特許第6577945号(P6577945)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6577945
(24)【登録日】2019年8月30日
(45)【発行日】2019年9月18日
(54)【発明の名称】高分子ナノファイバ製造装置
(51)【国際特許分類】
   D01D 5/08 20060101AFI20190909BHJP
   D04H 1/736 20120101ALI20190909BHJP
   D04H 1/4382 20120101ALI20190909BHJP
【FI】
   D01D5/08 F
   D04H1/736
   D04H1/4382
【請求項の数】2
【全頁数】23
(21)【出願番号】特願2016-525866(P2016-525866)
(86)(22)【出願日】2014年10月22日
(65)【公表番号】特表2016-534240(P2016-534240A)
(43)【公表日】2016年11月4日
(86)【国際出願番号】US2014061737
(87)【国際公開番号】WO2015061428
(87)【国際公開日】20150430
【審査請求日】2017年10月18日
(31)【優先権主張番号】61/893,958
(32)【優先日】2013年10月22日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】390023674
【氏名又は名称】イー・アイ・デュポン・ドウ・ヌムール・アンド・カンパニー
【氏名又は名称原語表記】E.I.DU PONT DE NEMOURS AND COMPANY
(74)【代理人】
【識別番号】100086771
【弁理士】
【氏名又は名称】西島 孝喜
(74)【代理人】
【識別番号】100088694
【弁理士】
【氏名又は名称】弟子丸 健
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100084663
【弁理士】
【氏名又は名称】箱田 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100093300
【弁理士】
【氏名又は名称】浅井 賢治
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【弁理士】
【氏名又は名称】服部 博信
(72)【発明者】
【氏名】フアン タオ
(72)【発明者】
【氏名】ダリー トーマス パトリック
(72)【発明者】
【氏名】ディルワース ザカリー アール
【審査官】 小石 真弓
(56)【参考文献】
【文献】 特表2011−506797(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/096672(WO,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2008/0242171(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D01D 1/00−13/02
D04H 1/00−18/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
高分子ナノファイバを作製する紡糸装置であって、
(a)スピニングディスクまたはスピニングボウルを含む高速回転部材であって、縁辺を有し、かつ誘導加熱によって加熱されてもよい高速回転部材と、
(b)前記回転部材の前記縁辺上の鋸歯状部と接触して、包囲鋸歯状部を形成するように設置される保護シールドであって、前記スピニングディスクの最上部または前記スピニングボウルの底部に位置付けられた保護シールドと、
(c)前記回転部材の底部にある静止シールドと、
(d)任意選択の延伸領域と
を含む紡糸装置。
【請求項2】
請求項1に記載の紡糸装置から製造される高分子ナノファイバであって、個数平均直径が500nm未満のナノファイバを数において少なくとも99%含む高分子ナノファイバから製造されるナノファイバウェブであって、
(a)前記ナノファイバウェブの作製に使用されたポリマと比較して、前記ナノファイバウェブのMw(重量平均分子量)減少が5%未満であり、
(b)TGAで、サンプルに対して窒素中において室温から900℃への10/分での標準的な加熱を行い、測定される場合に、前記ナノファイバウェブの作製に使用された前記ポリマと比較して、熱重量減少を示す分解曲線の傾きじであり、
(c)前記ナノファイバウェブの作製に使用された前記ポリマと比較して、前記ナノファイバウェブの結晶化度がより高く、および
(d)平均ウェブ強度が少なくとも2.5N/cmである、
ナノファイバウェブ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、個数平均ナノファイバ直径が1000nm未満のナノファイバ網状構造を含む無欠陥のナノファイバウェブおよびナノファイバ膜を製造するための改良型遠心力ナノファイバ紡糸装置に関する。
【背景技術】
【0002】
高分子ナノファイバは、溶液を用いるエレクトロスピニングまたはエレクトロブローイング法で製造可能であるが、その加工費用は非常に高く、スループットに限界があり、生産性も低い。繊維をランダムに堆積させるメルトブローナノファイバ工程では、ほとんどの最終利用分野において適切な均一性が十分に高いスループットで提供されない。その結果として得られるナノファイバは、粗繊維の不織布またはマイクロファイバの不織布の基板層の上に設置されて、多層構造を形成することが多い。ウェブの上部で露出するメルトブロー方式によるナノファイバまたは小さいマイクロファイバの問題は、これらが非常に脆く、通常の取扱いまたは何らかの物体との接触により容易に壊れることである。また、このようなウェブの多層構造という性質から、その厚さと重量が増し、製造も幾分複雑化する。遠心力紡糸方式のナノファイバ工程によれば、ナノウェブの大量生産における製造コストが低下することがわかっている。
【0003】
DuPontの米国特許第8,277,711 B2号明細書は、回転薄膜フィブリル化を通じたノズルレス遠心力メルトスピン工程を開示している。個数平均直径が約500nm未満のナノファイバが開示され、ポリプロピレンおよびポリエチレン樹脂から紡糸された例において示されている。実際には、均一なナノファイバを作製するためのオペレーションウィンドウは非常に狭く、これは、スピニングディスクの内面上の均一で円滑な薄膜流れが要求され、それにはポリマの正しいレオロジ特性、および温度と回転速度と溶融物供給速度との正しい組合せが必要となるからである。そうでなければ、スピニングディスクの内面上に均一で円滑な薄膜流れがないであろう。薄膜流れの不安定性と薄膜の厚さのばらつきは、ナノファイバと混在するより太い繊維が形成される原因となる。ディスクの温度が高すぎると、溶融状態の糸が、熱劣化の可能性および液滴への破砕によって弾性を失うことがありえ、その結果、ナノファイバが微粒子または粉末と混在することになりかねない。ディスクの温度が低すぎると、スピニングディスクの内面上の溶融物の造膜流れに衝撃波不安定性が生じて、造膜流れの移動前面が壊れ、スピニングディスクから飛散し、その結果、ナノファイバに大型の欠陥、たとえば「タッドポール」および「スパッタ」等が混在しうる。
【0004】
米国特許第8,277,711 B2号明細書の工程で作製されたナノファイバは、国際公開第2013/096672号パンフレットの工程を使ってベルトコレクタ上に堆積させて、均一なウェブ媒体を形成することができ、その中では複雑な空気流管理を実行する必要がある。そうでなければ、高速回転ディスクの下で起こる「旋風」様効果による繊維ストリームの渦巻きおよびねじれのために、均一なウェブを堆積させることができない。
【0005】
テキサス大学の米国特許第8,231,378 B2号明細書(後にFibeRio Technology Corporationが所有)は、直径0.01〜0.80mmの一般的開口を有するシリンジ、マイクロメッシュポア、またはノンシリンジギャップ等のノズルを有する回転スピナレットからの遠心力ナノファイバ紡糸方式を開示している。個数平均直径が1マイクロメートル以上のマイクロファイバおよびナノファイバが示されている。個数平均直径が約300nm未満のナノファイバが開示されている。一般に、ノズルを通じた遠心力紡糸方式の場合、ノズルオリフィスを通る毛細管流とノズル出口における溶融物ダイスウェルによってスループットが格段に低い。最新技術では、ポリプロピレンナノファイバを溶融物から紡糸した場合に、薄膜ナノファイバのうちスクリム上に堆積できるのはごくわずかな坪量にすぎない。PPウェブは、強度が非常に低く、スクリムがないと扱いにくかった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
必要とされているのは、米国特許第8,277,711 B2号明細書の遠心力メルトスピンナノファイバ工程を改良して、はるかに広いオペレーションウィンドウでナノファイバウェブを作製し、上述の問題に対応し、欠点を排除することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、高分子ナノファイバを作製する紡糸装置に関し、これは、(a)スピニングディスクまたはスピニングボウルを含む高速回転部材であって、縁辺を有し、かつ誘導加熱によって加熱することもできる高速回転部材と、(b)回転部材の縁辺に固定されて、包囲鋸歯状部を形成する保護シールドであって、スピニングディスクの最上部またはスピニングボウルの底部に位置付けられた保護シールドと、(c)回転部材の底部にある静止シールドと、(d)任意選択の延伸領域とを含む。
【0008】
本発明はさらに、この紡糸装置から製造される高分子ナノファイバにも関し、高分子ナノファイバは、個数平均直径が約500nm未満のナノファイバを数において少なくとも約99%含む。
【0009】
本発明はさらに、これらの高分子ナノファイバから製造されるナノファイバウェブにも関し、ナノファイバウェブは、(a)そのナノファイバウェブの作製に使用されたポリマと比較して、ナノファイバウェブのMw減少が約5%未満であり、(b)TGAで測定される場合に、そのナノファイバウェブの作製に使用されたポリマと比較して、熱重量減少が基本的に同じであり、(c)そのナノファイバウェブの作製に使用されたポリマと比較して、ナノファイバウェブの結晶化度がより高く、および(d)平均ウェブ強度が少なくとも約2.5N/cmである。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】スピニングディスクを用いた装置の図である。
図2】スピニングボウルを用いた装置の図である。
図3】スピニングディスクの内面上の均一で安定な薄膜流れと完全な純度のナノファイバ形成との高速度ビデオ画像である。
図4】スピニングディスクの内面上の不安定な薄膜流れと、オペレーションウィンドウから紡出されたときにありうるナノファイバ、マイクロファイバ、粗繊維、および欠陥の混在物の形成との高速度ビデオ画像である。
図5】スピニング液の粘度が高い場合のスピニングディスクの内面上の不安定な薄膜流れと、オペレーションウィンドウから紡出されたときにありうるナノファイバ、マイクロファイバ、粗繊維、および欠陥の混在物の形成との高速度ビデオ画像である。
図6】スピンディスクの内面上でありうる薄膜の「衝撃波」不安定性および「タッドポール」欠陥の形成を示す。
図7A】スピンディスクの内面上でありうる薄膜の波面不安定性を示す。
図7B】「スパッタ」欠陥としての、ありうる波面の破砕およびディスク表面からの飛散を示す。
図8A-8B】本発明による包囲鋸歯状部を有するスピンディスクまたはスピンボウルの縁辺と鋸歯状部構造の図である。図8Aは、スピンディスクの縁辺の鋸歯状部を示す。図8Bは、スピンディスクのための保護シールドを示す。
図8C-8F】本発明による包囲鋸歯状部を有するスピンディスクまたはスピンボウルの縁辺と鋸歯状部構造の図である。図8Cは、より狭くなるスピンディスク縁辺鋸歯状部を示す。図8Dは、一定のままのスピンディスク縁辺鋸歯状部を示す。図8Eは、より鋭利な端点を有するスピンディスク縁辺鋸歯状部を示す。図8Fは、より深くなるスピンディスク縁辺鋸歯状部を示す。
図9A-9C】スピンディスクまたはスピンボウルの縁辺鋸歯状部構造を示す。図9Aは、真円の半分の形状の鋸歯状部を示す。図9Bは、楕円の半分の形状の鋸歯状部を示す。図9Cは、放物線の半分の形状の鋸歯状部を示す。
図10A】スピンオリフィスの通路の、スピンディスクまたはボウルの半径方向の断面図である。
図10B】スピンオリフィスの、スピンディスクまたはボウルの縁辺に沿った断面図である。
図11A-11B】図11Aは、マルチノズルディスクからのナノファイバ形成の上面から見た高速度ビデオ画像を示す。図11Bは、ノズルフリーディスクからのナノファイバ形成の上面から見た高速度ビデオ画像を示す。
図12】ナノファイバ形成および紡糸の上面から見た高速度ビデオ画像を示す。
図13】ナノファイバ形成および紡糸の側面から見た高速度ビデオ画像を示す。
図14】スピンディスクの大きさに関するスピンディスクの内面上の薄膜流れにかかるせん断速度の図である。
図15】供給速度およびディスク回転速度に関するスピンディスクの内面上の薄膜流れの厚さの図である。
図16A】静電帯電および空気流管理を行わずに堆積されたときの「竜巻」様現象を示す。
図16B】スピニングディスクの下に静止シールドを使用することにより「竜巻」様現象が発生しない場合の堆積を示す。
図17A-17B】例1の、それぞれ100×および2500×の倍率でのSEM画像を示す。
図18A-18B】ナノファイバ、マイクロファイバ、粗繊維、微粒子および「スパッタ」欠陥の混在物を有する比較例1の、それぞれ500×および2500×の倍率でのSEM画像を示す。
図19A-19B】ナノファイバ、マイクロファイバ、粗繊維、微粒子および「スパッタ」欠陥の混在物を有する比較例2の、それぞれ100×および250×の倍率でのSEM画像を示す。
図20】ナノファイバ、マイクロファイバ、カールした粗繊維、および「スパッタ」および「タッドポール」欠陥の混在物を有する比較例3のSEM画像を示す。
図21】例1のナノファイバウェブおよびこのウェブの作製に使用されたポリマ樹脂ペレットのTGA測定結果を示す。
図22】例1および比較例1のナノファイバウェブならびにこのウェブの作製に使用されたポリマ樹脂ペレットの巨大分子量測定結果を示す。
図23】例1のナノファイバウェブおよびこのウェブの作製に使用されたポリマ樹脂ペレットのDSC測定結果を示す。
図24】例1および比較例1のナノファイバウェブの平均ウェブ強度測定結果を示す。
図25】比較例3のナノファイバウェブの4カ所からのウェブ強度測定結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
定義
「ウェブ」という用語は、本明細書中で使用されるかぎり、一般に不織布として作製される繊維の網状構造の層を指す。
【0012】
「不織布」という用語は、本明細書中で使用されるかぎり、基本的にランダムな向きの複数の繊維のウェブであって、全体の繰返し構造が繊維の配置において裸眼で認識できないものを指す。繊維は相互に結合でき、または結合せずに絡み合わせて、ウェブに強度と完全性を付与できる。繊維は、ステープルファイバまたは連続繊維とすることができ、また、単独の材料でも、または異なる繊維の組合せもしくは各々が異なる材料を含む同様の繊維の組合せとしての複数の材料でも含むことができる。
【0013】
「ナノファイバウェブ」という用語は、本明細書中で使用されているかぎり、主にナノファイバから構成されたウェブを指す。「主に」とは、ウェブ中の繊維の50%超がナノファイバであることを意味する。
【0014】
「ナノファイバ」という用語は、本明細書中で使用されるかぎり、個数平均直径が約1000nm未満である繊維を指す。断面が円以外のナノファイバの場合、「直径」という用語は、本明細書中で使用されるかぎり、最大断面寸法を指す。
【0015】
「マイクロファイバ」という用語は、本明細書中で使用されるかぎり、個数平均直径が約1.0μm〜約3.0μmである繊維を指す。
【0016】
「粗繊維」とは、本明細書中で使用されるかぎり、個数平均直径が約3.0μmより大きい繊維を指す。
【0017】
「遠心力紡糸工程」という用語は、本明細書中で使用されるかぎり、繊維が回転部材から吐出されることによって形成されるすべてのプロセスを指す。
【0018】
「回転部材」という用語は、本明細書中で使用されるかぎり、小繊維または繊維が遠心力により形成される材料を推進または分散させる紡糸装置を指し、空気等のその他の手段がこの推進に援用されるか否かを問わない。
【0019】
「凹部」という用語は、本明細書中で使用されるかぎり、半球形などの断面を湾曲させることのできる、または楕円、双曲線、放物線の断面を有する、または円錐台形とすることのできる、またはその他の回転部材の内面を指す。
【0020】
「スピンディスク」という用語は、本明細書中で使用されるかぎり、凹状、円錐台形、または平坦な開放内面を有するディスク形状の回転部材を指す。
【0021】
「スピンボウル」という用語は、本明細書中で使用されるかぎり、凹状または円錐台形の開放内面を有するボウル形状の回転部材を指す。
【0022】
「小繊維」という用語は、本明細書中で使用されるかぎり、小繊維が弱力化したときに形成される細繊維の前駆体として形成されうる長尺構造を指す。小繊維は、回転部材の放出点において形成される。放出点は、繊維を形成するために流体が押し出される縁辺、鋸歯状部、またはオリフィスであってもよい。
【0023】
「ノズルフリー」という用語は、本明細書中で使用されるかぎり、ノズル型紡糸オリフィスからではない小繊維もしくは繊維、または回転部材にノズルがないことを指す。
【0024】
「帯電した」という用語は、本明細書中で使用されるかぎり、非帯電物体または正味電荷を有さない物体に関して、正または陰極の正味電荷を有する工程中の物体を指す。
【0025】
「紡糸液」という用語は、本明細書中で使用されるかぎり、流動して繊維を形成できる、溶融物または溶液の形態の熱可塑性ポリマを指す。
【0026】
「放出点」という用語は、本明細書中で使用されるかぎり、紡糸部材の上の、そこから小繊維または繊維が吐出される位置を指す。放出点は例えば、縁辺または、そこから小繊維が押し出されるオリフィスであってもよい。
【0027】
「鋸歯状部」という用語は、本明細書中で使用されるかぎり、鋸歯の外観または鋭利な、もしくは歯のような突起の列を指す。鋸歯状切刃は、切断対象材料と多数の小さい接触点を有する。
【0028】
「微粒子および粉末」という用語は、本明細書中で使用されるかぎり、糸の粉砕によって溶滴から形成される粒子を指す。
【0029】
「タッドポール」という用語は、本明細書中で使用されるかぎり、タッドポールの形状の欠陥を指す。
【0030】
「スパッタ」という用語は、本明細書中で使用されるかぎり、コレクタ上に激しく強力に飛散させられた溶滴から形成される欠陥を指す。
【0031】
「ウェブ欠陥」という用語は、本明細書中で使用されるかぎり、微粒子、粉末、タッドポールの欠陥およびウェブのスパッタを指す。
【0032】
「波面不安定性」という用語は、本明細書中で使用されるかぎり、スピニングディスクの内面上の薄膜流れの移動前面の不安定性を指す。
【0033】
「衝撃波不安定性」という用語は、本明細書中で使用されるかぎり、図6に示されるように、大きく縮小し、強力な回転のための混合層形成として識別可能なものがほとんどない、スピニングディスクの内面上の薄膜流れの移動前面の擾乱の成長を指す。
【0034】
「レイリーテイラ不安定性」という用語は、本明細書中で使用されるかぎり、面曲率により誘起される遠心力とラプラス力との競合による、繊維形成における不安定性を指す。
【0035】
「鞭打ち不安定性」という用語は、本明細書中で使用されるかぎり、遠心力および空気力により駆動されるナノファイバの屈曲または鞭打ち運動を指す。
【0036】
「竜巻様」という用語は、本明細書中で使用されるかぎり、コレクタ表面および積乱雲状の渦を巻く繊維束の両方と接触する、激しく回転する繊維カラムを指す。
【0037】
「基本的に」という用語は、本明細書中で使用されるかぎり、あるパラメータが「基本的に」特定の値に保持されるとき、そのパラメータを説明する数値がその値から、本発明の機能に影響を与えない程度に変化した場合、この変化はそのパラメータの説明の範囲内に含まれるとみなされることを指す。
【0038】
本発明は、米国特許第8,277,711 B2号明細書の改良型遠心力ナノファイバ紡糸工程に関する。本発明は、スピンディスクを使用する場合は図1に示され、スピンボウルを使用する場合は図2に示される、高速回転ディスクまたはボウルを含み、米国特許第8,277,711 B2号明細書の工程を改良した、無欠陥のウェブを作製するためのメルトスピン装置である。ナノファイバ形成工程は、少なくとも1つの熱可塑性ポリマの紡糸溶融物を、前面繊維放出縁辺を有し、放出縁辺がその上に鋸歯状部を有する加熱回転ディスクの紡糸内面に供給するステップと、前記紡糸内面に沿って紡糸溶融物を放出して、紡糸溶融物を薄膜状に、かつ前面繊維放出縁辺に向かって分散させるステップと、前面放出縁辺から別々の溶融ポリマ繊維ストリームを放出して、繊維ストリームを弱力化させ、高分子ナノファイバを製造するステップとを含む。
【0039】
本発明には、無欠陥のナノファイバウェブおよび膜を作製するための、米国特許第8,277,711 B2号明細書の工程を改良する4つの主要な構成要素があり、これは、(1)保護シールドと、(2)包囲鋸歯状部と、(3)静止シールドと、任意選択で(4)延伸領域とである。保護シールドは、スピニングディスクの最上部またはスピニングボウルの底部に、スピニングディスクの内面への熱損失を防止するための溶融紡糸用熱保護シールドとして、およびスピニングディスクまたはボウルの内面上の薄膜流れからの急速な溶媒の蒸発を防止するための溶液紡糸用空気保護シールドとして設けられる。保護シールドは、回転ディスクの縁辺の鋸歯状部と接触して、包囲鋸歯状部を形成するように設置される。回転ディスクの縁辺の包囲鋸歯状部は、薄膜流れの不安定性とスピニングディスクの縁辺の厚さのばらつきを抑制する。その結果、包囲鋸歯状部は完全に無欠陥の純粋なナノファイバにつながり、マイクロファイバ、粗繊維、および欠陥の形成を排除する。静止シールドは、スピニングディスクまたはスピニングボウルの底部に設置されて、さらなる熱損失を保護し、均一なウェブ堆積のために、高速回転ディスクの下の「竜巻」様効果による繊維ストリームの渦巻きとねじれを防止する。回転ディスクの縁辺を取り囲むように配置された延伸領域およびその温度の保持は、糸を溶融状態に保ち、遠心力による延伸、すなわち長尺化を最大にするように設計され、実施される。延伸領域の直径はスピンディスクの直径の約1.5倍である。延伸領域の温度は、ナノファイバの作製にとって重要な要素である。
【0040】
高速回転する中空シャフト109または209に取り付けられたスピニングディスク102についての図1またはスピニングボウル202についての図2を考えると、繊維106または206が、スピニングディスク102の縁辺またはスピニングボウル202の縁辺の放出点から出ているように示されている。スピニングディスクまたはスピニングボウルと同じ直径の保護シールド101または201が、スピニングディスクの上に、スピニングディスクの内面への熱損失を防止するための溶融紡糸用熱保護シールドとして、およびスピニングディスクの内面上の薄膜流れからの急速な溶媒の蒸発を防止するための溶液紡糸用空気保護シールドとして取り付けられる。
【0041】
保護シールドは、回転ディスクの縁辺上の鋸歯状部と接触して、包囲鋸歯状部を形成するように設置される。回転ディスクの縁辺上の包囲鋸歯状部は、薄膜流れの不安定性とスピニングディスクの縁辺における厚さのばらつきを抑制する。
【0042】
スピニングディスク用の静止シールド104またはスピニングボウル用の静止シールド204はスピニングディスクの底部において、回転中空シャフトを通る静止シャフトに取り付けられて、熱損失を保護し、また、均一なウェブ堆積のための高速回転ディスクの下の「竜巻」様効果による繊維ストリームの渦巻きおよびねじれを防止する。
【0043】
回転ディスクの縁を取り囲む延伸領域は、破線の長方形の区域の中に示されている。延伸領域の温度は3つの加熱空気流の組合せからの弱風によって決定される。1つはスピニングディスクの上方の弱い加熱空気107または207からであり、もう1つは回転中空シャフト109または209の内部の静止熱風チューブから、スピニングディスクの底部と静止シールドとの間のギャップを通って延伸領域に到達する弱い加熱空気105または205のストリームからであり、残りの弱い加熱空気は下向きの流れ108または208である。延伸領域の温度は、糸を溶融状態に保って、遠心力による延伸、すなわち長尺化を最大にするように設計され、実施される。延伸領域の直径は、スピンディスクの直径の約1.5倍である。延伸領域の温度は、ナノファイバ作製の重要要素である。例の中のポリプロピレンの場合、延伸領域の温度は、よりよいナノファイバ紡出のため、および選択肢として繊維が静電電荷を帯びるようにするために、弱い加熱空気によって約180℃に最適化される。
【0044】
ナノファイバは、国際公開第2013/096672号パンフレットのウェブ堆積工程を使って水平なスクリムベルトコレクタまたは垂直な管状スクリムベルトコレクタの表面上に堆積され、その後、ウェブのロールが収集ベルトから自立ウェブロールとして巻き取られる。一般に、繊維はコレクタに向かって制御された方法で流れず、コレクタ上に均一に堆積しない。本発明では、スピニングディスクの下の静止シールドによって改良された国際公開第2013/096672号パンフレットの工程が使用される。静止シールドは高速回転ディスクの下の「竜巻」様の影響を防止するため、本発明では繊維ストリームの渦巻きとねじれが排除される。帯電リング100または200は任意選択によるものであり、針アセンブリまたは尖った歯を有するリングソーが延伸領域空気加熱リングの最上部に取り付けられて、スピニングディスクから吐出される小繊維および繊維106、またはスピニングボウルから吐出される小繊維および繊維206に正電荷を印加する。
【0045】
米国特許第8,277,711 B2号明細書の実践において、完全に純粋なナノファイバは、図3の高速度ビデオ画像として示されているように、スピニングディスクの内面上の均一で平滑な薄膜流れからしか作製できず、これにはポリマの正しいレオロジ特性、および温度、回転速度、溶融物供給速度の正しい組合せが必要である。しかしながら、オープンエンドのスピニングディスクの内面上の回転するポリマ薄膜の表面は、高速回転によって運ばれる冷たい空気との反応により冷却されるであろう。実際に、スピニングディスクの加熱は、正しい溶融物粘度と均一な薄膜流れとを有するようにするために、より高い温度となるであろう。したがって、温度を高く設定しすぎると、熱劣化の可能性がある。本発明はこの問題に対処しようとしている。スピニングディスク上の熱シールドは、回転するポリマ薄膜の表面温度の低下を最小限にするように設計される。スピニングディスクの上の熱シールドにより、ディスク加熱温度が下がり、熱劣化が最小限にされるか、または排除される。
【0046】
米国特許第8,277,711 B2号明細書の実践において、オペレーションウィンドウ内で温度、回転速度、および溶融物供給速度の組合せが正しくないと、スピニングディスクの内面上の薄膜流れが不安定となる。図4の高速度ビデオ画像は、大きな直径の糸が出てきてマイクロファイバ、粗繊維の形成につながることを示している。ポリマの粘度が高すぎるか、スピニングディスクまたはスピニングボウルの内面の温度が低すぎると、薄膜流れは、図5の高速度ビデオ画像に示されているように、スピニングディスクの内面上で流れず、うまく広がらない。これは、薄膜の均一なフィブリル化がないことを示している。図6は、スピニングディスクの内面上の薄膜流れの衝撃波不安定性を示している。図7Aの写真は、また図7Bに描かれているように、薄膜の不安定な波面からのありうる破砕と飛散を示している。その結果、大きい直径の糸が出てきて、マイクロファイバ、マイクロファイバの形成につながり、太い糸が破砕すると、微粒子、粉末、「タッドポール」および「スパッタ」等の欠陥が発生する。
【0047】
本発明において、熱シールドの縁辺が回転ディスクの縁辺の鋸歯状部と接触するように設置されて包囲鋸歯状部を形成する。回転ディスクの縁辺の包囲鋸歯状部は、薄膜流れの不安定性とスピニングディスクの縁辺における厚さのばらつきを抑制する。
【0048】
図8は、縁辺上の鋸歯状部を有するスピンディスクの縁辺構造を示している。スピンボウルも同じまたは同様の構造を有することができる。紡糸液(ポリマ溶液または溶融物)は、静止装置、例えばチューブ、搬送線、搬送リング、またその他を通じてスピニングディスクの中央領域の貯蔵部へと送達できる。貯蔵部内の紡糸液は、壁の側面穴と貯蔵部の内側底部を通って、スピニングディスクの内面へと流れ、薄膜流れを形成する。薄膜流れがスピニグディスクの縁辺の放出点に到達すると、薄膜は薄膜フィブリル化を通じて糸または小繊維に破砕する。スピニングディスクの縁辺には、約0〜15度の傾斜角αがある。スピニングディスクの縁辺の鋸歯状部は図8Aの中で802として示されている。図8Bにおいて、保護シールド800がスピニングディスクの内面を覆い、スピニングディスク801の縁辺の鋸歯状部と接触する。鋸歯状部構造を定義するパラメータは、長さL、深さD、間隔dであり、L/Dの比は約20:1、d/Dは約1:1、空間dは約200μm〜500μmの範囲内である。
【0049】
図8C〜8Fもまた、スピニングディスクまたはボウルの縁辺の内面上の鋸歯状部の各種の構造を示している。図8Cは、薄膜が鋸歯状部に入ってディスクから外に出るために、鋸歯状部の幅が徐々に狭くなることを示している。図8Dは、薄膜が鋸歯状部に入ってディスクから外に出るために、鋸歯状部の幅が一定であることを示している。図8Eは、薄膜が鋸歯状部に入る際のより尖った端と、薄膜が鋸歯状部に入り、ディスクから外に出るために、鋸歯状部の幅が徐々に狭くなることを示している。図8Fは、鋸歯状部がスピニングディスクの内面にスムーズに接続され、鋸歯状部の深さが徐々により深くなることを示している。
【0050】
図9A〜9Cは、スピニングディスクまたはボウルの縁辺の内面上の鋸歯状部の他の各種の構造を示している。1つの鋸歯状部の断面は、図9Aのように真円の半分であっても、図9Bのように楕円の半分であっても、図9Cのように放物線の半分である。鋸歯状部構造を定義するパラメータは、長さL、深さD、間隔dであり、L/Dの比は約20:1、d/Dは約1:1、間隔dは約200μm〜500μmの範囲内である。
【0051】
図10は、マルチノズルディスクまたはボウルのように、側面穴(紡糸オリフィス)を有するスピンディスクまたはボウルの縁辺の他の構造を示す。回転部材の側面の紡糸オリフィスの有用性は、繊維紡糸の先行技術において知られている。先行技術と米国特許第8,231,378 B2号明細書において、繊維紡糸は、紡糸オリフィスを通るバルクポリマから行われた。本発明では、ナノファイバ紡糸は、紡糸オリフィスを通る前に、回転ディスクまたはボウルの内面上の薄膜流れのせん断から得られた。図10Aにおいて、紡糸オリフィス1003はスピンディスクまたはボウル1001の縁辺に通路を形成する。紡糸オリフィスの内側の入口はスピニングディスクまたはボウルの内面1002と接触し、そこにつながる。図10Bにおいて、紡糸オリフィス構造を定義するパラメータは、長さL、入口の直径D、間隔dであり、L/Dの比は約20:1、d/Dは約1.5:1、間隔dは約200μm〜500μmの範囲内である。スピニングディスクの縁辺には約0〜15度の傾斜角αがあり、これもまた、紡糸オリフィスの断面の直径の漸減を定義する。
【0052】
ノズルフリースピンディスクまたはボウルと比較して、複数のノズルを有するスピンディスクまたはボウルは、高速度ビデオ画像の図11Aおよび11Bにそれぞれ示されているように、同じ動作条件下でスループットがより低く、平均繊維径がより大きい。
【0053】
包囲鋸歯状部を有するスピンディスクまたはスピンボウルでは、より均一なフィブリル化、より低い加熱設定点でのよりよい加熱、欠陥の削減または排除が得られる。図12は、本発明の包囲鋸歯状部を有するスピンディスクからの高速度ビデオ画像の上面図を示す。米国特許第8,277,711 B2号明細書のオープンエンドスピンディスクからの図3と比較すると、包囲鋸歯状部を有するスピンディスクでは、同じ動作条件下で、比較的小さい平均繊維径が得られる。スピニングディスクの縁辺におけるフィルム不安定性を抑制することによって、包囲鋸歯状部を有するスピンディスクでは、例えば微粒子、粉末、タッドポール、スパッタ、およびウェブ内の繊維束の数の減少といった欠陥が排除される。
【0054】
図13の高速度ビデオ画像は、本発明の包囲鋸歯状部と静止シールドとを有するスピンディスクからの繊維紡糸の側面図である。繊維は、鞭打ち不安定性がよく遅延され、円形に紡出される。スピニングディスクの下およびウェブ堆積コレクタの表面の上方に「竜巻」様の繊維ストリームがない。
【0055】
回転ディスクの内面上のポリマ薄膜流れと薄膜の厚さhとを考えたとき、ポリマ流れは、以下のべき乗則流体近似値で表すことができる。
τ=K|γ|n-1γ
式中、τは接線方向のせん断応力、γはせん断速度、Κは一意性の係数、nは流動指数であり、したがって、薄膜の厚さは(参考文献:O.K.Matar,G.M.Siscoev,and C.J.Lawrence,“The Flow of Thin Film Over Spinning Disk”,Canadian Journal of Chemical Engineering,84,Dec.2006)、
【数1】
となり、厚さ方向への薄膜速度は、
【数2】
となる。したがって、回転ディスクの内面上のポリマ薄膜にかかるせん断速度
【数3】
は、以下のように表すことができる。
【数4】
式中、Ωは回転速度、Qは溶融物供給速度、η0はポリマ溶融物の粘度、rはディスクの半径、ρは溶融物の濃度、λはパラメータの集合である。
【0056】
図14は、回転速度Ω=10,000rpmのときのスピンディスクの大きさに関する薄膜にかかるせん断速度を示す。最大12インチ(約300mm)の直径のディスク上の薄膜の厚さ10μm〜100μmに関して、薄膜にかかるせん断速度は104〜106-1である。これは、ポリマ溶融物のバルクからのその他の遠心力繊維紡糸工程と比較した、米国特許第8,277,711 B2号明細書の工程の顕著な特徴である。この工程のスループット(すなわち生産性)を概算するために、図15は、300mmのディスクのそれぞれの薄膜の厚さに対する回転速度に関するスピニングディスクへの供給流速の関係を示す。10,000rpmの回転速度で、薄膜の厚さ約50μm〜60μmのとき、流速は約200g/分である。150mmのディスクの場合、ナノファイバウェブが、ポリプロピレンから溶融物供給速度60g/分/ディスク、10,000rpmで作製された。
【0057】
遠心力紡糸工程からのナノファイバのウェブ堆積も別の難しい問題である。図16Aは、静電帯電と気流管理を一切行なわない堆積時の「竜巻」様現象を示している。図16Bは、本発明においてスピニングディスクの下に静止シールドを使用することにより、「竜巻」様現象が起きない堆積のケースを示している。
【0058】
本発明によれば、紡糸溶融物は少なくとも1種のポリマを含む。いずれの紡糸可能な繊維形成ポリマでも使用できる。好適なポリマには、ポリエチレンポリマとコポリマ、ポリプロピレンポリマとコポリマ等のポリオレフィン、ポリ(エチレンテレフタレート)、バイオポリエステル、サーモトロピック液晶ポリマ、およびPETコポリエステル等のポリエステルとコポリエステル、ポリアミド(ナイロン)、ポリアラミド、ポリカーボネート、ポリ(メタ)アクリレート等のアクリル樹脂とメタ−アクリル樹脂、ポリスチレンベースのポリマとコポリマ、セルロースエステル、熱可塑性セルロース、セルローシス、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン(ABS)樹脂、アセタール、塩素化ポリエーテル、ポリクロロトリフルオロエチレン(CTFE)、フッ素化−エチレン−プロピレン(FEP)等のフルオロポリマ、フッ化ビニリデン樹脂(PVDF)、ビニル、生分解可能ポリマ、バイオベースポリマ、2成分エンジニアリングポリマおよびブレンド、埋め込みナノコンポジット、天然ポリマ、およびこれらの組合せを含む熱可塑性材料が含まれる。本発明は、高分子ナノファイバを作製するための紡糸装置に関し、これは(a)スピニングディスクまたはスピニングボウルを含む高速回転部材であって、縁辺を有し、かつ誘導加熱によって加熱することもできる高速回転部材と、(b)回転部材の縁辺に固定されて包囲鋸歯状部を形成する保護シールドであって、スピニングディスクの最上部またはスピニングボウルの底部に位置付けられた保護シールドと、(c)回転部材の底部の静止シールドと、(d)任意選択の延伸領域とを含む。
【0059】
本発明はさらに、この紡糸装置から製造される高分子ナノファイバに関し、高分子ナノファイバは、個数平均直径が約500nm未満のナノファイバを数において少なくとも約99%含む。
【0060】
本発明はさらにまた、これらの高分子ナノファイバから製造されるナノファイバウェブに関し、ナノファイバウェブは、(a)そのナノファイバウェブの作製に使用されたポリマと比較して、ナノファイバウェブのMw減少が約5%未満であり、(b)TGAにより測定される場合に、そのナノファイバウェブの作製に使用されたポリマと比較して、熱重量損失が基本的に同じであり、(c)そのナノファイバウェブの作製に使用されたポリマと比較して、ナノファイバウェブの結晶化度がより高く、および(d)平均ウェブ強度が少なくとも約2.5N/cmである。
【0061】
試験方法
高速ビデオ画像:造膜および繊維紡糸を視覚化するために、高速度ビデオ画像を使って水溶液中のポリ(エチレンオキサイド)(PEO)の紡糸を観察した。Sigma−Aldrichから購入した300,000MwのPEOの重量パーセントが0%〜12%の水溶液を脱イオン水で調製した。Harvardの装置、PHD2000注入シリンジポンプを使って、回転形状紡糸までの溶液の流速を1,000〜30,000RPMに制御した。試験した流速は0.01〜50.00mL/分の範囲である。Canonの100mmマクロレンズを用いた2台のPhoton FASTCAM SA5モデル1300K−M3高速度ビデオカメラでこの場合に含められる画像を撮影し、一方のカメラは紡糸形状に平行に置き、もう1台のカメラはそれに垂直に置いた。カメラとレンズの設定は、7,000fpsでクラリティが最大になるようにし、シャッダ速度を0.37〜4.64μs、絞りをf2.8〜f32とした。
【0062】
熱分析:熱劣化と結晶化度を調べるために、TA InstrumentsのQ2000シリーズ差動走査熱量計(DSC)とQ500シリーズ熱重量分析アナライザ(TGA)を使って熱分析を行った。DSCサンプルに対し、窒素中において室温から250℃へと10℃/分での標準的な加熱−冷却−再加熱サイクルを行った。TGAサンプルに対しては、窒素中において室温から900℃へと10℃/分での標準的な加熱を行った。TA InstrumentsのUniversal Analysis 2000を使って熱データを分析した。207 J/gの100%結晶ポリプロピレンに関する融解エンタルピに関する容認された数値を使ってサンプルの結晶化度パーセントを測定した(参考文献:A van del Wal,J.J. Mulder,R.J Gaymans.Fracture of polypropylene:The effect of crystallinity.Polymer,Volume 39,Issue 22,October 1998,Pages 5477−5481)。
【0063】
分子量の測定:ポリオレフィン樹脂の分子量を高温サイズ排除クロマトグラフィ(SEC)で測定した。この方法は、150℃のトリクロロベンゼン(TCB)における多角度光散乱および粘度検出器の使用を含む。使用される機器には、溶媒送達および自動注入器を備えるPolymer Laboratories PL220液体クロマトグラフ機器と、Wyatt Technologies Dawn HELEOS多角度光散乱検出器(MALS)が含まれる。Polymer Laboratories SECは、内部差動粘度計と差動屈折計を含む。4本のPolymer Laboratories混合B SECコラムを分離のために使用した。サンプル注入量は200マイクロリットル、流速は0.5mL/分とした。サンプルコンパートメント、コラム、内部検出器、搬送線、およびWyatt MALSを、ポリマに応じて150〜160℃の制御温度に保持した。溶液がPolymer Laboratories SEC内のコラムを通過した後、流れを機器の外および加熱搬送線を通ってWyatt MALSに誘導し、その後、Polymer Laboratories SECに戻した。機器から回収したデータをWyatt Technologies Astra ソフトウェアにて分析した。TCB内のポリオレフィンにつき0.092のdn/dcを使って濃度を計算した。分子量は、溶出時間ではなく光散乱強度から計算しており、標準に関していない。機器の性能と精度を確保するために、利用可能なNISTポリエチレンの標準を定期的に分析する。
【0064】
ウェブ強度の測定:ナノファイバウェブのサンプルの引張強度と伸びを、ASTM D5035−11「織物の破断強さおよび伸びの標準的試験方法(ストリップ法)(Standard Test Method for Breaking Force and Elongation of Textile Fabrics(Strip Method))」に従って、INSTRON引張試験機モデル1122を使い、サンプル寸法とひずみ速度を変えて測定した。各サンプルのゲージ長さは2インチ、幅0.5インチである。クロスヘッド速度は1インチ/分(ひずみ速度は50%分-1で一定)である。サンプルを縦方向(Machine Direction(MD))および横方向(Transverse Direction(TD))に試験する。最低3個の標本を試験して、引張強度または伸びの平均値を得る。
【0065】
SEM:ナノファイバの特徴付けには主として走査型電子顕微鏡(SEM)の画像を使用し、これは、高倍率で卓越した画像鮮鋭さが得られ、ナノファイバの直径測定のための業界標準となっているからである。異なるナノファイバ工程で製造されたナノファイバウェブの×5,000または×10,000の高倍率SEM画像の中のナノファイバの形態の違いは、繊維の直径以外には区別が難しい。異なる詳細さで繊維の形態を明らかにするために、×25、×100、×250、×500、×1,000、×2,500、×5,000、×10,000で撮影した。
【実施例】
【0066】
原則として、連続繊維からなるナノファイバウェブ媒体を、米国特許第8,277,711号明細書の遠心力メルトスピン工程を使って作製した。本発明の例を、スピニングディスクまたはスピニングボウルの縁辺の包囲鋸歯状部と最適化された鋸歯状部構造、延伸領域とその温度、スピニングディスクまたはスピニングボウルの下の静止シールド等の改良要素を取り入れることによって作製した。比較例を、米国特許第8,277,711 B2号明細書の遠心力メルトスピン工程のオーブンエンドスピンディスクを使って作製した。米国特許第8,231,378 B2号明細書のフォーススピニング工程により作製された他の比較例をFibeRio Companyから入手した。
【0067】
例1
図1に示される装置を使って、包囲鋸歯状部と静止シールドを備えるスピンディスクにより、LyondellBasellのポリプロピレン(PP)ホモポリマ、Metocene MF650Yから連続繊維を作製した。これはMw=75,381g/mol、溶融物流速=1800g/10分(230℃/2.16kg)、ゼロせん断粘度は200℃で9.07Pa・Sである。ギアポンプ付のPRISM押し出し機を使って、溶融物搬送線を通じてポリマ溶融物を回転するスピンボウルに送達した。溶融物搬送線からの紡糸溶融物の温度は240℃に設定した。スピンディスク縁辺温度は約200℃であった。延伸領域加熱空気は200℃に設定した。ディスクと静止シールドとの間のギャップを通る延伸領域の空気は、空気の流速50SCFHで200℃に設定した。下向きのシェーピングエアは150℃に設定した。シェーピングエアの流れは50SCFHに設定した。スピンディスクの回転速度は一定の12,000rpmに設定した。
【0068】
図17Aおよび17Bに示されているような走査型電子顕微鏡(SEM)を使った画像から繊維サイズを測定した。例1では、最小値172nmから最大値997nmの範囲の合計154本の個別のナノファイバから、測定全繊維の繊維径平均と中央値は523nmと504nmであった。
【0069】
比較例1
連続繊維を、オープンエンドスピンディスクにより、米国特許第8,277,711 B2号明細書の工程を使って、例1で使用されたものと同じポリプロピレン(PP)ホモポリマから作製した。ギアポンプを備えるPRISM押し出し機を使って、溶融物搬送線を通じてポリマ溶融物を回転するスピンディスクに送達した。溶融物搬送線からの紡糸溶融物の温度は200℃に設定し、溶融物供給速度は18.14グラム/分であった。スピンディスク縁辺温度は約240℃とした。延伸領域加熱空気は250℃に設定した。下向きのシェーピングエアは150℃に設定した。シェーピングエアの流れは15.0SCFMに設定した。スピンディスクの回転速度は一定の10,000rpmに設定した。
【0070】
図18Aおよび18Bに示されているような走査型電子顕微鏡(SEM)を使った画像から繊維サイズを測定した。比較例1では、最小値126nmから最大値8460nmの範囲の合計583本の個別のナノファイバから、測定全繊維の繊維径平均および中央値は685nmおよび433nmであった。約83.88%のナノファイバ、14.92%のマイクロファイバ、1.2%の粗繊維がある。直径約10μmの幾分かの「スパッタ」型欠陥と直径約1μm〜5mμmの微粒子がある。
【0071】
比較例2
連続繊維を、オープンエンドスピンディスクにより、米国特許第8,277,711 B2号明細書の工程を使って、例1で使用されたものと同じポリプロピレン(PP)ホモポリマから作製した。溶融物搬送線から回転するスピンディスクまでの紡糸溶融物の温度は200℃に設定した。スピンボウルの縁辺温度は約240℃であった。延伸領域加熱空気は250℃に設定した。下向きのシェーピングエアは150℃に設定した。シェーピングエアの流れは50.0SCFMに設定した。スピンディスクの回転速度は一定の10,000rpmに設定した。
【0072】
図19Aおよび19Bに示されているような走査型電子顕微鏡(SEM)を使った画像から繊維サイズを測定した。頭部が直径約60μm、長さ約14,000μmの幾分かの「タッドポール」型欠陥がある。
【0073】
比較例3
米国特許第8,231,378 B2号明細書のフォーススピニング工程により作製された比較例3をSEMI画像および繊維径分布と共にFibeRio Companyから入手した。比較例3Aは、スクリムサンプル上の2.0gsmのPPナノファイバである。比較例3Bは、スクリムから剥がされた8.0gsmのPPナノファイバサンプルである。個数平均繊維径は、約300nm〜2400nmの繊維の範囲で612nmである。幾分かの「スパッタ」型欠陥とカールした太い繊維がある。図25は、4つの異なる位置から測定されたウェブ強度を示す。これは、最大ウェブ強度が0.1N/cmであり、最大ウェブ伸びが14%であることを示している。
【0074】
例としての無欠陥のナノファイバウェブが、米国特許第8,277,711 B2号明細書の工程に対する本発明の改良を取り入れた改良型遠心力ナノファイバ紡糸装置を使って作製された。図21は、例1のナノファイバウェブおよびそのウェブの作製に使用されたポリマ樹脂ペレットのほとんど同じTGA測定結果を示している。図22は、例1と比較例1のナノファイバウェブ、およびそのウェブの製作に使用されたポリマ樹脂ペレットの巨大分子量測定を示している。ウェブの作製に使用されたポリマ樹脂ペレットと比較して、例1のナノファイバウェブの巨大分子量はわずかに減少している。図23は、DSC測定結果から、ナノファイバウェブの結晶化度がそのナノファイバの作製に使用されたポリマ樹脂より高いことを示している。全体として、測定結果は、熱劣化が最小値まで減少したことを示している。図24は、例1のナノファイバウェブの平均ウェブ強度測定値が比較例1より2.5倍高いことを示している。
次に、本発明の好ましい態様を示す。
1. 高分子ナノファイバを作製する紡糸装置であって、
(a)スピニングディスクまたはスピニングボウルを含む高速回転部材であって、縁辺を有し、かつ誘導加熱によって加熱されてもよい高速回転部材と、
(b)前記回転部材の前記縁辺に固定されて、包囲鋸歯状部を形成する保護シールドであって、前記スピニングディスクの最上部または前記スピニングボウルの底部に位置付けられた保護シールドと、
(c)前記回転部材の底部にある静止シールドと、
(d)任意選択の延伸領域と
を含む紡糸装置。
2. 上記1に記載の紡糸装置から製造される高分子ナノファイバであって、個数平均直径が約500nm未満のナノファイバを数において少なくとも約99%含む高分子ナノファイバ。
3. 上記2に記載の高分子ナノファイバから製造されるナノファイバウェブであって、
(a)前記ナノファイバウェブの作製に使用されたポリマと比較して、前記ナノファイバウェブのMw減少が約5%未満であり、
(b)TGAで測定される場合に、前記ナノファイバウェブの作製に使用された前記ポリマと比較して、熱重量減少が基本的に同じであり、
(c)前記ナノファイバウェブの作製に使用された前記ポリマと比較して、前記ナノファイバウェブの結晶化度がより高く、および
(d)平均ウェブ強度が少なくとも約2.5N/cmである、
ナノファイバウェブ。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7A
図7B
図8A
図8B
図8C
図8D
図8E
図8F
図9A
図9B
図9C
図10A
図10B
図11A-11B】
図12
図13
図14
図15
図16A
図16B
図17A
図17B
図18A
図18B
図19A
図19B
図20
図21
図22
図23
図24
図25