24日
(65)【公開番号】特開2017-61875(P2017-61875A)
(43)【公開日】2017年3月30日
【審査請求日】2018年4月13日
(73)【特許権者】
【識別番号】000229737
【氏名又は名称】日本ピラー工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000280
【氏名又は名称】特許業務法人サンクレスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山崎 健司
(72)【発明者】
【氏名】中野 篤
(72)【発明者】
【氏名】永江 慶士
(72)【発明者】
【氏名】宮本 正樹
【審査官】 山崎 孔徳
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−332587(JP,A)
【文献】 特公昭48−036531(JP,B1)
【文献】 特開2015−113937(JP,A)
【文献】 特開2011−256830(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04B 43/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
移送流体を吸い込むための第1及び第2吸込通路、並びに移送流体を吐出するための吐出通路が形成されたポンプヘッドと、
前記ポンプヘッドに伸縮自在に取り付けられ、その伸長動作および収縮動作のうち、一方の動作により前記第1及び第2吸込通路から移送流体を吸い込み、他方の動作により前記吐出通路に移送流体を吐出するベローズと、
前記ベローズの前記一方の動作により前記第1吸込通路の一方向への移送流体の流れを許容するとともに、前記ベローズの前記他方の動作により前記第1吸込通路の他方向への移送流体の流れを阻止する第1チェックバルブと、
前記ベローズの前記一方の動作により前記第2吸込通路の一方向への移送流体の流れを許容するとともに、前記ベローズの前記他方の動作により前記第2吸込通路の他方向への移送流体の流れを阻止する第2チェックバルブと、を備え、
前記両チェックバルブは、それぞれ、
前記ポンプヘッド内に設けられ、開弁方向および閉弁方向に移動可能な弁体と、
前記弁体を閉弁方向に押圧付勢する圧縮コイルばねと、
前記弁体および前記圧縮コイルばねを収容するバルブケースと、
前記弁体の外周に固定され、前記バルブケースの内周に対して摺動することで当該バルブケースに対して前記弁体の移動を案内する複数のガイド部と、を有し、
前記両チェックバルブの圧縮コイルばねのうち一方のばね定数は、他方のばね定数よりも高く設定され
前記複数のガイド部は、前記バルブケースと前記弁体との間において周方向に所定の空間をおいて配置されており、
前記空間は、前記弁体の開弁中に移送流体を通過させる流通路とされていることを特徴とするベローズポンプ。
【請求項2】
前記一方のばね定数は、前記他方のばね定数の1.1〜1.3倍に設定されている、請求項1に記載のベローズポンプ
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ベローズポンプに関する。
【背景技術】
【0002】
半導体製造や化学工業等において、薬液や溶剤等の移送流体を送給させるためのポンプとして、ベローズポンプが使用される場合がある。
このベローズポンプは、例えば、特許文献1に記載されているように、ポンプヘッドの左右方向(水平方向)の両側にポンプケースを連結して2つの空気室を形成し、各空気室の内部にそれぞれ左右方向に伸縮可能な一対のベローズを設け、各空気室に交互に加圧空気を供給することによって各ベローズを収縮又は伸長させるように構成されている。
【0003】
ポンプヘッドには、各ベローズの内部と連通する移送流体の吸込通路と吐出通路とが形成され、さらに、吸込通路及び吐出通路に対する一方向への移送流体の流れを許容し、他方向への移送流体の流れを阻止するチェックバルブが設けられている。吸込通路用のチェックバルブは、ベローズの伸長により開くことによって吸込通路からベローズ内への移送流体の流れを許容し、ベローズの収縮により閉じることによって、当該ベローズ内から吸込通路への移送流体の流れを阻止するように構成されている。また、吐出通路用のチェックバルブは、ベローズの伸長により閉じることによって、吐出通路からベローズ内への移送流体の流れを阻止し、ベローズの収縮により開くことによって、ベローズ内から吐出通路への移送流体の流れを許容するように構成されている。
【0004】
一対のベローズは、連結棒により一体に連結されており、一方のベローズが収縮して吐出通路へ移送流体を吐出すると、これと同時に他方のベローズが強制的に伸長して吸込通路から移送流体が吸い込まれる。また、前記他方のベローズが収縮して吐出通路へ移送流体を吐出すると、これと同時に前記一方のベローズが強制的に伸長して吸込通路から移送流体が吸い込まれるようになっている。
【0005】
このようなベローズポンプにおいては、ベローズの伸長により吸込通路用のチェックバルブが開いて移送流体を吸い込む吸込工程から、ベローズの収縮により吐出通路用のチェックバルブが開いて移送流体を吐出する吐出工程へ切り換わるときに、瞬間的に大きな圧力変動(圧力上昇)が生じ、「ウォータハンマ」と呼ばれる衝撃圧力が発生する。この衝撃圧力は、吸込工程の終了によって閉じられた吸込通路用のチェックバルブに、その上流側から移送流体が衝突したり、ベローズ内に吸い込まれた移送流体が当該ベローズの隔壁に衝突したりすることで発生すると考えられる。
【0006】
上記衝撃圧力が発生すると、その衝撃圧力による振動がポンプに接続された配管や機器に伝播し、これらの配管等が破損する恐れがある。そこで、従来のベローズポンプでは、例えば、特許文献2に記載されているように、前記衝撃圧力を抑制する対策として、ポンプヘッドに吸込通路を2つ形成し、前記圧力変動を分散させることが行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2010−196541号公報
【特許文献2】特開2004−263638号公報(図3参照)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、従来の衝撃圧力を抑制する対策をしても、2つの吸込通路にそれぞれ設けられた吸込通路用のチェックバルブが閉じるタイミングが一致した場合には、依然として衝撃圧力が発生するという問題があった。
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、移送流体の吸い込みから吐出に切り換わるときに発生する衝撃圧力を効果的に抑制することができるベローズポンプを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のベローズポンプは、移送流体を吸い込むための第1及び第2吸込通路、並びに移送流体を吐出するための吐出通路が形成されたポンプヘッドと、前記ポンプヘッドに伸縮自在に取り付けられ、その伸長動作および収縮動作のうち、一方の動作により前記第1及び第2吸込通路から移送流体を吸い込み、他方の動作により前記吐出通路に移送流体を吐出するベローズと、前記ベローズの前記一方の動作により前記第1吸込通路の一方向への移送流体の流れを許容するとともに、前記ベローズの前記他方の動作により前記第1吸込通路の他方向への移送流体の流れを阻止する第1チェックバルブと、前記ベローズの前記一方の動作により前記第2吸込通路の一方向への移送流体の流れを許容するとともに、前記ベローズの前記他方の動作により前記第2吸込通路の他方向への移送流体の流れを阻止する第2チェックバルブと、を備え、前記両チェックバルブは、それぞれ、前記ポンプヘッド内に設けられ、開弁方向および閉弁方向に移動可能な弁体と、前記弁体を閉弁方向に押圧付勢する圧縮コイルばねと、を有し、前記両チェックバルブの圧縮コイルばねのうち一方のばね定数は、他方のばね定数よりも高く設定されていることを特徴とする。
【0010】
上記のように構成されたベローズポンプによれば、移送流体を吸い込むための第1及び第2吸入通路にそれぞれ第1及び第2チェックバルブを設け、両チェックバルブにおいて弁体を閉弁方向に押圧付勢する圧縮コイルばねのうち、一方のばね定数は他方のばね定数よりも高く設定されている。このため、移送流体の吸い込みから吐出に切り換わるときに、第1及び第2吸込通路の各チェックバルブがそれぞれ閉弁するタイミングをずらすことができる。これにより、一方のチェックバルブが先に閉弁したときに生じる衝撃圧力を、開弁状態である他方のチェックバルブから吸込通路側へ逃がすことができるので、移送流体の吸い込みから吐出に切り換わるときに発生する衝撃圧力を効果的に抑制することができる。
【0011】
前記ベローズポンプにおいて、前記一方のばね定数は、前記他方のばね定数の1.1〜1.3倍に設定されているのが好ましい。
この場合、ばね定数が高い圧縮コイルばねを有するチェックバルブの開弁動作に支障をきたすことなく、上記衝撃圧力を効果的に抑制することができる。
【0012】
前記ベローズポンプにおいて、前記両チェックバルブは、それぞれ、前記弁体および前記圧縮コイルばねを収容するバルブケースと、前記弁体の外周に固定され、前記バルブケースの内周に対して摺動することで当該バルブケースに対して前記弁体の移動を案内する複数のガイド部と、をさらに有し、前記複数のガイド部は、前記バルブケースと前記弁体との間において周方向に所定の空間をおいて配置されており、前記空間は、前記弁体の開弁中に移送流体を通過させる流通路とされているのが好ましい。
【0013】
この場合、バルブケースと弁体との間において周方向に隣り合うガイド部同士の間に形成された空間は、弁体の開弁中に移送流体を通過させる流通路とされているので、ガイド部以外に前記流通路を形成するための部材を弁体に設ける必要がない。これにより、弁体を軽量化することができるので、弁体の移動を迅速に行うことができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明のベローズポンプによれば、移送流体の吸い込みから吐出に切り換わるときに発生する衝撃圧力を、効果的に抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の実施形態に係るベローズポンプの断面図である。
図2】ベローズポンプのポンプヘッドを示しており、(a)は側面図、(b)は(a)のAOB断面図である。
図3】吸込用チェックバルブを拡大して示す断面図である。
図4】吸込用チェックバルブの弁体およびガイド部を示す正面図である。
図5】吸込用チェックバルブの変形例を示す断面図である。
図6】ベローズポンプの動作を示す説明図である。
図7】ベローズポンプの動作を示す説明図である。
図8】比較例に係るベローズポンプの上流側配管内における移送流体の圧力の変化を示すグラフである。
図9】実施例に係るベローズポンプの上流側配管内における移送流体の圧力の変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
次に、本発明の好ましい実施形態について添付図面を参照しながら説明する。
[ベローズポンプの全体構成]
図1は、本発明の実施形態に係るベローズポンプの断面図である。
本実施形態のベローズポンプ10は、例えば半導体製造装置において薬液や溶剤等の移送流体を一定量供給するときに用いられる。このベローズポンプ10は、ポンプヘッド11と、このポンプヘッド11の左右方向(水平方向)の両側に取り付けられる一対のポンプケース12と、各ポンプケース12の内部において、ポンプヘッド11の左右方向の側面に取り付けられる一対のベローズ13と、各ベローズ13の内部において、ポンプヘッド11の左右方向の側面に取り付けられる複数のチェックバルブ38,40と、を備えている。
【0017】
[ポンプケースの構成]
ポンプケース12は、ポンプヘッド11の左右両側に固定された筒形状のケース胴体15と、このケース胴体15の左右方向の一端部(ポンプヘッド11とは反対側の端部)を閉鎖する閉鎖蓋16と、を備えている。ケース胴体15と、ポンプヘッド11及び閉鎖蓋16との接合端面にはシール部材が介装されており、これらの部材によって囲まれた空間が気密状態が保持された空気室17とされている。
【0018】
閉鎖蓋16には吸排気ポート19が設けられており、この吸排気ポート19は、切換バルブ18を介してエアコンプレッサ等の空気供給装置(駆動装置)20に接続されている。
また、閉鎖蓋16には、近接センサからなる検出センサ21が取り付けられており、この検出センサ21は、ベローズ13に取り付けられた作動板24を検知して、当該ベローズ13の伸縮状態を検出する。
【0019】
[ベローズの構成]
ベローズ13は、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)やPFA(テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体)等のフッ素樹脂により有底筒形状に形成され、その開放端部はポンプヘッド11に固定されている。
具体的に、ベローズ13の開放側端部には周溝22が形成され、ポンプヘッド11とポンプケース12との間には、径方向内方へ突出する係止環23が固定され、この係止環23を周溝22に嵌合することによってベローズ13がポンプヘッド11に固定されている。
【0020】
ベローズ13の周壁は、蛇腹形状に形成されて水平方向に伸縮自在に構成されている。また、ベローズ13の底部の外面は、上記作動板24によって覆われている。具体的には、ベローズ13の底部の外周部には周溝25が形成されており、作動板24の外周部に固定された係止環26を周溝25に嵌合させることによって作動板24がベローズ13の底部に固定されている。
【0021】
一対のベローズ13のそれぞれに固定された作動板24は、連動シャフト28によって連結されている。この連動シャフト28は、その長手方向の中途部がポンプヘッド11に形成されたガイド部29に左右方向摺動可能にガイドされており、その両端部が作動板24の外周部にナット等の連結具30によって固定されている。そして、一対のベローズ13は、一方が伸長したときに他方が収縮し、一方が収縮したときに他方が伸長するように連動シャフト28によって連動される。
【0022】
空気供給装置20によって生成された適当な圧力の加圧空気は、各ポンプケース12の閉鎖蓋16に設けられた吸排気ポート19を介して2つの空気室17に対して交互に供給される。一方の空気室17に加圧空気が供給されると、当該空気室17内に配置された一方のベローズ13が収縮し、この一方のベローズ13の収縮に連動して他方のベローズ13が伸長する。そして、他方のベローズ13の作動板24が検出センサ21によって検出されると、空気供給装置20によって生成された加圧空気は、切換バルブ18によって他方の吸排気ポート19から他方の空気室17に供給される。これによって、他方のベローズ13が収縮するとともに一方のベローズ13が伸長する。このようなベローズ13の伸縮に伴って、ベローズ13の内部への移送流体の吸い込みと吐出とが交互に行われ、当該移送流体を移送可能となっている。
【0023】
[ポンプヘッドの構成]
図2は、ポンプヘッド11を示しており、(a)は側面図、(b)は(a)のAOB断面図である。ポンプヘッド11は、PTFEやPFA等のフッ素樹脂から形成されている。ポンプヘッド11の内部には、移送流体を吸い込むための吸込通路33と、移送流体を吐出するための吐出通路34とが形成されている。吸込通路33及び吐出通路34は、ポンプヘッド11の外周面において開口する開口部31,32を有し、各開口部31,32に吸込ポート及び吐出ポート(いずれも図示省略)が接続されている。吸込ポートは移送流体のタンク(図示省略)に接続され、吐出ポートは移送流体の移送先に接続される。
【0024】
吸込通路33は、開口部31から径内側に延びる主通路33aと、主通路33aの長手方向の中間部からポンプヘッド11の左右両側面に向けて分岐する第1分岐通路33bと、主通路33aの長手方向の径内側端部からポンプヘッド11の左右両側面に向けて分岐する第2分岐通路33cと、を有している。各分岐通路33b,33cは、ポンプヘッド11の左右両側面においてそれぞれ開口する吸込口35A,35Bを有している。
【0025】
これにより、本実施形態では、主通路33aおよび第1分岐通路33bにより開口部31と吸込口35Aとを連通する第1吸込通路331が構成され、主通路33aおよび第2分岐通路33cにより開口部31と吸込口35Bとを連通する第2吸込通路332が構成されている。各吸込口35A,35Bは、それぞれチェックバルブ38を介してベローズ13の内部と連通している(図1参照)。なお、以下において、吸込口35A,35Bの共通事項を説明する場合は、吸込口35と総称する。
【0026】
吐出通路34は、開口部32から径内側に延びる主通路34aと、主通路34aの径内側端部からポンプヘッド11の左右両側面に向けて分岐する分岐通路34bと、を有している。分岐通路34bは、ポンプヘッド11の左右両側面においてそれぞれ開口する吐出口36を有している。各吐出口36は、それぞれチェックバルブ40を介してベローズ13の内部と連通している(図1参照)。
【0027】
[チェックバルブの構成]
図1において、ポンプヘッド11の各吸込口35及び各吐出口36には、チェックバルブ38,40が設けられている。
吐出口36に取り付けられたチェックバルブ40(以下、「吐出用チェックバルブ」ともいう)は、吐出口36に固定されたバルブケース40aと、このバルブケース40aに収容された弁体40bと、この弁体40bを閉弁方向に押圧付勢する圧縮コイルばね40cとを有している。
【0028】
バルブケース40aは有底円筒形状に形成されており、その底壁にはベローズ13の内部に連通する貫通孔40dが形成されている。弁体40bは、圧縮コイルばね40cの付勢力によりバルブケース40aの貫通孔40dを閉鎖(閉弁)し、ベローズ13の伸縮に伴う移送流体の流れによる背圧が作用するとバルブケース40aの貫通孔40dを開放(開弁)するようになっている。
【0029】
これにより、吐出用チェックバルブ40は、自身が配置されているベローズ13が収縮したときに開弁して、ベローズ13内部から吐出通路34に向かう方向への移送流体の流出を許容し、当該ベローズ13が伸長したときに閉弁して、吐出通路34からベローズ13内部に向かう方向への移送流体の逆流を阻止する。
【0030】
吸込口35に取り付けられたチェックバルブ38(以下、「吸込用チェックバルブ」ともいう)は、自身が配置されているベローズ13が伸長したときに開弁して、吸込通路33からベローズ13内部に向かう方向(一方向)への移送流体の吸引を許容し、当該ベローズ13が収縮したときに閉弁して、ベローズ13内部から吸込通路33に向かう方向(他方向)への移送流体の逆流を阻止する。図2(a)に示すように、本実施形態の吸込用チェックバルブ38は、吸込口35Aに取り付けられた第1チェックバルブ381と、吸込口35Bに取り付けられた第2チェックバルブ382とからなる。
【0031】
図3は、吸込用チェックバルブ38(第1チェックバルブ381,第2チェックバルブ382)を拡大して示す断面図である。なお、図3に示す吸込用チェックバルブ38は閉弁状態を示している。
吸込用チェックバルブ38は、吸込口35に固定されたバルブケース38aと、このバルブケース38aに収容された弁体38bおよび圧縮コイルばね38cと、バルブケース38aに対して弁体38bの移動を案内する複数のガイド部38eと、を有している。
【0032】
バルブケース38aは有底円筒形状に形成されており、その底壁にはベローズ13の内部に連通する貫通孔38dが形成されている。圧縮コイルばね38cは、弁体38bよりもバルブケース38aの底壁側に配置されており、弁体38bを閉弁方向に押圧付勢している。弁体38bは、バルブケース38a内において開弁方向および閉弁方向に移動可能に配置されており、圧縮コイルばね38cの付勢力により吸込口35を閉鎖(閉弁)し、ベローズ13の伸縮に伴う移送流体の流れによる背圧が作用すると吸込口35を開放(開弁)するようになっている。
【0033】
各吸込口35A,35Bに設けられた第1および第2チェックバルブ381,382(図2(a)参照)の圧縮コイルばね38cのうち、一方のばね定数は、他方のばね定数よりも高く設定されている。これにより、第1および第2チェックバルブ381,382がそれぞれ閉弁するタイミングをずらすことができる。本実施形態では、例えば前記他方のばね定数は、従来の圧縮コイルばねと同一のばね定数に設定されており、前記一方のばね定数は、前記他方のばね定数の1.1〜1.3倍に設定されているのが好ましい。
【0034】
前記一方のばね定数の下限値を1.1倍としたのは、当該下限値が1.1倍未満になると、前記閉弁するタイミングのずれが小さ過ぎて、後述する衝撃圧力を効果的に抑制することができないためである。また、前記一方のばね定数の上限値を1.3倍としたのは、当該上限値が1.3倍を上回ると、前記一方のばね定数を有する圧縮コイルばね38cの付勢力が大きくなり過ぎて、この圧縮コイルばね38cにより閉弁方向に押圧付勢されている弁体38bを十分に開弁することができないためである。
【0035】
ガイド部38eは、弁体38bの外周に固定されており、バルブケース38aの内周に対して摺動することで、当該バルブケース38aに対して弁体38bの移動を案内する。
図4は、弁体38bおよびガイド部38eを示す正面図である。ガイド部38eは、バルブケース38aと弁体38bとの間において周方向に所定の空間Sをおいて複数(図例では4個)配置されている。これら複数の空間Sは、弁体38bの開弁中に、吸込口35(図3参照)からバルブケース38a内に吸い込まれた移送流体を貫通孔38dに向けて通過させる流通路とされている。
【0036】
図5は、吸込用チェックバルブ38の変形例を示す断面図である。なお、図5に示す吸込用チェックバルブ38は開弁状態を示している。
本変形例の吸込用チェックバルブ38の弁体38bには、当該弁体38bよりもバルブケース38aの底壁側に円筒形状の流通部38fが固定されている。流通部38fの周壁には、周方向に所定間隔をおいて複数の流通孔38gが形成されている。
【0037】
複数の流通孔38gは、弁体38bの開弁中に、吸込口35からバルブケース38a内に吸い込まれた移送流体を貫通孔38dに向けて通過させる流通路とされている。
流通部38fには、当該流通部38fよりもバルブケース38aの底壁側に円筒形状のガイド部38eが固定されている。ガイド部38eは、その外周面全体がバルブケース38aの内周面を摺動することで、バルブケース38aに対して弁体38bの移動を案内する。
【0038】
[ベローズポンプの動作]
次に、本実施形態のベローズポンプ10の動作を図6及び図7を参照して説明する。なお、図6及び図7においてはベローズ13の構成を簡略化して示している。
図6に示すように、左側のベローズ13が収縮動作し、右側のベローズ13が伸長動作した場合、ポンプヘッド11の図中左側に装着された吸込用チェックバルブ38及び吐出用チェックバルブ40の各弁体38b,40bは、左側のベローズ13内の移送流体から圧力を受けて各バルブケース38a,40aの図中右側にそれぞれ移動する。
【0039】
これにより、図中左側の各吸込口35A,35B(図2(a)参照)にそれぞれ設けられた吸込用チェックバルブ38は、互いにタイミングをずらして閉弁する。具体的には、ばね定数が高い圧縮コイルばね38cを有する吸込用チェックバルブ38の弁体38bが先に閉じてから、ばね定数が低い圧縮コイルばね38cを有する吸込用チェックバルブ38の弁体38bが閉じる。また、これらの吸込用チェックバルブ38が閉じるとともに、図中左側の吐出用チェックバルブ40が開く。これにより、左側のベローズ13内の移送流体は吐出通路34からポンプ外へ排出される。
【0040】
一方、ポンプヘッド11の図中右側に装着された吸込用チェックバルブ38及び吐出用チェックバルブ40の各弁体38b,40bは、右側のベローズ13による吸引作用によって各バルブケース38a,40aの図中右側にそれぞれ移動する。これにより、図中右側の各吸込口35A,35Bにそれぞれ設けられた吸込用チェックバルブ38は、互いにタイミングをずらして開弁する。具体的には、ばね定数が低い圧縮コイルばね38cを有する吸込用チェックバルブ38の弁体38bが先に開いてから、ばね定数が高い圧縮コイルばね38cを有する吸込用チェックバルブ38の弁体38bが開く。また、これらの吸込用チェックバルブ38が開くとともに、図中右側の吐出用チェックバルブ40が閉じる。これにより、吸込通路33から右側のベローズ13内に移送流体が吸い込まれる。
【0041】
次に、図7に示すように、左側のベローズ13が伸長動作し、右側のベローズ13が収縮動作した場合、ポンプヘッド11の図中右側に装着された吸込用チェックバルブ38及び吐出用チェックバルブ40の各弁体38b,40bは、右側のベローズ13内の移送流体から圧力を受けて各バルブケース38a,40aの図中左側にそれぞれ移動する。
【0042】
これにより、図中右側の各吸込口35A,35Bにそれぞれ設けられた吸込用チェックバルブ38は、互いにタイミングをずらして閉弁する。具体的には、ばね定数が高い圧縮コイルばね38cを有する吸込用チェックバルブ38の弁体38bが先に閉じてから、ばね定数が低い圧縮コイルばね38cを有する吸込用チェックバルブ38の弁体38bが閉じる。また、これらの吸込用チェックバルブ38が閉じるとともに、図中右側の吐出用チェックバルブ40が開く。これにより、右側のベローズ13内の移送流体は吐出通路34からポンプ外へ排出される。
【0043】
一方、ポンプヘッド11の図中左側に装着された吸込用チェックバルブ38及び吐出用チェックバルブ40の各弁体38b,40bは、左側のベローズ13による吸引作用によって各バルブケース38a,40aの図中左側にそれぞれ移動する。これにより、図中左側の各吸込口35A,35Bにそれぞれ設けられた吸込用チェックバルブ38は、互いにタイミングをずらして開弁する。具体的には、ばね定数が低い圧縮コイルばね38cを有する吸込用チェックバルブ38の弁体38bが先に開いてから、ばね定数が高い圧縮コイルばね38cを有する吸込用チェックバルブ38の弁体38bが開く。また、これらの吸込用チェックバルブ38が開くとともに、吐出用チェックバルブ40が閉じる。これにより、吸込通路33から左側のベローズ13内に移送流体が吸い込まれる。
以上の動作を繰り返し行うことで、左右のベローズ13は、交互に移送流体の吸引と排出とを行うことができる。
【0044】
[効果の検証]
本実施形態のベローズポンプ10により得られる効果を検証するために、本発明者らが行った検証試験について説明する。この検証試験は、本実施形態のベローズポンプ10である実施例と、従来のベローズポンプである比較例とについて、それぞれベローズポンプの上流側(吸い込み側)の配管(以下、「上流側配管」ともいう)内における移送流体の圧力の変化を比較評価することで効果を検証した。
【0045】
実施例では、ベローズポンプ10の2つの吸込口35A,35Bに設けられた吸込用チェックバルブ38が、ばね定数が互いに異なる圧縮コイルばね38cを有している。また、比較例では、ベローズポンプの2つの吸込口に設けられた吸込用チェックバルブが、ばね定数が互いに同一である2つの圧縮コイルばねを有している。
【0046】
図8は、比較例に係るベローズポンプの上流側配管内における移送流体の圧力の変化を示すグラフである。なお、図8の上側には、上記移送流体の圧力変化に対応するベローズの伸長位置および収縮位置を示している。また、図中において、「バルブ開」は2つの吸込用チェックバルブが同時に開いた状態、「バルブ閉」は2つの吸込用チェックバルブが同時に閉じた状態を示している。図8に示す比較例では、ベローズの伸長動作が終了して2つの吸込用チェックバルブが同時に閉じたときに発生する衝撃圧力の最大値は、約0.51〜0.95MPaと高い値を示している。
【0047】
図9は、実施例に係るベローズポンプの上流側配管内における移送流体の圧力の変化を示すグラフである。なお、図9の上側には、上記移送流体の圧力変化に対応するベローズの伸長位置および収縮位置を示している。また、図中において、「バルブ1開」は、ばね定数が低い圧縮コイルばね38cを有する吸込用チェックバルブ38が開いた状態、「バルブ1閉」は当該吸込用チェックバルブ38が閉じた状態を示している。また、図中において、「バルブ2開」は、ばね定数が高い圧縮コイルばね38cを有する吸込用チェックバルブ38が開いた状態、「バルブ2閉」は当該吸込用チェックバルブ38が閉じた状態を示している。
【0048】
図9に示す実施例では、ベローズ13の伸長動作が終了して、ばね定数が高い圧縮コイルばね38cを有する吸込用チェックバルブ38が先に閉じたとき(「バルブ2閉」のとき)に発生する衝撃圧力の最大値は約0.22MPaであり、図8の比較例の衝撃圧力よりも低い値を示している。また、ばね定数が低い圧縮コイルばね38cを有する吸込用チェックバルブ38が閉じたとき(「バルブ1閉」のとき)に生じる衝撃圧力の最大値は0.08MPa以下であり、上記「バルブ2閉」のときよりも低い値を示している。
【0049】
したがって、図8の比較例と図9の実施例とを比較すると、2つの吸込用チェックバルブ38がそれぞれ閉弁するタイミングをずらすことで、移送流体の吸い込み(ベローズの伸長動作)から吐出(ベローズの収縮動作)に切り換わるときに発生する衝撃圧力を効果的に抑制できるのが分かる。
【0050】
[効果について]
以上、本実施形態のベローズポンプ10によれば、移送流体を吸い込むための第1及び第2吸入通路331,332にそれぞれ設けられた2つのチェックバルブ381,382において、それぞれの弁体38bを閉弁方向に押圧付勢する圧縮コイルばね38cのうち、一方のばね定数は他方のばね定数よりも高く設定されている。このため、移送流体の吸い込みから吐出に切り換わるときに、各チェックバルブ381,382がそれぞれ閉弁するタイミングをずらすことができる。これにより、一方のチェックバルブが先に閉弁したときに生じる衝撃圧力を、開弁状態である他方のチェックバルブから吸込通路側へ逃がすことができるので、移送流体の吸い込みから吐出に切り換わるときに発生する衝撃圧力を効果的に抑制することができる。
【0051】
また、前記一方のばね定数は、前記他方のばね定数の1.1〜1.3倍に設定されているので、ばね定数が高い圧縮コイルばね38cを有するチェックバルブの開弁動作に支障をきたすことなく、上記衝撃圧力を効果的に抑制することができる。
また、前記他方のばね定数は、従来の圧縮コイルばねと同一のばね定数に設定されているので、前記他方のばね定数を有する圧縮コイルばねとして、従来の圧縮コイルばねを流用することができる。これにより、ベローズポンプ10を安価に製作することができる。
【0052】
また、本実施形態では、バルブケース38aと弁体38bとの間において周方向に隣り合うガイド部38e同士の間に形成された空間Sが、弁体38bの開弁中に移送流体を通過させる流通路とされている。このため、本実施形態のチェックバルブ38は、図5に示す変形例のように、ガイド部38e以外に流通路を形成するための部材(流通部38f)を弁体38bに設ける必要がないので、弁体38bを軽量化することができ、弁体38bを移動させるときの移送流体による抵抗も小さくすることができる。その結果、弁体38bの移動を迅速に行うことができる。
【0053】
[その他]
なお、今回開示された実施形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した意味ではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味、及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
例えば、ベローズポンプ10は、上記実施形態以外に、左右一対のベローズが互いに独立して伸縮するベローズポンプや、一対のベローズのうちの一方をアキュムレータに入れ替えて構成されたベローズポンプ、また、上記特許文献2のようにベローズの外側に移送流体が給排されるベローズポンプなど、他のベローズポンプにも適用することができる。
【符号の説明】
【0054】
10 ベローズポンプ
11 ポンプヘッド
13 ベローズ
34 吐出通路
38a バルブケース
38b 弁体
38c 圧縮コイルばね
38e ガイド部
331 第1吸込通路
332 第2吸込通路
381 第1チェックバルブ
382 第2チェックバルブ
S 空間
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9