特許第6578008号(P6578008)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社日本触媒の特許一覧

特許6578008硫酸バリウムスケール防止剤、硫酸バリウムスケール防止方法、および、硫酸バリウムスケール防止剤組成物
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6578008
(24)【登録日】2019年8月30日
(45)【発行日】2019年9月18日
(54)【発明の名称】硫酸バリウムスケール防止剤、硫酸バリウムスケール防止方法、および、硫酸バリウムスケール防止剤組成物
(51)【国際特許分類】
   C09K 8/528 20060101AFI20190909BHJP
   C02F 5/00 20060101ALI20190909BHJP
   C08L 33/02 20060101ALI20190909BHJP
   C08F 216/14 20060101ALI20190909BHJP
   C08F 220/06 20060101ALI20190909BHJP
   C02F 5/10 20060101ALI20190909BHJP
   C07C 309/09 20060101ALN20190909BHJP
【FI】
   C09K8/528
   C02F5/00 620B
   C08L33/02
   C08F216/14
   C08F220/06
   C02F5/10 620B
   C02F5/10 620D
   C02F5/10 620G
   !C07C309/09
【請求項の数】11
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2017-541480(P2017-541480)
(86)(22)【出願日】2016年8月18日
(86)【国際出願番号】JP2016074129
(87)【国際公開番号】WO2017051640
(87)【国際公開日】20170330
【審査請求日】2018年1月22日
(31)【優先権主張番号】特願2015-186598(P2015-186598)
(32)【優先日】2015年9月24日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004628
【氏名又は名称】株式会社日本触媒
(74)【代理人】
【識別番号】100122471
【弁理士】
【氏名又は名称】籾井 孝文
(74)【代理人】
【識別番号】100121636
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 昌靖
(72)【発明者】
【氏名】山口 繁
(72)【発明者】
【氏名】西田 結衣
【審査官】 井上 恵理
(56)【参考文献】
【文献】 特開2015−151414(JP,A)
【文献】 特開2004−217899(JP,A)
【文献】 特開平11−080288(JP,A)
【文献】 米国特許第04937002(US,A)
【文献】 欧州特許出願公開第01719784(EP,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 8/00−8/94
C02F 5/00−5/14
C08F216/14
C08L 33/02
CAplus/REGISTRY(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
カルボキシル基含有単量体とスルホン酸基含有単量体を含む単量体組成物を重合して得られるスルホン酸基含有共重合体を含む硫酸バリウムスケール防止剤であって、
下記一般式(A)で表されるエーテル結合含有単量体(A)の該単量体組成物中の含有割合が5質量%未満であり、
金属塩濃度が10質量%以上の高塩濃度水に対して固形分濃度で1質量%添加したときに該スルホン酸基含有共重合体が析出しない、
硫酸バリウムスケール防止剤。
【化1】
(上記一般式(A)中、Rは、水素原子又はメチル基を表す。Rは、CH基、CHCH基又は直接結合を表す。Pは、水酸基、下記一般式(B)で表される基、又は、下記一般式(C)で表される基を表す。Qは、水酸基、下記一般式(B)で表される基、又は、下記一般式(C)で表される基を表す。但し、P、Qのいずれか一方は、水酸基を表し、他方は、下記一般式(B)で表される基、又は、下記一般式(C)で表される基を表す。)
【化2】
(上記一般式(B)、(C)中、Rは、同一又は異なって、炭素数2〜4のアルキレン基を表す。nは、オキシアルキレン基(−O−R−)の平均付加モル数であって、0〜5の数を表す。R、R、Rは、それぞれ独立して炭素数1〜4のアルキル基を表す。)
【請求項2】
前記カルボキシル基含有単量体と前記スルホン酸基含有単量体の含有比率が、質量比で、カルボキシル基含有単量体/スルホン酸基含有単量体=71〜98/29〜2である、請求項1に記載の硫酸バリウムスケール防止剤。
【請求項3】
前記スルホン酸基含有単量体が、一般式(1)で表されるスルホン酸基含有エーテル化合物である、請求項1または2に記載の硫酸バリウムスケール防止剤。
【化3】
(一般式(1)中、Rは、単結合、CH、CHCHのいずれかであり、Rは、H、CHのいずれかであり、X、Yのいずれか一方は水酸基であり、もう一方はスルホン酸(塩)基である。)
【請求項4】
原油採掘における掘削配管中で硫酸バリウムスケールが形成することを防止する方法であって、
カルボキシル基含有単量体とスルホン酸基含有単量体を含む単量体組成物を重合して得られるスルホン酸基含有共重合体を含む硫酸バリウムスケール防止剤であり、
下記一般式(A)で表されるエーテル結合含有単量体(A)の該単量体組成物中の含有割合が5質量%未満であり、
金属塩濃度が10質量%以上の高塩濃度水に対して固形分濃度で1質量%添加したときに該スルホン酸基含有共重合体が析出しない硫酸バリウムスケール防止剤を、該掘削配管中に添加する、
硫酸バリウムスケール防止方法。
【化4】
(上記一般式(A)中、Rは、水素原子又はメチル基を表す。Rは、CH基、CHCH基又は直接結合を表す。Pは、水酸基、下記一般式(B)で表される基、又は、下記一般式(C)で表される基を表す。Qは、水酸基、下記一般式(B)で表される基、又は、下記一般式(C)で表される基を表す。但し、P、Qのいずれか一方は、水酸基を表し、他方は、下記一般式(B)で表される基、又は、下記一般式(C)で表される基を表す。)
【化5】
(上記一般式(B)、(C)中、Rは、同一又は異なって、炭素数2〜4のアルキレン基を表す。nは、オキシアルキレン基(−O−R−)の平均付加モル数であって、0〜5の数を表す。R、R、Rは、それぞれ独立して炭素数1〜4のアルキル基を表す。)
【請求項5】
前記掘削配管中に存在する高塩濃度水に対して、前記硫酸バリウムスケール防止剤の濃度が、固形分換算で0.1ppm〜1000ppmとなるように、該硫酸バリウムスケール防止剤を添加する、請求項4に記載の硫酸バリウムスケール防止方法。
【請求項6】
前記カルボキシル基含有単量体と前記スルホン酸基含有単量体の含有比率が、質量比で、カルボキシル基含有単量体/スルホン酸基含有単量体=71〜98/29〜2である、請求項4または5に記載の硫酸バリウムスケール防止方法。
【請求項7】
前記スルホン酸基含有単量体が、一般式(1)で表されるスルホン酸基含有エーテル化合物である、請求項4から6までのいずれかに記載の硫酸バリウムスケール防止方法。
【化6】
(一般式(1)中、Rは、単結合、CH、CHCHのいずれかであり、Rは、H、CHのいずれかであり、X、Yのいずれか一方は水酸基であり、もう一方はスルホン酸(塩)基である。)
【請求項8】
水と、カルボキシル基含有単量体とスルホン酸基含有単量体を含む単量体組成物を重合して得られるスルホン酸基含有共重合体とを含み、
下記一般式(A)で表されるエーテル結合含有単量体(A)の該単量体組成物中の含有割合が5質量%未満である、
硫酸バリウムスケール防止剤組成物。
【化7】
(上記一般式(A)中、Rは、水素原子又はメチル基を表す。Rは、CH基、CHCH基又は直接結合を表す。Pは、水酸基、下記一般式(B)で表される基、又は、下記一般式(C)で表される基を表す。Qは、水酸基、下記一般式(B)で表される基、又は、下記一般式(C)で表される基を表す。但し、P、Qのいずれか一方は、水酸基を表し、他方は、下記一般式(B)で表される基、又は、下記一般式(C)で表される基を表す。)
【化8】
(上記一般式(B)、(C)中、Rは、同一又は異なって、炭素数2〜4のアルキレン基を表す。nは、オキシアルキレン基(−O−R−)の平均付加モル数であって、0〜5の数を表す。R、R、Rは、それぞれ独立して炭素数1〜4のアルキル基を表す。)
【請求項9】
前記硫酸バリウムスケール防止剤組成物中の前記スルホン酸基含有共重合体の含有割合が、前記水に対して、固形分換算で0.1ppm〜1000ppmである、請求項8に記載の硫酸バリウムスケール防止剤組成物。
【請求項10】
前記スルホン酸基含有共重合体を金属塩濃度が10質量%以上の高塩濃度水に対して固形分濃度で1質量%添加したときに該スルホン酸基含有共重合体が析出しない、請求項8または9に記載の硫酸バリウムスケール防止剤組成物。
【請求項11】
前記スルホン酸基含有単量体が、一般式(1)で表されるスルホン酸基含有エーテル化合物である、請求項8から10までのいずれかに記載の硫酸バリウムスケール防止剤組成物。
【化9】
(一般式(1)中、Rは、単結合、CH、CHCHのいずれかであり、Rは、H、CHのいずれかであり、X、Yのいずれか一方は水酸基であり、もう一方はスルホン酸(塩)基である。)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硫酸バリウムスケール防止剤、硫酸バリウムスケール防止方法、および、硫酸バリウムスケール防止剤組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
原油掘削においては、原油の採取につれて油層内の圧力が低下してしまう。このため、油層内に存在する原油の中の数10%程度しか回収することができず、多くの原油が油層内に取り残されてしまい、原油回収率が低くなってしまう。このような低い原油回収率を向上させることは、石油開発事業における最重要課題の一つである。
【0003】
原油回収率を向上させるため、従来、水やガスを油層に圧入する方法や、薬剤を原油に混ぜて原油の流動性を高める方法が行われている。特に、原油掘削が海上で行われる海上油田の場合、油層内の圧力を保持する目的で、海水を油層に圧入することが行われている。その際、バライトと呼ばれる、主成分が硫酸バリウムである加重剤が、海水の比重調整剤として併用される。
【0004】
海水中には、もともと、バリウムイオンおよびその硫酸塩が約0.03ppm含まれる。そして、上記のような加重剤が海水に添加されると、該海水中のバリウムイオンおよびその硫酸塩の含有量がさらに増加する。
【0005】
硫酸バリウムは、水に不溶の化合物である。したがって、上記のような加重剤が添加された海水を油層に圧入することを行うと、該海水に含まれる水不溶性の硫酸バリウムがスケールとなって掘削配管等に多く付着してしまうという問題が生じる。このように多くの硫酸バリウムスケールが掘削配管等に付着してしまうと、掘削機械の圧力損失や閉塞という重大問題が生じてしまう。
【0006】
硫酸バリウムスケールの抑制については、従来、いくつかの報告がなされている(例えば、特許文献1〜5)。
【0007】
しかしながら、近年の開発油田における原油埋蔵量の低減傾向を踏まえると、高金属塩濃度(Na、Caなど)、高温度などの、より過酷な条件下におけるより高い硫酸バリウムスケール防止を達成することによる原油回収率のさらなる向上が強く求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】米国特許第4937002号公報
【特許文献2】欧州特許公開第1719784号公報
【特許文献3】米国特許第4039459号公報
【特許文献4】国際公開第1994/003706号パンフレット
【特許文献5】国際公開第2010/024448号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の課題は、高い硫酸バリウムスケール防止能を発現できる硫酸バリウムスケール防止剤、硫酸バリウムスケール防止剤組成物を提供することにある。また、本発明の課題は、高い硫酸バリウムスケール防止能を発現できる硫酸バリウムスケール防止方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の硫酸バリウムスケール防止剤は、
カルボキシル基含有単量体とスルホン酸基含有単量体を含む単量体組成物を重合して得られるスルホン酸基含有共重合体を含む硫酸バリウムスケール防止剤であって、
金属塩濃度が10質量%以上の高塩濃度水に対して固形分濃度で1質量%添加したときに該スルホン酸基含有共重合体が析出しない。
【0011】
一つの実施形態においては、上記金属塩濃度が10質量%〜30質量%である。
【0012】
一つの実施形態においては、上記カルボキシル基含有単量体と上記スルホン酸基含有単量体の含有比率が、質量比で、カルボキシル基含有単量体/スルホン酸基含有単量体=71〜98/29〜2である。
【0013】
一つの実施形態においては、上記カルボキシル基含有単量体が、(メタ)アクリル酸(塩)である。
【0014】
一つの実施形態においては、上記スルホン酸基含有単量体が、一般式(1)で表される過酷スルホン酸基含有エーテル化合物である。
【化1】
(一般式(1)中、Rは、単結合、CH、CHCHのいずれかであり、Rは、H、CHのいずれかであり、X、Yのいずれか一方は水酸基であり、もう一方はスルホン酸(塩)基である。)
【0015】
一つの実施形態においては、上記スルホン酸基含有エーテル化合物が、3−(メタ)アリルオキシ−2−ヒドロキシ−1−プロパンスルホン酸(塩)、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸(塩)、(メタ)アリルスルホン酸(塩)、ビニルスルホン酸(塩)、スチレンスルホン酸(塩)、2−スルホエチル(メタ)アクリレート、2−メチル−1,3−ブタジエン−1−スルホン酸(塩)から選ばれる少なくとも1種である。
【0016】
一つの実施形態においては、上記スルホン酸基含有エーテル化合物が、3−(メタ)アリルオキシ−2−ヒドロキシ−1−プロパンスルホン酸(塩)である。
【0017】
本発明の硫酸バリウムスケール防止方法は、
原油採掘における掘削配管中で硫酸バリウムスケールが形成することを防止する方法であって、
カルボキシル基含有単量体とスルホン酸基含有単量体を含む単量体組成物を重合して得られるスルホン酸基含有共重合体を含む硫酸バリウムスケール防止剤であり、金属塩濃度が1質量%以上の高塩濃度水に対して固形分濃度で1質量%添加したときに該スルホン酸基含有共重合体が析出しない硫酸バリウムスケール防止剤を、該掘削配管中に添加する。
【0018】
一つの実施形態においては、上記金属塩濃度が10質量%〜30質量%である。
【0019】
一つの実施形態においては、上記掘削配管中に存在する高塩濃度水に対して、上記硫酸バリウムスケール防止剤の濃度が、固形分換算で0.1ppm〜1000ppmとなるように、該硫酸バリウムスケール防止剤を添加する。
【0020】
一つの実施形態においては、上記カルボキシル基含有単量体と上記スルホン酸基含有単量体の含有比率が、質量比で、カルボキシル基含有単量体/スルホン酸基含有単量体=71〜98/29〜2である。
【0021】
一つの実施形態においては、上記カルボキシル基含有単量体が、(メタ)アクリル酸(塩)である。
【0022】
一つの実施形態においては、上記スルホン酸基含有単量体が、一般式(1)で表されるスルホン酸基含有エーテル化合物である。
【化2】
(一般式(1)中、Rは、単結合、CH、CHCHのいずれかであり、Rは、H、CHのいずれかであり、X、Yのいずれか一方は水酸基であり、もう一方はスルホン酸(塩)基である。)
【0023】
一つの実施形態においては、上記スルホン酸基含有エーテル化合物が、3−(メタ)アリルオキシ−2−ヒドロキシ−1−プロパンスルホン酸(塩)、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸(塩)、(メタ)アリルスルホン酸(塩)、ビニルスルホン酸(塩)、スチレンスルホン酸(塩)、2−スルホエチル(メタ)アクリレート、2−メチル−1,3−ブタジエン−1−スルホン酸(塩)から選ばれる少なくとも1種である。
【0024】
一つの実施形態においては、上記スルホン酸基含有エーテル化合物が、3−(メタ)アリルオキシ−2−ヒドロキシ−1−プロパンスルホン酸(塩)である。
【0025】
本発明の硫酸バリウムスケール防止剤組成物は、
水と、カルボキシル基含有単量体とスルホン酸基含有単量体を含む単量体組成物を重合して得られるスルホン酸基含有共重合体とを含む。
【0026】
一つの実施形態においては、上記硫酸バリウムスケール防止剤組成物中の上記スルホン酸基含有共重合体の含有割合が、上記水に対して、固形分換算で0.1ppm〜1000ppmである。
【0027】
一つの実施形態においては、上記スルホン酸基含有共重合体を金属塩濃度が10質量%以上の高塩濃度水に対して固形分濃度で1質量%添加したときに該スルホン酸基含有共重合体が析出しない。
【0028】
一つの実施形態においては、上記金属塩濃度が10質量%〜30質量%である。
【0029】
一つの実施形態においては、上記カルボキシル基含有単量体が、(メタ)アクリル酸(塩)である。
【0030】
一つの実施形態においては、上記スルホン酸基含有単量体が、一般式(1)で表されるスルホン酸基含有エーテル化合物である。
【化3】
(一般式(1)中、Rは、単結合、CH、CHCHのいずれかであり、Rは、H、CHのいずれかであり、X、Yのいずれか一方は水酸基であり、もう一方はスルホン酸(塩)基である。)
【0031】
一つの実施形態においては、上記スルホン酸基含有エーテル化合物が、3−(メタ)アリルオキシ−2−ヒドロキシ−1−プロパンスルホン酸(塩)、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸(塩)、(メタ)アリルスルホン酸(塩)、ビニルスルホン酸(塩)、スチレンスルホン酸(塩)、2−スルホエチル(メタ)アクリレート、2−メチル−1,3−ブタジエン−1−スルホン酸(塩)から選ばれる少なくとも1種である。
【0032】
一つの実施形態においては、上記スルホン酸基含有エーテル化合物が、3−(メタ)アリルオキシ−2−ヒドロキシ−1−プロパンスルホン酸(塩)である。
【発明の効果】
【0033】
本発明によれば、高い硫酸バリウムスケール防止能を発現できる硫酸バリウムスケール防止剤、硫酸バリウムスケール防止剤組成物を提供することができる。また、本発明によれば、高い硫酸バリウムスケール防止能を発現できる硫酸バリウムスケール防止方法を提供することができ、石油生産時のスケール生成による生産性低下を抑止できる。本発明の硫酸バリウムスケール防止剤、硫酸バリウムスケール防止剤組成物を原油掘削に用いると、硫酸バリウムスケールが掘削配管等に付着することによる掘削機械の圧力損失や閉塞という重大な問題を低減することが可能となる。また、本発明の硫酸バリウムスケール防止方法を原油掘削に用いると、硫酸バリウムスケールが掘削配管等に付着することによる掘削機械の圧力損失や閉塞という重大な問題を低減することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0034】
本明細書中で「(メタ)アクリル」との表現がある場合は、「アクリルおよび/またはメタクリル」を意味し、「(メタ)アクリレート」との表現がある場合は、「アクリレートおよび/またはメタクリレート」を意味し、「(メタ)アリル」との表現がある場合は、「アリルおよび/またはメタリル」を意味し、「(メタ)アクロレイン」との表現がある場合は、「アクロレインおよび/またはメタクロレイン」を意味する。また、本明細書中で「酸(塩)」との表現がある場合は、「酸および/またはその塩」を意味する。また、本明細書中で「質量」との表現がある場合は、従来一般に重さの単位として慣用されている「重量」と読み替えてもよく、逆に、本明細書中で「重量」との表現がある場合は、重さを示すSI系単位として慣用されている「質量」と読み替えてもよい。
【0035】
≪硫酸バリウムスケール防止剤≫
本発明の硫酸バリウムスケール防止剤は、カルボキシル基含有単量体とスルホン酸基含有単量体を含む単量体組成物を重合して得られるスルホン酸基含有共重合体を含む。
【0036】
本発明の硫酸バリウムスケール防止剤中の、カルボキシル基含有単量体とスルホン酸基含有単量体を含む単量体組成物を重合して得られるスルホン酸基含有共重合体の含有割合は、本発明の効果をより十分に発現させ得る点で、好ましくは50質量%〜100質量%であり、より好ましくは70質量%〜100質量%であり、さらに好ましくは90質量%〜100質量%であり、特に好ましくは95質量%〜100質量%であり、最も好ましくは実質的に100質量%である。
【0037】
スルホン酸基含有共重合体は、カルボキシル基含有単量体とスルホン酸基含有単量体を含む単量体組成物を重合して得られる。
【0038】
カルボキシル基含有単量体は、1種のみであってもよいし、2種以上であってもよい。スルホン酸基含有単量体は、1種のみであってもよいし、2種以上であってもよい。
【0039】
カルボキシル基含有単量体としては、本発明の効果を損なわない範囲で、任意の適切なカルボキシル基含有単量体を採用し得る。このようなカルボキシル基含有単量体としては、例えば、(メタ)アクリル酸(塩)、マレイン酸(塩)、イタコン酸(塩)などが挙げられる。これらのカルボキシル基含有単量体の中でも、本発明の効果をより十分に発現させ得る点で、(メタ)アクリル酸(塩)が好ましい。
【0040】
(メタ)アクリル酸(塩)の塩としては、−COOZ基のZで表される。Zは、金属原子、アンモニウム基(アンモニウム塩、すなわち、COONHを構成)、または有機アミノ基(有機アミン塩を構成)である。金属原子としては、ナトリウム原子やカリウム原子などのアルカリ金属、カルシウム原子などのアルカリ土類金属、鉄原子などの遷移金属などが挙げられる。有機アミン塩としては、メチルアミン塩、n−ブチルアミン塩、モノエタノールアミン塩、ジメチルアミン塩、ジエタノールアミン塩、モルホリン塩、トリメチルアミン塩などの、1級〜4級のアミン塩が挙げられる。これらの中でも、本発明の効果を十分に発現させるためには、Zは、ナトリウム原子、カリウム原子が好ましい。
【0041】
スルホン酸基含有単量体としては、スルホン酸基および不飽和二重結合を有する単量体であれば、本発明の効果を損なわない範囲で、任意の適切なスルホン酸基含有単量体を採用し得る。
【0042】
スルホン酸基含有単量体としては、例えば、一般式(1)で表されるスルホン酸基含有エーテル化合物が挙げられる。
【化4】
【0043】
一般式(1)中、Rは、単結合、CH、CHCHのいずれかである。本発明の効果をより効果的に発現させ得る点で、Rは、好ましくはCHである。
【0044】
一般式(1)中、Rは、H、CHのいずれかである。
【0045】
一般式(1)中、X、Yのいずれか一方は水酸基であり、もう一方はスルホン酸(塩)基である。ここで、スルホン酸(塩)基とは、スルホン酸基および/またはスルホン酸塩基を意味する。本発明の効果をより効果的に発現させ得る点で、好ましくは、Xが水酸基であり、Yがスルホン酸(塩)基である。
【0046】
スルホン酸基は、SOHで表される。スルホン酸塩基SOMで表される。Mは、金属原子、アンモニウム基(アンモニウム塩、すなわち、SONHを構成)、または有機アミノ基(有機アミン塩を構成)である。金属原子としては、ナトリウム原子やカリウム原子などのアルカリ金属、カルシウム原子などのアルカリ土類金属、鉄原子などの遷移金属などが挙げられる。有機アミン塩としては、メチルアミン塩、n−ブチルアミン塩、モノエタノールアミン塩、ジメチルアミン塩、ジエタノールアミン塩、モルホリン塩、トリメチルアミン塩などの、1級〜4級のアミン塩が挙げられる。これらの中でも、本発明の効果を十分に発現させるためには、Mは、ナトリウム原子、カリウム原子が好ましい。
【0047】
一般式(1)で表されるスルホン酸基含有エーテル化合物は、本発明の効果をより効果的に発現させ得る点で、具体的には、好ましくは、3−(メタ)アリルオキシ−2−ヒドロキシ−1−プロパンスルホン酸(塩)であり、より好ましくは、3−アリルオキシ−2−ヒドロキシ−1−プロパンスルホン酸ナトリウム(以下、「HAPS」と称することがある)である。
【0048】
スルホン酸基含有単量体としては、例えば、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸(塩)(以下、「AMPS(塩)」と称することがある)、(メタ)アリルスルホン酸(塩)、ビニルスルホン酸(塩)、スチレンスルホン酸(塩)、2−スルホエチル(メタ)アクリレート、2−メチル−1,3−ブタジエン−1−スルホン酸等の共役ジエンスルホン酸(塩)なども挙げられる。
【0049】
単量体組成物中、カルボキシル基含有単量体とスルホン酸基含有単量体の含有比率は、質量比で、カルボキシル基含有単量体/スルホン酸基含有単量体が、好ましくは71〜98/30〜2であり、より好ましくは75〜97/25〜3であり、さらに好ましくは80〜96/20〜4であり、特に好ましくは83〜95/17〜5であり、最も好ましくは85〜95/15〜5である。単量体組成物中のカルボキシル基含有単量体とスルホン酸基含有単量体の含有比率が上記範囲内に収まることにより、より高い硫酸バリウムスケール防止能を発現できる硫酸バリウムスケール防止剤を提供することができる。
【0050】
単量体組成物は、カルボキシル基含有単量体とスルホン酸基含有単量体以外の、他の単量体を含んでいても良い。このような他の単量体は、1種のみであってもよいし、2種以上であってもよい。
【0051】
他の単量体としては、例えば、クロトン酸、α−ヒドロキシアクリル酸等の(メタ)アクリル酸以外のモノカルボン酸モノエチレン性不飽和単量体、およびそれらの塩;フマル酸等の不飽和ジカルボン酸、およびそれらの塩;N−ビニルピロリドン、N−ビニルホルムアミド、N−ビニルアセトアミド、N−ビニル−N−メチルホルムアミド、N−ビニル−N−メチルアセトアミド、N−ビニルオキサゾリドン等のN−ビニル単量体;(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、N−イソプロピルアクリルアミド等のアミド系単量体;3−(メタ)アリルオキシ−1,2−ジヒドロキシプロパン、3−アリルオキシ−1,2−ジヒドロキシプロパン、3−アリルオキシ−1,2−ジヒドロキシプロパン等の(メタ)アリルオキシプロパン系化合物、および、それらの化合物1モルに対してエチレンオキサイドを1モル〜200モル付加させた化合物(3−アリルオキシ−1,2−ジ(ポリ)オキシエチレンエーテルプロパン等);(メタ)アリルアルコール、及び、(メタ)アリルアルコール1モルに対してエチレンオキサイドを1モル〜100モル付加させた化合物等のアリルエーテル系単量体;(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシメチル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチル等の(メタ)アクリル酸エステル系単量体;イソプレノール、および、イソプレノール1モルに対してエチレンオキサイドを1モル〜100モル付加させた化合物等のイソプレン系単量体;等が挙げられる。
【0052】
本発明の効果をより発現させるためには、他の単量体として、疎水性モノマーを、所定量以上含まないほうが好ましい。このような疎水性モノマーは、1種のみであってもよいし、2種以上であってもよい。単量体組成物中の他の単量体としての疎水性モノマーの含有割合は、質量割合で、好ましくは5質量%未満であり、より好ましくは4.5質量%未満であり、さらに好ましくは3質量%未満であり、特に好ましくは2.5質量%未満であり、最も好ましくは2質量%未満である。
【0053】
上記のような疎水性モノマーとしては、例えば、特開2015−151414号公報に記載のエーテル結合含有単量体(A)などが挙げられる。
【0054】
単量体組成物中の他の単量体の含有割合は、質量割合で、好ましくは0質量%〜20質量%であり、より好ましくは0質量%〜15質量%であり、さらに好ましくは0質量%〜10質量%であり、特に好ましくは0質量%〜5質量%である。単量体組成物中の他の単量体の含有割合が上記範囲内に収まることにより、より高い硫酸バリウムスケール防止能を発現できる硫酸バリウムスケール防止剤を提供することができる。
【0055】
スルホン酸基含有共重合体の重量平均分子量は、好ましくは1000〜150000であり、より好ましくは2000〜100000であり、さらに好ましくは3000〜80000であり、さらに好ましくは4000〜60000であり、さらに好ましくは5000〜50000であり、さらに好ましくは6000〜40000であり、さらに好ましくは6500〜30000であり、特に好ましくは7000〜20000であり、最も好ましくは8000〜15000である。スルホン酸基含有共重合体の重量平均分子量が上記範囲内に収まることにより、より高い硫酸バリウムスケール防止能を発現できる硫酸バリウムスケール防止剤を提供することができる。
【0056】
スルホン酸基含有共重合体は、本発明の効果を損なわない範囲で、任意の適切な方法によって製造し得る。このような方法としては、好ましくは、過硫酸塩/重亜硫酸塩/重金属イオンの組み合わせを用いた重合反応によって製造する方法が挙げられる。
【0057】
重合反応の際の反応液(重合反応液)に用いられる溶媒は、好ましくは水性の溶媒であり、より好ましくは水である。単量体組成物の溶媒への溶解性を向上させるために、重合に悪影響を及ぼさない範囲で有機溶媒を適宜加えても良い。加えられる有機溶媒としては、メタノール、エタノールなどの低級アルコール;ジメチルホルムアルデヒドなどのアミド類;ジエチルエーテル、ジオキサンなどのエーテル類;などが挙げられる。
【0058】
重合反応液中には、好ましくは、1種類以上の過硫酸塩および1種類以上の重亜硫酸塩を含む。
【0059】
過硫酸塩および重亜硫酸塩の添加比率は、質量比で、好ましくは、過硫酸塩1に対して、重亜硫酸塩が0.5〜10である。質量比で、過硫酸塩1に対して重亜硫酸塩が0.5未満であると、重亜硫酸塩による効果が十分ではなくなるおそれがあり、また、得られる(メタ)アクリル酸系重合体の重量平均分子量が高くなりすぎるおそれがある。質量比で、過硫酸塩1に対して重亜硫酸塩が10を超えると、重亜硫酸塩による効果が添加比率に伴うほど得られないおそれがある。ただし、過硫酸塩および重亜硫酸塩の配合量が、この範囲に限定されるわけではなく、具体的な過硫酸塩および重亜硫酸塩の配合量は、使用用途や使用環境に応じて決定され得る。
【0060】
過硫酸塩および重亜硫酸塩の添加量は、使用される単量体組成物1モルに対する過硫酸塩および重亜硫酸塩の配合量として、好ましくは0.1g〜20gであり、より好ましくは0.5g〜15gである。
【0061】
過硫酸塩としては、例えば、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウムが挙げられる。
【0062】
重亜硫酸塩としては、例えば、重亜硫酸ナトリウム、重亜硫酸カリウム、重亜硫酸アンモニウムが挙げられる。
【0063】
なお、過硫酸塩、重亜硫酸塩以外に、必要であれば、亜硫酸塩やピロ亜硫酸塩などを用いても良い。
【0064】
重合反応液中には、好ましくは、1種類以上の重金属イオンが含まれる。重金属とは、比重が4g/cm以上の金属を意味する。具体的な重金属としては、例えば、鉄、コバルト、マンガン、クロム、モリブデン、タングステン、銅、銀、金、鉛、白金、イリジウム、オスミウム、パラジウム、ロジウム、ルテニウムなどが挙げられる。重合反応液は、好ましくは、これらのイオンを含む。重合反応液は、より好ましくは、鉄イオンを含む。重金属イオンのイオン価については特に限定されない。例えば、重金属として鉄が用いられる場合には、重合反応中に溶解している鉄イオンは、Fe2+であっても、Fe3+であって良いし、これらが組み合わされたものでも良い。
【0065】
重金属イオンは、重金属化合物を溶解してなる溶液を用いて添加され得る。その際に用いられる重金属化合物は、重合反応液中に含有されることを所望する重金属イオンに応じて決定される。溶媒として水が用いられる場合には、水溶性の重金属塩が好ましい。水溶性の重金属塩としては、例えば、モール塩(Fe(NH(SO・6HO)、硫酸第一鉄・7水和物、塩化第一鉄、塩化第二鉄、塩化マンガンなどが挙げられる。
【0066】
重金属イオンの含有割合は、重合反応完結時における重合反応液の全質量に対して、好ましくは0.1ppm〜10ppmである。重合反応完結時とは、重合反応液中において重合反応が実質的に完了し、所望する重合体が得られた時点を意味する。例えば、重合反応液中において重合された重合体がアルカリ成分で中和される場合には、中和した後の重合反応液の全質量を基準に、重金属イオンの含有量を算出する。2種以上の重金属イオンが含まれる場合には、重金属イオンの総量が上述の範囲であればよい。
【0067】
重金属イオンの含有量が0.1ppm未満であると、重金属イオンによる効果が十分に発現しないおそれがある。一方、重金属イオンの含有量が10ppmを超えると、洗剤ビルダーとして用いられた際の汚れや、スケール防止剤として用いられた際のスケールが、増加するおそれがある。
【0068】
重合方法としては、任意の適切な方法を採用し得る。好ましい実施形態の一つは、重金属イオンが予め配合された水溶液中に、単量体組成物、過硫酸塩および重亜硫酸塩を滴下する方法である。
【0069】
各成分の滴下時間としては、任意の適切な時間を採用し得る。各成分の滴下速度としては、任意の適切な速度を採用し得る。
【0070】
重合温度は、好ましくは25〜99℃、より好ましくは50〜95℃、さらに好ましくは、70℃以上90℃未満である。重合温度が25℃未満の場合には、得られる重合体の重量平均分子量が上昇しすぎるおそれや、不純物の生成量が増加するおそれがある。また、重合時間が長くなるため、重合体の生産性が低下するおそれがある。一方、重合温度が99℃を超える場合には、重亜硫酸塩が分解して亜硫酸ガスが多量に発生するおそれがある。液相中に溶解した亜硫酸ガスは、不純物の原因物質となり得るため、亜硫酸ガスが多量に発生すると、得られる重合体中の不純物量が増加するおそれがある。また、気相中の亜硫酸ガスの回収コストが増加するおそれがある。なお、重合温度とは、重合反応液の温度をいう。重合温度の測定方法や制御手段については、任意の適切な方法や装置を用い得る。
【0071】
重合時の圧力は、任意の適切な圧力を採用し得る。例えば、常圧下、減圧下、加圧下の何れの圧力下であっても良い。
【0072】
以上の反応によって、スルホン酸基含有共重合体が、好ましくは、水溶液の形態で製造され得る。
【0073】
本発明の硫酸バリウムスケール防止剤は、金属塩濃度が10質量%以上の高塩濃度水に対して固形分濃度で1質量%添加したときに該スルホン酸基含有共重合体が析出しない。すなわち、本発明の硫酸バリウムスケール防止剤は、高塩濃度水への溶解性に優れ、このような特性を有することにより、高い硫酸バリウムスケール防止能を発現できる。従来の硫酸バリウムスケール防止剤は、高塩濃度水への溶解性が悪く、十分な硫酸バリウムスケール防止能を発現することが困難である。なお、高塩濃度水としては、例えば、原油採掘における掘削配管中に存在する高塩濃度水などが挙げられる。
【0074】
上記の金属塩濃度は、好ましくは10質量%〜30質量%であり、より好ましくは10質量%〜27質量%であり、さらに好ましくは10質量%〜23質量%であり、特に好ましくは10質量%〜20質量%である。
【0075】
上記の高塩濃度水中の金属塩としては、例えば、塩化ナトリウム、硫酸鉄、塩化バリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、炭酸ナトリウム、炭酸カルシウム、水酸化バリウムなどが挙げられる。
【0076】
≪硫酸バリウムスケール防止方法≫
本発明の硫酸バリウムスケール防止方法は、原油採掘における掘削配管中で硫酸バリウムスケールが形成することを防止する方法である。
【0077】
本発明の硫酸バリウムスケール防止方法は、硫酸バリウムスケール防止剤を上記掘削配管中に添加する。掘削配管中には高塩濃度水が存在する。
【0078】
掘削配管中の高塩濃度水には金属塩が含まれる。このような金属塩としては、例えば、≪硫酸バリウムスケール防止剤≫の項で挙げた金属塩が挙げられる。掘削配管中の高塩濃度水における金属塩濃度は、好ましくは10質量%以上であり、より好ましくは10質量%〜30質量%であり、さらに好ましくは10質量%〜27質量%であり、特に好ましくは10質量%〜23質量%であり、最も好ましくは10質量%〜20質量%である。
【0079】
本発明の硫酸バリウムスケール防止方法においては、上記掘削配管中に存在する高塩濃度水に対して、上記硫酸バリウムスケール防止剤の濃度が、固形分換算で、好ましくは0.1ppm〜1000ppmとなるように、該硫酸バリウムスケール防止剤を添加する。上記添加量は、より好ましくは0.5ppm〜500ppmであり、さらに好ましくは0.8ppm〜200ppmであり、特に好ましくは2.0ppm〜50ppmである。硫酸バリウムスケール防止剤の添加量が上記範囲内にあれば、本発明の硫酸バリウムスケール防止方法においてより高い硫酸バリウムスケール防止能を発現できる。
【0080】
本発明の硫酸バリウムスケール防止方法において用いる硫酸バリウムスケール防止剤は、カルボキシル基含有単量体とスルホン酸基含有単量体を含む単量体組成物を重合して得られるスルホン酸基含有共重合体を含む硫酸バリウムスケール防止剤であり、金属塩濃度が10質量%以上の高塩濃度水に対して固形分濃度で1質量%添加したときに該スルホン酸基含有共重合体が析出しない硫酸バリウムスケール防止剤である。このような硫酸バリウムスケール防止剤としては、例えば、≪硫酸バリウムスケール防止剤≫の項で説明した硫酸バリウムスケール防止剤が挙げられる。
【0081】
≪硫酸バリウムスケール防止剤組成物≫
本発明の硫酸バリウムスケール防止剤組成物は、水とスルホン酸基含有共重合体とを含む。
【0082】
本発明の硫酸バリウムスケール防止剤組成物は、水とスルホン酸基含有共重合体とを含めば、本発明の効果を損なわない範囲で、任意の適切なその他の成分を含んでいてよい。
【0083】
本発明の硫酸バリウムスケール防止剤組成物中の、水とスルホン酸基含有共重合体との合計の含有割合は、質量割合で、好ましくは50質量%〜100質量%であり、より好ましくは70質量%〜100質量%であり、さらに好ましくは90質量%〜100質量%であり、特に好ましくは95質量%〜100質量%であり、最も好ましくは実質的に100質量%である。
【0084】
本発明の硫酸バリウムスケール防止剤組成物においては、該硫酸バリウムスケール防止剤組成物中のスルホン酸基含有共重合体の含有割合が、水に対して、固形分換算で、好ましくは0.1ppm〜1000ppmであり、より好ましくは0.5ppm〜500ppmであり、さらに好ましくは0.8ppm〜200ppmであり、さらに好ましくは1.0ppm〜100ppmであり、特に好ましくは2.0ppm〜50ppmであり、最も好ましくは3.0ppm〜20ppmである。本発明の硫酸バリウムスケール防止剤組成物中のスルホン酸基含有共重合体の含有割合が上記範囲内に収まることにより、より高い硫酸バリウムスケール防止能を発現できる硫酸バリウムスケール防止剤組成物を提供することができる。
【0085】
水は、本発明の効果を損なわない範囲で、任意の適切な水を採用し得る。このような水としては、好ましくは、イオン交換樹脂にて金属イオンを除去したイオン交換水である。
【0086】
スルホン酸基含有共重合体は、カルボキシル基含有単量体とスルホン酸基含有単量体を含む単量体組成物を重合して得られる。カルボキシル基含有単量体は、1種のみであってもよいし、2種以上であってもよい。スルホン酸基含有単量体は、1種のみであってもよいし、2種以上であってもよい。スルホン酸基含有共重合体としては、例えば、≪硫酸バリウムスケール防止剤≫の項で説明したスルホン酸基含有共重合体が挙げられる。
【実施例】
【0087】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれら実施例になんら限定されるものではない。なお、特に明記しない限り、実施例における部及び%は質量基準である。
【0088】
<重量平均分子量の測定条件(GPC)>
重量平均分子量は下記の条件で測定した。
装置:株式会社日立製作所製 L−7000シリーズ
検出器:HITACHI RI Detector L−7490
カラム:株式会社昭和電工製 SHODEX Asahipak GF−310−HQ、GF−710−HQ、GF−1G 7B
カラム温度:40℃
流速:0.5ml/min
検量線:ソウワ化学社製 Polyacrylic acid standard
溶離液:0.1N酢酸ナトリウム/アセトニトリル=3/1(質量比)
【0089】
<高塩濃度水溶解性試験>
100ccのビーカーにNaCl:10g、CaCl:3gを投入し、さらに、67gのイオン交換水を投入して溶解した溶液を溶液(1)とし、別の100ccビーカーに実施例に記載の重合体を固形分換算で、イオン交換水を用いて10質量%濃度に希釈した液10gを溶液(2)とし、溶液(1)と溶液(2)を25℃にて200cc容器に投入し、マグネチックスタラーを用いて25℃にて2分間撹拌した。撹拌後の溶液を1分間、25℃にて静置後、目視にて透明状態の確認を行った。
【0090】
[合成例1]
温度計、還流冷却器、攪拌機を備えた容量5LのSUS316製のセパラブルフラスコに、純水979.4gを仕込み、攪拌下、87℃に昇温した(初期仕込み)。
次いで、攪拌下、87℃一定状態の重合反応系中に、80質量%アクリル酸水溶液(以下、80%AAと称す):1362.6g、40質量%3−アリルオキシ−2−ヒドロキシ−1−プロパンスルホン酸ナトリウム水溶液(以下、40%HAPSと称す):434.6g、15質量%過硫酸ナトリウム水溶液(以下、15%NaPSと称す):159.4g、35質量%重亜硫酸ナトリウム水溶液(以下、35%SBSと称す):163.9g、48%水酸化ナトリウム水溶液(以下、48%NaOHと称す):83.4g、0.6%モール塩水溶液(以下、0.6%モール塩と称す):11.3g(総仕込み量に対する鉄(II)の質量(ここで、総仕込み量とは、重合完結後の中和工程を含む、全ての投入物質量をいう。以下、同様とする。)に換算すると3ppm)、および35%過酸化水素水溶液(以下、35%HPと称す):5.5gを、それぞれ別個の滴下ノズルより滴下した。それぞれの滴下時間は、80%AAを180分間、40%HAPSを155分間、35%SBSを175分間、15%NaPSを200分間、48%NaOHを180分間、0.6%モール塩を一括、35%HPを5分間とした。また、滴下開始時間に関して、まず35%SBSを滴下し、その5分後に80%AA、40%HAPS、15%NaPS、および48%NaOHの滴下を開始し、35%SBS滴下開始15分後に0.6%モール塩を一括投入し、35%SBSの滴下開始190分後に35%HPの滴下を開始した。40%HAPSは87gを40%HAPS滴下開始後0分〜15分に一定の滴下速度で連続的に滴下し、残り347.6gを40%HAPS滴下開始後15分〜155分に一定の滴下速度で連続的に滴下した。80%AA、15%NaPS、35%SBS、48%NaOH、および35%HPは、それぞれの滴下時間の間、滴下速度は一定とし、連続的に滴下した。
滴下終了後、さらに60分間に渡って反応溶液を87℃に保持して熟成し、重合を完結せしめた。このようにして、重合体(1)と水を含む重合体組成物(1)を得た。
重合体(1)の重量平均分子量は11000であった。
結果を表1に記載した。
【0091】
[合成例2]
合成例1において、40%HAPSを167gとし、40%HAPS:30gの滴下を40%HAPS滴下開始後0分〜15分に、残りの40%HAPS:137gの滴下を40%HAPS滴下開始後15分〜155分に変更した以外は、合成例1と同様にして、重合体(2)と水を含む重合体組成物(2)を得た。
重合体(2)の重量平均分子量は9500であった。
結果を表1に記載した。
【0092】
[合成例3]
合成例1において、40%HAPSを908gとし、40%HAPS:180gの滴下を40%HAPS滴下開始後0分〜15分に、残りの40%HAPS:728gの滴下を40%HAPS滴下開始後15分〜155分に変更した以外は、合成例1と同様にして、重合体(3)と水を含む重合体組成物(3)を得た。
重合体(3)の重量平均分子量は11000であった。
結果を表1に記載した。
【0093】
[合成例4]
合成例1において、40%HAPSの代わりに、40%AMPS(アクリルアミドプロパンスルホン酸Naの40%水溶液):908gを使用し、35重量%重亜硫酸ナトリウム水溶液(35%SBS):250gを用いた以外は、合成例1と同様にして、重合体(4)と水を含む重合体組成物(4)を得た。
重合体(4)の重量平均分子量は5000であった。
結果を表1に記載した。
【0094】
[合成例5]
温度計、還流冷却器、攪拌機を備えた容量5LのSUS316製のセパラブルフラスコに、純水:622.7gと、モール塩:0.0171gを仕込み、攪拌下、85℃になるまで昇温した(初期仕込み)。
次いで、攪拌下、85℃一定状態の重合反応系中に、80%AA:900.0g、15%NaPS:46.2g、および35%SBS:125.7gを、それぞれ別個の滴下ノズルより滴下した。それぞれの滴下時間は、80%AAを120分間、15%NaPSを180分間、35%SBSを115分間とした。また、滴下開始時間に関しては、各滴下液はすべて同時に滴下を開始した。各滴下液はそれぞれの滴下時間の間、滴下速度は一定とし、連続的に滴下した。
滴下終了後、さらに30分間に渡って反応溶液を85℃に保持して熟成した後、35%HP:9.5gを加えた。このようにして、重合体(C1)と水を含む重合体組成物(C1)を得た。
重合体(C1)の重量平均分子量は6000であった。
結果を表1に記載した。
【0095】
[実施例1]
塩化バリウム:0.023gをイオン交換水:50gへ溶解し、試験液Aを調製した。
塩化マグネシウム:0.373g、塩化ナトリウム:5.08g、塩化カルシウム:0.45g、塩化カリウム:0.082g、硫酸ナトリウム:0.32g、合成例1で得られた重合体組成物(1)の0.1質量%水溶液(固形分換算):1gをイオン交換水:50gに溶解し、試験液Bを調製した。
試験液Aと試験液Bを加熱しながら撹拌混合し、スケール防止組成物(1)を得た。得られたスケール防止組成物(1)を10分間で80℃まで昇温した。80℃まで昇温後、ただちに80℃にて2時間静置を行い、その後、10分間で30℃まで降温し、上澄み液を採取し、ICP分析により、Ba濃度を測定した。加熱処理なしの試験液のBa濃度もICP分析により測定した。
下記の計算式にて、硫酸バリウムスケール防止能を算出した。
硫酸バリウムスケール防止能(%)
=[(加熱後のBa濃度)/(加熱前のBa濃度)]×100
結果を表2に記載した。
なお、下記の計算式にて、水に対する固形分換算の(メタ)アクリル酸系重合体の含有割合を計算したところ、10ppmであった。
水に対する固形分換算の(メタ)アクリル酸系重合体の含有割合(ppm)
=[重合体組成物中の固形分(g)/{試験液A(g)+試験液B(g)}]×1000000
また、高塩濃度水溶解性試験の結果も表2に示した。
【0096】
[実施例2]
実施例1において合成例1で得られた重合体組成物(1)のかわりに、合成例2で得られた重合体組成物(2)を用い、スケール防止組成物(1)に代えてスケール防止組成物(2)を得た以外は、実施例1と同様に実験を行い、硫酸バリウムスケール防止能を算出した。
結果を表2に記載した。
また、高塩濃度水溶解性試験の結果も表2に示した。
【0097】
[実施例3]
実施例1において合成例1で得られた重合体組成物(1)のかわりに、合成例3で得られた重合体組成物(3)を用い、スケール防止組成物(1)に代えてスケール防止組成物(3)を得た以外は、実施例1と同様に実験を行い、硫酸バリウムスケール防止能を算出した。
結果を表2に記載した。
また、高塩濃度水溶解性試験の結果も表2に示した。
【0098】
[実施例4]
実施例1において合成例1で得られた重合体組成物(1)のかわりに、合成例4で得られた重合体組成物(4)を用い、スケール防止組成物(1)に代えてスケール防止組成物(4)を得た以外は、実施例1と同様に実験を行い、硫酸バリウムスケール防止能を算出した。
結果を表2に記載した。
また、高塩濃度水溶解性試験の結果も表2に示した。
【0099】
[比較例1]
実施例1において合成例1で得られた重合体組成物(1)のかわりに、合成例5で得られた重合体組成物(C1)を用い、スケール防止組成物(1)に代えて組成物(C1)を得た以外は、実施例1と同様に実験を行い、硫酸バリウムスケール防止能を算出した。
結果を表2に記載した。
また、高塩濃度水溶解性試験の結果も表2に示した。
【0100】
【表1】
【0101】
【表2】
【産業上の利用可能性】
【0102】
本発明によれば、高い硫酸バリウムスケール防止能を発現できる硫酸バリウムスケール防止剤、硫酸バリウムスケール防止剤組成物を提供することができる。また、本発明によれば、高い硫酸バリウムスケール防止能を発現できる硫酸バリウムスケール防止方法を提供することができる。本発明の硫酸バリウムスケール防止剤、硫酸バリウムスケール防止剤、硫酸バリウムスケール防止方法は、原油掘削に好適に利用することができる。