(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記スーパー繊維糸は、アラミド繊維、ポリアリレート繊維、ポリ(p−フェニレンベンゾビスオキザール)(PBO)繊維、ポリ(p−フェニレンベンゾビスチアゾール)(PBZT)繊維、ポリエチレン繊維、ポリエーテルエーテルケトン繊維及びポリビニルアルコール繊維から選ばれる少なくとも一つの繊維糸である請求項1〜3のいずれかに記載の防護織物。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の防護織物は、経糸は撚りを加えた少なくとも2本の無機フィラメント糸を芯糸とし、前記芯糸の周囲を前記スーパー繊維糸で被覆撚糸したカバリング糸である。経糸に少なくとも2本の無機フィラメント糸を芯糸として使うのは、芯糸と被覆撚糸との一体性を高く保つため、及び耐切創性を高く維持するためである。カバリング糸はシングルカバリング糸でもよいし、ダブルカバリング糸でもよいが、ダブルカバリング糸が好ましい。ダブルカバリング糸を使用すると切創力がより高くなる。
【0011】
前記カバリング糸は、芯糸に対する被覆糸の撚り係数Kが2000〜30000、より好ましくは3000〜26000の範囲で巻き付いているのが好ましい。これにより撚り構造が強固となり、切創力はより高くなる。この結果、単層織物でもJIS−T8052における切創試験で50N以上、好ましくは60N以上の織物となる。
K=T×D
1/2
但し、T:糸長1メートルあたりの撚り数
D:糸の繊度(単位:decitex)
【0012】
緯糸はスーパー繊維糸単独である。緯糸は織物製造の際に経糸と筬により大きな摩擦力を受けるため、経糸のようなカバリング糸では芯糸と被覆糸とが分離しやすいためである。なお、「スーパー繊維」は、本宮達也ら著、「繊維の百科事典」、丸善、2002年3月25日、522頁にも記載されている通り、当業者の一般的技術用語である。
【0013】
経糸のカバリング糸は、芯糸の無機フィラメント糸にスーパー繊維糸からなる添え糸が配置されているのが好ましい。これにより、芯糸と被覆撚糸との一体性はさらに良好となり、毛羽やモケ等の織物欠点の発生が少なく、さらに良好に織物の目風を整えた防護織物となる。
【0014】
無機フィラメント糸の撚り撚り係数Kは500〜2000
0が好ましく、さらに好ましくは1000〜1500
0である。無機フィラメント糸は複数本引き揃えるか、あるいは合撚して使用できる。前記において撚り係数Kは次の式で算出する。
K=T×D
1/2
但し、T:糸長1メートルあたりの撚り数
D:糸の繊度(単位:decitex)
【0015】
無機フィラメント糸は、ガラス繊維糸及び炭素繊維糸から選ばれる少なくとも一つが好ましい。とくにガラス繊維は粘弾性が高く、横方向からの衝撃にも強いことから好ましい。ガラス繊維糸はEガラスの場合、密度2.55g/cm
3、引張強度2410MPa,ヤング率69GPaであり、炭素繊維糸は東レ社製、製品名“T1000G”の場合、密度1.80g/cm
3、引張強度6370MPa,ヤング率297GPaであり、強度が高く、耐切創性も耐衝撃性も良好である。無機フィラメント糸の繊度は200〜2000decitexが好ましく、単繊維総本数は400〜4000本程度が好ましい。
【0016】
前記スーパー繊維は、強度:18cN/decitex以上、弾性率:380cN/decitex以上の高強度かつ高弾性繊維糸であるのが好ましい。具体的には、アラミド(パラ系、メタ系を含む)繊維、ポリアリレート繊維、ポリ(p−フェニレンベンゾビスオキザール)(PBO)繊維、ポリ(p−フェニレンベンゾビスチアゾール)(PBZT)繊維、ポリエチレン繊維、ポリエーテルエーテルケトン繊維及びポリビニルアルコール繊維から選ばれる少なくとも一つの繊維糸であるのが好ましい。これらの繊維は混合して使用することもできる。経糸と緯糸は同一であっても良いし、異なっていても良い。この中でも耐熱性の高いアラミド繊維(例えば、東レ・デュポン社製商品名“ケブラー”、テイジントワロン社製商品名“トワロン”、帝人社製商品名“テクノーラ”)、ポリアリレート繊維(例えば、クラレ社製商品名“ベクトラン”)、ポリ(p−フェニレンベンゾビスオキザール)(PBO)繊維(例えば、東洋紡社製商品名“ザイロン”)が好ましい。
【0017】
スーパー繊維は、マルチフィラメント糸でもよいし、紡績糸を使用してもよい。マルチフィラメント糸のトータル繊度は100〜3000decitex(単繊維の繊度:1〜20decitex)程度が好ましい。紡績糸の場合の繊度は、綿番手で1〜50番程度が好ましい。単糸で使用することもできるし、複数本引き揃えるか、あるいは合撚して使用できる。マルチフィラメント糸は加工糸でもよい。
【0018】
本発明の防護織物は、単層織物又は2〜5層の多重織物が好ましいが、製造コストからすると単層織物が好ましい。単層織物としては平織、綾織、朱子織等が使用できる。この中でも織物の目風がきれいな綾織(ツイル)が好ましい。綾織(ツイル)は1/2ツイル、2/1ツイル、2/2ツイル等いかなるものであっても良い。多重織物としては、両外側の経糸は最外層の緯糸1本の間を交差して配置し、内層の経糸は、厚さ方向に隣り合う2本の緯糸の間を交差して配置した織物構造が好ましい。多重織物は、断面方向から見て経糸が3〜8本であり、緯糸が2〜7層であっても良い。
【0019】
本発明の防護織物は、JIS−T8052における切創試験で30N以上であることが好ましく、さらに好ましくは50N以上であり、とくに好ましくは100N以上である。100Nを超えると「100N以上」という評価になるが、本発明の防護織物は実際に「100N以上」という評価になるものが存在する。前記切創試験で30N以上であれば、耐切創性も耐衝撃性も良好である。
【0020】
本発明の防護織物は単層織物であり、たて糸密度は50本/2.54cm以上、よこ糸密度は35本/2.54cm以上であるのが好ましい。さらに好ましくは、単層織物で、たて糸密度は50〜80本/2.54cm、よこ糸密度は40〜60本/2.54cmである。このようにすると単層織物でもJIS−T8052における切創試験で50N以上となる。
【0021】
本発明の防護織物は、防刃衣類、耐熱シート、耐衝撃シート等として使用できる。防刃衣類は例えば防刃チョッキ、チェーンソー作業用レッグプロテクター等がある。耐熱シートは例えば溶鉱炉やアルミダイキャスト等の炉前作業シート、溶接用シート等がある。耐衝撃シートは例えば車両内の人体を守る場所に固定して使用する人体保護シート、車両用補強シート等がある。その他車両、鉄道、船舶、掃海艇、潜水艦、化学プラント、石油施設等耐衝撃性が必要な個所に使用できる。
【0022】
以下図面を用いて説明する。以下の図面において、同一符号は同一物を示す。
図1Aは本発明の一実施形態の経糸に使用するシングルカバリング糸1の模式的側面図である。このシングルカバリング糸1は、撚りを加えた2本の無機フィラメント糸を芯糸2a,2bとし、スーパー繊維からなる被覆糸3で被覆している。
図1Bは同ダブルカバリング糸4の模式的側面図である。被覆糸3a,3bで被覆している。被覆糸3a,3bは撚り方向が異なっている。
図1Cは別のダブルカバリング糸5の模式的側面図である。被覆糸3a,3cは撚り方向が同じである。この中でも
図1Bのダブルカバリング糸4が、撚り構造が強固であるため好ましい。
【0023】
図2は別の例の経糸の芯糸2a,2bに添え糸7配置したダブルカバリング糸6の模式的側面図である。添え糸7はスーパー繊維糸を使用する。このようにすると芯糸と被覆糸との一体性がより高くなる。
図1〜
図2の経糸に対し、緯糸はスーパー繊維糸を使用する。
【0024】
図3は本発明の一実施形態の2/1ツイル織物(裏織り, 単層織物)の組織図である。黒の部分は経糸が表に現れている箇所であり、白の部分は裏に隠れている箇所である。図の下の数字1,2,3で1サイクルであることを示す。
図4は本発明の別の実施形態の2/2ツイル織物(単層織物)の組織図である。1〜4で1サイクルである。
図5は本発明のさらに別の実施形態の平4重織物の組織図である。1〜6で1サイクルである。
図6は本発明のさらに別の実施形態の平5重織物の組織図である。これも1〜6で1サイクルである。
【0025】
図7は
図6に示す平5重織物10の断面組織図である。a1〜a6は経糸、丸1〜丸10は緯糸である。両外側の経糸a1,a6は最外層の緯糸(丸1,丸2及び丸9,丸10)各1本の間を交互にジグザグ状に配置し、内層の経糸(a2〜a5)は厚さ方向に隣り合う各2本の緯糸の間を交互にジグザグ状に配置した構造である。最外層の緯糸、例えば丸1と丸2に示す緯糸は、経糸a1とa2により平組織に類似した構造で組織されているが、経糸a2が厚さ方向に隣り合う各2本の緯糸(丸2と3、丸1と4)の間を交互に配置されている点が平組織とは異なる。また、内層は厚さ方向に隣り合う各2本の緯糸と、水平方向には1本の緯糸の間を交互に配置されている。
図5に示す平4重織物も積層数は異なるが基本構造は同様である。
【0026】
図8は本発明の一実施形態における織物製造工程を説明する模式的断面図である。本発明で使用する織機11は、一例としてニードルレピア織物装置である。このニードルレピア織物装置は、従来、絹織物用に使用されていたものであるが、これを改造し、綜絖(ヘルド)15a,15bにより経糸13a,13bを上下動させるに際し、経糸の上端と下端の間隔Lを80mm以上120mm以下、好ましくは85mm以上105mm以下とした。従来品の間隔Lは55〜75mmであった。この様に間隔L(開口部)を大きくすることにより、シャトルを例えば130〜150回/分往復させても、シャトルは経糸のとくに上側に開口した糸の上に飛び出すことはなく、安定して駆動させることができ、織物欠点も発生しにくくなった。加えて、緯糸が筬や綜絖(ヘルド)等でしごきや摩擦を受けても、あるいは緯糸と経糸の摩擦を受けても毛羽やモケ等の織物欠点の発生が少なく、織物の目風を整えた防護織物を製造できるようになった。経糸の上端と下端の間隔Lが80mm未満ではシャトルの飛び出し、毛羽やモケ等の織物欠点の発生が増加する傾向となる。また120mmを超えると生産性が低下する。
【0027】
図8に示すように、無糊で整経した多数本の経糸を織機11に掛け、バックロール12から綜絖(ヘルド)15a,15bを通し、上下に開口させ、開口部にレピアシャトル16により緯糸を打ち込む。14はワープラインである。次いで筬17の前方向への移動により緯糸が押し込まれ織物組織となる。18は筬17の動きを示す。織り上がった織物はシリンダーに巻き上げられる。19は巻き上げられた織物である。
【実施例】
【0028】
以下、実施例を用いて本発明をさらに具体的に説明する。なお、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
【0029】
<切創抵抗試験>
JIS−T8052 2005(防護服−機械特性−鋭利物に対する切創抵抗性試験方法)に従って測定した。なお、JIS−T8052 2005はISO13997と同一の試験方法である。この結果は切創力(N)として表示され、100N以上は「100N以上」と表示される。この試験は財団法人日本化学繊維検査協会東京事業所に依頼して行った。
<織物の表面検査試験>
織物表裏の全幅に亘りライト(蛍光灯)を当てて毛羽及びモケ(繊維綿の集合体)等の織物欠点を検査し、ハサミで除去した後の織物欠点数が1m
2当たり平均いくつあるかにより評価した。織物欠点は目視により判断した。
A:0〜2以下
B:2を超え5以下
C:5を超える
<織物の目風評価試験>
織物の表面検査評価の際、織物の目風(織り柄)を目視により判断した。
A:目風(織り柄)が整っている
B:目風(織り柄)は多少崩れているが実用的には問題ない。
C:目風(織り柄)は崩れており、商品的価値がない。
【0030】
(実施例1
、参考例)
(1)経糸
経糸として、繊度675decitexのガラスフィラメント糸(構成繊維本数:800本)を2本撚糸して芯糸とし
た。撚り数は150T/m(撚り係数K:5511)、撚り方向:Sとした。この芯糸の表面に295decitexのポリアリレート紡績糸(クラレ社製商品名“ベクトラン”)1本をZ方向に910T/m(撚り係数K:15630)で撚り掛けし、さらにもう1本をS方向に1180T/m(撚り係数K:20267)で撚り掛けし、
図1Bに示すWカバリング糸を作成した。トータル繊度は2150decitexであった。
(2)緯糸
緯糸は繊度:1100decitex,単繊維本数:200本のポリアリレートフィラメント繊維糸(クラレ社製商品名“ベクトラン”,撚り数25T/M)1本を使用した。
(3)織物製造
今村機械社製、商品名“KR−Z”、ニードルレピア織物装置を用いて、経糸本数2070本、緯糸1本(緯糸はレピアシャトルにより打ち込み)、織物幅100cm、織物組織は
図3に示す2/1ツイル(単層織物)、織物厚み1.25mm,単位面積当たりの質量676g/m
2(経糸使用量474g/m
2、緯糸使用量202g/m
2)の織物を製造した。この織機は
図8に示す。経糸の上端と下端の間隔Lは100mmとした。綜絖はリング付きワイヤーヘルドを使用した。なお、緯糸は織物側の上から見て右側から打ち込み、織物の左端部は絡み糸に緯糸を絡ませて耳を形成して折り返し、右端部は緯糸を端の経糸に絡ませて耳を形成した。
(4)織物の評価結果
得られた織物の切創抵抗試験の結果、切創力は31.9Nであった。織物の表面検査試験はAであった。
【0031】
(実施例2)
経糸本数2760本、織物組織は
図4に示す2/2ツイル(単層織物)、織物厚み1.48mm,単位面積当たりの質量918g/m
2(経糸使用量688g/m
2、緯糸使用量230g/m
2)とした以外は実施例1と同様に実施した。得られた織物の切創抵抗試験の結果、切創力は51.5Nであった。織物の表面検査試験はAであった。なお、この織物を2枚重ねにした切創抵抗試験では、切創力は100N以上であった。
【0032】
(実施例3)
経糸本数4140本、緯糸繊度560decitex、織物組織は
図5に示す平4重織物、織物厚み2.35mm,単位面積当たりの質量1525g/m
2(経糸使用量1083g/m
2、緯糸使用量422g/m
2)とした以外は実施例1と同様に実施した。得られた織物の切創抵抗試験の結果、切創力は100N以上であった。織物の表面検査試験はAであった。
【0033】
(実施例4)
経糸本数4140本、緯糸繊度560decitex、織物組織は
図6及び
図7に示す平5重織物、織物厚み2.43mm,単位面積当たりの質量1458g/m
2(経糸使用量1035g/m
2、緯糸使用量423g/m
2)とした以外は実施例1と同様に実施した。得られた織物の切創抵抗試験の結果、切創力は76.6Nであった。織物の表面検査試験はAであった。
以上の実施例1〜4の結果をまとめると表1のとおりである。
【0034】
【表1】
【0035】
(比較例1)
経糸として無撚りのガラスフィラメント糸を使用した以外は実施例1と同様に実施した。得られた織物の表面検査試験はC、織物の目風評価試験もCであり、織物欠点が多く商品的に問題があった。
【0036】
(比較例2)
緯糸として経糸と同じ糸を使用した以外は実施例1と同様に実施した。得られた織物の表面検査試験はB、織物の目風評価試験もBであり、織物欠点が多く商品的に問題があった。
【0037】
(比較例3)
織機として従来のニードルレピア織物装置を用い、経糸の上端と下端の間隔Lを75mmとした以外は実施例1と同様に実施した。得られた織物の表面検査試験はC、織物の目風評価試験もCであり、織物欠点が多く商品的に問題があった。
【0038】
(実施例5)
織物の糸密度を表2のように変えた以外は、実施例1と同様に2/1ツイルの織物(単層織物)を作成した。得られた織物の切創抵抗試験の結果、切創力は52.1Nであった。織物の表面検査試験はAであった。その他の評価は表2に示す。
【0039】
(実施例6)
織物の糸密度を表2のように変えた以外は、実施例2と同様に2/2ツイルの織物(単層織物)を作成した。得られた織物の切創抵抗試験の結果、切創力は76.7Nであった。織物の表面検査試験はAであった。その他の評価は表2に示す。
【0040】
【表2】
【0041】
実施例5〜6の結果から、単層織物であっても、織物の糸密度を高くするとJIS−T8052における切創試験で50N以上の織物が得られることが確認できた。とくに実施例6の切創力は、単層織物でありながら、実施例4の平5重織物と同等であり、製造コストを安くすることができた。