(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
人工呼吸器を用いて被検者の呼吸を補助する場合、人工呼吸器による呼吸の補助が適正であるか否かを判断するために、被検者の循環動態を把握することが有効であると考えられる。
【0005】
そこで、本発明者は、呼吸性変動を用いて、人工呼吸器で呼吸が補助されている被検者の循環動態を把握する方法を思案した。しかし、従来技術の装置を用いて算出された呼吸性変動は、被検者の循環動態を把握する指標としては、精度が低い場合があった。
【0006】
本発明は、被検者の循環動態を把握する指標としての呼吸性変動を算出する精度を向上させることが可能な脈波解析装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明の脈波解析装置は、
被検者の脈波を取得する脈波取得部と、
前記被検者の呼吸情報を取得する呼吸情報取得部と、
前記脈波から呼吸性変動を算出する解析部と、
を備え、
前記解析部は、
前記呼吸情報に基づいて、自発呼吸が発生したことを検出するとともに当該自発呼吸の呼気終末期を検出する検出部と、
前記脈波のうち、前記自発呼吸の前記呼気終末期の直後に発生した単位脈波を、前記呼吸性変動を算出するための前記脈波から排除する排除部と、
を有する。
【0008】
自発呼吸の呼気終末期の直後に発生する単位脈波は、胸腔内圧の異常変動により波形が乱れる傾向にあるとの医学的知見がある。上記構成によれば、呼吸性変動を算出する際に、自発呼吸の呼気終末期の直後に発生する単位脈波を排除する。このため、例えば人工呼吸器を用いて被検者の呼吸を補助している際に、被検者の循環動態を把握する指標としての呼吸性変動を精度良く求めることができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明の脈波解析装置によれば、被検者の循環動態を把握する指標としての呼吸性変動を算出する精度を向上させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本実施形態の一例について、図面を参照して詳細に説明する。
図1は、脈波解析装置1を示す機能ブロック図である。脈波解析装置1は、人工呼吸器が装着されている被検者に対して、呼吸性変動を算出する機能を有する装置である。呼吸性変動を示す値としては、例えば脈圧の変化率を示すPPV(pulse pressure variation),脈圧の収縮期圧の変動率を示すSPV(systolic pressure variation),拍出量における変化率を示すSVV(stroke volume variation),動脈血酸素飽和度(SpO
2)における脈波の変動率を示すPVI(pleth variability index)等の値を選択しうる。
【0012】
図1に示すように、脈波解析装置1は、脈波取得部2と、呼吸情報取得部3と、解析部4と、制御部5と、表示部6と、報知部7とを備えている。
【0013】
脈波取得部2は、記録ユニットAと通信可能に接続されている。脈波取得部2は、被検者の動脈圧を記録ユニットAから取得して、動脈圧から血圧波形(脈波)を取り出す。脈波は、連続する複数の単位脈波により構成されている。単位脈波とは、一つの心拍に対応する一単位の脈波のことを意味する。記録ユニットAは、例えば、被検者の血管に挿入されるカテーテル等により構成されている。なお、記録ユニットAとして例えば上腕部に装着する血圧測定カフ、プローブを指先や耳などに装着するパルスオキシメータ等を用いても良い。
【0014】
呼吸情報取得部3は、記録ユニットBと通信可能に接続されている。呼吸情報取得部3は、記録ユニットBから呼吸情報を取得する。記録ユニットBは、例えば、被検者に装着された管チューブを介して空気を出し入れ(換気)することにより被検者の呼吸を補助する人工呼吸器で構成されている。呼吸情報には、例えば、人工呼吸器によって制御されている強制換気の周期、被検者の自発呼吸の発生タイミング、被検者の呼吸回数、被検者の呼吸における二酸化炭素濃度(CO
2濃度)等が含まれる。人工呼吸器は、自発呼吸を発生する被検者に対しても補助対応が可能に構成されている。人工呼吸器は、例えばA/C(assist control),SIMV(synchronized intermittent mandatory ventilation),PSV(puressure support ventilation),CPAP(continuous positive airway pressure)等の換気モードを備えている。
【0015】
解析部4は、被検者から取得された脈波に基づいて呼吸性変動の値を算出する。本例では、解析部4は、呼吸情報を用いて単位脈波を選別して呼吸性変動の値を算出している。解析部4は、検出部71と、排除部72とを備えている。
【0016】
検出部71は、呼吸情報に基づいて、被検者に自発呼吸が発生したことを検出する。また、検出部71は、検出した自発呼吸における呼気終末期を検出する。
【0017】
排除部72は、被検者から取得された脈波において、被検者の自発呼吸における呼気終末期の直後に発生した単位脈波を特定する。排除部72は、特定した単位脈波を被検者の脈波から排除する。
【0018】
制御部5は、表示部6の表示内容、報知部7の報知内容等を制御する。表示部6は、解析部4から出力される脈波の解析情報を表示する。表示部6は、例えばタッチパネル式の液晶ディスプレイで構成されている。報知部7は、解析結果の異常を報知する。報知部7は、例えばスピーカで構成されている。
【0019】
次に、解析部4によって算出される呼吸性変動について、
図2を参照して説明する。
呼吸性変動(本例ではPPVを用いる)は、下記の式1から求められる。
【数1】
【0020】
この式から求められる呼吸性変動は、一呼吸内における脈波の最大振幅(PPmax)と最小振幅(PPmin)の差分を、脈波の最大振幅と最小振幅の平均で割ることによって求められる値であり、一呼吸内における脈波の振幅の大きさの変動率を表わしている。なお、この計算は、時間軸上のデータに対する演算で完結しており、一呼吸ごとに1つの変動率が求められる。
【0021】
次に、脈波取得部2、呼吸情報取得部3によって取得される生体情報について、
図3を参照して説明する。
図3に示される2つのグラフのうち、上段のグラフは、脈波取得部2によって取得された被検者の脈波を表しており、下段のグラフは、呼吸情報取得部3によって取得された被検者のCO
2濃度を表している。脈波取得部2と呼吸情報取得部3とは、脈波取得部2が脈波を取得するタイミングと呼吸情報取得部3がCO
2濃度を取得するタイミングとが同期するように構成されている。
【0022】
CO
2濃度のグラフに示されるように、本例では人工呼吸器で制御される強制換気の周期は、吸気2秒、呼気3秒となるように設定されている。また、呼気41と呼気42との間に波形40が発生しているが、これは被検者が自発呼吸をしたことに伴うCO
2濃度の変化を表している。また、呼気44の期間が3秒より短くなっているが、これは呼気44の途中で被検者が自発呼吸45を発生したことを表している。
【0023】
脈波のグラフに示されるように、被検者の自発呼吸(波形40)の発生タイミングに同期して、直前の単位脈波20の振幅に対して変動率が大きい(振幅が小さい)単位脈波21が発生している。また、被検者の自発呼吸45の発生に伴って、呼気44の終了後に、直前の単位脈波22の振幅に対して変動率が大きい(振幅が小さい)単位脈波23が発生している。本例では、自発呼吸、不整脈、体位の変化、体動、不整脈等を要因として振幅が変動する各単位脈波のうち、自発呼吸を要因として振幅が変動する単位脈波を検出して排除する。
【0024】
本発明者は、単位脈波を排除するに際し、呼吸の呼気終末期直後の吸気において脈波の振幅が変動する傾向があることに着目した。そこで、先ず呼気終末期に検出される単位脈波を全ての呼気終末期直後の吸気において排除した。しかしながら、この場合、呼吸性変動の算出に有効な(除去すべきでない)単位脈波まで排除してしまい、呼吸性変動を精度良く算出することができなかった。
【0025】
次に、本発明者は、被検者の自発呼吸の有無を考慮して検討した。人工呼吸器を装着している被検者が自発呼吸を発生した場合、人工呼吸器により補助される吸気開始のタイミングは、機器の応答時間の分だけ遅延するため、吸気時の胸腔内圧は、人工呼吸器を装着していない被検者より更に大きな陰圧になる。胸腔内圧が陰圧になると血液が胸腔内に引き込まれて貯溜されるため、そのタイミングで排出量が低下してその後の脈波の振幅に変動が生じる。また、吸気の強弱によっても胸腔内圧の低下率は変化し、その胸腔内圧の低下によってもその後の脈波の振幅に変動が生じる。そこで、本発明者は、自発呼吸が発生した際の、その自発呼吸の呼気終末期直後の吸気における振幅変動率の大きい単位脈波(例えば
図3に示される単位脈波23)を排除することとした。
【0026】
次に、
図4,
図5を参照して脈波解析装置1の動作を説明する。
準備段階として、カテーテル(記録ユニットA)が被検者の血管内に挿入される。なお、被検者には、人工呼吸器(記録ユニットB)が装着されている。
【0027】
脈波の解析動作が開始されると、脈波取得部2は、カテーテルにより記録された動脈圧をカテーテルから取得し、取得された動脈圧に信号処理を施して血圧波形(脈波)を取り出す(ステップS101,
図3の上段グラフ)。また、呼吸情報取得部3は、被検者のCO
2濃度(
図3の下段グラフ)、呼吸周期、自発呼吸の発生タイミング、呼吸回数等の呼吸情報を人工呼吸器から取得する(ステップS101)。
【0028】
解析部4の検出部71は、呼吸情報取得部3から呼吸情報を取得し、被検者が自発呼吸を発生したことを検出するとともに、発生した自発呼吸の呼気終末期を検出する(ステップS102)。
【0029】
排除部72は、脈波取得部2から脈波を取得し、上記自発呼吸の呼気終末期に同期して取得された脈波を特定する。排除部72は、特定した脈波のうち、自発呼吸の呼気終末期の直後に発生した単位脈波を特定し、特定した単位脈波を一呼吸内の脈波から排除する(ステップS103)。
【0030】
解析部4は、ステップS103で処理された排除後の脈波に基づいて、各一呼吸における呼吸性変動を算出する(ステップS104)。
【0031】
続いて、制御部5は、ステップS101で脈波取得部2及び呼吸情報取得部3によって取得された生体情報、自発呼吸の発生有無および発生タイミング、ステップS104で算出された各一呼吸の呼吸性変動の値等を表示部6のディスプレイ上に表示させる(ステップS105,
図5)。
【0032】
制御部5は、算出された呼吸性変動の値が予め定められた閾値を超えている場合には、例えば警告アラームを報知部7から出力させる(ステップS106)。
【0033】
ところで、呼吸性変動(例えばPPV)は、循環血液量不足による輸液管理のために重要なパラメータとして期待されている。しかしながら、現在の呼吸性変動は、制限事項が多く、不整脈や自発呼吸の発生が無い人工呼吸器による安定した陽圧呼吸時のみに測定可能な仕様である。これに対して、例えば集中治療室(Intensive Care Unit)では、被検者が自発呼吸を発生する場合、その自発呼吸を活かす人工呼吸器の換気モードを使用していることが多い。このため、自発呼吸の発生に伴って変動する単位脈波を要因として、呼吸性変動の値が不安定となる場合も多い。
【0034】
これに対して、本発明の構成によれば、呼吸性変動を算出する際に、自発呼吸の呼気終末期の直後に発生する単位脈波、即ち不連続に変化する(振幅の変動率が大きい)単位脈波を排除することができる。このため、例えば人工呼吸器を用いて被検者の呼吸を補助している際に、被検者が自発呼吸を発生しても、被検者の循環動態を把握する指標としての呼吸性変動を精度良く求めることができる。
【0035】
図6は、本発明により算出される呼吸性変動の値と従来方法により算出される呼吸性変動の値とを比較したグラフである。
図6において、横軸は呼吸性変動が算出された一呼吸のサンプル番号を示し、縦軸は呼吸性変動の値を示す。符号61で示す記号は、自発呼吸の有無を問わず(脈波を排除せず)全ての単位脈波を用いる従来方法により算出された呼吸性変動の値を示す。符号62で示す記号は、自発呼吸発生時の変動率の大きい単位脈波を排除する本発明により算出された呼吸性変動の値を示す。
【0036】
被検者に体位の変化、体動、自発呼吸、不整脈等が発生していない一呼吸の呼吸性変動(例えばサンプル番号1)では、従来方法による算出でも本発明による算出でも同程度の呼吸性変動の値を示している。これに対して、被検者に自発呼吸が発生した際の一呼吸の呼吸性変動(例えばサンプル番号4)では、従来方法により算出された場合、サンプル番号1の呼吸性変動の値と比較すると大きく変動しているが、本発明により算出された場合、サンプル番号1の呼吸性変動の値と同程度の値が算出されている。なお、被検者に咳、体動が発生した際の一呼吸の呼吸性変動(例えばサンプル番号3)では、従来方法の場合も本発明の場合も呼吸性変動の値は同様に変動している。
【0037】
上記の実施形態は本発明の理解を容易にするためのものであって、本発明を限定するものではない。本発明は、その趣旨を逸脱することなく変更・改良され得ると共に、本発明にはその等価物が含まれることは明らかである。
【0038】
例えば、上記形態では、排除部72は、脈波のうち、自発呼吸の呼気終末期の直後に発生した単位脈波を全て排除したが、これに限定されず、単位脈波の振幅の変動率に基づいて脈波から単位脈波を排除するようにしても良い。
【0039】
この場合、排除部72は、被検者の自発呼吸における呼気終末期の後に発生する単位脈波の振幅を計測する。振幅の計測は、所定期間(例えば呼気終末期直後の一吸気期間)内に含まれる各単位脈波の振幅を計測する。排除部72は、計測した各単位脈波の振幅を所定期間(例えば1分間)に含まれる単位脈波の平均振幅と比較し、平均振幅に対して所定(例えば50%)以上の変動率を有する単位脈波を排除する。なお、単位脈波の平均振幅を算出する所定期間は、例えば被検者に自発呼吸、体位の変化、体動、不整脈等が発生していない一呼吸の期間としても良い。
【0040】
この構成によれば、自発呼吸の呼気終末期後の所定期間内に発生する変動率が大きい単位脈波を排除することができ、呼吸性変動を更に精度良く求めることができる。
【0041】
また、例えば、上記形態では、呼吸性変動を示す値として、
図2のようにPPVを用いているが、この他のSPV等を用いても良い。